(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】溶接条件調整装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20231005BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B23K9/095 501A
B23K31/00 K
(21)【出願番号】P 2020066014
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣田 周吾
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-030014(JP,A)
【文献】特開2019-188460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接条件を調整する溶接条件調整装置であって、
溶接工程に係る溶接状態を示す溶接データを取得する取得部と、
該取得部にて取得した溶接データに基づいて、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のサイクルタイムに関連するアーク溶接条件を調整する調整部と
、
前記取得部にて取得した溶接データに基づいて、溶接結果の良否及び前記サイクルタイムが短いことに起因する不良を判定する良否判定部と
を備え
、
前記調整部は、
前記良否判定部によって良と判定された場合、前記サイクルタイムが短縮され、前記良否判定部によって前記サイクルタイムが短いことに起因する不良と判定された場合、前記サイクルタイムが延長されるように、前記サイクルタイムに関連するアーク溶接条件の変更内容を決定する
溶接条件調整装置。
【請求項2】
前記調整部は、
前記溶接工程のサイクルタイムを短縮させた結果、溶接結果が良好な状態から不良状態に変化した場合、サイクルタイム短縮前の前記サイクルタイムに関連するアーク溶接条件にて調整を確定させ、確定させた前記アーク溶接条件を記憶部に記憶させる
請求項1に記載の溶接条件調整装置。
【請求項3】
アーク溶接条件を調整する溶接条件調整装置であって、
溶接工程に係る溶接状態を示す溶接データを取得する取得部と、
該取得部にて取得した溶接データに基づいて、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のサイクルタイムに関連するアーク溶接条件を調整する調整部と、
前記取得部にて取得した溶接データに基づいて、溶接結果の良否及び前記サイクルタイムが短いことに起因する不良を判定する良否判定部と
を備え、
前記調整部は、
前記溶接データが入力された場合、前記サイクルタイムに関連するアーク溶接条件の変更内容を示すデータを出力するようにニューラルネットワークを学習させた調整ニューラルネットワークを備え、
更に、前記アーク溶接条件を調整した後に得られる前記良否判定部の判定結果に基づいて、前記調整ニューラルネットワークを学習させる学習処理部を備える
溶接条件調整装置。
【請求項4】
前記調整ニューラルネットワークは、前記アーク溶接条件の変更量を示すデータを出力する
請求項3に記載の溶接条件調整装置。
【請求項5】
アーク溶接条件を調整する溶接条件調整装置であって、
溶接工程に係る溶接状態を示す溶接データを取得する取得部と、
該取得部にて取得した溶接データに基づいて、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のサイクルタイムに関連するアーク溶接条件を調整する調整部と、
少なくとも溶接後に溶接部位を撮像して得た画像データを含む状態データを取得する状態データ取得部
と、
前記取得部にて取得した溶接データに基づいて、溶接結果の良否及び前記サイクルタイ
ムが短いことに起因する不良を判定する良否判定部と、
前記アーク溶接条件を調整した後に得られる前記良否判定部の判定結果と、溶接工程に要する時間とに基づいて、前記アーク溶接条件に対する報酬を算出する報酬算出部と
を備え、
前記調整部は、
前記状態データ取得部にて取得した状態データ、及び前記アーク溶接条件に係る行動を示す行動データに基づいて、前記状態データが示す状態における前記行動に対する評価値を算出する評価部と、
前記評価部にて算出される評価値が最大の行動を選択する行動選択部と
を備え
、
更に、前記状態データ取得部にて取得した状態データ、前記アーク溶接条件に係る行動を示す行動データ、及び前記報酬算出部にて算出された報酬に基づいて、前記評価部を学習させる強化学習部を備える
溶接条件調整装置。
【請求項6】
前記調整部によってアーク溶接条件の調整を行う調整強度を受け付ける受付部を備え、
前記調整部は、
前記受付部にて受け付けた調整強度にてアーク溶接条件の調整を行う
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の溶接条件調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接工程におけるアーク溶接条件を調整する溶接条件調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接方法の一つに、消耗電極式のガスシールドアーク溶接法がある。ガスシールドアーク溶接法は、母材の被溶接部に送給された溶接ワイヤと、母材との間にアークを発生させ、アークの熱によって母材を溶接する手法であり、特に高温になった母材の酸化を防ぐために、シールドガスを溶接部周辺に噴射しながら溶接を行うものである。
【0003】
特許文献1には、溶接部位を撮像して得られる画像データ、当該画像データを処理することにより得られるビードの外観データ、スパッタ発生量データ等を用いた機械学習により、溶接条件を自動的に設定する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、溶接電流及び溶接電圧を計測して得られる計測値に基づいて、溶接ビードの断面に係る物理量を推定し、溶接ビードの品質を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-30014号公報
【文献】特開2016-26877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アーク溶接において、溶接品質を確保しつつ、サイクルタイムを短縮するためには、溶接速度を上げつつ、溶接性が安定する溶接条件を調整する必要がある。この調整には、作業者が手作業により、非常に多くの試行回数の結果から最適と思われる条件に設定する必要があった。
【0007】
本発明の目的は、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のアーク溶接条件を自動で調整し、溶接工程のサイクルタイムを短縮させることができる溶接条件調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本態様に係る溶接条件調整装置は、アーク溶接条件を調整する溶接条件調整装置であって、溶接工程に係る溶接状態を示す溶接データを取得する取得部と、該取得部にて取得した溶接データに基づいて、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のサイクルタイムに関連するアーク溶接条件を調整する調整部とを備える。
【0009】
本態様によれば、取得部は溶接データを取得し、調整部は取得された溶接データに基づいて、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のアーク溶接条件を調整する。溶接工程には、アークスタート工程と、一又は複数の溶接区間で行われる本溶接の工程と、アークエンド工程と、が含まれる。本溶接は、アークスタート工程及びアークエンド工程の間に行われる溶接である。一つの溶接区間では、一つのアーク溶接条件に従って溶接が行われる。複数の溶接区間がある場合、各溶接区間で異なるアーク溶接条件が設定されることもある。本態様では、本溶接工程のうち、少なくとも、一つの溶接区間におけるアーク溶接条件の調整が行われる。
溶接データは、溶接工程における溶接の状態を示す情報であり、アーク溶接条件を調整することによりサイクルタイムを短縮することが可能であるか否か、あるいはサイクルタイムを延長させるべきか否か等の判定に資する情報が含まれる。調整部は、かかる溶接データを用いることによって、溶接結果を悪化させないで前記溶接工程のサイクルタイムが短縮されるよう、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のアーク溶接条件を調整することができ、溶接工程のサイクルタイムを短縮させることができる。 なお、生産ラインに複数の溶接電源が設置されている場合であっても、溶接条件調整装置は、溶接電源毎、即ち溶接ワイヤ毎にアーク溶接条件の調整を行う。また、言うまでもなく各溶接電源に溶接条件調整装置を設けても良いし、一つの溶接条件調整装置が複数の溶接電源におけるアーク溶接条件をそれぞれ調整するように構成しても良い。
