(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】硬化性化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 207/452 20060101AFI20231005BHJP
C07D 209/48 20060101ALI20231005BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20231005BHJP
C09J 179/04 20060101ALI20231005BHJP
C09J 149/00 20060101ALI20231005BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231005BHJP
C09D 179/04 20060101ALI20231005BHJP
C09D 149/00 20060101ALI20231005BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20231005BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20231005BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C07D207/452
C07D209/48
C09J201/00
C09J179/04
C09J149/00
C09D201/00
C09D179/04
C09D149/00
C09K3/10 Z
B32B7/027
B32B27/34
(21)【出願番号】P 2020525556
(86)(22)【出願日】2019-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2019022929
(87)【国際公開番号】W WO2019244694
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2018117283
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大祐
(72)【発明者】
【氏名】吉田 司
(72)【発明者】
【氏名】田井 利弘
(72)【発明者】
【氏名】玉置 瞳美
(72)【発明者】
【氏名】角本 智
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-219741(JP,A)
【文献】特開昭59-093724(JP,A)
【文献】国際公開第2018/107453(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/107929(WO,A1)
【文献】Polymer,1992年,33,5094-5097
【文献】Polymer,1989年,30,978-985
【文献】Materials Research Society Symposium Proceedings,1991年,189,421-430
【文献】Materials Research Society Symposium Proceedings,1988年,124,181-188
【文献】International SAMPE Symposium and Exhibition,1989年,34,139-149
【文献】Polymer Preprints,1990年,31,444-445
【文献】Polymer Preprints,1988年,29,346-348
【文献】Polyimides: Mater. Chem. Charact.,1989年,213-227
【文献】Polymeric Materials Science and Engineering,1989年,60,438-442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C09J
C09D
C09K
B32B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
[式中、R
1
、R
2
は、同一又は異なって、下記式(r-1)~(r-6)
【化2】
で表される基から選択される基であり、D
1
、D
2
は、同一又は異なって、単結合及び下記式(d-1)~(d-4)
【化3】
で表される構造を含む基から選択される基を示す。Lは、下記式(L-1-2)
【化4】
(式中、m2は2~50の数を示す)
で表される2価の基を示す]
で表される化合物であり、
下記(a)~(e)の特性を備えることを特徴とする硬化性化合物。
(a)数平均分子量(標準ポリスチレン換算):1000~15000
(b)硬化性化合物全量に占める芳香環由来の構造の割合:50重量%以上
(c)25℃における溶剤溶解性:1g/100g以上
(d)ガラス転移温度:280℃以下
(e)当該硬化性化合物の硬化物の、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(T
d5)が300℃以上
【請求項2】
式(1)で表される化合物全量における、ベンゾフェノン由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である、請求項
1に記載の硬化性化合物。
【請求項3】
式(1)で表される化合物全量における
、レゾルシノー
ル由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である、請求項
1又は2に記載の硬化性化合物。
【請求項4】
請求項1~
3の何れか1項に記載の硬化性化合物の硬化物又は半硬化物を含む、粒子状又は平面状の構造物。
【請求項5】
請求項1~
3の何れか1項に記載の硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体。
【請求項6】
請求項1~
3の何れか1項に記載の硬化性化合物を基板上に載置し、加熱処理を施すことで、前記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項7】
プラスチック製の支持体上に、前記硬化性化合物の溶融物を塗布し、固化して、前記硬化性化合物を含む薄膜を得、得られた薄膜を、前記支持体から剥離して基板上に積層し、加熱処理を施す、請求項
6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
3の何れか1項に記載の硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と繊維とを含む複合材。
【請求項9】
請求項1~3の何れか1項に記載の硬化性化合物の硬化物を含み、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(T
d5)が300℃以上であり、320℃で30分の加熱処理に付した後の窒素原子含有量が2.8~0.1重量%である、固形物。
【請求項10】
IRスペクトルの1620~1750cm
-1の領域にピークを有する、請求項
9に記載の固形物。
【請求項11】
請求項1~
3の何れか1項に記載の硬化性化合物を含む接着剤。
【請求項12】
請求項1~
3の何れか1項に記載の硬化性化合物を含む塗料。
【請求項13】
請求項1~
3の何れか1項に記載の硬化性化合物を含む封止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性化合物、硬化性化合物の硬化物又は半硬化物を含む構造体に関する。本願は、2018年6月20日に日本に出願した、特願2018-117283号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックは耐熱性や機械特性などを向上させたプラスチックであり、各種部品の小型化、軽量化、高性能化、高信頼性化に必須の材料として重用されている。しかし、エンジニアリングプラスチックは溶融温度が高く、溶剤溶解性が低いため加工性に乏しいことが問題であった。
【0003】
例えば、特許文献1等に記載のポリイミドは、卓越した耐熱性と強度特性を有するが、難溶解、難融解であるため、溶融成形を行ったり、複合材のマトリックス樹脂として使用することは困難であった。
【0004】
スーパーエンジニアリングプラスチックとも呼ばれるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、連続使用温度が260℃で、耐熱性、難燃性、及び電気特性に優れた性能を有する熱可塑性樹脂であるが、融点が343℃であるためとりわけ融解し難く、溶剤にも溶解し難いため、加工性に劣る点が問題であった(例えば、特許文献2)。
【0005】
そのため、加工性に優れ、超耐熱性を有する硬化物を形成することができる硬化性化合物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-219741号公報
【文献】特公昭60-32642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、溶融温度が低く、良好な溶剤溶解性を有することにより加工性に優れ、超耐熱性を有する硬化物を形成することができる硬化性化合物を提供することにある。
本発明の他の目的は、超耐熱性を有する硬化物又はその半硬化物を含む粒子状又は平面状の構造物を提供することにある。
本発明の他の目的は、超耐熱性を有する硬化物又はその半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体を提供することにある。
本発明の他の目的は、超耐熱性を有する硬化物又はその半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、超耐熱性を有する硬化物又はその半硬化物を含む固形物を提供することにある。
本発明の他の目的は、超耐熱性を有する硬化物又はその半硬化物と繊維とを含む複合材を提供することにある。
本発明の他の目的は、溶融温度が低く、良好な溶剤溶解性を有し、超耐熱性が求められる環境下で使用可能な接着剤、封止剤、又は塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、下記(a)~(e)の特性を備える硬化性化合物により上記課題を解決できることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記(a)~(e)の特性を備えることを特徴とする硬化性化合物を提供する。
(a)数平均分子量(標準ポリスチレン換算):1000~15000
(b)硬化性化合物全量に占める芳香環由来の構造の割合:50重量%以上
(c)25℃における溶剤溶解性:1g/100g以上
(d)ガラス転移温度:280℃以下
(e)当該硬化性化合物の硬化物の、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(Td5)が300℃以上
【0010】
本発明は、また、下記式(1)
【化1】
[式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、硬化性官能基を示し、D
1、D
2は、同一又は異なって、単結合又は連結基を示す。Lは、下記式(I)で表される構造と下記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する2価の基を示す。
【化2】
(式中、Ar
1~Ar
3は、同一又は異なって、芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、又は2個以上の芳香環が単結合若しくは連結基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基を示す。Xは-CO-、-S-、又は-SO
2-を示し、Yは、同一又は異なって、-S-、-SO
2-、-O-、-CO-、-COO-、又は-CONH-を示す。nは0以上の整数を示す)]
で表される化合物である、前記硬化性化合物を提供する。
【0011】
本発明は、また、式(1)中のR1、R2が、同一又は異なって、環状イミド構造を有する硬化性官能基である前記硬化性化合物を提供する。
【0012】
本発明は、また、式(1)中のR
1、R
2が、同一又は異なって、下記式(r-1)~(r-6)で表される基から選択される基である前記硬化性化合物を提供する。
【化3】
(式中の窒素原子から伸びる結合手は、D
1又はD
2と結合する)
【0013】
本発明は、また、式(1)中のD
1、D
2が、同一又は異なって、下記式(d-1)~(d-4)
【化4】
で表される構造を含む基から選択される基である前記硬化性化合物を提供する。
【0014】
本発明は、また、式(I)、及び式(II)中のAr1~Ar3が、同一又は異なって、炭素数6~14の芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、又は炭素数6~14の芳香環の2個以上が、単結合、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、又は炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基である前記硬化性化合物を提供する。
【0015】
