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特許7361311ガス検知方法、プログラム、及びガス検知システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ガス検知方法、プログラム、及びガス検知システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/26 20060101AFI20231006BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
G01N1/26
G01N1/22 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020032380
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021135205
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖 明男
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-223531(JP,A)
【文献】特開2013-146312(JP,A)
【文献】特開2005-61836(JP,A)
【文献】特開2008-167900(JP,A)
【文献】特開2000-5287(JP,A)
【文献】特開2004-132593(JP,A)
【文献】国際公開第2019/106980(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0196812(US,A1)
【文献】特開2001-91416(JP,A)
【文献】特開2005-159445(JP,A)
【文献】特表2019-504993(JP,A)
【文献】特開2002-372544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/26
G01N 1/22
G01N 33/00
G01N 27/12
A61L 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間における複数の検知区間の各々で吸引口から空気を吸引し、吸引した空気中のガス成分の検知結果に基づいて検知対象である対象ガスが存在する対象区間であるか、参照ガスが存在する参照区間であるかを検知区間ごとに判断する前処理と、
前記対象区間と判断された検知区間にて前記吸引口から前記空気を吸引して前記対象ガスの検知を行い、前記参照区間と判断された検知区間にて前記対象ガスとの比較に用いる比較用ガスを取得する本処理と、を有する、
ガス検知方法。
【請求項2】
前記吸引口の位置が可変であって、
前記複数の検知区間は、前記吸引口の向いている領域により決定される、
請求項1記載のガス検知方法。
【請求項3】
前記吸引口を有する筐体の位置が不変であって、
前記吸引口は、前記筐体に対する向き及び位置の少なくとも一方が可変である、
請求項2記載のガス検知方法。
【請求項4】
前記吸引口は、複数であって、
前記複数の吸引口は、互いに向きが異なっており、
前記複数の検知区間は、前記複数の吸引口のうちいずれの吸引口を使用するかにより決定される、
請求項2記載のガス検知方法。
【請求項5】
前記複数の検知区間の少なくとも一部の区間は、時間によって区切られている、
請求項1~4のいずれか1項に記載のガス検知方法。
【請求項6】
前記前処理は、前記参照区間の有無を判断する処理を含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載のガス検知方法。
【請求項7】
前記前処理及び前記本処理の少なくとも一方は、前記吸引口から吸引した前記空気を濃縮し、濃縮した前記空気からガス成分を脱離させる処理を含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載のガス検知方法。
【請求項8】
前記本処理は、前記参照区間にて検知された前記比較用ガスの濃度を基準として、前記対象区間にて検知された前記対象ガスの濃度を測定する処理を含む、
請求項1~7のいずれか1項に記載のガス検知方法。
【請求項9】
1以上のプロセッサに、
請求項1~8のいずれか1項に記載のガス検知方法を実行させる、
プログラム。
【請求項10】
対象空間における複数の検知区間の各々で吸引口から空気を吸引し、吸引した空気中のガス成分の検知結果に基づいて検知対象である対象ガスが存在する対象区間であるか、参照ガスが存在する参照区間であるかを検知区間ごとに判断する前処理部と、
前記対象区間と判断された検知区間にて前記吸引口から前記空気を吸引して前記対象ガスの検知を行い、前記参照区間と判断された検知区間にて前記対象ガスとの比較に用いる比較用ガスを取得する本処理部と、を備える、
ガス検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般にガス検知方法、プログラム、及びガス検知システムに関する。より詳細には、本開示は、空気中のガス成分を検知するガス検知方法、ガス検知方法を実行するためのプログラム、及び空気中のガス成分を検知するガス検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、転動分散型探索ユニットが開示されている。この探索ユニットは、転動可能な外郭と、外郭内に収容されて外郭の周囲の状況を探索して出力する探索手段と、を備えている。探索手段は、ガスセンサを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-159445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、検知対象である対象ガスを検知するのに要する時間の短縮化を図りやすいガス検知方法、プログラム、及びガス検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るガス検知方法は、前処理と、本処理と、を有する。前記前処理は、対象空間における複数の検知区間の各々で吸引口から空気を吸引する。また、前記前処理は、吸引した空気中のガス成分の検知結果に基づいて検知対象である対象ガスが存在する対象区間であるか、参照ガスが存在する参照区間であるかを検知区間ごとに判断する。前記本処理は、前記対象区間と判断された検知区間にて前記吸引口から前記空気を吸引して前記対象ガスの検知を行う。また、前記本処理は、前記参照区間と判断された検知区間にて前記対象ガスとの比較に用いる比較用ガスを取得する。
