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特許7361302光学フィルタ、色覚補正レンズ及び色覚補正用の光学部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】光学フィルタ、色覚補正レンズ及び色覚補正用の光学部品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20231006BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
G02B5/22
G02C7/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019196826
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021071548
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】椿野 由合香
(72)【発明者】
【氏名】和田 英樹
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/113357(WO,A1)
【文献】米国特許第09829724(US,B1)
【文献】特表平01-501172(JP,A)
【文献】特表2014-513315(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109683348(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルタであって、
前記光学フィルタの透過スペクトルにおいて、
波長が400nm以上450nm以下の範囲内の透過率の最小値を第1最小値とし、
波長が525nm以上595nm以下の範囲内の透過率の最小値を第2最小値とし、
波長が450nm以上525nm以下の範囲内の透過率の最大値を第1最大値とし、
波長が595nm以上600nm以下の範囲内の透過率の最大値を第2最大値とした場合、
前記第1最小値及び前記第2最小値はそれぞれ、前記第1最大値及び前記第2最大値のうち小さい方の1/2以下であり、
前記第1最大値は、前記第2最大値の1/2以下である、
光学フィルタ。
【請求項2】
前記透過スペクトルにおいて、
波長が470nm以上600nm以下の範囲内の透過率の最小値は、5%以下であり、かつ、波長が525nm以上595nm以下の範囲内に位置し、
波長が430nm以上500nm以下の範囲内の透過率の最大値は、10%以上90%以下であり、波長が450nm以上500nm以下の範囲内に位置する、
請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記光学フィルタは、樹脂基材と、前記樹脂基材に含有された1種類以上の吸収色素材料とを含む、
請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記1種類以上の吸収色素材料の各々の濃度は、30ppm以上400ppm以下である、
請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記1種類以上の吸収色素材料は、
吸収スペクトルにおいて波長が540nm以上550nm以下の範囲に吸収ピークを含む第1種類の吸収色素材料と、
吸収スペクトルにおいて波長が400nm以上435nm以下の範囲に吸収ピークを含む第2種類の吸収色素材料とを含む、
請求項又はに記載の光学フィルタ。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタを含む色覚補正レンズ。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタを備える色覚補正用の光学部品。
【請求項8】
前記光学部品は、メガネ、コンタクトレンズ、眼内レンズ又はゴーグルである
