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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】衛生用品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20231005BHJP
   C09J 121/00 20060101ALI20231005BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J121/00
A61F13/15
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022526856
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2021017969
(87)【国際公開番号】W WO2021241213
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020093917
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】藤井 満美子
(72)【発明者】
【氏名】有田 周平
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/172434(WO,A1)
【文献】特開2017-125181(JP,A)
【文献】特開2017-014313(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057500(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
A61F 13/15 - 13/84
A61L 15/16 - 15/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂及び粘着性付与剤を含む液状のホットメルト接着剤用材料を加熱混練する間若しくは加熱混練した後に、加熱混練機に流体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部以上の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行い、ホットメルト接着剤を生成し、
前記ホットメルト接着剤を用いて基材を固定する、衛生用品の製造方法。
【請求項2】
前記基材が、紙、不織布、樹脂フィルム、織布、樹脂、及び、ゴムからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の衛生用品の製造方法
【請求項3】
前記ホットメルト接着剤がゴム系ホットメルト接着剤である、請求項1または2に記載の衛生用品の製造方法
【請求項4】
前記流体を前記加熱混練機容積に対し、0.4倍容積以上の分速排気速度で脱気を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の衛生用品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衛生用品に関し、特に、使い捨ておむつ、生理用品などの使い捨て衛生用品に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な製品で用いられているホットメルト接着剤で使用されるポリマー材料には、原料や重合溶剤などの揮発性有機化合物(以下、VOCともいう)がごく微量に残存している。これらの揮発性有機化合物は固化した接着剤から蒸発または移動することがあり、特に、衛生材料分野では近年、密閉袋を開封した時に発せられる臭気に対して、消費者からの指摘を受けている。
【0003】
これまでにも、臭気が低減された使い捨て着用物品として、エチルシクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、m-キシレン、o-キシレン、スチレン、αメチルスチレン、m-メチルスチレン及びp-メチルスチレンからなる群から選択される2種以上の揮発性有機化合物のうち、濃度が最も高い化合物の濃度が400ppb以下である、使い捨て着用物品の包装構造体が報告されている(特許文献1)。
【0004】
上記特許文献1記載の技術においては、低VOC材料を用いた低臭気ホットメルト接着剤を使用することによって、使い捨て着用物品の低臭気化を実現させている。
【0005】
しかしながら、低臭気ホットメルト接着剤とするには、材料中に含まれる揮発成分が少ないポリマー材料を選択する必要があり、その結果、配合技術の設計範囲を狭め、接着性能ニーズにあったホットメルト接着剤が使用できないという問題がある。
【0006】
さらに、上記特許文献1に記載の技術では、エチルシクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、m-キシレン、o-キシレン、スチレン、αメチルスチレン、m-メチルスチレン及びp-メチルスチレンといった揮発性有機化合物を低減させるとしている。しかし、本発明者らの研究により、ホットメルト接着剤(特に、ゴム系ホットメルト接着剤)を用いた衛生製品における臭気が、オクタナールやリモネンに起因している可能性が高いことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2012-518063号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明の課題は、前記問題点を解決することにある。