(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】音響泳動印刷における音響泳動力の調節
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20231005BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231005BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20231005BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20231005BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20231005BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B41J2/14 101
B41J2/01 401
B41J2/015 101
B05D1/26 Z
B05D3/00 D
B05D3/12 Z
(21)【出願番号】P 2020561068
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 US2019029039
(87)【国際公開番号】W WO2019212845
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-25
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】フォレスティ ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ルイス ジェニファー エー
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0001439(US,A1)
【文献】国際公開第2018/022513(WO,A1)
【文献】特開平08-258271(JP,A)
【文献】特開2003-121440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B05D 1/26
B05D 3/00
B05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響泳動印刷方法であって、前記方法は、
ノズルを第1の流体内に配置するステップを含み、前記ノズルは、ノズル開口部を有し、
振動エミッタによって音響場を前記第1の流体内に発生させるステップを含み、
第2の流体を前記ノズルから押し出し、それにより前記ノズル開口部のところに前記第2の流体のペンダント液滴を形成するステップを含み、
前記ノズル開口部のところの前記音響場を変調するステップを含み、
前記音響場からの音響力は、前記ペンダント液滴の離脱を促進し、それにより、前記第2の流体は、噴出液滴として前記第1の流体内に噴出され
、
前記音響場を変調する前記ステップは、前記音響場をパルス化するステップを含み、前記ペンダント液滴は、前記パルス化によって定められた離脱周波数で離脱され、
前記噴出液滴の噴出速度は、前記パルス化のデューティーサイクルが増大するにつれて増大する、方法。
【請求項2】
前記パルス化の周波数は、0.01Hz~10,000kHzである、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
前記パルス化は、方形波、三角波、のこぎり波、正弦波から成る群から選択された波形で実施される、請求項
1または2記載の方法。
【請求項4】
前記パルス化の振幅は、ピーク振幅の0%超から100%まで変化する、請求項
1~3のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項5】
前記パルス化の前記振幅は、前記ピーク振幅の50%から100%まで変化する、請求項
4記載の方法。
【請求項6】
前記ペンダント液滴は、200ms未満の離脱誤差がある所定の時間で前記ノズルから離脱する、請求項1~
5のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項7】
複数の前記ノズルを前記第1の流体内に配置するステップをさらに含み、前記ノズル開口部からの前記ペンダント液滴の前記離脱は、同期化される、請求項1~
6のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項8】
前記噴出液滴は、球の形をしている、請求項1~
7のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の流体は、0.001から1000までの範囲にあるZ値を有する、請求項1~
8のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項10】
前記Z値は、10超~1000である、請求項
9記載の方法。
【請求項11】
前記ノズル開口部は、固体、液体、またはゲルから成る印刷基材と対向して位置決めされる、請求項1~
10のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項12】
前記噴出液滴は、Δα<10゜の角度軌道誤差のある状態で所定の場所で前記印刷基材上または前記印刷基材内に付着する、請求項
11記載の方法。
【請求項13】
音響泳動印刷方法であって、前記方法は、
