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特許7361548リチウムイオン電池用正極の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法
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  • 特許-リチウムイオン電池用正極の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法 図1
  • 特許-リチウムイオン電池用正極の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法 図2
  • 特許-リチウムイオン電池用正極の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法 図3
  • 特許-リチウムイオン電池用正極の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法 図4
  • 特許-リチウムイオン電池用正極の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20231006BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231006BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M4/139
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019166303
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021044181
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 花歩
(72)【発明者】
【氏名】小林 真也
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133237(JP,A)
【文献】特開2006-324118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52 - 10/667
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/05 - 10/0587
H01M 10/36 - 10/39
H01M 50/40 - 50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池から取り出した正極活物質とリチウム及び/又はリチウム含有化合物とを混合する工程を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用正極の製造方法。
【請求項2】
リチウムイオン電池から取り出した正極活物質を含む正極活物質層と金属リチウムとを、セパレータを介して対向させた状態で短絡させる工程を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用正極の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用正極を、セパレータを介してリチウムイオン電池用負極と組み合わせる工程を含むことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(二次)電池は、高容量で小型軽量な二次電池として、近年様々な用途に多用されている。一般的なリチウムイオン電池は、正極活物質及び非水電解液を含む正極活物質層と、同様に負極活物質及び非水電解液を含む負極活物質層とがセパレータを挾んだ状態で容器に収納されて構成されている。
【0003】
正極活物質の材料には、ニッケルの酸化物やコバルトの酸化物が使用されることが多い。ニッケルやコバルトといった金属は価格が高価であり、また、そのまま廃棄した場合には環境負荷を与えるためリサイクルして使用することが望まれている。
【0004】
特許文献1には、廃リチウムイオン電池又は廃電極材から正極活物質を回収する方法に関する技術が記載されている。
特許文献1では、廃リチウムイオン電池又は廃電極材を破砕して得られた破砕物からセパレータを分離除去した後、大気中400~550℃で加熱することによりバインダに含まれている有機物を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-195073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、廃リチウムイオン電池(以下、使用済みリチウムイオン電池ともいう)から新たな正極活物質を製造するまでに、破砕、加熱、分離、精製といった多数の工程を経る必要があり、リサイクル費用が高いという問題があった。
【0007】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、簡便な操作で、リチウムイオン電池からリチウムイオン電池用正極を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、リチウムイオン電池から取り出した正極活物質とリチウム及び/又はリチウム含有化合物とを混合する工程を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用正極の製造方法、リチウムイオン電池から取り出した正極活物質を含む正極活物質層と金属リチウムとを、セパレータを介して対向させた状態で短絡させる工程を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用正極の製造方法、及び、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用正極を、セパレータを介してリチウムイオン電池用負極と組み合わせる工程を含むことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、簡便な操作で、リチウムイオン電池からリチウムイオン電池用正極を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態において用いられるリチウムイオン電池の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態における、電極活物質とリチウム及び/又はリチウム含有化合物を混合する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態において用いられるリチウムイオン電池の一例を模式的に示す断面図である。
図4図4は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態においてリチウムイオン電池から電極活物質層を取り出す方法の一例を示す模式図である。
図5図5は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態において、正極活物質層と金属リチウムとを、セパレータを介して対向させた状態で短絡させる工程の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
また、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法において用いられるリチウムイオン電池は、使用の有無を問わず全てのリチウムイオン電池を含む。
【0012】
[リチウムイオン電池用正極の製造方法]
[第一実施形態]
