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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】油ちょう食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/10 20160101AFI20231006BHJP
   A23L 7/157 20160101ALN20231006BHJP
【FI】
A23L5/10 D
A23L7/157
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019148560
(22)【出願日】2019-08-13
(65)【公開番号】P2021029102
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】金平 佳乃
(72)【発明者】
【氏名】野波 祐太
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-046024(JP,A)
【文献】特開2014-217274(JP,A)
【文献】お好み焼きぱりぱり春巻き,クックパッド,2017年06月22日,[2023年6月27日],インターネット<URL:https://cookpad.com/recipe/4542050>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚げ衣を含有する油ちょう食品を製造する方法であって、
(a)中種に衣材を付着させて油ちょう処理する工程、
(b)工程(a)によって得られた油ちょう産物を細断して攪拌する工程、および
(c)工程(b)によって得られた混合物を成形する工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
工程(a)における油ちょう処理が、少なくとも衣材が喫食可能な状態になるまで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)において成形された混合物を加熱する工程(d)をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)または工程(d)によって得られる食品を凍結乾燥する工程をさらに含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、油ちょう食品に関するものである。
【0002】
背景技術
唐揚げなどの衣がある油ちょう食品を凍結乾燥すると、衣が割れたり崩れたりしやすくなり、外観や商品性を損なうという問題がある。しかし、この問題に取り組んだ研究報告はほとんど存在しない。凍結乾燥食品を開発する上では、この問題を解消することが望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【0003】
本発明者らは、衣つきの揚げ物食品を細断して攪拌し、再度成形することにより、凍結乾燥しても衣の割れや脱落が低減された食品が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0004】
従って、本発明によれば、凍結乾燥しても衣の割れや脱落が生じにくい油ちょう食品が提供される。
【0005】
そして、本発明には、以下の発明が包含される。
(1)揚げ衣を含有する油ちょう食品を製造する方法であって、
(a)中種に衣材を付着させて油ちょう処理する工程、
(b)工程(a)によって得られた油ちょう産物を細断して攪拌する工程、および
(c)工程(b)によって得られた混合物を成形する工程
を含んでなる、方法。
(2)工程(a)における油ちょう処理が、少なくとも衣材が喫食可能な状態になるまで行われる、前記(1)に記載の方法。
(3)工程(c)において成形された混合物を加熱する工程(d)をさらに含んでなる、前記(1)または(2)に記載の方法。
(4)工程(c)または工程(d)によって得られる食品を凍結乾燥する工程をさらに含んでなる、前記(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の方法によって製造される、油ちょう食品。
(6)揚げ衣の断片を中種の内側に含んでなる、油ちょう食品。
(7)凍結乾燥食品である、前記(5)または(6)に記載の油ちょう食品。
【0006】
本発明によれば、乾燥しても衣の割れや脱落が生じにくい油ちょう食品が提供され、この効果は、凍結乾燥のような過酷な乾燥条件においても得ることができる。また、本発明によれば、これまでにない新たな食感を有する油ちょう食品を製造することも可能である。
【発明の具体的説明】
【0007】
本発明では、揚げ衣を有する揚げ物食品の製造過程において、少なくとも衣が喫食可能になる(衣に火が通る)程度に油ちょう処理した段階で油ちょう産物を細断し、混合し、成形する、という改変が加えられる。このような製法により、油ちょうされた状態の衣が揚げ物の内部に練りこまれ、その食品の風味や揚げ物特有の香ばしさを損なうことなく新たな食感を有するとともに、乾燥しても衣の割れや脱落が生じにくい油ちょう食品が提供される。
【0008】
本発明に用いられる中種は、揚げ物食品の具材として用いることのできるものであればよく、特に制限されない。このような中種は、製造しようとする油ちょう食品に応じて適宜選択すればよい。
