(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】送り軸装置の異常診断方法及び異常診断装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/028 20190101AFI20231006BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
G01M13/028
B23Q17/12
(21)【出願番号】P 2019202550
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真理子
(72)【発明者】
【氏名】北郷 匠
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-076993(JP,A)
【文献】特開2002-022616(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0194740(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸及びナットを有して機械設備に組み込まれる送り軸装置の異常を診断する方法であって、
前記ねじ軸が所定の動作パターンで動作するように前記送り軸装置の動作を制御する動作制御ステップと、
前記送り軸装置から発生する物理量信号を検出する検出ステップと、
所定の異常診断アルゴリズムに従い、前記検出ステップで検出された前記物理量信号に基づき前記送り軸装置の異常診断を行う異常診断ステップと、を含み、
前記異常診断ステップでは、前記物理量信号に対して周波数解析を行って、前記動作パターンでの複数の動作位置に対応した周波数
とその周波数強度とをそれぞれ算出して、所定の閾値より大きい周波数強度をもつ各前記動作位置と周波数とをそれぞれ抽出し、
抽出した各前記動作位置に対応した周波数の変化に基づいて異常診断を行うことを特徴とする送り軸装置の異常診断方法。
【請求項2】
前記異常診断ステップでは、各前記動作位置に対応した前記周波数の変化を、前記送り軸装置の各前記動作位置における曲げ振動モードと比較して異常診断を行うことを特徴とする請求項1に記載の送り軸装置の異常診断方法。
【請求項3】
前記異常診断は、前記曲げ振動モードに基づいて設定した所定の領域内に、各前記動作位置に対応した前記周波数が含まれる割合を所定の閾値と比較するものであることを特徴とする請求項2に記載の送り軸装置の異常診断方法。
【請求項4】
ねじ軸及びナットを有して機械設備に組み込まれる送り軸装置の異常を診断する装置であって、
前記ねじ軸が所定の動作パターンで動作するように前記送り軸装置の動作を制御する動作制御手段と、
前記送り軸装置から発生する物理量信号を検出する検出手段と、
所定の異常診断アルゴリズムに従い、前記検出手段で検出された前記物理量信号に基づき前記送り軸装置の異常診断を行う異常診断手段と、を含み、
前記異常診断手段は、前記物理量信号に対して周波数解析を行って、前記動作パターンでの複数の動作位置に対応した周波数
とその周波数強度とをそれぞれ算出して、所定の閾値より大きい周波数強度をもつ各前記動作位置と周波数とをそれぞれ抽出し、
抽出した各前記動作位置に対応した周波数の変化に基づいて異常診断を行うことを特徴とする送り軸装置の異常診断装置。
【請求項5】
前記異常診断手段は、各前記動作位置に対応した前記周波数の変化を、前記送り軸装置の各前記動作位置における曲げ振動モードと比較して異常診断を行うことを特徴とする請求項4に記載の送り軸装置の異常診断装置。
【請求項6】
前記異常診断は、前記曲げ振動モードに基づいて設定した所定の領域内に、各前記動作位置に対応した前記周波数が含まれる割合を所定の閾値と比較するものであることを特徴とする請求項5に記載の送り軸装置の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじによる送り軸装置をもつ工作機械等の機械設備において、送り軸装置の異常を診断する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工作機械の送り軸装置では、モータの回転運動をボールねじに伝えて駆動する方式が多く使用されている。しかしながら、数年間稼働した機械では、摩耗による予圧抜けや、異物の混入、潤滑不良などによる損傷により、精度不良や異音等が発生する場合がある。このような状態となると、ワークの形状不良や加工目不良などの不具合が発生する。したがって、ボールねじやサポート軸受、ガイドといった送り軸装置の機械要素は、劣化や破損が生じ、不具合が発生する前に交換されることが望ましい。
