(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】車両の乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20231006BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
B60R21/207
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2020081575
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【氏名又は名称】松川 直宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【氏名又は名称】河村 育郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-178148(JP,A)
【文献】特開2013-124063(JP,A)
【文献】特開2009-166680(JP,A)
【文献】特開2008-201297(JP,A)
【文献】特開2003-220922(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011109619(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートの背部から座部についての左右両縁に沿って設けられ、展開することにより前記背部から前記シートに着座する乗員の上体の前を通って前記座部にかけて延在することが可能な右袋体および左袋体と、
前記右袋体および前記左袋体を展開するインフレータと、
前記右袋体および前記左袋体を、前記シートの前記背部と前記座部との間に張るように引く引込装置と、
前記インフレータおよび前記引込装置を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記インフレータにより前記右袋体および前記左袋体を展開する前に、前記引込装置を動作させる、
車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記引込装置は、展開していない前記右袋体および前記左袋体を引いて、前記シートの前記背部と前記座部との間に張る、
請求項1記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記引込装置は、前記シートの前記座部の座面の下側に設けられ、展開していない前記右袋体の下端および前記左袋体の下端を、前記シートの前記座部の前へ引く、
請求項1または2記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記引込装置により前記右袋体および前記左袋体が前記シートの前記背部の上部と前記座部の前部との間に張られた後に、前記インフレータにより前記右袋体および前記左袋体の展開を開始する、
請求項1から3のいずれか一項記載の車両の乗員保護装置。
【請求項5】
前記右袋体の上端および前記左袋体の上端は、前記シートの前記背部の上部についての中央よりの部分に固定される、
請求項1から4のいずれか一項記載の車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車といった車両では、乗車している乗員を保護するために、シートベルト装置や、エアバッグ装置が使用されている(特許文献1)。
シートベルトは、乗員の上体の前に掛け渡されるシートベルトにより、シートに着座している乗員がシートから変位しないように拘束する。エアバッグ装置は、シートに着座する乗員の周囲で展開し、シートの着座位置から変位した乗員に作用する可能性がある大きな衝撃を吸収する。これらの乗員保護装置を使用することにより、車両は、乗車している乗員を保護することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、たとえばシートベルトは、乗員を局所的に拘束する。このため、大きな衝撃から乗員を保護することができても、乗員に局所的な負担がかかる可能性がないとは言えない。
また、袋体は、それが想定している衝突形態については適切な衝撃吸収をすることができるが、想定したものとは異なる衝突形態については適切な衝撃吸収をすることができるとは限らない。たとえばシートに着座する乗員の前で展開する袋体は、側面衝突によりシートの横方向へ倒れる乗員についてのシートの着座位置からの変位について、適切に衝撃を吸収することは難しい。このため、車両では、シートの周りに、それぞれの衝突形態に対応する複数のエアバッグ装置を設けている。
また、袋体は、様々な乗員の体形に対応するなとのために、シートの着座位置にいる乗員のたとえば上体から少し離れた位置において展開する。展開した袋体は、乗員のたとえば上体が明らかに動いてから、その衝撃を吸収するように機能し始める。この場合、展開した袋体は、既に動き始めている乗員のたとえば上体についての大きな衝撃を吸収する必要がある。
