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特許7360988加圧ガス供給装置とこれを用いた衛星用推進装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】加圧ガス供給装置とこれを用いた衛星用推進装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/40 20060101AFI20231005BHJP
   F02K 9/50 20060101ALI20231005BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20231005BHJP
   C06D 5/00 20060101ALI20231005BHJP
   C06B 31/28 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B01J23/40 M
F02K9/50
B64G1/40
C06D5/00 A
C06B31/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020070755
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021166957
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 真二
(72)【発明者】
【氏名】松浦 芳樹
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132142(JP,A)
【文献】米国特許第03143446(US,A)
【文献】特開平06-294350(JP,A)
【文献】特表2014-519408(JP,A)
【文献】実開昭56-064732(JP,U)
【文献】特開昭49-047512(JP,A)
【文献】特開平01-005990(JP,A)
【文献】特開2010-229853(JP,A)
【文献】特開2004-340148(JP,A)
【文献】特開2010-229851(JP,A)
【文献】特開2001-020808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/00
B01J 23/40
B64G 1/40
C06D 5/00
C06B 31/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧ガスを発生させる複数のガス発生器と、
前記加圧ガスの圧力が所定の圧力範囲を維持するように前記ガス発生器を制御する制御装置と、を備え、
前記ガス発生器は、
ガス吐出口を有する中空タンクと、
熱分解して前記加圧ガスを発生するガス発生液を内部に保有し、加熱により溶融するマイクロカプセルと、
前記中空タンクの内部に充填され、前記マイクロカプセルが分散配合され、前記熱分解を促進する触媒機能を有する粉末触媒と、
前記中空タンクに取り付けられ、前記マイクロカプセルを加熱可能なイグナイタと、を有し、
前記マイクロカプセルは、
メタノールと強酸性液に対する耐食性を有する熱可塑性樹脂製、又は、
多孔質シリカ球体に前記ガス発生液を包含するシリカ系マイクロカプセルである、加圧ガス供給装置。
【請求項2】
粉末触媒は、表面に白金族触媒がコーティングされた粉末状又は粒状の多孔質セラミックスである、請求項1に記載の加圧ガス供給装置。
【請求項3】
加圧ガスを発生させる複数のガス発生器と、
前記加圧ガスの圧力が所定の圧力範囲を維持するように前記ガス発生器を制御する制御装置と、を備え、
前記ガス発生器は、
ガス吐出口を有する中空タンクと、
熱分解して前記加圧ガスを発生するガス発生液を内部に保有し、加熱により溶融するマイクロカプセルと、
前記中空タンクの内部に充填され、前記マイクロカプセルが分散配合され、前記熱分解を促進する触媒機能を有する粉末触媒と、
前記中空タンクに取り付けられ、前記マイクロカプセルを加熱可能なイグナイタと、を有し、
前記ガス発生液は、
HAN、HN、メタノール、水からなる低毒推進薬、又は、
メタノールを含まない低毒推進薬である、加圧ガス供給装置。
【請求項4】