本発明は、また、式(I)で表される構造が、ベンゾフェノン由来の構造である前記硬化性化合物を提供する。
【0016】
本発明は、また、式(1)で表される化合物全量における、ベンゾフェノン由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である前記硬化性化合物を提供する。
【0017】
本発明は、また、式(II)で表される構造が、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種の化合物由来の構造である前記硬化性化合物を提供する。
【0018】
本発明は、また、式(1)で表される化合物全量における、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールA由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である前記硬化性化合物を提供する。
【0019】
本発明は、また、前記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物を含む、粒子状又は平面状の構造物を提供する。
【0020】
本発明は、また、前記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体を提供する。
【0021】
本発明は、また、前記硬化性化合物を基板上に載置し、加熱処理を施すことで、前記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体を得る、積層体の製造方法を提供する。
【0022】
本発明は、また、プラスチック製の支持体上に、前記硬化性化合物の溶融物を塗布し、固化して、前記硬化性化合物を含む薄膜を得、得られた薄膜を、前記支持体から剥離して基板上に積層し、加熱処理を施す、前記積層体の製造方法を提供する。
【0023】
本発明は、また、前記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と繊維とを含む複合材を提供する。
【0024】
本発明は、また、硬化性化合物の硬化物を含み、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(Td5)が300℃以上であり、320℃で30分の加熱処理に付した後の窒素原子含有量が2.8~0.1重量%である、固形物を提供する。
【0025】
本発明は、また、IRスペクトルの1620~1750cm-1の領域にピークを有する前記固形物を提供する。
【0026】
本発明は、また、前記硬化性化合物を含む接着剤を提供する。
【0027】
本発明は、また、前記硬化性化合物を含む塗料を提供する。
【0028】
本発明は、また、前記硬化性化合物を含む封止剤を提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の硬化性化合物(例えば式(1)で表される化合物、好ましくはベンゾフェノン由来の構造単位と、ハイドロキノン、レゾルシノール、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種の化合物由来の構造単位とを含む繰返し単位を有する分子鎖の両末端に、特定の硬化性官能基を導入した化合物)は良好な溶剤溶解性を有する。また、溶融温度が低く、オートクレーブ等の装置を用いなくても溶融することができる。そして、加熱処理や放射線照射を施すことにより速やかに硬化する。そのため、本発明の硬化性化合物は良好な加工性(若しくは、易成形性)を有し、接着剤、封止剤、塗料等として好適に使用することができる。
また、本発明の硬化性化合物は超耐熱性、難燃性、及び良好な誘電特性(低い比誘電率及び誘電正接)を有する硬化物を形成することができる。そのため、本発明の硬化性化合物の硬化物(若しくは、その半硬化物)からなる、若しくは前記硬化物(若しくは、その半硬化物)を少なくともその一部に含む構造体は、超耐熱性及び良好な誘電特性が求められる分野(例えば、電子情報機器、家電、自動車、精密機械、航空機、宇宙産業用機器等)において好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】調製例で得られたジアミン(1)の1H-NMRスペクトル(DMSO-d
6)を示す図である。
【
図2】調製例で得られたジアミン(1)のFTIRスペクトルを示す図である。
【
図3】調製例で得られたジアミン(2)の
1H-NMRスペクトル(DMSO-d
6)を示す図である。
【
図4】調製例で得られたジアミン(2)のFTIRスペクトルを示す図である。
【
図5】実施例で得られた硬化性化合物Aの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3)を示す図である。
【
図6】実施例で得られた硬化性化合物AのFTIRスペクトルを示す図である。
【
図7】実施例で得られた硬化性化合物Bの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3)を示す図である。
【
図8】実施例で得られた硬化性化合物BのFTIRスペクトルを示す図である。
【
図9】実施例で得られた硬化性化合物Cの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3)を示す図である。
【
図10】実施例で得られた硬化性化合物CのFTIRスペクトルを示す図である。
【
図11】実施例で得られた硬化性化合物Dの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3)を示す図である。
【
図12】実施例で得られた硬化性化合物DのFTIRスペクトルを示す図である。
【
図13】実施例で得られた硬化性化合物C及びDのDSC測定結果を示す図である。
【
図14】実施例で得られた硬化性化合物C及びDの硬化物のDSC測定結果を示す図である。
【
図15】実施例で得られた硬化性化合物C及びDの硬化物の熱重量減少分析結果を示す図である。
【
図16】実施例で得られた硬化性化合物Aの硬化物のFTIRスペクトルを示す図である。
【
図17】実施例で得られた硬化性化合物Bの硬化物のFTIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[硬化性化合物]
本発明の硬化性化合物は、下記(a)~(e)の特性を備えることを特徴とする。
(a)数平均分子量(標準ポリスチレン換算):1000~15000
(b)硬化性化合物全量に占める芳香環由来の構造の割合:50重量%以上
(c)25℃における溶剤溶解性:1g/100g以上
(d)ガラス転移温度:280℃以下
(e)当該硬化性化合物の硬化物の、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(Td5)が300℃以上
【0032】
前記硬化性化合物の数平均分子量(Mn)は1000~15000であり、好ましくは1000~14000、特に好ましくは1100~12000、最も好ましくは1200~10000である。そのため、溶剤への溶解性は高く、溶融粘度は低く、成形加工が容易であるとともに、得られる硬化物(若しくは、硬化後の成形体)が高い靱性を発現する。数平均分子量が上記範囲を下回ると、得られる硬化物の靱性が低下する傾向がある。一方、数平均分子量が上記範囲を上回ると、溶剤溶解性が低下したり、溶融粘度が高くなりすぎて、加工性が低下する傾向がある。尚、Mnはゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定(溶剤:クロロホルム、標準ポリスチレン換算)に付して求められる。
【0033】
前記硬化性化合物全量に占める芳香環由来の構造の割合は50重量%以上であり、例えば50~90重量%、好ましくは60~90重量%、特に好ましくは65~80重量%である。そのため、前記硬化性化合物は高い溶剤溶解性と低い溶融粘度とを有し、その硬化物は高い熱安定性を有する。芳香環由来の構造の割合が上記範囲を下回ると、硬化物の熱安定性が低下する傾向がある。一方、芳香環由来の構造の割合が上記範囲を上回ると、溶剤溶解性が低下したり、溶融粘度が高くなり、加工性が低下する傾向がある。
【0034】
前記硬化性化合物は良好な溶剤溶解性を有する。前記溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;ホルムアミド、アセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゾトリフルオライド、ヘキサフルオロ-2-プロパノール等のハロゲン化炭化水素;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド、ベンジルフェニルスルホキシド等のスルホキシド;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル;酢酸エチル等のエステル;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;及びこれらの2種以上の混合液等が挙げられる。本発明の硬化性化合物(例えば式(1)で表される化合物、とりわけ式(1)で表される化合物であって、式中のLが、式(1-2)又は(1-3)で表される2価の基である化合物)は、なかでも、エーテル、ケトン、アミド、ハロゲン化炭化水素、及びスルホキシドから選択される少なくとも1種の溶剤(とりわけ、エーテル、アミド、ハロゲン化炭化水素、及びスルホキシドから選択される少なくとも1種の溶剤)に対して優れた溶解性を示す。
【0035】
前記硬化性化合物の溶剤に対する溶解度は、25℃において溶剤100gに対して1g以上であり、好ましくは5g以上、特に好ましくは10g以上である。
【0036】
前記硬化性化合物のガラス転移温度(Tg)は280℃以下であり、例えば80~280℃、好ましくは80~250℃、特に好ましくは100~200℃である。そのため溶融温度が低く、加工性に優れる。Tgが上記範囲を上回ると、溶融する際に高温で加熱することが必要となり、加工性が低下し、例えば、溶融状態の硬化性化合物を繊維に含浸させて複合材を製造する場合に、硬化性化合物の硬化反応が進行して微細な繊維間に含浸させることが困難となる恐れがある。尚、TgはDSC法で測定することができる。
【0037】
前記硬化性化合物の窒素原子含有量は、例えば2.8~0.1重量%、好ましくは2.5~0.15重量%、より好ましくは2.0~0.20重量%、特に好ましくは1.8~0.40重量%、最も好ましくは1.5~0.70である。窒素原子含有量は、例えばCHN元素分析により求めることができる。窒素原子含有量が上記範囲である硬化性化合物は、溶剤溶解性に優れ、靱性や耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。一方、窒素原子含有量が上記範囲を下回ると、靱性や耐熱性に優れた硬化物を形成することが困難となる傾向がある。また、窒素原子含有量が上記範囲を上回ると、溶剤溶解性が低下する傾向がある。
【0038】
また、前記硬化性化合物(若しくは、後述の硬化性組成物)は加熱処理を施すことにより速やかに硬化して、高度に架橋した構造を有し(すなわち、架橋密度が高い)、超耐熱性、絶縁性、及び難燃性を有する硬化物を形成することができる。
【0039】
前記硬化性化合物の硬化物の、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(Td5)は300℃以上であり、好ましくは400℃以上、特に好ましくは450℃以上、最も好ましくは500℃以上である。5%重量減少温度(Td5)の上限は、例えば600℃、好ましくは550℃、特に好ましくは530℃である。尚、5%重量減少温度は、TG/DTA(示差熱・熱重量同時測定)により測定できる。
【0040】
前記硬化性化合物の硬化物の、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される10%重量減少温度(Td10)は、例えば300℃以上、好ましくは400℃以上、特に好ましくは480℃以上、最も好ましくは500℃以上である。10%重量減少温度(Td10)の上限は、例えば600℃、好ましくは550℃である。尚、10%重量減少温度は、TG/DTA(示差熱・熱重量同時測定)により測定できる。
【0041】
更にまた、前記硬化性化合物の硬化物は難燃性に優れ、厚み0.15mmの硬化物の、UL94Vに準拠した方法による燃えにくさはV-1グレード、すなわち、下記1~5の条件を具備する。
(1)燃焼持続時間は30秒以下
(2)5個の試料の燃焼持続時間の合計が250秒以下
(3)2回目の接炎後の赤熱持続時間が60秒以下
(4)固定用クランプ部まで燃えない
(5)燃焼する粒子を落下させて、下に敷いた綿を燃やすことがない
【0042】
前記硬化性化合物の硬化物は絶縁性に優れ、その比誘電率は、例えば6以下(例えば1~6)、好ましくは5以下(例えば1~5)、特に好ましくは4以下(例えば1~4)である。
【0043】
また、前記硬化性化合物の硬化物は絶縁性に優れ、その誘電正接は、例えば0.05以下(例えば0.0001~0.05)、好ましくは0.0001~0.03、特に好ましくは0.0001~0.015である。
【0044】