【0009】
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明に用いられる中種は食肉を含むものまたは食肉そのものである。食肉を含む中種を用いると、油ちょう後の細断および混合により結着性の高い混合物が得られることがあり、これによりその後の成形が容易となることがある。本発明において「食肉」とは、食用の肉であればよく、特に限定されない。本発明に用いられる食肉としては、畜肉、魚肉などが挙げられる。さらに、畜肉としては、例えば、鶏肉、鴨肉、豚肉、牛肉、羊肉などが挙げられ、魚肉としては、例えば、マダイ、スズキ、サケ、タラ、シシャモ、カレイ、ワカサギ、サワラ、イワシ、アジ、サメなどが挙げられる。本発明の好ましい実施態様によれば、本発明に用いられる食肉は畜肉とされ、より好ましくは鶏肉とされる。中種に含まれる食肉以外の食材は、製造しようとする油ちょう食品の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0010】
本発明に用いられる衣材は、衣を有する揚げ物食品の製造に用いられるものであればよく、特に制限されない。このような衣材は、製造しようとする油ちょう食品の種類に応じて適宜選択すればよい。また、衣材としては、唐揚粉やブレッダーのような固形状のものや、バッターのような流動状のものが知られているが、本発明にはいずれの状態の衣材も用いることができる。本発明の好ましい実施態様によれば、本発明に用いられる衣材は、バッターのような流動状のものとされる。
【0011】
本発明の好ましい実施態様によれば、中種は鶏肉とされ、衣材は唐揚用バッターとされる。鶏唐揚はもともと外観が茶色いため、これらの材料を用いて本発明の方法に従って製造した油ちょう食品は、通常の鶏唐揚と同様の外観を有し、また、衣が油ちょうされた状態で内部に練り込まれるため、鶏唐揚としての風味も損なうことがない。
【0012】
油ちょう処理は、中種に付着させた衣材を衣として固める(好ましくは喫食可能な状態とする)のに必要な油ちょう処理であり、中種の中心まで火が通らなくてもよい。この油ちょう処理により、油ちょう食品に香ばしい風味を与えることができる。中種の中心まで火を通さない場合には、その後に細断して撹拌したときに結着性のある混合物が得られることがあるため、次工程における成形が容易となることがある。一方で、中種の中心まで火を通す場合など、細断して攪拌したときに結着性のある混合物が得られないときは、混合物に結着素材を添加することにより、結着性のある混合物を得ることができる。
【0013】
油ちょう産物の細断は、公知の手段によって行うことができる。具体的な細断手段は、油ちょう産物の状態、中種の種類、衣材の種類、加熱加減などの条件に応じて、当業者であれば適宜選択することができる。また、中種が食肉を含む場合には、油ちょう産物の細断は、攪拌したときに結着性のある混合物が得られるように行うことが望ましい。このような結着性を得るための細断は、中種に含まれる食肉が生の食肉である場合に、その生食肉を攪拌したときに結着性が得られるような大きさとなるように行うことができる。このような大きさは、食肉の種類によって異なるため、一概に定めることはできないが、例えば、肉片の最も長い辺の長さが10mm以下、好ましくは7mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは4mm以下、さらに好ましくは3mm以下等の大きさを例示することができる。
【0014】
油ちょう産物の細断後の攪拌は、公知の手段によって行うことができる。具体的な攪拌手段は、細断された油ちょう産物の状態、中種の種類、衣材の種類、加熱加減などの条件に応じて、当業者であれば適宜選択することができる。また、中種が食肉を含む場合には、油ちょう産物の細断後の攪拌は、結着性を有する混合物が得られるように行うことが望ましい。この結着性は、後の混合物の成形を可能とする程度の結着性であれば足りる。さらに、攪拌しても結着性が得られないこともあるが、その場合には、混合物に結着素材を添加することにより、結着性のある混合物を得ることができる。
【0015】
油ちょう産物の細断および攪拌は、一つの装置を用いて同時に行うこともできる。
【0016】
油ちょう産物の細断および攪拌によって得られる混合物は所望の形に成形され、これにより本発明の油ちょう食品を得ることができる。
【0017】
成形は、製造しようとする油ちょう食品の形に応じて行うことができる。例えば、使用した中種と衣材を用いた通常の揚げ物と同じ形の油ちょう食品が得られるように、混合物を成形してもよい。
【0018】
成形後に、混合物をさらに加熱してもよい。特に、成形後の混合物が喫食可能な程度まで加熱されていない場合には、成形後の加熱は、成形後の混合物が喫食可能な状態になるように行うことができる。また、この加熱により、油ちょう食品にさらに香ばしい風味を与えることもできる。この加熱の具体的手段は特に制限されるものではなく、オーブンによる加熱、油ちょう処理(つまり2回目の油ちょう処理)による加熱など、いずれの手段であってもよい。ここで、本発明における「油ちょう食品」との用語は、調理過程において少なくとも1回の油ちょう処理を経た食品を意味する。よって、最後の加熱手段が油ちょう処理でなくとも、本発明に従って得られる食品は油ちょう食品である。また、加熱の具体的手段は、製造される本発明の油ちょう食品の食感や香味を調節するために選択してもよい。本発明の好ましい実施態様によれば、加熱手段は油ちょう処理(つまり2回目の油ちょう処理)とされる。
