(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】黒鉛系負極活物質材料および該黒鉛系負極活物質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20231005BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231005BHJP
C01B 32/21 20170101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
C01B32/21
H01M4/36 D
(21)【出願番号】P 2021071022
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】松原 伸典
(72)【発明者】
【氏名】小山 裕
(72)【発明者】
【氏名】高木 泰史
(72)【発明者】
【氏名】久米 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕介
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-548276(JP,A)
【文献】国際公開第2021/066580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
C01B 32/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛質粒子と、
該黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部を被覆する非晶質炭素層と、
を備えた黒鉛系負極活物質材料であって、
前記黒鉛系負極活物質材料の断面のTEM画像において、前記非晶質炭素層における該黒鉛系負極活物質材料の表面から前記黒鉛質粒子に至るまでの間を、該表面に近い方からA層、B層、C層に3等分したとき、該A層、B層、C層における結晶化の進行具合はこの順に大きくな
り、
BET法に基づく比表面積は、2.2m
2
/g~8.3m
2
/gの範囲内である、
黒鉛系負極活物質材料。
【請求項2】
黒鉛質粒子と、
該黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部を被覆する非晶質炭素層と、
を備えた黒鉛系負極活物質材料であって、
前記黒鉛系負極活物質材料の断面のTEM画像において、前記非晶質炭素層における該黒鉛系負極活物質材料の表面から前記黒鉛質粒子に至るまでの間を、該表面に近い方からA層、B層、C層に3等分したとき、該A層、B層、C層における結晶化の進行具合はこの順に大きくなり、
前記A層、B層、C層について電子回折画像を取得した場合に、少なくとも該C層における格子面間隔dの値が判定可能であり、該A層における該d値は判定不可能である、黒鉛系負極活物質材料。
【請求項3】
BET法に基づく比表面積は、2.2m
2/g~8.3m
2/gの範囲内である、請求項
2に記載の黒鉛系負極活物質材料。
【請求項4】
黒鉛質粒子と、該黒鉛質粒子の少なくとも一部を被覆する非晶質炭素層と、を備えた黒鉛系負極活物質材料の製造方法であって、以下の工程:
前記非晶質炭素層を構成する非晶質炭素材料と、前記黒鉛質粒子とを準備する材料準備工程;
前記非晶質炭素材料と、前記黒鉛質粒子とを混合し、該黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部に、該非晶質炭素材料を付着させる付着工程;および
前記付着工程後に、マイクロ波加熱処理を行うことで、前記黒鉛質粒子の少なくとも一部を被覆する前記非晶質炭素層を形成するマイクロ波加熱処理工程,ここで、該非晶質炭素層における該黒鉛系負極活物質材料の表面から該黒鉛質粒子に至るまでの間を、該表面に近い方からA層、B層、C層に3等分したとき、該A層、B層、C層における結晶化の進行具合はこの順に大きくなる;
を包含する、黒鉛系負極活物質材料の製造方法。
【請求項5】
正極と、負極と、電解質と、を備える二次電池であって、該負極は、請求項1~3のいずれか一項に記載の黒鉛系負極活物質材料を含む、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛系負極活物質材料に関する。詳しくは、黒鉛が非晶質炭素によって被覆された黒鉛系負極活物質材料に関する。本発明はまた、当該黒鉛系負極活物質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
一般的に、二次電池、特にリチウムイオン二次電池の負極には、黒鉛系負極活物質材料が用いられている。二次電池はその普及に伴い、さらなる高性能化が望まれている。高性能化のための方策の一つとしては、黒鉛系負極活物質材料の改良が挙げられる。黒鉛系負極活物質材料の改良の例として、黒鉛の表面を非晶質炭素で被覆した、複層構造の負極活物質材料が知られている(下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、従来技術においては、被覆を有する黒鉛系負極活物質材料を用いた二次電池の、低温(例えば、0℃以下、特には-10℃以下程度)での低抵抗化が不十分であるという課題があることを見出した。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その主な目的は、二次電池の低温抵抗を好適に低減することができる黒鉛系負極活物質材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を実現するべく、本発明は、黒鉛質粒子と、該黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部を被覆する非晶質炭素層とを備えた黒鉛系負極活物質材料を提供する。ここで、上記黒鉛系負極活物質材料の断面のTEM画像において、上記非晶質炭素層における該黒鉛系負極活物質材料の表面から上記黒鉛質粒子に至るまでの間を、該表面に近い方からA層、B層、C層に3等分したとき、該A層、B層、C層における結晶化の進行具合はこの順に大きくなることを特徴とする。
