(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】発光装置並びにそれを用いた医療システム、電子機器及び検査方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/0225 20210101AFI20231006BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20231006BHJP
A61B 1/06 20060101ALI20231006BHJP
A61B 1/07 20060101ALI20231006BHJP
G02B 23/26 20060101ALI20231006BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20231006BHJP
H01S 5/0239 20210101ALI20231006BHJP
【FI】
H01S5/0225
A61B1/00 511
A61B1/06 611
A61B1/07 736
G02B23/26 B
H01L33/50
H01S5/0239
(21)【出願番号】P 2021515825
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006523
(87)【国際公開番号】W WO2020217670
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2019082916
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】阿部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】大塩 祥三
(72)【発明者】
【氏名】新田 充
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518046(JP,A)
【文献】特開2006-114911(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163830(WO,A1)
【文献】特開2013-239551(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207703(WO,A1)
【文献】特許第6461411(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/143198(WO,A1)
【文献】特表2018-515913(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025457(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008282(WO,A1)
【文献】特開2016-170968(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039000(WO,A1)
【文献】特開2012-104245(JP,A)
【文献】特開2009-226072(JP,A)
【文献】特開2007-017986(JP,A)
【文献】特開平08-317907(JP,A)
【文献】特開平06-073376(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0287081(US,A1)
【文献】国際公開第2012/069542(WO,A1)
【文献】特許第7220363(JP,B2)
【文献】特許第6964270(JP,B2)
【文献】特開2021-027074(JP,A)
【文献】国際公開第2020/217671(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/217669(WO,A1)
【文献】S. Ye, et al.,“Broadband Cr3+-sensitized upconversion luminescence in La3Ga5GeO14: Cr3+,Yb3+,Er3+”,Optical Materials Express,2014年03月07日,Vol.4,No.4,p.638-648
【文献】Akihiro Yamaji, et al.,“Luminescence Properties of Gd3Ga5O12:Cr Single Crystals”,IEEE Transactions on Nuclear Science,2014年01月09日,Vol.61,No.1,p.320-322
【文献】Ya. Zakharko, et al.,“Optical Absorption and Luminescence of Gd3Ga5O12:Cr,Mg Epitaxial Films”,Acta Physica Polonica A,2010年,Vol.117,No.1,p.111-113
【文献】P. I. Macfarlane, et al.,“Cr3+ luminescence in calcium and strontium gallogermanate”,Optical Materials,1994年02月,Vol.3,No.1,p.15-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
A61B 1/00 - 1/32
G02B 21/00 - 23/26
H01L 33/00 - 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次光を放つ光源と、
前記一次光を吸収して前記一次光よりも長波長の第一の波長変換光に変換する第一の蛍光体と、
前記一次光を吸収して前記一次光よりも長波長の第二の波長変換光に変換する第二の蛍光体と、
を備え、
前記第一の波長変換光は、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光であり、
前記第二の波長変換光は、380nm以上700nm未満の波長範囲内に蛍光強度が最大値を示すピークを有する蛍光であり、
前記第一の波長変換光は、前記第二の波長変換光よりも1/10残光時間が長
く、
前記一次光が前記光源から放射されなくなった後において、前記第二の波長変換光の強度が前記第一の波長変換光に対して相対的に小さくなっている間に、前記第一の波長変換光による励起によって被照射物体から放射される前記第一の波長変換光よりも長波長の蛍光が、近赤外蛍光用イメージセンサに検知されるように、前記第一の波長変換光を放つ、発光装置。
【請求項2】
前記第一の波長変換光と前記第二の波長変換光との1/10残光時間差は、50μsを超える、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記一次光はレーザー光である、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記一次光は連続パルス光である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記連続パルス光の消灯時間は前記第二の波長変換光の1/10残光時間よりも長い、請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記第一の蛍光体は遷移金属イオンによって賦活されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記第二の蛍光体はCe
3+及びEu
2+の少なくともいずれか一方で賦活されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記第二の波長変換光の相関色温度は2500K以上7000K未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項9】
前記第一の波長変換光の1/10残光時間は、1ms未満である、請求項1~8のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項10】
センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムである、請求項1~9のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項11】
蛍光イメージング法又は光線力学療法のいずれかに利用される、請求項1~10のいずれかに記載の発光装置。
【請求項12】
前記光源はレーザー素子及び発光ダイオードの少なくとも一方を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の発光装置と、
前記近赤外蛍光用イメージセンサと、
を備え、
前記発光装置は、前記第二の波長変換光の強度が前記第一の波長変換光に対して相対的に小さくなっている間に、前記第一の波長変換光による励起によって前記被照射物体から放射される前記第一の波長変換光よりも長波長の蛍光が前記近赤外蛍光用イメージセンサに検知されるように、前記第一の波長変換光と前記第二の波長変換光とを時間的に交互に放つ、
