(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】作業環境統括管理システム及び作業環境統括管理方法
(51)【国際特許分類】
G08B 25/04 20060101AFI20231006BHJP
G08B 21/12 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
G08B25/04 K
G08B21/12
(21)【出願番号】P 2020514116
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015808
(87)【国際公開番号】W WO2019203117
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018078667
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502110366
【氏名又は名称】荻野 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】荻野 博幸
【審査官】永田 義仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-502154(JP,A)
【文献】国際公開第2017/136336(WO,A1)
【文献】特開2006-250676(JP,A)
【文献】特開2007-011902(JP,A)
【文献】特開2006-329808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/00-5/01
G06Q10/00-10/10
30/00-30/08
50/00-50/20
50/26-99/00
G08B19/00-31/00
G16Z99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単数又は複数の、健康有害性因子及び/又は危険性因子を、リアルタイム又は適時に検出する第1の検出部を有する測定部と、
前記第1の検出部により検出された前記健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を、リアルタイム又は適時に送信可能な通信部と、
前記通信部から送信された、前記健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、人体ばく露及び/又は作業環境を計算により評価する、計算部と、を備え、
前記測定部が前記通信部を有
し、
前記測定部が、労働者に装着可能であるように構成され、
前記計算部は、代謝モデル又は再生モデルを用いて前記評価を行い、
前記代謝モデル又は再生モデルは、
血中濃度を表す第1の抵抗R1及び第1のキャパシタC1が直列に接続され、代謝を表す第2の抵抗R2が前記第1のキャパシタC1に並列に接続された等価回路に、気中健康有害性因子の濃度を表す矩形の電圧Viが供給される、代謝又は再生機能部を表す第1の積分回路と、
血管から臓器に入る膜抵抗を表す第3の抵抗R3、気中濃度が低下した場合の標的臓器蓄積、損傷量、又は抗体量相当の電荷の放電防止を表す第1のダイオードD1、閾値が存在する因子のばく露限界値に相当する閾値設定ツェナーダイオードを表す第2のダイオードD2、及び標的臓器を表す第2のキャパシタC2が、この順に直列に接続された、標的臓器蓄積部を表す第2の積分回路と、を含む
モデルであることを特徴とする、作業環境統括管理システム。
【請求項2】
前記測定部は、
前記人体ばく露及び/又は前記作業環境に関連した関連情報を、さらに、リアルタイム又は適時な測定により検出するように構成され、
前記関連情報として労働者の位置及び/又は経時情報を検出する第2の検出部、前記関連情報として労働者の周囲及び/又は作業場の画像を撮像する撮像部、及び、前記関連情報として労働者の周囲及び/又は作業場の音、振動、熱、非電離放射線、及び放射線のいずれか1つ以上を感知するセンサのうち、少なくともいずれか1つ以上をさらに備えた、請求項1に記載の作業環境統括管理システム。
【請求項3】
前記通信部は、前記測定部で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析した情報を、リアルタイム又は適時に送信可能にも構成され、
