(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法及びこれを用いた鉄道車両の横圧測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/00 20060101AFI20231006BHJP
B61K 9/08 20060101ALI20231006BHJP
G01L 5/20 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
G01B21/00 R
B61K9/08
G01L5/20
(21)【出願番号】P 2020028299
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000182993
【氏名又は名称】日鉄レールウェイテクノス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】中島 正貴
(72)【発明者】
【氏名】小村 吉史
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-60317(JP,A)
【文献】特開平10-185666(JP,A)
【文献】特開2007-331492(JP,A)
【文献】特開2016-97868(JP,A)
【文献】特開2021-60381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00
B61K 9/08
G01L 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪と前記鉄道車両が走行する軌道のレールとの接触位置を測定する方法であって、
前記軌道側で輪重及び横圧を測定する輪重・横圧測定ステップと、
前記軌道側で前記レールの小返り量を測定する小返り量測定ステップと、
前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記輪重及び前記横圧と、前記小返り量測定ステップで測定した前記レールの小返り量とに基づき、前記接触位置を算出する接触位置算出ステップと、
を含むことを特徴とする鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法。
【請求項2】
前記小返り量測定ステップにおいて、非接触式変位計を用いて、前記レールの頭部側面の水平方向の変位である第1変位と前記レールの底部側面の水平方向の変位である第2変位とを測定し、前記第1変位及び前記第2変位に基づき、前記小返り量を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法。
【請求項3】
前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記輪重をP
1とし、前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記横圧をQ
1とし、前記小返り量測定ステップで測定した前記レールの小返り量をaとし、前記接触位置算出ステップで算出される前記接触位置をXとした場合、前記接触位置算出ステップにおいて、以下の式(1)に基づき、前記接触位置Xを算出する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法。
X=(a-Q
1・β)/{P
1(α-b・β)} ・・・(1)
上記式(1)において、βは、前記小返り量aを前記車輪と前記レールとの間に作用する垂直荷重と前記接触位置Xとの積と、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重との線形和で表した場合に、前記水平荷重に掛かる係数を意味する。また、αは、前記小返り量aを前記車輪と前記レールとの間に作用する垂直荷重と前記接触位置Xとの積と、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重との線形和で表した場合に、前記垂直荷重と前記接触位置Xとの積に掛かる係数を意味する。さらに、bは、前記横圧Q
1を前記垂直荷重と前記水平荷重との線形和で表した場合に、前記垂直荷重に掛かる係数を前記接触位置Xで除算した値を意味する。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法を用いて、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重を真の横圧として算出する方法であって、