発光用システム。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか一項に記載の発光装置を備える、医療システム。
【請求項15】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の発光装置を備える、電子機器。
【請求項16】
情報認識装置、分別装置、検知装置、又は検査装置のいずれかである、請求項
15に記載の電子機器。
【請求項17】
前記検査装置は、医療用検査装置、農畜産業用検査装置、漁業用検査装置、又は工業用検査装置のいずれかである、請求項
16に記載の電子機器。
【請求項18】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の発光装置を利用する、検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置並びに当該発光装置を用いた医療システム、電子機器及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療の分野で、蛍光イメージング法と呼ばれる、病巣の観察手法が注目されている。蛍光イメージング法は、腫瘍等の病巣と選択的に結合する蛍光薬剤を被検体に投与した後に、蛍光薬剤を特定の光によって励起し、蛍光薬剤から発せられた蛍光をイメージセンサで検出及び画像化することにより、病巣を観察する手法である。蛍光イメージング法によれば、目視では観察が困難な病巣を観察することができる。
【0003】
代表的な蛍光イメージング法としては、蛍光薬剤としてインドシアニングリーン(ICG)を利用する蛍光イメージング法(ICG蛍光法)が知られている。ICGは、生体を透過し易い近赤外光(例えば、蛍光ピーク波長が770nm)によって励起され、これよりも長波長の近赤外光(例えば、蛍光ピーク波長が810nm)を放射する。そのため、ICGから発せられた蛍光を検出することにより、生体内部の病巣の観察が可能となる。ICG蛍光法は、生体を傷つけることなく、生体内部の病巣を観察できる低侵襲な医療技術といえる。
【0004】
ICG蛍光法のような蛍光イメージング法を利用するためには、少なくとも近赤外光を放つ装置が必要となる。近赤外蛍光を放つオプトエレクトロニクス素子として、特許文献1には、一次ビームを放射する半導体チップと、Cr3+イオン及び/又はNi2+イオンを含む変換材料とを含むオプトエレクトロニクス素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
上述のように、ICG蛍光法のような蛍光イメージング法を利用するためには、少なくとも近赤外光を放つ装置が必要となる。一方で、粘膜表層の状態を、可視光用のイメージセンサを介して映し出された映像又はレンズを通して目視で通常観察するためには、可視光も放たれることが好ましい。したがって、可視光と近赤外光を同時に放つ装置があれば、可視光を利用した通常観察と、近赤外光を利用した特殊観察との両立が可能になる。
【0007】
しかしながら、例えば可視光と近赤外光の混合光を放つ場合、可視光の内の近赤外領域に近い光成分は、近赤外光用イメージセンサに検知されやすい。したがって、例えば蛍光薬剤から発せられた近赤外蛍光以外の光成分も、近赤外光用イメージセンサに検知されてノイズが生じ、病巣を高いコントラストで観察することが困難であるという課題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、高コントラストな観察結果を取得可能なように近赤外光及び可視光を放つ発光装置、並びに当該発光装置を用いた医療システム、電子機器及び検査方法を提供することにある。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る発光装置は、一次光を放つ光源と、一次光を吸収して一次光よりも長波長の第一の波長変換光に変換する第一の蛍光体と、一次光を吸収して一次光よりも長波長の第二の波長変換光に変換する第二の蛍光体と、を備える。第一の波長変換光は、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光である。第二の波長変換光は、380nm以上700nm未満の波長範囲内に蛍光強度が最大値を示すピークを有する蛍光である。第一の波長変換光は、第二の波長変換光よりも1/10残光時間が長い。
【0010】
本発明の第二の態様に係る医療システムは、第一の態様に係る発光装置を備える。
【0011】
本発明の第三の態様に係る電子機器は、第一の態様に係る発光装置を備える。
【0012】
本発明の第四の態様に係る検査方法は、第一の態様に係る発光装置を利用する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る発光装置の一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、一次光、第一の波長変換光及び第二の波長変換光について、照射時間と発光強度との関係のイメージを示すグラフである。
【
図3】
図3は、波長変換体の他の例を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、波長変換体の他の例を概略的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、波長変換体の他の例を概略的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る発光装置の他の例を概略的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る内視鏡の構成を概略的に示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る内視鏡システムの構成を概略的に示す図である。
【
図9】
図9は、実施例に係る第一の蛍光体が放つ蛍光の蛍光スペクトルである。
【
図10】
図10は、実施例に係る第二の蛍光体が放つ蛍光の蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本実施形態に係る発光装置、並びに当該発光装置を用いた医療システム、電子機器及び検査方法について説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
[発光装置]
以下、
図1~
図6を用いて、本実施形態に係る発光装置10を説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る発光装置10は、光源5と、波長変換体1とを備えている。波長変換体1は、第一の蛍光体2と、第二の蛍光体3とを含んでいる。すなわち、発光装置10は、光源5と、第一の蛍光体2と、第二の蛍光体3とを備えている。光源5は一次光6を放つ。第一の蛍光体2は一次光6を吸収して一次光6よりも長波長の第一の波長変換光7に変換する。第二の蛍光体3は一次光6を吸収して一次光6よりも長波長の第二の波長変換光8に変換する。
【0017】
第一の波長変換光7は、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光である。第二の波長変換光8は、380nm以上700nm未満の波長範囲内に蛍光強度が最大値を示すピークを有する蛍光である。第一の波長変換光7は、第二の波長変換光8よりも1/10残光時間が長い。なお、1/10残光時間は、最大発光強度を示した時間から、最大発光強度の1/10の強度になるまでに要した時間τ1/10を意味する。
【0018】
図2は、一次光6、第一の波長変換光7及び第二の波長変換光8について、照射時間と発光強度との関係のイメージを示すグラフである。なお、
図2に示される各光の発光強度は、最高発光強度の値が同じになるようにグラフ化されている。
図2に示すように、光源5の電源が入れられると、光源5が点灯し、一次光6が光源5から放射される。光源5から放射された一次光6が波長変換体1に放射されると、可視光を含む第二の波長変換光8が、一次光6の放射直後に、第二の蛍光体3から放射される。近赤外蛍光を含む第一の波長変換光7は、第二の波長変換光8の放射に遅れて放射される。一方、光源5の電源が切られ、光源5が消灯し、一次光6が光源5から放たれなくなると、第二の波長変換光8の発光強度が最大発光強度の1/10の強度になる。第一の波長変換光7は減衰しながらも所定の発光強度を維持し続け、第二の波長変換光8の発光強度が最大発光強度の1/10の強度になった後に、第一の波長変換光7の発光強度が最大発光強度の1/10の強度になる。
【0019】
したがって、一次光6が第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3に放射された直後には、第二の波長変換光8が相対的に優位に放射され、一次光6が光源5から放射されなくなった後の所定の間は、第一の波長変換光7が相対的に優位に放射される。その結果、発光装置10は、生体透過性に優れ、蛍光スペクトル幅が広く、長残光性の近赤外の蛍光成分と、視認性に優れる光成分の割合が多い、短残光性の可視の蛍光成分を時間的に交互に放つ。
