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  • 特許-草食動物による食害の防止装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】草食動物による食害の防止装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/10 20060101AFI20231006BHJP
   A01M 29/30 20110101ALI20231006BHJP
【FI】
A01G13/10 Z
A01M29/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020055694
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021153442
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】戸来 義仁
(72)【発明者】
【氏名】小田 高史
(72)【発明者】
【氏名】津下 圭吾
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-104940(JP,A)
【文献】特開2010-004777(JP,A)
【文献】特開2004-073192(JP,A)
【文献】特開2017-176050(JP,A)
【文献】特開平07-317067(JP,A)
【文献】特開昭62-291330(JP,A)
【文献】特開2011-234425(JP,A)
【文献】特開平08-033445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 13/00 - 13/10
A01M 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護エリアを網状体によって覆う草食動物による食害の防止装置であって、螺旋形状を呈しその径方向に弾性を有するスペーサの径方向の弾性力を利用して網状体を浮かせて保持したことを特徴とする草食動物による食害の防止装置。
【請求項2】
スペーサは、その螺旋軸が保護エリアに沿って延びる螺旋形状を呈する請求項1に記載の草食動物による食害の防止装置。
【請求項3】
スペーサは、ピッチがコイル外径より大きい螺旋形状を呈する請求項2に記載の草食動物による食害の防止装置。
【請求項4】
スペーサは、ピッチの二分の一の寸法が前記網状体の目合いの最大幅よりも大きい螺旋形状を呈する請求項2又は3に記載の草食動物による食害の防止装置。
【請求項5】
スペーサは、前記網状体の目合いの横幅Wと、
2W≦D
という関係を満たすコイル外径Dを持つ螺旋形状を呈する請求項2~4の何れか一項に記載の草食動物による食害の防止装置。
【請求項6】
スペーサは、素線が鋼線からなる請求項1~5の何れか一項に記載の草食動物による食害の防止装置。
【請求項7】
スペーサは、素線が樹脂で被覆されている請求項1~6の何れか一項に記載の草食動物による食害の防止装置。
【請求項8】
スペーサは、その両端への他のスペーサの連結により延長可能としてある請求項1~7の何れか一項に記載の草食動物による食害の防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、草食動物による食害の防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
緑化を図る保護エリアにおいて、その緑化を妨げる草食動物による食害を防止するため、出願人は、保護エリアにおいてスペーサで網状体を浮かせた状態に保持する食害防止装置を提案、実施している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-73192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の異常気象で冬場に各地で記録的な大雪になることが増え、上記食害防止装置に大量の雪が積もると、その重みでスペーサや網状体が破損し、融雪後に食害防止機能が十分に発揮され難くなる場合が出てきた。