前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記輪重及び前記横圧と、前記接触位置算出ステップで算出した前記接触位置とに基づき、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重を算出する水平荷重算出ステップを含む、
ことを特徴とする鉄道車両の横圧測定方法。
【請求項5】
前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記輪重をP
1とし、前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記横圧をQ
1とし、前記接触位置算出ステップで算出された前記接触位置をXとし、前記水平荷重算出ステップで算出される水平荷重をQ
2とした場合、前記水平荷重算出ステップにおいて、以下の式(2)に基づき、前記水平荷重Q
2を算出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の鉄道車両の横圧測定方法。
Q
2=Q
1-b・X・P
1 ・・・(2)
上記式(2)において、bは、前記横圧Q
1を前記車輪と前記レールとの間に作用する垂直荷重と前記水平荷重との線形和で表した場合に、前記垂直荷重に掛かる係数を前記接触位置Xで除算した値を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法及びこれを用いた鉄道車両の横圧測定方法に関する。特に、本発明は、鉄道車両の車輪とレールとの接触位置を軌道側(地上側)で測定可能な方法、及び、これを用いて鉄道車両の横圧を軌道側(地上側)で精度良く測定可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の脱線に対する指標を評価し、評価結果に応じた対策を施すことは、鉄道車両の走行安全性を向上させる上で重要である。
従来、脱線に対する指標として、鉄道車両の車輪とレールとの間に作用する水平荷重である横圧Qを、鉄道車両の車輪とレールとの間に作用する鉛直荷重である輪重Pで除した値である脱線係数Q/Pが広く用いられている。特に、鉄道車両が軌道の曲線区間を走行する際、鉄道車両の台車が具備する前側輪軸が有する外軌側車輪の脱線係数(外軌脱線係数)Q/Pが広く用いられている。
【0003】
脱線係数Q/Pを算出するための輪重P及び横圧Qの測定方法として、以下の2種類が知られている。
(1)車上測定:車輪に作用する力を検出することで輪重P及び横圧Qを測定可能なセンサが取り付けられたPQ輪軸を具備する台車やPQモニタリング台車によって、これらの台車が走行する曲線区間での輪重P及び横圧Qを測定する方法(例えば、特許文献1参照)。
(2)地上測定:レールに作用する力をひずみゲージ等で検出することで輪重P及び横圧Qを測定可能な測定装置を曲線区間に設置し、この測定装置によって、前記曲線区間を走行する台車の輪重P及び横圧Qを測定する方法(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
車上測定によれば、PQ輪軸を具備する台車やPQモニタリング台車が走行する全ての曲線区間での輪重P及び横圧Qを測定可能である。しかしながら、PQ輪軸を具備する台車やPQモニタリング台車以外の輪重及び横圧を測定不能な台車については輪重P及び横圧Qを測定できない。全ての台車にPQ輪軸を取り付けたり、全ての台車をPQモニタリング台車にすることは、コストが高騰すると共に、メンテナンスの手間が増大するため、現実的ではない。
【0005】
地上測定によれば、測定装置が設置された曲線区間を走行する全ての台車の輪重P及び横圧Qを測定可能であるという利点を有する。しかしながら、地上測定した横圧Qの測定値が車上測定した横圧Qの測定値よりも小さくなるという問題がある。
【0006】
なお、特許文献3、4には、鉄道車両の車輪と前記鉄道車両が走行する軌道のレールとの接触位置を測定する方法が提案されているが、何れも車上側で接触位置を測定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-54881号公報
【文献】特開平10-185666号公報
【文献】特開2016-60317号公報
