(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】網膜電位測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20231006BHJP
A61B 5/398 20210101ALI20231006BHJP
【FI】
A61B3/10 800
A61B5/398
(21)【出願番号】P 2019107989
(22)【出願日】2019-06-10
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船田 英明
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06086206(US,A)
【文献】特開2016-022150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
5/05-5/0538
5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光刺激によって網膜電位を測定する網膜電位測定装置であって、
被検眼の網膜電位を検出する網膜電位検出部と、
前記被検
眼に光刺激を照射する光刺激照射部と、
前記光刺激照射部から照射される光刺激を制御する制御部と、を備えており、
前記光刺激照射部は、光源と、ドーム状の内表面と、を備えており、
前記内表面は、前記光源から照射された光を反射して、前記被検眼に入射させるように構成されており、
前記制御部は、第1のパターンで前記光刺激を照射させる第1の検査と、前記第1のパターンとは異なる第2のパターンで前記光刺激を照射させる第2の検査と、を含む検査群を連続して実行可能に構成されており、
連続して実行される前記検査群の間には、第1の所定の間隔が設けられている、網膜電位測定装置。
【請求項2】
前記検査群には、前記第1の検査に続いて前記第2の検査を実行する期間が含まれており、
前記第1の検査に続いて前記第2の検査を実行する期間では、前記第1の検査と前記第2の検査との間に、第2の所定の間隔が設けられている、請求項1に記載の網膜電位測定装置。
【請求項3】
前記第1のパターンの光刺激の光量は、前記第2のパターンの光刺激の光量より小さくされており、
前記制御部が前記検査群を実行するときは、前記第1の検査を実行してから前記第2の検査を実行する、請求項1又は2に記載の網膜電位測定装置。
【請求項4】
前記第1のパターンの光刺激は、単発の光を照射する光刺激であり、
前記第2のパターンの光刺激は、連続して複数回の光を照射する光刺激であり、
前記制御部が前記検査群を実行するときは、前記第1のパターンの光刺激を照射してから前記第2のパターンの光刺激を照射させる、請求項1又は2に記載の網膜電位測定装置。
【請求項5】
前記光刺激照射部は、右の被検眼に前記光刺激を照射する第1照射部分と、左の被検眼に前記光刺激を照射する第2照射部分と、を備えており、
前記制御部は、前記第1照射部分に照射させる前記光刺激の照射タイミングと、前記第2照射部分に照射させる前記光刺激の照射タイミングとがずれるように、前記第1照射部分及び前記第2照射部分を制御する、請求項1~4のいずれか一項に記載の網膜電位測定装置。
【請求項6】
前記光刺激照射部は、前記第1照射部分と前記第2照射部分を一体的に保持するフレームをさらに備えており、
前記第1照射部分は、前記右の被検眼の周囲を覆う形状であり、
前記第2照射部分は、前記左の被検眼の周囲を覆う形状であり、
前記第1照射部分及び前記第2照射部分の前記被検眼と対向する部分は、その長径が前記右の被検眼と前記左の被検眼とを結ぶ直線と略平行となる略楕円形状を有している、請求項5に記載の網膜電位測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、網膜電位測定装置に関する。詳細には、光源からの光を眼に対して照射し、その光刺激により生じる網膜電位の変動を測定する網膜電位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの眼球、特に網膜には、一定の電位(以下、網膜電位ともいう)が存在している。網膜電位は、光刺激によって変動することが知られており、この光刺激によって生じる網膜電位の変動を測定する網膜電位測定装置が開発されている。網膜電位測定装置を用いて、網膜電位の変動を測定した網膜電位図(ERG)を取得し、この網膜電位図を用いて網膜の電気生理学的検査を行うことができる。例えば、特許文献1に網膜電位測定装置の一例が開示されている。
【0003】
網膜電位測定装置を用いた網膜の電気生理学的検査として、網膜の錐体及び杆体の機能を測定するための複数種類の検査がある。例えば、暗順応下における測定として、錐体と杆体の混合応答を測定するフラッシュERGや杆体の応答を測定する杆体ERGが知られている。明順応下における測定として、錐体の応答を測定する錐体ERGや錐体系の応答を測定するフリッカーERGが知られている。各測定では、網膜に与える光刺激の光量や光刺激を与えるタイミングが異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