請求項に記載の色覚補正用の光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタ、色覚補正レンズ及び色覚補正用の光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色覚異常者の色識別能力を補助するための色覚補正フィルタが知られている。例えば、特許文献1には、緑色に対する感度の強い色覚特性を有する色覚異常者に対して、緑色光の透過率を抑える色覚補正フィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-101345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の色覚補正フィルタを用いた場合、青信号が見えにくくなるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、色覚補正機能を確保しつつ、青信号の視認性が改善された光学フィルタ、色覚補正レンズ及び色覚補正用の光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る光学フィルタは、前記光学フィルタの透過スペクトルにおいて、波長が400nm以上450nm以下の範囲内の透過率の最小値を第1最小値とし、波長が525nm以上595nm以下の範囲内の透過率の最小値を第2最小値とし、波長が450nm以上525nm以下の範囲内の透過率の最大値を第1最大値とし、波長が595nm以上600nm以下の範囲内の透過率の最大値を第2最大値とした場合、前記第1最小値及び前記第2最小値はそれぞれ、前記第1最大値及び前記第2最大値のうち小さい方の1/2以下である。
【0007】
本発明の一態様に係る色覚補正レンズは、上記光学フィルタを含む色覚補正レンズである。
【0008】
本発明の一態様に係る色覚補正用の光学部品は、上記光学フィルタを備える色覚補正用の光学部品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、色覚補正機能を確保しつつ、青信号の視認性が改善された光学フィルタ、色覚補正レンズ及び色覚補正用の光学部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る光学フィルタの構成を示す図である。
図2図2は、実施の形態に係る光学フィルタの透過スペクトルを示す図である。
図3図3は、実施の形態に係る光学フィルタが含む吸収色素材料の吸収スペクトルを示す図である。
図4図4は、実施例1及び2並びに比較例に係る光学フィルタの透過スペクトルを示す図である。
図5図5は、実施例3に係る光学フィルタの透過スペクトルを示す図である。
図6図6は、実施の形態に係る光学フィルタを備える色覚補正用の眼鏡を示す斜視図である。
図7図7は、実施の形態に係る光学フィルタを備える色覚補正用のコンタクトレンズを示す斜視図である。
図8図8は、実施の形態に係る光学フィルタを備える色覚補正用の眼内レンズを示す平面図である。
図9図9は、実施の形態に係る光学フィルタを備える色覚補正用のゴーグルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明の実施の形態に係る光学フィルタ、色覚補正レンズ及び色覚補正用の光学部品について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0012】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0013】
また、本明細書において、矩形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。また、「約」という記載は、数値又は数値範囲の±10%以内の範囲を意味している。
【0014】
(実施の形態)
[構成]
まず、実施の形態に係る光学フィルタの構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る光学フィルタ1の構成を示す図である。
【0015】
図1に示される光学フィルタ1は、色覚異常者であるユーザ2の色覚異常を補正するフィルタである。一般的な色覚異常者は、先天性赤緑色覚異常者であり、赤色光に比べて緑色光を強く知覚する。光学フィルタ1は、緑色光の透過を抑制することで、赤色光と緑色光との知覚のバランスを保つことができ、ユーザ2の色覚を補正することができる。
【0016】
本実施の形態では、光学フィルタ1は、緑色光の透過を完全に遮断せずに、緑色光の一部を透過させる。これにより、ユーザ2に対する色覚補正機能を確保しつつ、信号機3の青信号の視認性を高めている。
【0017】
図1に示されるように、光学フィルタ1は、基材10と、基材10に含有された1種類以上の吸収色素材料とを備える。図1では、一点鎖線で囲まれた矩形の枠内に、基材10の断面の一部が模式的に拡大して示されている。図1に示される例では、基材10には、2種類の吸収色素材料21及び22が含まれている。
【0018】