前記通信部から送信された、前記測定部で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析した情報、又は、前記測定部で検出された健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、前記測定部の較正に必要な情報を生成する、較正部をさらに備えた、請求項1又は2に記載の作業環境統括管理システム。
【請求項4】
健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を登録可能な記憶部をさらに備えた、請求項1~
3のいずれか一項に記載の作業環境統括管理システム。
【請求項5】
作業環境の外部と通信可能な、外部通信部をさらに備えた、請求項1~
4のいずれか一項に記載の作業環境統括管理システム。
【請求項6】
検出部により、単数又は複数の、健康有害性因子及び/又は危険性因子を、リアルタイム又は適時に検出する工程と、
前記検出部が有する通信部により、検出された前記健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を、リアルタイム又は適時に送信する工程と、
計算部により、送信された前記健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、人体ばく露及び/又は作業環境を計算により評価する工程と、を含
み、
前記検出部を有する測定部が、労働者に装着可能であるように構成され、
前記計算部は、代謝モデル又は再生モデルを用いて前記評価を行い、
前記代謝モデル又は再生モデルは、
血中濃度を表す第1の抵抗R1及び第1のキャパシタC1が直列に接続され、代謝を表す第2の抵抗R2が前記第1のキャパシタC1に並列に接続された等価回路に、気中健康有害性因子の濃度を表す矩形の電圧Viが供給される、代謝又は再生機能部を表す第1の積分回路と、
血管から臓器に入る膜抵抗を表す第3の抵抗R3、気中濃度が低下した場合の標的臓器蓄積、損傷量、又は抗体量相当の電荷の放電防止を表す第1のダイオードD1、閾値が存在する因子のばく露限界値に相当する閾値設定ツェナーダイオードを表す第2のダイオードD2、及び標的臓器を表す第2のキャパシタC2が、この順に直列に接続された、標的臓器蓄積部を表す第2の積分回路と、を含む
モデルであることを特徴とする、作業環境統括管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業環境統括管理システム及び作業環境統括管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、健康有害性因子又は危険性因子の個人ばく露情報又は作業環境情報に関する労働安全衛生管理の技術には、主に、法令等で規定された次の2つの方法がある。
1.個人ばく露測定方法
2.作業環境測定方法
個人ばく露測定方法は、欧米で広く採用されている方法で、日本では「屋外作業場等における作業環境管理に関するガイドライン」等で推奨されている。また、作業環境測定方法は、作業環境測定法で規定されている方法で、欧米でも作業環境測定が行われることがある。
しかし、いずれの方法も全ての労働者の個人ばく露情報又は作業環境情報を正確かつ完全に把握して対処できていないことが、測定結果報告や健康障害事例発表で報告されている。
【0003】
個人ばく露の測定及び評価の方法には、主に、米国で規定された次の2つの方法がある。
1.NIOSH(National Industrial Occupational Safety and Health)の方法(非特許文献1参照)
2.AIHA(American Industrial Hygiene Association)の方法(非特許文献2参照)
これらの方法は、労働者の通常の1日の労働時間又は1シフト時間におけるばく露量を把握するための測定で、労働者に個人ばく露測定用サンプラーを装着して測定を行う。
サンプル位置は、呼吸域に近い位置で捕集し収集する。しかし、労働者が多い場合には、個人ばく露測定用サンプラーを全ての労働者の各人に装着させて測定を行うのは現実的でないので、オキュペイショナルハイジニスト又はインダストリアルハイジニストの判断により、労働者を、ばく露を受ける可能性が同等に高い一群(Same Exposure Group)に分け、その集合について統計学的に代表される数人をランダムに選んで測定を行う。NIOSH方式は法令遵守を目的としている。一方、AIHA方式はリスクアセスメント又はリスクマネジメントを主な目的としている。AIHA方式は、個人ばく露測定用サンプラーを装着した労働者が作業範囲を移動することにより、サンプリングの疑似ランダム性を前提として、個人ばく露を統計処理し個人ばく露情報及び作業環境情報を評価する。