粉末触媒は、表面に白金族触媒がコーティングされた粉末状又は粒状の多孔質セラミックスである、請求項に記載の加圧ガス供給装置。
【請求項5】
加圧ガスを発生させる複数のガス発生器と、
前記加圧ガスの圧力が所定の圧力範囲を維持するように前記ガス発生器を制御する制御装置と、を備え、
前記ガス発生器は、
ガス吐出口を有する中空タンクと、
熱分解して前記加圧ガスを発生するガス発生液を内部に保有し、加熱により溶融するマイクロカプセルと、
前記中空タンクの内部に充填され、前記マイクロカプセルが分散配合され、前記熱分解を促進する触媒機能を有する粉末触媒と、
前記中空タンクに取り付けられ、前記マイクロカプセルを加熱可能なイグナイタと、を有し、
前記ガス発生器の内側又は外側に設けられ、発生した前記加圧ガスを前記粉末触媒及び前記マイクロカプセルから分離するガス分離装置を備える、加圧ガス供給装置。
【請求項6】
前記ガス分離装置は、前記加圧ガスを前記粉末触媒及び前記マイクロカプセルから分離するフィルターと、
前記加圧ガスに含まれる水蒸気を過冷却して凝縮する温度に前記フィルターを保持する放熱器と、を有する、請求項5に記載の加圧ガス供給装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の加圧ガス供給装置と、
衛星推進用のスラスタに供給する液体推進薬を内部に保有する液室と、該液室を加圧する前記加圧ガスを内部に保有するためのガス室と、前記液室と前記ガス室を分離する可撓性の隔壁と、を有する燃料タンクと、
前記液室に連通し前記液体推進薬を反応させて推進ガスを噴射するスラスタと、を備えた衛星用推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体推進薬を加圧する加圧ガスを発生し供給する加圧ガス供給装置とこれを用いた衛星用推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体推進薬を用いる宇宙飛行体(例えば、人工衛星)は、液体推進薬を内部に保有する推薬タンクを有し、液体推進薬を用いて飛行又は姿勢制御を行う。
この場合、液体推進薬には、一液式推進薬として例えば、ヒドラジン、HAN(硝酸ヒドラジンアンモニウム)、HAN/HN(硝酸ヒドラジンアンモニウム/硝酸アンモニウム)などが用いられる。
【0003】
宇宙飛行体が無重力空間を飛行する場合、推薬タンク内の一液式推進薬を使用するためには、適正な燃焼圧力を得られる推進薬供給圧力を確保する必要がある。
一液式推進薬を用いた燃焼手段は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0004】
また、本発明と関連するガス発生手段は、例えば、特許文献2に開示されている。
【0005】
特許文献1の「単元推進薬の燃焼のための装置および方法」では、推進薬がイオン性の塩と付加的な燃料とを含む。この装置は、イオン性の塩を分解する分解手段と、付加的な燃料とイオン性の塩の分解生成物とを燃焼させる燃焼手段とを備える。この方法では、推進薬が、反応器に導入され分解され、分解生成物が、燃焼器に導びかれ、燃焼器内で燃焼する。
【0006】
特許文献2の「ガス発生装置及び低温ガスの発生法」は、地上で無加圧の状態から軌道上でガス発生装置を作動させ、加圧するシステムであり、アジ化ナトリウムなどを使用してガスを発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-340148号公報
【文献】特表2003-510228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
小型衛星又は超小型衛星は大型ロケットで主要な衛星(「主衛星」)と相乗りで打ち上げられることが多い。かかる相乗りを「ピギーバック」と呼ぶ。
相乗り(ピギーバック)の場合、主衛星への悪影響の排除が厳しく求められる。そのため、小型衛星又は超小型衛星には、加圧供給系の搭載が認められないことが多く、液体推進薬(一液式推進薬)を用いた飛行又は姿勢制御ができず、これを必要とする衛星の打上げ機会の確保が困難であった。
【0009】
また、主衛星であっても、高圧タンクを搭載すると、高圧ガスの漏洩、破裂によりロケットの汚染や破損が生じる可能性があった。