基材10は、透光性を有する板状の部材である。具体的には、基材10は、透明な樹脂材料を所定形状に成形することで形成された樹脂基材である。例えば、基材10は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリシラザン、シロキサン、アリルジグリコールカーボネート(CR-39)、又は、ポリシロキサン複合アクリル樹脂、ポリカーボネートなどの樹脂材料を用いて形成されている。なお、基材10は、透明なガラス材料から構成されていてもよい。
【0019】
基材10の板厚は、例えば、1mm以上3mm以下である。基材10のユーザ2側の面は、凹面である。基材10のユーザ2とは反対側(信号機3側)の面は、凸面である。基材10の凹面及び凸面の各々の曲率半径は、60mm以上800mm以下である。あるいは、基材10の凹面及び凸面の各々の曲率半径は、100mm以上300mm以下であってもよい。このとき、基材10の凸面の曲率半径と凹面の曲率半径とは異なっていてもよい。例えば、基材10の凸面の曲率半径は、凹面の曲率半径より小さくてもよい。また、凸面及び凹面は、例えば球面であるが、完全な球面でなくてもよい。例えば、基材10の断面視において、凸面及び凹面の真円度は、数μm以上十数μm以下であってもよい。
【0020】
基材10は、凸レンズ又は凹レンズなどの光を集光又は拡散する機能を有していてもよい。基材10の大きさ及び形状は、例えば、人が装着可能なメガネ又はコンタクトレンズなどに合った大きさである。
【0021】
なお、基材10の大きさ及び形状は、これらに限定されない。基材10の板厚は、例えば1mmより小さくてもよく、又は、3mmより大きくてもよい。基材10の板厚は、部位によって異なっていてもよい。つまり、基材10は、板厚が薄い部分と厚い部分とを有してもよい。あるいは、基材10は、板厚が均一な平板であってもよい。
【0022】
吸収色素材料21及び22はそれぞれ、基材10内に均等に分散されている。例えば、吸収色素材料21及び22は、基材10の厚み方向及び面方向の各々の全体に均等に分散されている。吸収色素材料21及び22はそれぞれ、微粒化されて凝集粒子体を構成しながら、基材10中に分子状態で分散されている。
【0023】
なお、吸収色素材料21及び22は、基材10の一部の領域のみに分散されていてもよい。例えば、吸収色素材料21及び22は、基材10の平面視における中央領域のみに分散されていてもよい。あるいは、吸収色素材料21及び22は、基材10の凸面又は凹面を含む表層部分のみに分散されていてもよい。
【0024】
基材10に含有される1種類以上の吸収色素材料21及び22の各々の濃度は、例えば30ppm以上400ppm以下である。濃度は、例えば、基材10の厚みに応じて調整されてもよい。
【0025】
吸収色素材料21及び22はそれぞれ、所定の波長成分の光を吸収する。吸収色素材料21及び22の各々の吸光度は、例えば、90以上310以下である。吸収色素材料21又は22の基本骨格は、例えば、テトラアザポルフィリン系又はフタロシアニン系である。基本骨格は、メロシアニン系又はメチン系であってもよい。
【0026】
基本骨格に接続される官能基を適宜調整することで、所望の吸収スペクトル特性が得られる。本実施の形態では、吸収色素材料21の吸収スペクトルと、吸収色素材料22の吸収スペクトルとが異なっている。各吸収スペクトルの具体例については、後で説明する。
【0027】
[光学フィルタの透過スペクトル]
続いて、本実施の形態に係る光学フィルタ1の透過スペクトルについて、図2を用いて説明する。
【0028】
図2は、本実施の形態に係る光学フィルタ1の透過スペクトルを示す図である。図2において横軸は光の波長を表し、縦軸は光の波長毎の透過率(すなわち、分光透過率)を表している。分光透過率は、光学フィルタ1に入射する入射光の分光放射束に対する、光学フィルタ1を通過した出射光の分光放射束の割合である。所定の波長の透過率が100%である場合、光学フィルタ1は、入射する波長の光を反射及び吸収することなく、そのまま出射光として透過させる。
【0029】
光学フィルタ1を色覚補正に用いるためには、透過スペクトルにおいて満たすべき透過率の条件がある。具体的には、光学フィルタ1の透過スペクトルを表すグラフは、少なくとも2つの条件を満たしている。第1の条件は、例えば、波長530nmから550nmにかけて透過率が5%以下になることである。第2の条件は、例えば、波長580nmから620nmにかけて透過率が右肩上がりになることである。なお、第1の条件は、補正対象の色覚異常の程度によらず、略同じである。第2の条件では、補正対象の色覚異常の程度によって、グラフの傾きが異なっている。
