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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】半導体基板の分断方法及び分断装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20231006BHJP
   B23K 26/351 20140101ALI20231006BHJP
【FI】
H01L21/78 B
H01L21/78 G
B23K26/351
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019036384
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020141069
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084364
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 宜喜
(72)【発明者】
【氏名】佐川 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 真和
(72)【発明者】
【氏名】池田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 宇航
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-064230(JP,A)
【文献】特開2005-064231(JP,A)
【文献】特開2014-093445(JP,A)
【文献】特開2010-064493(JP,A)
【文献】国際公開第2003/026861(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/351
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数の素子がマトリックス状に形成され、当該隣り合う素子間にストリートが設けられている半導体基板を分断して、前記素子を個々に分割する半導体基板の分断方法において、
前記ストリート上に形成された金属膜を含む被膜に対して、レーザーを平行に複数本走査することにより前記被膜を除去する被膜除去工程と、
前記被膜除去後の半導体基板のストリートに対して、スクライビングホイールの刃先を圧接状態で転動させてスクライブラインを形成するスクライブ工程と、
前記スクライブラインに沿って前記半導体基板を分断して、前記素子を個々に分割するブレイク工程と、を有する
ことを特徴とする半導体基板の分断方法。
【請求項2】
前記被膜除去工程においては、前記ストリートの幅より細い前記レーザーを複数本平行に走査する
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の分断方法。
【請求項3】
前記被膜除去工程においては、前記レーザーを平行に複数本走査するに際して、前記レーザーの照射により前記被膜が除去されるレーザー除去部の隣り合う間隔に、筋状の凸条部が形成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体基板の分断方法。
【請求項4】
2本の前記ストリートが交差する交点部において、複数の前記レーザー除去部が互いに交差した中央に、凸部が形成される
ことを特徴とする請求項3に記載の半導体基板の分断方法。
【請求項5】
前記被膜除去工程においては、前記レーザーを少なくとも2本以上走査し、
前記レーザーを走査する間隔を、少なくとも20μm以上とする
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の半導体基板の分断方法。
【請求項6】
前記半導体基板は、SiC基板であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の半導体基板の分断方法。
【請求項7】
基板上に複数の素子がマトリックス状に形成され、当該隣り合う素子間にストリートが形成されている半導体基板を分断して、前記素子を個々に分割する半導体基板の分断装置において、
前記ストリート上に形成された金属膜を含む被膜に対して、レーザーを平行に複数本走査することにより前記被膜を除去する被膜除去部と、
前記被膜除去後の半導体基板のストリートに対して、スクライビングホイールの刃先を垂直に接触させ、前記スクライビングホイールに荷重を加えて転動させてスクライブラインを形成するスクライブ部と、
前記スクライブラインに沿って前記半導体基板を分断して、前記素子を個々に分割するブレイク部と、を有し、
