(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】フォトマスクの修正方法、フォトマスクの修正装置、ペリクル付きフォトマスクの製造方法および表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/72 20120101AFI20231006BHJP
【FI】
G03F1/72
(21)【出願番号】P 2020019717
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019039415
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 由寛
【審査官】三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-227209(JP,A)
【文献】特開2010-112980(JP,A)
【文献】特開平04-295851(JP,A)
【文献】特開2004-226717(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0151993(US,A1)
【文献】特開2010-186167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
7/00-7/24
9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の主表面に転写用パターンを備えたフォトマスクの、前記転写用パターンに生じた欠陥を修正するフォトマスクの修正方法であって、
前記フォトマスクにペリクルが貼付されている状態において、前記フォトマスクと前記ペリクルとにより形成されるペリクル空間に原料ガスを導入するとともに、前記ペリクルが有するペリクル膜越しに欠陥部位に向けてレーザ光を照射して前記原料ガスを反応させることにより、前記欠陥部位に修正膜を堆積させる成膜工程を有するフォトマスクの修正方法。
【請求項2】
前記成膜工程において、前記原料ガスは、前記ペリクルが有するペリクルフレームに設けられたペリクル通気口から導入される、
請求項1に記載のフォトマスクの修正方法。
【請求項3】
前記ペリクルは、前記ペリクル通気口に密着可能な開口部を有するクランプに挟持され、
前記成膜工程において、前記原料ガスは、前記開口部を通じて前記ペリクル通気口から導入される、
請求項2に記載のフォトマスクの修正方法。
【請求項4】
前記成膜工程の後に、前記ペリクル空間内に置換ガスを導入することにより、前記原料ガスを前記ペリクル空間から排出するガス置換工程を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のフォトマスクの修正方法。
【請求項5】
前記成膜工程において、前記フォトマスクを加温する、
請求項
2または3に記載のフォトマスクの修正方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のフォトマスクの修正方法を用いて、前記フォトマスクに形成された転写用パターンの欠陥を修正する工程を有する、
ペリクル付きフォトマスクの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法によって製造されたペリクル付きフォトマスクを用意する工程と、
露光装置を用いて前記ペリクル付きフォトマスクを露光して転写用パターンを被転写体に転写する工程と、
を有する表示装置の製造方法。
【請求項8】
透明基板の主表面に転写用パターンを備えたフォトマスクの、前記転写用パターンに生じた欠陥を修正するフォトマスクの修正装置であって、
前記主表面にペリクルが貼付されている状態の前記フォトマスクを保持するマスクホルダと、
前記フォトマスクと前記ペリクルとにより形成されるペリクル空間に原料ガスを導入するためのガス導入管と、
前記ペリクルが有するペリクル膜越しに欠陥部位に向けてレーザ光を照射するレーザ照射手段と、
XY平面内で、前記レーザ照射手段を移動させるレーザ水平移動手段と、
前記レーザ水平移動手段を制御する制御手段と、
を備えるフォトマスクの修正装置。
【請求項9】
中空の一対のアームを有するクランプを備え、
前記一対のアームの少なくとも一方は、前記ガス導入管に接続されるとともに、前記ペリクルが有するペリクルフレームに設けられたペリクル通気口に密着可能な開口部を有し、
前記クランプは、前記開口部が前記ペリクル通気口に密着するように、前記一対のアームによって、前記ペリクルフレームを挟持する、
請求項8に記載のフォトマスクの修正装置。
【請求項10】
前記ペリクル空間から余剰の前記原料ガスを排気するためのガス排出管を備える、請求項8または9に記載のフォトマスクの修正装置。
【請求項11】
前記フォトマスクを加温するヒータを備える、
請求項
9に記載のフォトマスクの修正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクの修正方法、フォトマスクの修正装置、ペリクル付きフォトマスクの製造方法および表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトマスクの製造方法として、透明基板上に少なくとも1つの薄膜を形成したフォトマスク基板にフォトリソグラフィを適用して転写用パターンを形成する方法が知られている。近年、表示装置用のフォトマスクのパターン寸法は微細化の動向にある。一方、フォトマスクの製造過程では、薄膜のパターニングの不完全や異物の付着などにより、転写用パターンの欠陥を完全に回避することは困難である。