【0006】
本開示の一態様に係るプログラムは、1以上のプロセッサに、上記のガス検知方法を実行させる。
【0007】
本開示の一態様に係るガス検知システムは、前処理部と、本処理部と、を備える。前記前処理部は、対象空間における複数の検知区間の各々で吸引口から空気を吸引する。また、前記前処理部は、吸引した空気中のガス成分の検知結果に基づいて検知対象である対象ガスが存在する対象区間であるか、参照ガスが存在する参照区間であるかを検知区間ごとに判断する。前記本処理部は、前記対象区間と判断された検知区間にて前記吸引口から前記空気を吸引して前記対象ガスの検知を行う。また、前記本処理部は、前記参照区間と判断された検知区間にて前記対象ガスとの比較に用いる比較用ガスを取得する。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、検知対象である対象ガスを検知するのに要する時間の短縮化を図りやすい、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態に係るガス検知システムの概要を示すブロック図である。
図2図2は、同上のガス検知システムが用いられる対象空間の概要図である。
図3図3は、同上の対象空間が複数の検知区間に区切られた場合を示す概要図である。
図4図4は、同上のガス検知システムの動作例を示すフローチャートである。
図5図5Aは、同上のガス検知システムにおける吸引口の変形例を示す概要図である。図5Bは、同上のガス検知システムにおける吸引口の他の変形例を示す概要図である。
図6図6は、同上のガス検知システムにおける吸引口の更に他の変形例を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)概要
以下、本実施形態のガス検知方法、及びガス検知方法の実行主体であるガス検知システム100(図1参照)について図面を参照して説明する。ただし、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一部に過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0011】
本実施形態のガス検知方法(ガス検知システム100)は、対象空間A1(図2参照)における空気中のガス成分を検知するための方法(システム)である。本開示でいう「対象空間」とは、ガス検知方法(ガス検知システム100)の検知対象の空気が存在する空間である。対象空間A1は、例えば部屋、階段、又は廊下等の建築物内における閉空間を含み得る。また、対象空間A1は、例えば建築物の建つ敷地等の建築物の外部の空間を含み得る。本実施形態では、対象空間A1は、一例として図2及び図3に示すような部屋である、と仮定する。
【0012】
本実施形態のガス検知システム100は、図1に示すように、前処理部43と、本処理部44と、を備えている。前処理部43は、本実施形態のガス検知方法における前処理ST1(図4参照)の実行主体である。本処理部44は、本実施形態のガス検知方法における本処理ST2(図4参照)の実行主体である。前処理ST1は、本処理ST2を実行する前に実行される。
【0013】
前処理部43は、前処理ST1として、対象空間A1における複数の検知区間A0(図2参照)の各々で吸引口11から空気を吸引する処理を実行する。そして、前処理部43は、前処理ST1として、吸引した空気中のガス成分の検知結果に基づいて、検知対象である対象ガスが存在する対象区間B1(図3参照)であるか、参照ガスが存在する参照区間B2(図3参照)であるかを検知区間A0ごとに判断する処理を実行する。
【0014】
本開示でいう「複数の検知区間」は、対象空間A1において区分けされた複数の空間を含み得る。ここでいう「区分け」は、例えば仕切り等で隣り合う空間を物理的に隔てることではなく、ガス検知方法(ガス検知システム100)が認識し得る形で隣り合う空間を仮想的に隔てることをいう。また、本開示でいう「複数の検知区間」は、時間帯によって区分けされた(つまり、時分割された)複数の区間を含み得る。つまり、複数の検知区間A0の少なくとも一部の区間は、時間によって区切られていてもよい。一例として、複数の検知区間は、ある部屋における午前9時~10時の時間帯の区間と、同じ部屋における午後1時~2時の時間帯の区間と、を含み得る。複数の検知区間は、区分けされた複数の空間と、時間によって区切られた複数の区間と、の両方を含んでいてもよい。
【0015】
本開示でいう「対象ガス」は、ガス検知方法(ガス検知システム100)が検知対象とするガス成分を含み、かつ、例えば濃度が閾値以上である等して吸引した空気中に当該ガス成分が主として含まれるガスをいう。また、本開示でいう「参照ガス」は、ガス検知方法(ガス検知システム100)が検知対象とするガス成分を含まないガス、又は当該ガス成分を含むが、濃度が閾値未満である等して吸引した空気中に当該ガス成分が殆ど含まれていないガスをいう。本開示でいう「濃度」は、特に断りのない限り、絶対濃度である。
【0016】
検知対象とするガス成分は、例えば汚物が発する臭い等、人にとって不快に感じられるガス成分を含み得る。また、検知対象とするガス成分は、例えば人の呼気に含まれるガス成分の他、人の体臭に含まれるガス成分を含み得る。また、検知対象とするガス成分は、例えば対象空間A1に存在するか否かを特定したい物体が発するガス成分の他、物体が通常状態とは異なる特別な状態にある場合に発するガス成分を含み得る。
【0017】