しかし、個人ばく露測定は、労働者の移動が完全にランダムとは限らず、統計学的には十分に作業環境の健康有害性因子又は危険性因子の分布を測定しているとはいえない。従って、統計学的に処理して職業性ばく露限界値と比較して評価した場合、その分布の全ての可能性は対数正規分布し、5%の人は職業性ばく露限界値を超える可能性があるという研究例や健康障害事例が報告されている。
【0004】
一方、作業環境測定は、労働者が作業する範囲、又は、健康有害性因子又は危険性因子の影響が及ぶおそれのある範囲を単位作業場として定め、統計学的に適切な点に測定部を置いて測定する、法令に基づく方法(例えば、非特許文献3参照)でデザインしサンプリングするA測定とB測定とがある。
A測定は、気中健康有害性因子の平均的な状態を把握するための測定で、統計学的処理をした結果、作業環境が管理濃度を超えないように環境管理することで間接的に個人のばく露量を管理する。また、それに加えてB測定は、労働者が健康有害性因子の発生源とともに移動する場合等でもA測定を補完する測定を行い、作業環境を管理する。
しかし、作業環境測定は、労働時間に対する加重がされていないので単位労働時間のばく露量を十分にサンプリングできない可能性がある。また、統計学的にその分布の全ての可能性は対数正規分布し、5%の人が管理濃度を超える可能性がある。またサンプリング位置が常に呼吸域とは限らず、十分に個人のばく露量が測定できているとまではいえない可能性がある。またB測定は、個人ばく露測定と似てはいるが違いがあり、常に呼吸域でサンプリングできているとまではいえないという研究例や健康障害事例が報告されている。
【0005】
すなわち、個人ばく露測定法は、労働者の保護が目的であることから保護具等の着用によって対策が完結し作業環境改善につながらない可能性がある。また作業環境測定は、作業環境管理が目的で間接的に労働者を保護することから作業環境管理で完結し、局所的又は時間的に高濃度になり、個人のばく露対策につながらない可能性がある。従って、いずれの測定方法も改善の余地がある。
【0006】
ここで、起こり得る健康障害に応じて、ばく露量の基準値が決められている。信頼できる機関や法令は、それらをばく露限界値又は指標として定めている。それら信頼できる情報は、ACGIH(TLV-TWA,TLV-STEL,TLV-Ceiling)(非特許文献5参照)、MAK、日本産業衛生学会(許容濃度)、又はWHOや各国関連機関等から示されている。ばく露限界値又は指標は、長期間でのものと短期間でのものとがあり、これらばく露が毎日繰り返される時間を単位としてばく露量を測定する。あるいは、測定結果からこれらを時間加重単位時間として個人ばく露量を計算又は予測し評価する。例えば、日本では長期間のばく露評価時間は1日の労働時間を8時間かつ1週間の労働時間を40時間で、一測定点の時間は10分間以上と定められている。また、ACGIHの時間加重平均値(TLV-TWA)の測定は1日の労働時間(8時間)全体を通じての測定が基本となる。また短期間のばく露測定時間はACGIH(TLV-STEL,TLV-Ceiling)の15分間等が定められている。
【0007】
また、健康有害性因子又は危険性因子の特定、及び、個人ばく露量の予測には、代謝物質や血中健康有害性因子の濃度などを測る次の方法などある。
1.BEI:生物学的ばく露指標
2.生物学的許容値
ACGIHのBEI(biological exposure indices:生物学的ばく露指標)や日本産業衛生学会の生物学的許容値、法令に基づく特殊健康診断等は代謝物質や血中健康有害性因子の濃度などを測る方法である。これらは医学的方法で採取されることから、一般には外部の医療機関等で採取され分析される。また、これらの方法は、経気道ばく露又は経皮ばく露の両方を調査できるが、BEI等は、健康有害性因子にばく露された労働者の体内摂取量を間接的に反映する指標であって、気中健康有害性因子の個人ばく露量ではない。
【0008】
また、従来は、健康有害性因子の管理は、経気道ばく露が主であったが、知見が増えて気中健康有害性因子の濃度が抑制されるに従って気中健康有害性因子の濃度が低くなり、経気道ばく露量に比べ相対的に経皮ばく露量が大きくなることが課題となってきている。例えば、ベンゼンはその比が6割になったという報告もある(非特許文献7参照)。また、気中健康有害性因子又は危険性因子の濃度は沸点や引火点の低いものがより濃度が高くなりリスクが高いとされていたが、皮膚に付着する液体は沸点や引火点が高く蒸発しにくいものがよりリスクが高くなる場合があることが分かってきた。例えば、エポキシ系樹脂塗料などはその例である。また、衣服で覆われた内部は濃度が高くなる可能性があることが示されている(非特許文献7参照)。また、経皮ばく露について、皮膚表面の分布は、ミスト等が広く皮膚に付着するが、液滴は付着する場所が局部的で検出部がそれを捉える機会が低くなる可能性がある。従って、今後は肺だけでなく、別経路のばく露を考慮して適切に測定し管理する必要もある。