【0008】
特に限定解釈されることを意図したものではないが、このように非晶質炭素層内の結晶性に傾斜を持たせる(即ち、非晶質炭素層と黒鉛質粒子との間における結晶性のギャップを抑制する)ことによって、該非晶質炭素層内におけるイオン(例えば、リチウムイオン)の移動を促進させることができるものと考えられ得る。また、黒鉛系負極活物質材料の表面の結晶性を低下させることによって、イオンの挿入サイト数を向上させることができるものと考えられ得る。これらによって、二次電池の低温抵抗を低減することができるものと考えられ得る。
【0009】
ここで開示される黒鉛系負極活物質材料の好ましい一態様では、上記A層、B層、C層について電子回折画像を取得した場合に、少なくとも該C層における格子面間隔dの値が判定可能であり、該A層における該d値は判定不可能である。
【0010】
ここで開示される黒鉛系負極活物質材料の好ましい一態様では、BET法に基づく比表面積(以下、単に「比表面積」ともいう)は、2.2m2/g~8.3m2/gの範囲内である。黒鉛系負極活物質材料の比表面積を上記の範囲内とした場合に、二次電池の低温抵抗をより好適に低減することができる。
【0011】
また、ここで開示される黒鉛系負極活物質材料は、次の工程:非晶質炭素層を構成する非晶質炭素材料と、黒鉛質粒子とを準備する材料準備工程;上記非晶質炭素材料と、上記黒鉛質粒子とを混合し、該黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部に、該非晶質炭素材料を付着させる付着工程;および、上記付着工程後に、マイクロ波加熱処理を行うことで、上記黒鉛質粒子の少なくとも一部を被覆する上記非晶質炭素層を形成するマイクロ波加熱処理工程,ここで、該非晶質炭素層における該黒鉛系負極活物質材料の表面から該黒鉛質粒子に至るまでの間を、該表面に近い方からA層、B層、C層に3等分したとき、該A層、B層、C層における結晶化の進行具合はこの順に大きくなる;を包含する製造方法によって、好適に製造することができる。
【0012】
また、他の側面から、本発明は、正極と、ここで開示されるいずれかの黒鉛系負極活物質材料を含む負極と、電解質とを備える二次電池を提供する。かかる二次電池によると、低温抵抗を好適に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料の構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図1の黒鉛系負極活物質材料の断面について取得したTEM画像を模式的に示す図である。
【
図3】一実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料の製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
【
図4】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
【
図5】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池が備える捲回電極体の構成を模式的に示す図である。
【
図6】サンプル5に係る黒鉛系負極活物質材料をFIB処理した後に得られた薄片の断面におけるTEM画像(4百万倍)である。
【
図7】
図6におけるA
1層,C
1層の電子回折画像である。
【
図8】サンプル1に係る黒鉛系負極活物質材料を材料FIB処理した後に得られた薄片の断面におけるTEM画像(4百万倍)である。
【
図9】
図8におけるA
2層,B
2層の電子回折画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ここで開示される黒鉛系負極活物質材料、該黒鉛系負極活物質材料の製造方法、および当該黒鉛負極活物質材料を用いた二次電池に関する好適な一実施形態について、適宜図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の実施形態は、ここで開示される技術を限定することを意図したものではない。また、本明細書にて示す図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付して説明している。さらに、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0015】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0016】
<黒鉛系負極活物質材料1の構成>
図1は、一実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料の構成を模式的に示す図である。図示するように、本実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料1は、おおまかにいって、黒鉛質粒子10と、該黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部を被覆する非晶質炭素層12とを備えている。また、黒鉛質負極活物質材料1は、電荷担体を可逆的に放出可能な材料ということができる。以下、各構成要素について説明する。
【0017】
(黒鉛質粒子10)
黒鉛質粒子10は、黒鉛を主体として構成される粒子のことを意味する。ここで、「黒鉛を主体として構成される」とは、黒鉛質粒子10を構成する成分のうち、質量%基準で最も多く含まれている成分が黒鉛であることを意味する。特に限定されないが、黒鉛質粒子10を構成する黒鉛の割合は、該黒鉛質粒子全体を100質量%としたとき、概ね70質量%以上とすることができ、例えば80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上(例えば100質量%であってもよい)とすることができる。