従来、フォトマスクの欠陥の修正方法として、レーザCVD(Chemical Vapor Deposition)法が知られている(特許文献1参照)。また、完成したフォトマスクへの異物の付着を抑制するために、必要に応じて、フォトマスクの転写用パターンが形成された面側には、ペリクルと呼ばれる部材が貼付されることがある。このペリクルは、例えば特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-140744号公報
【文献】特開平9-68792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2のいずれにもペリクルが貼付されたフォトマスクの欠陥を修正する方法は開示されていない。ペリクルが貼付された後に修正が必要になった場合には、ペリクルをフォトマスクから取り外して修正を行い、修正完了後に新たなペリクルをフォトマスクに貼付する必要があった。このため、生産性の低下やコストの増加が問題となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、ペリクルをフォトマスクから取り外すことなく転写用パターンの欠陥を修正することができるフォトマスクの修正方法、フォトマスクの修正装置、ペリクル付きフォトマスクの製造方法および表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(第1の態様)
本発明の第1の態様によれば、
透明基板の主表面に転写用パターンを備えたフォトマスクの、前記転写用パターンに生じた欠陥を修正するフォトマスクの修正方法であって、
前記フォトマスクにペリクルが貼付されている状態において、前記フォトマスクと前記ペリクルとにより形成されるペリクル空間に原料ガスを導入するとともに、前記ペリクルが有するペリクル膜越しに欠陥部位に向けてレーザ光を照射して前記原料ガスを反応させることにより、前記欠陥部位に修正膜を堆積させる成膜工程、を有するフォトマスクの修正方法が提供される。
【0007】
(第2の態様)
本発明の第2の態様によれば、
前記成膜工程において、前記原料ガスは、前記ペリクルが有するペリクルフレームに設けられたペリクル通気口から導入される、
第1の態様に記載のフォトマスクの修正方法が提供される。
【0008】
(第3の態様)
本発明の第3の態様によれば、
前記ペリクルは、前記ペリクル通気口に密着可能な開口部を有するクランプに挟持され、
前記成膜工程において、前記原料ガスは、前記開口部を通じて前記ペリクル通気口から導入される、
第2の態様に記載のフォトマスクの修正方法が提供される。
【0009】
(第4の態様)
本発明の第4の態様によれば、
前記成膜工程の後に、前記ペリクル空間内に置換ガスを導入することにより、前記原料ガスを前記ペリクル空間から排出するガス置換工程を有する、
第1~3の態様のいずれか1つに記載のフォトマスクの修正方法が提供される。
【0010】
(第5の態様)
本発明の第5の態様によれば、
前記成膜工程において、前記フォトマスクを加温する、
第1~4の態様のいずれか1つに記載のフォトマスクの修正方法が提供される。
【0011】
(第6の態様)
本発明の第6の態様によれば、
第1~5の態様のいずれか1つに記載のフォトマスクの修正方法を用いて、前記フォトマスクに形成された転写用パターンの欠陥を修正する工程を有する、
ペリクル付きフォトマスクの製造方法が提供される。
【0012】
(第7の態様)
本発明の第7の態様によれば、
第6の態様に記載の製造方法によって製造されたペリクル付きフォトマスクを用意する工程と、
露光装置を用いて前記ペリクル付きフォトマスクを露光して転写用パターンを被転写体に転写する工程と、
を有する表示装置の製造方法が提供される。
【0013】
(第8の態様)
本発明の第8の態様によれば、
透明基板の主表面に転写用パターンを備えたフォトマスクの、前記転写用パターンに生じた欠陥を修正するフォトマスクの修正装置であって、
前記主表面にペリクルが貼付されている状態の前記フォトマスクを保持するマスクホルダと、
前記フォトマスクと前記ペリクルとにより形成されるペリクル空間に原料ガスを導入するためのガス導入管と、
前記ペリクルが有するペリクル膜越しに欠陥部位に向けてレーザ光を照射するレーザ照射手段と、
XY平面内で、前記レーザ照射手段を移動させるレーザ水平移動手段と、
前記レーザ水平移動手段を制御する制御手段と、
を備えるフォトマスクの修正装置が提供される。
【0014】
(第9の態様)
本発明の第9の態様によれば、
中空の一対のアームを有するクランプを備え、
前記一対のアームの少なくとも一方は、前記ガス導入管に接続されるとともに、前記ペリクルが有するペリクルフレームに設けられたペリクル通気口に密着可能な開口部を有し、
前記クランプは、前記開口部が前記ペリクル通気口に密着するように、前記一対のアームによって、前記ペリクルフレームを挟持する、
第8の態様に記載のフォトマスクの修正装置が提供される。
【0015】
(第10の態様)
本発明の第10の態様によれば、
前記ペリクル空間から余剰の原料ガスを排気するためのガス排出管を備える、
第8または9の態様に記載のフォトマスクの修正装置が提供される。
【0016】
(第11の態様)
本発明の第11の態様によれば、