前記被膜除去部においては、
前記ストリートの幅より細い前記レーザーを複数本平行に走査し、
前記レーザーを平行に複数本走査するに際して、前記レーザーの照射により前記被膜が除去されるレーザー除去部の隣り合う間隔に、筋状の凸条部を形成し、
2本の前記ストリートが交差する交点部において、複数の前記レーザー除去部が互いに交差した中央に、凸部を形成する構成とされている
ことを特徴とする半導体基板の分断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板を分断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造プロセスは、半導体の支持体となる基板(ウェハ)を製造する工程と、その基板上に電子回路を形成して素子(半導体チップ)を製造する工程と、製造された半導体基板を分断して素子を個々に切り出す(チップ化する)工程と、その素子を用いて半導体を組み立てる工程とに分けられる。
半導体基板から素子を切り出す方法としては、例えば、スクライビングホイールで半導体基板にスクライブラインを形成し、そのスクライブラインに沿って基板を分断して、素子を個々に切り出す方法が挙げられる。
【0003】
ところで、半導体基板の表面は、格子状に区分けされ、複数の領域が形成されている。その格子状のラインは、ストリートと呼ばれる分割予定ラインである。また、区分けされた各領域には、素子が形成されている。
ストリートの上面には、様々な膜状の積層物が形成されている。その膜状の積層物が残留していると、ストリートにスクライブラインを形成するときや、半導体基板を分断する時に不具合が生じることとなる。そのため、スクライブラインを形成する前に、膜状の積層物を除去している。その膜状の積層物を除去する技術としては、例えば、特許文献1~3などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5645593号公報
【文献】特開2013-197108号公報
【文献】特許4741822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、半導体基板(例えば、ストリート)の上面に形成される様々な膜状の積層物としては、例えば、TEG(Test Element Group)と呼ばれる試験用の回路などを含む金属膜、アライメントマーク、Pl膜(偏光膜)などが挙げられる。
ストリートの上面は、積層状の被膜(積層膜)が形成されている。その積層膜は、積層状態がそれぞれ異なるので、半導体基板のストリート上では凹凸がある状況となっており、一様な状況とはなっていない。すなわち、積層膜の構成(厚み)が異なっている。
【0006】
ストリートにおいては、例えば、基本的にPl膜のみが形成されている(厚み:2μm程度)。また、ストリートにアライメントマークが形成されている部分においては、例えば、(Pl膜+SiO)が形成されている(厚み:3μm程度)。
ストリートにTEGが形成されている部分(Street TEG)においては、例えば、(Pl膜+Metal Al+SiO)が形成されている(厚み:5μm程度)。
【0007】
また、半導体基板上にPattern TEGが形成されている部分においては、例えば、(Pl膜+Metal Al+SiO+Poly Si+SiO)が形成されている(厚み:10μm程度)。
このように、半導体基板上にTEGなどが形成されていると、他の部分に比べて厚みがより厚くなる。すなわち、半導体基板では、部分によって積層膜の厚みが異なり、構成に差が生じてくる。
【0008】
特許文献1~3などの従来技術を用いて、半導体基板(例えば、ストリート)上に形成されたTEGなどを除去しようとしても、一様にTEGなどを除去することができない。例えば、レーザーの出力を上げて行うと、TEGを除去することができても、ストリートの交点部の部分(Pl膜のみなどの薄い膜の部分)がより深く削られることになるが、クロスカットする場合には交点部が必要以上に深く削られてしまうため、望ましくない(図3参照)。それ故、スクライブラインを形成するとき、直線とはならずに、破線のような状況となってしまう可能性がある。半導体基板のブレイク時に、変割れの原因となってしまう。
【0009】
また、レーザーの出力を下げて行うと、TEGを確実に除去することができない。つまり、スクライブラインは、半導体基板に対して形成されるものであるが、TEGが残留して基板の部分が露出しないので、スクライブラインの形成が困難となる。