そこで、送り軸装置の機械要素の状態を知るために、変位センサを内蔵し位置決め精度を測定する方法や、振動センサによりボールねじやサポート軸受、リニアガイドの振動を検知し診断する方法など、さまざまな診断を行う方法が提案されている。特に特許文献1では、被駆動体の位置検出値とモータの位置検出値との差であるたわみ量を算出し、たわみ量の大きさが閾値を越えた場合に、機械の異常として警告表示する方法が開示されている。また、特許文献2では、ボールねじの振動と回転数とを検出し、振動信号を周波数分析と回転数に基づいた次数比分析または回転数に基づいたキャンベル解析とを行うことによって、ボールねじを構成するどの部品に異常が発生しているかを特定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-219689号公報
【文献】特開2013-164386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な工作機械では、ロータリーエンコーダのみを用いたセミクローズドループ方式が採用されることが多い。しかし、特許文献1における機械は、フルクローズドループ方式を採用しているため、セミクローズドループ方式の機械には適用できない。また、特許文献1ではたわみ量検出器を採用し、特許文献2では診断用のセンサを追加している。これらの方法では、送り軸装置の制御に使われる最低限の構成よりも構成要素が増えるため、コスト増加の要因、また故障する可能性のある個所が増加することによる、故障リスクの増加といった課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、工作機械の送り軸装置の制御に使われる最低限の構成を用いて、送り軸装置の異常診断を低コスト及び低リスクで行うことができる異常診断方法及び異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ねじ軸及びナットを有して機械設備に組み込まれる送り軸装置の異常を診断する方法であって、
前記ねじ軸が所定の動作パターンで動作するように前記送り軸装置の動作を制御する動作制御ステップと、
前記送り軸装置から発生する物理量信号を検出する検出ステップと、
所定の異常診断アルゴリズムに従い、前記検出ステップで検出された前記物理量信号に基づき前記送り軸装置の異常診断を行う異常診断ステップと、を含み、
前記異常診断ステップでは、前記物理量信号に対して周波数解析を行って、前記動作パターンでの複数の動作位置に対応した周波数とその周波数強度とをそれぞれ算出して、所定の閾値より大きい周波数強度をもつ各前記動作位置と周波数とをそれぞれ抽出し、抽出した各前記動作位置に対応した周波数の変化に基づいて異常診断を行うことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、上記構成において、前記異常診断ステップでは、各前記動作位置に対応した前記周波数の変化を、前記送り軸装置の各前記動作位置における曲げ振動モードと比較して異常診断を行うことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、上記構成において、前記異常診断は、前記曲げ振動モードに基づいて設定した所定の領域内に、各前記動作位置に対応した前記周波数が含まれる割合を所定の閾値と比較するものであることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、ねじ軸及びナットを有して機械設備に組み込まれる送り軸装置の異常を診断する装置であって、
前記ねじ軸が所定の動作パターンで動作するように前記送り軸装置の動作を制御する動作制御手段と、
前記送り軸装置から発生する物理量信号を検出する検出手段と、
所定の異常診断アルゴリズムに従い、前記検出手段で検出された前記物理量信号に基づき前記送り軸装置の異常診断を行う異常診断手段と、を含み、
