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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】特性情報収集方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/06 20060101AFI20231006BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20231006BHJP
   G02C 11/00 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
A61B3/06
A61B10/00 X
G02C11/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023059673
(22)【出願日】2023-04-01
【審査請求日】2023-04-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320012738
【氏名又は名称】株式会社薫化舎
(74)【代理人】
【識別番号】100122312
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 正優
(72)【発明者】
【氏名】向井 義
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0053443(US,A1)
【文献】van der Heijden,K.,On the bright side:The influence of brightness on overall taste intensity perception,Food Quality and Preference,88,2021年03月01日
【文献】山本 有里佳 Yurika Yamamoto,Human Interface 2017 共感する かたちにする [DVD-ROM] ヒューマンインタフェースシンポジウム2017 論文集 Proceedings of the Human Interface Symposium 2017,2017年09月25日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
A61B 10/00
G02C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項19】
前記装着型光学機器は、視感透過率90~50%のカラーレンズを有する、請求項18に記載の特性情報収集方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を収集する特性情報収集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
学習障害(限局性学習症:Learning Disorders)は、全般的知能が正常範囲にあり、視覚(視力)や聴覚(聴力)には障害がなく、学習環境や本人の意欲にも問題がないにもかかわらず、特定分野の課題習得が苦手・困難な状態をいう。学習障害には、読字障害(Dyslexia)、書字表出障害(Dysgraphia)、算数障害(Dyscalculia)など、さまざまなタイプがある。また、視空間認知(物体の位置や形状・方向・大きさなどの形態や位置関係を正確に認識する能力)が苦手・困難な者もいる。
【0003】
学習障害のある者の中に、「文字が揺れて見える」や「文章が波打って見える」、または「紙面が光って見える」等と訴える人がいる。このような症状は、アーレンシンドローム(Irlen syndrome)、ミアーズ・アーレンシンドローム(Meares-Irlen syndrome)あるいは視覚ストレス(Visual Stress)と呼ばれる。そして、このような症状(見え方:Vision)は、有色フィルムやレンズを使用することで改善が見られる場合があることが知られている。特にアーレンシンドロームには、カラーレンズやカラーフィルムの使用が有効とされている(非特許文献1,2参照)。
このため、アーレンシンドローム等は、視知覚に関連した障害(視覚認知機能の偏り)、特に光感受性に偏りを有する可能性があると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Sandra Irlen et al., “A controlled field study of the use of coloured overlays on reading achievement”, Australian Journal of Learning Disabilities, Volume 9, 2004 - Issue 2, Pages 14-22
【文献】Keiko Kumagai et al., “The Research of Visual Characteristics of the Clients with Irlen Syndrome”, Japanese Journal of Learning Disabilities, 2021 Volume 30 Issue 2, Pages 126-137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、視覚認知機能(光感受性)に偏りがある者は、健常者とは異なる「見え方」を有している場合がある。しかし、その「見え方」は、生まれつきであるため、健常でないことを本人が自覚することは難しい。このため、健常者と呼ばれる者であっても、視覚認知機能に偏りがある者は少なくない。
それにもかかわらず、視覚認知機能の偏りは病院では対応できず、一部の限られた研究施設においてアセスメントがされているに過ぎない。また、視覚認知機能の偏りは、症状が様々であり、個人差も大きい。このため、専門的な知識や経験を有する者でなければ、視覚認知機能の偏りのアセスメントを行うことができない。
【0006】
視覚認知機能に偏りがある者は、偏食であることが多い。口腔感覚(味覚、嗅覚、聴覚、触覚(食感)等)が過敏あるいは鈍麻であり、特定の食品を嫌って食べなかったり、限られた食品ばかりを好んで食べたりする。
例えば、フライやコロッケの衣が口に刺さるように感じて食べられない。炭酸水が口に刺さるように感じて痛くなって飲めない。しいたけやナスを噛んだときに、ぶにゅぶにゅ(ぶよぶよ)した感触が気持ち悪い。食べ物を噛む音が気持ち悪くて耐えられない。マヨネーズなど特定の匂いがするものが食べられない等である。
【0007】
視覚と味覚のような異なる感覚の情報は、相互に強く影響しあっている。多感覚情報の補完機能によって、ある感覚における知覚が変化する現象(感覚間相互作用:Cross-modal interaction)が知られている。