すなわち、接着剤の臭気(特にオクタナール臭やリモネン臭)が問題となる衛生製品において、優れた接着性能を示すホットメルト接着剤を使用しているにもかかわらず低臭気である衛生製品を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記構成によって、上記目的を達することを見出し、この知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の一局面に係る衛生用品は、基材がホットメルト接着剤によって固定されている衛生用品であって、前記ホットメルト接着剤が、液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に流体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部以上の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行うことを含む製造方法によって得られるホットメルト接着剤であること、並びに、残存オクタナール量が0.70ppm以下、または、残存リモネン量が0.060ppm以下であることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に関する衛生用品は、基材が、ホットメルト接着剤によって固定されている。本発明の衛生用品における基材の固定に使用するホットメルト接着剤は、上述したように、液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に流体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部以上の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌を行いながら、脱気を行うことを含むことを特徴とする製造方法によって得られるホットメルト接着剤である。前記ホットメルト接着剤は接着剤として優れた性能を維持しつつ、低臭気であることが特徴である。それにより、本発明の衛生用品は、残存オクタナール量が0.70ppm以下、または、残存リモネン量が0.060ppm以下であり、従来使用されているホットメルト接着剤を用いた衛生用品よりも臭気が抑制されている。
【0012】
このような構成とすることによって、優れた接着性能を示すホットメルト接着剤を使用して基材を固定しているにもかかわらず、低臭気の衛生用品を提供することが可能となる。そのため、VOCを多く含有している材料や臭気の強い材料を用いたホットメルト接着剤を基材の固定に使用することが可能となり、衛生用品における接着性能と低VOC・低臭気との両立が図りやすくなる。また、特殊な材料を用いる必要もなくなるため、配合設計の自由度が上がり、コストの抑制にもつながる。
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
まず、ホットメルト接着剤について説明する。本実施形態で使用できるホットメルト接着剤材料としては、従来からホットメルト接着剤に使用されているベース樹脂、粘着性付与剤、その他添加剤を特に限定なく使用することができる。特に、本実施形態の製造方法によれば、どのようなホットメルト接着剤材料を使用しても、低VOC、低臭気のホットメルト接着剤を提供することができる。
【0015】
具体的な材料として、ベース樹脂は、例えば、ホットメルト接着剤を構成する成分として用いられる熱可塑性ポリマーを特に限定なく使用することができる。熱可塑性ポリマーとしては、具体的には、エラストマー系の熱可塑性ポリマー、ポリオレフィン系の熱可塑性ポリマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)系の熱可塑性ポリマー、ポリアクリレート系の熱可塑性ポリマー、ポリエステル系の熱可塑性ポリマー、及びポリアミド系の熱可塑性ポリマーが挙げられる。
【0016】
エラストマー系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、エラストマー系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、共役ジエン化合物に基づく構成単位(共役ジエン単位)を有する重合体である共役ジエン系重合体等が挙げられる。また、エラストマー系の熱可塑性ポリマーとしては、具体的には、共役ジエン系化合物とビニル系芳香族炭化水素との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体等が挙げられる。すなわち、前記熱可塑性ポリマーとして、このような熱可塑性ブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0017】
共役ジエン系化合物は、少なくとも一対の共役二重結合を有するジオレフィン化合物であれば、特に限定されない。共役ジエン系化合物としては、具体的には、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、及び1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。
【0018】
ビニル系芳香族炭化水素は、ビニル基を有する芳香族炭化水素であれば、特に限定されない。ビニル系芳香族炭化水素としては、具体的には、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、及びビニルアントラセン等が挙げられる。
【0019】
共役ジエン系重合体としては、水素添加した水素添加型の共役ジエン系共重合体であってもよいし、水素添加していない非水素添加型の共役ジエン系共重合体であってもよい。
【0020】
熱可塑性ポリマーとしては、熱可塑性ブロック共重合体が好ましく、その具体例としては、例えば、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、スチレン-イソプレンブロックコポリマー、水素添加されたスチレン-ブタジエンブロックコポリマー、及び水素添加されたスチレン-イソプレンブロックコポリマー等が挙げられる。また、これらの共重合体は、ABA型トリブロック共重合体を含む。スチレン-ブタジエンブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー(SBS)等が挙げられる。また、スチレン-イソプレンブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)等が挙げられる。また、水素添加されたスチレン-ブタジエンブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)等が挙げられる。また、水素添加されたスチレン-イソプレンブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー(SEPS)等が挙げられる。