前記異常診断手段は、前記物理量信号に対して周波数解析を行って、前記動作パターンでの複数の動作位置に対応した周波数とその周波数強度とをそれぞれ算出して、所定の閾値より大きい周波数強度をもつ各前記動作位置と周波数とをそれぞれ抽出し、抽出した各前記動作位置に対応した周波数の変化に基づいて異常診断を行うことを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、上記構成において、前記異常診断手段は、各前記動作位置に対応した前記周波数の変化を、前記送り軸装置の各前記動作位置における曲げ振動モードと比較して異常診断を行うことを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、上記構成において、前記異常診断は、前記曲げ振動モードに基づいて設定した所定の領域内に、各前記動作位置に対応した前記周波数が含まれる割合を所定の閾値と比較するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、送り軸装置の制御に使われる最低限の構成に対してセンサ等の他の構成要素を増やすことなく異常診断が行えることになり、センサ等の増加に伴うコストの増加や故障リスクの増加が生じない。従って、送り軸装置の異常診断を低コスト及び低リスクで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】送り軸装置及び位置制御装置のブロック図である。
【
図2】異常診断の手順を示すフローチャートである。
【
図3】送り軸装置の曲げ振動モードを示す説明図である。
【
図4】抽出した動作位置と周波数との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用する工作機械の送り軸装置及び位置制御装置のブロック図の一例である。
送り軸装置11は、モータ7によってボールねじ8を回転駆動させることで、ボールねじ8にナット9aが螺合する移動体9を直線移動させる。
位置制御装置12では、NC装置10からの位置指令とモータ7に取り付けられている位置検出器6からの現在位置が加算器1に入力され、演算された位置偏差が位置制御器2に入力される。位置制御器2は、位置誤差量に応じた速度指令値を生成する。速度制御器3は、速度指令値と現在位置とを微分器5により演算された速度検出値に応じてトルク指令値を生成する。電流制御器4は、入力されるトルク指令値に基づきモータ7への電流を制御する。位置検出器6で検出された現在位置をはじめ、これらの処理内で使用された情報は、位置制御装置12を含むNC装置10で記録、表示することが可能である。
【0010】
ここでは、NC装置10が、送り軸装置11の動作位置に対応した周波数の変化を捉えて送り軸装置11の異常診断を行う異常診断部13を備えて、異常診断装置としても機能する。
異常診断部13は、NC装置10の記憶部に記憶され、所定の異常診断アルゴリズムに則って作成されたプログラムに基づいて、本発明の動作制御手段、検出手段、異常診断手段として機能し、送り軸装置11の異常診断を実行する。以下、異常診断部13による異常診断の手順を、
図2のフローチャートに基づいて説明する。
【0011】
まず、S(「STEP」の略、以下同じ)1で、所定の動作パターンで送り軸装置11を動作させ、送り軸装置11から発生する物理量信号を検出する(動作制御ステップ及び検出ステップ)。
次に、S2で、検出した物理量信号のデータに対して周波数解析を行う。
次に、S3で、周波数解析の結果から、動作位置に対応した周波数とその周波数強度とを算出し、所定の閾値より大きい周波数強度をもつ動作位置と周波数とを抽出する。
そして、S4で、抽出した動作位置と周波数との関係と、送り軸装置11に曲げ振動モードが発生する動作位置と周波数との関係との一致具合を判定することによって、ボールねじ8の摩耗判定を行う(S2~S4:異常診断ステップ)。送り軸装置11の曲げ振動モードは、以下に示す梁の曲げ振動モード(固有振動数)の式(1)に送り軸装置11のパラメータを代入することによって算出する。
【0012】
【0013】
ここで、境界条件と振動モードとによって決まる無次元の定数をλ、梁の長さをl、梁の材料のヤング率をE、梁の断面2次モーメントをI、梁の材料の単位体積あたりの質量をρ、梁の断面積をAとしている。
【0014】
次に、上述した異常診断方法の具体例について述べる。
まず、S1での所定の動作パターンは、一定速度でボールねじ8のフルストロークを片道送ることとし、検出する物理量信号はトルク指令値とする。
S2において、検出したトルク指令値のデータに対する周波数解析は、一定ストローク区間毎に区切ったトルク指令値のデータに対してFFTを行い、フルストローク分のトルク指令値のデータに対するFFT結果を得る。
S3では、FFTを行ったストローク区間とFFT結果とを対応付けることによって、各動作位置に対応した周波数とその周波数強度とを算出し、所定の閾値より大きい周波数強度をもつ動作位置と周波数とを抽出する。
S4において、
