(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 163/10 20060101AFI20231005BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20231005BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D163/10
C09D5/44 A
C09D4/00
(21)【出願番号】P 2020065712
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】397068528
【氏名又は名称】神東アクサルタコーティングシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】嵐倉 彰一郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 真凜
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 一朗
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 希美
(72)【発明者】
【氏名】細野 宏
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-089623(JP,A)
【文献】特開2005-105064(JP,A)
【文献】特開2004-190015(JP,A)
【文献】特表2004-534128(JP,A)
【文献】特開2017-068192(JP,A)
【文献】特許第6511599(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂の両末端に二級アミンが付加されている三級アミン型のアミン変性エポキシ樹脂にα,β-不飽和カルボニル基を導入して得られるα,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)と、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)とからなる混合物から形成されたエマルション、及び顔料分散ペースト(D)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が1400~3600であり、α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)が、その固形分1g中にα,β-不飽和カルボニル基を0.35~1.15ミリ当量含有し、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)が、その固形分1g中にα,β-不飽和カルボニル基を3.90~12.00ミリ当量含有し、かつエマルションが、その固形分1g中にα,β-不飽和カルボニル基を合計で2.50~3.45ミリ当量含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)のアミン価が、その固形分1g当たり30~80mgKOHであることを特徴とする請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカチオン電着塗料組成物に金属被塗物を浸漬させて電着塗装した後、紫外線を照射し、高温焼き付け乾燥を行なわずに仕上げることを特徴とする塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆性に優れ、しかも平滑性に優れた塗膜を得ることができる紫外線硬化型のカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料は、塗装作業性に優れ、高性能な防錆塗膜を得ることができることから、鉄やアルミ等の金属素材を用いた自動車部品や工業用製品等に従来から幅広く使用されてきた。カチオン電着塗膜が優れた防錆塗膜である理由は、その主成分に高Tgを有するアミノ基含有エポキシ樹脂と、強固な三次元架橋塗膜を形成させるためのブロック化イソシアネート樹脂および硬化触媒を用い、更に防錆金属(防錆顔料)を配合していることによる。塗装した物品は、およそ140℃以上の高温乾燥炉で焼き付けて防錆塗膜が完成するが、高温乾燥炉は、ガス炉が主流であり、ガス燃焼により発生するCO2は、温室効果ガスとして問題視されており、削減が望まれている。また、硬化時にブロック剤が脱離して揮発するため、工場設備においては、大気中に放出するための浄化処理に大きな負荷がかかっていることも、同じく環境的側面での課題として取り上げることができる。
【0003】
高温焼き付け乾燥を必要としない技術としては、例えば低温硬化性のブロック化イソシアネート樹脂を硬化剤に用いる方法が挙げられる。この方法の一例として、特許文献1には、イソシアネートをオキシム化合物やピラゾール化合物でブロックしたブロック化イソシアネート硬化剤を用いる方法が開示されているが、組み合わせるイソシアネートの種類によっては、低温硬化性と塗料の長期安定性が両立しない場合があり、これらのブロック剤については実用上、脂肪族系イソシアネートとの組み合わせに限定されるので、焼き付け乾燥条件は110~120℃に留まる。また、これらのブロック剤は、ほとんどが揮発分となって塗膜外に放出されてしまう。
【0004】
また、特許文献2には、防錆性に優れた成分を常温で乾燥、固着させる、常温乾燥型の電着塗料が開示されているが、この技術は、三次元架橋型の硬化機構を有していないので、現行の高温焼き付け硬化塗膜に匹敵する防錆性能が発揮されにくい。
【0005】