【文献】特開2016-97868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、鉄道車両の車輪とレールとの接触位置を軌道側(地上側)で測定可能な方法、及び、これを用いて鉄道車両の横圧を軌道側(地上側)で精度良く測定可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意検討した結果、地上測定において横圧の測定精度が悪化するのは、鉄道車両の車輪とレールとの接触位置がレールの中心軸からずれて変動することが原因であることを見出した。したがい、車輪とレールとの接触位置を測定し、測定した接触位置に応じて地上測定した横圧を補正すれば、より正確な横圧を測定可能であることに想到した。横圧を地上測定する利点を活かすには、特許文献3、4のように車輪とレールとの接触位置を車上測定するのではなく、車輪とレールとの接触位置も地上測定することが望ましい。そこで、本発明者らは、更に鋭意検討した結果、輪重、横圧及びレールの小返り量を軌道側(地上側)で測定し、これらの測定値を用いることで、車輪とレールとの接触位置を算出可能であることに想到した。
【0010】
本発明は、上記本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、鉄道車両の車輪と前記鉄道車両が走行する軌道のレールとの接触位置を測定する方法であって、前記軌道側で輪重及び横圧を測定する輪重・横圧測定ステップと、前記軌道側で前記レールの小返り量を測定する小返り量測定ステップと、前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記輪重及び前記横圧と、前記小返り量測定ステップで測定した前記レールの小返り量とに基づき、前記接触位置を算出する接触位置算出ステップと、を含むことを特徴とする鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、本発明者らの知見通り、車輪とレールとの接触位置を軌道側(地上側)で測定可能である。
なお、本発明において、「小返り量」とは、小返り(所定以上の横圧がレールに作用することでレールが軌間の外方に傾く現象)によって生じる、レールの頭部側面の水平方向の変位とレールの底部側面の水平方向の変位との差の変動量(レールに荷重が付加されていないときの変位の差を基準とする変動量)を意味する。
【0012】
本発明の小返り量測定ステップにおける小返り量の測定方法としては、種々の方法が考えられるが、好ましくは、非接触式変位計が用いられる。
すなわち、好ましくは、前記小返り量測定ステップにおいて、非接触式変位計を用いて、前記レールの頭部側面の水平方向の変位である第1変位と前記レールの底部側面の水平方向の変位である第2変位とを測定し、前記第1変位及び前記第2変位に基づき、前記小返り量を算出する。
具体的には、第1変位と第2変位との差の変動量を小返り量として算出することが可能である。
【0013】
上記の好ましい方法によれば、非接触変位計を用いることで、第1変位及び第2変位を容易に測定可能であり、ひいては小返り量を容易に測定可能である。
なお、非接触式変位計としては、レーザ変位計を好適に用いることができる。レーザ変位計としては、いわゆる三角測量方式のレーザ変位計を用いてもよいし、TOF(Time Of Flight)方式のレーザ変位計を用いてもよい。
【0014】
本発明者らの知見によれば、例えば、前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記輪重をP1とし、前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記横圧をQ1とし、前記小返り量測定ステップで測定した前記レールの小返り量をaとし、前記接触位置算出ステップで算出される前記接触位置をXとした場合、前記接触位置算出ステップにおいて、以下の式(1)に基づき、前記接触位置Xを算出することが可能である。
X=(a-Q1・β)/{P1(α-b・β)} ・・・(1)
上記式(1)において、βは、前記小返り量aを前記車輪と前記レールとの間に作用する垂直荷重と前記接触位置Xとの積と、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重との線形和で表した場合に、前記水平荷重に掛かる係数を意味する。また、αは、前記小返り量aを前記車輪と前記レールとの間に作用する垂直荷重と前記接触位置Xとの積と、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重との線形和で表した場合に、前記垂直荷重と前記接触位置Xとの積に掛かる係数を意味する。さらに、bは、前記横圧Q1を前記垂直荷重と前記水平荷重との線形和で表した場合に、前記垂直荷重に掛かる係数を前記接触位置Xで除算した値を意味する。