【0021】
ポリオレフィン系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、ポリオレフィン系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリオレフィンのホモポリマーおよびコポリマーは、エチレン、プロペンおよび/またはブテンに基づくポリ-α-オレフィン、アタクチックポリ-α-オレフィン(APAO)、ならびにエチレン/α-オレフィンおよびプロピレン/α-オレフィンコポリマー等が挙げられる。
【0022】
EVA系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、EVA系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、エチレンと酢酸ビニルから合成される共重合体等が挙げられる。
【0023】
ポリアクリレート系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤におけるポリアクリレート系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されない。ポリアクリレート系の熱可塑性ポリマーといえば、例えばポリメチルメタクリレートとポリブチルアクリレートとのブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0024】
ポリエステル系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、ポリエステル系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されない。ポリエステル系の熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ダイマー酸を用いて重合されたポリエステル等が挙げられる。
【0025】
ポリアミド系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、ポリアミド系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、ナイロン等が挙げられる。上述したようなベース樹脂は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
さらに、本実施形態では、バイオマス系ホットメルト接着剤を使用することもできる。バイオマス系ホットメルト接着剤とは、バイオマス由来原料を配合した接着剤のことであり、例えば、松脂などの植物由来樹脂を配合した接着剤などが挙げられる。
【0027】
以上、様々な材料を本実施形態のホットメルト接着剤の主成分として挙げたが、特に、本実施形態ではオクタナール臭やリモネン臭を抑制することが可能であるため、接着剤として、作業性、接着性、経済性等に優れるゴム系ホットメルト接着剤を使用することが好ましい。ゴム系ホットメルト接着剤としては、上述したホットメルト接着剤のうち、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー(SBS)やスチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)等を主成分とするホットメルト接着剤が好ましい例示として挙げられる。
【0028】
また、粘着性付与剤についても、その他、芳香族系、脂肪族系、脂環族系、天然物およびその水素添加物等を特に限定なく用いることが可能である。例えば、天然ロジン、変性ロジン、水添ロジン、天然ロジンのグリセロールエステル、変性ロジンのグリセロールエステル、天然ロジンのペンタエリスリトールエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、天然テルペンのコポリマー、天然テルペンの3次元ポリマー、水添テルペンのコポリマーの水素化誘導体、ポリテルペン樹脂、フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体、脂肪族石油炭化水素樹脂、脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、芳香族石油炭化水素樹脂、芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、環状脂肪族石油炭化水素樹脂、環状脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体を例示することができる。上述したような粘着付与剤は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0029】
その他、添加剤として、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填材、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、ワックス、及び可塑剤等を用いてもよい。
【0030】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤や有機硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。有機硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、上記例示した酸化防止剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
可塑剤としては、例えば、鉱物油類、合成油類、植物油類が挙げられる。
【0032】
