(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】噴霧装置及び噴霧方法
(51)【国際特許分類】
B05B 7/22 20060101AFI20231006BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231006BHJP
A61L 2/14 20060101ALI20231006BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
B05B7/22
B05D7/24 302A
A61L2/14
A61L2/18
(21)【出願番号】P 2023519706
(86)(22)【出願日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2022041159
【審査請求日】2023-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「プラズママイクロミストによるウイルス等の空中浮遊物質の不活化についての研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597073645
【氏名又は名称】ナルックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105393
【氏名又は名称】伏見 直哉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 渉太
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】北川 清太郎
(72)【発明者】
【氏名】丸子 高志
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519596(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0120838(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0287193(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0145531(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第114423138(CN,A)
【文献】国際公開第2016/143669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00- 3/18
5/00- 5/16
7/00- 9/08
B05D 1/00- 7/26
A61L 2/00- 2/28
9/00- 9/22
C01B13/00-13/36
15/00-15/16
21/00-21/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミスト発生部とプラズマ活性部とを備えた噴霧装置であって、該プラズマ活性部は誘電体材料の管と、該誘電体材料の管の外面に設置された外部電極と、該誘電体材料の管の内面に設置された内部電極と、該外部電極及び該内部電極に高周波電圧を加える高周波電源とを備え、該外部電極及び該内部電極の該誘電体材料の管の軸方向の位置は、重ならないか部分的にのみ重なるように構成されており、該ミスト発生部から該誘電体材料の管に送り込まれたたミストが該誘電体材料の管を通過した後に該誘電体材料の管の端部からプラズマ活性化されて送り出されるように構成された噴霧装置によって、水のミスト
をプラズマ活性化したミストによって過酸化水素及び亜硝酸を生成し、過酸化亜硝酸を持続的に生成する噴霧方法。
【請求項2】
該外部電極及び該内部電極の該誘電体材料の管の軸方向の位置が部分的にのみ重なるように構成された請求項1に記載の噴霧方法。
【請求項3】
該高周波電源の周波数が1キロ・ヘルツから100キロ・ヘルツの範囲であり、電圧のピークピーク値の範囲が1キロ・ボルトから30キロ・ボルトの範囲である請求項1に記載の噴霧方法。
【請求項4】
該ミスト発生部が0.5マイクロ・メータから30マイクロ・メータの径の液滴を生成するように構成された請求項1に記載の噴霧方法。
【請求項5】
該誘電体材料の管の径が0.5ミリメータから20ミリメータミリメータの範囲である請求項1に記載の噴霧方法。
【請求項6】
該内部電極が該誘電体材料の管の内側の管である請求項1に記載の噴霧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は噴霧装置及び噴霧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水を主成分とする液体から発生させたミストをプラズマ活性化することによって殺菌能を有する過酸化亜硝酸(HOONO)を生成する噴霧装置及び噴霧方法が開発されている(たとえば、特許文献1)。特許文献1の
図7は、プラズマミスト生成器である噴霧装置のプラズマ活性部を開示している。上記のプラズマ活性部は、管の内部に配置された棒状の内部電極と管の外部に配置された外部電極との間に高周波電圧をかけることによって管の内部に供給された微小液滴及び空気を含むミストをプラズマ活性化して過酸化亜硝酸(HOONO)を生成するように構成されている。
【0003】
しかし、上記のプラズマ活性部によって生成される過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度は十分ではない。