常温硬化型の電着塗料としては、紫外線照射によるラジカル重合反応を用いた技術もある。この技術は、硬化時に脱離成分が発生しない点で優れる。例えば、特許文献3には、多官能アクリレートと、3級アミノ基を含有し、かつ特定の平均分子量を有するカチオン電着性樹脂を含有する、めっき素材用の紫外線硬化型カチオン電着塗料組成物が開示されている。しかし、特許文献3の塗料組成物は、得られる塗膜の平坦面における仕上がり性(平滑性)は十分であるものの、得られる塗膜の硬度が十分高くなく、防錆性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】再公表2017/138445号公報
【文献】特許第6398025号公報
【文献】特許第3192197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、防錆性に優れ、しかも平滑性に優れた塗膜を得ることができる紫外線硬化型のカチオン電着塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、高度の防錆性能を発揮させるために高Tgを有するアミン変性エポキシ樹脂を主成分とし、この樹脂に、熱をかけずに三次元架橋させるための機能を付与するために、α,β-不飽和カルボニル基を樹脂骨格中に導入してα,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂とし、さらにこの樹脂を、より強固な硬化塗膜を形成させるために高濃度にα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物と組み合わせて十分なα,β-不飽和カルボニル基量を確保したうえで、紫外線硬化反応の触媒としての光重合開始剤と共にエマルション化して、紫外線硬化型の電着塗料組成物とし、さらに、主成分のアミン変性エポキシ樹脂の分子量を特定の範囲とすることで、高度な防錆性と塗膜平滑性を両立することができることを見出した。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)~(3)の構成を有するものである。
(1)エポキシ樹脂の両末端に二級アミンが付加されている三級アミン型のアミン変性エポキシ樹脂にα,β-不飽和カルボニル基を導入して得られるα,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)と、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)とからなる混合物から形成されたエマルション、及び顔料分散ペースト(D)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が1400~3600であり、α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)が、その固形分1g中にα,β-不飽和カルボニル基を0.35~1.15ミリ当量含有し、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)が、その固形分1g中にα,β-不飽和カルボニル基を3.90~12.00ミリ当量含有し、かつエマルションが、その固形分1g中にα,β-不飽和カルボニル基を合計で2.50~3.45ミリ当量含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物。
(2)α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)のアミン価が、その固形分1g当たり30~80mgKOHであることを特徴とする(1)に記載のカチオン電着塗料組成物。
(3)(1)又は(2)に記載のカチオン電着塗料組成物に金属被塗物を浸漬させて電着塗装した後、紫外線を照射し、高温焼き付け乾燥を行なわずに仕上げることを特徴とする塗装方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、三次元架橋成分としてのα,β-不飽和カルボニル基を、主成分のアミン変性エポキシ樹脂に導入しているだけでなく、α,β-不飽和カルボニル基を分子中に高濃度で含有する化合物を併用して、塗料組成物全体として十分なα,β-不飽和カルボニル基濃度を確保しているため、防錆性に優れた強固な硬化塗膜を形成させることができる。また、主成分のアミン変性エポキシ樹脂の分子量を特定の範囲に限定しているので、十分な塗膜平滑性も同時に達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、エポキシ樹脂の両末端に二級アミンが付加されている三級アミン型のアミン変性エポキシ樹脂にα,β-不飽和カルボニル基を導入して得られるα,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)と、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)とからなる混合物から形成されたエマルションを主たる構成成分とし、そこに顔料分散ペースト(D)がさらに配合されてなるものである。以下、各構成成分について順に説明する。
【0012】
「α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)」
