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特許7361255鉛直磁気探査解析システム、鉛直磁気探査解析装置、及びコンピュータ読み取り可能なプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】鉛直磁気探査解析システム、鉛直磁気探査解析装置、及びコンピュータ読み取り可能なプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/08 20060101AFI20231006BHJP
【FI】
G01V3/08 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020040822
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021143853
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-11-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、令和元年7月29日ウェブサイトで掲載 ウェブサイトのアドレス https://geonews.zenchiren.or.jp/e-Forum/2019/PDF/2019_109.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、令和元年9月13日岡山コンベンションセンターにおいて開催された全地連「技術フォーラム2019」岡山で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】591075995
【氏名又は名称】興亜開発株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520083840
【氏名又は名称】日本技術コンサルタント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110722
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100213540
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵庭
(72)【発明者】
【氏名】橘 久生
(72)【発明者】
【氏名】松尾 宣明
(72)【発明者】
【氏名】永田 潔
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-044114(JP,A)
【文献】特開2018-041178(JP,A)
【文献】特開2004-198195(JP,A)
【文献】特開2005-291812(JP,A)
【文献】特開平05-005785(JP,A)
【文献】特開平11-014759(JP,A)
【文献】米国特許第06377872(US,B1)
【文献】特開2017-129388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中における磁性体の埋設状態と、地中の観測孔に挿入された鉛直磁気探査用の検知器が生成した信号波形の画像との対応付けを、教師データとして取得する取得手順と、取得した教師データを用いた畳み込みニューラルネットワークにより推定モデルを学習させ、学習済みの推定モデルを保存する学習手順と、を含む鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法により生成された前記推定モデルを管理する管理手段と、
地中の観測孔に挿入された鉛直磁気探査用の検知器が生成した信号波形の画像を前記推定モデルへ入力することにより、地中における磁性体の埋設状態を推定する推定手段と、
磁性体の埋設状態をユーザへ提示する提示手段と
を備え、
前記推定手段は、前記推定モデルを用いない所定の計算式へ前記信号波形の寸法を当てはめることにより前記磁性体の埋設状態を計算し、
前記提示手段は、推定した埋設状態と計算した埋設状態とを互いに比較可能な状態で前記ユーザへ提示する
ことを特徴とする鉛直磁気探査解析システム
【請求項2】
請求項1に記載の鉛直磁気探査解析システムにおいて、
前記磁性体の埋設状態には、
前記観測孔から前記磁性体までの離隔距離rが含まれる
ことを特徴とする鉛直磁気探査解析システム
【請求項3】
請求項2に記載の鉛直磁気探査解析システムにおいて、
前記磁性体の埋設状態には更に、
前記磁性体の有する磁気量Mと、
前記観測孔から見た前記磁性体の磁極の方向θと
の少なくとも1つが含まれる
ことを特徴とする鉛直磁気探査解析システム
【請求項4】
請求項3に記載の鉛直磁気探査解析システムにおいて、
前記取得手順では、
前記磁性体のサンプルの埋設状態を変化させつつ複数の信号波形の画像を取得し、それら複数の信号波形の画像に対して反転処理、拡縮処理、ノイズ処理の少なくとも1つを施すことより、前記教師データを拡充する
ことを特徴とする鉛直磁気探査解析システム
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の鉛直磁気探査解析システムにおいて、
前記検知器は、
一軸差動フラックスゲート型の磁気センサである
ことを特徴とする鉛直磁気探査解析システム
