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特許7361347波長変換体、並びにそれを用いた発光装置、医療システム、電子機器及び検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】波長変換体、並びにそれを用いた発光装置、医療システム、電子機器及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/0225 20210101AFI20231006BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20231006BHJP
   A61B 1/06 20060101ALI20231006BHJP
   A61B 1/07 20060101ALI20231006BHJP
   G02B 23/26 20060101ALI20231006BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20231006BHJP
   H01S 5/0239 20210101ALI20231006BHJP
【FI】
H01S5/0225
A61B1/00 511
A61B1/06 611
A61B1/07 736
G02B23/26 B
H01L33/50
H01S5/0239
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021515826
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006524
(87)【国際公開番号】W WO2020217671
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2019082925
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】阿部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】大塩 祥三
(72)【発明者】
【氏名】新田 充
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518046(JP,A)
【文献】特表2018-515913(JP,A)
【文献】特開2006-114911(JP,A)
【文献】特許第6461411(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/207703(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/163830(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143198(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025457(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008282(WO,A1)
【文献】特開2016-170968(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039000(WO,A1)
【文献】特開2013-239551(JP,A)
【文献】特開2012-104245(JP,A)
【文献】特開2009-226072(JP,A)
【文献】特開2007-017986(JP,A)
【文献】特開平08-317907(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0287081(US,A1)
【文献】国際公開第2012/069542(WO,A1)
【文献】特許第7220363(JP,B2)
【文献】特許第6964270(JP,B2)
【文献】特開2021-027074(JP,A)
【文献】国際公開第2020/217670(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/217669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
A61B 1/00 - 1/32
G02B 21/00 - 23/26
H01L 33/00 - 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr3+で賦活された第一の蛍光体と、
Ce3+及びEu2+の少なくともいずれか一方のイオンで賦活された第二の蛍光体と、
を含む波長変換体であって、
前記第二の蛍光体が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、500nm以上580nm未満の波長範囲内に蛍光強度が最大値を示すピークを有し、
前記第一の蛍光体及び前記第二蛍光体の両方を含む前記波長変換体は、500nm以上580nm未満の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光を放ち、
前記第一の蛍光体及び前記第二蛍光体の両方を含む前記波長変換体は、550nm以上700nm以下の波長範囲内において、最高発光強度に対する最低発光強度の割合が40%以下であるスペクトルの光を放ち、
550nm以上700nm以下の波長範囲内における、前記最高発光強度は550nm以上580nm未満の波長範囲内にあり、前記最低発光強度は580nm以上700nm以下の波長範囲内にある、波長変換体。
【請求項2】
前記第一の蛍光体が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、710nm以上の波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを有する、請求項1に記載の波長変換体。
【請求項3】
前記第二の蛍光体はCe3+で賦活された蛍光体である、請求項1又は2に記載の波長変換体。
【請求項4】
前記第一の蛍光体は、前記第二の蛍光体から放たれた580nm以上660nm未満の波長領域の光を吸収して蛍光を放つ、請求項1~3のいずれか一項に記載の波長変換体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の波長変換体と、
前記波長変換体により波長変換される光を放つ光源と、
を備える、発光装置。
【請求項6】
前記光源から放たれる前記光はレーザー光である、請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記光源から放たれる光のスペクトルは、420nm以上480nm未満の波長領域内に強度が最大値を示すピークを有し、
前記光源から放たれる光は青色光である、請求項6に記載の発光装置。
【請求項8】
前記光源は固体発光素子を含み、
前記青色光は前記固体発光素子によって放たれる、請求項7に記載の発光装置。
【請求項9】
センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムである、請求項5~8のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項10】
前記光源はレーザー素子及び発光ダイオードの少なくとも一方を含む、請求項5~9のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項11】
請求項5~10のいずれか一項に記載の発光装置を備える、医療システム。
【請求項12】
蛍光イメージング法又は光線力学療法のいずれかに利用される、請求項11に記載の医療システム。
【請求項13】
前記発光装置が放つ可視光成分の反射光を検知する第一のイメージセンサと、
薬剤が放つ近赤外の蛍光成分を検知する第二のイメージセンサと、
をさらに備え、
前記薬剤は前記発光装置が放つ光で励起される、請求項11に記載の医療システム。
【請求項14】
請求項5~10のいずれか一項に記載の発光装置を備える、電子機器。
【請求項15】
情報認識装置、分別装置、検知装置、又は検査装置のいずれかである、請求項14に記載の電子機器。
【請求項16】
前記検査装置は、医療用検査装置、農畜産業用検査装置、漁業用検査装置、又は工業用検査装置のいずれかである、請求項15に記載の電子機器。
【請求項17】
請求項5~10のいずれか一項に記載の発光装置を利用する、検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換体、並びに当該波長変換体を用いた発光装置、医療システム、電子機器及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療の分野で、蛍光イメージング法と呼ばれる、病巣の観察手法が注目されている。蛍光イメージング法は、腫瘍等の病巣と選択的に結合する蛍光薬剤を被検体に投与した後に、蛍光薬剤を特定の光によって励起し、蛍光薬剤から発せられた蛍光をイメージセンサで検出及び画像化することにより、病巣を観察する手法である。蛍光イメージング法によれば、目視では観察が困難な病巣を観察することができる。
【0003】
