IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図1
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図2
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図3
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図4
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図5
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図6
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図7
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図8
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図9
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図10
  • 特許-検出装置、検出基板及び検出方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】検出装置、検出基板及び検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20231006BHJP
   B82Y 15/00 20110101ALI20231006BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20231006BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231006BHJP
【FI】
G01N21/64 G
G01N21/64 F
B82Y15/00
B82Y30/00
B22F1/00 K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020505709
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2019005590
(87)【国際公開番号】W WO2019176442
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018049021
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】河村 達朗
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-211320(JP,A)
【文献】特開2010-112748(JP,A)
【文献】特開2008-216046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0260479(US,A1)
【文献】特開2015-230248(JP,A)
【文献】特開2013-190376(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057136(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/087142(WO,A1)
【文献】特開2010-038624(JP,A)
【文献】特開2015-212674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
G01N 35/00 - G01N 35/10
B82Y 15/00
B82Y 30/00
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面及び前記第1の主面と反対側の第2の主面を有する基板と、
前記第1の主面に設けられ、被検出物質に結合する性質を有する第1の特異的結合物質が固定され、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体と、
前記被検出物質に結合する性質を有し、蛍光物質で標識された第2の特異的結合物質と、前記被検出物質を含む試料とを、前記金属微細構造体に導入する導入部と、
前記第2の特異的結合物質及び前記試料が導入された前記金属微細構造体に、前記基板の前記第2の主面側から前記励起光を照射する光照射部と、
前記励起光の照射により前記蛍光物質から生じる蛍光に基づき、前記被検出物質を検出する検出部と、を備え、
前記金属微細構造体は、前記第2の主面側から照射された前記励起光を透過させる透光部と、前記透光部よりも前記励起光の透光性が低い非透光部と、を有し、
前記基板は、前記励起光を透過させる性質を有し、
前記非透光部は、前記第1の主面の金属膜で覆われた領域であり、
前記透光部は、前記第1の主面の前記金属膜に覆われていない領域で
前記金属微細構造体は、ラインアンドスペース構造であって、ライン状の複数の突起部を有し、
前記透光部は、前記複数の突起部の各々の側面の領域である、
検出装置。
【請求項2】
前記金属膜は銀からなる、
請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記第2の特異的結合物質は、金属コロイド粒子に結合されている、
請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記金属コロイド粒子は金コロイド粒子である、
請求項に記載の検出装置。
【請求項5】
被検出物質を検出するための検出基板であって、
第1の主面及び前記第1の主面と反対側の第2の主面を有する基板と、
前記基板の第1の主面に設けられ、被検出物質に結合する性質を有する第1の特異的結合物質が固定され、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体と、を備え、
前記金属微細構造体は、前記第2の主面側から照射された前記励起光を透過させる透光部と、前記透光部よりも前記励起光の透光性が低い非透光部と、を有し、
前記基板は、前記励起光を透過させる性質を有し、
前記非透光部は、前記第1の主面の金属膜で覆われた領域であり、
