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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】センサ誤差補正装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20231005BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231005BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020044631
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021142969
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 大輝
(72)【発明者】
【氏名】服部 義和
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 豪軌
(72)【発明者】
【氏名】田中 一志
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-276734(JP,A)
【文献】特開平06-273444(JP,A)
【文献】特開2009-143427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行時の車両のヨーレートを含む角速度を検出可能な慣性計測装置と、
前記車両の前後速度を検出する車速検出部と、
前記車両の操舵角を検出する操舵角検出部と、
前記慣性計測装置が検出した前記角速度から算出した前記車両の姿勢角、前記操舵角検出部が検出した前記操舵角、及び前記車速検出部が検出した前後速度に基づいて算出した車体ヨーレート値と、前記慣性計測装置が検出した前記角速度に含まれる慣性計測ヨーレート値とを前記車両の挙動に応じて比較して前記操舵角検出部で検出する操舵角のゼロ点誤差を推定する誤差推定部と、
を含むセンサ誤差補正装置。
【請求項2】
前記慣性計測装置は、誤差補正済みの慣性計測ヨーレート値を出力し、
前記誤差推定部は、前記慣性計測装置が検出した前記角速度から算出した前記車両の姿勢角、前記操舵角検出部が検出した前記操舵角、及び前記車速検出部が検出した前後速度に基づいて算出した車体ヨーレート値から、誤差補正済みの慣性計測ヨーレート値を算出し、前記慣性計測装置が検出した前記慣性計測ヨーレート値と前記誤差補正済みの慣性計測ヨーレート値とを比較して前記操舵角のゼロ点誤差を推定する請求項1に記載のセンサ誤差補正装置。
【請求項3】
前記誤差推定部は、前記慣性計測ヨーレート値が基準値以下の場合に前記操舵角のゼロ点誤差を用いて表されるシステムノイズを小さくして前記操舵角のゼロ点誤差を更新し、前記慣性計測ヨーレート値が前記基準値を超える場合は前記システムノイズを大きくして前記操舵角のゼロ点誤差を更新することを繰り返すことにより、前記操舵角のゼロ点誤差を推定する請求項1又は2に記載のセンサ誤差補正装置。
【請求項4】
前記誤差推定部は、前記慣性計測装置が検出した前記角速度から算出した前記車両の姿勢角、前記操舵角検出部が検出した前記操舵角、及び前記車速検出部が検出した前後速度に基づいて推定した前記車両の横速度から前記車体ヨーレート値を算出する請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ誤差補正装置。
【請求項5】
前記誤差推定部は、
前記車体ヨーレート値、前記車両の横速度、及び前記操舵角検出部で検出する操舵角のゼロ点誤差を含む状態量の予測値を算出し、前記慣性計測装置が検出する慣性計測ヨーレート値の観測値に対する観測方程式を用いて、前記状態量の予測値から、前記慣性計測装置が検出した観測値の予測値を算出する事前推定部と、
前記慣性計測装置が検出して出力した前記観測値と、前記事前推定部が算出した前記観測値の予測値との差分に基づいて、前記事前推定部によって算出した前記状態量の予測値を補正する状態推定部と、
を含む請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ誤差補正装置。
【請求項6】
前記事前推定部は、更に、前記慣性計測ヨーレート値が基準値以下の場合、又は前記前後速度が基準値を超える場合に、前記操舵角のゼロ点誤差を用いて表されるシステムノイズを小さくして前記状態量の共分散行列を更新し、