代表的な蛍光イメージング法としては、蛍光薬剤としてインドシアニングリーン(ICG)を利用する蛍光イメージング法(ICG蛍光法)が知られている。ICGは、生体を透過し易い近赤外光(例えば、蛍光ピーク波長が770nm)によって励起され、これよりも長波長の近赤外光(例えば、蛍光ピーク波長が810nm)を放射する。そのため、ICGから発せられた蛍光を検出することにより、生体内部の病巣の観察が可能となる。ICG蛍光法は、生体を傷つけることなく、生体内部の病巣を観察できる低侵襲な医療技術といえる。
【0004】
ICG蛍光法のような蛍光イメージング法を利用するためには、少なくとも近赤外光を放つ装置が必要となる。近赤外蛍光を放つオプトエレクトロニクス素子として、特許文献1には、一次ビームを放射する半導体チップと、Cr3+イオン及び/又はNi2+イオンを含む変換材料とを含むオプトエレクトロニクス素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2018-518046号公報
【文献】国際公開第2017/164214号
【発明の概要】
【0006】
上述のように、ICG蛍光法のような蛍光イメージング法を利用するためには、少なくとも近赤外光を放つ装置が必要となる。一方で、粘膜表層の状態を、可視光用のイメージセンサを介して映し出された映像又はレンズを通して目視で通常観察するためには、可視光も放たれることが好ましい。したがって、可視光と近赤外光を同時に放つ装置があれば、可視光を利用した通常観察と、近赤外光を利用した特殊観察との両立が可能になる。
【0007】
可視光と近赤外光を同時に放つ装置としては、特許文献2が知られている。特許文献2では、近赤外の蛍光成分を含む蛍光を放つ深赤色蛍光体と、深赤色蛍光体とは異なる波長の蛍光を放つ蛍光体と、発光素子とを組み合わせた光源装置が開示されている。
【0008】
しかしながら、このような従来の装置が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、可視光の蛍光成分と、近赤外の蛍光成分とが十分に分離されておらず、近赤外光用のイメージセンサのノイズとなる深赤色光の発光強度が相対的に高くなる課題があった。このため、このような従来の装置を利用して、通常観察と特殊観察とを同時に行うと、得られる蛍光イメージング画像のコントラストが低くなる課題があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、可視光の蛍光成分と近赤外の蛍光成分が十分に分離され、深赤色光の発光強度が相対的に低い蛍光スペクトルを放つことが可能な波長変換体、並びに当該波長変換体を用いた発光装置、医療システム、電子機器及び検査方法を提供することにある。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る波長変換体は、Cr3+で賦活された第一の蛍光体と、Ce3+及びEu2+の少なくともいずれか一方のイオンで賦活された第二の蛍光体と、を含む。第二の蛍光体が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、500nm以上580nm未満の波長範囲内に蛍光強度が最大値を示すピークを有する。波長変換体は、500nm以上580nm未満の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光を放つ。波長変換体は、550nm以上700nm以下の波長範囲内において、最高発光強度に対する最低発光強度の割合が40%以下であるスペクトルの光を放つ。
【0011】
本発明の第二の態様に係る発光装置は、第一の態様に係る波長変換体と、当該波長変換体により波長変換される光を放つ光源とを備える。
【0012】
本発明の第三の態様に係る医療システムは、第二の態様に係る発光装置を備える。
【0013】
本発明の第四の態様に係る電子機器は、第一の態様に係る発光装置を備える。
【0014】
本発明の第五の態様に係る検査方法は、第一の態様に係る発光装置を利用する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態に係る波長変換体の一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は、第一の蛍光体の励起スペクトルと蛍光スペクトルの一例である。
図3図3は、第二の蛍光体の励起スペクトルと蛍光スペクトルの一例である。
図4図4は、本実施形態に係る波長変換体の他の例を概略的に示す断面図である。
図5図5は、本実施形態に係る波長変換体の他の例を概略的に示す断面図である。
図6図6は、本実施形態に係る波長変換体の他の例を概略的に示す断面図である。
図7図7は、本実施形態に係る発光装置の一例を概略的に示す断面図である。
図8図8は、本実施形態に係る発光装置の他の例を概略的に示す断面図である。
図9図9は、本実施形態に係る内視鏡の構成を概略的に示す図である。
図10図10は、イメージセンサの一例を示す模式図である。
図11図11は、本実施形態に係る内視鏡システムの構成を概略的に示す図である。
図12図12は、実施例1に係る波長変換体が放つ光のスペクトルである。
図13図13は、実施例2に係る波長変換体が放つ光のスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本実施形態に係る波長変換体、並びに当該波長変換体を用いた発光装置、医療システム、電子機器及び検査方法について説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
[波長変換体]
本実施形態に係る波長変換体1は、図1に示すように、第一の蛍光体2と、第二の蛍光体3とを含んでいる。第一の蛍光体2はCr3+で賦活された蛍光体である。第二の蛍光体3は、Ce3+及びEu2+の少なくともいずれか一方のイオンで賦活された蛍光体である。
【0018】
図2は、第一の蛍光体2の励起スペクトルと蛍光スペクトルの一例である。第一の蛍光体2は、例えば図2に示すように、400nm以上500nm未満の青色の波長領域と、580nm以上660nm未満の橙~赤色の波長領域の光を強く吸収する。そして、第一の蛍光体2は、青色光と橙~赤色光を吸収して波長変換し、680nm以上800nm未満の近赤外の蛍光を放つ。
【0019】
図3は、第二の蛍光体3の励起スペクトルと蛍光スペクトルの一例である。第二の蛍光体3が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、500nm以上580nm未満の波長範囲内に蛍光強度が最大値を示すピークを有する。具体的には、第二の蛍光体3が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、図3に示すように、500nm以上580nm未満の波長範囲の緑~黄色の蛍光成分を主蛍光成分として含み、かつ、青色の蛍光成分と橙~赤色の蛍光成分を含むブロードな蛍光成分を持つ。
【0020】
上述のように、波長変換体1は第一の蛍光体2と第二の蛍光体3とを含む。そのため、第二の蛍光体3が放つ青色と橙~赤色の蛍光成分は、第一の蛍光体2に吸収されて、近赤外の蛍光に波長変換される。
【0021】
この結果、第二の蛍光体3が放つブロードな蛍光成分の内の青色と橙~赤色の蛍光成分の強度は小さくなり、第二の蛍光体3が放つ緑~黄色の蛍光成分の強度が相対的に大きくなる。特に、第二の蛍光体3が放つブロードな蛍光成分の内の深赤色の蛍光成分の強度は小さくなる。一方、第一の蛍光体2は近赤外の蛍光を放つため、波長変換体1が放つ近赤外の蛍光成分の強度は大きくなる。
【0022】
すなわち、波長変換体1が放つ光は、緑~黄色及び近赤外の蛍光成分の強度が大きくなり、橙~赤色の蛍光成分の強度は小さくなる。したがって、波長変換体1は、緑~黄色の蛍光成分と近赤外の蛍光成分が、十分に分離された波長変換光を放つ。また、波長変換体1は、近赤外用のイメージセンサのノイズとなる深赤色の蛍光成分の強度が相対的に小さい波長変換光を放つ。
【0023】
波長変換体1が放つ緑~黄色の蛍光成分は、患者の患部の目視に有利な光成分として利用できる。波長変換体1が放つ近赤外の蛍光成分は、生体内に投与した蛍光薬剤の励起に有利な光成分として利用できる。このため、波長変換体1は、可視光を利用した通常観察と近赤外光を利用した特殊観察との両立に適している。
【0024】
波長変換体1は、500nm以上580nm未満の波長範囲全体に亘って光成分を有する蛍光を放つ。波長変換体1が、このような蛍光を放つことにより、患者の患部の目視に有利な緑~黄色の蛍光成分を効果的に放つことができる。波長変換体1から放たれる蛍光は、500nm以上600nm未満の波長範囲全体に亘って光成分を有していてもよい。
【0025】
波長変換体1は、550nm以上700nm以下の波長範囲内において、最高発光強度に対する最低発光強度の割合が40%以下であるスペクトルの光を放つ。なお、最高発光強度に対する最低発光強度の割合は30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが特に好ましい。このようにすると、波長変換体1は、緑~黄色の蛍光成分と近赤外の蛍光成分が、より分離された波長変換光を放つことができる。最高発光強度を有する波長は、550nm以上580nm未満であってもよい。最低発光強度を有する波長は、580nm以上700nm以下であってもよく、600nm以上700nm以下であってもよい。
【0026】
