(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置、プラズマ処理方法ならびに素子チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/461 20060101AFI20231006BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20231006BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
H01L21/461
H01L21/302 101C
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2019239420
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】針貝 篤史
(72)【発明者】
【氏名】置田 尚吾
【審査官】船越 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-054854(JP,A)
【文献】特開2000-156373(JP,A)
【文献】特開2018-186179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/461
H01L 21/3065
H01L 21/301-21/302
H01L 21/67-21/683
H01L 21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送キャリアに保持された基板にプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、
前記搬送キャリアは、保持シートと前記保持シートの外周部を支持するフレームとを備え、
前記基板は、前記保持シートに貼着されており、
反応室と、
前記反応室の内部にプラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記反応室の内部に配置され、前記搬送キャリアが載置されるステージと、
前記ステージ内部に配置された電極部を備える静電吸着機構と、
前記フレームを支持する支持部と、
前記支持部を昇降させる昇降機構と、
前記プラズマ発生部、前記静電吸着機構および前記昇降機構を制御する制御部と、を具備し、
前記制御部は、
前記ステージに前記搬送キャリアに保持された前記基板が載置されているとき、前記電極部に電圧を印加して、前記基板を前記ステージに静電吸着させる吸着ステップと、
前記ステージに静電吸着された前記基板を、エッチング用のプラズマに晒すエッチングステップと、
前記支持部を上昇させて、前記保持シートの少なくとも一部を前記ステージに接触させながら、前記フレームを前記ステージから離間させるフレーム離間ステップと、
前記基板と前記電極部との間に反発力を生じさせる電圧を前記電極部に印加して、前記保持シートを前記ステージから離間させる保持シート離間ステップと、
前記ステージから離間した前記基板を、除電用のプラズマに晒す除電ステップと、
を順次行うように、前記プラズマ発生部、前記静電吸着機構および前記昇降機構を制御する、プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記保持シート離間ステップでは、前記エッチングステップにおいて前記電極部に印加されていた電圧とは異なる極性を有する電圧が印加される、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記電極部は、前記フレームに対向しない位置に配置されている、請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記保持シート離間ステップの後、前記除電ステップの前に、前記支持部をさらに上昇させる上昇ステップを行わせる、請求項1~3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
搬送キャリアに保持された基板にプラズマ処理を行うプラズマ処理方法であって、
前記搬送キャリアは、保持シートと前記保持シートの外周部を支持するフレームとを備え、
前記基板は、前記保持シートに貼着されており、
ステージに前記搬送キャリアに保持された前記基板が載置されているとき、前記ステージに配置された電極部に電圧を印加して、前記基板を前記ステージに静電吸着させる吸着ステップと、
前記ステージに静電吸着された前記基板を、エッチング用のプラズマに晒すエッチングステップと、
前記エッチングステップの後、前記保持シートの少なくとも一部を前記ステージに接触させながら、前記フレームを前記ステージから離間させるフレーム離間ステップと、
前記フレーム離間ステップの後、前記基板と前記電極部との間に反発力を生じさせる電圧を前記電極部に印加して、前記保持シートを前記ステージから離間させる保持シート離間ステップと、
前記保持シート離間ステップの後、前記ステージから離間した前記基板を、除電用のプラズマに晒す除電ステップと、を備える、プラズマ処理方法。
【請求項6】
前記保持シート離間ステップでは、前記エッチングステップにおいて前記電極部に印加されていた電圧とは異なる極性を有する電圧が印加される、請求項5に記載のプラズマ処理方法。
【請求項7】
前記保持シート離間ステップの後、前記除電ステップの前に、前記フレームをさらに上昇させる上昇ステップを備える、請求項5または6に記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
保持シートおよび前記保持シートの外周部を支持するフレームを備える搬送キャリアと、前記保持シートに保持され、複数の素子領域および複数の分割領域に区画されるとともに、第1主面および前記保持シートに貼着された第2主面を有する基板を準備する準備工程と、
前記基板をエッチング用のプラズマに晒して前記分割領域における前記基板を除去し、複数の素子チップに分割するプラズマダイシング工程と、を備え、
前記プラズマダイシング工程は、
ステージに前記搬送キャリアに保持された前記基板が載置されているとき、前記ステージに配置された電極部に電圧を印加して、前記基板を前記ステージに静電吸着させる吸着ステップと、
前記ステージに静電吸着された前記基板を、エッチング用のプラズマに晒すエッチングステップと、
前記エッチングステップの後、前記保持シートの少なくとも一部を前記ステージに接触させながら、前記フレームを前記ステージから離間させるフレーム離間ステップと、
前記フレーム離間ステップの後、前記基板と前記電極部との間に反発力を生じさせる電圧を前記電極部に印加して、前記保持シートを前記ステージから離間させる保持シート離間ステップと、