前記慣性計測ヨーレート値が前記基準値を超える場合、又は前記前後速度が基準値以下の場合に、前記システムノイズを大きくして前記状態量の共分散行列を更新し、
前記状態推定部は、前記慣性計測装置が検出して出力した前記観測値と、前記事前推定部が算出した前記観測値の予測値との差分、及び前記状態量の共分散行列に基づいて、前記事前推定部によって算出した前記状態量の予測値を補正する請求項5に記載のセンサ誤差補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ誤差補正装置に係り、特に、操舵角センサで検出する操舵角のゼロ点誤差を推定するセンサ誤差補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来操舵角の値は、アンチスリップ機能やパワーステアリングなど、操舵角の微小量が必要のないシステムで使われてきた。しかしながら、自動運転等の先進安全機能では、路面傾斜による影響を加味した微小量を計測し精度のよい制御をする必要がある。
【0003】
特許文献1には、加速度センサ、ヨーレートセンサ、操舵角センサに加え、スリップ角センサとセルフアライニングトルクセンサを用いて操舵角ゼロ点を補正する補正装置の発明が開示されている。
【0004】
特許文献2には、車速によって変化するゲインを用いて、操舵角をヨーレートに変換して規範ヨーレートを算出し、規範ヨーレートの値とヨーレートセンサの値とを比較して操舵角のゼロ点を補正する操舵角センサのゼロ点ずれ量算出装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2010/140234号
【文献】特開2010-120450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、量産車両に搭載されないようなスリップ角センサとセルフアライニングトルクセンサとを用いる必要があるため、現状の量産車両に適用することが困難であるという問題があった。さらに、特許文献1に記載の発明は、路面カント角の影響を考慮した運動方程式を利用し、推定精度を向上させているが、路面のピッチ角(前後勾配)は考慮しておらず、車両の自動運転時には、操舵角ゼロ点の補正精度が悪化するおそれがあった。
【0007】
特許文献2に記載の発明は、操舵角をヨーレートに変換するゲインに路面勾配が考慮されておらず、傾斜のある路面では精度が劣化するおそれがあった。さらに特許文献2に記載の発明は、操舵角をヨーレートに変換するゲインは一般的に誤差を含んでおり、ヨーレートの値が大きい場合に当該誤差が顕著になりやすく、その結果、操舵角センサの誤差補正の精度が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、操舵角のゼロ点誤差を精度よく推定できるセンサ誤差補正装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様に係るセンサ誤差補正装置は、走行時の車両の挙動を示す角速度を検出可能な慣性計測装置と、前記車両の前後速度を検出する車速検出部と、前記車両の操舵角を検出する操舵角検出部と、前記慣性計測装置が検出した前記角速度から算出した前記車両の姿勢角、前記操舵角検出部が検出した前記操舵角、及び前記車速検出部が検出した前後速度に基づいて算出した車体ヨーレート値と、前記慣性計測装置が検出した前記角速度に含まれる慣性計測ヨーレート値とを前記車両の挙動に応じて比較して前記操舵角検出部で検出する操舵角のゼロ点誤差を推定する誤差推定部と、を含んでいる。
【0010】
第1の態様では、車両の姿勢角、車両の操舵角、及び車両の前後速度に基づいて算出した車体ヨーレート値と、慣性計測装置が検出した慣性計測ヨーレート値とを比較することにより、車体ヨーレート値に含まれる操舵角のゼロ点誤差を推定する。
【0011】
第2の態様は、第1の態様において、前記慣性計測装置は、誤差補正済みの慣性計測ヨーレート値を出力し、前記誤差推定部は、前記車体ヨーレート値と前記誤差補正済みの慣性計測ヨーレート値とを比較して前記操舵角のゼロ点誤差を推定する。
【0012】
これにより、近年、精度が向上した慣性計測装置が出力した慣性計測ヨーレート値を、誤差補正済みの値として扱う。
【0013】
第3の態様は、第1の態様又は第2の態様において、前記誤差推定部は、前記車両の挙動に係る前記車体ヨーレート値が基準値以下の場合に前記操舵角のゼロ点誤差を推定し、前記車体ヨーレート値が前記基準値を超える場合は前記操舵角のゼロ点誤差を推定しない。
【0014】
これにより、ヨーレートに生じ得るスケールファクタ誤差の影響を抑制する