尚、前記「比誘電率」及び「誘電正接」は、JIS-C2138に準拠して測定周波数1MHz、測定温度23℃で測定される値、または、ASTM D2520に準拠して周波数1GHz、23℃で測定される値である。
【0045】
本発明の硬化性化合物は上記特性を兼ね備える為、例えば、電子情報機器、家電、自動車、精密機械等の過酷な環境温度条件下で使用される複合材の成形材料や、絶縁材料、耐熱性接着剤などの機能材料として使用することができる。その他、封止剤、コーティング剤、接着剤、インク、シーラント、レジスト、形成材[例えば、基材、電気絶縁材(絶縁膜等)、積層板、複合材(繊維強化プラスチック、プリプレグ等)、光学素子(レンズ等)、光造形、電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池基板、光導波路、導光板、ホログラフィックメモリ等の形成材]等に好ましく使用することができる。また、本発明の硬化性化合物は、その硬化物が比誘電率及び誘電正接が低いことから、絶縁材料としても好適に使用できる。
【0046】
本発明の硬化性化合物は上記特性を有するため、特に、従来の樹脂材料では対応することが困難であった、高耐熱・高耐電圧の半導体装置(パワー半導体等)において半導体素子を被覆する封止剤として好ましく使用することができる。
【0047】
また、本発明の硬化性化合物は上記特性を有するため、接着剤[例えば、高耐熱・高耐電圧の半導体装置(パワー半導体等)において、半導体を積層する用途に使用する耐熱性接着剤等]として好ましく使用することができる。
【0048】
また、本発明の硬化性化合物は上記特性を有するため、塗料(若しくは、粉体塗料)[例えば、高耐熱・高耐電圧の半導体装置(パワー半導体等)の塗料(若しくは、粉体塗料)等]として好ましく使用することができる。
【0049】
(式(1)で表される化合物)
前記硬化性化合物は、芳香環由来の構成単位と硬化性官能基を有する化合物であり、硬化性化合物全量に占める前記芳香環由来の構成単位の占める割合は50重量%以上である。
【0050】
前記硬化性官能基としては、環状イミド構造を有する硬化性官能基が好ましく、特に好ましくは、環状不飽和イミド構造を有する硬化性官能基、又はアリールエチニル基を備えた環状イミド構造を有する硬化性官能基、最も好ましくは後述の式(r-1)~(r-6)で表される基から選択される基、とりわけ好ましくは後述の式(r-1)又は(r-5)で表される基である。
【0051】
また、前記硬化性化合物としては、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【化5】
【0052】
式(1)中、R
1、R
2は、同一又は異なって、硬化性官能基を示し、D
1、D
2は、同一又は異なって、単結合又は連結基を示す。Lは、下記式(I)で表される構造と下記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する2価の基を示す。
【化6】
(式中、Ar
1~Ar
3は、同一又は異なって、芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、又は2個以上の芳香環が単結合若しくは連結基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基を示す。Xは-CO-、-S-、又は-SO
2-を示し、Yは、同一又は異なって、-S-、-SO
2-、-O-、-CO-、-COO-、又は-CONH-を示す。nは0以上の整数を示す)
【0053】
式中、R
1、R
2は硬化性官能基を示す。R
1、R
2は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。R
1、R
2における硬化性官能基としては、例えば、下記式(r)で表される基等の、環状イミド構造を有する硬化性官能基が好ましい。
【化7】
(式中の窒素原子から伸びる結合手は、D
1又はD
2と結合する)
【0054】
上記式(r)中、QはC又はCHを示す。式中の2個のQは単結合又は二重結合を介して結合する。n’は0以上の整数(例えば0~3の整数、好ましくは0又は1)である。R3~R6は、同一又は異なって、水素原子、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基(好ましくは、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基)、芳香族炭化水素基(好ましくは、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~10のアリール基)、又は前記飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基から選択される2個以上の基が結合した基を示す。R3~R6から選択される2つの基は、互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成していてもよい。
【0055】
R3~R6から選択される2つの基が互いに結合して、隣接する炭素原子と共に形成していてもよい環としては、例えば、炭素数3~20の脂環、及び炭素数6~14の芳香環を挙げることができる。前記炭素数3~20の脂環には、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルカン環;シクロペンテン環、シクロへキセン環等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルケン環;パーヒドロナフタレン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、アダマンタン環、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環等の橋かけ環式炭化水素基等が含まれる。前記炭素数6~14の芳香環には、ベンゼン環、ナフタレン環等が含まれる。
【0056】
前記環状イミド構造を有する硬化性官能基としては、なかでも、環状不飽和イミド構造を有する硬化性官能基、又はアリールエチニル基を備えた環状イミド構造を有する硬化性官能基が好ましく、特に好ましくは下記式(r-1)~(r-6)で表される基から選択される基であり、とりわけ好ましくは下記式(r-1)又は(r-5)で表される基である。
【化8】
(式中の窒素原子から伸びる結合手は、式(1)中のD
1又はD
2と結合する)
【0057】
前記式(r-1)~(r-6)で表される基には1種又は2種以上の置換基が結合していてもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0058】
前記炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0059】
前記炭素数1~6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、t-ブチルオキシ基等の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基を挙げることができる。
【0060】
式(1)中、D1、D2は、同一又は異なって、単結合又は連結基を示す。前記連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、2価の複素環式基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、アミド結合、イミド結合、及びこれらが複数個連結した基等が挙げられる。
【0061】
前記2価の炭化水素基には、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、及び2価の芳香族炭化水素基が含まれる。
【0062】
前記2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、及び炭素数2~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。炭素数2~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、1-メチルビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基等が挙げられる。
【0063】
前記2価の脂環式炭化水素基としては、炭素数3~18の2価の脂環式炭化水素基等が挙げられ、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0064】
前記2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数6~14のアリーレン基等が挙げられ、例えば、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、4,4’-ビフェニレン基、3,3’-ビフェニレン基、2,6-ナフタレンジイル基、2,7-ナフタレンジイル基、1,8-ナフタレンジイル基、アントラセンジイル基等が挙げられる。
【0065】
前記2価の複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも1種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等)を有する3~10員環(好ましくは4~6員環)、及びこれらの縮合環を挙げることができる。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、イソクロマン環等の縮合環;3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)等が挙げられる。2価の複素環式基は上記複素環の構造式から2個の水素原子を除いた基である。
【0066】
前記D
1、D
2としては、なかでも、特に優れた耐熱性を有する硬化物が得られる点で、2価の芳香族炭化水素基を含むことが好ましい。前記2価の芳香族炭化水素基としては、炭素数6~14の2価の芳香族炭化水素基が好ましく、より好ましくは下記式(d-1)~(d-4)で表される基から選択される基であり、とりわけ好ましくは下記式(d-1)で表される基(1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基)である。
【化9】
【0067】
また、前記D1、D2は、前記2価の芳香族炭化水素基と共に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、アミド結合、及びイミド結合からなる群より選択される少なくとも1つの基が連結した基が好ましく、とりわけ前記2価の芳香族炭化水素基にエーテル結合が連結した基が好ましい。
【0068】
従って、式(1)中のR
1-D
1-基、及びR
2-D
2-基としては、同一又は異なって、下記式(rd-1)又は(rd-2)で表される基を含む基が好ましく、特に、下記式(rd-1-1)又は(rd-2-1)で表される基が好ましい。
【化10】
(式中のフェニレン基又は酸素原子から伸びる結合手は、式(1)中のLと結合する)
【0069】
式(1)中のLは、上記式(I)で表される構造と上記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する2価の基を示す。式(I)、及び式(II)中のAr1~Ar3は、同一又は異なって、芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、又は2個以上の芳香環が単結合若しくは連結基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基を示す。Xは-CO-、-S-、又は-SO2-を示し、Yは、同一又は異なって、-S-、-SO2-、-O-、-CO-、-COO-、又は-CONH-を示す。nは0以上の整数を示し、例えば0~5の整数、好ましくは1~5の整数、特に好ましくは1~3の整数である。
【0070】
前記芳香環(=芳香族炭化水素環)としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6~14の芳香環が挙げられる。本発明においては、なかでも、ベンゼン、ナフタレン等の炭素数6~10の芳香環が好ましい。
【0071】
前記連結基としては、例えば、炭素数1~5の2価の炭化水素基や、炭素数1~5の2価の炭化水素基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基等が挙げられる。
【0072】
前記炭素数1~5の2価の炭化水素基には、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基等の炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基;ビニレン基、1-メチルビニレン基、プロペニレン基等の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状アルケニレン基;エチニレン基、プロピニレン基、1-メチルプロピニレン等の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキニレン基等が含まれる。本発明においては、なかでも、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が好ましく、特に炭素数1~5の分岐鎖状アルキレン基が好ましい。