【0004】
そこで、十分に高い生成速度で過酸化亜硝酸(HOONO)を生成することのできる噴霧装置及び噴霧方法に対するニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、十分に高い生成速度で過酸化亜硝酸(HOONO)を生成することのできる噴霧装置及び噴霧方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様の噴霧装置はミスト発生部とプラズマ活性部とを備える。プラズマ活性部は誘電体材料の管と、該誘電体材料の管の外面に設置された外部電極と、該誘電体材料の管の内面に設置された内部電極と、該外部電極及び該内部電極に高周波電圧を加える高周波電源とを備え、該外部電極及び該内部電極の該誘電体材料の管の軸方向の位置は、重ならないか部分的にのみ重なるように構成されており、該ミスト発生部から該誘電体材料の管の一方の端部に送り込まれたたミストが該誘電体材料の管を通過した後に該誘電体材料の管の他方の側からプラズマ活性化されて送り出されるように構成されている。
【0008】
本態様の噴霧装置のプラズマ活性部によれば、従来の構造のプラズマ活性部と比較して誘電体材料の管の内面に付着するミストを減少させることができ、より多くのプラズマ活性化されたミストを放出することができる。また、本態様の噴霧装置のプラズマ活性部によれば、殺菌・殺ウィルス・消臭など様々な機能を有する過酸化亜硝酸(HOONO)の生成に必要な活性種を適切な比率で生成させることができるので、従来の構造のプラズマ活性部と比較して過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を増加させることができる。
【0009】
本発明の第1の態様の第1の実施形態の噴霧装置は、該外部電極及び該内部電極の該誘電体材料の管の軸方向の位置が部分的に重なるように構成されている。
【0010】
本実施形態によれば、両電極の軸方向の位置が部分的に重なるように構成することによって両電極間の放電が生じやすくなる。
【0011】
本発明の第1の態様の第2の実施形態の噴霧装置において、該高周波電源の周波数が1キロ・ヘルツから100キロ・ヘルツの範囲であり、電圧のピークピーク値の範囲が1キロ・ボルトから30キロ・ボルトの範囲である。
【0012】
本発明の第1の態様の第3の実施形態の噴霧装置において、該ミスト発生部が0.5マイクロ・メータから30マイクロ・メータの径の液滴を生成するように構成されている。
【0013】
本発明の第1の態様の第4の実施形態の噴霧装置において、該誘電体材料の管の径が0.5ミリメータから20ミリメータの範囲である。
【0014】
本発明の第1の態様の第5の実施形態の噴霧装置において、該内部電極が該誘電体材料の管の内側の管である。
【0015】
本発明の第2の態様の噴霧方法は、水を主成分とする液体から上記の噴霧装置によってプラズマ活性化されたミストを生成する。
【0016】
本態様の噴霧方法によれば、従来の構造のプラズマ活性部を使用する噴霧方法と比較して誘電体材料の管の内面に付着するミストを減少させることができ、より多くのプラズマ活性化されたミストを放出することができる。また、本態様の噴霧方法によれば、殺菌能を有する過酸化亜硝酸(HOONO)の生成に必要な活性種を適切な比率で生成させることができるので、従来の構造のプラズマ活性部を使用する噴霧方法と比較して殺菌能を有する過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を増加させることができる。
【0017】
本発明の第2の態様の第1の実施形態の噴霧方法において、該液体が亜硝酸または亜硝酸イオンを含む水溶液である。
【0018】
本実施形態によれば、該液体が水である場合と比較して、殺菌能を有する過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を増加させることができる。
【0019】
本発明の第2の態様の第2の実施形態の噴霧方法において、該液体が亜硝酸ナトリウムを含み亜硝酸ナトリウムのモル濃度が1マイクロ・モーラーから100ミリ・モーラーの範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態の噴霧装置を示す図である。
【
図2】本実施形態のプラズマ活性部の構造の一例を示す図である。
【
図3】従来のプラズマ活性部の構造の一例を示す図である。
【
図4】
図2に示す表面DBD構造のプラズマ活性部及び
図3に示す体積DBD構造のプラズマ活性部によるミスト放出量を示すグラフである。
【
図5】過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度の測定に使用した表面DBD構造のプラズマ活性部の構造を示す図である。
【
図6】表面DBD構造のプラズマ活性部及び体積DBD構造のプラズマ活性部による過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を示す図である。
【
図7】表面DBD構造のプラズマ活性部によって生成される、過酸化水素、亜硝酸、硝酸イオン及び亜硝酸イオンの濃度を示す図である。
【
図8】体積DBD構造のプラズマ活性部によって生成される、過酸化水素、亜硝酸、硝酸イオン及び亜硝酸イオンの濃度を示す図である。
【
図9】
図7の亜硝酸の濃度及び
図8の亜硝酸の濃度を拡大したスケールで示す図である。
【
