(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】巻糸パッケージ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 55/04 20060101AFI20231006BHJP
B65H 54/38 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
B65H55/04
B65H54/38 B
(21)【出願番号】P 2019195835
(22)【出願日】2019-10-29
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】田中 晴士
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-108656(JP,A)
【文献】特開2000-272825(JP,A)
【文献】特開2018-177412(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024720(WO,A1)
【文献】特開2013-037253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 55/04
B65H 54/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンと、
前記ボビン上に、
溶融紡糸された数十本~数百本の単繊維を融着又は熱溶着により一体化したテープ状又は断面が楕円形状の糸で、繊度が100~6400dtexの海島型繊維が、トラバース方式で1本ずつ巻き取られて形成された糸層と
を備え、
前記糸層を構成する海島型繊維は、海成分の融点mp-20℃における熱収縮率が2%以下であり、
前記海島型繊維の糸幅をx(mm)としたとき、第n(nは2以上の整数)
ターン目の糸層を構成する各糸は、第n-1
ターン目の糸層を構成する各糸から0~
0.5xmm離れた位置に巻回されている巻糸パッケージ。
【請求項2】
溶融紡糸された数十本~数百本の単繊維を融着又は熱溶着により一体化したテープ状又は断面が楕円形状の糸で、繊度が100~6400dtexの海島型繊維を、1本ずつトラバース方式でボビンに巻き取る巻取工程を有し、
前記巻取工程では、前記海島型繊維の糸幅をx(mm)としたとき、第n(nは2以上の整数)
ターン目の糸層を構成する各糸を、第n-1
ターン目の糸層を構成する各糸から0~
0.5xmm離れた位置に巻回し、
糸層を構成する海島型繊維の海成分の融点mp-20℃における熱収縮率が2%以下である巻糸パッケージを得る巻糸パッケージの製造方法。
【請求項3】
前記巻取工程後に、前記糸層を40~120℃の温度条件下で、6時間以上加熱する請求項
2に記載の巻糸パッケージの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビンに糸が巻回された巻糸パッケージ及びその製造方法に関する。より詳しくは、ボビンに複合繊維をトラバース巻きして巻糸パッケージを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、テープ状や糸状の線材をボビンなどの芯材に巻き取り、パッケージを形成する際は、線材を芯材の軸方向に往復させながら巻回するトラバース巻が用いられている。また、従来、巻き取り方法や巻き取り条件を工夫することで、綾落ち防止や解舒性向上を図った巻糸パッケージも提案されている(特許文献1~3参照)。例えば、特許文献1に記載の糸条の巻取方法では、糸条の巻取軌跡の偏りが生じないように、巻取糸条が巻幅全幅に均等に分散し、積層されるワインド比で巻き取っている。
【0003】
特許文献2に記載の単糸太繊度マルチフィラメントの巻き取り方法では、巻き取り時の巻き取り張力及び綾角を特定の範囲にすると共に、パッケージ巻幅をリボン数で割った値が3~5の範囲になるようワインド比を1回以上切り替えている。また、特許文献3に記載のパッケージは、糸-糸摩擦係数の低い熱可塑性繊維において、初期巻幅を特定の範囲にし、巻終わりの綾角θ2と巻始めの綾角θ1との差(θ2-θ1)が4.0°~7.0°の範囲になるよう綾角を巻始めから巻終わりにかけて漸増させている。