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態は、リチウムイオン電池から取り出した正極活物質とリチウム及び/又はリチウム含有化合物とを混合する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態は、リチウムイオン電池から取り出した正極活物質とリチウム及び/又はリチウム含有化合物とを混合する工程を含んでいる。
正極活物質とリチウム及び/又はリチウム含有化合物とを混合することにより、正極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンがドープされて、正極活物質の電池容量が増加又は回復する。
【0014】
リチウムイオン電池から正極活物質を取り出す方法は特に限定されず、正極活物質を取り出したいリチウムイオン電池の構造に合わせた方法を採用することができる。
【0015】
図1は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態において用いられるリチウムイオン電池の一例を模式的に示す断面図である。
リチウムイオン電池1は、正極集電体11と、正極集電体11上に形成された正極活物質を含む正極活物質層13とを含む正極10と、負極集電体21と、負極集電体21上に形成された負極活物質を含む負極活物質層23とを含む負極20とが、セパレータ30を介して対向するよう配置された蓄電素子40を備えており、蓄電素子40の外側が電池外装体50で覆われている。
なお、正極活物質層13及び負極活物質層23には、バインダが含まれている。
【0016】
電池外装体50の内面には絶縁層(図示しない)が形成されており、正極集電体11と負極集電体21は互いに絶縁されている。また、正極集電体11及び負極集電体21には外部電極(図示しない)が接続されており、外部電極の一部は電池外装体50の外側に引き出されている。
【0017】
以下に、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法に用いることができるリチウムイオン電池の構成の例と、そのリチウムイオン電池の構成に適した正極活物質の取り出し方法を記載する。
【0018】
リチウムイオン電池を構成する正極活物質層がバインダを含む場合、リチウムイオン電池を構成する蓄電素子を溶媒に浸漬することが好ましい。
リチウムイオン電池を構成する蓄電素子を溶媒に浸漬させて、バインダを含む正極活物質層を膨潤させた後、スキージ等により正極活物質を掻き取って回収することができる。
【0019】
溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、イソプロパノール(IPA)等が好ましい。
【0020】
リチウムイオン電池を構成する正極集電体が、マトリックス樹脂と導電性フィラーとを含む正極樹脂集電体である場合、該マトリックス樹脂の融点以上に蓄電素子を加熱することが好ましい。
リチウムイオン電池を構成する蓄電素子を、正極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂の融点以上の温度で加熱することによって、正極樹脂集電体を軟化させて正極樹脂集電体の少なくとも一部を除去して、正極活物質層を外部に取り出すことができる。
【0021】
蓄電素子を加熱する温度は、正極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂の融点以上であればよいが、200℃未満であることがより好ましい。
負極集電体が、マトリックス樹脂と導電性フィラーとを含む負極樹脂集電体である場合には、加熱温度は、負極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂の融点未満の温度であることが好ましい。
【0022】
リチウムイオン電池を構成する正極集電体が、マトリックス樹脂と導電性フィラーとを含む正極樹脂集電体である場合、マトリックス樹脂を溶解又は膨潤させることのできる溶媒中に、蓄電素子を浸漬させることが好ましい。
マトリックス樹脂を溶解又は膨潤させることのできる溶媒中に蓄電素子を浸漬することで、正極樹脂集電体を膨潤、軟化させて、正極樹脂集電体の少なくとも一部を除去して、正極活物質を取り出すことができる。
【0023】
溶媒のSP値とマトリックス樹脂のSP値の差の絶対値は、1.0未満であることが好ましい。
【0024】
なお、本発明におけるSP値[単位は(cal/cm0.5]は、Robert F Fedorsらの著によるPolymer engineering and science第14巻、151~154ページに記載されている方法で計算した25℃における値である。
【0025】
リチウムイオン電池を構成する正極集電体が、正極シール材を介してセパレータと接着されている場合、蓄電素子を、正極シール材を構成する樹脂の融点以上の温度に加熱することが好ましい。
蓄電素子を、正極シール材を構成する樹脂の融点以上の温度に加熱することで、正極シール材を軟化させて、正極シール材の少なくとも一部を蓄電素子から除去し、正極活物質を取り出すことができる。
【0026】
蓄電素子を加熱する温度は、正極シール材を構成する樹脂の融点以上の温度であればよいが、200℃未満であることがより好ましい。
さらに、負極集電体とセパレータとが負極シール材を介して接着されている場合には、加熱温度は、負極シール材を構成する樹脂の融点未満の温度であることが好ましい。
【0027】
リチウムイオン電池を構成する正極集電体が、正極シール材を介してセパレータと接着されている場合、蓄電素子を、正極シール材が膨潤、軟化する溶媒に浸漬することが好ましい。
蓄電素子を、正極シール材が膨潤、軟化する溶媒に浸漬することで、正極シール材を膨潤、軟化させて、正極シール材の少なくとも一部を蓄電素子から除去し、正極活物質を取り出すことができる。
【0028】
溶媒のSP値と正極シール材を構成する樹脂のSP値との差の絶対値は、1.0未満であることが好ましい。
【0029】
リチウムイオン電池を構成する正極集電体が、正極シール材を介してセパレータと接着されている場合、正極シール材を、正極集電体とセパレータとが対向する方向に略垂直な方向に沿って切断することが好ましい。
正極シール材を、正極集電体とセパレータとが対向する方向に略垂直な方向に沿って切断することで、正極シール材を厚さ方向に2分割して、正極シール材を境として、正極集電体とセパレータとを分離して、正極活物質を取り出すことができる。
【0030】
リチウムイオン電池から正極活物質を取り出す工程は、正極活物質を失活させない条件で行うことが好ましい。
正極活物質を失活させてしまった場合、続く工程において正極活物質の電池容量を増加又は回復させることが難しくなる場合がある。
正極活物質を失活させないためには、正極活物質を水分と接触させないことが好ましい。
従って、リチウムイオン電池を浸漬させる溶媒としては、非水溶媒が好ましい。
また、リチウムイオン電池から正極活物質を取り出す際の雰囲気は、露点-30℃以下のドライルーム環境であることが好ましい。
【0031】
なお、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態において、リチウムイオン電池から取り出された正極活物質は、負極活物質を含まない状態であることが好ましい。また、リチウムイオン電池から取り出された正極活物質は、導電助剤やバインダを含んでいてもよい。
【0032】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法では、リチウムイオン電池から取り出された正極活物質を、リチウム及び/又はリチウム含有化合物と混合する。