ノズルを第1の流体内に配置するステップを含み、前記ノズルは、ノズル開口部を有し、
振動エミッタによって音響場を前記第1の流体内に発生させるステップを含み、
第2の流体を前記ノズルから押し出し、それにより前記ノズル開口部のところに前記第2の流体のペンダント液滴を形成するステップを含み、
前記ノズル開口部のところの前記音響場を変調するステップを含み、
前記音響場からの音響力は、前記ペンダント液滴の離脱を促進し、それにより、前記第2の流体は、噴出液滴として前記第1の流体内に噴出され、
前記音響力を変調する前記ステップは、音響場周波数とは異なる周波数を有する波形を重ね合わせ、それにより前記音響力の振幅変調を実施するステップを含む
、方法。
【請求項14】
前記波形の前記周波数は、前記ペンダント液滴の固有周波数の±50%以内である、請求項
13記載の方法。
【請求項15】
前記波形の前記周波数は、前記音響場周波数よりも低い、請求項
13または14記載の方法。
【請求項16】
離脱時における前記ペンダント液滴のサイズは、前記振幅変調に起因して減少し、前記ペンダント液滴の幅または直径は、約200ミクロン以下である、請求項
13~15のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項17】
前記ペンダント液滴は、離脱時に球形、卵形および涙滴形から選択された所定の形状を有する、請求項1~
16のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項18】
前記音響場の前記変調は、振幅変調、周波数変調、共振器のサイズまたは幾何学的形状の調節、エミッタのサイズまたは幾何学的形状の調節、および/または前記第1の流体の温度の調節の任意の組み合わせに起因している、請求項1~
17のうちいずれか一に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示内容(本発明)は、一般に、印刷技術に関し、特に音響泳動印刷(acoustophoretic printing)に関する。
【0002】
〔関連出願の参照〕
本特許文書は、2018年4月30日に出願された米国特許仮出願第62/664,467号の35U.S.C.§119(e)に基づく優先権の権益を主張する出願であり、この米国特許仮出願を参照により引用し、その記載内容全体を本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0003】
技術の現状の2Dおよび3D印刷法の制約に起因して、インキは、既存のプリンタの要件を満たす物理的特性を有するよう設計される場合が多い。物質を印刷可能にする典型的な方式は、添加剤を使用してインキの流動学的(レオロジー)特性を調整することである。かかる添加剤は、印刷適正を高めるが、入り込む不純物として働く場合がありまたはもしそうでなければ印刷される構造に対して有害であることが判明している場合がある。
【0004】
液滴を利用した印刷技術の分野では、インクジェット技術が業界および研究における基準となっている。特性(例えば、粘度および表面張力)の適当な組み合わせを有する物質の狭い窓しか、その広範な使用にもかかわらず、インクジェットプリントヘッドから首尾よく噴出させることができない。この制約は、レーリー‐プラトー(Rayleigh-Plateau)不安定性に基づく液滴離脱メカニズムに起因している場合がある。インクジェット技術では、インキの相当大きな機械的励振がメニスカスを壊して規定された量の液体を噴出させるために必要とされる場合がある。かかる動的プロセスは、界面張力と粘性力との強固な結合を示唆している。物理的観点からは、規定されたインキの液滴生成は、無次元数、オーネゾルゲ数Oh、およびその逆数Z=Oh-1=(ρσ2R)1/2/μによって特徴づけられる場合があり、Rは、液滴の特性長さ、ρは、液体の密度、σは、インキの表面張力、μは、インキの粘度である。驚くべきことではないが、科学文献は、首尾良い印刷において必要なことがインキの物理的性質が狭い窓内にZ値(1<Z<10)を生じさせることを報告している。
【0005】
実用的に関心のある多くのインキは、比較的粘度が高くかつ首尾よい印刷のための添加剤による希釈を必要とするコロイドまたはポリマーを主成分としている。本当のことを言えば、印刷プロセスの依存性をインキの物理的性質から切り離すことにより、2D印刷や3D印刷できる物質の性質および複雑さにおける前例のない自由度の実現を可能にすることができる。この問題を解決するための初期の研究の説明がフォレスティ等(Foresti et al.)に付与された米国特許第9,878,536号明細書および同第10,214,013号明細書(発明の名称:Acoustophoretic Printing Apparatus and Method)ならびにフォレスティ等名義の国際公開2018/022513号明細書(発明の名称:Apparatus and Method for Acoustophoretic Printing)に見受けられ、これらの特許文献を参照により引用し、これらの記載内容全体を本明細書の一部とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第9,878,536号明細書
【文献】米国特許第10,214,013号明細書
【文献】国際公開2018/022513号明細書
【発明の概要】
【0007】