上記樹脂(A)を構成する成分のうち、エポキシ骨格は平均して1分子当たり2個のエポキシ基を有し、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有するポリフェノールのグリシジルエーテルの重縮合物であり、好ましいポリフェノールとしては、レゾルシン、ハイドロキノン、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-メタン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-エタン、4,4’-ジヒドロキシビフェニール等が挙げられるが、特に好ましくは2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、いわゆるビスフェノールAである。また、1分子中に2個のアルコール性水酸基を有するジオールのグリシジルエーテルを上記ポリフェノールのグリシジルエーテルと組み合わせて用いることもできる。好ましいジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール等の低分子ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオリゴマージオールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
エポキシ骨格中のエポキシ末端は、基本的に両末端に二級アミンが付加されてアミノ化されているが、必要に応じてエポキシ基の一部を1分子中に1個のカルボキシル基を有する化合物、あるいは1分子中に1個のフェノール性水酸基を有する化合物で付加反応させて、樹脂の塩基性を調整することができる。アミノ化剤としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。特に好ましくは、水酸基を有するアルカノールアミン類である。
【0014】
このようなアミン変性エポキシ樹脂(A)のアミン価としては、その固形分1g当たり30~80mgKOHであることが好ましく、30~70mgKOHであることがより好ましい。アミン変性エポキシ樹脂(A)のアミン価が上記下限未満では、樹脂の水分散性が低下して均一なエマルションが得られにくくなり、正常な塗膜が得られないため、結果として塗膜の平滑性に劣るおそれがあり、上記上限を越えると、得られる塗膜が防錆性に劣るおそれがある。
【0015】
アミン変性エポキシ樹脂(A)へのα,β-不飽和カルボニル基の導入は、アミン変性エポキシ樹脂(A)が有するアルコール性水酸基に付加させることによって行なわれるため、ジイソシアネート化合物を介した構造をとる。α,β-不飽和カルボニル基を有し、かつジイソシアネートをハーフブロック化するための水酸基を有する化合物としては、例えば2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、N-メチロールアクリルアミド等が挙げられ、ジイソシアネート化合物としては、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらのうち二種以上を混合して使用することもできる。なお、1分子中にα,β-不飽和カルボニル基とイソシアネート基を有する化合物は市販されており、昭和電工株式会社製のカレンズAOIやカレンズMOI等が例示される。これらも同等の反応性を有し、アミン変性エポキシ樹脂に付加させることができる。
【0016】
アミン変性エポキシ樹脂(A)中のα,β-不飽和カルボニル基の濃度は、樹脂固形分1g当たり0.35~1.15ミリ当量であることが必要であり、好ましくは樹脂固形分1g当たり0.40~1.10ミリ当量である。上記下限未満では十分な硬化性を得ることが難しくなる。一方、上記上限を越えると、アミン変性エポキシ樹脂(A)中の水酸基が減少してしまい、樹脂の水分散性が大きく低下するので、均一なエマルションを得ることができず、塗膜が形成できなくなるおそれがある。つまり、α,β-不飽和カルボニル基は、紫外線硬化の際に三次元架橋成分として作用するので、塗膜の硬化性及びそれによる防錆性の向上のためには、アミン変性エポキシ樹脂(A)中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は多い方が望ましいが、塗膜の形成性の点からは、アミン変性エポキシ樹脂(A)中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量には上限があるということである。本発明では、アミン変性エポキシ樹脂(A)中に全てのα,β-不飽和カルボニル基を含有させるのではなく、一部のα,β-不飽和カルボニル基は、「1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)」として、つまりアミン変性エポキシ樹脂(A)とは別の独立した成分として含有させることにより、主成分であるアミン変性エポキシ樹脂(A)の水分散性(乳化性)の低下を防止して塗膜形成性を維持しつつも、十分な硬化性及びそれによる防錆性を達成するために必要な高い濃度のα,β-不飽和カルボニル基を塗料組成物全体として確保することに成功したものである。
【0017】
また、アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は、1400~3600であることが必要であり、好ましくは1500~3500である。アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が上記下限未満では、得られる塗膜が防錆性に劣るおそれがあり、上記上限を越えると、樹脂の水分散性が低下して均一なエマルションが得られにくくなり、正常な塗膜が得られないため、結果として塗膜の平滑性に劣るおそれがある。
【0018】
「1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)」
1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物としては、例えばポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらのうち二種以上を混合して使用することもできる。