本処理部44は、本処理ST2として、対象区間B1と判断された検知区間A0にて吸引口11から空気を吸引して対象ガスの検知を行う処理を実行する。また、本処理部44は、本処理ST2として、参照区間B2と判断された検知区間A0にて対象ガスとの比較に用いる比較用ガスを取得する処理を実行する。本開示でいう「比較用ガス」は、参照区間B2にて吸引口11から吸引することで得られる参照ガスであってもよいし、吸引したガスをフィルタに通過させることで得られるガスであってもよい。また、本開示でいう「比較用ガス」は、ロボットR1に搭載されたボンベにあらかじめ貯蔵されたガスであってもよい。本実施形態では、比較用ガスは、参照区間B2にて吸引口11から吸引することで得られる参照ガスである、と仮定する。
【0018】
つまり、本実施形態では、まず、対象空間A1において前処理ST1を実行することで、複数の検知区間A0の各々について対象区間B1に該当するか参照区間B2に該当するかを判断する。そして、本実施形態では、対象空間A1において本処理ST2を実行することで、対象区間B1では空気中に含まれるガス成分が対象ガスのガス成分であるとみなし、参照区間B2では比較用ガスを取得する。
【0019】
このため、本実施形態では、比較用ガスのガス成分を参照しつつ、対象ガスが存在する検知区間A0にて対象ガスのガス成分を検知することができる。その結果、本実施形態では、対象空間A1にて無作為に対象ガスを検知しようとする場合と比較して、検知対象である対象ガスを検知するのに要する時間の短縮化を図りやすい、という利点がある。
【0020】
(2)詳細
以下、本実施形態のガス検知システム100について図1図3を参照して詳しく説明する。本実施形態では、ガス検知システム100は、自走式のロボットR1の筐体10(図2参照)に搭載されている。図2に示す例では、筐体10は直方体状であるが、例えば球状等の他の形状であってもよい。ロボットR1は、対象空間A1に配置されており、指定された時間ごとに(つまり、定期的に)、又はユーザからの入力をトリガとして前処理ST1及び本処理ST2を実行する。
【0021】
本開示でいう「ユーザからの入力」は、例えばロボットR1の電源を投入する等、ロボットR1にてユーザが所定の操作を行うことの他、ユーザの使用するコントローラから無線通信にて送信される開始信号を受信することを含み得る。コントローラは、ロボットR1に専用のコントローラであってもよいし、ユーザが使用する情報端末(例えば、パーソナルコンピュータ、又はスマートフォン等)にインストールされたアプリケーションであってもよい。
【0022】
ガス検知システム100は、図1に示すように、吸引部1と、ガス検知部2と、走行部3と、処理部4と、記憶部5と、通信部6と、を備えている。本実施形態では、これらの構成は、いずれもガス検知システム100の構成要素に含まれているが、少なくとも処理部4の前処理部43及び本処理部44が構成要素に含まれていれば、他の構成は構成要素に含まれていなくてもよい。
【0023】
吸引部1は、対象空間A1の空気を筐体10内へと導入するための吸引口11(図2参照)と、吸引口11を介して対象空間A1の空気を吸引する吸引ファンと、を有している。吸引口11は、例えば筐体10の前方(図2における上方)に配置され、筐体10の前方を向いている。したがって、吸引口11は、その向いている領域の空気を吸引可能である。吸気ファンの吸引力は、調整可能である。したがって、吸引口11を介して空気を吸引可能な範囲は、吸気ファンの吸引力に応じて決定される。
【0024】
吸引部1は、吸引制御部41(後述する)から入力される吸引制御信号に基づいて、吸引状態が制御される。吸引状態は、吸気ファンが動作することで対象空間A1の空気を、吸引口11を介して吸引する動作状態と、吸気ファンが停止する停止状態と、を含む。停止状態では、対象空間A1の空気が吸引口11を介して筐体10内へと導入されない。なお、停止状態においては、例えば吸引口11に設けられた遮蔽体にて吸引口11を遮蔽するのが好ましい。
【0025】
ガス検知部2は、前処理ST1及び本処理ST2のいずれの処理においても、吸引部1により筐体10内へと導入された空気中のガス成分を検知する。ガス検知部2は、濃縮部と、センサ部と、信号処理部と、を有している。濃縮部は、筐体10内へと導入された空気中のガス成分を濃縮する。センサ部は、反応するガス成分が互いに異なる複数種類のセンサを、一次元、二次元、又は三次元に配列したセンサアレイを含む。信号処理部は、濃縮部から脱離させたガス成分に応じてセンサアレイから出力される信号(複数種類のセンサの出力が一次元、二次元、又は三次元に配列されたパターン)を、例えば機械学習アルゴリズムによりパターン認識することで、導入された空気中のガス成分の種類及び濃度を検知する。また、信号処理部は、導入された空気中のガス成分の組成(つまり、複数のガス成分の組み合わせ)、又は組成比等も検知し得る。つまり、本実施形態では、前処理ST1及び本処理ST2の少なくとも一方(本実施形態では、両方)は、吸引口11から吸引した空気を濃縮し、濃縮した空気からガス成分を脱離させる処理を含んでいる。
【0026】
本実施形態では、ガス検知部2の濃縮部は、筐体10内に導入された空気中のガス成分を吸着することで、ガス成分を濃縮する。そして、ガス検知部2のセンサ部は、濃縮部から脱離させたガス成分(つまり、濃縮後のガス成分)の種類及び濃度を検知することで、空気中(つまり、濃縮されていない状態)のガス成分の濃度を検知する。したがって、本実施形態では、ガス検知部2は、濃縮部を備えないガスセンサと比較して、低濃度のガス成分も検知することが可能である。
【0027】
走行部3は、複数の車輪と、駆動部と、を有している。複数の車輪は、駆動部により駆動される1以上の駆動輪を含んでいる。複数の車輪は、回転可能な状態でロボットR1の筐体に保持されている。したがって、ロボットR1は、複数の車輪により地面又は床等の移動面上に支持される。そして、ロボットR1は、複数の車輪の各々が回転することにより、移動面上を前、後、左、及び右の全方位に走行可能である。1以上の駆動輪は、駆動部からの駆動力を受けて回転可能である。駆動部は、例えば、電動機(モータ)を含み、ギアボックス及びベルト等を介して、電動機で発生する駆動力を間接的に1以上の駆動輪に与える。なお、駆動部は、インホイールモータのように、1以上の駆動輪に対して直接的に駆動力を与える構成であってもよい。駆動部は、走行制御部42(後述する)から入力される走行制御信号に基づいて、1以上の駆動輪を走行制御信号に応じた回転方向及び回転速度で駆動する。
