(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】耳カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61F 11/00 20220101AFI20231006BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20231006BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
A61F11/00 350
A61M25/10
A61M25/10 542
A61M25/00 542
(21)【出願番号】P 2020565531
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019052987
(87)【国際公開番号】W WO2019154902
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】102018102937.3
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521175012
【氏名又は名称】アオリフェンティス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Auriventis GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ズートホフ
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-529030(JP,A)
【文献】中国実用新案第203029796(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0230809(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0060799(US,A1)
【文献】国際公開第2017/074972(WO,A1)
【文献】特表2012-513253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 11/00
A61M 25/10
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耳管中に導入するための非侵襲的耳カテーテルであって、カテーテル管(2)、前記耳管の閉塞のための拡張性バルーン(3)、および中耳領域中に薬剤を
非侵襲的に導入するための注入チャネル(5)を含
み、
前記拡張性バルーン(3)が、低圧カフとして設計され、
前記耳カテーテルが、前記中耳中に薬剤を数日間に亘って保持するのに適切である
耳カテーテル。
【請求項2】
前記注入チャネル(5)が、前記
耳カテーテルの内部に伸長することを特徴とする、請求項1に記載の耳カテーテル。
【請求項3】
1バール(100kPa)の最大圧力のための圧力リミッタにより特徴づけられる、請求項1
または2に記載の耳カテーテル。
【請求項4】
前記注入チャネル(5)が、注入材料を含有するシリンジのためのルアーロック接続(6)を備えることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載の耳カテーテル。
【請求項5】
前記カテーテル管(2)が、前記バルーン(3)の拡張用の液体媒体のためのルアーロック接続(4)を備えることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1項に記載の耳カテーテル。
【請求項6】
前記バルーン(3)を拡張するための前記液体
媒体が、生理食塩水であることを特徴とする、請求項
5に記載の耳カテーテル。
【請求項7】
前記注入チャネル(5)が、前記バルーン(3)から遠位で終わることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか1項に記載の耳カテーテル。
【請求項8】
前記注入チャネル(5)が、身体を傷つけない設計である出口開口(6)を備えることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか1項に記載の耳カテーテル。
【請求項9】
前記出口開口(6)が、自閉式の設計であることを特徴とする、請求項
8に記載の耳カテーテル。
【請求項10】
操作補助器(8)により特徴づけられる、請求項1~
9のいずれか1項に記載の耳カテーテル。
【請求項11】
前記操作補助器(8)が、前記カテーテル管上に摺動的に取り付けられることを特徴とする、請求項
