(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】コンドロイチン硫酸の分析法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20231006BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20231006BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20231006BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20231006BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231006BHJP
C07H 3/04 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/50 U
G01N30/06 E
G01N30/72 C
G01N30/88 E
G01N27/62 V
G01N27/62 X
C07H3/04
(21)【出願番号】P 2019149546
(22)【出願日】2019-08-19
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018155049
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【氏名又は名称】小林 慧
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【氏名又は名称】山本 佳希
(72)【発明者】
【氏名】田中 登
(72)【発明者】
【氏名】木田 祥穂
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535774(JP,A)
【文献】特開2012-108056(JP,A)
【文献】AURAY-BLAIS, C et al.,Efficient analysis of urinary glycosaminoglycans by LC-MS/MS in mucopolysaccharidoses type I, II and,Molecular Genetics and Metabolism,2011年01月,Volume 102, Issue 1,pp.49-56
【文献】「紫外線環境保健マニュアル2008」,[online],2008年6月改訂版,環境省,2008年06月,p.11-13,http://www.env.go.jp/chemi/uv/uv_manual.html,[平成30年10月31日検索],インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれるコンドロイチン硫酸を,下記の式(IV)で示される二糖にまで分解する方法であって,
【化4】
該コンドロイチン硫酸を,2,2-ジメトキシプロパンを含む塩酸メタノール中で,50分~180分間,60℃~90℃の温度で加熱して分解するものである,方法。
【請求項2】
該コンドロイチン硫酸の分解における該加熱が,70分~110分間,65℃~75℃の温度で行われるものである,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該試料が,体液,細胞,組織,器官,細胞の培養液,組織の培養液,食品,及び飼料から選択されるもの,又はこれらに由来するものである,請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該試料が,哺乳動物から得られた体液,細胞,組織,器官,血液,血清,血漿,尿,骨髄液,及び脳脊髄液からなる群から選択されるもの,又はこれらに由来するものである,請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
該哺乳動物が,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,及びネコからなる群から選択されるものである,請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該哺乳動物がヒトであり,該ヒトが,コンドロイチン硫酸が体内に蓄積する疾患の患者である,請求項4に記載の方法。
【請求項7】
該疾患が,マロトー・ラミー症候群,モルキオ症候群A型,モルキオ症候群B型,及びスライ症候群からなる群から選択されるものである,請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該患者が,体内に存在するコンドロイチン硫酸を減少させる治療を受けたものである,請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
試料中に含まれるコンドロイチン硫酸とヘパラン硫酸を,それぞれ,該コンドロイチン硫酸を下記の式(IV)で示される二糖に,及び
【化4】
該ヘパラン硫酸を下記の式(XIV)で示される二糖にまで分解する方法であって,
【化14】
該ヘパラン硫酸を,2,2-ジメトキシプロパンを含む塩酸メタノール中で,80分~180分間,65℃~85℃の温度で加熱して分解するものであり,及び,
該コンドロイチン硫酸を,請求項1又は2に記載の方法で分解するものである,方法。
【請求項10】
該ヘパラン硫酸の分解における該加熱が,110分~130分間,78℃~82℃の温度で行われるものである,請求項9に記載の方法。
【請求項11】
試料中に含まれるコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸,及びデルマタン硫酸を,それぞれ,該コンドロイチン硫酸を下記の式(IV)で示される二糖に,
【化4】
該ヘパラン硫酸を下記の式(XIV)で示される二糖に,及び
【化14】
該デルマタン硫酸を下記の式(XII)で示される二糖にまで分解する方法であって,
【化12】
該デルマタン硫酸を,2,2-ジメトキシプロパンを含む塩酸メタノール中で,20分~100分間,60℃~80℃の温度で加熱して分解するものであり,及び,
該コンドロイチン硫酸及び該ヘパラン硫酸を,請求項9又は10に記載の方法で分解するものである,方法。
【請求項12】
該デルマタン硫酸の分解における該加熱が,30分~80分間,63℃~67℃の温度で行われるものである,請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該試料が,体液,細胞,組織,器官,細胞の培養液,組織の培養液,食品,及び飼料から選択されるもの,又はこれらに由来するものである,請求項9乃至12の何れかに記載の方法。
【請求項14】
該試料が,哺乳動物から得られた体液,細胞,組織,器官,血液,血清,血漿,尿,骨髄液,及び脳脊髄液からなる群から選択されるもの,又はこれらに由来するものである,請求項9乃至12の何れかに記載の方法。
【請求項15】
該哺乳動物が,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,及びネコからなる群から選択されるものである,請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該哺乳動物がヒトであり,該ヒトが,コンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸,及びデルマタン硫酸の何れか1つ又は複数のものが体内に蓄積する疾患の患者である,請求項14に記載の方法。
【請求項17】
該疾患が,マロトー・ラミー症候群,モルキオ症候群A型,モルキオ症候群B型,ハンター症候群,ハーラー症候群,シャイエ症候群,ハーラー・シャイエ症候群,サンフィリッポ症候群,及びスライ症候群からなる群から選択されるものである,請求項16に記載の方法。
【請求項18】
該患者が,体内に存在するコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸,及びデルマタン硫酸の何れか1つ又は複数のものを減少させる治療を受けたものである,請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
試料中に含まれるコンドロイチン硫酸の量を測定する方法であって,
請求項1乃至8の何れかに記載の方法で得られた二糖を,液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,
該溶出液を質量分析に供するステップと,
を含んでなるものである,方法。
【請求項20】
試料中に含まれるコンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸の量を測定する方法であって,
請求項9乃至10の何れかに記載の方法により,コンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸を分解して得られた二糖を,液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,
該溶出液を質量分析に供するステップと,
を含んでなるものである,方法。
【請求項21】
試料中に含まれるコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の量を測定する方法であって,
請求項10乃至18の何れかに記載の方法により,コンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸を分解して得られた二糖を,液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,
該溶出液を質量分析に供するステップと,
を含んでなるものである,方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コンドロイチン硫酸を二糖にまで分解する方法に関し,更には,該二糖を液体クロマトグラフィー-質量分析法により分析することにより,コンドロイチン硫酸の量を測定する方法に関する。また,本発明は,コンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸,若しくはこれらに加えてデルマタン硫酸を二糖にまで分解する方法に関し,更には,該二糖を液体クロマトグラフィー-質量分析法により分析することにより,コンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸,若しくはこれらに加えてデルマタン硫酸の量を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコサミノグリカン(GAG)は,アミノ酸を含む一群の酸性多糖である。GAGは,アミノ糖(グルコサミン,ガラクトサミン)とウロン酸(グルクロン酸等)又はガラクトースからなる二糖が,繰返し結合した長鎖構造を有している。GAGを構成する糖が硫酸化されているものもある。GAGとしては,ヒアルロン酸,コンドロイチン4-硫酸,コンドロイチン6-硫酸,へパリン,ヘパラン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸がある。
【0003】
それぞれの種類のGAGには,これらを特異的に分解する酵素が存在する。例えば,β-グルクロニダーゼは,グリコシド結合を加水分解する酵素で,主にコンドロイチン4-硫酸内の-GlcA-GalNAc-構造を認識して,そのβ-グリコシド結合を加水分解する活性を有する酵素である。この酵素の活性が遺伝的に一部又は全て失われるとスライ症候群(ムコ多糖症VII型)を発症する。スライ症候群の患者では,コンドロイチン4-硫酸等が体内に蓄積し,身体変形,精神遅滞等の諸症状が引き起こされる。
【0004】
その他,GAGを分解する酵素の遺伝的欠損を原因とする疾患であって,体内にコンドロイチン4-硫酸等が蓄積するものとして,モルキオ症候群等が知られている。
【0005】
GAGを分解する酵素の欠損により引き起こされる疾患は,ムコ多糖症と総称される。ムコ多糖症の患者の組織内には,GAGが異常に蓄積される。例えば,スライ症候群の患者では,コンドロイチン4-硫酸を含むGAGが体内に蓄積することになる。従って,ムコ多糖症を適応症とする薬剤の効果は,例えば,組織内に存在するGAGの量の変化を測定することによって定量的に求めることができる。また,組織内に存在するGAGの量を測定することによって,ムコ多糖症の患者を同定することができる。
【0006】
GAGの分析法としては,試料中に含まれるGAGを還元的アミノ化反応により分解して蛍光ラベル化二糖類を得て,これを液体クロマトグラフィーで分析する方法が知られている(特許文献1)。また,試料中に含まれるGAGをメタノリシス処理により二糖類にまで分解し,これを液体クロマトグラフィーに直結させた質量分析計を用いて分析する方法が知られている(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Auray-Blais C. et al., Mol Genet Metab. 102. 49-56 (2011)
【文献】Auray-Blais C. et al., Clin Chim Acta. 413. 771-8 (2012)