鉱物油類の具体例としては、プロセスオイル(パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイルなど)、流動パラフィンが挙げられる。パラフィン系プロセスオイルの具体例としては、n-パラフィン(ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘンエイコサン、ドコサン、トリコサン、テトラコサン、ペンタデコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、トリアコンタン、ヘントリアコンタン、ドトリアコンタン、ペンタトリアコンタン、ヘキサコンタン、ヘンプタコンタンなど);イソパラフィン(イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、イソヘキサン、イソペンタン、ネオヘキサン、2,3-ジメチルブタン、メチルヘキサン類、3-エチルペンタン、ジメチルペンタン類、2,2,3-トリメチルブタン、3-メチルヘプタン、ジメチルヘキサン類、トリメチルペンタン類、イソノナン、2-メチルノナン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカン、イソトリデカン、イソテトラデカン、イソペンタデカン、イソオクタデカン、イソナノデカン、イソエイコサン、4-エチル-5-メチルオクタンなど);これらの飽和炭化水素の誘導体;などが挙げられる。ナフテン系プロセスオイルの具体例としては、ナフテン系プロセスオイルとは、プロセスオイルの中でもナフテン環炭素数が高いものを言う。ナフテン系プロセスオイルに含まれているナフテン環化合物としては、炭素数が3以上の環状化合物が挙げられる。ナフテン環化合物のより具体的な例を挙げると、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどである。
【0033】
合成油類の具体例としては、エーテル油、エステル油、リン酸エステル、塩素化パラフィンが挙げられる。
【0034】
植物油類の具体例としては、オリーブ油、米胚芽油、コーン油、サザンカ油、ツバキ油、ヒマシ油、ホホバ種子油、ユーカリ葉油が挙げられる。
【0035】
本実施形態のホットメルト接着剤を製造する方法は、液状状態のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に流体を導入する工程と、加熱撹拌または分散を行い、脱気を行う工程を含む。
【0036】
本発明者らは、前記プロセス(製造方法)を経て得られるホットメルト接着剤を用いることにより、驚くべきことに、衛生用品におけるオクタナール臭またはリモネン臭を大きく低減できることを見出した。以下に、当該製造方法についてより具体的に説明する。
【0037】
加熱混練機に流体を導入する工程は、ホットメルト接着剤用材料を加熱混練機に投入した後であれば、ホットメルト接着剤用材料を混練する間に行ってもよいし、混練が完了した後に行ってもよい。好ましくは、材料の混練が完了した後に行う。本実施形態において、「混練が完了した」とは、ホットメルト接着剤の材料(例えば、ベース樹脂と粘着性付与剤)が一様の流動性を示した状態を意味する。
【0038】
加熱混練機については、ホットメルト接着剤の撹拌混練に使用されている一般的な製造装置を使用することができる。例えば、ホットメルト接着剤の一般的な製造方式において、連続処理方式とバッチ処理方式がある。連続処理方式として使用される加熱混錬機として、ルーダー、エクストルーダー、二軸テーパースクリュー等を用いることができる。また、バッチ処理方式として使用される加熱混錬機として、撹拌混練機やバンバリーミキサー、ニーダー等を用いることができる。
【0039】
加熱混練機に導入する流体は、特に限定はされず、形状も液体であっても気体であっても、超臨界状態であっても、亜臨界状態であってもよい。具体的には、例えば、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニアガス、空気、液化窒素、液化ヘリウム、液化二酸化炭素、液化アルゴン、液化酸素、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、ノルマルヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、リモネン、脂肪族系溶剤、水などの粘度10mPa・s以下の流体などが挙げられる。これらは、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0040】
前記流体の加熱混練機への導入は、前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部の量で行う。導入量が0.3質量部未満となると、VOC成分の除去効率が低下するおそれがある。
【0041】
また、導入量の上限については脱VOC、脱臭気効果が低下することがないため特に設ける必要はない。しかしながら、コストや工程時間などを考慮すると、好ましくは前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して50質量部以下、さらには25質量部以下であることが望ましい。
【0042】
本実施形態における流体の導入方法は特に限定されず、加熱混練機の上方、側面、下方のいずれから導入してもよい。具体的には、例えば、前記流体が気体、あるいは、液体であれば加熱混練機の下方および/または側面から導入することができる。
【0043】
前記流体を加熱混練機に導入した後、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行う。このときの加熱温度は、ホットメルト接着剤用材料の溶融温度以上であれば特に限定はなく、ホットメルト接着剤用材料として使用しているベース樹脂の種類などによって適宜設定することができる。
【0044】
加熱撹拌や分散は、従来、本技術分野で公知の手段によって行うことができる。例えば、パドル、タービン、プロペラ、アンカー、ヘリカルリボン、マックスブレンド、フルゾーン、スクリュー、ブレード、MR-205、Hi-Fミキサー、サンメラー等を使用できる。これらは、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0045】