すなわち、ストリートにおいて、半導体基板に対してスクライブラインを形成しないと、例えば、半導体基板を分断するときに、素子側に亀裂が進展するといった不具合が生じる可能性がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、半導体基板の上面、例えばストリート上に積層状に形成され、TEGなど金属膜を含む被膜を一様に除去することができ、スクライブラインを形成し、そのスクライブラインに沿って半導体基板を分断することができる半導体基板の分断方法及び分断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる半導体基板の分断方法は、基板上に複数の素子がマトリックス状に形成され、当該隣り合う素子間にストリートが設けられている半導体基板を分断して、前記素子を個々に分割する半導体基板の分断方法において、前記ストリート上に形成された金属膜を含む被膜に対して、レーザーを平行に複数本走査することにより前記被膜を除去する被膜除去工程と、前記被膜除去後の半導体基板のストリートに対して、前記スクライビングホイールの刃先を圧接状態で転動させてスクライブラインを形成するスクライブ工程と、前記スクライブラインに沿って前記半導体基板を分断して、前記素子を個々に分割するブレイク工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記被膜除去工程においては、前記ストリートの幅より細い前記レーザーを複数本平行に走査するとよい。
好ましくは、前記被膜除去工程においては、前記レーザーを平行に複数本走査するに際して、前記レーザーの照射により前記被膜が除去されるレーザー除去部の隣り合う間隔に、筋状の凸条部が形成されるとよい。
【0013】
好ましくは、2本の前記ストリートが交差する交点部において、複数の前記レーザー除去部が互いに交差した中央に、凸部が形成されるとよい。
好ましくは、前記被膜除去工程においては、前記レーザーを少なくとも2本以上走査し、前記レーザーを走査する間隔を、少なくとも20μm以上とするとよい。
好ましくは、前記半導体基板は、SiC基板であるとよい。
【0014】
本発明にかかる半導体基板の分断装置は、基板上に複数の素子がマトリックス状に形成され、当該隣り合う素子間にストリートが形成されている半導体基板を分断して、前記素子を個々に分割する半導体基板の分断装置において、前記ストリート上に形成された金属膜を含む被膜に対して、レーザーを平行に複数本走査することにより前記被膜を除去する被膜除去部と、前記被膜除去後の半導体基板のストリートに対して、前記スクライビングホイールの刃先を垂直に接触させ、前記スクライビングホイールに荷重を加えて転動させてスクライブラインを形成するスクライブ部と、前記スクライブラインに沿って前記半導体基板を分断して、前記素子を個々に分割するブレイク部と、を有し、前記被膜除去部においては、前記ストリートの幅より細い前記レーザーを複数本平行に走査し、前記レーザーを平行に複数本走査するに際して、前記レーザーの照射により前記被膜が除去されるレーザー除去部の隣り合う間隔に、筋状の凸条部を形成し、2本の前記ストリートが交差する交点部において、複数の前記レーザー除去部が互いに交差した中央に、凸部を形成する構成とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半導体基板の上面、例えばストリート上に積層状に形成され、TEGなど金属膜を含む被膜を一様に除去することができ、スクライブラインを形成し、そのスクライブラインに沿って半導体基板を分断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の半導体基板の分断方法を構成する被膜除去工程の概略を模式的に示した図である。
図2】レーザーを1本走査して、レーザーを照射して金属膜を含む被膜を除去した後の状況を示したストリートの画像である。
図3】レーザーを1本走査して、レーザーを照射して金属膜を含む被膜を除去した後、ストリートの交点部における状況を示した画像と、その交点部における断面図(断面A-A)である。
図4】レーザーを2本走査して、レーザーを照射して金属膜を含む被膜を除去した後の状況を示したストリートの画像と、そのストリートの断面図(断面B-B)である。
図5】レーザーを2本走査して、レーザーを照射して金属膜を含む被膜を除去した後、ストリートが交点部における状況を示した画像と、その交点部における断面図(断面C-C)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる半導体基板1の分断方法及び分断装置の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
基板1(ウェハ)は、素子2の支持基板となるものであり、円盤状に形成されている。なお、本実施形態においては、基板は、SiCで形成されていて、素子2の支持基板となるSiC層となる。
