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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20231006BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520G
C09K3/14 520L
F16D69/02 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019135372
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021017521
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(72)【発明者】
【氏名】下崎 晶彦
(72)【発明者】
【氏名】西川 拓人
(72)【発明者】
【氏名】田邊 武
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059125(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216754(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/147807(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/183155(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098434(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、
前記摩擦材組成物は、
有機摩擦調整材としてカシューダストを摩擦材組成物全量に対し1~重量%、
無機摩擦調整材として白雲母を摩擦材組成物全量に対し10~12重量%、
無機摩擦調整材としてアルミニウム粒子を摩擦材組成物全量に対し~5重量%
含むことを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記摩擦材組成物は、潤滑材として硫化亜鉛を摩擦材組成物全量に対し3~5重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含まないNAO(Non-Asbestos-Organic)材の摩擦材組成物を成型した摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車の制動装置としてディスクブレーキが使用されており、その摩擦部材として金属製のベース部材に摩擦材が貼り付けられたディスクブレーキパッドが使用されている。
【0003】
ディスクブレーキパッドに使用される摩擦材は、主に次の3種に分類されている。
<セミメタリック摩擦材>
繊維基材としてスチール繊維を摩擦材組成物全量に対して30重量%以上60重量%未満含有する摩擦材。
<ロースチール摩擦材>
繊維基材の一部にスチール繊維を含み、且つ、スチール繊維を摩擦材組成物全量に対して30重量%未満含有する摩擦材。
<NAO(Non-Asbestos-Organic)材>
繊維基材としてスチール繊維やステンレス繊維等のスチール系繊維を含まない摩擦材。
【0004】
また、従来の摩擦材には、要求される性能を確保するため、銅や銅合金の繊維又は粒子等の銅成分が必須成分として摩擦材組成物全量に対し、5~20重量%程度添加されていた。
【0005】
しかし近年、このような摩擦材には、制動時に摩耗粉として銅を排出し、この排出された銅が河川、湖、海洋に流入することにより水域を汚染する可能性があることが示されている。
【0006】
このような背景から、アメリカのカリフォルニア州やワシントン州では、2021年以降、銅成分を5重量%以上含有する摩擦材を使用した摩擦部材の販売及び新車への組み付けを禁止し、さらにその数年後、銅成分を0.5重量%以上含有する摩擦材を使用した摩擦部材の販売及び新車への組み付けを禁止する法案が可決している。
【0007】
今後このような規制は世界中に波及するものと予想されることから、摩擦材に含まれる銅成分を削減することが急務となっている。
【0008】
しかし、摩擦材に含まれる銅成分を削減すると、摩擦材の熱伝導率が低下し、高温での制動時に摩擦材の摩擦面の熱が拡散せず、摩擦材の摩耗量が増大し、また、摩擦面温度の不均一な上昇に起因するブレーキ振動が発生するという問題がある。
【0009】
従来技術としては、特許文献1及び2が挙げられる。
特許文献1には、結合剤、有機充填材、無機充填材および繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中に元素としての銅を含まない、または銅の含有量が0.5質量%以下であり、繊維長が2500μm以下のスチール繊維を2~5質量%含有する摩擦材組成物および該摩擦材組成物を成形してなる摩擦材が記載されている。
【0010】