【0015】
第4の態様は、前記誤差推定部は、前記慣性計測装置が検出した前記角速度から算出した前記車両の姿勢角、前記操舵角検出部が検出した前記操舵角、及び前記車速検出部が検出した前後速度に基づいて推定した前記車両の横速度から前記車体ヨーレート値を算出する。
【0016】
これにより、車両の運動において車両の横速度と車体ヨーレート値とは密接不可分な関係にあることに基づいて、車両の横速度から車体ヨーレート値を算出することができる。
【0017】
第5の態様は、前記誤差推定部は、前記車体ヨーレート値、前記車両の横速度、及び前記操舵角検出部で検出する操舵角のゼロ点誤差を含む状態量の予測値を算出し、前記慣性計測装置が検出する慣性計測ヨーレート値の観測値に対する観測方程式を用いて、前記状態量の予測値から、前記慣性計測装置が検出した観測値の予測値を算出する事前推定部と、前記慣性計測装置が検出して出力した前記観測値と、前記事前推定部が算出した前記観測値の予測値との差分に基づいて、前記事前推定部によって算出した前記状態量の予測値を補正する状態推定部と、を含んでいる。
【0018】
第6の態様は、前記事前推定部は、更に、前記慣性計測ヨーレート値が基準値以下の場合、又は前記前後速度が基準値を超える場合に、前記操舵角のゼロ点誤差を用いて表されるシステムノイズを小さくして前記状態量の共分散行列を更新し、前記慣性計測ヨーレート値が前記基準値を超える場合、又は前記前後速度が基準値以下の場合に、前記システムノイズを大きくして前記状態量の共分散行列を更新し、前記状態推定部は、前記慣性計測装置が検出して出力した前記観測値と、前記事前推定部が算出した前記観測値の予測値との差分、及び前記状態量の共分散行列に基づいて、前記事前推定部によって算出した前記状態量の予測値を補正する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、操舵角のゼロ点誤差を精度よく推定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るセンサ誤差補正装置の一例を示したブロック図である。
図2】本発明の実施形態における座標系を示した概略図である。
図3】本発明の実施形態における変数の一例を示した説明図である。
図4】線形カルマンフィルタを用いたアルゴリズムの入出力関係の一例を示したブロック図である。
図5】車両の重心における前後速度及び横速度、後輪車軸中心における前後速度及び横速度、前輪実舵角、重心から前輪車軸中心までの距離、重心から後輪車軸中心までの距離の関係を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態に係るセンサ誤差補正装置10は、演算装置14の演算に必要なデータ及び演算装置14による演算結果を記憶する記憶装置18と、車速センサ24が検出した車両前後速度、IMU26が検出した車両の姿勢角の角速度及び加速度、並びに操舵角センサ28が検出した車両の操舵角が入力される入力装置12と、入力装置12から入力された入力データ及び記憶装置18に記憶されたデータに基づいて車両位置の推定の演算を行なうコンピュータ等で構成された演算装置14と、演算装置14で演算された車両の位置等を表示するCRT又はLCD等で構成された表示装置16と、で構成されている。
【0022】
続いて、車両200の挙動に係る座標系を図2に示したように定義する。地球座標系204は地球平面を基準として重力加速度方向とzeとが平行で、yeが北方向を向いている座標系である。路面座標系206は、zrが車両200の重心を通り路面に垂直な方向に向き、xrは車両進行方向に向いている座標系である。車体座標系208は車体バネ上に固定された座標系で、zvは車体鉛直上方向、xvは車体進行方向を向いている。従って、車両200の前後方向は、車体座標系208のx軸に平行な方向となる。後述するように、本実施形態では、車体座標系208の基準点を車両200の重心ではなく、車両200の後輪の車軸の車幅方向の中心とする。また、本実施形態では、車体座標系208を使用し、地球座標系204は使用しない。
【0023】
