(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ヘスペリジンの異臭味が抑制された容器詰ヘスペリジン含有飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20231006BHJP
【FI】
A23L2/00 B
(21)【出願番号】P 2019034770
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】391058381
【氏名又は名称】キリンビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】横山 小夜香
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-315985(JP,A)
【文献】特開2017-086013(JP,A)
【文献】特開2019-037202(JP,A)
【文献】特開2009-195168(JP,A)
【文献】特開2011-103778(JP,A)
【文献】国際公開第2009/116450(WO,A1)
【文献】特開2013-166744(JP,A)
【文献】特開2006-271206(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110334(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0267599(US,A1)
【文献】NOGATA, Yoichi et al.,Flavonoid composition of fruit tissues of citrus species,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2006年,70,178-192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料において、更に下記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とする前記容器詰ヘスペリジン含有飲料(ただし、ケルセチン及びケルセチン糖付加物から選択される少なくとも1種を含む飲料、並びに、ビタミンDを50000IU含有する飲料を除く)。
(A)飲料中のミリシトリン濃度が0.3~
13ppmである;
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
【請求項2】
飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料(ただし、ケルセチン及びケルセチン糖付加物から選択される少なくとも1種を含む飲料、並びに、ビタミンDを50000IU含有する飲料を除く)の製造において、更に下記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製することを特徴とする、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造方法。
(A)飲料中のミリシトリン濃度が0.3~
13ppmである;
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
【請求項3】
飲料全量に対し0.035重量%
以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料(ただし、ビタミンDを50000IU含有する飲料を除く)の製造において、更に下記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製することを特徴とする、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料の異臭味の抑制方法。
(A)飲料中のミリシトリン濃度が0.3~
13ppmである;
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
【請求項4】
飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料において、更に下記(B)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とする前記容器詰ヘスペリジン含有飲料(ただし、ケルセチン及びケルセチン糖付加物から選択される少なくとも1種を含む飲料、ビタミンDを50000IU含有する飲料、並びに、ミリシトリンを原料として配合する飲料を除く)。
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
【請求項5】
飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料(ただし、ケルセチン及びケルセチン糖付加物から選択される少なくとも1種を含む飲料、ビタミンDを50000IU含有する飲料、並びに、ミリシトリンを原料として配合する飲料を除く)の製造において、更に下記(B)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製することを特徴とする、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造方法。
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
【請求項6】
飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料(ただし、ビタミンDを50000IU含有する飲料、並びに、ミリシトリンを原料として配合する飲料を除く)の製造において、更に下記(B)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製することを特徴とする、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料の異臭味の抑制方法。
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘスペリジンを高濃度で含有し、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる異臭味が抑制され、かつ、容器詰飲料の良好な香味が保持された容器詰飲料、及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