前記透光部は、前記第1の主面の前記金属膜に覆われていない領域で
前記金属微細構造体は、ラインアンドスペース構造であって、ライン状の複数の突起部を有し、
前記透光部は、前記複数の突起部の各々の側面の領域である、
検出基板。
【請求項6】
被検出物質に結合する性質を有し、蛍光物質で標識された第2の特異的結合物質と、前記被検出物質を含む試料とを、(i)基板の第1の主面に設けられ、(ii)励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせ、(iii)前記被検出物質に結合する性質を有する第1の特異的結合物質が固定された金属微細構造体に導入し、
前記第2の特異的結合物質及び前記試料が導入された前記金属微細構造体に、前記基板の前記第1の主面とは反対側の第2の主面側から前記励起光を照射し、
前記励起光の照射により前記蛍光物質から生じる蛍光に基づき、前記被検出物質を検出し、
前記金属微細構造体は、前記第2の主面側から照射された前記励起光を透過させる透光部と、前記透光部よりも前記励起光の透光性が低い非透光部と、を有し、
前記基板は、前記励起光を透過させる性質を有し、
前記非透光部は、前記第1の主面の金属膜で覆われた領域であり、
前記透光部は、前記第1の主面の前記金属膜に覆われていない領域で
前記金属微細構造体は、ラインアンドスペース構造であって、ライン状の複数の突起部を有し、
前記透光部は、前記複数の突起部の各々の側面の領域である、
検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属微細構造体(以下、金属ナノ構造と称する)を有する検出基板及びこれを備える検出装置等に関する。ここで、金属ナノ構造は、その近傍で発生したラマン散乱光や蛍光を局在化表面プラズモン共鳴の作用によって増強する。特に、被検出物質と結合する蛍光標識抗体の蛍光を検出する表面増強蛍光分光法(Surface Enhanced Fluorescence Spectroscopy)により、被検出物質を検出する装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンパク質を検出する技術として、表面増強蛍光を利用する技術がある。これは溶液を流す流路内に金属ナノ構造を形成した領域を設け、この金属ナノ構造上に被検出物質と結合する抗体(以下、固定化抗体と称する)を固定化する。この流路に、被検出物質と蛍光標識された抗体(以下、標識抗体と称する)を含むサンプル溶液を滴下すると、標識抗体と結合した被検出物質が固定化抗体に捕捉される。ここに、金属ナノ構造が局在化表面プラズモン共鳴を起こす波長の光を照射すると、標識抗体で発生した蛍光が増強され表面増強蛍光となる。この局在化表面プラズモン共鳴による蛍光の増強の程度を増強度と呼ぶ。表面増強蛍光の強度は、当該被検出物質の濃度の増加に応じて増加する。増強度は1~3桁(つまり、10~1000倍)程度なので、表面増強蛍光は、通常の蛍光よりも1~3桁程度高い強度を示す。従って、通常の蛍光では計測できないような低濃度の被検出物質も検出できる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-19765号公報
【文献】特開2008-216046号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では、被検出物質に結合した標識抗体だけではなく、被検出物質に結合していない標識抗体でも蛍光が発生するため、被検出物質の検出精度が低下する。また、被検出物質に結合していない標識抗体を除去することもできるが、その場合、操作が複雑になり、検出時間も増加する。
【0005】
そこで、本開示は、被検出物質に結合していない標識抗体の除去作業を行わなくても、当該標識抗体による検出精度の低下を抑制することができる検出装置等を提供する。
【0006】
本開示の一態様に係る検出装置は、第1の主面及び前記第1の主面と反対側の第2の主面を有する基板と、前記第1の主面に設けられ、被検出物質に結合する性質を有する第1の特異的結合物質が固定され、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体と、前記被検出物質に結合する性質を有し、蛍光物質で標識された第2の特異的結合物質と、前記被検出物質を含む試料とを、前記金属微細構造体に導入する導入部と、前記第2の特異的結合物質及び前記試料が導入された前記金属微細構造体に、前記基板の前記第2の主面側から前記励起光を照射する光照射部と、前記励起光の照射により前記蛍光物質から生じる蛍光に基づき、前記被検出物質を検出する検出部と、を備え、前記金属微細構造体は、前記第2の主面側から照射された前記励起光を透過させる透光部と、前記透光部よりも前記励起光の透光性が低い非透光部と、を有し、前記基板は、前記励起光を透過させる性質を有し、前記非透光部は、前記第1の主面の金属膜で覆われた領域であり、前記透光部は、前記第1の主面の前記金属膜に覆われていない領域でり、前記金属微細構造体は、ラインアンドスペース構造であって、ライン状の複数の突起部を有し、前記透光部は、前記複数の突起部の各々の側面の領域である
【0007】
なお、これらの包括的又は具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能な記録媒体で実現されてもよく、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えばCD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)などの不揮発性の記録媒体を含む。
【0008】
本開示によれば、被検出物質に結合していない標識抗体の除去作業を行わなくても、当該標識抗体による検出精度の低下を抑制することができる。本開示の一態様における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】基礎となった知見における表面増強蛍光法を説明するための図
図2】実施の形態に係る検出装置の構成図
図3】実施の形態に係る金属ナノ構造の断面図
図4】実施の形態に係る金属ナノ構造の斜視図
図5】実施の形態に係る金属ナノ構造の突起部の拡大斜視図
図6】実施の形態に係る検出方法を示すフローチャート
図7】実施例に係る金属ナノ構造の断面図