前記フォトマスクを加温するヒータを備える、
第8~10の態様のいずれか1つに記載のフォトマスクの修正装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ペリクルをフォトマスクから取り外すことなくフォトマスクの欠陥を修正することができるフォトマスクの修正方法、フォトマスクの修正装置、ペリクル付きフォトマスクの製造方法および表示装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフォトマスクの修正方法の概要を示す説明図であり、(a)は、欠陥部位にレーザ光を照射している状態を示す概略図、(b)は、レーザ光の照射後であって、欠陥部位に修正膜が堆積している状態を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るフォトマスクの修正装置のアームがペリクルフレームを挟持した状態を示す概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るフォトマスクの修正装置の概要を例示する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本実施形態に係るフォトマスク、ペリクルおよび転写用パターンの欠陥について説明する。
【0020】
<1.フォトマスク、ペリクルおよび転写用パターンの欠陥の例>
本発明の一実施形態に係るフォトマスク、ペリクルおよび転写用パターンの欠陥の一例について説明する。
【0021】
(フォトマスク)
図1に示すように、本実施形態に係るフォトマスク1は、透明基板1a上の少なくとも1つの薄膜をパターニングして転写用パターン1bを形成したものである。例えば、フォトマスク1は、透明基板1aの一方の主表面に遮光膜などの薄膜を形成したフォトマスク基板に対して、フォトリソグラフィを適用して転写用パターン1bを形成することにより得ることができる。
具体的には、フォトマスク1は、以下のような方法で製造される。
まず、透明基板1a上に薄膜を形成したフォトマスク基板を用意する。次に、薄膜をパターニングすることにより、転写用パターン1bを形成する。この薄膜のパターニングは、必要に応じて、複数回行ってもよい。完成した転写用パターン1bが形成されている主表面に、ペリクル2を貼付する。次に、検査装置を用いて、転写用パターン1bの欠陥の有無を検査する。欠陥が発見された場合、本発明にかかるフォトマスクの修正方法を用いて、欠陥を修正する。以上により、ペリクル付きフォトマスクが完成する。
【0022】
(ペリクル)
図1に示すように、フォトマスク1を構成する透明基板の主表面には、四角形のペリクル2が貼付されている。ペリクル2を主表面に貼付することにより、転写用パターン1bへの異物の付着を抑制することができる。なお、本明細書において、フォトマスク1を構成する透明基板が有する2つの主面のうち、転写用パターン1bが形成された面を「主表面」と呼び、他方の主面を「裏面」と呼ぶ。
【0023】
ペリクル2は、ペリクルフレーム2bとペリクル膜2aとを有している。ペリクルフレーム2bをフォトマスク1の主表面の4辺の外縁付近に貼付することにより、ペリクル2を固定することができる。ペリクルフレーム2bは、
図2に示すように、4つの辺部により四角枠状に形成されている。詳細は図示しないが、4つの辺部のそれぞれは、接着剤等を介してフォトマスク1の主表面に接する下端面と、下端面に対向する上端面と、下端面と上端面とをつなぐ外周面と、外周面に対向する内周面と、を有する。内周面が、ペリクルフレーム2bの内側に位置する。なお、ペリクル膜2aは、表示装置製造用のフォトマスク用として公知のものを使用することができる。
【0024】
図2に示すように、ペリクルフレーム2bには、ペリクル2内外の気圧差を調整可能とする通気口3(以下、ペリクル通気口3ともいう)が、所定の間隔で複数設けられている。通気口3は、ペリクルフレーム2bの外周面から内周面へ貫通する。ここでは、ペリクルフレーム2bの対向し合う2つの辺部のそれぞれに2個ずつペリクル通気口3が設けられているが、一例に過ぎず、ペリクル通気口3の数や設置形態は任意である。
【0025】
(転写用パターンの欠陥)
フォトマスク1の転写用パターン1bの欠陥には、光透過率が許容値よりも低くなる黒欠陥と、光透過率が許容値よりも高くなる白欠陥がある。黒欠陥は、不要な部分に残存した薄膜や異物の付着などが原因で発生する欠陥である。白欠陥は、必要な薄膜の欠損などが原因で発生する欠陥であり、例えば、透明基板1a上の薄膜をパターニングする際に生じる(
図1(a)参照)。
【0026】
次に、図面に基づき本発明に係るフォトマスクの修正方法について説明する。
【0027】
<2.フォトマスクの修正方法例>
本発明の一実施形態に係るフォトマスクの修正方法の一例について説明する。
図1は、本実施形態に係るフォトマスク1の修正方法の概要を示す説明図である。
本実施形態のペリクル2が貼付されたフォトマスク1に形成された転写用パターン1bの欠陥部位4は、ペリクル空間5に原料ガスを導入するとともに(
図1(a)参照)、ペリクル膜2aを通して欠陥部位4に向けてレーザ光9を照射して欠陥部位4に修正膜6を堆積させる(
図1(b)参照)成膜工程を行うことにより修正することができる。以下、成膜工程について図面を用いて説明する。なお、欠陥部位4とは、欠陥が生じている領域のことを指す。また、ペリクル空間5とは、フォトマスク1とペリクル2により形成される空間(すなわち、フォトマスクの主表面と、ペリクルフレーム2bと、ペリクル膜2aとによって囲まれた空間。)のことを指す。