【0073】
従って、前記Ar1~Ar3としては、同一又は異なって、炭素数6~14の芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、又は炭素数6~14の芳香環の2個以上が、単結合、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、又は炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基であることが好ましく、特に、炭素数6~14の芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、又は炭素数6~14の芳香環の2個以上が、単結合、炭素数1~5の分岐鎖状アルキレン基、又は炭素数1~5の分岐鎖状アルキレン基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基であることが好ましい。
【0074】
前記Ar
1~Ar
3としては、とりわけ、同一又は異なって、下記式(a-1)~(a-5)で表される基から選択される基が好ましい。尚、下記式中の結合手の付き位置は、特に制限されない。
【化11】
【0075】
式(I)中のAr1、Ar2としては、なかでも、炭素数6~14の芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基が好ましく、特に、上記式(a-1)又は(a-2)で表される基が好ましい。また、Xとしては、なかでも、-CO-又は-SO2-が好ましい。式(I)で表される構造としては、とりわけ、ベンゾフェノン由来の構造を含むことが好ましい。
【0076】
式(1)で表される化合物全量における、芳香環由来の構造の割合は50重量%以上であり、例えば50~90重量%、好ましくは60~90重量%、特に好ましくは65~80重量%である。
【0077】
式(1)で表される化合物全量における、ベンゾフェノン由来の構造単位の占める割合は、例えば5重量%以上、好ましくは10~62重量%、特に好ましくは15~60重量%である。
【0078】
式(II)中のAr3としては、なかでも、上記式(a-1)、(a-4)、及び(a-5)で表される基から選択される基が好ましい。また、Yとしては、なかでも、-S-、-O-、又は-SO2-が好ましい。式(II)で表される構造としては、特に、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種の化合物由来の構造を含むことが好ましく、とりわけ、ハイドロキノン、レゾルシノール、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種の化合物由来の構造を含むことが好ましい。
【0079】
式(1)で表される化合物全量における、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールA由来の構造単位の占める割合は、例えば5重量%以上、好ましくは10~55重量%、特に好ましくは15~53重量%である。
【0080】
また、式(1)で表される化合物全量における、ハイドロキノン、レゾルシノール、及びビスフェノールA由来の構造単位の占める割合は、例えば5重量%以上、好ましくは10~55重量%、特に好ましくは15~53重量%である。
【0081】
式(1)中のLとしては、なかでも、耐熱性に特に優れた硬化物が得られる点で、下記式(L-1)で表される2価の基が好ましい。
【化12】
【0082】
上記式(L-1)中のmは、分子鎖(=上記式(L-1)で表される2価の基)中に含まれる丸括弧内に示される繰り返し単位の数、すなわち、平均重合度であり、例えば2~50、好ましくは3~40、より好ましくは4~30、特に好ましくは5~20、最も好ましくは5~10である。mが2未満である場合は、得られる硬化物の強度や耐熱性が不十分となる傾向がある。一方、mが50超である場合は、溶融温度が高くなる傾向がある。また、溶剤溶解性が低下する傾向もある。尚、mの値は、GPC測定やNMRのスペクトル解析により求めることができる。また、上記式(L-1)中のn”は0以上の整数を示し、Ar1~Ar3は上記に同じ。尚、上記式(L-1)中の複数のAr1は同じ基を示す。Ar2、Ar3についても同様である。
【0083】
式(1)中のLとしては、とりわけ、下記式(L-1-1)又は(L-1-2)で表される2価の基であることが好ましい。
【化13】
【0084】
上記式中のm1、m2は、分子鎖(=上記式(L-1-1)又は(L-1-2)で表される2価の基)中に含まれる丸括弧内に示される繰り返し単位の数、すなわち、平均重合度であり、例えば2~50、好ましくは3~40、より好ましくは4~30、特に好ましくは5~20、最も好ましくは5~10である。尚、m1、m2の値は、GPC測定やNMRのスペクトル解析により求めることができる。
【0085】
また、式(1)で表される化合物のうち、式(1)中のLが上記式(L-1-1)又は(L-1-2)で表される2価の基であり、式中のm1、m2が5~10である化合物は、300℃以下(250℃程度)で溶融するため、PEEK等に比べて低温で溶融成形することができ、加工性に特に優れる。
【0086】
一方、分子鎖の平均重合度が上記範囲を下回ると、得られる硬化物がもろくなり機械特性が低下する傾向がある。また、分子鎖の平均重合度が上記範囲を上回ると、溶剤への溶解性が低下したり、溶融粘度が高くなる等により、加工性が低下する傾向がある。
【0087】
上記式(1)で表される化合物は、例えば、Polymer 1989 p978 に記載されている合成法を利用して製造することができる。下記に、上記式(1)で表される化合物の製造方法の一例を示すが、本発明はこの製造方法によって製造されるもの限定されない。
【0088】
下記式(1a)で表される化合物は、例えば下記工程[1]~[3]を経て製造することができる。下記式中、Ar1~Ar3、X、Y、n、R3~R6、Q、n’は上記に同じ。Dは連結基を示し、Zはハロゲン原子を示す。mは繰り返し単位の平均重合度であり、例えば3~50、好ましくは4~30、特に好ましくは5~20である。上記式(1)で表される化合物のうち、下記式(1a)で表される化合物以外の化合物も、下記方法に準じて製造することができる。
工程[1]:反応基質である下記式(2)で表される化合物と下記式(3)で表される化合物とを、塩基の存在下で反応させることにより、下記式(4)で表される化合物を得る。
工程[2]:下記式(4)で表される化合物に、アミノアルコール(下記式(5)で表される化合物)を反応させることにより、下記式(6)で表されるジアミンを得る。
工程[3]:下記式(6)で表されるジアミンに環状酸無水物(下記式(7)で表される化合物)を反応させることにより下記式(1a)で表される化合物を得る。
【0089】
【0090】
(工程[1])
上記式(2)で表される化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、2-ナフチルフェニルケトン、及びビス(2-ナフチル)ケトン等のハロゲン化物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0091】
上記式(3)で表される化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、1,5-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、2,5-ジヒドロキシビフェニル、及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0092】
上記誘導体としては、例えば、上記式(2)で表される化合物や式(3)で表される化合物の芳香族炭化水素基に置換基が結合した化合物などが挙げられる。前記置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0093】
式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の使用量としては、通常、式(3)で表される化合物1モルに対して、式(2)で表される化合物を1モル以上であり、所望の化合物(1)における分子鎖の平均重合度に応じて、式(2)で表される化合物の使用量を調整することが望ましい。例えば、平均重合度5の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、式(2)で表される化合物を1.2モル程度(例えば1.18~1.22モル)、平均重合度10の場合は、式(2)で表される化合物を1.1モル程度(例えば1.08~1.12モル)、平均重合度20の場合は、式(2)で表される化合物を1.05モル程度(例えば1.04~1.06モル)使用することが好ましい。
【0094】
式(2)で表される化合物としては、少なくともベンゾフェノンのハロゲン化物を使用することが好ましく、式(2)で表される化合物の総使用量(100モル%)におけるベンゾフェノンのハロゲン化物の使用量は、例えば10モル%以上、好ましくは30モル%以上、特に好ましくは50モル%以上、最も好ましくは80モル%以上である。尚、上限は100モル%である。
【0095】
式(3)で表される化合物としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種(とりわけ、ハイドロキノン、レゾルシノール、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種)の化合物を使用することが好ましく、前記化合物の使用量の合計は、式(3)で表される化合物の総使用量(100モル%)の、例えば10モル%以上、好ましくは30モル%以上、特に好ましくは50モル%以上、最も好ましくは80モル%以上である。尚、上限は100モル%である。
【0096】
前記式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の反応は、塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基から選択される少なくとも1種)の存在下で行われる。塩基の使用量は塩基の種類によって適宜調整することができる。例えば、水酸化カルシウム等の二酸塩基の使用量は、式(3)で表される化合物1モルに対して1.0~2.0モル程度である。
【0097】
また、この反応は溶剤の存在下で行うことができる。前記溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン等の有機溶剤、或いはこれらの2種以上の混合溶剤を用いることができる。
【0098】
前記溶剤の使用量としては、反応基質の合計(重量)に対して、例えば5~20重量倍程度である。溶剤の使用量が上記範囲を上回ると反応基質の濃度が低くなり、反応速度が低下する傾向がある。
【0099】
反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0100】
反応温度は、例えば100~200℃程度である。反応時間は、例えば5~24時間程度である。また、この反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0101】
この反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0102】
(工程[2])
上記式(5)で表される化合物としては、例えば、4-アミノフェノール、2-アミノ-6-ヒドロキシナフタレン、及びこれらの位置異性体や誘導体等が挙げられる。
【0103】
上記式(5)で表される化合物の使用量は、所望の硬化性化合物における分子鎖の平均重合度に応じて適宜調整することができる。例えば、平均重合度5の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.4~0.6モル程度となる量、平均重合度10の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.2~0.4モル程度となる量、平均重合度20の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.1~0.15モル程度となる量である。
【0104】
この反応は進行に伴いハロゲン化水素が生成するため、生成したハロゲン化水素をトラップする塩基の存在下で反応を行うことが、反応の進行を促進する効果が得られる点で好ましい。前記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0105】
前記塩基の使用量は塩基の種類によって適宜調整することができる。例えば、水酸化ナトリウム等の一酸塩基の使用量は、上記式(5)で表される化合物1モルに対して1.0~3.0モル程度である。
【0106】
また、この反応は溶剤の存在下で行うことができる。溶剤としては、工程[1]において使用されるものと同様のものを使用することができる。
【0107】
反応温度は、例えば100~200℃程度である。反応時間は、例えば1~15時間程度である。また、この反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0108】
