(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】栓体装置、薬剤容器および薬剤容器内で2つの物質を混合する方法
(51)【国際特許分類】
A61J 1/20 20060101AFI20231005BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61J1/20 314Z
A61M5/315 510
(21)【出願番号】P 2020573308
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 EP2019067479
(87)【国際公開番号】W WO2020007752
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】102018210941.9
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513220920
【氏名又は名称】フェッター ファルマ-フェルティグング ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メスナー-ルゴヴァ,ファトバルダ
(72)【発明者】
【氏名】エッゲンスベルガー,マルクス
【審査官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04116240(US,A)
【文献】西独国特許出願公開第03635574(DE,A1)
【文献】実開平07-022980(JP,U)
【文献】米国特許第04254768(US,A)
【文献】国際公開第2015/199336(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0136799(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/20
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栓体要素(3)を備えた、薬剤容器(45)を密閉するための栓体装置(1)であって、
該栓体要素(3)が端部栓であり、該栓体装置(1)は、前記薬剤容器(45)を、該薬剤容器(45)の中心軸(M)の軸線方向で密閉するように形成されており、前記栓体装置(1)が、前記薬剤容器(45)内に少なくとも部分的に導入可能であり、前記栓体要素(3)が、前記薬剤容器(45)内における意図された設置位置で、前記薬剤容器(45)の前記中心軸(M)に沿って移動可能に形成されている、栓体装置(1)において、
前記栓体装置(1)が、少なくとも1つの保持手段(5)を備えた保持領域(23)
と、前記薬剤容器(45)を密閉するシール領域(9)と、を有していて、
前記栓体装置(1)の第1の機能状態では、閉鎖要素(7)と前記栓体要素(3)との間に中空室(29)が形成されているように、前記閉鎖要素(7)が、前記保持手段(5)によって、前記栓体要素(3)に対して位置固定的に
、前記栓体要素(3)に保持位置で解除可能に保持されて
いて、
前記栓体装置(1)の第1の機能状態では、前記保持手段(5)が前記軸線方向に直交する半径方向の内方に向かう保持力を前記閉鎖要素(7)に加えることによって前記閉鎖要素(7)を保持していて、
前記栓体装置(1)の第2の機能状態では、前記シール領域(9)の前記栓体要素(3)に対して前記軸線方向の遠位方向に力が加えられることに伴い前記保持手段(5)が前記半径方向の外方に拡開することによって、前記保持位置における前記閉鎖要素(7)の保持を解除し、
前記閉鎖要素(7)が、
前記薬剤容器(45)のための混合体として球体(25)に形成されていて、
前記第1の機能状態では、前記中空室(29)に連通する前記栓体要素(3)の開口(27)を塞ぐとともに、
前記第2の機能状態では、前記薬剤容器(45)内で自由に運動可能であるように前記薬剤容器(45)内に配置されていて、
前記中空室(29)が、前記第1の機能状態では、前記薬剤容器(45)の内壁(53)に対して流体的に密閉されている、
ことを特徴とする、栓体装置(1)。
【請求項2】
前記中空室(29)が、
前記第2の機能状態では開いていて、前記閉鎖要素(7)が、前記保持手段(5)によって前記保持位置に保持されていない、請求項
1に記載の栓体装置(1)。
【請求項3】
前記栓体要素(3)が、前記第1の機能状態において、前記閉鎖要素(7)に面した側に、少なくとも部分的に前記閉鎖要素(7)の方向に配向された押し出し突起(63)を有している、請求項1
または請求項2に記載の栓体装置(1)。
【請求項4】
前記押し出し突起(63)が、
前記第1の機能状態において、前記閉鎖要素(7)に面した側および/または先端部で前記閉鎖要素(7)に当接されている、
請求項3に記載の栓体装置(1)。
【請求項5】
前記閉鎖要素(7)が、少なくとも1つの第1の係止手段を有していて、前記栓体装置(1)の前記保持手段(5)が、前記第1の係止手段に対応して形成された少なくとも1つの第2の係止手段を有していて、該第2の係止手段が、前記保持領域(23)において、前記栓体要素(3)の、前記閉鎖要素(7)に面した側に配置されていて、前記第1の係止手段と前記第2の係止手段とが、前記第1の機能状態で係止方式にて互いに係合している、請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の栓体装置(1)。
【請求項6】
前記栓体装置(1)が、前記栓体要素(3)を取り囲む差込みスリーブ(15)を有していて、
前記差込みスリーブのスリーブ壁の外面が、前記薬剤容器(45)の内壁(53)に密に当接されるように形成されている、請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載の栓体装置(1)。
【請求項7】
前記差込みスリーブ(15)が、指掛け体として形成されていて、近位端において、
前記半径方向に突出した少なくとも1つの指用プレート(19)を有していて、該指用プレート(19)が、指によって裏側から係合可能であるように形成されている、
請求項6に記載の栓体装置(1)。
【請求項8】
前記差込みスリーブ(15)が、前記薬剤容器(45)に前記差込みスリーブ(15)を取り付けるための取付け構造(41)を有していて、該取付け構造(41)が
、前記薬剤容器(45)のための収容部(43)を有していて、該収容部(43)内に、前記薬剤容器(45)の近位端(49)が係止方式および/またはクランプ方式にて収容可能である、
請求項6または請求項7に記載の栓体装置(1)。
【請求項9】
基体(47)と、請求項1から
請求項8のいずれか一項に記載の栓体装置(1)とを備えた薬剤容器であって、前記栓体装置(1)は、
前記栓体要素(3)が前記薬剤容器(45)の近位端(49)を前記基体(47)のチャンバ(51)に対して密閉するように、前記薬剤容器(45)内へ部分的に移動させられて配置されていて、前記チャンバ(51)が、
前記半径方向では前記基体(47)の内壁(53)により画定されていて、
前記遠位方向では前記基体(47)の出口開口(55)および/または閉鎖キャップ(57)により画定されている、薬剤容器。
【請求項10】
前記基体(47)の前記出口開口(55)が、少なくとも前記チャンバ(51)に面した側に、前記閉鎖要素(7)の前記出口開口に面した側とは異なっている幾何学形状
である十字形の横断面(60)を有していて、前記閉鎖要素(7)による前記出口開口(55)の流体的に密な閉鎖を阻止する、
請求項9に記載の薬剤容器。
【請求項11】
押し出し装置(67)が設けられていて、該押し出し装置(67)の遠位端(71)に、凸部(73)が設けられている、
請求項9または
請求項10に記載の薬剤容器。
【請求項12】
前記栓体要素(3)が、前記第1の機能状態において、前記閉鎖要素(7)に面した側に、少なくとも部分的に前記閉鎖要素(7)の方向に配向された押し出し突起(63)を有していて、