【0018】
図1に示すように、半導体基板1は、例えば、SiCからなる基板の表面に、電子回路が形成された素子2(半導体チップ)が碁盤の目のように、複数整列して配置されて形成されている。
つまり、半導体基板1は、SiC基板上に複数の素子2がマトリックス状に形成され、当該隣り合う素子2間にストリート3(分断予定ライン)が設けられている。ストリート3は、半導体基板1上において、格子状に形成されている。
【0019】
このような半導体基板1においては、電子回路が形成された素子2(半導体チップ)を製造するため、SiCからなる基板の表面に様々な処理が行われる。そのため、ストリート3上には、例えば、TEG(Test Element Group)と呼ばれる試験用の回路などを含む金属膜、アライメントマーク、Pl膜(偏光膜)など、様々な構成を有する被膜(積層膜)が形成されることとなる。
【0020】
ストリート3には、スクライブ工程において、スクライブラインが形成される。ストリート3上に積層膜が存在すると、半導体基板1のブレイク時において、スクライブラインに沿った分断が困難となり、素子2側にクラックなどが発生してしまう可能性がある。
そのため、ストリート3上に形成される積層膜を、一様に除去する必要がある。その積層膜のうち、TEGは、アライメントマークやPl膜に比べて、より厚いものとなっている。つまり、ストリート3上では、厚みが異なる積層膜が形成されているので、凹凸がある状況となっている。すなわち、ストリート3の表面は、一様な状況とはなっていない。
【0021】
そこで、本発明においては、ストリート3上に形成され、TEGなど厚みが異なる積層膜を確実に除去し、その後ストリート3上にスクライブラインを形成し、そのスクライブラインに沿って半導体基板1を分断して、素子2を個々に分割するようにしている。
本発明にかかる半導体基板1の分断方法は、ストリート3上に形成された金属膜を含む被膜に対して、レーザー5を平行に複数本走査することにより被膜を除去する被膜除去工程と、被膜除去後の半導体基板1のストリート3に対して、スクライビングホイールの刃先を圧接状態で転動させてスクライブラインを形成するスクライブ工程と、スクライブラインに沿って半導体基板1を分断して、素子2を個々に分割するブレイク工程と、を有する。
【0022】
図1に示すように、被膜除去工程は、レーザー照射ユニット4が備えられた被膜除去部にて、スクライブ工程を実施する前に、TEGなどの金属膜を含む被膜が形成されたストリート3に対して、レーザー照射ユニット4よりフォーカスが絞られたレーザー5を複数本平行に走査させることにより、TEGなどを除去する工程である。この被膜除去工程を実施することで、TEGが確実に除去され、スクライブ工程において、ストリート3に対して一条のスクライブラインを形成することができる。
【0023】
被膜除去工程においては、ストリート3の幅より細いレーザー5を複数本平行に走査するとよい。好ましくは、被膜除去工程においては、レーザー5を少なくとも2本以上走査するとよい。
また、被膜除去工程においては、レーザー5を平行に複数本走査するに際して、レーザー5の照射により被膜が除去されるレーザー除去部6の隣り合う間隔に、筋状の凸条部7が形成されるようにするとよい。
【0024】
被膜除去工程においては、2本のストリート3が交差する交点部3aにおいて、複数のレーザー除去部6が交差した中央に、凸部8が形成されるとよい。
被膜除去工程について、ストリート3上に形成された金属膜を含む被膜に対して、レーザー5を走査して、被膜を除去する検証を行った。
なお、本実施形態においては、ストリート3の幅が90μmの半導体基板1を使用し、検証した。
【0025】
目的としては、焦点距離の短い集光レンズに交換し、TEGを除去することができる条件を検証することとした。本実施形態においては、集光レンズ:F300mmから、F150mmに交換した。また、ストリート3の交点部3aにおけるレーザー5による加工深さを浅くすることを目的とした。
目標としては、ストリート3上における被膜の除去幅を40μm以上とし、レーザー5による加工幅を80μm未満とした。
【0026】
まず、検証の事例として、レーザー5を1本走査して被膜を除去する加工を、Pattern TEG(In-TEG)に対して行った。このとき、レーザー5については、デフォーカスして(フォーカスをぼかす)、スポット径を変更した。
本実施形態においては、レーザー5のスポット径=Φ35μm、Φ40μmに変更した。また、レーザー5による被膜除去の加工条件については、走査速度=300mm/sである。
【0027】
なお、Pattern TEGにおいては、SiC層上に、(Pl膜+Metal Al+SiO+Poly Si+SiO)といった被膜が形成されている(厚み:10μm程度)。