【0020】
近赤外の蛍光成分は、例えば、蛍光イメージング法に用いられる蛍光薬剤を励起し、蛍光薬剤は励起する近赤外よりも長波長の近赤外蛍光を放つ。蛍光薬剤によって放たれる近赤外蛍光は、近赤外光用イメージセンサで検出及び画像化されることにより、特殊観察が可能になる。一方、発光装置10が放つ可視の蛍光成分は、生体の患部を目視で通常観察するのに有用である。
【0021】
本実施形態に係る発光装置10によれば、近赤外の蛍光成分と可視の蛍光成分とを時間的に交互に放つ。そのため、近赤外蛍光用イメージセンサは、ノイズ成分の強度が相対的に小さくなっている間に、相対的な強度比が高くなった近赤外の蛍光成分を検出することができる。したがって、発光装置10は、残光時間差を利用して、高コントラストな観察結果を取得可能なように近赤外光及び可視光を放つことができる。
【0022】
上述のように、第一の蛍光体2は一次光6を吸収して一次光6よりも長波長の第一の波長変換光7に変換する。ただし、第一の蛍光体2は、一次光6だけでなく、第二の波長変換光8を吸収して、第一の波長変換光7を放つ蛍光体であってもよい。つまり、第二の蛍光体3が一次光6によって励起されて第二の波長変換光8を放射し、第一の蛍光体2が第二の波長変換光8によって励起されて第一の波長変換光7を放射してもよい。この場合、第一の蛍光体2が一次光6によって殆ど励起されない蛍光体であっても、第二の蛍光体3が発する蛍光により第一の蛍光体2を励起することが可能となる。これにより、第一の蛍光体2として、可視光を吸収する蛍光体を選択できるようになることから、第一の蛍光体2の選択肢が広がり、発光装置10の工業生産が容易になる。また、第一の蛍光体2が第二の波長変換光8を吸収して第一の波長変換光7を放つ場合には、発光装置10は近赤外の光成分強度が大きい第一の波長変換光7を放つことが可能となる。
【0023】
一次光6は、レーザー光であることが好ましい。レーザー光は指向性が強い高出力の点光源であるので、光学系の小型化や導光部の細径化のみならず、光ファイバーへのレーザー光の結合効率なども向上する。したがって、高出力化が容易な発光装置10が得られる。レーザー光は、発光装置10の小型化の観点から、半導体発光素子によって放たれる事が好ましい。
【0024】
一次光6は、連続パルス光であることが好ましい。このようにすると、パルス光をOFFにした直後に、近赤外の蛍光成分を持つ第一の波長変換光7は、可視光となる第二の波長変換光8よりも燐光を長く放つようになる。この燐光成分を上記薬剤の励起光として利用することによって、薬剤が放つ近赤外の蛍光成分だけがイメージセンサに入射し、第二の波長変換光8がイメージセンサに入射しにくくなる。そのため、薬剤が放つ近赤外の蛍光成分のS/N比の向上に有利な発光装置10が得られる。なお、パルス光のパルス波は、矩形波であることが好ましい。このようにすると、薬剤が放つ近赤外蛍光のみをイメージセンサが検知しやすくなるため、薬剤が放つ近赤外蛍光のS/N比を向上させることができる。
【0025】
一次光6が連続パルス光である場合、連続パルス光の消灯時間は、第二の波長変換光8の1/10残光時間よりも長いことが好ましい。これによって、第二の波長変換光8の強度が相対的に小さく、薬剤が放つ近赤外蛍光の強度が相対的に高い時間が長くなる。その結果、薬剤が放つ近赤外蛍光のみをイメージセンサが検知しやすくなるため、薬剤が放つ近赤外蛍光のS/N比を向上させることができる。
【0026】
連続パルス光のduty比は、0.01%以上50%以下であることが好ましく、0.1%以上20%以下であることが好ましい。duty比を上記のような範囲とすることにより、可視光と近赤外光とが同時に照射される時間を短くし、可視光又は近赤外光の強度が相対的に高い時間を長くすることができる。したがって、本実施形態に係る発光装置10によれば、より高コントラストな観察結果を取得可能である。
【0027】
連続パルス光の点灯時間(すなわち、パルス幅)は、0.1μs以上0.1s以下であることが好ましく、1μs以上50ms以下であることがより好ましい。点灯時間をこのような範囲とすることにより、可視光の強度が相対的に高い時間を十分に確保することができる。一方、連続パルス光の消灯時間は、0.1μs以上0.5s以下であることが好ましく、0.5μs以上0.3s以下であることがより好ましく、10μs以上0.1s以下であることがさらに好ましい。消灯時間をこのような範囲とすることにより、近赤外光の強度が相対的に高い時間を十分に確保することができる。
【0028】
光源5から放たれる光のスペクトルは、400nm以上500nm未満に強度が最大値を示すピークを有することが好ましい。光源5から放たれる光のスペクトルは、420nm以上480nm未満の波長領域内に強度が最大値を示すピークを有し、光源5から放たれる光は青色光であることも好ましい。光源5から放たれる光のスペクトルは、より好ましくは430nm以上480nm未満、さらに好ましくは440nm以上470nm未満の波長領域内に強度が最大値を示すピークを有する。これにより、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3は高効率で励起されることから、発光装置10は高出力な近赤外光を放射することが可能となる。
【0029】
光源5は、赤色レーザー素子を備えていてもよく、青色レーザー素子を備えていてもよい。赤色レーザー素子は近赤外の光成分とのエネルギー差が小さく、波長変換に伴うエネルギーロスが小さいので、発光装置10の高効率化を図る上で好ましい。一方、青色レーザー素子は高効率かつ高出力のレーザー素子の入手が容易であるので、発光装置10の高出力化を図る上で好ましい。なお、光源5は、励起源としての青色レーザー素子を備え、青色のレーザー光を放射することが好ましい。これにより、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3が高効率かつ高出力で励起されることから、発光装置10は高出力な近赤外光を放射することが可能となる。
【0030】
光源5は固体発光素子を含み、上記青色光は固体発光素子によって放たれることが好ましい。このようにすると、信頼性が高い小型の発光素子を上記青色光の発光源として利用することになるので、信頼性が高い小型の発光装置10が得られる。
【0031】
固体発光素子は、一次光6を放射する発光素子である。固体発光素子は、高いエネルギー密度を有する一次光6を放つことが可能ならば、あらゆる発光素子を用いることができる。なお、固体発光素子は、レーザー素子及び発光ダイオード(LED)の少なくとも一方であることが好ましく、レーザー素子であることがより好ましい。光源5は、例えば、面発光レーザーダイオード等であってもよい。
【0032】
固体発光素子の定格光出力は、1W以上であることが好ましく、3W以上であることがより好ましい。これによって、光源5は高出力の一次光6を放つことができるようになるので、高出力化が容易な発光装置10が得られる。
【0033】
定格光出力の上限は特に限定されるものではなく、光源5が複数の固体発光素子を有することにより、定格光出力を高くすることができる。ただし、実用可能性を考慮すると、定格光出力は、10kW未満であることが好ましく、3kW未満であることがより好ましい。
【0034】
一次光6の光密度は、0.5W/mm2超であることが好ましく、3W/mm2超であることがより好ましく、10W/mm2超であることがさらに好ましい。光密度は、30W/mm2を超えていてもよい。このようにすると、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3が高密度で光励起されるので、発光装置10は高出力の蛍光成分を放つことができる。
【0035】
第二の波長変換光8の相関色温度は2500K以上7000K未満であることが好ましい。相関色温度は、2700K以上5500K未満であることがより好ましく、2800K以上3200K未満又は4500K以上5500K未満であることがさらに好ましい。相関色温度が上記範囲内にある出力光は、白色系の出力光であり、画像表示装置又は光学機器を通して視認できる患部が、自然光の下で観察する患部に近い見え方をする。したがって、医師が持つ医療経験を活かすことが容易な医療用として好ましい発光装置10が得られる。
【0036】
第二の波長変換光8は、500nm以上580nm未満の波長範囲全体に亘って光成分を有することが好ましい。第二の波長変換光8が、このような光成分を有することにより、目視に有利な蛍光成分を発光装置10が効果的に放つことができる。第二の波長変換光8は、500nm以上600nm未満の波長範囲全体に亘って光成分を有していてもよい。
【0037】