【文献】Zang H. et al., Clin Chem. 57. 1005-12 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は,コンドロイチン硫酸を,これを構成する二糖類にまで分解する方法,及びコンドロイチン硫酸を分解して得られた二糖類を,液体クロマトグラフィー-質量分析法によって分析及び測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,GAGを構成するコンドロイチン硫酸(特にコンドロイチン4-硫酸)を,塩酸メタノール存在下に分解することにより,二糖類にまで効率よく分解することができること,及び,分解して得られた二糖類を液体クロマトグラフィー-質量分析法によって分析することにより,コンドロイチン硫酸を感度良く測定することができることを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を含むものである。
【0011】
1.試料中に含まれるコンドロイチン硫酸を,下記の式(IV)で示される二糖にまで分解する方法であって,
【化4】
該コンドロイチン硫酸を,2,2-ジメトキシプロパンを含む塩酸メタノール中で,50分~180分間,60℃~90℃の温度で加熱して分解するものである,方法。
2.該コンドロイチン硫酸の分解における該加熱が,70分~110分間,65℃~75℃の温度で行われるものである,上記1に記載の方法。
3.該試料が,体液,細胞,組織,器官,細胞の培養液,組織の培養液,食品,及び飼料から選択されるもの,又はこれらに由来するものである,上記1又は2に記載の方法。
4.該試料が,哺乳動物から得られた体液,細胞,組織,器官,血液,血清,血漿,尿,骨髄液,及び脳脊髄液からなる群から選択されるもの,又はこれらに由来するものである,上記1又は2に記載の方法。
5.該哺乳動物が,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,及びネコからなる群から選択されるものである,上記4に記載の方法。
6.該哺乳動物がヒトであり,該ヒトが,コンドロイチン硫酸が体内に蓄積する疾患の患者である,上記4に記載の方法。
7.該疾患が,マロトー・ラミー症候群,モルキオ症候群A型,モルキオ症候群B型,及びスライ症候群からなる群から選択されるものである,上記6に記載の方法。
8.該患者が,体内に存在するコンドロイチン硫酸を減少させる治療を受けたものである,上記6又は7に記載の方法。
9.試料中に含まれるコンドロイチン硫酸とヘパラン硫酸を,それぞれ,該コンドロイチン硫酸を下記の式(IV)で示される二糖に,及び
【化4】
該ヘパラン硫酸を下記の式(XIV)で示される二糖にまで分解する方法であって,
【化14】
該ヘパラン硫酸を,2,2-ジメトキシプロパンを含む塩酸メタノール中で,80分~180分間,65℃~85℃の温度で加熱して分解するものであり,及び,
該コンドロイチン硫酸を,上記1又は2に記載の方法で分解するものである,方法。
10.該ヘパラン硫酸の分解における該加熱が,110分~130分間,78℃~82℃の温度で行われるものである,上記9に記載の方法。
11.試料中に含まれるコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸,及びデルマタン硫酸を,それぞれ,該コンドロイチン硫酸を下記の式(IV)で示される二糖に,
【化4】
該ヘパラン硫酸を下記の式(XIV)で示される二糖に,及び
【化14】
該デルマタン硫酸を下記の式(XII)で示される二糖にまで分解する方法であって,
【化12】
該デルマタン硫酸を,2,2-ジメトキシプロパンを含む塩酸メタノール中で,20分~100分間,60℃~80℃の温度で加熱して分解するものであり,及び,
該コンドロイチン硫酸及び該ヘパラン硫酸を,上記9又は10に記載の方法で分解するものである,方法。
12.該デルマタン硫酸の分解における該加熱が,30分~80分間,63℃~67℃の温度で行われるものである,上記11に記載の方法。
13.該試料が,体液,細胞,組織,器官,細胞の培養液,組織の培養液,食品,及び飼料から選択されるもの,又はこれらに由来するものである,上記9乃至12の何れかに記載の方法。
14.該試料が,哺乳動物から得られた体液,細胞,組織,器官,血液,血清,血漿,尿,骨髄液,及び脳脊髄液からなる群から選択されるもの,又はこれらに由来するものである,上記9乃至12の何れかに記載の方法。
15.該哺乳動物が,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,及びネコからなる群から選択されるものである,上記14に記載の方法。
16.該哺乳動物がヒトであり,該ヒトが,コンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸,及びデルマタン硫酸の何れか1つ又は複数のものが体内に蓄積する疾患の患者である,上記14に記載の方法。
17.該疾患が,マロトー・ラミー症候群,モルキオ症候群A型,モルキオ症候群B型,ハンター症候群,ハーラー症候群,シャイエ症候群,ハーラー・シャイエ症候群,サンフィリッポ症候群,及びスライ症候群からなる群から選択されるものである,上記16に記載の方法。
18.該患者が,体内に存在するコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸,及びデルマタン硫酸の何れか1つ又は複数のものを減少させる治療を受けたものである,上記16又は17に記載の方法。
19.試料中に含まれるコンドロイチン硫酸の量を測定する方法であって,
上記1乃至8の何れかに記載の方法で得られた二糖を,液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,
該溶出液を質量分析に供するステップと,
を含んでなるものである,方法。
20.試料中に含まれるコンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸の量を測定する方法であって,
上記9乃至10の何れかに記載の方法により,コンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸を分解して得られた二糖を,液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,
該溶出液を質量分析に供するステップと,
を含んでなるものである,方法。
21.試料中に含まれるコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の量を測定する方法であって,
上記10乃至18の何れかに記載の方法により,コンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸を分解して得られた二糖を,液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,
該溶出液を質量分析に供するステップと,
を含んでなるものである,方法。
22.上記19に記載の方法により得られた,該試料中に含まれるコンドロイチン硫酸の測定値に基づいて,該試料を提供した哺乳動物の中から,コンドロイチン硫酸が体内に蓄積する疾患の個体を検出する方法。
23.上記20に記載の方法により得られた,該試料中に含まれるコンドロイチン硫酸又は/及びヘパラン硫酸の測定値に基づいて,該試料を提供した哺乳動物の中から,コンドロイチン硫酸又は/及びヘパラン硫酸が体内に蓄積する疾患の個体を検出する方法。
24.上記21に記載の方法により得られた,該試料中に含まれるコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の測定値に基づいて,該試料を提供した哺乳動物の中から,コンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の何れか1つ又は複数のものが体内に蓄積する疾患の個体を検出する方法。
25.該疾患が,マロトー・ラミー症候群,モルキオ症候群A型,モルキオ症候群B型,ハンター症候群,ハーラー症候群,シャイエ症候群,ハーラー・シャイエ症候群,サンフィリッポ症候群,及びスライ症候群からなる群から選択されるものである,上記22乃至24の何れかに記載の方法。
26.該試料が,コンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の何れか1つ又は複数のものが体内に蓄積する疾患であって,該体内に蓄積した物質を減少させる治療を受けた患者から,該治療の前及び該治療の後にそれぞれ得られたものであり,該試料中に含まれる該体内に蓄積した物質の量を,上記19乃至21の何れかに記載の方法により測定することにより得られた測定値に基づいて,該治療の効果を確認する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,例えば,哺乳動物から採取された試料(血清,脳脊髄液等)中に含まれるコンドロイチン硫酸を単独で,又はヘパラン硫酸とともに,若しくはこれらに加えてデルマタン硫酸とともに,感度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】コンドロイチン硫酸を250 ng/mL含有する検量線作成用溶液を,メタノリシス処理したものをLC/MS/MS分析して得られたイオンクロマトグラム。縦軸はカウント毎秒(cps),横軸は溶出時間(分)を示す。
【
図2】コンドロイチン硫酸の検量線を示す図。縦軸は面積比(CS検出ピーク面積/DS-IS検出ピーク面積),横軸はコンドロイチン硫酸の濃度(ng/mL)を示す。
【
図3】デルマタン硫酸とヘパラン硫酸とを各25 ng/mLずつ含有する検量線作成用溶液を,表4に示す条件Aでメタノリシス処理したものをLC/MS/MS分析して得られたイオンクロマトグラム。縦軸はカウント毎秒(cps),横軸は溶出時間(分)を示す。
【
図4】デルマタン硫酸とヘパラン硫酸とを各25 ng/mLずつ含有する検量線作成用溶液を,表4に示す条件Bでメタノリシス処理したものをLC/MS/MS分析して得られたイオンクロマトグラム。縦軸はカウント毎秒(cps),横軸は溶出時間(分)を示す。
【
図5】マウスの血清中に含まれるデルマタン硫酸の濃度の測定結果を示す図。縦軸は,マウス血清中のデルマタン硫酸の濃度(μg/mL)を示す。白棒は野生型マウス,黒棒はIDSヘミ接合体マウスの血清中のデルマタン硫酸の濃度をそれぞれ示す。誤差バーは標準偏差(n=3)を示す。(A)は75分間,65℃,(B)は2時間,80℃,(C)は18時間,65℃でメタノリシス処理をしたものを測定した結果を,それぞれ示す。
【
図6】マウスの血清中に含まれるヘパラン硫酸の濃度の測定結果を示す図。縦軸は,マウス血清中のヘパラン硫酸の濃度(μg/mL)を示す。白棒は野生型マウス,黒棒はIDSヘミ接合体マウスの血清中のヘパラン硫酸の濃度の結果をそれぞれ示す。誤差バーは標準偏差(n=3)を示す。(A)は75分間,65℃,(B)は2時間,80℃,(C)は18時間,65℃でメタノリシス処理をしたものを測定した結果を,それぞれ示す。
【
図7】rhIDSを投与したマウスの血清中に含まれるヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の濃度の測定結果を示す図。縦軸は,マウス血清中のヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の濃度(μg/mL)を示す。白棒は野生型マウス,黒棒はrhIDS非投与のIDSヘミ接合体マウス,網掛け棒はrhIDS投与のIDSヘミ接合体マウスの結果をそれぞれ示す。誤差バーは標準偏差,二重♯印はt検定でp<0.01(野生型マウスとrhIDS非投与のIDSヘミ接合体マウスとの比較),二重星印はt検定でp<0.01(rhIDS非投与のIDSヘミ接合体マウスとrhIDS非投与のIDSヘミ接合体マウスとの比較)を示す。(A)はヘパラン硫酸の濃度の測定結果,(B)はデルマタン硫酸の濃度の測定結果を,それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において「コンドロイチン硫酸」というときは,一般に,D-グルクロン酸(GlcA)とN-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNAc)がβ1,3結合した二糖の繰返し構造を含むものが硫酸基で修飾されたものをいう。GlcAと4位に硫酸基が結合したGalNAcの二糖の繰返し構造を含むものがコンドロイチン4-硫酸である。GlcAと6位に硫酸基が結合したGalNAcの二糖の繰返し構造を含むものはコンドロイチン6-硫酸という。その他,コンドロイチン硫酸には,コンドロイチン硫酸D,コンドロイチン硫酸E,コンドロイチン硫酸K等の分子種がある。コンドロイチン硫酸の繰返し構造の単位となる二糖は,例えば,下記の一般式(I)で示される。
【0015】
【0016】
〔式(I)中,R1はNH2 ,NHCOCH3 ,NHSO3H,又はその塩;R2はOH,OSO3H又はその塩,R3はOH,OSO3H又はその塩;R4はCOOH又はその塩;R5はCH2OH,CH2OSO3H,又はその塩;R6はOH,OSO3H,又はその塩である。但し,R1,R2,R3,R4及びR5の何れか1つは硫酸基を含む。