偏食は、視覚認知機能の偏りが味覚等の口腔感覚に悪影響を与えていることにより生じているおそれがある。視覚認知機能の偏りが、視覚と味覚等の感覚統合や多感覚知覚(統合的認知)を乱していると推測される。
このため、被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報に基づいて、視覚認知機能の偏りのアセスメントを行うことができる可能性がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を収集できる特性情報収集方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施態様に係る特性情報収集方法の実施態様は、白色光が被検者の網膜に入射する白色光環境において所定口腔感覚を呈する所定飲食物を前記被検者の口に含ませる第一含味工程と、前記白色光とは分光分布および輝度の少なくとも一方が異なる所定光が前記被検者の網膜に入射する所定光環境を作出する所定光環境作出工程と、前記所定光環境において前記所定飲食物を前記被検者の口に再度含ませる第二含味工程と、前記第一含味工程と前記第二含味工程における前記所定飲食物の口腔感覚に関する特性情報を前記被検者から受け付ける情報受付工程と、前記被検者から受け付けた前記特性情報を収集する収集工程と、を有する。
【0010】
前記収集工程で得られた情報を集計する集計工程を有する。
前記集計工程で得られた情報をグラフ化またはチャート化した分析表を作成する分析表作成工程を有する。
前記集計工程で得られた情報に基づいて前記被検者の口腔感覚に関する特性を分析する分析工程(診断工程)を有してもよい。
【0011】
前記所定口腔感覚は、基本味のうちのいくつかを含むフレーバーに対する感覚である。
前記所定口腔感覚は、香りを含むフレーバーに対する感覚である。
前記所定口腔感覚は、食感を含むテクスチャーに対する感覚である。
【0012】
前記所定飲食物は、ショ糖、塩化ナトリウム、酒石酸、カフェインまたはグルタミン酸ナトリウムの呈味水溶液、錠剤、顆粒または粉体である。
前記所定飲食物は、甘味と酸味を呈するラムネ菓子である。
前記所定飲食物は、甘味と苦味を呈するハイカカオチョコレートである。
前記所定飲食物は、炭酸水である。
【0013】
前記所定光は、主波長570nm~590nmを有する黄色光である。
前記所定光は、補色主波長500nm~570nmを有するマゼンタ色光である。
前記所定光は、主波長470nm~530nmを有するシアン色光である。
に記載の特性情報収集方法。
前記所定光は、主波長500nm~570nmを有する緑色光である。
前記所定光は、輝度0.001~5cd/m2である。
【0014】
前記所定光の分光分布および輝度の少なくとも一方を変更して、前記所定光環境作出工程から前記収集工程を再び行う。
前記所定光環境作出工程において、前記被検者に装着型光学機器を装着させる。
前記装着型光学機器は、眼鏡、コンタクトレンズまたはゴーグルである。
前記装着型光学機器は、イエロー、マゼンタ、シアン、グリーンまたはグレイのカラーレンズを有する。
前記装着型光学機器は、視感透過率90~50%のカラーレンズを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の特性情報収集方法は、被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を収集できる。さらに、被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を集計、分析することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】人の目の構造を示す縦断面図であって、(a)白色光環境、(b)所定光環境を示す。
図2】(a)人の視細胞を示す模式図、(b)人の視細胞の分光感度曲線である。
図3】色空間のxy色度図である。
図4】実施形態に係る特性情報収集方法を示すフローチャート図である。
図5】回答フォームQを示す図である。
図6】SDチャート分析表Dを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る特性情報収集方法について、図面を参照しつつ説明する。
特性情報収集方法は、視覚認知機能に偏りがある者(被検者)の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を収集するものである。
特性情報収集方法は、まず、白色光環境下において所定口腔感覚(味覚や風味、食感)を有する所定飲食物を被検者の口に含ませる(口腔感覚を持たせる)。
次に、視覚認知機能に偏りがある者にとって「見え方」が変化しやすい所定光環境を作出し、この所定光環境下において所定飲食物を被検者の口に再度含ませる。
そして、被検者から、白色光環境下と所定光環境下における所定飲食物に対する口腔感覚の変化の態様・程度に関する情報を収集する。すなわち、被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を収集する。
【0018】
〔視細胞〕
図1は、人の目の構造を示す縦断面図であって、(a)白色光環境、(b)所定光環境を示す。
図2は、(a)人の視細胞を示す模式図、(b)人の視細胞の分光感度曲線である。
図3は、国際照明委員会(CIE1931)の色空間のxy色度図(Chromaticity diagram)を示す図である。
【0019】
人の網膜Rに存在する視細胞には、錐体細胞(Cone cell)と桿体細胞(Rod cell)がある。錐体細胞は、網膜Rの中心窩付近に存在し、色を検知する円錐型の視細胞である。錐体細胞は明所で機能する。桿体細胞は、中心窩の周辺部に存在し、明かりを検知する棒状型の視細胞である。桿体細胞は、主に暗所で機能する。
【0020】
錐体細胞が働く状況(光量が充分にある状況)の視覚を明所視(Photopic vision)という。明所視は、輝度5~1000000cd/m2(照度10~100000lx)の光量下で生じる。
桿体細胞が働く状況(光量が小さい状況)の視覚を暗所視(Scotopic vision)という。暗所視は、輝度0.01~0.000001cd/m2(照度0.001~0.01lx)の光量下で生じる。
錐体細胞と桿体細胞がともに働く状況(光量が少ないが完全な暗黒ではない状況)の視覚を薄明視(Mesopic vision)という。薄明視は、明所視と暗所視が重なる視覚である。薄明視は、輝度0.001~5cd/m2(照度0.01~10lx)の光量下で生じる。国際照明委員会(CIE)は輝度0.005~5cd/m2を、北米照明学会(IES)は輝度0.001~3cd/m2を薄明視と定めている。
【0021】
錐体細胞は、光の三原色に対応して三種類に分類される。具体的には、長波長域の光(黄色周辺)に反応するLong錐体細胞、中波長域の光(黄緑色周辺)に反応するMiddle錐体細胞、短波長域の光(青色周辺)に反応するShort錐体細胞がある。