図10】亜硝酸ナトリウムの水溶液を使用した場合に表面DBD構造のプラズマ活性部によって生成される、過酸化水素、亜硝酸、硝酸イオン及び亜硝酸イオンの濃度を示す図である。
【
図11】亜硝酸ナトリウムの水溶液を使用した場合の表面DBD構造のプラズマ活性部による過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を示す図である。
【
図12】水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が1200マイクロ・モーラーの場合に、シミュレーションによって求めた活性種の濃度の経時的変化を示す図である。
【
図13】水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が2000マイクロ・モーラーの場合に、シミュレーションによって求めた活性種の濃度の経時的変化を示す図である。
【
図14】水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が1200マイクロ・モーラーの場合及び2000マイクロ・モーラーの場合に、シミュレーションによって求めた過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度の経時的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態の噴霧装置を示す図である。プラズマミスト生成器である噴霧装置はミスト発生部100とプラズマ活性部200とを備える。ミスト発生部100は、タンクに蓄えた水を主成分とする液体を超音波振動子によってミスト化するものであってもよい。超音波振動子は、たとえばTDK株式会社の超音波加湿ユニットNB-80E-01-Hである。ミストの液滴の径は0.5マイクロ・メータから30マイクロ・メータである。プラズマ活性部200は管状であり、管210の外部に設置された管状の外部電極220と、管210の内部に設置された管状の内部電極230と、高周波電源240と、を備える。管状の内部電極230は管210の上端から突出している。管210の材料は誘電体である。高周波電源240は外部電極220及び内部電極230間に高周波電圧をかけるように接続される。内部電極230に接続された高周波電源240の端子は接地される。一般的に高周波電源240の周波数は1キロヘルツから100キロヘルツの範囲であり、5キロヘルツから30キロヘルツの範囲であるのが好ましい。高周波電源240の電圧のピークピーク値は1キロ・ボルトから30キロ・ボルトの範囲である。
【0022】
ミスト発生部100によって生成されたミストは、
図1に示す管210の下端からプラズマ活性部200に送り込まれる。ミストの流量は0.01マイクロ・リッター毎秒(μL/s)から1000マイクロ・リッター毎秒(μL/s)の範囲であるのが好ましい。高周波電源240によって外部電極220及び内部電極230間に高周波電圧をかけることによってミストはプラズマ活性化され、管210の上端から突出した管状の内部電極230の先端からプラズマ活性化されたミスト300として放出される。
【0023】
図2は、本実施形態のプラズマ活性部200の構造の一例を示す図である。管210の軸方向の長さは34ミリメータ、管径は3.9ミリメータ、管の肉厚は0.7ミリメータである。一般的に誘電体材料の管の径は2ミリメータから10ミリメータの範囲であるのが好ましい。管210の材料は石英ガラスである。本例において管210の外部に設置された外部電極220は管210の外周を覆う導電性銅箔粘着テープである。導電性銅箔粘着テープの幅(軸方向の長さ)は20ミリメータ、厚さは0.7ミリメータである。外部電極220の上端の位置は管210の上端の位置から12ミリメータ下方である。本例において管210の内部に設置された管状の内部電極230はステンレス管である。ステンレス管の軸方向の長さは20ミリメータ、外径は2.41ミリメータ、肉厚は0.21ミリメータである。外部電極220及び内部電極230の軸方向の重なり部分の長さは3ミリメータである。内部電極230は管210の上端から突出しており、突出した部分の軸方向の長さは5ミリメータである。本例においてプラズマ活性化されたミスト300は、内部電極230の下端から下方で、管210の外面に外部電極2210が存在し下端に隣接する領域の一部に管210の内面に沿って生成される。
【0024】
一般的に外部電極及び内部電極は管の軸方向の異なる位置に配置される。両電極間の放電を生じやすくするためには両電極の管210の軸方向の位置が部分的に重なるのが好ましい。
【0025】
図3は、従来のプラズマ活性部の構造の一例を示す図である。管210及び管210の外部に設置された管状の外部電極220の寸法及び材料は上記の例と同じである。外部電極220の上端の位置は管210の上端の位置から12ミリメータ下方である。内部電極235は棒状であり、棒の長さは100ミリメータ、棒の径は0.9ミリメータである。内部電極235の材料はタングステンである。内部電極235は管210の中心軸の位置に配置される。従来のプラズマ活性部においてプラズマ活性化されたミスト300は管210の内側の空間において、外部電極220及び内部電極235の軸方向の位置が重なる領域に生成される。
【0026】
図2及び
図3に示したプラズマ活性部は、誘電体バリア放電によってプラズマを形成する。本明細書において、
図2に示す本発明のプラズマ活性部200の構造を表面誘電体バリア放電構造(表面DBD構造)と呼称し、
図3に示すプラズマ活性部の構造を体積誘電体バリア放電構造(体積DBD構造)と呼称する。
【0027】
図4は、