脱気は、前記加熱混練機容積に対し0.4倍容積以上の分速排気速度で、ゲージ圧が-60kPaより高い真空度となるまで行うことが好ましい。このような条件で脱気を行うことによって、残留VOC量、特に残存オクタナール量もしくは残存リモネン量をより確実に抑えることができる。
【0046】

本実施形態における脱気の手段は特に限定されないが、具体的には、例えば、前記分速排気速度となるように調整した真空ポンプを用いて、前記真空度となるまで減圧することによって脱気することができる。
【0047】

前記分速排気速度は、より好ましくは、加熱混練機容積に対し等倍容積以上である。前記分速排気速度の上限は特に規定する必要はないが、設備の大型化、コスト抑制の観点から、前記加熱混練機容積に対し17.5倍容積以下とすることが好ましい。
【0048】

前記脱気はゲージ圧が-90kPaより高い真空度であることがより好ましい。上限値については特に設ける必要はないが、設備の破損、設備の大型化、コストアップなどの観点からゲージ圧-101kPaより低い真空度であることが望ましい。
【0049】

以上のように、特定の条件下において、ホットメルト接着剤用材料中に流体を分散させることによって、この流体に難揮発性有機化合物が吸着し、脱気工程によってホットメルト接着剤用材料から除去されると考えられる。その結果、低VOC、低臭気のホットメルト接着剤を提供することができる。
【0050】

さらに、本実施形態の製造方法では、前記加熱混練機から排気した排気ガスを、冷却凝集させ、揮発性有機化合物を含んだ流体を回収する工程を含んでいてもよい。
【0051】

それにより、真空ポンプの長寿命化が図れるといったさらなる利点がある。
【0052】

また、前記回収工程における流体の回収率が60%以上であることが好ましい。それにより、環境大気汚染をより抑制することができると考えられる。
【0053】

本実施形態の製造方法によって得られるホットメルト接着剤は、残存揮発性有機化合物が少なく、低VOC及び低臭気であるため、産業利用上非常に有用である。このようなホットメルト接着剤は、材料中に含まれる揮発成分が少ないポリマー材料を選択して製造された従来のホットメルト接着剤よりもさらに残存揮発性有機化合物(オクタナールやリモネン)が少ないことが特徴である。
【0054】

本実施形態の衛生用品には、使い捨ておむつ、生理用ナプキン等の生理用品、母乳パッド、ペットシート、病院用ガウン、手術用白衣といった製品が包含される。
【0055】

以下に、衛生用品の具体例として、使い捨ておむつや生理用品(生理用ナプキン)等の着用衛生用品について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるわけではない。
【0056】

本実施形態における着用衛生用品の構成部材は、従来から着用衛生用品に使用されているものを特に限定なく使用することができる。
【0057】

前記衛生用品に使用する基材としては、従来、使い捨ておむつや生理用品といった衛生用品に使用されている基材を特に限定なく使用することができ、例えば、紙基材、各種の不織布、樹脂フィルム、織布、樹脂、ゴム等、衛生用品の種類によって適宜選択できる。
【0058】

具体的には、例えば、複数の層からなる積層体であってもよく、着用者の肌に接する表面シートには、不織布、織布等の基材を使用し、その裏面シートには、樹脂フィルム、紙基材等の基材を使用することができる。表面シートと裏面シートの間には、液保持性の吸収体を備えていてもよい。吸収体は、例えば、水分の吸収及び保持が可能なヒドロゲル材料である高吸収性ポリマー等を含んでいてもよい。これらの各構成部材は、積層され、上述したホットメルト接着剤でそれぞれ固定されているが、場所によっては、前記ホットメルト接着剤以外の接合手段(例えば、ヒートシール、超音波溶着等)で固定されている箇所がさらにあってもよい。
【0059】

本実施形態の着用衛生用品の形状は、着用時に着用者の腰回りまたは股下に装着されるため、使い捨ておむつの場合は、通常、その装着状態でパンツ状であり、生理用ナプキン等の場合には、縦長のシート状である。
【0060】

さらに使い捨て着用衛生用品の場合、衛生上の観点から、さらに前記着用衛生用品が包装材によってパッケージされていてもよい。包装材は各種樹脂フィルム等で構成されていてもよく、開封を容易にするためのミシン目が設けられていてもよい。本実施形態の衛生用品ではホットメルト接着剤に起因する臭気が抑制されているため、前記包装材で長時間包まれていた衛生用品であっても、その開封時に発生する臭気を低減することができる。
【0061】

上述したような本実施形態の衛生用品は、残存オクタナール量が0.70ppm以下、または残存リモネン量が0.060ppm以下であるため、非常に低臭気であり、特に使い捨て衛生用品として極めて有用である。本実施形態において、前記残存オクタナール量及び残存リモネン量とは、後述の実施例で示す方法で測定する値を意味する。
【0062】