【0004】
従来、ポリエステル系複合繊維を1段階の溶融紡糸法により巻き取って得られるポリエステル系複合繊維パッケージにおいて、高速解舒時の張力変動、パッケージの耳部に由来する熱収縮特性、繊度変動特性及び捲縮特性に関する欠点と、糸長方向の周期的な染め斑欠点を解消する方法も提案されている(特許文献4参照)。この特許文献4に記載の製造方法では、吐出孔の孔径Dと孔長Lの比(L/D)が2以上で、吐出口孔が鉛直方向に対して10~40°傾斜する紡糸口金を用いて溶融紡糸した複合繊維を、冷却風で冷却固化した後延伸することなく、特定の紡糸張力、熱処理温度、熱処理張力、巻取時のパッケージ温度及び巻取速度で巻き取っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-335239号公報
【文献】特開2011-207597号公報
【文献】特開2017-214185号公報
【文献】国際公開第2003/040011号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
2種類以上の樹脂で形成され、海成分中に島成分が点在する断面構造を有する海島型繊維は、例えば、溶融紡糸された数十本~数百本の単繊維を熱延伸又は加熱により一体化することにより製造することができる。このような方法で製造された海島型繊維には、海成分の結晶化が十分に進んでいない状態で巻き取りを行うため、巻き取り後に行うアフターキュアや経時変化によって海成分が収縮し、下層の糸に巻癖が発生するという課題がある。
【0007】
巻糸パッケージの糸層中に大きな巻癖が存在すると、「巻出し時に解舒不良トラブルが発生する」、「織加工時に巻癖部分が不規則な模様となり織物の意匠性が低下する」、「糸のヤング率が低下する」などの問題が生じる。また、前述した巻癖が原因で、海島型繊維の巻糸パッケージには糸層の最外層と最内層で見かけ上の熱収縮率に差が生じてしまい、織加工後に熱プレスを行うと「反り」や「曲がり」が発生し、製品に物性不良などの問題が生じることがある。
【0008】
これらの問題点について、前述した特許文献1~3に記載の技術は、綾落ちは改善できるが、巻癖による熱収縮率のばらつきを改善することはできない。一方、特許文献4に記載の技術は、耳部と中央部とで巻き取り径差があることにより生じる問題を解決するために、紡糸時の吐出条件、紡糸張力、巻取時のパッケージ温度及び巻取速度などを特定したものであり、この方法では糸層の上層と下層で熱収縮率がばらつくという問題を解決することはできない。
【0009】
そこで、本発明は、海島型繊維を1本ずつトラバース方式でボビンに巻回しても、綾落ちや巻癖が発生しにくく、糸層を構成する各層間での熱収縮率のばらつきを低減した巻糸パッケージ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る巻糸パッケージは、ボビンと、前記ボビン上に、溶融紡糸された数十本~数百本の単繊維を融着又は熱溶着により一体化したテープ状又は断面が楕円形状の糸で、繊度が100~6400dtexの海島型繊維が、トラバース方式で1本ずつ巻き取られて形成された糸層とを備え、前記海島型繊維は、海成分の融点mp-20℃における熱収縮率が2%以下であり、前記海島型繊維の糸幅をx(mm)としたとき、第n(nは2以上の整数)ターン目の糸層を構成する各糸は、第n-1ターン目の糸層を構成する各糸から0~0.5xmm離れた位置に巻回されている。
【0011】
本発明に係る巻糸パッケージの製造方法は、溶融紡糸された数十本~数百本の単繊維を融着又は熱溶着により一体化したテープ状又は断面が楕円形状の糸で、繊度が100~6400dtexの海島型繊維を、1本ずつトラバース方式でボビンに巻き取る巻取工程を有し、前記巻取工程では、前記海島型繊維の糸幅をx(mm)としたとき、第n(nは2以上の整数)ターン目の糸層を構成する各糸を、第n-1ターン目の糸層を構成する各糸から0~0.5xmm離れた位置に巻回し、糸層を構成する海島型繊維の海成分の融点mp-20℃における熱収縮率が2%以下である巻糸パッケージを得る。
