(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20231006BHJP
【FI】
H02M3/28 E
(21)【出願番号】P 2021508221
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005358
(87)【国際公開番号】W WO2020195274
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2019056858
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】澤田 直暉
(72)【発明者】
【氏名】西本 太樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 憲明
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-247935(JP,A)
【文献】特開2018-102119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子を含むスイッチング回路と、トランスと、導体部とを備えたスイッチング電源装置において、
前記スイッチング回路は、入力された直流電圧を所定の周波数を有する交流電圧に変換して出力する第1及び第2の出力端子を有し、
前記トランスは、前記スイッチング回路によって発生された交流電圧が印加される第1及び第2の巻線端子を有する一次巻線を有し、
前記スイッチング電源装置は、前記トランスの第1の巻線端子と前記導体部との間に第1の接地容量を有し、前記トランスの第2の巻線端子と前記導体部との間に第2の接地容量を有し、
前記スイッチング電源装置は、前記スイッチング回路の第1の出力端子及び前記トランスの第1の巻線端子の間に接続された第1のキャパシタと、前記スイッチング回路の第2の出力端子及び前記トランスの第2の巻線端子の間に接続された第2のキャパシタとをさらに備え、
前記第1及び第2のキャパシタの静電容量は、
C31>C32の場合、C21>C22を満たすように設定され、
C31=C32の場合、C21=C22を満たすように設定され、
C31<C32の場合、C21<C22を満たすように設定され、
ここで、C31は前記第1の接地容量を示し、C32は前記第2の接地容量を示し、C21は前記第1のキャパシタの静電容量を示し、C22は前記第2のキャパシタの静電容量を示す、
スイッチング電源装置。
【請求項2】
前記第1及び第2のキャパシタの静電容量は、
C31>C32の場合、1<C21/C22≦C31/C32を満たすように設定され、
C31<C32の場合、1>C21/C22≧C31/C32を満たすように設定される、
請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記スイッチング電源装置は、前記トランスの第1の巻線端子及び前記導体部の間に接続された第3のキャパシタと、前記トランスの第2の巻線端子及び前記導体部の間に接続された第4のキャパシタとをさらに備え、
前記第1及び第2のキャパシタの静電容量は、
C71>C72の場合、C21>C22を満たすように設定され、
C71=C72の場合、C21=C22を満たすように設定され、
C71<C72の場合、C21<C22を満たすように設定され、
ここで、C71は前記第3のキャパシタの静電容量を示し、C72は前記第4のキャパシタの静電容量を示す、
請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記第1及び第2のキャパシタの静電容量は、
C71>C72の場合、1<C21/C22≦C71/C72を満たすように設定され、
C71<C72の場合、1>C21/C22≧C71/C72を満たすように設定される、
請求項3記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記導体部は、接地導体、金属筐体、シールド、及びヒートシンクのうちの少なくとも1つを含む、
請求項1~4のうちの1つに記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
ノーマルモードノイズを除去するノイズフィルタをさらに備えた、
請求項1~5のうちの1つに記載のスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スイッチング電源装置の一種として、与えられた直流電圧を所望の直流電圧に電力変換するDC-DCコンバータが使用される。特に、安全性が求められる産業用、車載用、又は医療用などの機器では、漏電及び感電を防止するために、DC-DCコンバータの入力側と出力側とをトランスで絶縁する絶縁型DC-DCコンバータが使用される。
【0003】