前記栓体要素(3)が、弾性的に形成されていて、該栓体要素(3)は、前記押し出し装置(67)の前記凸部(73)によって、前記押し出し装置(67)に
前記遠位方向
の手動の圧力を加えることにより変形可能であり、
前記押し出し突起(63)が、前記閉鎖要素(7)の押し出しのために必要となる圧力に相当する強度よりも大きな軸線方向の強度を有している、
請求項11に記載の薬剤容器。
【請求項13】
請求項
9から請求項
12のいずれか一項に記載の薬剤容器(45)内で流体的に互いに分離されて保管された2つの物質(31,59)を混合する方法であって、前記2つの物質(31,59)のうちの第1の物質(31)が、前記栓体装置(1)の
前記中空室(29)内に配置されていて、前記2つの物質(31,59)のうちの第2の物質(59)が、
前記基体(47)の
前記チャンバ(51)内に配置されており、
前記栓体要素(3)に
前記遠位方向で力を加え、前記両物質(31,59)の流体的な分離を解消する方法において、
前記閉鎖要素(7)が
前記保持位置から外れるように移動させられるまで
、前記栓体要素(3)を、前記遠位方向に力を加えることに基づいて少なくとも部分的に変形させることを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記栓体要素(3)を
前記遠位方向に移動させ、前記両物質(31,59)の流体的な分離を解消し、前記保持領域(23)が、前記栓体装置(1)の
前記遠位方向への移動中に
前記保持手段(5)の前記半径方向の外方への拡開によって前記半径方向に緩和し、前記保持位置における前記閉鎖要素(7)の保持を解除する、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記薬剤容器(45)を、前記中空室(29)の開放後に揺らす、
請求項13または
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記栓体装置(1)を、前記2つの物質(31,59)の完全な押し出しのために、前記薬剤容器(45)内で末端位置へと移動させ、前記閉鎖要素(7)を前記末端位置において前記中空室(29)内に収容し、前記中空室(29)を前記閉鎖要素(7)によって完全に塞ぐ、
請求項13から
請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栓体装置と、このような栓体装置を備えた薬剤容器と、このような薬剤容器内で流体的に互いに分離されて保管された2つの物質を混合する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において挙げられる種類の栓体装置、薬剤容器ならびに方法は、知られている。一般的にはダブルチャンバシステムとして形成された薬剤容器内で、流体的に互いに分離されて保管された2つの物質が互いに混合される。両物質のうちの第1の物質は、近位の第1のチャンバ内に配置されていて、第2の物質は、遠位の第2のチャンバ内に配置されている。
【0003】
このような薬剤容器内では、近位の第1のチャンバは、近位方向では第1の栓体装置、特に端部栓により、遠位方向では第2の栓体装置、特に中間栓により画定されていて、半径方向では薬剤容器の内壁により画定されている。遠位の第2のチャンバは、近位方向では第2の栓体装置により、半径方向では薬剤容器の内壁により画定されていて、遠位方向では、好適には閉鎖キャップにより閉鎖されている薬剤容器先端部により画定されている。
【0004】
薬剤容器の初期化前に、近位のチャンバは、流体的に遠位のチャンバと、薬剤容器の周囲に対して密に閉鎖されている。初期化によってようやく、第2の栓体装置が混合位置へと移動させられ、これによりバイパスを介して両チャンバ間の流体的な接続が形成されるので、両物質は、第2の栓体装置が混合位置に配置されている限り、互いに混合することができる。特に手動の圧力を第1の栓体装置に作用させることによって、特に近位のチャンバの内容物、つまり第1の物質が近位のチャンバから押し出され、バイパスを介して遠位のチャンバ内へと搬入される。第1の栓体装置が第2の栓体装置に衝突するまで、近位のチャンバの容積は縮小し、第2の栓体装置は混合位置に留まっている。
【0005】
つまり初期化は、第1の栓体装置に遠位方向に圧力を加えることを含み、これにより、第1の栓体装置の移動が引き起こされる。この移動と、近位のチャンバの流体的な密閉に基づいて、第2の栓体装置にも圧力が加えられる。これにより、第2の栓体装置も、混合位置に至るまで遠位方向に移動させられる。混合位置では、バイパスを介して圧力均衡が生じるので、第2の栓体装置には、もはや片側で圧力が加えられていない。したがって、従来のこのような薬剤容器では、初期化と、ひいては両物質の混合とのために、両栓体装置を移動させることが必要である。
【0006】
初期化の前、つまり物質を混合する公知の方法の使用前には、両物質は互いに分離されて保管されている。これにより、物質の安全性および/または保存性が高められている。計画された投薬、特に注射前に初めて、初期化が実施される。栓体装置は薬剤容器内で、特にバイパスを介した混合が可能である軸線方向の位置に、薬剤容器の中心軸に沿って移動させられる。
【0007】
薬剤容器内での栓体装置の滑動性を高め、これにより、医学的な作用物質の無菌の保管および/または投薬を確実にするより安全な薬剤容器を得るために、薬剤容器の内壁は、シリコーン処理されている。しかし、これによって、このような公知の薬剤容器内に、シリコーン処理された内壁との接触時に特に望ましくない形式で反応する物質を配置することは不可能であるか、または少なくとも安全ではない。各チャンバへの時間的および/または空間的に互いに分離して行われる充填は、手間がかかる。なぜならば、第1のチャンバへの充填後に、薬剤容器は回転および/または閉鎖されなければならない、および/または第1のチャンバへの充填が行われる前に、第2のチャンバへの充填が終了していなければならないからである。さらに、このような薬剤容器内での両物質の混合は、特にバイパスの一般的に小さな寸法に基づいて最適ではない。
【0008】
さらに、このような従来の栓体装置では、アンプル、またはバイアルとも呼ばれる注射剤小瓶(Injektionsflaeschen)を、マルチチャンバシステム、特にダブルチャンバシステムとして構成することは不可能であるか、または厳しい条件下でしか可能ではない。なぜならばこれらの容器は、一方の端部のみで開いて形成されているからである。したがって、このような容器内での軸線方向で密閉する栓体装置の移動時に圧力変動が生じ、この圧力変動は、軸線方向での移動を困難にし、最終的に制限してしまう。特に中間栓として機能する第2の栓体装置を、簡単にこのような容器内へと十分に移動させることはできない。さらに、このような容器内では、混合位置への第2の栓体装置の移動は、この移動により発生する圧力変動に基づいて不可能であるか、少なくとも著しく困難にされ、したがって実用的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上述の欠点が回避される栓体装置、薬剤容器および薬剤容器内で2つの物質を混合する方法を提供することである。特に、本発明の課題は、不安定な物質、特に、シリコーン処理された内壁に接触してはならない粉末医薬品を安全に保管することができ、第2の物質と混合することができる、薬剤容器および栓体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、独立請求項に記載の対象を提供することにより解決される。有利な構成は従属請求項から明らかとなる。
【0011】