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の鉛直磁気探査解析システムにおいて、
前記磁性体が不発弾である
ことを特徴とする鉛直磁気探査解析システム
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の鉛直磁気探査解析システムにおいて、
鉛直磁気探査用の検知器を更に備えることを特徴とする鉛直磁気探査解析システム。
【請求項8】
地中における磁性体の埋設状態と、地中の観測孔に挿入された鉛直磁気探査用の検知器が生成した信号波形の画像との対応付けを、教師データとして取得する取得手順と、取得した教師データを用いた畳み込みニューラルネットワークにより推定モデルを学習させ、学習済みの推定モデルを保存する学習手順と、を含む鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法により生成された前記推定モデルを管理する管理手段と、
掘削中の観測孔に挿入された鉛直磁気探査用の検知器が生成する信号波形の画像を前記推定モデルへ入力することにより、前記観測孔の直下における磁性体の存在の有無を当該磁性体の埋設状態として掘削中に推定する推定手段と、
掘削中の前記観測孔の直下に磁性体が存在するか否かを当該磁性体の埋設状態として掘削中にユーザへ提示する提示手段と、
を備えることを特徴とする鉛直磁気探査解析システム。
【請求項9】
請求項からのいずれか一項に記載の鉛直磁気探査解析システムに適用される鉛直磁気探査解析装置であって、
前記推定手段及び前記提示手段を備えることを特徴とする鉛直磁気探査解析装置。
【請求項10】
請求項に記載の鉛直磁気探査解析装置としてコンピュータを機能させることを特徴とするコンピュータ読み取り可能なプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不発弾などが埋設されている土地の地表から鉛直下向きにボーリング孔(観測孔)を掘削し、その観測孔を検知器で走査することにより周辺磁場を探査する鉛直磁気探査に関する。さらに詳しくは、鉛直磁気探査解析に用いられる鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法、鉛直磁気探査解析システム、鉛直磁気探査解析装置、及びコンピュータ読み取り可能なプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉛直磁気探査は、ボーリング孔(観測孔)へ検知器を挿入して周辺の磁気異常を検知することにより、地中に埋設された爆弾、鉄管、矢板等の磁性体(以下、単に「磁性体」と称す。)の距離や磁気量を調査する手法である(例えば、特許文献1等を参照)。この手法は、磁性体の埋設深度が大きく水平探査では検知出来ない場合や、磁性体の埋設位置を正確に把握したい場合などに有効である。
【0003】
この鉛直磁気探査では、ケーブルの先端に取り付けられた円柱状の検知器(例えば、特許文献2等を参照)を観測孔へ挿入しながら、検知器から出力される信号波形を記録していく。この信号波形は、例えばペンレコーダーによって測定紙へリアルタイムで記録することが可能であるので、現場の技術者は、当該信号波形に基づき安全性を確認しながら観測孔の掘削を進め、深い位置までの探査を行うことができる。
【0004】
近年になると、検知器から出力された信号波形をデジタルデータとしてモバイルPC(PC:Personal Computer)へ収録し、専用のソフトウエアで波形を表示させたり、CAD図として保存したりすることも可能になった。現場の技術者は、モバイルPCを事務所へ持ち帰った後、CAD図上で特徴的な波形の寸法(最大振幅ΔHmax,周期2x)を読み取り、所定の計算式へ当てはめることによって、観測孔から磁性体までの離隔距離rや磁性体の磁気量Mを正確に計算することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-183633号公報
【文献】特開2014-126440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この磁気探査をはじめとする物理探査では、技術者の判断による解析が主流であり、解析結果の信憑性や正確性は技術者の能力に委ねられているのが現状である。上述した鉛直磁気探査においては、信号波形をCAD図として保存できるものの、技術者がPCの画面上で信号波形の寸法(最大振幅ΔHmax,周期2xなど)を測るといった手作業を要するので、解析結果の信憑性や正確性は手作業の精度に大きく左右されていた。
【0007】
そこで、本発明は、技術者の能力に左右されることなく常に高精度な解析結果を得ることのできる鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法、鉛直磁気探査解析システム、鉛直磁気探査解析装置、及びコンピュータ読み取り可能なプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、地中の観測孔に挿入された鉛直磁気探査用の検知器の信号波形に基づき磁性体の埋設状態を推定するための推定モデルを生成する鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法であって、地中における磁性体の埋設状態と、鉛直磁気探査用の検知器が生成した信号波形の画像との対応付けを、教師データとして取得する取得手順と、取得した教師データを用いた畳み込みニューラルネットワークにより推定モデルを学習させ、学習済みの推定モデルを保存する学習手順と、を含むことを特徴とする鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法を提供する。