図8】実施例に係る金属ナノ構造の反射スペクトルのグラフ
図9】実施例に係る金属ナノ構造周辺の電場強度の2乗の分布図
図10】実施例における電場強度の2乗のz方向における位置依存性を示す図
図11】他の実施の形態に係る金属ナノ構造の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
金属ナノ構造を利用した表面増強蛍光法においては、金属ナノ構造上に固定化された固定化抗体が被検出物質を介して標識抗体を捕捉する。そして、標識抗体で発生した蛍光を局在化表面プラズモン共鳴によって増強する。この増強された蛍光即ち表面増強蛍光を検出することにより、被検出物質を検出する。被検出物質の検出とは、被検出物質の濃度の計測を意味する。被検出物質の濃度の計測には、被検溶液中の被検出物質の絶対的な濃度の計測に加えて、所定濃度に対する相対的な濃度の計測が含まれる。
【0011】
このように、金属ナノ構造で発生した局在化表面プラズモン共鳴による増強を利用した方法においては、局在化表面プラズモン共鳴を生成する励起光は、金属ナノ構造と被検出物質を含む被検溶液とが接する面(以降、表面と称する)側から照射される。
【0012】
図1は、基礎となった知見における表面増強蛍光法を説明するための図である。図1において、基板111は、オレフィン等の樹脂からなり、その表面に直径が100~2000nm程度の半円状の突起を有する。基板111の表面は、金、銀、アルミ等の金属からなる膜厚が30~1000nm程度の金属膜112で覆われている。
【0013】
金属膜112は、基板111の表面の突起上に成膜されているので、直径が100~2000nm程度の半円状の突起構造、即ち金属ナノ構造130を形成する。この金属ナノ構造130に特定の波長の光を照射すると局在化表面プラズモン共鳴が発生する。
【0014】
固定化抗体113は、金属膜112上に固定化される。被検出物質114は、固定化抗体113と結合する。標識抗体116は、蛍光物質115で標識されており、標識抗体116は、被検出物質114と結合する。つまり、被検出物質114は、固定化抗体113及び標識抗体116の間に挟まれる。
【0015】
透明カバー117は、ガラス、樹脂等のからなり、被検出物質114を含む被検溶液118を、基板111との間に保持する。励起光119は、透明カバー117を介して金属ナノ構造130に照射される。励起光119は、金属ナノ構造130で局在化表面プラズモン共鳴を発生できる波長であって蛍光物質115を励起できる波長を有する。
【0016】
励起光119が照射されると、金属ナノ構造130によって局在化表面プラズモン共鳴が発生し、かつ、被検出物質114を介して固定化抗体113に捕捉された標識抗体116から蛍光120が発生する。この蛍光120は、局在化表面プラズモン共鳴によって増強される。増強された蛍光120は、透明カバー117を透過して外部へ出射して光検出器(図示せず)で検出される。
【0017】
固定化抗体113に捕捉される標識抗体116の数は、被検出物質114の増加に応じて増加する。光検出器で検出される蛍光120の強度は、固定化抗体113に捕捉された標識抗体116の数に比例する。したがって、蛍光120の強度を計測することで、被検出物質114の濃度を計測することができる。ここで、被検出物質114と結合(Bind)している標識抗体116をB成分と称する。
【0018】
また、被検出物質114と結合していない標識抗体121にも励起光119が照射されるので、標識抗体121から蛍光122が発生する。ここで、被検出物質114と結合していないフリー(Free)な標識抗体121を、F成分と称する。蛍光122は、F成分から発生しており、被検出物質114の濃度を反映しない。F成分から発生した蛍光122は、単なるノイズ成分であり、B成分から発生した蛍光120の計測を妨害して計測精度を低下させる。
【0019】
例えば、F成分から発生した蛍光122が強いと、光検出器が飽和してしまい計測不能になることもある。この飽和を防止するために励起光119の強度を低減すると、特に被検出物質114の濃度が低い場合の計測精度が低下する。
【0020】
また、被検溶液118全体が励起光119に照射されているので、被検溶液118に共存する物質の散乱光や蛍光が、光検出器に混入してノイズになる。被検溶液118が、環境や生体から採取されたものであれば、被検溶液118内に共存物質が大量に混入していることが多いため、共存物質からの散乱光や蛍光による計測精度の低下は著しい。
【0021】
このF成分によるB成分の検出に対する妨害を除去するために、標識抗体116が被検出物質114を介して固定化抗体113に捕捉される反応が完了した後に、金属ナノ構造130の周辺を洗浄して、被検出物質114と結合していないF成分である標識抗体121を除去してもよい(BF分離)。この場合、洗浄後に励起光119を照射することで、被検出物質114の濃度の計測精度を向上することができる。
【0022】
ただし、このようなBF分離は、計測操作を複雑にする。さらに、BF分離は、標識抗体116が被検出物質114を介して固定化抗体113に捕捉される反応が完了するまで始めることができず、計測時間の短縮を阻害する。また、金属ナノ構造130の周辺を洗浄することで、F成分の標識抗体121に加えて、固定化抗体113に捕捉されたB成分の標識抗体116も除去されてしまうことがある。
【0023】
BF分離を用いない方法としては、特許文献2に記載されているように、基板の裏側から光を照射する裏面照射系を利用する方法がある。この方法では、基板の裏面から光を照射してエバネセント波を誘起する。このエバネセント波が、固定化抗体に補捉された標識抗体に照射されることで、標識抗体から蛍光が発生する。この方法の場合、エバネセント波は、抗体を固定化した基板表面から数百nmの領域のみを照射するので、従来のように基板の表面から光を照射する場合と比べて、F成分又は共存物質に照射される光の量を低減することができる。
【0024】
しかし、固定化抗体に捕捉された標識抗体は、基板表面から10nm程度に位置することを考慮すると、エバネセント波の照射領域は過大であり、F成分から発生する蛍光の低減効果は限定的である。さらに、エバネセント波を誘起する場合は、基板への光の入射角を厳密に調整する必要があり、光学系が複雑になる。
【0025】