黒鉛質粒子10としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、これらの混合物を含む黒鉛質粒子を用いることができる。あるいは、これらよりも結晶性の低い石炭系コークス、石油系コークス、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等を、1種または2種以上組み合わせた材料の焼成物を含む黒鉛質粒子を用いることもできる。
【0018】
また、黒鉛質粒子10の形状は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に限定されないが、均一な厚みの非晶質炭素層12を設けることが容易であるという観点から、黒鉛質粒子10は略球状であることが好ましい。かかる観点から、黒鉛質粒子10の平均アスペクト比は、概ね1.3以下であり、1.2以下が好ましく、1.1以下がより好ましい。平均アスペクト比は、電子顕微鏡観察に基づく、10個以上の黒鉛質粒子10の長径aと短径bとの比(a/b)の算術平均値とすることができる。
【0019】
黒鉛質粒子10の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下であり得る。なお、本明細書および特許請求の範囲において「平均粒子径」とは、レーザー回折・光散乱法に基づき測定した体積基準の粒度分布において、粒子径の小さな微粒子側から累積50%に相当する粒子径D50値(メジアン径ともいう)を意味する。
【0020】
電子回折によって求めた黒鉛質粒子10における格子面(002面)のd002値(即ち、格子面間隔)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.335nm以上であり、概ね0.340nm未満であり得る。d002値が大きすぎると、結晶性が低下し、初期不可逆容量が増加する傾向にあるため好ましくないとされる。また、黒鉛質炭素の結晶子サイズ(Lc)は、概ね30nm以上とすることができる。かかるd002値の取得は、例えば市販の電子回折装置を用い、該電子回折装置の手順書に従って実施することができる。
【0021】
(非晶質炭素層12)
非晶質炭素層12は、結晶性の低い非晶質炭素材料を主として構成される層を意味する。ここで、「非晶質炭素材料を主体として構成される」とは、非晶質炭素層12を構成する成分のうち、質量%基準で最も多く含まれている成分が非晶質炭素材料であることを意味する。特に限定されないが、非晶質炭素層12を構成する非晶質炭素材料の割合は、該非晶質炭素層全体を100質量%としたとき、概ね70質量%以上とすることができ、例えば80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上(例えば100質量%であってもよい)とすることができる。
【0022】
非晶質炭素層12は、黒鉛質粒子10の表面の少なくとも一部を被覆する層である。このように、黒鉛質粒子の表面を非晶質炭素層によって少しでも覆うことにより、二次電池の低温抵抗を好適に低減することができる。そして、さらに黒鉛質粒子の表面全体を非晶質炭素層によって覆うことで、上記効果をより好適に実現することができる。
また、黒鉛系負極活物質材料1の断面について透過型電子顕微鏡(TEM)画像を取得し(例えば、黒鉛系負極活物質材料1を、厚み数μm~数十μmに薄片化した際に得られる薄片のうちの一薄片の断面について取得してもよいし、複数(概ね2~5程度)の薄片の断面について取得してもよい)、非晶質炭素層12における該黒鉛系負極活物質材料の表面から黒鉛質粒子10に至るまでの間を、該表面に近い方からA層、B層、C層に3等分したとき、該A層、B層、C層における結晶化の進行具合はこの順に大きくなることを特徴とする。ここで、
図2は、一実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料1の断面について取得したTEM画像を模式的に示す図である。
図2では、結晶化の進行度を点および線の数で表現しており、かかる進行度が高い程点の数が減少し、線の数が増加する態様として表現している。なお、観察対象の薄片に対してOs(オスミウム)染色処理を施すと、結晶化の進行度合いが目視で確認し易くなるため好ましい。
【0023】
ここで、従来の黒鉛系負極活物質材料(典型的には、炉焼成によって製造される)は、黒鉛質粒子と非晶質炭素層との結晶性の差が大きく、リチウムイオンの粒子内拡散抵抗が大きくなってしまうというような課題があった。また、かかる結晶性の差を解消するべく外熱焼成を行うと、黒鉛系負極活物質材料の最表面の結晶性が高くなってしまい、リチウムイオンの挿入サイトが減少するため、抵抗が増加するというような課題もあった。一方、ここで開示される黒鉛系負極活物質材料は、マイクロ波加熱焼成によって好適に製造されており、非晶質炭素層内の結晶性に傾斜を持たせる(即ち、非晶質炭素層と黒鉛質粒子との間における結晶性のギャップを抑制する)ことによって、該非晶質炭素層内におけるリチウムイオンの移動を促進させることができる。また、黒鉛系負極活物質材料の表面の結晶性を低下させることによって、イオンの挿入サイト数を向上させることができる。これらによって、二次電池の低温抵抗を低減することができるものと考えられる。なお、上記の説明は、本発明者の考察であり、ここで開示される技術は上記説明に限定して解釈されるものではない。
【0024】
上述したように、非晶質炭素層12におけるA層、B層、C層における結晶化の進行具合の差は、TEMによって黒鉛系負極活物質材料1の断面を観察することによって確認することができる。また、例えば上記A層、B層、C層について電子回折画像を取得した場合に、少なくとも該C層ではd値(即ち、格子面間隔)が判定可能であり、該A層では該d値が判定不可能であるということからも、好適に確認することができる。