図3に示した送り軸装置11の曲げ振動モードは、梁の曲げ振動モードの式(1)に送り軸装置11のパラメータを代入することによって算出する。λはボールねじ8の支持状態によって変わる値である。lはボールねじ8の支持軸受からナット9aまでの距離となり、例えばナット9aの中心を用いて計算する。Eはボールねじ8のヤング率、Iはボールねじ8の断面2次モーメント、ρはボールねじ8の密度、Aはボールねじ8の断面積となる。
【0015】
図4は、S3において抽出した動作位置と周波数との関係を示したものであり、動作音が大きくボールねじ8に摩耗が起きている事例である。
図3に示したような曲線が現れていることが確認できる。
そして、抽出した動作位置と周波数との関係と、曲げ振動モードが発生する動作位置と周波数との関係との一致具合を確認する際は、例えば、境界条件が両端固定で振動モードが1次の場合の値4.730を式(1)のλに代入し、その場合に得られる
図3に示した送り軸装置11の曲げ振動モードの実線で示す1次の曲線を中心として、両側に幅をもたせた領域A1(
図4に一点鎖線で囲まれる領域)を設定する。幅の持たせ方は、中心とする曲線を平行移動させた範囲を設定しても、中心とする曲線から曲線の法線方向に一定距離離れた範囲を設定してもよい。また、動作位置と周波数との関係の全領域をA2(
図4に点線で囲まれる領域)とする。
設定した領域A1内において、領域A2における周波数強度の平均値以上となっている領域の割合を算出し、算出結果が所定の閾値より大きい場合を異常(ボールねじ8の摩耗)と診断する。所定の閾値は、例えば領域A2において、周波数強度の平均値以上となっている領域の割合としてもよい。診断結果は、NC装置10のモニタに表示したり警告音を鳴らしたりすることで報知する。
【0016】
このように、上記形態の送り軸装置11の異常診断方法及びNC装置10(異常診断装置)によれば、ボールねじ8(ねじ軸)及びナット9aを有して工作機械に組み込まれる送り軸装置11に対し、ボールねじ8が所定の動作パターンで動作するように送り軸装置11の動作を制御する動作制御ステップ(S1)と、送り軸装置11から発生するトルク指令値(物理量信号)を検出する検出ステップ(S1)と、検出ステップで検出されたトルク指令値に基づき送り軸装置11の異常診断を行う異常診断ステップと、を実行し、異常診断ステップでは、トルク指令値に対して周波数解析を行って(S2)、動作パターンでの複数の動作位置に対応した周波数をそれぞれ抽出し(S3)、各動作位置に対応した周波数の変化を曲げ振動モードと比較して異常診断を行う(S4)ようになっている。
よって、送り軸装置11の制御に使われる最低限の構成に対してセンサ等の他の構成要素を増やすことなく異常診断が行えることになり、センサ等の増加に伴うコストの増加や故障リスクの増加が生じない。従って、送り軸装置11の異常診断を低コスト及び低リスクで行うことができる。
【0017】
なお、本実施形態では、一番メリットのある例として、検出する物理量信号をモータへのトルク指令値としているが、送り軸装置から発生する物理量信号であれば音や振動を検出してもよい。また、比較する送り軸装置の曲げ振動モードの曲線に関しては、必要に応じて
図3に点線で示す2次、3次の曲線のような高次数を用いるように拡張してもよい。
また、動作位置に対応した周波数の変化を捉えて診断する方法として、所定の閾値より大きい周波数強度の動作位置と周波数とを抽出して送り軸装置の曲げ振動モードと比較する方法にしぼって説明したが、この形態に限らない。例えば、あらかじめ異常時の動作位置によって変化する周波数の特徴を学習させたニューラルネットワークに、複数の動作位置に対応した周波数分析結果をカラーマップ表示した画像を入力して異常診断を行うようにしてもよい。同様に、当該ニューラルネットワークに、複数の動作位置に対応した周波数分析結果を行列として入力して異常診断を行うようにしてもよい。
【0018】
さらに、本実施形態では、ボールねじの摩耗を異常として診断したが、曲げ振動モードはボールねじが振れ回ることによって発生するため、本発明は組立時の振れ回りの状態の判定にも用いることができる。
その他、異常診断装置をNC装置と別に設けて、有線若しくは無線によってNC装置と接続することで異常診断を実施することもできる。この場合、複数の工作機械の異常診断を並行して行うことができる。
そして、本発明は工作機械に限らず、送り軸装置を備えた他の機械設備であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0019】
1・・加算器、2・・位置制御器、3・・速度制御器、4・・電流制御器、5・・微分器、6・・位置検出器、7・・モータ、8・・ボールねじ、9・・移動体、10・・NC装置、11・・送り軸装置、12・・位置制御装置、13・・異常診断部。