以上のように、BF分離を利用する方法では、計測操作が複雑になるだけでなく、計測時間の短縮を阻害する。また、エバネセント波を利用する特許文献2の方法では、照射領域の制限が不十分であり、さらに複雑な光学系が要求される。
【0026】
そこで、本開示の一態様に係る検出装置は、第1の主面及び前記第1の主面と反対側の第2の主面を有する基板と、前記第1の主面に設けられ、被検出物質に結合する性質を有する第1の特異的結合物質が固定され、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体と、前記被検出物質に結合する性質を有し、蛍光物質で標識された第2の特異的結合物質と、前記被検出物質を含む試料とを、前記金属微細構造体に導入する導入部と、前記第2の特異的結合物質及び前記試料が導入された前記金属微細構造体に、前記基板の前記第2の主面側から前記励起光を照射する光照射部と、前記励起光の照射により前記蛍光物質から生じる蛍光に基づき、前記被検出物質を検出する検出部と、を備え、前記金属微細構造体は、前記第2の主面側から照射された前記励起光を前記第1の主面側に透過させる透光部を有する。
【0027】
これによれば、金属微細構造体は、基板の第2の主面側から照射された励起光を基板の第1の主面側に透過させる透光部を有する。これにより、複雑な光学系を用いなくても、基板の第2の主面側から照射された励起光によって、(i)金属微細構造体で表面プラズモンを生じさせ、(ii)第1の特異的結合物質に捕捉された第2の特異的結合物質から蛍光を発生させ、(iii)その蛍光を表面プラズモンで増強させることができる。したがって、第1の主面側から励起光が照射される場合よりも、励起光の試料中の照射範囲を金属微細構造体の近傍に制限しつつ、第1の特異的結合物質に捕捉された第2の特異的結合物質で発生した蛍光(信号光)を増強することができる。その結果、金属微細構造体の近傍以外で発生するノイズ光に対する信号光のS/N比を増大させることができ、被検出物質の検出精度を向上させることができる。また、金属微細構造体から比較的離れた位置にある第2の特異的結合物質(つまり、第1の特異的結合物質に捕捉されていない第2の特異的結合物質)で発生する蛍光を低減することができるため、第1の特異的結合物質に捕捉されていない第2の特異的結合物質の除去作業(つまり、BF分離)を省略することも可能となる。
【0028】
また、本開示の一態様に係る検出装置において、前記金属微細構造体は、さらに、前記透光部よりも前記励起光の透光性が低い非透光部を有し、前記基板は、前記励起光を透過させる性質を有し、前記非透光部は、前記第1の主面の金属膜で覆われた領域であり、前記透光部は、前記第1の主面の前記金属膜に覆われていない領域、又は、前記第1の主面の前記非透光部の金属膜よりも薄い金属膜で覆われた領域であってもよい。
【0029】
これによれば、金属微細構造体は、透光部に加えて、金属膜で覆われた非透光部を備えることができる。したがって、透光部によって励起光を基板の第1の主面側に導くことができ、非透光部によって表面プラズモンを生じさせることができる。つまり、金属膜によって励起光の透過及び表面プラズモンを制御することができ、被検出物質の検出精度を向上させるための金属微細構造体の製造の容易性を向上させることができる。
【0030】
また、本開示の一態様に係る検出装置において、前記金属微細構造体は、複数の突起部を有し、前記透光部は、前記複数の突起部の各々の側面の領域であってもよい。
【0031】
これによれば、突起部の側面に透光部を設けることができる。したがって、例えば電子ビーム蒸着等の成膜方法を用いて、基板の突起の上面及び突起間の溝の底面に金属膜を成膜することで透光部及び非透光部を形成することができ、比較的容易に金属微細構造体を製造することができる。さらに、試料中の励起光の照射範囲を金属微細構造体のより近傍に制限することができ、さらに被検出物質の検出精度を向上させることができる。
【0032】
また、本開示の一態様に係る検出装置において、前記金属微細構造体は、ラインアンドスペース構造を有し、前記複数の突起部の各々は、ライン状であってもよい。
【0033】
これによれば、金属微細構造体にラインアンドスペース構造を採用することができる。ラインアンドスペース構造は比較的簡易な構造であるので、被検出物質の検出精度を向上させるための金属微細構造体の設計の難しさを低減することができる。
【0034】
また、本開示の一態様に係る検出装置において、前記金属膜は銀からなってもよい。
【0035】
これによれば、金属膜として銀を用いることができる。
【0036】
また、本開示の一態様に係る検出装置において、前記第2の特異的結合物質は、金属コロイド粒子に結合されてもよい。
【0037】
これによれば、第2の特異的結合物質に金属コロイド粒子を結合することができる。したがって、金属微細構造体と金属コロイド粒子との間でも表面プラズモンを生じさせることができ、蛍光をさらに増強することができる。特に、金属コロイド粒子が金属微細構造体に近いほど、より強い表面プラズモンを生じさせることができるので、第1の特異的結合物質に捕捉されている第2の特異的結合物質で発生した蛍光の増強効果を向上させることができる。
【0038】
また、本開示の一態様に係る検出装置において、前記金属コロイド粒子は金コロイド粒子であってもよい。
【0039】
これによれば、金属コロイド粒子として金コロイド粒子を用いることができる。
【0040】
本開示の一態様に係る検出基板は、被検出物質を検出するための検出基板であって、第1の主面及び前記第1の主面と反対側の第2の主面を有する基板と、前記基板の第1の主面に設けられ、被検出物質に結合する性質を有する第1の特異的結合物質が固定され、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体と、を備え、前記金属微細構造体は、前記第2の主面側から照射された前記励起光を前記第1の主面側に透過させる透光部を有する。
【0041】
この検出基板を用いて被検出物質を検出すれば、上記検出装置と同様の効果を得ることができる。
【0042】