この反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0109】
(工程[3])
前記環状酸無水物(上記式(7)で表される化合物)としては、例えば、無水マレイン酸、2-フェニル無水マレイン酸、4-フェニルエチニル-無水フタル酸、4-(1-ナフチルエチニル)-無水フタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0110】
前記環状酸無水物の使用量は、所望の硬化性化合物における分子鎖の平均重合度に応じて適宜調整することができる。例えば、平均重合度5の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.4~0.8モル程度となる量、平均重合度10の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.2~0.4モル程度となる量、平均重合度20の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.1~0.15モル程度となる量である。
【0111】
この反応は溶剤の存在下で行うことができる。溶剤としては、工程[1]において使用されるものと同様のものを使用することができる。
【0112】
この反応は、室温(1~30℃)で行うことが好ましい。反応時間は、例えば1~30時間程度である。また、この反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0113】
また、この反応は、水と共沸する溶剤(例えば、トルエン等)を用いた共沸や、脱水剤(例えば、無水酢酸等)の使用により、副生する生成水を除去することが、反応の進行を促進する点で好ましい。また、脱水剤による生成水の除去は、塩基性触媒(例えば、トリエチルアミン等)の存在下で行うことが好ましい。
【0114】
この反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0115】
式(1)で表される化合物の発熱ピーク温度は、硬化性官能基の種類に依存するが、例えば170~450℃、好ましくは200~430℃、特に好ましくは220~420℃である。発熱ピーク温度は、DSC測定により求められる。
【0116】
式(1)で表される化合物の発熱ピーク温度は、硬化性官能基の種類によって決まるため、採用する成形法によって硬化性官能基を選択することが好ましい。例えば、硬化性化合物を溶剤に溶解した溶液からキャスト法によりフィルム状に成形し、それを硬化させる場合、式(1)で表される化合物における硬化性官能基としては、上記式(r-5)で表される基を選択することが好ましく、この場合、250℃程度の温度で加熱することで硬化物を形成することができる。一方、式(1)で表される化合物における硬化性官能基として上記式(r-1)で表される基を選択すると、当該硬化性化合物は300℃以下程度の温度で溶融させて成形することができ、380℃程度の温度で加熱することで硬化物を形成することができる。
【0117】
尚、加熱は、温度を一定に保持した状態で行ってもよく、段階的に変更して行ってもよい。加熱温度は、加熱時間に応じて適宜調整することができ、例えば、加熱時間の短縮を所望する場合は加熱温度を高めに設定することが好ましい。式(1)で表される化合物は芳香環由来の構造の割合が高いため、高温で加熱しても分解することなく硬化物(詳細には、超耐熱性を有する硬化物)を形成することができ、高温で短時間加熱することにより優れた作業性で効率よく硬化物を形成することができる。また、加熱手段は特に制限されることがなく、公知乃至慣用の手段を利用することができる。
【0118】
式(1)で表される化合物の硬化は、常圧下で行うこともできるし、減圧下又は加圧下で行うこともできる。
【0119】
式(1)で表される化合物の加熱温度及び加熱時間を調整して硬化反応を完了させず途中で停止させることにより、半硬化物(Bステージ)が得られる。前記半硬化物の硬化度は、例えば85%以下(例えば10~85%、特に好ましくは15~75%、更に好ましくは20~70%)である。
【0120】
尚、半硬化物の硬化度は、式(1)で表される化合物の発熱量、及びその半硬化物の発熱量をDSCにより測定し、以下の式から算出できる。
硬化度(%)=[1-(半硬化物の発熱量/式(1)で表される化合物の発熱量)]×100
【0121】
式(1)で表される化合物の半硬化物は加熱により一時的に流動性を発現し、段差に追従させることができる。また、加熱処理を施すことにより耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。
【0122】
[硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は、上記硬化性化合物を1種又は2種以上含むことを特徴とする。本発明の硬化性組成物全量(若しくは、本発明の硬化性組成物における不揮発分全量)における上記硬化性化合物の含有量(2種以上含有する場合は、その総量)は、例えば30重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。すなわち、本発明の硬化性組成物は、上記硬化性化合物のみからなるものであっても良い。
【0123】
本発明の硬化性組成物は上記硬化性化合物以外にも、必要に応じて他の成分を含有していても良い。他の成分としては公知乃至慣用の添加剤を使用することができ、例えば、上記式(1)で表される化合物以外の硬化性化合物、触媒、フィラー、有機樹脂(シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂など)、溶剤、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、補強材、核剤、カップリング剤、滑剤、ワックス、可塑剤、離型剤、耐衝撃性改良剤、色相改良剤、流動性改良剤、着色剤(染料、顔料など)、分散剤、消泡剤、脱泡剤、抗菌剤、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0124】
前記フィラーには有機フィラー及び無機フィラーが含まれる。前記フィラーの原料としては、例えば、炭素材(例えば、カーボンブラック、人造黒鉛、膨張黒鉛、天然黒鉛、コークス、カーボンナノチューブ、ダイヤモンドなど)、炭素化合物(炭化ケイ素、炭化フッ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化チタンなど)、窒素化合物(窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化炭素、窒化ケイ素など)、鉱物またはセラミックス類(タルク、マイカ、ゼオライト、フェライト、トルマリン、ケイソウ土、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレー、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイトなど)、金属単体または合金(例えば、金属シリコン、鉄、銅、マグネシウム、アルミニウム、金、銀、白金、亜鉛、マンガン、ステンレスなど)、金属酸化物(例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化ベリリウムなど)、金属水酸化物(例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)などが挙げられる。
【0125】
前記フィラーの含有量は、上記硬化性化合物100重量部に対して、例えば0.1~95重量部の範囲であり、用途に応じて適宜調整することができる。
【0126】
本発明の硬化性組成物は、硬化性化合物として上記式(1)で表される化合物を少なくとも含有することが好ましい。また、上記式(1)で表される化合物以外の硬化性化合物も含有していても良いが、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)における上記式(1)で表される化合物の占める割合は、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。
【0127】
本発明の硬化性組成物は溶剤溶解性に優れた硬化性化合物を含有するため、硬化性化合物が溶剤に溶解した溶剤溶解物であってもよい。前記溶剤としては、硬化性化合物が良溶解性を示す溶剤が好ましく、例えば、ケトン、アミド、ハロゲン化炭化水素、スルホキシド、エーテル、エステル、ニトリル、芳香族炭化水素、及びこれらの2種以上の混合液が好ましく、特に、エーテル、ケトン、アミド、ハロゲン化炭化水素、及びスルホキシドから選択される少なくとも1種の溶剤が好ましく、とりわけ、エーテル、アミド、ハロゲン化炭化水素、及びスルホキシドから選択される少なくとも1種の溶剤が好ましい。
【0128】
また、本発明の硬化性組成物は架橋剤や硬化促進剤を含有せずとも(例えば、本発明の硬化性組成物全量における架橋剤及び硬化促進剤の合計含有量が3重量%以下、好ましくは1重量%未満であっても)、速やかに硬化物を形成することができる。そのため、得られる硬化物は超耐熱性を有する。また、硬化物中において、未反応の硬化促進剤や、硬化促進剤の分解物の含有量を極めて低く抑制することができるため、これらに由来するアウトガスの発生を抑制することができる。
【0129】
本発明の硬化性組成物は上記硬化性化合物を含有するため、加熱処理を施すことにより速やかに硬化して、超耐熱性を有する硬化物を形成することができる。尚、加熱処理条件は上述の硬化性化合物の硬化条件と同様の範囲で適宜設定することができる。
【0130】
また、本発明の硬化性組成物は上記硬化性化合物を含有するため、基板上に塗布して加熱処理を施すことにより速やかに硬化して、基板に対する密着性に優れた硬化物を形成することができる。前記基板と硬化物との引張りせん断力(JIS K6850(1999)準拠)は、例えば1MPa以上、好ましくは5MPa以上、特に好ましくは10MPa以上である。尚、引張りせん断力は、引張リ試験機(オリエンテック社製、テンシロンUCT-5T)を使用して、引張り速度300mm/分、剥離角度180°で測定できる。
【0131】
本発明の硬化性組成物は、例えば、電子情報機器、家電、自動車、精密機械、航空機、宇宙産業用機器、エネルギー分野(油田掘削パイプ/チューブ、燃料容器)等の過酷な環境温度条件下で使用される複合材(繊維強化プラスチック、プリプレグ等)の成形材料や、遮蔽材料、伝導材料(例えば、熱伝導材料等)、絶縁材料、接着剤(例えば、耐熱性接着剤等)などの機能材料として好適に使用することができる。その他、封止剤、塗料、インク、シーラント、レジスト、造形材、形成材[スラストワッシャー、オイルフィルター、シール、ベアリング、ギア、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナー、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品;基材、電気絶縁材(絶縁膜等)、積層板、電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池基板、光導波路、導光板、ホログラフィックメモリ、シリコンウェハキャリアー、ICチップトレイ、電解コンデンサトレイ、絶縁フィルム等の半導体・液晶製造装置部品;レンズ等の光学部品;ポンプ、バルブ、シール等のコンプレッサー部品;航空機のキャビン内装部品;滅菌器具、カラム、配管等の医療器具部品や食品・飲料製造設備部品;パーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材等の形成材]等として好ましく使用できる。
【0132】
本発明の硬化性組成物は上記特性を有するため、特に、従来の樹脂材料では対応することが困難であった、高耐熱・高耐電圧の半導体装置(パワー半導体等)において半導体素子を被覆する封止剤として好ましく使用することができる。
【0133】
また、本発明の硬化性組成物は上記特性を有するため、接着剤[例えば、高耐熱・高耐電圧の半導体装置(パワー半導体等)において、半導体を積層する用途に使用する耐熱性接着剤等]として好ましく使用することができる。
【0134】
また、本発明の硬化性組成物は上記特性を有するため、塗料(若しくは、粉体塗料)[例えば、高耐熱・高耐電圧の半導体装置(パワー半導体等)の塗料(若しくは、粉体塗料)]として好ましく使用することができる。
【0135】
[固形物]
本発明の固形物は、硬化性化合物の硬化物を含み、下記特性を有する。
固形物の特性:
昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(Td5)が300℃以上であり、320℃で30分の加熱処理に付した後の窒素原子含有量が2.8~0.1重量%である
【0136】
尚、前記硬化性化合物の硬化物は、硬化性化合物の架橋構造体(或いは、重合物)である。
【0137】
本発明の固形物は、硬化性化合物の硬化物以外にも他の成分を含有していてもよいが、固形分全量における、前記硬化物の占める割合は、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。
