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特許7361174陰イオン交換膜による効率的なヨウ素成分含有水溶液の製造方法
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  • 特許-陰イオン交換膜による効率的なヨウ素成分含有水溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】陰イオン交換膜による効率的なヨウ素成分含有水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20230101AFI20231005BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20231005BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20231005BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20231005BHJP
   C01B 7/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/46 500
B01D61/44 510
C02F1/44 E
C01B7/14 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022138145
(22)【出願日】2022-08-31
【審査請求日】2023-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392000888
【氏名又は名称】株式会社合同資源
(73)【特許権者】
【識別番号】503361709
【氏名又は名称】株式会社アストム
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100169498
【弁理士】
【氏名又は名称】水長 雄大
(74)【代理人】
【識別番号】100210985
【弁理士】
【氏名又は名称】執行 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】石井 利光
(72)【発明者】
【氏名】中村 優樹
(72)【発明者】
【氏名】土井 正一
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-023847(JP,A)
【文献】特開2018-158318(JP,A)
【文献】特公昭48-034999(JP,B1)
【文献】特開2008-013379(JP,A)
【文献】国際公開第2003/014028(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44- 1/48
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C01B 7/14
C08J 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮室、脱塩室、および前記濃縮室と前記脱塩室とを仕切るイオン交換膜を有する電気透析装置を用いて、ヨウ素成分および硫酸イオンを含有する廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析工程を含み、
前記イオン交換膜が、下記の海水濃縮試験に従って測定されるSOインデックスが、6.0×10-3N以上30.0×10-3N以下である1価選択性陰イオン交換膜を含む、ヨウ素回収方法。
<海水濃縮試験>
膜抵抗が1.5Ω・cm以上2.5Ω・cm以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜を一価選択面が脱塩室に向くように組入れられた小型電気透析装置(通電膜面積100cm)を用い、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室に3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dmで濃縮室の濃度変化がなくなるまで電気透析を行った際に得られる濃縮液中のSO 2-濃度を、上記SOインデックスとして測定する。
【請求項2】
請求項1に記載のヨウ素回収方法であって、
前記1価選択性陰イオン交換膜が、4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含む、ヨウ素回収方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヨウ素回収方法であって、
前記電気透析工程の前、前記廃液のpHを9.5以下に調整するpH調整工程を含む、ヨウ素回収方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のヨウ素回収方法であって、
前記電気透析装置が、連続循環式電気透析設備を備える、ヨウ素回収方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のヨウ素回収方法であって、
前記電気透析装置に供給される前記廃液の温度を25℃以上に調整する、ヨウ素回収方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のヨウ素回収方法であって、
前記廃液の原料が、偏光フィルム、造影剤、消毒剤、および放射線関連材料のいずれかのヨウ素成分を含む製品における製造過程もしくは製造装置からの廃液または廃粉末及び廃固形物、または抗生物質・抗ウイルス剤などの医薬品合成等の化学合成に使用するヨウ素触媒を含む廃液または廃固形物である、ヨウ素回収方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のヨウ素回収方法であって、
得られた前記ヨウ素含有濃縮液を用いて、ヨウ素、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸からなる群から選ばれる一または二以上を製造する再生工程を含む、ヨウ素回収方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載のヨウ素回収方法であって、
得られた前記ヨウ素含有濃縮液を用いて、ヨウ化物塩を回収する、ヨウ素回収方法。
【請求項9】
請求項8に記載のヨウ素回収方法であって、
前記ヨウ化物塩が、ヨウ化アルカリ金属塩を含む、ヨウ素回収方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載のヨウ素回収方法であって、
得られた前記脱塩液を、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液して前記脱塩液中に残存するヨウ化物イオンを前記強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、前記強塩基性陰イオン交換樹脂からヨウ素を回収する工程を含む、ヨウ素回収方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載のヨウ素回収方法であって、
前記ヨウ素含有濃縮液をバイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程を含む、ヨウ素回収方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載のヨウ素回収方法であって、
前記廃液がホウ素成分を含む場合、得られた前記脱塩液をpHが11以上となるように調整した後、別の電気透析装置を用いて、前記脱塩液からホウ素含有濃縮液を分離回収するホウ素回収工程を含む、ヨウ素回収方法。
【請求項13】
ヨウ素成分および硫酸イオンを含有する廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析装置であって、
ヨウ素含有濃縮液を生成する濃縮室と、
ヨウ素成分含有廃液を供給する脱塩室と、
前記濃縮室と前記脱塩室とを仕切るイオン交換膜と、
を備えており、
前記イオン交換膜が、下記の海水濃縮試験に従って測定されるSOインデックスが、6.0×10-3N以上30.0×10-3N以下である1価選択性陰イオン交換膜を含む、電気透析装置。
<海水濃縮試験>
膜抵抗が1.5Ω・cm以上2.5Ω・cm以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜を一価選択面が脱塩室に向くように組入れられた小型電気透析装置(通電膜面積100cm)を用い、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室に3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dmで濃縮室の濃度変化がなくなるまで電気透析を行った際に得られる濃縮液中のSO 2-濃度を、上記SOインデックスとして測定する。
【請求項14】
請求項13に記載の電気透析装置であって、
前記1価選択性陰イオン交換膜が、4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含む、電気透析装置。
【請求項15】
ヨウ素成分および硫酸イオンを含有する廃液をヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析に用いるための陰イオン交換膜であって、
1価選択性陰イオン交換膜であり、
4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含み、
下記の海水濃縮試験に従って測定されるSOインデックスが、6.0×10-3N以上30.0×10-3N以下である、
ヨウ素成分含有廃液の電気透析用陰イオン交換膜。
<海水濃縮試験>
膜抵抗が1.5Ω・cm以上2.5Ω・cm以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜を一価選択面が脱塩室に向くように組入れられた小型電気透析装置(通電膜面積100cm)を用い、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室に3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dmで濃縮室の濃度変化がなくなるまで電気透析を行った際に得られる濃縮液中のSO 2-濃度を、上記SOインデックスとして測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素回収方法、電気透析装置、および陰イオン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで廃液からヨウ素を回収する技術について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。廃液には、ヨウ化物イオン(I)などのヨウ素成分のほか、硫酸イオン(SO 2-)のような2価イオンなども共存していることがある。たとえば、廃液中には、硫酸イオンが、通常、1g/L以上、硫酸塩の飽和溶解度以下の濃度で含まれ、より一般的には20~50g/L程度含まれていることがある。