人々の健康志向のさらなる高まりにより、機能性成分を含有する飲料が多種上市されている。そのような機能性成分の1つに、ヘスペリジンが挙げられる。ヘスペリジンは、温州みかん等の柑橘類に多く含まれるフラボノイドの一種であり、血行促進作用、血中中性脂肪低減、骨形成促進作用等の有益な生理作用を有することが知られている。
【0003】
ヘスペリジンは、水への溶解性が低いため、従来は、使用用途が限られていたが、近年、ヘスペリジンにブドウ糖を結合させることにより水溶性を高めた水溶性ヘスペリジン(ヘスペリジン配糖体)が開発された。ヘスペリジン配糖体は、水への溶解性が高く、かつヘスペリジンの生理活性を保持しているため、食品への利用に優れ、広く利用されている。しかし、ヘスペリジン配糖体は特有の不快味(苦味)を有しているという問題があった。また、ヘスペリジン配糖体等のヘスペリジンを容器詰飲料に含有させると、ヘスペリジンに起因して経時的に、絆創膏様の異臭及び/又は異味(以下、まとめて「絆創膏様の異臭味」とも表示する。)が発生し、飲用に適さない場合があるという問題があった。
【0004】
ヘスペリジン配糖体の特有の臭いを抑制するための技術として、ヘスペリジン配糖体と共に、トレハロース及びオリゴ糖を飲料に含有させる方法(特許文献1)が提案されており、ヘスペリジン配糖体に特有の不快味(苦味)を抑制するための技術として、ヘスペリジン配糖体と共に、特定の割合でリンゴ酸を含有させる方法(特許文献2)が提案されている。また、飲料中に含有されるヘスペリジン配糖体に起因する絆創膏様の異臭・異味を抑制するための技術として、飲料中におけるヘスペリジン配糖体の含有量に対するラクトン類の合計含有量を特定の割合に調整する方法が提案されている(特許文献3)。また、ヘスペリジンと高甘味度甘味料を併用することによって増強されたヘスペリジンの異臭(絆創膏様の異臭)を抑制するための技術として、特定濃度の特定の香気成分(酢酸エチル、酪酸エチル、カプロン酸メチル及び/又は酪酸ブチル)を飲料に含有させる方法が提案されている(特許文献4)。また、ヘスペリジンと高甘味度甘味料を併用することによって増強されたヘスペリジンの異臭(絆創膏様の異臭)を抑制するための技術として、特定量のクエン酸を飲料に含有させる方法が提案されている(特許文献5)。
【0005】
このように、ヘスペリジン配糖体等のヘスペリジンに起因する絆創膏様の異臭や異味を飲料において改善する方法はいくつか提案されている。しかし、ヘスペリジンを高濃度(例えば0.35)で含有する容器詰飲料において、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味の発生原因はこれまでに知られておらず、かかる絆創膏様の異臭味に対するより効果的な改善方法が求められていた。
【0006】
ところで、ヘスペリジンと酸化防止剤を併用した例として、例えば特許文献6には、酵素処理ヘスペリジンをみかんの缶詰やカンキツ飲料の白濁防止や、天然色素の退色防止のために使用することが開示されている。また、特許文献7には、高い脳機能改善効果、抗酸化効果、及び/又は血糖値上昇抑制効果を得るために、粉末青汁飲料に、ヘスペリジン及びケルセチンを含む9種類のポリフェノールを配合することが開示されている。しかし、特許文献6、7のいずれにも、容器詰飲料を長期保存することによって生じるヘスペリジンの異臭味を防止することについては記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-67946号公報
【文献】特開2011-126849号公報
【文献】特開2014-168437号公報
【文献】特開2018-126092号公報
【文献】特開2018-117602号公報
【文献】特開平10-70994号公報
【文献】特開2017-112935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したような背景技術の状況下、本発明者は、ヘスペリジンを含有する容器詰飲料において、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる異臭味(絆創膏様の異臭味)の抑制が必要になるヘスペリジン濃度の探索を行ったところ、飲料中のヘスペリジン濃度が0.035重量%以上という高濃度になると、抑制が必要になる程度の絆創膏様の異臭味が発生するという課題が生じることを見いだした。
【0009】
また、後述するように、本発明者は、ヘスペリジンを高濃度で含有する容器詰飲料において、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味が、酸化防止剤を添加することにより効果的に抑制できることを見いだした。しかしながら、前述の容器詰飲料に酸化防止剤を添加すると、酸化防止剤のもつ味が、ヘスペリジンの味と合わさって異臭味を生じる結果、容器詰飲料の良好な香味が保持されない場合があるという新規な課題を本発明者は発見した。
【0010】
本発明の課題は、ヘスペリジンを高濃度で含有し、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる異臭味(絆創膏様の異臭味)が抑制され、かつ、容器詰飲料の良好な香味が保持された容器詰飲料、及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述したような背景技術の状況下、本発明者は、ヘスペリジンを高濃度で含有する容器詰飲料において、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる異臭味(絆創膏様の異臭味)の発生原因を明らかにし、及び、その抑制方法について検討するために、様々な候補物質を前述の容器詰飲料に添加して前述の絆創膏様の異臭味の発生の程度を確認した。その結果、かかる容器詰飲料に酸化防止剤を添加すると、前述の絆創膏様の異臭味の発生を効果的に抑制できることを本発明者は見いだした。このことから、ヘスペリジンを高濃度で含有する容器詰飲料において、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味は、酸化反応を一因としていることが示された。前述の絆創膏様の異臭味が酸化反応を一因としていることは、これまでに知られていなかったことであり、本発明者による本願実施例の実験によって初めて明らかとなったことである。なお、一般的に、飲食品の異臭味には様々な発生原因があることを考慮すると、前述の絆創膏様の異臭味が酸化反応を一因としていることや、容器詰飲料への酸化防止剤の添加によって実際に該異臭味を抑制できることは当業者が容易に予測し得る事項ではなかった。
【0012】