特に,式(I)中,R1はNHCOCH3又はその塩;R2はOH;R3はOH;R4はCOOH又はその塩;R5はCH2OH;R6はOSO3H,又はその塩であるものは,コンドロイチン4-硫酸という。
また,式(I)中,R1はNHCOCH3又はその塩;R2はOH;R3はOH;R4はCOOH又はその塩;R5はCH2OSO3H,又はその塩;R6はOHであるものは,コンドロイチン6-硫酸という。
また,式(I)中,R1はNHCOCH3又はその塩;R2はOSO3H又はその塩;R3はOH;R4はCOOH又はその塩;R5はCH2OSO3H,又はその塩;R6はOHであるものは,コンドロイチン硫酸Dという。
また,式(I)中,R1はNHCOCH3又はその塩;R2はOH;R3はOH;R4はCOOH又はその塩;R5はCH2OSO3H,又はその塩;R6はOSO3H,又はその塩であるものは,コンドロイチン硫酸Eという。
また,式(I)中,R1はNHCOCH3又はその塩;R2はOH;R3はOSO3H又はその塩;R4はCOOH又はその塩;R5はCH2OH;R6はOSO3H,又はその塩であるものは,コンドロイチン硫酸Kという。〕
【0017】
塩酸メタノール中でコンドロイチン硫酸を,カルボキシル基がメチル化されたD-グルクロン酸と,1位の水酸基がメチル化されたN-アセチル-D-ガラクトサミンがβ1,3結合した二糖にまで分解する反応を,メタノリシス(メタノール分解)という。GlcAと4位に硫酸基が結合したGalNAcの二糖の繰返し構造のコンドロイチン4-硫酸を例にして,このメタノリシスの反応式を下記の式(II)に示す。
【0018】
【0019】
〔式(II)中,nは1以上の整数を示す。〕
【0020】
また,GlcAと6位に硫酸基が結合したGalNAcの二糖の繰返し構造のコンドロイチン6-硫酸を例にして,このメタノリシスの反応式を下記の式(III)に示す。
【0021】
【0022】
〔式(III)中,nは1以上の整数を示す。〕
【0023】
メタノリシスにより生じる二糖は,式(II)及び式(III)で示されるように,コンドロイチン4-硫酸とコンドロイチン6-硫酸で同一であり,下記の式(IV)で示される。
【0024】
【0025】
コンドロイチン硫酸のメタノール分解反応(メタノリシス)は,コンドロイチン硫酸を含有する試料を,2, 2-ジメトキシプロパンを含有する塩酸メタノール中で加熱して行われる。ここで,塩酸メタノールとは塩化水素を含むメタノールのことをいう。塩酸メタノールに含まれる塩化水素の濃度は,好ましくは0.5~5mol/Lであり,より好ましくは1~4mol/Lであり,更に好ましくは2.5~3.5mol/Lであり,例えば3mol/Lである。またここで,塩酸メタノールに対する2, 2-ジメトキシプロパンの比率に,特に限定はないが,例えば0.5~1.5:10(v/v)であり,特に1:10(v/v)である。また,このときのメタノール分解反応時の加熱条件は,好ましくは,60℃~90℃の温度で50分~180分間であり,より好ましくは,65℃~75℃の温度で70分~110分間であり,更に好ましくは,67℃~73℃の温度で80分~100分間又は85~95分であり,例えば,70℃の温度で90分間である。
【0026】
本発明の方法により,試料中に含まれるコンドロイチン硫酸の量を測定することができる。コンドロイチン硫酸を測定するために用いられる試料は,上記のメタノール分解反応の条件で加熱される。この反応により試料中に含まれるコンドロイチン硫酸が二糖にまで分解される。
【0027】
メタノール分解反応(メタノリシス)によりコンドロイチン硫酸を分解させて得られた二糖は,液体クロマトグラフィーに付される。そして,液体クロマトグラフィーからの溶出液は,順次,質量分析に供される。
【0028】
このとき用いられる液体クロマトグラフィーは,上記化学式(IV)で示される二糖を,カラムに一旦吸着させた後に溶出させることにより,他の物質から分離できるものである限り特に限定はない。
【0029】
例えば,イオン性相互作用,疎水性相互作用,親水性相互作用等により二糖を吸着させることのできる担体を充填したカラムを用いる高速液体カラムクロマトグラフィーは,本発明の方法において,好適に用いることができる。
【0030】
上記化学反応式(II)及び(III)で例示されるコンドロイチン硫酸のメタノール分解反応で生じる式(IV)で示される二糖は,極性が高い。従って,これらを一旦吸着させた後に溶出させることのできる担体としては,親水性相互作用により二糖を保持することができるものが特に好ましい。つまり,親水性相互作用により二糖を保持することのできる担体を用いた高速液体クロマトグラフィーが,メタノール分解反応で得られた二糖を分離する方法として好適である。このような高速液体クロマトグラフィーとして,下記の実施例4において使用されている,親水性相互作用液体クロマトグラフィーが挙げられる。
【0031】
液体クロマトグラフィーの流出口からの流路は,質量分析装置に連結されており,液体クロマトグラフィーからの溶出液は,順次,質量分析に送り込まれる。
【0032】
このとき用いることのできる質量分析装置に特に限定はない。例えば,質量分析装置は,分析対象の分子をイオン化するためのイオン源として,光イオン化法(APPI),電子イオン化法(EI),化学イオン法,電気脱離法,高速原子衝撃法(FAB),マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI),及びエレクトロスプレーイオン化法(ESI)を含む,何れのイオン化法を採用したものであってもよい。また,質量分析装置は,イオン化された分子を分離するための分析部が,磁場偏向型,四重極型,イオントラップ型,及びタンデム四重極型を含む,何れの型のものであってもよい。
【0033】
陽イオンモードで作動させるエレクトロスプレーイオン化法(ESI)で運用されるイオン源と,タンデム四重極型の分析部とを有する質量分析装置は,本発明の方法において好適に用いることができる。タンデム四重極型質量分析装置は,マスフィルターとして機能する四重極(Q1),衝突(コリジョン)セルとして機能する四重極(Q2),及びマスフィルターとして機能する四重極(Q3)を直列に配置した質量分析装置である。四重極(Q1)において,イオン化により生じた複数のイオンから,イオンの質量電荷比(m/z)に基づいて,目的のプレカーサーイオンが分離される。次いで,コリジョンセル(Q2)でプレカーサーイオンを不活性ガス等(例えばアルゴン)と衝突させてプロダクトイオン(フラグメントイオン)を生成させる。次いで,四重極(Q3)において,得られたプロダクトイオンを質量電荷比(m/z)に基づいて,選択的に検出する。
【0034】
以下にタンデム四重極型質量分析装置により,上記の式(II)で示されるコンドロイチン4-硫酸又は上記の式(III)で示されるコンドロイチン6-硫酸のメタノール分解により得られる式(IV)で示される二糖から,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,当該二糖をイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が426のプレカーサーイオンが得られる。このプレカーサーイオンは,下記の式(V)で示される。
【0035】
【0036】
上記の式(V)で示されるプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が236のプロダクトイオンが得られる。プレカーサーイオンを開裂させてプロダクトイオンを得る反応は概略式(VI)で示される。
【0037】
【0038】
上記の液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを用いた方法により,試料中に含まれるコンドロイチン硫酸の量を測定することができる。既知量のコンドロイチン硫酸をメタノール分解し,これをタンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,質量電荷比(m/z)が236のプロダクトイオンに対応するクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を算出する。そして,コンドロイチン硫酸の量と検出ピークの面積との相関を示す検量線を作成する。また,コンドロイチン硫酸の含量が未知の試料を,同様にして,メタノール分解し,タンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,プロダクトイオンに対応する検出ピークの面積を算出する。得られた値を検量線に内挿することにより,試料中に含まれるコンドロイチン硫酸を測定することができる。
【0039】
本発明において,分析対象となる試料に,特に限定はないが,例えば,体液,細胞,組織,器官,細胞の培養液,組織の培養液,食品,及び飼料,又はこれらに由来するものが挙げられる。
【0040】
試料が細胞である場合,その細胞の由来する生物種に特に限定はない。生物種は,原核生物であっても真核生物であってもよく,例えば,細菌,酵母,植物,鳥類,両生類,爬虫類,哺乳動物である。生物種が哺乳動物である場合,その動物種に特に限定はないが,例えば,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,ネコであり,特にヒトである。
【0041】
試料が体液,組織又は器官である場合,これらの由来する生物種に特に限定はない。生物種としては,例えば,植物,鳥類,両生類,爬虫類,哺乳動物が挙げられるが,特に哺乳動物である。生物種が哺乳動物である場合,その動物種に特に限定はないが,例えば,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,ネコであり,特にヒトである。
【0042】
試料が哺乳動物に由来するものである場合,試料は,例えば,哺乳動物から得られた体液,血液,血清,血漿,骨髄液,脳脊髄液,尿,又はこれらに由来するものである。ここで,体液とは,血液,骨髄液,脳脊髄液,唾液,涙,汗,精液,滑液,尿を含む,哺乳動物に由来する液性の成分全般のことをいう。血清又は血漿は,遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
【0043】
また,試料が哺乳動物に由来するものである場合,試料は,例えば,哺乳動物から得られた細胞,組織,器官,又はこれらに由来するものである。ここで,細胞の種類に特に限定はないが,細胞としては,例えば,間葉系幹細胞,神経細胞,神経芽細胞,筋芽細胞,グリア細胞,シュワン細胞,心筋細胞,骨格筋細胞,平滑筋細胞,軟骨細胞,骨芽細胞,線維芽細胞,ケラチノサイト,上皮細胞,内皮細胞,角膜上皮細胞,角膜内皮細胞,網膜細胞,肝細胞,メサンギウム細胞,間葉細胞,血球細胞,造血細胞,樹状細胞,間質細胞,が挙げられる。また,組織についても特に限定はなく,組織としては,例えば,上皮組織,結合組織,筋組織,神経組織,線維性結合組織,軟骨組織,骨組織,が挙げられる。また,器官についても特に限定はなく,器官としては,例えば,胃,小腸,大腸,肝臓,膵臓,腎臓,脾臓,心臓,肺,下垂体,精巣,卵巣,小脳,大脳,間脳,中脳,延髄,脳下垂体が挙げられる。
【0044】
コンドロイチン硫酸が体内に蓄積する疾患が知られている。かかる疾患として,例えば,マロトー・ラミー症候群,モルキオ症候群A型,モルキオ症候群B型,スライ症候群が挙げられる。このような疾患においては,体内に異常に蓄積したコンドロイチン硫酸を減少させることにより,症状を軽減させる治療法が試みられている。コンドロイチン硫酸を分解する酵素を体内に投与する酵素補充療法は,そのような治療法の一例である。
【0045】
コンドロイチン硫酸が体内に蓄積する疾患の患者は,血液中に含まれるコンドロイチン硫酸の濃度を測定し,得られた測定値に基づいてスクリーニングすることができる。測定値が正常ヒトより異常に高値である場合,被験者は当該疾患の患者であると判断できる。本発明の方法は,かかる判断を行う目的で実施することができる。
【0046】
コンドロイチン硫酸が体内に蓄積する疾患の患者を治療した際の,その治療の効果は,治療の前及び治療の後で患者の体内に蓄積したコンドロイチン硫酸を測定し,治療後のこれらの減少量を測定することにより,確認することができる。その減少量が大きい程,治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,患者の血液中に含まれるコンドロイチン硫酸の濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上,より好ましくは20%以上,更に好ましくは30%以上減少した場合に,更により好ましくは50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。
【0047】