【0009】
職業性ばく露履歴は、労働者が会社を移動又は転職したりして過去の履歴が参照できないことがあるため、外部と情報を共有して調査、収集して、記録保存することも希求される。
【0010】
また、職業性ばく露による健康障害を起こした健康有害性因子及びその量を特定するためには疫学研究が不可欠である。疫学研究は数年から数十年の調査期間が必要で、例えば、石綿の健康障害については発症までに約40年かかるといわれている。また、疫学調査では必要な職業性ばく露履歴、作業環境履歴、及び関連情報が記録保存されていない場合や収集した情報の種類が現時点では十分と考えられていても未来では不十分で疫学研究に役立っていない場合が多くみられる。従って、今後は未来に備えた情報収集が必要になる。
【0011】
従来の技術として一呼吸か二呼吸で死に至る酸素欠乏症や硫化水素ガス中毒などの急性中毒、放射線ばく露等についての作業環境検知自動通報システムが提案されている(特許文献1参照)。これは、作業環境測定器が発した警報の確認操作をしなかった場合、携帯端末から警報をコンピュータに送信し、電話等で関係者に通報するもので、適切な情報をリアルタイム又は適時に収集するものではない。また、そこまで至らない急性ばく露は考慮されていない。短時間の急性ばく露と回復を繰り返す不可逆的な慢性的健康影響については、時間加重平均値として短い時間とばく露量との積になり、その後の回復を繰り返し受けることによる影響の蓄積となる可能性がある。ACGIHではTLV-TWA値以上、TLV-STEL値までのばく露は15分未満で、一日当たり4回以下でなければならず、この範囲内で連続ばく露時間の間に少なくとも60分必要である。例えば、弱い酸素欠乏空気や硫化水素ガスなどを短時間繰り返し吸入することにより慢性的に酸素欠乏症状態、硫化水素ガス中毒、又は、目、歯、又は皮膚障害が生じ発症することなどが考慮されていない。
【0012】
また、トンネル内作業環境を自動車で移動して粉じん濃度を測定する技術が提案されている(特許文献2参照)。また、トンネル内を移動できる建機等に搭載し、粉じん濃度、ガス濃度、温度、湿度、光透過率、風速を測定し、コンピュータにより排気ファンを制御することも提案されている(特許文献3参照)。しかし、これらの技術では、作業場全体の分布や呼吸域での測定により個人ばく露や作業環境を測定するものではなく、測定結果を分析して個人ばく露量を評価することや長期間の職業性健康管理は考慮されていない。
【0013】
また、外部と情報を共有する手段も提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この技術は、法令遵守の作業環境測定法に基づく作業環境管理システムで、規制対象でない健康有害性因子又は危険性因子のリスク管理には適応できていない。また、新しい知見が分かったものや日々生まれる又は発生する因子に迅速、かつ正確に対応することは考慮されていない。
【0014】
また、従来の技術として労働者が測定器を携行して測定値と時間をCD等の記録媒体に記録して、作業終了後に回収する方法も提案されている(特許文献5参照)。この方法は、予め定められた作業についてCD等の記録媒体を回収して調べることですでに起こってしまった過去の被ばく量と作業工程の把握が容易になるというものである。
【0015】
しかし、回収したCD等で被ばく量と作業工程を調べて高濃度となった固定位置の画像を参考に原因を追究するもので、長期間又は短期間の個人ばく露量、又は、作業環境を、S.A.Roachの考え方(非特許文献4参照)や代謝又は再生モデルに基づき分析、評価して職業性健康履歴又は作業環境履歴を管理するものではない。また、新しい健康有害性又は危険性因子や知見に迅速に対応できるものではない。また、固定した位置にデジタルカメラが設置され画像がCDや通信回線を通じて記録され作業台は特定できるが、作業場を自由に移動する人には適用できるものではなく、リアルタイム又は適時にそれら情報を提供し、迅速に原因究明に役立てることができるものではない。
【0016】