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法において、前記磁性体の埋設状態には、前記観測孔から前記磁性体までの離隔距離rが含まれてもよい
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法において、前記磁性体の埋設状態には更に、前記磁性体の有する磁気量Mと、前記観測孔から見た前記磁性体の磁極の方向θとの少なくとも1つが含まれてもよい
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法において、前記取得手順では、前記磁性体のサンプルの埋設状態を変化させつつ複数の信号波形の画像を取得し、それら複数の信号波形の画像に対して反転処理、拡縮処理、ノイズ処理の少なくとも1つを施すことより、前記教師データを拡充してもよい
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法において、前記検知器は、一軸差動フラックスゲート型の磁気センサであることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法において、前記磁性体が不発弾であってもよい
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法により生成された推定モデルを管理する管理手段と、鉛直磁気探査用の検知器が生成した信号波形の画像を前記推定モデルへ入力することにより、地中における磁性体の埋設状態を推定する推定手段と、磁性体の埋設状態をユーザへ提示する提示手段とを備えることを特徴とする鉛直磁気探査解析システムを提供する。
【0015】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析システムにおいて、前記推定手段は、前記推定モデルを用いない所定の計算式へ前記信号波形の寸法を当てはめることにより前記磁性体の埋設状態を計算し、前記提示手段は、推定した埋設状態と計算した埋設状態とを互いに比較可能な状態で前記ユーザへ提示してもよい。
【0016】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析システムは、鉛直磁気探査用の検知器を更に備えてもよい
【0017】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析システムに適用される鉛直磁気探査解析装置であって、前記推定手段及び前記提示手段を備えることを特徴とする鉛直磁気探査解析装置を提供する。
【0018】
上記課題を解決するために本発明に係る鉛直磁気探査解析装置としてコンピュータを機能させることを特徴とするコンピュータ読み取り可能なプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法によれば、地中における磁性体の埋設状態と、鉛直磁気探査用の検知器が生成した信号波形の画像との対応付けを教師データとして畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolution Neural Network)により推定モデルを学習させるので、ユーザ(技術者)がPCの画面上で信号波形の寸法(振幅ΔH,変化の周期2xなど)を測るという手作業を要しない。
【0020】
ここで、磁性体の埋設状態とは、例えば、観測孔から磁性体までの離隔距離rと、磁性体の磁気量Mと、観測孔から見た前記磁性体の磁極の方向θ(仰俯角)との組み合わせである。
【0021】
そして、信号波形の形状(パターン)と磁性体の埋設状態との間には強い相関がある。例えば、磁性体の離隔距離rが短いほど信号波形の変化の周期2xは短くなり、磁性体の離隔距離rが短く磁性体の磁気量Mが大きいほど信号波形の振幅ΔHも大きくなることは既に知られている(後述する計算式(1),(2)を参照)。さらに、本願発明者等の実験によると、観測孔から見た磁性体の磁極の方向θに応じて信号波形の形状(パターン)のタイプがMV型、M型、V型、S型、逆S型、逆V型、逆M型、逆MV型などの間で変化することも判明している。
【0022】
しかも、畳み込みニューラルネットワークは、画像の特徴点を捉えることが得意であるから、信号波形の形状(パターン)の特徴を画像認識し、信号波形の形状(パターン)と強い相関を有した磁性体の埋設状態を推定するのに好適である。
【0023】
したがって、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法によれば、磁性体の埋設状態(例えば、離隔距離r、磁気量M、磁極の方向θの組み合わせ)を推定する高性能な推定モデルを確実に生成できるという効果が得られる。
【0024】