正極活物質とリチウム及び/又はリチウム含有化合物とを混合することによって、正極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンがドープされて、正極活物質の電池容量を増加又は回復させることができる。
【0033】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態において、リチウムイオン電池から取り出された正極活物質を、リチウム及び/又はリチウム含有化合物と混合する方法の一例について、図2を参照しながら説明する。
【0034】
図2は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態における、電極活物質とリチウム及び/又はリチウム含有化合物を混合する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図2に示すように、リチウムイオン電池から取り出した正極活物質14にリチウム及び/又はリチウム含有化合物60と溶媒70を混合して撹拌することで、正極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープして、電池容量が増加又は回復した正極活物質15を得る。
【0035】
リチウムは金属リチウムを意味する。
リチウム含有化合物は、正極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンを供給できるものであればよく、例えば、リチウム合金、リチウム塩等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
リチウム合金としては、例えば、Li-Si合金、Li-Sn合金、Li-Al合金、Li-Al-Mn合金等が挙げられる。
リチウム塩としては、例えば、炭酸リチウムやクエン酸リチウム等が挙げられる。
【0036】
リチウム及びリチウム含有化合物の体積平均粒子径は特に限定されないが、10~1000μmであることが好ましい。
【0037】
得られた正極活物質は、必要に応じてバインダ、導電助剤等を添加した後、正極活物質層として正極集電体上に成形することによって、リチウムイオン電池用正極となる。
【0038】
正極活物質に規定量のリチウム及び/又はリチウムイオンがドープされたかどうかは、ドープ前後の正極活物質の開回路電圧(OCV)を測定することで確認することができる。ドープ後の正極活物質のOCVは、ドープ前の正極活物質のOCVよりも小さくなる。
ドープ後の正極活物質のOCVは、使用する正極活物質の種類に依存する充放電曲線(OCV曲線)によって異なるが、2.5V以下であることが好ましい。
【0039】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態では、リチウム及び/又はリチウム含有化合物と混合する工程により得られた正極活物質を含む正極活物質層を正極集電体上に形成する。
正極活物質層を正極集電体上に形成する方法は特に限定されないが、正極活物質と溶媒を含む正極活物質スラリーを正極集電体上に塗布した後に溶媒を除去する方法や、正極活物質スラリーを基材上に塗布した後に溶媒を除去し、得られた正極活物質層を正極集電体上に転写する方法等が挙げられる。
【0040】
以上の工程により、電池容量が増加又は回復した正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体上に形成されたリチウムイオン電池用正極を得ることができる。
【0041】
[第二実施形態]
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態は、リチウムイオン電池から取り出した正極活物質を含む正極活物質層と金属リチウムとを、セパレータを介して対向させた状態で短絡させる工程を含むことを特徴とする。
【0042】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態において、リチウムイオン電池から取り出した正極活物質からなる正極活物質層は、リチウムイオン電池を構成する正極活物質層をその形状を維持したまま取り出したものであってもよく、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態で説明した方法によってリチウムイオン電池から取り出した正極活物質を、シート状に成形したものであってもよい。
【0043】
リチウムイオン電池を構成する正極活物質層をその形状を維持したまま取り出す方法は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン電池において、正極活物質層と負極活物質層との間にセパレータが2枚以上配置されており、正極集電体、正極活物質層及び正極側セパレータからなる正極シートと、負極集電体、負極活物質層及び負極側セパレータからなる負極シートとを容易に分離することができる場合には、リチウムイオン電池から正極シートを取り出す方法が挙げられる。取り出された正極シートでは、リチウムイオン電池を構成する正極活物質層の形状がそのまま維持されている。
【0044】
また、上記構成以外のリチウムイオン電池から、正極活物質層をその形状を維持したまま取り出す方法としては、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第一実施形態で説明した、セパレータと正極集電体とを分離する方法を、セパレータと負極集電体とを分離する方法として適用する方法が挙げられる。セパレータと負極集電体とを分離することで、蓄電素子から負極集電体及び負極活物質層を分離して、正極集電体、正極活物質層及びセパレータからなる正極シートを得ることができる。取り出された正極シートでは、リチウムイオン電池を構成する正極活物質層の形状がそのまま維持されている。
【0045】
リチウムイオン電池から取り出した正極活物質をシート状に成形する方法としては、例えば、取り出した正極活物質と溶媒を含む正極活物質スラリーを正極集電体上又は基材上に塗布した後に溶媒を除去する方法が挙げられる。正極活物質スラリーを基材上に塗布した場合、溶媒を除去した後に、得られた正極活物質層を正極集電体上に転写してもよい。
【0046】
[リチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態において用いられるリチウムイオン電池の一例を模式的に示す。
図3は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態において用いられるリチウムイオン電池の一例を模式的に示す断面図である。
リチウムイオン電池2は、正極集電体11と、正極集電体11上に形成された正極活物質を含む正極活物質層13とを含む正極10と、負極集電体21と、負極集電体21上に形成された負極活物質を含む負極活物質層23とを含む負極20とが、2枚のセパレータ31(正極側セパレータ31a及び負極側セパレータ31b)を介して対向するよう配置された蓄電素子41を備えており、外側を電池外装体51で覆われている。
【0047】
正極活物質層はバインダを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0048】
図4は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態においてリチウムイオン電池から電極活物質層を取り出す方法の一例を示す模式図である。
図4に示すように、リチウムイオン電池2から、負極側セパレータ31b、負極活物質層23及び負極集電体21からなる負極シート120を分離することによって、正極側セパレータ31a、正極活物質層13及び正極集電体11からなる正極シート110を取り出す。