【0019】
また、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物としては、水酸基を有するアクリルモノマーをポリイソシアネートに付加させて合成される種々の多官能ウレタンアクリレートを使用することもできる。水酸基を有する化合物としては、上述の2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、N-メチロールアクリルアミド等が挙げられ、ポリイソシアネートとしては、上述のトルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等に加え、これらのビュレット変性体あるいはイソシアヌレート変性体やポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等を挙げることができる。これらのうち二種以上を混合して使用することもできる。
【0020】
1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)は、上述のように、アミン変性エポキシ樹脂(A)に導入されたα,β-不飽和カルボニル基の濃度だけでは不足するα,β-不飽和カルボニル基濃度を補うためのものであり、三次元架橋により強固な硬化塗膜を形成させるのに十分な架橋成分としてのα,β-不飽和カルボニル基の高い濃度を塗料組成物全体として確保するためのものである。1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)中のα,β-不飽和カルボニル基の濃度は、化合物の構造に依存してある程度決まるものであり、この目的を達成することができる限り、特に限定されないが、材料化合物の入手の容易性から一般的にその固形分1g中に3.90~12.00ミリ当量であり、好ましくは、3.95~10.25ミリ当量である。このように、高濃度のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)をα,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)と組み合わせてエマルション化して使用することにより、α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)中のα,β-不飽和カルボニル基の濃度が低くても、エマルション全体としては、強固な硬化塗膜を形成するのに十分なα,β-不飽和カルボニル基の濃度を確保できる。具体的には、本発明のカチオン電着塗料組成物では、エマルションは、その固形分1g中にα,β-不飽和カルボニル基を合計で2.50~3.45ミリ当量含有し、好ましくは2.50~3.35ミリ当量含有する。上記下限未満では、十分な硬化性を得ることが難しくなる。一方、上記上限を越えると、硬化速度が速くなり過ぎて、塗膜フロー性が低下するおそれがある。
【0021】
「光重合開始剤(C)」
光重合開始剤としては、例えば1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(商品名イルガキュア184)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(商品名イルガキュア651)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィン-オキサイド(商品名イルガキュア819)、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノ-1-プロパノン(商品名イルガキュア907)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィン-オキサイド(商品名イルガキュアTPO)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらのうち二種以上を混合して使用することもできる。
【0022】
「顔料分散ペースト(D)」
本発明に用いる顔料分散ペースト(D)は、顔料分散樹脂を水溶化し、必要に応じて消泡剤や界面活性剤、はじき防止剤等の添加剤を配合したビヒクルに体質顔料、着色顔料、防錆顔料等を混合し、分散機を通して顔料分散したものである。
【0023】
顔料分散樹脂は公知のものでよく、アミン変性エポキシ樹脂をギ酸や酢酸、乳酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸等で中和した3級アミン型やエポキシ末端を4級化した4級アンモニウム塩型が使用できる。体質顔料にはカオリン、タルク、珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカ等、着色顔料にはカーボンブラック、チタンホワイト、ベンガラ等、防錆顔料にはリン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ビスマス化合物等が使用できる。
【0024】
「カチオン電着塗料組成物」