【0010】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記取得部にて取得した溶接データに基づいて、溶接結果の良否及び前記サイクルタイムが短いことに起因する不良を判定する良否判定部を備え、前記調整部は、前記良否判定部によって良と判定された場合、前記サイクルタイムが短縮され、前記良否判定部によって前記サイクルタイムが短いことに起因する不良と判定された場合、前記サイクルタイムが延長されるように、前記サイクルタイムに関連するアーク溶接条件の変更内容を決定する。
【0011】
本態様によれば、溶接工程における溶接結果が良好な場合、溶接条件調整装置は、アーク溶接条件を短縮化することにより溶接工程のサイクルタイムを短縮させる余地がある可能性があるため、アーク溶接条件を調整して溶接工程のサイクルタイムを短縮させる。サイクルタイムが短いことに起因する不良がある場合、溶接条件調整装置は、アーク溶接条件を調整して溶接工程のサイクルタイムを延長させる。かかる調整処理によって、溶接結果を極力悪化させないように、溶接工程のサイクルタイムを短縮させることができる。
【0012】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記調整部は、前記溶接工程のサイクルタイムを短縮させた結果、溶接結果が良好な状態から不良状態に変化した場合、サイクルタイム短縮前の前記サイクルタイムに関連するアーク溶接条件にて調整を確定させ、確定させた前記アーク溶接条件を記憶部に記憶させる。
【0013】
本態様によれば、溶接工程のサイクルタイムを最短化することができ、記憶部はサイクルタイムが最短のアーク溶接条件を記憶する。当該最短のアーク溶接条件は、必ずしも論理的なサイクルタイム最短のアーク溶接条件では無い。最短のアーク溶接条件は、溶接工程のサイクルタイムを短縮させて溶接を行ったところ、次溶接工程の溶接結果が良好な状態から不良状態に変化したときの、サイクルタイム短縮前のアーク溶接条件を意味する。
以後、記憶部が記憶しているアーク溶接条件を用いて、直ちにサイクルタイムを最短化することができる。
【0014】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記良否判定部は、前記溶接データが入力された場合、該溶接データが得られるときの溶接工程に係る溶接結果の良否及び前記サイクルタイムが短いことに起因する不良を示すデータを出力するようにニューラルネットワークを学習させた良否判定ニューラルネットワークを備える。
【0015】
本態様によれば、良否判定ニューラルネットワークは、例えば学習済み深層ニューラルネットワークであり、溶接結果の良否を適切に判定することができる。当該ニューラルネットワークの種類は特に限定されるものでは無い。CNN(Convolutional Neural Network)、RNN(Recurrent Neural Network)、LSTM(Long Short-Term Memory)等、溶接データの特性に合わせて、適宜選択すれば良い。
【0016】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記調整部は、前記溶接データが入力された場合、前記サイクルタイムに関連するアーク溶接条件の変更内容を示すデータを出力するようにニューラルネットワークを学習させた調整ニューラルネットワークを備える。
【0017】
本態様によれば、調整ニューラルネットワークは、例えば学習済み深層ニューラルネットワークであり、アーク溶接条件を適切に調整することができる。当該ニューラルネットワークの種類は特に限定されるものでは無い。CNN、RNN、LSTM等、溶接データの特性に合わせて、適宜選択すれば良い。
【0018】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記調整ニューラルネットワークは、前記サイクルタイムに関連するアーク溶接条件の変更量を示すデータを出力する。
【0019】
本態様によれば、調整ニューラルネットワークは、溶接工程のサイクルタイムを短縮させるべきか否かでは無く、調整可能なアーク溶接条件の変更量を出力することができる。例えば、調整ニューラルネットワークは、溶接結果が非常に安定している場合、大きな変更量を出力し、溶接結果が良好であるものの不安定であるような場合、小さな変更量を出力することができる。従って、より速やかに溶接工程のサイクルタイムを短縮させることができる。
【0020】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記取得部にて取得した溶接データに基づいて、溶接結果の良否及び前記サイクルタイムが短いことに起因する不良を判定する良否判定部と、前記アーク溶接条件を調整した後に得られる前記良否判定部の判定結果に基づいて、前記調整ニューラルネットワークを学習させる学習処理部とを備える。
【0021】
本態様によれば、調整ニューラルネットワークは、アーク溶接条件を調整したときの溶接結果を示すデータを用いて、学習を行う。従って、溶接結果が悪化しないよう、より効果的にアーク溶接条件を調整して溶接工程のサイクルタイムを短縮させることができる。
【0022】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記学習処理部は、前記良否判定部によって良と判定された場合、前記サイクルタイムが短縮され、前記良否判定部によって前記サイクルタイムが短いことに起因する不良と判定された場合、前記サイクルタイムが延長されるように、前記調整ニューラルネットワークを学習させる。
【0023】
本態様によれば、溶接工程のサイクルタイムが短縮される方向に調整ニューラルネットワークを学習させることができる。当該学習により、溶接工程のサイクルタイムを最短化させることができる。
【0024】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記学習処理部は、溶接結果が良好及び不良の中間的状態である場合、前記サイクルタイムが維持されるように前記調整ニューラルネットワークを学習させる。
【0025】
本態様によれば、溶接結果が良好及び不良の中間的状態である場合、溶接工程のサイクルタイムが維持されるように調整ニューラルネットワークを学習させることができる。中間的状態は、溶接結果が比較的良好な状態ではあるものの、これ以上サイクルタイムを短縮させた場合、溶接結果が悪化する可能性がある状態である。当該学習により、溶接工程のサイクルタイムを最短化させ、かつ溶接結果を良好な状態で安定化させることができる。
【0026】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記良否判定部は、前記溶接データが入力された場合、該溶接データが得られるときの溶接工程に係る溶接結果の良否及び前記サイクルタイムが短いことに起因する不良を示すデータを出力するようにニューラルネットワークを学習させた良否判定ニューラルネットワークを備える。
【0027】
本態様によれば、良否判定ニューラルネットワークは、例えば学習済み深層ニューラルネットワークであり、溶接結果の良否を適切に判定することができる。良否判定ニューラルネットワークの良否判定結果を用いることによって、より効果的に調整ニューラルネットワークを学習させることができる。
【0028】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記調整ニューラルネットワークは、前記良否判定ニューラルネットワークの全部又は一部と実質的同一のネットワーク構成を含む。
【0029】
本態様によれば、調整ニューラルネットワークは、良否判定ニューラルネットワークの全部又は一部と実質的同一のニューロン構成を含む。例えば、調整ニューラルネットワークの一部は、良否判定ニューラルネットワークの全部又は一部と同じ又は実質的同一の中間層及び重み係数を有する。溶接結果の良否の判定と、アーク溶接条件の調整内容は、一部共通する特徴を有しているため、良否判定ニューラルネットワークを調整ニューラルネットワークに流用することができる。つまり、調整ニューラルネットワークの重み係数の初期値を、より適切な値に設定することができる。従って、アーク溶接条件を学習させるための学習データが不足していても、溶接データ及び溶接結果の良否を示すデータの学習データを十分に用意することができれば、調整ニューラルネットワークの重み係数の初期値を適切に設定し、調整ニューラルネットワークをより効率的に学習させることができる。なお、言うまでも無く、調整ニューラルネットワーク及び良否判定ニューラルネットワークのネットワーク構造を同一に構成しても良い。
【0030】