【0015】
上記の好ましい方法において、本発明者らの知見によれば、車輪とレールとの間に作用する垂直荷重(真の輪重)をP2とし、車輪とレールとの間に作用する水平荷重(真の横圧)をQ2とした場合、以下の式(A)に示すように、小返り量aは、垂直荷重P2と接触位置(接触位置までの距離)Xとの積(モーメント)と、水平荷重Q2との線形和で表すことができる。
a=P2・α・X+Q2・β ・・・(A)
上記式(A)において、βは、水平荷重Q2に掛かる係数である。
上記式(A)において、αは、垂直荷重P2と接触位置Xとの積に掛かる係数である。
また、本発明者らの知見によれば、以下の式(B)に示すように、横圧Q1は、垂直荷重P2と水平荷重Q2との線形和で表すことできる。
Q1=b・X・P2+Q2 ・・・(B)
上記式(B)において、bは、垂直荷重P2に掛かる係数b・Xを接触位置Xで除算した値である。
したがい、上記式(1)で用いられているパラメータβ、α、bは、前述の定義の通りとなる。
【0016】
また、前記課題を解決するため、本発明は、前記何れかに記載の鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法を用いて、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重を真の横圧として算出する方法であって、前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記輪重及び前記横圧と、前記接触位置算出ステップで算出した前記接触位置とに基づき、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重を算出する水平荷重算出ステップを含む、ことを特徴とする鉄道車両の横圧測定方法としても提供される。
【0017】
本発明者らの知見によれば、車輪とレールとの間に作用する水平荷重は、測定した輪重及び横圧と、算出した接触位置とに基づき、算出可能である。
したがい、本発明によれば、車輪とレールとの間に作用する水平荷重を真の横圧として軌道側で精度良く算出可能である。
【0018】
本発明者らの知見によれば、例えば、前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記輪重をP1とし、前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記横圧をQ1とし、前記接触位置算出ステップで算出された前記接触位置をXとし、前記水平荷重算出ステップで算出される水平荷重をQ2とした場合、前記水平荷重算出ステップにおいて、以下の式(2)に基づき、前記水平荷重Q2を算出することが可能である。
Q2=Q1-b・X・P1 ・・・(2)
上記式(2)において、bは、前記横圧Q1を前記車輪と前記レールとの間に作用する垂直荷重と前記水平荷重との線形和で表した場合に、前記垂直荷重に掛かる係数を前記接触位置Xで除算した値を意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鉄道車両の車輪とレールとの接触位置を軌道側(地上側)で測定可能である。また、本発明によれば、測定した車輪とレールとの接触位置を用いて鉄道車両の横圧を軌道側(地上側)で精度良く測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法を実行するための測定装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法の概略手順を示すフロー図である。
【
図3】従来の地上測定による輪重・横圧測定方法を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法(以下、適宜、単に「接触位置測定方法」という)及びこれを用いた鉄道車両の横圧測定方法(以下、適宜、単に「横圧測定方法」という)について説明する。
【0022】
<従来の横圧測定方法>
最初に、従来の横圧測定方法の問題点について説明する。
図3は、従来の地上測定による輪重・横圧測定方法を模式的に説明する説明図である。
図3(a)は、測定方法の概要を示す図である。
図3(b)は、測定結果の一例を示す図である。
図3(a)に示すように、従来の輪重・横圧測定方法では、レールRの腹部R2の内軌側側面及び外軌側側面にそれぞれ2枚(