本発明のカチオン電着塗料組成物は、α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)と、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)とを混合して、中和酸を加えてエマルション化して、そこに顔料分散ペースト(D)を添加することにより製造することができる。中和酸としては、酢酸、乳酸、ギ酸、プロピオン酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸等が挙げられる。更に、必要に応じて公知の溶剤や可塑剤を加えてエマルション化しても良い。本発明のカチオン電着塗料組成物において、α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)と、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)の配合比は、上述のように、エマルションの固形分1g中に含有されるα,β-不飽和カルボニル基の濃度が2.50~3.45ミリ当量となるように組み合わせればよく、各成分の質量比は特に限定されない。また、光重合開始剤(C)の配合量は、紫外線照射機の波長、出力、照射距離、照射時間等、与える環境に応じて調整されるべきであるが、概してエマルションの固形分100質量部あたり、0.5~5.0質量部、より好ましくは1.0~3.0質量部を配合することが推奨される。更に、顔料分散ペースト(D)の配合量は、その固形分がエマルションのトータル固形分100質量部あたり、15~55質量部の範囲であることが好ましい。
【0025】
なお、上記カチオン電着塗料組成物は、成分(A)、(B)、(C)、(D)の必須成分以外に溶剤や界面活性剤等の添加剤を添加することができるが、大量に添加すると硬化性が損なわれる可能性があるため、必要最小限にすることが好ましい。
【0026】
本発明のカチオン電着塗料組成物を使用して塗装を行なうためには、上述のようにして製造されたカチオン電着塗料組成物に金属被塗物を浸漬させて電着塗装した後、紫外線を照射すればよい。金属被塗物としては、例えば、鉄やアルミ等の金属素材を用いた自動車部品や工業用製品を対象とすることができる。また、電着塗装の条件は、特に限定されず、常法に従って行なえばよい。本発明のカチオン電着塗料組成物から形成される塗膜は、十分に高い硬度を有するので、さらなる硬化のために140℃以上の高温での焼き付け乾燥を行なう必要はなく、水分を除去するための80℃程度の低温での乾燥で十分である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例中の「部」は質量部、「%」は質量%を意味する。
【0028】
原料の準備
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A-1)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、トルエンジイソシアネートを1248部、メチルイソブチルケトンを289部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。60~80℃保温下で2-ヒドロキシエチルアクリレート963部を滴下投入し、投入終了後、70℃で2時間保温して、イソシアネートの「ハーフブロック物」を得た。同じく撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた別のフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを454部、エポキシ当量300のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを116部、ビスフェノールAを152部、メチルイソブチルケトンを58部、トリブチルアミンを0.3部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。150℃で2時間保温した後、メチルイソブチルケトンを382部加えながら90℃まで冷却した。次いでジエタノールアミンを148部加え、100℃で2時間保温した後、70℃まで冷却した。そこに上記ハーフブロック物を289部加え、70℃で2時間保温して、固形分70%のアミン変性エポキシ樹脂(A-1)を得た。この樹脂中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり0.74ミリ当量であり、数平均分子量は1512であり、アミン価は、固形分1g当たり70.0mgKOHであった。
【0029】
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A-2)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを454部、エポキシ当量300のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを111部、ビスフェノールAを218部、メチルイソブチルケトンを63部、トリブチルアミンを0.3部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。150℃で3時間保温した後、メチルイソブチルケトンを378部加えながら90℃まで冷却した。次いでジエタノールアミンを89部加え、100℃で2時間保温した後、70℃まで冷却した。そこに上記ハーフブロック物を288部加え、70℃で2時間保温して、固形分70%のアミン変性エポキシ樹脂(A-2)を得た。この樹脂中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり0.74ミリ当量であり、数平均分子量は2523であり、アミン価は、固形分1g当たり42.3mgKOHであった。
【0030】