本態様に係る溶接条件調整装置は、少なくとも溶接後に溶接部位を撮像して得た画像データを含む状態データを取得する状態データ取得部を備え、前記調整部は、前記状態データ取得部にて取得した状態データ、及び前記アーク溶接条件に係る行動を示す行動データに基づいて、前記状態データが示す状態における前記行動に対する評価値を算出する評価部と、前記評価部にて算出される評価値が最大の行動を選択する行動選択部とを備える。
【0031】
本態様によれば、溶接後に溶接部位を撮像して得た画像データを含む状態データに基づき、強化学習された評価部を用いて最適なアーク溶接条件に係る行動を選択する。
【0032】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記取得部にて取得した溶接データに基づいて、溶接結果の良否及び前記サイクルタイムが短いことに起因する不良を判定する良否判定部と、前記アーク溶接条件を調整した後に得られる前記良否判定部の判定結果と、溶接工程に要する時間とに基づいて、前記アーク溶接条件に対する報酬を算出する報酬算出部と、前記状態データ取得部にて取得した状態データ、前記アーク溶接条件に係る行動を示す行動データ、及び前記報酬算出部にて算出された報酬に基づいて、前記評価部を学習させる強化学習部とを備える。
【0033】
本態様によれば、溶接工程のサイクルタイムが短縮されるアーク溶接条件を強化学習することができる。
【0034】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記評価部は、前記状態データ取得部にて取得した状態データ、及び前記アーク溶接条件に係る行動を示す行動データが入力された場合、前記状態データが示す状態における前記行動に対する評価値を出力する評価ニューラルネットワークを備える。
【0035】
本態様によれば、溶接工程のサイクルタイムが短縮されるアーク溶接条件を深層強化学習することができる。
【0036】
本態様に係る溶接条件調整装置は、溶接工程に係る溶接状態を示す前記溶接データは、溶接工程中に検出された溶接電流及び溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度、短絡状況、溶接工程中に集音された溶接音、並びに溶接終了後に撮像された溶接部位の画像の少なくとも一つを示すデータを含む。
【0037】
本態様によれば、溶接工程における溶接工程中に検出された溶接電流及び溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度、短絡状況、溶接工程中に集音された溶接音、並びに溶接終了後に撮像された溶接部位の画像の少なくとも一つを示すデータを用いて、アーク溶接条件を調整することができる。
【0038】
本態様に係る溶接条件調整装置は、前記調整部によってアーク溶接条件の調整を行う調整強度を受け付ける受付部を備え、前記調整部は、前記受付部にて受け付けた調整強度にてサイクルタイムに関連するアーク溶接条件の調整を行う。
【0039】
本態様によれば、使用者は、上記調整部によって行われるアーク溶接条件の自動調整の程度を任意に設定することができる。
【0040】
本態様に係る溶接システムは、上記のいずれか一態様に係る溶接条件調整装置と、溶接トーチを保持する溶接ロボットと、前記溶接トーチに溶接電流を供給する溶接電源とを備える。
【0041】
本態様によれば、溶接ロボット及び溶接電源を備えた溶接システムは、溶接工程のサイクルタイムを短縮させることができる。なお、溶接条件調整装置は、溶接ロボット及び溶接電源の内部に設けても良いし、溶接ロボット及び溶接電源の動作を制御する制御装置の内部に設けても良いし、溶接ロボット、溶接電源及び制御装置の外部に別体で備えても良い。また、溶接条件調整装置はサーバであっても良く、制御装置又は溶接電源は、当該サーバと通信を行い、溶接工程のサイクルタイムを短縮するように構成しても良い。
【0042】
本態様に係る溶接条件調整方法は、アーク溶接条件を調整する溶接条件調整方法であって、溶接工程に係る溶接状態を示す溶接データを取得し、取得した溶接データに基づいて、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のサイクルタイムに関連するアーク溶接条件を調整する。
【0043】
本態様によれば、溶接工程のサイクルタイムを短縮させることができる。溶接条件調整方法は、溶接システムを構成する溶接電源、制御装置等が自動的に実施する態様であっても良いし、作業員が溶接システムに、溶接条件調整装置を接続して溶接条件調整方法を実施させても良い。
【0044】
本態様に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、アーク溶接条件を調整させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータに、溶接工程に係る溶接状態を示す溶接データを取得し、取得した溶接データに基づいて、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のサイクルタイムに関連するアーク溶接条件を調整する処理を実行させる。
【0045】
本態様によれば、コンピュータを上記溶接条件調整装置として機能させることができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間のアーク溶接条件を自動で調整し、溶接工程のサイクルタイムを短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】実施形態1に係るアーク溶接システムを示す模式図である。
【
図2】実施形態1に係る溶接条件調整装置を示すブロック図である。
【
図3】実施形態1に係る溶接条件調整装置を示す機能ブロック図である。
【
図4】実施形態1に係る溶接条件調整方法を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態1に係る溶接条件調整方法を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態2に係る溶接条件調整装置を示す機能ブロック図である。
【
図7】調整部のネットワーク構成を示す概念図である。
【
図8】実施形態3に係る溶接条件調整装置を示す機能ブロック図である。
【
図9】実施形態4に係るアーク溶接システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせても良い。
(実施形態1)
図1は実施形態1に係るアーク溶接システムを示す模式図である。本実施形態に係るアーク溶接システムは、消耗電極式のガスシールドアーク溶接機であり、溶接ロボット1、溶接電源2、制御装置3、撮像装置4及び溶接条件調整装置5とを備える。溶接条件調整装置5は制御装置3に設けられている。なお、作図及び説明の便宜上、溶接条件調整装置5のユニットが制御装置3に含まれるものとして説明するが、制御装置3及び溶接条件調整装置5は渾然一体の構成であっても良く、見かけ上、制御装置3のハードウェア及びソフトウェアが溶接条件調整装置5の機能を実現しても良い。また、溶接条件調整装置5は溶接電源2に設けても良いし、他の装置に設けても良い。更に、溶接条件調整装置5の機能を複数の装置及びサーバで分散処理するように構成しても良い。
【0049】
溶接ロボット1は、母材Aのアーク溶接を自動で行うものである。溶接ロボット1は、床面の適宜箇所に固定される基部を備える。基部には、複数のアームが軸部を介して回動可能に連結しており、アームの先端部には溶接トーチ11が保持されている。また、アームの適宜箇所にワイヤ送給装置12が設けられている。各アームの連結部分にはモータが設けられており、モータの回転駆動力によって軸部を中心に各アームが回動する。モータの回転は制御装置3によって制御されている。制御装置3は、各アームを回動させることによって、母材Aに対して溶接トーチ11を上下前後左右に移動させることができる。また、各アームの連結部分には、アームの回動位置を示す信号を制御装置3へ出力するエンコーダが設けられており、制御装置3は、エンコーダから出力された信号に基づいて、溶接トーチ11の位置を認識する。
【0050】
溶接トーチ11は、銅合金等の導電性材料からなり、溶接対象の母材Aへ溶接ワイヤWを案内すると共に、アークの発生に必要な溶接電流を供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。溶接電流は溶接電源2から供給される。溶接ワイヤWは、図示しないワイヤ供給源からワイヤ送給装置12によって溶接トーチ11に供給される。溶接ワイヤWは、例えばソリッドワイヤであり、消耗電極として機能する。
コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤWに接触し、溶接電流を溶接ワイヤWに供給する。また、溶接トーチ11は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、先端の開口から母材Aへシールドガスを噴射するノズルを有する。シールドガスは、アークによって溶融した母材A及び溶接ワイヤWの酸化を防止するためのものである。シールドガスは、例えば炭酸ガス、炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、アルゴン等の不活性ガス等である。シールドガスは溶接電源2から供給される。