本発明の課題は特に、薬剤容器を密閉するための栓体装置であって、栓体装置が栓体要素を有していて、栓体装置が、薬剤容器を、薬剤容器の中心軸の軸線方向で特に栓体要素により密閉するように形成されており、栓体装置が、薬剤容器内に少なくとも部分的に導入可能であり、栓体要素が、薬剤容器内における意図された設置位置で、薬剤容器の中心軸に沿って移動可能に形成されていて、栓体装置、特に栓体要素が、少なくとも1つの保持手段を備えた保持領域を有している栓体装置を提供することにより解決される。この栓体装置は、栓体装置の第1の機能状態では、閉鎖要素と栓体要素との間に中空室が形成されているように、閉鎖要素が、保持手段によって、栓体要素に対して位置固定的に、特に栓体要素に直接に、保持位置で解除可能に保持されていることにより優れている。したがって、栓体装置のこの中空室内に、特に混合のために規定された物質を配置し、周囲に対して密閉して保管することができ、密閉のために薬剤容器が必要となることはない。薬剤容器に2つの物質を充填することは、簡単な形式で、互いに大部分において無関係である別個の2つのステップにおいて行うことができる。このような栓体装置内に、不安定な物質、特に粉末医薬品を安全に保管することも可能である。なぜならば、シリコーン、特に薬剤容器のシリコーン処理された内壁との接触が回避されているからである。さらに、このような栓体装置により、ダブルチャンバシステムを注射剤小瓶および/またはアンプル内に形成することが可能であり、簡略化されている。なぜならば、2つのチャンバを分離するための中間栓が不要であるからである。
【0012】
物質とは、本明細書において、特に医薬物質、特に医学的な作用物質および/または補助剤であると理解される。
【0013】
栓体装置、特に閉鎖要素および栓体要素は、中空室内にこのような物質、特に医学的な作用物質を好適には無菌状態で収容するように構成されていて、中空室は好適には流体的に密に形成されている。好適には、栓体装置は、プラスチックを有しているか、またはプラスチックから成っている。
【0014】
栓体要素とは、本明細書では薬剤容器用の栓、特に端部栓であると理解される。栓体要素は、好適には弾性の材料を有しているか、またはこのような材料から成っている。特に好適には、栓体要素は、エラストマおよび/または軟性プラスチックから成っている。シール領域では、栓体要素は、好適には少なくとも部分的に弾性的に形成されている、および/またはシール領域の、薬剤容器内における意図された設置位置において薬剤容器の内壁および/または差込みスリーブに面していて、薬剤容器の内壁および/または差込みスリーブに密に当接される周面に沿って、内壁および/または差込みスリーブに密に当接されるように構成されている。つまり、薬剤容器は、軸線方向で、特に薬剤容器の内壁における栓体要素および/または栓体装置の密な当接によって密閉されているので、薬剤容器の、物質を収容するように構成されている少なくとも1つのチャンバは、軸線方向で、好適には近位方向で画定されている。
【0015】
薬剤容器とは、本明細書では特に注射器、カープル、アンプルおよび/または注射剤小瓶、いわゆるバイアルであると理解される。このような薬剤容器、特に注射器およびカープルは、シングルチャンバシステムとして、またはマルチチャンバシステム、特にダブルチャンバシステムとして形成されている。
【0016】
栓体装置および/または栓体要素は、好適には少なくとも部分的に、特に好適には完全に薬剤容器内に導入可能である。導入された状態において、つまり薬剤容器内における意図された設置位置において、栓体要素は好適にはピストンロッドおよび/または押し出し装置によって中心軸に沿って移動可能である。
【0017】
保持領域の保持手段は、好適には栓体要素と一体的に形成されている。好適には、保持手段は、半径方向で弾性的な領域を有しているので、閉鎖要素は、第1の機能状態では、半径方向の保持力により保持されている。特に好適には、保持手段および栓体要素は、弾性的な材料、特にゴムまたは軟性プラスチックから成っている。
【0018】
閉鎖要素は、第1の機能状態では、好適には栓体要素の移動が閉鎖要素の同時的な移動なしには不可能であるように、保持位置に保持される。つまり好適には、栓体要素と閉鎖要素との間で、少なくとも栓体装置の第1の機能状態で、機械的な接触が生じる。
【0019】
本発明の1つの改良形によれば、中空室が、第1の機能状態では、薬剤容器の壁、特に内壁に対して流体的に密閉されていることが規定されている。したがって、シリコーン処理された面との接触は回避されていて、中空室内に保管された物質のための安全性は高い。
【0020】
中空室は、第1の機能状態では、好適には専ら閉鎖要素および栓体要素により画定されていて、これにより形成されている。特に、中空室が、栓体要素および/または閉鎖要素のくり抜きにより形成されていることが規定されていて、中空室が閉鎖要素により閉鎖可能であり、特に第1の機能状態で閉鎖されていることが規定されている。つまり、閉鎖要素は中空室を密閉しているので、中空室内に保管された物質は周囲に対して、特に薬剤容器に対して流体的に密閉されている。したがって、薬剤容器の内壁に対する流体的な密閉が、特に薬剤容器内での意図された設置位置で提供されている。したがって、薬剤容器なしでも、物質を安全に保管するための密な中空室が提供されている。
【0021】
本発明の1つの改良形によれば、中空室が、第2の機能状態では開いていて、閉鎖要素が、保持手段によって保持位置に保持されていないことが規定されている。したがって、中空室を開き、これにより中空室内に保管されている第1の物質を、薬剤容器のチャンバ内に保管されている第2の物質と混合させることができる。つまり、薬剤容器内での栓体装置の意図された設置位置では、中空室は、第2の機能状態で、特に薬剤容器のチャンバに対して開いていて、中空室と、好適には第2の物質が保管されているチャンバとの間の流体的な接続が形成されている。したがって、2つの物質、特に第1の物質と第2の物質との混合は、このような栓体装置を備えた薬剤容器内で簡単かつ確実に実施可能である。
【0022】
しかし、代替的には、閉鎖要素が第2の機能状態で完全に保持手段から解除されておらず、その代わりに引き続き少なくとも部分的に栓体要素において、特に保持領域に保持されているが、閉鎖要素は中空室をもはや密閉しておらず、これにより中空室の外方に向かう、特に薬剤容器のチャンバ内への流体的な接続が形成されていることも可能である。
【0023】
代替的または付加的には、栓体装置が薬剤容器内に導入されていない状態でも、閉鎖要素が第1の機能状態で栓体要素に対して位置固定的に保持されていることが規定されている。したがって、栓体装置は、フレキシブルに使用可能であり、薬剤容器は、栓体装置内で第1の物質を安全に保管するためには必要ない。
【0024】
特に好適には、栓体装置の栓体要素は、薬剤容器のための端部栓として形成されており、栓体装置と、少なくとも第1の機能状態では栓体要素とが、末端で、特に薬剤容器のチャンバの近位端に配置されていることが規定されている。薬剤容器内で末端に配置された端部栓とは、本明細書では特に薬剤容器を密閉している栓体であると理解される。この栓体から遠位方向で、薬剤容器により含まれる全ての、特に医学的な物質および/またはこれらの物質のために構成された全てのチャンバが配置されている。これに対して、末端に配置された端部栓から近位方向では、物質、特に医学的な物質を安全に保管するように構成されているチャンバまたは領域は設けられていない。したがって、このような端部栓は、端部栓の遠位に設けられた無菌の領域を、比較的小さな清浄要求しか課されていないか、または清浄要求を課されていない、端部栓の近位に設けられた領域から分離する。
【0025】
本発明の1つの改良形によれば、閉鎖要素が、薬剤容器のための混合体、特に球体として形成されている、および/または第2の機能状態では、特に栓体要素とは関係なしに薬剤容器内で自由に運動可能に配置されていることが規定されている。好適には、特に球形の閉鎖要素は、第2の機能状態では、固定されずに薬剤容器内に配置されている。これにより、薬剤容器を揺らすことによって、混合体が薬剤容器内で付加的な乱流を引き起こし、第1の物質と第2の物質との混合が改善される。
【0026】