【0030】
図2の破線で示されるように、従来の色覚補正フィルタは、第1の条件及び第2の条件の各々の分光透過率を満たしており、色覚補正機能を確保できている。しかしながら、従来の色覚補正フィルタは、緑色光の透過を抑制するので、青信号が見えにくいという問題がある。
【0031】
青信号は、例えば、緑色LED(Light Emitting Diode)若しくは青緑色LED、又は、これらの組み合わせによって実現される。緑色LEDは、例えば、520nm以上530nm以下に発光のピーク波長を有する。青緑色LEDは、例えば、498nm以上598nm以下に発光のピーク波長を有する。なお、電球式の信号機の場合であっても、青信号は、約500nm以上約530nm以下の範囲に発光ピークを有する。
【0032】
本実施の形態に係る光学フィルタ1では、波長が約500nm以上約530nm以下の光(すなわち、緑色光)の透過率を従来よりも高めている。図2には、透過率の大きさに応じて、水準1~3の3つの透過スペクトルを表している。水準1~3の順で緑色光の透過率が高くなるので、青信号の視認性が高まる。
【0033】
このとき、光学フィルタ1の透過スペクトルでは、第1の条件及び第2の条件を満たしている。つまり、色覚補正を確保するために必要な条件を満たしつつ、緑色光を部分的に透過させることにより、色覚補正機能と青信号の視認性の確保とを両立させることができる。
【0034】
ここで、光学フィルタ1の透過スペクトルにおいて、波長が400nm以上450nm以下の範囲内の透過率の最小値を第1最小値MIN1とする。波長が525nm以上595nm以下の範囲内の透過率の最小値を第2最小値MIN2とする。波長が450nm以上525nm以下の範囲内の透過率の最大値を第1最大値MAX1とする。波長が595nm以上600nm以下の範囲内の透過率の最大値を第2最大値MAX2とする。なお、図2では、水準1~3を区別するため、水準1の第1最大値をMAX1_1、水準2の第1最大値をMAX1_2、水準3の第1最大値をMAX1_3としている。水準1~3を区別しない場合は、第1最大値を単にMAX1とする。
【0035】
このとき、第1最小値MIN1及び第2最小値MIN2はそれぞれ、第1最大値MAX1及び第2最大値MAX2のうちの小さい方の1/2以下である。図2に示されるように、第1最大値MAX1は、第2最大値MAX2より小さい。したがって、第1最小値MIN1及び第2最小値MIN2はそれぞれ、第1最大値MAX1の1/2以下である。なお、水準1及び2の透過スペクトルでは、第1最大値MAX1_1及びMAX1_2は、第2最大値MAX2の1/2以下である。
【0036】
また、波長が470nm以上600nm以下の範囲内の透過率の最小値は、5%以下である。また、波長が470nm以上600nm以下の範囲内の透過率の最小値は、波長が525nm以上595nm以下の範囲内に位置している。すなわち、波長が470nm以上600nm以下の範囲内の透過率の最小値は、第2最小値MIN2である。
【0037】
波長が430nm以上500nm以下の範囲内の透過率の最大値は、10%以上90%以下である。また、波長が430nm以上500nm以下の範囲内の透過率の最大値は、波長が450nm以上500nm以下の範囲内に位置している。図2に示される例では、波長が430nm以上500nm以下の範囲内の透過率の最大値は、波長が500nm以下のときの透過率であり、第1最大値MAX1よりは小さい。
【0038】
以上の条件を満たすことにより、光学フィルタ1は、短波長側から長波長側に辿った場合に、山、谷、山、谷、山の順に透過率が変動する透過スペクトルを有する。これにより、色覚補正機能と青信号の視認性の確保とを両立させることができる。
【0039】
[吸収色素材料の吸収スペクトル]
次に、図2に示される吸収スペクトルを実現するために用いられる吸収色素材料の吸収スペクトルについて、図3を用いて説明する。
【0040】
図3は、本実施の形態に係る光学フィルタ1が含む色素材料の吸収スペクトルを示す図である。図3において、横軸は光の波長を表し、縦軸は光の透過率を表している。
【0041】
なお、図3は、対象となる吸収色素材料を所定の濃度で均一に分散させたポリカーボネート基材の波長毎の透過率を、当該色素材料の分光スペクトル特性として示している。透過スペクトルにおける谷、すなわち、透過率の極小値を含む部分が、吸収色素材料の吸収ピークである。
【0042】
色素材料C1は、第1種類の吸収色素材料の一例であり、吸収色素材料21に相当する。色素材料C1は、図3に示されるように、吸収スペクトルにおいて波長が540nm以上550nm以下の範囲に吸収ピークを含んでいる。吸収ピークの半値幅は、例えば、70nm以上125nm以下の範囲に含まれる。