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A-3)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを451部、エポキシ当量300のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを111部、ビスフェノールAを244部、メチルイソブチルケトンを65部、トリブチルアミンを0.6部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。150℃で5時間保温した後、メチルイソブチルケトンを376部加えながら90℃まで冷却した。次いでジエタノールアミンを64部加え、100℃で2時間保温した後、70℃まで冷却した。そこに上記ハーフブロック物を290部加え、70℃で2時間保温して、固形分70%のアミン変性エポキシ樹脂(A-3)を得た。この樹脂中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり0.74ミリ当量であり、数平均分子量は3505であり、アミン価は、固形分1g当たり30.4mgKOHであった。
【0031】
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A-4)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを506部、エポキシ当量300のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを123部、ビスフェノールAを243部、メチルイソブチルケトンを70部、トリブチルアミンを0.3部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。150℃で3時間保温した後、メチルイソブチルケトンを386部加えながら90℃まで冷却した。次いでジエタノールアミンを99部加え、100℃で2時間保温した後、70℃まで冷却した。そこに上記ハーフブロック物を173部加え、70℃で2時間保温して、固形分70%のアミン変性エポキシ樹脂(A-4)を得た。この樹脂中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり0.44ミリ当量であり、数平均分子量は2263であり、アミン価は、固形分1g当たり47.1mgKOHであった。
【0032】
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A-5)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを400部、エポキシ当量300のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを97部、ビスフェノールAを192部、メチルイソブチルケトンを56部、トリブチルアミンを0.3部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。150℃で3時間保温した後、メチルイソブチルケトンを369部加えながら90℃まで冷却した。次いでジエタノールアミンを78部加え、100℃で2時間保温した後、70℃まで冷却した。そこに上記ハーフブロック物を409部加え、70℃で2時間保温して、固形分70%のアミン変性エポキシ樹脂(A-5)を得た。この樹脂中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり1.05ミリ当量であり、数平均分子量は2866であり、アミン価は、固形分1g当たり37.2mgKOHであった。
【0033】
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A-6)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを557部、ビスフェノールAを127部、メチルイソブチルケトンを55部、トリブチルアミンを0.3部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。130℃で2時間保温した後、メチルイソブチルケトンを386部加えながら90℃まで冷却した。次いでジエタノールアミンを186部加え、100℃で2時間保温した後、70℃まで冷却した。そこに上記ハーフブロック物を289部加え、70℃で2時間保温して、固形分70%のアミン変性エポキシ樹脂(A-6)を得た。この樹脂中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり0.74ミリ当量であり、数平均分子量は1203であり、アミン価は、固形分1g当たり88.6mgKOHであった。
【0034】
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A-7)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを451部、エポキシ当量300のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを111部、ビスフェノールAを249部、メチルイソブチルケトンを65部、トリブチルアミンを0.8部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。150℃で8時間保温した後、メチルイソブチルケトンを375部加えながら90℃まで冷却した。次いでジエタノールアミンを60部加え、100℃で2時間保温した後、70℃まで冷却した。そこに上記ハーフブロック物を287部加え、70℃で2時間保温して、固形分70%のアミン変性エポキシ樹脂(A-7)を得た。この樹脂中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり0.74ミリ当量であり、数平均分子量は3740であり、アミン価は、固形分1g当たり28.5mgKOHであった。
【0035】