第一の蛍光体2が放つ蛍光は、700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有することが好ましく、750nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有することがより好ましい。このようにすると、近赤外線の光吸収特性がばらつきやすい薬剤を利用しても、波長変換体1は、薬剤を効率よく励起可能な近赤外の励起光を放つことができる。そのため、蛍光薬剤から放射される近赤外光の光量、又は、光感受性薬剤から放たれる熱線が多い発光装置10が得られる。
【0027】
第一の蛍光体2が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、710nm以上の波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを有することが好ましい。このようにすると、波長変換体1は、生体透過性の高い近赤外光成分を多く含む蛍光を放つことができる。なお、第一の蛍光体2が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、710nm以上900nm以下の波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを有していてもよい。
【0028】
第一の蛍光体2が放つ蛍光は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含み、第一の蛍光体2が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、波長720nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを持つことが好ましい。このようにすると、第一の蛍光体2は、長残光性の線状スペクトル成分よりも、短残光性のブロードなスペクトル成分の方が優勢な蛍光を放つことができる。その結果、波長変換体1は、近赤外成分を多く含む光を放出することができる。なお、線状スペクトル成分は、Cr3+の、E→(t )の電子エネルギー遷移(スピン禁制遷移)に基づく蛍光成分であり、680nm~720nmの波長領域内に蛍光強度が最大値を示すピークを持っている。ブロードなスペクトル成分は、Cr3+の、(t e)→(t )の電子エネルギー遷移(スピン許容遷移)に基づく蛍光成分であり、720nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを持っている。
【0029】
第一の蛍光体2が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、730nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを有することがより好ましく、750nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを有することがさらに好ましい。
【0030】
第一の蛍光体2が放つ蛍光の1/10残光時間は、1ms未満であることが好ましく、300μs未満であることがより好ましく、100μs未満の短残光性であることがさらに好ましい。これにより、第一の蛍光体2を励起する励起光の光密度が高い場合であっても、第一の蛍光体2が放つ蛍光の出力が飽和し難くなる。そのため、高出力の近赤外光を放つことが可能な波長変換体1を得ることができる。なお、1/10残光時間とは、最大発光強度を示した時間から、最大発光強度の1/10の強度になるまでに要した時間τ1/10を意味する
【0031】
第一の蛍光体2が放つ蛍光の1/10残光時間は、第二の蛍光体3が放つ蛍光の1/10残光時間よりも長いことが好ましい。具体的には、第一の蛍光体2が放つ蛍光の1/10残光時間は、10μs以上であることが好ましい。なお、Cr3+で賦活された第一の蛍光体2が放つ蛍光の1/10残光時間は、Ce3+やEu2+等のパリティー許容遷移に基づく短残光性(10μs未満)の蛍光の1/10残光時間より長くなる。これは、第一の蛍光体2が放つ蛍光の残光時間が比較的長いCr3+のスピン許容型の電子エネルギー遷移に基づく蛍光であるためである。
【0032】
第一の蛍光体2が放つ蛍光の1/10残光時間と第二の蛍光体3が放つ蛍光の1/10残光時間との差である1/10残光時間差は50μsを超えることが好ましい。これにより、第二の蛍光体3が主成分として放つ可視光の蛍光成分の強度が大きく低下しても、第一の蛍光体2が主成分として放つ近赤外の蛍光成分は比較的大きな強度を保つ。このため、残光時間差を利用して、近赤外の蛍光成分と可視光の蛍光成分の出力割合を制御することができる。なお、1/10残光時間差は、1ms未満であることが好ましい。
【0033】
第一の蛍光体2が放つ蛍光の蛍光スペクトルにおいて、蛍光強度最大値の80%の強度におけるスペクトル幅は、20nm以上80nm未満であることが好ましい。このようにすると、第一の蛍光体2が放つ蛍光の主成分がブロードなスペクトル成分となる。そのため、蛍光イメージング法又は光線力学療法(PDT法)を利用する医療現場において、蛍光薬剤又は光感受性薬剤の感度の波長依存性にばらつきがあったとしても、これらの薬剤が十分機能可能な高出力の近赤外光を波長変換体1が放つことができる。
【0034】
第一の蛍光体2が放つ蛍光の蛍光スペクトルにおいて、蛍光強度最大値に対する波長780nmの蛍光強度の比率は、30%を超えることが好ましい。蛍光強度最大値に対する波長780nmの蛍光強度の比率は、60%を超えることがより好ましく、80%を超えることがさらに好ましい。このようにすると、第一の蛍光体2が、「生体の窓」と呼ばれる、光が生体を透過しやすい近赤外の波長域(650~1000nm)の蛍光成分を多く含む蛍光を放つことができる。したがって、このような波長変換体1によれば、生体を透過する近赤外の光強度を大きくすることができる。
【0035】
第一の蛍光体2が放つ蛍光の蛍光スペクトルは、Cr3+の電子エネルギー遷移に由来する線状スペクトル成分の証跡を残していないことが好ましい。すなわち、第一の蛍光体2が放つ蛍光は、720nmを超える波長領域に蛍光強度が最大値を示すピークを持つブロードなスペクトル成分(短残光性)のみを有していることが好ましい。このようにすると、第一の蛍光体2は、Cr3+のスピン禁制遷移による長残光性の蛍光成分を含まず、スピン許容遷移による短残光性の蛍光成分だけを含む。これにより、第一の蛍光体2を励起する励起光の光密度が高い場合であっても、第一の蛍光体2が放つ蛍光の出力が飽和し難くなる。そのため、より高出力の近赤外光を放つことが可能な点光源の発光装置を得ることができる。
【0036】
第一の蛍光体2は、Cr3+以外の賦活剤を含まないことが好ましい。このようにすると、第一の蛍光体2に吸収された光が、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光だけに変換されるので、近赤外の蛍光成分の出力割合を最大限にまで高める出力光の設計が容易な波長変換体1を得ることができる。
【0037】
第一の蛍光体2は、二種類以上のCr3+賦活蛍光体を含むことも好ましい。これによって、少なくとも近赤外の波長領域の出力光成分を制御できるので、近赤外の蛍光成分を利用する用途に応じた分光分布の調整が容易な波長変換体1が得られる。
【0038】
第一の蛍光体2は、酸化物系の蛍光体であることが好ましく、酸化物蛍光体であることがより好ましい。なお、酸化物系の蛍光体とは、酸素を含むが窒素や硫黄は含まない蛍光体をいう。酸化物系の蛍光体は、酸化物、複合酸化物、並びに酸素及びハロゲンを陰イオンとして含む化合物からなる群より選択される少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0039】
酸化物は大気中で安定な物質であるため、レーザー光による高密度の光励起によって酸化物蛍光体が発熱した場合であっても、窒化物蛍光体で生じるような、大気で酸化されることによる蛍光体結晶の変質が生じ難い。このため、波長変換体1に含まれる全ての蛍光体が酸化物蛍光体である場合には、信頼性の高い発光装置を得ることができる。
【0040】
第一の蛍光体2は、ガーネットの結晶構造を有することが好ましい。第一の蛍光体2は、ガーネットの結晶構造を有する酸化物蛍光体であることも好ましい。ガーネット蛍光体は、組成変形が容易で数多くの蛍光体化合物を提供できるので、Cr3+の周囲の結晶場の調整が容易であり、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光の色調制御が容易である。
【0041】
なお、ガーネット構造を有する蛍光体、特に酸化物は、球に近い多面体の粒子形状を持ち、蛍光体粒子群の分散性に優れる。このため、波長変換体1に含まれる蛍光体がガーネット構造を有する場合には、光透過性に優れる波長変換体1を比較的容易に製造できるようになり、発光装置の高出力化が可能となる。また、ガーネットの結晶構造を有する蛍光体はLED用蛍光体として実用実績があることから、第一の蛍光体2がガーネットの結晶構造を有することにより、信頼性の高い発光装置を得ることができる。
【0042】
第一の蛍光体2は、例えば、LuCaMg(SiO:Cr3+、YGa(AlO:Cr3+、YGa(GaO:Cr3+、GdGa(AlO:Cr3+、GdGa(GaO:Cr3+、(Y,La)Ga(GaO:Cr3+、(Gd,La)Ga(GaO:Cr3+、CaLuZr(AlO:Cr3+、CaGdZr(AlO:Cr3+、LuSc(GaO:Cr3+、YSc(AlO:Cr3+、YSc(GaO:Cr3+、GdSc(GaO:Cr3+、LaSc(GaO:Cr3+、CaSc(SiO:Cr3+、CaSc(GeO:Cr3+、BeAl:Cr3+、LiAl:Cr3+、LiGa:Cr3+、MgSiO:Cr3+,Li、LaGaGeO14:Cr3+、及びLaGa5.5Nb0.514:Cr3+等からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光体を含んでいてもよい。