また、オイラー姿勢角であるロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角ψは、地球座標系204に対して、図2に示したように定義される。例えば、ロール角φはx軸まわりの回転角であり、ピッチ角θは、y軸まわりの回転角であり、ヨー角ψは、z軸まわりの回転角である。また、ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角ψの各々は、右ネジの方向(図2では、各々の矢印方向)の回転で正の値を示す。本実施形態では、便宜上、後述するヨー角偏差は基準座標系を路面座標系206とし、さらに、本来は地球座標系204に対して定義されるオイラー姿勢角を、車体座標系208に対して、ロール角φv、ピッチ角θv及びヨー角ψvと定義する。以後、単に、ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角ψと記した場合は、基本的に、車体座標系208に対して定義された姿勢角であるとする。
【0024】
図3は、本実施形態における変数の一例を示した説明図である。本実施形態では、車両200の前後速度U、車両200の横速度V及び車両200の上下速度Wの各々を定義する。Uはx軸、Vはy軸及びWはz軸に各々平行する。
【0025】
また、車両200のロール角φ、ピッチ角θ、ヨー角ψに対応するIMU26の出力値は、角速度であるロールレートP、ピッチレートQ、ヨーレートRと定義する。
【0026】
従来はIMU26、ジャイロセンサ等の精度が不十分であったこともあり、ヨーレートRの推定にも車両運動モデルを活用していた。しかし近年、安価なIMU26に用いられるMEMSジャイロの精度が向上している。本実施形態では、IMU26が検出したヨーレートRsの値を誤差補正済みのヨーレートの値として使用する。
【0027】
また、本実施形態では、IMU26が出力したロールレートP及びピッチレートQに基づいて、車両200のロール角φ及びピッチ角θの各々を検出し、後述する車両200の運動モデルに適用する。
【0028】
以下に、操舵角センサ28のゼロ点誤差を推定する原理について説明する。
【0029】
まず、図4は、線形カルマンフィルタを用いたアルゴリズムの入出力関係の一例を示したブロック図である。線形カルマンフィルタには、操舵角センサ28が検出した操舵角、IMU26が検出したヨーレート、車速センサ24が検出した車速、並びにIMU26によって検出した車両200の姿勢角であるロール角及びピッチ角に基づいて、操舵角センサ28のゼロ点誤差を推定する。
【0030】
本実施形態では、車両200のロール角φ及びピッチ角θが車両運動に及ぼす影響を加味した車両運動モデルに、操舵角センサ28が検出した操舵角、車速センサ24が検出した車速、並びに車両200の姿勢角の各々を適用して算出されたヨーレートの値と、IMU26で検出したヨーレートの値との比較に基づいて操舵角のゼロ点誤差を推定する。操舵角のゼロ点誤差推定は、車両200のヨーレートが小さい場合に行うことにより、IMU26で検出したヨーレート及び車両運動モデルで算出されたヨーレートの各々に生じ得るスケールファクタ誤差の影響を抑制する。
【0031】
本実施形態における車両200のロール角φ及びピッチ角θが車両運動に及ぼす影響を加味した車両運動モデルは、座標原点を後輪車軸を中心とした2輪モデルの運動方程式を導出する。車両200の運動を考える場合、車両200の重心を中心とした運動が想定しやすい。従って、本実施形態では、最初に車両200の重心軸周りの運動を考え、次に車両200の後輪軸中心を基準とした運動に変換する。
【0032】
路面姿勢角のロール角をφr、ピッチ角をθrとすると、横方向の運動方程式は、次式によって表される。
【0033】
上記の中のFyはy軸方向に働く力であり、下記の式に示したように、前輪タイヤ横力Ffと後輪タイヤ横力Frとの和で表される。
【0034】
そして、前輪タイヤ横力Ff及び後輪タイヤ横力Frは次式で表される。
【0035】
上記式に関連して、図5に示した車両200の重心CG周りの速度をvc=(Uc、Vc、Wc)、ヨーレートをRc、前輪実舵角をδw、重心CGから前輪車軸中心210までの距離をlf、重心CGから後輪車軸中心202までの距離をlr、前輪、後輪のコーナリングスティフネスを各々Kf、Kr、車両質量をmとした。
【0036】
上記運動方程式のFyに前輪タイヤ横力Ff及び後輪タイヤ横力Frを代入して整理すると横速度Vc、ヨーレートRcの各々の運動方程式は下記のようになる。
【0037】
上記の横速度Vcに係る運動方程式の最後の重力加速度gに関する項は、路面姿勢角による重力の影響を表す項である。路面姿勢角によって発生した横速度の前後バランスによってヨーレートが発生するので、ヨーレートRcに係る運動方程式に重力加速度に関する項が含まれていなくても、ヨーレートRcには間接的に重力加速度が影響する。
【0038】