【0138】
前記固形物の5%重量減少温度(Td5)は、好ましくは400℃以上、特に好ましくは450℃以上、最も好ましくは500℃以上である。5%重量減少温度(Td5)の上限は、例えば600℃、好ましくは550℃、特に好ましくは530℃である。
【0139】
また、前記加熱処理後の固形物の窒素原子含有量は、例えば2.8~0.1重量%、好ましくは2.5~0.15重量%、より好ましくは2.0~0.20重量%、特に好ましくは1.8~0.40重量%、最も好ましくは1.5~0.70重量%である。そのため、本発明の固形物は靱性や耐熱性に優れる。一方、窒素原子含有量が上記範囲を下回ると、固形物の靱性や耐熱性が低下する傾向がある。
【0140】
そして、前記加熱処理後の固形物中の窒素原子含有量は、例えばCHN元素分析により求めることができる。
【0141】
前記固形物には硬化性化合物の硬化物以外にも添加物を含有する場合があるが、固形物を320℃で30分の加熱処理に付すと、320℃未満に分解点や沸点を有する添加物は分解されて消失し、硬化性化合物の硬化物のみが残存する。そのため、加熱処理後の硬化物中の窒素原子含有量は、硬化性化合物の硬化物に含まれる窒素原子含有量と推定できる。なお、熱履歴の観点から硬化処理を加熱処理とすることもできる。
【0142】
また、本発明の固形物は、IRスペクトルの1620~1750cm-1の領域にピークを有する。前記ピークは、「-C(=O)-N-C(=O)-」ユニットに由来する。
【0143】
本発明の固形物は、例えば、式(1)で表され、式中のR1、R2が、同一又は異なって、環状イミド構造を有する硬化性官能基である硬化性化合物(特に好ましくは、上記式(1)で表され、式中のR1、R2が、同一又は異なって、式(r-1)~(r-6)で表される基から選択される基である硬化性化合物)、或いは前記硬化性化合物を含む硬化性組成物を加熱処理に付すことにより製造することができる。
【0144】
従って、本発明の固形物は、式(1)で表され、式中のR1、R2が、同一又は異なって、環状イミド構造を有する硬化性官能基である硬化性化合物(特に好ましくは、上記式(1)で表され、式中のR1、R2が、同一又は異なって、式(r-1)~(r-6)で表される基から選択される基である硬化性化合物)の硬化物を含むことが好ましく、前記硬化物の含有量は、固形物全量の例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。
【0145】
[構造物]
本発明の構造物は、上記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物を含む、粒子状又は平面状の構造物である。本発明の構造物は、上記硬化性化合物(若しくは、上記硬化性組成物)を射出成形、トランスファー成形、コンプレッション成形、押出成形等の成形法に付すことにより製造することができる。
【0146】
本発明の構造物は耐熱性及び難燃性に優れる。また、比誘電率及び誘電正接が低い。そのため、住宅・建築、スポーツ用具、自動車、航空・宇宙産業分野において、鉄やアルミニウムなどの金属に替わる材料として好適に使用できる。また、高層建築物、地下街、劇場、車輌などの消防法により難燃化が義務づけられている場所に設置する構造物としても好適に使用できる。特に平面状の構造物は、電気デバイスの層間絶縁膜として好適に使用できる。
【0147】
[積層体]
本発明の積層体は、上記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する。本発明の積層体には、硬化性化合物の硬化物又は半硬化物/基板、及び基板/硬化性化合物の硬化物又は半硬化物/基板の構成が含まれる。
【0148】
前記前記基板の素材としては、例えば、半導体材料(例えば、セラミック、SiC、窒化ガリウム等)、紙、塗工紙、プラスチックフィルム、木材、布、不織布、金属(例えば、ステンレス鋼、アルミ合金、銅)等が挙げられる。
【0149】
本発明の積層体は、基板が、上記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物を含み、耐熱性、難燃性、絶縁性、及び前記基板に対する密着性に優れた接着層を介して積層された構成を有する。本発明の積層体は、例えば電子回路基板等として好適に使用できる。
【0150】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体は、例えば上記硬化性化合物を基板上に載置して、加熱処理を施すことによって製造することができる。
【0151】
本発明の積層体の製造方法には、以下の方法が含まれる。
1.上記硬化性化合物を固体(例えば、粉末状固体)のまま基板上に載置し、その後加熱処理を施す方法
2.上記硬化性化合物を含む薄膜を基板上にて形成し、その後加熱処理を施す方法
3.上記硬化性化合物を含む薄膜を基板上に積層し、その後加熱処理を施す方法
【0152】
加熱処理条件は上述の硬化性化合物の硬化条件と同様の範囲内において適宜設定することができる。
【0153】
上記方法2の薄膜は、例えば、基板上に上記硬化性化合物の溶融物を塗布し、得られた塗膜を冷却することにより製造することができる。
また、前記薄膜は、基板上に上記硬化性化合物の溶剤溶解物、或いは溶剤分散物を塗布し、得られた塗膜を乾燥することにより製造することもできる。
【0154】
上記方法3において、基板上に積層する薄膜としては、例えば、支持体上に上記硬化性化合物の溶融物を塗布し、得られた塗膜を冷却した後、支持体から剥離したものを使用することができる。
また、前記薄膜として、支持体上に上記硬化性化合物の溶剤溶解物、或いは溶剤分散物を塗布し、得られた塗膜を乾燥した後、支持体から剥離したものを使用することもできる。
【0155】
支持体上で形成した薄膜を、支持体から容易に剥離するためには、前記支持体の形成材料として、上記硬化性化合物を含む薄膜を形成する温度では融解しない材料を使用する必要がある。例えば硬化性化合物としてPEEKを使用した場合、PEEKは溶剤に溶解し難いので、PEEKの溶融物を基板上に塗布して薄膜を形成する必要があるが、PEEKの融点は343℃であり極めて高温である。そのため、プラスチック製の支持体を使用することは困難であり、金属やガラス製の支持体等が用いられていた。しかし、上記硬化性化合物は、室温(1~30℃)において優れた溶剤溶解性を示す。また、上記硬化性化合物は、ポリイミドやフッ素樹脂等のプラスチックが融解しない温度で溶融する。例えば、式(1)中のR1、R2が式(r-5)で表される基である硬化性化合物の場合、硬化温度は250℃程度である。そのため、プラスチック製の支持体(例えば、ポリイミド又はフッ素樹脂製の支持体)を使用することができ、例えばプラスチック製ベルトを備えたベルトコンベアにおける前記ベルトを支持体として利用すれば、ベルトコンベアを含む製造ライン上にて前記積層体を連続的に製造することができる。
【0156】
また、上記硬化性化合物は硬化収縮が小さく、形状安定性に優れる。そのため、上記硬化性化合物を支持体上等に均一に塗布すれば、表面が平滑な薄膜が得られ、この薄膜を硬化すれば、表面平滑性に優れた硬化物又は半硬化物を形成することができる。そのため、前記硬化物又は半硬化物は、可とう性や形状追従性が低い基板の表面にも良好に密着して、基板と強固に接着することができる。
【0157】
前記積層体は、電子回路基板に好適に使用できる。
【0158】
[複合材]
本発明の複合材は、上記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と繊維とを含む。複合材の形状としては、繊維状やシート状など特に制限がない。
【0159】
前記繊維としては、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。前記繊維は、糸状であっても、又シート状に加工されたもの(織布又は不織布)であってもよい。
【0160】
本発明の複合材は、例えば、上記硬化性化合物を溶剤に溶解した溶液や、上記硬化性化合物の溶融物を繊維に含浸させ、加熱処理を施すことにより製造できる。前記加熱処理により、含浸させた硬化性化合物を硬化若しくは半硬化させることができる。含浸させた硬化性化合物を半硬化させて得られる複合材は、プリプレグ等の中間加工品として好適に使用できる。
【0161】
本発明の複合材は繊維の空隙に上記硬化性化合物が入り込んで硬化した構成を有し、軽量で高強度であり、更に耐熱性、難燃性、及び絶縁性に優れる。そのため、住宅・建築、スポーツ用具、自動車、航空・宇宙産業分野において、鉄やアルミニウムなどの金属に替わる材料として好適に使用できる。その他、例えば、消防用被服(防火衣、活動服、救助服・耐熱服)材料;高層建築物、地下街、劇場、車輌などの消防法により難燃化が義務づけられている場所に設置するカーテンや敷物材料;2次電池用セパレーター、燃料電池用セパレーター等のセパレーター;産業用フィルター、車載用フィルター、医療用フィルター等のフィルター;宇宙材料等として好適に使用することができる。
【実施例】
【0162】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0163】
尚、測定は下記条件で行った。
<NMR測定>
測定装置:BRUKER 400MHz/54mm又はBRUKER AVANCE600MHz
測定溶剤:重DMSO、重クロロホルム、又は重クロロホルム/ペンタフルオロフェノール(PFP)=2/1(wt/wt)の混合液
化学シフト:TMSを規準とした
<GPC測定>
装置:ポンプ「LC-20AD」((株)島津製作所製)
検出器:RID-10A((株)島津製作所製)又はTDA-301およびUV2501(Viscotek製)
溶剤:THF又はクロロホルム
カラム:shodex GPC K-806L×1本+shodex GPC K-803×1本+shodex GPC K-801×2本
流速:1.0mL/min
温度:40℃
試料濃度:0.1%(wt/vol)
標準ポリスチレン換算
<DSC測定>
装置:TA Q20
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素雰囲気
<TG/DTA測定>
装置:NETZSCH TG209F3
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素雰囲気
<IR測定>
装置:Perkin Elmer Spectrum RX1(ATR法)
【0164】
比較例にはPEEK(市販PEEKパウダー、ポリエーテルエーテルケトン、VICTREX151G、融点343℃、Tg147℃)を使用した。
【0165】
調製例1(ジアミン(1)の製造)
撹拌装置、窒素導入管、およびディーンスターク装置を備えた500mL(三ツ口)フラスコに、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを27.50g、レゾルシノールを11.56g、無水炭酸カリウムを21.77g、N-メチル-2-ピロリドンを154mL、およびトルエン77mLを入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら加熱し、130~140℃で4時間トルエンを還流させた。その後、さらに加熱して170~180℃でトルエンを留去した。さらに、170~180℃で10時間撹拌を継続した後、室温に戻した。
【0166】
得られた生成物が入ったフラスコに、4-アミノフェノールを5.04g、無水炭酸カリウムを6.39g、N-メチル-2-ピロリドンを20mL、トルエンを100mL添加した。再び、窒素雰囲気下で撹拌しながら加熱し、130~140℃で3時間トルエンを還流させた。その後、加熱して170~180℃でトルエンを留去し、さらに170~180℃を保持しつつ4時間撹拌を継続した。その後、室温まで冷却し、反応液を3000mLのメタノールに添加、ろ過することで粉末状固体を得た。この粉末状固体をメタノールおよび水で繰返し洗浄した後、100℃で8時間減圧乾燥して、粉末状固体を得た(ジアミン(1)、下記式で表される化合物、収率:95%)。得られた粉末状固体をGPC測定(溶剤THF、標準ポリスチレン換算)に付して求めた数平均分子量は2070、重量平均分子量は3500、及び平均重合度(m-1)は5.8であった。
【0167】
【0168】
調製例2(ジアミン(2)の製造)
撹拌装置、窒素導入管、およびディーンスターク装置を備えた500mL(三ツ口)フラスコに、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン27.50g、ビスフェノールA23.98g、無水炭酸カリウム(K2CO3)21.77g、N-メチル-2-ピロリドン220mL、およびトルエン110mLを入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら加熱し、130~140℃で4時間トルエンを還流させた。その後、さらに加熱して170~180℃でトルエンを留去した。さらに、170~180℃で10時間撹拌を継続した後、室温に戻した。
【0169】