Long錐体細胞は、赤錐体細胞とも呼ばれる。Middle錐体細胞は、緑錐体細胞とも呼ばれる。Short錐体細胞は、青錐体細胞とも呼ばれる。
この三種類の錐体細胞のそれぞれが受けた刺激の強さの組み合わせ(三種類の錐体細胞の興奮の相対比)によって、特定の色が知感(知覚)される。
【0022】
以下、Long錐体細胞をL視細胞VL、Middle錐体細胞をM視細胞VM、Short錐体細胞をS視細胞VS、桿体細胞をR視細胞VRともいう。
【0023】
〔可視光〕
可視光は、波長380~780nmの光である。可視光の波長と色との関係(分光スペクトル)クトル)は、概ね以下の通りである。
波長380~430nm:青紫、430~460nm:青、460~500nm:青緑、500~570nm:緑、570~590nm:黄、590~610nm:橙、610~780nm:赤。
【0024】
可視光に対する視細胞の感受性には波長依存性がある。具体的には、L視細胞VLの吸収極大波長は558nm付近、M視細胞VMの吸収極大波長は531nm付近、S視細胞VSの吸収極大波長は419nm付近、R視細胞VRの吸収極大波長は500nm付近である。
【0025】
可視光の発光強度が最大になるピーク波長と、実際に目で感じる波長とは異なる。目で感じる色の波長を主波長またはドミナント波長(dominant wavelength)という。
青紫色に感じる光は、主波長400nm付近(380nm~430nm)である。
青色に感じる光は、主波長450nm付近(430nm~470nm)である。
シアン色に感じる光は、主波長490nm付近(470nm~530nm)である。
緑色に感じる光は、主波長550nm付近(530nm~570nm)である。
黄色に感じる光は、主波長580nm付近(570nm~590nm)である。
赤色に感じる光は、主波長610nm付近(590nm~780nm)である。
マゼンタ色に感じる光は、補色主波長(complementary dominant wavelength)550nm付近(530nm~570nm)である。
【0026】
(白色光L0)
白色光L0は、可視光線のすべての波長の光(色)がほぼ均等に混ざった光で、色合いの感覚を与えない光をいう。白色光L0は、平均昼光の色として定義されることもある。
白色光L0は、輝度5~1000000cd/mの光であり、被検者の網膜Rに入射することにより明所視を実現させる。白色光L0は、網膜Rに存在する三種類の錐体細胞(S視細胞VS、M視細胞VM、L視細胞VL)の全てが反応(興奮)する光である。
白色光L0には、電球色、温白色、昼白色、昼光色と呼ばれる色味がかった光(照明光)もあるが、いずれも色空間のxy色度図において黒体軌跡に沿う位置にある光である。白色光L0は、色温度[K]で表される明るさ有する。
被検者の網膜Rに白色光L0が入射する環境を白色光環境と呼ぶ。
【0027】
(所定光L1)
所定光L1は、白色光L0とは分光分布および輝度の少なくとも一方が異なる可視光である。所定光L1には、白色光L0とは分光分布が異なる光(有色光LA)、輝度が異なる光(グレイ光LB)、分光分布と輝度がそれぞれ異なる光(グレイ有色光LBA)がある。
分光分布が異なるとは、所定光L1(有色光LA、グレイ有色光LBA)が有色光であることを意味する。輝度が異なるとは、所定光L1(グレイ光LB、グレイ有色光LBA)が輝度0.001~5cd/mの光であることを意味する。
被検者の網膜Rに所定光L1(LA,LB,LBA)が入射する環境を所定光環境と呼ぶ。
【0028】
〈有色光LA〉
光LAは、可視光線の一部の波長の光(色)を有する、輝度5~1000000cd/mの光(有色光)である。
有色光LAは、色空間のxy色度図において、スペクトル軌跡または純紫軌跡に沿う位置にある光である。有色光は、主波長(ドミナント波長)または補色主波長(補色ドミナント波長)で表される色を有する。
【0029】
光LAは、三種類の錐体細胞のうちの一種類または二種類が主に反応する光である。LAは、主波長570nm~590nmの黄色光LAY、補色主波長500nm~570nmのマゼンタ色光LAM、主波長470nm~530nmのシアン色光LAC、主波長500nm~570nmの緑色光LAGのいずれかである。
【0030】
黄色光LAYは、L視細胞VLとM視細胞VMを興奮させ、S視細胞VSを抑制(鎮静)させる可視光である。
黄色光LAYには、波長580nm付近にピーク波長を有する光の他、波長450nm付近にボトム波長を有する光(青の補色)、波長550nm付近と波長610nm付近にピーク波長を有する光(緑と赤の混色)も含まれる。
黄色光LAYは、網膜Rに入射すると、L視細胞VLとM視細胞VMを興奮させ、S視細胞VSを抑制させる。
【0031】
マゼンタ色光LAMは、L視細胞VLとS視細胞VSを興奮させ、M視細胞VMを抑制させる可視光である。
マゼンタ色光LAMには、波長550nm付近にボトム波長を有する光(緑の補色)の他、波長450nm付近と波長610nm付近にピーク波長を有する光(青と赤の混色)も含まれる。
【0032】
シアン色光LACは、M視細胞VMとS視細胞VSを興奮させ、L視細胞VLを抑制させる可視光である。
シアン色光LACには、波長490nm付近にピーク波長を有する光の他、波長610nm付近にボトム波長を有する光(赤の補色)、波長450nm付近と波長550nm付近にピーク波長を有する光(青と緑の混色)も含まれる。
【0033】
緑色光LAGは、M視細胞VMを興奮させ、L視細胞VLとS視細胞VSを抑制させる可視光である。
緑色光LAGには、波長550nm付近にピーク波長を有する光の他、波長450nm付近と波長610nm付近にボトム波長を有する光(黄とシアン色の混色)も含まれる。
【0034】
〈グレイ光LB〉
光LBは、可視光線のすべての波長の光(色)がほぼ均等に混ざった、輝度0.001~5cd/mの光(グレイ光)である。グレイ光LBは、白色光L0の輝度を低下させた光であり、色味が感じづらい光である。
グレイ光LBは、被検者の網膜Rに入射することにより薄明視を実現させる。つまり、グレイ光LBは、網膜Rに存在する桿体細胞が反応し始める光である。
桿体細胞は、光の強弱に対応する明暗を高感度に検知する。桿体細胞は、色の検知には関与しない。輝度5cd/m以下の光は、網膜Rに入射したときに、桿体細胞を興奮させて、明暗を知感させる。
グレイ光LBは、錐体細胞(L視細胞VL、M視細胞VM、S視細胞VS)と桿体細胞(R視細胞VR)の両方を興奮させる(薄明視)。
グレイ光LBには、主波長または補色主波長であらわされる色は存在しない。主波長または補色主波長は、有色光LAのみを対象とする尺度であり、グレイ光LBには適用されない。つまり、グレイ光LBは、色空間のxy色度図において黒体軌跡に沿う位置にある光であり、色温度[K]で表される明るさ有する。
【0035】
〈グレイ有色光LBA〉
光LBAは、可視光線の一部の波長の光(色)を有する、輝度0.001~5cd/mの光(グレイ有色光)である。光LBAには、グレイ黄色光LBY、グレイマゼンタ色光LBM、グレイシアン色光LBC、グレイ緑色光LBGがある。