本発明の巻糸パッケージの製造方法では、前記巻取工程後に、前記糸層を40~120℃の温度条件下で、6時間以上加熱してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、海島型繊維を1本ずつトラバース方式でボビンに巻回しても、綾落ちや巻癖が発生しにくく、糸層を構成する各層間で熱収縮率が均一な巻糸パッケージが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態の巻糸パッケージにおける海島型繊維の巻き状態を模式的に示す拡大側面図である。
【
図2】A,Bは海島型繊維3の断面を模式的に示す図であり、Aはテープ状糸であり、Bは断面が楕円形状の糸である。
【
図3】A~Cは複合繊維(単繊維)の構造例を示す断面図であり、Aは鞘芯複合型、Bは偏心鞘芯型、Cはサイドバイサイド型である。
【
図4】本発明の実施形態の巻糸パッケージの製造方法を模式的に示す側面図である。
【
図5】本発明の実施例の巻糸パッケージの外観を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る巻糸パッケージにおける海島型繊維の巻き状態を模式的に示す拡大側面図であり、
図2A,Bは海島型繊維3の断面を模式的に示す図である。
図1に示すように、本実施形態の巻糸パッケージ1は、ボビン2と、ボビン2上に海島型繊維3が巻き取られて形成された糸層とで構成されている。
【0016】
[ボビン2]
ボビン2は、紙製、プラスチック製又はアルミニウム合金などからなる金属製の筒状物を用いることができる。ボビン2の大きさは特に限定されるものではなく、巻き取る糸の長さ、太さ及び材質などに応じて、適宜設定することができる。
【0017】
[糸層]
糸層は、2種類以上樹脂で形成され、海成分中に島成分が点在する断面構造を有し、繊度が100~6400dtexの海島型繊維3を、1本ずつトラバース方式でボビン2に巻き取ることで形成されている。糸層を構成する海島型繊維3の繊度が100dtex未満の場合、各層間での物性のばらつきがほとんど見られず、熱収縮率を均一化するという効果を実感しにくい。また、海島型繊維3の繊度が6400dtexを超えると、糸層の端部に盛り上がりが生じて巻き崩れが発生しやすくなる。
【0018】
糸層を構成する海島型繊維3としては、例えば、
図2Aに示すようなテープ状糸又は
図2Bに示すような断面が楕円形状の糸を用いることができる。これらの海島型繊維3は、溶融紡糸された数十本~数百本の単繊維を融着又は熱溶着により一体化し、1本の糸にすることで得られ、海島型繊維3を形成する単繊維には、例えば融点の異なる2種類以上の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を用いることができる。
【0019】
図3A~Cは海島型繊維3の原料に用いられる複合繊維(単繊維)の構造例を示す断面図であり、
図3Aは鞘芯型、
図3Bは偏心鞘芯型、
図3Cはサイドバイサイド型である。複合繊維33a,33b,33cは、第1の樹脂成分(以下、低融点成分31という。)と、第1の樹脂成分よりも融点が20℃以上高い第2の樹脂成分(以下、高融点成分32という。)で構成されており、
図3Aに示す鞘芯型複合繊維33a及び
図3Bに示す偏心鞘芯型複合繊維33bの場合は、一般に、鞘部が低融点成分31で形成され、芯部が高融点成分32で形成されている。
【0020】
例えば単繊維として、
図3Aに示す鞘芯型複合繊維33aや、
図3Bに示す偏心鞘芯型複合繊維33bを用いた場合、
図2A,Bに示すように、海島型繊維3は、低融点成分31からなる海部中に、高融点成分32からなる島部が点在する断面構造となる。なお、海島型繊維3を形成する単繊維は、前述した複合繊維に限定されるものではなく、単一の樹脂からなる2種以上の単一繊維を用いてもよく、単一繊維と複合単繊維を組み合わせて使用してもよい。また、複合繊維も、多芯型複合繊維などのように、
図3A~Cに示す構造以外のものを用いることもできる。
【0021】