また、本発明に係る鉛直磁気探査解析システム、鉛直磁気探査解析装置、又はコンピュータ読み取り可能なプログラムによれば、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法により生成した推定モデルを用いて磁性体の埋設状態を推定するので、ユーザ(技術者)の能力に左右されることなく常に高精度な解析結果を得ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明に係る鉛直磁気探査解析システムの一例が適用される鉛直磁気探査システムを説明する概略構成図である。
図2図2は、鉛直磁気探査方法の手順を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの入力データ及び出力データを説明する説明図である。
図4図4は、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法を説明する説明図である。
図5図5は、本発明に係る本発明に係る鉛直磁気探査解析装置による解析の手順を説明するフローチャートである。
図6図6は、本発明に係る本発明に係る鉛直磁気探査解析装置の表示画面を説明する説明図である。
図7図7は、差分信号波形の表示エリアを説明する説明図である。
図8図8は、解析結果の表示エリアを説明する説明図である。
図9図9は、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルにより推定した離隔距離と真値(実測値)との関係を示すグラフである。
図10図10は、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルにより推定した離隔距離と計算式により計算した離隔距離との関係を示すグラフである。
図11図11は、サーバの代わりにデスクトップPCを用いたシステムを説明する構成図である。
図12図12は、モバイルPCにAIを搭載したシステムを説明する構成図である。
図13図13は、掘削工程でAI判定を利用した鉛直磁気探査方法の手順を説明するフローチャートである。
図14図14は、掘削工程におけるAI判定を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法、鉛直磁気探査解析システム、鉛直磁気探査解析装置、及びコンピュータ読み取り可能なプログラムが適用される鉛直磁気探査システムの一実施形態を説明する。
【0027】
1.鉛直磁気探査システム
図1は、本発明に係る鉛直磁気探査解析システムの一例が適用される鉛直磁気探査システムを説明する概略構成図である。
【0028】
図1に示すとおり、鉛直磁気探査システム1は、地中を鉛直下向きに掘削して円柱状の観測孔11を穿設するボーリングマシン10と、観測孔11に円柱状の検知器21を挿入して磁気探査を行う鉛直磁気探査解析システム2とを備える。
【0029】
鉛直磁気探査解析システム2は、観測孔11へ挿入される検知器21と、検知器21に接続されるケーブル22と、ケーブル22を介して検知器21に接続される管制装置23と、管制装置23の出力端子へ接続されるAD変換器24と、AD変換器24を介して管制装置23に接続されるモバイルPC25(鉛直磁気探査解析装置の一例)と、インターネットなどのネットワーク26に接続されたサーバ27とを備える。
【0030】
検知器21は、例えば0.5~2m程度の間隔をおいて一対の磁気検知コイルを同軸で配置した一軸差動フラックスゲート型の磁気センサであり、これら一対の磁気検知コイルの差動信号が検知器21より出力される。この差動信号においては、一対の磁気コイルが個別に出力する信号のノイズ(地球磁場などの環境要因や検知器21の振動などに起因したノイズ)が打ち消し合う。なお、検知器21は、差動信号のほかに、先端側側のコイルが単独で出力する地磁気信号を出力することも可能である。また、検知器21における一対の磁気検知コイルの間隔は、必要な探索範囲の広さや必要な分解能などに応じて適当に設定される。
【0031】
管制装置23は、観測孔21を走査中の検知器21から出力されてくる差動信号と、検知器21の深度とを互いに対応づけてAD変換器24へ出力することができる。AD変換器24は、検知器21から出力される深度付きの差動信号をAD変換してからモバイルPC25へ出力し、モバイルPCは、その内部メモリに格納された所定のプログラムに従って、深度付きの差動信号を、所定のフォーマット(CSV形式)で内部メモリへ保存する。
【0032】
なお、管制装置23は、バッテリーから検知器21へ供給される電力をユーザ(技術者)がオン/オフするスイッチと、検知器21から出力される差動信号(及び先端側コイルから出力される地磁気信号)のレベルを表示する表示部と、検知器21から出力される差動信号(及び先端側コイルから出力される地磁気信号)の感度をユーザ(技術者)が切り替えるための調節部と、検知器21から出力される差動信号(及び先端側コイルから出力される地磁気信号)のオフセットをユーザ(技術者)が調整をするための調節部とを備える。なお、モバイルPC25は、所定のプログラムに従って動作し、管制装置23の側から与えられる差動信号(又は先端側コイルから出力される地磁気信号)を監視し、そのレベルに一定以上の変化が現れた場合(検知器直下に磁性体が埋設されている可能性を示す「磁気異常」が現れた場合)に警報を発する。
【0033】
2.鉛直磁気探査方法