本発明の1つの改良形によれば、栓体要素が、第1の機能状態において、閉鎖要素に面した側に、少なくとも部分的に閉鎖要素の方向に配向された押し出し突起を有していることが規定されている。押し出し突起は、たしかに少なくとも長手方向で中心軸に沿って、薬剤容器内における意図された設置位置で弾性的に形成されていてよいが、押し出し突起によって閉鎖要素を中空室が密に閉鎖されている保持位置から出すように軸線方向に、特に薬剤容器の遠位方向に移動させることができ、保持手段により加えられた保持力を克服することができるように、安定的に構成されている。つまり、軸線方向の抵抗力、つまり押し出し突起の軸線方向の変形に抗して作用する押し出し突起の強度は、保持手段により加えられた保持力よりも大きい。
【0027】
保持位置から閉鎖要素を押し出すために必要となる、特に遠位方向への軸線方向の力は、好適には、ピストンロッドと、このピストンロッドへの手動の圧力とにより加えられる。押し出し突起は、好適には遠位方向で突出している。したがって、閉鎖要素を、薬剤容器内における位置決め後にも、簡単な形式で保持位置から外れるように移動させることができ、したがって栓体装置を第2の機能状態へと移行させることができる。その際に、中空室と、この中空室内に配置された物質と、薬剤容器内における意図された設置位置では薬剤容器のチャンバと、このチャンバ内に保管された第2の物質とは常に、特に閉鎖キャップにより閉鎖された薬剤容器の周囲に対して、特に無菌状態で流体的に密閉されている。
【0028】
好適には、回転対称であり、特に少なくともほぼ円筒形の薬剤容器内における規定通りの配置時に、押し出し突起は、薬剤容器の長手方向軸線に対して同心的に配置されている。したがって、遠位方向に加えるべき力は最小であり、栓体装置と薬剤容器の内壁との間の密閉は、これにより形成された対称性に基づいて特に高い。
【0029】
好適には、保持領域における栓体要素の外壁は、シール領域における外壁に比べて半径方向内方にずらされているので、この場合、薬剤容器内における意図された設置位置では、栓体要素と薬剤容器の内壁との間に周方向で環状に延びる自由空間が、保持手段のための逃げ部(Ausweichen)のために形成されている。自由空間に基づいて、保持領域からの閉鎖要素の押し出しは簡略化されている。なぜならば、保持領域における栓体要素の材料は、あまり強く圧縮されず、その代わりに単に自由空間内へと変形されればよいからである。
【0030】
本発明の1つの改良形によれば、押し出し突起が、少なくとも栓体装置の突き出し状態において、しかし好適には既に第1の機能状態において、閉鎖要素に面した側および/または先端部および/または端面で閉鎖要素に当接されていることが規定されている。したがって、突き出し状態は、閉鎖要素が辛うじて第1の機能状態にあるが、遠位方向で栓体装置に加えられる最小の力と、これにより押し出し突起から閉鎖要素に作用する圧力とによって直接に第2の機能状態に移行される状態を表している。したがって突き出し状態は、第1の機能状態と、第2の機能状態との間の境界状態である。したがって遠位方向で加えるべき力は最小であり、保持領域からの閉鎖要素の押し出しは特に制御されて行われる。
【0031】
本発明の1つの改良形によれば、閉鎖要素が、少なくとも1つの第1の係止手段を有していて、栓体装置の保持手段が、第1の係止手段に対応して形成された少なくとも1つの第2の係止手段を有していて、第2の係止手段が、保持領域において、栓体要素の、閉鎖要素に面した側に配置されていて、第1の係止手段と第2の係止手段とが、第1の機能状態で係止方式にて互いに係合していることが規定されている。したがって、閉鎖要素は、栓体要素において確実に保持されている。
【0032】
好適には、閉鎖要素が少なくとも1つの係止収容部、特に環状に延びる係止溝を有していて、栓体装置の保持手段は、係止収容部に対応して形成された少なくとも1つの係止突起を有していて、この係止突起が、保持領域において、栓体要素の、閉鎖要素に面した側に配置されていて、係止突起が、第1の機能状態で係止収容部に係合する。つまり、この場合、第1の係止手段は係止収容部として、第2の係止手段は係止突起として形成されている。好適には、係止収容部は、薬剤容器内における栓体装置の意図された設置位置では、周方向で薬剤容器の中心軸の周りに形成されている。したがって、閉鎖要素は特に信頼性よく保持位置に保持されている。
【0033】
しかし代替的には、第1の係止手段が係止突起として、第2の係止手段が係止収容部として形成されていて、これにより、保持手段が係止収容部を有していて、閉鎖要素が係止突起を有していることも可能である。この場合も、閉鎖要素は保持位置に確実に保持されている。
【0034】
本発明の1つの改良形によれば、栓体装置が、栓体要素を特に周方向で取り囲む差込みスリーブを有していて、好適にはスリーブ壁の外面が、薬剤容器の内壁に密に当接されるように形成されていることが規定されている。栓体要素は、スリーブ壁の、外面とは反対側に位置する内面に密に当接されている。好適には、差込みスリーブは回転対称であり、特に少なくとも部分的に円筒形に形成されている。スリーブ壁は、半径方向で有限の規定された厚さを有しているので、薬剤容器内における栓体装置の意図された設置位置では、位方向半径方向で拡開する後退領域が、差込みスリーブの遠位端における遠位方向に形成されている。好適には、栓体装置の保持領域には、差込みスリーブ内に導入された状態で、保持領域が差込みスリーブにより半径方向で圧縮されていることにより、半径方向内方に向かって予荷重が加えられている。この後退領域への保持領域の移動後に、保持領域にはあまり強く予荷重が加えられておらず、好適には荷重が除去されている。したがって、保持領域は半径方向で外方に向かって拡開し、閉鎖要素はもはや保持されていない。特に係止突起は、栓体要素もしくは保持領域のこの移動位置で、係止収容部から解除されるので、栓体要素における閉鎖要素の、係止突起および係止収容部により形成された形状結合方式の固定は解除されている。したがって、閉鎖要素のための、特に簡単に操作可能な解除機構が提供されていて、この解除機構により、特に円筒対称形に形成された薬剤容器内でも、バイパスなしで2つの物質を混合させることができ、その際には単に栓体要素を遠位方向に移動させればよい。
【0035】
栓体装置の差込みスリーブは、遠位端において、特に後退領域において、好適には楔状に形成されていて、差込みスリーブは、特に、周方向で環状に延びる、栓体要素のための滑動斜面を有しているので、後退領域における半径方向の拡開は、均一かつ飛躍なしに行われる。したがって、閉鎖要素が第1の機能状態に対応する第1の機能位置に移動させられる、栓体装置の製造が簡略化されている。これにより、中空室および/または薬剤容器のチャンバの安全性、特に密閉性ならびに混合時の取扱いおよび/または混合された物質の押し出しも改善されている。
【0036】
本発明の1つの改良形によれば、差込みスリーブが、指掛け体として形成されていて、近位端において、半径方向に突出した少なくとも1つの指用プレートを有していて、指用プレートが、指によって裏側から係合可能であるように形成されていることが規定されている。指用プレートは、好適には完全に中心軸の周りに環状に延びているか、互いに反対の側に位置する個別の少なくとも2つのプレートに分割されて形成されている。重要であるのは、指用プレートが特に、栓体装置が配置可能である薬剤容器の外壁に対して半径方向で突出していて、これにより指用プレートは裏側から係合可能であり、これにより薬剤容器の取扱いが簡略化されていることである。
【0037】
本発明の1つの改良形によれば、差込みスリーブが、薬剤容器に差込みスリーブを取り付けるための取付け構造を有していて、取付け構造が、好適には、薬剤容器のための収容部を有していて、収容部内に、薬剤容器の近位端、特に薬剤容器の近位の半径方向の増厚部が係止方式および/またはクランプ方式にて収容可能であることが規定されている。好適には、取付け構造は、軸線方向に延び、中心軸の周りで環状に延びる、遠位方向で開いて形成された切欠きにより形成されていて、この切欠き内に、薬剤容器の近位端が導入可能であり、この近位端は、最終的に係止方式および/またはクランプ方式にて収容される。したがって、栓体装置は薬剤容器に簡単かつ迅速に取付け可能である。