また,コンドロイチン硫酸が体内に蓄積する疾患の患者の治療を目的とした薬剤のスクリーニングは,実験動物に被験薬を投与し,被験薬の投与前後で,実験動物の体内に蓄積したコンドロイチン硫酸を測定し,投与後のこれらの減少量を測定することにより行うことができる。これらの減少量が大きい程,被験薬の治療効果は高いと判断できる。例えば,患者の血液中に含まれるコンドロイチン硫酸の濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上,より好ましくは20%以上,更に好ましくは30%以上,更により好ましくは50%以上減少した場合に,被験薬の治療効果は高いと判断できる。
【0048】
マロトー・ラミー症候群は,N-アセチルガラクトサミン-4-硫酸スルファターゼ(ASB)活性を遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。ASBの欠損又は欠失により,患者の体内にはコンドロイチン硫酸が蓄積する。従って,マロトー・ラミー症候群の患者のスクリーニング,その治療法の効果の確認,その治療薬の薬効の評価,その被験薬のスクリーニング等に,本発明の方法は使用できる。マロトー・ラミー症候群の治療薬としては,ASB,ASBの類似物,ASBと抗体の結合体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。ASBと抗体の結合体としては,例えば,ASBと抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の融合蛋白質が挙げられる。
【0049】
また,モルキオ症候群A型はN-アセチルガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼ活性を,モルキオ症候群B型はβ-ガラクトシダーゼを遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。この酵素の欠損又は欠失により,患者の体内にはコンドロイチン硫酸が蓄積する。従って,モルキオ症候群A型及びB型の患者のスクリーニング,その治療法の効果の確認,その治療薬の薬効の評価,その被験薬のスクリーニング等に,本発明の方法は使用できる。モルキオ症候群A型の治療薬としては,N-アセチルガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼ,その類似物,この酵素と抗体の結合体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。この酵素と抗体の結合体としては,例えば,この酵素と抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の融合蛋白質が挙げられる。モルキオ症候群B型の治療薬としては,β-ガラクトシダーゼ,その類似物,この酵素と抗体の結合体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。この酵素と抗体の結合体としては,例えば,この酵素と抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の融合蛋白質が挙げられる。
【0050】
また,スライ症候群は,β-グルクロニダーゼを遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。β-グルクロニダーゼの欠損又は欠失により,患者の体内にはコンドロイチン硫酸が蓄積する。従って,スライ症候群の患者のスクリーニング,その治療法の効果の確認,その治療薬の薬効の評価,その被験薬のスクリーニング等に,本発明の方法は使用できる。スライ症候群の治療薬としては,β-グルクロニダーゼ,その類似物,β-グルクロニダーゼと抗体の結合体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。β-グルクロニダーゼと抗体の結合体としては,例えば,β-グルクロニダーゼと抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の融合蛋白質が挙げられる。
【0051】
本発明の方法は,食品,及び飼料中に含まれるコンドロイチン硫酸の量を測定する方法としても用いることができる。例えば,ヒト又はヒト以外の動物が摂取する食品又は飼料中に含まれるコンドロイチン硫酸の量を予め測定することにより,コンドロイチン硫酸の摂取量をコントロールすることもできる。上記疾患の患者が,コンドロイチン硫酸の摂取量を制限すべき状態であるとき,本発明の方法で予めコンドロイチン硫酸の量を測定した食品を摂取することにより,コンドロイチン硫酸の摂取量を適切にコントロールできる。
【0052】
本発明において「デルマタン硫酸」というときは,一般に,ウロン酸とアミノ糖がα1,3結合した二糖の繰返し構造を含むものをいう。ウロン酸としてはL-イズロン酸,L-イズロン酸-2-硫酸,アミノ糖としてはN-アセチル-D-ガラクトサミン-4-硫酸が挙げられるが,これらに限定されるものではない。デルマタン硫酸の繰返し構造の単位となる二糖は,例えば,下記の一般式(VII)で示される。
【0053】
【0054】
〔式(VII)中,R1はNH2 ,NHCOCH3 ,NHSO3H,又はその塩;R2はOH,OSO3H又はその塩,R3はCOOH又はその塩;R4はCH2OH,CH2OSO3H,又はその塩;R5はOH,OSO3H,又はその塩である。但し,R1,R2,R4及びR5の何れか1つは硫酸基を含む。〕
【0055】
下記の式(VIII)に示されるものは,デルマタン硫酸の繰返し構造の単位となる二糖の,より具体的な一例であり,ウロン酸がL-イズロン酸であり,アミノ糖がN-アセチル-D-ガラクトサミン-4-硫酸であるものである。
【0056】
【0057】
本発明において「ヘパラン硫酸」というときは,一般に,ウロン酸とアミノ糖がα1,4結合した二糖の繰返し構造を含むものをいう。ウロン酸としてはL-イズロン酸,L-イズロン酸-2-硫酸,アミノ糖としてはD-グルコサミン,N-スルホ-D-グルコサミン-6-硫酸が挙げられるが,これらに限定されるものではない。ヘパラン硫酸の繰返し構造の単位となる二糖は,例えば,下記の一般式(IX)で示される。
【0058】
【0059】
〔式(IX)中,R1はNH2 ,NHCOCH3 ,NHSO3H,又はその塩;R2はOH,OSO3H又はその塩;R3はCOOH又はその塩;R4はCH2OH,CH2OSO3H,又はその塩である。但し,R1,R2,及びR4の何れか1つは硫酸基を含む。〕
【0060】
下記の式(X)に示されるものは,ヘパラン硫酸の繰返し構造の単位となる二糖の,より具体的な一例であり,ウロン酸がL-イズロン酸-2-硫酸であり,アミノ糖がN-スルホ-D-グルコサミン-6-硫酸であるものである。
【0061】
【0062】
塩酸メタノール中でデルマタン硫酸を,カルボキシル基がメチル化されたウロン酸と,1位の水酸基がメチル化されたアミノ糖がα1,3結合した二糖にまで分解する反応を,メタノリシス(メタノール分解)という。ヘパラン硫酸をカルボキシル基がメチル化されたウロン酸と,1位の水酸基がメチル化されたアミノ糖がα1,4結合した二糖にまで分解する反応についても同様である。
【0063】
ウロン酸がL-イズロン酸であり,アミノ糖がN-アセチル-D-ガラクトサミン-4-硫酸であるデルマタン硫酸のメタノリシスの反応式を下記の式(XI)に例示する。
【0064】
【0065】
〔式(XI)中,nは1以上の整数を示す。〕
【0066】
上記デルマタン硫酸のメタノリシスにより生じる二糖は,下記の式(XII)で示される。
【0067】
【0068】
ウロン酸がL-イズロン酸-2-硫酸であり,アミノ糖がN-スルホ-D-グルコサミン-6-硫酸であるヘパラン硫酸のメタノリシスの反応式を下記の式(XIII)に例示する。
【0069】
【0070】
〔式(XIII)中,nは1以上の整数を示す。〕
【0071】
上記ヘパラン硫酸のメタノリシスにより生じる二糖は,下記の式(XIV)で示される。
【0072】
【0073】
デルマタン硫酸のメタノール分解反応(メタノリシス)は,デルマタン硫酸を含有する試料を,2, 2-ジメトキシプロパンを含有する塩酸メタノール中で加熱して行われる。ここで,塩酸メタノールとは塩化水素を含むメタノールのことをいう。塩酸メタノールに含まれる塩化水素の濃度は,好ましくは0.5~5mol/Lであり,より好ましくは1~4mol/Lであり,更に好ましくは2.5~3.5mol/Lであり,例えば3mol/Lである。またここで,塩酸メタノールに対する2, 2-ジメトキシプロパンの比率に,特に限定はないが,例えば0.5~1.5:10であり,特に1:10である。また,このときのメタノール分解反応時の加熱条件は,好ましくは,60℃~80℃の温度で20分~100分間であり,より好ましくは,60℃~70℃の温度で20分~90分間であり,更に好ましくは,63℃~67℃の温度で30分~80分間又は60~80分であり,例えば,65℃の温度で75分間である。
【0074】
ヘパラン硫酸のメタノール分解反応(メタノリシス)は,ヘパラン硫酸を含有する試料を,2, 2-ジメトキシプロパンを含有する塩酸メタノール中で加熱して行われる。ここで,塩酸メタノールに含まれる塩化水素の濃度は,好ましくは0.5~5mol/Lであり,より好ましくは1~4mol/Lであり,更に好ましくは2.5~3.5mol/Lであり,例えば3mol/Lである。またここで,塩酸メタノールに対する2, 2-ジメトキシプロパンの比率に,特に限定はないが,例えば0.5~1.5:10であり,特に1:10である。また,このときのメタノール分解反応時の加熱条件は,好ましくは,65℃~85℃の温度で80分~180分間であり,より好ましくは,75℃~85℃の温度で90分~180分間であり,更に好ましくは,78℃~82℃の温度で110分~130分間であり,例えば,80℃の温度で120分間である。
【0075】
本発明の方法により,試料中に含まれるデルマタン硫酸とヘパラン硫酸の量を測定することができる。このとき,測定対象の試料は分割され,その一つはデルマタン硫酸を測定するための試料として用いられ,他の一つはヘパラン硫酸を測定するための試料として用いられる。デルマタン硫酸を測定するために用いられる試料は,上記のデルマタン硫酸のメタノール分解反応の条件で加熱される。この反応により試料中に含まれるデルマタン硫酸が二糖にまで分解される。また,ヘパラン硫酸を測定するために用いられる試料は,上記のヘパラン硫酸のメタノール分解反応の条件で加熱される。この反応により試料中に含まれるヘパラン硫酸が二糖にまで分解される。メタノール分解反応の条件が同一の場合には,メタノール分解反応後に測定対象の試料を分割してもよい。またこのとき,デルマタン硫酸又はヘパラン硫酸のいずれか一方についてのみメタノール分解反応を行い,これらの何れか一方のみを測定することもできる。
【0076】
メタノール分解反応(メタノリシス)によりデルマタン硫酸及び/又はヘパラン硫酸を分解させて得られた二糖は,液体クロマトグラフィーに付される。そして,液体クロマトグラフィーからの溶出液は,順次,質量分析に供される。
【0077】
このとき用いられる液体クロマトグラフィーは,上記化学式(XII)及び(XIV)で示される二糖を,カラムに一旦吸着させた後に溶出させることにより,他の物質から分離できるものである限り特に限定はない。
【0078】
例えば,イオン性相互作用,疎水性相互作用,親水性相互作用等により二糖を吸着させることのできる担体を充填したカラムを用いる高速液体カラムクロマトグラフィーは,本発明の方法において,好適に用いることができる。
【0079】
上記化学反応式(XI)及び(XIII)で例示されるメタノール分解反応で生じる二糖は,極性が高い。従って,これらを一旦吸着させた後に溶出させることのできる担体としては,親水性相互作用により二糖を保持することができるものが特に好ましい。つまり,親水性相互作用により二糖を保持することのできる担体を用いた高速液体クロマトグラフィーが,メタノール分解反応で得られた二糖を分離する方法として好適である。このような高速液体クロマトグラフィーとして,下記の実施例4において使用されている,親水性相互作用液体クロマトグラフィーが挙げられる。
【0080】
液体クロマトグラフィーの流出口からの流路は,質量分析装置に連結されており,液体クロマトグラフィーからの溶出液は,順次,質量分析に送り込まれる。
【0081】
このとき用いることのできる質量分析装置に特に限定はない。例えば,質量分析装置は,分析対象の分子をイオン化するためのイオン源として,光イオン化法(APPI),電子イオン化法(EI),化学イオン法,電気脱離法,高速原子衝撃法(FAB),マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI),及びエレクトロスプレーイオン化法(ESI)を含む,何れのイオン化法を採用したものであってもよい。また,質量分析装置は,イオン化された分子を分離するための分析部が,磁場偏向型,四重極型,イオントラップ型,及びタンデム四重極型を含む,何れの型のものであってもよい。
【0082】
陽イオンモードで作動させるエレクトロスプレーイオン化法(ESI)で運用されるイオン源と,タンデム四重極型の分析部とを有する質量分析装置は,本発明の方法において好適に用いることができる。タンデム四重極型質量分析装置は,マスフィルターとして機能する四重極(Q1),衝突(コリジョン)セルとして機能する四重極(Q2),及びマスフィルターとして機能する四重極(Q3)を直列に配置した質量分析装置である。四重極(Q1)において,イオン化により生じた複数のイオンから,イオンの質量電荷比(m/z)に基づいて,目的のプレカーサーイオンが分離される。次いで,コリジョンセル(Q2)でプレカーサーイオンを不活性ガス等(例えばアルゴン)と衝突させてプロダクトイオン(フラグメントイオン)を生成させる。次いで,四重極(Q3)において,得られたプロダクトイオンを質量電荷比(m/z)に基づいて,選択的に検出する。