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A-8)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを527部、エポキシ当量300のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを128部、ビスフェノールAを253部、メチルイソブチルケトンを73部、トリブチルアミンを0.3部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。150℃で3時間保温した後、メチルイソブチルケトンを389部加えながら90℃まで冷却した。次いでジエタノールアミンを103部加え、100℃で2時間保温した後、70℃まで冷却した。そこに上記ハーフブロック物を126部加え、70℃で2時間保温して、固形分70%のアミン変性エポキシ樹脂(A-8)を得た。この樹脂中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり0.32ミリ当量であり、数平均分子量は2173であり、アミン価は、固形分1g当たり49.1mgKOHであった。
【0036】
α,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A-9)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを362部、エポキシ当量300のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを88部、ビスフェノールAを173部、メチルイソブチルケトンを50部、トリブチルアミンを0.2部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。150℃で3時間保温した後、メチルイソブチルケトンを363部加えながら90℃まで冷却した。次いでジエタノールアミンを71部加え、100℃で2時間保温した後、70℃まで冷却した。そこに上記ハーフブロック物を493部加え、70℃で3時間保温して、固形分70%のアミン変性エポキシ樹脂(A-9)を得た。この樹脂中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり1.26ミリ当量であり、数平均分子量は3168であり、アミン価は、固形分1g当たり33.6mgKOHであった。
【0037】
1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B-1)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、ポリメリックMDI(商品名スミジュール44V-20L)を602部、メチルイソブチルケトンを480部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。60~80℃保温下で2-ヒドロキシエチルアクリレート518部を滴下投入し、投入終了後、85℃で5時間保温して、固形分70%の化合物(B-1)を得た。この化合物中のα,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり3.98ミリ当量であった。
【0038】
1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B-2)
市販のトリメチロールプロパントリアクリレート(商品名A-TMPT/新中村化学工業(株))を化合物(B-2)として用いた。この化合物の固形分は100%で、α,β-不飽和カルボニル基の含有量は、固形分1g当たり10.14ミリ当量であった。
【0039】
エマルションの製造
表1に記載の原料配合に従って、エマルションE1~E12を製造した。具体的な手順は以下の通りである。
撹拌機、温度計を備えたステンレス製ビーカーに、各原料配合に従ってα,β-不飽和カルボニル基含有アミン変性エポキシ樹脂(A)、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)、光重合開始剤(C)(チバスペシャリティー社製イルガキュア907)をそれぞれ所定量仕込み、撹拌下で昇温を開始した。次いで、中和酸としてメタンスルホン酸70%水溶液を加え、70℃で1時間保温した後、加熱を止め、脱イオン水をゆっくり投入してエマルション化させた。常温のまま48時間撹拌を継続し、揮発した分は脱イオン水で補填して、固形分16.5%のエマルションE1~E12を得た。なお、エマルションE13については、エマルションE1~E12と同様の手順で製造しようとしたが、材料であるアミン変性エポキシ樹脂(A-9)の乳化性が不足し、均一なエマルションを得ることができなかった。
【0040】
【0041】
顔料分散ペースト(D)の製造
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えたフラスコに、エポキシ当量187のビスフェノールAジグリシジルエーテルを518部、エポキシ当量300のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを45部、ビスフェノールAを221部、ジメチルベンジルアミンを1.6部仕込み、撹拌下で昇温を開始した。150℃で4時間保温した後、ブチルセロソルブを550部加えながら70℃まで冷却した。次いで、ジメチルエタノールアミンを87部、乳酸50%水溶液を177部加え、80℃で2時間保温して、固形分60%の4級アンモニウム塩型顔料分散樹脂を得た。
【0042】