特許文献1は、直流電圧をスイッチングして所定の周波数を有する交流電圧に変換するフルブリッジ型のスイッチング回路と、スイッチングされた交流電圧を所定の電圧値に変換するトランスとを備えるスイッチング電源回路を開示している。スイッチング回路とトランスとの間には、コンデンサ及びコイルからなり、トランスの一次巻線の両端に対してそれぞれ直列に接続された複数の共振回路が設けられる。特許文献1のスイッチング電源回路は、LLC共振方式の絶縁型DC-DCコンバータを構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、複数の共振回路をトランスの一次巻線の両端にそれぞれ直列に接続してトランスの一次巻線における電圧波形を対称とし、これにより、トランスの一次巻線に入力されるコモンモード電圧を互いに打ち消し合うことを開示している。言い換えると、特許文献1では、トランスの一次巻線の一端に接続された回路素子の特性と、他端に接続された回路素子の特性とを対称にすることにより、コモンモードノイズの抑制を試みている。しかしながら、回路素子の特性が対称になるように構成しても、回路素子と他の導体部(接地導体及び/又は筐体など)との間の寄生容量(本明細書では「接地容量」ともいう)などに起因して回路の非対称性が生じることがある。このような回路の非対称性に起因してコモンモードノイズが発生することがある。従って、接地容量に起因するコモンモードノイズが発生しにくいスイッチング電源装置が求められる。
【0006】
本開示の目的は、接地容量に起因するコモンモードノイズが発生しにくいスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るスイッチング電源装置によれば、
ブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子を含むスイッチング回路と、トランスと、導体部とを備えたスイッチング電源装置において、
前記スイッチング回路は、入力された直流電圧を所定の周波数を有する交流電圧に変換して出力する第1及び第2の出力端子を有し、
前記トランスは、前記スイッチング回路によって発生された交流電圧が印加される第1及び第2の巻線端子を有する一次巻線を有し、
前記スイッチング電源装置は、前記トランスの第1の巻線端子と前記導体部との間に第1の接地容量を有し、前記トランスの第2の巻線端子と前記導体部との間に第2の接地容量を有し、
前記スイッチング電源装置は、前記スイッチング回路の第1の出力端子及び前記トランスの第1の巻線端子の間に接続された第1のキャパシタと、前記スイッチング回路の第2の出力端子及び前記トランスの第2の巻線端子の間に接続された第2のキャパシタとをさらに備え、
前記第1及び第2のキャパシタの静電容量は、
C31>C32の場合、C21>C22を満たすように設定され、
C31=C32の場合、C21=C22を満たすように設定され、
C31<C32の場合、C21<C22を満たすように設定され、
ここで、C31は前記第1の接地容量を示し、C32は前記第2の接地容量を示し、C21は前記第1のキャパシタの静電容量を示し、C22は前記第2のキャパシタの静電容量を示す。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、接地容量に起因するコモンモードノイズが発生しにくいスイッチング電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係るスイッチング電源装置の構成を示す回路図である。
【
図2】
図1の接地容量C31,C32に流れる電流を説明するための回路図である。
【
図3】第1の実施形態の変形例に係るスイッチング電源装置の構成を示す回路図である。
【
図4】
図1の接地容量C31,C32の決定を説明するための回路図である。
【
図5】
図4の回路について計算されたアドミタンス行列の要素Y(1,1)の周波数特性を示すグラフである。
【
図6】第1の実施形態に係るスイッチング電源装置において発生するコモンモードノイズを測定するための評価系の構成を示す回路図である。
【
図7】
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=10pF及び接地容量C32=5pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
【
図8】
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=8pF及び接地容量C32=2pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
【
図9】
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=10pF及び接地容量C32=2pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
【
図10】
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=5pF及び接地容量C32=10pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
【
図11】
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=2pF及び接地容量C32=8pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
【
図12】
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=2pF及び接地容量C32=10pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
【
図13】第2の実施形態に係るスイッチング電源装置の構成を示す回路図である。
【
図14】第3の実施形態に係るスイッチング電源装置の構成を示すブロック図である。
【
図15】第3の実施形態の変形例に係るスイッチング電源装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るスイッチング電源装置の構成を示す回路図である。