前記保持シート離間ステップの後、前記ステージから離間した前記基板を、除電用のプラズマに晒す除電ステップと、を備える、素子チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置、プラズマ処理方法ならびに素子チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板をダイシングする方法として、レジストマスクを形成した基板にプラズマエッチングを施して個々のチップに分割するプラズマダイシングが知られている。基板をプラズマダイシングする際、搬送やピックアップ等における基板あるいは素子チップのハンドリング性向上のために、搬送キャリアに基板を保持させることが提案されている。搬送キャリアは、保持シートおよび保持シートの外周部を支持するフレームを備える。
【0003】
搬送キャリアに基板を保持させた状態でプラズマ処理を行う場合、通常、静電チャックといわれる静電吸着機構により、基板と保持シートとをプラズマ処理装置のステージに吸着させる。静電吸着機構は、ステージの内部に配置された静電吸着(Electrostatic Chuck)用電極(以下、ESC電極と称する)に電圧を印加し、ESC電極と基板および保持シートとの間に働くクーロン力やジョンソン・ラーベック力によって、基板をステージに吸着させる。プラズマ処理後、基板および保持シートに残存する電荷を除去した後、搬送キャリアはプラズマ処理装置から搬出される。
【0004】
特許文献1は、ステージと保持シートとの間に除電用のガスを供給したり、基板を除電用のプラズマに晒すことにより除電を行うことを教示している。その後、搬送キャリアは、ステージから持ち上げられて、離間される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラズマを用いて除電する場合、基板に加えて保持シートもプラズマに晒される。そのため、保持シートは加熱され、劣化することがある。さらに、保持シートが加熱された状態でフレームを持ち上げると、保持シートが伸張して亀裂が生じることもある。また、伸張した保持シートが冷却されて収縮する際にシワが生じる場合もある。保持シートに亀裂やシワがあることにより、プラズマ処理後のピックアップ工程において、チップを正確に認識することが困難となり、ピックアップミスが生じ易くなる。特に、厚い基板や酸化膜等を備える基板のプラズマ処理時間は長くなる傾向にある。基板は、その間ずっと静電吸着されているため、残留電荷も多くなる。このような基板を除電するには、長時間、高いパワーで発生させた除電用のプラズマに晒す必要があり、保持シートはさらに劣化し易い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、搬送キャリアに保持された基板にプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、前記搬送キャリアは、保持シートと前記保持シートの外周部を支持するフレームとを備え、前記基板は、前記保持シートに貼着されており、反応室と、前記反応室の内部にプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記反応室の内部に配置され、前記搬送キャリアが載置されるステージと、前記ステージ内部に配置された電極部を備える静電吸着機構と、前記フレームを支持する支持部と、前記支持部を昇降させる昇降機構と、前記プラズマ発生部、前記静電吸着機構および前記昇降機構を制御する制御部と、を具備し、前記制御部は、前記ステージに前記搬送キャリアに保持された前記基板が載置されているとき、前記電極部に電圧を印加して、前記基板を前記ステージに静電吸着させる吸着ステップと、前記ステージに静電吸着された前記基板を、エッチング用のプラズマに晒すエッチングステップと、前記支持部を上昇させて、前記保持シートの少なくとも一部を前記ステージに接触させながら、前記フレームを前記ステージから離間させるフレーム離間ステップと、前記基板と前記電極部との間に反発力を生じさせる電圧を前記電極部に印加して、前記保持シートを前記ステージから離間させる保持シート離間ステップと、前記ステージから離間した前記基板を、除電用のプラズマに晒す除電ステップと、順次行うように、前記プラズマ発生部、前記静電吸着機構および前記昇降機構を制御する、プラズマ処理装置に関する。
【0008】
本発明の他の局面は、搬送キャリアに保持された基板にプラズマ処理を行うプラズマ処理方法であって、前記搬送キャリアは、保持シートと前記保持シートの外周部を支持するフレームとを備え、前記基板は、前記保持シートに貼着されており、ステージに前記搬送キャリアに保持された前記基板が載置されているとき、前記ステージに配置された電極部に電圧を印加して、前記基板を前記ステージに静電吸着させる吸着ステップと、前記ステージに静電吸着された前記基板を、エッチング用のプラズマに晒すエッチングステップと、前記エッチングステップの後、前記保持シートの少なくとも一部を前記ステージに接触させながら、前記フレームを前記ステージから離間させるフレーム離間ステップと、前記フレーム離間ステップの後、前記基板と前記電極部との間に反発力を生じさせる電圧を前記電極部に印加して、前記保持シートを前記ステージから離間させる保持シート離間ステップと、前記保持シート離間ステップの後、前記ステージから離間した前記基板を、除電用のプラズマに晒す除電ステップと、を備える、プラズマ処理方法に関する。
【0009】
本発明のさらに他の局面は、保持シートおよび前記保持シートの外周部を支持するフレームを備える搬送キャリアと、前記保持シートに保持され、複数の素子領域および複数の分割領域に区画されるとともに、第1主面および前記保持シートに貼着された第2主面を有する基板を準備する準備工程と、前記基板をエッチング用のプラズマに晒して前記分割領域における前記基板を除去し、複数の素子チップに分割するプラズマダイシング工程と、を備え、前記プラズマダイシング工程は、ステージに前記搬送キャリアに保持された前記基板が載置されているとき、前記ステージに配置された電極部に電圧を印加して、前記基板を前記ステージに静電吸着させる吸着ステップと、前記ステージに静電吸着された前記基板を、エッチング用のプラズマに晒すエッチングステップと、前記エッチングステップの後、前記保持シートの少なくとも一部を前記ステージに接触させながら、前記フレームを前記ステージから離間させるフレーム離間ステップと、前記フレーム離間ステップの後、前記基板と前記電極部との間に反発力を生じさせる電圧を前記電極部に印加して、前記保持シートを前記ステージから離間させる保持シート離間ステップと、前記保持シート離間ステップの後、前記ステージから離間した前記基板を、除電用のプラズマに晒す除電ステップと、を備える、素子チップの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板の搬送に用いられる保持シートの熱による劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理方法を示すフローチャートである。
【
図2A】本発明の一実施形態に係る搬送キャリアとこれに保持された基板とを模式的に示す上面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る双極型のESC電極と直流電源との関係を示す概念図である。
【