グレイ黄色光LBYは、黄色光LAYの輝度を低下させた光である。グレイマゼンタ色光LBMは、マゼンタ色光LAMの輝度を低下させた光である。グレイシアン色光LBCは、シアン色光LACの輝度を低下させた光である。グレイ緑色光LBGは、緑色光LAGの輝度を低下させた光である。
グレイ有色光LBAは、有色光LAとグレイ光LBを合わせた光であり、色温度[K]で表される明るさ有しつつ、主波長または補色主波長であらわされる色も存在する。
【0036】
〔装着型光学機器K〕
装着型光学機器Kは、被験者の網膜Rに所定光L1(光LA,LB,LBA)を入射させる光学機器である。装着型光学機器Kは、第一光学機器1と第二光学機器2を備え、これらを単独または複合的に使用する。
第一光学機器1と第二光学機器2は、所定光環境を作出する光源として機能する(所定光環境作出工程S3)。
【0037】
(第一光学機器1)
第一光学機器1は、錐体細胞が反応する光LA(有色光)を網膜Rに入射させる光学機器である。第一光学機器1は、輝度5~1000000cd/m2の光LAを網膜Rに入射させて、明所視を実現させる。第一光学機器1は、三種類の錐体細胞(S視細胞VS、M視細胞VM、L視細胞VL)のうちの二種類が反応する光LAを網膜Rに入射させる。
光LAは、主波長570nm~590nmの黄色光LAY、補色主波長500nm~570nmのマゼンタ色光LAM、主波長470nm~530nmのシアン色光LAC、主波長500nm~570nmの緑色光LAGのいずれかである。
【0038】
第一光学機器1は、光学機器1Y、光学機器1M、光学機器1C、光学機器1Gを備える。
光学機器1Yは、L視細胞VLとM視細胞VMを興奮させ、S視細胞VSを抑制させる黄色光LAYを網膜Rに入射させる。つまり、光学機器1Yは、黄色に感じる黄色光LAY(主波長580nm付近)を網膜Rに入射させる。
光学機器1Mは、L視細胞VLとS視細胞VSを興奮させ、M視細胞VMを抑制させるマゼンタ色光LAMを網膜Rに入射させる。つまり、光学機器1Mは、マゼンタ色に感じるマゼンタ色光LAM(補色主波長550nm付近)を網膜Rに入射させる。
光学機器1Cは、M視細胞VMとS視細胞VSを興奮させ、L視細胞VLを抑制させるシアン色光LACを網膜Rに入射させる。つまり、光学機器1Cは、シアン色に感じるシアン色光LAC(主波長490nm付近)を網膜Rに入射させる。
光学機器1Gは、M視細胞VMを興奮させ、L視細胞VLとS視細胞VSを抑制させる緑色光LAGを網膜Rに入射させる。つまり、光学機器1Gは、緑色に感じる緑色光LAG(主波長550nm付近)を網膜Rに入射させる。
【0039】
(第二光学機器2)
第二光学機器2は、桿体細胞(R視細胞VR)と三種類の錐体細胞の全てが反応するグレイ光LBを網膜Rに入射させる光学機器である。
第二光学機器2は、グレイ光LBを網膜Rに入射させて、薄明視を実現させる。グレイ光LBは、輝度0.001~5cd/m2の色味が感じられない光である。
【0040】
第一光学機器1(光学機器1Y、光学機器1M、光学機器1C、光学機器1G)および第二光学機器2は、視界の大部分の範囲(方向)から網膜Rに光を入射させる。第一光学機器1および第二光学機器2は、少なくとも視界の50%以上、好ましくは視界の80%以上の範囲から網膜Rに光を入射させる。
【0041】
第一光学機器1および第二光学機器2は、例えば眼鏡(カラーレンズ)である。第一光学機器1、第二光学機器2は、コンタクトレンズ、ゴーグル等であってもよい。
例えば、光学機器1Yとしてイエローレンズ、光学機器1Yとしてピンク(マゼンタ)レンズ、光学機器1Cとしてスカイブルー(シアン)レンズ、光学機器1Gとしてグリーンレンズ、第二光学機器2としてグレイレンズを用いることができる。
白色光L0がカラーレンズを透過して所定光L1(光LA,LB,LBA)になり、
被検者の網膜Rに入射する。
【0042】
各カラーレンズの色濃度(視感透過率の逆数)は、被検者に対する刺激を抑えるために、5%から60%(視感透過率95~40%)が好ましい。特に、色濃度10%から50%(視感透過率90~50%)が好ましい。被検者の反応が悪い場合は、各カラーレンズの濃度が60%から85%(視感透過率40~15%)のものを用いてもよい。
[JIST7331、JIST7333、ISO14889、ISO8980-3参照]
【0043】
被験者が眼鏡、コンタクトレンズ、ゴーグル等の装着型光学機器を装着すると、被験者の視界の少なくとも50%以上の範囲(方向)から網膜Rに所定光L1(光LA,LB,LBA)が入射する。
【0044】
第一光学機器1と第二光学機器2を組み合わせることもできる。桿体細胞(R視細胞VR)と、三種類の錐体細胞(S視細胞VS、M視細胞VM、L視細胞VL)のうちの二種類が反応するグレイ有色光LBAを網膜Rに入射させる。
光学機器1Yと第二光学機器2を重ねることにより、薄明視で黄色に感じるグレイ黄色光LBYを網膜Rに入射させることができる。
光学機器1Mと第二光学機器2を重ねことにより、薄明視でのマゼンタ色に感じるグレイマゼンタ色光LBMを網膜Rに入射させることができる。
光学機器1Cと第二光学機器2を重ねことにより、薄明視でシアン色に感じるグレイシアン色光LBCを網膜Rに入射させることができる。
光学機器1Gと第二光学機器2を重ねことにより、薄明視で緑色に感じるグレイ緑色光LBGを網膜Rに入射させることができる。
【0045】
(室内照明装置C)
室内照明装置Cは、被験者の網膜Rに白色光L0を入射させる光学機器である。室内照明装置Cは、太陽光等の白色光がほぼ遮断された室内空間に設置され、室内照明装置Cを点灯させることにより、白色光L0が室内Hの全域に照射される。
室内照明装置Cは、ランプ(電球、蛍光灯、LED、OLED)等の照明具であって、白色光環境を作出する光源として機能する(白色光環境作出工程S1)。室内照明装置Cは、白色光L0を輝度5~1000000cd/m2で照射する。被検者の網膜R(中心視野領域および周辺視野領域)に白色光L0が入射する。
【0046】
室内照明装置Cを、第一光学機器1または第二光学機器2として機能させてもよい。すなわち、室内照明装置Cから所定光L1(光LA,LB,LBA)を照射して、被験者の網膜Rに入射させてもよい。
【0047】
〔所定飲食物F〕
所定飲食物Fは、口に含んだ(入れた)ときに、被検者に所定口腔感覚を持たせることができる飲食物である。つまり、所定飲食物Fは、口に含んだときに、味や匂い(香り)、食感を呈する飲食物である。
所定飲食物Fは、塩味、酸味、甘味、旨味および苦味の基本味(基本5味)のうちのいくつかを呈する飲食物である。特に、所定飲食物Fは、基本味のうちの1つまたは2つの味を呈する(含む)飲食物である。
所定飲食物Fは、基本味に加えて、匂いや食感も呈する飲食物や、匂いや食感のみ呈する飲食物であってもよい。
【0048】
(呈味水溶液:市販の味覚検査キットの一例)