【0028】
処理部4は、ハードウェアとしての1以上のプロセッサ及びメモリを主構成とするコンピュータシステムである。この処理部4では、メモリに記録されたプログラムを1以上のプロセッサで実行することによって、種々の機能が実現される。プログラムは、処理部4のメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能な光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0029】
処理部4は、吸引制御部41と、走行制御部42と、前処理部43と、本処理部44と、を有している。
【0030】
吸引制御部41は、吸引部1に吸引制御信号を与えることにより、吸引部1の状態を制御する。本実施形態では、吸引制御部41は、前処理ST1及び本処理ST2のいずれの処理においても、検知区間A0ごとに所定時間、吸引部1が動作状態となるように吸引部1を制御する。例えば、吸引制御部41は、ロボットR1が検知区間A0に進入してから所定時間、吸引部1が動作状態となるように制御する。もちろん、吸引制御部41は、前処理ST1及び本処理ST2のいずれの処理においても、実行期間中に吸引部1が常時動作状態となるように吸引部1を制御してもよい。
【0031】
ここで、本実施形態では、複数の検知区間A0は、図2及び図3に示すように対象空間A1において区分けされた複数(ここでは、4つ)の空間A11~A14である、と仮定する。なお、図2及び図3に示す例では、説明の便宜上、対象空間A1と、4つの空間A11~A14とは一対一に対応しているが、一対一に対応していなくてもよい。つまり、対象空間A1の全てが複数の検知区間A0として区分けされていなくてもよい。また、図2及び図3に示す例では、説明の便宜上、各検知区間A0は平面視で矩形状の空間として表されているが、非線形な空間であってもよい。
【0032】
本実施形態では、既に述べたように、自走式のロボットR1の筐体10に吸引口11が設けられている。したがって、吸引口11の位置は、ロボットR1が走行することにより変化する。つまり、吸引口11の位置は可変である。そして、本実施形態では、複数の検知区間A0は、吸引口11の向いている領域により決定されている。吸引口11の位置及び向きは、一例として、GPS(Global Positioning System)等の測位システムによりロボットR1の位置を測位することで取得することが可能である。また、吸引口11の位置及び向きは、一例として、ロボットR1の初期位置と、ロボットR1の車輪の角度及び回転数から算出されるロボットR1の軌道と、に基づいて算出することが可能である。さらに、吸引口11の位置及び向きは、一例として、ロボットR1に搭載されたジャイロセンサの検知結果から算出することが可能である。
【0033】
なお、「(1)概要」でも述べたように、複数の検知区間A0の少なくとも一部の区間は、時間によって区切られていてもよい。一例として、ロボットR1の筐体10に搭載されたタイマ、又は時計等の時刻を測るための機器により計測された時間を用いることにより、複数の検知区間A0の少なくとも一部の区間を時間によって区切ってもよい。
【0034】
図2及び図3に示す例では、第1空間A11は、吸引口11が図2及び図3における上方を向いている場合に吸引口11により空気を吸引可能な範囲を含む検知区間A0である。第2空間A12は、吸引口11が図2及び図3における右方を向いている場合に吸引口11により空気を吸引可能な範囲を含む検知区間A0である。第3空間A13は、吸引口11が図2及び図3における下方を向いている場合に吸引口11により空気を吸引可能な範囲を含む検知区間A0である。第4空間A14は、吸引口11が図2及び図3における左方を向いている場合に吸引口11により空気を吸引可能な範囲を含む検知区間A0である。以下、特に断りのない限り、「第1空間A11」、「第2空間A12」、「第3空間A13」、及び「第4空間A14」をそれぞれ「第1検知区間A11」、「第2検知区間A12」、「第3検知区間A13」、及び「第4検知区間A14」という。
【0035】
走行制御部42は、走行部3の駆動部に走行制御信号を与えることにより、1以上の駆動輪の回転方向及び回転速度を制御することで、ロボットR1の走行を制御する。本実施形態では、走行制御部42は、前処理ST1及び本処理ST2のいずれの処理においても、例えば筐体10に搭載された赤外線センサ、超音波センサ、又はレーザセンサ等の障害物検知用のセンサの検知結果に基づいて、走行部3の駆動部に走行制御信号を与える。
【0036】
例えば、走行制御部42は、センサが障害物を検知しない間はロボットR1が直進するようにロボットR1を制御する。そして、走行制御部42は、センサが障害物を検知すると、センサが障害物を検知しなくなるまでロボットR1をその場で回転(ここでは、時計回りに回転)するようにロボットR1を制御する。
【0037】
また、走行制御部42は、例えば筐体10に搭載されているカメラの撮像結果、及び上記のセンサの検知結果に基づいて、対象空間A1の形状、ロボットR1の現在位置、及びロボットR1の走行履歴等を把握する。本実施形態では、走行制御部42は、少なくとも前処理ST1において、ロボットR1を対象空間A1の略全体を走行させた後に、ロボットR1を初期位置まで走行させる。本実施形態では、説明の便宜上、ロボットR1は、前処理ST1及び本処理ST2のいずれの処理においても、概ね図2及び図3に示す経路R10に沿って走行した後に初期位置に戻る、と仮定する。
【0038】
前処理部43は、前処理ST1として、対象空間A1における複数の検知区間A0の各々で吸引口11から空気を吸引する処理を実行する。本実施形態では、前処理部43は、走行制御部42に指示を与えることにより、ロボットR1に複数の検知区間A0を通過させる。また、前処理部43は、吸引制御部41に指示を与えることにより、検知区間A0ごとに吸引口11から空気を吸引させる。