本方法は、ノズル開口部を備えたノズルを第1の流体内に配置するステップと、振動エミッタによって音響場を第1の流体内に発生させるステップとを含む。第2の流体(「インキ」)をノズルから押し出し、それによりノズル開口部のところに第2の流体のペンダント液滴を形成する。ノズル開口部のところの音響場を変調し、音響場からの音響力は、ペンダント液滴の離脱を促進する。かくして、第2の流体またはインキを噴出液滴として第1の流体内に制御可能に噴出させる。音響泳動印刷のためには、ノズル開口部を印刷基材と対向して位置決めするのが良く、そして噴出液滴を印刷基材上にまたは印刷基材内に付着させるのが良い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】音響泳動印刷中におけるノズル開口部のところのペンダント液滴に加わる力を示す略図である。
【
図1B】離脱時における液滴体積が音響力およびノズル直径によりどのように変化するかを示す図である。
【
図2A】パルス変調方式による音響泳動印刷を説明するための略図である。
【
図2B】離脱時における液滴体積がパルス変調のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図2C】離脱時における液滴体積がパルス変調のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図2D】離脱時における液滴体積がパルス変調のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図2E】離脱時における液滴体積がパルス変調のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図2F】離脱時における液滴体積がパルス変調のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図2G】離脱時における液滴体積がパルス変調のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図2H】離脱時における液滴体積がパルス変調のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図3A】一定の音響場での音響泳動印刷を説明するための略図である。
【
図3B】離脱時における液体体積が一定の音響場のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図3C】離脱時における液体体積が一定の音響場のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図3D】離脱時における液体体積が一定の音響場のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図3E】離脱時における液体体積が一定の音響場のための印刷パラメータの関数としてどのように変化するかを示す図である。
【
図4A】離脱時における粘弾性流体および代表的な液滴形状の定モード音響泳動印刷を説明するための略図である。
【
図4B】離脱時における粘弾性流体および代表的な液滴形状のパルス化モード音響泳動印刷を説明するための略図である。
【
図5A】定モード印刷中における4重量%Carbopol(登録商標)溶液を含む噴出液滴の画像を示す図である。
【
図5B】パルス化モード印刷中における4重量%Carbopol(登録商標)溶液を含む噴出液滴の画像を示す図である。
【
図5C】定モード印刷中における3重量%アルギン酸塩溶液を含む噴出液滴の画像を示す図である。
【
図5D】パルス化モード印刷中における3重量%アルギン酸塩溶液を含む噴出液滴の画像を示す図である。
【
図6A】パルス変調中における同期化を示す図である。
【
図6B】パルス変調中における同期化を示す図である。
【
図6C】パルス変調中における同期化を示す図である。
【
図7】代表的な音響泳動ノズル‐基材の構成および噴出液滴の軌道を示す図である。
【
図8】基材‐プリントヘッドの相対運動方式による代表的な音響泳動液滴付着を示す図であり、付着誤差を印刷方向と直行する成分およびこれに平行な成分の状態に分離することができる原理を示す図である。
【
図9】方程式5による水滴の固有振動(第1モード)を示す図である。
【
図10A】液滴噴出を一定音響力および音響泳動力の振幅変調方式と比較して示す図である。
【
図10B】液滴噴出を一定音響力および音響泳動力の振幅変調方式と比較して示す図である。
【
図10C】液滴噴出を一定音響力および音響泳動力の振幅変調方式と比較して示す図である。
【
図11A】軌道誤差を振幅変調方式によりどのように減少することができるかを示す図である。
【
図11B】軌道誤差を振幅変調方式によりどのように減少することができるかを示す図である。
【
図12】音響泳動力に影響を及ぼすよう駆動周波数の振幅を制御する互いに異なる方式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、液滴噴出ならびに噴出液滴の寸法、形状、および軌道に対する前例のない制御を可能にするよう音響泳動印刷中に音響泳動場を変調する方法が記載される。本方法は、Z値の広い範囲、例えば0.001から1000までの範囲を有するインキに利用でき、かかるインキとしては、ニュートン状態と非ニュートン状態の両方、粘弾性流体、降伏応力流体、ポリマー溶液、ヒドロゲル、コロイド、エマルション、および複合流体一般が挙げられる。
【0010】