特許文献2には、結合剤、有機充填材、無機充填材および繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中に元素としての銅を含まない、または銅の含有量が0.5質量%以下であり、繊維長が2500μm以下のスチール繊維を2~5質量%含有し、チタン酸塩としてトンネル構造の結晶構造のチタン酸塩および層状構造の結晶構造のチタン酸塩を必須成分とする摩擦材組成物および該摩擦材組成物を成形してなる摩擦材が記載されている。
【0011】
特許文献1及び2の発明によれば、環境負荷の高い銅を含有させなくても高温制動におけるブレーキ振動を抑制することができる。
【0012】
しかし、特許文献1及び2に記載の摩擦材は、繊維基材としてスチール繊維を含む、いわゆるロースチール摩擦材であり、ホイール汚れやブレーキ鳴きが発生しやすいという問題がある。
【0013】
繊維基材としてスチール繊維やステンレススチール繊維等のスチール系繊維を含まない摩擦材、いわゆるNAO材の摩擦材は、特許文献3等により知られているが、NAO材の摩擦材はホイール汚れやブレーキ鳴きの発生が少ないものの、高温制動におけるブレーキ振動の問題を解決する手段が確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2016-98362号公報
【文献】特開2016-121243号公報
【文献】特開2017-193612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、高温制動におけるブレーキ振動を抑制できる摩擦材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
高温制動におけるブレーキ振動は次のようなメカニズムで発生するものと推測される。
摩擦材にはブレーキ効きを確保するため、有機摩擦調整材としてカシューダストが添加されている。
高速制動によりディスクロータの摩擦面の温度が高温になると、摩擦材に含まれるカシューダストが熱分解し、タール状物を生成する。このタール状物がディスクロータの摩擦面に不均一に移着し、被膜を形成する。そして、高速制動を繰り返すことによりディスクロータの摩擦面の温度が更に上昇する。
このときディスクロータの摩擦面のうち、移着したタール状物の被膜の特に厚い部分が高温になって熱膨張し、ディスクロータの摩擦面に肉厚差が生じる。
また、摩擦材が蓄熱することでし、摩擦材の摩擦面も不均一に膨張するため、ディスクロータと摩擦材との当たりが不均一となりブレーキ振動が発生する。
【0017】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、摩擦材組成物に、有機摩擦調整材として特定量のカシューダスト、無機摩擦調整材として特定量の白雲母(マスコバイト)、無機摩擦調整材として特定量のアルミニウム粒子を含有させることで、高温制動時でのタール状物の被膜形成をコントロールし、高温制動におけるブレーキ振動を効果的に低減することが可能であることを見出した。
【0018】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0019】
(1)ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、前記摩擦材組成物は、有機摩擦調整材としてカシューダストを摩擦材組成物全量に対し1~4重量%、無機摩擦調整材として白雲母を摩擦材組成物全量に対し7~12重量%、無機摩擦調整材としてアルミニウム粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~5重量%含む摩擦材。
(2)前記摩擦材組成物は潤滑材として硫化亜鉛を摩擦材組成物全量に対し3~5重量%含む前記(1)に記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、高温制動におけるブレーキ振動を抑制できる摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材であって、摩擦材組成物に、有機摩擦調整材としてカシューダストを摩擦材組成物全量に対し1~4重量%、無機摩擦調整材として白雲母を摩擦材組成物全量に対し7~12重量%、無機摩擦調整材としてアルミニウム粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~5重量%添加するものである。
【0022】
<カシューダスト>
本発明の摩擦材において、有機摩擦調整材であるカシューダストの添加量を比較的少なくすることにより、高速制動時のタール状物の生成を最低限に抑えながら、良好なブレーキ効きを得ることができる。
【0023】
カシューダストの添加量は摩擦材組成物全量に対し1~4重量%であり、1.5~2重量%が好ましい。
カシューダストの添加量が1重量%未満であると、ブレーキ効きが不十分となり、カシューダストの添加量が4重量%を超えると、高速制動時にタール状物がディスクロータの摩擦面に不均一に移着し、ブレーキ振動が発生しやすくなる。
【0024】
<白雲母>
無機摩擦調整材である白雲母は、ディスクロータの摩擦面に形成されるタール状物の被膜を適度にクリーニングする作用があるほか、摩擦材組成物に比較的多量に添加することにより摩擦材の圧縮歪量を大きくすることができる。
【0025】