また、本発明者は、ヘスペリジンと酸化防止剤を併用する場合に生じ得る異臭味(以下、「併用異臭味」とも表示する)を抑制する方法について検討を進めたところ、特定の種類の酸化防止剤を特定の濃度範囲で使用すると、絆創膏様の異臭味を抑制しつつ、かつ、併用異臭味を抑制することができることを初めて見いだした。
【0013】
以上の知見に基づいて、本発明者は、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料において、更に下記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とする前記容器詰ヘスペリジン含有飲料;
(A)飲料中のミリシトリン濃度が0.3~21ppmである;
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;や、
(2)飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造において、更に下記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製することを特徴とする、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造方法;
(A)飲料中のミリシトリン濃度が0.3~21ppmである;
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;や、
(3)飲料全量に対し0.035重量%のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造において、更に下記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製することを特徴とする、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料の異臭味の抑制方法;
(A)飲料中のミリシトリン濃度が0.3~21ppmである;
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヘスペリジンを高濃度で含有し、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる異臭味(絆創膏様の異臭味)が抑制され、かつ、容器詰飲料の良好な香味が保持された容器詰飲料、及びその製造方法等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、
[1]飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する(又は添加された)容器詰ヘスペリジン含有飲料において、更に下記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とする前記容器詰ヘスペリジン含有飲料(以下、「本発明の容器詰飲料」とも表示する。);
(A)飲料中のミリシトリン濃度が0.3~21ppmである;
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
[2]飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する(又は添加された)容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造において、更に上記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製することを特徴とする、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも表示する。);
[3]飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する(又は添加された)容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造において、更に上記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製することを特徴とする、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料の異臭味の抑制方法(以下、「本発明の異臭味の抑制方法」とも表示する。);
を含む。
なお、本明細書において、「ミリシトリン」、「トコフェロール」、「トコフェロール及び水溶性ルチン」、及び、「水溶性ルチン」という、酸化防止剤の4つの態様を併せて、「特定の酸化防止剤」と表示する場合がある。
また、本明細書において、「~」で表された数値範囲には、特に言及がない限り、「~」の両端の数値も当然含まれる。また、「含有」と「添加」は同義ではないが、本明細書中には、本発明を説明するすべての記載において、「含有」を「添加」に置き換えた発明も記載されているものとし、例えば、「含有する」との語句を「添加された」に置き換えた発明や、「含有させる」を「添加する」に置き換えた発明も記載されているものとする。
【0017】
(ヘスペリジン)
本発明に用いるヘスペリジンは配糖体であっても非配糖体であってもよいが、水への溶解度が高く、飲料中に多くのヘスペリジンを含有できる点で、ヘスペリジンは配糖体であることが好ましい。ヘスペリジン非配糖体の例として、柑橘類から抽出精製したヘスペリジンが挙げられる。柑橘類の種類は、特に限定されるものでないが、みかん等が好適に用いられる。
【0018】
ヘスペリジン配糖体の例として、上記のヘスペリジン非配糖体を酵素処理したものが挙げられる。酵素処理の種類は特に限定されるものでないが、ヘスペリジンの糖部分(ルチノース部分)の水酸基等に、糖転位酵素によってグルコースを付加すること等が汎用されている。
【0019】
ヘスペリジン配糖体の種類は特に限定されるものでないが、より高い水溶性を有することから、グルコシルヘスペリジンであることが好ましく、モノグルコシルへスペリジンであることがより好ましい。
【0020】
ヘスペリジン配糖体は市販されており、市販品として、林原ヘスペリジン(登録商標)S(林原社製)、αGヘスペリジン(東洋精糖社製)等が挙げられる。
【0021】
本発明におけるヘスペリジンの使用量(飲料における含有量又は飲料への添加量)は、飲料全量に対し0.035重量%以上である限り特に制限されないが、ヘスペリジンの異臭が増加し、本発明の意義がより大きくなる観点から、好ましくは0.04重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上が挙げられ、飲料の香味バランス等の観点をさらに考慮すると、0.035~0.1重量%、0.04~0.1重量%、0.05~0.1重量%、0.035~0.09重量%、0.04~0.09重量%、0.05~0.09重量%、0.035~0.08重量%、0.04~0.08重量%、0.05~0.08重量%、0.035~0.075重量%、0.04~0.075重量%、0.05~0.075重量%などが好ましく挙げられる。