【0049】
正極活物質層13の一方の主面は正極集電体11と接しており、他方の主面は正極側セパレータ31aと接している。正極活物質層13の側面は、正極集電体11及び正極側セパレータ31aと接さずに露出していてもよいが、正極集電体11又は正極側セパレータ31aにより覆われていてもよい。
【0050】
負極活物質層23の一方の主面は負極集電体21と接しており、他方の主面は負極側セパレータ31bと接している。負極活物質層23の側面は、負極集電体21及び負極側セパレータ31bと接さずに露出していてもよいが、負極集電体21又は負極側セパレータ31bにより覆われていてもよい。
【0051】
正極シート及び負極シートを構成するセパレータは、それぞれ、リチウムイオン電池内に2枚以上存在するセパレータのうちの1枚であってもよい。
【0052】
図4に示した方法では、正極側セパレータ31a、正極活物質層13及び正極集電体11からなる正極シート110が得られる。
正極シート110を構成する正極活物質層13は、リチウムイオン電池2を構成する正極活物質層13が、その形状を維持したまま取り出されたものである。
【0053】
なお、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態において、リチウムイオン電池から取り出された正極活物質層は、負極活物質を含まない状態であることが好ましい。また、リチウムイオン電池から取り出された正極活物質層は、導電助剤やバインダ等を含んでいてもよく、セパレータや正極集電体と分離されていなくてもよい。
【0054】
リチウムイオン電池から正極活物質を含む正極活物質層を取り出す工程は、正極活物質を失活させない条件で行うことが好ましい。
正極活物質を失活させてしまった場合、続く工程において正極活物質の電池容量を増加又は回復させることが難しくなる場合がある。
正極活物質を失活させないためには、正極活物質を水分と接触させないことが好ましい。
従って、蓄電素子を浸漬させる溶媒としては、非水溶媒が好ましい。
また、リチウムイオン電池から正極活物質を取り出す際の雰囲気は、露点-30℃以下のドライルーム環境であることが好ましい。
【0055】
取り出された正極活物質層に正極活物質以外の成分が含まれている場合、必要に応じて、これらの成分を取り除く分離操作を行ってもよい。
【0056】
図5は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法の第二実施形態において、正極活物質層と金属リチウムとを、セパレータを介して対向させた状態で短絡させる工程の一例を示す模式図である。
図5では、図4で示す工程において取り出された正極シート110と金属リチウムシート80とを、非水電解液を含むセパレータ(正極側セパレータ30a)を介して対向させた状態で短絡させることによって、正極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープして、正極活物質の電池容量を増加又は回復させる。
図5に示す方法によって得られる正極シートは、それ自体をリチウムイオン電池用正極として用いてもよい。
【0057】
正極活物質に規定量のリチウム及び/又はリチウムイオンがドープされたかどうかは、ドープ前後の正極活物質の開回路電圧(OCV)を測定することで確認することができる。ドープ後の正極活物質のOCVは、ドープ前の正極活物質のOCVよりも小さくなる。
ドープ後の正極活物質のOCVは、使用する正極活物質の種類に依存する充放電曲線(OCV曲線)によって異なるが、2.5V以下であることが好ましい。
【0058】
正極活物質と金属リチウムとを、セパレータを介して対向させた状態で短絡させる工程における条件は、リチウムイオン電池から正極活物質を取り出す工程と同様に、正極活物質を失活させない条件であることが好ましい。
【0059】
なお、正極活物質と金属リチウムが短絡しているとは、正極活物質と金属リチウムとが外部で電気的に接続されている場合を指す。従って、正極活物質と金属リチウムとが導線等により電気的に接続されている場合だけでなく、正極活物質と金属リチウムとの間が所定の回路(例えば、市販の充放電装置)によって接続され、正極活物質-金属リチウム間の電気的接続が確保されている場合を含む。
【0060】
[リチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法には、一般的なリチウムイオン電池を用いることができる。
一般的なリチウムイオン電池としては、例えば、正極集電体及び正極集電体上に形成された正極活物質を含む正極組成物からなる正極活物質層を備える正極、負極集電体及び負極集電体上に形成された負極活物質を含む負極組成物からなる負極活物質層を備える負極、並びに、正極活物質層と負極活物質層との間に配置されたセパレータ、からなる蓄電素子を備えるリチウムイオン電池が挙げられる。
【0061】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法で用いられるリチウムイオン電池の種類は特に限定されない。ただし、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法は、正極活物質の電池容量を増加又は回復させることができるため、電池容量が初期(1サイクル目)の80%以下に低下したリチウムイオン電池を用いることが好ましい。
【0062】
正極は、正極集電体と、正極活物質を含む正極活物質層とを含む。
正極活物質層には、正極活物質のほかに、導電助剤、非水電解液、バインダ、粘着性樹脂等が含まれていてもよい。
【0063】
正極集電体は、金属からなる金属集電体であってもよく、マトリックス樹脂と導電性フィラーからなる正極樹脂集電体であってもよいが、正極樹脂集電体であることが好ましい。
【0064】
正極集電体の厚さは特に限定されないが、5~150μmであることが好ましい。
【0065】
金属集電体としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等を用いることができる。
【0066】
正極樹脂集電体は、マトリックス樹脂と導電性フィラーとを含む。
【0067】
導電性フィラーは、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、カーボンが好ましい。導電性フィラーがカーボンであると、取り出された正極活物質に、金属が混入することを防止することができる。取り出された正極活物質に金属が混入していると、正極活物質の電池容量の増加又は回復が妨げれられることがある。
これらの導電性フィラーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電性フィラーとしては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電性フィラーの材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0068】
導電性フィラーの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0069】
導電性フィラーの形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0070】
導電性フィラーは、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電性フィラーが導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0071】