その結果としては、スポット径=Φ35μmでは、出力=5Wで、TEG(被膜)を一様に除去することができた。また、スポット径=Φ40μmでは、出力=6Wで、TEG(被膜)を一様に除去することができた。
【0028】
ただし、レーザー5の出力を下げると、SiC層が露出しなかったり、加工ライン上にバリが生じる等の問題が発生することとなった。
次に、ストリート3に対してレーザー5を1本走査して、そのストリート3上の被膜を除去する加工を行った。
なお、レーザー5による被膜除去の加工条件については、走査速度=300mm/sである。また、レーザー5に関し、スポット径=Φ35μm、レーザー5の出力=5Wとした。また、ストリート3においては、SiC層上に、Pl膜のみの被膜が形成されている(厚み:2μm程度)。
【0029】
図2に示すように、その結果としては、スポット径=Φ35μm、出力=5Wの条件では、Pl膜のみの被膜が除去され、被膜の除去幅が46μm、レーザー5による加工幅が61μmとなった。すなわち、目標である被膜の除去幅=40μm以上、レーザー5による加工幅=80μm以下を満たすこととなった。
さらに、2本のストリート3が交差する交点部3aを観察した。
【0030】
図3に示すように、観察した結果、スポット径=Φ35μm、出力=5Wでは、ストリート3の交点部3aの大きさ=39μm×35μmとなっていた。
また、ストリート3の交点部3aにおけるレーザー5の加工深さは、7.7μmとなっていた(断面A-A)。つまり、ストリート3の交点部3aについては、領域が小さくなっているものの、SiC層が深く加工されてしまうことがわかった。
【0031】
ここで、レーザー5の繰返周波数、走査速度などを変更し、レーザー5のパルス間ピッチを広げて、そのレーザー5を1本走査して、TEGを除去する加工を行った。
なお、本実施形態においては、レーザー5のパルス間ピッチを3μmから6μmへ変更した。また、レーザー5による被膜除去の加工条件については、繰返周波数=80kHz、走査速度=480mm/s、スポット径=Φ40μmである。ただし、走査対象は、Pattern TEGとした。
【0032】
その結果としては、レーザー5が加工されにくい部分では、TEGを一様に除去することが困難となった。また、レーザー5の出力を上げても、加工状態が不安定となった。
そこで、ストリート3に対して、ジャストフォーカスして(フォーカスを絞って)、レーザー5をシフトさせて、そのレーザー5を2本走査して、ストリート3上のTEGを除去する加工を行った。
【0033】
なお、レーザー5による被膜除去の加工条件については、レーザー5の出力=2W、走査速度=300mm/s、スポット径=Φ24μmである。また、レーザー5のシフト幅は、20μmである。
図4に示すように、その結果としては、スポット径=Φ24μm、出力=2Wの条件では、被膜の除去幅が50μm、レーザー5による加工幅が59μmとなった。すなわち、目標である被膜の除去幅が40μm以上で、レーザー5による加工幅が80μm以下を満たすこととなった。ストリート3におけるレーザー5の加工深さは、4.3μmとなった(断面B-B)。
【0034】
このレーザー5を平行で且つ、シフト幅を20μmで2本走査したとき、2本のレーザー除去部6が形成されることとなる。その2本のレーザー除去部6が隣り合う間隔には、筋状の凸条部7が形成されることを確認した。
同様に、シフト幅を30μmでレーザー5を2本走査したときも、凸条部7が形成されることを確認した。
【0035】
つまり、レーザー5のシフト幅を20μm以上で2本走査したとき、レーザー除去部6の隣り合う間隔にSiC層が露出せず、被膜のみ除去された部分である凸条部7ができていることがわかった。レーザー5を走査する間隔を、少なくとも20μm以上とするとよい。
また、凸条部7は、スクライビングホイールの刃先を真っ直ぐ通過させるため、レーザー5のシフト幅を30μmとするとよい。
【0036】
なお、レーザー5のシフト幅を10μmで2本走査したとき、レーザー除去部6の隣り合う間隔には、凸条部7は形成されなかった。つまり、レーザー5のシフト幅=10μmは、レーザー5を1本走査したときの状況とほぼ変化がなかった。
この凸条部7は、スクライブラインを形成するときに、スクライビングホイールの刃先を案内するラインとなる。言い換えれば、凸条部7は、半導体基板1のカットラインの基になるものである。
【0037】
さらに、2本のストリート3が交差する交点部3aを観察した。
図5に示すように、観察した結果、スポット径=Φ24μm、出力=3Wでは、ストリート3の交点部3aの大きさが51μm×53μmとなっている。