【0083】
以下にタンデム四重極型質量分析装置により,上記の式(XI)で示されるデルマタン硫酸のメタノール分解により得られる二糖から,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,当該二糖をイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が426のプレカーサーイオンが得られる。このプレカーサーイオンは,下記の(XV)で示される。
【0084】
【0085】
上記の式(XV)で示されるプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が236のプロダクトイオンが得られる。プレカーサーイオンを開裂させてプロダクトイオンを得る反応は概略式(XVI)で示される。
【0086】
【0087】
以下にタンデム四重極型質量分析装置により,上記の式(XIII)で示されるヘパラン硫酸のメタノール分解により得られる二糖から,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,当該二糖をイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が384のプレカーサーイオンが得られる。このプレカーサーイオンは,下記の式(XVII)で示される。
【0088】
【0089】
上記の式(XVII)で示されるプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が162のプロダクトイオンが得られる。プレカーサーイオンを開裂させてプロダクトイオンを得る反応は概略式(XVIII)で示される。
【0090】
【0091】
上記の液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを用いた方法により,試料中に含まれるデルマタン硫酸の量を測定することができる。既知量のデルマタン硫酸をメタノール分解し,これをタンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,質量電荷比(m/z)が236のプロダクトイオンに対応するクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を算出する。そして,デルマタン硫酸の量と検出ピークの面積との相関を示す検量線を作成する。また,デルマタン硫酸の含量が未知の試料を,同様にして,メタノール分解し,タンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,プロダクトイオンに対応する検出ピークの面積を算出する。得られた値を検量線に内挿することにより,試料中に含まれるデルマタン硫酸を測定することができる。
【0092】
同様にして試料中に含まれるヘパラン硫酸の量を測定することもできる。既知量のヘパラン硫酸をメタノール分解し,これをタンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,質量電荷比(m/z)が162のプロダクトイオンに対応する検出ピークの面積を算出する。そして,ヘパラン硫酸の量と検出ピークの面積との相関を示す検量線を作成する。また,ヘパラン硫酸の含量が未知の試料を,同様にして,メタノール分解し,タンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,プロダクトイオンに対応する検出ピークの面積を算出する。得られた値を検量線に内挿することにより,試料中に含まれるヘパラン硫酸を測定することができる。
【0093】
上記のコンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸の測定方法を組み合わせることにより,試料中に含まれるこれらの量を測定することもできる。この場合,測定対象の試料は分割され,その一つはコンドロイチン硫酸を測定するための試料として用い,他の一つはヘパラン硫酸を測定するための試料として用いる。コンドロイチン硫酸を測定するために用いられる試料は,上記のコンドロイチン硫酸のメタノール分解反応の条件で加熱される。また,ヘパラン硫酸を測定するために用いられる試料は,上記のヘパラン硫酸のメタノール分解反応の条件で加熱される。メタノール分解反応の条件が同一の場合は,メタノール分解反応後に測定対象の試料を分割してもよい。コンドロイチン硫酸とヘパラン硫酸のメタノール分解物を,それぞれ液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得て,この溶出液を,順次質量分析装置で分析することにより,試料中に含まれるコンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸の量を測定することができる。
【0094】
上記のコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の測定方法を組み合わせることにより,試料中に含まれるこれらの量を測定することもできる。この場合,測定対象の試料は分割され,その一つはコンドロイチン硫酸を測定するための試料として用い,その一つはデルマタン硫酸を測定するための試料として用い,他の一つはヘパラン硫酸を測定するための試料として用いる。コンドロイチン硫酸を測定するために用いられる試料は,上記のコンドロイチン硫酸のメタノール分解反応の条件で加熱される。デルマタン硫酸を測定するために用いられる試料は,上記のデルマタン硫酸のメタノール分解反応の条件で加熱される。また,ヘパラン硫酸を測定するために用いられる試料は,上記のヘパラン硫酸のメタノール分解反応の条件で加熱される。メタノール分解反応の条件が同一の場合は,メタノール分解反応後に測定対象の試料を分割してもよい。コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,及びヘパラン硫酸のメタノール分解物を,それぞれ液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得て,この溶出液を,順次質量分析装置で分析することにより,試料中に含まれるコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,及びヘパラン硫酸の量を測定することができる。
【0095】
本発明において,分析対象となる試料に,特に限定はないが,例えば,体液,細胞,組織,器官,細胞の培養液,組織の培養液,食品,及び飼料,又はこれらに由来するものが挙げられる。
【0096】
試料が細胞である場合,その細胞の由来する生物種に特に限定はない。生物種は,原核生物であっても真核生物であってもよく,例えば,細菌,酵母,植物,鳥類,両生類,爬虫類,哺乳動物である。生物種が哺乳動物である場合,その動物種に特に限定はないが,例えば,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,ネコであり,特にヒトである。
【0097】
試料が体液,組織又は器官である場合,これらの由来する生物種に特に限定はない。生物種としては,例えば,植物,鳥類,両生類,爬虫類,哺乳動物が挙げられるが,特に哺乳動物である。生物種が哺乳動物である場合,その動物種に特に限定はないが,例えば,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,ネコであり,特にヒトである。
【0098】
試料が哺乳動物に由来するものである場合,試料は,例えば,哺乳動物から得られた体液,血液,血清,血漿,骨髄液,脳脊髄液,尿,又はこれらに由来するものである。ここで,体液とは,血液,骨髄液,脳脊髄液,唾液,涙,汗,精液,滑液,尿を含む,哺乳動物に由来する液性の成分全般のことをいう。血清又は血漿は,遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
【0099】
また,試料が哺乳動物に由来するものである場合,試料は,例えば,哺乳動物から得られた細胞,組織,器官,又はこれらに由来するものである。ここで,細胞の種類に特に限定はないが,細胞としては,例えば,間葉系幹細胞,神経細胞,神経芽細胞,筋芽細胞,グリア細胞,シュワン細胞,心筋細胞,骨格筋細胞,平滑筋細胞,軟骨細胞,骨芽細胞,線維芽細胞,ケラチノサイト,上皮細胞,内皮細胞,角膜上皮細胞,角膜内皮細胞,網膜細胞,肝細胞,メサンギウム細胞,間葉細胞,血球細胞,造血細胞,樹状細胞,間質細胞,が挙げられる。また,組織についても特に限定はなく,組織としては,例えば,上皮組織,結合組織,筋組織,神経組織,線維性結合組織,軟骨組織,脳下垂体骨組織,が挙げられる。また,器官についても特に限定はなく,器官としては,例えば,胃,小腸,大腸,肝臓,膵臓,腎臓,脾臓,心臓,肺,下垂体,精巣,卵巣,小脳,大脳,間脳,中脳,延髄,が挙げられる。
【0100】
コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の何れか一つ又は複数のものが体内に蓄積する疾患が知られている。かかる疾患として,例えば,ハンター症候群,ハーラー症候群,シャイエ症候群,ハーラー・シャイエ症候群,サンフィリッポ症候群(A~D型),モルキオ症候群(A及びB型),マロトー・ラミー症候群,スライ症候群等が挙げられる。このような疾患においては,体内に異常に蓄積したこれら物質の何れか一つ又は複数のものを減少させることにより,症状を軽減させる治療法が試みられている。コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の何れか一つ又は複数のものを分解する酵素を体内に投与する酵素補充療法は,そのような治療法の一例である。
【0101】
コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の何れか一つ又は複数のものが体内に蓄積する疾患の患者は,体内に蓄積したこれらの物質の何れか一つ又は複数のものの量を測定し,得られた測定値に基づいてスクリーニングすることができる。測定値が正常ヒトより異常に高値である場合,被験者は当該疾患の患者であると判断できる。本発明の方法は,かかる判断を行う目的で実施することができる。
【0102】
コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の何れか一つ又は複数のものが体内に蓄積する疾患の患者を治療した際の,その治療の効果は,治療前及び治療の後で患者の体内に蓄積したこれら物質の量を測定し,治療後のこれらの減少量を測定することにより,確認することができる。これらの減少量が大きい程,治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,患者の体内に蓄積したコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の何れか一つ又は複数のものの量が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上,より好ましくは20%以上,更に好ましくは30%以上減少した場合に,更により好ましくは50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。
【0103】
また,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の何れか一つ又は複数のものが体内に蓄積する疾患の患者の治療を目的とした薬剤のスクリーニングは,実験動物に被験薬を投与し,被験薬の投与前後で,実験動物の体内に蓄積したこれら物質の量を測定し,投与後のこれらの減少量を測定することにより行うことができる。これらの減少量が大きい程,被験薬の治療効果は高いと判断できる。例えば,実験動物の体内に蓄積したこれら物質の量が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上,より好ましくは20%以上,更に好ましくは30%以上,更により好ましくは50%以上減少した場合に,被験薬の治療効果は高いと判断できる。
【0104】
ハンター症候群は,イズロン酸-2-スルファターゼ活性を遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。イズロン酸-2-スルファターゼの欠損又は欠失により,患者の体内にはデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸が蓄積する。従って,ハンター症候群の患者のスクリーニング,その治療法の効果の確認,その治療薬の薬効の評価,その被験薬のスクリーニング等に,本発明の方法は使用できる。ハンター症候群の治療薬としては,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS),hIDSの類似物,hIDSと抗体の結合体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。hIDSと抗体の結合体としては,例えば,hIDSと抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の融合蛋白質が挙げられる。