【0038】
栓体要素、特に保持手段は、保持領域において、好適には、薬剤容器内における意図された設置位置で、薬剤容器の内壁に対して、および/または差込みスリーブの内面に対して離間して配置されている。したがって、保持手段は、保持領域において、特に栓体要素への力作用時に、半径方向で離されて、閉鎖要素をこれにより解除することが可能である。
【0039】
本発明の課題は特に、好適には特にガラスから成っている円筒形の基体と、先行する請求項のいずれか一項に記載された栓体装置と、を備えた薬剤容器であって、栓体装置は、栓体要素が薬剤容器の近位端を基体の、特に密に閉鎖可能であるチャンバに対して密閉するように、薬剤容器内へ移動させられて配置されていて、チャンバが、半径方向では基体の内壁により画定されていて、遠位方向では基体の閉鎖可能な出口開口および/または閉鎖キャップにより画定されている、薬剤容器を提供することによっても解決される。チャンバも、好適には回転対称であり、実質的に円筒形に形成されている。チャンバは、栓体装置から見て、薬剤容器の遠位方向に設けられていて、医学的な物質、とりわけ医学的な作用物質および/または補助剤、特に粉末医薬品のための溶剤を収容するように構成されている。
【0040】
したがって、特に好適にはチャンバによって、第2の物質を収容するための閉鎖された、特に無菌の容積が形成されている。栓体装置の第2の機能状態では、栓体装置の閉鎖要素は特に固定されずにこのチャンバ内に配置されている。好適には、閉鎖要素は、基体の出口開口よりも大きいので、閉鎖要素はこの出口開口を通ってチャンバから出るように移動することができない。したがって、閉鎖要素は混合体として形成されている。
【0041】
本発明の1つの改良形によれば、基体の出口開口が、少なくともチャンバに面した側に、閉鎖要素の出口開口に面した側、特に閉鎖要素の各側とは異なっている幾何学形状、特に十字形の横断面を有していて、閉鎖要素による出口開口の流体的に密な閉鎖を阻止することが規定されている。好適には、閉鎖要素は丸く、特に球形に形成されている。したがって、出口開口が閉鎖要素によって、第2の機能状態で塞がれてしまうことは阻止されている。特に、閉鎖要素は、出口開口を流体的に密に閉鎖するためには適していないので、薬剤容器からの第1の物質および/または第2の物質の押し出しを、特に第2の機能状態で閉鎖要素によって阻止することはできない。
【0042】
好適には、丸くない幾何学形状の半径方向の延在長さは、閉鎖要素の、出口開口における当接のために適した側の半径方向の延在長さよりも大きい。代替的または付加的には、閉鎖要素の外面は、薬剤容器の、出口開口を有している底部壁の曲率とは異なる曲率を有している。
【0043】
閉鎖要素が係止収容部を有している限り、閉鎖要素は、この係止収容部の収容部を除いて丸く、特に球形に形成されている。特に、環状に形成された係止溝は、球形に形成された閉鎖要素上に赤道状に配置されていて、閉鎖要素の上側の半球区分は、閉鎖要素の下側の半球区分から係止溝によって分離される。
【0044】
好適には、閉鎖キャップは、遠位で基体において、出口開口を閉鎖するために配置されている。閉鎖キャップとは、本明細書ではチャンバを閉鎖する要素であり、特に閉鎖された注射装置であるとも理解される。
【0045】
栓体装置の中空室内には、ここでは第1の物質が配置されていて、薬剤容器のチャンバ内には、第2の物質が配置されている。これらの両物質は混合するために規定されていて、混合の時点で使用者により選択可能である。なぜならば、両物質は、互いに流体的に密閉された容積内、つまり薬剤容器のチャンバおよび栓体装置の中空室内に配置されていて、チャンバと中空室との間の密閉は、ユーザにより栓体装置に圧力を加えることにより解消することができるからである。
【0046】
好適には、薬剤容器が、指掛け体を有している。この指掛け体は、薬剤容器からの作用物質の押し出し時に、適切な力を押し出し装置、特にピストンロッドに加えるために適している。指掛け体は、基体に一体的に、または栓体装置が指用プレートを有する差込みスリーブ内に配置されている限りは基体とは別個に形成されている。しかし両方の場合に、指掛け体は固く基体に保持されているので、使用、特に薬剤容器からの物質、特に2つの物質の押し出しは、両実施例において同様に行われる。
【0047】
本発明の1つの改良形によれば、押し出し装置、特にピストンロッドが設けられていて、押し出し装置の遠位端に、凸状の、特に球形、コーン形および/または円錐形の凸部が設けられていることが規定されている。遠位端とは、ここでは押し出し装置の、栓体装置に面した端部であると理解される。この端部は、薬剤容器からの物質の押し出し時に栓体装置の特に近位端に直接に作用する。好適には、凸部は、薬剤容器の中心軸に対して相対的にセンタリングされているので、押し出し装置は、栓体装置への作用時に、この栓体装置に中心領域において最大限の力を加える。
【0048】
本発明の改良形によれば、栓体要素が、弾性的に形成されていて、栓体要素が、押し出し装置の凸部によって、押し出し装置に遠位方向で特に手動の圧力を加えることにより変形可能であり、栓体要素の押し出し突起が、閉鎖要素の押し出しのために必要となる圧力に相当する強度よりも大きな軸線方向の強度を有していることが規定されている。栓体要素の軸線方向の強度は、この栓体要素の構造的な構成および/または材料に基づいて実現されている。特に、押し出し突起はコーン形に形成されている。したがって、保持領域からの閉鎖要素の簡単な押し出しが可能である。
【0049】
強度とは、ここでは特に弾性および/または塑性の材料破壊を阻止する機械的な抵抗であると理解される。好適には、強度は、機械的な応力、特に圧力または力として数値化され、好適には圧力に換算される。この場合、軸線方向の強度は、好適には、閉鎖要素を押し出すために必要とされる圧力よりも大きい。したがって、押し出し突起の強度は、特に押し出し突起の弾性および/または塑性の変形を阻止する。
【0050】
本発明の課題は特に、特に上述の実施例のうちの1つの実施例による栓体装置を備えた、特に上述の実施例のうちの1つの実施例による薬剤容器内で流体的に互いに分離されて保管された2つの物質を混合する方法であって、2つの物質のうちの第1の物質が、栓体装置の中空室内に配置されていて、2つの物質のうちの第2の物質が、基体のチャンバ内に配置されており、栓体装置に遠位方向で力を加え、両物質相互の流体的な分離を解消し、閉鎖要素が保持位置から外れるように移動させられるまで、栓体装置、特に栓体要素を保持領域において、遠位方向に力を加えることに基づいて少なくとも部分的に特に半径方向に変形させる方法を提供することによっても解決される。この場合、第1の物質と第2の物質との間の流体的な密閉を解消するためには、力を加えること、ならびに力を加えることにより生じる変形および/または移動で十分であると極めて特に有利であり、これにより両物質を簡単な手段でかつ確実に混合することができる。さらに、薬剤容器および栓体装置の実施例に関連して既に挙げられた利点が生じる。
【0051】
特に、特に上述の実施例のうちの1つの実施例による栓体装置を備えた上述の実施例のうちの1つの実施例による薬剤容器内で流体的に互いに分離されて保管された2つの物質を混合する方法であって、2つの物質のうちの第1の物質が、栓体装置の中空室内に配置されていて、2つの物質のうちの第2の物質が、基体のチャンバ内に配置されており、栓体装置に遠位方向で圧力、特に指圧を加え、両物質相互の流体的な分離を解消し、閉鎖要素が保持位置から外れるように移動させられるまで、栓体装置、特に栓体要素を保持領域において、遠位方向に圧力を加えることに基づいて少なくとも部分的に特に半径方向で変形させる方法が提供される。栓体装置および/または栓体要素の移動は、中空室の開放ひいては物質の混合のために必要ではなく、特に設けられていないと極めて特に有利である。第1の物質と第2の物質との間の流体的な密閉を解消するためには、圧力を加えること、ならびに圧力を加えることにより生じる変形で十分である。したがって、閉じられた出口開口を備えた薬剤容器、特に注射器またはカープル内、またはこのような栓体装置を備えた注射剤小瓶またはアンプル内での混合も簡単に実施することができ、この場合に容器内での大きな圧力変動は回避されている。