【0039】
図2に示す例では、前処理ST1の実行期間において、ロボットR1は、経路R10に沿って走行することにより、第1検知区間A11、第2検知区間A12、第3検知区間A13、及び第4検知区間A14を順に通過する。そして、ロボットR1は、第1検知区間A11~第4検知区間A14の各々で、吸引口11から空気を吸引する。
【0040】
また、前処理部43は、前処理ST1として、吸引した空気中のガス成分の検知結果に基づいて、対象区間B1であるか参照区間B2であるかを検知区間A0ごとに判断する処理を実行する。本実施形態では、前処理部43は、ロボットR1が検知区間A0にて空気を吸引してから、次の検知区間A0にて空気を吸引するまでの間に、ガス検知部2の検知結果に基づいて、検知区間A0が対象区間B1であるか参照区間B2であるかを判断する。前処理部43での前処理ST1の結果は、記憶部5に記憶される。
【0041】
例えば、前処理部43は、ガス検知部2で検知したガス成分の濃度が閾値以上であれば、対応する検知区間A0が対象区間B1である、と判断する。一方、前処理部43は、ガス検知部2で検知したガス成分の濃度が閾値未満であれば、対応する検知区間A0が参照区間B2である、と判断する。図3に示す例では、第2検知区間A12が対象区間B1であると判断されており、第1検知区間A11、第3検知区間A13、及び第4検知区間A14がそれぞれ参照区間B2であると判断されている。
【0042】
本処理部44は、本処理ST2として、対象区間B1と判断された検知区間A0にて吸引口11から空気を吸引して対象ガスの検知を行う処理を実行する。また、本処理部44は、本処理ST2として、参照区間B2と判断された検知区間A0にて対象ガスとの比較に用いる比較用ガスを取得する処理を実行する。本実施形態では、参照区間B2と判断された検知区間A0にて吸引口11から空気を吸引することにより、参照ガスを比較用ガスとして取得する。
【0043】
本実施形態では、本処理部44は、走行制御部42に指令を与えることにより、まず、ロボットR1を参照区間B2と判断された検知区間A0へと走行させる。そして、本処理部44は、吸引制御部41に指令を与えることにより、参照区間B2と判断された検知区間A0にてロボットR1に空気を吸引させる。さらに、本処理部44は、この検知区間A0においてガス検知部2で検知したガス成分を、比較用ガスのガス成分として記憶部5に記憶させる。
【0044】
次に、本処理部44は、走行制御部42に指令を与えることにより、ロボットR1を対象区間B1と判断された検知区間A0へと走行させる。そして、本処理部44は、吸引制御部41に指令を与えることにより、対象区間B1と判断された検知区間A0にてロボットR1に空気を吸引させる。さらに、本処理部44は、この検知区間A0においてガス検知部2で検知したガス成分を対象ガスのガス成分として、記憶部5に記憶されている比較用ガスのガス成分と比較することにより、対象ガスのガス成分の濃度(相対濃度)を測定する。つまり、本処理部44は、対象ガスのガス成分の絶対濃度と、比較用ガスのガス成分の絶対濃度との差分(又は比)に基づいて、対象ガスのガス成分の相対濃度を測定する。このように、本実施形態では、本処理ST2は、参照区間B2にて取得した比較用ガスの濃度を基準として、対象区間B1にて検知された対象ガスの濃度を測定する処理を含んでいる。本処理部44での本処理ST2の結果は、記憶部5に記憶される。
【0045】
以下、全ての対象区間B1にて対象ガスのガス成分の濃度(相対濃度)を測定するまで、上記の処理を繰り返す。その後、本処理部44は、走行制御部42に指令を与えることにより、ロボットR1を初期位置に復帰させる。
【0046】
図3に示す例では、本処理ST2の実行期間において、ロボットR1は、まず参照区間B2と判断された第1検知区間A11へと走行する。そして、ロボットR1は、第1検知区間A11にて吸引口11から空気を吸引することにより、比較用ガス(ここでは、参照ガス)のガス成分を検知する。次に、ロボットR1は、対象区間B1と判断された第2検知区間A12へと走行する。そして、ロボットR1は、第2検知区間A12にて吸引口11から空気を吸引し、比較用ガスのガス成分との比較を経て、対象ガスのガス成分の濃度(相対濃度)を測定する。その後、ロボットR1は、経路R10に沿って第3検知区間A13、及び第4検知区間A14を通過し、初期位置に戻る。
【0047】
記憶部5は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の電気的に書換え可能な不揮発性メモリ、及びRAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリ等を備える。記憶部5は、前処理部43にて実行される前処理ST1の結果と、本処理部44にて実行される本処理ST2の結果と、を記憶する。具体的には、記憶部5は、前処理ST1の結果として、対象空間A1における複数の検知区間A0を示す情報と、対象区間B1及び参照区間B2のいずれであるかを検知区間A0ごとに示す情報と、を記憶する。また、記憶部5は、本処理ST2の結果として、検知したガス成分が対象ガスのガス成分であるか比較用ガスのガス成分であるかを示す情報と、検知したガス成分の種類及び濃度(相対濃度)を示す情報と、を検知区間A0ごとに記憶する。
【0048】
通信部6は、例えば通信事業者が提供する携帯電話網(キャリア網)を通じて、インターネット等のネットワークに接続可能な無線通信モジュールである。携帯電話網には、例えば3G(第3世代)回線、4G(第4世代)回線、又は5G(第5世代)回線等がある。その他、通信部6は、例えばWiFi(登録商標)等の規格に準拠した無線通信方式で、ネットワークに接続可能であってもよい。通信部6は、ユーザが使用する情報端末との間で通信可能である。また、通信部6は、対象空間A1から離れた遠隔地にあるサーバとの間で通信可能である。
【0049】