【0043】
上述のように、第一の蛍光体2が放つ蛍光は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく特定の蛍光成分を持つものである。これにより、波長変換体1によれば、例えばICGなどの蛍光薬剤や例えばフタロシアニンなどの光感受性薬剤(蛍光薬剤でもある)を効率的に励起することができる。
【0044】
第二の蛍光体3は、Ce3+及びEu2+の少なくともいずれか一方のイオンで賦活された蛍光体である。ただし、第二の蛍光体3は、Ce3+で賦活された蛍光体であることが好ましい。Ce3+で賦活された蛍光体は、長波長側に長い裾を引くスペクトル形状の蛍光を放つ光物性を有する。したがって、第二の蛍光体3が放つ光は、橙~赤色の蛍光成分割合が多く、第一の蛍光体2の励起に有利であるため、第一の蛍光体2が放つ近赤外の蛍光成分の強度を高める上で有利になる。
【0045】
第二の蛍光体3は、例えば、酸化物及びハロゲン酸化物などの酸化物系の蛍光体、並びに、窒化物及び酸窒化物などの窒化物系の蛍光体の少なくともいずれか一方であってもよい。
【0046】
第二の蛍光体3は、ガーネット型、カルシウムフェライト型、及びランタンシリコンナイトライド(LaSi11)型の結晶構造からなる化合物群より選ばれる少なくとも一つを主成分とする化合物を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。または、第二の蛍光体3は、ガーネット型、カルシウムフェライト型、及びランタンシリコンナイトライド(LaSi11)型の結晶構造からなる化合物群より選ばれる少なくとも一つの化合物を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。このような第二の蛍光体3を用いることで、緑色系から黄色系の光成分を多く持つ出力光を得ることができるようになる。
【0047】
具体的には、第二の蛍光体3は、MRE(SiO、REAl(AlO、MRE、及びRESi11からなる群より選ばれる少なくとも一つを主成分とする化合物を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。若しくは、第二の蛍光体3は、MRE(SiO、REAl(AlO、MRE、及びRESi11からなる群より選ばれる少なくとも一つを母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。または、第二の蛍光体3は、当該化合物を端成分とする固溶体を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。なお、Mはアルカリ土類金属であり、REは希土類元素である。
【0048】
このような第二の蛍光体3は430nm以上480nm以下の波長範囲内の光をよく吸収し、540nm以上580nm未満の波長範囲内に蛍光強度が最大値を示すピークを有する緑色~黄色系の光に高効率に変換する。そのため、430nm以上480nm以下の波長範囲内の寒色光を一次光6として放つ光源5とした上で、このような蛍光体を第二の蛍光体3として用いることにより、可視光成分を容易に得ることが可能となる。
【0049】
波長変換体1は無機材料からなることが好ましい。ここで無機材料とは、有機材料以外の材料を意味し、セラミックスや金属を含む概念である。波長変換体1が無機材料からなることにより、封止樹脂等の有機材料を含む波長変換体と比較して熱伝導性が高くなるため、放熱設計が容易となる。このため、光源5から放射された一次光6により蛍光体が高密度で光励起された場合でも、波長変換体1の温度上昇を効果的に抑制することができる。この結果、波長変換体1中の蛍光体の温度消光が抑制され、発光の高出力化が可能になる。これにより、蛍光体の放熱性が高まるため、温度消光による蛍光体の出力低下が抑制され、高出力の近赤外光を放つことが可能となる。
【0050】
波長変換体1の全てが無機材料からなることが好ましい。これにより、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3の放熱性が高まるため、温度消光による蛍光体の出力低下が抑制され、高出力の近赤外光を放つ発光装置を得ることが可能となる。
【0051】
第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3のうち少なくとも一方は、セラミックスであってもよい。これにより、波長変換体1の熱伝導率が高くなるため、発熱が少ない高出力の発光装置10を提供できる。なお、ここでは、セラミックスとは、粒子同士が接合した状態の焼結体のことをいう。
【0052】
波長変換体1は、図1に示すように、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3に加え、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3を分散させる封止材4をさらに有することが好ましい。そして、波長変換体1において、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3は封止材4中に分散されていることが好ましい。第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3が封止材4中に分散されることにより、波長変換体1に放たれる光を効率的に吸収し、近赤外光に波長変換することが可能となる。また、波長変換体1をシート状やフィルム状に成形しやすくすることができる。
【0053】
封止材4は、有機材料及び無機材料の少なくとも一方、特に、透明(透光性)有機材料及び透明(透光性)無機材料の少なくとも一方であることが好ましい。有機材料の封止材としては、例えば、シリコーン樹脂などの透明有機材料が挙げられる。無機材料の封止材としては、例えば、低融点ガラスなどの透明無機材料が挙げられる。
【0054】
上述のように、波長変換体1は無機材料からなることが好ましいことから、封止材4は無機材料からなることが好ましい。また、無機材料としては、酸化亜鉛(ZnO)を用いることが好ましい。これにより、蛍光体の放熱性がさらに高まるため、温度消光による蛍光体の出力低下が抑制され、高出力の近赤外光を放つ波長変換体1を得ることが可能となる。
【0055】
なお、図1では、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3が、一層の封止材4に均一に混ざり合って分散されている例について説明している。しかしながら、波長変換体1は、このような形態に限定されない。波長変換体1は、例えば図4に示すように、第一の封止材4Aと第二の封止材4Bとを有していてもよい。第一の封止材4Aには第一の蛍光体2が分散され、第二の封止材4Bには第二の蛍光体3が分散されていてもよい。図4に示すように、第一の封止材4A及び第二の封止材4Bは、それぞれ層を形成しており、各層が重なり合うように積層されていてもよい。第一の封止材4Aと第二の封止材4Bは、同一の材料によって形成されていてもよく、異なる材料によって形成されていてもよい。
【0056】
波長変換体1は、図5及び図6に示すように、封止材4を使用しなくてもよい。具体的には、図5に示すように、波長変換体1は、封止材4を有せず、第一の蛍光体2と第二の蛍光体3とが均一に混ざり合って分散されていてもよい。また、図6に示すように、波長変換体1は、封止材4を有せず、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3がそれぞれ集合した層を形成しており、各層が重なり合うように積層されていてもよい。この場合、有機又は無機の結着剤を利用して、蛍光体同士を固着すればよい。また、蛍光体の加熱反応を利用して、蛍光体同士を固着することもできる。結着剤としては、一般的に利用される樹脂系の接着剤、又はセラミックス微粒子や低融点ガラスなどを使用することができる。封止材4を利用しない波長変換体1は厚みを薄くすることができるため、発光装置に好適に用いることができる。
【0057】
[発光装置]
次に、図7及び図8を用いて本実施形態に係る発光装置10について説明する。
【0058】
図7に示すように、本実施形態に係る発光装置10は、上述の波長変換体1と、波長変換体1により波長変換される光を放つ光源5と、を備えている。つまり、発光装置10は、一次光6を放つ光源5と、第一の蛍光体2と、第二の蛍光体3とを少なくとも組み合わせてなる発光装置10である。波長変換体1は、光源5から放たれた一次光6を受光して、一次光6よりも長波長の蛍光を放射する。図7に示す発光装置10は、波長変換体1の正面1Aで一次光6を受光し、波長変換体1の背面1Bから蛍光を放射している。
【0059】
放射された蛍光は、第一の波長変換光7及び第二の波長変換光8を含んでいる。第二の波長変換光8は、第二の蛍光体3によって吸収された一次光6の一部が波長変換されて放たれた蛍光である。第一の波長変換光7は、第一の蛍光体2によって吸収された一次光6及び/又は第二の波長変換光8の一部が波長変換されて放たれた蛍光である。第一の波長変換光7は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく特定の蛍光成分を持っているため、発光装置10はCr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を放つことができる。