網膜電位測定装置を用いた網膜の電気生理学的検査では、複数種類の検査のそれぞれについて複数回の測定が行われる。従来の網膜電位測定装置を用いた検査では、網膜に与える光刺激の光量や点灯のタイミングが異なるため、検査の種類毎に、当該種類の検査について複数回の測定を行っている。ここで、同一種類の検査について複数回の測定を行うときは、直前の光刺激の影響が無くなってから次の光刺激を与えなければならないため、連続して行われる測定の間にある程度の間隔を空けなければならない。このため、全ての種類の検査を行うために長時間を要し、検査者にも被検査者にも負担になっている。
【0006】
本明細書は、網膜電位測定装置において、複数種類の検査を行うために必要となる時間を低減する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示する網膜電位測定装置は、光刺激によって網膜電位を測定する。網膜電位測定装置は、被検眼の網膜電位を検出する網膜電位検出部と、被検眼に光刺激を照射する光刺激照射部と、光刺激照射部から照射される光刺激を制御する制御部と、を備えている。制御部は、第1のパターンで光刺激を照射させる第1の検査と、第1のパターンとは異なる第2のパターンで光刺激を照射させる第2の検査と、を含む検査群を連続して実行可能に構成されている。連続して実行される検査群の間には、第1の所定の間隔が設けられている。
【0008】
上記の網膜電位測定装置では、第1の検査と第2の検査を含む検査群が連続して実行可能となっている。検査群には第1の検査と第2の検査が含まれているため、第1の検査のみ又は第2の検査のみを連続して行う必要は無く、第1の検査と第2の検査を同時若しくは比較的に短い時間間隔で実行することができる。このため、連続して実行される検査群の間には、第1の所定の間隔が設けられているが、全体として検査が行われていない時間を短くすることができる。このため、連続して実行される検査群のうち、先に実行される検査群の影響がなくなってから、後の検査群を実行することを担保しながら、検査を行うために必要となる時間を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例に係る網膜電位測定装置の概略構成を示す模式図。
【
図2】測定装置の概略構成を示す図であって、測定装置を被検者側から見た斜視図。
【
図3】測定装置の概略構成を示す図であって、測定装置を検査者側から見た正面図。
【
図4】フラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンの一例(フラッシュERGの測定回数と杆体ERGの測定回数が同じ場合)を示す図であって、(a)は従来のフラッシュERGを実行するための光刺激の照射パターンであり、(b)は従来の杆体ERGを実行するための光刺激の照射パターンであり、(c)はフラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンの一例(左眼又は右眼のみの測定)であり、(d)はフラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンの他の一例(左眼と右眼の交互測定)である。
【
図5】フラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンの他の一例(フラッシュERGの測定回数と杆体ERGの測定回数が異なる場合)を示す図であって、(a)は従来のフラッシュERGを実行するための光刺激の照射パターンであり、(b)は従来の杆体ERGを実行するための光刺激の照射パターンであり、(c)はフラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンの一例(左眼又は右眼のみの測定)であり、(d)はフラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンの他の一例(左眼と右眼の交互測定)である。
【
図6】錐体ERGとフリッカーERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンの一例を示す図であって、(a)は従来のフリッカーERGを実行するための光刺激の照射パターンであり、(b)は従来の錐体ERGを実行するための光刺激の照射パターンであり、(c)は錐体ERGとフリッカーERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンの一例(左眼又は右眼のみの測定)であり、(d)は錐体ERGとフリッカーERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンの他の一例(左眼と右眼の交互測定)である。
【
図7】錐体ERGとフリッカーERGを含む検査群を実行したときの測定結果の一例を示す図であり、(a)は基線揺れを含む補正前の原波形を示し、(b)は基線揺れのない補正後の波形を示し、(c)は(b)のうち錐体ERGの測定結果を示し、(d)は(b)のうちフリッカーERGの測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0011】