本方法は、ノズル開口部を備えたノズルを第1の流体内に配置するステップおよび音響場を振動または揺動エミッタにより第1の流体内に発生させるステップを含む。第1の流体は、音波を伝送することができる。第2の流体(「インキ」)がノズルから押し出され、それによりノズル開口部のところに第2の流体のペンダント液滴が形成される。ノズル開口部のところの音響場が変調され、音響場からの音響力がペンダント液滴の離脱を促進する。かくして、第2の流体またはインキは、噴出液滴として第1の流体内に制御可能に噴出される。音響泳動印刷のためには、ノズル開口部は、固体、液体、またはゲルを含む場合のある印刷基材と対向して位置決めされるのが良く、噴出液滴は、印刷基材上または印刷基材内に付着するのが良い。
【0011】
変調は、振動エミッタからの音波の周波数および/または振幅を変調してペンダント液滴に加わる音響泳動力を変えるステップを含むのが良い。音響場を変調する方式を詳細に説明する前に、音響泳動力を用いて液滴離脱に影響を及ぼすやり方の背後にある物理的原理を説明するとともに、音響泳動印刷法の種々の観点を説明する。
【0012】
図1Aは、ノズルの端部(ノズル開口部)のところのペンダント液滴を示しており、重力がノズル/リザーバ系とは別個独立に外部からの物体力として働く。離脱は、重力F
g=4/3πR
3ρg=Vρgの場合に起こり、この式において、Vは、液滴体積、gは、重力加速度であり、ノズル直径dが所与の場合に対抗する毛管力F
c=πσdよりも大きく、σは、液滴の表面張力である。特に、この方式は、ほぼ任意の粘度を有するインキの液滴、例えば、10
8Pa・sを超える粘度を有するピッチの液滴であってもこれら液滴の噴出を可能にする。離脱時における液滴体積V=πσd/ρgを減少させるため、外力(>>1g)を加えてペンダント液滴を本質的に引き寄せるのが良い。
【0013】
音響泳動力は、どのような電磁特性とも無関係であり、かかる音響泳動力は、空中の音響場内に液滴を捕捉しまたはこれら液滴を操作するために使用されていた。球形液滴を定常波構成で生じさせる場合、かかる球形液滴は、次の力平衡式によって決定される。
Fc=πσd=Fg+Fa=Vρ(g+ga)→V=πdσ/ρgeq (1)
【0014】
上式において、F
c=πσd、毛管力は、重力F
gと音響泳動力F
a∝R
3P
2∝VP
2の両方によって対抗され、Rは、液滴半径、Pは、音響圧力である。
図1Aおよび
図1Bは、方程式1によって記載される液滴離脱状態を示している。
【0015】
方程式1に記載された音響泳動液滴噴出プロセスは、準静的系を意味している。説明を拡張して動的モデルを用いて時間に対する液滴サイズの漸進的変化を説明することが可能である。ノズルに一定流量Qで流体を送ることによって、ペンダント液滴の体積は、V(t)=Q・tとして漸進的に変化することができ、tは、時間を表している。毛管力Fcは、この近似レベルにおいて一定であり、すなわち、Fc=πσd=一定である。方程式1は、次式となる。
Fg(t)+Fa(t)=V(t)ρ(g+ga(t))
=Q・t・ρ(g+ga(t)) (2)
【0016】
方程式2では、Qは、一定でありかつノズル液体の滴下計画の範囲内にあるとみなされる。この方式はまた、Q(t)の場合、すなわち、流量が時間の関数である場合に有効であると言える。
【0017】
音響場は、一定の音響場であるのが良く、この場合、gaは、一定であり、あるいは、音響場は、gaが時間の関数であるよう変調されるのが良い。
【0018】
一定の音響場の場合、ga=一定である。それゆえ、離脱は、次の場合に起こることができる。
V(t)ρ(g+ga(t))=Q・t・ρ(g+ga)=Fc=πσd (3)
【0019】
液滴は、V(td)=Vd、V=πdσ/ρgeqである特定の時間に離脱することができる。
【0020】
音響泳動加速力gaが時間の関数である場合(すなわち、可変音響場ga(t)の場合)、噴出の漸進的変化および液滴離脱は、ga(t)の関数であるのが良い。この場合、液滴離脱は不等式(方程式4)に従うと言える。
Q・t・ρ(g+ga(t))≧Fc=πσd (4)
【0021】
ga(t)が変調されるやり方は、液滴離脱に重要な影響を及ぼし、しかも基本的には、音響泳動液滴噴出が起こる仕方を変化させる場合がある。
【0022】
本開示は、いまや、本方法の一般的な説明に戻り、この場合、音響場は、液滴噴出および付着を制御するために音響泳動印刷中に変調される。上述したように、0.001から1未満までの範囲、1から10までの範囲、または10超から1000までの範囲にあるZ値を有するインキを含む広い範囲のインキ(「第2の流体」)を首尾よく印刷することができる。インキまたは第2の流体は、例えば、細胞(例えば、人間の細胞、例えば幹細胞、初代細胞または他の細胞タイプ)の有無、合成または天然由来の生体適合性材料、電気的またはイオン性の導電性物質、例えば液体金属(例えば、ガリウム‐インジウム共晶混合物(EGaIn))、および/またはポリマー、例えば接着剤、ヒドロゲル、またはエラストマーから成るのが良い。
【0023】
本方法を例えばフォレスティ等名義の国際公開第2018/022513号明細書(発明の名称:Apparatus and Method for Acoustophoretic Printing)に記載されている音波反射壁によって部分的にまたは全体が包囲された音響室内で実施されるのが良く、この国際公開を参照により引用し、その記載内容全体を本明細書の一部とする。音響室は、第1の流体、例えば気体または液体、例えば周囲空気、水または油を収容するのが良い。音響室は、第1の流体内に浸漬されるのが良い。幾つかの場合、第1の流体は、一定流量または可変流量で音響室中に強制流入されるのが良い。