特許文献1には、1価選択性陰イオン交換膜などを使用して、ヨウ素を有する無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオンを含有し、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行う方法が記載されている(特許文献1の請求項1、実施例など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-079318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の電気透析方法において、ヨウ化物イオンの濃縮効率の点で改善の余地があることが判明した。
すなわち、これまでの1価選択性陰イオン交換膜であれば、硫酸イオンなどの多価イオンの透過を抑制しつつも、ヨウ化物イオンの濃縮が確実に進むが、その透過速度が遅く時間がかかるので、濃縮効率が悪いことが問題だった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、さらに検討したところ、1価選択性陰イオン交換膜について、硫酸イオン透過性が特定範囲にある膜を用いることにより、電気透析時において、同じ電圧でも、硫酸イオン等の多価イオンの濃縮は低く抑えつつ、ヨウ化物イオンの濃縮効率を高められることを見出した。
【0006】
詳しくは後述するように1価選択性陰イオン交換膜における、1価陰イオンと2価陰イオンの膜透過の選択性は、1価陰イオンとしてClを採択し、他方2価陰イオンとしてSO 2-を採択し、これら両イオンの電気透析時の選択透過係数(PCl SO4)で規定されるのが一般的である。これは1価選択性陰イオン交換膜が、製塩工業における海水濃縮で主に使用されるからであり、実際この用途では上記選択透過係数(PCl SO4)の小さい膜を用いることで、Clの選択的濃縮が良好に実施されている。従って、ヨウ素の回収の場合であっても、前記硫酸イオンの濃縮を避けて実施するため、陰イオン交換膜として、1価選択性のものを用いるのであれば、これは上記ClとSO 2-との関係で規定された前記選択透過性において、該物性値ができるだけ小さいものを使用するのが普通の採択になる。
ところが、本発明者らの検討によれば、ヨウ素回収において、斯様に製塩工業で通常用いられている選択透過係数(PCl SO4)が小さい膜を用いたのでは、係るヨウ化物イオンとSO 2-の透過の挙動は、前記ClとSO 2-の透過のそれとは予想外の相違があり、ヨウ化物イオンは十分に高い透過速度で濃縮ができないことが発覚した。そして、さらに研究を進めたところ、1価選択性陰イオン交換膜の「SOインデックス」をヨウ化物イオンの透過性の指標として活用すれば、意外にも、ヨウ化物イオンは1価陰イオンであるにもかかわらず、この透過量と良好に相関することを見出した。そして、これらの知見をもとに、海水濃縮試験に従って測定される「SOインデックス」が特定の範囲の1価選択性陰イオン交換膜を用いれば、SO 2-透過量を低く抑えつつ、該ヨウ化物イオンを高度に濃縮させることが達成されることを突き止め、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一態様によれば、以下のヨウ素回収方法、電気透析装置、および陰イオン交換膜が提供される。
【0008】
1. 濃縮室、脱塩室、および前記濃縮室と前記脱塩室とを仕切るイオン交換膜を有する電気透析装置を用いて、ヨウ素成分を含有する廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析工程を含み、
前記イオン交換膜が、海水濃縮試験に従って測定されるSOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下である1価選択性陰イオン交換膜を含む、ヨウ素回収方法。
<海水濃縮試験>
膜抵抗が1.5Ω・cm以上2.5Ω・cm以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜を一価選択面が脱塩室に向くように組入れられた小型電気透析装置(通電膜面積100cm)を用い、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室に3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dmで濃縮室の濃度変化がなくなるまで電気透析を行った際に得られる濃縮液中のSO 2-濃度を、上記SOインデックスとして測定する。
2. 1.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記1価選択性陰イオン交換膜が、4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含む、ヨウ素回収方法。
3. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記電気透析工程の前、前記廃液のpHを9.5以下に調整するpH調整工程を含む、ヨウ素回収方法。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載のヨウ素回収方法であって、
前記電気透析装置が、連続循環式電気透析設備を備える、ヨウ素回収方法。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載のヨウ素回収方法であって、
前記電気透析装置に供給される前記廃液の温度を25℃以上に調整する、ヨウ素回収方法。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載のヨウ素回収方法であって、
前記廃液が、偏光フィルム、造影剤、消毒剤、および放射線関連材料のいずれかのヨウ素成分を含む製品における製造過程、製造装置もしくは廃棄物からの廃液、または化学合成に使用するヨウ素触媒を含む廃液である、ヨウ素回収方法。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載のヨウ素回収方法であって、
得られた前記ヨウ素含有濃縮液を用いて、ヨウ素、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸からなる群から選ばれる一または二以上を製造する再生工程を含む、ヨウ素回収方法。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載のヨウ素回収方法であって、
得られた前記ヨウ素含有濃縮液を用いて、ヨウ化物塩を回収する、ヨウ素回収方法。
9. 8.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記ヨウ化物塩が、ヨウ化アルカリ金属塩を含む、ヨウ素回収方法。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載のヨウ素回収方法であって、
得られた前記脱塩液を、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液して前記脱塩液中に残存するヨウ化物イオンを前記強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、前記強塩基性陰イオン交換樹脂からヨウ素を回収する工程を含む、ヨウ素回収方法。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載のヨウ素回収方法であって、
前記ヨウ素含有濃縮液をバイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程を含む、ヨウ素回収方法。
12. 1.~11.のいずれか一つに記載のヨウ素回収方法であって、
前記廃液がホウ素成分を含む場合、得られた前記脱塩液をpHが11以上となるように調整した後、別の電気透析装置を用いて、前記脱塩液からホウ素含有濃縮液を分離回収するホウ素回収工程を含む、ヨウ素回収方法。
13. ヨウ素成分を含有する廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析装置であって、
ヨウ素含有濃縮液を生成する濃縮室と、
ヨウ素成分含有廃液を供給する脱塩室と、
前記濃縮室と前記脱塩室とを仕切るイオン交換膜と、
を備えており、
前記イオン交換膜が、下記の海水濃縮試験に従って測定されるSOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下である1価選択性陰イオン交換膜を含む、電気透析装置。
<海水濃縮試験>
膜抵抗が1.5Ω・cm以上2.5Ω・cm以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜を一価選択面が脱塩室に向くように組入れられた小型電気透析装置(通電膜面積100cm)を用い、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室に3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dmで濃縮室の濃度変化がなくなるまで電気透析を行った際に得られる濃縮液中のSO 2-濃度を、上記SOインデックスとして測定する。
14. 13.に記載の電気透析装置であって、
前記1価選択性陰イオン交換膜が、4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含む、電気透析装置。
15. ヨウ素成分を含有する廃液をヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析に用いるための陰イオン交換膜であって、
1価選択性陰イオン交換膜であり、
4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含み、
下記の海水濃縮試験に従って測定されるSOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下である、
ヨウ素成分含有廃液の電気透析用陰イオン交換膜。
<海水濃縮試験>
膜抵抗が1.5Ω・cm以上2.5Ω・cm以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜を一価選択面が脱塩室に向くように組入れられた小型電気透析装置(通電膜面積100cm)を用い、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室に3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dmで濃縮室の濃度変化がなくなるまで電気透析を行った際に得られる濃縮液中のSO 2-濃度を、上記SOインデックスとして測定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヨウ化物イオンの濃縮効率に優れたヨウ素回収方法、電気透析装置、および陰イオン交換膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の電気透析装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2】本実施形態のヨウ素回収システムの構成の一例を模式的に示す図である。
図3】本実施形態のヨウ素回収工程の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0012】