得られた生成物が入ったフラスコに、4-アミノフェノール5.04g、無水炭酸カリウム6.39g、N-メチル-2-ピロリドン30mL、及びトルエン150mLを添加し、再び窒素雰囲気下で撹拌しながら加熱し、130~140℃で3時間トルエンを還流させた。その後、加熱して170~180℃でトルエンを留去し、さらに170~180℃を保持しつつ4時間撹拌を継続した。その後、室温まで冷却し、反応液を3000mLのメタノールに添加、ろ過することで粉末状固体を得た。この粉末状固体をメタノールおよび水で繰返し洗浄した後、100℃で8時間減圧乾燥して、粉末状固体を得た(ジアミン(2)、下記式で表される化合物、収率:95%)。得られた粉末状固体をGPC測定(溶剤THF、標準ポリスチレン換算)に付して求めた数平均分子量は2920、重量平均分子量は5100、及び平均重合度(m-2)は6.2であった。
【0170】
【0171】
実施例1(硬化性化合物Aの製造)
撹拌装置、窒素導入管および乾燥管を備えた1000mL(三ツ口)フラスコに、無水マレイン酸を5.88g、N-メチル-2-ピロリドンを50mL、トルエンを200mL入れ、窒素置換した。そこへ、調製例1で得られたジアミン(1)26.76gをNMP250mLに溶解させた溶液を添加し、窒素雰囲気下、室温で24時間撹拌した。その後、パラトルエンスルホン酸一水和物0.761gを添加し、140℃に加熱して、8時間攪拌を継続し、トルエンを還流して水分を除去した。反応液を室温に戻した後、反応液を3000mLのメタノールに添加、ろ過することで粉末状固体を得た。この粉末状固体をメタノールおよび水で繰返し洗浄した後、100℃で8時間減圧乾燥して、粉末状固体(硬化性化合物A、下記式(A)で表される化合物、芳香環由来の構造の割合:72重量%、収率:90%)を得た。硬化性化合物Aの
1H-NMRスペクトルを
図5に、FTIRスペクトルを
図6に示す。
尚、芳香環由来の構造の割合は
1H-NMRによって求めた。
1H-NMR(CDCl
3)δ:6.88(m), 7.08(d,J=8.0Hz), 7.17(d,J=8.0Hz), 7.39(m), 7.81(d,J=8.0Hz)
【0172】
【0173】
また、硬化性化合物Aの200℃における粘度をレオメーターにより測定したところ、7Pa・sであった。
【0174】
実施例2(硬化性化合物Bの製造)
(参考例とする)
ジアミン(1)に代えて、調製例2で得られたジアミン(2)を使用し、前記ジアミン(2)48.57gを330mLのNMPに溶解した溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、粉末状固体(硬化性化合物B、下記式(B)で表される化合物、芳香環由来の構造の割合:71重量%、収率:90%)を得た。硬化性化合物Bの
1H-NMRスペクトルを
図7に、FTIRスペクトルを
図8に示す。
1H-NMR(CDCl
3)δ:1.71(s), 6.87(s), 7.02(m), 7.09(m), 7.17(d,J=8.8Hz),7.26(m), 7.37(d,J=8.8Hz), 7.80(m)
【0175】
【0176】
また、硬化性化合物Bの200℃における粘度をレオメーターにより測定したところ、14Pa・sであった。
【0177】
実施例3(硬化性化合物Cの合成)
撹拌装置、窒素導入管および乾燥管を備えた50mL(三ツ口)フラスコに、調製例1で得られたジアミン(1)を4.571g、4-フェニルエチニル-無水フタル酸を1.852g、N-メチル-2-ピロリドンを33mL入れ、窒素雰囲気下、室温で24時間撹拌した。その後、無水酢酸4.215g、トリエチルアミン1.405gを添加し、60℃で6時間撹拌した。反応液を室温に戻した後、反応液を1500mLのエタノールに添加、ろ過することで粉末状固体を得た。この粉末状固体をエタノールおよび水で繰返し洗浄した後、100℃で8時間減圧乾燥して、粉末状固体(硬化性化合物C、下記式(C)で表される化合物、芳香環由来の構造の割合:76重量%、収率:90%)を得た。硬化性化合物Cの
1H-NMRスペクトルを
図9に、FTIRスペクトルを
図10に示す。
【0178】
【化19】
1H-NMR(CDCl
3)δ:6.83(m), 6.90(m), 7.09(m), 7.21(d,J=8.8Hz),7.39(m), 7.48(d,J=8.8Hz), 7.58(m), 7.81(m), 7.92(m), 8.08(s)
【0179】
実施例4(硬化性化合物Dの合成)
(参考例とする)
ジアミン(1)に代えて、調製例2で得られたジアミン(2)を使用し、前記ジアミン(2)を4.550g使用し、4-フェニルエチニル-無水フタル酸を1.395g使用した以外は実施例3と同様にして、粉末状固体(硬化性化合物D、下記式(D)で表される化合物、芳香環由来の構造の割合:74重量%、収率:90%)を得た。硬化性化合物Dの
1H-NMRスペクトルを
図11に、FTIRスペクトルを
図12に示す。
【0180】
【化20】
1H-NMR(CDCl
3)δ:1.71(s), 7.02(m), 7.11(d,J=8.8Hz), 7.21(d,J=8.8Hz),7.27(m), 7.41(m), 7.48(d,J=8.8Hz), 7.58(m), 7.81(m), 7.93(m), 8.08(s)
【0181】
評価
実施例で得られた硬化性化合物A、B、C、及びDについて、以下の評価を行った。
【0182】
[数平均分子量、重量平均分子量]
実施例で得られた硬化性化合物A、B、C、及びDの数平均分子量及び重量平均分子量をGPC測定(溶剤THF、標準ポリスチレン換算)によって求めた。
【0183】
[Tg]
実施例で得られた硬化性化合物A、B、C、及びDのTgをDSC測定により求めた。
硬化性化合物C及びDのDSC測定結果を
図13に示す。硬化性化合物DはTgが140℃程度、硬化性化合物CはTgが120℃程度であり、硬化性化合物C、Dは、いずれも400℃付近に硬化反応による発熱ピークが観測された。
【0184】
[硬化物の熱重量減少分析]
実施例で得られた硬化性化合物A、B、C、D、又は比較例としてのPEEKをガラス板上に厚さ0.5mm程度で均一になるように乗せ、マッフル炉で加熱(25℃から371℃まで10℃/minで昇温し、その後、371℃で2時間保持)して前記硬化性化合物を硬化させ、硬化物を得た。
硬化性化合物Cの硬化物、及び硬化性化合物Dの硬化物のDSC結果を
図14に示す。DSCチャートに発熱ピークが見られないことから、得られた硬化物は高い硬化度を有すること(若しくは、実施例で得られた硬化性化合物は硬化性に優れ、加熱処理を施すことにより全ての硬化性官能基が失われたこと)が分かる。
【0185】
また、TG/DTAを使用して、得られた硬化物の熱重量減少分析を行い、5%重量減少温度(T
d5)及び10%重量減少温度(T
d10)を求めた。硬化性化合物Cの硬化物、及び硬化性化合物Dの硬化物の熱重量減少分析結果を
図15に示す。
【0186】
[窒素原子含有量]
実施例で得られた硬化性化合物A、B、C、D、又は比較例としてのPEEKをCHN元素分析に付して、窒素原子含有量を求めた。尚、標準試料にはアンチピリンを使用した。
【0187】
【0188】
[溶剤溶解性評価]
溶剤溶解性を以下の方法で測定した。
実施例で得られた硬化性化合物A、B、C、D、又は比較例としてのPEEK(1g)を、下記表に示す溶剤(100g)と混合し、25℃で24時間撹拌し、溶剤への溶解性を下記基準で評価した。
評価基準
○(良好):完全に溶解した
×(不良):少なくとも一部が溶解せずに残存した
【0189】
結果を下記表にまとめて示す。
【表2】
溶剤 NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMSO:ジメチルスルホキシド
THF:テトラヒドロフラン
【0190】
[接合強度評価]
実施例で得られた硬化性化合物A、B、C、又はDを下記表に記載の基板上に厚さ0.5mm程度で均一になるように乗せ、下記表に記載の条件で加熱して硬化させて硬化物/基板積層体を得た。
得られた積層体における硬化物の基板への接合強度を、JIS K6850に準拠した方法で最大点応力を測定することで評価した。
【0191】
結果を下記表にまとめて示す。
【表3】
基板 アルミニウム:A5052
ステンレス鋼:SUS304
【0192】
実施例5~16(塗料)(実施例11~16は参考例とする)
下記表4に記載の通り、硬化性化合物と溶剤をサンプル瓶へ秤量し、撹拌した。超音波を25℃で5分間あて、完全に硬化性化合物を溶解させて塗料を得た。
得られた塗料をシリンジで基板上にキャストし、アプリケーターで均一に広げ、これを一次乾燥(120℃の乾燥機中で1時間乾燥)、続いて二次乾燥(150℃の乾燥機中、真空で1時間乾燥)に付して塗膜を得た。得られた塗膜を熱硬化(220℃の乾燥機中、真空で1時間)させて、硬化物/基板積層体を得た。
【0193】
比較例1(塗料)
硬化性化合物としてPEEKを使用した場合、PEEKは140℃で5分加熱撹拌しても溶剤に溶けず、塗料が形成できなかった。
【0194】
実施例11-2、11-3(参考例とする)
以下の点を変更した以外は実施例11と同様に行って、塗料を得、硬化物/基板積層体を得た。
すなわち、下記表5に記載の通りフィラーを添加した。また、塗料の熱硬化条件を「300℃の乾燥機中、真空で1時間」とした。
【0195】
実施例17~21(粉体塗料)(参考例とする)
下記表6に記載の通り、硬化性化合物を粉体塗料として使用し、これを基板上に乗せ均一に広げて、250℃で5分加熱して前記粉体塗料を溶融させて塗膜を形成した。得られた塗膜を、熱硬化(320℃の乾燥機中で30分間加熱)させて、硬化物/基板積層体を得た。
【0196】
比較例2(粉体塗料)
硬化性化合物としてPEEKを使用した場合、PEEKは320℃で60分加熱しても溶融せず、塗膜が形成できなかった。
【0197】
実施例5~21、11-2、11-3、比較例1~2で得られた硬化物/基板積層体を碁盤目テープ試験(JIS K5400-8.5準拠)に付し、硬化物の基板への密着性を以下の基準で評価した。
○(良好):硬化物の剥離は見られなかった
×(不良):硬化物の剥離が見られた
【0198】
【0199】
溶剤 NMP:N-メチル-2-ピロリドン
基板 銅箔:市販電解銅箔 Rz=0.85μm
ステンレス鋼:SUS430
アルミ:取手付アルミニウムカップ
ガラス:MICRO SLIDE GLASS S1214
ポリイミド:カプトンH、東レ・デュポン(株)製
シリカ:HS-207、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製
マイカ:NK-8G、日本光研工業(株)製
【0200】
【0201】
実施例22~25(封止剤)(実施例24、25は参考例とする)
下記表7に記載の通り、硬化性化合物と溶剤をサンプル瓶へ秤量し、撹拌した。超音波を25℃で5分間あて、完全に硬化性化合物を溶解させて封止剤を得た。
得られた封止剤をシリンジで基板上にキャストし、アプリケーターで均一に広げ、これを一次乾燥(120℃の乾燥機中で1時間乾燥)、続いて二次乾燥(150℃の乾燥機中、真空で1時間乾燥)に付して塗膜を得た。得られた塗膜を熱硬化(220℃の乾燥機中、真空で1時間)させて、硬化物/基板積層体を得た。
【0202】
比較例3(封止剤)
硬化性化合物としてPEEKを使用した場合、PEEKは140℃で5分加熱撹拌しても溶剤に溶けず、封止剤が形成できなかった。
【0203】
実施例22~25、比較例3で得られた硬化物/基板積層体、及び前記硬化物/基板積層体を耐熱試験(270℃で1時間加熱)に付した後のものについて、碁盤目テープ試験(JIS K5400-8.5準拠)に付し、硬化物の基板への密着性を以下の基準で評価した。
○(良好):硬化物の剥離は見られなかった
×(不良):硬化物の剥離が見られた
【0204】
実施例22~25、及び比較例3で得られた硬化物/基板積層体について、その硬化物の比誘電率及び誘電正接を下記方法で測定した。
<測定方法>
硬化物/基板積層体を切削して幅1.5mmの試験片を作成し、空洞共振器摂動法(ASTM D2520に準拠)で比誘電率、誘電正接を測定した。周波数は10GHzで測定した。
【0205】
【0206】
実施例26~27(積層体)(実施例27は参考例とする)
下記表8に記載の通り、硬化性化合物と溶剤をサンプル瓶へ秤量し、撹拌した。超音波を25℃で5分間あて、完全に硬化性化合物を溶解させて組成物を得た。
得られた組成物をシリンジで基板(1)上にキャストし、アプリケーターで均一に広げ、これを一次乾燥(120℃の乾燥機中で1時間乾燥)、続いて二次乾燥(150℃の乾燥機中、真空で1時間乾燥)に付して塗膜を得た。得られた塗膜を熱硬化(220℃の乾燥機中、真空で1時間)させて、硬化物/基板(1)積層体を得た。
【0207】
比較例4(積層体)
硬化性化合物としてPEEKを使用した場合、PEEKは140℃で5分加熱撹拌しても溶剤に溶けなかった。そのため、基板(1)との接着ができず、PEEK硬化物/基板(1)積層体が形成できなかった。
【0208】
実施例28(積層体)(参考例とする)
下記表8に記載の通り、硬化性化合物と溶剤をサンプル瓶へ秤量し、撹拌した。超音波を25℃で5分間あて、完全に硬化性化合物を溶解させて組成物を得た。
基板(1)上に、得られた組成物をシリンジでキャストし、アプリケーターで均一に広げ、これを一次乾燥(120℃の乾燥機中で1時間乾燥)、続いて二次乾燥(150℃の乾燥機中、真空で1時間乾燥)に付して塗膜を得た。
得られた塗膜に基板(2)を積層し、その後、前記塗膜を熱硬化(220℃の乾燥機中で1時間)させて、基板(2)/硬化物/基板(1)積層体を得た。