本実施形態では、本処理部44にて実行された本処理ST2の結果は、実行直後、定期的に、又はサーバの管理者からの要求に応じて通信部6からサーバへ送信される。したがって、サーバの管理者は、対象空間A1から離れた遠隔地にいながら、対象空間A1での対象ガスのガス成分の種類、濃度(相対濃度)、及び分布等を把握することが可能である。
【0050】
(3)動作
以下、本実施形態のガス検知システム100の動作、つまりガス検知方法の一連の流れの一例について図4を参照して説明する。まず、ガス検知システム100は、前処理ST1に相当する以下の処理S1~S7を実行する。すなわち、前処理部43は、いずれかの検知区間A0にてロボットR1の吸引口11から空気を吸引させる(S1)。次に、前処理部43は、ガス検知部2にて吸引口11から吸引した空気中のガス成分が検知されると(S2)、検知したガス成分に基づいて検知区間A0が対象区間B1であるか参照区間B2であるかを判断する(S3)。そして、前処理部43は、判断結果を記憶部5に記憶させる(S4)。処理S1~S4を全ての検知区間A0で未だ実行していなければ(S5:No)、前処理部43は、ロボットR1を次の検知区間A0まで走行させる、つまり吸引口11の位置を変更させる(S6)。
【0051】
その後、全ての検知区間A0にて処理S1~S4を実行するまで上記の処理を繰り返し、全ての検知区間A0にて処理S1~S4を実行し終えると(S5:Yes)、前処理部43は、ロボットR1を初期位置に復帰させる、つまり吸引口11の位置を初期化させ(S7)、前処理を終了する。
【0052】
次に、ガス検知システム100は、本処理ST2に相当する以下の処理S8~S16を実行する。すなわち、本処理部44は、いずれかの参照区間B2にてロボットR1の吸引口11から空気を吸引させる(S8)。次に、本処理部44は、ガス検知部2にて吸引口11から吸引した空気中のガス成分が検知されると(S9)、このガス成分を比較用ガスのガス成分として記憶部5に記憶させる(S10)。次に、本処理部44は、ロボットR1をいずれかの対象区間B1まで走行させる、つまり吸引口11の位置を対象区間B1に変更させ、吸引口11から空気を吸引させる(S11)。そして、本処理部44は、ガス検知部2にて吸引口11から吸引した空気中のガス成分が検知されると(S12)、検知したガス成分を対象ガスのガス成分として、比較用ガスのガス成分との比較に基づいて測定する(S13)。その後、本処理部44は、測定結果を記憶部5に記憶させる(S14)。
【0053】
処理S11~S14を全ての対象区間B1で未だ実行していなければ(S15:No)、本処理部44は、ロボットR1を次の対象区間B1まで走行させる、つまり吸引口11の位置を変更させる(S16)。その後、全ての対象区間B1にて処理S11~S14を実行するまで上記の処理を繰り返し、全ての対象区間B1にて処理S11~S14を実行し終えると(S15:Yes)、本処理部44は、ロボットR1を初期位置に復帰させる、つまり吸引口11の位置を初期化させ、本処理を終了する。
【0054】
以下、比較例のガス検知システムとの比較を交えて、本実施形態のガス検知システム100(ガス検知方法)の利点について説明する。比較例のガス検知システムでは、前処理を実行せずに、つまり対象空間A1を対象区間B1と参照区間B2とに区分けをせずに対象ガスのガス成分の測定を行う点で、本実施形態のガス検知システム100と相違する。比較例のガス検知システムでは、対象空間A1にてそもそも対象ガスが存在するか否かも知らない状態で無作為に対象ガスの測定を試みるため、対象ガスを検知するのに要する時間が長大化しがちである。
【0055】
一方、本実施形態では、まず前処理により対象空間A1を対象区間B1と参照区間B2とに区分けした上で、対象ガスのガス成分の測定を行うことが可能である。このため、本実施形態では、参照区間B2での比較用ガスのガス成分を参照しつつ、対象ガスが存在する対象区間B1にて対象ガスのガス成分を検知する、という一連の流れをスムーズに実行しやすい。その結果、本実施形態では、対象空間A1にて無作為に対象ガスを検知しようとする場合と比較して、検知対象である対象ガスを検知するのに要する時間の短縮化を図りやすい、という利点がある。
【0056】
(4)変形例
上述の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つにすぎない。上述の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、ガス検知方法と同様の機能は、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。一態様に係る(コンピュータ)プログラムは、1以上のプロセッサに、上記のガス検知方法を実行させる。
【0057】
以下、上述の実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0058】
本開示におけるガス検知システム100は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示におけるガス検知システム100としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1ないし複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なっており、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスについても、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。ここでいうコンピュータシステムは、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを含む。したがって、マイクロコントローラについても、半導体集積回路又は大規模集積回路を含む1ないし複数の電子回路で構成される。
【0059】