また、本実施形態の衛生用品において、より好ましい残存オクタナール量は0.68ppm以下であり、また、より好ましい残存リモネン量は0.050ppm以下である。さらに好ましい残存オクタナール量は0.58ppm以下であり、また、さらに好ましい残存リモネン量は0.045ppm以下である。
【0063】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0064】
すなわち、本発明の一局面に係る衛生用品は、基材がホットメルト接着剤によって固定されている衛生用品であって、前記ホットメルト接着剤が、液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に流体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部以上の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行うことを含む製造方法によって得られるホットメルト接着剤であること、並びに、残存オクタナール量が0.70ppm以下、または、残存リモネン量が0.060ppm以下であることを特徴とする。
【0065】
上記構成により、優れた接着性能を示すホットメルト接着剤を使用しているにもかかわらず低臭気である衛生製品を提供することができる。
【0066】
前記衛生用品において、前記基材が、紙、不織布、樹脂フィルム、織布、樹脂、ゴムから選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0067】
さらに、前記ホットメルト接着剤がゴム系ホットメルト接着剤であることが好ましい。それにより、作業性、接着性、経済性等に優れるという利点がある。
【実施例
【0068】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
まず、本実施例で使用したホットメルト接着剤用材料を以下に示す。
【0070】
・ホットメルト接着剤1(ゴム系ホットメルト1):
「モレスコメルト(登録商標) TN-287Z」、軟化点89℃、160℃における粘度3900mPa・s
・ホットメルト接着剤2(ゴム系ホットメルト2):
「モレスコメルト(登録商標) TN-286Z」、軟化点97℃、160℃における粘度4900mPa・s
・ホットメルト接着剤3(ゴム系ホットメルト3):
「モレスコメルト(登録商標) TN-269Z」、軟化点83℃、160℃における粘度2100mPa・s
・ホットメルト接着剤4(ゴム系ホットメルト4):
「モレスコメルト(登録商標) TN-202Z」、軟化点83℃、160℃における粘度490mPa・s
・ホットメルト接着剤5(ゴム系ホットメルト5):
「モレスコメルト(登録商標) TN-213Z」、軟化点94℃、160℃における粘度6400mPa・s
・ホットメルト接着剤6(バイオマス系ホットメルト):
「モレスコメルト(登録商標) BM-546Z」、軟化点94℃、160℃における粘度4000mPa・s
【0071】
(ホットメルト接着剤の製造方法A)
容量4Lのステンレス鋼(SUS)製の攪拌混錬機中に、ホットメルト接着剤の材料またはホットメルト接着剤2の材料を2kg投入し、各ホットメルト接着剤の溶融点以上で攪拌、溶融させた。
【0072】
そして、ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部以上のイソプロピルアルコールを前記撹拌機の側面または/および下方から導入した。前記混練機容積に対し0.45倍容積以上の分速排気速度(排気速度/タンク容積)で、前記混練機のゲージ圧が-90kPaの真空度になるまで脱気し、ホットメルト接着剤を得た。
【0073】
(ホットメルト接着剤の製造方法B)
容量4Lのステンレス鋼(SUS)製の攪拌混錬機中に、ホットメルト接着剤の材料を2kg投入し、各ホットメルト接着剤の溶融点以上の温度で攪拌、溶融させた。
【0074】
そして、ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して13.0質量部以上のイソプロピルアルコールを前記混錬機の側面または/および下方から導入した。前記混練機容積に対し0.45倍容積以上の分速排気速度(排気速度/タンク容積)で、前記混練機のゲージ圧が-98kPaの真空度になるまで脱気し、ホットメルト接着剤を得た。
【0075】
(ホットメルト接着剤の製造方法C)
容量4Lのステンレス鋼(SUS)製の攪拌混錬機中に、ホットメルト接着剤の材料を2kg投入し、各ホットメルト接着剤の溶融点以上の温度で攪拌、溶融させた。
【0076】
そして、ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して10.0質量部以上の蒸留水を前記混錬機の側面または/および下方から導入した。前記混練機容積に対し0.40倍容積以上の分速排気速度(排気速度/タンク容積)で、前記混練機のゲージ圧が-60kPaの真空度になるまで脱気し、ホットメルト接着剤を得た。