図4】本発明の一実施形態で使用されるプラズマ処理装置のブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の動作の一例を、横軸を時間として概念的に示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態に係るエッチングステップ後のプラズマ処理装置の要部を模式的に示す断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るフレーム離間ステップ後のプラズマ処理装置の要部を模式的に示す断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る保持シート離間ステップ後のプラズマ処理装置の要部を模式的に示す断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る除電ステップ中のプラズマ処理装置の要部を模式的に示す断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の一実施形態に係る素子チップの製造方法を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成工程後の基板の一部を模式的に示す断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る開口形成工程後の基板の一部を模式的に示す断面図である。
【
図14】本発明の一実施形態で使用されるプラズマ処理装置の構造を概略的に示す断面図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係るプラズマダイシング工程で作製された素子チップを模式的に示す断面図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る樹脂膜除去工程後の素子チップを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態にかかるプラズマ処理装置は、基板を除電する際、まずフレームをステージから持ち上げる。フレームは通常、剛性があり、また金属等の帯電し難い素材で作製されているため、スムーズに持ち上げることができる。次に、この状態でステージに設けられている電極部に電圧を印加して、基板と電極部との間に反発力を生じさせる。これにより、過度な負荷をかけることなく、保持シートをステージから離間させることができる。これらのステップは、プラズマが発生していない反応室の中で行われるため、保持シートには、熱による劣化が生じ難い。その後、基板は除電用のプラズマに晒される。しかし、基板および保持シートはすでにステージから離間しているため、帯電の程度は小さくなっている。よって、除電処理を、短時間かつ低パワーで終了することができる。つまり、本実施形態によれば、除電処理を、熱による影響が小さくなる条件で行うことができる。
【0013】
本実施形態に係るプラズマ処理方法は、上記のプラズマ処理装置により実行される。本実施形態は、このようなプラズマ処理方法を包含する。本実施形態に係るプラズマ処理方法は、プラズマダイシングにより素子チップを作製する方法として特に適している。本実施形態は、プラズマダイシング工程を備える素子チップの製造方法を包含する。
【0014】
A.プラズマ処理装置
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、搬送キャリアに保持された基板にプラズマ処理を行う。搬送キャリアは、保持シートと保持シートの外周部を支持するフレームとを備える。基板は、保持シートに貼着されている。プラズマ処理装置は、反応室と、反応室の内部にプラズマを発生させるプラズマ発生部と、反応室の内部に配置され、搬送キャリアが載置されるステージと、ステージ内部に配置された電極部を備える静電吸着機構と、フレームを支持する支持部と、支持部を昇降させる昇降機構と、プラズマ発生部、静電吸着機構および昇降機構を制御する制御部と、を具備する。
【0015】
制御部は、ステージに搬送キャリアに保持された基板が載置されているとき、電極部に電圧を印加して、基板をステージに静電吸着させる吸着ステップと、ステージに静電吸着された基板を、エッチング用のプラズマに晒すエッチングステップと、支持部を上昇させて、保持シートの少なくとも一部をステージに接触させながら、フレームをステージから離間させるフレーム離間ステップと、基板と電極部との間に反発力を生じさせる電圧を電極部に印加して、保持シートをステージから離間させる保持シート離間ステップと、ステージから離間した基板を、除電用のプラズマに晒す除電ステップと、を順次行うように、プラズマ発生部、静電吸着機構および昇降機構を制御する。
【0016】
B.プラズマ処理方法
本実施形態に係るプラズマ処理方法は、搬送キャリアに保持された基板にプラズマ処理を行う。搬送キャリアは、保持シートと保持シートの外周部を支持するフレームとを備える。基板は、保持シートに貼着されている。プラズマ処理方法は、ステージに搬送キャリアに保持された基板が載置されているとき、ステージに配置された電極部に電圧を印加して、基板をステージに静電吸着させる吸着ステップと、ステージに静電吸着された基板を、エッチング用のプラズマに晒すエッチングステップと、エッチングステップの後、保持シートの少なくとも一部をステージに接触させながら、フレームをステージから離間させるフレーム離間ステップと、フレーム離間ステップの後、基板と電極部との間に反発力を生じさせる電圧を電極部に印加して、保持シートをステージから離間させる保持シート離間ステップと、保持シート離間ステップの後、ステージから離間した基板を、除電用のプラズマに晒す除電ステップと、を備える。
図1は、本実施形態に係るプラズマ処理方法を示すフローチャートである。
【0017】
(基板)
基板は、プラズマ処理の対象である。基板は、例えば、第1主面および第2主面を備えるとともに、複数の素子領域と複数の分割領域とに区画されている。分割領域は、素子領域を画定している。基板は、例えば、半導体層を備える。基板の素子領域は、さらに配線層を備えてよい。基板の分割領域は、さらに絶縁膜とTEG(Test Element Group)等の金属材料とを備えてよい。分割領域において基板をエッチングすることにより、素子チップが得られる。
【0018】
半導体層は、例えば、シリコン(Si)、ガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)等を含む。素子チップにおける半導体層の厚みは特に限定されず、例えば、20μm以上1000μm以下であり、100μm以上300μm以下であってもよい。
【0019】
配線層は、例えば、半導体回路、電子部品素子、MEMS等を構成しており、絶縁膜、金属材料、樹脂層(例えば、ポリイミド)、レジスト層、電極パッド、バンプ等を備えてもよい。絶縁膜は、配線用の金属材料との積層体(多層配線層あるいは再配線層)として含まれてもよい。
【0020】
基板の大きさは特に限定されず、例えば、最大径50mm以上300mm以下程度である。基板の形状も特に限定されず、例えば、円形、角型である。また、基板には、オリエンテーションフラット(オリフラ)、ノッチ等の切欠きが設けられていてもよい。
【0021】