本開示の一態様に係る検出方法は、被検出物質に結合する性質を有し、蛍光物質で標識された第2の特異的結合物質と、前記被検出物質を含む試料とを、(i)基板の第1の主面に設けられ、(ii)励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせ、(iii)前記被検出物質に結合する性質を有する第1の特異的結合物質が固定された金属微細構造体に導入し、前記第2の特異的結合物質及び前記試料が導入された前記金属微細構造体に、前記基板の前記第1の主面とは反対側の第2の主面側から前記励起光を照射し、前記励起光の照射により前記蛍光物質から生じる蛍光に基づき、前記被検出物質を検出し、前記金属微細構造体は、前記第2の主面側から照射された前記励起光を前記第1の主面側に透過させる透光部を有する。
【0043】
これによれば、上記検出装置と同様の効果を得ることができる。
【0044】
なお、これらの包括的又は具体的な態様は、システム、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0045】
(実施の形態)
以下、実施の形態に関して図面を参照しながら具体的に説明する。
【0046】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0047】
[検出装置の構成]
図2は、実施の形態に係る検出装置の構成図である。
【0048】
図2に示すように、本実施の形態に係る検出装置は、基板11と、金属ナノ構造30と、導入部29と、光源41と、光検出器42と、コントローラ26と、を備える。本実施の形態では、検出装置は、さらに、透明カバー17と、レンズ23、24と、ロングパスフィルタ25と、を備える。
【0049】
基板11は、第1の主面(以下、表面と称する)及び第1の主面と反対側の第2の主面(以下、裏面と称する)を有する。また、基板11は、励起光19を透過させる性質を有する。基板11と透明カバー17との間には、被検溶液18が保持される。
【0050】
金属ナノ構造30は、基板11の表面の少なくとも一部を金属膜で覆うことにより形成される。金属ナノ構造30には、被検出物質に結合する性質を有する固定化抗体が固定される。被検出物質は、例えば病原体由来の分子である。病原体由来の分子としては、インフルエンザウイルスの核タンパク(NP)が例示される。固定化抗体は、第1の特異的結合物質の一例であり、例えばIgG抗体、または、VHH抗体である。固定化抗体が金属ナノ構造30に対する結合能を有する場合には、直接固定することができ、結合能を有しない場合には、有機分子などのリンカー材料を介して間接的に固定することができる。
【0051】
この金属ナノ構造30に特定の波長の励起光を照射することによって表面プラズモンを生じる。また、金属ナノ構造30は、基板11の裏面側から照射された励起光19を基板11の表面側に透過させる透光部を有する。金属ナノ構造30の詳細については、図3図5を用いて後述する。
【0052】
導入部29は、標識抗体と、被検出物質を含む被検溶液18とを、金属ナノ構造30に導入する。標識抗体は、第2の特異的結合物質の一例であり、蛍光物質で標識され、被検出物質に結合する性質を有する。具体的には、標識抗体は、例えばIgG抗体、または、VHH抗体である。被検溶液18は、試料と称される場合もある。
【0053】
具体的には、導入部29は、例えば透明カバー17に設けられた貫通孔に被検溶液18を滴下する。より具体的には、導入部29は、例えばポンプ(図示せず)及びバルブ(図示せず)を備えてもよい。この場合、導入部29は、バルブを開いてポンプを作動することにより、被検溶液18を金属ナノ構造30に導入してもよい。
【0054】
光源41は、光照射部の一例であり、略平行光である励起光19を基板11の裏面側から照射する。基板11の裏面側から照射された励起光19は、金属ナノ構造30の透光部を介して基板11の表面側に透過し、金属ナノ構造30に照射される。
【0055】
固定化抗体に捕捉された標識抗体は、励起光19に照射され、蛍光物質から蛍光20を発する。標識抗体で発生した蛍光20は、局在化表面プラズモン共鳴によって増強される。増強された蛍光20は、透明カバー17を透過し、レンズ23、ロングパスフィルタ25及びレンズ24を介して光検出器42へ導かれる。ロングパスフィルタ25は、励起光19の波長成分を低減し、蛍光20の波長成分を透過させる。
【0056】
光検出器42は、蛍光20を分光して、スペクトルを検出する。光検出器42は、蛍光20のスペクトルデータを出力信号としてコントローラ26に出力する。
【0057】
コントローラ26は、プロセッサ及びメモリを備え、メモリに格納されたソフトウェアプログラムをプロセッサが実行することによって実現される。また、コントローラ26は、専用電子回路で構成されてもよい。コントローラ26は、光検出器42の出力信号である蛍光20のスペクトルデータを解析して、被検出物質の濃度を算出する。さらに、コントローラ26は、光源41及び導入部29を制御する。
【0058】
光検出器42及びコントローラ26のセットは、検出部の一例であり、励起光19の照射により蛍光物質から生じる蛍光に基づいて被検出物質を検出する。
【0059】
[金属ナノ構造]
次に、金属ナノ構造30の詳細について、図3図5を参照しながら具体的に説明する。図3は、実施の形態における金属ナノ構造30の断面図である。図4は、実施の形態に係る金属ナノ構造30の斜視図である。図5は、実施の形態に係る金属ナノ構造30の突起部31の拡大斜視図である。
【0060】
基板11は、励起光19を透過するオレフィン等の樹脂製である。基板11の表面には、幅が10~2000nm程度、高さが10~4000nm程度のライン状の突起が、ライン状の突起の幅と同程度の間隔で配置されている。基板11の突起は、例えばナノインプリント法で形成される。
【0061】
金属膜12は、例えば金、銀、アルミ等の金属からなる。金属膜12の膜厚は、10~1000nm程度である。金属膜12は、例えば電子ビーム蒸着によって基板11の表面に成膜される。その結果、基板11及び金属膜12は、幅が10~2000nm程度、厚みが10~1000nm程度のライン状の突起部31を有する金属ナノ構造30を形成する。つまり、基板11及び金属膜12は、いわゆるラインアンドスペース構造を有する金属ナノ構造30を形成する。ラインアンドスペース構造は、ライン方向(y方向)と、ライン方向と直交する方向(x方向)とで構造が異なる、いわゆる異方性を有する。
【0062】
図5に示すように、金属ナノ構造30は、透光部32及び非透光部33を有する。
【0063】
