(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ニッケル-コバルト-アルミニウム電極の合成方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231005BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231005BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231005BHJP
C30B 29/22 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
C30B29/22 Z
(21)【出願番号】P 2021521055
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(86)【国際出願番号】 US2019057060
(87)【国際公開番号】W WO2020082019
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-09-16
(32)【優先日】2018-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510192916
【氏名又は名称】テスラ,インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ホンジャン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジン
(72)【発明者】
【氏名】ダーン,ジェフリー レイモンド
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/042655(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104675760(CN,A)
【文献】特表2012-517675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
C30B 29/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を調製する方法であって、
第1のリチウム成分及び他の金属成分を1.0未満の第1のリチウム/他の金属モル比で存在させて、800℃~950℃の温度で1~24時間の期間にわたって焼結させて、第1のリチウム化材料を得る、第1のリチウム化ステップと、
前記第1のリチウム化材料を650℃~760℃で1~24時間の期間にわたって追加のリチウム成分と共に焼結させて、総リチウム/他の金属モル比を有する第2のリチウム化材料を得る、第2のリチウム化ステップと、
前記第2のリチウム化材料からリチウム遷移金属酸化物電極を形成するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1のリチウム成分がLiOH・H
2Oである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記追加のリチウム成分がLiOH・H
2Oである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記他の金属成分が、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物(NCA)前駆体、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物(NMC)前駆体又はその組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記他の金属成分が、式Ni
1-x-yCo
xAl
y(OH)
2を有するNCA(OH)
2である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のリチウム化材料が、式Li
(1-x)[Ni
0.88Co
0.09Al
0.03]
(1+x)O
2を有する生成物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のリチウム/他の金属モル比
が0.6~0.975である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のリチウム/他の金属モル比
が0.6である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のリチウム/他の金属モル比
が0.7である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のリチウム/他の金属モル比
が0.8である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のリチウム/他の金属モル比
が0.9である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のリチウム/他の金属モル比
が0.95である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のリチウム/他の金属モル比
が0.975である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
焼結