【0043】
なお、半値幅は、ピークにおける透過率が最大値(100%)と最小値(具体的にはピーク波長における透過率)との中間値になるときのピークの幅に相当する。例えば、図3に示される色素材料C1の透過率の最小値は約19%であるので、半値幅は、透過率が約60%(=(100+19)÷2)になるときのピークの幅であり、約74nmになる。なお、ピークにおける透過率の最小値は、基材10に含まれる色素材料C1の濃度によって調整可能である。これは、色素材料C2についても同様である。
【0044】
色素材料C2は、第2種類の吸収色素材料の一例であり、吸収色素材料22に相当する。色素材料C2は、図3に示されるように、吸収スペクトルにおいて波長が400nm以上435nm以下の範囲に吸収ピークを含んでいる。具体的には、色素材料C2の吸収ピークは、415nm以上425nm以下の範囲に含まれる。吸収ピークの半値幅は、例えば20nm以上45nm以下である。図3に示される色素材料C2の透過率の最小値は、約420nmにおける透過率であり、約8%である。半値幅は、透過率が約54%(=(100+8)÷2)になるときのピークの幅であり、約32nmになる。
【0045】
図3に示される例では、色素材料C2のピーク波長における透過率は、色素材料C1のピーク波長における透過率よりも小さい。また、色素材料C2の吸収ピークの半値幅は、色素材料C1の吸収ピークの半値幅より短い。
【0046】
[実施例]
続いて、図3に示される色素材料C1及びC2を適宜混合することにより形成した光学フィルタ1の実施例の光学特性について説明する。
【0047】
図4は、実施例1及び実施例2並びに比較例に係る光学フィルタの透過スペクトルを示す図である。図5は、実施例3に係る光学フィルタの透過スペクトルを示す図である。図4及び図5の各々において、横軸は波長を表し、縦軸は透過率を表している。
【0048】
実施例1~3及び比較例に係る光学フィルタに含まれる色素材料の種類及びその含有量は、以下の表1に示される通りである。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示されるように、比較例では色素材料C1のみの1種類の色素材料を含んでいる。実施例1~実施例3では、色素材料C1と色素材料C2との2種類の色素材料を含んでいる。
【0051】
比較例及び実施例1~3のいずれも色素材料C1を含んでいるので、図4及び図5に示されるように、色素材料C1の吸収ピークのピーク波長である約547nmを含む範囲で透過率が低くなっている。実施例1~3はさらに色素材料C2を含んでいるので、図4及び図5に示されるように、色素材料C2の吸収ピークのピーク波長である約420nmの近傍で透過率が低くなっている。比較例は色素材料C2を含んでいないので、約420nmの近傍で透過率は高い状態を維持している。なお、比較例及び実施例1~3において、波長が約380nm以下の範囲で透過率が実質的に0%になっているのは、基材10による吸収のためである。
【0052】
図4に示されるように、比較例に係る透過スペクトルでは、波長が380nm以上の範囲において短波長側から長波長側に辿った場合に、透過率が山、谷、山の順に変動する。1つ目の山は、ピーク波長が約410nmであり、その透過率は約86%であり、半値幅は約82nmである。1つ目の谷は、ピーク波長が約550nmであり、その透過率は約3%である。2つ目の山は、約590nmで透過率が80%を超え、約660nm以上の範囲では透過率が約90%で維持されている。
【0053】
実施例1に係る透過スペクトルでは、波長が380nm以上の範囲において短波長側から長波長側に辿った場合に、透過率が山、谷、山、谷、山の順に変動する。実施例1は、比較例における1つ目の山が、その中央で2つの山とその間の谷とに分割された場合に対応している。実施例1における1つ目の山は、ピーク波長が約400nmであり、その透過率は約56%であり、半値幅は約22nmである。1つ目の谷は、ピーク波長が約420nmであり、その透過率は第1最小値MIN1aで表され、約4%である。2つ目の山は、ピーク波長が約440nmであり、その透過率は第1最大値MAX1aで表され、約68%であり、半値幅は、約50nmである。2つ目の谷は、ピーク波長が約550nmであり、その透過率は第2最小値MIN2aで表され、約3%である。3つ目の山は、約590nmで透過率が80%を超え、約660nm以上の範囲では透過率が約90%で維持されている。