透光部32は、基板11の裏面側から照射された励起光19を基板11の表面側に透過させる。具体的には、透光部32は、基板11の表面の金属膜12で覆われていない領域である。より具体的には、透光部32は、ライン状の突起部31の側面(yz面)の領域である。
【0064】
非透光部33は、基板11の表面の、透光部32よりも励起光19の透光性が低い領域であり、基板11の表面の、金属膜12で覆われた領域である。本実施の形態では、非透光部33は、ライン状の突起部31の上面(xy面)及び突起部31間の溝の底面(xy面)の領域である。非透光部33には、固定化抗体13が固定される。
【0065】
金属ナノ構造30は、特定の波長の光が特定の偏光方向で照射された場合に、局在化表面プラズモン共鳴を発生する。局在化表面プラズモン共鳴は、金属ナノ構造30の周辺で発生した蛍光を増強する。局在化表面プラズモン共鳴が発生する共鳴波長及び増強度は、金属ナノ構造30のサイズ、金属種及び金属表面の粗さに依存する。例えば、本実施の形態の金属ナノ構造30では、局在化表面プラズモン共鳴の共鳴波長及び増強度は、図3図5に示すライン状の突起部31の幅、高さ、間隔、及び金属膜12の膜厚及び表面粗さに依存する。
【0066】
固定化抗体13は、金属膜12上に固定化される。被検出物質14は、固定化抗体13と結合する。標識抗体16は、蛍光物質15で標識されている。この標識抗体16は、さらに、直径10nm程度の金コロイド粒子(以下、金コロイド27と称する)と結合している。図5に示すように、金コロイド27は、標識抗体16、被検出物質14、及び固定化抗体13を介して、金属膜12に固定化されている。金コロイド27と金属膜12との間の距離は、約15nmである。
【0067】
基板11の裏面側から励起光19が照射されると、励起光19は、透光部32を介して基板11の表面側に到達し、金属ナノ構造30に照射される。その結果、金属ナノ構造30では、局在化表面プラズモン共鳴が発生する。
【0068】
さらに、図3図5では、ライン状の突起部31の側面(yz面)から出射した励起光19の回折と、金属膜12で発生した局在化表面プラズモン共鳴からの光放射とにより、金コロイド27においても局在化表面プラズモン共鳴が発生する。これらの2つの局在化表面プラズモン共鳴の作用で、蛍光物質15からの蛍光20は、より増強される。
【0069】
なお、励起光19は、局在化表面プラズモン共鳴を発生させる波長を有していれば、必ずしも略平行光である必要はなく、拡散光のように斜めから入射する光であってもよい。そのため、簡易な光学系で励起光19を照射することが可能である。
【0070】
一方、固定化抗体13に捕捉されていない標識抗体21の多くは、金属ナノ構造30から比較的離れた、電場増強の程度が低い領域に存在するため、F成分である標識抗体21からの蛍光22はほとんど増強されず、F成分である標識抗体21からの蛍光22の強度を抑制することができる。
【0071】
[検出装置の動作]
次に、以上のように構成された検出装置の動作について、図6を参照しながら説明する。図6は、実施の形態に係る検出方法を示すフローチャートである。
【0072】
まず、コントローラ26は、導入部29を用いて、金属ナノ構造30に、標識抗体16と、被検溶液18とを導入する(S11)。これにより、被検溶液18に含まれる被検出物質14は、固定化抗体13及び標識抗体16と結合する(抗原抗体反応)。ここでは、固定化抗体13-被検出物質14-標識抗体16のように結合した複合体を形成させる、いわゆるサンドイッチ法を利用している。
【0073】
被検物質14に対する固定化抗体13の結合能を調整することが可能であってよい。被検物質14に対する標識抗体16の結合能を調整することが可能であってよい。
【0074】
続いて、コントローラ26は、光源41を用いて、基板11の裏面側から励起光19を照射する(S12)。これにより、金属ナノ構造30の透光部32を介して、基板11の表面側から励起光19が金属ナノ構造30、金コロイド27及び標識抗体16に照射される。その結果、標識抗体16の蛍光物質15から蛍光20が発せられ、金属ナノ構造30及び金コロイド27の近傍で局在化表面プラズモン共鳴が発生する。標識抗体16から発せられた蛍光20は、局在化表面プラズモン共鳴によって増強される。
【0075】
最後に、コントローラ26は、光検出器42を用いて、増強された蛍光20を検出することにより、被検出物質14を検出する(S13)。
【0076】
[効果等]
以上のように、本実施の形態に係る検出装置によれば、金属ナノ構造30は、基板11の裏面側から照射された励起光19を基板11の表面側に透過させる透光部32を有する。これにより、複雑な光学系を用いなくても、基板11の裏面側から照射された励起光19によって、(i)金属ナノ構造30で表面プラズモンを生じさせ、(ii)固定化抗体13に捕捉された標識抗体16から蛍光を発生させ、(iii)その蛍光を表面プラズモンで増強させることができる。したがって、基板11の表面側から励起光19が照射される場合よりも、励起光19の被検溶液18中の照射範囲を金属ナノ構造30の近傍に制限しつつ、固定化抗体13に捕捉された標識抗体16で発生した蛍光20(信号光)を増強することができる。その結果、金属ナノ構造30の近傍以外で発生するノイズ光に対する信号光のS/N比を増大させることができ、被検出物質14の検出精度を向上させることができる。また、金属ナノ構造30から比較的離れた位置にある標識抗体21(つまり、固定化抗体13に捕捉されていない標識抗体21)で発生する蛍光22を低減することができるため、固定化抗体13に捕捉されていない標識抗体21の除去作業(つまり、BF分離)を省略することも可能となる。
【0077】
また、本実施の形態に係る検出装置によれば、金属ナノ構造30は、透光部32に加えて、金属膜12で覆われた非透光部33を備えることができる。したがって、透光部32によって励起光19を基板11の表面側に導くことができ、非透光部33によって表面プラズモンを生じさせることができる。つまり、金属膜12によって励起光19の透過及び表面プラズモンを制御することができ、被検出物質14の検出精度を向上させるための金属ナノ構造30の製造の容易性を向上させることができる。
【0078】