が12時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記総リチウム/他の金属モル比が1.0~1.03である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記他の金属成分がNi、Co、Al、Mn、Mgおよびその組み合わせからなる群から選択される元素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記他の金属成分がNi、Co及びAlを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記他の金属成分がNi及びAlを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記リチウム遷移金属酸化物電極から充電式電池を形成するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記リチウム遷移金属酸化物電極は2%未満の不純物を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
請求項20に記載のリチウム遷移金属酸化物電極を含む充電式電池。
【請求項22】
不純物が低減されたリチウム遷移金属酸化物電極を調製する方法であって、
リチウム成分及び金属成分を800℃~950℃の温度で1~24時間の期間にわたって焼結させて、リチウム/金属成分モル比が1.0未満である第1のリチウム化材料を得るステップと、
追加のリチウム成分を前記第1のリチウム化材料に添加するステップと、
前記第1のリチウム化材料を前記追加のリチウム成分と共に650℃~760℃で1~24時間の期間にわたって焼結させて、総リチウム/金属成分モル比及び低減された不純物を有する第2のリチウム化材料を得るステップと、
前記第2のリチウム化材料からリチウム遷移金属酸化物電極を形成するステップと、
を含む、方法。
【請求項23】
前記低減された不純物が、前記リチウム遷移金属酸化物電極のリチウム層中の低減されたニッケルである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記低減されたニッケルが、前記リチウム遷移金属酸化物電極の前記リチウム層中において2%未満のニッケルである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記低減されたニッケルが、前記リチウム遷移金属酸化物電極の前記リチウム層中において1%未満のニッケルである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記リチウム遷移金属酸化物電極の前記総リチウム/金属成分モル比が1.0付近である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記第2のリチウム化ステップ
が12時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記第2のリチウム化材料が
、不純物を含まない単結晶リチウム化材料を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年10月20日に出願された米国特許出願第62/748,397号の優先権を主張する、2019年2月1日に出願された米国特許出願第16/265,128号の優先権を主張し、その内容全体が参照により組み入れられている。
【0002】
本開示は、充電式電池システムに関し、より具体的には、そのようなシステム用のニッケル-コバルト-アルミニウム(NCA)電極を製造する方法に関する。本開示は、充電式電池セルの製造にも関し、より具体的には、組み立て後の形成及び充電式電池セルの試験工程にも関する。
【背景技術】
【0003】
充電式電池は、電気自動車用及びグリッドストレージ(例えば停電時のバックアップ電力用、マイクログリッドの一部としてなど)用のエネルギー貯蔵システムに必須の構成要素である。多くの充電式電池システムは、電極の一方又は両方でリチウム化合物に依存している。そのようなシステムでは、リチウム化合物から作製された電極は、充電式電池システムの必須の部分として用いられている。
【0004】
充電式電池システムに封入する電極を作製する標準的な方法は、標準NCA(例えば、xが約0.15~0.05、yが約0.06~0.01のLiNi1-x-yCoxAlyO2)リチウム化工程及び標準単結晶NMC(例えば、xが約0.3~0.05、yが約0.2~0.5のLiNi1-x-yMnxCoyO2)リチウム化工程を含む。標準NCAリチウム化工程では、LiOH・H2O材料をNCA(OH)2(名称NCA(OH)2はNi1-x-yCoxAly(OH)2を示す)前駆体と、1.02の指定されたLi/他の金属(OM)比で混合する。2%過剰のLiOH・H2Oを使用して、高温焼成時のリチウム損失を補償する。単結晶NMCリチウム化工程では、2%過剰のLi源(Li2CO3又はLiOH・H2O)を使用する(例えば、NMC622では10%、NMC532では20%)。例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照のこと。さらに、より高い加熱温度も通例必要とされる。
【0005】
さらに、単結晶成長に十分高い温度までNCA材料を加熱すると、Li5AlO4が形成される。また、Liの含有量がより少ないと、Li5AlO4の形成が減少し、これにより電気化学的特性が劣る材料がもたらされる。
定義
【0006】