所定飲食物Fには、市販の味覚検査キット(呈味水溶液)を用いることができる。
甘味 溶質:ショ糖(スクロース) 濃度0.4%(weight per volume percent)
塩見 溶質:塩化ナトリウム 濃度0.13%
酸味 溶質:酒石酸 濃度0.005%
苦味 溶質:カフェイン 濃度0.02%
旨味 溶質:グルタミン酸ナトリウム 濃度0.05%
ショ糖に代えて、グラニュー糖を用いてもよい。酒石酸に代えて、クエン酸を用いてもよい。
被検者が基本味を確実に認識できるように、各呈味水溶液の濃度を2倍~10倍程度にしたものも用意するのが好ましい。
所定飲食物Fは、呈味水溶液に限らず、固体や流動体、ジェル(グミ)等であってもよい。例えば、呈味成分からなる錠剤や顆粒、粉体であってもよい。
【0049】
味を呈するとは、味覚閾値を超える濃度の成分を含んでいることをいう。味覚閾値は、味を認識できる最小濃度である。基本味の味覚閾値は、甘味0.1~0.4%、塩味0.25%、酸味0.0012%、苦味0.006%、旨味0.03%と言われている。
【0050】
所定飲食物Fは、特に甘味と酸味、あるいは甘味と苦味を同時に呈する飲食物が好適である。例えば、ショ糖と酒石酸を溶かした水溶液やショ糖とカフェインを溶かした水溶液等である。
例えば、ブドウ糖、コーンスターチ(デンプン)およびクエン酸からなるラムネ菓子は、甘味と酸味を呈するので所定飲食物Fとして好適である。また、チョコレート(特にハイカカオ:カカオマス50%以上)は、甘味と苦味を呈するので所定飲食物Fとして好適である。
【0051】
〔口腔感覚〕
口腔感覚は、味覚、嗅覚(風味)、触覚(食感)、聴覚を含む。味覚、嗅覚、聴覚は、舌、鼻、耳(感覚器官)から得られる特殊感覚である。風味とは、食べ物や飲み物を口に入れた際に感じる香り(匂い)や味を意味する。
味覚や嗅覚には、感覚の速さ(反応時間)、強度、持続性がある。味や香り(匂い)、風味等の化学的刺激は、フレーバーとも呼ばれる。
聴覚には、咀嚼音、嚥下音などの強さ、周波数がある。
【0052】
食感とは、飲食物を飲食した際に感じる感覚であり、歯や舌を含む口腔内の皮膚感覚(体性感覚)である。食感には、飲食物の温度、口当たり、舌触り、堅さ・脆さ、粘性、吸水性、歯ごたえ、付着性・回復性、破壊度、水分・油分の変化、口腔内への広がり方、喉ごし、飲み込みやすさ、口腔内や喉への残存感等がある。これらの食感は、テクスチャーとも呼ばれる。
飲食物が持つフレーバー(味、風味)やテクスチャー、温度、音、外観を感受し、この感覚情報を総合的に知覚することにより、人の食嗜好(認知)が形成されると言われている。
【0053】
被検者に所定飲食物Fを含味させて、その所定飲食物Fに対する口腔感覚を持たせる。
含味とは、所定飲食物Fを口に含んで味わうことであり、被検者が味覚のみならず、食感や香り、咀嚼音等を感じる行為である。
所定飲食物Fに対する口腔感覚は、官能検査と同様の検査により定量的に評価される。[官能検査:JISz9080、JISz8144、ISO8586、ISO11132等参照]
口腔感覚の評価は、被検者が味覚を正確に評価する分析型官能評価である必要はなく、被検者の味の好みを評価する嗜好型官能検査でよい。また、所定飲食物Fを摂食嚥下することは必ずしも要しない。所定飲食物Fを口に含んだ後に吐き出してもよい。
口腔感覚の評価は、被検者の先入観などが評価結果に影響しないことが求められる。そこで、例えば評点法やSD法(Semantic Differential:意味差判別法)の評価手法を用いる。
【0054】
〔特性情報収集方法〕
図4は、実施形態に係る特性情報収集方法を示すフローチャート図である。
特性情報収集方法は、白色光環境作出工程S1、第一含味工程S2、所定光環境作出工程S3、第二含味工程S4、特性情報受付・収集工程S5、集計・分析工程S6を有する。
また、再実施判断工程S8、所定光変更工程S9を有する。
【0055】
特性情報受付・収集工程S5、集計・分析工程S6は、パソコンやタブレット端末、スマートフォン等のIT機器(不図示)を用いて実施するのが好ましい。
例えば、パソコンは、演算処理部(CPU)、記憶部(ROMやRAM、HDD、SSD等)、ディスプレイ、キーボード、マウス等を備える。パソコンには、印刷プリンタ等が接続される。パソコン等を用いる場合は、集計や分析の結果を印刷プリンタ等から出力する出力工程S7を有してもよい。
【0056】
(白色光環境作出工程S1)
特性情報収集方法は、被検者の網膜Rに白色光L0が入射する白色光環境において開始される。自然光(太陽光)を遮断可能な室内Hにおいて、天井に配置された室内照明装置Cを点灯させることで、白色光環境が作出される。
白色光環境は、被検者が眩しさを感じない環境であればよい。光の輝度(照度)は、例えば読書や作業等をするのに適した輝度200~3000cd/m2(照度100~1000lx)が好ましい。
野外の自然光(太陽光)は輝度が高く、被検者にとって刺激が強すぎる場合が多いので、白色光L0としては避けるのが好ましい。
【0057】
被検者が白色光環境に順応(明順応)するように、室内照明装置Cが点灯する室内Hに被検者を約1分以上滞在・待機させる(明順応時間経過後)。
白色光L0は、室内Hの壁や床等で吸収・反射(乱反射)・透過し、その反射光または透過光が被検者の網膜Rに入射する。白色光L0は、室内照明装置Cから直接、被検者の網膜Rに入射してもよい。
【0058】
(第一含味工程S2)
第一含味工程S2では、白色光環境下において、被検者に所定口腔感覚を有する所定飲食物Fを口に含ませる。被検者に所定飲食物Fを口に入れて味わわせる(含味)。所定飲食物Fの味のみならず、食感や匂い、音(咀嚼音等)を感じさせる。つまり、被検者に所定口腔感覚を持たせる。
【0059】
所定飲食物Fは、例えば以下の7種(所定飲食物F1~F7)が用いられる。
所定飲食物F1は、ショ糖含有水溶液(濃度0.4%以上)であり、甘味を呈する。
所定飲食物F2は、塩化ナトリウム含有水溶液(濃度0.13%以上)であり、塩味を呈する。
所定飲食物F3は、ショ糖および酒石酸含有水溶液(ショ糖:濃度0.4%以上、酒石酸:濃度0.005%以上)であり、甘味と酸味を呈する。
所定飲食物F4は、ショ糖およびカフェイン含有水溶液(ショ糖:濃度0.4%以上、カフェイン:濃度0.02%以上)であり、甘味と苦味を呈する。
【0060】
所定飲食物F5はラムネ菓子であり、甘味と酸味を呈する。
所定飲食物F6はハイカカオチョコレートであり、甘味と苦味を呈する。
所定飲食物F5,F6は、味覚に加えて、匂い(香り)や食感も呈する。
所定飲食物F7は炭酸水であり、シュワシュワとした食感のみを呈する。炭酸の刺激により口腔内の酸味感受細胞が活性化して、酸味を感じる場合がある。
【0061】
所定飲食物F1~F7の全てを用いる場合に限らず、これらのうちからのいくつかを用いたり、他の飲食物(特に被検者が苦手な飲食物)を用いたりしてもよい。
所定飲食物F1~F7は、呈味水溶液に限らず、呈味成分の錠剤や顆粒、粉体等であってもよい。