図3(a)では1枚のみ図示)ずつ計4枚のひずみゲージ(直交型ひずみゲージ)1を貼り付け、このひずみゲージ1の出力に基づき輪重を測定している。また、レールRの底部R3の内軌側上面及び外軌側上面にそれぞれ2枚(
図3(a)では1枚のみ図示)ずつ計4枚のひずみゲージ(直交型ひずみゲージ)2を貼り付け、このひずみゲージ2の出力に基づき横圧を測定している。なお、この従来の輪重・横圧測定方法は、例えば、「在来鉄道運転速度向上試験マニュアル・解説」(鉄道総合技術研究所編、平成5年5月10日発行)等に記載のように公知であるため、ここでは、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0023】
ここで、
図3(a)に示すように、A点~J点の各接触位置において、油圧ジャッキを順次接触させて、レールRの頭部R1に対して何れも10kNの荷重を矢符で示す方向に付加した。
図3(b)は、各接触位置に荷重を付加したときの輪重・横圧をひずみゲージ1、2を用いて測定した結果である。
図3(a)に示すA点~E点では、鉛直方向下方に荷重を付加した。F点では、鉛直方向に対して20°の角度を成す方向から荷重を付加した。G点では、鉛直方向に対して30°の角度を成す方向から荷重を付加した。H点では、鉛直方向に対して45°の角度を成す方向から荷重を付加した。I点では、鉛直方向に対して70°の角度を成す方向から荷重を付加した。J点では、鉛直方向に対して90°の角度を成す方向、すなわち水平方向から荷重を付加した。
なお、C点は、レールRの中心軸CLを通る点であり、本明細書では、接触位置の水平方向(X方向)の座標(接触位置X)は、C点を基準(=0)として、この基準よりも内軌側の接触位置を正の値とし、この基準よりも外軌側の接触位置を負の値とする。
【0024】
図3(b)に示すように、輪重P
1については、A点~E点の何れの接触位置においても、鉛直方向下方に付加した10kNの荷重が正しく測定されている。
一方、横圧Q
1については、C点において、正しい値である0kNの荷重が測定されているものの、接触位置が基準からずれたA点、B点、D点及びE点においては、横圧は本来0kNであるにも関わらず、見かけ上横圧が発生しており、正しい値が測定されていない。
このように、本発明者らは、地上測定において横圧Q
1の測定精度が悪化する原因が鉄道車両の車輪とレールRとの接触位置の変動にあることを見出した。
【0025】
<本実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法>
そこで、本発明者らは、軌道側(地上側)で車輪とレールRとの接触位置を測定する方法を鋭意検討し、適切な測定方法を見出した。そして、この接触位置測定方法を用いた横圧測定方法を見出した。
図1は、本実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法を実行するための測定装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る測定装置100は、従来と同様のひずみゲージ1、2と、非接触式変位計としてのレーザ変位計3、4と、演算手段5と、を備えている。
【0026】
ひずみゲージ1、2の構成は、
図3を参照して説明したひずみゲージ1、2と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0027】
レーザ変位計3は、レールRの頭部R1の側面(本実施形態では外軌側側面)に対向配置され、頭部R1側面の水平方向(X方向)の変位である第1変位Xuを測定する。また、レーザ変位計4は、レールRの底部R3の側面(本実施形態では外軌側側面)に対向配置され、底部R1側面の水平方向(X方向)の変位である第2変位Xlを測定する。
【0028】
演算手段5には、ひずみゲージ1、2の出力と、レーザ変位計3、4の出力とが入力され、演算手段5は、これらの入力値を用いて、車輪(
図1には図示省略)とレールRとの接触位置X及び水平荷重(真の横圧)Q
2を演算するように構成されている。
【0029】
以下、上記の概略構成を有する測定装置100を用いた本実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法の概略手順を示すフロー図である。
図2に示すように、本実施形態に係る接触位置測定方法は、輪重・横圧測定ステップS1、小返り量測定ステップS2及び接触位置算出ステップS3を含んでいる。また、本実施形態に係る接触位置測定方法は、接触位置算出ステップS3を実行する際に用いるパラメータを予め算出するパラメータ算出ステップS4も含んでいる。