正極樹脂集電体中の導電性フィラーの重量割合は、5~90重量%であることが好ましく、20~80重量%であることがより好ましい。
特に、導電性フィラーがカーボンの場合、導電性フィラーの重量割合は、20~30重量%であることが好ましい。
【0072】
正極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂の融点は、200℃未満であることが好ましい。
【0073】
融点が200℃未満のマトリックス樹脂としては、ポリアミド(PA)、ポリオレフィン(PO)、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリシクロオレフィン(PCO)等が挙げられる。
【0074】
正極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂のSP値は、8~12であることが好ましい。
SP値が8~12である第1のマトリックス樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(PO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
SP値が8~12であるポリオレフィンとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリシクロオレフィン(PCO)及びポリメチルペンテン(PMP)等が挙げられる。これらの中では、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)が好ましい。
【0075】
正極樹脂集電体は、例えば、マトリックス樹脂及び導電性フィラーを溶融混練して得られる導電性樹脂組成物をフィルム状に成形することにより得ることができる。
導電性樹脂組成物をフィルム状に成形する方法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法及びカレンダー法等の公知のフィルム成形法が挙げられる。なお、正極樹脂集電体は、フィルム成形以外の成形方法によっても得ることができる。
【0076】
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0077】
正極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
【0078】
本明細書において、正極活物質の体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0079】
導電助剤は、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電助剤の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0080】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0081】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0082】
導電助剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電助剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0083】
非水電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する公知の非水電解液を使用することができる。
【0084】
電解質としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩、LiN(CFSO(LiFSIともいう)、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiPFである。
【0085】
非水溶媒としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0086】
ラクトン化合物としては、5員環(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ-バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0087】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びブチレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0088】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0089】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。
アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。
スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
非水溶媒の内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びリン酸エステルであり、更に好ましいのはラクトン化合物、環状炭酸エステル及び鎖状炭酸エステルであり、特に好ましいのは環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液である。最も好ましいのはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液、又は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液である。
【0091】
正極活物質層には、さらに、溶液乾燥型の公知のバインダ(カルボキシメチルセルロース、SBRラテックス及びポリフッ化ビニリデン等)や粘着性樹脂等が含まれていてもよい。
ただし、公知のバインダではなく、粘着性樹脂を含むことが望ましい。正極活物質層が上記の溶液乾燥型の公知のバインダを含む場合には、正極活物質層を形成する工程の後に乾燥を行うことで正極活物質層を一体化する必要があるが、粘着性樹脂を含む場合には、乾燥を行うことなく、常温において僅かな圧力で正極活物質層を一体化することができる。乾燥を行わない場合、加熱による正極活物質層の収縮や亀裂の発生がおこらないため好ましい。
また、正極活物質、非水電解液及び粘着性樹脂を含む正極組成物は、正極活物質層を形成する工程を経た後であっても、正極活物質層が非結着体のままで維持される。正極活物質層が非結着体であれば、正極活物質層を厚くすることができ、高容量の電池を得ることができ好ましい。
【0092】
粘着性樹脂としては、例えば、特開2017-054703号公報に記載された非水系二次電池活物質被覆用樹脂に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、特開平10-255805公報等に粘着剤として記載されたもの等を好適に用いることができる。
ここで、非結着体とは、正極活物質層を構成する正極活物質同士が、互いに結合していないことを意味し、結合とは不可逆的に正極活物質同士が固定されていることを意味する。
なお、溶液乾燥型のバインダは、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して正極活物質同士を強固に接着固定するものを意味する。一方、粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性(水、溶剤、熱などを使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。