「セル」又は「電池セル」は一般に、化学反応から電気エネルギーを生成することができる、又は電気エネルギーの導入によって化学反応を促進することができる装置である、電気化学セルを示す。電池は、1個以上のセルを含有することができる。
【0007】
「充電式電池」は一般に、充電、負荷への放電及び複数回の再充電が可能なタイプの電池を示す。本開示では、Liイオン充電式電池に基づいて、いくつかの例を説明する。それにもかかわらず、本発明の実施形態は、1種類の充電式電池に限定されず、様々な充電式電池技術と併せて適用することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、充電式電池で使用するための電極材料を調製する方法を含む。本方法によって、電極内に「デッドマス」をもたらす不純物を伴わずに、単結晶NCA材料を製造することが可能となる。NCA(OH)2とLiOH・H2Oとの混合物を、1.0未満のLi:OM比で調製する。Li:OM比は、リチウム化材料中のリチウムの量の、リチウム化材料中の他の金属の量に対する比であることに留意されたい。この混合物を第一に、単結晶成長を可能にするために十分な温度まで加熱する。Li:OM比が1.0未満であるため、Li5AlO4の形成が回避される。しかし、Li:OM比は1.0未満であるため、生成物はLi1-z(Ni1-x-yCoxAly)1+zO2であり、z>0である。そのような材料は、zが0に非常に近くない限り、電気化学的特性が不十分である。第2の加熱において、少量の過剰Li,qが、q>zとなるように添加される。第2の加熱の温度は、最終生成物におけるLi:OM比が1.0に近づき、Li5AlO4が生成されないように、第1の加熱の温度よりも低くなるように選択する。これにより、不純物を含まない単結晶NCAを生成することができる。
【0009】
本明細書に開示する方法は、リチウム及び他の金属成分が、1.0未満の第1のリチウム/他の金属比で存在し、800~950℃の温度で1~24時間の期間にわたって焼結されて、第1のリチウム化材料を得る、第1のリチウム化ステップを含む。この方法は、リチウム及び他の金属成分が第2のリチウム/他の金属比で存在し、さらに第1のリチウム化電極材料が、追加のLiOH・H2Oと共に650~760℃で1~24時間の期間にわたって焼結されて、第2のリチウム化材料を得る、第2のリチウム化ステップをさらに含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、第1のリチウム化材料は、式Li(1-x)[Ni0.88Co0.09Al0.03](1+x)O2を有する生成物を含む。
【0011】
さらなる実施形態において、第1のリチウム/他の金属比は、約0.6、約0.7、約0.8、0.9、約0.95又は約0.975である。
【0012】
さらに他の実施形態において、第2のリチウム化ステップ中、第1のリチウム化生成物が約12時間にわたって焼結される。
【0013】
いくつかの実施形態において、第1のリチウム/他の金属比及び第2のリチウム/他の金属比の合計は、1.0~1.03である。
【0014】
さらなる実施形態において、他の金属成分は、Al、Ni、Co、Mn、Mg又はその組み合わせを含む。他の実施形態において、他の金属成分は、Ni、Co及びAlを含む。さらなる実施形態において、他の金属成分はNi及びAlを含む。
【0015】
本明細書で提供されるある実施形態により、本開示は、本明細書に記載の方法を使用して形成された電極、及び本明細書に記載の方法を使用して形成された電極を含む充電式電池も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1Aは、NCA(OH)
2前駆体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を4μmスケールバーと共に示す。
図1Bは、得られたNCA(OH)
2生成物のSEM画像を10μmスケールバーと共に示す。
【0017】
【
図2】
図2a~lは、様々な第1のリチウム化反応から得られた生成物のSEM画像を5μmスケールバーと共に示す。
図2aは、950℃、0.95のLi/OM比での、NCA(OH)
2とLiOH・H
2Oとの間の第1のリチウム化反応の結果を示す。
図2bは、900℃、0.95のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2cは、875℃、0.95のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2dは、850℃、0.975のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2eは、950℃、0.90のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。
図2fは、900℃、0.925のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2gは、875℃、0.925のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2hは、850℃、0.95のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2iは、950℃、0.80のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。
図2jは、900℃、0.90のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。