【0005】
このように車両に設けられる乗員保護装置には、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の乗員保護装置は、車両のシートの背部から座部についての左右両縁に沿って設けられ、展開することにより前記背部から前記シートに着座する乗員の上体の前を通って前記座部にかけて延在することが可能な右袋体および左袋体と、前記右袋体および前記左袋体を展開するインフレータと、前記右袋体および前記左袋体を、前記シートの前記背部と前記座部との間に張るように引く引込装置と、前記インフレータおよび前記引込装置を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記インフレータにより前記右袋体および前記左袋体を展開する前に、前記引込装置を動作させる。
【0007】
好適には、前記引込装置は、展開していない前記右袋体および前記左袋体を引いて、前記シートの前記背部と前記座部との間に張る、とよい。
【0008】
好適には、前記引込装置は、展開していない前記右袋体の一端および前記左袋体の一端を引いて、前記シートの前記背部と前記座部との間に張る、とよい。
【0009】
好適には、前記引込装置は、前記シートの前記座部の座面の下側に設けられ、展開していない前記右袋体の下端および前記左袋体の下端を、前記シートの前記座部の前へ引く、とよい。
【0010】
好適には、前記制御部は、前記引込装置により前記右袋体および前記左袋体が前記シートの前記背部の上部と前記座部の前部との間に張られた後に、前記インフレータにより前記右袋体および前記左袋体の展開を開始する、とよい。
【0011】
好適には、前記右袋体および前記左袋体は、展開することにより、前記シートに着座する乗員の上体の前面に密着可能である、とよい。
【0012】
好適には、前記右袋体の上端および前記左袋体の上端は、前記シートの前記背部の上部についての中央よりの部分に固定される、とよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、車両のシートの背部から座部についての左右両縁に沿って、右袋体および左袋体が設けられる。そして、インフレータにより右袋体および左袋体を展開する前に引込装置を動作させて、右袋体および左袋体をシートの背部と座部との間に張るように引く。右袋体および左袋体は、シートの背部から座部にかけてシートの縁部分に沿って埋設されているため、引込装置を動作させて右袋体および左袋体を引くと、袋体の両端が設けられているシートの背部上部から座部前部分までの直線状態になろうとするようにシート表皮を破ってシートから引き出され、シートの背部と座部との間に張られた状態になる。そして、そのようにシートの背部と座部との間に張られた状態にある右袋体および左袋体は、インフレータにより展開される。右袋体および左袋体は、シートに着座する乗員の上体の側面などに当るように暴れ難くなるため、直線に近い状態で乗員上体前面へ移動しやすくなり、スムースに且つ確実にシートに着座する乗員の上体の前へ展開することができる。
そして、袋体がこのように展開することにより、シートに着座している乗員は、その状態に維持され得る。 たとえば、車両に対して前方向から衝撃が入力される場合だけでなく、斜前方向から入力される場合でも、乗員をシートに着座している状態に維持するように拘束し得る。また、展開した右袋体および左袋体は、乗員の上体の前面に密着し得る。シートベルトにより乗員を保護しようとする場合には、乗員を拘束する力が上体の前面についてのシートベルトが当たる部位に局所的に強い力が作用する可能性があるが、本発明ではそのような可能性を低減できる。
これらの作用により、本発明では、各種の衝突において高い乗員保護を実現可能である。たとえば前面衝突だけでなく、斜め衝突やオフセット衝突などにおいても、右袋体および左袋体により、乗員がシートの着座位置から変位し難くなるように拘束できる。しかも、右袋体および左袋体により乗員を拘束するので、シートベルトのように局所的に強く力を乗員に対して作用させ難くし得る。また、右袋体および左袋体は、シートの着座位置にいる乗員の上体の近くにおいて好適には密着するように展開しているので、乗員の上体が明らかに動いてしまう前に、その衝撃を吸収し始めるように機能し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車の説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の自動車に設けることが可能な乗員保護装置の基本的な右袋体および左袋体の展開状態の説明図である。
【
図3】
図3は、
図1の自動車に設けられる乗員保護装置の制御系の説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る乗員保護装置の右袋体および左袋体についてのシートでの収容状態の説明図である。