また、放射線の測定で結果を固定位置に置かれた充電/トランスミッションコンソールからダウンロードする方法が提案されている(特許文献6参照)。また、テレメトリーで送信することも記載されているがテキストデータに限られている。また、放射線で同様の測定することも提案されている(特許文献7参照)。この2つの文献には、測定できるものとして放射線の他、化学物質、又は生物学的物質が示されているが、労働安全衛生の分野の個人ばく露測定、又は作業環境測定に基づく測定ではない。また、代謝又は再生を繰り返す個人ばく露評価、個人ばく露履歴管理又は作業環境履歴管理の作業環境統括管理ができるものではない。さらに未来の疫学研究に役立つものでもない。
【0017】
また、健康有害性因子の生物学的半減期と体内蓄積量については理論的な文献がある(非特許文献4参照)。しかし、毒性学から健康有害性因子を分解し排泄する代謝過程は考慮されていない。例えば、塩素系溶剤は空気中で分解されると腐食性猛毒ガスのホスゲンになる。これと同様の化学反応が体内で起こる。クロロホルムは体内に入ると肝臓でP450酵素により活性中間体が生成され、酸化、加水分解されて水溶性にして体外に排泄される。クロロホルムはこの過程で分解されて活性中間体のホスゲンになる。ホスゲンの体内毒性は反応性が高いことから細胞内の生体分子と結合して強い肝障害を起こす。
【0018】
また、肝細胞が嫌気的な環境に置かれた(血中濃度が高くなり酸化できなくなったとき)場合、還元的脱ハロゲン化が起こる。また、酸化的な環境に置かれた(血中濃度が低く十分酸化できるとき)場合、酸化的脱ハロゲン化が起こる。例えば、ハロタンは血中濃度が低い場合、酸化反応が起こり、抗体が生成されて、それが蓄積されアレルギー反応を伴う劇症肝炎が起こる。また血中濃度が高い場合は還元反応が起こり生体高分子と共有結合し肝細胞障害を起こすことも示されている(非特許文献6参照)。
【0019】
単位労働時間又は1シフト時間に時系列的にばく露された場合、先にある因子にばく露された状態で次の因子のばく露が始まるので、より多く体に吸収される可能性がある。例えば、エタノールは飲酒して代謝された後、有機溶剤作業をすると有機溶剤がより多く体に吸収されることがSato,1995らによって報告されている(非特許文献8参照)。
【0020】
このように、健康有害性因子は代謝されて生物学的半減期に従って体内蓄積量は減少する。しかし代謝だけを評価した場合は減少しているが、実際には減少したのではなく、その影響は標的臓器に移って蓄積される。このように体内で起こる影響を考慮した等価モデルはまだない。
【0021】
また、吸入量は労働強度で変化するが、一般に標準的な労働条件としては1日8時間、週40時間、労働強度は中程度で、その単位労働時間または1シフト時間の呼吸量は10m3/8hとして評価されている。また、ばく露限界値は体重50kg(米国では65kg)と定められている。しかし、これらは個人又は労働条件によって変わるので個人ばく露量の評価では個人情報を考慮した方がよい場合もある。
【0022】
また、これらから分かるように、作業環境測定又は個人ばく露測定をシステム化したものはほとんどない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】特開2002-197572号公報
【文献】特開平9-242500号公報
【文献】特開2017-59240号公報
【文献】特開2017-59240号公報
【文献】特開2003-281645号公報
【文献】米国特許第6031454号
【文献】米国特許第9417331号
【非特許文献】
【0024】
【文献】NIOSH: OCCUPATIONAL EXPOSURE SAMPLING STRATEGY MANUAL, 1977.
【文献】AIHA: A Strategy for Assessing and Managing Occupational Exposures 4th Edition, 2015.
【文献】日本作業環境測定協会:作業環境測定ガイドブック総論編,2005.
【文献】S.A. Roach: A More Rational Basis for Air Sampling Programs, 1966.
【文献】ACGIH: TLVs and BEIs, 2017.
【文献】加藤隆一他:薬物代謝学 第2版, 2006.
【文献】AIHA: The Occupational Environment: Its Evaluation, Control, and Management 3th edition, Chapter20, 21, 2011,
【文献】Sato:Encyclopedia Environmental Control Technology, vol7, Chapter4. 1995.