また、ストリート3の交点部3aにおけるレーザー5の加工深さは、中心部で2.9μmとなっていた(断面C-C)。つまり、ストリート3の交点部3aについては、レーザー5の加工深さが浅いものとなっていることがわかった。
【0038】
ところが、2本のストリート3が交差する交点部3aにおいては、2本のレーザー除去部6が互いに交差(直交)する中央(井桁状の中央)に、盛り上がった凸部8が形成されていることを確認した。
この凸部8は、スクライビングホイールの刃先が接触する点となり、ストリート3の交点部3aにおいても、スクライブラインが形成される。つまり、凸部8は、スクライブライン形成時に、交点部3a内における線の途切れを短くするものである。スクライビングホイールの刃先が凸部8からずれて凸部8の横を通過する場合でも、凸部8の両サイドも相対的に凸部となって、スクライブライン形成時に線の途切れを短くすることができる。
【0039】
この凸部8が形成されることで、ストリート3の交点部3aの中心に、スクライビングホイールの刃先が入り込むようになり、スクライブラインが飛ばずに(破線状に)形成されることを抑制することができるようになる。すなわち、連続した一条のスクライブラインと同等なスクライブラインが形成される。これにより、半導体基板1のブレイク時に、スクライブライン飛びによる変割れの発生を低減させることができる。
【0040】
上記した検証のまとめを以下に示す。
レーザー5に関し、焦点距離の短い集光レンズに交換(F300mm→F150mm)し、TEGを除去できる条件を検証した。また、スポット径=Φ35μm、Φ40μmで、レーザー5の出力を変更して検証し、TEGが一様に除去できることを確認した。
レーザー5による被膜除去の加工条件および加工結果の例について、以下の(1)~(3)に示す。
【0041】
(1)スポット径=Φ50μm、出力=10W、走査速度=300mm/s、被膜の除去幅=63μm、レーザー5による加工幅=80μm、ストリート3の交点部3aの大きさ=51μm×44μm、交点部3aにおけるレーザー5の加工深さ=4.8μmとなった。
(2)スポット径=Φ40μm、出力=6W、走査速度=300mm/s、被膜の除去幅=53μm、レーザー5による加工幅=67μm、ストリート3の交点部3aの大きさ=41μm×33μm、交点部3aにおけるレーザー5の加工深さ=7.3μmとなった。
【0042】
(3)スポット径=Φ35μm、出力=5W、走査速度=300mm/s、被膜の除去幅=46μm、レーザー5による加工幅=61μm、ストリート3の交点部3aの大きさ=39μm×35μm、交点部3aにおけるレーザーの加工深さ=7.7μmとなった。
(1)~(3)の結果によれば、レーザー5のスポット径を小さくすることで、被膜の除去幅=40μm以上、レーザー5による加工幅=80μm未満を達成することができた。
【0043】
しかしながら、ストリート3の交点部3aの大きさは小さくなったが、SiC層が深く加工されることとなった。
そこで、レーザー5のパルス間ピッチを広げて(3μm→6μm)TEGを除去してみたが、レーザー5が加工されにくい部分では、TEGを一様に除去することが難しく、レーザー5の出力を上げても、加工状態が不安定となった。
【0044】
このことより、レーザー5をシフトさせて、ジャストフォーカスしたレーザー5を2回走査して、ストリート3上のTEG(被膜)を除去したところ、レーザー5のシフト幅=20~30μmで、2本のレーザー除去部6の間にSiC層が露出せずに、被膜のみ除去された部分である凸条部7が形成されていた。
また、ストリート3の交点部3aにおいて、2本のレーザー除去部6(凸条部7)が互いに交差する部位に、凸部8が形成されていた。
【0045】
この凸部8が形成されることにより、ストリート3の交点部3aの中心にスクライビングホイールの刃先が入るようになり、スクライブライン飛びによる変割れの発生を低減させることができる。スクライビングホイールの刃先がストリート3の交点部3aの中心からずれて交点部3aの中心の横を通過する場合でも、交点部3aの中心の両サイドも相対的に凸部となって、スクライブライン飛びによる変割れの発生を低減させることができる。
【0046】
本発明は、ストリート3において、レーザー5を走査してTEGなどの被膜を除去する際、フォーカスを絞ったレーザー5を、一定の間隔を空けて2本走査することにより、TEGを一様に除去することができる。
以上、本願発明者の知見によれば、レーザー5のスポット径については、Φ20~100μmが望ましい。また、レーザー5のシフト幅については、20~30μmが望ましい。すなわち、レーザー5のスポット径、シフト幅は、ストリート3の幅をはみ出さない大きさが好ましい。
【0047】