【0010】
特許文献1の場合、燃料タンク内の単元推進薬(一液式推進薬)を加圧するために高圧の不活性ガスを必要とする。そのため、ガスタンクと燃料タンクが例えば耐圧が10MPa以上の高圧タンクとなり、主衛星へ悪影響の可能性があると共に重量が大きくなる。
【0011】
特許文献2のガス発生手段を適用する場合、使用後にガス発生装置内に金属ナトリウムなどが残存し、水分との接触により、発火の懸念があった。また、アジ化ナトリウムは毒性があるため、使用量に制限があった。
【0012】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、高圧タンクを用いることなく、液体推進薬を加圧する加圧ガスを安全に発生し供給することができ、かつ軽量化ができる加圧ガス供給装置とこれを用いた衛星用推進装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、加圧ガスを発生させる複数のガス発生器と、
前記加圧ガスの圧力が所定の圧力範囲を維持するように前記ガス発生器を制御する制御装置と、を備え、
前記ガス発生器は、
ガス吐出口を有する中空タンクと、
熱分解して前記加圧ガスを発生するガス発生液を内部に保有し、加熱により溶融するマイクロカプセルと、
前記中空タンクの内部に充填され、前記マイクロカプセルが分散配合され、前記熱分解を促進する触媒機能を有する粉末触媒と、
前記中空タンクに取り付けられ、前記マイクロカプセルを加熱可能なイグナイタと、を有する、加圧ガス供給装置が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、上記の加圧ガス供給装置と、
衛星推進用のスラスタに供給する液体推進薬を内部に保有する液室と、該液室を加圧する加圧ガスを内部に保有するためのガス室と、前記液室と前記ガス室を分離する可撓性の隔壁と、を有する燃料タンクと、
前記液室に連通し前記液体推進薬を反応させて推進ガスを噴射するスラスタと、を備えた衛星用推進装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明の構成によれば、イグナイタにより、一部のマイクロカプセルを加熱、溶融させることで、内部のガス発生液が流出してそのまわりの粉末触媒と接触し、ガス発生液が熱分解して加圧ガスを発生する。またこの熱分解で発生した熱で、残部のマイクロカプセルが加熱されて溶融し、ガス発生液と粉末触媒との接触、熱分解、及び加圧ガスの発生が継続し、中空タンクのガス吐出口からの加圧ガスの吐出が継続する。
【0016】
また、制御装置により、加圧ガスの発生圧力が所定の圧力範囲を維持するようにガス発生装置を制御するので、中空タンクを薄肉化でき、軽量化できる。
【0017】
従って、本発明によれば、高圧タンクを用いることなく、液体推進薬を加圧する加圧ガスを安全に発生し供給することができ、かつ軽量化ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による加圧ガス供給装置を用いた衛星用推進装置の全体構成図である。
図2】本発明による加圧ガス供給装置の実施形態図である。
図3】ガス発生器の構成図である。
図4】制御装置によるガス発生器の制御例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明による加圧ガス供給装置10を用いた衛星用推進装置100の全体構成図である。
この図において、衛星用推進装置100は、加圧ガス供給装置10、燃料タンク20、及びスラスタ30を備える。
【0021】
燃料タンク20は、気密容器22、液室24、ガス室26、及び、隔壁28を有する。
気密容器22は、加圧ガス3の最大圧力P1に耐える容器である。液室24、ガス室26、及び隔壁28は、気密容器22の内側に設けられている。
加圧ガス3の最大圧力P1は、後述する例では、2.1MPa又は1.15MPaである。なお、加圧ガス3の下限圧力P2は、例えば0.7MPaある。
【0022】
液室24は、衛星推進用のスラスタ30に供給する液体推進薬1を内部に保有する。液体推進薬1は、例えば、ヒドラジン、HAN(硝酸ヒドラジンアンモニウム)、HAN/HN(硝酸ヒドラジンアンモニウム/硝酸アンモニウム)などの一液式推進薬であるのがよい。