【0022】
なお、ヘスペリジンは当業者に公知の手法により算出及び/又は測定することができる。例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフ法)を用いた分析方法が挙げられる。本発明におけるヘスペリジンのうち、好適なヘスペリジンであるモノグルコシルヘスペリジンを例として、飲料中のその濃度のより具体的な測定法を以下に説明する。
測定対象飲料を水/アセトニトリル/酢酸混液(80:20:0.01)で適宜希釈し、試料溶液とすることができる。定量に用いる標準溶液としては、乾燥したモノグルコシルヘスペリジン標準品を水/アセトニトリル/酢酸混液(80:20:0.01)で溶解した溶液を用いることができる。前述の試料溶液と前述の標準溶液を、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、10μLを分取して、以下の条件で液体クロマトグラフィーを行うことができる。
[HPLC条件]
・カラム:CapcellpakC18 UG120 4.6mm×250mm(資生堂製)を用いた。
・移動相:水/アセトニトリル/酢酸混液(80:20:0.01)
・流速:0.7mL/min
・カラム温度:40℃
・検出:測定波長280nmの紫外吸光光度計
【0023】
(ミリシトリン)
ミリシトリンとは、ミリセチンの3位にラムノシル基が結合したフラボノール配糖体である。本発明に用いるミリシトリンは、化学的に合成したものであってもよいし、天然物から抽出等したものであってもよい。天然物から抽出したミリシトリンとしては、ヤマモモ属に属する植物(Myrica rubra、Morella cerifera、Morella adenophoraなど)(以下、まとめて「ヤマモモ」とも総称する。)の全体又は任意の部分を溶媒で抽出して得られたヤマモモ抽出物が好ましく挙げられる。かかる抽出物の形態としては、抽出液、抽出液の希釈液、抽出液の濃縮液、抽出液の乾燥粉末などが挙げられる。
【0024】
好ましいヤマモモ抽出物としては、ヤマモモの果実、樹皮及び葉から選択される1つ又は2つ以上の部分を溶媒(好ましくは水、エタノール又はその混合物)で抽出して得られたものが挙げられ、かかるヤマモモ抽出物はミリシトリンを主成分とする。上記の抽出の条件としては、通常の条件を適用でき、例えばヤマモモを3~100℃で数時間~数週間浸漬又は加熱還流する条件が好ましく、室温付近の温度で1日~3週間浸漬する条件がより好ましい。
【0025】
本発明に用いるミリシトリンとしては、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンメリン(登録商標)Y-AF、サンメリン(登録商標)YO-1844などのヤマモモ抽出物が好ましく挙げられ、中でも、サンメリン(登録商標)Y-AFがより好ましく挙げられる。
【0026】
なお、飲料中のミリシトリンの濃度の測定方法としては、液体クロマトグラフィーなど、当業者に公知の手法により算出及び/又は測定することができる。
【0027】
(トコフェロール)
本発明で使用するトコフェロールは、脂溶性ビタミンの一種である。化学合成されたものでも、大豆油、小麦胚芽油、パーム油などの植物原料由来の油脂から抽出、精製されたものであってもよい。前者は、通常dl体のα型であり、後者は、全て天然d体の、α、β、γ、δの各誘導型の混合物であるが、どちらも同じように使用できる。本発明は、dl体、d体、及びα、β、γ、δ各誘導型を区別せず、全てをトコフェロールとして扱う。トコフェロールは、飲食品への添加用の市販品を用いることができる。
【0028】
原料中及び飲料中のトコフェロールの定量分析は、食品添加物公定書に記載のHPLC法などによりおこなうことができる。
【0029】
(水溶性ルチン)
本発明に用いる水溶性ルチンは、水溶性が付与されるように改変されたルチンを意味する。本発明において使用される水溶性ルチンは、市販されているものを入手しても、ルチンあるいはルチンを含有する他の原材料(例えば、柑橘類の果実)から公知の方法(例えば、後述の酵素処理)に従って調製することもできる。なお、水溶性ルチンの水への溶解度は、ルチンあるいはルチン抽出物の水への溶解度に比べ、10000~15000倍高められていることが好ましい。
【0030】
水溶性ルチンの由来及びその製法について特に制限はないが、飲料への溶解性が高いことから、ルチンの酵素処理物である酵素処理ルチンが好ましく挙げられる。酵素処理ルチンとしては、ルチンに1個または複数個(最大で数十個、平均で4~5個)のグルコースが付加されてなるα-グルコシルルチンが挙げられる。α-グルコシルルチンの製法は公知であり、例えば、ルチンに、糖供与体としての澱粉あるいはその部分加水分解物(例えば、デキストリン、マルトース)を加えてなる組成物に、アミラーゼ、グリコシダーゼ、トランスグリコシダーゼなどのグルコース残基転移酵素を作用させて、澱粉あるいはその部分分解物からルチンに糖を転移又は付加させることにより得ることができる。
【0031】
酵素処理ルチンは市販のものを用いることができ、例えば、αGルチンPS(ルチン換算約82重量%)(東洋精糖社製)、αGルチンP(ルチン換算約42重量%)(東洋精糖社製)、αGルチンH(ルチン換算約23重量%)(東洋精糖社製)を用いることができる。酵素処理ルチンはまた、柑橘類の果実、ソバ、エンジュなどの植物体由来のルチン抽出物を糖転移酵素で処理して得られたものを使用することができる。
【0032】
飲料中の水溶性ルチン濃度は、食品衛生学雑誌 Vol.41(2000)No.1,p54-60に記載のHPLC法などにしたがって測定することができる。
【0033】
(酸化防止剤の濃度条件)
本発明においては、特定の酸化防止剤を特定の濃度で使用する、すなわち、特定の酸化防止剤を特定の濃度となるように飲料に含有させ又は飲料に添加する。具体的には、飲料が以下の(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように、「ミリシトリン」、「トコフェロール」、「トコフェロール及び水溶性ルチン」又は「水溶性ルチン」を飲料に含有させ又は添加する。
(A)飲料中のミリシトリン濃度が0.3~21ppmである;