【0062】
(所定光環境作出工程S3)
所定光環境作出工程S3では、被検者の網膜に所定光L1が入射する所定光環境を作出する。
室内照明装置Cを点灯した状態で、被検者にカラーレンズ眼鏡(第一光学機器1、第二光学機器2)を装着させる。これにより、白色光L0が第一光学機器1や第二光学機器2を透過し、所定光L1になって被検者の網膜Rに入射する。
所定光L1は、最初は有色光である光LAが選択される。つまり、黄色光LAY、マゼンタ色光LAM、シアン色光LAC、緑色光LAGのいずれか一つである。
所定光L1は、黄色光LAYが最も好ましい。被検者にイエローレンズ眼鏡(光学機器1Y)を装着させる。
被検者の網膜Rに所定光L1が入射すると、三種類の錐体細胞(L視細胞VL、M視細胞VM、S視細胞VS)のうちの二種類または一種類が主に反応する。
【0063】
所定光L1は、第一光学機器1や第二光学機器2から被検者の網膜Rに直接入射する。
白色光環境作出工程S1(白色光環境)と所定光環境作出工程S3(所定光環境)は、網膜Rに入射する光の輝度(照度)はほぼ同一同である。
被検者が所定光環境に順応(明順応)するように、被検者がカラーレンズ眼鏡を装着してから約1分以上待機させる(明順応時間経過)。
【0064】
(第二含味工程S4)
次いで、所定光環境下において、再び被検者に所定口腔感覚を有する所定飲食物を口に含ませる。
第一含味工程S2の後に被検者に真水等を飲ませて、第二含味工程S4の開始時に所定飲食物Fの味が残っていないようにする。
第一含味工程S2で用いた所定飲食物F(F1~F7)を、濃度や量、温度などを変更することなく、そのまま用いる。
【0065】
(特性情報受付・収集工程S5)
特性情報受付・収集工程S5では、白色光環境(第一含味工程S2)と所定光環境(第二含味工程S4)における所定飲食物Fの口腔感覚に変化(差異)が生じたか否かを被検者に回答させて(回答を受け付けて)、この情報を収集する。口腔感覚の変化の程度・態様を被検者に回答させる。すなわち、被検者から、視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を収集する。
【0066】
特性情報受付・収集工程S5は、白色光環境と所定光環境のいずれで行ってもよい。つまり、被検者は、カラーレンズ眼鏡(第一光学機器1、第二光学機器2)を装着したままの状態でも、カラーレンズ眼鏡を取り外した状態でもよい。被検者は、カラーレンズ眼鏡を装着したり取り外したりして、所定飲食物Fの口腔感覚を再確認しながら回答してもよい。
【0067】
視覚認知機能(光感受性)に偏りを有する者は、網膜Rに所定光L1(黄色光LAY等)が入射されると、所定飲食物Fに対する口腔感覚(味覚、食感等)が白色光環境とは異なるように感じることがある。つまり、被検者の視覚と口腔感覚の統合(感覚統合や多感覚知覚)が変化することがある。
具体的には、特定の飲食物(所定飲食物F)の味が変化したと感じることがある。味の変化とは、味の強弱(濃淡)が変わる場合の他、味を感じる速さや持続性が変わることもある。2つの味を呈する飲食物では、最初に感じる味が入れ替わったり、強く感じる味が入れ替わったりする。
また、特定の飲食物(所定飲食物F)の食感が変化したと感じることもある。例えば、ざらざらした食感がサクサクした食感に変わる。べちゃくちゃした食感がパリパリとした食感に変わる等である。このように、不快だった食感が快い食感に変わることがある。
【0068】
図5は、回答フォームQを示す図である。
まず、所定飲食物F等の口腔感覚に変化に関する回答フォームQを被検者に提示する。パソコンを用いる場合は、回答フォームQをパソコンのディスプレイに表示する(特性情報受付工程S5a)。
回答フォームQとして、多段階選択肢を用いる(多段階選択肢回答法)。多段階選択肢の各評価尺度段階を得点とするリッカート尺度(Likert scale)等を用いて、被検者からの回答が数値化される。
例えば5段階選択肢の場合は、「非常に良い」は5点、「やや良い」は4点、「変化なし」は3点、「やや悪い」は2点、「非常に悪い」は1点に設定される(評点法)。
【0069】
多段階選択肢の評価尺度は、心理統計学的手法(心理学的測定法)におけるSD法(Semantic Differential Method)等に基づいて設定される。
所定飲食物F1~F7に対して、下記に示す質問項目が設定され、パソコンのディスプレイに表示される。各質問項目の内容(形容詞対、評価尺度点数等)は、予めパソコンの記憶部に記憶されている。
【0070】
所定飲食物F1~F7の味に関して、例えば以下の質問項目、形容詞対が設定される。
質問項目1:全体的な味・食感の変化、形容詞対:「快い」‐「不快」
質問項目1は、所定飲食物F1~F7の味や食感等が変化したか否か、に関わる質問である。
【0071】
所定飲食物F1~F6については、例えば以下の質問項目、形容詞対が設定される。
質問項目2:味の濃さ・強さの変化、形容詞対:「はっきり」-「ぼんやり」
質問項目3:味を感じる速さの変化、形容詞対:「早い」-「遅い」
質問項目4:味を感じる時間の変化、形容詞対:「長い」-「短い」
【0072】
所定飲食物F5~F7については、食感や匂い(香り)に関して、例えば以下の質問項目、形容詞対が設定される。
質問項目5:食感の変化、形容詞対:「食べやすい」‐「食べにくい」
質問項目6:口当たり・舌触りの変化、形容詞対:「なめらか」‐「ザラザラ」
質問項目7:歯ざわり・歯ごたえの変化、形容詞対:「軽い」‐「重い」
質問項目8:口腔内への広がり方・喉ごしの変化、形容詞対:「さらさら」‐「ねちゃねちゃ」
質問項目9:残存感の変化、形容詞対:「すっきり」‐「だらだら」
質問項目10:匂いの変化、形容詞対:「香しい」‐「臭い」
【0073】
次いで、被検者等は、キーボードまたはマウスを操作して、所定飲食物Fの口腔感覚の変化に関する回答を行う。具体的には、各質問項目について、キーボードで数値を入力したり、マウスでチェックボタンをクリックしたりして、5段階選択肢から最も当てはまる肢を一つ選択する(単数回答法:Single Answer)。
【0074】
例えば、被検者は、所定光環境においてラムネ菓子(所定飲食物F5)を食した際の口腔感覚(味覚や食感、匂い)の変化について回答(数値入力)する。
具体的には、質問項目1の「全体的な口腔感覚の変化」について、変化がなかったと感じたときは、「3」を入力する。
一方、「全体的な口腔感覚の変化」が変化したと感じたときは、以下のように入力する。すなわち、口腔感覚が非常に良よくなったときは「5」、口腔感覚がやや良くなったときは「4」を入力する。口腔感覚がやや悪くなったときは「2」、口腔感覚が非常に悪くなったときは「1」をそれぞれ入力する。
つまり、数値「3」を基準にして、数値が大きい場合は口腔感覚が良好になり、数字が小さい場合は口腔感覚が劣悪になったことを意味する。
【0075】
被検者等は、各所定飲食物Fに対して、最小4つ、最大10つの回答(数値)を行う。