図2は、鉛直磁気探査方法の手順を説明するフローチャートである。図2に示すとおり、鉛直磁気探査解析システム1を利用した鉛直磁気探査方法では、先ず、ユーザ(技術者)が調査地点にボーリングマシン10を設置し(S11)、鉛直下向きに深さ1mの観測孔11を掘削する(S12)。そして、ユーザ(技術者)が観測孔11に検知器21を挿入し、観測孔11の底面より1m直下についての磁気探査を実施する(S13)。このときユーザ(技術者)は、差動信号又は地磁気信号に基づいて磁気異常の有無を確認し(S14)、磁気異常があった場合(S14YES)には、連続測定の手順(S16)に移行し、磁気異常がなかった場合(S14NO)には、更に1m掘進して磁気探査及び確認を行う(S12~S14)。そして、これら掘進から確認までの一連の手順(S12~S14)は、磁気異常があるか(S14YES)又は観測孔11の底面が予定深度(例えば11m)に到達するまで(S15YES)、繰り返される。
【0034】
その後、観測孔11の底面(下端)から孔口(上端)まで検知器21を一定速度で走査することにより連続測定を行い、その期間中に検知器21が出力した差動信号の信号波形(及び地磁気信号の信号波形)のデータをモバイルPC25の内部メモリへ保存する(S16)。その後、差動信号の信号波形に対する解析(後述)が実施される(S17)。
【0035】
なお、掘削中に磁性体30への接触の危険(磁気異常)が認められた場合(S14YES)は、ボーリング孔の位置(観測孔11の位置)をずらす等の措置を講じて探査を継続してもよい。
【0036】
また、磁気異常が認められた深度については、検知器21を複数回にわたって鉛直方向へ走査してデータの再現性を確認してもよい。
【0037】
3.サーバ
図1に示したサーバ27は、プログラムやデータを格納する記憶部、プログラムを実行するプロセッサ、ネットワーク26を介してモバイルPC25からの要求を受け付ける通信インタフェース、サーバ管理者からの入力を受け付けるユーザインタフェースなどを備えると共に、所定のアルゴリズム(ここでは畳み込みニューラルネットワークとする。)によって学習された学習済みの推定モデル28を備えている。学習済みの推定モデル28は、畳み込みニューラルネットワークの認識器に相当するプログラムであって、学習の結果として当該認識器の結合状態を予め記憶したものである。本実施形態では、地中における磁性体30の埋設状態を推定する際に学習済みの推定モデル28を利用する。以下では、学習済みの推定モデル28を必要に応じて単に「推定モデル28」又は「AI」と称する。
【0038】
サーバ27のプロセッサは、推定モデル28を管理し、モバイルPC25からネットワーク26及び通信インタフェースを介して差動信号波形のデータ(画像Im)を受信すると、画像Imを推定モデル28へ入力することにより、地中における磁性体30の埋設状態を推定する。
【0039】
そして、サーバ27のプロセッサは、推定した磁性体30の埋設状態を、ネットワーク26を介してモバイルPC25へ提供する。サーバ27から提供された磁性体30の埋設状態は、モバイルPC25の画面等を介してユーザ(技術者)へ提示される。
【0040】
4.推定モデル
図3は、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの入力データ及び出力データを説明する説明図である。図3に示すとおり本実施形態の推定モデル28は、畳み込みニューラルネットワークにより学習された学習済みの推定モデルであって、観測孔11へ挿入された鉛直磁気探査用の検知器21の差動信号波形のデータ(画像Im)から、地中における磁性体30の埋設状態を推定する推定モデル(鉛直磁気探査解析用推定モデル)である。以下、磁性体30の埋設状態として、観測孔11から磁性体30までの離隔距離rと、磁性体30の有する磁気量Mと、観測孔11から見た磁性体30の磁極の方向(仰俯角)θとの組み合わせを想定する(図1参照)。
【0041】
5.推定モデルの生成方法
図4は、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルの生成方法を説明する説明図である。この推定モデルの生成方法は主にサーバ27によって実行される。
【0042】
サーバ27のプロセッサは、地中における磁性体30の埋設状態(r,M,θの組み合わせ)と、鉛直磁気探査用の検知器21が生成した差動信号波形の画像Imとの対応付けを教師データとして取得する取得手順と、取得した教師データを用いた畳み込みニューラルネットワークにより推定モデル28を学習させ、学習済みの推定モデル28を保存する学習手順とを実行する。
【0043】
図4に示すとおり教師データは、磁性体30の埋設状態(r,M,θの組み合わせ)の異なる複数の差動信号波形の画像Imである。これらの差動信号波形の画像Imは、上述した鉛直磁気探査システム1又はこれと同じ仕様のシステムを用いて取得することができる。例えば、深度11mの観測孔11をボーリングマシン10で穿設し、その観測孔11から水平方向に遠隔した位置へ磁性体30のサンプル(模擬爆弾,鉄管など)を埋設し、孔底から孔口に向かって検知器21を所定速度で走査することにより、差動信号波形のデータ(画像Im)を取得する。さらに、磁性体30のサンプルの埋設状態(r,M,θの組み合わせ)を約400通りに変化させつつ、約400枚の画像Imを取得する。ここで、本願発明者等の実験によると、これら400枚の画像Imは、差動信号波形のパターンタイプ(S型、V型、M型、MW型の別)によって概ね4種類に分類することができた。また、同一のパターンタイプに属する画像Im同士を比較すると、上下又は左右に反転している、上下又は左右のサイズが異なる、或いは、ノイズ周波数又はノイズ量が異なる、という差異が見られた。