【0023】
ガス室26は、液室24を加圧する加圧ガス3を内部に保有するための空間(チャンバー)である。ガス室26の初期圧力(地上における圧力)は、好ましくは常圧(約0.1MPa)である。
【0024】
隔壁28は、可撓性を有する膜、壁、又はディスクであり、液室24とガス室26を分離する。
【0025】
スラスタ30は、内部に触媒を有し、燃料タンク20の液室24から供給される液体推進薬1を反応させて推進ガス2を外部に噴射する。スラスタ30は、この図では4つであるが、1乃至3でも5以上でもよい。
【0026】
この図において、32は推進薬供給元弁、34はフィルターである。
推進薬供給元弁32は、液室24とスラスタ30を連通する推進薬供給ライン31を全閉又は全開する。なお、推進薬供給元弁32は、液体推進薬1の流量を制御可能な流量調整弁であってもよい。
フィルター34は、液体推進薬1に含まれる異物を除去する。
【0027】
図2は、本発明による加圧ガス供給装置10の実施形態図である。
この図において、加圧ガス供給装置10は、複数のガス発生器12と制御装置18を備える。
ガス発生器12は、この図では3つであるが、2つでも、4つ以上でもよい。
【0028】
図3は、ガス発生器12の構成図である。
この図において、ガス発生器12は、中空タンク13、マイクロカプセル14、粉末触媒15、及び、イグナイタ16を有する。
【0029】
中空タンク13は、ガス吐出口13aを有する。中空タンク13は、後述するガス発生液Lに対する耐食性と、加圧ガス3の最大圧力P1に耐える耐圧性を有する。中空タンク13は、例えばステンレス、チタン、又はチタン合金製である。
加圧ガス3の最大圧力P1は、例えば、2.1MPa又は1.15MPaである。
【0030】
マイクロカプセル14はその内部にガス発生液Lを包含する。
ガス発生液Lは、HAN(NHOHNO)、HN(H・HNO)、メタノール(CHOH)、水からなる低毒推進薬であることが好ましい。
HAN、HN、メタノール、水からなる低毒推進薬は、常温で液体である。また、組成の配合率によって高温ガスを発生する特性から、低温ガスを発生する特性まで選択できる。高温ガスの温度は、例えば約800℃程度であり、低温ガスの温度は、例えば200~300℃である。
【0031】
低温ガスを発生する特性を選択することが特に好ましい。この場合、ガス発生液Lは、非爆発物とみなすことができ、取扱い及び輸送に関わるコストを低減できる。
【0032】
発明者らは、新規に低毒推進薬(HNP225)を開発した。
低毒推進薬(HNP225)の組成はHAN/HN/メタノール/水の配合物であり、UN Class 1除外(非爆発物)であることを確認している。また、0.2ニュートン,0.5ニュートン,4.0ニュートンのスラスタを用いた噴射試験を実施しており、安定した性能が得られることを確認済である。
【0033】
ガス発生液Lは、メタノールを含まない低毒推進薬であってもよい。
メタノールを含まないHAN/HN系の低毒推進薬は白金族触媒を用いて容易に熱分解が可能で、高温ガスを発生する。
【0034】
ガス発生液Lは、上記の低毒推進薬の他に、毒性のあるヒドラジン等も選択可能である。ヒドラジン等は、白金族触媒を用いて容易に熱分解が可能で、高温ガスを発生する。
【0035】
マイクロカプセル14は、熱分解して加圧ガス3を発生するガス発生液Lを内部に保有し、加熱により溶融する。
ガス発生液Lが、HAN、HN、メタノール、水からなる低毒推進薬である場合、加圧ガス3の成分は、NO,N,HOである。
【0036】
ガス発生液Lが、HAN、HN、メタノール、水からなる低毒推進薬である場合、低毒推進薬は強酸性である。マイクロカプセル14は、これらの成分により溶解しないカプセル素材である必要がある。この場合、カプセル素材としては、腸溶性カプセルなど酸性環境に強いカプセル素材、例えば、メタノールと強酸性液に対する耐食性を有する塩化ビニル系、アクリル系の熱可塑性樹脂製であるのがよい。
【0037】
ガス発生液Lが、メタノールを含まない低毒推進薬である場合、マイクロカプセル14は、多孔質シリカ球体にガス発生液Lを包含するシリカ系マイクロカプセルであってもよい。