【0209】
比較例5(積層体)
フィルム状PEEKに基板(2)を積層し、その後、加熱処理(3MPa、300℃の乾燥機中で1時間)を施したが、PEEKが溶融せず、基板(2)との接着ができず、PEEK硬化物/基板(2)積層体が形成できなかった。
【0210】
実施例28-2(積層体)(参考例とする)
以下の点を変更した以外は実施例28と同様に行って、組成物を得、基板(2)/硬化物/基板(1)積層体を得た。
すなわち、下記表9に記載の通り、基板(2)として銅箔を使用した。
【0211】
実施例28-3(積層体)(参考例とする)
実施例28と同様の方法で得られた組成物を、キャリア(ポリイミド製、厚み100μm)上にキャストし、アプリケーターで均一に広げ、これを一次乾燥(120℃の乾燥機中で1時間乾燥)、二次乾燥(150℃の乾燥機中で1時間乾燥)、続いて三次乾燥(210℃の乾燥機中、真空で1時間乾燥)に付して厚み100μmの塗膜を得た。
得られた塗膜をキャリアから剥離した。塗膜はキャリアから容易に剥離できた。
基板(1)、基板(2)として銅箔(厚み18μm)を使用し、基板(1)、基板(2)の間に前記塗膜を挟んだ状態で熱硬化[真空熱圧着機中、210℃から5℃/分で300℃まで昇温し、その温度で60分保持した。また、昇温開始から5分で3MPaまで昇圧した]させて、基板(2)/硬化物/基板(1)積層体を得た。
【0212】
実施例26~28、28-2、28-3で得られた積層体ついて、下記方法で屈曲性を評価した。
すなわち、積層体を1cm×10cmの大きさに切り出し、長手方向の中央部(端から5cm)で半分に折り曲げた。折り部に100gの重りをのせた後、硬化物の外観を目視で観察し、下記基準で評価した。
屈曲性評価基準
○:割れや剥がれは、認められなかった
×:割れ若しくは剥がれが認められた
【0213】
実施例26~28、28-2、28-3で得られた積層体(実施例28、28-2、28-3の場合は、硬化物/基板(1)積層体)を、碁盤目剥離試験(JIS K5400-8.5準拠)に付し、100マス中、剥離せずに残ったマスの数によって、硬化物の基板への密着性を評価した。
【0214】
実施例26~28、28-2、28-3で得られた積層体の硬化物、及び比較例5で使用したフィルム状PEEKについて、その比誘電率及び誘電正接を上記と同様の方法で測定した。
【0215】
【0216】
【0217】
実施例29~36(複合材)(実施例31、33、36は参考例とする)
下記表10に記載の通り、硬化性化合物をシクロヘキサノンに溶解させて複合材形成用組成物を得た。
得られた組成物5.0gに繊維1.186gを浸漬して、そのまま25℃で8時間静置した。その後、溶液から繊維を引き揚げ、130℃のホットステージ上で1時間加熱することでシクロヘキサノンを揮発させて、複合材(プリプレグ)を得た。
得られた複合材(プリプレグ)をアルミ箔で挟み、これをプレス機に設置し、250℃で3分間加熱した後、0.1MPaで加圧した。250℃で8分間保持し、その後320℃まで12分かけて昇温し、320℃で20分間保持して硬化性化合物を硬化させて、複合材(硬化物)を得た。
【0218】
比較例6(複合材)
硬化性化合物としてPEEKを使用した場合、PEEKは140℃で5分間加熱撹拌してもシクロヘキサノンに溶けず、複合材形成用組成物は得られなかった。そのため、PEEKを繊維に含浸させることができなかった。
【0219】
実施例29~36で得られた複合材(硬化物)の断面を観察したところ、繊維の1μm以下の空隙に硬化性化合物が入り込んで硬化していることが確認できた。
【0220】
【0221】
実施例37
硬化性化合物Aを真空圧縮成形法により硬化して硬化物を得た。具体的には、硬化性化合物Aを投入した成形用金型をプレス機(30トン手動油圧真空可熱プレス IMC-46E2-3型、(株)井元製作所製)にセットして50℃に調整し、真空に引きながら、20℃/minで280℃まで昇温して1時間保持した後、さらに20℃/minで320℃まで昇温して30分保持した。その後、プレス機を空冷及び水冷し100℃以下になったところで金型を取り出して、平面状の硬化物(厚み:0.2cm)を得た。得られた硬化物のFTIRスペクトルを
図16に示す。得られた硬化物の物性は以下の通りであった。
・密度(JIS K7112A 23℃):1.29g/cm
3
・ガラス転移温度(DSCにより測定):154℃
・熱膨張係数(JIS K7197に準拠)(Tg以下):50.8ppm/℃
・熱膨張係数(JIS K7197に準拠)(Tg以上):263ppm/℃
・比誘電率(ASTM D2520に準拠、23℃)(10GHz):2.94
・誘電正接(ASTM D2520に準拠、23℃)(10GHz):0.0056
・難燃性(UL94Vに準拠、厚み0.15mm):V-1グレード
・窒素原子含有量:1.30重量%
【0222】
実施例38
(参考例とする)
硬化性化合物Aに代えて硬化性化合物Bを使用した以外は実施例37と同様にして、平面状の硬化物(厚み:0.2cm)を得た。得られた硬化物のFTIRスペクトルを
図17に示す。得られた硬化物の物性は以下の通りであった。
・密度(JIS K7112A 23℃):1.19g/cm
3
・ガラス転移温度(DSCにより測定):176℃
・熱膨張係数(JIS K7197に準拠)(Tg以下):73ppm/℃
・熱膨張係数(JIS K7197に準拠)(Tg以上):234ppm/℃
・比誘電率(JIS-C2138に準拠、23℃)(1MHz):2.69
・誘電正接(JIS-C2138に準拠、23℃)(1MHz):0.0050
・窒素原子含有量:1.01重量%
【0223】
以上のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記する。
[1] 下記(a)~(e)の特性を備えることを特徴とする硬化性化合物。
(a)数平均分子量(標準ポリスチレン換算):1000~15000
(b)硬化性化合物全量に占める芳香環由来の構造の割合:50重量%以上
(c)25℃における溶剤溶解性:1g/100g以上
(d)ガラス転移温度:280℃以下
(e)当該硬化性化合物の硬化物の、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(Td5)が300℃以上
[2] 式(1)で表される化合物である、[1]に記載の硬化性化合物。
[3] 式(1)中のR1、R2が、同一又は異なって、環状イミド構造を有する硬化性官能基である、[2]に記載の硬化性化合物。
[4] 式(1)中のR1、R2が、同一又は異なって、式(r-1)~(r-6)で表される基から選択される基である、[2]に記載の硬化性化合物。
[5] 式(1)中のD1、D2が、同一又は異なって、式(d-1)~(d-4)で表される構造を含む基から選択される基である、[2]~[4]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[6] 式(I)、及び式(II)中のAr1~Ar3が、同一又は異なって、炭素数6~14の芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、又は炭素数6~14の芳香環の2個以上が、単結合、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、又は炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基である、[2]~[5]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[7] 式(I)で表される構造が、ベンゾフェノン由来の構造である、[2]~[6]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[8] 式(1)で表される化合物全量における、ベンゾフェノン由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である、[7]に記載の硬化性化合物。
[9] 式(II)で表される構造が、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種の化合物由来の構造である、[2]~[8]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[10] 式(1)で表される化合物全量における、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールA由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である、[9]に記載の硬化性化合物。
[11] 式(1)中のLが、式(L-1)で表される基である、[2]~[10]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[12] 式(1)中のLが、式(L-1-1)又は(L-1-2)で表される基である、[2]~[10]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[13] 窒素原子含有量が、硬化性化合物全量の2.8~0.1重量%である、[3]~[12]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[14] 比誘電率が6以下である、[1]~[13]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[15] 誘電正接が0.05以下である、[1]~[14]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[16] 硬化性化合物の硬化物であって、厚み0.15mmの硬化物の、UL94Vに準拠した方法による燃えにくさがV-1グレードである、[1]~[15]の何れか1つに記載の硬化性化合物。
[17] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物の硬化物又は半硬化物を含む、粒子状又は平面状の構造物。
[18] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体。
[19] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物を基板上に載置し、加熱処理を施すことで、前記硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体を得る、積層体の製造方法。
[20] プラスチック製の支持体上に、前記硬化性化合物の溶融物を塗布し、固化後、前記支持体から剥離して前記硬化性化合物を含む薄膜を得る、[19]に記載の積層体の製造方法。
[21] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物の硬化物又は半硬化物と繊維とを含む複合材。
[22] 硬化性化合物の硬化物を含み、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(Td5)が300℃以上であり、320℃で30分の加熱処理に付した後の窒素原子含有量が2.8~0.1重量%である、固形物。
[23] IRスペクトルの1620~1750cm-1の領域にピークを有する、[22]に記載の固形物。
[24] 硬化性化合物が、式(1)で表され、式中のR1、R2が、同一又は異なって、環状イミド構造を有する硬化性官能基である硬化性化合物である、[22]又は[23]に記載の固形物。
[25] 硬化性化合物が、記式(1)で表され、式中のR1、R2が、同一又は異なって、式(r-1)~(r-6)で表される基から選択される基である硬化性化合物である、[22]又は[23]に記載の固形物。
[26] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物を含む接着剤。
[27] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物を含む塗料。
[28] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物を含む粉体塗料。
[29] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物を含む封止剤。
[30] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物を接着剤として使用して半導体基板を積層する工程を経て半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法。
[31] [1]~[16]の何れか1つに記載の硬化性化合物を使用して半導体素子を封止する工程を経て半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0224】
本発明の硬化性化合物は良好な溶剤溶解性を有する。また、溶融温度が低く、オートクレーブ等の装置を用いなくても溶融することができる。そして、加熱処理や放射線照射を施すことにより速やかに硬化する。そのため、本発明の硬化性化合物は良好な加工性を有し、接着剤、封止剤、塗料等として好適に使用することができる。