分割領域の形状は、直線に限られず、所望の素子チップの形状に応じて設定されればよく、ジグザグであってもよいし、波線であってもよい。なお、素子チップの形状としては、例えば、矩形、六角形等が挙げられる。
【0022】
分割領域の幅は特に限定されず、基板や素子チップの大きさ等に応じて、適宜設定すればよい。分割領域の幅は、例えば、10μm以上300μm以下である。複数の分割領域の幅は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。分割領域は、通常、複数本、基板に配置されている。隣接する分割領域同士のピッチも特に限定されず、基板や素子チップの大きさ等に応じて、適宜設定すればよい。
【0023】
(搬送キャリア)
搬送キャリアは、保持シートと、保持シートの外周部を支持するフレームと、を備える。
【0024】
フレームは、基板の全体と同じかそれ以上の面積の開口を有した枠体であり、所定の幅および略一定の薄い厚みを有している。フレームは、保持シートおよび基板を保持した状態で搬送できる程度の剛性を有している。フレームの開口の形状は特に限定されないが、例えば、円形や、矩形、六角形など多角形であってもよい。フレームの材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属や、樹脂等が挙げられる。
【0025】
保持シートの材質は特に限定されない。なかでも、基板が貼着され易い点で、保持シートは、粘着層と柔軟性のある非粘着層とを含むことが好ましい。
【0026】
非粘着層の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。樹脂フィルムには、伸縮性を付加するためのゴム成分(例えば、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等)、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、導電性材料等の各種添加剤が配合されていてもよい。また、上記熱可塑性樹脂は、アクリル基等の光重合反応を示す官能基を有していてもよい。非粘着層の厚みは特に限定されず、例えば、50μm以上300μm以下であり、好ましくは50μm以上150μm以下である。
【0027】
粘着層を備える面(粘着面)の外周縁は、フレームの一方の面に貼着しており、フレームの開口を覆っている。粘着面のフレームの開口から露出した部分に、基板の一方の主面(第2主面)が貼着されることにより、基板は保持シートに保持される。基板は、ダイアタッチフィルム(DAF)を介して、保持シートに保持されてもよい。
【0028】
粘着層は、紫外線(UV)の照射によって粘着力が減少する粘着成分からなることが好ましい。これにより、プラズマダイシング後に素子チップをピックアップする際、UV照射を行うことにより、素子チップが粘着層から容易に剥離されて、ピックアップし易くなる。例えば、粘着層は、非粘着層の片面に、UV硬化型アクリル粘着剤を5μm以上100μm以下(好ましくは5μm以上15μm以下)の厚みに塗布することにより得られる。
【0029】
図2Aは、搬送キャリアとこれに保持された基板とを模式的に示す上面図である。
図2Bは、
図2Aに示すA-A線での断面図である。
【0030】
搬送キャリア20は、保持シート22と、保持シート22の外周部を支持する環状のフレーム21と、を備える。フレーム21には、位置決めのためのノッチ21aやコーナーカット21bが設けられていてもよい。粘着面22Xの外周縁は、フレーム21の一方の面に貼着し、粘着面22Xのフレーム21の開口から露出した部分に、基板10の一方の主面が貼着される。
【0031】
(反応室)
反応室(以下、真空チャンバと称す。)は、例えば、上部が開口した概ね円筒状である。真空チャンバの上部開口は蓋体である誘電体部材により閉鎖されている。誘電体部材の上方には、上部電極(第1の電極)が配置されている。第1の電極は、高周波電源(第1の高周波電源)と電気的に接続されている。
【0032】
真空チャンバには、ガス導入口が接続されている。ガス導入口には、プラズマ発生用ガス(プロセスガス)の供給源であるプロセスガス源が接続されている。また、真空チャンバには、排気口が設けられており、排気口には、真空チャンバ内のガスを排気して減圧するための真空ポンプを含む減圧機構が接続されている。
【0033】
真空チャンバを構成する材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS)、表面をアルマイト加工したアルミニウム等が例示できる。誘電体部材を構成する材料としては、酸化イットリウム(Y2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、石英(SiO2)等の誘電体材料が例示できる。
【0034】
(プラズマ発生部)
プラズマ発生部は、上記の第1の電極、プロセスガス源および第1高周波電源により構成される。
真空チャンバ内にプロセスガスが供給された状態で、第1の電極に第1の高周波電源から高周波電力が供給されることにより、真空チャンバ内にプラズマが発生する。
【0035】
(ステージ)
ステージは、真空チャンバ内の底部側に配置されている。
ステージは、搬送キャリアの全体を載置できる程度の大きさを備える。ステージには、保持シートの基板を保持している面が上方を向くように、搬送キャリアが載置される。
【0036】
(静電吸着機構)
静電吸着機構は、ステージ内部に設けられた電極部(以下、ESC電極と称す。)と、ESC電極に接続された直流電源により構成される。直流電源からESC電極に電圧が印加されると、ステージと基板および保持シート(以下、基板等と称す場合がある。)との間にクーロン力またはジョンソン・ラーベック力が生じ、ステージに基板が吸着する。
【0037】
ESC電極は、単極型と双極型の2つの型式に大別される。
単極型のESC電極は、少なくとも1つの電極からなり、この少なくとも1つの電極には同じ極性の電圧が印加される。単極型のESC電極を備える静電吸着機構は、吸着メカニズムとしてクーロン力を利用する。ESC電極に電圧を印加することにより、誘電体からなるステージの表面に誘電分極による電荷が誘起される。このとき、ステージ上に載置された基板等を帯電させると、ステージの表面に誘起された電荷と帯電した基板等との間でクーロン力が働き、基板がステージに吸着される。基板等を帯電させるためには、真空チャンバ内でプラズマを発生させ、基板等をプラズマに曝せばよい。
【0038】
一方、双極型のESC電極は、正極および負極を備え、正極および負極にそれぞれ極性の異なる電圧が印加される。双極型のESC電極としては、例えば、櫛形電極が用いられる。
【0039】
双極型のESC電極を備える静電吸着機構の吸着メカニズムとしては、クーロン力を利用する場合と、ジョンソン・ラーベック力を利用する場合と、がある。吸着メカニズムに応じて、電極の構造や電極を構成する材料(例えば、セラミックス)が適宜選択される。いずれの吸着メカニズムの場合も、正極および負極にそれぞれ極性の異なる電圧を印加することにより、ESC電極と基板と等の間に吸着力が生じ、基板をステージに吸着させることができる。なお、双極型の場合は、単極型の場合と異なり、吸着させるために基板等を帯電させる必要はない。