シリカ系マイクロカプセルは多孔質シリカ球体に各種液体を包含するこができるがメタノールの揮発は抑制できない。メタノールを含まない組成は安全性(非爆発性)を有したまま、さらに発生ガスのガス温度が低く、ガス発生剤用途としてはより適している。この場合のガス温度は、例えば約200℃程度である。
【0038】
粉末触媒15は、中空タンク13の内部に充填され、マイクロカプセル14が分散配合され、ガス発生液Lの熱分解を促進する触媒機能を有する。
粉末触媒15は、例えば、表面に白金族触媒がコーティングされた粉末状又は粒状の多孔質セラミックス(例えば多孔質アルミナ)である。
粉末触媒15の平均粒径は、数十~数百μmの粉末状又は数mm程度の粒状でもよい。比表面積は10~100m/g程度で、コーティングする金属(白金族触媒)の量(担持量)は数%~30重量%程度でよい。
【0039】
イグナイタ16は、中空タンク13に取り付けられ、マイクロカプセル14を加熱可能な着火装置である。
マイクロカプセル14はイグナイタ16の発熱により溶融することで、内部のガス発生液Lを放出することが望まれる。一方で、通常の取り扱いにおいて容易に内部のガス発生液Lが漏出しないことが望まれる。そのため、常温・常圧の保管時は溶融せず、イグナイタ16の発熱および、周囲のガス発生液Lの分解・発熱による熱で溶融する厚みと強度を有する。
イグナイタ近傍が200~300℃となることでマイクロカプセル14から放出されたガス発生液Lは周囲の粉末触媒15により熱分解され、次々に周囲のマイクロカプセル14を溶解し、ガス発生液Lを放出・熱分解を繰り返し、ガス発生が継続する。
【0040】
マイクロカプセル14と粉末触媒15の配合割合を調整することで、ガス発生量、ガス発生速度を調整可能である。
【0041】
上述したガス発生器12の構成により、イグナイタ16により、一部のマイクロカプセル14を200~300℃に加熱することで、一部のマイクロカプセル14が溶融して内部のガス発生液Lが流出する。流出したガス発生液Lは、そのまわりの粉末触媒15と接触し、ガス発生液Lが熱分解して加圧ガス3を発生する。
またこの熱分解で発生した熱で、残部のマイクロカプセル14が連鎖的に加熱されて溶融し、ガス発生液Lと粉末触媒15との接触、熱分解、及び加圧ガス3の発生が継続し、中空タンク13のガス吐出口13aからの加圧ガス3の吐出が継続する。
【0042】
図3において、ガス発生器12は、さらにガス発生器12の内側に設けられたガス分離装置17を有する。
この例で、ガス分離装置17は、例えばアルミナ等の多孔質セラミックスからなる内部フィルターである。
内部フィルター17は、ガス吐出口13aと粉末触媒15との間に設置され、目の細かいメッシュ構造とすることで発生した加圧ガス3を粉末触媒15及びマイクロカプセル14から分離する機能を有する。
また、内部フィルター17は、加圧ガス3の成分(NO,N,HO)のうち水蒸気(HO)を過冷却して除去する機能を有していても良い。
【0043】
図2において、加圧ガス供給装置10は、さらに、ガス発生器12の外側に設けられたガス分離装置19を備える。
この例でガス分離装置19は、外部フィルター19aと放熱器19bと、を有する。
外部フィルター19aは、例えばアルミナ等の多孔質セラミックスからなり、加圧ガス3を粉末触媒15及びマイクロカプセル14から分離する。
放熱器19bは、加圧ガス3に含まれる水蒸気を過冷却して凝縮する温度に外部フィルター19aを保持する。
【0044】
上述したガス分離装置17、19の構成により、加圧ガス3を粉末触媒15及びマイクロカプセル14から分離するとともに、加圧ガス3に含まれる水蒸気を過冷却して除去することができる。
なお、ガス分離装置17、19の設置は必須ではなく、一方又は両方を省略してもよい。
【0045】
図2において、制御装置18は、加圧ガス3の圧力が所定の圧力範囲を維持するようにガス発生器12を制御する。
制御装置18は、コンピュータ(PC)と通電装置を内蔵する。通電装置は、ガス発生器12のイグナイタ16に印加電力を個別に供給する。この印加電力はイグナイタ近傍のマイクロカプセル14を溶融させるだけの低容量でよい。
制御装置18は、燃料タンク20に供給される加圧ガス3の圧力を圧力検出器21で検出し、この圧力(発生圧力)が所定の圧力範囲を維持するようにイグナイタ16の印加(着火)のタイミングを制御する。