【0019】
上記の加熱処理によって得られる本発明の油ちょう食品は、そのまま喫食してもよいが、乾燥させてもよい。乾燥手段としては、大気中に静置する手段、天日干し、凍結乾燥などの公知の食品乾燥手段を用いることができる。凍結乾燥は、真空凍結乾燥法などの一般的な方法に従って行うことができる
【0020】
本発明の油ちょう食品の乾燥品(特に凍結乾燥品)は、衣の割れや脱落が生じにくいため、衛生環境を高く保持したい場所、例えば、災害時の避難所などにおいて喫食するのに適している。
【0021】
本発明では、揚げ衣の断片が中種の内側に含まれることにより、油ちょう食品の衣の脱落が抑制される。従って、本発明の他の態様によれば、揚げ衣の断片を中種の内側に含んでなる油ちょう食品が提供される。この油ちょう食品もまた、凍結乾燥食品とすることができる。
【実施例
【0022】
以下の実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例および比較例:油ちょう食品の製造およびその評価
(1)バッターの作製
衣材としてのバッターを次のようにして作製した。
【0024】
実施例1および比較例1
まず、規定量のバッター原料(水100gに対して粉体(SHOWAから揚げ粉 しょうゆ味:昭和産業株式会社製)を100g)をボールに投入し、ホイッパーで1分間混合した。その後、混合物をハンドミキサーで1分間撹拌した。その後、攪拌後の混合物をパンチングボールで濾し、得られた流動体をバッターとして用いた。
【0025】
実施例2および比較例2
まず、規定量のバッター原料(水100gに対して粉体(から揚げの素No.1:日本食研株式会社製)を110g)をボールに投入し、ホイッパーで1分間混合した。その後、混合物をハンドミキサーで1分間撹拌した。その後、攪拌後の混合物をパンチングボールで濾し、得られた流動体をバッターとして用いた。
【0026】
(2)鶏唐揚を模した油ちょう食品の作製
鶏唐揚を模した油ちょう食品を、次のようにして作製した。
【0027】
実施例1および実施例2
まず、中種(鶏もも肉)20g~26gに、上記(1)で得られたバッターを5g付着させ、175℃で45秒間油ちょうした。その後、油ちょう産物を5℃に冷却した。冷却後、油ちょう産物をホイッパーでつぶし、荒く砕いた後、ケンミックスで油ちょう産物5個分を10秒間撹拌し、細断した。得られた混合物を15~20gずつ計りとり、再成形の後、凍結した。その後、凍結品10個あたり170℃で2分30秒間油ちょうした。
【0028】
比較例1および比較例2
比較例として、通常の鶏唐揚を次のようにして作製した。まず、中種(鶏もも肉)20g~26gに、上記(1)で得られたバッターを5g付着させ、175℃で45秒間油ちょうした後に凍結した。その後、凍結品10個あたり170℃で3分30秒間油ちょうした。
【0029】
こうして得られた油ちょう食品を喫食したところ、実施例1および実施例2の油ちょう食品は、従来の油ちょう食品と比べて噛み切り易く、咀嚼、嚥下が容易であり、従来にはない新たな食感・香味を呈していた。
【0030】
(3)油ちょう食品の凍結乾燥
上記(2)で得られた油ちょう食品を凍結させた後、真空凍結乾燥機にて、水分活性が十分に低下するまで凍結乾燥した。
【0031】
凍結乾燥品の品質を確認するため、凍結乾燥品を半割し、水分活性値を水分活性計(Aw-ラボ:株式会社GSIクレオス製)にて測定した。その結果、水分活性値は以下の表1に記載の通りとなり、十分に乾燥されていることが分かった。
【0032】
【表1】
【0033】
こうして得られた凍結乾燥済み油ちょう食品を喫食したところ、実施例1および実施例2の油ちょう食品は、唐揚特有の香味を呈しつつ、喫食時の衣の離散が軽微で、適度な崩壊性を示していた。
【0034】
(4)鶏唐揚を模した油ちょう食品の凍結乾燥品の評価(真空引き)
上記(3)で得られた凍結乾燥品について、衣の脱落程度を評価した。具体的には、凍結乾燥後の油ちょう食品を袋に入れ、真空引きをした後、開封し、袋内の衣の脱落の有無を確認した。衣の脱落の程度を示す指標として、処理後に脱落した衣を計量し、以下の式により衣脱落率を算出した。
【数1】
【0035】
結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0036】
表2からわかるように、本発明の油ちょう食品は、凍結乾燥したとしても、衣の脱落が抑えられることが明らかとなった。
【0037】
(5)鶏唐揚を模した油ちょう食品の凍結乾燥品の評価(振盪)
上記(3)で得られた凍結乾燥品について、衣の脱落程度を評価した。具体的には、凍結乾燥後の油ちょう食品を、瓶(口内径×胴径×全高(mm):60.2×96×180(商品名:PET 広口瓶 1000mL)に20~25g入れ、蓋をした。その後、振とう機(シェーカー SA300:ヤマト科学製)にセットし、メモリ設定7で20秒間垂直振盪を行った。その後、脱落した衣部分を回収して計量し、上記(4)に記載した式により脱落率を算出した。
【0038】
結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0039】
表3からわかるように、本発明の油ちょう食品は、凍結乾燥後に垂直振盪するという厳しい条件下においても、衣の脱落が抑えられることが明らかとなった。