【0040】
双極型の電極は、正極および負極への電圧の印加の方法によって、単極型として機能させることができる。具体的には、正極と負極に同一極性の電圧を印加することにより、単極型のESC電極として利用できる。以下、双極型の電極の正極および負極に、それぞれ極性の異なる電圧を印加する場合を双極モードと呼び、正極および負極に同一極性の電圧を印加する場合を単極モードと呼ぶ。単極型および双極型のいずれを用いても、搬送キャリアをステージに吸着させることが可能である。以降、ESC電極が双極型である場合を例に挙げ、本実施形態を説明するが、これに限定されるものではない。
【0041】
ESC電極は、その中心とステージの中心とがほぼ一致するように配置される。ESC電極の中心は、ESC電極の全体が収まる最小の正円を描いたとき、当該正円の中心であるとみなすことができる。ESC電極は、フレームに対向しない位置に配置されていることが好ましい。これにより、フレームはさらに帯電し難くなるため、フレーム離間ステップにおいて、より小さな負荷でフレームを上昇させることができる。よって、フレーム離間ステップにおける保持シートへの負荷も小さくなる。
【0042】
図3は、本実施形態に係る双極型のESC電極と直流電源との関係を示す概念図である。ESC電極119は櫛形電極であり、正極にV1の電圧が印加され、負極に-V1の電圧が印加されている。
【0043】
(支持部および昇降機構)
支持部は、例えば、ステージの外周近傍にステージを貫通するように配置されている。支持部は、通常、等間隔に複数配置される。支持部は、搬送キャリアのフレームを支持する。支持部は、昇降機構により昇降駆動される。支持部の昇降駆動により、搬送キャリアはステージ上を昇降する。
【0044】
(制御部)
制御部は、例えばコンピュータを備え、プラズマ発生部、静電吸着機構および昇降機構を制御する。
図4は、本実施形態で使用されるプラズマ処理装置の一例のブロック図である。
制御装置128は、第1の高周波電源110Aおよびプロセスガス源112を含むプラズマ発生部と、第1の昇降機構123Aと、静電吸着機構とを制御する。制御装置128は、さらに、プラズマ処理装置に設けられた第2の高周波電源110B、アッシングガス源113、減圧機構114、冷媒循環装置125および第2の昇降機構123Bの動作も制御する。第2の高周波電源110B等については、後述する。
【0045】
制御部は、プラズマ発生部と静電吸着機構と昇降機構とを、以下の吸着ステップ、エッチングステップ、フレーム離間ステップ、保持シート離間ステップおよび除電ステップが順次行われるように制御する。以下、さらに上昇ステップを備える場合を例に挙げる。
図5は、本実施形態に係るプラズマ処理装置の動作の一例を、横軸を時間として概念的に示すグラフである。
【0046】
(a)吸着ステップ(S1)
エッチングステップを行う前に、基板をステージに静電吸着させる。
搬送キャリアをステージに載置した後、例えば、ESC電極を双極モードで作動させて、基板を静電吸着する。すなわち、ESC電極の正極に例えば+V1の電圧を印加し、負極に-V1の電圧を印加する。静電吸着するときのESC電極の電圧の絶対値(V1)は、例えば、500V以上1500V以下である。
【0047】
(b)エッチングステップ(S2)
ステージに載置された搬送キャリアに保持された基板を、エッチング用のプラズマに晒す。これにより、複数の素子チップが得られる。
【0048】
エッチング用のプラズマは、真空チャンバ内にエッチング用のプロセスガスが供給された状態で、第1の電極に第1の高周波電源から高周波電力が供給されることにより発生する。このとき、さらに、ステージに内蔵された電極(第2の電極)に高周波電力を印加して、ステージにバイアス電圧をかけてもよい。
【0049】
エッチング用のプラズマは、エッチングの対象となる基板の材質などに応じた条件で発生される。
エッチング用のプロセスガスとしては、例えば、CF4、C4F8等のフッ化炭素ガス、CHF3等のフッ化炭化水素、SF6、ArやHe等の希ガス、O2等が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
エッチングステップの際、ESC電極は単極モードで動作していてもよい。つまり、エッチング用のプラズマを発生させる前に、ESC電極を双極モードから単極モードに切り替えてもよい。双極モードから単極モードへの切り替えは、例えば、正極または負極の一方に印加する電圧の極性を反転するか、あるいは、正極または負極の一方に印加する電圧を変化させて、他方の電圧と同じにすること等により行われる。いずれの場合にも、正極および負極には同じ極性の電圧が印加される。
【0051】
エッチングステップにおいてESC電極に印加される電圧の絶対値(V2)は、静電吸着するときのESC電極の電圧の絶対値(V1)より大きくてよい。エッチングステップにおけるESC電極の電圧の絶対値(V2)は、例えば、1500V以上3000V以下である。
【0052】
図6は、エッチングステップ後のプラズマ処理装置の要部を模式的に示す断面図である。
搬送キャリア20はステージ111に載置されている。搬送キャリア20には、基板がエッチングされることにより作製された複数の素子チップ200が保持されている。ステージ111の内部には、ESC電極119が配置されている。ESC電極119は櫛形電極であり、正極および負極には同じ電圧(+V2)が印加されている。
【0053】
ステージ111の外周近傍には、ステージ111を貫通するように複数の支持部122が配置されている。支持部122は、搬送キャリア20のフレーム21を支持している。ステージ111の内部には、第2の電極120も配置されている。第2の電極120により、ステージ111にバイアス電圧をかけることができる。
【0054】
(c)フレーム離間ステップ(S3)
支持部を上昇させて、フレームをステージから離間させる。ただし、保持シートの少なくとも一部は、ステージに接触させておく。このように、フレームをわずかに上昇させることにより、保持シートには過度な負荷がかかり難い。フレームのステージ側の面とステージとの最短距離H1は、例えば1mm以上5mm以下である。
【0055】
フレーム離間ステップにおいて、ESC電極にはエッチングステップと同じ電圧(V2)が印加されていてよい。
【0056】
図7は、本実施形態に係るフレーム離間ステップ後のプラズマ処理装置の要部を模式的に示す断面図である。支持部122が上昇し、フレーム21がステージ111から離間している。一方、保持シート22の一部は、ステージ111に接触している。ESC電極119の正極および負極には、依然として+V2の電圧が印加されている。
【0057】
(d)保持シート離間ステップ(S4)
基板と電極部との間に反発力を生じさせる電圧を、電極部に印加する。これにより、保持シートがステージから離間する。このとき、真空チャンバ内にプラズマは発生していないため、保持シートは加熱されていない。よって、保持シートがステージから離間する際にも、その伸張は抑制される。さらに、すでにフレームはステージから離間しているため、基板に与えられる上記反発力は、保持シートを離間させるために効果的に作用する。保持シートのステージ側の面とステージとの最短距離H2は、最短距離H1以下である。