【0028】
(成膜工程)
まず、
図1(a)に示すように、ペリクル通気口3からペリクル空間5に、修正膜6を形成するための原料ガスを導入する。これにより、白欠陥を生じた転写用パターン1bの近傍は、原料ガスの雰囲気となっている。
図1(a)の右側黒塗り矢印により、原料ガスがペリクル空間5に導入される様子を示している。なお、原料ガスについては後述する。
【0029】
続いて、
図1(a)に示すように、欠陥部位4が原料ガス雰囲気となった状態で、ペリクル膜2aを通して欠陥部位4に向けてレーザ発振器8から所定波長のレーザ光9を照射する。この時、転写用パターン1bの欠陥部位4にフォーカスしてレーザ光9を照射することにより、
図1(b)に示すように、原料ガスが反応して生成された修正膜6が欠陥部位4に堆積する。また、ペリクル膜2aの位置では、レーザ光9がデフォーカス状態であるため、ペリクル膜2aの損傷は実質的に生じない。
【0030】
原料ガスの導入を所定時間継続することにより、ペリクル空間5内に充満したガス(原料ガスを含む)の一部は、他のペリクル通気口3から排気される。これにより、ペリクル空間5内の気圧がペリクル空間外の気圧を大きく超えることを抑制することができる。
【0031】
また、ガスの排気を促進するとともに、排気された原料ガスがペリクル通気口3の出口近傍に滞留することを抑制するために、上述の他のペリクル通気口3の外部から吸気してもよい。
【0032】
なお、上述の成膜工程において、原料ガスが不要なところに堆積するリスクを低減するため、フォトマスク1の裏面に配置されたヒータ75によりフォトマスク1を加温し、間接的に主表面近傍の原料ガスを温めることが好ましい。
【0033】
転写用パターン1bの欠陥の修正が終了した後、ペリクル通気口3を利用して余剰の原料ガスを排気することができる。例えば、1つ又は複数のペリクル通気口3を原料ガス導入に用い、他のペリクル通気口3を排気に用いることができる。ここで、余剰の原料ガスとは、ペリクル空間5に存在する原料ガスのうち、修正膜6の形成に寄与しなかったものを指す。例えば、後述の置換ガスをペリクル空間5に導入することにより、余剰の原料ガスをペリクル空間5から排出することができる。
【0034】
次に、図面に基づき本発明に係るフォトマスクの修正装置を説明する。
【0035】
<3.フォトマスクの修正装置の構成例>
本発明の一実施形態に係るフォトマスクの修正装置の構成例について説明する。
図3は、本実施形態に係るフォトマスクの修正装置100の概要を例示する構成図である。
【0036】
(全体構成)
本実施形態で例に挙げて説明するフォトマスクの修正装置100は、
図1で説明したように、ペリクル2が貼付されたフォトマスク1をレーザCVD法で処理して欠陥部位4に修正膜6を形成することにより、ペリクル2をフォトマスク1から取り外すことなく転写用パターン1bに生じた欠陥を修正できるように構成されている。
【0037】
フォトマスクの修正装置100は、主として、マスクホルダ15と、クランプ7と、ガス導入管20と、レーザ発振器(レーザ照射手段)8と、レーザ水平移動部(レーザ水平移動手段)30と、上部XYZロボット制御部(制御手段)35と、を備える。
【0038】
(マスクホルダ)
マスクホルダ15は、ペリクル2が貼付されたフォトマスク1を保持するためのものである。マスクホルダ15上のフォトマスク1は、主表面を上にして、実質的に水平に保持されている。実質的に水平とは、フォトマスク1に若干のたわみがある場合を含む。また、マスクホルダ15のサイズは、フォトマスク1のサイズに応じて適宜選択される。
【0039】
(クランプ)
クランプ7は、ペリクルフレーム2bを挟持する。クランプ7は、ペリクルフレーム2bを挟持するための一対のアーム7a(詳細は後述)と、アーム同士を連結する連結部7bと、を有する。
図3では、一例として、一対の連結部7bが示されているが、連結部の数に制限はない。また、「挟持する」とは、一対のアーム7aのそれぞれがペリクルフレーム2bに接触(密着)して挟む形態だけではなく、一対のアーム7aのいずれか一方とペリクルフレーム2bとの間に若干の空間を設けつつ(すなわち、一対のアーム7aのいずれか一方をペリクルフレーム2bに非接触としつつ)、ペリクルフレーム2bを挟むように、一対のアーム7aが配置される形態をも含むものとする。詳細は後述するが、一対のアーム7aの一方を、原料ガスの導入に用いるとともに、他方を排気に用いることができる。例えば、ペリクル空間5内へのガスの導入は、一方のアーム7aをペリクルフレーム2bに密着させて行い、ペリクル空間5内のガス排出の際には、他方のアーム7aをペリクルフレーム2bに非接触として行なうなどの態様が選択できる。非接触の場合、ペリクル空間5から排出されたガスがペリクル通気口3の出口近傍に滞留しないように、該他方のアーム7aに設けられた後述の開口部10から該ガスを吸気できる位置に、該他方のアーム7aが配置されればよい。
【0040】
(アーム)
アーム7aは、原料ガスを通過させるために中空に構成されている。原料ガスの導入や余剰の原料ガスの排出などのために、アーム7aには、ペリクル通気口3に対応する複数の開口部10が設けられている。アーム7aの内部の構成は特に限定されず、原料ガスが通過できるように中空であればよい。例えば、アーム7aの内部には、ガス導入管20と開口部10とに連通する通気路(不図示)が設けられてもよい。