ディスクロータの摩擦面に肉厚差が生じた場合でも、摩擦材の圧縮歪量が大きいと摩擦材がその肉厚差に追従するため、当たりが均一となりブレーキ振動を抑制することができる。
【0026】
白雲母の添加量は摩擦材組成物全量に対し7~12重量%であり、8~11重量%が好ましい。
白雲母の添加量が7重量%未満であると、被膜のクリーニング作用、圧縮歪量ともに不十分となり、ブレーキ振動の抑制効果が得られず、白雲母の添加量が12重量%を超えると、耐摩耗性が低下するという問題が生じる。
【0027】
<アルミニウム粒子>
また、無機摩擦調整材であるアルミニウム粒子は、熱伝導率が高く、摩擦材の放熱性を向上させることができる。
摩擦材の放熱性が向上すると、摩擦材が蓄熱しにくくなり、摩擦材の摩擦面の不均一な膨張を抑制することができる。その結果、ディスクロータと摩擦材との当たりが均一となりブレーキ振動を抑制することができる。
【0028】
アルミニウム粒子の添加量は摩擦材組成物全量に対し0.5~5重量%であり、0.8~2重量%が好ましい。
アルミニウム粒子の添加量が0.5重量%未満であると、摩擦材の放熱性が不十分となり、ブレーキ振動の抑制効果が得られず、アルミニウム粒子の添加量が5重量%を超えると、ブレーキ効きが低下するという問題が生じる。
【0029】
<硫化亜鉛>
さらに、本発明では潤滑材として硫化亜鉛を摩擦材組成物全量に対し3~5重量%添加するのが好ましい。
硫化亜鉛を摩擦材組成物全量に対し3~5重量%添加することにより、高温領域での良好な潤滑作用によりトルク変動を抑制することができ、ブレーキ振動の抑制効果がより向上する。
【0030】
<その他成分>
本発明の摩擦材は、上記のカシューダスト、白雲母、アルミニウム粒子、硫化亜鉛のほかに、通常摩擦材に使用される結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材等を含む摩擦材組成物からなる。
【0031】
結合材として、ストレートフェノール樹脂、カシューオイル変性フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、シリコーンゴム変性フェノール樹脂、ニトリルゴム(NBR)変性フェノール樹脂、フェノール・アラルキル樹脂(アラルキル変性フェノール樹脂)、フルオロポリマー分散フェノール樹脂、シリコーンゴム分散フェノール樹脂等の摩擦材に通常用いられる結合材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
結合材の含有量は摩擦材組成物全量に対して5~9重量%とするのが好ましく、6~8重量%とするのがより好ましい。
【0032】
繊維基材としては、アラミド繊維、セルロース繊維、ポリ-パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、アクリル繊維等の摩擦材に通常用いられる有機繊維、アルミニウム繊維、アルミニウム合金繊維、亜鉛繊維等の摩擦材に通常用いられる金属繊維が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
繊維基材の含有量は摩擦材組成物全量に対して1~5重量%とするのが好ましく、1.5~3重量%とするのがより好ましい。
【0033】
有機摩擦調整材として、上記のカシューダストのほかに、タイヤトレッドゴム粉砕粉や、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム等の加硫ゴム粉末又は未加硫ゴム粉末等の摩擦材に通常用いられる有機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機摩擦調整材の含有量は上記のカシューダストを合わせて摩擦材組成物全量に対して2~7重量%とするのが好ましく、3~5重量%とするのがより好ましい。
【0034】
無機摩擦調整材としては、上記の白雲母、アルミニウム粒子のほかに、タルク、クレー、ドロマイト、金雲母、バーミキュライト、四三酸化鉄、ケイ酸カルシウム水和物、ガラスビーズ、ゼオライト、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、安定化酸化ジルコニウム、単斜晶酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、γ-アルミナ、α-アルミナ、炭化ケイ素、鉄粒子、亜鉛粒子、スズ粒子、非ウィスカー状(板状、柱状、鱗片状、複数の凸部を有する不定形状)のチタン酸塩(6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム)等の摩擦材に通常用いられる粒子状無機摩擦調整材や、ウォラストナイト、セピオライト、バサルト繊維、ガラス繊維、生体溶解性人造鉱物繊維、ロックウール等の摩擦材に通常用いられる繊維状無機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
無機摩擦調整材の含有量は、上記の白雲母、アルミニウム粒子と合わせて摩擦材組成物全量に対して40~70重量%とするのが好ましく、50~60重量%とするのがより好ましい。
【0036】