【0058】
保持シート離間ステップにおいて電極部に印加される電圧は、例えば、エッチングステップにおいて電極部に印加されていた電圧とは異なる極性を有する。上記反発力は、電圧の極性を切り替えることにより、容易に発生させることができる。極性の切り替えは、例えば、エッチングステップにおいて電極部に印加されていた電圧の絶対値(V2)を変えずにその極性を反転するか、あるいは、プラスの電圧をマイナスになるまで変化させること等により行われる。保持シート離間ステップにおいて電極部に印加される電圧の絶対値(V3)は、エッチングステップにおいて電極部に印加されていた電圧の絶対値(V2)と同じであってもよいし、異なっていてもよい。保持シート離間ステップにおいて電極部に印加される電圧の絶対値(V3)は、例えば、-2000V以上-300V以下である。
【0059】
図8は、本実施形態に係る保持シート離間ステップ後のプラズマ処理装置の要部を模式的に示す断面図である。ESC電極119の正極および負極には、エッチングステップにおいて電極部に印加されていた電圧(+V2)とは反対の極性を有する電圧(-V2)が印加されている。そのため、保持シート22とステージ111との間に斥力が生じ、保持シート22はステージ111から離間している。
【0060】
(e)上昇ステップ(S5)
保持シート離間ステップの後、除電ステップの前に、支持部をさらに上昇させてもよい。これにより、基板等の帯電の程度がさらに小さくなるため、除電ステップの処理時間をさらに短くしたり、パワーをさらに小さくすることが可能となる。フレームのステージ側の面とステージとの最短距離H3は、例えば10mm以上であってよく、15mm以上であってよい。
【0061】
(f)除電ステップ(S6)
ステージの上方で支持された基板を、除電用のプラズマに晒す。基板等はすでにステージから離間しているため、除電ステップは、短時間、低パワーで終了できる。そのため、保持シートの加熱による劣化が抑制される。
【0062】
除電用のプラズマは、基板および保持シートをエッチングし難いことが望ましい。
除電用のプロセスガスとしては、例えば、ArやHe等の希ガスが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。プロセスガスの供給量は、例えば、50sccm以上200sccm以下であってよい。
【0063】
除電ステップにおいて、真空チャンバ内の圧力は、例えば、5Pa以上20Pa以下であってよい。第1の高周波電源から第1の電極への投入電力は、50W以上500W以下であってよい。処理時間は、例えば、5秒以上60秒以下であってよい。
【0064】
除電ステップにおいて、ESC電極には電圧が印加されてなくてよい。ESC電極への電圧の印加停止は、除電用のプラズマの発生と同時であってもよいし、除電用のプラズマが発生した後であってもよい。
【0065】
図9は、本実施形態に係る除電ステップ中のプラズマ処理装置の要部を模式的に示す断面図である。支持部122は、除電ステップの前にさらに上昇されている。この状態で、複数の素子チップ200は、除電用のプラズマPに晒されている。
【0066】
以下、本実施形態にかかるプラズマ処理装置の動作をより詳細に示す。
図10は、本実施形態に係るプラズマ処理装置の動作を示すフローチャートである。
【0067】
プラズマ処理装置の動作が開始されると(ST01)、搬送キャリアに保持された基板が搬送アーム等により真空チャンバ内に搬入される。このとき、支持部は上昇した状態で待機している。搬送キャリアがステージ上方の所定の位置に到達すると、支持部に搬送キャリアが受け渡される。搬送キャリアが支持部に受け渡されると、真空チャンバは密閉状態に置かれる。その後、支持部は、その上端面がステージと同じレベル以下にまで降下し、搬送キャリアがステージに載置される(ST02)。
【0068】
その後、直流電源からESC電極に電圧が印加される(ST03)。これにより、保持シートおよび基板がステージに静電吸着される。ESC電極は双極モードで作動している。なお、ESC電極への電圧の印加は、搬送キャリアが搬入された後、載置される前に開始されてもよい。
【0069】
続いて、真空チャンバ内に吸着用のガスを供給するとともに第1の電極に第1の高周波電源から低い電力(例えば、500W以下)を供給して、真空チャンバ内に低パワーのプラズマを発生させる。その後、ESC電極を双極モードから単極モードに切り替える。これにより、モード切替え時にも、基板をステージに安定して吸着させておくことができる。
【0070】
モードの切り替えが完了した後、真空チャンバ内にエッチング用のガスが供給されるとともに、第1の電極に第1の高周波電源から高周波電力が供給される(ST04)。これにより、真空チャンバ内にエッチング用のプラズマが発生し、基板がプラズマエッチングされる。
【0071】
所定のプラズマエッチングが終了すると、エッチング用のガスの供給および第1の電極への電力供給が停止される(ST05)。その後、支持部を上昇させて(ST06)、フレームをステージから離間する。ただし、保持シートの少なくとも一部はステージに接触させておく。続いて、単極モードのESC電極に印加されていた電圧の極性を反転させる(ST07)。これにより、基板と電極部との間に反発力が生じて、保持シートの全体がステージから離間する。保持シートが離間した後、支持部をさらに上昇させてもよい(ST08)。
【0072】
続いて、真空チャンバ内に除電用のガスが供給されるとともに、第1の電極に第1の高周波電源から高周波電力が供給される(ST09)。これにより、真空チャンバ内に除電用のプラズマが発生し、基板および保持シートは除電される。除電用のプラズマの発生が開始されたら、ESC電極への電圧の印加が停止される(ST10)。所定の除電処理が終了した後、除電用のガスの供給および第1の電極への電力供給が停止される(ST11)。
【0073】
真空チャンバが開放されて、進入してきた搬送アームにより搬送キャリアが搬出されて(ST12)、プラズマ処理は終了する(ST13)。搬送キャリアを搬出する前に、支持部を搬入時と同等の位置にまでさらに上昇させてもよい。
【0074】
C.素子チップの製造方法
本実施形態に係る素子チップの製造方法は、保持シートおよび保持シートの外周部を支持するフレームを備える搬送キャリアと、保持シートに保持され、複数の素子領域および複数の分割領域に区画されるとともに、第1主面および前記保持シートに貼着された第2主面を有する基板を準備する準備工程と、基板をエッチング用のプラズマに晒して分割領域における基板を除去し、複数の素子チップに分割するプラズマダイシング工程と、を備える。プラズマダイシング工程は、ステージに搬送キャリアに保持された基板が載置されているとき、ステージに配置された電極部に電圧を印加して、基板をステージに静電吸着させる吸着ステップと、ステージに静電吸着された基板を、エッチング用のプラズマに晒すエッチングステップと、エッチングステップの後、保持シートの少なくとも一部をステージに接触させながら、フレームをステージから離間させるフレーム離間ステップと、フレーム離間ステップの後、基板と電極部との間に反発力を生じさせる電圧を電極部に印加して、保持シートをステージから離間させる保持シート離間ステップと、保持シート離間ステップの後、ステージから離間した基板を、除電用のプラズマに晒す除電ステップと、を備える。