【0052】
つまり好適には、栓体要素は、遠位端において、特に栓体装置への押し出し装置の凸部の作用により変形させられる。弾性的な構成および凸部のコーン形、特に円錐形の構成に基づいて、栓体要素の保持領域は、保持手段により保持された閉鎖要素が解除されるように、半径方向に拡開させられる。
【0053】
保持領域を半径方向に十分に拡開させることができることによって、好適には、薬剤容器内における栓体装置の意図された設置位置で、栓体装置は、保持領域において、薬剤容器の内壁に直接に当接されていないことが規定されている。むしろ、薬剤容器の内壁と、保持領域における栓体要素の外壁との間には、自由空間が設けられていて、この自由空間内に、栓体要素、特に保持手段が、閉鎖要素を解除するために押し込まれる。
【0054】
既に薬剤容器に関して説明したように、閉鎖要素は、保持領域において中空室を閉鎖し、中空室は、特に薬剤容器のチャンバに対して密閉されている。
【0055】
特に、特に上述の実施例のうちの1つの実施例による栓体装置を備えた上述の実施例のうちの1つの実施例による薬剤容器内で流体的に互いに分離されて保管された2つの物質を混合する方法であって、2つの物質のうちの第1の物質が、栓体装置の中空室内に配置されていて、2つの物質のうちの第2の物質が、基体のチャンバ内に配置されており、栓体装置を遠位方向に移動させ、両物質の流体的な分離を解消し、栓体装置の遠位方向への移動中に保持領域が半径方向に緩和し、保持位置における閉鎖要素の保持を解消する方法が提供される。栓体装置、特に栓体要素の保持領域には、この実施例では保持領域が緩和位置に対して相対的に圧縮されることによって、好適には半径方向で予荷重が加えられている。差込みスリーブに対して拡開された内径を有する、差込みスリーブの遠位端に設けられた緩和領域、特に後退領域において、栓体要素がこの領域内に移動された後に、保持領域が緩和される。したがって、閉鎖要素を簡単な形式で保持領域から外れるように移動させることができ、これにより中空室を開放することができる。緩和とは、ここでは特に、保持領域において予荷重を加えられた栓体装置、特に栓体要素の、拡開変形であると理解される。
【0056】
特に好適には、上述の実施形態のうちの1つの実施形態による方法において、薬剤容器を、中空室の開放後に、つまり第2の機能状態への栓体装置の移行後に、揺らすことが規定されている。したがって両物質の混合が、改善されている。
【0057】
本発明の1つの改良形によれば、上述の実施形態のうちの1つ実施形態による方法において、栓体装置を、第1の物質および/または第2の物質、特に薬剤の完全な押し出しのために、薬剤容器内で遠位の末端位置へと移動させ、閉鎖要素を末端位置において中空室内に好適には完全に収容し、および/または中空室を閉鎖要素によって完全に塞ぐことが規定されている。遠位の末端位置とは、ここでは特に基体のチャンバの遠位端における栓体要素の位置であると理解され、栓体要素は特に出口開口に当接されている。したがって、本明細書に記載された種類の薬剤容器の使用時の死容積は、本明細書に記載された方法の実施時に最小である。
【0058】
方法、栓体装置および薬剤容器の説明は、互いに相補的であると理解すべきである。特に方法に関連して明示的にまたは暗示的に説明された栓体装置および/または薬剤容器の特徴は、好適には個別でも、互いに組み合わせても、栓体装置および/または薬剤容器の特徴である。好適には、栓体装置および/または薬剤容器は、方法に関連して説明された複数の方法ステップのうちの少なくとも1つの方法ステップを実施するために形成されている。栓体装置および薬剤容器に関連して明示的または暗示的に説明された方法ステップは、好適には個別でも、互いに組み合わせても、方法の好適な実施形態のステップである。特に、方法の枠内において、好適には、栓体装置および/または薬剤容器の少なくとも1つの特徴に基づいて生じる少なくとも1つのステップが設けられている。
【0059】
全体的に、本明細書において説明した栓体装置、薬剤容器および方法により、薬剤容器内における2つの物質の混合が改善されていることが判った。特に製造プロセス中の取扱いも、第1の物質を中空室に充填することを、第2の物質を薬剤容器に充填することとは無関係に行うことができるので、改善されている。特に、栓体装置の中空室は、薬剤容器なしでも既に流体的に密閉されているので、中空室内に保管された物質は、一方では薬剤容器なしでも既に安全に保管されていて、他方では、薬剤容器内における栓体装置の意図された設置位置で、薬剤容器のシリコーン処理された内壁に接触してしまうることがない。したがって、特にダブルチャンバシステムにおける無菌の粉末充填が、本明細書において説明された栓体装置、本明細書において説明された薬剤容器および本明細書において説明された方法により、予めシリコーン処理された薬剤容器内でも可能であり、充填された粉末の安全性および化学的な安定性が保証されている。さらに、本明細書に記載された栓体装置、薬剤容器および方法は、物質の耐用性を高めている。
【0060】
本発明を以下に図面に基づき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図3】第2の実施例による栓体装置を備えた第1の実施例による薬剤容器の縦断面図。
【
図5】第1の機能状態にある第3の実施例による栓体装置を備えた第2の実施例による薬剤容器の縦断面図。
【
図6】第2の機能状態にある第3の実施例による栓体装置を備えた第2の実施例による薬剤容器の縦断面図。
【
図7】薬剤容器内での栓体装置の末端位置における第3の実施例による栓体装置を備えた第2の実施例による薬剤容器の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1は、栓体要素3、保持手段5および閉鎖要素7を備えた栓体装置1を縦断面図で示している。栓体要素3は、シール領域9を有している。このシール領域9では、栓体要素3の周面11は密閉方式に形成されている。シール領域9において、栓体要素3は、特に差込みスリーブ15の内面13に密に当接されているので、
図1には図示しない薬剤容器内への栓体装置1の組付け後に薬剤容器は軸線方向で密閉されている。
図1に図示された栓体装置1は、回転軸Aに対して回転対称に形成されている。薬剤容器内における意図された設置位置において、回転軸は、薬剤容器の中心軸に一致する。つまり、差込みスリーブ15は、回転軸Aを中心とした周方向で栓体要素3を取り囲み、半径方向で栓体要素3に密に当接されている。
【0063】
差込みスリーブ15は、
図1で上側の近位端において、近位の開口17を取り囲む指用プレート19を有している。この指用プレート19により、特に栓体要素3に遠位方向に力を加えるために、栓体装置1および/または薬剤容器を保持することができる。
図1で下側の遠位端において、差込みスリーブ15は後退領域21を有している。この場合、差込みスリーブ15の端部は、セ後退領域21において、
図1に図示された栓体装置1の縦断面では楔状に、特に滑動斜面(Ablaufschraege)として形成されている。
【0064】
保持手段5は、この実施例では栓体装置1の保持領域23に設けられている。保持領域23は、栓体要素3の、
図1で下側の軸線方向区分により形成されている。この保持領域23では、弾性的に形成されている栓体要素3が、緩和位置に比べて圧縮されているので、保持手段5には半径方向で予荷重が加えられている。
【0065】
栓体要素3は、回転軸に沿って、つまり
図1では上方および/または下方に向かって、差込みスリーブ15内で移動可能に配置されている。