図2kは、875℃、0.90のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。
図2lは、850℃、0.90のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。
【0018】
【
図3】
図3a~lは、4種類の2ステップリチウム化生成物のSEM画像を5μmスケールバーと共に示す。
図3a、
図3b、
図3c及び
図3dは、4種類の選択した第1のリチウム化後の生成物であり、
図2iの第2のリチウム化反応の生成物を、Li/OM比1.01(
図3eを参照)及び1.02(
図3iを参照)で示し、
図2jの第2のリチウム化反応の生成物を、Li/OM比1.01(
図3fを参照)及び1.02(
図3jを参照)で示し、
図2c)の第2のリチウム化反応の生成物を、Li/OM比1.01(
図3gを参照)及び1.02(
図3kを参照)で示し、
図2dの第2のリチウム化反応の生成物を、Li/OM比1.01(
図3hを参照)及び1.02(
図3lを参照)で示す。
【0019】
【
図4】
図4a~l及び
図4A~Lは、
図3a~
図3lに示す各サンプルの部分X線回折パターンを示す。
図4a及び
図4AのX線データは、
図3aなどに示すサンプルに対応する。サンプルのリチウム化が不完全であると、X線回折ピークが44.25
o付近に出現する。サンプルのリチウム化が完全であると、この104ピークは44.40
o付近に出現する。サンプルのこの挙動を
図4a~
図4lに示す。さらに、108/110の回折ピークは、完全にリチウム化されたサンプルにおいて、Kα
1及びKα
2ピークの明確に分割された対として出現する(
図4h及び
図4lを参照)。
図4A~
図4Lは、Li
2CO
3及びLi
5AlO
4のような不純物相からのピークが出現する回折パターンの部分の拡大図を示す。
図4k及び
図4Kのように、可視不純物ピークを有さず、良好に分割された108/110のピーク及び44.4
o付近の104のピークを有することが望ましい。これらの説明は、ここで調査した特定のNCA880903組成物に当てはまる。
【0020】
【
図5】
図5は、875℃、0.95のLi/OM比での第1のリチウム化反応及び後続の第2のリチウム化反応についての、第2のリチウム化反応後の(リートベルト法を使用したX線プロファイル精密化によって求めた)リチウム層中のニッケルのパーセンテージ、並びに850℃、0.975のLi/OM比での第1のリチウム化反応及び後続の第2のリチウム化反応の結果を示す。リチウム層中のNiの割合は、可能な限り小さいことが望ましい。
【0021】
【
図6】
図6a~fは、PC880903及びSC880903のX線回折パターンの一部を示す。PC880903は、NCA880903の多結晶サンプルであり、一方、SC880903は、875℃、0.95のLi/OM比での第1のリチウム化及び735℃、1.01の最終Li/OM比での後続の第2のリチウム化によって作製されたNCA880903の単結晶サンプルである。SC880903の回折ピークは、PC880903の回折ピークよりもはるかに鋭く、単結晶サンプルから予想されるより大きい結晶子粒子に一致することに留意されたい。
【0022】
【
図7】
図7は、SC-NCA880903の電圧対比容量を示す、C/20でのハーフコインセルにおける充放電サイクルを調査する代表的な実験データを示す。使用した電解質は、EC:DEC(1:2)中1M LiPF
6であった。試験は、電圧限界3.0V~4.3Vで30℃にて行った。
【0023】
【
図8】
図8は、SC-NCA880903のdQ/dV対Vを示す、C/20にてハーフコインセルにおいて収集した代表的な実験データを示す。使用した電解質は、EC:DEC(1:2)中1M LiPF
6であった。試験は、電圧限界3.0V~4.3Vで30℃にて行った。
【0024】
【
図9】
図9a~bは、SC-NCA880903及びPC-NCA880903サンプルの比容量及び正規化放電容量を含む、C/5でのフルコインセルにおける充放電サイクル実験中に収集した実験データを示す。使用した電解質は、2%VCを含むEC:DEC(1:2)中1M LiPF
6又はここで「対照」と呼ぶ、VCを含まないEC:DEC(1:2)中1M LiPF
6のどちらかであった。試験は、電圧限界3.0V~4.2Vで30℃にて行った。PC-NCA880903は、代表的な多結晶NCAサンプルである。
図9a~
図9bは、単結晶サンプルの容量維持率が、2%VCを使用する際の多結晶サンプルと少なくとも同程度に良好であることを示す。
【0025】
【
図10】
図10a~eは、(
図10a、
図10b、
図10c及び
図10dに示す)4つの異なる第1のリチウム化生成物について、焼結温度及びLi/OM比の関数としてプロットした、不純物Bragg回折ピーク相対強度を表す実験データを示す。
図10eは、4つの異なる第1のリチウム化生成物について、焼結温度及びLi/OM比の関数としてプロットした相対強度を表す実験データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の説明は、当業者が実施形態を作成及び使用できるようにするために提示され、特定の用途及びその要件に関連して提供される。開示された実施形態に対する種々の変更は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義される一般的な原理は、本開示の精神及び範囲から逸脱せずに他の実施形態及び用途に適用され得る。したがって、本発明は、示された実施形態に限定されず、本明細書に開示する原理及び特徴と一致する最も広い範囲が与えられるものである。