【0051】
溶接電源2は、電源部21、ワイヤ送給制御部22、シールドガス供給部23及び検出部24を備える。電源部21は、給電ケーブルを介して、溶接トーチ11のコンタクトチップ及び母材Aに接続され、溶接電流を供給する。ワイヤ送給制御部22は、ワイヤ送給装置12による溶接ワイヤWの送給速度を制御する。シールドガス供給部23は、シールドガスを溶接トーチ11に供給する。検出部24は、溶接工程中にアークを流れる溶接電流を検出する電流検出部、溶接トーチ11及び母材Aに印加される電圧を検出する電圧検出部を含む。電源部21は、検出部24にて検出された溶接電流及び溶接電圧に基づいてPWM制御された直流電流を出力する電源回路、信号処理回路等を含む。また、溶接電源2は、溶接工程中の溶接状態の状態を示す溶接モニタデータを制御装置3へ出力する。溶接モニタデータは、例えば、溶接工程中に検出された溶接電流又は溶接電圧を示す溶接電流データ又は溶接電圧データである。また溶接モニタデータとして、溶接ワイヤWの送給速度を示す送給速度データ、短絡状況を示す短絡状況データ、図示しないマイクで集音して得られる溶接音データを制御装置3へ出力しても良い。
なお、上記溶接モニタデータは、次溶接工程に係る溶接状態を示す溶接データの一例である。
【0052】
撮像装置4は、溶接工程後、母材Aの溶接部位を撮像し、撮像して得た画像データを制御装置3へ出力する。また、撮像装置4は、溶接部位の温度を検出する赤外線カメラであっても良い。
なお、上記画像データは、次溶接工程に係る溶接状態を示す溶接データの一例である。
【0053】
制御装置3は、溶接ロボット1の動作を制御すると共に、溶接電源2に溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤWの送給速度、シールドガスの供給量等の溶接条件を溶接電源2へ出力して溶接電源2の動作を制御する。制御装置3は、母材Aの材質及び開先の種類等に対する各種溶初期接条件を記憶している。また、制御装置3は、アーク溶接条件を出力して、溶接処理を実行させる。
溶接工程は、アークスタート工程と、一又は複数の溶接区間で行われる本溶接の工程と、アークエンド工程と、が含まれる。本溶接は、アークスタート工程及びアークエンド工程の間に行われる溶接である。制御装置3は、アークスタート時に、当該アークスタート工程を制御するためのアーク溶接条件を出力する。アークスタートは、アークを発生させ、溶接を開始させる処理である。また、制御装置3は、アークエンド時に、当該アークエンド工程の処理を制御するためのアーク溶接条件を出力する。アークエンド工程の処理は、アンチスティック処理、溶着解除処理等、次溶接工程に備える処理である。更に制御装置3は、一又は複数の溶接区間で行われる本溶接を制御するためのアーク溶接条件を出力する。一つの溶接区間では、一つのアーク溶接条件に従って溶接が行われる。複数の溶接区間がある場合、各溶接区間で異なるアーク溶接条件が設定されることもある。以下、本実施形態1では、溶接工程のうち、特に一つの溶接区間におけるアーク溶接条件の調整について説明する。なお、本溶接が複数の溶接区間で構成されており、各溶接区間でアーク溶接条件が異なる場合、それぞれの溶接区間のアーク溶接条件を、本実施形態1で説明する方法により調整すればよい。また言うまでも無く、本溶接が一つの溶接区間で構成されている場合、当該溶接区間のアーク溶接条件を調整するように構成すればよい。
【0054】
制御装置3が記憶する上記アーク溶接条件は必ずしも最適なものでは無く、アーク溶接条件については、溶接結果が悪化しない範囲で、溶接工程のサイクルタイムが最短化されるように、溶接条件調整装置5によって調整されている。
なお、
図1には一組の溶接電源2及び溶接トーチ11のみが図示されているが、生産ラインに複数の溶接電源2が設置されている場合、一つの溶接条件調整装置5が、複数の溶接電源2毎に当該電源におけるアーク溶接条件をそれぞれ調整するように構成しても良いし、複数の溶接電源2それぞれに、溶接条件調整装置5を各別に設け、各電源におけるアーク溶接条件を調整するように構成しても負い。
【0055】
図2は実施形態1に係る溶接条件調整装置5を示すブロック図である。溶接条件調整装置5は、当該溶接条件調整装置5の各構成部の動作を制御する制御部50を備える。制御部50には、入力部50a、出力部50b及び記憶部50cが接続されている。
【0056】
記憶部50cは、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部50cは、溶接結果が悪化しない範囲において、溶接工程を最適化し、溶接工程のサイクルタイムを最短化するためのコンピュータプログラム50dを記憶している。
【0057】
制御部50は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)又はマルチコアCPU等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース等を有するコンピュータであり、インタフェースには、入力部50a、出力部50b及び記憶部50cが接続されている。制御部50は、記憶部50cが記憶するコンピュータプログラム50dを実行することにより、生産ラインで溶接が繰り返し行われる連続生産における当該溶接工程のサイクルタイムを最短化させる溶接条件調整方法を実施し、コンピュータを溶接条件調整装置5として機能させる。なお、繰り返し行われる溶接工程は、生産ラインに設置された一の溶接電源2又は溶接トーチ11が繰り返し行う溶接を意味する。
【0058】
入力部50aは、溶接電源2及び撮像装置4に接続されている。入力部50aには、溶接電源2から出力された溶接モニタデータと、撮像装置4から出力された画像データが入力される。溶接モニタデータは、例えば溶接工程中の溶接電流及び溶接電圧、溶接ワイヤWの送給速度、短絡状況、溶接音等を示す時系列データである。画像データは、溶接後のビードの外観を表したデータである。
【0059】
出力部50bは、溶接ロボット1及び溶接電源2に接続されている。制御部50は、溶接工程及びアーク溶接条件を制御し、またアーク溶接条件を変更するための制御データを溶接ロボット1及び溶接電源2へ出力する。アーク溶接条件を変更するための制御データは、アーク溶接条件の変更を指示するものであっても良いし、変更後のアーク溶接条件を示すものであっても良い。
【0060】
図3は実施形態1に係る溶接条件調整装置5を示す機能ブロック図である。溶接条件調整装置5は、機能ブロックとして、溶接モニタデータ取得部51aと、画像データ取得部51bと、第1良否判定部52aと、第2良否判定部52bと、良否総合判定部54と、調整部55と、溶接制御部56、最短溶接条件記憶部57とを備える。
【0061】
溶接モニタデータ取得部51aは、溶接電源2から出力される溶接モニタデータを取得し、取得した溶接モニタデータを第1良否判定部52aへ出力する。
【0062】
画像データ取得部51bは、撮像装置4から出力された画像データを取得し、取得した画像データを第2良否判定部52bへ出力する。
【0063】
第1良否判定部52aは、溶接モニタデータが入力された場合、当該溶接モニタデータが得られるときの溶接工程に係る溶接結果の良否を示すデータを出力する良否判定RNN53a(Recurrent Neural Network)を備える。良否判定RNN53aは、例えば、学習済みの再帰型ニューラルネットワークである。
良否判定RNN53aは、例えば、溶接結果が良好である確率を示したデータを出力する第1ニューロンと、溶接結果が不良である確率を示したデータを出力する第2ニューロンと、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良である確率を示したデータを出力する第3ニューロンと、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良である確率を示したデータを出力する第4ニューロンとを出力層に備える。この場合、上記良否を示すデータは、第1~第4ニューロンから出力されたデータである。なお、一般的に、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良が発生しているときの溶接モニタデータと、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良が発生していることの溶接モニタデータとは異なる特徴を有するため、第1良否判定部52aは、溶接不良がサイクルタイムが短いことに起因するものであるか、サイクルタイムが長いことに起因するものであるかを判別することができる。