(特徴1)本明細書に開示する網膜電位測定装置では、検査群には、第1の検査に続いて第2の検査を実行する期間が含まれていてもよい。第1の検査に続いて第2の検査を実行する期間では、第1の検査と第2の検査との間に、第2の所定の間隔が設けられていてもよい。このような構成によると、第1の検査と第2の検査を含む検査群を実行する際に、先に実行される検査による光刺激(例えば、第1の光刺激)の影響がなくなってから、後に実行される検査による光刺激(例えば、第2の光刺激)を被検眼に与えることができる。このため、第1の検査と第2の検査の測定精度を向上することができる。また、第1の検査と第2の検査は異なる種類であるため、第2の所定の間隔は比較的に短い時間とすることができる。その結果、第1の検査と第2の検査の間に第2の所定の間隔を設定しても、検査時間の長時間化を抑制することができる。
【0012】
(特徴2)本明細書に開示する網膜電位測定装置では、第1のパターンの光刺激の光量は、第2のパターンの光刺激の光量より小さくされていてもよい。制御部が検査群を実行するときは、第1の検査を実行してから第2の検査を実行してもよい。このような構成によると、光量の小さい光刺激を先に照射してから、光量の大きい光刺激が照射される。光刺激が照射されてからその光刺激による影響がなくなるまでにかかる時間は、その光刺激の光量の大きさに応じて長くなる。このため、光量の小さい光刺激を先に照射することによって、第1のパターンの光刺激と第2の光刺激を照射する間の間隔を短くすることができ、測定時間全体の長さを短くすることができる。
【0013】
(特徴3)本明細書に開示する網膜電位測定装置では、第1のパターンの光刺激は、単発の光を照射する光刺激であってもよく、第2のパターンの光刺激は、連続して複数回の光を照射する光刺激であってもよい。制御部が前記検査群を実行するときは、第1のパターンの光刺激を照射してから第2のパターンの光刺激を照射させてもよい。このような構成によると、単発の光刺激を先に照射してから、連続の光刺激が照射される。これによって、1回の測定において第1の検査と第2の検査をほぼ同時に行うことができ、2種類の検査の測定時間を短縮することができる。
【0014】
(特徴4)本明細書に開示する網膜電位測定装置では、光刺激照射部は、右の被検眼に光刺激を照射する第1照射部分と、左の被検眼に光刺激を照射する第2照射部分と、を備えていてもよい。制御部は、第1照射部分に照射させる光刺激の照射タイミングと、第2照射部分に照射させる光刺激の照射タイミングとがずれるように、第1照射部分及び第2照射部分を制御してもよい。このような構成によると、第1照射部分に光刺激が照射されるタイミングと、第2照射部分に光刺激を照射されるタイミングがずれた状態となる。これにより、第1照射部分に照射された光刺激の影響がなくなるまでの間に、第2照射部分に光刺激が照射される。このため、左右の被検眼を測定する測定時間を短くすることができる。
【0015】
(特徴5)本明細書に開示する網膜電位測定装置では、光刺激照射部は、第1照射部分と第2照射部分を一体的に保持するフレームをさらに備えていてもよい。第1照射部分は、右の被検眼の周囲を覆う形状であってもよい。第2照射部分は、左の被検眼の周囲を覆う形状であってもよい。第1照射部分及び第2照射部分の被検眼と対向する部分は、その長径が右の被検眼と左の被検眼とを結ぶ直線と略平行となる略楕円形状を有していてもよい。左右の瞳孔の間の距離は、被検者毎に異なっている。第1照射部分及び第2照射部分の被検眼と対向する部分を略楕円状にすることによって、被検者の左右の瞳孔の間の距離に関わらず、左右の眼を第1照射部分及び第2照射部分によって覆うことができる。このため、汎用性を高くすることができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例に係る網膜電位測定装置10について説明する。網膜電位測定装置10は、被検眼に光刺激を与えることによって、被検眼の網膜電位を測定する。
図1に示すように、網膜電位測定装置10は、右眼用光刺激照射部20aと、左眼用光刺激照射部20bと、右眼用電極40aと、左眼用電極40bと、接地電極40cと、制御部50と、表示部30と、各種スイッチ32を備えている。
【0017】
右眼用光刺激照射部20a、左眼用光刺激照射部20b、制御部50、表示部30及び各種スイッチ32は、測定装置12に設けられている。
図2及び
図3に示すように、測定装置12は、本体14と、右眼用光刺激照射部20aと、左眼用光刺激照射部20bと、表示部30と、各種スイッチ32と、ハンドル34と、コネクタ36と、本体14に内蔵される制御部50(
図1参照)を備えている。
【0018】
本体14は、略平板状であり、一方の面14aに右眼用光刺激照射部20a及び左眼用光刺激照射部20bが配置されており(
図2参照)、他方の面14bに表示部30及び各種スイッチ32が配置されている(
図3参照)。本体14は、右眼用光刺激照射部20a及び左眼用光刺激照射部20bと一体化されており、光刺激照射部20a、20bは本体14によって予め定められた位置関係で保持されている。
【0019】
図2に示すように、右眼用光刺激照射部20aと左眼用光刺激照射部20bは、本体14の面14aに、左右に(