10に記載の耳カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳管中への非侵襲的導入のための耳カテーテルに関し、より長い期間に亘って中耳領域に薬剤が供給されることを可能とする。
【背景技術】
【0002】
薬剤を用いて治療される中耳および内耳の病気が知られている。局所療法が必要とされる場合、一方で鼓膜を通してかつ他方で耳管を通して行うことができる。内耳の治療はまた、中耳領域を介して行うことができる。しかしながら、耳管または中耳中への液体形態の薬剤の投与は通常、薬剤が耳管を通って鼻咽空間中に流れ出るという事実によって、効果が長続きしない。
【0003】
一連の感染、炎症、急性難聴またはメニエール病の治療は、長期間の治療を必要とし、数日または数週間も続くことがある。原則として、コルチコステロイドのような新しい薬剤は、この場合絶えず加えられる。この治療は、時間がかかり、かつ、規則的で永続的な医師の管理およびケアを必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、薬を中耳中に投与し長期間に亘って維持することを可能とする装置を利用できるようにすることが所望である。そのような用途は、可能な範囲内で非侵襲性である、すなわち、鼓膜に弊害または損傷をもたらさない。この場合、鼻咽頭および耳管を介した自然のアクセスのみが回復されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、上記で最初に述べられた種類の耳カテーテルを用いて達成され、これは、カテーテル管、耳管を閉塞するための拡張性カテーテルおよび中耳領域中に薬剤を導入するための注入チャネルを含む。
【0006】
そのような耳カテーテルは、鼻および鼻咽空間を通って非侵襲的に耳管内に挿入されてそこに配置されることができ、バルーンが拡張後に耳管を密閉する。この閉塞
によって、バルーンの遠位に位置する中耳領域と鼻咽頭との間の接続が遮断される。これに関して、遠位とは聴覚系および中耳に向かう耳カテーテルの一部を示し、近位とは聴覚系および中耳から離れる部分を称する。
【0007】
本発明により提案される耳カテーテルは、バルーンカテーテルであり、基本的には血管拡張に用いられるバルーンカテーテルとして構成される。しかしながら、上記のカテーテルは、耳管を拡張するのではなく塞ぐ作用をする。これに関して、耳カテーテルのバルーンは、最小限の過圧を受けるだけであり、耳管を密封するカフ(cuff)が形成される(低圧カフ)。したがって、単一のバルーンで十分である。耳カテーテルの管は、約15cmの長さを有し、これは、1つの鼻孔および鼻腔空間を通ってカテーテルが耳管中に挿入されるのに十分長く、近位管端は患者の頬の領域に残る。
【0008】
注入チャネルは、近位端を除いて、基本的に耳カテーテル内部に伸長し、近位端は耳カテーテルから横方向に突出する。耳カテーテルおよび注入チャネルは、通常のシリンジ用のコネクタを取り付けられ、これによって耳カテーテルに圧力媒体を充填し内耳中に薬剤溶液を導入することが可能となる。便宜上、上記のコネクタは、医療用に一般的に用いられるようなルアーロックスタイル接続であり、これに適切な道具を用いてさまざまのシリンジを取り付けることができる。
【0009】
バルーンカテーテル技術用に一般的に用いられるような通常の材料を、バルーン、カテーテルおよび注入チャネルに用いることができる。これらは、医療用に認可されたプラスチック材料、例えば、PVC、ポリエチレン、ポリプロピレンなどである。材料は、耳管中への挿入を可能とするように十分に弾性/柔軟性でなければならない。
【0010】
有利には、カテーテルは、コントロールのための操作補助器を備える。さらに、カテーテル上に湾曲した遠位端を提供することが有利であり、これによって、耳管中へおよび耳管内のバルーンおよびカテーテル端のコントロールおよび配置が容易になる。そのような湾曲端は、カテーテルおよびガイドワイヤ中で「ピッグテール(pig tale)」と称され、広く使用される。
【0011】
言うまでもなく、耳カテーテルは、充填後に与えられた圧力媒体を保持する密閉装置を備え、したがって、確実にシステムの拡張状態を維持する。
【0012】
同様に、注入チャネルは、遠位端または近位端に密閉装置を有し、注入された媒体が注入チャネルから流出するのを防ぐ。耳管を塞ぐ拡張したバルーンを使用して、柔軟なプラスチック管から構成されうる注入チャネルを強制的に同時に押して密閉することができる。
【0013】