図1のスイッチング電源装置は絶縁型DC-DCコンバータ10を含む。絶縁型DC-DCコンバータ10は、フルブリッジ型のスイッチング回路1と、共振キャパシタC21と、共振キャパシタC22と、トランス3と、整流回路4と、平滑インダクタL51と、平滑キャパシタC51と、導体部6を備える。
【0012】
スイッチング回路1は、スイッチング素子S11~S14と、それらに並列にそれぞれ接続されたダイオードD11~D14及びキャパシタC11~C14とを備える。スイッチング素子S11,S12は、スイッチング回路1の入力端子I1,I2の間に直列に接続され、スイッチング素子S13,S14は、スイッチング回路1の入力端子I1,I2の間に直列に、かつ、スイッチング素子S11,S12に並列に接続される。スイッチング素子S11,S14が対角に位置し、スイッチング素子S12,S13が対角に位置し、スイッチング素子S11~S14はフルブリッジ型のスイッチング回路を構成している。スイッチング回路1は、入力端子I1,I2から入力された直流電圧を所定の周波数を有する交流電圧に変換して、スイッチング素子S11,S12の間の節点N1と、スイッチング素子S13,S14の間の節点N2とに出力する。
【0013】
ダイオードD11~D14及びキャパシタC11~C14は、例えばスイッチング素子がMOSFETである場合、スイッチング素子S11~S14の内蔵ダイオード(ボディダイオード)及び接合容量(ドレイン・ソース間容量)でそれぞれ構成されてもよい。
【0014】
本明細書において、節点N1をスイッチング回路1の「第1の出力端子」ともいい、節点N2をスイッチング回路1の「第2の出力端子」ともいう。
【0015】
トランス3は、スイッチング回路1によって発生された交流電圧が印加される節点N3,N4を有する一次巻線と、巻線比に応じて昇圧又は降圧された交流電圧を発生する二次巻線とを有する。
図1において、L31は一次側の漏れインダクタンスを表し、L32は一次側の励磁インダクタンスを表し、L33は二次側のインダクタンスを表す。
【0016】
本明細書において、トランス3の一次巻線の一端の節点N3を「第1の巻線端子」ともいい、トランス3の一次巻線の他端の節点N4を「第2の巻線端子」ともいう。
【0017】
共振キャパシタC21は、スイッチング回路1の節点N1と、トランス3の一次巻線の節点N3との間に接続される。共振キャパシタC21と、トランス3の一次側のインダクタンスL31,L32とはLLC共振回路を構成する。同様に、共振キャパシタC22は、スイッチング回路1の節点N2とトランス3の一次巻線の節点N4との間に接続される。共振キャパシタC22と、トランス3の一次側のインダクタンスL31,L32とはLLC共振回路を構成する。共振キャパシタC21,C22と、トランス3の一次側のインダクタンスL31,L32との共振により、電流の波形は正弦波形状になる。
【0018】
本明細書において、共振キャパシタC21を「第1のキャパシタ」ともいい、共振キャパシタC22を「第2のキャパシタ」ともいう。
【0019】
整流回路4は、トランス3の二次巻線に接続され、トランス3の二次側に出力された交流電圧を整流する。整流回路4は、例えば、ダイオードブリッジ回路である。
【0020】
平滑インダクタL51及び平滑キャパシタC51は平滑回路を構成し、整流回路4で整流された電圧を平滑し、所望の直流電圧を出力端子O1,O2の間に発生する。
【0021】
導体部6は、例えば、接地導体(例えば、回路基板のGND配線)であり、あるいは、金属筐体、シールド、又はヒートシンクである。導体部6が回路の接地導体とは別に設けられる場合(すなわち、金属筐体、シールド、又はヒートシンクである場合)、導体部6の電位は、回路の接地導体の電位と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
絶縁型DC-DCコンバータ10は、トランス3の一次巻線の節点N3と導体部6との間に第1の接地容量C31を有し、トランス3の一次巻線の節点N4と導体部6との間に第2の接地容量C32を有する。接地容量C31,C32は、それぞれ、トランス3の一次巻線の両端の節点N3,N4と導体部6の間に存在する寄生容量である。接地容量C31,C32は、トランス3の構造及び/又はシールドの配置に依存して変化し、先験的には定まらない。従って、一般に、トランス3の一次巻線の両端における接地容量C31,C32は互いに異なる値を有する(非対称になる)。
【0023】
図1の構成によれば、トランス3の一次巻線の両端に共振キャパシタC21,C22が接続されているので、片端のみに接続された場合と比べて、トランス3の一次巻線の両端における各電位の波形はより対称的になり、これにより、トランス3の一次巻線の両端における各電位の平均値の変動を小さくすることができる。特に、トランス3の一次巻線の両端の共振回路の共振周波数を設定する回路定数(すなわち、共振キャパシタC21,C22の静電容量)が同一であるとき、トランス3の一次巻線の両端における各電位の平均値の変動が最小化される。さらに、トランス3の一次巻線の両端における各電位の平均値の変動が最小化されれば、接地容量C31,C32及び導体部6を介して回路外部に伝搬するコモンモードノイズが低減されると期待される。しかしながら、実際には、トランス3の構造及び/又はシールドの配置に依存して互いに異なる(すなわち非対称な)接地容量C31,C32が生じ、接地容量C31,C32の非対称性に起因してコモンモードノイズが発生することがある。同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を接続し、トランス3の一次巻線の両端における各電位が対称的な波形を有する場合であっても、接地容量C31,C32が非対称であるので、接地容量C31,C32を介して流れる各電流の波形は非対称になり、それらの電流の差分が導体部6を通じて回路外部に伝搬してコモンモードノイズになる。すなわち、接地容量C31,C32が非対称であるので、共振キャパシタC21,C22が同じ静電容量を有するとき、ノイズを十分に低減することができず、又は、却ってノイズ特性が悪化する可能性がある。