本実施形態のヨウ素回収方法の概要を説明する。
【0013】
本実施形態のヨウ素回収方法は、濃縮室、脱塩室、および濃縮室と脱塩室とを仕切るイオン交換膜を有する電気透析装置を用いて、ヨウ素成分を含有する廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析工程を含み、イオン交換膜が、下記の海水濃縮試験に従って測定されるSOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下である1価選択性陰イオン交換膜を含むように構成される。
【0014】
本発明者らの知見によれば、下記の所定条件で測定されるSOインデックスを指標とすることにより、メカニズムは定かではないが、電気透析時におけるヨウ化物イオンの透過性を安定的に評価できることが判明した。したがって、本実施形態のヨウ素回収方法は、SOインデックスが上記下限値以上となる1価選択性陰イオン交換膜を使用することにより、ヨウ素成分を含有する廃液の電気透析において、ヨウ化物イオンの濃縮効率を向上できる。
【0015】
1価選択性陰イオン交換膜におけるSOインデックスは、下記の海水濃縮試験に準拠して測定できる。
<海水濃縮試験>
小型電気透析装置(通電膜面積100cm)に、膜抵抗が1.5Ω・cm以上2.5Ω・cm以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜の1価選択面を脱塩室に向くように組付ける。
運転条件は、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室を3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dmで5時間以上(濃縮室の濃度変化がなくなるまで)電気透析を行い、濃縮室の塩素イオン(Cl)濃度(N)および硫酸イオン(SO 2-)濃度(10-3N)を測定する。得られた硫酸イオン濃度を、上記SOインデックスとする。
【0016】
本実施形態では、たとえば1価選択性陰イオン交換膜中に含まれる各成分の種類や配合量、1価イオン選択透過性層の調製方法等を適切に選択することにより、上記SOインデックスを制御することが可能である。詳細は後述するが、たとえば、陰イオン交換膜の表面緻密層における緻密度合を適度に制御すること等が、上記SOインデックスを所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0017】
ここで、これまでの1価選択性陰イオン交換膜は、1価陰イオンや多価陰イオンが混合する被処理液の中から、該1価陰イオンを選択的に透過させたい際に使用されるものであるから、その1価選択性はできるだけ高められたものが使用されてきた。その結果、これまでの1価選択性陰イオン交換膜において、上記SOインデックスを測定した場合、その透過量ができる限り小さいものが使用されており、具体的には、3.0×10-3Nを下回るものが使用されることが多かった。
【0018】
こうした状況にあって、本発明では前記したように、SOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下である1価選択性陰イオン交換膜が使用される。
1価選択性陰イオン交換膜におけるSOインデックスの下限は、例えば、3.0×10-3N以上、好ましくは5.0×10-3N以上、より好ましくは6.0×10-3N以上である。これにより、電気透析時におけるヨウ化物イオンの濃縮効率を高められる。詳細なメカニズムは定かではないが、SOインデックスを高くすることにより、同じ電圧でも、高い電流で効率的にヨウ化物イオンを濃縮できるため、と推察される。
また、6.0×10-3N以上とすることにより、繰り返し電気透析を行ったときでも、ヨウ化物イオンの濃縮効率の低減を抑制できる。その理由は、必ずしも定かではないが、ヨウ化物イオンと、膜中イオン透過流路との相互作用が影響としていると考えられる。
一方、1価選択性陰イオン交換膜におけるSOインデックスの上限は、例えば、50.0×10-3以下、好ましくは30.0×10-3N以下、より好ましくは20.0×10-3N以下である。これにより、硫酸イオンのような2価イオンの濃縮を低く抑制することが可能になる。言い換えると、2価などの多価イオンに対するヨウ化イオンの回収比率を高められる。
【0019】
以下、本実施形態のヨウ素回収方法の構成を詳述する。
【0020】
図1は、電気透析装置1の構成の一例を模式的に示す断面図である。図2は、ヨウ素回収システム100の構成の一例を模式的に示す図である。図3は、ヨウ素回収工程の一例を示すフロー図である。
【0021】
本実施形態のヨウ素回収方法の一例は、図1の電気透析装置1を用いて、ヨウ素成分を含有する廃液10を、ヨウ素含有濃縮液(濃縮液20)と脱塩液(脱塩液30)とに分離する電気透析工程を含む。
【0022】
図2のヨウ素回収システム100は、電気透析装置1に、廃液10を供給する設備を少なくとも備えるものであればよく、電気透析装置1で生成された濃縮液20および/または脱塩液30を処理する設備をさらに備えるものである。
【0023】
廃液10(原液)として、後述のヨウ素成分を含有する液体であればとくに限定されないが、例えば、ヨウ素成分を含む製品の製造過程から排出される廃液や、ヨウ素成分を含む製品を廃棄処理したときの廃液、ヨウ素成分を反応触媒として使用した合成過程から排出される廃液、ヨウ素成分を使用した製造装置の洗浄に使用した洗浄液の廃液等が含まれる。
【0024】
具体的な廃液10の原料としては、偏光フィルム、造影剤、消毒剤、および放射線関連材料のいずれかのヨウ素成分を含む製品における製造過程、製造装置もしくは廃棄物からの廃液または廃粉末及び廃固形物、または抗生物質・抗ウイルス剤などの医薬品合成等の化学合成に使用するヨウ素触媒(有機ヨウ素化合物または無機ヨウ素化合物)を含む廃液または廃固形物等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ヨウ素回収液は、有機物および/または有機溶媒が廃液中に含まれている場合には、公知の有機物分解処理を予め施してもよい。この有機物分解処理の一つとして、例えば、有機成分(有機物や有機溶媒)を燃焼法により燃焼処理し、昇華したヨウ素を、(例えば、水酸化ナトリウムと亜硫酸水素ナトリウム等の)アルカリ剤および還元剤により吸着処理し、ヨウ素成分を回収した水溶液を示す。
ヨウ素成分とは、例えば、ヨウ化物イオン(I)、ヨウ素(I)、ヨウ素酸(HIO)、過ヨウ素酸(HIO)、およびヨウ化物(無機ヨウ素化合物または有機ヨウ素化合物を含む)からなる群から選ばれる一又は二以上を少なくとも含むと定義される。
ここで、前記原料等を由来とする廃液中には、上記ヨウ素成分の中でもヨウ化物イオンを、通常、3%以上、好適には3%~30%程度含んでいる。さらにこれら廃液中には、硫酸イオンが、通常、1g/L以上、硫酸塩の飽和溶解度以下の濃度で含まれ、より一般的には20~50g/L程度含まれている。またヨウ素成分を含む固形物には、通常、ヨウ素元素を質量換算で30%~99.8%程度含んでいる。
【0026】
なお、廃液10は、未処理のまま使用してもよいが、必要なら、pH調整、希釈、有機物分解・除去処理等の化学的前処理または物理的前処理が施されていてもよい。
【0027】
電気透析装置1は、図1に示すように、濃縮室2、脱塩室3、濃縮室2と脱塩室3とを仕切るイオン交換膜、陽極4、陰極5、および電源6を有する。電気透析装置1は、図1に限定されず、公知の装置構成を備えることができる。
【0028】
陽極4を含む電極室(陽極室)および陰極5を含む電極室(陰極室)には、電極液が電極液タンク(不図示)から供給される。陽極室および陰極室は、濃縮室2および脱塩室3で構成される電気透析槽の両面側のそれぞれに配置される。陽極4および陰極5に電源6を用いて電流を印可すると、電気透析槽中で電気透析が開始される。
なお、電極液として、公知のものが使用できるが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、硫酸水素ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液等が用いられる。ただし、電気透析の後にバイポーラ電気透析などを行う場合には、電気透析装置1に使用する電極液は、硫酸塩を含まないものが好ましい。
【0029】
電気透析槽中、濃縮室2および脱塩室3は、それぞれ、イオン交換膜(陰イオン交換膜7および陽イオン交換膜8のいずれか一方)に区画されて交互に配置される。
電気透析装置1は、脱塩室3、陰イオン交換膜7、濃縮室2、陽イオン交換膜8、および脱塩室3がこの順で並んだ配置構成を少なくとも有してもよく、処理能力を高める観点から、濃縮室2を1個以上、好ましくは2個以上有してもよい。
なお、濃縮室2には、電気透析前に、電解液が収容されていてもよい。電解液としては、例えば、電気伝導度を有する無機塩水溶液が含まれていればよい。例えば、最初に電気透析装置1を使用する場合にはイオン交換水を使用し、動作を停止後に再開するという継続使用の場合には前回の濃縮液を使用してもよい。このような電解液の他に、塩化ナトリウム水溶液、ヨウ化カリウム水溶液、ヨウ化ナトリウム水溶液等を使用してもよい。ただし、電解液には、硫酸塩を含まないものが好ましい。
【0030】
上記のような電気透析に用いる電気透析装置1の具体例は、一対の電極の間に、多数のガスケットスペーサー(室枠とも呼ばれている)が重ねて配置されており、互いに隣り合う室枠の間には、陰イオン交換膜7或いは陽イオン交換膜8が挟持され、全体として陰イオン交換膜7と陽イオン交換膜8とが、原則、交互に位置するように配置され、各ガスケットに陰イオン交換膜7と陽イオン交換膜8とによって区画されたイオン交換室(通電部)が形成されている。
そして、このイオン交換室は、陰極5側に陽イオン交換膜8が位置し且つ陽極4側に陰イオン交換膜7が位置している室が脱塩室3となり、陰極5側に陰イオン交換膜7が位置し且つ陽極4側に陽イオン交換膜8が位置している室が濃縮室2となり、脱塩室3と濃縮室2とが交互に配置された構造となっている。即ち、脱塩室3に処理液(電解質液)を循環供給しながら通電を行うと、脱塩室3に供給された処理液中の陽イオンは陽イオン交換膜8を通って隣の陰極5側の濃縮室2に移行し、該処理液中のアニオンは陰イオン交換膜を通って隣の陽極4側の濃縮室2に移行することとなる。このようにして、脱塩室3に処理液を循環供給すると同時に濃縮室2に塩水溶液を循環すると、処理液の脱塩が行われると同時に、塩濃度が増大した濃縮液20を得ることができる。
これらのイオン交換室の積層体を電極間に固定する方法としては、フィルタープレスによるものが好適に用いられるが、それに限定されるものではない。
【0031】
本実施形態では、電気透析装置1に含まれる陰イオン交換膜7の少なくとも一つ又は全てが、SOインデックスが上記の数値範囲を満たす1価選択性陰イオン交換膜で構成される。
【0032】
ここで、1価選択性陰イオン交換膜とは、陰イオンにおいて、SO 2-に代表される2価イオンよりも、Clに代表される1価イオンを選択的に透過させる陰イオン交換膜をいう。一般には、前記SO 2-とClの選択透過係数(PCl SO4)が0.01~1.0のものが該当するが、その中にあっても、前記SOインデックスの規定値を満足するものが得易いことから、陰イオン交換膜7に使用される1価選択性陰イオン交換膜において、該選択透過係数(PCl SO4)は0.06~0.90のものが好ましく、0.11~0.37のものが特に好ましい。