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
【0034】
なお、飲料が条件(C)を満たす場合のうち、飲料中のトコフェロール濃度が1.6~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が2.0~20ppmである場合は、条件(C)と共に条件(B)及び条件(D)も満たすこととなる。また、飲料が条件(C)を満たす場合のうち、飲料中のトコフェロール濃度が1.6~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02ppm以上2ppm未満である場合は、条件(C)と共に条件(B)も満たすこととなる。また、飲料が条件(C)を満たす場合のうち、飲料中のトコフェロール濃度が0.06ppm以上1.6ppm未満であり、かつ、水溶性ルチン濃度が2.0~20ppmである場合は、条件(C)と共に条件(D)も満たすこととなる。
【0035】
上記(A)の条件としては、飲料中のミリシトリン濃度が0.3~21ppmである限り特に制限されないが、絆創膏様の異臭味に対するより優れた抑制作用を得、かつ、ヘスペリジンと酸化防止剤との併用により生じる異臭味をより低く抑制する観点から、1~21ppm、3~21ppm、6~21ppm、1~17ppm、3~17ppm、6~17ppm、1~13ppm、3~13ppm、6~13ppmなどが好ましく挙げられる。
【0036】
上記(B)の条件としては、飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである限り特に制限されないが、絆創膏様の異臭味に対するより優れた抑制作用を得、かつ、ヘスペリジンと酸化防止剤との併用により生じる異臭味をより低く抑制する観点から、5~80ppm、10~80ppm、16~80ppm、5~65ppm、10~65ppm、16~65ppm、5~50ppm、10~50ppm、16~50ppmなどが好ましく挙げられる。
【0037】
上記(C)の条件としては、飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである限り特に制限されないが、絆創膏様の異臭味に対するより優れた抑制作用を得、かつ、ヘスペリジンと酸化防止剤との併用により生じる異臭味をより低く抑制する観点から、以下の表1の組合せ1~27のいずれかの組合せのトコフェロール濃度と水溶性ルチン濃度の組合せなどが好ましく挙げられる。
【0038】
【0039】
上記(D)の条件としては、飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである限り特に制限されないが、絆創膏様の異臭味に対するより優れた抑制作用を得、かつ、ヘスペリジンと酸化防止剤との併用により生じる異臭味をより低く抑制する観点から、2.0~150ppm、2.0~120ppm、2.0~100ppm、2.0~80ppm、2.4~150ppm、2.4~120ppm、2.4~100ppm、2.4~80ppm、4~150ppm、4~120ppm、4~100ppm、4~80ppmなどが好ましく挙げられる。
【0040】
(絆創膏様の異臭味の抑制)
本発明において、「ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味が抑制された」容器詰ヘスペリジン含有飲料とは、特定の酸化防止剤をいずれも含有させない(又は添加しない)こと、又は、特定の酸化防止剤を上記(A)~(D)に記載の下限濃度未満とすること以外は、同種の原料(少なくともヘスペリジンを含む)を同じ最終濃度となるように用いて同じ製法で製造した容器詰ヘスペリジン含有飲料(以下、「コントロール飲料A」とも表示する。)と比較して、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味が抑制された(低下した)容器詰ヘスペリジン含有飲料を意味する。
【0041】
ある容器詰ヘスペリジン含有飲料における絆創膏様の異臭味が、コントロール飲料Aと比較してどのようであるか(例えば、抑制されているかどうか)は、訓練されたパネラーであれば、容易かつ明確に決定することができる。評価の基準や、パネラー間の評価のまとめ方は、一般的な方法を用いることができる。絆創膏様の異臭味を評価するパネラーの人数は1名であってもよいが、客観性がより高い評価を得る観点から、パネラーの人数の下限を、例えば2名以上、好ましくは4名以上とすることができ、また、評価試験をより簡便に実施する観点から、パネラーの人数の上限を、例えば20名以下、10名以下とすることができる。パネラーが2名以上の場合の各容器詰ヘスペリジン含有飲料の絆創膏様の異臭味の評価は、例えば、その容器詰ヘスペリジン含有飲料の絆創膏様の異臭味についてのパネラー全員の評価の平均を採用してもよいし、パネラーのうち最も低い評価を採用してもよい。各評価基準に整数の評価点が付与されている場合、パネラー全員の評価点の平均値をその容器詰ヘスペリジン含有飲料の絆創膏様の異臭味の評価として採用してもよいし、パネラーのうち最も低い評価点を採用してもよい。前述のように、評価点の平均値を採用する場合は、その平均値の小数第1位又は第2位(好ましくは小数第1位)を四捨五入した値を採用してもよい。なお、パネラーが2名以上である場合には、各パネラーの評価のばらつきを低減するために、実際の官能評価試験を行う前に、各パネラーの評価基準ができるだけ揃うように評価基準を共通化する作業を行っておくことが好ましい。かかる共通化作業としては、絆創膏様の異臭味の程度が既知の複数種の標準容器詰ヘスペリジン含有飲料の絆創膏様の異臭味を各パネラーで評価した後、その評価点を比較し、各パネラーの評価基準に大きな解離が生じないように確認することが挙げられる。また、このような評価基準に関する事前の共通化作業により、各パネラーによる絆創膏様の異臭味の評価の標準偏差が0.5以内となるようにしておくことが好ましい。
【0042】
ある容器詰ヘスペリジン含有飲料における絆創膏様の異臭味が、コントロール飲料Aと比較してどのようであるか(例えば、抑制されているかどうか)、例えば、後述の実施例の試験1に記載の評価基準(表4)等を用いた方法と同様の方法、好ましくは、後述の実施例の試験1に記載の評価基準(表4)等を用いた方法と同じ方法を好適に用いることができる。より具体的には、コントロール飲料Aにおける絆創膏様の異臭味を、後述の実施例の試験1に記載の評価基準(表4)を用いて評価した評価点と比較して、絆創膏様の異臭味に関する評価点が向上している容器詰ヘスペリジン含有飲料は、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味が抑制された容器詰ヘスペリジン含有飲料に含まれる。