本実施形態に係る横圧測定方法は、本実施形態に係る接触位置測定方法の各ステップ(輪重・横圧測定ステップS1、小返り量測定ステップS2、接触位置算出ステップS3及びパラメータ算出ステップS4)に加えて、水平荷重算出ステップS5を更に含んでいる。
以下、各ステップS1~S5について、順に説明する。
【0030】
[輪重・横圧測定ステップS1]
輪重・横圧測定ステップS1では、鉄道車両の車輪がレールR上を走行している際に、測定装置100を用いて、軌道側で輪重P1及び横圧Q1を測定する。具体的には、演算手段5が、ひずみゲージ1の出力を用いて輪重P1を演算し、ひずみゲージ2の出力を用いて横圧Q1を演算する。輪重P1及び横圧Q1の具体的な演算方法については公知であるため、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0031】
[小返り量測定ステップS2]
小返り量測定ステップS2では、鉄道車両の車輪がレールR上を走行している際に、測定装置100を用いて、軌道側でレールRの小返り量aを測定する。具体的には、演算手段5が、レーザ変位計3で測定した第1変位Xuと、レーザ変位計4で測定した第2変位Xlとに基づき、小返り量aを演算する。より具体的には、例えば、演算手段5には、レールRに荷重が付加されていないときに測定された第1変位Xu及び第2変位Xlが入力される。このレールRに荷重が付加されていないときに測定された第1変位Xuと第2変位Xlとの差Xu-XlをΔXとすると、このΔXが演算手段5に記憶されている。そして、レールRに荷重が付加されたとき(車輪がレールR上を走行したとき)に測定された第1変位Xuと第2変位Xlとを用いて、演算手段5は、以下の式(C)に基づき、小返り量aを演算する。
a=Xu-Xl-ΔX ・・・(C)
すなわち、演算手段5は、第1変位Xuと第2変位Xlとの差の変動量(レールRに荷重が付加されていないときの変位の差を基準とする変動量)を小返り量aとして演算する。
例えば、レールRの頭部R1が
図1に示す状態から外軌側に傾いたとすれば、第1変位Xuの値は
図1に示す状態よりも小さくなり、第2変位Xlの値は
図1に示す状態と同等になる。したがい、第1変位Xuと第2変位Xlとの差Xu-Xlは、レールRに荷重が付加されていないときのΔXよりも小さくなるため、式(C)で算出される小返り量は、負の値となる。
【0032】
[パラメータ算出ステップS4]
後述の接触位置算出ステップS3では、前述の輪重・横圧測定ステップS1で測定した輪重P1及び横圧Q1と、前述の小返り量測定ステップS2で測定したレールRの小返り量aとに基づき、演算手段5が鉄道車両の車輪とレールRとの接触位置Xを算出するが、この際、予め算出して演算手段5に記憶されたパラメータβ、α、bを用いる。
このため、説明の便宜上、接触位置算出ステップS3よりも先に、これらパラメータβ、α、bを算出するパラメータ算出ステップS4について説明する。
【0033】
本発明者らの知見によれば、車輪とレールRとの間に作用する垂直荷重(真の輪重)をP2とし、車輪とレールRとの間に作用する水平荷重(真の横圧)をQ2とした場合、以下の式(A)に示すように、小返り量aは、垂直荷重P2と接触位置(接触位置までの距離)Xとの積(モーメント)と、水平荷重Q2との線形和で表すことができる。
a=P2・α・X+Q2・β ・・・(A)
上記式(A)において、βは、水平荷重Q2に掛かる係数である。
上記式(A)において、αは、垂直荷重P2と接触位置Xとの積に掛かる係数である。
【0034】
ここで、前述の
図3(a)に示すF点及びI点に油圧ジャッキを順次接触させて各点で荷重を付加し、各点で小返り量aを測定する試験を行った結果、垂直荷重P
2、水平荷重Q
2及び小返り量aが、以下の表1に示す値であった場合を考える。なお、接触位置Xは、F点及びI点の双方が23mmであったとする。また、F点において20kNの荷重を付加したとすると、F点における垂直荷重P
2は理論的には20kN・cos20°で求められ、F点における水平荷重Q
2は理論的には20kN・sin20°で求められる。表1には、F点における垂直荷重P
2及び水平荷重Q
2の測定値を記載している。さらに、I点において10kNの荷重を付加したとすると、I点における垂直荷重P
2は理論的には10kN・cos70°で求められ、I点における水平荷重Q
2は理論的には10kN・sin70°で求められる。表1には、I点における垂直荷重P
2及び水平荷重Q
2の測定値を記載している。
【表1】
【0035】