【0060】
上述のように、波長変換体1は、緑~黄色の蛍光成分と近赤外の蛍光成分が、十分に分離された波長変換光を放つ。そのため、上記のような発光装置10は、緑~黄色の蛍光成分と近赤外の蛍光成分が、十分に分離された出力光を放つ。そして、緑~黄色の蛍光成分は、患者の患部の目視に有利な光成分として利用できる。一方、近赤外の蛍光成分は、生体内に投与した薬剤の励起に有利な光成分として利用できる。このため、発光装置10は、可視光を利用した通常観察と、近赤外光を利用した特殊観察との両立が可能で診断に有利である。
【0061】
上述の通り、光源5は波長変換体1により波長変換される光を放つが、光源5から放たれる光はレーザー光であることが好ましい。レーザー光は指向性が強い高出力の点光源であるので、光学系の小型化や導光部の細径化のみならず、光ファイバーへのレーザー光の結合効率なども向上する。したがって、高出力化が容易な発光装置10が得られる。レーザー光は、発光装置10の小型化の観点から、半導体発光素子によって放たれる事が好ましい。
【0062】
光源5から放たれる光のスペクトルは、400nm以上500nm未満に強度が最大値を示すピークを有することが好ましい。光源5から放たれる光のスペクトルは、420nm以上480nm未満の波長領域内に強度が最大値を示すピークを有し、光源5から放たれる光は青色光であることも好ましい。光源5から放たれる光のスペクトルは、より好ましくは430nm以上480nm未満、さらに好ましくは440nm以上470nm未満の波長領域内に強度が最大値を示すピークを有する。このようにすると、Cr3+で賦活された第一の蛍光体2を高効率励起できるだけでなく、Ce3+及びEu2+の少なくともいずれか一方で賦活された第二の蛍光体3として、LED照明用として高い実績を持つ高効率蛍光体を利用することもできる。そのため、高出力の発光装置10が得られる。
【0063】
光源5は、赤色レーザー素子を備えていてもよく、青色レーザー素子を備えていてもよい。赤色レーザー素子は近赤外の光成分とのエネルギー差が小さく、波長変換に伴うエネルギーロスが小さいので、発光装置10の高効率化を図る上で好ましい。一方、青色レーザー素子は高効率かつ高出力のレーザー素子の入手が容易であるので、発光装置10の高出力化を図る上で好ましい。なお、光源5は、励起源としての青色レーザー素子を備え、青色のレーザー光を放射することが好ましい。これにより、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3が高効率かつ高出力で励起されることから、発光装置10は高出力な近赤外光を放射することが可能となる。
【0064】
光源5は固体発光素子を含み、上記青色光は固体発光素子によって放たれることが好ましい。このようにすると、信頼性が高い小型の発光素子を上記青色光の発光源として利用することになるので、信頼性が高い小型の発光装置10が得られる。
【0065】
固体発光素子は、一次光6を放射する発光素子である。固体発光素子は、高いエネルギー密度を有する一次光6を放つことが可能ならば、あらゆる発光素子を用いることができる。なお、固体発光素子は、レーザー素子及び発光ダイオード(LED)の少なくとも一方であることが好ましく、レーザー素子であることがより好ましい。光源5は、例えば、面発光レーザーダイオード等であってもよい。
【0066】
固体発光素子の定格光出力は、1W以上であることが好ましく、3W以上であることがより好ましい。これによって、光源5は高出力の一次光6を放つことができるようになるので、高出力化が容易な発光装置10が得られる。
【0067】
定格光出力の上限は特に限定されるものではなく、光源5が複数の固体発光素子を有することにより、定格光出力を高くすることができる。ただし、実用可能性を考慮すると、定格光出力は、10kW未満であることが好ましく、3kW未満であることがより好ましい。
【0068】
一次光6の光密度は、0.5W/mm超であることが好ましく、3W/mm超であることがより好ましく、10W/mm超であることがさらに好ましい。光密度は、30W/mmを超えていてもよい。このようにすると、第一の蛍光体2及び第二の蛍光体3が高密度で光励起されるので、波長変換体1は高出力の蛍光成分を放つことができる。
【0069】
一次光6は、連続パルス光であることが好ましい。このようにすると、パルス光をOFFにした直後に、近赤外の蛍光成分を持つ第一の波長変換光7は、可視光となる第二の波長変換光8よりも燐光を長く放つようになる。この燐光成分を上記薬剤の励起光として利用することによって、薬剤が放つ近赤外の蛍光成分だけをイメージセンサに入射させ、第二の波長変換光8をイメージセンサに入射させない設計が容易な発光装置10が得られる。そのため、薬剤が放つ近赤外の蛍光成分のS/N比の向上に有利な発光装置10が得られる。
【0070】
一次光6と第二の波長変換光8の混合光の相関色温度は2500K以上7000K未満であることが好ましい。相関色温度は、2700K以上5500K未満であることがより好ましく、2800K以上3200K未満又は4500K以上5500K未満であることがさらに好ましい。相関色温度が上記範囲内にある出力光は、白色系の出力光であり、画像表示装置又は光学機器を通して視認できる患部が、自然光の下で観察する患部に近い見え方をする。したがって、医師が持つ医療経験を活かすことが容易な医療用として好ましい発光装置10が得られる。
【0071】
次に、本実施形態に係る発光装置10の作用について説明する。図7に示す発光装置10では、はじめに、光源5から放射された一次光6が波長変換体1の正面1Aに照射される。照射された一次光6の多くは、波長変換体1の正面1Aから波長変換体1内に進入して波長変換体1を透過し、照射された一次光6の一部は波長変換体1の表面で反射する。第二の蛍光体3は一次光6の一部を吸収して第二の波長変換光8に変換し、第一の蛍光体2は一次光6及び/又は第二の波長変換光8の一部を吸収して第一の波長変換光7に変換する。このようにして、発光装置10は、波長変換体1の背面1Bから、出力光として一次光6と第一の波長変換光7と第二の波長変換光8とを含む光を放射する。
【0072】
なお、発光装置10は、図7に示す形態に限られず、図7のように、波長変換体1の正面1Aから一次光6を受光して、第一の波長変換光7及び第二の波長変換光8を波長変換体1の背面1Bから放射するような形態に限定されない。発光装置10は、図8に示すように、波長変換体1の正面1Aから一次光6を受光して、第一の波長変換光7及び第二の波長変換光8を波長変換体1の正面1Aから放射してもよい。具体的には、図8に示す発光装置10では、はじめに、光源5から放射された一次光6が波長変換体1の正面1Aに照射される。照射された一次光6の多くは、波長変換体1の正面1Aから波長変換体1内に進入し、照射された一次光6の一部は波長変換体1の表面で反射する。第二の蛍光体3は一次光6の一部を吸収して第二の波長変換光8に変換し、第一の蛍光体2は一次光6及び/又は第二の波長変換光8の一部を吸収して第一の波長変換光7に変換する。このようにして、発光装置10は、波長変換体1の正面1Aから、出力光として一次光6と第一の波長変換光7と第二の波長変換光8とを含む光を放射する。
【0073】
このように、本実施形態の発光装置10は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく長残光性の近赤外の蛍光成分を多く含む第一の波長変換光7を放射する。近赤外の蛍光成分は、生体内に投与した蛍光薬剤の励起に有利な光成分として利用できる。また、本実施形態の発光装置10は、Ce3+の又はEu2+の電子エネルギー遷移に基づく短残光性の緑~黄色の蛍光成分を多く含む第二の波長変換光8を放射する。緑~黄色の蛍光成分は、患者の患部の目視に有利な光成分として利用できる。
【0074】
したがって、発光装置10は、医療に用いられてもよい。すなわち、発光装置10は、医療用発光装置であってもよい。言い換えれば、発光装置10は、医療用照明装置であってもよい。このようにすると、発光装置10は、緑~黄色の蛍光成分と近赤外の蛍光成分が、十分に分離された出力光を放つので、先に説明したような、通常観察と特殊観察との両立が可能で病状診断に有利である。
【0075】
発光装置10は、光干渉断層法(OCT)などに利用されていてもよい。ただし、発光装置10は、蛍光イメージング法又は光線力学療法のいずれかに利用されることが好ましい。これらの方法で利用される発光装置10は、蛍光薬剤や光感受性薬剤などの薬剤を利用する医療システム用の発光装置である。これらの方法は、幅広い応用が期待されている医療技術であり、実用性が高い。これらの発光装置10は、「生体の窓」を通して、生体内部を、近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができるので、大きな治療効果が期待される。
【0076】
蛍光イメージング法は、腫瘍等の病巣と選択的に結合する蛍光薬剤を被検体に投与した後に、蛍光薬剤を特定の光によって励起し、蛍光薬剤から発せられた蛍光をイメージセンサで検出及び画像化することにより、病巣を観察する手法である。蛍光イメージング法によれば、一般的な照明のみでは観察が困難な病巣を観察することができる。蛍光薬剤としては、近赤外光領域の励起光を吸収し、さらに当該励起光よりも長波長であり、かつ、近赤外光領域の蛍光を放射する薬剤を用いることができる。蛍光薬剤としては、例えば、インドシアニングリーン(ICG)、フタロシアニン系の化合物、タラポルフィンナトリウム系の化合物、及びDipicolylcyanine(DIPCY)系の化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0077】