【0077】
(実施例および比較例用サンプルの作成)
まず、基材として以下を用意した:
・ティッシュ
・不織布1:スパンボンド不織布(目付量13gsm)
・不織布2:ポイントボンド不織布(目付量15gsm)
・エアスルー1:エアスルー不織布(目付量8gsm)
・エアスルー2:エアスルー不織布(目付量10gsm)
・ポリエチレンシート1:通気性ポリエチレンシート
・ポリエチレンシート2:非通気性ポリエチレンシート
【0078】
表1~3に示す各方法A~Cを用いて製造されたホットメルト接着剤(比較例1~4においては、それぞれ、加工せずに、表1に示すホットメルト接着剤をそのまま使用した)を160℃に加熱することにより溶融した。溶融されたホットメルト接着剤は、コーターを用いて下記表1~3に示す被着体の一方の面上に、10gsm(g/m)塗布した。塗布してから1秒後、もう一方の被着体をホットメルト接着剤に接触するように、ホットメルト接着剤が塗布された被着体上に置き、23℃で、圧力50gf/cmで、0.01秒間プレスした。この積層体を以下の評価試験の試料(サンプル)とした。
【0079】
〔評価試験1:残存リモネンおよび残存n-オクチルアルデヒド(オクタナール)量の測定〕
リモネンおよびn-オクチルアルデヒドの量の測定は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC アジレント社製7890B GCシステム、MS アジレント社製5977Bシリーズ GC/MSDシステム、DHS ゲステル社製DHSシステム)を用い、ダイナミックヘッドスペース法に基づいて行った。前処理として、各試料を160℃で60分間加熱した。キャピラリーカラムは内径0.25mm、5%フェニル/95%ジメチルポリシロキサンコーティング(コーティング厚0.25μm)、長さ30mを使用した。カラムの昇温プログラムは40~300℃まで10℃/分で加熱し、その後15分間保持した。この操作によって、質量分析器で検出したリモネンおよびn-オクチルアルデヒドを検量線から定量した。
【0080】
〔評価試験2:臭気の官能評価〕
5Lのサンプリングバッグ(包装材)にホットメルト接着剤で貼り合せた試料を5m2の大きさにして入れた。そのサンプルを80℃雰囲気下で30分間加温し、室温で10分間静置したのち、開封時のにおいを嗅いだ。
【0081】
上記官能試験の評価基準は以下の通りである。
・リモネン臭気評価基準
◎:臭気を感じない(<0.039ppm)
○:わずかに臭気を感じる(0.039~0.060ppm)
×:強烈な臭気(>0.060ppm)
なお、表1~3において「ND」とは上記残存量が検出限界以下であったことを示す。
・オクタナール臭気評価基準
◎:臭気を感じない(<0.31ppm)
○:わずかに臭気を感じる(0.31~0.70ppm)
×:強烈な臭気(>0.70ppm)
なお、表1~3において「<0.02」とは上記残存量が0.02ppb未満であったことを示す(検出限界以下)。
【0082】
〔評価試験3:剥離試験〕
各試料を25℃24時間放置後、試料中の一方の被着体を手で剥がし、被着体の破壊状態を確認した。なお、被着体の材料破壊とは、2枚の被着体同士が接着している面の一部が破壊される状態を示す。評価は試験を3回繰り返して行った。
・剥離評価基準(サンプル3個中)
◎:全て材料破壊
○:1~2個材料破壊
×:1つも材料破壊しない
【0083】
結果を表1~3に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
(考察)
表1~3の結果から明らかなように、本発明に関する試料(実施例1~15)では、基材の種類に関わらず、オクタナール量が0.70ppm以下となるか、もしくは、リモネン量が0.060ppm以下となっており、臭気も低減されていた。また、剥離試験の結果からもわかるように、基材がしっかりと固定(接着)されていることも確認できた。
【0088】
これに対し、市販されているホットメルト接着剤をそのまま使用して得た比較例1および比較例2の試料では、試料の残存オクタナール量または残存リモネン量が多く、臭気が感じられた。さらに、実施例と同じホットメルト接着剤を使用しつつも、加工をせずにそのまま使用した比較例3および比較例4の試料でも、試料の残存オクタナール量または残存リモネン量が多く、臭気が感じられる結果となった。
【0089】
この出願は、2020年5月29日に出願された日本国特許出願特願2020-093917を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0090】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、ホットメルト接着剤を用い衛生用品に関する技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。