また、ガス検知システム100における複数の機能が、1つの筐体内に集約されていることはガス検知システム100に必須の構成ではなく、ガス検知システム100の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。さらに、ガス検知システム100の少なくとも一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0060】
上述の実施形態では、ロボットR1が走行することにより吸引口11の位置及び向きが可変となっているが、この態様に限られない。例えば、ロボットR1は、走行機能を有していなくてもよい。この場合、ロボットR1は、対象空間A1に配置されると、配置された位置を維持する。言い換えれば、吸引口11を有する筐体10の位置が不変である。そして、この場合、吸引口11は、筐体10に対して位置及び向きの少なくとも一方が可変であればよい。
【0061】
例えば、吸引口11は、図5Aに示すように、筐体10においてスライド移動可能な態様であってもよい。図5Aに示す例では、吸引口11は、筐体10に設けられたレール10A上をスライド移動可能に構成されている。この態様では、吸引口11のレール10A上における位置に応じて、吸引口11の向いている領域が変化するので、複数の検知区間A0を決定することが可能である。
【0062】
図5Aに示す例では、吸引口11のレール10A上における位置に応じて、3つの検知区間A15~A17が決定されている。検知区間A15は、吸引口11がレール10Aの第1端(図5Aにおける左端)に位置する場合に吸引口11が向いている領域である。検知区間A16は、吸引口11がレール10Aの中央に位置する場合に吸引口11が向いている領域である。検知区間A17は、吸引口11がレール10Aの第2端(図5Aにおける右端)に位置する場合に吸引口11が向いている領域である。
【0063】
また、例えば、吸引口11は、図5Bに示すように、筐体10において回転可能な態様であってもよい。図5Bに示す例では、吸引口11は、筐体10上の一点C1を中心として、時計回り又は反時計回りに回転可能に構成されている。この態様では、吸引口11の回転角度に応じて、吸引口11の向いている領域が変化するので、複数の検知区間A0を決定することが可能である。
【0064】
図5Bに示す例では、吸引口11の回転角度に応じて、3つの検知区間A18~A20が決定されている。検知区間A18は、吸引口11が回転していない場合に吸引口11が向いている領域である。検知区間A19は、吸引口11が時計回りに所定の角度回転している場合に吸引口11が向いている領域である。検知区間A20は、吸引口11が反時計回りに所定の角度回転している場合に吸引口11が向いている領域である。
【0065】
また、例えば、筐体10は、図6に示すように、複数(ここでは、3つ)の吸引口11を備えていてもよい。各吸引口11は、筐体10に固定されており、位置及び向きが不変である。また、複数の吸引口11は、互いに向きが異なっている。図6に示す例では、第1吸引口11Aは、筐体10の正面を向いている。第2吸引口11Bの向いている向きは、第1吸引口11Aの向いている向きに対して、反時計回りに所定の角度ずれている。第3吸引口11Cの向いている向きは、第1吸引口11Aの向いている向きに対して、時計回りに所定の角度ずれている。そして、複数の検知区間A0は、複数の吸引口11のうちいずれの吸引口11を使用するかにより決定される。
【0066】
図6に示す例では、3つの吸引口11A~11Cのいずれを使用するかにより、3つの検知区間A21~A23が決定されている。検知区間A21は、第1吸引口11Aを使用する場合に第1吸引口11Aが向いている領域である。検知区間A22は、第2吸引口11Bを使用する場合に第2吸引口11Bが向いている領域である。検知区間A23は、第3吸引口11Cを使用する場合に第3吸引口11Cが向いている領域である。
【0067】
もちろん、図5A図6に示す吸引口11の構成は、自走式のロボットR1に採用されてもよい。
【0068】
上述の実施形態において、複数の検知区間A0には、参照区間B2と判断され得る検知区間A0が含まれていなくてもよい。この場合、前処理部43は、複数の検知区間A0のいずれにも参照区間B2が存在しない、と判断することになる。つまり、前処理ST1は、参照区間B2の有無を判断する処理を含んでいる、と言える。なお、この場合、前処理部43は、例えば対象空間A1が閉空間でなければ、ロボットR1を対象空間A1以外の空間まで走行させて参照区間B2を探索する処理を実行してもよい。
【0069】
上述の実施形態において、本処理部44は、前処理部43での前処理の結果を受けて、複数の検知区間A0に参照区間B2が含まれていない場合、参照区間B2にて比較用ガスを取得する処理を実行しなくてもよい。また、本処理部44は、前処理部43での前処理の結果を受けて、複数の検知区間A0に対象区間B1が含まれていない場合、対象区間B1にて対象ガスを検知する処理を実行しなくてもよい。
【0070】
上述の実施形態において、ガス検知部2は、全ての検知区間A0に対してガス成分を脱離する処理を行わなくてもよい。例えば、ガス検知部2は、対象区間B1ではガス成分を脱離する処理を行い、参照区間B2ではガス成分を脱離する処理を行わなくてもよい。
【0071】
上述の実施形態において、ガス検知部2は、ガス成分を吸着及び脱離する態様に限られない。すなわち、ガス検知部2は、対象空間A1における空気中のガス成分を検知可能な態様であればよい。
【0072】
上述の実施形態において、ガス検知部2での検知は、ロボットR1が一時的に停止した状態で実行されてもよいし、ロボットR1が走行している状態で実行されてもよい。
【0073】
上述の実施形態において、対象空間A1は、部屋等の閉空間でなくてもよい。例えば、ロボットR1が壁等により区切られていない開放された空間に設置されている、と仮定する。この場合、走行制御部42は、前処理ST1及び本処理ST2のいずれの処理においても、ロボットR1の初期位置を中心とした所定の半径の円領域を対象空間A1と定義してロボットR1を走行させてもよい。
【0074】