【0041】
クランプ7は、ペリクル通気口3が設けられた2つの外周面側からペリクルフレーム2bを一対のアーム7aで挟むことにより、開口部10をペリクル通気口3に密着させることができる。これにより、開口部10を通じてペリクル通気口3から原料ガスをペリクル空間5に導入することができる。また、アーム7aによるペリクルフレーム2bの挟持状態を検出するセンサとして、リミットスイッチがアーム7aに設けられてもよい。
【0042】
ペリクルフレーム2bを一対のアーム7aで挟むにあたり、開口部10の位置がペリクル通気口3の位置からわずかにずれる可能性があるので、開口部10はペリクル通気口3よりも大きいことが好ましい。例えば、開口部10は、ペリクル通気口3の外縁よりも、その縦横の内径が1~2mm程度大きくてもよい。これにより、開口部10の位置がペリクル通気口3の位置から少しずれても、ペリクル通気口3の外縁を開口部10内に収めることができる。
【0043】
また、原料ガスによる不要な膜の形成を抑制するため、アーム7aは加温されることが好ましい。加温方法は特に限定されず、ヒータなど公知のものを用いることができる。
【0044】
アーム7aは、移動機構(不図示)により、連結部7bに沿ってX方向あるいはY方向(
図3では、Y方向)に移動することができる。これにより、クランプ7は、種々の大きさのペリクルを挟持することができる。アーム7aのX方向あるいはY方向の移動は、移動機構を制御するクランプ移動制御部(不図示)によって制御される。クランプ移動制御部は、制御ユニット40によって制御されてもよい。
【0045】
本実施形態では、フォトマスク1の主表面との離間距離が実質的に一定である面を、主表面に平行な面とし、主表面にたわみが生じている場合も含む。そして、フォトマスク1の主表面にたわみが生じない場合を想定したときの、主表面に平行な面をXY平面とし、主表面の長辺または短辺に平行な方向をX方向、XY平面内におけるX方向と垂直な方向をY方向とする。さらに、X方向およびY方向に垂直な方向をZ方向とする。
【0046】
(ガス導入管)
ガス導入管20は、クランプ7のアーム7aに接続するように構成されており、原料ボックス70から供給された原料ガスをペリクル空間5に導入するためのものである。
図3では、1つのガス導入管20が例示されているが、ガス導入管の数は複数であってもよい。クランプ7のアーム7aに設けられた開口部10は、ガス導入管20に、直接的に、あるいは他の部材を介在させて間接的に接続することができる。したがって、原料ガスは、ガス導入管20を通り、クランプ7のアーム7aの開口部10を通じてペリクル通気口3からペリクル空間5へ導入される。
【0047】
ペリクル空間5に原料ガスを導入するためのガス導入系は、ガス導入管20の他、原料ボックス70と、キャリアガス供給管(不図示)と、を備えている。
【0048】
(キャリアガス供給管)
キャリアガス供給管は、不活性ガスからなるキャリアガス(例えば、アルゴンガス)を原料ボックス70に供給するものである。
【0049】
(原料ボックス)
原料ボックス70は、加熱し昇華させてガス化した、修正膜6の形成に用いる原料をキャリアガスと混ぜることにより原料ガスを生成するためのものである。
【0050】
原料ボックス70は、例えば後述のガス制御部65に接続することができ、このガス制御部65の制御により、原料ボックス70からガス導入管20に原料ガスを供給することができる。原料ガスは、ガス導入管20を通り、ペリクル通気口3のいずれかからペリクル空間5へ導入される。ガス導入管20を通過する原料ガスが外気によって冷却されて不要な膜が形成されることを抑制するため、ガス導入管20を断熱材で覆ってもよい。また、原料ボックス70およびキャリアガス供給管は、必ずしも修正装置100内に設けられる必要はなく、修正装置100とは別に設けられてもよい。
【0051】
(原料ガス)
原料ガスは、
図1で説明したように、照射されたレーザ光9によって生じる光CVD反応により分解されるものであり、これにより、欠陥部位4に修正膜6を堆積させることができる。原料ガスとしては、好ましくは、金属カルボニルが使用される。具体的には、クロムカルボニル(Cr(CO)
6)、モリブデンカルボニル(Mo(CO)
6)、タングステンカルボニル(W(CO)
6)などが挙げられる。クロムカルボニルは、耐薬性が高く、特に好ましい。
【0052】
(レーザ発振器)
レーザ発振器8は、転写用パターン1bにレーザ光9を照射するものであり、ペリクル膜2aの上側に配置され、XY平面内でフォトマスク1に対して相対的に移動できるように構成されている。さらに、フォトマスク1にたわみが生じてもレーザ光9が欠陥部位4に対してフォーカス調整可能となるように、レーザ発振器8は、フォトマスク1に対して相対的に、Z方向にも移動できるように構成されている。このような構成により、レーザ発振器8は、転写用パターン1bの上側において任意の位置に到達して、欠陥部位4にフォーカスした状態でレーザ光9を照射することができる。なお、相対的に移動するとは、フォトマスク1およびレーザ発振器8のうちの一方が静止した状態で他方が移動すること、あるいは双方が移動することを意味する。
【0053】
照射されたレーザ光9は、原料ガス雰囲気となっている欠陥部位4で、光CVD反応を生じさせる。これにより、欠陥部位4に修正膜6を堆積させることができる。修正装置100によれば、修正膜6の膜厚は、500~4000Åとすることができる。また、修正できる白欠陥のサイズは、0.3~50μm程度であることができる。