【0027】
本発明者らによる新たな研究により、単結晶ニッケル-コバルト-アルミニウム電極を調製する2ステップ合成工程が明らかとなった。ある実施形態において、2ステップ合成工程は、2つのリチウム化ステップを含む。第1のリチウム化ステップでは、高い焼結温度でのLi5AlO4の形成を回避するために、Li/OM比が1.0未満(例えばLi/OM=0.6、0.8、0.9、0.95)の前駆体を、800℃~950℃などのより高い焼結温度でリチウム化する。この焼結ステップは、選択した温度、使用する炉構成及び所望の最終結晶子サイズに応じて、1時間~24時間を要し得る。第1のリチウム化ステップでは、Li(1-x)[Ni0.88Co0.09Al0.03](1+x)O2が得られる。第2のリチウム化ステップでは、リチウム欠陥を補償するために、材料を標準的なNCAリチウム化温度(約650~760℃)にて約12時間にわたって、より多くのLiOH・H2Oと共に焼結する。この焼結ステップは、選択した温度及び使用する炉構成に応じて、1時間~24時間を要し得る。第2のリチウム化ステップにおけるLiOH・H2Oの添加量は、最終生成物中のLi/OM比の全体的な目標によって決まる。いくつかの実施形態において、第1のリチウム化ステップで「b」のLi/OM比が選択されると、第2のリチウム化ステップでは、第1及び第2のリチウム化ステップの両方で予想されるリチウム損失の量に応じて、「1.0-b」、「1.01-b」、「1.02-b」、「1.03-b」などのさらなる追加のLi/OM比が選択される。即ち、第1のリチウム化ステップにおけるLi/OM比と第2のリチウム化ステップにおけるLi/OM比との和は、1.0、1.01、1.02又は1.03である。いくつかの実施形態において、目標は、1.00に非常に近いLi/OM比を有し、材料のLi層中に非常に少ないNi原子(2%未満)を有する最終生成物を作製することである。
【0028】
これらの新しい電池システムのいくつかは、エネルギーストレージ用途並びに充放電速度、及び急速充放電時の寿命が重要である(電気自動車内のエネルギーストレージを含む)自動車用途に使用され得る。
【0029】
[実験]
リチウム化実験
NCA880903前駆体水酸化物をGuizhou Zoomwe Zhengyuan Advanced Material Co.,Ltd.から入手した。NCA880903前駆体をPhenom G2-proデスクトップ走査型電子顕微鏡を使用して分析した。
図1Aは、得られたNCA(OH)
2生成物のSEM画像を4μmスケールバーと共に示し、
図1Bは、得られたNCA(OH)
2生成物のSEM画像を10μmスケールバーと共に示す。
【0030】
次いで、リチウム化実験をいくつかの温度及び様々なLi/OM比で行った。
図2は、Phenom G2-ProデスクトップSEMで撮影した、これらの第1のリチウム化反応から得られた生成物のSEM画像を、5μmスケールバーと共に示す。
図2aに、950℃、0.95のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果を示す。
図2bは、900℃、0.95のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2cは、875℃、0.95のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2dは、850℃、0.975のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2eは、950℃、0.90のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。
図2fは、900℃、0.925のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2gは、875℃、0.925のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2hは、850℃、0.95のLi/OM比での、第1のリチウム化反応の結果である。
図2iは、950℃、0.80のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。
図2jは、900℃、0.90のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。
図2kは、875℃、0.90のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。
図2lは、850℃、0.90のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である。すべての場合において、O
2ガスを移送するアルミナ管を備えた管状炉内にてO
2ガス流下で、サンプルを12時間加熱した。
【0031】
第1のリチウム化実験から、追加評価のために、950℃、0.80のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果;900℃、0.90のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果;875℃、0.95のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果;及び850℃、0.975のLi/OM比での第1のリチウム化反応の結果である生成物を選択した。これらのサンプルは、その好ましい粒径、X線回折によって検出した不純物相が比較的少量であること(