【0005】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、近年の異常気象による想定外の大雪にも耐え、半ば永続的にその効果を発揮し得る草食動物による食害の防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る草食動物による食害の防止装置は、保護エリアを網状体によって覆う草食動物による食害の防止装置であって、螺旋形状を呈しその径方向に弾性を有するスペーサの径方向の弾性力を利用して網状体を浮かせて保持した(請求項1)。
【0007】
上記草食動物による食害の防止装置において、スペーサは、その螺旋軸が保護エリアに沿って延びる螺旋形状を呈してもよい(請求項2)。
【0008】
上記草食動物による食害の防止装置において、スペーサは、ピッチがコイル外径より大きい螺旋形状を呈してもよいし(請求項3)、ピッチの二分の一の寸法が前記網状体の目合いの最大幅よりも大きい螺旋形状を呈してもよい(請求項4)。また、スペーサは、前記網状体の目合いの横幅Wと、2W≦Dという関係を満たすコイル外径Dを持つ螺旋形状を呈してもよい(請求項5)。
【0009】
上記草食動物による食害の防止装置において、スペーサは、素線が鋼線からなっていてもよく(請求項6)、素線が樹脂で被覆されていてもよい(請求項7)。
【0010】
上記草食動物による食害の防止装置において、スペーサは、その両端への他のスペーサの連結により延長可能としてもよい(請求項8)。
【発明の効果】
【0011】
本願発明では、近年の異常気象による想定外の大雪にも耐え、半ば永続的にその効果を発揮し得る草食動物による食害の防止装置が得られる。
【0012】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の草食動物による食害の防止装置では、スペーサが弾性を有し、積雪時にはその弾性変形により積雪荷重の分散を図ることができ、融雪後にはスペーサが弾性復帰して積雪前の食害防止効果が復元し易くなっているので、近年の異常気象による想定外の大雪にも耐え、半ば永続的にその効果を発揮し得るものとなる。
【0013】
請求項2に係る発明の草食動物による食害の防止装置では、スペーサは螺旋を描くように延びるのであり、この螺旋のピッチとコイル外径とを適宜に設定し、網状体の目合い(の内側)にスペーサの上部が入り込むようにして網状体とスペーサとの接触箇所を多数確保すれば、網状体及びスペーサに掛かる積雪の荷重が分散され易くなり、ひいては積雪の圧縮によるスペーサの変形が弾性限界内に収まり、融雪後に弾性復帰して積雪前の食害防止効果が復元し易くなる。
【0014】
請求項3に係る発明の草食動物による食害の防止装置では、径方向に弾性変形し易くなったスペーサが保護エリアに馴染みやすく、このスペーサに保持される網状体も同様に保護エリアの凹凸に馴染みやすくなっているので、積雪荷重が防止装置(網状体、スペーサ)全体にわたって分散され易く、それだけ積雪による破損防止効果がより高まったものとなる。
【0015】
請求項4、5に係る発明の草食動物による食害の防止装置では、スペーサにおいて網状体の目合いから上方に突出する部分の高さが、スペーサのコイル外径の半分未満となり、網状体の浮設保持の確実化を図ることができる。
【0016】
請求項6に係る発明の草食動物による食害の防止装置では、素線を鋼線とすることで素線の耐久性が向上する。また、請求項7に係る発明の草食動物による食害の防止装置では、スペーサの素線を樹脂で被覆したことにより、素線の腐食、劣化が防止され、スペーサの有する弾性を長期間にわたって維持することができる上、樹脂に摩擦係数の低い素材を用いることにより、スペーサと網状体との滑り抵抗が小さくなり、施工性が良好となる。
【0017】
請求項8に係る発明の草食動物による食害の防止装置では、複数のスペーサを連結して延長可能としてあるので、施工性の向上を図ることが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態に係る草食動物による食害の防止装置の構成を概略的に示す分解斜視図である。
図2】前記防止装置の要部の構成を概略的に示す縦断面図である。
図3】前記防止装置の試作品の使用状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0020】
図1及び図2に示す草食動物による食害の防止装置(以下、防止装置という)は、緑化を図る保護エリアA(図1参照)を網状体1によって覆うことにより、緑化の妨げとなる草食動物(例えば鹿等の大型草食動物)による食害の防止を図るものである。そして、本例の防止装置では、弾性を有するスペーサ2によって網状体1を浮かせて保持する(図3も参照)。