【0025】
上記d値が判定可能な層について、電子回折によって求めた格子面(002面)のd002値(即ち、格子面間隔)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.340nm以上であり、好ましくは0.345nm以上とすることができる。また、概ね0.380nm以下であり、好ましくは0.370nm以下、0.360nm以下とすることができる。また、非晶質炭素の結晶子サイズ(Lc)は、概ね1nm以上とすることができる。かかるd002値の取得は、例えば市販の電子回折装置を用い、該電子回折装置の手順書に従って実施することができる。
【0026】
非晶質炭素層12の厚みは、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、例えば10nm以上500nm以下であり、好ましくは30nm以上400nm以下であり、より好ましくは30nm以上300nm以下であり得る。なお、非晶質炭素層12の厚みは、例えばTEMを用いて黒鉛系負極活物質1の断面を観察することによって求めることができる。
【0027】
黒鉛系負極活物質材料1の比表面積は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.1m2/g以上100m2/gとすることができる。また、得られる電池の低温抵抗を抑制する等の観点から、好ましくは、0.5m2/g以上、1.0m2/g以上、2.0m2/g以上(例えば、2.2m2/g以上)とすることができる。そして、電解液との過度な反応性を抑制するという観点からは、好ましくは、50m2/g以下、20m2/g以下、10m2/g以下(例えば、9.0m2/g以下)とすることができる。黒鉛系負極活物質1の比表面積は、好ましくは2.2m2/g~8.3m2/gの範囲内とすることができ、4.5m2/g~7.5m2/gの範囲内とすることもできる。
【0028】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「比表面積」とは、例えば吸着質として窒素(N2)ガスを用いたガス吸着法(定容量吸着法)によって測定されたガス吸着量に基づき、BET法(例えばBET一点法)により解析されて算出された表面積のことを意味する。かかる測定は、例えば市販の表面積測定装置を用い、該表面測定装置の手順書に従って測定することができる。
【0029】
<黒鉛系負極活物質材料1の製造方法>
以下、本実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料1の好適な製造方法について説明するが、製造方法を以下に示すものに限定することを意図したものではない。
【0030】
図3は、一実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料の製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。図示するように、本実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料1は、次の工程:非晶質炭素層を構成する非晶質炭素材料と、黒鉛質粒子とを準備する材料準備工程(ステップS1);上記非晶質炭素材料と、上記黒鉛質粒子とを混合し、該黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部に、該非晶質炭素材料を付着させる付着工程(ステップS2);および、上記付着工程後に、マイクロ波加熱処理を行うことで、上記黒鉛質粒子の少なくとも一部を被覆する上記非晶質炭素層を形成するマイクロ波加熱処理工程(ステップS3);を包含する製造方法によって、好適に製造することができる。以下、各ステップについて説明する。
【0031】
(ステップS1:材料準備工程)
ステップS1では、非晶質炭素層を構成する非晶質炭素材料と、黒鉛質粒子とを準備する。上記黒鉛質粒子としては、上記黒鉛質粒子の説明において記載したような粒子を用いることができる。また、上記非晶質炭素材料としては、この種の材料として用いられる従来公知のものを用いることができ、例えば、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール、アセナフチレン、デカシクレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素化合物、フェナジン、アクリジン等のN環化合物、チオフェン、ビチオフェン等のS環化合物、セルロール、マンナン、キトサン等の天然高分子化合物、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド等の熱可塑性樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。なお、上記黒鉛質粒子および非晶質炭素材料としては、例えば市販のものを購入して用いることができる。また、上述した非晶質炭素材料を有機溶媒に溶解させて、溶液等として用いることもできる。かかる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n-へキサン等が挙げられる。
【0032】
(ステップS2:付着工程)
ステップS2では、上記非晶質炭素材料と、上記黒鉛質粒子とを混合し、該黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部に、該非晶質炭素材料を付着させる。