【0054】
実施例1に係る透過スペクトルでは、第1最大値MAX1aは、第2最大値MAX2aよりも小さい。第1最小値MIN1a及び第2最小値MIN2aは、第1最大値MAX1aの1/2以下である。
【0055】
実施例2に係る透過スペクトルでは、波長が380nm以上の範囲において短波長側から長波長側に辿った場合に、透過率が山(非常に小さい)、谷、山(小さい)、谷、山の順に変動する。実施例2は、実施例1における1つ目及び2つ目の山が、小さくなった場合に対応している。実施例2では、表1に示されるように、色素材料C2の含有量が実施例1よりも多い。具体的には、実施例2における色素材料C2の含有量は、実施例1の含有量の2倍である。このため、約420nmの近傍を含む範囲の光の、色素材料C2による吸収が実施例1よりも大きくなり、1つ目及び2つ目の山に対応する透過率が小さくなる。
【0056】
具体的には、実施例2における1つ目の山は、ピーク波長が約390nmであり、その透過率は約2%であり、半値幅は約15nmである。1つ目の谷は、ピーク波長が約400nm以上約440nm以下の範囲に含まれ、その透過率は第1最小値MIN1bで表され、実質的に0%である。2つ目の山は、ピーク波長が約460nmであり、その透過率は第1最大値MAX1bで表され、約26%であり、半値幅は、約40nmである。2つ目の谷は、ピーク波長が約550nmであり、その透過率は第2最小値MIN2bで表され、約1%である。3つ目の山は、約620nmで透過率が80%を超え、約660nm以上の範囲では透過率が約90%で維持されている。
【0057】
実施例2に係る透過スペクトルでは、第1最大値MAX1bは、第2最大値MAX2bよりも小さい。具体的には、第1最大値MAX1bは、第2最大値MAX2bの1/2以下である。第1最小値MIN1及び第2最小値MIN2は、第1最大値MAX1の1/2以下である。
【0058】
実施例3に係る透過スペクトルでは、図5に示されるように、波長が380nm以上の範囲において短波長側から長波長側に辿った場合に、透過率が山(非常に小さい)、谷、山、谷、山の順に変動する。
【0059】
具体的には、実施例3における1つ目の山は、ピーク波長が約380nmであり、その透過率は約2%であり、半値幅は約10nmである。1つ目の谷は、ピーク波長が約400nm以上約435nm以下の範囲に含まれ、その透過率は第1最小値MIN1cで表され、実質的に0%である。2つ目の山は、ピーク波長が約470nmであり、その透過率は第1最大値MAX1cで表され、約36%であり、半値幅は、約60nmである。2つ目の谷は、ピーク波長が約540nmであり、その透過率は第2最小値MIN2cで表され、約1%である。3つ目の山は、約620nmで透過率が80%を超え、約660nm以上の範囲では透過率が約90%で維持されている。
【0060】
実施例3に係る透過スペクトルでは、第1最大値MAX1cは、第2最大値MAX2cよりも小さい。具体的には、第1最大値MAX1cは、第2最大値MAX2cの1/2以下である。第1最小値MIN1c及び第2最小値MIN2cは、第1最大値MAX1cの1/2以下である。
【0061】
なお、図5では、表1に示される色素材料C1及びC2の含有量と吸収スペクトルに基づいたシミュレーション結果を破線で表している。シミュレーション結果と実測値とが略一致しており、シミュレーション通りの透過スペクトルが得られていることが分かる。
【0062】
実施例3では、表1に示されるように、色素材料C2の含有量が色素材料C1の含有量よりも多い。具体的には、色素材料C2の含有量は、色素材料C1の含有量の約9倍である。なお、色素材料C1の含有量と色素材料C2の含有量との比率は、特に限定されず、得られる透過スペクトルが所定の条件を満たしていればよい。所定の条件とは、色覚補正を適切に行い、かつ、信号機の青信号の視認性を改善するための条件である。具体的には、所定の条件は、第1最小値MIN1及び第2最小値MIN2がそれぞれ、第1最大値MAX1及び第2最大値MAX2のうち小さい方の1/2以下であることである。
【0063】
色覚異常を補正するためには、上述した通り、透過スペクトルが第1の条件及び第2の条件を実質的に満たせばよい。実施例1~3の各々に係る透過スペクトルはいずれも、第1の条件及び第2の条件を満たしている。したがって、実施例1~3の各々に係る光学フィルタは、色覚補正機能を確保できている。
【0064】