上記方程式を後輪車軸中心に変数変換をする上で3つの位置ベクトルを考える。地球座標系の原点から後輪車軸中心へのベクトルrew、地球座標系の原点から車両重心CGへのベクトルrec、車両重心CGから後輪車軸中心へのベクトルrcwを考えると、次式のような関係が成立する。
【0039】
上記式を時間微分すると、重心における回転角速度ωcと後軸中心での回転角速度ωvは同じであることから、dr/dt=δr/δt + ω × rの関係を用いて下記のように整理される。
【0040】
図5に示したように、車両200の後輪車軸中心202の前後速度をUv、横速度をVvとすると、以上の式より、Uv=Uc及びVv=Vc -lrvとなる。これを横方向の運動方程式に用いると次式が誘導される。本実施形態では、次式に基づいてカルマンフィルタを構成するための状態方程式を立式する。
【0041】
以下、本実施形態に係る状態方程式における状態量xを下記の通り定義する。

【0042】
状態量xに含まれるδeは、操舵角のゼロ点誤差である。さらに状態遷移方程式の入力を下記のように定義する。
【0043】
車両200の車速である前後速度Uvと、車両200の姿勢角(ロール角φr及びピッチ角θr)とを入力することで、車両横速度Vv及びヨーレートRvについて車両運動モデルを線形化できる。本実施形態における状態方程式は下記のようになり、車両横速度VvとヨーレートRvとが密接不可分な関係にある。換言すれば、車両200の姿勢角、前輪実舵角δw、及び車両200の前後速度Uvに基づいて推定した車両200の横速度VvからヨーレートRvを算出することも可能である。
【0044】
上記の状態方程式の各々に含まれる誤差vの各々を対角成分とした誤差共分散行列Qnが定義される。Qnの各要素は、状態量xの各要素のシステムノイズである。
【0045】
状態量xのうち、操舵角のゼロ点誤差δeは、白色ノイズによって駆動されるランダムウォークモデルとする。
【0046】
状態方程式を線形モデルで記述する場合は、下記のようになる。A行列は、状態量に基づく遷移行列を表しており、B行列は、入力による状態遷移の影響を考慮する行列である。


【0047】
nのノイズをヨーレートRvの大小で切り替えることにより、車両運動モデルのスケールファクタ誤差の影響を抑制できる。例えば、ヨーレートRvが基準値(一例として2deg/sec)以下の際にシステムノイズを抑制して操舵角のゼロ点誤差δeの推定を進める。逆に、ヨーレートRvが基準値を超える場合は、システムノイズを大きくして操舵角のゼロ点誤差δeの推定を進めないようにする。更に、Qnのノイズを車両200の前後速度Uvの大小で切り替えてもよい。具体的には、車両200の前後速度Uvが低い領域では、システムノイズを大きくして操舵角のゼロ点誤差δeの推定を進めないようにし、前後速度Uvが高い領域では、システムノイズを小さくして操舵角のゼロ点誤差δeの推定を進めるようにしてもよい。操舵角のゼロ点誤差δeの推定を行うか否かの、ヨーレートRvの基準値、及び前後速度Uvの基準値は、車両200の実車試験等を通じて具体的に決定する。
【0048】
次にIMU26による観測変数(観測量)を下記のように定義する。観測量は、IMU26が検出するヨーレートRsのみである。
【0049】
y=Cxを満たす観測方程式Cxは、下記の式のように、状態量(右辺)と観測量(左辺)との対応を定義したものである。本実施形態では、観測量は、IMU26が検出するヨーレートRsのみなので、観測方程式は下記のようになり、状態量と観測量との関係を表すC行列は1変数のみで構成される。
【0050】
上記式中のwRsは観測ノイズである。従って、観測方程式の誤差共分散行列は下記のように定義される。
【0051】
以下、線形カルマンフィルタの演算方法について説明する。線形カルマンフィルタは、状態方程式に基づいて状態量を更新する予測ステップと、状態量の事前予測値に対応する観測量と、実際に観測された観測量との差を比較し、状態量の予測値を補正する処理を行うフィルタリングステップとによって構成されている。
【0052】
下記の式(1)、(2)に示したように、予測ステップでは、時刻k-1における状態量xk-1と状態量xk-1の共分散行列Pk-1との各々を、時刻kにおける状態量xkと状態量xkの共分散行列Pkとに各々更新する。式(1)中のukは、時刻kにおける状態遷移方程式の入力であり、車速センサ24で検出した車両200の前後速度Uv、操舵角センサ28で検出した前輪実舵角δw、並びにIMU26によって検出した車両200のロール角φr及びピッチ角θrである。
【0053】
フィルタリングステップでは、上述の状態方程式、共分散行列、C行列、及び観測ノイズによってカルマンゲインKkが、下記の式(3)のように定義される。