具体的には、先ず、非晶質炭素材料と、黒鉛質粒子と、必要に応じてその他の成分(例えば、溶媒等)を、市販の撹拌装置、混合機、混錬機によって混合する。ここで、非晶質炭素層材料と黒鉛質粒子との混合割合は、用いる材料の種類や、黒鉛質粒子における非晶質炭素層の被覆率・比表面積の値等によって適宜調整されることが好ましい。また、混合条件(具体的には、混合時間や混合速度等)に関しても、用いる材料の種類や量等に応じて適宜調整されることが好ましい。上記混合割合や混合条件は、例えば予備実験等を行うことによって適宜決定することができる。
【0033】
(ステップS3:マイクロ波加熱処理工程)
次に、ステップS3では、上記付着工程(ステップS2)後にマイクロ波加熱処理を行うことで、上記黒鉛質粒子の少なくとも一部を被覆する上記非晶質炭素層を形成する。なお、マイクロ波焼成装置の出力(W)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね1000W~2000Wの範囲内(例えば、1500W程度)とすることができる。また、焼成時間は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね20~240分程度とすることができる。そして、かかる焼成は、例えば窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等のガス雰囲気下で行うことが好ましい。このようにして、黒鉛系負極活物質材料1を得ることができる。
【0034】
また、必要に応じて、ステップS3の後に粉砕工程を設けてもよい。かかる粉砕は、例えば、市販のクラッシャー、ボールミル、撹拌ミル等を用いて行うことができる。また、さらに、分級処理工程を設けることもできる。かかる分級は、例えば市販の分級装置を用いて行うことができる。
【0035】
また、他の側面から、ここで開示される技術によると、正極と、ここで開示されるいずれかの黒鉛系負極活物質材料を含む負極と、電解質とを備える二次電池を提供することができる。即ち、上記のとおり製造した黒鉛系負極活物質材料1を用いて、従来公知の方法によって二次電池を構築することができる。
【0036】
以下、本実施形態に係る二次電池について、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池を例にして、詳細に説明する。
【0037】
図4に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解質(図示せず)とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。正負極端子42,44はそれぞれ正負極集電板42a,44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質には、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0038】
捲回電極体20は、
図4および
図5に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0039】
正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0040】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0041】
正極活物質層54は、正極活物質を含有する。正極活物質としては、例えば、リチウムニッケル系複合酸化物(例、LiNiO2等)、リチウムコバルト系複合酸化物(例、LiCoO2等)、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(例、LiNiCoMnO2やLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物(例、LiNi0.8Co0.15Al0.5O2等)、リチウムマンガン系複合酸化物(例、LiMn2O4等)、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物(例、LiNi0.5Mn1.5O4等)などのリチウム遷移金属複合酸化物;リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO4等)などが挙げられる。
【0042】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、リン酸三リチウム、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイトなど)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0043】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上97質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以上96質量%以下である。正極活物質層54中のリン酸三リチウムの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、2質量%以上12質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上13質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0044】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0045】
負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体52としては、銅箔が好ましい。
【0046】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0047】
負極活物質層64は負極活物質として、上述の黒鉛系負極活物質材料を含有する。負極活物質層64は、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、上述の黒鉛系負極活物質材料に加えて、その他の負極活物質を含有していてもよい。