溶液乾燥型のバインダと粘着性樹脂とは異なる材料である。
【0093】
正極活物質は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層により被覆された被覆正極活物質であってもよい。
正極活物質の周囲が被覆層で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
【0094】
被覆層を構成する高分子化合物としては、特開2017-054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
【0095】
上述した被覆正極活物質を製造する方法について説明する。
被覆正極活物質は、例えば、高分子化合物及び正極活物質並びに必要により用いる導電剤を混合することによって製造してもよく、被覆層に導電剤を用いる場合には高分子化合物と導電剤とを混合して被覆材を準備したのち、該被覆材と電極活物質とを混合することにより製造してもよく、高分子化合物、導電剤及び電極活物質を混合することによって製造してもよい。
なお、正極活物質と高分子化合物と導電剤とを混合する場合、混合順序には特に制限はないが、正極活物質と高分子化合物とを混合した後、更に導電剤を加えて更に混合することが好ましい。
上記方法により、高分子化合物と必要により用いる導電剤を含む被覆層によって正極活物質の表面の少なくとも一部が被覆される。
【0096】
被覆材の任意成分である導電剤としては、正極活物質層を構成する導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0097】
負極は、負極集電体と、負極活物質を含む負極活物質層とを含む。
負極活物質層には、負極活物質のほかに、導電助剤、非水電解液、バインダ、粘着性樹脂等が含まれていてもよい。
導電助剤、非水電解液、バインダ及び粘着性樹脂は、正極と同様のものを好適に用いることができる。
また、負極活物質は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層により被覆された被覆負極活物質であってもよい。被覆負極活物質を構成する被覆層は、被覆正極活物質と同様のものが好ましい。
【0098】
負極集電体は、金属からなる金属集電体であってもよく、マトリックス樹脂と導電性フィラーからなる負極樹脂集電体であってもよい。
【0099】
負極集電体の厚さは特に限定されないが、5~150μmであることが好ましい。
【0100】
負極集電体としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等を用いることができる。
【0101】
負極樹脂集電体は、マトリックス樹脂と導電性フィラーとを含む。
負極樹脂集電体を構成する導電性フィラーとしては、正極樹脂集電体を構成する導電性フィラーと同様のものを好適に用いることができる。
【0102】
負極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂としては、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリオレフィン(PO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリメチルペンテン(PMP)等が挙げられる。
【0103】
リチウムイオン電池を構成する正極集電体が正極樹脂集電体であり、負極集電体が負極樹脂集電体である場合、負極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂の融点は、正極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂の融点よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことがさらに好ましい。
また、負極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂のSP値と、正極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂のSP値との差の絶対値は、3.5を超えることが好ましい。
【0104】
負極活物質としては、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
上記負極活物質のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め負極活物質の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0105】
これらの中でも、電池容量等の観点から、炭素系材料、珪素系材料及びこれらの混合物が好ましく、炭素系材料としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素及びアモルファス炭素がさらに好ましく、珪素系材料としては、酸化珪素及び珪素-炭素複合体がさらに好ましい。
【0106】
負極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、2~10μmであることがさらに好ましい。
【0107】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0108】
リチウムイオン電池から正極活物質を取り出す工程において、正極シートを容易に分離させる観点から、リチウムイオン電池に含まれるセパレータの枚数は2枚以上であることが好ましい。
【0109】
またリチウムイオン電池から正極活物質を取り出す工程において、正極活物質を容易に取り出す観点からは、リチウムイオン電池を構成する正極活物質層は、バインダを含まないことが好ましく、粘着性樹脂を含んでいることがより好ましい。
また、正極活物質は被覆正極活物質であることが好ましい。
【0110】
正極集電体とセパレータとは、正極シール材によって接着されていてもよい。
正極シール材は、樹脂を含んでいる。
正極シール材を構成する樹脂の融点は、200℃未満であることが好ましい。
正極シール材を構成する樹脂としては、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン及びポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0111】
負極集電体とセパレータとは、負極シール材によって接着されていてもよい。
負極シール材は、樹脂を含んでいる。
負極集電体とセパレータとが、負極シール材により接着されている場合、負極シール材を構成する樹脂の融点は、正極シール材を構成する樹脂よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことがさらに好ましい。
また、負極集電体とセパレータとが、負極シール材により接着されている場合、負極シール材を構成する樹脂のSP値と、正極シール材を構成する樹脂のSPとの差の絶対値は3.5を超えることが好ましい。
【0112】
[リチウムイオン電池の製造方法]
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用正極を、セパレータを介してリチウムイオン電池用負極と組み合わせる工程を含むことを特徴とする。
【0113】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用正極は、電池容量が増加又は回復しているため、本発明のリチウムイオン電池の製造方法により製造されるリチウムイオン電池は、新品のリチウムイオン電池と遜色ない電池性能を発揮することができる。