【0105】
また,ハーラー症候群,シャイエ症候群,ハーラー・シャイエ症候群は,L-イズロニダーゼ活性を遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。L-イズロニダーゼの欠損又は欠失により,患者の体内にはデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸が蓄積する。従って,これらの疾患に関し,患者のスクリーニング,治療法の効果の確認,及び治療薬の薬効の評価,被験薬のスクリーニング等に,本発明の方法は使用できる。これらの疾患の治療薬としては,L-イズロニダーゼ,L-イズロニダーゼの類似物,L-イズロニダーゼと抗体の結合体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。L-イズロニダーゼと抗体の結合体としては,例えば,L-イズロニダーゼと抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の融合蛋白質が挙げられる。
【0106】
また,マロトー・ラミー症候群は,N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(ASB)活性を遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。ASBの欠損又は欠失により,患者の体内には特にデルマタン硫酸及びコンドロイチン硫酸が蓄積する。従って,マロトー・ラミー症候群の患者のスクリーニング,その治療法の効果の確認,その治療薬の薬効の評価,その被験薬のスクリーニング等に,本発明の方法は使用できる。マロトー・ラミー症候群の治療薬としては,ASB,ASBの類似物,ASBと抗体の結合体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。ASBと抗体の結合体としては,例えば,ASBと抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の融合蛋白質が挙げられる。
【0107】
また,サンフィリッポ症候群は,A型,B型,C型,及びD型に分類され,それぞれ,ヘパラン硫酸N-スルファターゼ活性,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ活性,アセチルCoA:α-グルコサミニドN-アセチルトランフェラーゼ活性,及びN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ活性を遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。これらの酵素の欠損又は欠失により,患者の体内には特にヘパラン硫酸が蓄積する。従って,サンフィリッポ症候群の患者のスクリーニング,その治療法の効果の確認,その治療薬の薬効の評価,その被験薬のスクリーニング等に,本発明の方法は使用できる。サンフィリッポ症候群の治療薬としては,これらの酵素,これらの酵素の類似物,これらの酵素の何れかと抗体の結合体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。これらの酵素と抗体の結合体としては,例えば,これらの酵素と抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の融合蛋白質が挙げられる。
【0108】
また,スライ症候群は,β-グルクロニダーゼを遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。β-グルクロニダーゼの欠損又は欠失により,患者の体内にはコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸が蓄積する。従って,スライ症候群の患者のスクリーニング,その治療法の効果の確認,その治療薬の薬効の評価,その被験薬のスクリーニング等に,本発明の方法は使用できる。スライ症候群の治療薬としては,β-グルクロニダーゼ,その類似物,β-グルクロニダーゼと抗体の結合体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。β-グルクロニダーゼと抗体の結合体としては,例えば,β-グルクロニダーゼと抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の融合蛋白質が挙げられる。
【0109】
本発明の方法は,食品,及び飼料中に含まれるコンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸,若しくはこれらに加えてデルマタン硫酸の量を測定する方法としても用いることができる。例えば,ヒト又はヒト以外の動物が摂取する食品又は飼料中に含まれるコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸等の量を予め測定することにより,これらの摂取量をコントロールすることもできる。例えば,上記疾患の患者が,コンドロイチン硫酸とヘパラン硫酸等の摂取量を制限すべき状態であるとき,本発明の方法で予めコンドロイチン硫酸等の量を測定した食品を摂取することにより,コンドロイチン硫酸等の摂取量を適切にコントロールできる。
【実施例】
【0110】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0111】
〔実施例1:各種溶液の調製〕
以下の実施例1~6はコンドロイチン硫酸の分析法に関するものである。試験に用いる(a)~(k)の溶液を以下の手順で調製した。
(a)10%炭酸アンモニウム溶液:
10 gの炭酸アンモニウムを100 mLの注射用水で溶解し,10%炭酸アンモニウム溶液とした。
(b)重水素ラベル化溶媒:
氷浴下で,1.5 mLのメタノール-d4(Sigma-Aldrich社)に240 μLのアセチルクロリドを滴下し,これを重水素ラベル化溶媒とした。
(c)MeCN/water:
2 mLの注射用水と18 mLのアセトニトリルを混合し,これをMeCN/waterとした。
(d)移動相A:
475 mLの注射用水に,25 mLの1 Mギ酸アンモニウム水溶液を添加して混合したものを,移動相Aとした。
(e)移動相B:
930 mLのアセトニトリルに,70 mLの移動相Aを混合したものを,移動相Bとした。
(f)コンドロイチン硫酸標準原液(CS標準原液):
1.5 mLマイクロチューブにChondroitin sulfate A(Sigma-Aldrich社)を秤量し,注射用水を加えて溶解し,5.0 mg/mLの濃度の溶液を調製した。調製した溶液を0.5 mLスクリューキャップチューブに15 μLずつ分注し,使用時まで冷凍(-15℃以下)して保存した。この溶液をCS標準原液とした。
(g)検量線作成用溶液:
990 μLの注射用水を計り取り,これにCS標準原液を10 μL添加し,コンドロイチン硫酸を50 μg/mLの濃度で含有する溶液を調製した。この溶液を注射用水で希釈し,コンドロイチン硫酸を5000 ng/mLの濃度で含有する溶液を調製した。この溶液を注射用水で2段階希釈し,コンドロイチン硫酸を,25~5000 ng/mLの濃度で含有する溶液を調製した。この溶液を検量線作成用溶液とした。
(h)デルマタン硫酸標準原液(DS標準原液):
1.5 mLマイクロチューブにChondroitin sulfate B(Sigma-Aldrich社)を秤量し,注射用水を加えて溶解し,5.0 mg/mLの濃度の溶液を調製した。調製した溶液を0.5 mLスクリューキャップチューブに15 μLずつ分注し,使用時まで冷凍(-15℃以下)して保存した。この溶液をDS標準原液とした。
(i)デルマタン硫酸内部標準溶液(DS内部標準溶液):
ホウケイ酸ねじ口試験管に40 μLのDS標準原液を計り取り,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に400 μLの重水素ラベル化溶媒を添加し,撹拌した後,65℃で75分間反応させて,重水素化メタノール分解(deuteriomethanolysis)を行った。反応後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に500 μLのMeCN/waterを添加し,超音波処理を30分間行った。調製した溶液を0.5 mLスクリューキャップチューブに20 μLずつ分注し,冷凍(-15℃以下)して保存した。この溶液をデルマタン硫酸内部標準溶液(DS内部標準溶液)とした。
(j)内標準溶液:
4 mLのメタノールに,4 μLのDS内部標準溶液を添加して撹拌した。この溶液を内標準溶液とした。本溶液は用時調製とした。
(k)細胞抽出溶液
9 μLのポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルに2961 μLの生理食塩液及び30 μLのプロテアーゼ阻害剤を添加し,細胞抽出溶液とした。
【0112】
〔実施例2:細胞サンプル溶液の調製〕
培養細胞をPBSで洗浄した後,細胞抽出溶液を添加して細胞を1.5 mLチューブに回収した。氷上で90分間静置した後,遠心(12000 rpm,4℃,10分間)して上清を回収した。この細胞抽出液に注射用水を添加してタンパク質濃度を100 μg/mLに調整し,これを細胞サンプル溶液とした。
【0113】
〔実施例3:メタノリシス反応〕
上記実施例1で調製した検量線作成用溶液を,それぞれ20 μL計り取り,個別にホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。また,ブランクとして,注射用水をホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。試験管中の溶媒を窒素気流下で留去した(N=1)。乾固物に,20 μLの2, 2-ジメトキシプロパンと,200 μLの塩酸の濃度が3 Nである塩酸メタノールとを添加して撹拌した後,恒温水槽を用いて70℃,90分間でメタノリシス反応を行った。反応後,氷冷した後に200 μLの10%炭酸アンモニウム溶液を添加し,反応を停止させた。50 μLの内標準溶液を添加した後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に250 μLの注射用水を添加して溶解後,固相カートリッジ(OASIS HLB (1 cc, 30 mg))を用いて精製した。溶媒を窒素気流下で留去した。200 μLのMeCN/waterを添加して溶解し,上清をバイアルに採取した。
【0114】
また,実施例2で調製した細胞サンプル溶液を20 μL計り取り,ホウケイ酸ねじ口試験管に分取し,試験管中の溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に,20 μLの2, 2-ジメトキシプロパンと,200 μLの塩酸の濃度が3Nである塩酸メタノールとを添加して撹拌した後,恒温水槽を用いて70℃,90分間でメタノリシス反応を行った。反応後,氷冷した後に200 μLの10%炭酸アンモニウム溶液を添加し,反応を停止させた。50 μLの内標準溶液を添加した後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に250 μLの注射用水を添加して溶解後,固相カートリッジ(OASIS HLB (1 cc, 30 mg))を用いて精製した。溶媒を窒素気流下で留去した。200 μLのMeCN/waterを添加して溶解し,上清をバイアルに採取した。
【0115】
〔実施例4:LC/MS/MS分析〕
LC/MS/MS分析は,親水性相互作用超高性能液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを組み合わせたものを用いて実施した。質量分析装置(MS/MS装置)として,QTRAP5500(エー・ビー・サイエックス社)を用い,これにHPLC装置として,Nexera X2(島津製作所)をセットした。また,LCカラムとして,Acquity UPLCTM BEH Amide 1.7 μm (2.1 X 150 mm,Waters社)を用いた。移動相として,実施例1で調製した移動相A及び移動相Bを用いた。また,カラム温度は60℃に設定した。
【0116】
6% (v/v)の移動相Aと94% (v/v)の移動相Bからなる混合液でカラムを平衡化した後,5 μLの試料を注入し,表1に示す移動相のグラジエント条件で,クロマトグラフィーを実施した。なお,移動相の流量は0.4 mL/分とした。
【0117】
【0118】
MS/MS装置のイオン源パラメーターを,QTRAP5500(エー・ビー・サイエックス社)の使用説明書に従って,表2に示すように設定した。
【0119】
【0120】