【0054】
レーザ光9の照射は、レーザ制御部(不図示)によって制御され、レーザ制御部は、制御ユニット40によって制御される。使用するレーザ光9の波長λは、原料ガスの種類、フォトマスク1の透明基板1aの材質、およびペリクル膜2aの材質等に応じて最適な波長λを適宜選択すればよい。レーザ光9の波長λは、好ましくは、200nm~600nmであり、より好ましくは、265nm~530nmである。これらの波長であれば、より精度よく欠陥部位4に修正膜6を堆積させることができる。
【0055】
(レーザ水平移動部)
レーザ水平移動部30は、XY平面内でレーザ発振器8を移動させるものである。レーザ水平移動部30は、上部Xロボット30aと上部Yロボット30bとを備える。
【0056】
(上部XYZロボット制御部)
上部XYZロボット制御部35は、レーザ水平移動部30を制御するものである。
【0057】
修正装置100は、さらに、レーザ変位計45を備える。
【0058】
(レーザ変位計)
レーザ変位計45は、マスクホルダ15上のフォトマスク1の位置を検出するものである。レーザ変位計45は、フォトマスクの上側に設けられ、XY平面内およびZ方向に移動可能に構成されている。レーザ変位計45は、マスクホルダ15上のフォトマスク1に対して、Z方向に検査光を出射し反射光を検出することにより、マスクホルダ15表面を基準としたときの主表面の高さを検出することができる。これにより、マスクホルダ15上のフォトマスク1の位置を検出することができる。
【0059】
修正装置100は、さらに、ガス排出管50を備える。
【0060】
(ガス排出管)
ガス排出管50は、ペリクル空間5内に残る修正完了後の余剰の原料ガスを、排気するためのものである。なお、
図3では、1つのガス排出管50が例示されているが、ガス排出管の数は複数であってもよい。ガス排出管50は、クランプ7のアーム7aに設けられた1つまたは複数の開口部10に、直接的に、あるいは他の部材を介在させて間接的に接続することができる。これにより、余剰の原料ガスは、開口部10の1つまたは複数を通って排気される。排気をより効率的に行うために、例えば、アーム7aの内部に、ガス排出管50と開口部10とに連通する通気路が設けられてもよい。
【0061】
ペリクル空間5から排気された原料ガスがペリクル通気口3の出口近傍に滞留することを抑制するために、開口部10から吸気することが好ましい。この場合、過剰な吸気によりペリクル空間5内の気圧がペリクル空間外の気圧よりも小さくなり過ぎないように、ペリクル空間外の空気も同時に吸気されるようにすることができる。例えば、吸気に用いられる開口部10の近傍に、ペリクル空間外の空気を吸引するための空気孔を設けてもよい。
【0062】
置換ガスボックス(不図示)に貯留された置換ガスをペリクル空間5に導入することによって余剰の原料ガスを排気することができる。置換ガスボックスは、修正装置100内に設けられても、別に設けられてもよい。置換ガスとしては、例えば窒素のような不活性ガスおよびドライエアが挙げられる。
【0063】
置換ガスは、原料ガスと同様に、ガス導入管20を通り、クランプ7の開口部10に密着したペリクル通気口3の1つまたは複数からペリクル空間5へ導入される。置換ガスの導入により、余剰の原料ガスが他のペリクル通気口3から押し出され、ガス排出管50に接続された開口部10の1つまたは複数を通って排気されるようになっている。このようにして、ペリクル空間5内の原料ガスは置換ガスに置き換えられる。
【0064】
なお、原料ガスおよび置換ガスの導入と排気は、ガス制御部65によって制御されてもよい。また、原料ガス導入と置換ガス導入は、共通のガス導入管が用いられてもよいし、別々のガス導入管が用いられてもよい。共通のガス導入管を用いる場合は、ガス制御部65によって、原料ガスボックスとガス導入管との接続、および置換ガスボックスとガス導入管との接続を切り替えることができる。ガス制御部65は制御ユニット40によって制御される。
【0065】
修正装置100は、さらに、観察用光学系55と、観察用照明60と、を備えてもよい。
【0066】
(観察用光学系、観察用照明)
観察用光学系55と観察用照明60は、フォトマスク1上の任意の位置を観察可能とするためのものである。観察用光学系55と観察用照明60は、マスクホルダ15上に載置されたフォトマスク1を間に置いた状態で互いに対向する位置に配置することができる。修正装置100は、観察用光学系55と観察用照明60により、欠陥の位置および形状などを観察した上で、レーザ光9を照射することができるので、より精度の高い欠陥の修正を行うことができる。なお、観察用光学系55と観察用照明60は、観察用光学系制御部(不図示)の制御により、レーザ発振器8の動きに同期して移動できることが好ましい。
【0067】
レーザ発振器8および観察用光学系55は、フォトマスク1の主表面に垂直な方向(Z方向)で、マスクホルダ15上に載置されたフォトマスク1に対して相対的に移動できることが好ましい。これにより、フォトマスク1にたわみが生じても、レーザ光9が、主表面に対する適したフォーカス位置に到達可能となる。すなわち、レーザ発振器8は、欠陥部位4に対してフォーカス調整可能となるように、Z方向で移動可能である。
【0068】