【0024】
振動エミッタは、圧電変換機、金属オシレータまたは別の音波源の形態をしているのが良い。適当な駆動周波数は、1kHzから2MHzまでの範囲にあるのが良く、かかる駆動周波数は、より代表的には、20kHz~250kHzである。
【0025】
第2の流体の噴出のために採用されるノズルは、ガラスピペット、微細加工コンポーネント(例えば、シリコンから成る)、または別の流体導管の形態をしているのが良い。代表的には、ノズル開口部は、約1ミクロンから約1mmまでの範囲の直径、より代表的には、約10ミクロンから約100ミクロンまでの範囲にある直径を有する。印刷中におけるノズルの湿潤を阻止するため、ノズルは、ノズル開口部のところまたはその近傍に疎水性被膜を有するのが良い。適当なノズルの例がフォレスティ等名義の米国特許仮出願第62/826,436号(発明の名称:Nozzle Design for Acoustophoretic Printing)に記載されており、この米国特許仮出願を参照により引用し、その記載内容を本明細書の一部とする。
【0026】
本方法の利点は、噴出された液滴の寸法および形状を制御することができることである。代表的には、噴出液滴は、約2mm未満の幅または直径(または約4mm3未満の体積)を有する。以下に説明するように、高い音響場ではまたは音響場の変調により、サイズの小さな液滴、例えば約200ミクロン未満の幅もしくは直径、または約0.004mm3未満の体積を有する液滴を噴出させることができる。幾つかの場合、噴出液滴は、約120ミクロンというような小さい直径またはそれどころか約50ミクロンという小さな直径を有することができる。液滴直径に関する下限は、約10ミクロンであるのが良い。一般的に言えば、噴出液滴は、約10ミクロンから約2mmまでの範囲にある幅または直径を有し、50ミクロンから2mmまでの範囲または200ミクロンから2mmまでの範囲にある幅または直径がより代表的である。噴出液滴は、音響場をどのように変調するかに応じて、涙滴形または西洋梨形から球形または卵形までの範囲にある形状を有することができる。
【0027】
上述したように、音響場の変調は、振動エミッタからの振動の振動数および/または振幅を制御することを必然的に伴う場合がある。
【0028】
パルス変調
【0029】
一実施例では、音響場の変調は、「パルスモード」またはPM変調とも呼ばれる場合のある音響場をパルス化することを必然的に伴う場合がある。パルス化は、約0.01Hz~約10,000kHz、より代表的には1Hz~約1,000kHzの周波数で実施されるのが良い。パルス化は、オンオフパルス化であるのが良く、この場合、パルスの振幅は、ピーク振幅の0%か100%かのいずれかである。変形例として、パルスの振幅は、ピーク振幅の0%から100%まで変化しても良い。幾つかの場合、パルスの振幅は、ゼロには戻らないのが良い。例えば、パルスの振幅は、ピーク振幅の0%超から100%まで、ピーク振幅の50%から100%まで、またはピーク振幅の80%から100%まで変化することができる。パルス化は、方形波、三角波、のこぎり波、または正弦波から選択された波形によってあらわされるのが良い。パルス化のデューティーサイクルは、0%超から100%未満までの範囲にあるのが良く、かかるデューティーサイクルは、代表的には、10%から90%までの範囲、または30%から70%までの範囲にある。噴出液滴の噴出速度は、パルス化のデューティーサイクルが増大するにつれて増大するのが良い。
【0030】
ペンダント液滴の離脱頻度をパルス周波数によって定めることができる。液滴噴出に対するパルス変調の影響が
図2A~
図2Hに示されている。この実施例では、g
a(t)は、方形波関数であり、最大g
a=g
amax=5g、デューティーサイクルは、10%である。この場合、g
a(t)=0であるとき、離脱することができる最小液滴サイズは、単純な滴下と等価であり、すなわち、V
d=V
dripである。g
a(t)=g
amaxの場合、考えられる最小値は、V
min=V
drip/g
amax+1)である。方程式(4)の不等性に基づき、離脱は、パルス変調の周期τ
PMおよびその対応の周波数f
PMによって定めることができる。パルス変調方式では、液滴の噴出周波数f
eqは、一定であってかつパルス化モードによって定められ、他方、離脱時における液滴体積V
dは、流量Qに依存する。注目されることとして、g
amaxおよびf
PMは、Qを考慮に入れるよう選択されるのが良い。一般に、周期的噴出を行うためには、f
PMV
d>Q>f
PMV
minである。
【0031】
液滴噴出に対するパルス変調の影響を方程式3と関連して上述したように、音響場の変調なしで、すなわち、g
a=一定(「定モード」)の場合、液滴噴出と比較して理解することができる。この場合、一定Qおよびg
aの場合、噴出は、周期的であり、したがって、V
d=Q・τ
ejであり、τ
ejは、液滴噴出周期である。Qを増大させることによって、
図3A~
図3Eで理解できるように、液滴離脱周期が減少することができ、その対応の液滴噴出周波数f
ej=1/τ
dが増大することができ、またこの逆の関係も成り立つ。注目されるように、Qが漸変するこれらのシナリオの全てにおいて、離脱時における液滴体積V
dは、同一のままである。g
aを変化させることによってのみ、液滴サイズが変化する。これに付随して、等価Qの場合、漸増するg
aは、図示のようにf
ejに直線的に影響を及ぼす。
【0032】