検量線作成用溶液の測定により,各検量線作成用溶液に含まれていたコンドロイチン硫酸に由来するプロダクトイオンのクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を求めた。また,DS内部標準溶液に由来するプロダクトイオンの検出ピークの面積を求めた。検量線作成用溶液はN=1で測定を行った。
【0121】
ここで検出されるプロダクトイオンは,上記反応式(VI)で得られるイオンである。なお,DS内部標準溶液に含まれるデルマタン硫酸は重水素ラベルされている。従って,これらに由来するプレカーサーイオンの質量電荷比(m/z)は,432と,非ラベルのものと比較して大きな値をとる。非ラベルのコンドロイチン硫酸に由来するプレカーサーイオンの質量電荷比(m/z)は,426である。従って,これらプレカーサーイオンは,四重極(Q1)において,イオンの質量電荷比(m/z)に基づいて,分離されるので,個別に検出可能となる。表3にプレカーサーイオンとプロダクトイオンの(m/z)をまとめて示す。
【0122】
コンドロイチン硫酸を250 ng/mLの濃度で含有する検量線作成用溶液をメタノリシス処理したものをLC/MS/MS分析して得られたイオンクロマトグラムを
図1に示す。
図1は,液体クロマトグラフィーからの溶出液に含まれるイオン量を,コンドロイチン硫酸のプレカーサーイオンに対応するm/z=426で順次検出したものである。図中,黒塗りしたピークがコンドロイチン硫酸のプレカーサーイオンに対応する。
【0123】
【0124】
各検量線作成用溶液に含まれていたコンドロイチン硫酸に由来する検出ピークの面積(CS検出ピーク面積)に対する,DS内部標準溶液に由来する検出ピーク(DS-IS検出ピーク面積)の面積比(CS検出ピーク面積/DS-IS検出ピーク面積)を求めた。この値を縦軸にとり,各検量線作成用溶液のコンドロイチン硫酸の濃度を横軸にとり,二次計画法を用いて回帰式を算出し検量線を作成した。
【0125】
〔実施例5:検量線の検討〕
検量線作成用溶液の測定値から得られた検量線は, 25.0~5000 ng/mLの濃度範囲において良好な直線性を示した(
図2)。相関係数(r)は0.9998であった。
【0126】
〔実施例6:培養細胞抽出液中に含まれるコンドロイチン硫酸の測定結果〕
実施例2で調製した培養細胞の抽出液である細胞サンプル溶液を,実施例3に記載の方法でメタノリシス反応させた後,実施例4に記載の方法で分析し,コンドロイチン硫酸に由来する検出ピークの面積(細胞サンプル溶液検出ピーク面積)を求めることができる。更に,この面積とDS-IS検出ピーク面積の比(細胞サンプル溶液検出ピーク面積/DS-IS検出ピーク面積)を求め,これを実施例4で得られた検量線に内挿することにより,細胞サンプル溶液中に含まれるコンドロイチン硫酸を定量することができる。
【0127】
以上の結果から,培養細胞の抽出液中に含まれるコンドロイチン硫酸のメタノリシスの条件としては加熱温度:70℃,加熱時間:90分間が好適であるといえる。
【0128】
〔実施例7:各種溶液の調製〕
以下の実施例7~14はヘパラン硫酸又は/及びデルマタン硫酸の分析法に関するものである。試験に用いる(l)~(w)の溶液を以下の手順で調製した。
(l)MeCN/water:
0.5 mLの注射用水と4.5 mLのアセトニトリルを混合し,これをMeCN/waterとした。本溶液は用時調製とした。
(m)重水素ラベル化溶媒:
氷浴下で,1.5 mLのメタノール-d4(Sigma-Aldrich社)に240 μLのアセチルクロリドを滴下し,これを重水素ラベル化溶媒とした。本溶液は用時調製とした。
(n)PBS/クエン酸溶液:
クエン酸を純水に溶解して10 mMの濃度のクエン酸溶液を作製した。更に,クエン酸三ナトリウム二水和物を純水に溶解して10 mMの濃度のクエン酸ナトリウム溶液を作製した。クエン酸溶液にクエン酸ナトリウム溶液を滴下してpH 3.0に調整した。この溶液を10 mM クエン酸緩衝液(pH 3.0)とした。また,18 mLの10 mM クエン酸緩衝液(pH 3.0)に2 mLのPBSを加えた溶液をPBS/クエン酸溶液とした。
(o)移動相A:
247.5 mLの純水に,2.5 mLの1 Mギ酸アンモニウム水溶液と400 μLの水酸化アンモニウム水溶液 (25% NH4OH)を添加して混合したものを,移動相Aとした。本溶液は用時調製とした。
(p)移動相B:
45 mLの純水に,5 mLの1 Mギ酸アンモニウム水溶液と,450 mLのアセトニトリルと,800 μLの水酸化アンモニウム水溶液 (25% NH4OH)とを混合したものを,移動相Bとした。本溶液は用時調製とした。
(q)ヘパラン硫酸標準原液(HS標準原液):
1.5 mLマイクロチューブにHeparan sulfate(Iduron社)を秤量し,注射用水を加えて溶解し,5.0 mg/mLの濃度の溶液を調製した。調製した溶液を0.5 mLスクリューキャップチューブに15 μLずつ分注し,使用時まで冷凍(-15℃以下)して保存した。この溶液をHS標準原液とした。
(r)デルマタン硫酸標準原液(DS標準原液):
1.5 mLマイクロチューブにChondroitin sulfate B sodium salt from porcine intestinal mucosa(Sigma-Aldrich社)を秤量し,注射用水を加えて溶解し,5.0 mg/mLの濃度の溶液を調製した。調製した溶液を0.5 mLスクリューキャップチューブに15 μLずつ分注し,使用時まで冷凍(-15℃以下)して保存した。この溶液をDS標準原液とした。
(s)デルマタン硫酸内部標準溶液(DS内部標準溶液):
ホウケイ酸ねじ口試験管に40 μLのDS標準原液を計り取り,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に400 μLの重水素ラベル化溶媒を添加し,撹拌した後,65℃で75分間反応させて,重水素化メタノール分解(deuteriomethanolysis)を行った。反応後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に500 μLのMeCN/waterを添加し,超音波処理を30分間行った。調製した溶液を0.5 mLスクリューキャップチューブに20 μLずつ分注し,冷凍(-15℃以下)して保存した。この溶液をデルマタン硫酸内部標準溶液(DS内部標準溶液)とした。
(t)ヘパラン硫酸内部標準溶液(HS内部標準溶液):
ホウケイ酸ねじ口試験管に40 μLのHS標準原液を計り取り,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に400 μLの重水素ラベル化溶媒を添加し,撹拌した後,65℃で75分間反応させて,重水素化メタノール分解(deuteriomethanolysis)を行った。反応後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に500 μLのMeCN/waterを添加し,超音波処理を30分間行った。調製した溶液を0.5 mLスクリューキャップチューブに20 μLずつ分注し,冷凍(-15℃以下)して保存した。この溶液をヘパラン硫酸内部標準溶液(HS内部標準溶液)とした。
(u)サンプル溶解用溶液:
5 mLのMeCN/waterに,1 μLのHS内部標準溶液及び1 μLのDS内部標準溶液を添加して撹拌した後,超音波処理を30分間行った。この溶液をサンプル溶解用溶液とした。本溶液は用時調製とした。
(v)検量線作成用溶液:
480 μLのPBS/クエン酸溶液を計り取り,これにHS標準原液とDS標準原液をそれぞれ10 μLずつ添加し,デルマタン硫酸とヘパラン硫酸を,それぞれ100 μg/mLずつ含有する溶液を調製した。この溶液をPBS/クエン酸溶液で希釈し,デルマタン硫酸とヘパラン硫酸を,それぞれ2500 ng/mLずつ含有する溶液を調製した。この溶液をPBS/クエン酸溶液で2段階希釈し,デルマタン硫酸とヘパラン硫酸を,それぞれ25~2500 ng/mLの濃度で含有する溶液を調製した。この溶液を検量線作成用溶液とした。
(w)組織抽出溶液
1 mLのポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルに生理食塩液を添加し,全量を500 mLとした。この溶液を組織抽出溶液とした。
【0129】
〔実施例8:血液サンプルの調製〕
野生型マウス(C57BL/6N)及びIDS遺伝子を含む染色体領域を欠損するヘミ接合体マウス(IDSヘミ接合体マウス,C57BL/6N)から血液を採取した。採取した血液をチューブに移して室温で30分間以上静置した後,遠心(2000 g,20分間)して血清を回収した。8 μLの血清に8 μLのPBSと144 μLの10mM クエン酸緩衝液(pH 3.0)を加えて撹拌した。これを20 μL計り取り,ホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。これを血液サンプル溶液とした。
【0130】
〔実施例9:メタノリシス反応〕
上記実施例7で調製した検量線作成用溶液を,それぞれ20 μL計り取り,個別にホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。また,ブランクとして,PBS/クエン酸溶液をホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。試験管中の溶媒を窒素気流下で留去した(N=1)。乾固物に,20 μL の2, 2-ジメトキシプロパンと,200 μLの塩酸の濃度が3Nである塩酸メタノールとを添加して撹拌した後,表4に示す3種類の条件(条件A~C)でメタノリシス反応を行った。反応後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に50 μLのサンプル溶解用溶液を添加して溶解後,遠心(15000 rpm,10分間,室温)し,上清をバイアルに採取した。
【0131】
また,デルマタン硫酸標準原液とヘパラン硫酸標準原液とをPBS/クエン酸溶液で希釈し,デルマタン硫酸標準原液及びヘパラン硫酸標準原液とをいずれも25.0 ng/mL,50.0 ng/mL,500 ng/mL,及び2000 ng/mLの濃度で含有する4種類の品質管理試料(QC試料)を調製し,それぞれ,QC-LL,QC-L,QC-M,及びQC-Hとした。これらをそれぞれ20 μL計り取り,個別にホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。試験管中の溶媒を窒素気流下で留去した(N=1)。乾固物に,20 μL の2, 2-ジメトキシプロパンと,200 μLの塩酸の濃度が3Nである塩酸メタノールとを添加して撹拌した後,表4に示す3種類の条件(条件A~C)でメタノリシス反応を行った。反応後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に50 μLのサンプル溶解用溶液を添加して溶解後,遠心(15000 rpm,10分間,室温)し,上清をバイアルに採取した。
【0132】
また,実施例8で調製した血液サンプル溶液を20 μL計り取り,ホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。試験管中の溶媒を窒素気流下で留去した(N=1)。乾固物に,20 μL の2, 2-ジメトキシプロパンと,200 μLの塩酸の濃度が3Nである塩酸メタノールとを添加して撹拌した後,表4に示す3種類の条件(条件A~C)でメタノリシス反応を行った。反応後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に50 μLのサンプル溶解用溶液を添加して溶解後,遠心(15000 rpm,10分間,室温)し,上清をバイアルに採取した。
【0133】
【0134】
〔実施例10:LC/MS/MS分析〕
LC/MS/MS分析は,親水性相互作用超高性能液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを組み合わせたものを用いて実施した。質量分析装置(MS/MS装置)として,QTRAP5500(エー・ビー・サイエックス社)を用い,これにHPLC装置として,Nexera X2(島津製作所)をセットした。また,LCカラムとして,Acquity UPLCTM BEH Amid 1.7 μm (2.1 X 50 mm,Waters社)を用いた。移動相として,実施例7で調製した移動相A及び移動相Bを用いた。また,カラム温度は50℃に設定した。
【0135】
6% (v/v)の移動相Aと94% (v/v)の移動相Bからなる混合液でカラムを平衡化した後,10μLの試料を注入し,表5に示す移動相のグラジエント条件で,クロマトグラフィーを実施した。なお,移動相の流量は0.4 mL/分とした。
【0136】
【0137】
MS/MS装置のイオン源パラメーターを,QTRAP5500(エー・ビー・サイエックス社)の使用説明書に従って,表6に示すように設定した。
【0138】
【0139】
検量線作成用溶液及びQC試料の測定により,各検量線作成用溶液に含まれていたデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸に由来するプロダクトイオンのクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を求めた。また,DS内部標準溶液,及びHS内部標準溶液に由来するプロダクトイオンの検出ピークの面積を求めた。検量線作成用溶液はN=1,QC試料(QC-LL,QC-L,QC-M,及びQC-H)はN=3で測定を行った。