そこで本実施形態では、このように4種類に分類可能な約400枚の画像Imに対してそれぞれ上下左右に反転させる反転処理、画像Imを上下左右に拡縮する拡縮処理、及び人工的にノイズを加えるノイズ処理を施すことによって、教師データの数を約6万個に増大させた。これによって、実測を伴うことなく教師データの数を増やすことが可能である(拡充できる)。その結果、推定モデル28を簡単かつ確実に高性能化できると考えられる。
【0044】
6.鉛直磁気探査解析装置
図5は、本発明に係る本発明に係る鉛直磁気探査解析装置による解析の手順を説明するフローチャートである。この解析の手順は、モバイルPC25の内部メモリに格納されたプログラムに従ってモバイルPC25が実行するものである。
【0045】
図5に示すとおり、モバイルPC25のプロセッサは、ユーザ(技術者)が指定した差動信号波形のCSVデータ(CSVファイル)と、これに対応する地磁気信号波形のCSVデータ(CSVファイル)とを内部メモリから読み込み(S171)、差動信号波形及び地磁気信号波形をそれぞれグラフとして画面へ表示する(S172,図6符号A2,A3)。
【0046】
次に、モバイルPC25のプロセッサは、グラフ(図6符号A2,A3)に現れた波形の各ポイント(図7)をユーザ(技術者)に指定させる(S173,図7)。この指定により、基準となる深度d,解析範囲AA,差動信号波形の周期2x,最大振幅ΔHmaxなどが特定される。なお、ユーザ(技術者)による指定の方法については後述する。
【0047】
次に、モバイルPC25のプロセッサは、ユーザ(技術者)が指定した各ポイントに基づいて差動信号波形の周期2x,最大振幅ΔHmaxなどの寸法を読み取り、ネットワーク26を介してサーバ27へ当該寸法(周期2x,最大振幅ΔHmax)を送信する。サーバ27は、推定モデル28を用いない以下の計算式(1),(2)へ周期2x,最大振幅ΔHmaxの値を当てはめることにより磁性体30の離隔距離r’及び磁性体30の磁気量M’を計算し、計算した離隔距離r’及び磁気量M’の値をネットワーク25を介してモバイルPC25へ送信する。そして、モバイルPC25は、ネットワーク25を介して離隔距離r’及び磁気量M’を受信する(S174)。
【0048】
r’={(x+0.5)(x-0.5)}2/3×{(x+0.5)2/3+(x-0.5)2/3}…(1)
【0049】
M’=ΔHmax(0.5+r’)3/2×10…(2)
【0050】
次に、モバイルPC25のプロセッサは、サーバ27から受信した離隔距離r’及び磁気量M’を画面に表示する(S175,図6の符号A4,図8)。
【0051】
一方、モバイルPC25のプロセッサは、解析範囲AA(図7)に属する差動信号のデータを画像Imとて生成し、生成した画像Imを、ネットワーク26を介してサーバ27へ送信する。画像Imを受信したサーバ27は、画像Imを推定モデル28へ入力することにより、磁性体30の離隔距離r、磁気量M、磁極の方向θを推定し、ネットワーク26を介して離隔距離r、磁気量M、磁極の方向θを、モバイルPC25へ送信する。これによって、モバイルPC25は、磁性体30の離隔距離r、磁気量M、磁極の方向θを取得することができる(S176)。
【0052】
次に、モバイルPC25のプロセッサは、サーバ27から受信した離隔距離r、磁気量M、及び磁極の方向θを画面に表示する(S177,図6符号A4,図8)。
以上の結果、計算式で計算した離隔距離r’及び磁気量M’と、推定モデル28で推定した離隔距離r、磁気量M、磁極の方向θとが比較可能な状態でユーザ(技術者)へ提示される(図8)。なお、このとき深度dも一緒に表示されることが望ましい。
【0053】
7.表示画面
図6は、本発明に係る本発明に係る鉛直磁気探査解析装置の表示画面を説明する説明図である。この表示画面は、モバイルPCの内部メモリに格納されたプログラムに従ってモバイルPC25のプロセッサがモバイルPCの画面へ表示するものである。
【0054】
図6の表示画面の上部には、差動信号波形のデータのファイルをユーザ(技術者)が指定するためのエリアA1が設けられている。
【0055】
図6の表示画面の中央左寄りには、検知器21の先端側コイルが単独で生成した地磁気信号波形がグラフとして表示されるエリアA2と、検知器21が生成した差動信号波形がグラフとして表示されるエリアA3(図7参照)とが並べて設けられている。
【0056】
図6の表示画面の中央右寄りには、推定モデル28が推定した離隔距離r,磁気量M,磁極の方向θと、計算式で計算した離隔距離r’,磁気量M’とを一覧可能な状態で表示するためのエリアA4(図8参照)が設けられている。
図6の表示画面の下部には、サーバ27を介して行われた解析に係る実行ログが時系列順に表示されるエリアA5が設けられている。
【0057】
8.差動信号波形の表示エリア
図7は、差分信号波形の表示エリアA3を説明する説明図である。ユーザ(技術者)は、差分信号波形の表示エリアA3を目視しつつ、マウスによるポインティング又は数値入力を行うことにより、差動信号波形の半周期xの上端深度及び下端深度を指定することができる。これによって、モバイルPC25は、差動信号波形の周期2xを特定することができる。
【0058】