図2ではX方向に)並んで配置されている。右眼用光刺激照射部20aは、筒状であり、円筒部21aと底部22aを有している。右眼用光刺激照射部20aは、底部22a側が本体14の面14aに接続している。右眼用光刺激照射部20aは、その軸線が面14aに対して垂直になるように配置されている。右眼用光刺激照射部20aの面14aに接続していない端部には、当接部24aが設けられている。被検眼の網膜電位を測定する際には、当接部24aが被検眼(すなわち、右の被検眼R)の周囲に当接する。これによって、右の被検眼Rを右眼用光刺激照射部20aで覆い、外部の光が右の被検眼Rに入射し難い状態となる。
【0020】
また、右眼用光刺激照射部20aの底部22aは、底部22aの中心が面14a側に位置する凹部を有する球面となっている。すなわち、右眼用光刺激照射部20aの内部は、ドーム状となっている。円筒部21aの上方には、光刺激用光源23aが配置されている。光刺激用光源23aは、下方に向かって光を照射するように配置されている。光刺激用光源23aは、制御部50によって制御され、検査の種類に応じた光量及び照射パターンの光を照射する。光刺激用光源23aから光が照射されると、右眼用光刺激照射部20aのドーム状の内表面で反射されて、その反射光が光刺激として右の被検眼Rに入射する。また、右眼用光刺激照射部20aの底部22aには、固視用光源26aと、カメラ27aと、赤外光照明28aが、左右に(すなわち、X方向に)並んで配置されている。詳細には、本体14の中央側から側方に向かって、固視用光源26a、カメラ27a、赤外光照明28aに順に配置されている。固視用光源26aからの光を被検者に固視させることで、被検眼の移動を抑制する。カメラ27aは、被検眼を正面から撮影する。撮影された画像は、制御部50に入力される。赤外光照明28aは、暗順応下でカメラ27aによって被検眼を撮影する際の照明光(赤外光)を照射する。左眼用光刺激照射部20bは、右眼用光刺激照射部20aと同一の形状及び構成を有している。
【0021】
右眼用光刺激照射部20a及び左眼用光刺激照射部20bは、その軸線に沿って見たときに略楕円形状となっており、右眼用光刺激照射部20aの長径と左眼用光刺激照射部20bの長径が同一直線上に位置するように配置されている。測定の際には、右の被検眼Rが右眼用光刺激照射部20aにより覆われ、かつ、左の被検眼Lが左眼用光刺激照射部20bに覆われるように、測定装置12を固定する。本実施例の右眼用光刺激照射部20a及び左眼用光刺激照射部20bは、楕円状となっている。このため、被検者の左右の瞳孔の間の距離が長い場合であっても、左右の被検眼を覆うことができると共に、被検者の左右の瞳孔の間の距離が短い場合であっても、左右の被検眼を覆うことができる。このため、被検者の左右の瞳孔の間の距離に関わらず、同一の測定装置12を用いて測定することができ、汎用性が高められている。
【0022】
図3に示すように、表示部30は、本体14の面14bに配置されている。表示部30は、制御部50から出力された情報を表示する。具体的には、表示部30は、測定した被検眼の網膜電位図(ERG)や、カメラ27で撮影された被検眼の画像を表示する。各種スイッチ32は、本体14の面14bに配置されている。各種スイッチ32は、検査者が測定装置12を操作するために用いられ、例えば、各種スイッチ32としては、電源スイッチ、検査の種類を選択する選択スイッチ、測定開始スイッチ等を挙げることができる。測定時には、本体14の面14bが検査者に対向する。このため、検査者は、各種スイッチ32を操作したり、被検眼の状態や測定後の網膜電位図を表示部30によって確認したりすることができる。
【0023】
図2及び
図3に示すように、ハンドル34は、本体14の下面(すなわち、本体14の-Z方向)の中央に接続されている。ハンドル34は、本体14の面14b側に僅かに傾いている。測定時には、検査者がハンドル34を用いて測定装置12を被検者に対して固定する。コネクタ36は、本体14の下面の側方側(
図2及び
図3では-X方向側)に設けられている。コネクタ36は、コード(図示省略)を介して右眼用電極40a、左眼用電極40b及び接地電極40cと電気的に接続される。
【0024】
右眼用電極40a、左眼用電極40b及び接地電極40c(
図1に図示)は、銀等の導電性材質からなる電極板を有しており、コード(図示省略)と電気的に接続している。右眼用電極40a、左眼用電極40b及び接地電極40cは、粘着層を有しており、被検者の皮膚に固定できるようになっている。具体的には、右眼用電極40aは、右の被検眼Rの下眼瞼に固定され、左眼用電極40bは、左の被検眼Lの下眼瞼に固定され、接地電極40cは、被検者の頬や耳などに固定される。右眼用電極40a及び左眼用電極40bを下眼瞼等の被検眼の近傍の皮膚に固定することによって、被検眼の電位を検出する。右眼用電極40a、左眼用電極40b及び接地電極40cで検出された電位は、コードを介してコネクタ36から本体14の制御部50にそれぞれ入力される。接地電極40cは、測定装置12のグランド電位と被検者の電位を一致させるために用いられる。
【0025】