上述の実施形態において、前処理部43及び本処理部44は、ロボットR1(つまり、筐体10)に搭載されていなくてもよい。例えば、前処理部43及び本処理部44は、サーバで実現されていてもよい。この場合、ロボットR1は、例えばサーバとの間で無線通信する態様であればよい。
【0075】
上述の実施形態において、ガス検知システム100は、ロボットR1ではなく、携帯可能な端末に搭載されていてもよい。この態様では、前処理部43及び本処理部44は、いずれもディスプレイで表示する又はスピーカから音声を出力することにより、端末を移動する、つまり吸引口11の位置を変更するようにユーザに促してもよい。
【0076】
(まとめ)
以上述べたように、第1の態様に係るガス検知方法は、前処理(ST1)と、本処理(ST2)と、を有する。前処理(ST1)は、対象空間(A1)における複数の検知区間(A0)の各々で吸引口(11)から空気を吸引する。また、前処理(ST1)は、吸引した空気中のガス成分の検知結果に基づいて検知対象である対象ガスが存在する対象区間(B1)であるか、参照ガスが存在する参照区間(B2)であるかを検知区間(A0)ごとに判断する。本処理(ST2)は、対象区間(B1)と判断された検知区間(A0)にて吸引口(11)から空気を吸引して対象ガスの検知を行う。また、本処理(ST2)は、参照区間(B2)と判断された検知区間(A0)にて対象ガスとの比較に用いる比較用ガスを取得する。
【0077】
この態様によれば、検知対象である対象ガスを検知するのに要する時間の短縮化を図りやすい、という利点がある。
【0078】
第2の態様に係るガス検知方法では、第1の態様において、吸引口(11)の位置が可変である。複数の検知区間(A0)は、吸引口(11)の向いている領域により決定される。
【0079】
この態様によれば、吸引口(11)の向いている領域さえ把握できれば検知区間(A0)を決定できるので、複数の検知区間(A0)を決定しやすい、という利点がある。
【0080】
第3の態様に係るガス検知方法では、第2の態様において、吸引口(11)を有する筐体(10)の位置が不変である。吸引口(11)は、筐体(10)に対する向き及び位置の少なくとも一方が可変である。
【0081】
この態様によれば、吸引口(11)が対象空間(A1)を移動できない場合であっても、吸引口(11)の向いている領域を変化させることができるので、複数の検知区間(A0)を決定することができる、という利点がある。
【0082】
第4の態様に係るガス検知方法では、第2の態様において、吸引口(11)は、複数である。複数の吸引口(11)は、互いに向きが異なっている。複数の検知区間(A0)は、複数の吸引口(11)のうちいずれの吸引口(11)を使用するかにより決定される。
【0083】
この態様によれば、吸引口(11)自体を動かさなくても、吸引口(11)の向いている領域を変化させることができ、複数の検知区間(A0)を決定することができる、という利点がある。
【0084】
第5の態様に係るガス検知方法では、第1~第4のいずれかの態様において、複数の検知区間(A0)の少なくとも一部の区間は、時間によって区切られている。
【0085】
この態様によれば、空間による区分けだけでなく、時間による区分けによっても複数の検知区間(A0)の少なくとも一部の区間を決定することができる、という利点がある。
【0086】
第6の態様に係るガス検知方法では、第1~第5のいずれかの態様において、前処理(ST1)は、参照区間(B2)の有無を判断する処理を含む。
【0087】
この態様によれば、参照区間(B2)が存在しない場合に、対象空間(A1)の範囲を広げる等して、参照区間(B2)の探索を試みる等の措置をとることができる、という利点がある。
【0088】
第7の態様に係るガス検知方法では、第1~第6のいずれかの態様において、前処理(ST1)及び本処理(ST2)の少なくとも一方は、吸引口(11)から吸引した空気を濃縮し、濃縮した空気からガス成分を脱離させる処理を含む。
【0089】
この態様によれば、吸引した空気を濃縮しない場合と比較して、低濃度のガス成分も検知することが可能になる、という利点がある。
【0090】
第8の態様に係るガス検知方法では、第1~第7のいずれかの態様において、本処理(ST2)は、参照区間(B2)にて取得した比較用ガスの濃度を基準として、対象区間(B1)にて検知された対象ガスの濃度を測定する処理を含む。
【0091】
この態様によれば、比較用ガスの濃度を基準とせずに対象ガスの濃度を測定する場合と比較して、対象ガスの濃度の測定精度が向上しやすい、という利点がある。
【0092】
第9の態様に係るプログラムは、1以上のプロセッサに、第1~第8のいずれかの態様のガス検知方法を実行させる。
【0093】
この態様によれば、検知対象である対象ガスを検知するのに要する時間の短縮化を図りやすい、という利点がある。
【0094】
第10の態様に係るガス検知システム(100)は、前処理部(43)と、本処理部(44)と、を備える。前処理部(43)は、対象空間(A1)における複数の検知区間(A0)の各々で吸引口(11)から空気を吸引する。また、前処理部(43)は、吸引した空気中のガス成分の検知結果に基づいて検知対象である対象ガスが存在する対象区間(B1)であるか、参照ガスが存在する参照区間(B2)であるかを検知区間(A0)ごとに判断する。本処理部(44)は、対象区間(B1)と判断された検知区間(A0)にて吸引口(11)から空気を吸引して対象ガスの検知を行う。また、本処理部(44)は、参照区間(B2)と判断された検知区間(A0)にて対象ガスとの比較に用いる比較用ガスを取得する。
【0095】
この態様によれば、検知対象である対象ガスを検知するのに要する時間の短縮化を図りやすい、という利点がある。
【0096】
第2~第8の態様に係る方法については、ガス検知方法に必須の方法ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0097】
100 ガス検知システム
10 筐体
11 吸引口
43 前処理部
44 本処理部
A0 検知区間
A1 対象空間
B1 対象区間
B2 参照区間
ST1 前処理
ST2 本処理
図1
図2
図3
図4
図5
図6