【
図5】
図5は、
図3の制御部による乗員保護処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図5の制御による右袋体および左袋体の展開手順の説明図である。
【
図7】
図7は、
図6の展開処理後の右袋体および左袋体の展開状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車1の説明図である。自動車1は、車両の一例である。車両には、この他にもたとえば、公共交通用のバス、電車、個人用のパーソナルモビリティ、パーソナルモビリティを乗せる架台装置、がある。自動車1は、手動運転または自動運転できるものでもよい。
図1(A)は、自動車1の模式的な側面図である。
図1(B)は、
図1(A)の自動車1の上面図である。
図1には、自動車1とともに、自動車1に乗車している乗員が図示されている。
自動車1は、車体2、を有する。車体2は、複数のシート4が前向きで配置される乗員室3を有する。シート4は、座部5と、座部5の後縁から上へ立設する背部6と、を有する。乗員は、その腰部および腿を座部5に載せ、その上体の背中を背部6に当ててシート4に着座する。
【0017】
このような自動車1では、乗車している乗員を保護するために、シートベルト装置や、エアバッグ装置が使用される。
シートベルト装置は、シート4に着座している乗員の上体の前に掛け渡されるシートベルトを有する。シートベルトは、衝突の際にシート4に着座している乗員がシート4からずれて変位しないように乗員をシート4に拘束する。
エアバッグ装置は、シート4に着座する乗員の周囲で展開する袋体を有する。袋体は、たとえばシート4の前側において展開する。乗員の上体は、衝突の際にシート4に背をつけている着座位置からたとえば前へ倒れるが、展開している袋体に当たることにより衝撃が吸収される。乗員に作用する衝撃を吸収できる。
これらのシートベルト装置や、エアバッグ装置により、自動車1は、乗車している乗員を保護することができる。
しかしながら、たとえばシートベルトは、乗員の胸部を局所的に拘束する。このため、大きな衝撃が入力された際に、乗員の胸部に局所的な負担がかかる可能性がないとは言えない。
また、袋体は、それが想定している衝突形態については適切な位置およびタイミングに展開して衝撃吸収をすることができるが、想定したものとは異なる衝突形態については適切に衝撃を吸収できるとは限らない。たとえばシート4に着座する乗員の前で展開する袋体は、側面衝突によりシート4の横方向へ倒れる乗員についてのシート4の着座位置からの車幅方向への変位について、衝撃を吸収することは難しい。このため、自動車1では、シート4の周りに、複数の衝突形態に対応する複数のエアバッグ装置を設けることになる。シート4の周りには、衝突形態に対応する数の多数のエアバッグ装置が設けられることになる。この場合、乗員を保護するための装置の構造および制御は、複雑化する。
このように乗員保護装置10には、さらなる改善が求められている。
【0018】
図2は、
図1の自動車1に設けることが可能な乗員保護装置10の基本的な右袋体21および左袋体22の展開状態の説明図である。
図2は、右袋体21および左袋体22による乗員保護の基本的な原理を説明するものである。
【0019】
図2の右袋体21は、不図示のインフレータ23からの高圧ガスの流入により、シート4の背部6の右上部から前方へ突出し、さらに下方へ突出するように展開する。この場合、右袋体21は、シート4の背部6の右上部からシート4に着座する乗員の右肩の上側を通って乗員の上体の前へ至る状態に展開することになる。
【0020】
左袋体22は、不図示のインフレータ23からの高圧ガスの流入により、シート4の背部6の左上部から前方へ突出し、さらに下方へ突出するように展開する。この場合、左袋体22は、シート4の背部6の左上部からシート4に着座する乗員の左肩の上側を通って乗員の上体の前へ至る状態に展開することになる。
【0021】
このように自動車1のシート4に設けられる右袋体21および左袋体22は、インフレータ23により、シート4の背部6の左右それぞれの上部からシート4に着座する乗員の左右それぞれの肩の上側を通って乗員の上体の前へ至る状態に別々に展開する。なお、右袋体21と左袋体22は、シート4の背部6の上端部で連通するといった形態であっても良い。シート4に着座している乗員の上体は、その全面に密着している右袋体21および左袋体22により抑えられ、衝突の際にその状態に維持され得る。展開した右袋体21および左袋体22は、自動車1に対して前方向から衝撃が入力される場合だけでなく、斜前方向から入力される場合でも、乗員をシート4に着座している状態に維持するように拘束できる。また、乗員の上体の前面には、展開した右袋体21および左袋体22により抑えられる。展開した右袋体21および左袋体22は、シートベルトが乗員の上体の前面を拘束する場合と比べて、乗員を拘束する力が上体の前面の一部に局所的に強く作用し難くなる。