レーザ発振器8および観察用光学系55は、XY平面内およびZ方向に、移動可能であることが好ましい。したがって、本実施形態に係るフォトマスクの修正装置100は、レーザ発振器8および観察用光学系55を、XY平面内で移動させる上部Xロボット30aおよび上部Yロボット30b、Z方向に移動させる上部Zロボット30cを備えることが好ましい。上部Xロボット30a、上部Yロボット30b、および上部Zロボット30cは、上部XYZロボット制御部35によって制御される。上部XYZロボット制御部35は、制御ユニット40によって制御される。
【0069】
また、観察用照明60も、レーザ発振器8および観察用光学系55の動きに同期できるように、XY平面内およびZ方向に移動可能であることが好ましい。したがって、修正装置100は、観察用照明60をXY平面内で移動させる下部Xロボット80および下部Yロボット85、Z方向に移動させる下部Zロボット90を備えることが好ましい。なお、観察用照明60のX方向およびY方向における位置は、観察用光学系55のX方向およびY方向における位置と一致することが好ましい。下部Xロボット80、下部Yロボット85、および、下部Zロボット90は、下部XYZロボット制御部(不図示)によって制御される。下部XYZロボットは、制御ユニット40によって制御される。
【0070】
原料ガスによるフォトマスク1の主表面上への不要な膜の形成を抑制するために、原料ガスを加温することが好ましい。原料ガスの加温手段は、特に限定されないが、例えば、修正装置100は、加温手段としてのヒータ75を備えてもよい。ヒータ75を用いて、例えばフォトマスク1を加温することにより、ペリクル空間5内の原料ガスも間接的に加温され、主表面上での不要な膜の形成を抑制することができる。ペリクル空間5内の原料ガスは、40℃以上に加温されることが好ましく、40~50℃の範囲内となるように加温されることがより好ましい。
【0071】
ペリクル空間5内の原料ガスを均一に加温できれば、ヒータ75の配置位置は特に限定されないが、ヒータ75は、例えば、フォトマスク1の裏面側に配置することができる。ヒータ75としては、可視光に対して透明な耐熱性のガラス基板を用いることができる。具体的には、透明導電膜および電極を備えた透明なガラスヒータが挙げられる。
【0072】
上記のようなガラス基板を用いることにより、フォトマスク1を均一に加温することができる。また、ガラス基板による加温では気流が発生しにくいため、フォトマスク1への異物の付着を抑制することもできる。
【0073】
<4.本実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下に述べる一つまたは複数の効果を奏する。
【0074】
(a)本実施形態に係るフォトマスクの修正方法または修正装置100によれば、ペリクル膜2aを通してフォトマスク1の欠陥部位4を修正することができる。これにより、ペリクル2を貼付した後に白欠陥の修正が必要になった場合でも、ペリクル2を取り外すことなく、該白欠陥を修正することができる。このため、ペリクル2を貼付した後に生じた修正において、ペリクル2を取り外す工程を削減することができ、フォトマスク1(ペリクル付きフォトマスク)の迅速な修正および出荷が可能となる。さらに、修正後に新たなペリクルを貼付する必要もないので、コストの削減も可能となる。
【0075】
(b)本実施形態に係るフォトマスクの修正方法または修正装置100によれば、フォトマスク1を大気中に置いた状態で欠陥の修正を行うことができるため、簡便な作業を実現することができる。
【0076】
(c)本実施形態に係るフォトマスクの修正方法または修正装置100によれば、例えば、透明基板1aに形成される薄膜として遮光膜または半透光膜が用いられたフォトマスクを修正することができる。また、投影露光により転写が行なわれるフォトマスクを修正することもできる。なお、本実施形態では、一例として、未露光(被転写体への転写に用いられる前)のフォトマスクの修正を行うことについて記載したが、露光後(被転写体への転写に用いられた後)のフォトマスクの修正を行うこともできる。
【0077】
<5.フォトマスクの用途>
フォトマスクの用途は限定されない。ただし、本実施形態にかかるフォトマスクの修正装置100および修正方法は、特にフラットパネルディスプレイ(FPD)製造に用いられるフォトマスク(ペリクル付きフォトマスク)に生じた欠陥の修正に好適に用いることができる。
【0078】
例えば、LCD(液晶表示装置)あるいはOLED(有機EL表示装置)などの表示装置製造用のフォトマスクが例示される。こうした用途のフォトマスクは、例えばその主表面が、一辺300~2000mmの四角形であり、具体的なサイズは、目的とするフラットパネルの仕様によって、様々に異なる。表示装置製造用とは、表示装置に搭載される表示装置用デバイスの製造用を含む。また、投影露光を適用するものであって、NA(開口数)が0.08~0.15程度の光学系を有する露光装置によって製造される表示装置用のフォトマスクも含む。露光のための光源としては、i線~g線の範囲のいずれかの波長を用いることができ、特にこの波長域を含む光を、露光光原として用いることが有利である。
【0079】
上記用途のフォトマスクは、転写用パターン1bのパターン幅(CD:Critical Dimension)として、1~300μm程度のものを含むことが多い。このようなパターンに白欠陥が生じた場合に、本実施形態に係る修正方法を適用すれば、さらに効率よく、精緻に修正を行うことができる。
【0080】
<6.フォトマスクの修正装置における処理動作例>