第一の波長変換光7は、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有する。第一の波長変換光7は、750nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有することがより好ましい。このようにすると、近赤外線の光吸収特性がばらつきやすい薬剤を利用しても、発光装置10は、薬剤を効率よく励起可能な近赤外の励起光を放つことができる。そのため、発光装置10は、蛍光薬剤から放射される近赤外光の光量、又は、光感受性薬剤から放たれる熱線を多くすることができる。
【0038】
第一の蛍光体2は遷移金属イオンによって賦活されていることが好ましく、Cr3+によって賦活されていることがより好ましい。これによって、第一の波長変換光7として、蛍光スペクトル幅が広く、100μs以上の長残光性の近赤外蛍光を得ることが容易になる。
【0039】
第一の波長変換光7は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含むことが好ましい。そして、第一の波長変換光7の蛍光スペクトルは、波長720nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを持つことが好ましい。このようにすると、第一の蛍光体2は、長残光性の線状スペクトル成分よりも、短残光性のブロードなスペクトル成分の方が優勢な蛍光を放つことができる。その結果、発光装置10は、近赤外成分を多く含む光を放出することができる。なお、線状スペクトル成分は、Cr3+の、2E→4A2(t2
3)の電子エネルギー遷移(スピン禁制遷移)に基づく蛍光成分であり、680nm~720nmの波長領域内に蛍光強度が最大値を示すピークを持っている。ブロードなスペクトル成分は、Cr3+の、4T2(t2
2e)→4A2(t2
3)の電子エネルギー遷移(スピン許容遷移)に基づく蛍光成分であり、720nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを持っている。
【0040】
第一の波長変換光7の蛍光スペクトルは、710nm以上900nm以下の波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを有していてもよい。第一の波長変換光7の蛍光スペクトルは、730nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを有することがより好ましく、750nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを有することがさらに好ましい。
【0041】
第一の波長変換光7の1/10残光時間は、1ms未満であることが好ましく、300μs未満であることがより好ましく、100μs未満の短残光性であることがさらに好ましい。これにより、第一の蛍光体2を励起する励起光の光密度が高い場合であっても、第一の波長変換光7の出力が飽和し難くなる。そのため、高出力の近赤外光を放つことが可能な発光装置10を得ることができる。
【0042】
第一の波長変換光7の1/10残光時間は、第二の波長変換光8の1/10残光時間よりも長いことが好ましい。具体的には、第一の波長変換光7の1/10残光時間は、10μs以上であることが好ましい。なお、Cr3+で賦活された第一の波長変換光7の1/10残光時間は、Ce3+やEu2+等のパリティー許容遷移に基づく短残光性(10μs未満)の蛍光の1/10残光時間より長くなる。これは、第一の波長変換光7の残光時間が比較的長いCr3+のスピン許容型の電子エネルギー遷移に基づく蛍光であるためである。
【0043】
第一の波長変換光7と第二の波長変換光8との1/10残光時間差は、50μsを超えることが好ましく、100μsを超えることがより好ましい。なお、1/10残光時間差は、第一の波長変換光7の1/10残光時間と第二の波長変換光8の1/10残光時間との差である。これにより、光源5の消灯時において、第二の蛍光体3が主成分として放つ可視光の蛍光成分の強度が大きく低下しても、第一の蛍光体2が主成分として放つ近赤外の蛍光成分は比較的大きな強度を保つ。このため、薬剤が放つ近赤外光を利用した特殊観察と、可視光を利用した通常観察との両立が可能になる。なお、1/10残光時間差は、1ms未満であることが好ましい。
【0044】
第一の波長変換光7の蛍光スペクトルにおいて、蛍光強度最大値の80%の強度におけるスペクトル幅は、20nm以上80nm未満であることが好ましい。このようにすると、第一の波長変換光7の主成分がブロードなスペクトル成分となる。そのため、蛍光イメージング法又は光線力学療法(PDT法)を利用する医療現場において、蛍光薬剤又は光感受性薬剤の感度の波長依存性にばらつきがあったとしても、これらの薬剤が十分機能可能な高出力の近赤外光を発光装置10が放つことができる。
【0045】
第一の波長変換光7の蛍光スペクトルにおいて、蛍光強度最大値に対する波長780nmの蛍光強度の比率は、30%を超えることが好ましい。蛍光強度最大値に対する波長780nmの蛍光強度の比率は、60%を超えることがより好ましく、80%を超えることがさらに好ましい。このようにすると、第一の蛍光体2が、「生体の窓」と呼ばれる、光が生体を透過しやすい近赤外の波長域(650~1000nm)の蛍光成分を多く含む蛍光を放つことができる。したがって、このような発光装置10によれば、生体を透過する近赤外の光強度を大きくすることができる。
【0046】
第一の波長変換光7の蛍光スペクトルは、Cr3+の電子エネルギー遷移に由来する線状スペクトル成分の証跡を残していないことが好ましい。すなわち、第一の波長変換光7は、720nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを持つブロードなスペクトル成分(短残光性)のみを有していることが好ましい。このようにすると、第一の蛍光体2は、Cr3+のスピン禁制遷移による長残光性の蛍光成分を含まず、スピン許容遷移による短残光性の蛍光成分だけを含む。これにより、第一の蛍光体2を励起する励起光の光密度が高い場合であっても、第一の波長変換光7の出力が飽和し難くなる。そのため、より高出力の近赤外光を放つことが可能な点光源の発光装置10を得ることもできる。
【0047】
第一の蛍光体2は、Cr3+以外の賦活剤を含まないことが好ましい。このようにすると、第一の蛍光体2に吸収された光が、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光だけに変換されるので、近赤外の蛍光成分の出力割合を最大限にまで高める出力光の設計が容易な発光装置10を得ることができる。
【0048】
第一の蛍光体2は、二種類以上のCr3+賦活蛍光体を含むことも好ましい。これによって、少なくとも近赤外の波長領域の出力光成分を制御できるので、近赤外の蛍光成分を利用する用途に応じた分光分布の調整が容易な発光装置10が得られる。
【0049】
第一の蛍光体2は、酸化物系の蛍光体であることが好ましく、酸化物蛍光体であることがより好ましい。なお、酸化物系の蛍光体とは、酸素を含むが窒素は含まない蛍光体をいう。
【0050】
酸化物は大気中で安定な物質であるため、レーザー光による高密度の光励起によって酸化物蛍光体が発熱した場合であっても、窒化物蛍光体で生じるような、大気で酸化されることによる蛍光体結晶の変質が生じ難い。このため、波長変換体1に含まれる全ての蛍光体が酸化物蛍光体である場合には、信頼性の高い発光装置10を得ることができる。
【0051】
第一の蛍光体2は、ガーネットの結晶構造を有することが好ましい。第一の蛍光体2は、ガーネットの結晶構造を有する酸化物蛍光体であることも好ましい。ガーネット蛍光体は、組成変形が容易で数多くの蛍光体化合物を提供できるので、Cr3+の周囲の結晶場の調整が容易であり、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光の色調制御が容易である。
【0052】
なお、ガーネット構造を有する蛍光体、特に酸化物は、球に近い多面体の粒子形状を持ち、蛍光体粒子群の分散性に優れる。このため、波長変換体1に含まれる蛍光体がガーネット構造を有する場合には、光透過性に優れる波長変換体1を比較的容易に製造できるようになり、発光装置10の高出力化が可能となる。また、ガーネットの結晶構造を有する蛍光体はLED用蛍光体として実用実績があることから、第一の蛍光体2がガーネットの結晶構造を有することにより、信頼性の高い発光装置10を得ることができる。
【0053】
第一の蛍光体2は、例えば、Lu2CaMg2(SiO4)3:Cr3+、Y3Ga2(AlO4)3:Cr3+、Y3Ga2(GaO4)3:Cr3+、Gd3Ga2(AlO4)3:Cr3+、Gd3Ga2(GaO4)3:Cr3+、(Y,La)3Ga2(GaO4)3:Cr3+、(Gd,La)3Ga2(GaO4)3:Cr3+、Ca2LuZr2(AlO4)3:Cr3+、Ca2GdZr2(AlO4)3:Cr3+、Lu3Sc2(GaO4)3:Cr3+、Y3Sc2(AlO4)3:Cr3+、Y3Sc2(GaO4)3:Cr3+、Gd3Sc2(GaO4)3:Cr3+、La3Sc2(GaO4)3:Cr3+、Ca3Sc2(SiO4)3:Cr3+、Ca3Sc2(GeO4)3:Cr3+、BeAl2O4:Cr3+、LiAl5O8:Cr3+、LiGa5O8:Cr3+、Mg2SiO4:Cr3+,Li+、La3Ga5GeO14:Cr3+、及びLa3Ga5.5Nb0.5O14:Cr3+等からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光体を含んでいてもよい。