容器に、脱イオン水を1952部仕込み、撹拌下で上記顔料分散樹脂を1193部、カオリンを711部、酸化チタンを928部、カーボンブラックを36部、酸化ビスマスを108部、順次投入し、常温で1時間均一混合したものを横型サンドミルで分散粒度が15μm以下になるまで分散して、固形分53%の顔料分散ペースト(D)を得た。
【0043】
実施例1~7、比較例1~6
表2に記載の配合に従って、実施例1~7、比較例1~5のカチオン電着塗料を製造した。具体的な手順は以下の通りである。
容器に表2に記載の配合に従って各エマルションを所定量はかりとり、撹拌下で顔料分散ペースト(D)を加えて、固形分20%の電着塗料を得た。なお、比較例6のために作ろうとしたエマルションE13については、上述の通り、材料であるアミン変性エポキシ樹脂(A-9)の乳化性が不足し、均一なエマルションを得ることができなかったため、評価塗料から除外した。
【0044】
このようにして得られた実施例1~7、比較例1~5のカチオン電着塗料組成物を使用して、以下の手順で金属被塗物を塗装して試験板を作製し、この試験板を使用して、以下の手順で塗面平滑性、硬化性、及び防錆性を評価した。これらの評価結果を、塗料組成物の配合や特性とともに、表2に示す。
【0045】
「試験板の作製」
リン酸亜鉛化成処理を施した冷延鋼板(70×150×0.8mmサイズ)を被塗物として、片面を絶縁テープでマスキングし、液温28℃に調整したカチオン電着塗料中に浸漬させ、硬化後の膜厚が15μmとなるように電圧を調整して塗装した。塗装後は水洗し、80℃で10分間水切り乾燥させた。最後に、紫外線硬化装置(サンエナジー株式会社製、ランプ出力250W、主波長250~450nm)で20分間照射したものを試験に用いた。
【0046】
「塗面平滑性」
株式会社ミツトヨ製サーフテスト(SJ-301)を用いて、カットオフ2.5で試験板のRa値を測定し、以下の基準に従って評価した。評価はA~Bを合格とし、Cを不合格とした。
A:Ra値が、0.30μm未満である。
B:Ra値が、0.30μm以上、0.40μm未満である。
C:Ra値が、0.40μm以上である。
【0047】
「硬化性」
試験板をアセトンに浸漬し、40℃で24時間経過後に取り出し、100℃で10分間乾燥させる。アセトンに溶出せずに残った塗膜の残存率(ゲル分率)[%]を算出し、以下の基準に従って評価した。評価はA~Bを合格とし、Cを不合格とした。
A:ゲル分率が、90%以上である。
B:ゲル分率が、80%以上、90%未満である。
C:ゲル分率が、80%未満である。
【0048】
「防錆性」
カッターナイフを用いて、試験板の素地に達するクロスカット傷を入れ、塩水噴霧試験機(SST、5%塩水、35℃保温)で480時間試験し、クロスカット部からの腐食幅(錆幅およびフクレ幅)を測定し、以下の基準に従って評価した。評価はA~Bを合格とし、Cを不合格とした。
A:腐食幅の最大がカット部より片側で、2mm以下である。
B:腐食幅の最大がカット部より片側で、2mm超、3mm以下である。
C:腐食幅の最大がカット部より片側で、3mm超である。
【0049】
【0050】
「表中の記載内容の補足」
※樹脂(A)の数平均分子量:配合から算出される理論値。
※アミン価:固形分1g当たりに含有されるエポキシ末端の三級アミンのミリ当量数をKOH換算したものであり、単位は[mg-KOH/g-固形分](固形分1g中のKOHのmg)である。
※C=C濃度:固形分1g当たりに含有されるα,β-不飽和カルボニル基のミリ当量数であり、単位は[meq/g-固形分](固形分1g中のミリ当量)である。
【0051】
表2からわかるように、本発明の要件を満たす実施例1~7はいずれも、エマルション中に十分な濃度のα,β-不飽和カルボニル基が含有されており、しかもアミン変性エポキシ樹脂(A)の分子量を特定の範囲に限定しているので、塗面平滑性、硬化性、防錆性のいずれも合格レベルの優れた塗膜を得ることができる。これに対して、比較例1は、アミン変性エポキシ樹脂(A)の分子量が低すぎるため、防錆性に劣る。比較例2は、アミン変性エポキシ樹脂(A)の分子量が高すぎるため、塗面平滑性に劣る。比較例3は、アミン変性エポキシ樹脂(A)中のα,β-不飽和カルボニル基濃度が低すぎるため、エマルション全体のα,β-不飽和カルボニル基濃度も低すぎ、防錆性に劣る。比較例4は、アミン変性エポキシ樹脂(A)中のα,β-不飽和カルボニル基濃度は実施例1と同じであるが、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)の配合量が少ないため、エマルション全体のα,β-不飽和カルボニル基濃度が低すぎ、硬化性及び防錆性に劣る。比較例5は、1分子中に2個以上のα,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物(B)を配合していないため、アミン変性エポキシ樹脂(A)だけではエマルション全体として十分なα,β-不飽和カルボニル基濃度を確保することができず、硬化性及び防錆性に劣る。比較例6は、アミン変性エポキシ樹脂(A)中のα,β-不飽和カルボニル基濃度が高すぎるため、上述のように、そもそもアミン変性エポキシ樹脂(A)の乳化性が不足して均一なエマルションを得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、三次元架橋成分としてのα,β-不飽和カルボニル基を、主成分のアミン変性エポキシ樹脂に導入しているだけでなく、α,β-不飽和カルボニル基を分子中に高濃度で含有する化合物を併用して、塗料組成物全体として十分なα,β-不飽和カルボニル基濃度を確保しているため、防錆性に優れた強固な硬化塗膜を形成させることができる。また、主成分のアミン変性エポキシ樹脂の分子量を特定の範囲に限定しているので、十分な塗膜平滑性も同時に達成することができる。従って、本発明は、極めて有用である。