パルスモードを用いた場合と定モードを用いた場合の主要な差は、後者のモードの場合、離脱時における液滴体積Vdが流量とは独立して一定であることにある。これとは対照的に、パルス変調方式では、液滴の噴出頻度feqは、一定でありかつパルス化モードによって定められ、これに対し、離脱時における液滴体積Vdは、流量で決まる。両方の方式、すなわち定モード(CM)およびパルスモード(PM)は、利点を有し、片方またはもう片方または両方の組み合わせを選択することは、特定の用途で決まるのが良い。例えば、ノイジー(noisy)/可変流量について優先権が単分散にある場合、定モードが良好な選択であるといって良い。ノイジー/可変流量について優先権が噴出頻度を一定に保つことにある場合、パルスモードが好適であるといって良い。液滴体積がその直径Dの3乗でスケール変更することは注目に値する。このことは、Vdの15%の変化が液滴単分散(直径の差が5%未満)を依然として保つことができるということを意味している。他方、液滴噴出頻度の15%の変化は、解像度/精度の低下に起因して基材上への印刷の場合に問題となる場合がある。
【0033】
音響場をパルス化することは、粘度が高い粘弾性の流体(例えば、Z値が100超から1000までのインキ)を取り扱う場合に多くの利点を有する。確かに、一定の音響場の存在は、依然として取り付けられた状態で液滴を引き始めることができ、
図4Aに示されているように、離脱前に液滴を細長くし、その結果、涙滴形/西洋梨形が得られ、または尾部を持つ液滴として説明される形状が得られる。パルス化音響場を用いることによって、この欠点を
図4Bに概略的に示されているように制御するとともに/あるいはなくすことができる。高粘度/粘弾性流体の2つの原型的な実施例は、降伏応力流体、例えば、架橋ポリアクリル酸ポリマー(例えば、4重量%Carbopol(登録商標))、または剪断低粘稠化流体、例えば3重量%アルギン酸溶液である。4重量%Carbopol(登録商標)溶液について
図5Aおよび
図5Bに示されるとともに、3重量%アルギン酸溶液について
図5Cおよび
図5Dに示されているように、定モードおよびパルス化モード音響泳動印刷を受けたこれらインキおよび印刷済み液滴の形状を調べた。Carbopol(登録商標)溶液に関し、d=100μm、g
a=60gを用いて定モード実験を実施し、d=100μm、g
a=60g、およびf
PM=0. 3Hzを用いてパルス化モード実験を行った。アルギン酸溶液に関し、d=90μm、g
a=60gを用いて定モード実験を実施し、d=90μm、g
a=60g、およびf
PM=3. 9Hzを用いてパルス化モード実験を行った。画像を比較することによって、定モード実験(
図5Aおよび
図5C)で生じた噴出液滴は、パルス化モード実験では減少したか(
図5B)なくなったか(
図5D)のいずれかである尾部を呈することを観察することができる。その結果、音響場をどのように変調させるかに応じて、噴出液滴は、尾部を備えた非球形の形状(例えば、涙滴形または西洋梨形)を有することができ、または噴出液滴は、球形の形状を呈することができる。
【0034】
上述したように、パルスモードは、液滴噴出頻度に対する制御を提供することができる。特定の用途に関し、噴出周期τ
ejに対する制御を行って液滴噴出が周期的に(または、所望の場合には非周期的に)起こるようにすることが重要であるかもしれない。この能力を用いると、
図6A~
図6Cに示されているように多数のノズルについて液滴噴出を同期させることができる。第1の流体内に配置された複数の(2つまたは3つ以上の)ノズルの場合、各ペンダント液滴へのパルスの利用により、離脱を誘起させることができ、その結果、液滴噴出が同期化され、換言すると、多数のノズルからの液滴噴出を制御して同時に起こるようにすることができる。各液滴に利用されたパルスを別個独立に制御することができれば、同期化は、多数のノズルからの液滴噴出を制御して同時にまたは所望ならば順次起こることができるようにすることを含むことができる。
【0035】
この方式は、製造上の難点が互いに異なるノズル相互間の製造上の不均一性を示す場合があるので、特に有益であると言える。加うるに、例えば流量Qおよび/または最大印加音響泳動力g
amaxのようなパラメータは、推定値に関してばらつきのある場合がある。
図6Bおよび
図6Cに示されているように、多数のノズルの噴出周期をg
amaxの互いに異なる値についてであってもまたはノズルを通る互いに異なる流量Qの場合であっても同期させることができる。有利には、パルス化モード音響泳動印刷を用いて、ペンダント液滴を理想的には離脱誤差が約200ms以下の状態で所定の時間でノズルから離脱させることができる。加うるに、既知の噴出液滴速度および基材からの距離に関し、噴出液滴を所定の時間で印刷基材上にまたは印刷基材内に付着させることができる。
【0036】
同期化はまた、印刷制度を高めるうえで有益であると言える。上述したように、軌道誤差εtおよび離脱誤差εdは、音響泳動印刷プロセスについて固有であると言える。
【0037】
図7は、代表的な音響泳動ノズル‐基材構成および噴出液滴軌道を示している。噴出軌道は、垂直軌道と比較して角度αを有するのが良い。精度は、Δαに基づいている。説明を簡単にするため、α=0であるとみなすが、説明は、任意のαまで拡張できる。
【0038】
精度を計算するとともに測定するためには、互いに異なる方式が存在する。例えば、(1)噴出角度αの変化を測定するのが良くかつ/あるいは(2)基材上の液滴配置を静的にまたは動的に分析することができる。第1の場合、各液滴の動作を2つの平面(xzおよびyz)上で追跡するのが良く、その目的は基材上における液滴付着を再構成することにある(