【0043】
(ヘスペリジンと酸化防止剤を併用する場合に生じ得る異臭味の抑制)
「ヘスペリジンと酸化防止剤を併用する場合に生じ得る異臭味(併用異臭味)とは、ヘスペリジンと酸化防止剤を含有する容器詰飲料において、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味以外に生じる場合がある異臭味を意味する。酸化防止剤には多くの種類があるため、それらすべての種類の酸化防止剤についてその併用異臭味の特徴を包括的に表現することは難しい。しかし、ヘスペリジンと酸化防止剤の両方を高濃度で含有する容器詰飲料の香味を、ヘスペリジンも酸化防止剤も含まない容器詰飲料の香味と比較すれば、その酸化防止剤とヘスペリジンの併用異臭味がどのような併用異臭味であるか、当業者は容易に特定することができる。本発明において抑制される併用異臭味として、具体的には、ヘスペリジンとミリシトリンを併用したときに生じる場合がある、油様の異臭味;ヘスペリジンとトコフェロールを併用したときに生じる場合がある、クレヨン様の異臭味;ヘスペリジンとトコフェロールと水溶性ルチンを併用したときに生じる場合がある、プラスチック様の異臭味;ヘスペリジンと水溶性ルチンを併用したときに生じる場合がある、プラスチック様の異臭味;が好ましく含まれる。
【0044】
本発明において、「ヘスペリジンと酸化防止剤を併用する場合に生じ得る異臭味(併用異臭味)が抑制された」容器詰ヘスペリジン含有飲料とは、特定の酸化防止剤を上記(A)~(D)に記載の上限濃度より高くすること以外は、同種の原料(少なくともヘスペリジンを含む)を同じ最終濃度となるように用いて同じ製法で製造した容器詰ヘスペリジン含有飲料(以下、「コントロール飲料B」とも表示する。)と比較して、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味が抑制された(低下した)容器詰ヘスペリジン含有飲料を意味する。コントロール飲料Bと比較して、併用異臭味が抑制された(低下した)容器詰ヘスペリジン含有飲料を意味する。
【0045】
ある容器詰ヘスペリジン含有飲料における併用異臭味が、コントロール飲料Bと比較してどのようであるか(例えば、抑制されているかどうか)は、訓練されたパネラーであれば、容易かつ明確に決定することができる。評価の基準や、パネラー間の評価のまとめ方は、絆創膏様の異臭味に関して前述したのと同様に、一般的な方法を用いることができる。例えば、後述の実施例の試験1に記載の評価基準(表4)等を用いた方法と同様の方法、好ましくは、後述の実施例の試験1に記載の評価基準(表4)等を用いた方法と同じ方法を好適に用いることができる。より具体的には、コントロール飲料Bにおける併用異臭味を、後述の実施例の試験1に記載の評価基準(表4)を用いて評価した評価点と比較して、併用に関する評価点が向上している容器詰ヘスペリジン含有飲料は、併用異臭味が抑制された容器詰ヘスペリジン含有飲料に含まれる。
【0046】
(絆創膏様の異臭味の抑制)
本発明において、「容器詰飲料の良好な香味が保持された」容器詰ヘスペリジン含有飲料とは、絆創膏様の異臭味が抑制された容器詰ヘスペリジン含有飲料において、さらに、併用異臭味が抑制された容器詰ヘスペリジン含有飲料を意味する。
【0047】
<本発明の容器詰飲料>
本発明の容器詰飲料としては、飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料において、更に下記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とする前記容器詰ヘスペリジン含有飲料である限り特に制限されない。
(A)飲料中のミリシトリン濃度が0.3~21ppmである;
(B)飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmである;
(C)飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmである;
(D)飲料中の水溶性ルチン濃度が2.0~160ppmである;
【0048】
本発明の容器詰飲料は、飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有し、及び、上記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすこと以外は、用いる製造原料、製造方法並びに製造条件において、通常の容器詰飲料と特に相違する点はない。
【0049】
本発明の容器詰飲料は、ヘスペリジンと特定の酸化防止剤を必須成分として含有している。本発明の容器詰飲料は、任意成分として、甘味成分、酸味成分、pH調整剤、乳化成分、着色成分、香料(ただし、本発明における香気成分を除く)、果汁、野菜汁、ハーブ、ビタミン類、ミネラル類、ハーブ成分等を含有していてもよい。酸味料としては、リン酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸等が挙げられる。甘味料としては、ショ糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、デンプン糖化物、還元デンプン水飴、デキストリン、サイクロデキストリン、トレハロース、黒糖、はちみつ等の糖類;ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール等の糖アルコール類;スクラロース、アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、ステビア、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリン等の高甘味度甘味料類;等が挙げられる。
【0050】
また、本発明の容器詰飲料は、本発明の効果を妨げない限り、特定の酸化防止剤以外の酸化防止剤をさらに含有していてもよいが、特定の酸化防止剤以外の酸化防止剤を含有しないことが好ましい。特定の酸化防止剤以外の酸化防止剤としては、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン、及び、酵素処理イソクエルシトリンからなる群から選択される1種又は2種以上の酸化防止剤が挙げられる。
【0051】
本発明の容器詰飲料における任意成分の含有量(濃度)は、例えばHPLC法、GC-MS法、GC-FID法、LC-MS法などの公知の方法を適用することにより測定することができる。
【0052】