また、ユーザ(技術者)は、差分信号波形の表示エリアA3を目視しつつ、マウスによるポインティング又は数値入力を行うことにより、差動信号波形において最も振幅が大きくなるピークの接線を指定することができる。これによって、モバイルPC25は、差動信号波形の最大振幅ΔHmaxを特定することができる。
【0059】
また、ユーザ(技術者)は、差分信号波形の表示エリアA3を目視しつつ、マウスによるポインティング又は数値入力を行うことにより、基準となる深度dを指定することができる。なお、基準となる深度dは、地磁気信号波形のグラフ(図6の符号A2)に基づいてユーザ(技術者)が指定してもよい。
【0060】
また、ユーザ(技術者)は、差分信号波形の表示エリアA3を目視しつつ、マウスによるポインティング又は数値入力を行うことにより、解析範囲AAの上端深度および下端深度を指定することができる。なお、モバイルPC25は、深度dを中心とした所定範囲を自動的に解析範囲AAと定めてもよい。
【0061】
6.解析結果の表示エリア
図8は、解析結果の表示エリアA4を説明する説明図である。図8に示すとおり、解析結果の表示エリアA4には、磁極の方向θを表示するエリアA41と、離隔距離rを表示するエリアA42と、深度dを表示するエリアA43と、磁気量Mを表示するエリアA44と、最大振幅ΔHmaxを表示するエリアA51と、周期2x0を表示するエリアA52と、離隔距離r’を表示するエリアA53と、磁気量M’を表示するエリアA54と、磁気量M”を表示するエリアA61とが設けられている。なお、磁気量M”は、推定モデル28で推定した離隔距離rと、前述した最大振幅ΔHmaxとを計算式(2)へ当てはめることにより、サーバ27のプロセッサが計算した磁気量である。
【0062】
9.推定モデルの評価
図9は、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルにより推定した離隔距離と真値(実測値)との関係を示すグラフである。図9に示すとおり、推定モデル28で推定した離隔距離rは、離隔距離の真値と比較すると多少の誤差が生じていたものの、この誤差は±0.5m程度の範囲内に収まっている。
【0063】
図10は、本発明に係る鉛直磁気探査解析用推定モデルにより推定した離隔距離と計算式により計算した離隔距離との関係を示すグラフである。図10に示すとおり、推定モデル28で推定した離隔距離rは、計算式で計算した離隔距離r’よりも若干大きめの値を示す傾向があった。また、離隔距離と重量(すなわち磁気量)との組み合わせによって離隔距離rは特徴的な分布を示しており、例えば150mm砲弾サイズでは離隔距離2m以下での精度は高く、500kg爆弾サイズでは3m以上の離隔距離でやや小さめの値が出やすいといった結果が得られた。
【0064】
なお、ここでは、離隔距離rの推定誤差についてしか検証していないが、推定モデル28は磁気量Mや磁極の方向θについても一定の精度で推定することができると考えられる。なぜなら、差動信号波形の最大振幅ΔHmaxと磁性体30の磁気量Mとの間に相関性があることは周知であり、差動信号波形のパターンタイプ(MV型、M型、V型、S型、逆S型、V型、逆M型、逆MV型の別)と磁極の方向θとの間に相関性があることは、本願発明者等の実験から判明しているからである(図4参照)。
【0065】
10.実施形態の効果
本実施形態によれば、磁性体30の埋設状態(r,M,θの組み合わせ)と、検知器21が生成した差動信号波形の画像Imとの対応付けを教師データとして畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolution Neural Network)により推定モデル28を学習させるので、ユーザ(技術者)が画面上で差動信号波形の寸法(振幅ΔH,変化の周期2xなど)を測るという手作業を要しない。
【0066】
そして、差動信号波形の形状(パターン)と磁性体30の埋設状態(r,M,θの組み合わせ)との間には強い相関がある。例えば、磁性体30の離隔距離rが短いほど差動信号波形の変化の周期2xは短くなり、磁性体30の離隔距離rが短く磁性体30の磁気量Mが大きいほど差動信号波形の最大振幅ΔHmaxも大きくなることは既に知られている(計算式(1),(2)を参照)。さらに、本願発明者等の実験によると、観測孔11から見た磁性体30の磁極の方向θに応じて差動信号波形のパターンタイプがMV型、M型、V型、S型、逆S型、逆V型、逆M型、逆MV型などの間で変化することも判明している(図4)。
【0067】
しかも、畳み込みニューラルネットワークは、画像の特徴点を捉えることが得意であるから、差動信号波形の形状(パターン)の特徴を画像Imとして認識し、差動信号波形の形状(パターン)と強い相関を有した磁性体30の埋設状態(r,M,θの組み合わせ)を推定するのに好適である。
【0068】
したがって、畳み込みニューラルネットワークによる学習済み推定モデル28を用いた本実施形態によれば、磁性体30の埋設状態(r,M,θの組み合わせ)を高精度に推定することができる。
【0069】
11.その他
以上のように、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【0070】
11-1.AIの追加学習