糸層を構成する海島型繊維3は、海成分(低融点成分31)の融点mpよりも20℃低い温度(mp-20℃)における熱収縮率が2%以下であることが好ましい。これにより、成形プレス加工などの後加工時における製品収縮を抑制し、後加工により生じる製品寸法誤差を更に低減することができる。なお、ここでいう海島型繊維3の熱収縮率は、全ての工程が終了した後の完成品での値であり、巻き取り後の加熱(アフターキュア)によって熱収縮率が2%以下になれば、巻き取り時の値が2%を超えていてもよい。
【0022】
また、
図1に示すように、本実施形態の巻糸パッケージ1では、海島型繊維3の糸幅をx(mm)としたとき、第n(nは2以上の整数)層目の糸層を構成する各糸は、第n-1層目の糸層を構成する各糸から0~xmm離れた位置に巻回されている。即ち、本実施形態の巻糸パッケージ1では、第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔(以下、ピッチともいう。)が0~xmmとなっている。これにより、糸層を構成する各層の凹凸が小さくなるため、綾落ちの発生を抑制できると共に、製造後の熱収縮により糸層表面に凹凸が生じ、巻癖や熱収縮率のばらつきが発生することを防止できる。
【0023】
ここで、第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔(ピッチp)は、0~0.5xmmが好適であり、これにより、綾落ちや巻癖の発生の抑制効果を高め、糸層の熱収縮率を均一化することができる。なお、第n層目の糸と第n-1層目の糸とのピッチpが0mmとは、前周に巻かれた糸に対して隙間なく巻いた状態を指す。
【0024】
[製造方法]
次に、前述した巻糸パッケージ1の製造方法について説明する。
図4は本発明の実施形態の巻糸パッケージ1の製造方法を模式的に示す図である。
図4に示すように、本実施形態の巻糸パッケージ1の製造方法は、海島型繊維3を1本ずつトラバース方式でボビン2に巻き取る巻取工程を実施する。その際用いられる海島型繊維3は、融点の異なる2種以上の熱可塑性樹脂で形成され、繊度が100~6400dtexで、断面が海島構造になっているものであれば特に限定されるものではないが、効果の大きさから、
図2Aに示すテープ状糸又は
図2Bに示す断面が楕円形状の糸であることが好ましい。
【0025】
なお、本実施形態の巻糸パッケージ1は、前述したテープ状糸や断面が楕円形状の糸のようなモノフィラメントに代えて、複合繊維(単繊維)を複数本より合わせて1本の糸(束)にしたマルチフィラメントを用いることもできる。しかしながら、マルチフィラメントを用いた巻糸パッケージは、ボビンに巻回された後も個々の複合繊維(単繊維)が固定されずに移動可能であるため、熱収縮率がばらつくという問題は起こり難く、本発明の構成を採用しても得られる効果は小さくなる。
【0026】
また、本実施形態の巻糸パッケージ1の製造方法では、巻取工程において、海島型繊維3の糸幅をx(mm)としたとき、第n(nは2以上の整数)層目の糸層を構成する各糸を、第n-1層目の糸層を構成する各糸から0~xmm離れた位置に巻回する。具体的には、トラバース1ターン目の糸f1は、巻始めの糸f0に隣接して又は糸幅xmmより狭いピッチpで巻回し、トラバース2ターン目の糸f2は、1ターン目の糸f1に隣接して又は糸幅xmmより狭いピッチpで巻回する。
【0027】
その際、各糸は、例えばトラバースガイドにより案内され、巻回される。なお、綾落ちや巻癖の抑制及び糸層中の熱収縮率のばらつき低減の観点から、第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔(ピッチp)は、糸幅x(mm)の半分以下、即ち、0~0.5xmmとすることが好ましい。
【0028】
また、海島型繊維3のボビン2への巻付け角度、即ち綾角θは、特に限定されるものではないが、ワインド数を一定にした巻糸パッケージの場合は、巻始めから巻終わりにかけて綾角を順次減少させ、巻始めと巻終わりの綾角差を4°~7°にすることが好ましい。
【0029】
また、綾角θを大きくすると、綾落ちの発生確率を低くすることができるが、巻き癖が付きやすくなるという問題がある。一方、綾角を小さくすれば、巻癖は付きにくいが、綾落ちしやすくなる。このため、本実施形態の巻糸パッケージ1では、巻き初めから巻き終わりにかけて綾角θが一定になるようにワインド数を変更するワインドステップと呼ばれる技術を適用することが好ましい。これにより、巻き癖や巻径による熱収縮率差を低減することができる。