【0033】
こうした陰イオンの1価選択性は、陰イオン交換膜7の少なくとも一方の面に1価イオン選択透過性層を形成することにより付与することができる。上記1価イオン選択透過性層の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、表面緻密層、電気的中性層、及び反対荷電層からなる群より選択される少なくとも一種の層であることが好ましい。「表面緻密層」とは、陰イオン交換膜の表面部を緻密な構造(例えば、表層部に架橋度の高い層あるいは固定イオン濃度の高い層)を形成したものであり、「電気的中性層」とは、陰イオン交換膜の表面に陰イオン交換基を含まない電気的に中性の薄層を形成したものであり、また、「反対荷電層」とは、陰イオン交換膜の表面に陽イオン交換基を持つ薄層を形成したものである。
【0034】
この1価選択性陰イオン交換膜としては、例えば、ベースとなる陰イオン交換膜の片面または両面に、前記SOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下になるような形成量で、1価イオン選択透過性層を形成させたものが使用される。かかる1価イオン選択透過性層としては、表面緻密層、電気的中性層、及び反対荷電層からなる群より選択される少なくとも一種の層であっても良いが、規定するSOインデックスを有する陰イオン交換膜を得やすいことから、表面緻密層であるのが好ましく、特には、該表面緻密層として、2価アミン化合物を用いて高架橋樹脂層が形成されたものが好ましい。ベースとなる陰イオン交換膜としては、構造が強固で、1価イオン選択透過性層を形成させやすい点で、スチレンジビニルベンゼン系の共重合体の基本骨格に強塩基性陰イオン交換基である4級アンモニウム基を導入したものが好適に使用できる。
【0035】
これらの、SOインデックスが上記の数値範囲を満たす1価選択性陰イオン交換膜は、以下のように製造できる。
即ち、ハロゲノアルキル基を有するスチレン系芳香族重合性単量体とジビニルベンゼンなどの架橋性重合性単量体とを含む重合性組成物を重合させて得た陰イオン交換基導入用原膜の、その一方ないし両方の膜表面に、2価アミン化合物を接触させて、当該膜表面に、SOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下になるような形成量で、内部よりも高架橋な表面緻密層を形成させ、その後に、膜中の残余のハロゲノアルキル基に、トリアルキルアミンを接触させて、これを第4級アンモニウム基に変換する方法である。この方法によれば、前記陰イオン交換基導入用原膜において、その一方側の膜表面部に存在するハロゲノアルキル基は、一定割合が、2価アミン化合物との接触により、架橋に費やされることになる。このため、膜表面部は架橋により緻密な構造になるため、SO 2-イオンなどの透過性が低下し1価陰イオンの選択性が発現する。
【0036】
この方法において、前記ハロゲノアルキル基を有するスチレン系芳香族重合性単量体は、公知のものが制限なく使用できる。アルキル基の炭素数は1~8であるのが好ましく、これに置換するハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。こうしたハロゲノアルキル基としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、クロロエチル基、ブロモエチル基、ヨードエチル基、クロロプロピル基、ブロモプロピル基、ヨードプロピル基、クロロブチル基、ブロモブチル基、ヨードブチル基、クロロペンチル基、ブロモペンチル基、ヨードペンチル基、クロロヘキシル基、ブロモヘキシル基、ヨードヘキシル基等である。こうしたハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体の具体例は、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモエチルスチレン、ヨードエチルスチレン、クロロプロピルスチレン、ブロモプロピルスチレン、ヨードプロピルスチレン、クロロブチルスチレン、ブロモブチルスチレン、ヨードブチルスチレン、クロロペンチルスチレン、ブロモペンチルスチレン、ヨードペンチルスチレン、クロロヘキシルスチレン、ブロモヘキシルスチレン、ヨードヘキシルスチレン等が挙げられ、このうちクロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモエチルスチレン、ヨードエチルスチレン、クロロプロピルスチレン、ブロモプロピルスチレン、ヨードプロピルスチレン、クロロブチルスチレン、ブロモブチルスチレン、ヨードブチルスチレンを用いるのが、特に好ましい。
【0037】
上記重合性組成物を重合させて得た陰イオン交換基導入用原膜では、上記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体に由来して膜中にハロゲノアルキル基を有しており、後述するようにこれを陰イオン交換基、つまり第4級アンモニウム基に変換する。係る第4級アンモニウム基は強塩基性基であり、陰イオン交換基として大変優れたものであるが、このもの以外の陰イオン交換基の存在も所望される場合には、重合性組成物には、前記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体に加えて、他の陰イオン交換基を有する重合性単量体、或いは他の陰イオン交換基を導入し得る官能基を有する重合性単量体を併用しても良い。こうした第4級アンモニウム基以外の陰イオン交換基としては、水溶液中で正の電荷となり得る官能基なら特に制限されるものではなく、例えば、1~3級アミノ基、ピリジル基、イミダゾール基、第4級ピリジニウム基等が挙げられる。重合性組成物中において、これら他の陰イオン交換基を有する重合性単量体、或いは他の陰イオン交換基を導入し得る官能基を有する重合性単量体の配合量は、特に制限されるものではないが、前記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体100質量部に対して100質量部以下であるのが好ましく、50質量部以下であるのがより好ましい。
【0038】
さらに、重合性組成物には、これら陰イオン交換膜に陰イオン交換基を導入するための重合性単量体の他に、斯様な陰イオン交換膜の導入には直接関与しない重合性単量体を、前記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体100質量部に対して150質量部以下の配合量で配合してもよい。こうした陰イオン交換膜の導入には関与しない重合性単量体としては、例えば、スチレン、アクリロニトリル、メチルスチレン、エチルビニルベンゼン、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等を挙げることができる。
【0039】
重合性組成物中において、これら陰イオン交換膜の導入には直接関与しない重合性単量体の配合量は、特に制限されるものではないが、前記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体100質量部に対して400質量部以下であるのが好ましく、150質量部以下であるのがより好ましい。
【0040】
重合性組成物には、得られる陰イオン交換膜の緻密性を増して膜強度を上げるために、架橋性重合性単量体が使用される。こうした架橋性重合性単量体も、従来公知であるイオン交換膜の製造において用いられる単量体が特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、m-、p-或いはo-ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジビニルピリジン、或いは特開昭62-205153号公報等に開示されているビニルベンジル基を3個以上有する他官能ビニルベンジル系化合物などが使用される。
【0041】
これら架橋性重合性単量体は、ハロゲノアルキル基を有するスチレン系芳香族重合性単量体に対してあまり多すぎて配合されると、陰イオン交換膜のイオン交換容量が減少すると共に架橋度が高くなりすぎて膜抵抗が増大してしまい、ヨウ素濃縮効率が低下する虞がある。反対に、架橋性重合性単量体の配合割合が余り少なすぎても、膜の強度が低下するたけでなく、膜表面に設ける高架橋樹脂層の緻密度が上がらず十分な1価選択性が得られない虞がある。これらから架橋性重合性単量体は、ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体、及び前記説明した必要に応じて併用する他の重合性単量体の合計からなる重合性単量体成分100質量部に対して、2~20質量部、好適には3~15質量部配合させるのが好ましい。
【0042】
重合性組成物には、通常、重合開始剤が配合される。重合開始剤は、従来公知のものが特に制限されること無く使用され、用いる基材、成形条件等を勘案して適宜選択すれば良い。その具体例としては、p-メンタンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、α,α'-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、ジ-tert-ブチルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、ジ-tert-アミルパーオキシド、tert-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、クメンヒドロパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジヒドロパーオキシヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジヒドロパーオキシヘキシン-3、ベンゾイルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサンパーオキシド、メチルシクロヘキサンパーオキシド、イソブチルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド、o-メチルベンゾイルパーオキド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、p-クロロベンゾイルパーオキシド、1,1-ジ-tert-ブチルパーオキシ-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ-tert-ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)-ブタン、4,4-ジ-tert-ブチルパーオキシバレリアン酸-n-ブチルエステル、2,4,4-トリメチルペンチルパーオキシ-フェノキシアセテート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-イソブチレート、ジ-tert-ブチルパーオキシ-ヘキサハイドロテレフタレート、ジ-tert-ブチルパーオキシアゼレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート等が好適である。これらは、単独または2種以上の組み合わせでモノマーペースト中に添加混合される。