また、良否判定RNN53aは、溶接結果の良否を2値で出力するニューロンを出力層に備えても良い。この場合、上記良否を示すデータは、当該ニューロンから出力された2値のデータである。
更に、良否判定RNN53aは、溶接結果の良否の程度を示すアナログ値を出力するニューロンを出力層に備えても良い。
良否判定RNN53aは、溶接モニタデータ(入力データ)と、当該溶接データに対応する溶接結果の良否を示すデータ(教師データ)を学習データとして、学習前の再帰型深層ニューラルネットワークに与えることによって学習させれば良い。良否を示すデータには、溶接結果が良好であることを示すデータ、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良であることを示すデータ、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良であることを示すデータ、その他の原因に起因する溶接不良であることを示すデータが含まれる。サイクルタイムが短すぎると、溶接開始部位又は溶接終了部位の溶融金属が不足して、溶接不良となる傾向がある。また、サイクルタイムが長すぎると、溶接開始部位又は溶接終了部位の溶融金属が過剰となり、溶接不良となる傾向がある。
なお、良否判定RNN53aの中間層の層数、各層のニューロン数等、その構造は特に限定されるものでは無い。また、良否判定RNN53aは必ずしも再帰型ニューラルネットワークである必要は無く、その他の種類のニューラルネットワークで構成しても良い。
【0064】
第2良否判定部52bは、画像データが入力された場合、当該画像データが得られるときの溶接工程に係る溶接結果の良否を示すデータを出力する良否判定CNN53b(Convolutional Neural Network)を備える。良否判定CNN53bは、学習済みの畳み込みニューラルネットワークである。
良否判定CNN53bは、例えば、溶接結果が良好である確率を示したデータを出力する第5ニューロンと、溶接結果が不良である確率を示したデータを出力する第6ニューロンと、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良である確率を示したデータを出力する第7ニューロンと、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良である確率を示したデータを出力する第8ニューロンとを出力層に備える。この場合、上記良否を示すデータは、第5~第8ニューロンから出力されたデータである。なお、一般的に、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良が発生しているときの溶接後のビードの外観を表した画像データと、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良が発生しているときの溶接後のビードの外観を表した画像データとは異なる特徴を有するため、第2良否判定部52bは、溶接不良がサイクルタイムが短いことに起因するものであるか、サイクルタイムが長いことに起因するものであるかを判別することができる。
また、良否判定CNN53bは、溶接結果の良否を2値で出力するニューロンを出力層に備えても良い。この場合、上記良否を示すデータは、当該ニューロンから出力された2値のデータである。
更に、良否判定CNN53bは、溶接結果の良否の程度を示すアナログ値を出力するニューロンを出力層に備えても良い。
良否判定CNN53bは、画像データ(入力データ)と、当該溶接データに対応する溶接結果の良否を示すデータ(教師データ)を学習データとして、学習前の畳み込みニューラルネットワークに与えることによって学習させれば良い。良否を示すデータには、溶接結果が良好であることを示すデータ、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良であることを示すデータ、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良であることを示すデータ、その他の原因に起因する溶接不良であることを示すデータが含まれる。
なお、良否判定CNN53bの中間層の層数、各層のニューロン数等、その構造は特に限定されるものでは無い。また、良否判定CNN53bは必ずしも畳み込みニューラルネットワークである必要は無く、その他の種類のニューラルネットワークで構成しても良い。
【0065】
良否総合判定部54は、第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bから出力されたデータに基づいて、溶接結果の良否を判定し、判定結果を調整部55へ出力する。
例えば、良否総合判定部54は、良否判定RNN53aの第1~第4ニューロンから出力されたデータと、良否判定CNN53bの第5~第8ニューロンから出力されたデータとを総合して判定する。具体的には、第1ニューロン及び第5ニューロンから出力されたデータの値の和と、第2及び第6ニューロンから出力されたデータの値の和と、第3及び第7ニューロンから出力されたデータの値の和と、第4及び第8ニューロンから出力されたデータの値の和とを比較することによって、次溶接結果の良否を判定すると良い。また、各ニューロンから出力されるデータの値を重み付け加算して比較しても良い。
また、良否判定RNN53a及び良否判定CNN53bから2値データが出力される構成の場合、良否総合判定部54は、第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bの双方が、良好であることを示すデータを出力している場合、次溶接工程の溶接結果を良と判定し、第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bの一方が不良であることを示すデータを出力している場合、次溶接工程の溶接結果を不良と判定する。なお、総合判定の方法は一例であり、第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bの一方が、良好であることを示すデータを出力している場合、次溶接工程の溶接結果を良と判定するように構成しても良い。
【0066】
調整部55は、良否総合判定部54の判定結果が良である場合、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良である場合、溶接工程のサイクルタイムが短縮され、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良である場合、又はその他の原因に起因する溶接不良である場合、溶接工程のサイクルタイムが延長されるようにアーク溶接条件を調整し、調整結果を溶接制御部56へ出力する。調整結果は、例えば、アーク溶接条件の各種パラメータ、即ち溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、トーチ移動速度を示すデータであり、調整部55は、一の溶接区間におけるアーク溶接条件の各種パラメータの少なくとも一つを増減させることを示すデータを溶接制御部56へ出力する。
調整部55は、1回の調整処理で、複数のパラメータの値を変更しても良いし、一つのパラメータの値を変更しても良い。また、サイクルタイムが最短になるまで後述のステップS11~ステップS21を繰り返し実行してアーク溶接条件の調整を行う場合、繰り返し行われる各調整処理で、異なるパラメータを調整するように構成しても良い。
なお、各パラメータの増減量に相関を持たせて、変数を減少させるように構成しても良い。また、変更量を標準的なパラメータ値から所定割合の範囲内に制限するように構成しても良い。
また、調整部55は、溶接工程のサイクルタイムを短縮させる決定を行った結果、溶接結果が良好な状態から不良状態に変化した場合、サイクルタイム短縮前のアーク溶接条件を最短溶接条件記憶部57に記憶させる。
更に、判その他の原因に起因する溶接不良である場合、溶接工程のサイクルタイムが延長されるようにアーク溶接条件を調整する例を、上で説明したが、サイクルタイムを維持しつつ判定結果が良好になるように、パラメータを調整するように構成しても良い。
【0067】
溶接制御部56は、調整部55の調整結果に基づいて、アーク溶接条件を変更するための制御データを溶接電源2へ出力することによって、溶接制御を行う。但し、最短溶接条件記憶部57が、溶接工程のサイクルタイムが最短となるアーク溶接条件を記憶している場合、溶接制御部56は、最短溶接条件記憶部57が記憶するアーク溶接条件に基づいて、溶接制御を行う。
【0068】
次にアーク溶接条件の調整に係る制御部50の処理手順を説明する。
図4及び