【0046】
図4は、制御装置18によるガス発生器12の制御例を示す図である。この図は、上述したガス発生器12が5つであり、各ガス発生器12から順に加圧ガス3を発生させた場合を示している。
この図において、横軸は推薬消費率(最大1.0)、縦軸の左は、加圧ガス3の発生圧力(MPa)、縦軸の右は、ガス発生率(最大1.0)である。
加圧ガス3の発生圧力(MPa)は、この例ではガス室26の圧力である。
【0047】
図4(A)は、5つのガス発生器12のガス発生量が同一の場合である。この場合、最初のガス発生器12のガス発生により、加圧ガス3の最大圧力P1が2.1MPaになるように各ガス発生器12が設定されている。
加圧部の空隙容積(すなわち、ガス室26の容積)はマイクロカプセル14(ガス発生液L)の消費に伴って増加していくので、1回ごとの反応ガスの発生量が同じでも、各段階のピーク圧は順次下がっていく。
この例において、制御装置18は、加圧ガス3の発生圧力を圧力検出器21で検出し検出圧力が下限圧力P2まで下がったときに、次のガス発生器12からガスを発生させることで、所定の圧力範囲を維持する。
【0048】
図4(B)は、5つのガス発生器12のガス発生量が異なる場合である。この場合、毎回同じ圧力範囲となるように、最初のガス発生量を抑え、順次ガス発生量を増加させるように各ガス発生器12の容量が設定されている。
この例の場合も、制御装置18は、加圧ガス3の発生圧力が下限圧力P2まで下がったときに、次のガス発生器12からガスを発生させることで、所定の圧力範囲を維持する。
【0049】
上述した本発明の実施形態によれば、加圧ガス3の発生圧力が所定の圧力範囲(P1-P2)を維持するようにガス発生器12を制御する制御装置18を備えるので、加圧ガス3の最大圧力P1を従来のガスタンクや蓄圧器より低く設定することができる。
従来のタンクでは、例えば初期圧を3MPaでスタートし、最後まで燃料を放出すると例えば約0.8MPaで終了する。すると、タンクの設計は、安全係数を考えると例えば4MPaで問題ないタンクの開発が必要となる。一方で、本方式を選択すると、最高圧力を1.5MPaとして、推進薬をある程度消費した後に繰り返しガス発生させることで1.5~0.8MPaの間で運用することができ、タンク設計圧力を例えば2.5MPaに抑えることができる。
【0050】
また、上述した本発明の実施形態によれば、加圧ガス3の発生前、ガス発生器12には、粉末触媒15の充填時のガス圧(好ましくは常圧)のみが作用する。また同様に、加圧ガス3の発生前は、燃料タンク20には液体推進薬1の充填時のガス圧のみが作用する。
従って、ガス発生器12と燃料タンク20は、従来のガスタンクや蓄圧器より耐圧が低い低圧タンクとすることができ、地上作業中から軌道上分離までの間、高圧ガスが存在しない状態であるため、高圧ガスに起因する不適合による主衛星への悪影響を防止できる。
【0051】
主衛星への悪影響とは、作業スケジュールが主衛星と競合することや、高圧タンクの漏洩、破損による主衛星やロケットの汚染や破損などである。
【0052】
また、加圧ガス3の発生後であっても、加圧ガス3の最大圧力P1を所定の圧力範囲(P1-P2)で低く設定できるので、ガス発生器12及び燃料タンク20を高圧タンクよりも薄肉化でき、軽量化できる。
【0053】
従って、本発明によれば、高圧タンクを用いることなく、液体推進薬1を加圧する加圧ガス3を安全に発生させることができ、かつ軽量化ができる。
【0054】
なお本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
L ガス発生液、P1 最大圧力、P2 下限圧力、
1 液体推進薬、2 推進ガス、3 加圧ガス、
10 加圧ガス供給装置、12 ガス発生器、13 中空タンク、
13a ガス吐出口、14 マイクロカプセル、15 粉末触媒、
16 イグナイタ、17 ガス分離装置(内部フィルター)、18 制御装置、
19 ガス分離装置、19a 外部フィルター、19b 放熱器、
20 燃料タンク、22 気密容器、24 液室、26 ガス室、
28 隔壁、30 スラスタ、32 推進薬供給元弁、34 フィルター、
100 衛星用推進装置
図1
図2
図3
図4