上記のような重合開始剤の使用量は、通常、前述した重合性単量体成分100質量部に対して、0.1~30質量部が好適であり、1~10質量部の範囲がより好適である。
【0043】
また、重合性組成物中には、粘度調整剤としてマトリックス樹脂を配合してもよい。このようなマトリックス樹脂を配合することにより、重合性組成物の塗布性を高め、これを基材に塗布させたときの垂れ等を防止することができる。
このようなマトリックス樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、エチレン-塩化ビニルの共重合体、塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブチレン等の飽和脂肪族炭化水素系ポリマー、スチレン-ブタジエン共重合体などのスチレン系ポリマー及び、これらに、ビニルトルエン、ビニルキシレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレン、α-ハロゲン化スチレン、α,β,β'-トリハロゲン化スチレン等のスチレン系モノマー、エチレン、ブチレン等のモノオレフィンや、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィンなどを共重合させたもの;などを使用することができる。またスチレン-ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、ニトリルゴムまたはその水素添加ニトリルゴム、ピリジンゴムまたはその水素添加ゴム、スチレン系熱可塑性エラストマーも好適に使用できる。
ここで、スチレン系熱可塑性エラストマーとは、ポリスチレン重合体と、スチレンとポリブタジエン、ポリイソプレン、ビニルポリイソプレン、エチレン-ブチレンの交互共重合体、エチレン-プロピレンの交互共重合体をいう。例えば、ポリスチレン-水素添加ポリブタジエン-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-(ポリエチレン/ブチレンゴム)-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-水素添加ポリイソプレンゴム-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-(ポリエチレン/プロピレンゴム)-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-ポリエチレン-(ポリエチレン/プロピレンゴム)-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-ビニルポリイソプレン-ポリスチレン共重合体等が例示される。かかるマトリックス樹脂の分子量は、特に制限されるものではないが、通常、1,000~1,000,000、特に50,000~500,000の範囲にあることが好ましい。
また、かかるマトリックス樹脂は、適度な粘性を確保できる程度の量で分子量に応じて重合性組成物中に配合され、例えば、その量は、前述した重合性単量体成分100質量部に対して、1~50質量部であるが好ましく、3~15質量部であるのがより好ましい。
【0044】
尚、重合性組成物には、上述した各種成分以外にも、必要により、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、リン酸トリブチル、スチレンオキサイド、或いは脂肪酸や芳香族酸のアルコールエステル等の可塑剤や、有機溶媒などが配合されていてもよい。
【0045】
また、上記重合性組成物には、前記ハロゲノアルキル基を有するスチレン系芳香族重合性単量体の熱分解により生成するハロゲンガスやハロゲン化水素ガスを補足するように、スチレンオキサイド、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのエポキシ基を1個以上有する化合物を添加することも好適である。
【0046】
以上の成分構成からなる重合性組成物は、補強材となる基材の空隙部に充填した後に重合し、陰イオン交換基導入用原膜を得る。このような基材としては、イオン交換膜の基材として公知の如何なるものを用いても良く、一般には、空隙率が20~90%、より好ましくは40~80%、より好ましくは45~55%の支持材料が使用される。例えばポリ塩化ビニル、ポリオレフィン等から形成された織布、不織布、多孔性フィルム、網状物等が挙げられる。このうち特に、イオン交換樹脂との親和性や耐薬品性の点でポリプロプレンやポリエチレンなどのポリオレフィン製が好ましく、特にポリエチレン製がより好ましい。また、基材の形状としては、多孔性フィルムを用いることが、1価選択性付与後のヨウ素濃縮効率を高められる点で好ましい。基材の厚みは、一般には50~300μmの範囲から採択され、膜抵抗や強度の保持の観点等から70~250μmであるのが好ましい。
【0047】
こうした基材への重合性組成物の充填方法は、特に限定されない。例えば、重合性組成物を基材に塗布やスプレーしたり、あるいは、基材を重合性組成物中に浸漬したりする方法などが例示される。重合性組成物がペースト状にある場合、塗布により実施するのが好ましい。塗布による基材への充填は、ロールコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、スプレー、ディッピング等の公知の手段によって行うことができる。
【0048】
上記のようにして基材に重合性組成物を導入した後、基材同士が密着しないよう離型性を有する剥離材と共に積層してローラに巻き取りを行い、加熱して重合を行う。
【0049】
前記剥離材としては、重合に耐え得る耐熱性を有し、且つ重合後に容易に引き剥がせるものが使用される。例えば、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体等のポリオレフィン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル化合物共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフエニレンオキサイド等や、ポリ乳酸など生分解性樹脂、あるいはそれらの混合物のいずれかの樹脂からなるフィルムを挙げることができ、係るフィルムは2軸延伸されていてもよい。
即ち、上記のフィルムの中から、重合性組成物中の単量体成分の種類に応じて適宜なものを選択して剥離材として使用すればよい。特に、耐熱性及び離型性の点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルムが最も好適である。
【0050】
重合時の圧力は常圧または加圧のどちらの状態でもよく、一般に、0.1乃至1.0MPa程度でよい。
重合温度は、基材の融点よりも低い温度であればよいが、一般的には、40乃至130℃の範囲がよい。即ち、係る温度範囲に加熱して重合を行うことにより、基材の一部が重合性組成物中に溶解し、この状態で重合が行われることとなり、この結果、イオン交換樹脂と基材の接合強度を高めることができ、膜強度や濃縮効率を一層向上させることができる。
尚、重合時間は、重合温度等によっても異なるが、一般には、3乃至20時間程度である。
【0051】
上記のようにして基材に重合性組成物を塗布した後、加熱して重合を行い、膜状高分子体からなる陰イオン交換基導入用原膜を得る。本発明の1価選択性陰イオン交換膜を得るためには、斯様にして陰イオン交換基導入用原膜を得た後、陰イオン交換基の導入操作をする前に、その膜表面への高架橋樹脂層からなる1価イオン選択透過性層の形成操作を行う。これは、例えば、前記陰イオン交換基導入用原膜の一方側の膜表面に、2価アミン化合物を接触させることにより実施する。
即ち、1価陰イオン選択層を形成するのが、陰イオン交換基導入用原膜の一方側の面のみの場合であれば、他方側の膜表面をフィルム等で多い、フィルムに覆われていない一方側の膜表面を2価アミン化合物と接触させ、当該膜表面に、内部よりも高架橋樹脂層を形成させる。
【0052】
2価アミン化合物のアミノ基は、陰イオン交換基導入用原膜が含有するハロゲノアルキル基と反応して塩化水素が脱離しC-N結合を形成することが可能であり、これが2価アミン化合物では2個のハロゲノアルキル基と反応して架橋構造が形成される。この架橋構造が密に形成されるほど膜抵抗が高くなる一方で1価陰イオン選択性が高くなり、SOインデックスが小さくなる。また、2価アミン化合物による架橋反応は膜表面から内部に向かって進行するが、架橋深さが深いほど1価陰イオン選択性が高くなる一方で膜抵抗が増大する。
2級アミン化合物として、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。抵抗と1価陰イオン選択性のバランスから置換基が短い方がよく、ジメチルアミンが好ましい。
【0053】
2級アミン化合物溶液に接触させ、陰イオン交換基導入原膜の表面のハロゲノアルキル基を架橋させる際に、水溶液では陰イオン交換基導入用原膜内部への2価アミン化合物の拡散が遅すぎる場合や、溶解性が悪い場合においては、拡散速度の調整、および溶解性の改善を図るため、水の一部を有機溶媒に置き換えてもよい。この場合、水に置き換える有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン等の親水性溶媒が使用できる。その含有量は、水に対して30質量%以内、特には5~15質量%であるのが好ましい。
【0054】
前記SOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下の陰イオン交換膜を得るための適度な表面緻密層とするためには、2級アミン化合物を接触させ反応させる条件が特に重要であり、例えば、2級アミン化合物を溶解させる濃度は、0.01mol/L~2mol/Lが好ましく、0.03mol/L~1mol/Lが特に好ましい。濃度が薄すぎる場合には、ハロゲノアルキル基の2価アミン化合物による架橋反応性が低下し1価イオン選択性が低下し、SOインデックスを前記上限値以下のものとすることが難しくなる。一方で、濃度が濃すぎる場合は、陰イオン交換基導入用原膜の膜内部への拡散が強まり、架橋深さが深くなりすぎて、やはりSOインデックスが所定値未満となってしまう。
【0055】
また、2価アミン化合物接触時の反応温度は20~50℃であり、反応時間は1~24時間である。反応温度が20℃未満および/または反応時間が1時間未満である場合、ハロゲノアルキル基の架橋反応を十分に行うことができず、SOインデックスを前記上限値以下のものとすることが難しくなる。反応温度が50℃を超えるおよび/または反応時間が24時間を超える場合、陰イオン交換基導入用原膜の膜内部への拡散が強まり、架橋深さが深くなりすぎてしまい、やはりSOインデックスが所定値未満となってしまう。なお、陰イオン交換基導入用原膜と2級アミン化合物を反応させた後は、反応に供しなかった過剰の2級アミン化合物を除去する目的で洗浄を行ってもよい。
【0056】
以上のような2価アミン化合物とハロゲノアルキル基との反応は、2価アミンと1個のハロゲノアルキル基との反応で止まってしまい2個のハロゲノアルキル基間の架橋に至らないことがある。このような場合には、2価アミン化合物との接触工程の後にアルカリ性水溶液で処理する工程(アルカリ性水溶液処理工程)を行うことが好ましい。詳細な反応は理解できていないが、2価アミン化合物が1個のハロゲノアルキル基と反応した際に脱離生成する塩化水素をアルカリ化合物が中和することで2個目のハロゲノアルキル基との反応が促進されるものと推定される。
アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化バリウム水溶液、アンモニア水等公知のものを用いることができる。処理をより効率よく行うことが可能となることから、強塩基性である水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
前記アルカリ性水溶液は、25℃におけるpHが8~14であればよいが、処理をより効率よく行うことが可能となることから、25℃におけるpHが10~14であることが好ましい。なお、処理温度は50~70℃が好ましく、55~65℃がより好ましい。50℃未満の場合、処理に長時間を要することから、生産性が低くなる。70℃を超える場合、処理が過酷となり、一旦反応したアミノ化合物の遊離が発生する可能性がある。
この工程におけるアルカリ性水溶液の処理時間は4~24時間であればよく、6~12時間であることが好ましく、6~10時間であることがより好ましい。4時間未満の場合、処理が不十分となる場合がある。24時間を超える場合、処理が過酷となり、電気抵抗が上昇してしまう。
【0057】
次いで、アルカリ性水溶液処理工程後のイオン交換基導入原膜における膜中の残余のハロゲノアルキル基に、3級アミン化合物を用いて第4級アンモニウム基を導入する工程(第4級アンモニウム基導入工程)を行う。3級アミン化合物として、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、N-エチル-N-メチルブチルアミン等が挙げられる。抵抗の観点から、トリメチルアミンが好ましい。
3級アミン化合物の水溶液に接触させ、第4級アンモニウム基を導入することにより、高架橋樹脂層からなる1価陰イオン選択層に影響を与えることなく、表面より内部に存在する膜中の残余のハロゲノアルキル基を置換させる。その方法は陰イオン交換膜の製造における第4級アンモニウム基導入の常法に従えば良い。
【0058】
以上の方法により、SOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下である、1価選択性陰イオン交換膜が得られる。
さらに、本発明で使用する1価選択性陰イオン交換膜は、ヨウ化物イオンの適度な透過性を発現させるために、その陰イオン交換容量は、0.5~4.0meq/g-乾燥膜、特に0.8~3.0meq/g-乾燥膜の範囲にあるのがよく、含水率は10~40%、好ましくは25~35%の範囲にあるのがよく、電気抵抗は1.2Ω・cm以上3.0Ω・cm以下、好ましくは1.7Ω・cm以上2.5Ω・cm以下、より好ましくは1.8Ω・cm以上2.4Ω・cm以下の範囲にあるのが良い。厚みは50~320μm、特には70~280μmの範囲にあるように調整される。即ち、このような物性を有するように、重合性組成物の組成(単量体成分や架橋剤の量或いはその種類)、基材の厚み、2価アミン化合物による架橋反応条件が適宜設定される。また、海水の濃縮試験における塩素イオン(Cl)透過量は通常3.2mol/L以上、好ましくは3.5mol/L以上である。
【0059】
SOインデックスが上記の数値範囲を満たす1価選択性陰イオン交換膜以外の他の陰イオン交換膜を陰イオン交換膜7が含む場合、他の陰イオン交換膜としては、公知のものを使用してもよく、例えば、1価イオン選択透過陰イオン交換膜、全透過性の陰イオン交換膜、高強度耐アルカリ陰イオン交換膜を使用してもよく、1価イオン選択透過陰イオン交換膜であると好ましい。
【0060】
陽イオン交換膜8としては、特に制限はなく、強酸性陽イオン交換膜、高強度耐アルカリ陽イオン交換膜等を使用できる。また、陽イオン交換膜8は、1価イオン選択性の陽イオン交換膜であってもよく、より具体的には、スチレン-ジビニルベンゼンの基本骨格に強酸性陽イオン交換基であるスルホン酸基を導入した陽イオン交換膜が使用できる。
陽イオン交換膜の市販品としては、株式会社アストム製のネオセプタ(登録商標)CSE、ネオセプタ(登録商標)CMB等が使用できる。
【0061】
また、次のようなSOインデックスが上記の数値範囲を満たす陰イオン交換膜やそれを備える電気透析装置は、本実施形態のヨウ素回収工程に好適に用いることが可能である。
【0062】
すなわち、上記の電気透析装置は、ヨウ素成分を含有する廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析装置であって、ヨウ素含有濃縮液を生成する濃縮室と、ヨウ素成分含有廃液を供給する脱塩室と、濃縮室と脱塩室とを仕切るイオン交換膜と、を備えており、このイオン交換膜が、SOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下である1価選択性陰イオン交換膜を含むように構成される。
【0063】
また、上記の陰イオン交換膜は、ヨウ素成分を含有する廃液をヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析に用いるための陰イオン交換膜であって、1価選択性陰イオン交換膜であり、4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含み、SOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下である、ヨウ素成分含有廃液の電気透析用陰イオン交換膜である。
【0064】
電気透析時における電気透析装置1の動作の一例は、以下の通りである。
陽極4および陰極5の間に電源6を用いて直流電流を印可すると、一面側の脱塩室3中のヨウ化物イオン(I)が陰イオン交換膜7を通過して濃縮室2に移動し、他面側の脱塩室3中の陽イオン(アルカリ金属イオンなどの1価の陽イオンおよびアルカリ土類金属イオン等の2価の陽イオンの少なくとも一つを含む)が陽イオン交換膜8を通過して同じ濃縮室2に移動する。この濃縮室2において、例えば、ヨウ化カリウム(KI)等の、ヨウ化物塩が生成される。濃縮室2から、ヨウ化物塩を含む濃縮液20(ヨウ素含有濃縮液)が得られる。なお、脱塩室3から、脱塩液30が得られる。
【0065】
ここで、ヨウ素回収方法の電気透析工程までのプロセスフローの一例について、図1,2を用いて説明する。
【0066】
まず、廃液10を、ライン12(配管)を介して、廃液タンク11に貯蔵する。
【0067】
廃液タンク11中の廃液10に対して、上記の化学的前処理または物理的前処理を施してもよい。
廃液10がホウ素成分を含む場合、電気透析工程の前に、廃液10のpHを9.5以下、好ましくは8以下、より好ましくは7未満に調整するpH調整工程を行ってもよい。廃液10のpHを9.5以下に調整した場合、ホウ酸(HBO)の大部分は解離せずに分子として存在しているため、電気透析を行っても、ホウ酸は殆ど移動せず、そのままの状態で脱塩液30中に排出される。これにより、廃液10中のホウ素成分とヨウ素成分とを効率よく分離することができる。
【0068】
廃液10が酸性(pH7未満)の場合、廃液10のpHを3以上に調整することが好ましい。遊離ヨウ素が生成し、イオン交換膜が劣化して電気透析の効率が低下することがあるため、これにより、ヨウ化物イオンの空気酸化による遊離ヨウ素の生成を抑制し、遊離ヨウ素によるイオン交換膜の劣化を防止できる。
【0069】
廃液タンク11中の廃液10の液温の下限を、例えば、25℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上としてもよい。電気透析装置1中の脱塩室3に供給される廃液10の液温を高めることにより、電気透析の効率を高めることができる。
廃液タンク11中の廃液10の液温の上限は、装置側に制約がある場合、その耐性上限温度の範囲内のうちできるだけ高い方が良く、塩ビ製配管を電気透析装置1が備える場合、例えば、40℃以下としてもよい。
【0070】
続いて、廃液タンク11中の廃液10を、ライン13を介して、電気透析装置1の脱塩室3に供給する。陽極4および陰極5に電圧を印加して、電気透析を実施する(電気透析工程)。
電気透析により脱塩室3で生成された脱塩液30を、ライン31を介して、回収する。一方、電気透析により濃縮室2で生成された濃縮液20を、ライン22を介して、回収する。
【0071】
このとき、脱塩液30の少なくとも一部を、ライン31から分岐したライン32を介して廃液タンク11に供給し、脱塩液30と廃液10とが混合した混合脱塩液を、再度、脱塩室3に供給してもよい。すなわち、脱塩室3に供給される廃液10には、脱塩液30が含まれていてもよい。
このように繰り返し電気透析を行うことにより、脱塩液30中のヨウ化物イオン濃度を所望値まで低減できる。
【0072】
一方、濃縮液20の少なくとも一部を、ライン22から分岐したライン23を介して濃縮液タンク21に供給し、濃縮液タンク21中の濃縮液20を、再び、ライン24を介して濃縮室2に供給してもよい。
このように繰り返し電気透析を行うことにより、濃縮液20中のヨウ化物イオン濃度を所望値まで濃縮することができる。
【0073】
また、2以上の電気透析装置を備える場合、第1の電気透析装置から生成された第1の濃縮液を、第2の電気透析装置の脱塩室に供給してもよい。さらに、第2の電気透析装置の脱塩室で生成された第2の脱塩液を、第1の濃縮液と混合して、再度、第2の電気透析装置の脱塩室に供給してもよい。
【0074】
また、連続循環式電気透析設備を備える電気透析装置1を用いてもよい。
このような電気透析装置1は、脱塩液30に連続的に廃液10または混合脱塩液を供給しながら、連続的に脱塩液30を排出する連続運転が可能になる。
【0075】
次に、ヨウ素回収方法の再生工程のプロセスフローの一例について、図3を用いて説明する。
【0076】
続いて、ヨウ素回収方法は、電気透析工程の後、得られたヨウ素含有濃縮液(濃縮液20)を用いて、図3に示すように、ヨウ素(I)、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸からなる群から選ばれる一または二以上を製造する再生工程を含むことができる。
上記のヨウ素回収方法で再生(リサイクル)されたヨウ素、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸は、それぞれ、水溶液でもよく、ヨウ素およびヨウ化物塩は、粉末(顆粒を含む)であってもよい。
【0077】
ヨウ素回収方法は、得られた濃縮液20を用いてヨウ化水素酸を回収できる。例えば、ヨウ素回収方法は、図3に示すように、ヨウ素含有濃縮液(濃縮液20)をバイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程(バイポーラ電気透析工程)を含んでもよい。
ここで、バイポーラ膜電気透析法は、陽極と陰極の間に、陽イオン交換膜及び/または陰イオン交換膜に加えて、水素イオンと水酸イオンを生成するバイポーラ膜を順に配列し、膜で仕切られた各室に処理液を供給して通電を行い、中性塩から酸とアルカリを得る方法である。
【0078】
具体的には、電気透析装置1から排出された濃縮液20(例えば、KI濃縮液)をバイポーラ膜電気透析装置に導入する。必要なら、濃縮液20のpHを7未満に調整して酸性化してもよい。バイポーラ膜電気透析装置に直流電流を印加すると、濃縮液20中のヨウ化物塩が電気分解され、ヨウ化水素酸の水溶液(HI液)と水酸化物(例えば、KOH)の水溶液とが排出される。その後、HI液を蒸留して精製し、ヨウ化水素酸が得られる。
【0079】