【0024】
本開示の実施形態では、接地容量C31,C32の非対称性を考慮し、非対称性を打ち消すように構成することで、接地容量C31,C32に起因するコモンモードノイズが発生しにくいスイッチング電源装置を提供する。
【0025】
図2は、
図1の接地容量C31,C32に流れる電流を説明するための回路図である。
図2は、
図1のスイッチング電源装置の共振キャパシタC21,C22及びトランス3の一次側とを抜粋した部分を示す。N5は、接地容量C31,C32の導体部6の側の節点を表す。接地容量C31,C32に流れる電流が互いに異なると、キルヒホッフの電流則から、その差分の電流が節点N5から導体部6に伝搬して回路外部に流出することで、コモンモードノイズになる。よって、コモンモードノイズを低減するためには、接地容量C31を介して節点N3から節点N5に流れる電流と、接地容量C32を介して節点N5から節点N4に流れる電流とが互いに等しければよい。このとき、接地容量C31,C32の両方に流れる電流をIgとし、導体部6の電位をゼロとすると、節点N3の電位V3及び節点N4の電位V4は、それぞれ、式(1)~(2)により表される。
【0026】
|V3|=Ig/(ω×C31) (1)
|V4|=Ig/(ω×C32) (2)
【0027】
また、電流が導体部6を通じて回路外部に伝搬しないので、共振キャパシタC21、C22に流れる電流も互いに等しい。節点N1,N2の電位は、共振により増幅された節点N3,N4の電位よりも小さいので、電位をゼロに近似すると、共振キャパシタC21,C22の両方に流れる電流Irを用いて、電位V3,V4は、それぞれ、数式(3)~(4)により表される。
【0028】
|V3|=Ir/(ω×C21) (3)
|V4|=Ir/(ω×C22) (4)
【0029】
数式(1)~(4)から、コモンモードノイズを低減するためには、|V3|/|V4|=C32/C31=C22/C21とすればよい。すなわち、共振キャパシタC21,C22の静電容量の比(C21:C22)を、接地容量C31,C32の値の比(C31:C32)と同一になるように構成する。このとき、接地容量C31,C32に流れる電流が導体部6から回路外部へ伝搬することなく、コモンモードノイズを低減することができる。
【0030】
従って、第1の実施形態に係るスイッチング電源装置によれば、トランス3の一次巻線の両端における接地容量C31,C32の非対称性を考慮して共振キャパシタC21,C22の静電容量を設定することで、コモンモードノイズを発生しにくくすることができる。これにより、コモンモードノイズを低減するための部品を削減し、スイッチング電源装置を小型化及び低コスト化することができる。
【0031】
図3は、第1の実施形態の変形例に係るスイッチング電源装置の構成を示す回路図である。
図3のスイッチング電源装置は絶縁型DC-DCコンバータ10Aを含む。
図3の絶縁型DC-DCコンバータ10Aは、
図1のトランス3及び整流回路4に代えて、トランス3A及び整流ダイオードD41,D42を備える。第1の実施形態に係るスイッチング電源装置は、
図3に示すように、二次側に中間タップを有するトランス3Aを備えてもよい。L33a,L33bは二次側のインダクタンスを表す。
図3のスイッチング電源装置においても、
図1のスイッチング電源装置と同様に、共振キャパシタC21,C22の静電容量を設定することができる。
【0032】
次に、回路シミュレーションを行って、第1の実施形態に係るスイッチング電源装置の実体的な構成を検証する。
【0033】
図4は、
図1の接地容量C31,C32の決定を説明するための回路図である。第1の実施形態に係るスイッチング電源装置では、まず、トランス3の一次巻線の両端における接地容量C31,C32の値を正確に把握することが重要である。接地容量C31,C32の値を導出するためには、トランス3の二次側を開放し、ネットワークアナライザを用いて、トランス3の一次巻線の両端の節点N3,N4をポートP1,P2とする2ポートのSパラメータを測定する。
【0034】
図5は、
図4の回路について計算されたアドミタンス行列の要素Y(1,1)の周波数特性を示すグラフである。
図4の回路について、例えば、トランス3の一次側のインダクタンスL(=L31+L32)の値を120μHに設定し、接地容量C31,C32の値をそれぞれ10pF,5pFに設定した。この場合、
図4の回路のSパラメータ行列を計算し、Sパラメータ行列をアドミタンス行列に変換し、
図5の特性を得た。