【0048】
負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0049】
負極活物質層中の負極活物質材料の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0050】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0051】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0052】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0053】
非水電解質は、典型的には、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が例示される。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0054】
支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩(好ましくはLiPF6)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0055】
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、オキサラト錯体等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0056】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0057】
以上、例として扁平形状の捲回電極体を備える角型のリチウムイオン二次電池について説明した。しかしながら、本実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料は、従来公知の方法に従い、他の種類のリチウムイオン二次電池にも使用可能である。例えば、本実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料を用いて、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池を構築することもできる。また、本実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料を用いて、円筒型リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池等を構築することもできる。さらに、本実施形態に係る黒鉛系負極活物質材料を用いて、従来公知の方法に従い、リチウムイオン二次電池以外の非水電解質二次電池を構成することもできる。
【0058】
また、従来公知の方法に従い、非水電解質に代えて固体電解質(例、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質など)を使用し、セパレータの代わりに固体電解質を正極と負極との間に介在させて、全固体二次電池(特に、全固体リチウムイオン二次電池)を構築することもできる。
【0059】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0060】
<黒鉛系負極活物質材料の作製>
(サンプル1)
非晶質炭素材料としての市販のコールタールピッチ5.0gと、平均粒子径が10μmの黒鉛質粒子(日本黒鉛工業株式会社製 CGB-10)50gとを、市販の撹拌装置(LAB MILL,回転速度20000rpm,30秒間)によって混合したものを、管状炉において窒素雰囲気下、1000℃で60分間焼成した。これによって、サンプル1に係る黒鉛系負極活物質材料を得た。
【0061】
(サンプル2~9)
非晶質炭素材料としての市販のコールタールピッチと、平均粒子径が10μmの黒鉛質粒子(日本黒鉛工業株式会社製 CGB-10)とを、市販の撹拌装置(LAB MILL,回転速度20000rpm,30秒間)によって表1の該当欄に示す量で混合したものを、マイクロ波焼成装置(株式会社ヒロテック製のMDS-2015-X02)で、窒素雰囲気下、表1の該当欄に示す焼成条件で焼成することで、サンプル2~9に係る黒鉛系負極活物質材料を得た。
【0062】
<非晶質炭素層のTEM観察>
上記のとおり得られた各サンプルに係る黒鉛系負極活物質材料について、集束イオンビーム(FIB)法(マイクロサンプリング法)により薄片化を実施した。そして、得られた複数の薄片の中から無作為的に一薄片取り出し、かかる一薄片に対して適切なOs染色処理を施した後、TEM画像(倍率:4百万倍)を取得した。かかる取得は、株式会社日本電子製のJEM-ARM200Fを用いて行い、加速電圧は200kVとして行った。
そして、上記観察によって得られたTEM画像について、黒鉛系負極活物質材料の表面から黒鉛質粒子に至るまでの間(以下、単に「表面-黒鉛質粒子間」ともいう)を観察した。その結果、サンプル1に係る黒鉛系負極活物質材料では、表面-黒鉛質粒子間における結晶化の進行度合いが全体的に大きく、結晶性の傾斜はほとんど確認されなかった(辛うじて、2層に分けられる態様であった)。また、サンプル2に係る黒鉛系負極活物質材料では、焼成時間が不十分であったため、表面-黒鉛質粒子間における結晶化が全体的にほとんど進行しておらず、結晶性の傾斜は確認されなかった。そして、サンプル3~9に係る黒鉛系負極活物質材料では、表面-黒鉛質粒子間における結晶化の進行度合いは、表面から黒鉛質粒子にかけて大きくなることが確認され、結晶化の進行具合に従って3層(即ち、A層、B層、C層)に分かれることが確認された。
【0063】
ここで、一例として、
図6および
図8に、それぞれサンプル5およびサンプル1に係る黒鉛系負極活物質材料の上記薄片のTEM画像を掲載した。