図1には図示されていない薬剤容器内への栓体装置1の導入後に、栓体要素3は特に下方に向かって、つまり遠位方向に移動可能であり、薬剤容器は、各遠位の移動位置において、栓体装置1により、特に栓体要素3および差込みスリーブ15により軸線方向で密閉されている。
【0066】
栓体装置1は、
図1では、第1の機能状態で図示されている。閉鎖要素7は、保持手段5によって栓体要素3に対して位置固定的に保持位置で解除可能に保持されている。閉鎖要素7は、
図1に図示した実施例では、特に力結合(Kraftschluss)方式にて保持され、保持手段5は、特に回転対称的な構成に基づいて、保持領域23において全ての側から閉鎖要素7に半径方向内方に向かって力Kを加える。つまり、本実施例では球体25として形成されている閉鎖要素7は、栓体要素3の下側の遠位の開口27内に挟み込まれている。
【0067】
栓体要素3の下側の遠位の開口27は、閉鎖要素7により流体的に密に閉鎖されている。これにより、閉鎖要素7と栓体要素3との間には、中空室29が形成されている。この中空室29内に、第1の物質31、本実施例では特に粉末医薬品が配置されている。したがって、本実施例では、第1の物質31を安全に保管することができる、流体的に密な中空室29が提供されている。薬剤容器は、流体的な密閉を実現するために必要ではない。
【0068】
図1において確認可能であるように、閉鎖要素7は、差込みスリーブ15の下側の遠位端を越えて突出していないので、閉鎖要素7は、特に中空室29の方向への望ましくない移動に対して保護されているか、または中空室29の密閉性を脅かすことになる別の妨害性の移動に対して保護されている。したがって、第1の物質31を、この栓体装置1内に安全に保管することができ、任意の後続の時点において薬剤容器内に組み込むことができる。
【0069】
図2は、第2の実施例による栓体装置1を側断面図で示している。栓体装置1は、
図2では特に第2の機能状態で図示されている。閉鎖要素7は、保持手段5によって保持位置に保持されていない。同一の部材および機能的に同一の部材には同一の参照符号が付されているので、その限りでは上述の図面の説明が参照される。
【0070】
図1に図示された第1の実施例とは異なり、
図2に示した第2の実施例では、中空室29が開いている。閉鎖要素7は、保持手段5によって保持位置に保持されていない。したがって、中空室29内に配置された第1の物質31は、中空室29から出ることができる。
【0071】
栓体要素3は、第2の実施例では、
図1に示した実施例と同様に、シール領域9と、保持領域23とを有している。
図2においても、保持領域23には、少なくとも
図2には図示されていない第1の機能状態では、圧縮により半径方向内方に向かって予荷重が加えられていて、これにより閉鎖要素7が、栓体要素3の下側の遠位の開口27内に挟み込まれていることが規定されている。
図2に図示された第2の機能状態への栓体要素3の移動により、栓体要素3の一部、特にすなわち保持領域23が、差込みスリーブ15を越えて出るように移動させられているので、保持領域23の栓体要素3は、ひいては保持手段5は、半径方向外方に向かって緩和することができる。半径方向での緩和に基づいて、閉鎖要素7への保持力Kが低下し、閉鎖要素7はもはや保持位置に保持されていない。
【0072】
図1に図示されている第1の実施例と同様に実現されている上述の保持機構に対して付加的に、
図2では閉鎖要素7に係止収容部33が設けられている。この係止収容部33は、
図2では特に赤道状に環状に延びる係止溝35により形成されている。この係止溝35に対応して、保持手段5が、下側の遠位の開口27を取り囲んで延びる係止突起37を有していることが規定されている。この係止突起37は、第1の機能状態では、係止溝35内に形状結合方式にて係合している。したがって、保持位置で閉鎖要素7を保持するための付加的な固定手段が提供されている。
【0073】
保持位置から閉鎖要素7を解除するために、栓体装置1の
図2に図示された第2の実施例では、保持領域23が、第1の機能状態では少なくとも、係止突起37の長さと同じだけ圧縮されていることが必要である。係止突起の長さとは、ここでは特に半径方向での係止突起の延在長さであると理解される。これにより、予荷重に基づいて生じた戻し力が、保持手段5、特に係止突起37を、少なくとも、この係止突起37がもはや係止溝35と係合しなくなるまで半径方向に拡開することが保証されている。さらに好適には、差込みスリーブ15の壁39の厚さが、係止突起37の長さと同一である厚さであるか、または係止突起37の長さよりも厚いことが規定されている。これにより、円筒形の内室を備えた薬剤容器内における意図された設置位置において、係止溝35と係止突起37との間の形状結合を解除するために、保持領域23が分に緩和することができることが確保されている。
【0074】
図2ではさらに、差込みスリーブ15が、薬剤容器に差込みスリーブ15を取り付けるための取付け構造41を有していることが確認可能である。この取付け構造41は、薬剤容器のための収容部43を有している。この収容部43内に、薬剤容器の近位端が係止方式におよび/またはクランプ方式にて収容可能である。したがって、栓体装置1は、簡単な形式で薬剤容器に取付け可能であり、特にクリップ止め可能である。代替的または付加的には、栓体装置1が、好適には取付け構造41により薬剤容器に材料結合方式にて結合され、特に薬剤容器に被せて溶着(aufgeschweisst)されたり、接触させて溶着(angeschweisst)されたり、および/または接着されていてよく、これにより、薬剤容器の内室における無菌性が特に信頼性よく保証されている。
【0075】
図2に図示された収容部43は、中心軸の方向では差込みスリーブ15の小さな区分にわたってしか延びていない。しかし好適には、収容部43は、図示しない代替的な実施例では、差込みスリーブ15の軸線方向の全延在長さにわたって延びている。これは、図示しない代替的な実施例では、好適には、収容部43の外側の壁部44が、特に差込みスリーブ15の内面13に対して平行に、差込みスリーブ14の軸線方向の全延在長さにわたって延びていることにより実現されている。特に好適には、収容部43の外側の壁部44は、第1の機能状態では、閉鎖要素7の軸線方向の全延在長さにわたって延びていて、好適には遠位方向で閉鎖要素7を越えて延びている。したがって、収容部43の外側の壁部44と、薬剤容器の外壁との間で特に付加的な密閉を引き起こすことができるので、薬剤容器の無菌性および安全性が高められている。
【0076】
図3は、
図2に記載された実施例による栓体装置1を備えた薬剤容器45を示している。薬剤容器45は、円筒形の基体47と、近位端49とを有している。薬用物質を収容するように構成されている薬剤容器45のチャンバ51は、特に基体47のシリコーン処理された内壁53と、栓体装置1と、遠位方向で遠位の出口開口55とにより画定されている。遠位の出口開口55は、
図3に示した実施例では閉鎖キャップ57により閉鎖されている。チャンバ51内には、第2の物質59、特に粉末医薬品のための溶剤が配置されている。
【0077】
栓体装置1が規定通りに薬剤容器45内に組み込まれていることにより、栓体装置1の回転軸Aは、薬剤容器45の中心軸Mに一致する。栓体要素3は、中心軸Aに沿って、特に遠位方向に移動可能である。
【0078】
見やすくするために、
図2に図示された係止構造、すなわち係止溝35および係止突起37は、
図3に図示された実施例では図示されていないが、設けられている。保持力Kも、
図3において存在しているが、見やすくするために記入されていない。
【0079】
栓体装置1は、
図3では第1の機能状態にあるので、中空室29は密に閉鎖されている。これにより、中空室29内に配置された第1の物質31は、流体的にチャンバ51と、このチャンバ51内に配置された第2の物質59と、特に薬剤容器45のシリコーン処理された内壁53とにより密閉されている。したがって、シリコーンと第1の物質31との間の反応は阻止されている。
【0080】