【0140】
ここで検出されるプロダクトイオンは,デルマタン硫酸については上記反応式(XVI)で得られるイオン,ヘパラン硫酸については上記反応式(XVIII)で得られるイオンである。なお,DS内部標準溶液及びHS内部標準溶液に含まれるデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸は重水素ラベルされている。従って,これらに由来するプレカーサーイオンの質量電荷比(m/z)は,それぞれ432及び390と,非ラベルのものと比較して大きな値をとる。非ラベルのデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸に由来するプレカーサーイオンの質量電荷比(m/z)は,それぞれ426及び384である。従って,これらプレカーサーイオンは,四重極(Q1)において,イオンの質量電荷比(m/z)に基づいて,分離されるので,個別に検出可能となる。表7にプレカーサーイオンとプロダクトイオンの(m/z)をまとめて示す。
【0141】
デルマタン硫酸とヘパラン硫酸とを各25 ng/mLずつ含有する検量線作成用溶液を,表4に示す条件Aでメタノリシス処理したものをLC/MS/MS分析して得られたイオンクロマトグラムを
図3に示す。
図3は,液体クロマトグラフィーからの溶出液に含まれるイオン量を,デルマタン硫酸のプレカーサーイオンに対応するm/z=426で順次検出したものである。図中,黒塗りしたピークがデルマタン硫酸のプレカーサーイオンに対応する。
【0142】
また,デルマタン硫酸とヘパラン硫酸とを各25 ng/mLずつ含有する検量線作成用溶液を,表4に示す条件Bでメタノリシス処理したものをLC/MS/MS分析して得られたイオンクロマトグラムを
図4に示す。
図4は,液体クロマトグラフィーからの溶出液に含まれるイオン量を,ヘパラン硫酸のプレカーサーイオンに対応するm/z=384で順次検出したものである。図中,黒塗りしたピークがヘパラン硫酸のプレカーサーイオンに対応する。
【0143】
【0144】
各検量線作成用溶液に含まれていたデルマタン硫酸に由来する検出ピークの面積(DS検出ピーク面積)に対する,DS内部標準溶液に由来する検出ピーク(DS-IS検出ピーク面積)の面積比(DS検出ピーク面積/DS-IS検出ピーク面積)を求めた。この値を縦軸にとり,各検量線作成用溶液のデルマタン硫酸の濃度を横軸にとり,二次計画法を用いて回帰式を算出し検量線を作成した。
【0145】
また,各検量線作成用溶液に含まれていたヘパラン硫酸に由来する検出ピークの面積(HS検出ピーク面積)に対する,HS内部標準溶液に由来する検出ピーク(HS-IS検出ピーク面積)の面積比(HS検出ピーク面積/HS-IS検出ピーク面積)を求めた。この値を縦軸にとり,各検量線作成用溶液のヘパラン硫酸の濃度を横軸にとり,二次計画法を用いて回帰式を算出し検量線を作成した。
【0146】
また,QC試料の測定値に基づき下記の計算式により精度(%)と真度(%)を求めた。
精度(%)=測定値の標準偏差/測定値の平均値×100
真度(%)=測定値の平均値/理論濃度×100
なお,真度(%)の計算式中の理論濃度とは,QC試料に添加されたデルマタン硫酸又はヘパラン硫酸の濃度のことをいう。
【0147】
〔実施例11:条件Aで得られた検量線の検討〕
上記表4に示す条件Aでメタノリシスを行った検量線作成用溶液の測定値から得られた検量線(条件Aの検量線)は,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸のいずれについても,25.0~2500 ng/mLの濃度範囲において良好な直線性を示した(データは示さない)。相関係数(r)は,デルマタン硫酸については0.9995,ヘパラン硫酸については0.9938であった。
【0148】
次いで,精度及び真度についてみる。表8及び表9に各QC試料における精度及び真度を示す。これらの値は,条件Aが,25.0~2500 ng/mLの濃度範囲のデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の濃度を測定するためのメタノリシスの条件として,好適であることを示す。但し,25.0 ng/mLの濃度でのヘパラン硫酸の測定値は,真度及び精度ともに大きく低下した(表8)。一方,デルマタン硫酸では,25.0 ng/mLの濃度の測定値の真度及び精度は大きくは低下しなかった(表9)。
【0149】
【0150】
【0151】
〔実施例12:条件A,B及びCで得られた検量線の比較〕
条件A,B及びCでメタノリシスを行った検量線作成用溶液の測定値から得られた検量線はいずれも,デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸のいずれについても,25~2500 ng/mLの濃度範囲において良好な直線性を示した(データは示さない)。それぞれの条件における検量線の相関係数(r)を表10に示す。
【0152】
【0153】
しかし,実施例11で,条件Aでは,25.0 ng/mLの濃度でのヘパラン硫酸の測定値の真度及び精度が,ともに低下した。従って,25.0 ng/mLの濃度のヘパラン硫酸をより正確に測定するための条件を検討することとした。そこで,条件A,B及びCにおける,QC試料(QC-LL)のヘパラン硫酸の測定値の真度及び精度を比較した。なお,QC試料(QC-LL)は,デルマタン硫酸とヘパラン硫酸とをそれぞれ25.0 ng/mLの濃度で含むものである。その結果を表11に示す。ヘパラン硫酸では,条件Bで測定した場合に,真度及び精度がともに高い測定値が得られた。ヘパラン硫酸では,条件Cで測定した場合でも,真度及び精度がともに高い測定値が得られたが,条件Cは熱処理に長時間を要するという欠点がある。従って,ヘパラン硫酸の測定のためのメタノール分解は条件Bが好ましいと結論付けられた。なお,実施例11で示されたのと同様に,ヘパラン硫酸の測定値は,条件Aで真度及び精度がともに低下した。
【0154】
デルマタン硫酸についても,条件A,B及びCにおける測定値の真度及び精度を比較した。その結果を表11に示す。デルマタン硫酸では,条件Aと比較して,条件B及びCで真度及び精度がともに低下した。
【0155】
これらの結果は,デルマタン硫酸の測定のためのメタノール分解は条件Aが好ましく,ヘパラン硫酸の測定のためのメタノール分解は条件Bが好ましいことを示すものである。
【0156】
【0157】
〔実施例13:条件A,B及びCでの血清中に含まれるデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の測定結果の比較〕
生体由来の試料中に含まれるデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の測定方法として,条件A,B及びCの何れのメタノリシス反応が好適であるかを,実施例9に記載した野生型マウス及びIDSヘミ接合体マウスの血液から調製した血液サンプル溶液のメタノリシス反応物を用いて調べた。各メタノリシス反応物を実施例10に記載の方法で分析し,デルマタン硫酸に由来する検出ピークの面積(血液サンプル溶液DS検出ピーク面積)を求めた。更に,この面積とDS-IS検出ピーク面積の比(血液サンプル溶液DS検出ピーク面積/DS-IS検出ピーク面積)を求め,これを実施例10で得られた対応するメタノリシス反応条件の検量線に内挿することにより,血液サンプル溶液中に含まれるデルマタン硫酸を定量した。また,各メタノリシス反応物を実施例10に記載の方法で分析し,ヘパラン硫酸に由来する検出ピークの面積(血液サンプル溶液HS検出ピーク面積)を求め,更に,この面積とHS-IS検出ピーク面積の比(血液サンプル溶液HS検出ピーク面積/HS-IS検出ピーク面積)を求めた。これを実施例10で得られた対応するメタノリシス反応条件の検量線に内挿することにより,血液サンプル溶液中に含まれるヘパラン硫酸を定量した。IDSは,デルマタン硫酸,ヘパラン硫酸を含むGAGを分解する活性を有する酵素である。従って,IDSヘミ接合体マウスの血中のGAGの濃度は,野生型マウスと比較して高いことが知られている。
【0158】
野生型マウス及び,IDSヘミ接合体マウスから採取した血清中の,条件A,B及びCでのデルマタン硫酸の測定結果を
図5に,ヘパラン硫酸の測定結果を
図6に示す。
【0159】
デルマタン硫酸の測定値は,条件Aでは,野生型マウスと比較してIDSヘミ接合体マウスで高値を示した(
図5)。この結果は,IDSヘミ接合体マウスの遺伝子型を反映している。一方,条件B及びCのデルマタン硫酸の測定値は,野生型マウスとIDSヘミ接合体マウスでほぼ同等であり,且つ,条件Aの測定結果と比較して極めて高い値を示した(
図5)。これらの結果は,条件B及びCでは,血清中に含まれるデルマタン硫酸以外の成分に由来するプロダクトイオンが生じたためと考えられる。すなわち,条件B及びCでは,血清中のデルマタン硫酸は測定が困難である。
【0160】
一方,ヘパラン硫酸の測定値は,条件A~Cの何れにおいても,野生型マウスと比較してIDSヘミ接合体マウスで高値を示しており,IDSヘミ接合体マウスの遺伝子型を反映した測定結果となった(
図6)。しかし,表11で示される結果から,ヘパラン硫酸の測定値は,条件Aで測定した値よりも,条件Bで測定した値の精度が高いといえる。従って,
図6で示される条件A~Cの測定結果においても,条件Aでの測定値よりも条件Bでの測定値のほうが真度及び精度がともに高いといえる。
【0161】
以上の結果から,血清中に含まれるデルマタン硫酸のメタノリシスの条件としては条件A(加熱温度:65℃,加熱時間:75分間)が好ましく,ヘパラン硫酸のメタノリシスの条件としては条件B(加熱温度:80℃,加熱時間:2時間)が好適であると結論できる。
【0162】
〔実施例14:IDSを投与したマウス血液中に含まれるデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の測定〕
医療用に市販されている遺伝子組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(rhIDS)を生理食塩液で希釈し,0.1 mg/mLのrhIDS溶液を調製した。このrhIDS溶液を,IDS遺伝子を含む染色体領域を欠損するヘミ接合体マウス(IDSヘミ接合体マウス,C57BL/6N)に,0.5 mg/kg体重の用量で,7日毎に計4回,静脈内投与した。最後に投与した日から7日後に,マウスを放血により安楽死させた。このとき血液をチューブに採取して,室温で30分間以上静置した後,遠心(2000 g, 20分間)して血清を回収した。同様にして,rhIDS非投与のIDSヘミ接合体マウス(rhIDS非投与IDSヘミ接合体マウス)及び野生型マウスからも,血清を回収した。
【0163】
各マウスから回収した血清について,2本のホウケイ酸ねじ口試験管に,それぞれ2 μLの血清,8 μLのPBS,及び18 μLの10 mM クエン酸緩衝液(pH 3.0)とを加えて撹拌した。これを血液サンプル溶液とした。血液サンプル溶液について,実施例9に記載の条件B(加熱温度80℃,加熱時間2時間)及び条件A(加熱温度65℃,加熱時間75分)でメタノリシス反応を行った。次いで,メタノリシス反応後の血液サンプル溶液について,実施例10に記載のLC/MS/MS分析を行い,血液サンプル溶液中に含まれるデルマタン硫酸とヘパラン硫酸とを定量した。ここで,デルマタン硫酸の定量は条件Aでメタノリシス反応させたサンプル,ヘパラン硫酸の定量は条件Bでメタノリシス反応させたサンプルを用いて行った。測定は,野生型,IDS投与ヘミ接合体マウス,IDS非投与ヘミ接合体マウスともに3~4匹のマウスを用いて実施した。
【0164】
血液サンプル溶液中のヘパラン硫酸とデルマタン硫酸の定量結果を,それぞれ
図7(A)及び
図7(B)に示す。ヘパラン硫酸とデルマタン硫酸の定量値は,いずれも野生型マウスと比較してrhIDS非投与IDSヘミ接合体マウスで高値を示した。また,rhIDS非投与IDSヘミ接合体マウスと比較して,rhIDS投与IDSヘミ接合体マウスでは,ヘパラン硫酸とデルマタン硫酸の定量値がいずれも低下した。これらの結果は,血液サンプル溶液を,ヘパラン硫酸を定量するためのメタノリシスの条件として条件B(加熱温度:80℃,加熱時間:2時間),及びデルマタン硫酸を定量するためのメタノリシスの条件として条件A(加熱温度:65℃,加熱時間:75分間),で処理することにより,血液中に含まれるヘパラン硫酸とデルマタン硫酸とを定量することができることを示す。更には,得られた定量値より,IDS又はIDS活性を有する物質を用いた酵素補充療法の効果を,定量的に検証することができることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明によれば,試料中に含まれる微量のコンドロイチン硫酸の濃度を正確に測定できるので,例えば,体内にコンドロイチン硫酸が蓄積するスライ症候群,モルキオ症候群を含むライソソーム病患者のスクリーニングに用いることができる。