【0030】
更に、本実施形態の巻糸パッケージ1の製造方法では、巻取工程後に、パッケージをオーブンに投入し、ボビン2上に形成された糸層を加熱(アフターキュア)してもよい。アフターキュアを行うことにより、製織工程での引き出し時にローラーなどの通過抵抗が下がり、解舒不良などのトラブルの発生確率を下げることができる。ここで、アフターキュアの条件は、特に限定されるものではなく、糸の径や材質に応じて適宜設定することができるが、例えば40~120℃の温度条件下で、6時間以上とすることができる。本実施形態の巻糸パッケージは、特定のピッチで海島型繊維を巻回しているため、アフターキュアを行っても下層の糸に巻癖は発生しない。
【0031】
以上詳述したように、本実施形態の巻糸パッケージは、海島型繊維を1本ずつトラバース方式でボビンに巻回する際に、第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔(ピッチp)を、糸幅x(mm)以下、即ち、0~xmmとしているため、糸層表面の凹凸が低減し、綾落ちや巻癖が発生しにくく、糸層の熱収縮率が均一な巻糸パッケージが得られる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法及び条件で、実施例及び比較例の巻糸パッケージを作製し、巻出し性及び物性を評価した。
図5は本発明の実施例の巻糸パッケージの外観を示す模式図である。
【0033】
<実施例1>
(1)海島型繊維の作製
先ず、鞘成分に融点が134℃エチレン・ポリプロピレンランダムコポリマー(CoPP)を、芯成分に融点256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて、
図3Aに示す鞘芯型複合繊維を形成し、この複合繊維(単繊維)を用いて
図2Aに示すテープ状海島型繊維を作製した。
【0034】
具体的には、常法の熱溶融複合紡糸装置により、ノズルホール数が120の鞘芯同心タイプの複合ノズルを用いて、紡糸速度66.2m/分で鞘芯型複合繊維を紡糸した。引き続き、延伸温度を100℃、延伸速度を274.0m/分にして、ローラー間で熱延伸し、更に、同じ速度のまま158℃の加熱ネルソンローラーに接触させて、低融点成分であるCoPPのみを溶融させて各単繊維を一体化し、繊度800dtex、糸幅1.20mmのテープ状海島型繊維を得た。
【0035】
(2)巻き取り
次に、トラバース装置を備える巻き取り機を用いて、前述した方法で作製したテープ状海島型繊維を、トラバースガイドを用いて、1本ずつボビン2に巻き取った。巻き取り用ボビン2には、外径108mm、長さ330mmの紙管を使用し、トラバースガイドは溝幅1.2mmのものを用いた。
【0036】
巻き取り条件は、ワインド数を5.012回/トラバース幅(280mm)、1トラバースターン後の1周目における巻き取りピッチを1.21mm(第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔を0.01mm)、巻き取り速度を275m/分、巻径rを155mm、巻始め綾角θsを10.17°、巻き終わり綾角θeを7.12°、綾角差(θs-θe)を3.05°とした。そして、糸層4の質量が4.5kgとなるまで巻き取った後、パッケージを100℃のオーブン内に12時間保持してアフターキュアを行い、
図5に示す外観の実施例1の巻糸パッケージを得た。
【0037】
<実施例2>
実施例1と同様の材料、方法及び条件で作製したテープ状海島型繊維を、2段階のワインド数ステップでボビン(紙管)2に巻き取り、実施例2の巻糸パッケージを作製した。その際、巻き取り条件は、1段階目は、ワインド数を5.012回/トラバース幅(280mm)、1トラバースターン後の1周目における巻き取りピッチpを1.21mm(第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔は0.01mm)とし、2段階目はワインド数を4.512回/トラバース幅(280mm)、1トラバースターン後の1周目における巻き取りピッチpを1.21mm(第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔は0.01mm)とした。また、巻径rは154mm、巻始め綾角θsは10.17°、巻き終わり綾角θeは7.95°、綾角差(θs-θe)は2.22°とした。