【実施例
【0114】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0115】
<製造例1>
[サイクル試験用リチウムイオン電池Aの作製]
正極活物質であるLiCoO90部、導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製]5部及びバインダであるポリフッ化ビニリデン5部を混合し、更にN-メチル-2-ピロリドン50部を混合して正極活物質スラリーを調製した。このスラリーを正極集電体であるアルミ箔上に塗布した後、減圧下で80℃に加熱して正極集電体上に正極活物質層(厚さ:40μm)形成された正極(40mm×50mm)を得た。
次いで、負極活物質である難黒鉛化性炭素93部、導電助剤であるアセチレンブラック2部およびバインダであるポリフッ化ビニリデン5部を混合し、更にN-メチル-2-ピロリドン50部を混合して負極活物質スラリーを調製した。このスラリーを負極集電体である銅箔上に塗布した後、減圧下で80℃に加熱して負極集電体上に負極活物質層(厚さ:40μm)形成された負極(42mm×52mm)を得た。
次いで、正極と負極を、50mm×60mmの長方形に打ち抜いたセパレータ(厚さ25μmのポリプロピレン製)2枚を介して、正極活物質と負極活物質とが対向する向きで積層した。この積層体をアルミラミネートセル(60mm×70mm)に収納し、更に非水電解液Aを注入した後に封止してサイクル試験用リチウムイオン電池Aを作製した。なお、非水電解液Aとして、1M LiPFをエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:1)に溶解した溶液を用いた。
【0116】
[サイクル試験]
サイクル試験用リチウムイオン電池Aを用いてサイクル試験を行って、使用済みリチウムイオン電池Aを得た。
サイクル試験は下記の通り25℃で行い、充電と放電の間は10分の休止時間を設けた。
評価用リチウムイオン電池を充放電測定装置「HJ0501SM」[北斗電工(株)製]にセットし、25℃の条件下で定電流定電圧充電方式により、まず0.1Cの電流で4.2Vまで充電して10分間の休止後、0.1Cの電流で2.5Vまで放電して、1サイクル目の容量確認を行った。その後、10分間の休止の後に0.5Cの電流で4.2Vまで充電し、10分間の休止後に0.1Cの電流で2.5Vまで放電を行うサイクルを198回繰り返した。
200サイクル目に、1サイクル目と同様に0.1Cの電流で4.2Vまで充填し、10分間の休止後に、0.1Cの電流で2.5Vまで放電し、200サイクル目の容量を確認した。
1サイクル目の放電容量を基準とした、200サイクル目の容量維持率(1サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の割合)は80%であった。
【0117】
<実施例1>
使用済みリチウムイオン電池Aのアルミラミネートセルを分解し、正極集電体、正極活物質層及び正極側セパレータ(2枚配置したセパレータのうち、正極側に配置されたセパレータ)からなる正極シートAを取り出した。
【0118】
取り出した正極シートAのセパレータの上に、新たなセパレータ(50mm×60mm)を1枚重ね、その上から40mm×50mmの正方形に打ち抜いた金属リチウムを積層して、非水電解液を注入してアルミラミネートセル(60mm×70mm)に収納した。
その後、セルを外部で短絡させた状態で所定の時間静置した。
具体的には、外部短絡回路に設置した既知抵抗体(抵抗:40Ω)に流れる電流値I及び電圧Vの時間変化をモニターし、ΔI/ΔT>-0.2mA/min、かつモニター電圧V<2.5Vとなった時点で短絡を解除した。
短絡前の正極活物質のOCVは3.8Vであり、短絡解除後の正極活物質のOCVは2.3Vであった。
【0119】
[電池容量の確認]
短絡解除後の正極シートAを、製造例1記載の方法で新たに作製した負極集電体、負極活物質層及び負極側セパレータ(2枚配置したセパレータのうち、負極側に配置されたセパレータ)からなる負極シートと組み合わせ評価用リチウムイオン電池Aを作製した。
この評価用リチウムイオン電池Aに対して充放電を行い、初回(通算では201回目)の放電容量を測定したところ、使用済みリチウムイオン電池Aにおける初回放電容量の94.5%であることを確認した。
【0120】
<製造例2>
[サイクル試験用リチウムイオン電池Bの作製]
正極活物質粉末(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、得られた高分子化合物をDMFに3.0重量%の濃度で溶解して得られた高分子化合物溶液10.0部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤としてアセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.2部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を150℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質(被覆NCA)を得た。
【0121】
被覆NCA98部、導電助剤である炭素繊維[昭和電工(株)製VGCF:平均繊維長10μm、平均繊維径150nm]2部を混合し、更に2MLiFSIをエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合溶媒(体積比1:1)に溶解した非水電解液Bを100部混合して正極活物質スラリーを調製した。このスラリーを正極集電体であるアルミ箔上に塗布し、プレスすることで正極集電体上に正極活物質層(厚さ:250μm)形成された正極(40mm×50mm)を得た。
次いで、負極活物質である難黒鉛化性炭素98部、導電助剤であるカーボンファイバー2部を混合し、更に上記非水電解液Bを120部混合して負極活物質スラリーを調製した。このスラリーを負極集電体である銅箔上に塗布し、プレスすることで負極集電体上に負極活物質層(厚さ:300μm)形成された負極(42mm×52mm)を得た。
次いで、正極と負極を、50mm×60mmの長方形に打ち抜いたセパレータ(厚さ25μmのポリプロピレン製)2枚を介して、正極活物質と負極活物質とが対向する向きで積層した。この積層体をアルミラミネートセル(60mm×70mm)に収納し、更に上記非水電解液Bを注入した後に封止してサイクル試験用リチウムイオン電池Bを作製した。
【0122】
[サイクル試験]
サイクル試験用リチウムイオン電池Bを用いて、実施例1と同様のサイクル試験を行って、使用済みリチウムイオン電池Bを得た。200サイクル目の放電容量維持率は82%であった。
【0123】
<実施例2>
使用済みリチウムイオン電池Bのアルミラミネートセルを分解し、正極集電体、正極活物質層及び正極側セパレータ(2枚配置したセパレータのうち、正極側に配置されたセパレータ)からなる正極シートBを取り出した。
【0124】
取り出した正極シートBのセパレータの上に、新たなセパレータ(50mm×60mm)を1枚重ね、その上から40mm×50mmの正方形に打ち抜いた金属リチウムを積層して、非水電解液Bを注入してアルミラミネートセル(60mm×70mm)に収納した。
その後、セルを外部で短絡させた状態で所定の時間静置した。
具体的には、外部短絡回路に設置した既知抵抗体(抵抗40Ω)に流れる電流値I及び電圧Vの時間変化をモニターしΔI/ΔT>-0.2mA/min、かつモニター電圧V<2.5Vとなった時点で短絡を解除した。
短絡前の正極活物質のОCVは3.7Vであり、短絡解除後の正極活物質のOCVは2.3Vであった。