光線力学療法は、標的となる生体組織に選択的に結合する光感受性薬剤を被検体に投与した後に、光感受性薬剤に近赤外線を照射する治療方法である。光感受性薬剤に近赤外線が照射されると、光感受性薬剤から活性酸素が発生し、これによって腫瘍や感染症などの病巣を治療することができる。光感受性薬剤としては、例えば、フタロシアニン系の化合物、タラポルフィンナトリウム系の化合物、及びポルフィマーナトリウム系の化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0078】
本実施形態の発光装置10は、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとすることもできる。発光装置10では、近赤外の波長領域に受光感度を有する、オーソドックスな受光素子を用いて、高感度のセンシングシステムを構成することができる。このため、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にする発光装置を得ることができる。
【0079】
[医療システム]
次に、上述の発光装置10を備える医療システムについて説明する。具体的には、医療システムの一例として、発光装置10を備えた内視鏡11及び内視鏡11を用いた内視鏡システム100について、図9図11を用いて説明する。
【0080】
(内視鏡)
図9に示すように、本実施形態に係る内視鏡11は、上述の発光装置10を備えるものである。内視鏡11は、スコープ110、光源コネクタ111、マウントアダプタ112、リレーレンズ113、カメラヘッド114、及び操作スイッチ115を備えている。
【0081】
スコープ110は、末端から先端まで光を導くことが可能な細長い導光部材であり、使用時には体内に挿入される。スコープ110は先端に撮像窓110zを備えており、撮像窓110zには光学ガラスや光学プラスチック等の光学材料が用いられる。スコープ110は、光源コネクタ111から導入された光を先端まで導く光ファイバーと、撮像窓110zから入射した光学像が伝送される光ファイバーとを有する。
【0082】
光源コネクタ111は、発光装置10から、体内の患部等に照射される照明光を導入する。本実施形態では、照明光は可視光及び近赤外光を含んでいる。光源コネクタ111に導入された光は、光ファイバーを介してスコープ110の先端まで導かれ、撮像窓110zから体内の患部等に照射される。なお、図9に示すように、光源コネクタ111には、発光装置10からスコープ110に照明光を導くための伝送ケーブル111zが接続されている。伝送ケーブル111zには、光ファイバーが含まれていてもよい。
【0083】
マウントアダプタ112は、スコープ110をカメラヘッド114に取り付けるための部材である。マウントアダプタ112には、種々のスコープ110が着脱自在に装着される。
【0084】
リレーレンズ113は、スコープ110を通して伝達される光学像を、イメージセンサの撮像面に収束させる。なお、リレーレンズ113は、操作スイッチ115の操作量に応じてレンズを移動させて、焦点調整及び倍率調整を行ってもよい。
【0085】
カメラヘッド114は、色分解プリズムを内部に有する。色分解プリズムは、リレーレンズ113で収束された光を、R光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)、及びIR光(近赤外光)の4色に分解する。色分解プリズムは、例えば、ガラス等の透光性部材で構成されている。
【0086】
カメラヘッド114は、さらに、検出器としてのイメージセンサ114Aを内部に有する。イメージセンサ114Aは特に限定されないが、CCD(Charge Coupled Device)及びCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)の少なくとも一方を用いることができる。イメージセンサ114Aは、複数種のイメージセンサを備えていてもよい。
【0087】
イメージセンサ114Aは、例えば図10に示すように、IR光用イメージセンサ114IR及び可視光用イメージセンサ114Vを備えていてもよい。可視光用イメージセンサ114Vは、R光用イメージセンサ114R、G光用イメージセンサ114G、及びB光用イメージセンサ114Bを含んでいてもよい。IR光用イメージセンサ114IRは、IR成分(近赤外成分)の光を受光する専用のセンサである。R光用イメージセンサ114Rは、R成分(赤色成分)の光を受光する専用のセンサである。G光用イメージセンサ114Gは、G成分(緑色成分)の光を受光する専用のセンサである。B光用イメージセンサ114Bは、B成分(青色成分)の光を受光する専用のセンサである。IR光用イメージセンサ114IR、R光用イメージセンサ114R、G光用イメージセンサ114G、及びB光用イメージセンサ114Bは、各々の撮像面に結像した光学像を電気信号に変換する。
【0088】
カメラヘッド114は、色分解プリズムの替わりに、カラーフィルターを内部に有していてもよい。カラーフィルターは、イメージセンサ114Aの撮像面に備えられる。カラーフィルターは、例えば4つ備えられており、4つのカラーフィルターは、リレーレンズ113で収束された光を受けて、R光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)、及びIR光(近赤外光)をそれぞれ選択的に透過する。
【0089】
IR光を選択的に透過するカラーフィルターには、照明光に含まれる近赤外光(IR光)の反射成分をカットするバリアフィルムが備えられていることが好ましい。これにより、例えばICGなどの蛍光薬剤から発せられたIR光からなる蛍光のみが、IR光用イメージセンサ114IRの撮像面に結像するようになる。そのため、蛍光薬剤により発光した患部を明瞭に観察し易くなる。
【0090】
なお、図9に示すように、カメラヘッド114には、イメージセンサ114Aからの電気信号を、後述するCCU12に伝送するための信号ケーブル114zが接続されている。
【0091】
このような構成の内視鏡11では、被検体からの光は、スコープ110を通ってリレーレンズ113に導かれ、さらにカメラヘッド114内の色分解プリズムを透過して4つのイメージセンサに結像する。
【0092】
(内視鏡システム)
図11に示すように、内視鏡システム100は、被検体内を撮像する内視鏡11、CCU(Camera Control Unit)12、及びディスプレイなどの表示装置13を備えている。
【0093】
CCU12は、少なくとも、RGB信号処理部、IR信号処理部、及び出力部を備えている。そして、CCU12は、CCU12の内部又は外部のメモリが保持するプログラムを実行することで、RGB信号処理部、IR信号処理部、及び出力部の各機能を実現する。
【0094】
RGB信号処理部は、可視光用イメージセンサ114VからのR成分、G成分及びB成分の電気信号を、表示装置13に表示可能な映像信号に変換し、出力部に出力する。また、IR信号処理部は、IR光用イメージセンサ114IRからのIR成分の電気信号を映像信号に変換し、出力部に出力する。
【0095】
出力部は、RGB各色成分の映像信号及びIR成分の映像信号の少なくとも一方を表示装置13に出力する。例えば、出力部は、同時出力モード及び重畳出力モードのいずれかに基づいて、映像信号を出力する。
【0096】
同時出力モードでは、出力部は、RGB画像とIR画像とを別画面により同時に出力する。同時出力モードにより、RGB画像とIR画像とを別画面で比較して、患部を観察できる。重畳出力モードでは、出力部は、RGB画像とIR画像とが重畳された合成画像を出力する。重畳出力モードにより、例えば、RGB画像内で、ICGにより発光した患部を明瞭に観察できる。
【0097】
表示装置13は、CCU12からの映像信号に基づいて、患部等の対象物の画像を画面に表示する。同時出力モードの場合、表示装置13は、画面を複数に分割し、各画面にRGB画像及びIR画像を並べて表示する。重畳出力モードの場合、表示装置13は、RGB画像とIR画像とが重ねられた合成画像を1画面で表示する。
【0098】
次に、本実施形態に係る内視鏡11及び内視鏡システム100の機能について説明する。内視鏡システム100を用いて被検体を観察する場合、まず蛍光物質であるインドシアニングリーン(ICG)を被検体に投与する。これにより、ICGがリンパや腫瘍等の部位(患部)に集積する。
【0099】
次に、伝送ケーブル111zを通じて、発光装置10から光源コネクタ111に可視光及び近赤外光を導入する。光源コネクタ111に導入された光は、スコープ110の先端側に導かれ、撮像窓110zから投射されることで、患部及び患部周囲を照射する。患部等で反射された光及びICGから発せられた蛍光は、撮像窓110z及び光ファイバーを通してスコープ110の後端側に導かれ、リレーレンズ113で収束し、カメラヘッド114内部の色分解プリズムに入射する。
【0100】