本発明の容器詰飲料の種類としては特に制限されず、例えば、アルコール飲料であっても、非アルコール飲料であってもよいが、非アルコール飲料であることが好ましい。非アルコール飲料としては、茶系飲料、野菜飲料、果汁飲料、炭酸飲料(好ましくは非アルコールビールテイスト飲料及び非アルコールチューハイテイスト飲料を除く)、コーヒー飲料、機能性飲料、スポーツドリンク、ニアウォーター、乳飲料、乳酸菌飲料等が挙げられ、中でも、飲料の味が薄く、ヘスペリジン等の異臭味が問題となり易い点で、スポーツドリンク、ニアウォーターが好ましく挙げられる。
【0053】
本発明の容器詰飲料は、加熱殺菌処理を経ていなくてもよいが、保存性向上の観点から、加熱殺菌処理を経ていることが好ましい。
【0054】
本発明の容器詰飲料における容器としては、ペットボトル、ポリプロピレンボトル、ポリ塩化ビニルボトル等の樹脂ボトル容器;ビン容器;缶容器;等の容器が挙げられる。
【0055】
<本発明の製造方法>
本発明の容器詰飲料は、飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造において、更に下記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製すること以外は、従来公知の容器詰飲料の製造方法にしたがって製造することができる。
【0056】
本発明の製造方法としては、飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造において、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料に、上記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように特定の酸化防止剤を特定濃度で含有させる方法が挙げられ、より具体的には、飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造に際して、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造原料(例えば、「水」、「ヘスペリジンを含有する水」、あるいは「これら2種のいずれかの水に、任意成分の一部又は全部をさらに含有させた水」)に、上記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように特定の酸化防止剤を特定濃度で含有させる方法が挙げられる。あるいは、特定の酸化防止剤を、ヘスペリジンと同時に水等に含有させる方法や、特定の酸化防止剤と、ヘスペリジンとをあらかじめ混合した後、水等に含有させる方法も挙げられる。
【0057】
本発明の製造方法においては、ヘスペリジンと特定の酸化防止剤を必須成分として飲料に含有させる。本発明の製造方法としては、任意成分として、甘味成分、酸味成分、pH調整剤、乳化成分、着色成分、香料(ただし、本発明における香気成分を除く)、果汁、野菜汁、ハーブ、ビタミン類、ミネラル類、ハーブ成分等を飲料に含有させてもよい。
【0058】
本発明の製造方法においては、用いる製造原料を含有する、本発明の容器詰飲料を製造し得る限り、製造原料を含有させる(例えば添加する)順序等は特に制限されない。製造原料が混合されている液を調製した後、容器に充填して密封し、本発明の容器詰飲料を得ることができる。加熱殺菌処理は行わなくてもよいが、保存性向上の観点から、加熱殺菌処理を行うことが好ましい。加熱殺菌処理する方法としては、特に制限されず、例えば、高温短時間殺菌法(HTST法)、パストライザー殺菌法、超高温加熱処理法(UHT法)等を挙げることができる。
【0059】
<本発明の異臭味の抑制方法>
本発明の「容器詰ヘスペリジン含有飲料の異臭味の抑制方法」としては、飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造において、更に上記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように調製することを含んでいる限り特に制限されない。飲料全量に対し0.035重量%以上のヘスペリジンを含有する容器詰ヘスペリジン含有飲料の製造において、前記容器詰ヘスペリジン含有飲料に、上記(A)~(D)のうち少なくとも1つの条件を満たすように特定の酸化防止剤を特定濃度で含有させる方法は、上記の<本発明の製造方法>に記載した方法と同様の方法を用いることができる。
【0060】
以下に、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
試験1.[異臭味抑制が必要になるヘスペリジン濃度の探索]
ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味の抑制が必要になるヘスペリジン濃度を、以下の実験により調べた。
【0062】
(サンプル飲料の調製)
以下の表2に示すような基本処方で原料と水を混合してサンプル飲料1~4を調製した。なお、各サンプル飲料におけるヘスペリジン濃度は後述の表3のとおりである。
【0063】
【0064】
【0065】
(絆創膏様の異臭味の官能評価)
調製した各サンプル飲料を50℃で2週間保管して、各加速試験サンプル飲料を得た。かかる加速試験サンプル飲料について、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる絆創膏様の異臭味の官能評価を行った。かかる官能評価を行う際には、その加速試験サンプル飲料に対応する、調製直後のサンプル飲料(5℃)を対照とすることにより、絆創膏様の異臭味の程度をより正確に評価できるようにした。絆創膏様の異臭味の官能評価は、訓練されたパネリスト4名によって以下の表4の基準で行い、あるサンプル飲料に対する4名の評価結果のうち、最も低い評価をそのサンプル飲料の評価結果とした。
なお、各パネラーの評価のばらつきを低減するために、絆創膏様の異臭味の程度が既知の複数種のヘスペリジン含有飲料の絆創膏様の異臭味を各パネラーで評価した後、その評価点を比較し、各パネラーの評価基準に大きな解離が生じないように確認し、また、各パネラーの評価点の標準偏差が0.5以内であることも確認した。
【0066】
【0067】
上記表3の各サンプル飲料について、絆創膏様の異臭味の官能評価を行った結果を、上記表3に示す。表3に示されるように、ヘスペリジン濃度が0.001重量%のときは◎であり、0.01重量%のときは〇であった評価結果が、0.035重量%のときは△であり、0.75重量%のときは×であった。これらのことから、容器詰飲料におけるヘスペリジン濃度が0.035重量%以上になると、抑制が必要になる程度の絆創膏様の異臭味が発生することが示された。