【0054】
上述のように、第一の波長変換光7は、近赤外の蛍光成分を持つものである。これにより、発光装置10によれば、例えばICGなどの蛍光薬剤や例えばフタロシアニンなどの光感受性薬剤(蛍光薬剤でもある)を効率的に励起することができる。
【0055】
第二の蛍光体3は、Ce3+及びEu2+の少なくともいずれか一方で賦活されていることが好ましい。これによって、10μs未満の短残光性の可視光が多く含まれる第二の波長変換光8を得ることが容易になる。なお、第二の蛍光体3は、Ce3+で賦活された蛍光体であることが好ましい。
【0056】
第二の蛍光体3は、例えば、酸化物及びハロゲン酸化物などの酸化物系の蛍光体、並びに、窒化物及び酸窒化物などの窒化物系の蛍光体の少なくともいずれか一方であってもよい。
【0057】
第二の蛍光体3は、ガーネット型、カルシウムフェライト型、及びランタンシリコンナイトライド(La3Si6N11)型の結晶構造からなる化合物群より選ばれる少なくとも一つを主成分とする化合物を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。または、第二の蛍光体3は、ガーネット型、カルシウムフェライト型、及びランタンシリコンナイトライド(La3Si6N11)型の結晶構造からなる化合物群より選ばれる少なくとも一つの化合物を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。このような第二の蛍光体3を用いることで、緑色系から黄色系の光成分を多く持つ出力光を得ることができるようになる。
【0058】
具体的には、第二の蛍光体3は、M3RE2(SiO4)3、RE3Al2(AlO4)3、MRE2O4、及びRE3Si6N11からなる群より選ばれる少なくとも一つを主成分とする化合物を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。若しくは、第二の蛍光体3は、M3RE2(SiO4)3、RE3Al2(AlO4)3、MRE2O4、及びRE3Si6N11からなる群より選ばれる少なくとも一つを母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。または、第二の蛍光体3は、当該化合物を端成分とする固溶体を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。なお、Mはアルカリ土類金属であり、REは希土類元素である。
【0059】
このような第二の蛍光体3は430nm以上480nm以下の波長範囲内の光をよく吸収し、540nm以上590nm未満の波長範囲内に蛍光強度が最大値を示すピークを有する緑色~黄色系の光に高効率に変換する。そのため、430nm以上480nm以下の波長範囲内の寒色光を一次光6として放つ光源5とした上で、このような蛍光体を第二の蛍光体3として用いることにより、可視光成分を容易に得ることが可能となる。
【0060】
波長変換体1は無機材料からなることが好ましい。ここで無機材料とは、有機材料以外の材料を意味し、セラミックスや金属を含む概念である。波長変換体1が無機材料からなることにより、封止樹脂等の有機材料を含む波長変換体と比較して熱伝導性が高くなるため、放熱設計が容易となる。このため、光源5から放射された一次光6により蛍光体が高密度で光励起された場合でも、波長変換体1の温度上昇を効果的に抑制することができる。この結果、波長変換体1中の蛍光体の温度消光が抑制され、発光の高出力化が可能になる。これにより、蛍光体の放熱性が高まるため、温度消光による蛍光体の出力低下が抑制され、高出力の近赤外光を放つことが可能となる。
【0061】
波長変換体1の全てが無機材料からなることが好ましい。これにより、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3の放熱性が高まるため、温度消光による蛍光体の出力低下が抑制され、高出力の近赤外光を放つ発光装置10を得ることが可能となる。
【0062】
第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3のうち少なくとも一方は、セラミックスであってもよい。これにより、波長変換体1の熱伝導率が高くなるため、発熱が少ない高出力の発光装置10を提供できる。なお、ここでは、セラミックスとは、粒子同士が接合した状態の焼結体のことをいう。
【0063】
波長変換体1は、
図1に示すように、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3に加え、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3を分散させる封止材4をさらに有することが好ましい。そして、波長変換体1において、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3は封止材4中に分散されていることが好ましい。第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3が封止材4中に分散されることにより、波長変換体1に放たれる光を効率的に吸収し、近赤外光に波長変換することが可能となる。また、波長変換体1をシート状やフィルム状に成形しやすくすることができる。
【0064】
封止材4は、有機材料及び無機材料の少なくとも一方、特に、透明(透光性)有機材料及び透明(透光性)無機材料の少なくとも一方であることが好ましい。有機材料の封止材としては、例えば、シリコーン樹脂などの透明有機材料が挙げられる。無機材料の封止材としては、例えば、低融点ガラスなどの透明無機材料が挙げられる。
【0065】
上述のように、波長変換体1は無機材料からなることが好ましいことから、封止材4は無機材料からなることが好ましい。また、無機材料としては、酸化亜鉛(ZnO)を用いることが好ましい。これにより、蛍光体の放熱性がさらに高まるため、温度消光による蛍光体の出力低下が抑制され、高出力の近赤外光を放つ発光装置10を得ることが可能となる。
【0066】
なお、
図1では、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3が、一層の封止材4に均一に混ざり合って分散されている例について説明している。しかしながら、波長変換体1は、このような形態に限定されない。波長変換体1は、例えば
図3に示すように、第一の封止材4Aと第二の封止材4Bとを有していてもよい。第一の封止材4Aには第一の蛍光体2が分散され、第二の封止材4Bには第二の蛍光体3が分散されていてもよい。
図3に示すように、第一の封止材4A及び第二の封止材4Bは、それぞれ層を形成しており、各層が重なり合うように積層されていてもよい。第一の封止材4Aと第二の封止材4Bは、同一の材料によって形成されていてもよく、異なる材料によって形成されていてもよい。
【0067】
波長変換体1は、
図4及び
図5に示すように、封止材4を使用しなくてもよい。具体的には、
図4に示すように、波長変換体1は、封止材4を有せず、第一の蛍光体2と第二の蛍光体3とが均一に混ざり合って分散されていてもよい。また、
図5に示すように、波長変換体1は、封止材4を有せず、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3がそれぞれ集合した層を形成しており、各層が重なり合うように積層されていてもよい。この場合、有機又は無機の結着剤を利用して、蛍光体同士を固着すればよい。また、蛍光体の加熱反応を利用して、蛍光体同士を固着することもできる。結着剤としては、一般的に利用される樹脂系の接着剤、又はセラミックス微粒子や低融点ガラスなどを使用することができる。封止材4を利用しない波長変換体1は厚みを薄くすることができるため、発光装置10に好適に用いることができる。
【0068】
次に、本実施形態に係る発光装置10の作用について説明する。
図1に示す発光装置10では、はじめに、光源5から放射された一次光6が波長変換体1の正面1Aに照射される。照射された一次光6の多くは、波長変換体1の正面1Aから波長変換体1内に進入して波長変換体1を透過し、照射された一次光6の一部は波長変換体1の表面で反射する。第二の蛍光体3は一次光6の一部を吸収して第二の波長変換光8に変換し、第一の蛍光体2は一次光6及び/又は第二の波長変換光8の一部を吸収して第一の波長変換光7に変換する。このようにして、発光装置10は、波長変換体1の背面1Bから、出力光として一次光6と第一の波長変換光7と第二の波長変換光8とを含む光を放射する。
【0069】