上記式(A)のXに23mmを代入し、P2、Q2及びaに表1に示す値を代入して得られる、α及びβを変数とする連立方程式を解くと、α=0.000176174[1/kN]、β=-0.03368[mm/kN]が得られる。このようにして得られたα及びβが演算手段5に記憶される。
【0036】
また、本発明者らの知見によれば、以下の式(B)に示すように、横圧Q1は、垂直荷重P2と水平荷重Q2との線形和で表すことできる。
Q1=b・X・P2+Q2 ・・・(B)
上記式(B)において、bは、垂直荷重P2に掛かる係数b・Xを接触位置Xで除算した値である。
【0037】
ここで、前述の
図3(a)に示すA点~E点(A点はX=-20mm、B点はX=-10mm、C点はX=0mm、D点はX=10mm、E点はX=20mm)に油圧ジャッキを順次接触させて、各点で鉛直方向下方に10kNの荷重を付加して、各点で輪重P
1及び横圧Q
1を測定したときに、横圧Q
1が、
図3(b)に示すように、Q
1=-0.0361・Xの近似式で表される場合を考える。A点~E点では、輪重P
1=垂直荷重P
2=10kN、水平荷重Q
2=0kNであると考えられるため、
図3(b)に示す近似式から、b=-0.00361[1/mm]が得られる。このようにして得られたbが演算手段5に記憶される。
【0038】
以上のように、パラメータ算出ステップS4では、油圧ジャッキ等を用いてレールRの頭部R1の複数の接触位置Xに対し、既知の値である垂直荷重P2及び水平荷重Q2を付加する試験を行い、この際の小返り量a、輪重P1及び横圧Q1を測定することで、パラメータβ、α、bを同定し、これを演算手段5に記憶させる。
【0039】
[接触位置算出ステップS3]
接触位置算出ステップS3では、測定装置100を用いて、輪重・横圧測定ステップS1で測定した輪重P1及び横圧Q1と、小返り量測定ステップS2で測定したレールRの小返り量aとに基づき、鉄道車両の車輪とレールRとの接触位置Xを算出する。具体的には、演算手段5が、輪重P1、横圧Q1及び小返り量aと、パラメータ算出ステップS4で予め求めて記憶されているパラメータβ、α、bとを用いて、以下の式(1)に基づき、接触位置Xを演算する。
X=(a-Q1・β)/{P1(α-b・β)} ・・・(1)
なお、上記式(1)は、前述の式(A)及び式(B)と、P1=P2とから導き出すことができる。
【0040】
例えば、測定したQ1=17.2925[kN]、P1=30[kN]、a=-0.54156[mm]であり、予め求めたβ=-0.03368[mm/kN]、α=0.000176174[1/kN]、b=-0.00361[1/mm]であれば、上記式(1)より、接触位置X=24.9[mm]と演算される。すなわち、車輪とレールRとが、レールRの中心軸CLよりも24.9mmだけ内軌側で接触していると演算される。
【0041】
[水平荷重算出ステップS5]
水平荷重算出ステップS5では、測定装置100を用いて、輪重・横圧測定ステップS1で測定した輪重P1及び横圧Q1と、接触位置算出ステップS3で算出した接触位置Xとに基づき、車輪とレールRとの間に作用する水平荷重Q2を真の横圧として算出する。具体的には、演算手段5が、輪重P1、横圧Q1及び接触位置Xと、パラメータ算出ステップS4で予め求めて記憶されているパラメータbとを用いて、以下の式(2)に基づき、水平荷重Q2を演算する。
Q2=Q1-b・X・P1 ・・・(2)
なお、上記式(2)は、前述の式(B)と、P1=P2とから導き出すことができる。
【0042】
例えば、測定したQ1=17.2925[kN]、P1=30[kN]、X=24.9[mm]であり、予め求めたb=-0.00361[1/mm]であれば、上記式(2)より、水平荷重Q2=20[kN]と演算される。すなわち、従来の地上測定では、接触位置XがレールRの中心軸CLよりも内軌側に24.9mmだけずれていることに起因して横圧Q1=17.2925kNと小さく測定されていたものが、真の横圧(水平荷重Q2)は20kNであると正しく測定されることになる。
なお、本発明者らが本実施形態に係る横圧測定方法で測定した水平荷重Q2と、比較的精度良く横圧を測定可能なPQモニタリング台車を用いて車上測定した横圧とを比較したところ、両者の値が比較的良く合致することを確認できた。
【符号の説明】
【0043】
1、2・・・ひずみゲージ
3、4・・・レーザ変位計
5・・・演算手段
100・・・測定装置
a・・・小返り量
P1・・・輪重
P2・・・垂直荷重
Q1・・・横圧
Q2・・・水平荷重
R・・・レール
R1・・・頭部
R2・・・腹部
R3・・・底部
X・・・接触位置
Xu・・・第1変位
Xl・・・第2変位