図5を参照すると、反共振周波数fr以下の周波数帯域(a)では、トランス3のインダクタンスL31+L32による誘導性の特性を示し、反共振周波数fr以上の周波数帯域(b)では、トランス3の接地容量C31,C32による容量性の特性を示す。従って、接地容量C31の値は、反共振周波数fr以上の周波数帯域(b)におけるアドミタンス行列の要素Y(1,1)の特性から、C31=imag(Y(1,1)/(2πf))で求められる。ここで、imag(A)はAの虚部を表し、fは周波数である。同様に、接地容量C32の値は、反共振周波数fr以上の周波数帯域におけるアドミタンス行列の要素Y(2,2)の特性から、C32=imag(Y(2,2)/(2πf))で求められる。
【0035】
図6は、第1の実施形態に係るスイッチング電源装置において発生するコモンモードノイズを測定するための評価系の構成を示す回路図である。
図6のスイッチング電源装置は、直流電源8と、擬似電源回路網9と、絶縁型DC-DCコンバータ10と、負荷抵抗11とを備える。擬似電源回路網9は、直流電源8と絶縁型DC-DCコンバータ10の間に接続され、絶縁型DC-DCコンバータ10から直流電源8をみたときの直流電源8のインピーダンスを安定化させる。
図6の絶縁型DC-DCコンバータ10は、
図1の絶縁型DC-DCコンバータ10と同様に構成される。また、
図6のスイッチング電源装置は、
図1の絶縁型DC-DCコンバータ10に代えて、
図3の絶縁型DC-DCコンバータ10Aを備えてもよい。
【0036】
図6のモデルを用いて、接地容量C31,C32に流れる各電流の差分、すなわち、導体部6から回路外部に流出した電流Icmを導出する回路シミュレーションを行った。様々な条件で導出した電流Icmを比較することにより、第1の実施形態に係るスイッチング電源装置によりコモンモードノイズを低減する効果を検証した。
【0037】
回路シミュレーションでは、下記表1の素子値及び表2の駆動条件を使用した。
【0038】
[表1]
――――――――――――――――――――――――――――――――――
符号 素子値
――――――――――――――――――――――――――――――――――
C31 2,5,8,10pF
C32 2,5,8,10pF
C21,C22の合成容量(=C21×C22/(C21+C22))
22.5nF
C11~C44 各1pF
L31 12μH
L32 108μH
L33 26.4μH
L51 短絡(0H)
C51 10μF
C91,C93 各1μF
L91,L92 各50μH
C92,C94 各0.1μF
R91,R93 各50Ω
R92,R94 各1kΩ
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0039】
[表2]
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直流電源8の電圧 400V
スイッチング素子S11~S44のスイッチング周波数
各130kHz
負荷抵抗11の抵抗値 30Ω
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【0040】
図7~
図12を参照して、回路シミュレーションの結果について説明する。
【0041】
図7は、
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=10pF及び接地容量C32=5pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
図7によれば、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合(C21/C22=1)と比べて、C21:C22=C31:C32=2:1(C21/C22=2)の場合のほうが、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかる。
【0042】
なお、
図7において、C21:C22=C31:C32のとき、電流Icmは最小値ではないが、これは、式(3)~(4)を導出した際に、節点N1,N2の電位をゼロに近似したことに起因する。実際の回路の動作では、節点N1,N2の電位はゼロではないので、この近似の誤差が影響したものである。
【0043】
また、
図7によれば、1<C21/C22<3の範囲では、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合と比べて、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかる。コモンモードノイズが低減される範囲の上限値(この場合、C21/C22=3)は、回路の設計上の条件及び/又は駆動時の条件に依存するので先験的に定めることはできない。ただし、
図7によれば、少なくとも、1<C21/C22≦C31/C32の範囲では、コモンモードノイズを低減できることがわかる。
【0044】
図8は、
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=8pF及び接地容量C32=2pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
図9は、
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=10pF及び接地容量C32=2pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
図8及び
図9によれば、
図7の場合と同様に、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合と比べて、C21:C22=C31:C32の場合のほうが、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかる。また、