【0038】
<実施例3>
(1)海島型繊維の作製
鞘成分に融点が112℃の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を、芯成分に融点165℃のポリプロピレン(PP)を用いて、
図3Aに示す鞘芯型複合繊維から
図2Bに示す断面が楕円形状の海島型繊維を作製した。
【0039】
具体的には、常法の熱溶融複合紡糸装置により、ノズルホール数が480の鞘芯同心タイプの複合ノズルを用いて、紡糸速度61.5m/分で鞘芯型複合繊維を紡糸した。引き続き、延伸温度を150℃、延伸速度を800m/分にして、蒸気槽中で延伸し、低融点成分であるLLDPEのみを溶融させて各繊維を一体化し、繊度2000dtex、糸幅1.00mmで断面が楕円形状の海島型繊維を得た。
【0040】
(2)巻き取り
次に、トラバース装置を備える巻き取り機を用いて、前述した方法で作製した断面が楕円形状の海島型繊維を、トラバースガイドを用いて、1本ずつボビン2に巻き取った。巻き取り用ボビン2には、外径108mm、長さ330mmの紙管を使用し、トラバースガイドには溝幅が1.2mmのものを用いた。
【0041】
巻き取り条件は、ワインド数を4.011回/トラバース幅(280mm)、1トラバースターン後の1周目における巻き取りピッチを1.02mm(第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔は0.02mm)、巻き取り速度を785m/分、巻径rを265mm、巻始め綾角θsを12.63°、巻き終わり綾角θeを5.22°、綾角差(θs-θe)を7.41°とした。そして、糸層4の質量が6.5kgとなるまで巻き取った後、パッケージを40℃のオーブン内に48時間保持してアフターキュアを行い、実施例3の巻糸パッケージを作製した。
【0042】
<実施例4>
実施例1と同様の材料、方法及び条件で作製した海島型繊維を、ワインド数5.019回/トラバース幅(280mm)で、1トラバースターン後の1周目における巻き取りピッチpを1.80mm(第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔は0.60mm)、巻始め綾角θsを10.15°、巻き終わり綾角θeを7.11°、綾角差(θs-θe)を3.04°とした以外は、実施例1と同様の条件で巻き取り、実施例4の巻糸パッケージを作製した。
【0043】
<実施例5>
実施例1と同様の材料、方法及び条件で作製した海島型繊維を、ワインド数3.510回/トラバース幅(280mm)で、巻始め綾角θsを14.36°、巻き終わり綾角θeを10.11°、綾角差(θs-θe)を4.25°とした以外は、実施例1と同様の条件で巻き取り、実施例5の巻糸パッケージを作製した。
【0044】
<実施例6>
実施例1と同様の材料、方法及び条件で作製した海島型繊維を、ワインド数7.013回/トラバース幅(280mm)で、1トラバースターン後の1周目における巻き取りピッチpを1.20mm(第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔は0mm)、巻始め綾角θsを7.30°、巻き終わり綾角θeを5.10°、綾角差(θs-θe)を2.2°とした以外は、実施例1と同様の条件で巻き取り、実施例6の巻糸パッケージを作製した。
【0045】
<比較例1>
実施例1と同様の材料、方法及び条件で作製した海島型繊維を、ワインド数5.320回/トラバース幅(280mm)で、1トラバースターン後の1周目における巻き取りピッチpを31.05mm(第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔は29.85mm)、巻始め綾角θsを9.59°、巻き終わり綾角θeを6.71°、綾角差(θs-θe)を2.88°とした以外は、実施例1と同様の条件で巻き取り、比較例1の巻糸パッケージを作製した。