本実施形態では、このような効果を実用的に期待することができる乗員保護装置10について説明する。
【0022】
図3は、
図1の自動車1に設けられる乗員保護装置10の制御系の説明図である。
図3の乗員保護装置10は、ステレオカメラ11、赤外線カメラ12、LiDAR13、加速度センサ14、通信装置15、GPS受信機16、および、エアバッグ装置17、を有する。エアバッグ装置17は、右袋体21、左袋体22、インフレータ23、引込装置24、および、これらが接続される制御部27、を有する。これら乗員保護装置10の各センサおよび各装置は、自動車1に設けられる不図示の車ネットワークにより、制御部27に接続されてよい。
【0023】
ステレオカメラ11は、たとえば乗員室3の前部において前向きに配置される。ステレオカメラ11は、車幅方向に並ぶ複数の撮像デバイスを有する。ステレオカメラ11は、複数の撮像デバイスにより撮像される車外の人などを撮像する。ステレオカメラ11は、撮像した車外の人についての車体2を基準とした方向および距離を演算してよい。ステレオカメラ11は、複数の撮像デバイスの撮像画像における被写体である車外の人の位置に基づいて、たとえば三角法などにより、被写体の方向および距離を演算してよい。ステレオカメラ11は、また、時間をずらして撮像した画像中での位置の変化により、被写体の移動の有無、移動方向、移動速度などを演算してよい。
赤外線カメラ12は、たとえばステレオカメラ11と同様に乗員室3の前部において前向きに配置される。赤外線カメラ12は、車外の人や他の移動体などを撮像した赤外線画像を撮像する。
LiDAR13は、たとえば車体2の前部において前向きに配置される。LiDAR13は、前方へ向かって光を照射し、車体2の前方の車外の人による反射光に基づいて、被写体の方向、距離、速度などを取得する。
加速度センサ14は、車体2に設けられる。加速度センサ14に作用する加速度を検出する。車体2が人などの移動体に当たると、加速度センサ14は、通常の走行では生じないような大きな加速度を検出する。この場合、加速度センサ14は、衝突検出を出力してよい。この場合、加速度センサ14は、車体2と他の動体との接触を予測または検出する衝突検出部として機能する。
通信装置15は、無線通信により他の移動体、たとえば他の自動車1や歩行者の他の通信装置、道路沿いに配置される基地局、などと通信する。通信装置15は、他の通信装置から、他の移動体の現在位置、移動方向、移動速度などを取得してよい。
GPS受信機16は、GPS衛星などから電波を受信し、自車の現在位置、移動速度、などを取得する。
【0024】
エアバッグ装置17の右袋体21および左袋体22は、たとえばナイロンその他の樹脂繊維により滑らかな表面に形成されてよい。右袋体21および左袋体22は、後述するように略棒形状に展開する袋体でよい。
【0025】
インフレータ23は、右袋体21および左袋体22に接続される。インフレータ23は、点火信号により高圧ガスを発生し、右袋体21および左袋体22へ供給する。
【0026】
引込装置24は、後述するように右袋体21の下端および左袋体22の下端に接続され、右袋体21および左袋体22を引く。引込装置24は、たとえばアクチュエータでよい。
【0027】
制御部27は、たとえばCPU(Central Processing Unit)、ECU(Electric Control Unit)である。制御部27は、たとえば、エアバッグ装置17に専用のCPUとして自動車1に設けられても、自動車1に設けられる各種の保護装置に共通するCPUとして自動車1に設けられてもよい。CPUは、ROM(Read Only Memory)などのストレージからプログラムを読み込んで実行する。これにより、CPUは、エアバッグ装置17の制御部27として機能する。エアバッグ装置17の制御部27は、ステレオカメラ11、赤外線カメラ12、LiDAR13、加速度センサ14、通信装置15といった衝突検出部からの検出情報に基づいて、自動車1についての衝突の可能性を判断し、衝突を検出する。CPUは、判断または検出した衝突に基づいて、引込装置24を動作させ、インフレータ23へ点火信号を出力する。これにより、エアバッグ装置17は、展開した右袋体21および左袋体22による乗員保護を実行する。
【0028】
図4は、本発明の実施形態に係る乗員保護装置10の右袋体21および左袋体22についてのシート4での収容状態の説明図である。
図4(A)は、シート4の前面図である。
図4(B)は、シート4の側面図である。
図4(C)は、シート4の上面図である。
【0029】
図4に示すように、本実施形態の右袋体21は、略棒形状に展開可能な長尺形状の袋体であり、ベルト状に折り畳んだ状態でシート4の背部6から座部5の内部についての右側に沿って収納して設けられる。長尺形状の右袋体21の上端は、シート4の背部6の右上部についての中央よりの位置に固定され、下端は、シート4の座部5の右側に位置する。シート4の座部5の右側において、右袋体21の下端の前には、ローラ25が設けられる。