基体47の出口開口55は、チャンバ51に面した側で、閉鎖要素7の形状とは異なる幾何学形状を有している。特に、この幾何学形状は、この実施例では丸くない横断面60により実現されているので、係止溝35を除いて球形に形成された閉鎖要素7は、出口開口55上に密閉するように位置することはできず、したがって出口開口55は、チャンバ51に面した側で、常に内方からは閉じられていないままである。好適には、横断面60は少なくとも部分的に十字形に形成されている。
【0081】
図4は、第3の実施例による栓体装置1を側断面図で示している。同一の部材および機能的に同一の部材には同一の参照符号が付されているので、その限りでは上述の図面の説明が参照される。
【0082】
図4に図示された栓体装置1は、栓体装置1の第1の実施例および第2の実施例とは異なり、差込みスリーブ15を有していない。
【0083】
栓体装置1の上述の実施例と同様に、
図4に図示されている栓体装置1の第3の実施例は、栓体要素3を有している。栓体要素3は、薬剤容器45を軸線方向で密閉するために形成されている。図示された栓体装置1は、特に薬剤容器45内に完全に導入可能であり、栓体要素3、この実施例では特に栓体装置1全体が、中心軸11に沿って薬剤容器45内で移動可能に形成されている。
【0084】
栓体装置1は、保持手段5を備えた保持領域23と、シール領域9とを有している。シール領域9は、栓体要素3の複数の周面11を有している。好適には、複数の周面11の夫々は、薬剤容器45内における栓体装置1の意図された設置位置において薬剤容器45の内壁53に密閉して当接するために形成されている。
【0085】
保持手段5は、保持位置で閉鎖要素7を保持する。球体25として形成されている閉鎖要素7は、栓体要素3において直接保持される。
【0086】
閉鎖要素7と栓体要素3との間には、中空室29が形成されている。中空室29は、
図4では側方から見た断面図に基づいて二分割されているように見えるが、回転軸Aを中心とした回転対称性に基づいて関連した環状の中空室29である。
【0087】
栓体要素3の保持領域23を起点として保持力Kが半径方向内方に向かって作用し、これにより閉鎖要素7を下側の遠位の開口27内に挟み込むことにより、保持手段5は、閉鎖要素7を保持位置において特に力結合方式にて保持する。したがって特に、保持領域23では、閉鎖要素7への栓体要素3の密な当接、ひいては中空室29の密閉が確保されている。
【0088】
保持手段5のこのクランプ作用に対して付加的に、
図4に図示した栓体装置1の実施例では、栓体要素3の保持領域23が、
図4に図示された第1の機能状態では、球体25の赤道61を少なくとも部分的に越えて遠位方向に延びていることが規定されていて、保持領域23は、閉鎖要素7に当接されているので、閉鎖要素7は、保持手段5により遠位方向で背後から係合されている。したがって閉鎖要素も形状結合方式にて保持されている。
【0089】
赤道61とは、本実施例では特に、回転軸Aに対して垂直であり、閉鎖要素7の半径に相当する半径を有する面を取り囲んでいる、閉鎖要素7の周囲の閉じた円周ラインであると理解される。この半径は、中心軸の長手方向の延在方向に関して少なくとも局所的に、好適には全体で最大である。
【0090】
栓体要素3は、
図1,
図2および
図3に示した上述の両実施例とは異なり、閉鎖要素7に面した側に、少なくとも部分的に閉鎖要素7の方向に配向された押し出し突起63を有している。この押し出し突起63は、コーン形に、特に円錐台形に栓体要素3から突出し、押し出し突起63の、
図4で下側の前端面65で閉鎖要素7に衝突する。
【0091】
したがって、栓体装置1は、
図4では突き出し状態にあり、この突き出し状態では、既に小さな変形、特に閉鎖要素7への押し出し突起63の軸線方向の作用が、保持位置からの閉鎖要素7の突き出しを引き起こすことができる。
【0092】
図5~
図7は、
図4で説明した実施例による栓体装置1を備えた薬剤容器45を示している。栓体装置1は、種々異なる機能状態で、薬剤容器内における意図された設置位置に配置されている。これらの図面につき、以下では流体的に互いに分離されて保管された2つの物質、すなわち第1の物質31と第2の物質59とを薬剤容器45内で混合する方法を説明する。
【0093】
図5では、栓体装置の中空室29内の第1の物質が、栓体要素3および閉鎖要素7により流体的に密に包囲されている。つまり、
図5に図示された栓体装置1は、第1の機能状態にある。
【0094】
保持位置から閉鎖要素7を解除し、これにより中空室29を開くためには、
図6に図示されているように、栓体要素3に遠位方向に圧力が加えられる。これに基づいて特に栓体要素3の近位の領域において生じる変形によって、栓体要素3の遠位端と、下側の遠位の開口27とが、半径方向外方に向かって拡開させられるので、一方では保持手段5により形成された力結合が、他方では閉鎖要素7の赤道61を越えた背後からの係合に基づいて形成された形状結合が解消される。その結果、閉鎖要素7はもはや保持位置に保持されておらず、重力および/または振動運動に基づいて保持位置から外れるように移動させられる。つまり中空室29は開かれていて、第1の物質31は、中空室29の流体的な開口に基づいて第2の物質29と混合する。閉鎖要素7は、この実施例では特に混合体として形成されている。混合体は、薬剤容器45を揺らした場合に、薬剤容器45のチャンバ51内で付加的な乱流をもたらし、この乱流は混合を加速および/または改善する。
【0095】
ここで強調すべきであるのは、中空室29を開くために、栓体要素3の移動は必ずしも必要ではないことである。むしろ、栓体要素3の適切な変形を引き起こすために、遠位方向で圧力を加えることだけで十分である。
【0096】
栓体要素3の変形は、この実施例では特に、ピストンロッド69として形成されている押し出し装置67により引き起こされる。押し出し装置67の遠位端71には、凸状の球体区分状の凸部73が設けられている。凸部73は、薬剤容器45の中心軸Mに対して回転対称に形成されている。中心軸Mの中心において、凸部73は最大である。したがって、押し出し装置67により栓体要素に圧力を加えた場合に、中心軸Mのすぐ近傍にある中心領域における変形が最大となるので、保持手段5は保持領域23においてレバーのように、好適には互いに反対側にある少なくとも2つの半径方向で、特に好適にはあらゆる半径方向で全面的に拡開させられる。
【0097】
図7は、末端位置で薬剤容器45を示している。閉鎖要素7は、中空室29内にほぼ完全に収容されているので、中空室29自体は、閉鎖要素7によってほぼ完全に塞がれている。したがって、薬剤容器45のチャンバ51内の第1の物質および/または第2の物質の残量は最小である。この目的のためには、栓体要素3、特に押し出し突起63が弾性的に形成されているので、押し出し突起63は、末端位置において変形し、これにより中空室29の残容積75は最小である。しかし、押し出し突起63は、
図5および
図6に図示したように閉鎖要素7を保持力Kに抗して保持位置から外れるように移動させるために、十分な強度を有しており、保持力Kは、好適には栓体要素3の変形によって減じられる。
【0098】
全体的に、このような栓体装置1およびこのような薬剤容器45により、特に不安定である第1の物質31が安全かつ反応なしに栓体装置1内に予め充填されて流体的に密に保管されていて、特にこのような方法により、薬剤容器45内で第2の物質59と混合することができ、この場合にも、反応、特に薬剤容器45のシリコーン処理された内壁53との望ましくない反応のリスクは最小である。さらに、従来の栓体装置1および/薬剤容器45に対して取扱いが改善される。なぜならば、栓体装置1に、薬剤容器45とは関係なしに第1の物質31を予め充填し、場合によっては包装することができ、その際に薬剤容器45を必要とすることはないからである。特に、このような薬剤容器45内では、死容積、つまりチャンバ51内での第1の物質31および/または第2の物質59の残量は最小限にされている。