図2に示す表面DBD構造のプラズマ活性部及び
図3に示す体積DBD構造のプラズマ活性部によるミスト放出量を示すグラフである。高周波電源240の周波数は9キロ・ヘルツであり、電圧のピークピーク値は18キロ・ボルトである。ミスト放出量は、プラズマ活性部から放出されるミストをガラス板に付着させて測定した。表面DBD構造のプラズマ活性部のミスト放出量は約1.7マイクロ・リッター毎秒(μL/s)であり、体積DBD構造のプラズマ活性部のミスト放出量は約0.5マイクロ・リッター毎秒(μL/s)である。表面DBD構造のプラズマ活性部のミスト放出量が体積DBD構造のプラズマ活性部のミスト放出量よりも多い理由は、体積DBD構造では、プラズマ生成に必要な強電界が管断面全域に印加され、帯電したミストが壁面に付着しやすいためであると推察される。したがって、ミスト放出量の観点からは本発明の表面DBD構造のプラズマ活性部の方が、従来の体積DBD構造のプラズマ活性部よりも好ましい。
【0028】
つぎに、プラズマ活性化されたミストの殺菌能について説明する。過酸化亜硝酸(HOONO)には殺菌能があり、その殺菌能と過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度との間には明確な相関関係があることが知られている。過酸化亜硝酸(HOONO)は、過酸化水素及び亜硝酸から持続的に生産可能であり、過酸化水素及び亜硝酸は空気中を飛来する水の微小液滴すなわちミストをプラズマ活性化することで生産できることが知られている。
【0029】
そこで、表面DBD構造のプラズマ活性部及び体積DBD構造のプラズマ活性部の過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を測定した。
【0030】
図5は、過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度の測定に使用した表面DBD構造のプラズマ活性部の構造を示す図である。管210の軸方向の長さは34ミリメータ、管径は3.9ミリメータ、肉厚は0.7ミリメータである。管210の材料は石英ガラスである。本例において管210の外部に設置された外部電極220は導電性銅箔粘着テープである。導電性銅箔粘着テープの幅(軸方向の長さ)は20ミリメータ、厚さは0.7ミリメータである。外部電極220の上端の位置は管210の上端の位置から12ミリメータ下方である。本例において管210の内部に設置された管状の内部電極230はステンレス管である。ステンレス管の軸方向の長さは18.5ミリメータ、外径は2.41ミリメータ、肉厚は0.21ミリメータである。外部電極220及び内部電極230の軸方向の重なり部分の長さは1.5ミリメータである。内部電極230は管210の上端から突出しており、突出した部分の軸方向の長さは5ミリメータである。本例においてプラズマ活性化されたミスト300は、内部電極230の下端から下方で、管210の外面に外部電極2210が存在し下端に隣接する領域の一部に管210の内面に沿って生成される。
【0031】
過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度の測定に使用した体積DBD構造のプラズマ活性部は
図3に示すものである。
【0032】
図6は、表面DBD構造のプラズマ活性部及び体積DBD構造のプラズマ活性部による過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を示す図である。
図6の横軸は両電極間にかける電圧のピークピーク値を示す。電圧の単位はキロ・ボルトである。
図6の縦軸は過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を示す。過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度の単位はマイクロ・モーラー毎秒(μM/s)である。Mで表されるモーラーは1リッター当たりのモル数である。過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度の測定方法については後で説明する。
【0033】
図6によると、電圧のピークピーク値が18kVの場合の表面DBD構造のプラズマ活性部による過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度は約3マイクロ・モーラー毎秒(μM/s)であるが、電圧のピークピーク値が18kVの場合の体積DBD構造のプラズマ活性部による過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度はゼロである。したがって、過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度の観点からも本発明の表面DBD構造のプラズマ活性部の方が、従来の体積DBD構造のプラズマ活性部よりも好ましい。
【0034】
過酸化亜硝酸(HOONO)は以下の反応式(1)にしたがって生成される。
【数1】
反応式(1)の左辺の活性種、すなわち過酸化水素、亜硝酸と水素イオン
【数2】
はプラズマ活性化されたミストによって生成されて長時間残留し、過酸化亜硝酸(HOONO)を生成し続ける。過酸化亜硝酸(HOONO)は半減期は典型的には約1秒であり、硝酸イオン
【数3】
及び亜硝酸イオン
【数4】
に分解され、過酸化水素
【数5】
が枯渇するまで生成が持続する。
【0035】
図7は、表面DBD構造のプラズマ活性部によって生成される、過酸化水素、硝酸イオン、亜硝酸及び亜硝酸イオンの濃度を示す図である。