図11は、本実施形態に係る素子チップの製造方法を示すフローチャートである。
【0075】
(1)準備工程(S11)
まず、搬送キャリアに保持された基板を準備する。基板および搬送キャリアの形状、材質等は上記の通りである。
【0076】
(2)樹脂膜形成工程(S12)
基板の第1主面を被覆する樹脂膜を形成する。樹脂膜は、基板の素子領域をプラズマ等から保護するために設けられる。
【0077】
樹脂膜は、例えば、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、フェノール樹脂等のフォトレジスト、あるいは、アクリル樹脂等の水溶性レジスト等の、いわゆるレジスト材料を含む。樹脂膜は、例えば、レジスト材料をシート状に成型した後、このシートを基板に貼り付けるか、あるいは、レジスト材料の原料液を、スピンコートやスプレー塗布等の方法を用いて、基板に塗布することにより形成される。
【0078】
樹脂膜の厚みは特に限定されないが、プラズマ処理により完全には除去されない程度であることが好ましい。樹脂膜の厚みは、例えば、プラズマ処理において樹脂膜がエッチングされる合計の量(厚み)を算出し、このエッチング量以上になるように設定される。樹脂膜の厚みは、例えば、5μm以上60μm以下である。
【0079】
図12は、本実施形態に係る樹脂膜形成工程後の基板の一部を模式的に示す断面図である。
基板10は、第1主面10Xおよび第2主面10Yを備えるとともに、複数の素子領域101と素子領域101を画定する分割領域102とを備える。素子領域101は、半導体層11と、半導体層11の第1主面10X側に積層される配線層12と、を備える。分割領域102は、半導体層11と、絶縁膜14とを備える。基板10の第2主面10Yは搬送キャリア20が備える保持シート22に貼着されている。第1主面10Xは樹脂膜40により被覆されている。
【0080】
(3)開口形成工程(S13)
樹脂膜に開口を形成して、分割領域において基板を露出させる。
【0081】
開口は、例えば、フォトレジストにより形成された樹脂膜のうち、分割領域に対応する領域をフォトリソグラフィ法によって除去することにより形成される。熱硬化性樹脂あるいは水溶性レジストにより形成された樹脂膜のうち、分割領域に対応する領域をレーザスクライビングによりパターニングして、開口を形成してもよい。
【0082】
開口は、分割領域における樹脂膜および絶縁膜が除去されることにより形成されてもよい。分割領域における絶縁膜の除去は、後述するプラズマダイシング工程において行ってもよい。この場合、配線層を除去するためのプラズマを発生させる条件と、基板をエッチングするためのプラズマを発生させる条件とは異なり得る。
【0083】
開口形成工程の後、プラズマダイシング工程を行う前に、開口にレーザ光あるいはプラズマを照射してもよい。この工程は、例えば、開口形成工程に起因する残渣を低減する目的で行われる。これにより、高品質のプラズマエッチングを行うことが可能になる。
【0084】
図13は、本実施形態に係る開口形成工程後の基板の一部を模式的に示す断面図である。基板10の分割領域102における樹脂膜40および絶縁膜14が除去されて、開口から半導体層11が露出している。
【0085】
(4)プラズマダイシング工程(S14)
基板をプラズマに晒して、開口から露出する分割領域における基板を第2主面までエッチングし、基板から複数の素子チップを形成する。複数の素子チップは、保持シートに保持された状態で得られる。
【0086】
プラズマダイシング工程は、上記の吸着ステップと、フレーム離間ステップと、保持シート離間ステップと、除電ステップとにより行われる。これにより、保持シートの熱による劣化が抑制される。
【0087】
図14を参照しながら、プラズマエッチングに使用されるプラズマ処理装置100をさらに詳細に説明する。プラズマ処理装置は、これに限定されるものではない。
図14は、プラズマ処理装置100の構造を概略的に示す断面図であり、便宜上、樹脂膜40を省略している。
【0088】
(プラズマ処理装置)
プラズマ処理装置100は、上記の真空チャンバ103と、プラズマ発生部と、ステージ111と、静電吸着機構と、支持部122と、支持部122を昇降する昇降機構(第1の昇降機構123A)と、制御装置128と、を具備する。
真空チャンバ103は、例えば、上部が開口した概ね円筒状であり、その上部開口は蓋体である誘電体部材108により閉鎖されている。誘電体部材108の上方には、上部電極としての第1の電極109が配置されている。第1の電極109は、第1の高周波電源110Aと電気的に接続されている。
【0089】
ステージ111は、真空チャンバ103内の底部側に配置される。ステージ111は、それぞれ略円形の電極層115と、金属層116と、電極層115および金属層116を支持する基台117と、電極層115、金属層116および基台117を取り囲む外周部118とを備える。外周部118は導電性および耐エッチング性を有する金属により構成されており、電極層115、金属層116および基台117をプラズマから保護する。外周部118の上面には、円環状の外周リング129が配置されている。外周リング129は、外周部118の上面をプラズマから保護する役割をもつ。電極層115および外周リング129は、例えば、上記の誘電体材料により構成される。
【0090】
電極層115の内部には、ESC電極119と、第2の高周波電源110Bに電気的に接続された第2の電極120とが配置されている。ESC電極119には、直流電源126が電気的に接続されている。静電吸着機構は、ESC電極119および直流電源126により構成されている。静電吸着機構によって、基板10等はステージ111に固定される。
【0091】
金属層116は、例えば、表面にアルマイト被覆を形成したアルミニウム等により構成される。金属層116内には、冷媒流路127が形成されている。冷媒流路127は、ステージ111を冷却する。ステージ111が冷却されることにより、ステージ111に載置された保持シート22が冷却される。これにより、基板10や保持シート22が、エッチング中に加熱されることによって劣化することが抑制される。冷媒流路127内の冷媒は、冷媒循環装置125により循環される。
【0092】
ステージ111の外周付近には、ステージ111を貫通する複数の支持部122が配置されている。支持部122は、搬送キャリア20のフレーム21を支持する。支持部122は、第1の昇降機構123Aにより昇降駆動される。
【0093】
ステージ111の上方には、基板10の少なくとも一部を露出させるための窓部124Wを有するカバー124が配置されている。カバー124には、フレーム21がステージ111に載置されている状態のとき、フレーム21を押圧するための押さえ部材107が配置されている。押さえ部材107は、フレーム21と点接触できる部材(例えば、コイルバネや弾力性を有する樹脂)であることが好ましい。これにより、フレーム21およびカバー124の熱が互いに影響し合うことを抑制しながら、フレーム21の歪みを矯正することができる。