図4A~Lを参照)及び第2のリチウム化の間に添加する必要がある、さらなるリチウムが少量であるために選択された。次いでこれらの4つの生成物に、様々なLi/OM比で、O
2流下、735℃にて約12時間にわたって、第2のリチウム化を行った。
図3a~
図3lのSEM画像は、Li/OM比が1.01及び1.02である
図2iの第2のリチウム化反応の、Li/OM比が1.01及び1.02である
図2jの第2のリチウム化反応の、Li/OM比が1.01及び1.02である
図2cの第2のリチウム化反応の、並びにLi/OM比が1.01及び1.02である
図2dの第2のリチウム化反応の生成物を示す。第2のリチウム化反応の生成物を、X線回折を使用してさらに分析し、X線回折強度を散乱角に対してプロットした。回折パターンの一部のみを示す。
図4a及び
図4AのX線データは、
図3aなどに示すサンプルに対応する。サンプルのリチウム化が不完全であると、X線回折ピークが44.25
o付近に出現する。サンプルのリチウム化が完全であると、この104ピークは44.40
o付近に出現する。サンプルのこの挙動を
図4a~
図4lに示す。さらに、108/110の回折ピークは、完全にリチウム化されたサンプルにおいて、Kα
1及びKα
2ピークの明確に分割された対として出現する(
図4h及び
図4lを参照)。
図4A~
図4Lは、Li
2CO
3及びLi
5AlO
4のような不純物相からのピークが出現する回折パターンの部分の拡大図を示す。
図4k及び
図4Kのように、可視不純物ピークを有さず、良好に分割された108/110のピーク及び44.4
o付近の104のピークを有することが望ましい。これらの説明は、ここで調査した特定のNCA880903組成物に当てはまる。
【0032】
さらに、第2のリチウム化反応の生成物のうちの2つについて、リートベルトX線プロファイル分析を使用して、リチウム層中のニッケルのパーセンテージの追加の評価を行った。リチウム層中のニッケル原子は、リチウムサイトを占有して(比容量を低下させ)、リチウム層内のリチウムの急速拡散を妨げる(Liイオン電池のレート性能を低下させる)ため望ましくない。
図5は、875℃、0.95のLi/OM比での第1のリチウム化反応及び後続の第2のリチウム化反応についての、第2のリチウム化反応後のリチウム層中のニッケル原子のパーセンテージ、並びに850℃、0.975のLi/OM比での第1のリチウム化反応及び後続の第2のリチウム化反応の結果を示す。
【0033】
850℃の第1のリチウム化温度及び0.975のLi/OM比、続いて735℃の第2のリチウム化温度及び1.01の総Li/OM比を用いて作製した単結晶NCA生成物を、SC880903又はSC-NCA880903と呼ぶ。このサンプルを、PC880903と呼ぶ多結晶粒を有する従来のNCAサンプルと比較する。PC880903サンプルを、1.02のLi/OM比で、735℃における1回の加熱で作製した。表1は、
図6a~
図6fのX線回折データから抽出した2つのサンプルの構造情報を示す。表1は、2つのサンプルのa及びc格子パラメータ(オングストロームで示す)が非常に類似していることを示し、2ステップ加熱手順が、単一加熱ステップで作製した材料と同等の構造を有する材料を作製することを示している。粒子形態のみが異なる。表1は、両方のサンプルがLi層中に1%未満のNi原子を有することも示している。Bragg一致因子(agreement factor)R
bは、両方のサンプルについて2.5%未満であり、構造パラメータを抽出したX線プロファイル精密化の品質が優れていることを示している。
【表1】
【0034】
サイクリング実験
本開示のある実施形態の材料を使用して作製した電池システムの有効性を調査するために、充放電サイクル実験を行った。
【0035】
図7はSC-NCA880903の電圧対比容量を示す、C/20でのハーフコインセルにおける充放電サイクルを調査する代表的な実験データを示す。使用した電解質は、EC:DEC(1:2)中1M LiPF
6であった。試験は、電圧限界3.0V~4.3Vで30℃にて行った。当業者は、NCA880903の代表的な電圧比容量プロファイルを認識するであろう。
【0036】
図8はSC-NCA880903のdQ/dV対Vを示す、C/20にてハーフコインセルにおいて収集した代表的な実験データを示す。使用した電解質は、EC:DEC(1:2)中1M LiPF
6であった。試験は、電圧限界3.0V~4.3Vで30℃にて行った。当業者は、NCA880903の代表的なdQ/dV対Vプロファイルを認識するであろう。
【0037】
図9a及び
図9bは、SC-NCA880903及びPC-NCA880903サンプルの比容量及び正規化放電容量を含む、C/5でのフルコインセルにおける充放電サイクル実験中に収集した実験データを示す。使用した電解質は、2%VCを含むEC:DEC(1:2)中1M LiPF
6又はここで「対照(control)」と呼ぶ、VCを含まないEC:DEC(1:2)中1M LiPF
6のどちらかであった。試験は、電圧限界3.0V~4.2Vで30℃にて行った。PC-NCA880903は、代表的な多結晶NCAサンプルである。
図9a及び
図9bは、単結晶サンプルの容量維持率が、2%VCを使用する際の多結晶サンプルと少なくとも同程度に良好であることを示す。