色分解プリズムでは、入射した光のうち、IR分解プリズムによって分解したIR成分の光は、IR光用イメージセンサ114IRで、赤外光成分の光学像として撮像される。赤色分解プリズムによって分解したR成分の光は、R光用イメージセンサ114Rで、赤色成分の光学像として撮像される。緑色分解プリズムによって分解したG成分の光は、G光用イメージセンサ114Gで、緑色成分の光学像として撮像される。青色分解プリズムによって分解したB成分の光は、B光用イメージセンサ114Bで、青色成分の光学像として撮像される。
【0101】
IR光用イメージセンサ114IRで変換されたIR成分の電気信号は、CCU12内部のIR信号処理部で映像信号に変換される。可視光用イメージセンサ114Vでそれぞれ変換されたR成分、G成分、B成分の各電気信号は、CCU12内部のRGB信号処理部で各映像信号に変換される。IR成分の映像信号及びR成分、G成分、B成分の各映像信号は同期して、表示装置13に出力される。
【0102】
CCU12内部で同時出力モードが設定されている場合、表示装置13には、RGB画像とIR画像とが同時に2画面で表示される。また、CCU12内部で重畳出力モードが設定されている場合、表示装置13には、RGB画像とIR画像とが重畳された合成画像が表示される。
【0103】
このように、本実施形態の内視鏡11は、発光装置10を備える。そのため、内視鏡11を用いて蛍光薬剤を効率的に励起して発光させることにより、患部を明瞭に観察することが可能となる。
【0104】
本実施形態の内視鏡11は、第一の波長変換光7を吸収した蛍光薬剤から発せられる蛍光を検出する検出器をさらに備えることが好ましい。具体的には、内視鏡11は、上述したようなイメージセンサ114Aを備えることが好ましい。内視鏡11が発光装置10に加えて、蛍光薬剤から発せられた蛍光を検出する検出器を備えることにより、内視鏡11のみで患部を特定することができる。そのため、従来のように大きく開腹して患部を特定する必要がないことから、患者の負担が少ない診察及び治療を行うことが可能となる。また、内視鏡11を使用する医師は患部を正確に把握できることから、治療効率を向上させることが可能となる。
【0105】
医療システムは、蛍光イメージング法又は光線力学療法のいずれかに利用されることが好ましい。これらの方法で利用される医療システムは、幅広い応用が期待されている医療技術であり、実用性が高い。これらの医療システムは、「生体の窓」を通して、生体内部を、近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができるので、大きな治療効果が期待される。また、このような医療システムは、比較的単純な構成の発光装置10を利用しているので、小型化や低価格化を図る上で有利である。
【0106】
医療システムは、発光装置10に加え、第一のイメージセンサと、第二のイメージセンサと、をさらに備えていてもよい。第一のイメージセンサは、発光装置10が放つ可視光成分の反射光を検知してもよい。第二のイメージセンサは、薬剤が放つ近赤外の蛍光成分を検知してもよい。薬剤は発光装置10が放つ光で励起される。第一のイメージセンサは、例えば上述したような可視光用イメージセンサ114Vである。第二のイメージセンサは、例えば上述したようなIR光用イメージセンサ114IRである。薬剤は、例えば上述した蛍光薬剤である。
【0107】
このようにすると、生体の患部の見た目の映像と、生体内に投与した薬剤(蛍光たんぱく質)が放つ近赤外の蛍光成分の状態観察を、それぞれ、第一のイメージセンサと第二のイメージセンサに振り分けることが容易になる。このような医療システムは、通常観察と特殊観察との両立が可能で病状診断に有利である。
【0108】
[電子機器]
次に、本実施形態に係る電子機器について説明する。本実施形態に係る電子機器は、発光装置10を備える。発光装置10は、上述のように、大きな治療効果を期待することができ、センシングシステムの小型化等が容易である。本実施形態に係る電子機器は発光装置10を用いるため、医療機器やセンシング機器用に用いると、大きな治療効果やセンシングシステムの小型化等を期待することができる。
【0109】
電子機器は、例えば、発光装置10と、受光素子とを備える。受光素子は、例えば、近赤外の波長領域の光を検知する赤外線センサなどのセンサである。電子機器は、情報認識装置、分別装置、検知装置、又は検査装置のいずれかであってもよい。これらの装置も、上述のように、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にすることができる。
【0110】
情報認識装置は、例えば、放射した赤外線の反射成分を検知し、周囲状況を認識するドライバー支援システムである。
【0111】
分別装置は、例えば、照射光と、被照射物体で反射された反射光との赤外光成分の違いを利用して被照射物体を予め定められた区分に分別する装置である。
【0112】
検知装置は、例えば、液体を検知する装置である。液体としては、水分、及び航空機などでの輸送が禁じられている引火性液体などが挙げられる。検知装置は、具体的には、ガラスに付着した水分、並びに、スポンジ及び微粉末などの物体に吸水された水分を検知する装置であってもよい。検知装置は、検知された液体を可視化してもよい。具体的には、検知装置は、検知された液体の分布情報を可視化してもよい。
【0113】
検査装置は、医療用検査装置、農畜産業用検査装置、漁業用検査装置、又は工業用検査装置のいずれかであってもよい。これらの装置は、各産業において検査対象物を検査するのに有用である。
【0114】
医療用検査装置は、例えば、人又は人以外の動物の健康状態を検査する検査装置である。人以外の動物は例えば家畜である。医療用検査装置は、例えば、眼底検査及び血中酸素飽和度検査などの生体検査に用いられる装置、並びに、血管及び臓器などの器官の検査に用いられる装置である。医療用検査装置は、生体の内部を検査する装置であってもよく、生体の外部を検査する装置であってもよい。
【0115】
農畜産業用検査装置は、例えば、農産物及び畜産物を含む農畜産物を検査する装置である。農産物は、例えば、青果物及び穀類のように食品として用いられてもよく、油などの燃料に用いられてもよい。畜産物は、例えば、食肉及び乳製品等である。農畜産業用検査装置は、農畜産物の内部又は外部を非破壊で検査する装置であってもよい。農畜産業用検査装置は、例えば、青果物の糖度を検査する装置、青果物の酸味を検査する装置、葉脈などの可視化によって青果物の鮮度を検査する装置、傷及び内部欠損の可視化によって青果物の品質を検査する装置、食肉の品質を検査する装置、乳及び食肉などを原料として加工した加工食品の品質を検査する装置などである。
【0116】
漁業用検査装置は、例えば、マグロなどの魚類の肉質を検査する装置、又は貝類の貝殻内の中身の有無を検査する装置などである。
【0117】
工業用検査装置は、例えば、異物検査装置、内容量検査装置、状態検査装置、又は構造物の検査装置などである。
【0118】
異物検査装置は、例えば、飲料及び液体薬剤などの容器に入っている液体中の異物を検査する装置、包装材中の異物を検査する装置、印刷画像中の異物を検査する装置、半導体及び電子部品中の異物を検査する装置、食品中の残骨、ごみ及び機械油などの異物を検査する装置、容器内の加工食品の異物を検査する装置、並びに、絆創膏などの医療機器、医薬品及び医薬部外品の内部の異物を検査する装置などである。
【0119】
内容量検査装置は、例えば、飲料及び液体薬剤などの容器に入っている液体の内容量を検査する装置、容器に入っている加工食品の内容量を検査する装置、並びに建材中のアスベストの含有量を検査する装置などである。
【0120】
状態検査装置は、例えば、包装材の包装状態を検査する装置、及び包装材の印刷状態を検査する装置などである。
【0121】
構造物の検査装置は、例えば、樹脂製品等の複合部材又は複合部品の内部非破壊検査装置及び外部非破壊検査装置などである。樹脂製品等の具体例としては、例えば、樹脂中に金属ワイヤの一部を埋設させた金属ブラシであり、検査装置によって樹脂と金属の接合状態を検査することができる。
【0122】
電子機器は、カラー暗視技術を利用してもよい。カラー暗視技術は、可視光と赤外線の反射強度の相関関係を利用して、赤外線を波長ごとにRGB信号に割り当てることによって、画像をカラー化する技術である。カラー暗視技術によれば、赤外線のみでカラー画像を得ることができるので、とりわけ防犯装置などに適している。
【0123】
以上のように、電子機器は発光装置10を備える。発光装置10は、電源と、光源5と、波長変換体1とを備えていても、これらの全てを一つの筐体内に収容させる必要はない。したがって、本実施形態に係る電子機器は、操作性に優れ、高精度でコンパクトな検査方法等を提供することも可能である。
【0124】
[検査方法]
次に、本実施形態に係る検査方法について説明する。上述のように、発光装置10を備える電子機器は、検査装置として利用することもできる。すなわち、本実施形態に係る検査方法は、発光装置10を利用することができる。これにより、操作性に優れ、高精度でコンパクトな検査方法を提供することが可能になる。
【実施例
【0125】
以下、本実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0126】
[蛍光体の調製]
(実施例1)
固相反応を利用する調製手法を用いて、実施例1で使用するCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体を合成した。実施例1で使用するCr3+で賦活された蛍光体は、Y(Ga0.97Cr0.03Ga12の組成式で表される酸化物蛍光体である。実施例1で使用するCr3+で賦活された蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として使用した。