また、本実施の形態に係る検出装置によれば、突起部31の側面に透光部32を設けることができる。したがって、例えば電子ビーム蒸着等の成膜方法を用いて、基板11の突起の上面及び突起間の溝の底面に金属膜12を成膜することで透光部32及び非透光部33を形成することができ、比較的容易に金属ナノ構造30を製造することができる。さらに、被検溶液18中の励起光19の照射範囲を金属ナノ構造30のより近傍に制限することができ、さらに被検出物質の検出精度を向上させることができる。
【0079】
また、本実施の形態に係る検出装置によれば、金属ナノ構造30にラインアンドスペース構造を採用することができる。ラインアンドスペース構造は比較的簡易な構造であるので、被検出物質14の検出精度を向上させるための金属ナノ構造30の設計の難しさを低減することができる。
【0080】
また、本実施の形態に係る検出装置によれば、標識抗体16に金コロイド27を結合することができる。したがって、金属ナノ構造30と金コロイド27との間でも表面プラズモンを生じさせることができ、蛍光をさらに増強することができる。特に、金コロイド27が金属ナノ構造30に近いほど、より強い表面プラズモンを生じさせることができるので、固定化抗体13に捕捉されている標識抗体16で発生した蛍光の増強効果を向上させることができる。
【0081】
以上のように、ライン状の突起部31の側面(yz面)に透光部32を有する金属ナノ構造30に裏面より励起光19を照射することで、F成分の蛍光の発生を抑制しつつ、B成分の蛍光を増強して検出できるので、BF分離不要な高精度な計測を簡単な光学系で実現できる。
【0082】
(実施例)
本実施の形態の実施例として金属ナノ構造のシミュレーション結果を図7図10を参照しながら説明する。図7は、実施例に係る金属ナノ構造の断面図である。
【0083】
本実施例のシミュレーションモデルでは、基板11としてオレフィンフィルムを用いた。オレフィンフィルムには、ライン幅=100nm、ライン高さ=200nm、ライン間隔(ピッチ)=200nmのライン状の突起を形成した。この基板11に、金属膜12として、銀を175nm蒸着することで金属ナノ構造を形成した。その結果、金属ナノ構造には、ライン状の突起部の側面(yz面)にZ=175~200nmの幅でライン状の透光部32が形成された。
【0084】
また、金コロイドが被検出物質を介して金属膜12に固定化された場合は、金コロイド27は、金属膜12から約15nm離れて位置する。したがって、本シミュレーションモデルでは、図7に示すように、金属膜12の表面から15nm離れた以下の位置に金コロイドを配置した。
【0085】
(1)x=65nm、z=190nm
(2)x=65nm、z=360nm
(3)x=35nm,z=390nm
(4)x=0nm、z=390nm
(5)x=-65nm、z=190nm(図示せず)
(6)x=-65nm、z=360nm(図示せず)
(7)x=-35nm,z=390nm(図示せず)
これらの金コロイドによって、B成分の標識抗体16に結合した金コロイド27がモデル化された。
【0086】
さらに、本シミュレーションモデルでは、図7に示すように、以下の位置にも金コロイドを配置した。
【0087】
(8)x=65nm、z=750nm
(9)x=0nm、z=750nm
(10)x=-65nm、z=750nm(図示せず)
これらの金コロイドによって、F成分の標識抗体21に結合した金コロイド27がモデル化された。
【0088】
ここで、図7に示す金属ナノ構造及び金コロイドの局在化表面プラズモン共鳴に基づく電場分布を、FDTD法(Finite-difference time-domain method)にてシミュレーションした結果を図8図10に示す。ここで、これら金属ナノ構造と金コロイドは被検溶液18中にあるので、水の屈折率データを使用した。
【0089】
まず、局在化表面プラズモン共鳴の共鳴特性を把握するために、励起光19を基板11の裏面よりz方向に照射した際の-z方向への反射スペクトルを算出した。図8は、実施例に係る金属ナノ構造の反射スペクトルのグラフである。ここで、励起光19の偏光方向は、ライン方向(つまり、x方向)と直交する方向(つまり、y方向)である。
【0090】
図8より、局在化表面プラズモン共鳴を示す反射スペクトルのへこみが、波長=456nm、564nm、及び830nm付近に見られた。また、金コロイドは水中では、波長=520~880nmで局在化表面プラズモン共鳴を発生した。
【0091】
そこで、波長=564nmの励起光を金属ナノ構造の周辺に照射した場合における金属ナノ構造の周辺の電場強度の2乗のxz面の分布を算出した。図9は、実施例に係る金属ナノ構造の周辺の電場強度の2乗の分布図である。
【0092】
この電場強度の2乗は、蛍光の増強度に相当する。これらは、電場強度=1(V/m)の励起光19をz方向に照射した際の金属ナノ構造の周辺の電場強度の2乗((V/m))の分布図である。ここで、濃淡バー(凡例)の数値は、電場強度の2乗((V/m))を対数表示した数値である。濃淡バーにおいて、1は10(V/m)、2は100(V/m)を、-1は1/10(V/m)、-2は1/100(V/m)を示す。
【0093】
図9から明らかなように、ライン状の突起部の角付近と、金属膜12に固定化されている以下の位置の金コロイド周辺に電場が増強されている領域(ホットスポット)が見られる。
【0094】
(1)x=65nm、z=190nm
(2)x=65nm、z=360nm
(3)x=35nm、z=390nm
(5)x=-65nm、z=190nm
(6)x=-65nm、z=360nm
(7)x=-35nm、z=390nm
図10は、実施例における電場強度の2乗のz方向における位置依存性を示す図である。図10は、x=57.5nmの位置における電場強度のz方向の位置依存性を示している。図10には、このx57.5nmの位置を示す直線が描かれている。このx=57.5nmの位置は、x=65nmに配置された金コロイド(直径=10nm)から2.5nm離れており、蛍光物質15の近傍である。したがって、x=57.5nmの位置の電場強度の2乗は、蛍光物質15から発生する蛍光の増強度に相当する。なおx=-57.5nmの位置は、x=57.5nmの位置と同様の増強度が得られる。
【0095】