制御部50は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ(マイクロプロセッサ)によって構成されている。制御部50は、右眼用光刺激照射部20a、左眼用光刺激照射部20b、右眼用電極40a、左眼用電極40b、接地電極40c、表示部30及び各種スイッチ32に接続されている。制御部50は、右眼用光刺激照射部20a及び左眼用光刺激照射部20bから出力される光刺激を制御している。制御部50には、右眼用電極40a、左眼用電極40b及び接地電極40cから検出された電位が入力される。制御部50は、入力した電位から被検眼の網膜電位図を生成し、表示部30に出力する。また、制御部50は、各種スイッチ32からの入力を受け付ける。
【0026】
網膜電位測定装置10を用いた被検眼の網膜電位の測定は、以下の手順で実行される。まず、検査者は、右の被検眼Rの下眼瞼に右眼用電極40aを貼付け、左の被検眼Lの下眼瞼に左眼用電極40bを貼付け、頬又は耳に接地電極40cを貼付ける。次いで、検査者は、右の被検眼Rが右眼用光刺激照射部20aにより覆われ、かつ、左の被検眼Lが左眼用光刺激照射部20bに覆われるように、測定装置12を支持する。次いで、検査者は、各種スイッチのうち、検査の種類を選択する選択スイッチを操作して実行する検査の種類を選択し、測定開始スイッチをオンする。すると、制御部50は、選択された検査の種類に応じて、後述する照射パターンで右眼用光刺激照射部20a及び左眼用光刺激照射部20bから光刺激が照射されるように、右眼用光刺激照射部20a及び左眼用光刺激照射部20bを制御する。なお、後述する照射パターンは、メモリ(図示省略)に予め記憶されている。制御部50は、光刺激の照射に応じて右眼用電極40a及び左眼用電極40bから入力される電位を測定し、メモリ内に記録する。
【0027】
本実施例では、被検眼の下眼瞼に固定された右眼用電極40a及び左眼用電極40bにおいて網膜電位を検出する。下眼瞼に電極を固定して電位を検出する場合には、角膜に直接電極を固定する場合と比較して、取得される応答波形の振幅が小さく、応答波形に対してノイズが相対的に大きくなる。このため、左右の被検眼のうちの一方の網膜電位を測定する際には、他方の網膜電位の測定値をノイズ除去のために用いる。具体的には、左右の被検眼R、Lの網膜電位の測定を同時に行わず、別個のタイミングで測定する。そして、例えば、右の被検眼Rの網膜電位を測定する際に、右眼用電極40a及び左眼用電極40bの両方から電位を検出する。このとき、右眼用電極40aから検出された電位から、左眼用電極40bから検出された電位を除いた差分を、右の被検眼Rの網膜電位とする。右の被検眼Rの網膜電位を測定する際には、左の被検眼Lには光刺激が与えられない。このため、左眼用電極40bで検出された電位は、例えば、眼球運動や瞬目等に起因するノイズと言える。したがって、右眼用電極40aから検出された電位から左眼用電極40bから検出された電位を除くことによって、右の被検眼Rの網膜電位が精度よく算出される。
【0028】
次に、本実施例の網膜電位測定装置10を用いて被検眼の網膜電位を測定する際に、右眼用光刺激照射部20a及び左眼用光刺激照射部20bから照射される光刺激について説明する。本実施例の網膜電位測定装置10では、被検眼に与える光刺激のパターンが異なる2種類の検査を同時に行う。被検眼に与える光刺激のパターンが異なる2種類の検査とは、例えば、暗順応下で行われる、錐体と杆体の混合応答を測定するフラッシュERGと、杆体の応答を測定する杆体ERGである。また、明順応下で行われる、錐体の応答を測定する錐体ERGと、錐体系の応答を測定するフリッカーERGである。以下では、同時に行う第1の検査(例えば、フラッシュERG)と第2の検査(例えば、杆体ERG)を、第1の検査と第2の検査を含む検査群と称することがある。各検査は、応答波形に含まれるノイズを除去するために、連続して複数回実行し、取得した複数の応答波形を加算して平均化している。特に、上述したように、下眼瞼に電極を固定して電位を検出する場合には、角膜に直接電極を固定する場合と比較して、取得される応答波形の振幅が小さいため、応答波形に対してノイズが相対的に大きくなる。このため、複数の応答波形を加算平均する必要がある。従来では、例えば、暗順応下の検査であるフラッシュERGと杆体ERGを行う場合には、先に杆体ERGのみを複数回実行し、その後、フラッシュERGのみを複数回実行していた。直前の測定の影響を排除するため、複数回の杆体ERGを測定する際は、各測定間に間隔を空けて行われ、また、複数回のフラッシュERGを測定する際にも、各測定間に間隔を空けて行われる。このため、2種類の検査を完了するまでに長時間を要し、検査者及び被検者に負担がかかっていた。本実施例の網膜電位測定装置10では、暗順応下における2種類の検査を同時に行い、また、明順応下における2種類の検査を同時に行う。以下に、2種類の検査を同時に行うための光刺激の照射パターンについて説明する。
【0029】
まず、
図4を参照して、暗順応下において、フラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンについて説明する。
図4では、横軸は時間を表し、縦軸は相対的な光刺激の大きさを表している。なお、
図4では、フラッシュERG及び杆体ERGを連続して3回実行する場合を例に説明する。
【0030】
比較例として、
図4(a)は、フラッシュERGのみを実行するための光刺激の照射パターン(すなわち、従来のフラッシュERGを実行するための光刺激の照射パターン)を示しており、