本発明が提案する耳カテーテルは、鼻および鼻腔空間を通って非侵襲性の態様で耳管内に挿入される。挿入は、耳顕微鏡によって観察できる。拡張性バルーンが閉塞される耳管の一部に達するとすぐに、通常の方法でバルーンに液体が投与されてバルーンを拡張させる。バルーンを低圧カフとして設計し圧力リミッタを提供することが所望であると考えられ、これによって圧力は1バール(100kPa)(ゲージ圧)の最大値で便宜上維持される。バルーンの拡張のために、液体、好ましくは生理食塩水が用いられる。食塩水の導入のために、耳カテーテルの近位接続に従来のルアーロックが取り付けられ、ルアーロックには、食塩水のためのシリンジを取り付けることができる。バルーンが加圧されるのを保持するために、カテーテル管に逆止め弁を取り付ける。
【0014】
通常は注入管である注入チャネルは、カテーテル管およびバルーンを通って伸長し、中耳領域内に達する。その近位端においても、シリンジのためのルアーロック接続を備え、シリンジを通って薬剤が中耳領域中に注入できる。遠位端においては出口が存在し、出口は人体を傷つけないように設計され、逆止め弁を備える。逆止め弁によって、注入溶液の圧力下で出口は開く。管が柔らかい、弾性の材料で作製される場合、バルーンによって印加される圧力でも、封鎖に十分でありうる。この場合、バルーン圧力によって、注入管は強制的に同時に押されて密閉され、管のみが、シリンジによって注入される際に注入液体により印加される圧力の結果として開く。逆止め弁を遠位に配置することに代わり、近位に配置されてもよい。
【0015】
本発明により提供されるように、耳カテーテルは、中耳領域への抗生物質溶液の投与に特に適切であり、これは持続性細菌感染の治療に望ましい。急性難聴に対処するためのコルチコステロイドを用いた標準治療もまた、そのような耳カテーテルを用いて適切に行うことができる。標準治療アプローチは、そのようなコルチコステロイドがより長い期間、通常は約2週間に亘って投与されることを必要とし、薬が鼻腔空間に流れ出るので絶えず再投与する必要がある。ここで、通常の治療期間は14日間に達する。耳カテーテルは、必要とされる場所に薬剤が常に存在することを確保するので、本発明により提案される耳カテーテルを用いることにより、はるかに集中的かつ短い治療が実現できる。これによって、治療の持続時間が著しく短く、おそらく数日間になる。特に、カテーテルによって適切に、薬剤がより長い期間に亘って、特に数日間にも亘って中耳領域に保持される。
【0016】
さらに、抗炎症薬もまた、耳カテーテルを介して導入されてもよい。
【0017】
耳カテーテルは、外鼻孔の1つを通して所定の位置に配置され、圧力を与え薬剤を注入した後に、適切なパッチを用いて頬に固定される。治療中に耳管内に残る。患者は移動することができ、診療所での長い滞在は必要ではなく、定期的な医療指導で十分である。指導のために耳の顕微鏡検査を用いてもよい。
【0018】
治療が完了すると、圧力を解放した後に耳カテーテルを容易に取り外すことができる。
【0019】
薬は通常、丸窓の膜を通過し、内耳領域に入るので、耳カテーテルは、内耳の病気を治療することもできる。
【0020】
本発明は添付の図面によってより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に従った本発明の耳カテーテル1は、拡張性バルーン3(カフ)中の遠位で終わる、カテーテル管2からなる。近位端において、従来のシリンジのためのルアーロック接続3があり、これによって、バルーン3を拡張するために生理食塩水を導入できる。間に置かれた圧力ゲージ(図示せず)が、圧力を観察する作用をし、圧力を1バール(100kPa)に制限する。
【0023】
注入管5は、カテーテルの中心を通って伸長し、この管はまた、ルアーロック接続6を備え、これを介して薬剤溶液がシリンジを用いて注入できる。注入チャネル5は、身体を傷つけないように設計された出口開口または先端7で終わり、これは注入液体の圧力下で開き、注入が完了した後に自動的に閉じる。
【0024】
耳カテーテル1は、約15cmの全長を有する;カテーテル管2の直径は3mmに達し、注入管の直径は約1mmである。
【0025】
カテーテル上に摺動的に取り付けられるスリーブ8は、操縦および操作補助器として作用する。スリーブは、好ましくはプラスチック材料から作製され、取付けまたは取外しできるように適切に溝をつけられる。
【0026】
急性難聴の治療の場合、カテーテルが適切に配置された後、かつ、例えば2mlのシリンジを用いることによって、コルチコステロイド溶液が中耳中に充填され、必要とされる時間そこに残る。中耳の充填は、耳の顕微鏡検査によって観察される。処置は好ましくは局所麻酔の下で行われるが、特別な場合には、全身麻酔が望ましい。薬剤が投与された後、投与カテーテルの近位部が、パッチを用いて頬に固定される。圧力は、注入チャネルから解放される。カテーテルバルーンは、耳管中の所定の位置に残り、注入された溶液が流出するのを防ぐ。治療の終わりに、圧力がバルーンから解放され、カテーテルが取り除かれる。