【0054】
上記のカルマンゲインKkを用いて、観測量yと状態量xの推定値とを重み付けする処理を次の式(4)、(5)のように行う。観測量yは、IMU26で検出したヨーレートRsのみを含むので、式(4)を用いた処理により、車両200のロール角φr及びピッチ角θrが車両運動に及ぼす影響を加味した車両運動モデルに基づいて算出されたヨーレートRvの値と、IMU26で検出したヨーレートRsの値とが比較される。
【0055】
以上の式(1)~(5)で示した処理を、各タイムステップごとに繰り返すことにより、操舵角のゼロ点誤差δeを推定する。操舵角のゼロ点誤差δeは、式(1)~(5)で示した逐次処理により値が更新される。
【0056】
本実施形態では、上記の逐次処理を、IMU26で検出したヨーレートRの値が所定の基準値以下の場合にシステムノイズを小さくして行い、IMU26で検出したヨーレートRの値が所定の基準値を超える場合にシステムノイズを大きくして行う。上述のように、ヨーレートRには、ゼロ点誤差δeに起因する誤差に加えてスケールファクタ誤差が含まれる。スケールファクタ誤差はヨーレートRに一定割合で誤差が付加されてしまうため、ヨーレートRが小さい場合よりも大きい場合の方が影響が大きくなるという特徴を有する。本実施形態では、スケールファクタの影響が小さい、ヨーレートRの小さい領域でのみ操舵角のゼロ点誤差δeの推定を行うことにより、ゼロ点誤差δeの推定精度を向上させることができる。
【0057】
以上説明した原理に従って、本実施の形態に係る演算装置14は、上記(1)式に従って車体ヨーレート値、前記車両の横速度、及び操舵角センサ28で検出する操舵角のゼロ点誤差を含む状態量の予測値を算出し、IMU26が検出する慣性計測ヨーレート値の観測値に対する観測方程式を用いて、状態量の予測値から、IMU26が検出した観測値の予測値を算出する事前推定部と、IMU26が検出して出力した観測値と、事前推定部が算出した観測値の予測値との差分に基づいて、上記(4)式に従って、事前推定部によって算出した状態量の予測値を補正する状態推定部と、を含む。
【0058】
事前推定部は、更に、慣性計測ヨーレート値が基準値以下の場合、又は前後速度が基準値を超える場合に、操舵角のゼロ点誤差を用いて表されるシステムノイズを小さくして状態量の共分散行列を更新し、慣性計測ヨーレート値が基準値を超える場合、又は前後速度が基準値以下の場合に、システムノイズを大きくして状態量の共分散行列を更新する。
【0059】
また、状態推定部は、IMU26が検出して出力した観測値と、事前推定部が算出した観測値の予測値との差分、及び状態量の共分散行列に基づいて、事前推定部によって算出した状態量の予測値を補正する。
【0060】
また、演算装置14は、操舵角センサ28で検出した前輪実舵角δwからゼロ点誤差δeを除去することにより得た精度の高い操舵角δrを用いて、車両200の位置推定を行い、推定結果を必要に応じて表示装置16に表示すると共に、車両200の自動運転の制御に資する。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係るセンサ誤差補正装置10によれば、前述の車両運動モデルに基づいて算出した精度の高い操舵角と、車両200の前後速度とを用いたヨーレートの算出が可能であり、算出したヨーレートの値と、IMU26で検出したヨーレートの値とを比較することにより、操舵角のゼロ点誤差を精度よく推定できる。
【0062】
自動運転等の先進安全機能では、路面傾斜による微小な影響を考慮した精度のよい制御をする必要があるが、本実施形態は、車両運動モデルに基づいた推定により、路面傾斜による操舵角への微小な影響も考慮した制御が可能になる。
【0063】
精度のよい操舵角のゼロ点補正によって、例えばより追従性のよいレーンキープ制御が可能になり、操舵角を利用した自律航法アルゴリズムの精度を向上できる。
【0064】
本実施形態は、IMU26の出力値を用いて車体姿勢角を算出したが、これに限定されない。例えば、地磁気センサ又はGPS等を用いて車体姿勢角を算出してもよい。IMU26、地磁気センサ及びGPS等は汎用的なセンサなので、本実施形態に係るセンサ誤差補正装置10は、多様な量産車両に幅広く搭載することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 センサ誤差補正装置
12 入力装置
14 演算装置
16 表示装置
18 記憶装置
24 車速センサ
26 IMU
28 操舵角センサ
200 車両
図1
図2
図3
図4
図5