図4(b)は、杆体ERGのみを実行するための光刺激の照射パターン(すなわち、従来の杆体ERGを実行するための光刺激の照射パターン)を示している。フラッシュERGでは、標準的な光量(例えば、3cds/m
2)の光刺激を単発で照射する。このため、フラッシュERGを連続して実行する場合には、先のフラッシュERGの光刺激の影響をなくすために、10秒以上間隔を空けて光刺激を照射する。また、杆体ERGでは、比較的弱い光量(例えば、0.01cds/m
2)の光刺激を単発で照射する。このため、杆体ERGを連続して実行する場合には、2秒以上間隔を空けて光刺激を照射する。フラッシュERG及び杆体ERGをそれぞれ別個で3回ずつ実行する場合、
図4(a)及び
図4(b)に示すような間隔及び大きさで光刺激が照射される。
【0031】
図4(c)は、本実施例の網膜電位測定装置10における、フラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンを示している。
図4(c)に示すように、先に杆体ERGの光刺激を照射し、続けてフラッシュERGの光刺激を照射する。杆体ERGの光刺激はフラッシュERGの光刺激より小さいため、フラッシュERGの測定では、先に照射した杆体ERGの光刺激の影響をほとんど受けることがない。そして、フラッシュERGの光刺激の照射の後、フラッシュERGを連続して実行する場合の間隔を空けて(すなわち、10秒以上間隔を空けて)、2回目の杆体ERGの光刺激とフラッシュERGの光刺激を続けて照射する。フラッシュERGの光刺激の照射から10秒以上間隔を空けると、先に照射されたフラッシュERGの光刺激の影響がなくなる。このため、2回目の杆体ERGの測定とフラッシュERGの測定が実行できる。そして、上記の間隔で杆体ERGの光刺激とフラッシュERGの光刺激の照射を繰り返す。このように杆体ERGの光刺激とフラッシュERGの光刺激を短い時間間隔で照射することによって、フラッシュERGのみを実行する場合とほとんど同じ測定時間で、フラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行することができる。このため、フラッシュERGと杆体ERGを実行するための測定時間を短縮することができ、検査者及び被検者の負担を低減することができる。なお、本実施例では、
図4(c)で示す光刺激の照射パターンは、右の被検眼R及び左の被検眼Lのいずれか一方のみを測定する場合を示しているが、後述するように、左右の被検眼に同じタイミングで光刺激を照射する場合には、
図4(c)で示す光刺激の照射パターンを用いることができる。
【0032】
また、
図4(d)に示すように、フラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行する際には、右の被検眼Rに光刺激を照射するタイミングと、左の被検眼Lに光刺激を照射するタイミングをずらして、左右の被検眼を同時に測定してもよい。具体的には、まず、右の被検眼Rに杆体ERGの光刺激とフラッシュERGの光刺激を続けて照射する。その後、右の被検眼Rに対してフラッシュERGを連続して実行する場合の間隔(すなわち、10秒以上の間隔)を空けている間に、左の被検眼Lに杆体ERGの光刺激とフラッシュERGの光刺激を続けて照射する。すなわち、一方の被検眼に対して10秒以上の間隔を空けている間に、他方の被検眼に杆体ERGの光刺激とフラッシュERGの光刺激を続けて照射する。このようなタイミングでの光刺激の照射を繰り返す。このように左右の被検眼に対して光刺激を照射するタイミングをずらすことによって、左右の被検眼の一方のみについてフラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行する場合とほとんど同じ測定時間で、左右の被検眼の両方についてフラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行することができる。
【0033】
また、上述したように、本実施例では、左右の被検眼のうちの一方の電位を測定する際には、他方の被検眼の電位の測定値がノイズ除去のために用いられる。上述のように左右の被検眼に交互に光刺激を照射すると、左右の被検眼に対して同時に光刺激が照射されないため、一方の被検眼の電位を測定する際に、他方の被検眼の電位の測定値をノイズ除去のために用いることができる。なお、左右の被検眼に同じタイミングで光刺激を照射する場合、後述するように、3つの電極40a~40cに加え、被検者に対するさらに1つ以上の電極の貼付けと電位検出用回路が必要になる。このため、左右の被検眼に交互に光刺激を照射することによって、部品点数を増加させることなく、左右の被検眼の網膜電位の測定時間を短縮することができる。
【0034】
なお、フラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行する際には、フラッシュERGの測定回数と杆体ERGの測定回数が同一でなくてもよい。以下に、
図5を参照して、フラッシュERGの測定回数と杆体ERGの測定回数が異なる場合の例として、フラッシュERGを3回実行し、杆体ERGを5回実行する場合について説明する。
図5では、横軸は時間を表し、縦軸は相対的な光刺激の大きさを表している。また、比較例として、