【0094】
カバー124の端部には、複数の昇降ロッド121が連結しており、カバー124を昇降可能にしている。昇降ロッド121は、第2の昇降機構123Bにより昇降駆動される。第2の昇降機構123Bによるカバー124の昇降の動作は、第1の昇降機構123Aとは独立して行うことができる。
【0095】
カバー124は、例えば、略円形の外形輪郭を有したドーナツ形であり、一定の幅および薄い厚みを備えている。窓部124Wの直径はフレーム21の内径よりも小さく、その外径はフレーム21の外径よりも大きい。したがって、搬送キャリア20をステージ111の所定の位置に載置し、カバー124を降下させると、カバー124は、フレーム21を覆うことができる。窓部124Wからは、基板10の少なくとも一部が露出する。
【0096】
カバー124は、例えば、セラミックス(例えば、アルミナ、窒化アルミニウムなど)や石英などの誘電体や、アルミニウムあるいは表面がアルマイト処理されたアルミニウムなどの金属で構成される。押さえ部材107は、上記の誘電体や金属の他、樹脂材料で構成され得る。
【0097】
真空チャンバ103には、ガス導入口103aが接続されている。ガス導入口103aには、プラズマ発生用ガス(プロセスガス)の供給源であるプロセスガス源112およびアッシングガス源113が、それぞれ接続されている。また、真空チャンバ103には、排気口103bが設けられている。排気口103bには、真空チャンバ103内のガスを排気して減圧するための真空ポンプを含む減圧機構114が接続されている。
【0098】
半導体層をエッチングするプラズマの発生条件は、半導体層の材質などに応じて設定される。
半導体層は、例えば、ボッシュプロセスによりプラズマエッチングされる。ボッシュプロセスでは、半導体層が深さ方向に垂直にエッチングされる。半導体層がSiを含む場合、ボッシュプロセスは、堆積ステップと、堆積膜エッチングステップと、Siエッチングステップとを順次繰り返すことにより、半導体層を深さ方向に掘り進む。
【0099】
堆積ステップは、例えば、プロセスガスとしてC4F8を150sccm以上1000sccm以下で供給しながら、真空チャンバ内の圧力を10Pa以上25Pa以下に調整し、第1の高周波電源から第1の電極への投入電力を1500W以上4800W以下として、第2の高周波電源から第2の電極への投入電力を0W以上50W以下として、2秒以上15秒以下、処理する条件で行われる。
【0100】
堆積膜エッチングステップは、例えば、プロセスガスとしてSF6を200sccm以上1000sccm以下で供給しながら、真空チャンバ内の圧力を5Pa以上15Pa以下に調整し、第1の高周波電源から第1の電極への投入電力を1500W以上4800W以下として、第2の高周波電源から第2の電極への投入電力を0W以上1000W以下として、2秒以上10秒以下、処理する条件で行われる。
【0101】
Siエッチングステップは、プロセスガスとしてSF6を200sccm以上1000sccm以下で供給しながら、真空チャンバ内の圧力を5Pa以上15Pa以下に調整し、第1の高周波電源から第1の電極への投入電力を1500W以上4800W以下として、第2の高周波電源から第2の電極への投入電力を10W以上500W以下として、5秒以上20秒以下、処理する条件で行われる。
【0102】
上記のような条件で、堆積ステップ、堆積膜エッチングステップ、および、Siエッチングステップを繰り返すことにより、Siを含む半導体層は、10μm/分以上20μm/分以下の速度で深さ方向に垂直にエッチングされ得る。
【0103】
図15は、本実施形態に係るプラズマダイシング工程で作製された素子チップを、模式的に示す断面図である。分割領域における基板がエッチングされて、複数の素子チップ200が形成されている。素子チップ200の配線層12は、樹脂膜40により覆われている。
【0104】
(5)樹脂膜除去工程(S15)
プラズマダイシング工程の後、樹脂膜を除去する。
樹脂膜が水溶性である場合、樹脂膜は、水洗により除去することができる。水洗に替えて、プラズマ処理装置においてアッシングを行って、樹脂膜を除去してもよい。この場合、エッチングステップの後、フレーム離間ステップの前にアッシングが行われる。
【0105】
アッシングでは、真空チャンバ内を排気した後、アッシング用のプロセスガス(例えば、酸素ガス(O2)や、O2ガスとフッ素を含むガスとの混合ガス等)を、アッシングガス源から導入する。続いて、第1の高周波電源から第1の電極に高周波電力を投入する。これにより、真空チャンバ内に酸素プラズマが発生し、素子チップの表面の樹脂膜が除去される。
【0106】
具体的には、アッシングは、例えば、アッシングガスとしてCF4とO2との混合ガス(流量比CF4:O2=1:10)を150sccm以上300sccm以下で供給しながら、真空チャンバ内の圧力を5Pa以上15Pa以下に調整し、第1の高周波電源から第1の電極への印加電力を1500W以上5000W以下として、第2の高周波電源から第2の電極への印加電力を0W以上300W以下とする条件により行われる。なお、アッシング工程における第2の電極への印加電力は、プラズマダイシング工程における第2の電極への印加電力よりも小さくなるように設定することが望ましい。
【0107】
図16は、本実施形態に係る樹脂膜除去工程で作製された素子チップを、模式的に示す断面図である。配線層12を覆っていた樹脂膜40が除去されている。
【0108】
樹脂膜除去工程の後、素子チップは、保持シートから取り外される。
素子チップを、例えば、保持シートの非粘着面側から、保持シートとともに突き上げピンで突き上げる。これにより、素子チップの少なくとも一部は、保持シートから浮き上がる。その後、ピックアップ装置により、素子チップは保持シートから取り外される。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、保持シートの熱による劣化が抑制されるため、特に搬送キャリアを用いたプラズマダイシングにより素子チップを製造する方法に好適である。
【符号の説明】
【0110】
10:基板
10X:第1主面
10Y:第2主面
11:半導体層
12:配線層
14:絶縁膜
20:搬送キャリア
21:フレーム
21a:ノッチ
21b:コーナーカット
22:保持シート
22X:粘着面
22Y:非粘着面
40:樹脂膜
100:プラズマ処理装置
103:真空チャンバ
103a:ガス導入口
103b:排気口
108:誘電体部材
109:第1の電極
110A:第1の高周波電源
110B:第2の高周波電源
111:ステージ
112:プロセスガス源
113:アッシングガス源
114:減圧機構
115:電極層
116:金属層
117:基台
118:外周部
119:ESC電極
120:第2の電極
121:昇降ロッド
122:支持部
123A、123B:昇降機構
124:カバー
124W:窓部
125:冷媒循環装置
126:直流電源
127:冷媒流路
128:制御装置
129:外周リング
200:素子チップ