【0030】
左袋体22は、略棒形状に展開可能な長尺形状の袋体であり、ベルト状に折り畳んだ状態でシート4の背部6から座部5の内部についての左側に沿って収納して設けられる。長尺形状の左袋体22の上端は、シート4の背部6の左上部についての中央よりの位置に固定され、下端は、シート4の座部5の左側に位置する。シート4の座部5の左側において、左袋体22の下端の前には、ローラ25が設けられる。
【0031】
これらの右袋体21および左袋体22は、シート4の表面を形成するシートカバーを破って、シート4の外へ突出することができる。
【0032】
また、
図4には、引込装置24が図示されている。引込装置24は、シート4の座部5の座面の下側に設けられる。引込装置24は、右袋体21の下端に接続されるテザーと、左袋体22の下端に接続されるテザーとを引く。テザーは、シート4の座部5の下に前後に並べて設けられる複数のローラ25により、シート4の座部5の座面の下において折り返される。これにより、引込装置24は、シート4の背部6から座部5の左右両縁の内部に収納されて展開していない状態の右袋体21の下端および左袋体22の下端を、シート4の座部5の前へ向けて引くことができる。
【0033】
図5は、
図3の制御部27による乗員保護処理の流れを示すフローチャートである。
制御部27としてのCPUは、たとえば自動車1の走行中の場合に、または自動車1に乗員が乗車している場合に、
図5の処理を繰返し実行する。
【0034】
ステップST1において、CPUは、衝突の検出を判断する。CPUは、車体2と他の動体との接触が予測または検出されていない場合、本処理を繰り返す。車体2と他の動体との接触が予測または検出されると、CPUは、衝突が検出されたとして、処理をステップST2へ進める。
【0035】
ステップST2において、CPUは、引込装置24を動作させる。CPUは、インフレータ23により右袋体21および左袋体22を展開する前に、引込装置24を動作させる。引込装置24は、未展開の右袋体21の下端および左袋体22の下端を、シート4に引き込むようにしてシート4の座部5の前へ向けて引く。シート4の座部5の前へ向けて引かれた未展開の右袋体21および左袋体22は、シート4の背部6から座部5の左右両縁を破って、シート4の外に引き出される。シート4の外に引き出された未展開の右袋体21および左袋体22は、シート4の背部6の上部と座部5の前部との間に張られる。
【0036】
ステップST3において、CPUは、未展開の右袋体21および左袋体22についての引き出しが完了したか否かを判断する。右袋体21および左袋体22は、シート4の背部6の上部と座部5の前部との間に張られるように引き出される。CPUは、たとえば引込装置24の動作期間、引込装置24の張力などに基づいて、引き出しの完了を判断してよい。
【0037】
ステップST4において、CPUは、エアバッグ装置17を展開する。CPUは、インフレータ23へ点火信号を出力する。これによりエアバッグ装置17の右袋体21および左袋体22は、展開を開始する。
これにより、制御部27としてのCPUは、自動車1の衝突が検出または予測に基づいて右袋体21および左袋体22をシート4の背部6の上部と座部5の前部との間に張った後に、インフレータ23により右袋体21および左袋体22の展開を開始できる。
【0038】
図6は、
図5の制御による右袋体21および左袋体22の展開手順の説明図である。
図6(A)は、
図5のステップST2の処理後の右袋体21および左袋体22の状態である。右袋体21および左袋体22は、未展開の状態のまま、シート4の背部6から座部5の左右両縁を破って、シート4の外に引き出される。シート4の外に引き出された未展開の右袋体21および左袋体22は、シート4の背部6の上部と座部5の前部との間に張られる。
【0039】
図6(B)は、
図5のステップST4の処理後の右袋体21および左袋体22の状態である。シート4の背部6の上部と座部5の前部との間に未展開のまま張られていた右袋体21および左袋体22は、展開することにより、シート4に着座した乗員の上体の前に展開する。
【0040】
図7は、
図6の展開処理後の右袋体21および左袋体22の展開状態の説明図である。
図7に示すように、展開した右袋体21および左袋体22は、背部6の上部から、シート4に着座する乗員の上体の前を通って、座部5の前部にかけて延在するように、略棒形状となる。特に、本実施形態では、右袋体21の上端および左袋体22の上端は、シート4の背部6の上面についての中央よりの位置に固定されているため、展開した右袋体21および左袋体22は、シート4に着座する乗員の左右両肩の上から、上体の前へ展開できる。展開した右袋体21および左袋体22は、シート4に着座する乗員の上体の前面に密着することが可能である。
【0041】