図5(a)は、フラッシュERGのみを3回実行するための光刺激の照射パターンを示しており、
図5(b)は、杆体ERGのみを5回実行するための光刺激の照射パターンを示している。
【0035】
図5(c)は、本実施例の網膜電位測定装置10における、フラッシュERGと杆体ERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンを示している。杆体ERGの測定回数は、フラッシュERGの測定回数より2回多い。このため、
図5(c)に示すように、まず、杆体ERGの光刺激を2回照射する。このとき、2回の杆体ERGの光刺激の間には、杆体ERGを連続して実行する場合の間隔である2秒以上の間隔を空ける。2回目の杆体ERGの光刺激の照射の後、再び2秒以上の間隔を空け、3回目の杆体ERGの光刺激を照射し、続けてフラッシュERGの光刺激を照射する。その後、
図4で示した例と同様に、フラッシュERGを連続して実行する場合の間隔である10秒以上の間隔を空けて、杆体ERGの光刺激とフラッシュERGの光刺激の照射を繰り返す。このように、フラッシュERGの測定回数と杆体ERGの測定回数が同一でない場合であっても、フラッシュERGと杆体ERGを別個に実行した場合の測定時間の合計より測定時間を短縮することができる。
【0036】
また、
図5(d)に示すように、フラッシュERGの測定回数と杆体ERGの測定回数が異なる場合にも、左右の被検眼に光刺激を照射するタイミングをずらして、左右の被検眼の網膜電位を同時に測定してもよい。具体的には、先に照射する2回の杆体ERGの光刺激について、左右の被検眼で照射タイミングをずらす。その後、2回の杆体ERGの光刺激の照射後に実行される杆体ERGの光刺激とフラッシュERGの光刺激の照射についても、左右の被検眼で照射タイミングをずらす。このように、フラッシュERGの測定回数と杆体ERGの測定回数が異なる場合であっても、左右の被検眼の網膜電位の測定時間を短縮することができる。
【0037】
次に、
図6を参照して、明順応下において、錐体ERGとフリッカーERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンについて説明する。
図6においても、横軸は時間を表し、縦軸は相対的な光刺激の大きさを表している。
【0038】
比較例として、
図6(a)は、フリッカーERGのみを実行するための光刺激の照射パターン(すなわち、従来のフリッカーERGを実行するための光刺激の照射パターン)を示しており、
図4(b)は、錐体ERGのみを実行するための光刺激の照射パターン(すなわち、従来の錐体ERGを実行するための光刺激の照射パターン)を示している。フリッカーERGでは、標準的な光量(例えば、3cds/m
2)の光刺激を連続で(例えば、約30Hzで)照射する。錐体ERGでは、標準的な光量(例えば、3cds/m
2)の光刺激を単発で照射する。このため、錐体ERGを連続して実行する場合には、先の錐体ERGの光刺激の影響をなくすために、0.5秒以上間隔を空けて光刺激を照射する。フリッカーERG及び錐体ERGをそれぞれ実行する場合、
図6(a)及び
図6(b)に示すような間隔で光刺激が照射される。
【0039】
図6(c)は、錐体ERGとフリッカーERGを含む検査群を実行するための光刺激の照射パターンを示している。
図6(c)に示すように、先に錐体ERGの光刺激を照射し、続けてフリッカーERGの光刺激を連続して(本実施例では、6回)照射する。錐体ERGとフリッカーERGでは、光量は同一であり、照射タイミングが単発であるか連続であるかという点で異なっている。単発の光刺激を照射する錐体ERGを先に実行することによって、連続で光刺激を照射するフリッカーERGの影響を受けることなく、錐体ERGの測定を実行できる。そして、フリッカーERGの光刺激の照射の後、フリッカーERGの光刺激による影響がなくなるまで間隔を空けて、2回目の錐体ERGの光刺激とフリッカーERGの光刺激を続けて照射する。具体的には、錐体ERGの光刺激は、錐体ERGを連続して実行する場合の間隔(例えば、0.5秒以上)と同じ間隔で照射され、フリッカーERGの光刺激は、錐体ERGの光刺激の間に照射される。フリッカーERGの光刺激は、錐体ERGの光刺激に続けて照射されるため、フリッカーERGの光刺激の照射の後、次の錐体ERGまでの間に光刺激が照射されない時間が生じ、フリッカーERGの光刺激による影響がなくなる。そして、上記の間隔で錐体ERGの光刺激とフリッカーERGの光刺激の照射を繰り返す。
【0040】
上述したように、上記の間隔で錐体ERGの光刺激とフリッカーERGの光刺激の照射を繰り返すと、フリッカーERGの光刺激による影響のない測定結果を得ることができる。しかしながら、フリッカーERGの光刺激の照射の後、次の錐体ERGまでの間の時間が短くなる(例えば、0.5秒以下となる)ため、錐体ERGの測定としては影響が生じることがある。例えば、
図7(a)に示すように、測定結果の波形に滑らかな傾きが生じることがある(以下、このような傾きを「基線揺れ」ともいう)。制御部50は、このような基線揺れを除去するために、取得した測定値を補正してもよい。例えば、
図7(a)に示すように、制御部50は、取得した原波形100について近似曲線102を算出する。そして、制御部50は、最小二乗法によって近似曲線102の基線揺れを除去する。すると、