なお、発光装置10は、
図1に示す形態に限られず、
図6に示すような形態でもよい。
図6に示す発光装置10では、はじめに、光源5から放射された一次光6が波長変換体1の正面1Aに照射される。照射された一次光6の多くは、波長変換体1の正面1Aから波長変換体1内に進入し、照射された一次光6の一部は波長変換体1の表面で反射する。第二の蛍光体3は一次光6の一部を吸収して第二の波長変換光8に変換し、第一の蛍光体2は一次光6及び/又は第二の波長変換光8の一部を吸収して第一の波長変換光7に変換する。このようにして、発光装置10は、波長変換体1の正面1Aから、出力光として一次光6と第一の波長変換光7と第二の波長変換光8とを含む光を放射する。
【0070】
そして、本実施形態に係る発光装置10では、第一の波長変換光7は、第二の波長変換光8よりも1/10残光時間が長い。したがって、発光装置10は、長残光性の近赤外の蛍光成分を多く含む第一の波長変換光7と、短残光性の可視光成分を多く含む第二の波長変換光8とを時間的に交互に照射することが可能である。したがって、上述したように、発光装置10は、高コントラストな観察結果を取得可能なように近赤外光及び可視光を放つことができる。
【0071】
このような発光装置10は医療に用いられてもよい。すなわち、発光装置10は医療用発光装置であってもよい。言い換えれば、発光装置10は、医療用照明装置であってもよい。このような発光装置10は、先に説明したような、通常観察と特殊観察との両立が可能で病状診断に有利である。
【0072】
発光装置10は、光干渉断層法(OCT)などに利用されていてもよい。ただし、発光装置10は、蛍光イメージング法又は光線力学療法のいずれかに利用されることが好ましい。これらの方法で利用される発光装置10は、蛍光薬剤や光感受性薬剤などの薬剤を利用する医療システム用の発光装置である。これらの方法は、幅広い応用が期待されている医療技術であり、実用性が高い。これらの発光装置10は、「生体の窓」を通して、生体内部を、近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができるので、大きな治療効果が期待される。
【0073】
蛍光イメージング法は、腫瘍等の病巣と選択的に結合する蛍光薬剤を被検体に投与した後に、蛍光薬剤を特定の光によって励起し、蛍光薬剤から発せられた蛍光をイメージセンサで検出及び画像化することにより、病巣を観察する手法である。蛍光イメージング法によれば、一般的な照明のみでは観察が困難な病巣を観察することができる。蛍光薬剤としては、近赤外光領域の励起光を吸収し、さらに当該励起光よりも長波長であり、かつ、近赤外光領域の蛍光を放射する薬剤を用いることができる。蛍光薬剤としては、例えば、インドシアニングリーン(ICG)、フタロシアニン系の化合物、タラポルフィンナトリウム系の化合物、及びDipicolylcyanine(DIPCY)系の化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0074】
光線力学療法は、標的となる生体組織に選択的に結合する光感受性薬剤を被検体に投与した後に、光感受性薬剤に近赤外線を照射する治療方法である。光感受性薬剤に近赤外線が照射されると、光感受性薬剤から活性酸素が発生し、これによって腫瘍や感染症などの病巣を治療することができる。光感受性薬剤としては、例えば、フタロシアニン系の化合物、タラポルフィンナトリウム系の化合物、及びポルフィマーナトリウム系の化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0075】
本実施形態の発光装置10は、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとすることもできる。発光装置10では、近赤外の波長領域に受光感度を有する、オーソドックスな受光素子を用いて、高感度のセンシングシステムを構成することができる。このため、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にする発光装置を得ることができる。
【0076】
[医療システム]
次に、上述の発光装置10を備える医療システムについて説明する。具体的には、医療システムの一例として、発光装置10を備えた内視鏡11及び当該内視鏡11を用いた内視鏡システム100について、
図7及び
図8を用いて説明する。
【0077】
(内視鏡)
図7に示すように、本実施形態に係る内視鏡11は、上述の発光装置10を備えるものである。内視鏡11は、スコープ110、光源コネクタ111、マウントアダプタ112、リレーレンズ113、カメラヘッド114、及び操作スイッチ115を備えている。
【0078】
スコープ110は、末端から先端まで光を導くことが可能な細長い導光部材であり、使用時には体内に挿入される。スコープ110は先端に撮像窓110zを備えており、撮像窓110zには光学ガラスや光学プラスチック等の光学材料が用いられる。スコープ110は、光源コネクタ111から導入された光を先端まで導く光ファイバーと、撮像窓110zから入射した光学像が伝送される光ファイバーとを有する。
【0079】
光源コネクタ111は、発光装置10から、体内の患部等に照射される照明光を導入する。本実施形態では、照明光は可視光及び近赤外光を含んでいる。光源コネクタ111に導入された光は、光ファイバーを介してスコープ110の先端まで導かれ、撮像窓110zから体内の患部等に照射される。なお、
図7に示すように、光源コネクタ111には、発光装置10からスコープ110に照明光を導くための伝送ケーブル111zが接続されている。伝送ケーブル111zには、光ファイバーが含まれていてもよい。
【0080】
マウントアダプタ112は、スコープ110をカメラヘッド114に取り付けるための部材である。マウントアダプタ112には、種々のスコープ110が着脱自在に装着される。
【0081】
リレーレンズ113は、スコープ110を通して伝達される光学像を、イメージセンサの撮像面に収束させる。なお、リレーレンズ113は、操作スイッチ115の操作量に応じてレンズを移動させて、焦点調整及び倍率調整を行ってもよい。
【0082】
カメラヘッド114は、色分解プリズムを内部に有する。色分解プリズムは、リレーレンズ113で収束された光を、R光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)、及びIR光(近赤外光)の4色に分解する。色分解プリズムは、例えば、ガラス等の透光性部材で構成されている。
【0083】
カメラヘッド114は、さらに、検出器としてのイメージセンサを内部に有する。イメージセンサは、例えば4つ備えられており、4つのイメージセンサは、各々の撮像面に結像した光学像を電気信号に変換する。イメージセンサは特に限定されないが、CCD(Charge Coupled Device)及びCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)の少なくとも一方を用いることができる。そして、4つのイメージセンサは、IR成分(近赤外成分)、B成分(青色成分)、R成分(赤色成分)、及びG成分(緑色成分)の光をそれぞれ受光する専用のセンサである。
【0084】
カメラヘッド114は、色分解プリズムの替わりに、カラーフィルターを内部に有していてもよい。カラーフィルターは、イメージセンサの撮像面に備えられる。カラーフィルターは、例えば4つ備えられており、4つのカラーフィルターは、リレーレンズ113で収束された光を受けて、R光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)、及びIR光(近赤外光)をそれぞれ選択的に透過する。
【0085】
IR光を選択的に透過するカラーフィルターには、照明光に含まれる近赤外光(IR光)の反射成分をカットするバリアフィルムが備えられていることが好ましい。これにより、例えばICGなどの蛍光薬剤から発せられたIR光からなる蛍光のみが、IR光用イメージセンサの撮像面に結像するようになる。そのため、蛍光薬剤により発光した患部を明瞭に観察し易くなる。
【0086】
なお、
図7に示すように、カメラヘッド114には、イメージセンサからの電気信号を、後述するCCU12に伝送するための信号ケーブル114zが接続されている。
【0087】
このような構成の内視鏡11では、被検体からの光は、スコープ110を通ってリレーレンズ113に導かれ、さらにカメラヘッド114内の色分解プリズムを透過して4つのイメージセンサに結像する。
【0088】
(内視鏡システム)
図8に示すように、内視鏡システム100は、被検体内を撮像する内視鏡11、CCU(Camera Control Unit)12、及びディスプレイなどの表示装置13を備えている。
【0089】
CCU12は、少なくとも、RGB信号処理部、IR信号処理部、及び出力部を備えている。そして、CCU12は、CCU12の内部又は外部のメモリが保持するプログラムを実行することで、RGB信号処理部、IR信号処理部、及び出力部の各機能を実現する。