例えば、上述したシステムにおいては、推定モデル28を新たな教師データで追加学習させることにより推定モデル28を更新してもよい。このような更新を繰り返せば、時間経過に応じて推定モデル28の性能をアップすることができる。
【0071】
11-2.機能の割り当て
例えば、上述したシステムにおける機能の割り当ては上述したものに限定されることはなく、サーバ27の側に搭載された機能の一部又は全部は、モバイルPC25の側に搭載されてもよいし、モバイルPC25の側に搭載された機能の一部はサーバ27の側に搭載されてもよい。また、モバイルPC25に搭載された機能の一部(推定結果を表示する機能、サーバにアクセスする機能など)は、不図示のデスクトップPCに搭載されてもよい。また、管制装置23,AD変換器24の機能の一部をモバイルPC25の側へ搭載してもよいし、AD変換器24及びモバイルPC25の機能の一部又は全部を管制装置23の側へ搭載してもよい。また、サーバ27の代わりにPCを用いることも可能であり、例えばオフィスなどに設置されたデスクトップPC127をサーバ27の代わりに使用してもよい(図11を参照)。
【0072】
11-3.AI搭載のモバイルPC
また、図12に示すとおり推定モデル28を予めモバイルPC25へ搭載(インストール)しておけば、モバイルPC25がネットワーク26へ接続できない現場で推定モデル28を利用することが可能となる。また、その場合において、教師データを用いた畳み込みニューラルネットワークにより推定モデル28を学習させる処理(推定モデル28を生成する処理)は、サーバ27(図1)が実行してもよいし、オフィスなどに設置されたデスクトップPC127(図11)が実行してもよい。学習済みの推定モデル28は、ネットワーク26を介してモバイルPC25へインストールすることが可能だからである。また、サーバ27(図1)又はデスクトップPC127(図11)が推定モデル28を追加学習により更新した場合には、ネットワーク26を介して更新後の推定モデル28をモバイルPC25へ改めてインストール(プログラムを更新)すればよい。また、サーバ27(図1)又はデスクトップPC127(図11)は、追加学習に必要な追加教師データをネットワーク26経由で収集してもよい。
【0073】
11-4.AIを用いた直下判定
また、現場における掘削工程でAIを利用した直下判定を行ってもよい。図13は、掘削工程でAI判定を利用した鉛直磁気探査方法の手順を説明するフローチャートである。図13のフローにおいて図2のフローとの相違点は、ステップS14~S16の間にステップS101,S102,S103が挿入された点にある。
【0074】
図13のフローにおいて、掘削中1mごとの観測時に異常波形の初期と思われる波形が認められた場合には(S14YES)、観測孔11の直下に磁性体30が存在するか否かを前述した推定モデル28(AI)で推定する(S101)。そして、推定モデル28が観測孔11の直下に磁性体30が存在していると推定した場合には(S101YES)、直ちに掘削を終了して(S103)からステップS16へ移行し(S103)、そうでない場合には(S101NO)、更なる掘削を行うべくステップS15へ移行する。
【0075】
このような推定モデル28の学習では、地中における磁性体30の埋設状態として、離隔距離r及び深度dの属するエリアの分類(図14の分類1~9の別)と、鉛直磁気探査用の検知器21が生成した差動信号波形の画像Imとの対応付けを、教師データとして用いればよい。その場合、学習済みの推定モデル28は、磁性体30の存在するエリアが分類1~9の何れであるかを推定することが可能となる。よって、上述したステップS102では、例えば、磁性体30の属するエリアの分類が「1」であるか否かを推定モデル28で推定し、分類が「1」であるとの推定結果が出た場合には、観測孔11の直下に磁性体30が存在する(ステップS102YES)と判定し、そうでない場合には、観測孔11の直下に磁性体30が存在しない(ステップS102NO)と判定すればよい。
【0076】
11-4.システムの更新
また、例えば不発弾探査はボーリングを行いながら深度1mごとに不発弾の有無を測定するものであるため、推定モデルによる推定精度が低いと大事故につながる危険性を有している。このため推定モデルによって迅速に人為的な誤差無く推定ができることは、事故を防ぐ意味でも大きな価値があるといえる。本実施形態のシステムについては、ユーザインタフェースについても様々に変形可能である。また、本実施形態では、計算式を用いた結果と推定モデルを用いた結果とを比較できるようなツールとして汎用性を高めるよう工夫をすることが可能である。さらには、比較に基づき準備された新規な教師データで推定モデルを逐次学習(追加学習)させたり(推定モデルを更新したり)、離隔距離50cm以下の極近の教師データで推定モデルを更に学習させたり(推定モデルを更新したり)することで、推定精度の向上及び適用範囲の拡大を図ることができる。また、解析のたびに新しい教師データを学習できるようにシステムを構築することもできる。
【符号の説明】
【0077】
1 鉛直磁気探査システム
10 ボーリングマシン
2 鉛直磁気探査解析システム
21 検知器
22 ケーブル
23 管制装置
24 AD変換器
25 モバイルPC
27 サーバ
28 推定モデル
20 推定モデル
26 ネットワーク
30 磁性体
r 離隔距離
M 磁気量
θ 磁極の方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14