図7(b)に示すように、基線揺れのない補正結果が得られる。なお、補正方法は、最小二乗法に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
図7(b)では、最初のピークが錐体ERGの光刺激による測定結果を示し、2回目以降のピークがフリッカーERGの光刺激の測定結果を示す。したがって、
図7(c)及び
図7(d)に示すように、最初のピークと2回目以降のピークを分割することによって、錐体ERGの光刺激による測定結果(すなわち、
図7(c))と、フリッカーERGの光刺激の測定結果(すなわち、
図7(d))を取得することができる。
【0041】
このように錐体ERGの光刺激とフリッカーERGの光刺激を照射することによって、錐体ERGとフリッカーERGを同時に実行することができる。このため、錐体ERGとフリッカーERGを実行するための測定時間を短縮することができ、検査者及び被検者の負担を低減することができる。
【0042】
なお、本実施例では、錐体ERGの光刺激を、錐体ERGを連続して実行する場合の間隔(例えば、0.5秒以上)と同じ間隔で照射し、その間にフリッカーERGの光刺激を照射したが、このような構成に限定されない。例えば、錐体ERGの光刺激に続けてフリッカーERGの光刺激を照射した後、次の錐体ERGの光刺激を照射するまでの間に、錐体ERGを連続して実行する場合の間隔(例えば、0.5秒以上)を空けてもよい。このように照射すると、上記の構成(すなわち、
図6(c)で示すパターン)より測定時間全体は長くなる一方、フリッカーERGの光刺激による影響も、錐体ERGの光刺激による影響もない測定結果を得ることができる。このため、制御部50は、上記の基線揺れの除去の処理を省略することができる。
【0043】
また、
図6(d)に示すように、錐体ERGとフリッカーERGを含む検査群についても、右の被検眼Rに光刺激を照射するタイミングと、左の被検眼Lに光刺激を照射するタイミングをずらして、左右の被検眼を同時に測定してもよい。具体的には、右の被検眼Rに1回目の錐体ERGの光刺激とフリッカーERGの光刺激を照射し、その後、左の被検眼Lに1回目の錐体ERGの光刺激とフリッカーERGの光刺激を照射する。そして、左の被検眼Lへの1回目の錐体ERGの光刺激とフリッカーERGの光刺の照射が終了した後、右の被検眼Rに2回目の錐体ERGの光刺激とフリッカーERGの光刺激を照射する。これを、所定の回数繰り返す。この場合には、錐体ERGとフリッカーERGを含む検査群を連続して実行するために必要な間隔より、錐体ERGとフリッカーERGを含む検査群を1回実行する測定時間のほうが長いことがある。このため、左右の被検眼を同時に(交互に)測定すると、左右の被検眼の一方のみを測定するより測定時間が長くなることがある(
図6(c)及び
図6(d)参照)。しかしながら、左右の被検眼を別個に測定した場合の合計時間より、左右の被検眼を同時に(交互に)測定した場合の測定時間のほうが大幅に短い。このため、左右の被検眼の網膜電位の測定時間を短縮することができる。
【0044】
なお、本実施例では、網膜電位測定装置10は、右眼用電極40aと左眼用電極40bの2個の電極を用いて被検眼の網膜電位を測定していたが、このような構成に限定されない。被検眼の網膜電位の測定の際に用いる電極の数は、特に限定されない。例えば、被検者の額やこめかみ等にさらに電極を貼り付け、4個以上の電極を用いて被検眼の網膜電位を測定してもよい。この場合には、追加の電極によって検出された電位を用いて眼球運動や瞬目等に起因するノイズを除去することができるため、左右の被検眼に同じタイミングで光刺激を照射することが可能となる。すなわち、
図4(c)、
図5(c)及び
図6(c)のタイミングで左右の被検眼に同時に光刺激を照射することができる。このため、左右の被検眼の網膜電位の測定時間をさらに短縮することができる。また、本実施例では、下眼瞼等の被検眼の近傍の皮膚に固定した電極から網膜電位を検出していたが、このような構成に限定されない。被検眼の網膜電位を測定できればよく、例えば、角膜に直接固定した電極から網膜電位を検出してもよい。
【0045】
また、本実施例では、測定装置12が右眼用光刺激照射部20a、左眼用光刺激照射部20b、表示部30、各種スイッチ32及び制御部50を備えていたが、このような構成に限定されない。例えば、光刺激照射部と制御部は別体で構成されていてもよい。また、光刺激照射部が被検眼に当接する部分の形状は楕円状でなくてもよい。
【0046】
実施例で説明した網膜電位測定装置10に関する留意点を述べる。実施例の右眼用電極40a及び左眼用電極40bは、「網膜電位検出部」の一例であり、右眼用光刺激照射部20aは、「第1照射部分」の一例であり、左眼用光刺激照射部20bは、「第2照射部分」の一例であり、本体14は、「フレーム」の一例である。
【0047】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0048】
10:網膜電位測定装置
12:測定装置
20a:右眼用光刺激照射部
20b:左眼用光刺激照射部
40a:右眼用電極
40b:左眼用電極
50:制御部
R:右の被検眼
L:左の被検眼