図7の横軸は両電極間にかける電圧のピークピーク値を示す。電圧の単位はキロ・ボルトである。
図7の縦軸は活性種の濃度を示す。濃度の単位はミリ・モーラーである。活性種の濃度は、ガラス板などによってミストから回収した液滴を、超ミクロセルを利用した吸光光度定量法によって測定して求めた。
【0036】
図8は、体積DBD構造のプラズマ活性部によって生成される、過酸化水素、硝酸イオン、亜硝酸及び亜硝酸イオンの濃度を示す図である。
図8の横軸は両電極間にかける電圧のピークピーク値を示す。電圧の単位はキロ・ボルトである。
図8の縦軸は活性種の濃度を示す。濃度の単位はミリ・モーラーである。なお、
図8の縦軸のスケールの範囲は
図7の縦軸のスケールの範囲よりも大きい。
【0037】
図7及び
図8を比較すると、
図8の電圧のピークピーク値が18kVの場合の過酸化水素の濃度は約6ミリ・モーラーであり、
図7の電圧のピークピーク値が18kVの場合の過酸化水素の濃度は約1.3ミリ・モーラーである。すなわち、
図8の体積DBD構造の場合の過酸化水素の濃度は
図7の表面DBD構造の場合の過酸化水素の濃度の約5倍である。
【0038】
図9は、
図7の亜硝酸の濃度及び
図8の亜硝酸の濃度を拡大したスケールで示す図である。
図9の横軸は両電極間にかける電圧のピークピーク値を示す。電圧の単位はキロ・ボルトである。
図9の縦軸は亜硝酸の濃度を示す。濃度の単位はマイクロ・モーラーである。
図9によると、電圧のピークピーク値が18kVの場合に表面DBD構造のプラズマ活性部によって生成される亜硝酸の濃度は約170マイクロ・モーラーであるが、電圧のピークピーク値が18kVの場合に体積DBD構造のプラズマ活性部によって生成される亜硝酸の濃度はゼロである。なお、亜硝酸の濃度の検出限界は10マイクロ・モーラーであるので、DBD構造のプラズマ活性部によって生成される亜硝酸の濃度は10マイクロ・モーラー未満である。
【0039】
図6乃至
図9に示される結果によると、過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を増加させるには反応式(1)の左辺の活性種及び水素イオンが適切な比率で(理想的には等量ずつ)生成されることが重要であり、特に亜硝酸の濃度が過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度に大きく影響することが推察できる。従来の体積DBD構造のプラズマ活性部の場合は、表面DBD構造のプラズマ活性部の場合と比較して、過酸化水素の濃度は高いが亜硝酸の濃度は検出限界未満であるので過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度も低くなると推察される。
【0040】
つぎに亜硝酸の濃度が過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度に大きく影響することを考慮して、表面DBD構造のプラズマ活性部の場合に、水の代わりに亜硝酸ナトリウムの水溶液を使用してミストを作成することによって生成される亜硝酸の濃度を上昇させることを試みた。
【0041】
図10は、亜硝酸ナトリウムの水溶液を使用した場合に表面DBD構造のプラズマ活性部によって生成される、過酸化水素、亜硝酸、硝酸イオン及び亜硝酸イオンの濃度を示す図である。
図10の横軸は水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度を示す。濃度の単位はマイクロ・モーラーである。
図10の縦軸は活性種の濃度を示す。濃度の単位はミリ・モーラーである。両電極間にかける電圧のピークピーク値は16.3キロ・ボルトである。
【0042】
図11は、亜硝酸ナトリウムの水溶液を使用した場合の表面DBD構造のプラズマ活性部による過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を示す図である。
図11の横軸は水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度を示す。濃度の単位はマイクロ・モーラーである。
図11の縦軸は過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を示す。生成速度の単位はマイクロ・モーラー毎秒(μM/s)である。
【0043】
過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度の求め方を以下に説明する。反応式(1)から過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度は以下の式(2)で表せる。
【数6】
kは反応速度定数であり以下の値を使用した。
【数7】
式(2)に上述の方法で測定した活性種の濃度の値を代入して過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度を求めた。
【0044】
図6に示した、DBD構造のプラズマ活性部による過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度がゼロとなる理由は、DBD構造のプラズマ活性部によって生成される亜硝酸の濃度が検出限界未満でありゼロとなるためである。
【0045】