なお、青信号の視認性の向上という観点では、実施例1~3の各々に係る透過スペクトルの第1最大値MAX1a、MAX1b及びMAX1cがそれぞれ、約68%、約26%、約36%である。したがって、第1最大値MAX1aが、第1最大値MAX1b及びMAX1cより大きいので、実施例1に係る光学フィルタが最も青信号の視認性が高い。実施例1~3に係る光学フィルタはそれぞれ、図2に示される水準3、水準1、水準2に対応している。
【0065】
[光学部品]
上述した光学フィルタ1は、様々な光学部品に用いられる。
【0066】
図6図9は、本実施の形態に係る光学フィルタ1を備える光学部品の例を示す図である。具体的には、図6図7及び図9はそれぞれ、光学部品の一例であるメガネ40、コンタクトレンズ42及びゴーグル46の斜視図である。図8は、光学部品の一例である眼内レンズ44の平面図である。例えば、各図に示されるように、メガネ40、コンタクトレンズ42、眼内レンズ44及びゴーグル46はそれぞれ、光学フィルタ1を備える。
【0067】
例えば、メガネ40は、左右のレンズとして2つの光学フィルタ1と、2つの光学フィルタ1を支持するフレーム41とを備える。コンタクトレンズ42及び眼内レンズ44は、その全体が光学フィルタ1である。あるいは、コンタクトレンズ42及び眼内レンズ44の中央部分のみが光学フィルタ1であってもよい。コンタクトレンズ42及び眼内レンズ44は、本実施の形態に係る光学フィルタ1を含む色覚補正レンズの一例である。ゴーグル46は、両目を覆うカバーレンズとして1つの光学フィルタ1を備える。
【0068】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る光学フィルタ1は、光学フィルタ1の透過スペクトルにおいて、波長が400nm以上450nm以下の範囲内の透過率の最小値を第1最小値MIN1とし、波長が525nm以上595nm以下の範囲内の透過率の最小値を第2最小値MIN2とし、波長が450nm以上525nm以下の範囲内の透過率の最大値を第1最大値MAX1とし、波長が595nm以上600nm以下の範囲内の透過率の最大値を第2最大値MAX2とした場合、第1最小値MIN1及び第2最小値MIN2はそれぞれ、第1最大値MAX1及び第2最大値MAX2のうち小さい方の1/2以下である。
【0069】
これにより、450nm以上525nm以下の範囲における透過率の最大値(第1最大値)が、その短波長側の最小値(第1最小値)及び長波長側の最小値(第2最小値)よりも大きくなる。つまり、450nm以上525nm以下の範囲に透過率が極大になるピーク(山)を形成することができるので、450nm以上525nm以下の範囲に含まれる光を部分的に透過させることができる。一般的な青信号が発する光の透過率が高められるので、例えば、ユーザ2が光学フィルタ1を介して信号機3を見たときに、青信号の視認性を高めることができる。また、450nm以上525nm以下の範囲に透過率が極大になるピーク(山)の両側には、透過率が極小になる部分(谷)が形成されるので、緑色光の透過を抑制することができる。したがって、光学フィルタ1は、赤色光に比べて緑色光を強く知覚する色覚異常者の色覚を適切に補正することができる。このように、本実施の形態に係る光学フィルタ1によれば、色覚補正機能を確保しつつ、青信号の視認性を改善することができる。
【0070】
また、例えば、第1最大値MAX1は、第2最大値MAX2の1/2以下である。
【0071】
これにより、青信号の視認性の改善のために緑色光を透過させるためのピークの最大値が小さくなるので、色覚の補正機能を高めることができる。このため、色覚異常の程度が強い人に対する色覚補正を適切に行うことができる。
【0072】
また、例えば、透過スペクトルにおいて、波長が470nm以上600nm以下の範囲内の透過率の最小値は、5%以下であり、かつ、波長が525nm以上595nm以下の範囲内に位置し、波長が430nm以上500nm以下の範囲内の透過率の最大値は、10%以上90%以下であり、波長が450nm以上500nm以下の範囲内に位置する。
【0073】
これにより、色覚補正機能を確保しつつ、青信号の視認性を改善することができる。
【0074】
また、例えば、光学フィルタ1は、樹脂基材である基材10と、基材10に含有された1種類以上の吸収色素材料とを含む。
【0075】
これにより、吸収色素材料を利用して所望の透過スペクトルを実現することで、反射膜を利用する場合よりも光学フィルタ1の表面のギラつき(光の反射)を抑制することができる。
【0076】
また、例えば、1種類以上の吸収色素材料の各々の濃度は、30ppm以上400ppm以下である。
【0077】