【0068】
試験2.[酸化防止剤の添加による、容器詰ヘスペリジン含有飲料の香味への影響]
酸化防止剤を容器詰ヘスペリジン含有飲料に添加すると、該飲料の香味にどのような影響が生じるかを、以下の実験により調べた。
【0069】
(サンプル飲料の調製)
以下の表5~表9に示すような基本処方で原料と水を混合してサンプル飲料5~26を調製した。なお、ヘスペリジンとしては、林原社製の林原ヘスペリジンSを用い、アスコルビン酸としてはDSM社製のL-アスコルビン酸を用い、ミリシトリンとしては、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンメリン(登録商標)Y-AF(ヤマモモ抽出物)を用い、トコフェロールあるいはトコフェロールと水溶性ルチンの併用剤としては、太陽化学社製のスーパーエマルジョンTSシリーズの製品を用い、水溶性ルチンとしては、東洋精糖社製の製品を用いた。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
(絆創膏様の異臭味の官能評価)
調製したサンプル飲料5~26の絆創膏様の異臭味について、上記試験1.の実験の際に用いたのと同じ方法で官能評価を行った。その結果を上記表5~表9に示す。
【0076】
(併用異臭味の官能評価)
調製したサンプル飲料5~26について、ヘスペリジンと酸化防止剤を併用したことによる異臭味(併用異臭味)の官能評価を行った。併用異臭味の官能評価も、絆創膏様の異臭味の官能評価を行った4名のパネリストが上記表4の基準で行い、あるサンプル飲料に対する4名のパネリストの評価結果のうち、最も低い評価をそのサンプル飲料の評価結果とした。各加速試験サンプル飲料の併用異臭味の官能評価を行う際は、絆創膏様の異臭味の官能評価を行ったときと同様に、加速試験サンプル飲料に対応する、調製直後のサンプル飲料(5℃)を対照として、併用異臭味の程度をより正確に評価できるようにした。
【0077】
なお、併用異臭味についても、絆創膏様の異臭味の場合と同様に、各パネラーの評価のばらつきを低減するために、併用異臭味の程度が既知の複数種のヘスペリジン含有飲料の絆創膏様の異臭味を各パネラーで評価した後、その評価点を比較し、各パネラーの評価基準に大きな解離が生じないように確認し、また、各パネラーの評価点の標準偏差が0.5以内であることも確認した。
【0078】
上記表5~表9の各サンプル飲料について、絆創膏様の異臭味と、併用異臭味の官能評価を行った結果を、上記表5~9にそれぞれ示す。
【0079】
表5~表9の結果から分かるように、いずれの種類の酸化防止剤を飲料に添加した場合であっても、一定濃度以上の酸化防止剤を添加すると、ヘスペリジンに起因する絆創膏様の異臭味を抑制できることが示された。これらの結果から、かかる絆創膏様の異臭味が、酸化反応を一因としていることが示された。このことは、これまでに知られていなかった事項であり、本発明者が今回初めて見いだした事項である。
【0080】
しかし、表5の結果から分かるように、酸化防止剤として400ppm又は1000ppmのアスコルビン酸を用いた場合は、絆創膏様の異臭味は抑制されるものの(評価〇)、ヘスペリジンとアスコルビン酸の併用異臭味の官能評価が△又は×となる程度の併用異臭味が発生し、その結果、容器詰飲料の良好な香味を保持することができなかった(総合評価△又は×)。
【0081】
一方、表6の結果から分かるように、酸化防止剤としてミリシトリンを用いた場合、0.03ppmでは絆創膏様の異臭味の抑制を明確に確認できるほどではなかったものの(評価△)、0.3ppm以上では抑制された(評価〇)。ただし、ミリシトリンが30ppmであると、ヘスペリジンとミリシトリンの併用異臭味が発生し(評価×)、その結果、容器詰飲料の良好な香味を保持することができなかった(総合評価×)。表6の結果をまとめると、容器詰飲料中のミリシトリン濃度が0.3~21ppmであると、絆創膏様の異臭味に対して抑制効果を得つつ、併用異臭味を抑制することができることが示された。
【0082】
また、表7の結果から分かるように、酸化防止剤としてトコフェロールを用いた場合、0.16ppmでは絆創膏様の異臭味の抑制を明確に確認できるほどのものではなかったものの(評価△)、1.6ppm以上では抑制された(評価〇)。ただし、トコフェロールが160ppmであると、ヘスペリジンとトコフェロールの併用異臭味が発生し(評価△)、その結果、容器詰飲料の良好な香味を保持することができなかった(総合評価△)。表7の結果をまとめると、容器詰飲料中のトコフェロール濃度が1.6~80ppmであると、絆創膏様の異臭味に対して抑制効果を得つつ、併用異臭味を抑制することができることが示された。
【0083】
また、表8の結果から分かるように、酸化防止剤としてトコフェロールと水溶性ルチンを併用した場合、0.06ppmのトコフェロールと0.02ppmの水溶性ルチンでは絆創膏様の異臭味の抑制を明確に確認できるほどのものではなかったものの(評価△)、トコフェロール3ppm以上と、水溶性ルチン1ppm以上を併用した場合は、絆創膏様の異臭味は抑制された(評価〇)。ただし、180ppmのトコフェロールと60ppmの水溶性ルチンを併用した場合は、ヘスペリジンとそれら酸化防止剤との併用異臭味が発生し(評価×)、その結果、容器詰飲料の良好な香味を保持することができなかった(総合評価×)。表6の結果をまとめると、容器詰飲料中のトコフェロール濃度が0.06~60ppmであり、かつ、水溶性ルチン濃度が0.02~20ppmであると、絆創膏様の異臭味に対して抑制効果を得つつ、併用異臭味を抑制することができることが示された。
【0084】
また、表9の結果から分かるように、酸化防止剤として水溶性ルチンを用いた場合、0.2ppmでは絆創膏様の異臭味の抑制を明確に確認できるほどではなかったものの(評価△)、2.4ppm以上では抑制された(評価〇)。ただし、水溶性ルチンが240ppmであると、ヘスペリジンと水溶性ルチンの併用異臭味が発生し(評価×)、その結果、容器詰飲料の良好な香味を保持することができなかった(総合評価×)。表9の結果をまとめると、容器詰飲料中の水溶性ルチンの濃度がおおむね2.0~160ppm(好ましくは2.4~120ppmなど)であると、絆創膏様の異臭味に対して抑制効果を得つつ、併用異臭味を抑制することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、ヘスペリジンを高濃度で含有し、ヘスペリジンに起因して経時的に生じる異臭味(絆創膏様の異臭味)が抑制され、かつ、容器詰飲料の良好な香味が保持された容器詰飲料、及びその製造方法等を提供することができる。