潤滑材としては、上記の硫化亜鉛のほかに、二硫化モリブデン、硫化スズ、硫化ビスマス、硫化タングステン、複合金属硫化物等の摩擦材に通常用いられる金属硫化物系潤滑材や、人造黒鉛、天然黒鉛、薄片状黒鉛、弾性黒鉛化カーボン、石油コークス、活性炭、酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉等の摩擦材に通常用いられる炭素質系潤滑材等の潤滑材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
潤滑材の含有量は上記の硫化亜鉛と合わせて摩擦材組成物全量に対して5~13重量%とするのが好ましく、7~11重量%とするのがより好ましい。
【0037】
pH調整材として水酸化カルシウム等の摩擦材に通常用いられるpH調整材を使用することができる。
pH調整材は、摩擦材組成物全量に対して1~5重量%とするのが好ましく、2~4重量%とするのがより好ましい。
【0038】
摩擦材組成物の残部としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の充填材を使用する。
【0039】
本発明のディスクブレーキに使用される摩擦材は、所定量配合した摩擦材組成物を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物と、別途、予め洗浄、表面処理し、接着材を塗布したバックプレートとを重ねて熱成型型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、粉体塗料を塗装する静電粉体塗装工程、塗料を焼き付ける塗装焼き付け工程、回転砥石により摩擦面を形成する研磨工程を経て製造される。なお、加熱加圧成型工程の後、塗装工程、塗料焼き付けを兼ねた熱処理工程、研磨工程の順で製造する場合もある。
【0040】
必要に応じて、加熱加圧成型工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物を混練する混練工程、摩擦材原料混合物造粒工程で得られた摩擦材原料造粒物、又は混練工程で得られた摩擦材原料混練物を予備成型型に投入し、予備成型物を成型する予備成型工程が実施され、加熱加圧成型工程の後にスコーチ工程が実施される。
【実施例
【0041】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
[実施例1~18・比較例1~6の摩擦材の製造方法]
表1、表2、表3に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、成型金型内で30MPaにて10秒間加圧して予備成型をした。この予備成型物を、予め洗浄、表面処理、接着材を塗布した鋼鉄製のバックプレート上に重ね、熱成型型内で成型温度150℃、成型圧力40MPaの条件下で10分間成型した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行い、研磨して摩擦面を形成し、乗用車用ディスクブレーキパッドを作製した(実施例1~18、比較例1~6)。
なお、実施例4~7、10、11、14は、参考例である。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
得られた摩擦材において、通常の使用領域でのブレーキ効き、高温制動におけるブレーキ振動、耐摩耗性を評価した。
<ブレーキ効き>
JASO C406 「乗用車ブレーキ装置ダイナモメータ試験方法」に準拠し、第2効力試験の車速130km/h、減速度0.3Gにおける摩擦係数の平均値を下記基準にて評価した。
優:0.40以上
良:0.37以上 0.40未満
可:0.34以上 0.37未満
不可:0.34未満
【0047】
<高温制動におけるブレーキ振動>
JASO C402 「乗用車用常用ブレーキ実車試験」に準拠し、フェード試験時の異音・振動を確認し、下記基準にて評価した。
優:発生なし
良:微弱発生
可:発生するが気にならない。
不可:発生大
【0048】
<耐摩耗性>
JASO C427 「自動車-ブレーキライニング及びディスクブレーキパッド-ダイナモメータ摩耗試験方法」に準拠し、制動初速度50km/h、制動減速度0.3G、制動回数適宜、制動前ブレーキ温度200℃の条件で、摩擦材の摩耗量(mm)を測定し、制動回数1000回あたりの摩耗量に換算後、下記基準にて評価した。
優:0.15mm未満
良:0.15mm以上 0.20mm未満
可:0.20mm以上 0.50mm未満
不可:0.50mm以上
【0049】
評価結果を表4、表5、表6に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
各表より見てとれるように、本発明の組成を満足する組成物は、通常の使用領域でのブレーキ効き、高温制動におけるブレーキ振動、耐摩耗性について良好な評価結果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含むNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら、高温制動におけるブレーキ振動が抑制された摩擦材を提供することができ、きわめて実用的価値の高いものである。