【0046】
<比較例2>
実施例3と同様の材料、方法及び条件で作製した海島型繊維を、ワインド数3.606回/トラバース幅(280mm)で、1トラバースターン後の1周目における巻き取りピッチpを65.00mm(第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔は64.00mm)、巻始め綾角θsを14.00°、巻き終わり綾角θeを5.80°、綾角差(θs-θe)を8.2°とした以外は、実施例3と同様の条件で巻き取り、比較例2の巻糸パッケージを作製した。
【0047】
<比較例3>
実施例1と同様の材料、方法及び条件で作製した海島型繊維を、ワインド数5.029回/トラバース幅(280mm)で、1トラバースターン後の1周目における巻き取りピッチpを2.80mm(第n層目の糸と第n-1層目の糸との間隔は1.60m)、巻始め綾角θsを10.13°、巻き終わり綾角θeを7.098°、綾角差(θs-θe)を3.032°とした以外は、実施例1と同様の条件で巻き取り、比較例3の巻糸パッケージを作製した。
【0048】
[評価]
次に、前述した方法で作製した実施例1~6及び比較例1~3の巻糸パッケージを、以下に示す方法で評価した。
【0049】
1.複合繊維の物性
<幅・厚さ>
実施例及び比較例の各巻糸パッケージについて、ボビンに巻き取った後の各海島型繊維の幅及び厚さを、それぞれデジタルノギス及びダイヤルシックネスゲージで測定した。
【0050】
<ヤング率>
実施例及び比較例の各巻糸パッケージについて、糸層の最外層と最内層からそれぞれ長さ300mmのサンプルを3本ずつ切り出し、引張測定機を用い、チャック間距離を200mmとしてヤング率の測定を行い、3本のサンプルの平均値を求めた。
【0051】
<熱収縮率>
実施例及び比較例の各巻糸パッケージについて、糸層の最外層と最内層からそれぞれ長さ1200mm、標線間距離1000mmのサンプルを3本ずつ切り出した。そして、各サンプルを1000mmにカットして、80℃のファインオーブンにテンションフリーの状態で30分間保持し、加熱前後の長さから収縮率(3本の平均値)を求めた。
【0052】
2.巻出し性
<綾落ち>
実施例及び比較例の各巻糸パッケージの外観を観察し、糸が、ボビンの巻き端部から15mm以上の長さにわたって落ちた状態、即ち短落(ショートカット)した状態が確認された場合は「綾落ちあり」とした。一方、このような短絡状態が見られなかった場合は、「綾落ちなし」とした。
【0053】
実施例1~6及び比較例1~3の巻糸パッケージの作製及び巻き取り条件を下記表1に、これら巻糸パッケージの評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0054】
【0055】
【0056】
上記表1,2に示すように、従来製品と同様に広いピッチで巻回した比較例1の巻糸パッケージ及び比較例1よりは狭ピッチではあるが本発明の範囲から外れる比較例3の巻糸パッケージは、いずれも綾落ちが認められ、更に、下層に巻癖が発生して糸層内でヤング率や熱収縮率のばらつきが生じた。また、断面が楕円形状の糸を用いた比較例2の巻糸パッケージも同様に、糸幅よりも広いピッチで巻回しているため、綾落ちが認められ、下層の巻癖により糸層内でヤング率や熱収縮率のばらつきが生じた。
【0057】
これに対して、本発明の範囲内で製造された実施例1~6の巻糸パッケージは、綾落ちは認められず、糸層内の物性(ヤング率・熱収縮率)も均一であった。以上の結果から、本発明によれば、海島型繊維を1本ずつトラバース方式でボビンに巻回しても、綾落ちや巻癖が発生しにくく、糸層を構成する各層間で熱収縮率やヤング率などの物性にばらつきがない巻糸パッケージが得られることが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1 巻糸パッケージ
2 ボビン
3 海島型繊維
4 糸層
31 低融点成分
32 高融点成分
33a、33b、33c 複合繊維
f0~f2 糸
r 巻径
p ピッチ
x 糸幅
θ 綾角