レーザー5の出力については、2~10Wが望ましい。また、レーザーとしては、UVレーザー、グリーンレーザー、パルスレーザなどが望ましい。
なお、本実施形態ではストリート3の幅が90μmであったので、被膜の除去幅が40μm以上で、レーザー5による加工幅が80μm以下と設定した。これは一例であり、被膜の除去幅、レーザー5による加工幅については、ストリート3の幅に依存する。
【0048】
なお、本発明の半導体基板1の分断装置としては、ストリート3上に形成された金属膜を含む被膜に対して、レーザー5を平行に複数本走査することにより被膜を除去する被膜除去部と、被膜除去後の半導体基板1のストリート3に対して、スクライビングホイールの刃先を垂直に接触させ、スクライビングホイールに荷重を加えて転動させてスクライブラインを形成するスクライブ部と、スクライブラインに沿って半導体基板1を分断して、素子2を個々に分割するブレイク部と、を有しているとよい。
【0049】
被膜除去部においては、ストリート3の幅より細いレーザー5を平行に複数本走査し、レーザー5を平行に複数本走査するに際して、レーザー5の照射により被膜が除去されるレーザー除去部6の隣り合う間隔に、筋状の凸条部7を形成し、2本のストリート3が交差する交点部3aにおいて、複数のレーザー除去部6が互いに交差した中央に、凸部8を形成する構成とされているとよい。
【0050】
被膜除去部で被膜除去工程を終えると、半導体基板1はスクライブ工程に移される。
スクライブ工程は、スクライブ部にて、半導体基板1のストリート3に対して、分断のガイドとなるスクライブラインを形成する工程である。まず、スクライブ部に半導体基板1を設置する。そのスクライブ部には、スクライビングツールが備えられている。
スクライビングツールには、回転自在のスクライビングホイールが取り付けられている。スクライビングホイールの外周は、スクライブラインを形成する刃先となっている。なお、スクライビングホイールは、外周にダイヤモンド(例えば、単結晶ダイヤモンドなど)がコーティングされた刃先を有するものである。
【0051】
スクライビングホイールの刃先を半導体基板1のストリート3に対して垂直に接触させる。詳しくは、2本のレーザー除去部6の間に形成された凸条部7に対して、スクライビングホイールの刃先を接触させる。
所定の荷重で押圧しながら、スクライビングホイールを走行させると、スクライビングホイールがストリート3の凸条部7上で転動することにより、一条のスクライブラインが半導体基板1の表面に形成されることとなる。
【0052】
つまり、スクライブラインは、理想的には、2本のレーザー除去部6の間に形成された凸条部7上に形成される。また、凸条部7からズレて、凸条部7の両サイドの2本のレーザー除去部6のいずれかに沿って形成される場合でも、凸条部7の横が相対的に凸条部となるため、同様の効果を奏することができる。
スクライブ部でスクライブ工程を終えると、半導体基板1はブレイク工程に移される。
【0053】
ブレイク工程は、ブレイク部にて、分断のガイドとなるスクライブラインに沿って、半導体基板1を分断する工程である。まず、ブレイク部に、スクライブラインが形成された半導体基板1を設置する。
ブレイク部においては、スクライブラインが中心位置となるように、当該スクライブラインを下向きにした状態で半導体基板1を設置する。ブレイク部には、先端に刃が設けられたブレイク部材が備えられている。そのブレイク部材を、スクライブラインが形成されていない面側から、スクライブラインに対応する位置に近づける。
【0054】
ブレイク部材の刃先を押し付けて、スクライブラインに対応する位置を押圧する。すると、半導体基板1がスクライブラインに沿って分断される。
本発明によれば、半導体基板1の上面、例えばストリート3上に積層状に形成され、TEGなど金属膜を含む被膜を一様に除去することができ、スクライブラインを形成し、そのスクライブラインに沿って半導体基板1を分断することができる。
【0055】
このTEGなど金属膜を含む被膜を一様に除去することによって、スクライブラインを直線状に形成することができ、素子2側にクラックなどを発生させることなく、半導体基板1を分断することができる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0056】
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、作動条件や操作条件、構成物の寸法、重量などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0057】
1 半導体基板(SiC基板)
2 素子
3 ストリート
3a 交点部
4 レーザー照射ユニット
5 レーザー
6 レーザー除去部
7 凸条部
8 凸部
図1
図2
図3
図4
図5