図6では、12aにおけるA
1層からC
1層にかけて結晶性が高くなることが確認され、一方、
図8では、12bは辛うじて2層(A
2層、B
2層)に分けられたものの、ほぼ同様な結晶性であることが確認された。
【0064】
<非晶質炭素層の電子回折測定>
上記TEM観察に加えて、サンプル1に係るA2層、B2層と、サンプル3~9に係るA層、C層について、上記TEM装置に付属している電子回折装置を用いて、電子回折画像およびd002の値を取得した。このとき、ビーム径をΦ1nmとした。その結果、サンプル1に係る2層ではd002値を算出することができた。一方、サンプル3~9に係る2層では、C層に関してはd002値を算出することができたが、A層ではd002値を算出することができなかった。
【0065】
ここで、一例として、
図7および
図9に、それぞれサンプル5に係る2層(A
1層、C
1層)と、サンプル1に係る2層(A
2層、B
2層)の電子回折画像およびd002値を掲載した。また、図示していないが、
図7における黒鉛質粒子10aのd002値は0.338nm、
図9における黒鉛質粒子10bのd002値は0.338nmであった。
【0066】
<黒鉛系負極活物質材料の比表面積の測定>
上記のとおり得られた各サンプルに係る黒鉛系負極活物質材料の比表面積を求めた。かかる比表面積としては、窒素ガス吸着等温線からBET法により解析した値を採用した。また、上記比表面積はマウンテック社製のMacsorbを用いて測定し、かかる装置の手順書に従って測定を行った。結果を、表1の「BET比表面積」の欄に示した。
【0067】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
正極活物質粉末としてのLiNiCoMnO2(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、NCM:AB:PVdF=92:5:3の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、厚み15μmのアルミニウム箔の表面に塗布して乾燥した後、ロールプレスすることにより、正極シートを作製した。
【0068】
各実施例および各比較例の黒鉛系負極活物質材料(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=99:0.5:0.5の質量比で、イオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、厚み10μmの銅箔の表面に塗布して乾燥した後、ロールプレスすることにより、負極シートを作製した。
【0069】
また、厚み24μmのPP/PE/PPの三層構造の多孔質ポリオレフィン層上に厚み4μmのセラミック粒子層(HRL)が形成されたセパレータシートを2枚用意した。
【0070】
作製した正極シートと負極シートと用意した2枚のセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して捲回電極体を作製した。このとき、セパレータシートのHRLを正極シートに対向させた。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートにそれぞれ電極端子を溶接により取り付け、これを、注液口を有する電池ケースに収容した。
【0071】
続いて、電池ケースの注液口から非水電解液を注入し、当該注液口を、封止用ネジにより気密に封止した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。所定時間放置して、捲回電極体に非水電解液を含浸させた。その後、これに初期充電を施し、60℃でエージング処理することによって評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0072】
<低温抵抗評価>
活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を、SOC60%に調製した後、-10℃の環境下に置いた。この各評価用リチウムイオン二次電池に対し、10Cの電流値で2秒間の充電を行った。このときの電圧変化量ΔVを取得し、電流値とΔVを用いて、電池抵抗を算出した。具体的には、電池抵抗=ΔV/電流値として算出した。そして、サンプル1に係る黒鉛系負極活物質材料を用いた評価用リチウムイオン二次電池の抵抗を100とした場合の、他のサンプルに係る黒鉛系負極活物質材料を用いた評価用リチウムイオン二次電池の抵抗の比を求めた。結果を表1の「低温抵抗比」の欄に示した。なお、低温抵抗比の値が99.5以下の場合に、低温抵抗が好適に低減されていると評価することができる。
【0073】
【0074】
表1に示すように、非晶質炭素層における結晶性に傾斜を持たせたサンプル3~9に係る黒鉛系負極活物質材料を用いた二次電池は、非晶質炭素層における結晶性の高いサンプル1に係る黒鉛系負極活物質材料を用いた二次電池や、焼成時間が不十分であったため非晶質炭素層における結晶性に傾斜を持たせることができなかったサンプル2に係る黒鉛系負極活物質材料を用いた二次電池と比較して、低温抵抗が好適に低減することが確認された。また、非晶質炭素層において結晶性に傾斜を持たせたサンプル3~9を参照すると、黒鉛系負極活物質材料の比表面積が2.2m2/g~8.3m2/gの場合に、二次電池の低温抵抗がより好適に低減することが確認された。
以上より、ここで開示される黒鉛系負極活物質材料によると、二次電池の低温抵抗が好適に低減されることが分かる。
【0075】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 黒鉛系負極活物質材料
10,10a,10b 黒鉛質粒子
12,12a,12b 非晶質炭素層
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
100 リチウムイオン二次電池