【0090】
RGB信号処理部は、イメージセンサからのR成分、G成分及びB成分の電気信号を、表示装置13に表示可能な映像信号に変換し、出力部に出力する。また、IR信号処理部は、イメージセンサからのIR成分の電気信号を映像信号に変換し、出力部に出力する。
【0091】
出力部は、RGB各色成分の映像信号及びIR成分の映像信号の少なくとも一方を表示装置13に出力する。例えば、出力部は、同時出力モード及び重畳出力モードのいずれかに基づいて、映像信号を出力する。
【0092】
同時出力モードでは、出力部は、RGB画像とIR画像とを別画面により同時に出力する。同時出力モードにより、RGB画像とIR画像とを別画面で比較して、患部を観察できる。重畳出力モードでは、出力部は、RGB画像とIR画像とが重畳された合成画像を出力する。重畳出力モードにより、例えば、RGB画像内で、ICGにより発光した患部を明瞭に観察できる。
【0093】
表示装置13は、CCU12からの映像信号に基づいて、患部等の対象物の画像を画面に表示する。同時出力モードの場合、表示装置13は、画面を複数に分割し、各画面にRGB画像及びIR画像を並べて表示する。重畳出力モードの場合、表示装置13は、RGB画像とIR画像とが重ねられた合成画像を1画面で表示する。
【0094】
次に、本実施形態に係る内視鏡11及び内視鏡システム100の機能について説明する。内視鏡システム100を用いて被検体を観察する場合、まず蛍光物質であるインドシアニングリーン(ICG)を被検体に投与する。これにより、ICGがリンパや腫瘍等の部位(患部)に集積する。
【0095】
次に、伝送ケーブル111zを通じて、発光装置10から光源コネクタ111に可視光及び近赤外光を導入する。光源コネクタ111に導入された光は、スコープ110の先端側に導かれ、撮像窓110zから投射されることで、患部及び患部周囲を照射する。患部等で反射された光及びICGから発せられた蛍光は、撮像窓110z及び光ファイバーを通してスコープ110の後端側に導かれ、リレーレンズ113で収束し、カメラヘッド114内部の色分解プリズムに入射する。
【0096】
色分解プリズムでは、入射した光のうち、IR分解プリズムによって分解したIR成分の光は、IR光用イメージセンサで、赤外光成分の光学像として撮像される。赤色分解プリズムによって分解したR成分の光は、R光用イメージセンサで、赤色成分の光学像として撮像される。緑色分解プリズムによって分解したG成分の光は、G光用イメージセンサで、緑色成分の光学像として撮像される。青色分解プリズムによって分解したB成分の光は、B光用イメージセンサで、青色成分の光学像として撮像される。
【0097】
IR光用イメージセンサで変換されたIR成分の電気信号は、CCU12内部のIR信号処理部で映像信号に変換される。RGB光用イメージセンサでそれぞれ変換されたR成分、G成分、B成分の各電気信号は、CCU12内部のRGB信号処理部で各映像信号に変換される。IR成分の映像信号及びR成分、G成分、B成分の各映像信号は同期して、表示装置13に出力される。
【0098】
CCU12内部で同時出力モードが設定されている場合、表示装置13には、RGB画像とIR画像とが同時に2画面で表示される。また、CCU12内部で重畳出力モードが設定されている場合、表示装置13には、RGB画像とIR画像とが重畳された合成画像が表示される。
【0099】
このように、本実施形態の内視鏡11は、発光装置10を備える。そのため、内視鏡11を用いて蛍光薬剤を効率的に励起して発光させることにより、患部を明瞭に観察することが可能となる。
【0100】
本実施形態の内視鏡11は、第一の波長変換光7を吸収した蛍光薬剤から発せられる蛍光を検出する検出器をさらに備えることが好ましい。内視鏡11が発光装置10に加えて、蛍光薬剤から発せられた蛍光を検出する検出器を備えることにより、内視鏡11のみで患部を特定することができる。そのため、従来のように大きく開腹して患部を特定する必要がないことから、患者の負担が少ない診察及び治療を行うことが可能となる。また、内視鏡11を使用する医師は患部を正確に把握できることから、治療効率を向上させることが可能となる。
【0101】
上述のように、医療システムは、蛍光イメージング法又は光線力学療法のいずれかに利用されることが好ましい。これらの方法で利用される医療システムは、幅広い応用が期待されている医療技術であり、実用性が高い。これらの医療システムは、「生体の窓」を通して、生体内部を、近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができるので、大きな治療効果が期待される。また、このような医療システムは、比較的単純な構成の発光装置10を利用しているので、小型化や低価格化を図る上で有利である。
【0102】
[電子機器]
次に、本実施形態に係る電子機器について説明する。本実施形態に係る電子機器は、発光装置10を備える。発光装置10は、上述のように、大きな治療効果を期待することができ、センシングシステムの小型化等が容易である。本実施形態に係る電子機器は発光装置10を用いるため、医療機器やセンシング機器用に用いると、大きな治療効果やセンシングシステムの小型化等を期待することができる。
【0103】
電子機器は、例えば、発光装置10と、受光素子とを備える。受光素子は、例えば、近赤外の波長領域の光を検知する赤外線センサなどのセンサである。電子機器は、情報認識装置、分別装置、検知装置、又は検査装置のいずれかであってもよい。これらの装置も、上述のように、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にすることができる。
【0104】
情報認識装置は、例えば、放射した赤外線の反射成分を検知し、周囲状況を認識するドライバー支援システムである。
【0105】
分別装置は、例えば、照射光と、被照射物体で反射された反射光との赤外光成分の違いを利用して被照射物体を予め定められた区分に分別する装置である。
【0106】
検知装置は、例えば、液体を検知する装置である。液体としては、水分、及び航空機などでの輸送が禁じられている引火性液体などが挙げられる。検知装置は、具体的には、ガラスに付着した水分、並びに、スポンジ及び微粉末などの物体に吸水された水分を検知する装置であってもよい。検知装置は、検知された液体を可視化してもよい。具体的には、検知装置は、検知された液体の分布情報を可視化してもよい。
【0107】
検査装置は、医療用検査装置、農畜産業用検査装置、漁業用検査装置、又は工業用検査装置のいずれかであってもよい。これらの装置は、各産業において検査対象物を検査するのに有用である。
【0108】
医療用検査装置は、例えば、人又は人以外の動物の健康状態を検査する検査装置である。人以外の動物は例えば家畜である。医療用検査装置は、例えば、眼底検査及び血中酸素飽和度検査などの生体検査に用いられる装置、並びに、血管及び臓器などの器官の検査に用いられる装置である。医療用検査装置は、生体の内部を検査する装置であってもよく、生体の外部を検査する装置であってもよい。
【0109】
農畜産業用検査装置は、例えば、農産物及び畜産物を含む農畜産物を検査する装置である。農産物は、例えば、青果物及び穀類のように食品として用いられてもよく、油などの燃料に用いられてもよい。畜産物は、例えば、食肉及び乳製品等である。農畜産業用検査装置は、農畜産物の内部又は外部を非破壊で検査する装置であってもよい。農畜産業用検査装置は、例えば、青果物の糖度を検査する装置、青果物の酸味を検査する装置、葉脈などの可視化によって青果物の鮮度を検査する装置、傷及び内部欠損の可視化によって青果物の品質を検査する装置、食肉の品質を検査する装置、乳及び食肉などを原料として加工した加工食品の品質を検査する装置などである。
【0110】
漁業用検査装置は、例えば、マグロなどの魚類の肉質を検査する装置、又は貝類の貝殻内の中身の有無を検査する装置などである。
【0111】
工業用検査装置は、例えば、異物検査装置、内容量検査装置、状態検査装置、又は構造物の検査装置などである。
【0112】
異物検査装置は、例えば、飲料及び液体薬剤などの容器に入っている液体中の異物を検査する装置、包装材中の異物を検査する装置、印刷画像中の異物を検査する装置、半導体及び電子部品中の異物を検査する装置、食品中の残骨、ごみ及び機械油などの異物を検査する装置、容器内の加工食品の異物を検査する装置、並びに、絆創膏などの医療機器、医薬品及び医薬部外品の内部の異物を検査する装置などである。
【0113】
内容量検査装置は、例えば、飲料及び液体薬剤などの容器に入っている液体の内容量を検査する装置、容器に入っている加工食品の内容量を検査する装置、並びに建材中のアスベストの含有量を検査する装置などである。
【0114】
状態検査装置は、例えば、包装材の包装状態を検査する装置、及び包装材の印刷状態を検査する装置などである。
【0115】
構造物の検査装置は、例えば、樹脂製品等の複合部材又は複合部品の内部非破壊検査装置及び外部非破壊検査装置などである。樹脂製品等の具体例としては、例えば、樹脂中に金属ワイヤの一部を埋設させた金属ブラシであり、検査装置によって樹脂と金属の接合状態を検査することができる。