また、ヨウ素回収方法は、得られた濃縮液20を用いてヨウ素(I)を回収できる。
図3に示すように、ヨウ化物イオンを含む濃縮液20を酸化すると、ヨウ素(I)が得られる。
【0080】
ヨウ素回収方法は、得られた濃縮液20を用いてヨウ化物塩を回収できる。
図3に示すように、上記で得られたヨウ化水素酸を中和すると、ヨウ化物塩が得られる。また、上記で得られたヨウ素(I)を還元・中和すると、ヨウ化物塩が得られる。
ヨウ素回収方法において、上記の酸化、中和、および還元方法は、それぞれ、特に限定されず、公知の手段を使用できる。
なお、ヨウ化物塩には、例えば、ヨウ化アルカリ金属塩やヨウ化アルカリ土類金属塩などが含まれる。
ヨウ化物塩の具体例としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化セシウム等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
一方、ヨウ素回収方法は、得られた脱塩液30を用いてヨウ素(I)を回収できる。
図3に示すように、ヨウ素回収方法は、得られた脱塩液30を、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液して脱塩液30中に残存するヨウ化物イオンを強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、強塩基性陰イオン交換樹脂からヨウ素を回収する工程を含んでもよい。
【0082】
具体的には、電気透析装置1から排出された脱塩液30を強塩基性イオン交換樹脂に通し、この強塩基性陰イオン交換樹脂にヨウ化物イオンを吸着させる。このとき、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液する際の脱塩液30のpHは、前述した電気透析と同様に7未満とする、好ましくは3以上7未満に調整する。これにより、ホウ酸が解離してなるホウ酸イオンが強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着されることを抑制して、選択的にヨウ化物塩イオンを分離できる。その後、公知の手段により、強塩基性陰イオン交換樹脂からヨウ素(I)を回収できる。
【0083】
また、廃液10がホウ素成分を含む場合、得られたホウ素成分を含む脱塩液30から、ホウ素(B)を回収できる。
【0084】
ヨウ素回収方法は、ホウ素成分を含む脱塩液30をpHが、例えば、7以上、好ましくは8以上、より好ましくは11以上となるように調整した後、別の電気透析装置を用いて、脱塩液30からホウ素含有濃縮液(ホウ酸濃縮液)を分離回収するホウ素回収工程を含んでもよい。ホウ素含有濃縮液を酸性にして晶析すると、ホウ酸(HBO)を回収できる。
【0085】
また、pHが7以上のホウ素成分を含む脱塩液30、あるいは上記で強塩基性陰イオン交換樹脂に通液する際の脱塩液30を、ホウ素選択性キレート樹脂に通液させ、ホウ酸イオンを吸着させる。その後、公知の手段によりホウ素選択性キレート樹脂から、ホウ素酸を回収できる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 濃縮室、脱塩室、および前記濃縮室と前記脱塩室とを仕切るイオン交換膜を有する電気透析装置を用いて、ヨウ素成分を含有する廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析工程を含み、
前記イオン交換膜が、下記の海水濃縮試験に従って測定されるSO インデックスが、3.0×10 -3 N以上50.0×10 -3 N以下である1価選択性陰イオン交換膜を含む、ヨウ素回収方法。
<海水濃縮試験>
膜抵抗が1.5Ω・cm 以上2.5Ω・cm 以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜を一価選択面が脱塩室に向くように組入れられた小型電気透析装置(通電膜面積100cm )を用い、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室に3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dm で濃縮室の濃度変化がなくなるまで電気透析を行った際に得られる濃縮液中のSO 2- 濃度を、上記SO インデックスとして測定する。
2. 1.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記1価選択性陰イオン交換膜が、4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含む、ヨウ素回収方法。
3. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記電気透析工程の前、前記廃液のpHを9.5以下に調整するpH調整工程を含む、ヨウ素回収方法。
4. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記電気透析装置が、連続循環式電気透析設備を備える、ヨウ素回収方法。
5. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記電気透析装置に供給される前記廃液の温度を25℃以上に調整する、ヨウ素回収方法。
6. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記廃液の原料が、偏光フィルム、造影剤、消毒剤、および放射線関連材料のいずれかのヨウ素成分を含む製品における製造過程、製造装置もしくは廃棄物からの廃液または廃粉末及び廃固形物、または抗生物質・抗ウイルス剤などの医薬品合成等の化学合成に使用するヨウ素触媒(有機ヨウ素化合物または無機ヨウ素化合物)を含む廃液または廃固形物である、ヨウ素回収方法。
7. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
得られた前記ヨウ素含有濃縮液を用いて、ヨウ素、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸からなる群から選ばれる一または二以上を製造する再生工程を含む、ヨウ素回収方法。
8. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
得られた前記ヨウ素含有濃縮液を用いて、ヨウ化物塩を回収する、ヨウ素回収方法。
9. 8.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記ヨウ化物塩が、ヨウ化アルカリ金属塩を含む、ヨウ素回収方法。
10. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
得られた前記脱塩液を、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液して前記脱塩液中に残存するヨウ化物イオンを前記強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、前記強塩基性陰イオン交換樹脂からヨウ素を回収する工程を含む、ヨウ素回収方法。
11. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記ヨウ素含有濃縮液をバイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程を含む、ヨウ素回収方法。
12. 1.または2.に記載のヨウ素回収方法であって、
前記廃液がホウ素成分を含む場合、得られた前記脱塩液をpHが11以上となるように調整した後、別の電気透析装置を用いて、前記脱塩液からホウ素含有濃縮液を分離回収するホウ素回収工程を含む、ヨウ素回収方法。
13. ヨウ素成分を含有する廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析装置であって、
ヨウ素含有濃縮液を生成する濃縮室と、
ヨウ素成分含有廃液を供給する脱塩室と、
前記濃縮室と前記脱塩室とを仕切るイオン交換膜と、
を備えており、
前記イオン交換膜が、下記の海水濃縮試験に従って測定されるSO インデックスが、3.0×10 -3 N以上50.0×10 -3 N以下である1価選択性陰イオン交換膜を含む、電気透析装置。
<海水濃縮試験>
膜抵抗が1.5Ω・cm 以上2.5Ω・cm 以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜を一価選択面が脱塩室に向くように組入れられた小型電気透析装置(通電膜面積100cm )を用い、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室に3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dm で濃縮室の濃度変化がなくなるまで電気透析を行った際に得られる濃縮液中のSO 2- 濃度を、上記SO インデックスとして測定する。
14. 13.に記載の電気透析装置であって、
前記1価選択性陰イオン交換膜が、4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含む、電気透析装置。
15. ヨウ素成分を含有する廃液をヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析に用いるための陰イオン交換膜であって、
1価選択性陰イオン交換膜であり、
4級アンモニウム基を有する、スチレンジビニルベンゼンの共重合体を含み、
下記の海水濃縮試験に従って測定されるSO インデックスが、3.0×10 -3 N以上50.0×10 -3 N以下である、
ヨウ素成分含有廃液の電気透析用陰イオン交換膜。
<海水濃縮試験>
膜抵抗が1.5Ω・cm 以上2.5Ω・cm 以下である陽イオン交換膜を対に使用し、評価対象の陰イオン交換膜を一価選択面が脱塩室に向くように組入れられた小型電気透析装置(通電膜面積100cm )を用い、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室に3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dm で濃縮室の濃度変化がなくなるまで電気透析を行った際に得られる濃縮液中のSO 2- 濃度を、上記SO インデックスとして測定する。
【実施例
【0087】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0088】
<1価選択性陰イオン交換膜の製造>
実施例、比較例における陰イオン交換膜の物性は以下の方法により測定した。
1.陰イオン交換容量
陰イオン交換膜を1mol/L-HCl水溶液に10時間以上浸漬する。その後、1mol/L-NaNO水溶液で対イオンを塩化物イオンから硝酸イオンに置換させ、遊離した塩化物イオンに対して硝酸銀水溶液を用いて電位差滴定装置で定量した。
次に、同じ陰イオン交換膜を1mol/L-NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した。その後ティッシュペーパーで表面の水分を拭き取り、湿潤時の膜の質量(Wg)を測定した。さらに、60℃で5時間減圧乾燥して乾燥時の重さ(Dg)を測定した。上記測定値に基づいて、陰イオン交換膜の陰イオン交換容量および含水率を次式により求めた。