所定飲食物F1~F4については4つ、所定飲食物F5,F6については10つ、所定飲食物F7については7つの回答が得られる。
これにより、少なくとも1つ以上の所定飲食物Fに対する複数の回答が得られる(特性情報収集工程S5b)。
所定飲食物F1~F7のそれぞれに対する回答(視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報の生データ)は、パソコンの記憶部に記憶保存(収集)される。
【0076】
(集計・分析工程S6)
集計・分析工程S6では、まず、特性情報受付・収集工程S5で得られた回答情報を集計して、被検者の口腔感覚の変化の有無や程度(視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報の集計情報)を求める(集計工程S6a)。
具体的には、パソコンの演算処理部が記憶部に記憶された回答(数値)を演算処理し、例えば平均値、最頻値、最大値、最小値、分散値、偏差等の集計情報を算出する。また、各数値が入力(回答)された頻度を算出する。「3」以外の数値が入力(回答)された頻度や、「1」か「2」が入力された頻度、「4」か「5」が入力された頻度を算出する。
【0077】
図6は、SDチャート分析表Dを示す図である。このSDチャート分析表Dは、光学機器1Y(黄色光LAY)を用いた際の所定飲食物F(F3,F5,F6)の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報をチャート表示した一例である。
次いで、パソコンの演算処理部は、質問項目や回答(数値)をグラフ化・チャート化した分析表(視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報の分析情報)を作成する(分析表作成工程S6b)。
具体的には、パソコンの演算処理部が集計情報を演算処理し、SDチャート分析表D等の分析情報(アウトプットイメージ)を作成する。演算処理部は、SDチャート分析表Dに加えて、円グラフ、レーザチャート、マトリックス等の分析表を作成してもよい。
なお、集計工程S6aで得られた情報や分析表作成工程S6bで作成した分析表に基づいて、被検者の口腔感覚に関する特性を分析する分析工程(診断工程)を行ってもよい。
【0078】
(出力工程S7)
最後に、出力工程S7では、集計・分析工程S6で得られた集計情報や分析情報(各種演算処理の結果)を外部出力する。パソコンの演算処理部は、被検者の口腔感覚の変化の程度(視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報)として、集計情報や分析情報をパソコンのディスプレイに表示する。集計情報や分析情報を印刷プリンタで印刷出力してもよい。
具体的には、集計情報として、例えば平均値、最頻値、分散値等を出力する。また、分析情報として、SDチャート等の分析表を出力する。
【0079】
(再実施判断工程S8)
再実施判断工程S8では、上述した特性情報収集方法を再実施するか否かを判断する。
例えば、被検者の所定飲食物F1~F7)に対する口腔感覚が殆ど変わらなかった場合は、特性情報収集方法を再び実施する。つまり、集計・分析工程S6で求めた集計情報に基づいて、特性情報収集方法を再び実施するか否かを判断する。
具体的には、集計情報のうち、「3」以外の数値が入力された頻度に基づいて判断する。上記頻度が閾値(例えば10%)未満の場合は、特性情報収集方法を再び実施する。一方、上記頻度が閾値(例えば10%)以上の場合は、特性情報収集方法を終了する。この閾値は、任意に設定できる。
【0080】
例えば、所定光環境作出工程S3で使用されるグレイ有色光(光LA,LB,LBA)の種類数に基づいて、特性情報収集方法を再び実施するか否かを判断する。
光学機器1,2(所定光L1)の種類数を予め記憶し、所定光環境作出工程S3の実施回数が光学機器1,2の種類数と一致するまで、特性情報収集方法を再実施する。
具体的には、光学機器1,2が(所定光L1)が例えば5種類の場合は、所定光環境作出工程S3の実施回数が5回未満では、特性情報収集方法を再び実施する。一方、所定光環境作出工程S3の実施回数が5回になると、特性情報収集方法を終了する。
光学機器1,2(所定光L1)の種類数は、任意に設定できる。
【0081】
(所定光変更工程S9)
特性情報収集方法を再実施すると判断したときは、所定光変更工程S9において、光学機器(第一光学機器1)を光学機器1Y(黄色光LAY)から光学機器1M(マゼンタ色光LAM)等に変更する。
そして、所定光環境作出工程S3において、光学機器1Yから被検者に向けてマゼンタ色光LAM等を照射する。
所定光環境作出工程S3において、被検者が変更後の所定光L1(新たな所定光環境)に順応するように、被検者が光学機器1Mを装着してから約1分以上待機させる(明順応時間経過後)。
続けて、第二含味工程S4~出力工程S7を行う。
特性情報収集方法の再実施において、白色光環境作出工程S1と第一含味工程S2は省略してもよいし、再実施してもよい。
【0082】
所定光変更工程S9において、光学機器(第一光学機器1)を光学機器1Y(黄色光LAY)から光学機器1C(シアン色光LAC)や光学機器1G(緑色光LAG)に変更してもよい。4つの光LA(黄色光LAY、マゼンタ色光LAM、シアン色光LAC、緑色光LAG)の順序(優先順位)は、任意に設定できる。
【0083】
被検者の障害の特性等に応じて、光学機器を第一光学機器1(有色光LA)に加えて、第一光学機器1に代えて、第二光学機器2(グレイ光LBやグレイ有色光LBA)を用いてもよい。
光LB,LBAを用いるときは、所定光環境作出工程S3において、室内Hで室内照明装置Cのみを輝度0.001~5cd/mで点灯させる。
光LB,LBAを用いるときは、被検者が所定光環境に順応(暗順応)するように、室内照明装置Cが点灯する室内で被検者を約10~30分程度待機させる(暗順応時間経過)。
【0084】
視覚認知機能に偏りを有する者は、網膜Rにグレイ光(光LB)やグレイ有色光(光LBA)が入射されると、所定飲食物Fに対する口腔感覚(味覚、食感等)が白色光環境とは異なるように感じることがある。また、特定の飲食物(所定飲食物F)の食感が変化したと感じることも多い。つまり、被検者の視覚と口腔感覚の統合(感覚統合や多感覚知覚)が変化することがある。
【0085】
以上の工程を経ることにより、専門的な知識等を有する者によらずに、また被検者の主観をできるだけ排除して、被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を収集できる。さらに、被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を集計し、分析することもできる。
【0086】
味覚等の口腔感覚は、被検者の光感受性が強く影響している。光感受性に偏り(光や色に対する感覚の過敏・鈍麻の有無・強弱・ばらつき等)があると、視覚と味覚等の感覚統合や多感覚知覚(統合的認知)が乱れて偏食になりやすい。