【0116】
電子機器は、カラー暗視技術を利用してもよい。カラー暗視技術は、可視光と赤外線の反射強度の相関関係を利用して、赤外線を波長ごとにRGB信号に割り当てることによって、画像をカラー化する技術である。カラー暗視技術によれば、赤外線のみでカラー画像を得ることができるので、とりわけ防犯装置などに適している。
【0117】
以上のように、電子機器は発光装置10を備える。発光装置10は、電源と、光源5と、第一の蛍光体2と、第二の蛍光体3とを備えていても、これらの全てを一つの筐体内に収容させる必要はない。したがって、本実施形態に係る電子機器は、操作性に優れ、高精度でコンパクトな検査方法等を提供することも可能である。
【0118】
[検査方法]
次に、本実施形態に係る検査方法について説明する。上述のように、発光装置10を備える電子機器は、検査装置として利用することもできる。すなわち、本実施形態に係る検査方法は、発光装置10を利用することができる。これにより、操作性に優れ、高精度でコンパクトな検査方法を提供することが可能になる。
【実施例】
【0119】
以下、実施例により本実施形態の発光装置をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらによって限定されるものではない。
【0120】
[蛍光体の調製]
(第一の蛍光体)
固相反応を利用する調製手法を用いて、第一の蛍光体を合成した。第一の蛍光体で使用するCr3+で賦活された蛍光体は、Gd3(Ga0.97Cr0.03)2Ga3O12の組成式で表される酸化物蛍光体である。第一の蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として使用した。
酸化ガドリニウム(Gd2O3):純度3N、和光純薬工業株式会社
酸化ガリウム(Ga2O3):純度4N、和光純薬工業株式会社
酸化クロム(Cr2O3):純度3N、株式会社高純度化学研究所
【0121】
まず、化学量論的組成の化合物Gd3(Ga0.97Cr0.03)2Ga3O12となるように、上記原料を秤量した。次に、秤量した原料を、純水を入れたビーカー中に投入し、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌した。これによって、純水と原料からなるスラリー状の混合原料を得た。その後、スラリー状の混合原料を、乾燥機を用いて全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。
【0122】
上記焼成原料を小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を利用して、1400℃~1500℃の大気中で1時間の焼成を行うことによって、本例の蛍光体を得た。なお、昇降温速度は400℃/hとした。得られた蛍光体の体色は、薄い緑色であった。
【0123】
焼成して得た蛍光体を、アルミナ製の乳鉢と乳棒を用いて数分間解砕した。その後、篩(目開き25μm)を用いて分級し、第一の蛍光体の粉末を得た。
【0124】
(第二の蛍光体)
市販のYAG蛍光体(Y3Al2Al3O12:Ce3+)を入手し、第二の蛍光体とした。なお、蛍光ピーク波長などを考慮すると、当該YAG蛍光体の化学組成は、(Y0.995Ce0.005)3Al2Al3O12と推定される。
【0125】
[評価]
(結晶構造解析)
第一の蛍光体及び第二の蛍光体の結晶構造を、X線回折装置(X‘Pert PRO;スペクトリス株式会社、PANalytical社製)を用いて評価した。
【0126】
詳細は省略するが、評価の結果、第一の蛍光体及び第二の蛍光体は、ガーネットの結晶構造を持つ化合物を主体にしてなることが分かった。つまり、第一の蛍光体及び第二の蛍光体は、いずれも、ガーネット蛍光体であることが分かった。
【0127】
(蛍光スペクトル)
次に、第一の蛍光体及び第二の蛍光体を含む波長変換体を作製して、蛍光特性を評価した。具体的には、蛍光体の充填率が40vol%となるように第一の蛍光体の粉末、第二の蛍光体の粉末及び封止材(小西化学工業株式会社製 ポリシルセスシキオキサン)を乳鉢及び乳棒を用いて混合し、蛍光体ペーストを作製した。この蛍光体ペーストを、一方の面にダイクロイックミラーが施され、他方の面にARコートが施されたサファイア基板(9mm×9mm×5mm厚)のダイクロイックミラーの表面に上にスクリーン印刷(目開き74μm;200メッシュ,サイズ7.8mm)した。その後、200℃2時間の熱処理により封止材を硬化させ、波長変換体を作製した。
【0128】
次に、積分球の中心に波長変換体を設置し、ピーク波長450nmの青色レーザー光を蛍光体に照射して、マルチチャンネル分光器により蛍光スペクトルを測定した。なお、青色LD光は周波数が100Hz、duty比が1%のパルス光に変換した。
【0129】
図9では、第一の蛍光体の蛍光スペクトルを示す。450nm付近のシャープなスペクトルは、励起光の反射成分である。第一の蛍光体の蛍光スペクトルは、Cr
3+のd-d遷移に起因するとみなせるブロードなスペクトルから形成されていた。そして、第一の蛍光体の蛍光スペクトルは、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有していた。また、第一の蛍光体の蛍光スペクトルのピーク波長は、718nmであった。
【0130】
図10では、第二の蛍光体の蛍光スペクトルを示す。450nm付近のシャープなスペクトルは、励起光の反射成分である。第二の蛍光体の蛍光スペクトルは、Ce
3+の5d
1→4f
1遷移に起因するとみなせるブロードなスペクトルから形成されていた。そして、第二の蛍光体の蛍光スペクトルは、380nm以上700nm未満の波長範囲内に蛍光ピークを有していた。具体的には、第二の蛍光体の蛍光スペクトルのピーク波長は、535nmであった。
【0131】
(残光時間)
Quantaurus-Tau 小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス株式会社製C11367)を用いて、第一の蛍光体及び第二の蛍光体の1/10残光時間を測定した。
【0132】
表1に、第一の蛍光体及び第二の蛍光体の1/10残光時間を各々示す。第一の蛍光体及び第二の蛍光体の1/10残光時間は、各々、383μs、135nsであった。
【表1】
【0133】
以上の結果から、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光スペクトルと、380nm以上700nm未満の波長範囲内に蛍光ピークを有する蛍光スペクトルが、各々得られた。そして、第一の蛍光体及び第二の蛍光体の残光時間を考慮すると、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光と、380nm以上700nm未満の波長範囲内に蛍光ピークを有する蛍光とが、時間的に交互に放射されるといえる。
【0134】
例えば、第一の蛍光体と第二の蛍光体を混合した波長変換体を、周波数が1000Hz、Duty比が60%のパルスレーザー光源(1000μsのうち、600μsはレーザー光が放射され、400μsはレーザー光が放射されない光源)によって励起したとする。そうすると、第二の蛍光体は直ちに蛍光を放ち、約100ns(0.1μs)後に発光強度が約1/10となる。一方、第一の蛍光体は第二の蛍光体よりも遅れて蛍光を放ち、約400μs後に発光強度が約1/10となる光源になる。すなわち、上記光源は、1000μsのうち、レーザー光が放射されている600μs間は、380nm以上700nm未満の波長範囲内に蛍光ピークを有する蛍光が主に放射されるといえる。一方、レーザー光が放射されていない400μs間は、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光が主に放射されるといえる。
【0135】
なお、380nm以上700nm未満の波長範囲内に蛍光ピークを有する蛍光が主に放射される時間と、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光が主に放射される時間は、任意の値に調節できる。具体的には、これらの時間は、パルスレーザー光の周波数やDuty比、蛍光体の残光時間の制御によって任意の値に調節できる。
【0136】
特願2019-082916号(出願日:2019年4月24日)の全内容は、ここに援用される。
【0137】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本開示によれば、高コントラストな観察結果を取得可能なように近赤外光及び可視光を放つ発光装置、並びに当該発光装置を用いた医療システム、電子機器及び検査方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 波長変換体
2 第一の蛍光体
3 第二の蛍光体
5 光源
6 一次光
7 第一の波長変換光
8 第二の波長変換光
10 発光装置