次に、上述した構成のフォトマスクの修正装置100における処理動作例について説明する。
【0081】
本実施形態に係る修正装置100を用いた欠陥の修正においては、後述の、セット工程、位置検出工程、座標軸決定工程、接続工程、成膜工程、ガス置換工程を順次行う。なお、以下の説明において、修正装置100を構成する各部の動作は、主として制御ユニット40により制御される。
【0082】
(セット工程)
セット工程では、主表面にペリクル2を貼付したフォトマスク1を準備し、このフォトマスク1をマスクホルダ15にセットする。さらに、マスクホルダ15を修正装置100内に移動する。
【0083】
(位置検出工程)
マスクホルダ15を移動する際に、マスクホルダ15上のフォトマスク1の位置がずれる場合がある。したがって、位置検出工程では、フォトマスク1の上側に配置されたレーザ変位計45により主表面の高さを測定して主表面の高さの分布を含むデータを取得し、このデータによりフォトマスク1のマスクホルダ15上の位置を検出する。
【0084】
(座標軸決定工程)
座標軸決定工程では、フォトマスク1の外周近傍に形成されたアライメントマーク等を読み取り、転写用パターン1bのおおまかな配置方向を把握する。さらに、転写用パターン1bを読み取ることにより、転写用パターン1bの配置方向を精緻に把握して、転写用パターンの座標軸を決定する。座標軸が決定することにより、後述のとおり、欠陥位置の特定が行なえる。なお、アライメントマークとは、転写用パターン1bのアライメントのために形成されるパターンである。
【0085】
(接続工程)
接続工程では、クランプ7の一対のアーム7aでペリクルフレーム2bを挟むことにより、ガス導入管20に接続されたクランプ7の開口部10と、ペリクル通気口3とを密着・接続させる。クランプ7のアーム7aにペリクル通気口3に対応する開口部10を備えることにより、ペリクル通気口3とアーム7aの開口部10とを確実に密着させて、原料ガスを導入する作業効率を向上させることができる。
【0086】
(成膜工程)
成膜工程では、まず、フォトマスク1とペリクル2とにより形成されるペリクル空間5に原料ガスを導入する。原料ガスは、ガス導入管20を通って、開口部10に密着した1つまたは複数のペリクル通気口3から導入される。
【0087】
原料ガスを導入するにあたり、他のペリクル通気口3の1つまたは複数から排気して、ペリクル空間5内の気圧がペリクル空間外の気圧を大幅に超えないように調整することが好ましい。これにより、ペリクル膜2aが膨張するのを抑制することができる。この排気は、後述のガス置換工程が完了するまで継続する。
【0088】
なお、排気された原料ガスがペリクル通気口3の出口近傍に滞留することを抑制するために、開口部10から吸気してもよい。この場合、前述したように、過剰な吸気によりペリクル空間5内の気圧がペリクル空間外の気圧よりも小さくなりすぎないように、吸気に用いられる開口部10の近傍に空気孔を設けることなどにより、ペリクル空間外の空気も同時に吸気されるようにしてもよい。
【0089】
また、原料ガスによる主表面への不要な膜の形成を抑制するため、後述のガス置換工程が終了するまでペリクル空間5内の原料ガスを加温する。
【0090】
なお、フォトマスク1は、転写用パターン1b形成後に、検査装置による欠陥検査を経て、欠陥部位4の位置(座標)が予め把握されている。この検査装置における座標を修正装置100における座標に合わせるため、検査装置における基準点と修正装置100における基準点とを合わせて座標の原点とする。
【0091】
次に、ペリクル膜2aを通して欠陥部位4に向けてレーザ光9を照射して原料ガスを反応させることにより、欠陥部位4に修正膜6を堆積させる。
【0092】
具体的には、上述の座標軸決定工程で得られた座標軸および上記原点に基づいて欠陥部位4の位置座標を取得し、ペリクル膜2aを通して欠陥部位4にレーザ光9を照射する。
【0093】
レーザ光9によって原料ガスを反応させ、欠陥部位4に修正膜6を堆積させる。このようにして、フォトマスク1の欠陥を修正する。なお、レーザ光9を照射する前に、レーザ光9のフォーカスを調整するフォーカシング工程を含んでもよい。フォーカシング工程では、レーザ光9は、修正対象となる欠陥部位4に対してフォーカスされ、ペリクル膜2aに対してはデフォーカスされるように調整される。
【0094】
(ガス置換工程)
ガス置換工程では、成膜工程の後、ペリクル空間5内の余剰の原料ガスを排気するために、余剰の原料ガスを別のガス(置換ガス)に置換する。これにより、フォトマスク1の主表面への不要な膜の堆積を抑制することができる。
【0095】
置換ガスを1つまたは複数のペリクル通気口3からペリクル空間5へ導入することにより、近傍に開口部10が配置された他のペリクル通気口3の1つまたは複数から余剰のガスを排気する。これにより、ペリクル空間5内の原料ガスは、置換ガスに置き換えられる。
【0096】
成膜工程と同様に、排気された余剰の原料ガスがペリクル通気口3の出口近傍に滞留することを抑制するために、開口部10から吸気してもよい。
【符号の説明】
【0097】
1…フォトマスク、1a…透明基板、1b…転写用パターン、2…ペリクル、2a…ペリクル膜、2b…ペリクルフレーム、3…ペリクル通気口、4…欠陥部位、5…ペリクル空間、6…修正膜、7…クランプ、8…レーザ発振器、9…レーザ光、10…開口部、15…マスクホルダ、20…ガス導入管、30…レーザ水平移動部、35…上部XYZロボット制御部、40…制御ユニット、100…修正装置