図10a~
図10dは、(
図10a、
図10b、
図10c及び
図10dに示す)4つの異なる第1のリチウム化生成物について、焼結温度及びLi/OM比の関数としてプロットした、最も強いLi
5AlO
4不純物Bragg回折ピーク相対強度を表す実験データを示す。
図10eは、4つの異なる第1のリチウム化生成物について、焼結温度及びLi/OM比の関数としてプロットした相対強度を表す実験データを示す。
図2及び
図10の結果を使用して、第1のリチウム化条件を適切に選択することができる。少量の不純物及び適切なサイズの粒子が望まれる。
【0038】
前述の開示は、本開示を、開示された使用の正確な形態または特定の分野に限定することを意図していない。したがって、本明細書に明示的に記載されているか暗示されているかにかかわらず、本開示に対する様々な代替の実施形態及び/又は変更形態が本開示に照らして可能であることが考慮される。このように本開示の実施形態について説明したが、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に変更が加えられ得ることを認識するであろう。したがって、本開示は特許請求の範囲によってのみ限定される。明細書中の添加剤への言及は、一般に、別途明細書において指定されない限り、有効添加剤を示す。
【0039】
上記の明細書では、特定の実施形態を参照して本開示を説明してきた。しかし、当業者が理解するように、本明細書に開示された様々な実施形態は、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な他の方法で変更又は実施することができる。したがって、この説明は例示と見なされるべきであり、開示された電池システムの様々な実施形態を作製及び使用する方法を当業者に教示することを目的とするものである。本明細書に示され説明される開示の形態は、代表的な実施形態として解釈されるべきであることを理解されたい。同等の要素又は材料は、本明細書で代表的に図示及び説明されたものに置き換えられてもよい。さらに、本開示のある特徴は、本開示のこの説明の利益を受けた後に当業者に明らかとなるように、他の特徴の使用から独立して利用され得る。「含む(including)」、「含む(comprising)」、「組み込む(incorporating)」、「からなる(consisting of)」、「有する(have)」、「ある(is)」などの表現は本開示を説明および特許請求するために使用され、非排他的な方法で解釈されるように意図され、即ち、明示的に説明されていない項目、構成要素又は要素も存在させることができる。単数形の言及は、複数形にも関すると解釈されるべきである。「約」または「およそ」の言及は、プラスまたはマイナス10%を意味すると解釈されるべきである。
【0040】
さらに、本明細書に開示された様々な実施形態は、例示および説明の意味で解釈されるべきであり、決して本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。すべての結合についての言及(例えば、取り付け、固定、結合、連結など)は、読者の本開示の理解を支援するためのみ使用され、特に本明細書に開示されたシステム及び/又は方法の位置、向き又は使用に関して制限をなすものではない。したがって、結合についての言及がある場合、広義に解釈されるべきである。さらに、そのような接合についての言及は、2つの要素が互いに直接連結されていることを必ずしも意味しない。
【0041】
加えて、「第1」、「第2」、「第3」、「一次」、「二次」、「主要な」、又はその他いずれかの通常の及び/若しくは数に関する用語などの、ただしこれらに限定されない全ての数に関する用語もまた、本開示の様々な要素、実施形態、変形及び/又は変更の読者の理解を支援するために、識別子としてのみ解釈されるべきであり、別の要素、実施形態、変形及び/又は変更に対するいずれかの要素、実施形態、変形及び/又は変更の、特に順序または優先度に関して、いかなる制限もなすものではない。
【0042】
特定の用途に従って有用であるように、図面/図に示された要素のうちの1つ以上は、より分離又は統合された方法で実装されることも、又はある場合には除去若しくは動作不能とされることさえも可能であることも認識されるであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0043】
【文献】Synthesis of Single Crystal LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2 with Enhanced Electrochemical Performance for Lithium Ion Batteries;Li,Hongyang;Li,Jing;Ma,Xiaowei;et al.JOURNAL OF THE ELECTROCHEMICAL SOCIETY,Volume:165,pages:A1038-A1045 (2018)
【文献】Synthesis of Single Crystal LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2 for Lithium Ion Batteries;Li,Jing;Li,Hongyang;Stone,Will;et al.JOURNAL OF THE ELECTROCHEMICAL SOCIETY,Volume:164,pages:A3529-A3537 (2017)