図11によると、水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度にしたがって過酸化亜硝酸(HOONO)の生成速度は増加する。実用上水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が1マイクロ・モーラーから100ミリ・モーラーの範囲であるのが好ましい。
【0046】
つぎに活性種及び過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度の経時的変化をシミュレーションによって推定する。シミュレーションは0次化学反応シミュレーションであり、反応に関係する複数の非平衡反応式及び平衡反応式を使用し、ニュートン・ラフソン法を使用した陰解法によって活性種及び過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度の経時的変化を求めた。
【0047】
図12は、水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が1200マイクロ・モーラーの場合に、シミュレーションによって求めた活性種の濃度の経時的変化を示す図である。
図12の横軸は時間を示す。時間の単位は秒である。
図12の縦軸は活性種の濃度を示す。濃度の単位はマイクロ・モーラーである。活性種の濃度の初期値としては
図10に示すデータを使用した。
【0048】
図13は、水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が2000マイクロ・モーラーの場合に、シミュレーションによって求めた活性種の濃度の経時的変化を示す図である。
図13の横軸は時間を示す。時間の単位は秒である。
図13の縦軸は活性種の濃度を示す。濃度の単位はマイクロ・モーラーである。活性種の濃度の初期値としては
図10に示すデータを使用した。
【0049】
図14は、水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が1200マイクロ・モーラーの場合及び2000マイクロ・モーラーの場合に、シミュレーションによって求めた過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度の経時的変化を示す図である。
図14の横軸は時間を示す。時間の単位は秒である。
図14の縦軸は過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度を示す。濃度の単位はマイクロ・モーラーである。
【0050】
図14によると、過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度は、水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が1200マイクロ・モーラーの場合及び水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が2000マイクロ・モーラーの場合に、300秒以上0.5マイクロ・モーラー以上に維持される。また、過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度の初期値は、水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が1200マイクロ・モーラーの場合の方が水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が2000マイクロ・モーラーの場合よりも大きい。他方、過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度の減少速度も、水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が1200マイクロ・モーラーの場合の方が水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が2000マイクロ・モーラーの場合よりも大きい。水溶液の亜硝酸ナトリウムの濃度が1200マイクロ・モーラーの場合は、過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度の初期値が大きいのでたとえばハンドサニタイザリーなどの用途により適し、亜硝酸ナトリウムの濃度が2000マイクロ・モーラーの場合は、過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度が比較的長い時間維持されるので室内噴霧用などの用途により適する。
【0051】
上記の実施例では過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度を増加させる目的でミストを発生させるために使用する液体に亜硝酸ナトリウムを添加した。一般的には、ミストを発生させるために使用する液体に亜硝酸または亜硝酸イオンを添加することによって過酸化亜硝酸(HOONO)の濃度を増加させることができる。
【要約】
噴霧装置はミスト発生部とプラズマ活性部とを備える。該プラズマ活性部は誘電体材料の管と、該誘電体材料の管の外面に設置された外部電極と、該誘電体材料の管の内面に設置された内部電極と、該外部電極及び該内部電極に高周波電圧を加える高周波電源とを備え、該外部電極及び該内部電極の該誘電体材料の管の軸方向の位置は、重ならないか部分的にのみ重なるように構成されており、該ミスト発生部から該誘電体材料の管の一方の端部に送り込まれたたミストが該誘電体材料の管を通過した後に該誘電体材料の管の他方の側からプラズマ活性化されて送り出されるように構成されている。