図7、右側の画像)。この結果は、音響泳動印刷プロセスにとって固有である誤差の特定の成分、すなわち軌道誤差ε
tを与えることができる。第2の場合、液滴を基材上に印刷することができる。明らかな利点は、非常に多くの液滴を印刷するとともに単一のピクチャでこれら液滴の位置を簡単に分析することができるということである。欠点は、静的標的/基材に関し、印刷することができる液滴の数に対して制約が存在し、と言うのは、これら液滴がすぐに重なり合う(
図7、右側の画像)ことである。
【0039】
かくして、別の方式は、印刷しながら基材を動かすことである。このようにすると、
図8に示されているように、液滴位置を理想的な軌道に沿って比較することによって誤差を償うことができる。その単純性とは別に、この方式はまた、別の利点を有し、すなわち、これが軌道誤差ε
tだけではなく離脱誤差ε
dをも償うのを助ける。離脱誤差は、液滴噴出のタイミングの不確実性に起因している。移動中の標的が存在する場合、この不確実性の結果として、精度の誤差が生じる場合がある。この誤差はまた、印刷方向と直行、また印刷方向と平行に定められる直行誤差および平行誤差として分類可能である。直行誤差は、軌道誤差ε
tに起因している。平行誤差は、2つの成分、すなわち軌道誤差ε
tおよび離脱誤差ε
dに起因している。軌道誤差は、対称性が仮定されると、直行方向と平行方向の両方において同一であるはずである。これは、平行誤差中の軌道誤差成分が直行誤差に等しいはずであることを意味している。この時点で、直行誤差を差し引くことによって離脱誤差を平行誤差により償うことができる。
【0040】
液滴噴出を同期させることによって離脱誤差εdを減少させることができる。上述したように、これは、パルス変調を用いて液滴離脱/噴出を制御することによって達成できる。いかに説明するように信号を異なる仕方で変調させるとともに振幅変調を用いて時間スケールを変調することによって軌道誤差εtを減少させることができる。
【0041】
振幅変調
【0042】
音響泳動力を用いると、液滴に振動を誘起させることができる。作用する力が周期的である場合、この力は、液滴の特定の固有振動モードnを励振することができる。そして振幅が小さい非粘性球形液滴についてはレーリーによってこの現象を研究されるとともに説明された。これらの近似値内において、固有の振動数を次のように計算することができる。
【0043】
fn=1/2π・((σ・n(n+1)(n-1)(n+2))/R3Γ)1/2 (5)
【0044】
この場合、Γ=ρ
0n+ρ(n+1)であり、ρ
0は、周囲流体(この場合、音響媒体)の密度である。
図9は、空気中の水滴について第1の共振モード(n=2)の固有振動数を示している。液滴半径は、音響泳動印刷について関心のある領域内にあるよう選択された(特に、ズームドインプロット、右側)が、これを大きな液滴と小さな液滴の両方について一般化することができる。超音波周波数と同等な共振振動数、例えばR=30μmに関して約25kHz(
図9の左側の円を参照されたい)を持つ液滴半径の場合が特に関心のあるものである。きわめて関心のある現象がこの周波数範囲内で起こる場合のあることが考えられる。
【0045】
音響泳動印刷の場合、振幅変調を行うために音響場周波数とは異なる周波数を有する波形を重ね合わせることによって音響力を調節することができる。例えば、音響泳動加速度g
a(t)をペンダント液滴の固有振動数と一致する周波数f
AMで調節することができる。一般的に言って、周波数f
AMは、ペンダント液滴の固有周波数の±50%の範囲内にあるのが良い。
図10A~
図10Cは、この変調方式の概略的なエビデンスと実験的なエビデンスの両方を示している。d=80μm、g
a=60gで水を噴出させることによって
図10Cの頂部の画像を得たが、この頂部画像は、一定のまたは連続した音響泳動力の影響を受けた液滴挙動を示し、d=80μm、g
a=60g、およびf
AM=270Hzで水を噴出させることによって
図10Cの底部の画像を得ることができたが、この底部の画像は、振幅変調音響泳動力の影響を受けた液滴挙動を示している。
【0046】
振幅変調を用いると、ペンダント液滴の横方向振動を減少させるとともに噴出液滴の軌道精度を高めることができる。換言すると、軌道誤差または偏差ε
tを例示の定モードおよび振幅変調(AM)モード実験について
図11Aに示されているように減少させることができる。
図11Bのデータは、定モードおよびAMモードについて液滴付着位置の標準偏差を示しており、この場合、音響泳動印刷は、g
a=87、d=60μm、Q=296nL/s、印刷速度=500mm/分、f
AM=2.5kHzで水‐グリセロール溶液(50重量%)を噴出させることによって音響泳動印刷を実施した。有利には、噴出液滴を所定の場所で印刷基材上または印刷基材中に付着させることができ、軌道誤差ε
tは、振幅変調なしの場合よりも50%未満に減少させ、そして角度軌道誤差Δα<10゜であった。
【0047】
振幅変調もまた用いると、噴出時における液滴サイズを減少させることができ、と言うのは、振動が液滴に追加の加速度を誘起させ、その結果、離脱を助ける追加の力が得られるからである。上述したように、約200ミクロン以下の幅もしくは直径または約0.004mm3以下の体積を有する液滴を噴射させることが可能である。幾つかの場合、噴出液滴は、約120ミクロンという小さな直径またはそれどころか約50ミクロンという小さな直径を有することができ、この場合、液滴直径の下限は、約10ミクロンであるのが良い。一般的に言って、噴出液滴は、約10ミクロンから約2mmまでの範囲にある幅または直径を有し、この場合、幅または直径は、代表的には、50ミクロンから2mmまでの範囲、200ミクロンから2mmまでの範囲、および/または50ミクロンから200ミクロンまでの範囲にある。