そこで、本発明の実施形態に係る特性情報収集方法は、白色光環境下において被検者に所定口腔感覚を有する所定飲食物を口に含ませる。次に、視覚認知機能に偏りがある者にとって「見え方」が変化しやすい所定光環境を作出し、この所定光環境下において被検者に再度所定飲食物を口に含ませる。そして、被検者から、白色光環境下と所定光環境下における所定飲食物に対する口腔感覚の変化の態様・程度に関する情報を収集する。
これにより、被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を収集する。このとき、口腔感覚の変化の程度・態様をSD法等の統計学的手法を用いて数値化して収集する。したがって、被検者の「視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報」を客観的・定量的に収集できる。
【0087】
また、被検者の「視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報」を集計・分析・出力する。これにより、被検者の視覚認知機能(光感受性)の偏りを早期発見等するための基礎資料を提供できる。したがって、視覚認知機能(光感受性)に偏りがある者の視覚認知機能の偏りを効果的に改善・矯正するトレーニング方法の作成・実施も可能になる。
よって、本発明の実施形態に係る特性情報収集方法は、各種産業や教育、交通安全などの幅広い分野において、安価で簡単に供給される。
【0088】
この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0089】
本発明の特性情報収集方法において、室内照明装置Cは、シーリングライトに限らない。フロアライトやデスクライト、ハンディライト等であってもよい。
白色光L0は、各種照明器具から照射される人工光に限らず、自然光(太陽光)であってもよい。例えば、室内照明装置C等を用いずに、窓から室内に自然光が入射する環境においえ、本発明の特性情報収集方法を実施してもよい。
【0090】
第一光学機器1や第二光学機器2は、カラーレンズ眼鏡に限らない。第一光学機器1や第二光学機器2は、非装着型光学機器であってもよい。
例えば、室内照明装置Cの点灯色を白色(白色光L0)から黄色等(所定光L1)に変化させて、白色光環境と所定光環境をそれぞれ作出してもよい。つまり、室内照明装置Cを、第一光学機器1、第二光学機器2(所定光環境作出工程S3の光源)として機能させてもよい。
所定光L1は、各種照明器具から照射される人工光に限らず、自然光(太陽光)を利用してもよい。例えば、室内の窓ガラスを着色したり、窓ガラスにカラーフィルターを貼り付けたりして、室内Hを所定光環境にしてもよい。
【0091】
所定光L1は、黄色光LAY、マゼンタ色光LAM、シアン色光LAC、緑色光LAGに加えて、例えば赤色光や青色光を用いてもよい。
グレイ光LBやグレイ有色光LBAに加えて、500nm以下の波長光をカットした光や400nm以下の波長光をカットした光(遮光メガネ:Anti-glare eyeglasses)を用いてもよい。
【0092】
被検者の網膜Rの周辺視野領域のみに所定光L1を入射させる場合に限らない。網膜Rの全域(中心視野領域、周辺視野領域)に所定光L1を入射させたり、中心視野領域のみに所定光L1を入射させたりしてもよい。
【0093】
特性の情報収集は、デスクトップ型のパソコンに限らず、ラップトップパソコンやノートパソコンを用いてもよい。タブレット端末やスマートフォン、携帯端末を用いてもよい。
IT機器を用いることなく、特性情報受付・収集工程S5、集計・分析工程S6等を実施してもよい。つまり、被検者から視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を直接聞き取ったり、紙媒体の回答用紙(回答フォームQ)に被検者が特性情報を直接書き込んだりしてもよい。
【0094】
上述した回答フォームQの内容(多段階選択肢、質問項目、形容詞対)は一例であり、所定飲食物Fの種類や特性・特徴に合わせて任意に設定することができる。各所定飲食物Fに対する質問項目の数等も任意に設定することができる。
【0095】
特性情報受付・収集工程S5は、第二含味工程S4の直後に行う場合に限らない。
特性情報受付・収集工程S5を第一含味工程S2と第二含味工程S4の直後にそれぞれ行ってもよい。この場合には、所定飲食物Fの味や食感等の変化の度合いではなく、第一含味工程S2と第二含味工程S4における所定飲食物Fの味や食感等をそれぞれ評価(点数化)して回答させる(評点法)。
【0096】
出力工程S7は、集計・分析工程S6の後に必ず行う必要はない。複数の所定光L1を使用した特性情報収集方法においては、集計・分析工程S6を複数回行い、最後に出力工程S7を1回だけ行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0097】
K 装着型光学機器
1 第一光学機器
1Y 光学機器(イエローレンズ眼鏡)
1M 光学機器(マゼンダレンズ眼鏡)
1C 光学機器 (シアンレンズ眼鏡)
1G 光学機器(グリーンレンズ眼鏡)
2 第二光学機器(グレイレンズ眼鏡)
H 室内
C 室内照明装置
F 所定飲食物
F1 ショ糖含有水溶液(所定飲食物)
F2 塩化ナトリウム含有水溶液(所定飲食物)
F3 ショ糖および酒石酸含有水溶液(所定飲食物)
F4 ショ糖およびカフェイン含有水溶液(所定飲食物)
F5 ラムネ菓子(所定飲食物)
F6 ハイカカオチョコレート(所定飲食物)
F7 炭酸水(所定飲食物)
R 網膜
VL L視細胞(Long錐体細胞)
VM M視細胞(Middle錐体細胞)
VS S視細胞(Short錐体細胞)
VR R視細胞(桿体細胞)
L0 白色光
L1 所定光
LA 有色光(所定光)
LAY 黄色光(所定光)
LAM マゼンタ色光(所定光)
LAC シアン色光(所定光)
LAG 緑色光(所定光)
LB グレイ光(所定光)
LBA グレイ有色光(所定光)
LBY グレイ黄色光(所定光)
LBM グレイマゼンタ色光(所定光)
LBC グレイシアン色光(所定光)
LBG グレイ緑色光(所定光)
Q 回答フォーム
D SDチャート分析表

【要約】
【課題】被検者の視覚と口腔感覚の統合に関する特性情報を収集できる特性情報収集方法を提供する。
【解決手段】特性情報収集方法は、白色光L0が被検者の網膜Rに入射する白色光環境において所定口腔感覚を呈する所定飲食物Fを被検者の口に含ませる第一含味工程と、所定光L1が被検者の網膜Rに入射する所定光環境を作出する所定光環境作出工程と、所定光環境において所定飲食物Fを被検者の口に再度含ませる第二含味工程と、第一含味工程と第二含味工程における所定飲食物Fの口腔感覚に関する特性情報を被検者から受け付ける情報受付工程と、被検者から受け付けた特性情報を収集する収集工程と、を有する。
【選択図】図6

図1
図2
図3
図4
図5
図6