陰イオン交換容量[meq/g-乾燥質量]=A×1000/D
含水率[%]=100×(W-D)/D
【0089】
2.陰イオン交換膜の厚さ
陰イオン交換膜を0.5mol/L-NaCl溶液に4時間以上浸漬した後、ティッシュペーパーで膜の表面の水分を拭き取り、マイクロメ-タMED-25PJ(株式会社ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0090】
3.陰イオン交換膜の電気抵抗
白金黒電極を有する2室セル中に陰イオン交換膜を挟み、陰イオン交換膜の両側に0.5mol/L-NaCl水溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間抵抗とイオン交換膜を設置しない場合の電極間抵抗との差により膜抵抗(Ω・cm)を求めた。なお、上記測定に使用する陰イオン交換膜は、予め0.5mol/L-NaCl水溶液中で平衡にしたものを用いた。
【0091】
4.海水濃縮試験によるClおよびSOインデックス
小型電気透析装置(通電膜面積100cm)に、1価選択性陽イオン交換膜CIMS(株式会社アストム製、膜抵抗2.0Ω・cm)を対に使用し、試料の陰イオン交換膜とともに1価選択面を脱塩室に向くように組付けた。
運転条件は、脱塩室に25℃の海水を流速6cm/秒で流し、濃縮室を3.5mol/LのNaCl水溶液を満たして、電流密度3A/dmで5時間以上(濃縮室の濃度変化がなくなるまで)電気透析を行い、濃縮室の塩素イオン(Cl)および硫酸イオン(SO 2-)の濃度を測定した。濃縮室の塩素イオン(Cl)濃度(N)および硫酸イオン(SO 2-)濃度(10-3N)を測定する。得られた塩素イオン(Cl)濃度(N)および硫酸イオン(SO 2-)濃度を、Cl透過量およびSOインデックスとした。
【0092】
5.選択透過係数(PCl SO4
有効通電面積4.0cmの陰イオン交換膜で隔てられた二室型のガラス製セルの両室に銀塩化銀電極を設け、陽極室側に0.5mol/L-NaCl水溶液100mlを、また、陰極室側に0.25mol/L-NaCl及び0.125mol/L―NaSOの混合水溶液100mlをそれぞれ供して、25℃で40mAの直流電流を1時間通電後、陰極室の塩素イオン及び硫酸イオンの量を定量した。得られた塩素イオン量及び硫酸イオン量から、次式より選択透過係数PCl SO4を求めた。
Cl SO4=(tSO4/tCl)/(CSO4/CCl
SO4は膜を透過した硫酸イオン当量数、tClは膜を透過した塩素イオン当量数、CSO4は測定後の陰極室の硫酸イオン当量濃度、CClは測定後の陰極室の塩素イオン当量濃度である。
【0093】
(実施例1)
クロルメチルスチレン91.2質量部、ジビニルベンゼン5.0質量部、エチルビニルベンゼン3.8質量部、ラジカル重合開始剤としてジ-tert-ブチルパーオキシド4.0質量部及び塩化水素ガスの補足剤として、スチレンオキサイド4.0質量部を加えてペースト状の重合性組成物を得た。
【0094】
次いで、基材であるポリエチレン製二軸延伸多孔性フィルム(厚さ100μm、空隙率46%、平均細孔径0.13μm)に上記した重合性組成物を塗布し、重合性組成物を基材に導入した。
【0095】
次いで、重合性組成物を導入した基材の両面をポリエチレンテレフタレートフィルムからなる剥離材で被覆すると共にローラに巻き取った後、重合を行った。重合温度のパターンは、20℃から50℃まで30分かけて昇温し、50℃を20分間保持し、次いで130℃まで80分かけて昇温し、130℃を4時間保持し、陰イオン交換基導入用原膜を製造した。
【0096】
次いで、陰イオン交換基導入用原膜から剥離フィルムを剥ぎとるが、この時、前記原膜両面の剥離材を完全に剥がすのではなく、片面には剥離材を付けたままにした。この片側のみ剥離材で覆われた陰イオン交換基導入用原膜を0.05mol/L-ジメチルアミン水溶液に、10時間、34℃で浸漬し、剥離材で覆われていない面における表面のクロロメチル基をジメチルアミンで架橋反応させた。その後、1.0mol/L-塩酸水溶液および純水を用いて得られた原膜の洗浄を行った。
【0097】
次いで、片面を覆っている剥離剤フィルムを取り除いた後、陰イオン交換基導入用原膜を0.01mol/L-水酸化ナトリウム水溶液に、16時間、60℃で浸漬し、アルカリ性水溶液で処理する工程を実施した。その後、純水を用いてアルカリ性水溶液処理後の原膜の洗浄を行った。
【0098】
次いで、トリメチルアミン5質量%及びアセトン25質量%を含む水溶液を用いて、16時間、30℃で4級化反応を行い、膜中の残余のクロロメチル基の塩素をトリメチルアミンで置換することにより、第4級アンモニウム基を導入する工程を実施した。その後、1.0mol/L-塩酸水溶液および純水を用いて第4級アンモニウム基導入後の原膜の洗浄を行い、1価選択性陰イオン交換膜を得た。得られた1価選択性陰イオン交換膜の物性を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例2)
実施例1において、ジメチルアミン水溶液の反応時間を7時間に変えた以外は実施例1と同様にして1価選択性陰イオン交換膜を得た。膜物性を測定した結果を表1に示す。
【0100】
(実施例3)
実施例1において、水酸化ナトリウム水溶液による処理時間を4時間に変えた以外は実施例1と同様にして1価選択性陰イオン交換膜を得た。膜物性を測定した結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1において、水酸化ナトリウム水溶液による処理時間を1.5時間に変えた以外は実施例1と同様にして1価選択性の陰イオン交換膜を得た。膜物性を測定した結果を表1に示す。
【0101】
(比較例1)
1価選択性陰イオン交換膜として市販のACS-8T(株式会社アストム製)を評価した。膜物性を表1に示す。
【0102】
(比較例2)
実施例1と同様にして陰イオン交換基導入用原膜を得、この両面から剥離剤フィルムをはぎ取った後に、ジメチルアミン水溶液およびアルカリ水溶液の処理を施すことなく、トリメチルアミンによる第4級アンモニウム基を導入する工程を実施例1と同様に実施し、選択化処理を施していない陰イオン交換膜を得た。膜物性を測定した結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
<電気透析装置の製造>
上記で製造した実施例1から4および比較例1から2の1価選択性陰イオン交換膜を、卓上型試験装置(株式会社アストム製、マイクロアシライザー(登録商標)S3)に設置して、電気透析装置を組み立てた。得られた電気透析装置を用いて、各実施例および各比較例の1価選択性陰イオン交換膜のそれぞれに対して、電気透析試験を行った。
以下、実施例1の電気透析装置の組み立ての手順を具体的に説明する。
まず、卓上型試験装置(以下、S3と呼称する)用に作られた抜型を用いて、1価選択性陰イオン交換膜を打ち抜いた。同様にして、陽イオン交換膜(株式会社アストム製、CMX)を打ち抜いた。
打ち抜きを完了した陽イオン交換膜(以下、CMXと呼称する)を12枚([1]~[12])、実施例1の1価選択性陰イオン交換膜(以下、AEM1と呼称する)を10枚([1]~[10])用意した。
これらを用いて、陽極枠、端パッキン、CMX[1]、濃縮室ガスケット、AEM1[1、脱塩室ガスケット、CMX[2]、・・・・・、CMX[10]、濃縮室ガスケット、AEM1[10]、脱塩室ガスケット、CMX[11]、濃縮室ガスケット、CMX[12]、端パッキン、陰極枠の順に積層した。なお、濃縮室ガスケット、陰極室ガスケットには通電部にスペーサーメッシュをはめ込んだ。また、AEM1は1価選択面が脱塩室を向くように装着した。
枠の四隅にボルトを通し所定のトルクで締め付け、スタックを得た。
陽極室と陰極室の間にこのスタックを挿入し、四隅のボルトで締め付けて本体に固定した。
S3には3台のマグネチックポンプが内蔵されており、それぞれ脱塩液タンクと脱塩室連通孔、濃縮室タンクと濃縮室連通孔をつないでスタックを通過後、元のタンクに戻るようになっている。また、3台目のポンプは電極液タンクから陰極室、陽極室を直列に通過しタンクに戻るようになっている。
必要に応じて配管を熱交換器につなぎ、またはタンクに冷却器や加熱器を入れ温度調整する。本件発明では、電極液は2N-NaOHを用いた。
陽極板、陰極板はチタン板に白金をコートしたものを使用した。
これらの電極板は直流電流を供給できる整流器に接続されている。
なお、実施例2~4および比較例1~2についても、実施例1と同様にして、電気透析装置を組み立てた。
【0105】
(電気透析の評価)
電気透析に供する原液としては、ヨウ化物イオン濃度が150g/L、硫酸イオン濃度が32g/Lとなるようにヨウ化カリウム、硫酸ナトリウムを純水に溶解して調製した。
原液300mlを、上記で組み立てた電気透析装置の脱塩室に供給し、濃縮液にはヨウ化物イオン濃度を80g/Lに調製したヨウ化カリウム水溶液を250ml、電極液には、4%水酸化ナトリウム水溶液300mlを使用した。
電気透析の開始からヨウ化物イオン回収率が80%に達するまで、濃縮液中のヨウ化物イオン及び、硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフィー(Thermo Scientific Dionex イオンクロマトグラフィー(IC))及び、ICP-OEMにより測定し、ヨウ化物イオン透過速度および硫酸イオン透過速度を算出した。これらの透過速度は、ヨウ化物イオン回収率が0%と80%との間の平均速度を意味する。結果を表2に示す。
なお、2回目は、陰イオン交換膜および陽イオン交換膜を洗浄しないでそのまま使用し、1回目と同様の条件で電気透析を実施した。
【0106】
【表2】
【0107】
実施例1~4の電気透析装置は、比較例1と比べて、膜の「SOインデックス」が大きいことから、ヨウ化物イオンの濃縮効率を示すヨウ化物イオン透過速度が増大する結果を示した。一方、実施例1~4のいずれにおいても、比較例2と比べて、硫酸イオン透過速度はあまり増えなかった。この比較例2は、非1価選択性陰イオン交換膜であり、ヨウ化物イオンの透過量は好ましいが、硫酸イオン透過速度が大きいため、硫酸イオンの透過量が実用上許容できないレベルまで上がってしまった。
また、実施例2~4では、実施例1と比べて、1回目に対する2回目の処理能力の低下が抑制される結果が示された。このような実施例1~4の陰イオン交換膜は、ヨウ素成分含有廃液の電気透析に好適に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 電気透析装置
2 濃縮室
3 脱塩室
4 陽極
5 陰極
6 電源
7 陰イオン交換膜
8 陽イオン交換膜
10 廃液
11 廃液タンク
12、13 ライン
20 濃縮液
21 濃縮液タンク
22、23、24 ライン
30 脱塩液
31、32 ライン
100 ヨウ素回収システム
【要約】
【課題】ヨウ化物イオンの濃縮効率に優れたヨウ素回収方法を提供する。
【解決手段】本発明のヨウ素回収方法は、濃縮室、脱塩室、および濃縮室と脱塩室とを仕切るイオン交換膜を有する電気透析装置を用いて、ヨウ素成分を含有する廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析工程を含み、イオン交換膜が、所定の海水濃縮試験に従って測定されるSOインデックスが、3.0×10-3N以上50.0×10-3N以下である1価選択性陰イオン交換膜を含むものである。
【選択図】図1
図1
図2
図3