【0125】
[電池容量の確認]
短絡解除後の正極シートBを、製造例2に記載の方法により新たに作製した負極集電体、負極活物質層及び負極側セパレータ(2枚配置したセパレータのうち、負極側に配置されたセパレータ)からなる負極シートと組み合わせて評価用リチウムイオン電池Bを作製した。
この評価用リチウムイオン電池Bに対して充放電を行い、初回(通算では201回目)の放電容量を測定したところ、使用済みリチウムイオン電池Bにおける初回放電容量の93.4%であることを確認した。
【0126】
<製造例3>
[サイクル試験用リチウムイオン電池Cの作製]
実施例2と同様の方法で正極シート、負極シートを作製した。次いで、正極シートと負極シートを、50mm×60mmの長方形に打ち抜いたセパレータ(厚さ25μmのポリプロピレン製)1枚を介して、正極活物質と負極活物質とが対向する向きで積層して積層体を作製した。この積層体をアルミラミネートセル(60mm×70mm)に収納し、更に非水電解液Bを注入した後に封止してサイクル試験用リチウムイオン電池Cを作製した。
【0127】
[サイクル試験]
サイクル試験用リチウムイオン電池Cを用いて、実施例1と同様のサイクル試験を行って、使用済みリチウムイオン電池Cを得た。200サイクル目の放電容量維持率は80%であった。
【0128】
<実施例3>
使用済みリチウムイオン電池Cのアルミラミネートセルを分解し、正極集電体を剥がし取った後、正極集電体及びセパレータの表面に付着している正極活物質層を掻き取ることで正極活物質を取り出した。
【0129】
取り出した正極活物質100部に、1cm×1cmに切り出した金属リチウム箔(本庄金属製、厚み100μm)を1.2部追加し、プラネタリーミキサーにより30分攪拌した。
撹拌前の正極活物質のOCVは3.6Vであり、撹拌後の正極活物質のOCVは2.2Vであった。尚、OCV測定時には、少量の正極活物質をサンプリングし、上記非水電解液Bを含浸したセパレータを介してリチウム箔を対向させることで評価を行った。
【0130】
[電池容量の確認]
上記撹拌により得られた正極活物質100部に、非水電解液Bを100部混合して正極活物質スラリーを調製し、このスラリーを正極集電体であるアルミ箔上に塗布し、プレスすることで正極集電体上に正極活物質層(厚さ:250μm)形成された正極(40mm×50mm)を得た。
上記正極を、使用済みリチウムイオン電池Cを構成していた負極集電体、負極活物質及びセパレータと組み合わせて積層体を再度作製し、アルミラミネートセルに封入して評価用リチウムイオン電池Cを作製した。
この評価用リチウムイオン電池Cの初回(通算では201回目)の放電容量を測定したところ、使用済みリチウムイオン電池Cにおける初回放電容量の94.8%であることを確認した。
【0131】
<製造例4>
[サイクル試験用リチウムイオン電池Dの作製]
正極活物質であるLiCoO90部、導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製]5部及びバインダであるポリフッ化ビニリデン5部を混合し、更にN-メチル-2-ピロリドン50部を混合して正極活物質スラリーを調製した。このスラリーを正極集電体であるアルミ箔上に塗布した後、減圧下で80℃に加熱して正極集電体上に正極活物質層(厚さ:40μm)形成された正極(40mm×50mm)を得た。
次いで、負極活物質である難黒鉛化性炭素93部、導電助剤であるアセチレンブラック2部およびバインダであるポリフッ化ビニリデン5部を混合し、更にN-メチル-2-ピロリドン50部を混合して負極活物質スラリーを調製した。このスラリーを負極集電体である銅箔上に塗布した後、減圧下で80℃に加熱して負極集電体上に負極活物質層(厚さ:40μm)形成された負極(42mm×52mm)を得た。
次いで、正極と負極を、50mm×60mmの長方形に打ち抜いたセパレータ(厚さ25μmのポリプロピレン製)2枚を介して、正極活物質と負極活物質とが対向する向きで積層した。この積層体をアルミラミネートセル(60mm×70mm)に収納し、更に非水電解液Aを注入した後に封止してサイクル試験用リチウムイオン電池Dを作製した。
【0132】
[サイクル試験]
サイクル試験用リチウムイオン電池Dを用いてサイクル試験を行って、使用済みリチウムイオン電池Dを得た。
サイクル試験は下記の通り25℃で行い、充電と放電の間は10分の休止時間を設けた。
評価用リチウムイオン電池を充放電測定装置「HJ0501SM」[北斗電工(株)製]にセットし、25℃の条件下で定電流定電圧充電方式により、まず0.1Cの電流で4.2Vまで充電して10分間の休止後、0.1Cの電流で2.5Vまで放電して、1サイクル目の容量確認を行った。その後、10分間の休止の後に0.5Cの電流で4.2Vまで充電し、10分間の休止後に0.1Cの電流で2.5Vまで放電を行うサイクルを198回繰り返した。
200サイクル目に、1サイクル目と同様に0.1Cの電流で4.2Vまで充填し、10分間の休止後に、0.1Cの電流で2.5Vまで放電し、200サイクル目の容量を確認した。
1サイクル目の放電容量を基準とした、200サイクル目の容量維持率(1サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の割合)は73%であった。
【0133】
<実施例4>
[リチウムイオン電池から正極活物質を取り出す工程]
使用済みリチウムイオン電池Dのアルミラミネートセルを分解し、正極集電体、正極活物質層及び正極側セパレータ(2枚配置したセパレータのうち、正極側に配置されたセパレータ)からなる正極シートDを取り出した。
【0134】
取り出した正極シートDのセパレータの上に、新たなセパレータ(50mm×60mm)を1枚重ね、その上から40mm×50mmの正方形に打ち抜いた金属リチウムを積層して、非水電解液Aを注入してアルミラミネートセル(60mm×70mm)に収納した。
その後、セルを充放電装置に接続し、25℃に温調した恒温槽内で、0.1Cの電流値で下限電圧3.0Vの設定でCCCV放電を行った。放電前の正極活物質のOCVは3.8Vであり、放電後の正極活物質のOCVは3.0Vであった。
【0135】
[電池容量の確認]
放電後の正極シートDを、製造例4に記載の方法により新たに作製された負極集電体、負極活物質層及び負極側セパレータ(2枚配置したセパレータのうち、負極側に配置されたセパレータ)からなる負極シートと組み合わせて評価用リチウムイオン電池Dを作製した。
この評価用リチウムイオン電池Dに対して充放電を行い、初回(通算では201回目)の放電容量を測定したところ、使用済みリチウムイオン電池Dにおける初回放電容量の93.2%であることを確認した。
【0136】
以上の結果より、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法は、使用済みリチウムイオン電池を構成する正極活物質の電池容量を回復させることができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法は、使用済みリチウムイオン電池に含まれる正極活物質を再利用する方法として有用である。
【符号の説明】
【0138】
1、2 リチウムイオン電池
10 正極
11 正極集電体
13 正極活物質層
14 リチウムイオン電池から取り出した正極活物質
15 電池容量が増加又は回復した正極活物質
20 負極
21 負極集電体
23 負極活物質層
30、31 セパレータ
31a 正極側セパレータ
31b 負極側セパレータ
40、41 蓄電素子
50、51 電池外装体
60 リチウム及び/又はリチウム含有化合物
70 溶媒
80 金属リチウムシート
110 正極シート
120 負極シート
図1
図2
図3
図4
図5