【0048】
振幅変調は、特定の形状のマイクロ粒子を発生させるために使用できる噴出時における液滴に特定の形状を与えることができる(互いに異なる固有モードで共振させることによって、すなわち、n=2,3,4……)。例えば、マイクロ粒子を発生させるために依然として振動している間、噴出液滴を空中で硬化させることができる。一般的に言って、振幅変調は、離脱時における所定の形状(例えば、涙滴形、球形、卵形)を有するペンダント液滴の生成の達成を許容することができる。また、fAMがほぼ固有振動数fnでありかつ主(駆動)周波数fまたはその高調波のうちの1つ、例えばf=25kHzの同一のオーダ内にある特定の場合を考慮することが重要であり、高調波は、2f、3f、……などである。
【0049】
音響泳動印刷に関してga(t)を制御するため、幾つかの解決策を具体化することができ、すなわち、(1)駆動周波数fの振幅を制御することができ、(2)任意の共振器の幾何学的形状を制御することができ、(3)媒体の音響特性を制御することができ、かつ/あるいは(4)これらの組み合わせを実施することができる。
【0050】
音響泳動力に働く簡単明瞭なやり方は、音波の振幅を変更することによること、例えば、駆動周波数(キャリヤ信号)の振幅を制御することによってである。音波は、任意の形状ならびにその変調を呈することができる。実際の実施例が
図13に示されている。変調がなんら行われていないキャリヤ信号fは、定モード(CM)印刷に対応している。周波数f
PMでの任意の波形を有するキャリヤ信号fの変調のパルスモード方式を用いると、結果として、パルスモード(PM)印刷が得られる。キャリヤ周波数とは異なる周波数f
AMおよび波形で変調することによって振幅変調を得ることができ、その結果、振幅変調(AM)モード印刷が得られる。波形の周波数は、
図13に示されているように、音響場周波数よりも低いのが良い。これら方式の全てを互いに組み合わせることもまた可能である。噴出精度を向上させる特定の場合では、PMとAMの両方を同時に用いるのが良い。
【0051】
追加的にまたは代替的に、例えば導波管またはサブウェーブ(subWAVE)(例えば、フォレスティ等に付与された米国特許第10,214,013号明細書(発明の名称:Acoustophoretic Printing Apparatus)およびフォレスティ等名義の国際公開第2018/022513A1号明細書(発明の名称:Apparatus and Method for Acoustophoretic Printing)に説明されており、これら特許文献を参照により引用し、これらの記載内容全体を本明細書の一部とする)を通って共振器(共鳴器ともいう)を用いることによって主周波数fを変化させることができる。この場合、力の振幅は、共振器の幾何学的形状と1つのまたは複数の励振周波数との整合に依存する。可聴周波数を変化させることによって、共振器は、共振状態にあっても良くまたはそうでなくても良く、音響室内(例えば、室出口またはサブウェーブ(subWave)内)における音響場の振幅および分布状態に、ならびにかくして、液滴に加わる音響泳動力に直接的に影響を及ぼす。追加的にまたは代替的に、共振器の幾何学的形状を制御することができる。共振器を特定の波長向けに設計することができるので、共振器の幾何学的形状の変更は、共振周波数を変化させることができる。音響場の変調は、追加的にまたは代替的に、振動エミッタを改造することによって達成できる。例えば、振動エミッタの寸法(サイズ)または幾何学的形状を変更することができる。
【0052】
追加的または代替的に、気体、例えば空気、または液体、例えば水もしくは油であるのが良い音響媒体(「第1の流体」)は、g(t)に影響を及ぼすよう選択されても良い。音波の波長は、この媒体に依存する。媒体の特性(例えば、その密度または温度)を変化させることによって、音波の波長もまた変化させることができる。これを用いると、システムをオン/オフ共振に設定することができ、それにより結果として生じる音響泳動力に影響を及ぼすことができる。実際には、音響泳動印刷中、第1の流体の温度を変化させることによって音響場の変調を達成することができる。
【0053】
以上を要約すると、音響泳動印刷に影響を及ぼすための音響場の変調は、以下の事項、すなわち、振幅変調、周波数変調、共振器のサイズまたは幾何学的形状の調節、エミッタのサイズまたは幾何学的形状の調節、および/または前記第1の流体の温度の調節の任意の組み合わせを用いて達成できる。
【0054】
本発明をそのある特定の実施形態と関連してかなり詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく他の実施例の実現が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲は、本明細書に含まれている好ましい実施形態の説明には限定されるべきではない。特許請求の範囲に記載の意義に含まれる全ての実施形態は、文言通りであるにせよ均等論によってであるにせよれ、いずれにせよ、本発明に含まれるものである。
【0055】
さらに、上述の利点は、必ずしも本発明の唯一の利点ではなく、記載した利点の全てを本発明のあらゆる実施形態で達成されることは必ずしも期待されない。