また、例えば、1種類以上の吸収色素材料は、吸収スペクトルにおいて波長が540nm以上550nm以下の範囲に吸収ピークを含む第1種類の吸収色素材料と、吸収スペクトルにおいて波長が400nm以上435nm以下の範囲に吸収ピークを含む第2種類の吸収色素材料とを含む。
【0078】
これにより、2種類の色素材料を組み合わせて、色覚補正機能の確保及び青信号の視認性の確保のための条件を満たす透過スペクトルを実現することができる。
【0079】
また、例えば、色覚補正レンズは、光学フィルタ1を含む色覚補正レンズである。また、例えば、光学部品は、光学フィルタ1を備える色覚補正用の光学部品である。また、例えば、光学部品は、メガネ40、コンタクトレンズ42、眼内レンズ44又はゴーグル46である。
【0080】
これにより、メガネ40などの、ユーザ2が装着可能な光学部品が実現される。仮に、外観の色づきが抑制されないメガネ40をユーザ2が装着している場合には、他人に違和感を与える恐れがある。本実施の形態によれば、メガネ40の外観の色づきが抑制されるので、他人にとっての日常生活における違和感を低減することができる。
【0081】
(その他)
以上、本発明に係る光学フィルタ、色覚補正用レンズ及び色覚補正用の光学部品について、上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0082】
例えば、上記の実施の形態では、2種類の色素材料によって、色覚補正機能の確保及び青信号の視認性の確保のための条件を満たす透過スペクトルを実現する例について説明したが、これに限らない。
【0083】
例えば、光学フィルタに含まれる1種類以上の吸収色素材料は、第1種類の吸収色素材料のみを含んでもよい。例えば、第1種類の吸収色素材料は、吸収スペクトルにおいて、波長が540nm以上550nm以下の範囲に含まれる第1吸収ピークと、波長が400nm以上435nm以下の範囲に含まれる第2吸収ピークとを有してもよい。このように、2つの吸収ピークを有する1種類の色素材料のみで、所望の透過スペクトルを実現してもよい。
【0084】
また、例えば、このとき、1種類以上の吸収色素材料は、さらに、上記第1種類の吸収色素材料だけでなく、第1種類の吸収色素材料とは吸収スペクトルが異なる第2種類の吸収色素材料を含んでもよい。第2種類の吸収色素材料は、吸収スペクトルにおいて、波長が400nm以上435nm以下の範囲に含まれる吸収ピークを有してもよい。これにより、波長が400nm以上435nm以下の範囲の透過率をさらに低くすることができるので、光学フィルタ1の色覚補正機能をより高めることができる。
【0085】
このとき、例えば、第1吸収ピークは、第2吸収ピークよりも吸光度が高いピークであってもよい。これにより、第1種類の色素材料の第2吸収ピークを補うことができる。1種類のみの色素材料で実現する場合に比べて、透過スペクトルの調整を容易に行うことができる。
【0086】
あるいは、例えば、第2種類の吸収色素材料は、吸収スペクトルにおいて、波長が540nm以上550nm以下の範囲に含まれる吸収ピークを有してもよい。これにより、波長が540nm以上550nm以下の範囲の透過率をさらに低くすることができるので、光学フィルタ1の色覚補正機能をより高めることができる。
【0087】
このとき、例えば、第2吸収ピークは、第1吸収ピークよりも吸光度が高いピークであってもよい。これにより、第1種類の色素材料の第1吸収ピークを補うことができる。1種類のみの色素材料で実現する場合に比べて、透過スペクトルの調整を容易に行うことができる。
【0088】
また、例えば、上記の実施の形態では、吸収色素材料の種類及び含有量を調整することにより、光学フィルタ1の透過スペクトルを実現する例を示したが、これに限らない。例えば、光学フィルタ1は、吸収色素材料を含有しない基材10と、基材10の表面に設けられた誘電体多層薄膜とを備えてもよい。誘電体多層薄膜による光の干渉を利用して、光学フィルタ1の透過スペクトルが実現されてもよい。
【0089】
また、例えば、光学フィルタ1の基材10は、平板であってもよい。具体的には、基材10のユーザ2に対向する第1面、及び、当該第1面とは反対側の第2面は、いずれも平面であってもよい。また、基材10の第2面が凹面であってもよい。
【0090】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1 光学フィルタ
10 基材
21、22 吸収色素材料
40 メガネ
42 コンタクトレンズ
44 眼内レンズ
46 ゴーグル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9