図10において、z=175nmの増強度のピークは主に金属ナノ構造の局在化表面プラズモン共鳴によって生成されている。z=190nm及びz=360nmのピークは、金属ナノ構造の局在化表面プラズモン共鳴に加えて、金コロイドの局在化表面プラズモン共鳴によって生成されている。これらが、B成分の標識抗体から発生した蛍光を増強する。一方、z=750nmの増強度のピークは、金コロイドの局在化表面プラズモン共鳴によって生成されている。これは、F成分の標識抗体から発生した蛍光を増強する。ただし、このF成分の蛍光の増強度は、上記B成分の蛍光の増強度の1/10程度である。
【0096】
また、基板11の表面から励起光19を照射した場合は、z>375nm以上の領域における電場強度の2乗は、平均1((V/m))になる。一方、本実施例では、図10に示すように、金コロイドが存在しないz>375nm以上の領域では、電場強度の2乗は、1((V/m))以下であり、約0.15((V/m))まで低下する。
【0097】
基板11と透明カバー17との間の距離は、10μm程度以上なければ、被検溶液18を保持することが困難なので、被検溶液18のz方向の厚みは10μm程度以上ある。これを考慮すると被検溶液18の大部分の電場強度の2乗は、約0.15((V/m)2)になる。したがって、本実施例では、被検溶液18に共存する物質の散乱光や蛍光の増強度を従来よりも1/7程度に低減することができる。
【0098】
さらに、金属ナノ構造の周辺で電場強度の2乗が1以上になる増強領域の幅は、50nm程度であり、エバネセント波によって生成される増強領域の幅より、1桁程度小さい。これにより、F成分からの蛍光、並びに、共存物質の散乱光及び蛍光が被検出物質の検出に与える悪影響を低減できる。
【0099】
また、図9からわかるように、x=57.5nm以外の位置も同様に、金コロイド周辺以外は、電場強度の2乗が低く、F成分の蛍光、並びに、共存物質の散乱光及び蛍光の増強を抑制できることがわかる。
【0100】
以上のように、金属ナノ構造30を有する基板の裏面より励起光19を照射することで、F成分の蛍光、並びに、共存物質の散乱光及び蛍光の増強を抑制でき、BF分離を行わなくても、高精度に被検出物質を検出することができる。
【0101】
(他の実施の形態)
以上、本開示の1つまたは複数の態様に係る検出装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の1つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0102】
例えば、上記実施の形態では、透光部32は、基板11の表面の金属膜12に覆われていない領域であったが、これに限定されない。透光部32は、励起光19が透過すればどのような構成であってもよい。例えば、透光部32は、基板11の表面の非透光部33の金属膜よりも薄い金属膜で覆われた領域であってもよい。例えば、透光部32は、金属膜が金、銀又はアルミニウムである場合、50nm程度以下の膜厚を有する金属膜で覆われた領域であってもよい。50nm程度の金属膜であれば、励起光は、当該金属膜に覆われた領域を透過するので、当該領域は、透光部32として機能する。また、透光部32が基板11の表面の薄い金属膜で覆われた領域である場合、金属膜の成膜法として、スパッタリング等を用いることができる。
【0103】
なお、上記実施の形態では、標識抗体16は、金コロイド27と結合されていたが、必ずしも金コロイド27と結合されなくてもよい。つまり、金コロイド27が用いられなくても、上記実施の形態に係る金属ナノ構造30に基板11の裏面から励起光19を照射することで、F成分の蛍光及びその増強を抑制することができ、BF分離を伴わなくても被検出物質の検出精度の向上を実現することができる。
【0104】
なお、上記実施の形態では、金コロイド27が用いられていたが、他の金属コロイド粒子が用いられてもよい。例えば、金コロイド27の代わりに、銀又はアルミニウムのコロイド粒子が用いられてもよい。
【0105】
なお、上記実施の形態では、金属ナノ構造30は、ラインアンドスペース構造を有していたが、これに限定されない。例えば、金属ナノ構造30は、行列状に配置された角柱状の複数の突起部を有してもよい。
【0106】
図11は、他の実施の形態に係る金属ナノ構造30Aの斜視図である。基板11A及び金属膜12Aによって金属ナノ構造30Aが形成されている。金属膜12Aは、角柱状の複数の突起部31Aを備える。複数の突起部31Aの上面(xy面)及び複数の突起部31A間の溝の底面(xy面)には、金属膜12Aに覆われた領域である非透光部33Aが形成される。また、複数の突起部31Aの側面(xz面及びyz面)には、金属膜12Aに覆われていない領域である透光部32Aが形成される。
【0107】
なお、図11では、複数の突起部は角柱状であったが、他の形状であってもよい。例えば、複数の突起部は、円柱状又は六角柱状であってもよい。
【0108】
なお、上記実施の形態では、透光部32は、突起部の側面の領域に形成されていたが、これに限定されない。例えば、突起部の上面又は突起部間の溝の底面の領域に形成されてもよい。
【0109】
なお、上記実施の形態では、レンズ23、24、及びロングパスフィルタ25が検出装置に含まれていたが、必ずしも含まれなくてもよい。例えば、光検出器42が、レンズ23、24、及びロングパスフィルタ25の機能を実現してもよい。
【0110】
なお、上記実施の形態では、金属ナノ構造30は、樹脂基板と金属膜とで形成されていたが、これに限定されない。例えば、金属ナノ構造30は、突起部を有する金属基板であってもよい。この場合、金属基板の厚い領域を非透光部として機能させ、金属基板の薄い領域を透光部として機能させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示は、病原体由来のタンパク質等の濃度を計測するセンサデバイスに用いることができる。
【符号の説明】
【0112】
11、11A、111 基板
12、12A、112 金属膜
13、113 固定化抗体
14、114 被検出物質
15、115 蛍光物質
16、21、116、121 標識抗体
17、117 透明カバー
18、118 被検溶液
19、119 励起光
20、22、120、122 蛍光
23、24 レンズ
25 ロングパスフィルタ
26 コントローラ
27 金コロイド
29 導入部
30、30A、130 金属ナノ構造
31、31A 突起部
32、32A 透光部
33、33A 非透光部
41 光源
42 光検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11