図5は実施形態1に係る溶接条件調整方法を示すフローチャートである。制御部50は、例えば以下の処理を連続生産における各溶接工程毎に繰り返し実行する。制御部50は、記憶部50cがサイクルタイム最短のアーク溶接条件を記憶しているか否かを判定する(ステップS11)。サイクルタイム最短のアーク溶接条件を記憶していると判定した場合(ステップS11:YES)、制御部50は記憶部50cが記憶する最短のアーク溶接条件に基づいて、溶接を制御する(ステップS12)。例えば、制御部50は、最短のアーク溶接条件を示す制御データを溶接電源2へ出力することによって、溶接制御を行う。もちろん、制御部50は、サイクルタイムが最短となるアーク溶接条件とするための変更量を示す制御データを溶接電源2へ出力することによって、溶接制御を行っても良い。
【0069】
記憶部50cが、サイクルタイム最短のアーク溶接条件を記憶していないと判定した場合(ステップS11:NO)、制御部50は、溶接モニタデータを取得し(ステップS13)、画像データを取得する(ステップS14)。そして、制御部50は、取得した溶接モニタデータ及び画像データに基づいて、溶接結果の良否を判定する(ステップS15)。例えば、制御部50は、学習済みの良否判定RNN53a及び良否判定CNN53bを用いて、溶接結果の良否を判定する。
【0070】
次いで、溶接結果が良好であると判定した場合(ステップS15:YES)、制御部50は、溶接工程のサイクルタイムを短縮させる(ステップS16)。溶接結果が不良であると判定した場合(ステップS15:NO)、前回、溶接工程を短縮させた結果、溶接結果が良好な状態から不良状態に変化したか否かを判定する(ステップS17)。当該不良状態への変化は、言うまでも無く、一つの溶接結果のみで判定する構成に限定されるものでは無く、2つ以上の溶接結果を用いて判断する構成も含まれる。例えば、10回中、一定の割合以上、溶接結果が不良状態である場合、不良状態へ変化したと判定しても良い。溶接結果が良好な状態から不良状態に変化していないと判定した場合(ステップS17:NO)、制御部50は、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良であるか否かを判定する(ステップS18)。否と判定した場合(ステップS18:NO)、制御部50は、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良であるか否かを判定する(ステップS19)。制御部50は、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良であると判定した場合(ステップS18:YES)、又はステップS19において否と判定した場合、制御部50は、溶接工程のサイクルタイムを延長させる(ステップS20)。制御部50は、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良であると判定した場合(ステップS19:YES)、制御部50は、溶接工程のサイクルタイムを短縮させる(ステップS16)。ステップS16、又はステップS20の処理を終えた制御部50は、調整後のアーク溶接条件に基づいて、溶接制御を行う(ステップS21)。具体的には、制御部50は、調整処理後のアーク溶接条件を示す制御データを溶接電源2へ出力することによって、溶接制御を行う。もちろん、制御部50は、アーク溶接条件の変更量を示す制御データを溶接電源2へ出力することによって、溶接制御を行っても良い。
【0071】
溶接工程のサイクルタイムを短縮させた結果、溶接結果が良好な状態から不良状態に変化したと判定した場合(ステップS17:YES)、制御部50は、溶接工程のサイクルタイムを短縮前のアーク溶接条件に戻し(ステップS22)、サイクルタイム短縮前のアーク溶接条件をサイクルタイム最短のアーク溶接条件として、記憶部50cに記憶させ(ステップS23)、処理をステップS12に戻す。
【0072】
このように構成された溶接条件調整装置5、溶接システム、溶接条件調整方法及びコンピュータプログラム50dによれば、溶接結果を悪化させること無く、アークスタート工程と、アークエンド工程との間の少なくとも一の溶接区間の溶接制御を最適化し、溶接工程のサイクルタイムを効果的に短縮させることができる。
【0073】
また、最短化されたアーク溶接条件を記憶部50cに記憶させる構成であるため、以後、溶接条件調整装置5は、速やかに溶接工程のサイクルタイムを最短化させて溶接を制御することができる。
【0074】
なお、本実施形態1では溶接条件調整装置5が学習済みの良否判定RNN53a及び良否判定CNN53bを備える例を説明したが、第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bのニューラルネットワークを規定する各種パラメータを、外部サーバからダウンロードし、更新するように構成しても良い。パラメータは、例えば、中間層の階層数、各層のニューロンの数、各ニューロンの重み係数、活性化関数の種類等を含む情報である。また、溶接条件調整装置5は、ダウンロードした各種パラメータを、第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bに反映させることを許可するか否かを示すフラグを記憶し、フラグが許可を示した場合にダウンロードされたパラメータを用いて良否判定RNN53a及び良否判定CNN53bのニューラルネットワークを更新するように構成しても良い。
また、工場内に、溶接条件調整装置5を備える溶接システムが複数設置されている場合、必要に応じて各溶接システムの溶接条件調整装置5が上記パラメータを交換しても良い。
更に、溶接条件調整装置5をクラウドサーバとして構成しても良い。溶接電源2又は制御装置3は、当該サーバにアーク溶接条件の調整を要求し、要求に応じてサーバから送信されたアーク溶接条件の調整量を受信し、アーク溶接条件を調整しても良い。
更に、溶接条件調整装置5は溶接電源2に備えても良い。また、溶接条件調整装置5は、アーク溶接条件調整用の専用装置として実施しても良い。作業者は、溶接システムに当該専用装置を接続し、アーク溶接条件を自動で調整することができる。
【0075】
更にまた、第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bが良否判定RNN53a及び良否判定CNN53bを備える例を説明したが、各判定部の双方又は一方はニューラルネットワークを用いずに溶接結果の良否を判定するように構成しても良い。例えば、第1良否判定部52aは、溶接電流値と、所定の閾値とを比較する単純な判定処理で、良否を判定しても良い。また、第2良否判定部52bは、画像データから所定の特徴量を抽出し、特徴量の有無、特徴量の数等と、閾値とを比較する単純な判定処理で、良否を判定しても良い。更に、第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bの双方を備える必要は無く、いずれか一方を備えても良い。この場合、良否総合判定部54は不要である。更にまた、第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bをニューラルネットワークで構成する例を説明したが、サポートベクタマシン等の他の機械学習器を用いて構成しても良い。
【0076】
(実施形態2)
実施形態2に係る溶接条件調整装置205、溶接システム、溶接条件調整方法及びコンピュータプログラム50dは、実施形態1の調整部55及び最短溶接条件記憶部57が深層ニューラルネットワークにて構成されている点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0077】
図6は実施形態2に係る溶接条件調整装置205を示す機能ブロック図である。実施形態2に係る溶接条件調整装置205は、実施形態1と同様、溶接モニタデータ取得部51a、画像データ取得部51b、第1良否判定部52a、第2良否判定部52b、良否総合判定部254、調整部255、学習処理部259及び溶接制御部56を備える。
【0078】
溶接モニタデータ取得部51aは、溶接電源2から出力される溶接モニタデータを取得し、取得した溶接モニタデータを第1良否判定部52a及び調整部255へ出力する。
【0079】
画像データ取得部51bは、撮像装置4から出力された画像データを取得し、取得した画像データを第2良否判定部52b及び調整部255へ出力する。
【0080】
実施形態2の良否総合判定部254は、溶接結果が良好である確率を示すデータと、溶接結果が不良である確率を示すデータと、サイクルタイムが短いことに起因する溶接不良である確率を示したデータと、サイクルタイムが長いことに起因する溶接不良である確率を示したデータとを学習処理部259へ出力する。例えば、良否判定RNN53aの第1ニューロンから出力されたデータの値と、良否判定CNN53bの第5ニューロンから出力されたデータの値とを用いて、溶接結果が良好である確率を演算すれば良い。同様に、良否判定RNN53aの第2ニューロンから出力されたデータの値と、良否判定CNN53bの第6ニューロンから出力されたデータとを用いて、溶接結果が不良である確率を演算すれば良い。また、良否判定RNN53aの第3及び第4ニューロンから出力されたデータの値と、良否判定CNN53bの第7及び第8ニューロンから出力されたデータとを用いて、溶接不良の原因がサイクルタイムの長短にある確率を演算すれば良い。