酸化イットリウム(Y):純度3N、信越化学工業株式会社
酸化ガリウム(Ga):純度4N、和光純薬工業株式会社
酸化クロム(Cr):純度3N、株式会社高純度化学研究所
【0127】
まず、化学量論的組成の化合物Y(Ga0.97Cr0.03Ga12となるように、上記原料を秤量した。次に、秤量した原料を、純水を入れたビーカー中に投入し、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌した。これによって、純水と原料からなるスラリー状の混合原料を得た。その後、スラリー状の混合原料を、乾燥機を用いて全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。
【0128】
上記焼成原料を小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を利用して、1350℃~1450℃の大気中で1時間の焼成を行うことによって、Cr3+で賦活された蛍光体を得た。なお、昇降温速度は400℃/hとした。得られた蛍光体の体色は、濃い緑色であった。
【0129】
実施例1で使用するCe3+で賦活された蛍光体は、(Y0.75Gd0.22Ce0.03AlAl12の組成式で表される市販の酸化物蛍光体とした。
【0130】
得られたCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体を、重量比が1:1となるように混合し、実施例1の混合粉末を得た。混合には、乳鉢と乳棒を用い、混合時間は、3分とした。
【0131】
(実施例2)
固相反応を利用する調製手法を用いて、実施例2で使用するCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体を合成した。実施例2で使用するCr3+で賦活された蛍光体は、(Gd0.75La0.25(Ga0.97Cr0.03Ga12の組成式で表される酸化物蛍光体である。実施例2で使用するCr3+で賦活された蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として使用した。
酸化ガドリニウム(Gd):純度3N、和光純薬工業株式会社
酸化ランタン(La):純度3N、和光純薬工業株式会社
酸化ガリウム(Ga):純度4N、和光純薬工業株式会社
酸化クロム(Cr):純度3N、株式会社高純度化学研究所
【0132】
まず、化学量論的組成の化合物(Gd0.75La0.25(Ga0.97Cr0.03Ga12となるように、上記原料を秤量した。次に、秤量した原料を、純水を入れたビーカー中に投入し、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌した。これによって、純水と原料からなるスラリー状の混合原料を得た。その後、スラリー状の混合原料を、乾燥機を用いて全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。
【0133】
上記焼成原料を小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を利用して、1400℃~1500℃の大気中で1時間の焼成を行うことによって、Cr3+で賦活された蛍光体を得た。なお、昇降温速度は400℃/hとした。得られた蛍光体の体色は、薄い緑色であった。
【0134】
実施例2で使用するCe3+で賦活された蛍光体は、市販のLuAG蛍光体(LuAlAl12:Ce3+)とした。蛍光ピーク波長などを考慮すると、当該LuAG蛍光体の化学組成は、(Lu0.995Ce0.005AlAl12と推定される。
【0135】
得られたCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体を、重量比が1:1となるように混合し、実施例2の混合粉末を得た。混合には、乳鉢と乳棒を用い、混合時間は、3分とした。
【0136】
[評価]
(結晶構造解析)
実施例1で使用するCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体の結晶構造を、X線回折装置(X‘Pert PRO;スペクトリス株式会社、PANalytical社製)を用いて評価した。
【0137】
詳細は省略するが、評価の結果、実施例1で使用するCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体は、ガーネットの結晶構造を持つ化合物を主体にしてなることが分かった。つまり、実施例1で使用するCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体は、いずれも、ガーネット蛍光体であることが分かった。
【0138】
次に、実施例2で使用するCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体の結晶構造を、X線回折装置(X‘Pert PRO;スペクトリス株式会社、PANalytical社製)を用いて評価した。
【0139】
詳細は省略するが、評価の結果、実施例2で使用するCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体は、ガーネットの結晶構造を持つ化合物を主体にしてなることが分かった。つまり、実施例2で使用するCr3+で賦活された蛍光体及びCe3+で賦活された蛍光体は、いずれも、ガーネット蛍光体であることが分かった。
【0140】
(分光特性)
次に、実施例1及び実施例2の混合粉末を、直径10mm、深さ1mmのステンレス製円筒型フォルダに敷き詰め、波長変換体とし、その蛍光スペクトル特性を評価した。評価には、分瞬間マルチ測光システム(MCPD-9800、大塚電子株式会社製)を備える量子効率測定システム(QE-1100、大塚電子株式会社製)を用いた。なお、励起波長は450nmとした。
【0141】
実施例1の蛍光スペクトルを図12に示す。なお、蛍光スペクトルは、発光強度最大値が1となるように規格化している。実施例1の蛍光スペクトルは、Ce3+の5d→4f遷移に起因するとみなせるブロードなスペクトルと、Cr3+のd-d遷移に起因するとみなせるブロードなスペクトルから形成されていた。各々のスペクトルのピーク波長は、558nm及び710nmであった。
【0142】
図12から分かるように、実施例1の蛍光スペクトルは、近赤外光用のイメージセンサのノイズとなる深赤色の光成分が、従来よりも少ない蛍光スペクトルであった。これは、Cr3+で賦活された蛍光体が、Ce3+で賦活された蛍光体の蛍光成分のうち、深赤色領域の光成分を強く吸収したためと考えられる。なお、このような効果が実際に働くことは、これまで知られておらず、実験検証によってはじめて実証できるものである。
【0143】
なお、実施例1の蛍光スペクトルは、550nm以上700nm以下の波長範囲において、最高発光強度に対する最低発光強度の割合が39%であった。このことは、実施例1の波長変換体が、青色光を受光して、550nm以上700nm以下の波長範囲において、最高発光強度に対する最低発光強度の割合が40%以下である蛍光を放つことを示すものである。
【0144】
実施例2の蛍光スペクトルを図13に示す。なお、蛍光スペクトルは、発光強度最大値が1となるように規格化している。実施例2の蛍光スペクトルは、Ce3+の5d→4f遷移に起因するとみなせるブロードなスペクトルと、Cr3+のd-d遷移に起因するとみなせるブロードなスペクトルから形成されていた。各々のスペクトルのピーク波長は、517nm及び750nmであった。
【0145】
図13から分かるように、実施例2の蛍光スペクトルは、近赤外光用のイメージセンサのノイズとなる深赤色の光成分が、従来よりも少ない蛍光スペクトルであった。これは、Cr3+で賦活された蛍光体が、Ce3+で賦活された蛍光体の蛍光成分のうち、深赤色領域の光成分を強く吸収したためと考えられる。なお、このような効果が実際に働くことは、これまで知られておらず、実験検証によってはじめて、実証できるものである。
【0146】
なお、実施例2の蛍光スペクトルは、550nm以上700nm以下の波長範囲において、最高発光強度に対する最低発光強度の割合が4%であった。このことは、実施例2の波長変換体が、青色光を受光して、550nm以上700nm以下の波長範囲において、最高発光強度に対する最低発光強度の割合が40%以下である蛍光を放つことを示すものである。
【0147】
特願2019-082925号(出願日:2019年4月24日)の全内容は、ここに援用される。
【0148】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本開示によれば、可視光の蛍光成分と近赤外の蛍光成分が十分に分離され、深赤色光の発光強度が相対的に低い蛍光スペクトルを放つことが可能な波長変換体、並びに当該波長変換体を用いた発光装置、医療システム、電子機器及び検査方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0150】
1 波長変換体
2 第一の蛍光体
3 第二の蛍光体
5 光源
10 発光装置
11 内視鏡(医療システム)
101 内視鏡システム(医療システム)
114V 可視光用イメージセンサ(第一のイメージセンサ)
114IR IR光用イメージセンサ(第二のイメージセンサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13