【0021】
保護エリアAは、例えば法面であり、表面に植生面を形成してあるか、これから形成しようとするエリアである。本例では、図1に示すように袋状体3を長手方向に一定の間隔で装着したネット部材4を、各袋状体3が等高線に沿って延びる状態となるように保護エリアAに敷設して植生面を形成するのであり、袋状体3には、保護エリアAの緑化に有効な材料(例えば、肥料、保水材、土壌改良材の少なくとも一つと種子とを混合した植生基材)を収容する。但し、植生面の形成には種々の方法を採用可能であり、例えば、現地周辺の土壌などの種子を含む客土を吹付け等により散布してもよい。ネット部材4の下側に、種子や肥料等の緑化に有効な材料を備えた薄綿シートを一体に組み合わせる構成としてもよい。また、植生面の形成のタイミングは、防止装置の設置の前後いずれでもよい。
【0022】
網状体1は、縦線と横線を格子状に編織して形成した幅2m、長さ15mの矩形状の金網である。縦線、横線には、線径2.0mmの亜鉛メッキ鉄線であるSWMGS-4を用いている。また、目合いは横125mm×縦76mmの矩形状を呈する。
【0023】
スペーサ2は、その螺旋(旋回)軸が保護エリアAの傾斜方向(等高線と直交する方向)に沿って延びる長さ1.5mの螺旋形状を呈する部材であり、本例では、亜鉛メッキした硬鋼線材(素線)に摩擦係数の低いポリエチレン樹脂を被覆した線材(線径3.2mm)を用いている。また、図示していないが、スペーサ2の両端にはジョイント部が設けられ、その両端への他のスペーサのジョイント部の連結により延長可能としてある。
【0024】
本例における防止装置の設置は、保護エリアAに予め敷設したネット部材4(この敷設はアンカーピン等の適宜の固定具5(図2参照)を用いて行えばよく、敷設の前後何れかに袋状体3を装着しておく)の上側にスペーサ2及び網状体1をこの順に設けることで行える。なお、網状体1は、例えばその上下両端をアンカーピン等の適宜の固定具5で保護エリアAに固定すればよく、スペーサ2は結束具等の連結具で網状体1又はネット部材4に適宜の箇所を連結すればよい。スペーサ2は網状体1と同様、保護エリアAと接する箇所で、上記固定具5によりネット部材4とともに保護エリアAに固定してもよい。また、複数の網状体1を保護エリアAに縦横に並べて配する場合は、隣り合う網状体1どうしを適宜の連結具で連結すればよい。これに対し、スペーサ2は、例えばこれを網状体1の縦方向に延びるように配置する場合は、縦方向に並ぶ網状体1の長さに対応する長さとなるように複数本を繋いで用いればよい。
【0025】
このように、本例の防止装置は、基本的に保護エリアAの上側にスペーサ2及び網状体1をこの順に設けることでその設置を行えるので、施工労力の増大を抑えることができる。
【0026】
また、本例の防止装置では、保護エリアAの上方に配置した網状体1によって、鹿等による食害を確実に防止することができ、また、保護エリアAに対して網状体1及びスペーサ2を一度設置すれば、そのメンテナンスなどがほとんど不要であることから、その管理が非常に容易である。
【0027】
その上、本例の防止装置は、スペーサ2が弾性を有し、積雪時にはその弾性変形により積雪荷重の分散を図ることができ、融雪後には弾性復帰して積雪前の食害防止効果が復元し易くなっているので、近年の異常気象による想定外の大雪にも耐え、半ば永続的にその効果を発揮し得るものとなる。
【0028】
また、本例の防止装置では、保護エリアAの表面の上方、詳しくは、保護エリアAの表面と網状体1との間に、鹿等からの攻撃を防ぎ、かつ植物の生育を妨げるものが存在しない植物生育空間が形成されることから、前記植物の生育を確実に図ることができ、かつ植生の確実な保護が可能となる。
【0029】
さらに、網状体1を保持するスペーサ2が弾性を有し、網状体1の上を鹿等が歩行するときに不安定になるようにすれば、例えば、保護エリアAの表面が法面である場合には、鹿等が傾斜している網状体に登れなくなり、これによっても、鹿等を遠ざけ、鹿等による食害を防止するという効果が発揮されることとなる。そして、この効果は、網状体1に適宜の柔軟性を持たせればさらに向上する。
【0030】
加えて、本例の防止装置では、スペーサ2は螺旋を描くように延びるのであり、この螺旋のピッチPとコイル外径D(ともに図2参照)とを適宜に設定し、網状体1の目合い(の内側)にスペーサ2の上部が入り込むようにして網状体1とスペーサ2との接触箇所を多数確保すれば、網状体1及びスペーサ2に掛かる積雪の荷重が分散され易くなり、ひいては積雪の圧縮によるスペーサ2の変形が弾性限界内に収まり、融雪後に弾性復帰して積雪前の食害防止効果が復元し易くなる。