【0081】
調整部255は、溶接モニタデータ及び画像データが入力された場合、サイクルタイムを短縮可能な、少なくとも一の溶接区間のアーク溶接条件の変更量を示すデータを出力する調整NN(Neural Network)258を備える。調整NN258は学習済み深層ニューラルネットワークである。
調整NN258は、例えば、溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、トーチ移動速度等、各調整パラメータに対する複数の調整量毎に、当該調整量が好ましい確率を示したデータを出力する複数のニューロンを出力層に備える。
また、調整NN258は、調整量を示すデータを出力するニューロンを出力層に備える構成でも良い。更に、調整NN258は、調整量を2値データで出力するニューロンを出力層に備える構成であっても良い。以下、本実施形態2では、調整NN258が2値データでは無く、各パラメータの変更量を、当該変更量が適当であることを示す確率のデータを出力するのものとする。
なお、調整部255は、1回の調整処理で、複数のパラメータの値を変更しても良いし、一つのパラメータの値を変更しても良い。また、繰り返し行われる各調整処理で、異なるパラメータを調整するように構成しても良い。
【0082】
図7は調整部255のネットワーク構成を示す概念図である。調整部255の調整NN258は、溶接状態認識ネットワーク部258aと、外観状態認識ネットワーク部258bと、調整ネットワーク部258cとを有する。
溶接状態認識ネットワーク部258aは、溶接モニタデータが入力され、溶接工程中の溶接状態を認識し、当該状態に応じたデータを出力するニューラルネットワークである。溶接モニタデータが溶接電流である場合、溶接状態認識ネットワーク部258aは、溶接電流の変化状態を認識することができる。溶接状態認識ネットワーク部258aは、例えば、出力層を除き第1良否判定部52aと同様のニューラルネットワーク構造にすると良い。出力層は、複数のニューロン、好ましくは3つ以上のニューロンを備える。また、学習前の重み係数の初期値として、第1良否判定部52aを構成する各ニューロンの重み係数を設定すると良い。より効率的に調整部255を学習させることができる。
外観状態認識ネットワーク部258bは、画像データが入力され、溶接後の溶接部位の状態を認識し、当該状態に応じたデータを出力するニューラルネットワークである。外観状態認識ネットワーク部258bは、例えば、出力層を除き、第2良否判定部52bと同様のニューラルネットワーク構造にすると良い。出力層は、複数のニューロン、好ましくは3つ以上のニューロンを備える。また、学習前の重み係数の初期値として、第2良否判定部52bを構成する各ニューロンの重み係数を設定すると良い。より効率的に調整NN258を学習させることができる。
調整ネットワーク部258cは、溶接状態認識ネットワーク部258a及び外観状態認識ネットワーク部258bからそれぞれ出力されたデータが入力され、短縮可能なアーク溶接条件の変更量を示すデータを出力する、学習済みのニューラルネットワークである。当該ニューラルネットワークは、中間層を複数備える深層ニューラルネットワークで構成することが好ましい。
なお、調整部255のニューラルネットワーク構成は一例であり、一のニューラルネットワークで構成しても良いし、複数のニューラルネットワークを組み合わせても良い。
【0083】
学習処理部259は、調整部255に入力された溶接モニタデータ及び画像データを入力データ、当該データに基づいてアーク溶接条件を変更したときの溶接結果の良否を示すデータを学習データとして、調整NN258を学習させる処理部である。
具体的には、学習処理部259は、良否総合判定部254の判定結果より、溶接結果が良好である場合、又はサイクルタイムが長いことに起因する溶接不良である場合、サイクルタイムが短縮され、サイクルタイムが短いこと又はその他の原因に起因する溶接不良である場合、サイクルタイムが延長され、溶接結果が良好及び不良の中間的状態である場合、サイクルタイムが維持されるように、調整NN258を学習させる。
溶接結果が良好とは、例えば、溶接結果が良好である確率が50%以上、溶接結果が不良である確率が50%未満であるような状態である。溶接結果が不良とは、例えば、溶接結果が良好である確率が50%未満、溶接結果が不良である確率が50%以上であるような状態である。閾値の50%は一例であり、50%より大きな値であっても良い。
溶接結果が中間的状態とは、例えば、溶接結果が良好である確率及び溶接結果が不良である確率の双方が50%以上である場合、あるいは双方が50%未満であるような場合である。また、上記閾値が50%より大きい場合、例えば60%である場合、溶接結果が良好及び不良である確率が40%~60%の間にあるような状況も中間的状態である。なお、かかる中間的状態は一例である。中間的状態は、これ以上、サイクルタイムを短縮させた場合、溶接結果が悪化する可能性がある状態である。
以上の通り、調整NN258を学習させることによって、溶接結果を悪化させること無く、溶接に要する時間を自動で調整し、溶接工程のサイクルタイムを最短化させることができる。
なお、調整NN258の学習初期段階においては、中間的状態である場合、サイクルタイムを維持せず、アーク溶接条件を適宜変更させても良い。
【0084】
なお、調整NN258の学習は、溶接システムを設置したとき、外部環境が変化したとき、溶接条件を変更したとき、その他段取り替えが行われたとき等、適宜のタイミングで実行させると良い。
また、本実施形態2では、調整NN258を学習させる例を説明したが、学習済みの調整NN258を備え、更なる学習を行わないように構成しても良い。
【0085】
このように構成された実施形態2に係る溶接条件調整装置205、溶接システム、溶接条件調整方法及びコンピュータプログラム50dによれば、深層ニューラルネットワークにて構成される調整部255が、アーク溶接条件の変更量を決定する構成であるため、溶接結果を悪化させること無く、より適切に溶接制御を行い、最短化することが可能である。
【0086】
また、調整部255は、溶接工程のサイクルタイムを短縮させるアーク溶接条件の変更量を出力することができる。調整部255は、例えば、溶接結果が非常に安定している場合、大きな変更量を出力し、溶接結果が良好であるものの不安定であるような場合、小さな変更量を出力することができる。従って、より速やかに溶接工程のサイクルタイムを最短化させることができる。
【0087】
更に、調整部255は、溶接結果の良否判定結果を用いて学習することができ、溶接システムが設置された環境に適した調整部255に調整することができる。従って、溶接条件、外部環境に応じて溶接工程のサイクルタイムを最短化させることができる。
【0088】
更にまた、学習処理部259は、溶接工程のサイクルタイムが短縮される方向に調整部255を学習させ、溶接工程のサイクルタイムを最短化させることが可能なデータを出力できるようになった後は、良好な溶接結果が安定して得られるように調整ニューラルネットワークを学習させることができる。従って、溶接結果を良好な状態で安定化させ、かつ溶接工程のサイクルタイムを最短化させることができる。
【0089】
なお、本実施形態2では溶接条件調整装置205が学習済みの調整NN258を備える例を説明したが、調整部255のニューラルネットワークを規定する各種パラメータを、外部サーバからダウンロードし、更新するように構成しても良い。パラメータは、例えば、中間層の階層数、各層のニューロンの数、各ニューロンの重み係数、活性化関数の種類等を含む情報である。また、溶接条件調整装置205は、ダウンロードした各種パラメータを、調整部255に反映させることを許可するか否かを示すフラグを記憶し、フラグが許可を示した場合にダウンロードされたパラメータを用いて調整NN258のニューラルネットワークを更新するように構成しても良い。
また、工場内に、溶接条件調整装置205を備える溶接システムが複数設置されている場合、必要に応じて各溶接システムの溶接条件調整装置205が上記パラメータを交換しても良い。
【0090】
また、溶接条件調整装置205は、学習した調整NN258を規定する各種パラメータを外部のサーバへアップロードするように構成しても良い。他の溶接条件調整装置205は、サーバへアップロードされた当該パラメータを用いて、調整NN258を更新することができる。
【0091】
なお、実施形態2では、調整NN258、並びに第1良否判定部52a及び第2良否判定部52bがニューラルネットワークを備える例を説明したが、良否判定RNN53a及び良否判定CNN53bの双方又は一方はニューラルネットワークを用いずに溶接結果の良否を判定するように構成しても良い。
【0092】
(実施形態3)