図8及び
図9によれば、
図7の場合と同様に、少なくとも、1<C21/C22≦C31/C32の範囲では、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合と比べて、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかる。
【0045】
図7~
図9の回路シミュレーションによれば、
C31>C32の場合、1<C21/C22≦C31/C32
と設定すると、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合と比べて、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかった。
【0046】
図10は、
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=5pF及び接地容量C32=10pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
図10によれば、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合(C21/C22=1)と比べて、C21:C22=C31:C32=1:2(C21/C22=0.5)の場合のほうが、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかる。
【0047】
なお、
図10において、C21:C22=C31:C32のとき、電流Icmは最小値ではないが、これは、式(3)~(4)を導出した際に、節点N1,N2の電位をゼロに近似したことに起因する。実際の回路の動作では、節点N1,N2の電位はゼロではないので、この近似の誤差が影響したものである。
【0048】
また、
図10によれば、0.33<C21/C22<1の範囲では、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合と比べて、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかる。コモンモードノイズが低減される範囲の下限値(この場合、C21/C22=0.33)は、回路の設計上の条件及び/又は駆動時の条件に依存するので先験的に定めることはできない。ただし、
図10によれば、少なくとも、C31/C32≦C21/C22<1の範囲では、コモンモードノイズを低減できることがわかる。
【0049】
図11は、
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=2pF及び接地容量C32=8pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
図12は、
図6のスイッチング電源装置の絶縁型DC-DCコンバータ10が接地容量C31=2pF及び接地容量C32=10pFを有する場合、キャパシタC21,C22の静電容量の比に対する、導体部6から回路外部に流出した電流Icmの特性を示すグラフである。
図11及び
図12によれば、
図10の場合と同様に、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合と比べて、C21:C22=C31:C32の場合のほうが、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかる。また、
図11及び
図12によれば、
図10の場合と同様に、少なくとも、C31/C32≦C21/C22<1の範囲では、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合と比べて、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかる。
【0050】
図10~
図12の回路シミュレーションによれば、
C31<C32の場合、C31/C32≦C21/C22<1
と設定すると、同じ静電容量を有する共振キャパシタC21,C22を用いる場合と比べて、電流Icmを低減し、コモンモードノイズを低減できることがわかった。
【0051】
以上説明したように、
図7~
図12の回路シミュレーションによれば、LLC共振方式の絶縁型DC-DCコンバータ10で発生するコモンモードノイズを低減するために、接地容量C31,C32の非対称性を考慮し、共振キャパシタC21,C22の静電容量の比を調整することが有効であることがわかった。
【0052】
図7~
図12の回路シミュレーションによれば、共振キャパシタC21,C22の静電容量は、
C31>C32の場合、C21>C22を満たすように設定され、
C31=C32の場合、C21=C22を満たすように設定され、
C31<C32の場合、C21<C22を満たすように設定される
ことが有効であることがわかった。
【0053】
また、
図7~
図12の回路シミュレーションによれば、共振キャパシタC21,C22の静電容量は、
C31>C32の場合、1<C21/C22≦C31/C32を満たすように設定され、
C31<C32の場合、1>C21/C22≧C31/C32を満たすように設定される
ことが有効であることがわかった。
【0054】
第1の実施形態に係る構成は、接地容量C31,C32が、トランス3の一次巻線の両端と導体部6の間に存在する寄生容量ではなく、トランス3の一次巻線の両端と導体部6の間に接続されたキャパシタである場合にも適用可能である。