【0031】
ここで、本例のスペーサ2では、ピッチPが360mm、コイル外径Dが85mmである(ピッチPがコイル外径Dの4倍以上)。そして、ピッチP>コイル外径D(好ましくはピッチP>コイル外径D×1.2)としたことにより、スペーサ2は、通常の圧縮コイルばねとは異なり、螺旋(旋回)軸方向よりも径方向に弾性変形し易くなっている。
【0032】
このように、本例の防止装置では、螺旋形状を呈するスペーサ2に、螺旋(旋回)軸方向と径方向の両方向に弾性を持たせ、特に径方向に弾性変形し易くしたことにより、スペーサ2が保護エリアAの凹凸に馴染みやすく、このスペーサ2に保持される網状体1も同様に保護エリアAの凹凸に馴染みやすくなっているので、積雪荷重が防止装置(網状体1、スペーサ2)全体にわたって分散され易く、それだけ積雪による破損防止効果がより高まったものとなる。
【0033】
一方、上述のように網状体1の目合い(の内側)にスペーサ2が入り込むようにするに際し、スペーサ2の上部のみが網状体1の目合いに入り込むようにするのが好ましく、スペーサ2の下部までもが目合いに入り込み、スペーサ2の径方向の厚みの半分以上が網状体1の目合いから上方に突出した状態になると、網状体1がその部分で大きく沈み込む恐れがある。そこで、スペーサ2は、ピッチPの二分の一の寸法が網状体1の目合いの最大幅(例えば目合いの形状が多角形の場合は対角線のうちの最大の線長)よりも大きい螺旋形状を呈するようにすれば、スペーサ2において網状体1の目合いから上方に突出する部分の高さがスペーサ2の径方向の厚み(コイル外径D)の半分未満となるので、網状体の浮設保持の確実化を図ることができる。あるいは、スペーサ2が、網状体1の目合いの横幅W(ここで、横幅Wとは、目合いにつき、平面視においてスペーサ2の螺旋軸と直交する方向の最大幅をいう。図1参照)と、
2W≦D
という関係を満たすコイル外径Dを持つ螺旋形状を呈するようにすれば、ピッチPの寸法にかかわらず同様の効果が得られる。
【0034】
また、上述のように網状体1の目合い(の内側)にスペーサ2の上部が入り込んだ際、網状体1の縦線と横線とがずれて目合いが広がり、スペーサ2の下部までもが目合いに入り込むようになると、網状体1がその部分で大きく沈み込む恐れがある。そのため、例えば網状体1が縦線と横線を編織した金網である場合にはその縦線と横線の交差部に結束線を結束するなどして、網状体1の目合いが広がり難いように構成してあるのが好ましい。従って、例えば連続押出成形によって得られる(編織されていない)樹脂製のネットを網状体1として用いるのも有効である。なお、網状体1の目合いの内側にスペーサ2の上部が大きく入り込まないようにするために十分な大きさのピッチPとコイル外径Dを備えたスペーサ2を用いれば、汎用のラス金網や亀甲金網を利用することもできる。
【0035】
また、本例の防止装置では、複数のスペーサ2を連結して延長可能としてあるので、施工性の向上を図ることが容易である。
【0036】
また、本例の防止装置では、スペーサ2の素線を鋼線とすることでその耐久性が向上する上、スペーサ2の素線を樹脂で被覆したことにより、素線の腐食、劣化が防止され、スペーサ2の有する弾性を長期間にわたって維持することができる上、樹脂に摩擦係数の低い素材を用いることにより、スペーサ2と網状体1との滑り抵抗が小さくなり、施工性が良好となる。
【0037】
なお、上述した各部材の寸法、形状等は適宜に変更可能であり、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。そして、本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【0038】
図1図3の例では、スペーサ2を網状体1の縦方向(長手方向)に配してあるが、スペーサ2の配置方法はこれに限らず、例えば、スペーサ2を網状体1の横方向や斜め方向に配しても、格子状をなすように配してもよい。また、スペーサ2は螺旋形状に限らず、保護エリアAに沿う方向に伸縮する蛇腹状等、他の形状を呈するものであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 網状体
2 スペーサ
3 袋状体
4 ネット状体
A 保護エリア
D コイル外径
P ピッチ
図1
図2
図3