図8は実施形態3に係る溶接条件調整装置305を示す機能ブロック図である。実施形態3に係る溶接条件調整装置305、溶接システム、溶接条件調整方法及びコンピュータプログラム50dは、実施形態1の調整部355及び最短溶接条件記憶部57が、深層強化学習にてアーク溶接条件を学習するように構成されている点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0093】
実施形態3に係る溶接条件調整装置305は、溶接モニタデータ取得部51a、画像データ取得部51b、状態データ取得部51d、第1良否判定部52a、第2良否判定部52b、良否総合判定部54、調整部355及び溶接制御部56を備える。
【0094】
状態データ取得部51dは、溶接システムの状態sを示す状態データを取得する。状態データは、例えば、溶接後に溶接部位を撮像して得た画像データを含む。溶接部位は、撮像装置4にて撮像しても良いし、他の動画撮像装置を用いて撮像しても良い。
なお、本実施形態3では、状態データの例として主に画像データを説明するが、溶接ワイヤWに流れる電流を示す電流データ、電圧を示す電圧データであっても良い。
【0095】
調整部355は、深層強化学習によって、溶接工程のサイクルタイムを最短化する、少なくとも一の溶接区間のアーク溶接条件を学習させるものであり、評価部355a、行動選択部355b、報酬算出部355c及び強化学習部355dを備える。
【0096】
評価部355aは、状態データ取得部51dにて取得した状態データと、アーク溶接条件に係る行動aを示す行動データに基づいて、状態データが示す状態における当該行動aに対する評価値Qを算出する演算機能部である。状態とは、例えばビード外観を表した画像である。アーク溶接条件に係る行動aは、溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、トーチ移動速度等で定められる。評価値Qは、ビード外観に応じてある特定の行動aを取ったときに、溶接工程のサイクルタイムを好適に短縮させることができる程、また溶接結果が良好である程、高い値となる。
【0097】
評価部355aは、例えば、状態データ取得部51dにて取得した溶接システムの状態sを示す状態データと、アーク溶接条件に係る行動aを示す行動データとが入力された場合、当該状態sにおける当該行動aに対する評価値Q(s,a)を出力する評価NN(Neural Network)355eを備える。
なお、評価NN355eは、溶接システムの状態を画像で表す状態データを認識するための畳み込みニューラルネットワークを前段に備えると良い。
また、評価部355aは、ニューラルネットワークに代えて、状態データ及び行動データと、評価値とを関係付けるテーブルを備え、当該テーブルを用いて評価値を出力するように構成しても良い。
【0098】
行動選択部355bは、ある状態sにおいて評価部355aにて算出された評価値Qが最大の行動aを選択する。調整部355は、行動選択部355bによって選択された行動aに基づいてアーク溶接条件の調整を行い、溶接制御部56は、当該調整されたアーク溶接条件にて溶接制御を行う。
【0099】
報酬算出部355cは、良否総合判定部54から出力された判定結果と、溶接トーチ11が溶接箇所に到達してからアークが発生するまでの時間とに基づいて、アーク溶接条件に対する報酬を算出する。報酬は、溶接結果が良好である程、アークが発生するまでの当該時間が短い程、高い値となるように算出する。報酬を算出する演算式は特に限定されるものでは無い。
【0100】
強化学習部355dは、評価NN355eに入力される状態データ及び行動データと、各データが入力されたときに出力される評価値Qと、報酬算出部355cにて算出される報酬とに基づいて、評価NN355eを学習させる。具体的には、下記式(1)で表される評価値Qにて、ニューラルネットの重み係数を学習させると良い。
Q(s,a)←Q(s,a)+α(r+γmaxQ(s_next,a_next)-Q(s,a))…(1)
但し、
s:状態
a:状態sで選択した行動
α:学習係数
r:行動の結果得られた報酬
γ:割引率
maxQ(s_next,a_next):次状態で取り得る行動に対する評価値Qの最大値
【0101】
学習係数αは1以下の正の値であり、例えば0.1程度の値である。割引率γは1以下の正の値であり、例えば0.9程度の値である。
【0102】
上記式(1)を用いた機械学習により、より高い報酬が得られるような行動aに対して、より高い評価値Qが与えられるように、評価NN355eを学習させることができる。なお、強化学習を行う際、一定の確率でランダムに行動させ、様々な行動に対するQ値を学習させるε-グリーディ法等を用いると良い。
このように構成された溶接条件調整装置305によれば、行動選択部355bは、溶接システムの状態sに応じた、より適切な行動a、即ち溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、トーチ移動速度を選択することができ、溶接工程のサイクルタイムを最短化させることができる。
【0103】
なお、溶接条件調整装置305の強化学習は、複数の溶接装置ないし溶接システムから得られる状態データ、行動データ、評価値等のデータ、シミュレーション装置から得られるデータ等を用いて、行うと良い。
【0104】
実施形態3係る溶接条件調整装置305、溶接システム、溶接条件調整方法及びコンピュータプログラム50dによれば、溶接工程のサイクルタイムが短縮されるアーク溶接条件を深層強化学習することができる。
【0105】
なお、上記実施形態3では、深層強化学習を説明したが、ニューラルネットワークに代えて、行動及び状態に対応する評価値Qを配列を備え、アーク溶接条件を調整するように構成しても良い。
【0106】
(実施形態4)
図9は実施形態4に係るアーク溶接システムを示す模式図である。実施形態4に係る溶接システムは、アーク溶接条件の調整方法を受け付ける調整方法受付部406を備える点が実施形態1~3と異なる。以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0107】
図10は調整画面407を示す模式図である。調整方法受付部406は、例えば、端末に調整画面407を表示し、アーク溶接条件の調整方法を受け付ける。調整画面407は、例えば、アーク溶接条件を自動で調整するか、手動で調整するかの選択を受け付ける調整方法選択部471を有する。調整方法選択部471は、例えばラジオボタンである。使用者は、ラジオボタンをチェックすることによって、アーク溶接条件の自動調整を行うか、手動で調整するのかを選択することができる。
【0108】
また、調整画面407は、アーク溶接条件の自動調整が選択された場合、サイクルタイムの最短化を優先した調整を行うべきか、溶接品質を重視した調整を行うべきかを示した優先度表示部472と、優先度を指定するための優先度調整スライダ473とを有する。使用者は、優先度調整スライダ473をスライドさせることによって、溶接品質をどの程度重視してアーク溶接条件を調整すべきか、あるいはサイクルタイムの最短化をどの程度重視してアーク溶接条件を調整すべきかを指定することができる。
優先度調整スライダ473にて溶接品質に係る優先度を受け付ける調整方法受付部406は、調整部55によってアーク溶接条件の調整を行う調整強度を受け付ける受付部に対応する。
【0109】
制御装置3は、例えば、溶接品質の重要度が高い程、アーク溶接条件の調整量を小さくしてアーク溶接条件の制御を行い、サイクルタイムの最短化の重要度が高い程、アーク溶接条件の調整量を大きくして溶接制御を実行する。
【0110】
実施形態4に係る溶接システムによれば、溶接品質又はサイクルタイムの最短化の重要度又は優先度を受け付け、使用者が所望する方法で、アーク溶接条件を調整することができる。
【0111】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0112】
1 溶接ロボット
2 溶接電源
3 制御装置
4 撮像装置
5,205,305 溶接条件調整装置
11 溶接トーチ
12 ワイヤ送給装置
21 電源部
22 ワイヤ送給制御部
23 シールドガス供給部
24 検出部
50 制御部
50a 入力部
50b 出力部
50c 記憶部
50d コンピュータプログラム
51a 溶接モニタデータ取得部
51b 画像データ取得部
51c 溶接条件データ取得部
51d 状態データ取得部
52a 第1良否判定部
52b 第2良否判定部
53a 良否判定RNN
53b 良否判定CNN
54,254,354 良否総合判定部
55,255,355 調整部
56 溶接制御部
57 最短溶接条件記憶部
258 調整NN
258a 溶接状態認識ネットワーク部
258b 外観状態認識ネットワーク部
258c 調整ネットワーク部
259,359 学習処理部
355a 評価部
355b 行動選択部
355c 報酬算出部
355d 強化学習部
355e 評価NN
406 調整方法受付部
407 調整画面
471 調整方法選択部
472 優先度表示部
473 優先度調整スライダ
A 母材
W 溶接ワイヤ