【0055】
[第2の実施形態]
図13は、第2の実施形態に係るスイッチング電源装置の構成を示す回路図である。
図13のスイッチング電源装置は絶縁型DC-DCコンバータ10Bを含む。
図13の絶縁型DC-DCコンバータ10Bは、
図1の絶縁型DC-DCコンバータ10(又は
図3の絶縁型DC-DCコンバータ10A)の各構成要素に加えて、キャパシタC71,C72を備える。
図13では、トランス3の二次巻線及び二次側の各構成要素は図示を省略している。
【0056】
トランス3の一次巻線の両端における接地容量C31,C32の値は、トランス3の構造及び/又はシールドの配置に依存するが、例えば数pFのオーダーである。この場合、接地容量C31,C32の値を十分に高い精度で測定することは困難であるか不可能である。このため、第2の実施形態に係るスイッチング電源装置では、接地容量C31,C32よりも十分大きな、例えば数nFのオーダーの静電容量の値を有するキャパシタC71,C72をトランス3の一次巻線の両端と導体部6の間に外付けする。これにより、接地容量C31,C32の値の影響を小さくする。
【0057】
共振キャパシタC21,C22の静電容量の比(C21:C22)を、キャパシタC71,C72の静電容量の比(C71:C72)と同一になるように構成してもよい。このとき、キャパシタC71,C72に流れる電流が導体部6から回路外部へ伝搬することなく、また、接地容量C31,C32に流れる電流が導体部6から回路外部へ伝搬することなく、コモンモードノイズを低減することができる。
【0058】
共振キャパシタC21,C22の静電容量は、
C71>C72の場合、C21>C22を満たすように設定され、
C71<C72の場合、C21<C22を満たすように設定されてもよい。
【0059】
また、共振キャパシタC21,C22の静電容量は、
C71>C72の場合、1<C21/C22≦C71/C72を満たすように設定され、
C71<C72の場合、1>C21/C22≧C71/C72を満たすように設定されてもよい。
【0060】
以上説明したように、第2の実施形態に係るスイッチング電源装置によれば、キャパシタC71,C72の静電容量に応じて共振キャパシタC21,C22の静電容量を設定することで、コモンモードノイズを発生しにくくすることができる。これにより、コモンモードノイズを低減するための部品を削減し、スイッチング電源装置を小型化及び低コスト化することができる。
【0061】
第2の実施形態に係る構成は、接地容量C31,C32が、トランス3の一次巻線の両端と導体部6の間に存在する寄生容量ではなく、トランス3の一次巻線の両端と導体部6の間に接続されたキャパシタである場合にも適用可能である。キャパシタC31,C32とキャパシタC71,C72とを組み合わせることにより、設計上の自由度を向上することができる。
【0062】
[第3の実施形態]
図14は、第3の実施形態に係るスイッチング電源装置の構成を示すブロック図である。
図14のスイッチング電源装置は、
図1の絶縁型DC-DCコンバータ10と、ノイズフィルタ12とを備える。ノイズフィルタ12は、スイッチング電源装置の母線に流れるノーマルモードノイズを除去する。ノイズフィルタ12は、例えば、スイッチング回路1の動作によって発生するノイズを除去するために、低域通過フィルタ又は帯域通過フィルタを備える。第1及び第2の実施形態に係るスイッチング電源装置には、コモンモードノイズを生じにくくするものの、ノーマルモードノイズを低減する効果はない。一方、図
14のスイッチング電源装置は、ノイズフィルタ12を備えたことにより、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズの両方を低減することができる。
【0063】
図15は、第3の実施形態の変形例に係るスイッチング電源装置の構成を示すブロック図である。
図15のスイッチング電源装置は、
図1の絶縁型DC-DCコンバータ10と、ノイズフィルタ12と、AC-DCコンバータ14とを備える。AC-DCコンバータ14は、商用電源などの交流電源13の交流電圧を直流電圧に変換して絶縁型DC-DCコンバータ10に供給する。ノイズフィルタ12は、スイッチング電源装置の母線に流れるノーマルモードノイズを除去する。図
15のスイッチング電源装置は、ノイズフィルタ12を備えたことにより、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズの両方を低減することができ、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズが交流電源13へ伝搬しにくくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示に係るスイッチング電源装置は、産業用、車載用、又は医療用のスイッチング電源装置などで用いられる絶縁型DC-DCコンバータを、低ノイズ、小型、かつ低コストで実現することに有用である。
【符号の説明】
【0065】
1…スイッチング回路、
3,3A…トランス、
4…整流回路、
6…導体部、
8…直流電源、
9…擬似電源回路網、
10,10A,10B…絶縁型DC-DCコンバータ、
11…負荷抵抗、
12…ノイズフィルタ、
13…交流電源、
14…AC-DCコンバータ、
C21,C22…共振キャパシタ、
C31,C32…接地容量、
C51…平滑キャパシタ、
C71,C72…キャパシタ、
D41,D42…整流ダイオード、
L51…平滑インダクタ。