以上のように、本実施形態では、右袋体21および左袋体22は、自動車1のシート4の背部6から座部5についての左右両縁に沿って設けられる。このため、右袋体21および左袋体22を単に展開すると、展開した右袋体21および左袋体22は、それらが固定される2点間の距離より長い長さで展開して、撓んで展開してしまう。
このため、本実施形態では、インフレータ23により右袋体21および左袋体22を展開する前に引込装置26を動作させて、右袋体21および左袋体22をシート4の背部6と座部5との間に張るように引く。引込装置26を動作させて右袋体21および左袋体22を引くと、袋体の両端が設けられているシートの背部上部から座部前部分までの直線状態になろうとするようにシート表皮を破ってシート4から引き出され、シート4の背部6と座部5との間に張られた状態になる。そして、そのようにシート4の背部6と座部5との間に張られた状態にある右袋体21および左袋体22は、インフレータ23により展開される。右袋体21および左袋体22は、展開前の、太さが細い状態で直線状態になろうとするため、展開開始後の移動によりシートに着座する乗員の上体の側面などに当たるように暴れ難く、直線に近い状態で乗員上体前面へ移動しやすくなりスムースに且つ確実にシート4に着座する乗員の上体の前へ展開することができる。シートに着座している乗員の上体などに当たるように展開を妨げられることなく、スムースに移動して展開できる。これに対して、仮にたとえばシート4から展開を開始する場合、展開中において袋体がシートに着座している乗員の上体の左右両縁部分に当たったり、シート4に着座する乗員の上体の側面などに当たって暴れたりする可能性がある。本実施形態では、それらの可能性を効果的に減らすことができる。
そして、右袋体21および左袋体22がこのように展開することにより、シート4に着座している乗員は、右袋体21および左袋体22により抑えられてその状態に維持され得る。 たとえば、自動車1に対して前方向から衝撃が入力される場合だけでなく、斜前方向から入力される場合でも、乗員をシート4に着座している状態に維持するように拘束し得る。また、展開した右袋体21および左袋体22は、乗員の上体の前面に密着し得る。シートベルトにより乗員を保護しようとする場合には、乗員を拘束する力が上体の前面についてのシートベルトが当たる部位に局所的に強い力が作用する可能性があるが、本発明ではそのような可能性を低減できる。
これらの作用により、本実施形態では、各種の衝突において高い乗員保護を実現可能である。たとえば前面衝突だけでなく、斜め衝突やオフセット衝突などにおいても、右袋体21および左袋体22により、乗員がシート4の着座位置から変位し難くなるように拘束できる。しかも、右袋体21および左袋体22により乗員を拘束するので、シートベルトのように局所的に強く力を乗員に対して作用させ難くし得る。また、右袋体21および左袋体22は、シート4の着座位置にいる乗員の上体の近くにおいて好適には密着するように展開しているので、乗員の上体が明らかに動いてしまう前に、その衝撃を吸収し始めるように機能し得る。
【0042】
本実施形態では、引込装置24は、シート4の座部5の座面の下側に設けられ、シート4の背部6から座部5の左右両縁に沿うようにその内部に収納されて展開していない右袋体21の下端および左袋体22の下端を、シート4の座部5の座面の下へ引き込む。これにより、引込装置24は、シート4の背部6から座部5の左右両縁の内部に収納されて展開していない右袋体21の下端および左袋体22の下端をシート4に引き込んで、シート4の背部6から座部5の左右両縁から引き出して、シート4の背部6の上部と座部5の前部との間に張ることができる。しかも、引込装置24をシート4の座部5の座面の下側に設けることにより、シート4の背部6に設ける場合のように設置スペースが不足する可能性や、シート4の重心が高くなる可能性について格段の配慮をすることがない。
【0043】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0044】
たとえば上述した実施形態では、右袋体21および左袋体22は、それぞれの両端がシート4の背部6の上部とシート4の座部5の左右の側部分とに固定されている。
この他にもたとえば、右袋体21および左袋体22は、それぞれの両端がシート4の背部6の上部とシート4の左右のアームレスト部とに固定されてよい。
【0045】
上述した実施形態では、右袋体21および左袋体22は、たとえばシート4の左右で独立して展開する。
この他にもたとえば、右袋体21および左袋体22は、たとえばシート4の背部6の上で連結されて、一体化されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…自動車(車両)、2…車体、3…乗員室、4…シート、5…座部、6…背部、10…乗員保護装置、11…ステレオカメラ、12…赤外線カメラ、13…LiDAR、14…加速度センサ、15…通信装置、16…GPS受信機、17…エアバッグ装置、21…右袋体、22…左袋体、23…インフレータ、24…引込装置、25…ローラ、27…制御部