【文献】EPA: DERMAL EXPOSURE ASSESSMENT: PRINCIPLES AND APPLICATIONS, 1992.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
労働環境は、個人ばく露測定又は作業環境測定に基づき測定し、その値と基準となるばく露限界値、管理濃度、又は許容濃度等の職業性ばく露限界値と、を比較し評価して管理されている。しかし、従来の技術では、個人ばく露測定は基本8時間で時間加重平均し、作業環境測定は場の測定であることから統計学的に有意な全ての点を1時間以上かけ測定するため、測定に長時間かつ多くの経費がかかる。このことから、迅速かつ正確な測定に欠け、また新しい健康有害性因子又は危険性因子や新しい知見への迅速な対応に欠け、迅速かつ正確な個人ばく露管理や作業環境管理が行えない不都合があった。
【0026】
また、これらの測定は、法令又はリスクアセスメントやリスクマネジメントに対応する必要がある。測定方法には法令等で定められた方法、例えば、基本として作業環境測定法又は個人ばく露測定に関するOSHA Sampling Method等に従う必要がある。また労働安全衛生法第28条の2(事業者の行うべき調査等)に基づいて行われるリスクアセスメントやリスクマネジメントに対応したより高いレベルの個人ばく露測定方法や作業環境測定方法等の測定ができることも望ましい。なお、個人ばく露(測定)は、一人の個人のばく露(測定)であっても、複数の個人からなる集団のばく露(測定)であってもよく、本明細書では、それらをまとめて「人体ばく露(測定)」とも称する。
【0027】
そこで、本発明は、人体ばく露測定及び/又は作業環境測定をリアルタイム又は適時に実施し、職業性ばく露を迅速に評価することができる、作業環境統括管理システム及び作業環境統括管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明の作業環境統括管理システムは、
単数又は複数の、健康有害性因子及び/又は危険性因子を、リアルタイム又は適時に検出する第1の検出部を有する測定部と、
前記第1の検出部により検出された前記健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を、リアルタイム又は適時に送信可能な通信部と、
前記通信部から送信された、前記健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、人体ばく露及び/又は作業環境を計算により評価する、計算部と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
本発明の作業環境統括管理システムでは、
前記測定部は、
前記人体ばく露及び/又は前記作業環境に関連した関連情報を、さらに、リアルタイム又は適時な測定により検出するように構成され、
前記関連情報として労働者の位置及び/又は経時情報を検出する第2の検出部、前記関連情報として労働者の周囲及び/又は作業場の画像を撮像する撮像部、及び、前記関連情報として労働者の周囲及び/又は作業場の音、振動、熱、非電離放射線、及び放射線のいずれか1つ以上を感知するセンサのうち、少なくともいずれか1つ以上をさらに備えていることが好ましい。
【0030】
本発明の作業環境統括管理システムでは、前記通信部は、前記測定部で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析した情報を、リアルタイム又は適時に送信可能にも構成され、
前記通信部から送信された、前記測定部で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析した情報、又は、前記測定部で検出された健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、前記測定部の較正に必要な情報を生成する、較正部をさらに備えていることが好ましい。
【0031】
本発明の作業環境統括管理システムでは、
前記計算部は、代謝モデル又は再生モデルを用いて前記評価を行うことが好ましい。
【0032】
本発明の作業環境統括管理システムは、
健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を登録可能な記憶部をさらに備えていることが好ましい。
【0033】
本発明の作業環境統括管理システムは、
作業環境の外部と通信可能な、外部通信部をさらに備えていることが好ましい。
【0034】
本発明の作業環境統括管理方法は、
単数又は複数の、健康有害性因子及び/又は危険性因子を、リアルタイム又は適時に検出する工程と、
検出された前記健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を、リアルタイム又は適時に送信する工程と、
送信された前記健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、人体ばく露及び/又は作業環境を計算により評価する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、人体ばく露測定又は作業環境測定をリアルタイム又は適時に実施し、職業性ばく露を迅速に評価することができる、作業環境統括管理システム及び作業環境統括管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる作業環境統括管理システムについて説明するための概略図である。
【
図2】測定部の構成要素の例について説明するための図である。
【
図5A】測定部とシステム計算部とを備えた作業環境統括管理システムの一例を示す図である。
【
図5B】測定部とシステム計算部とを備えた作業環境統括管理システムの一例を示す図である。
【
図5C】呼吸用保護具に測定部が取り付けられた例を示している。
【
図6A】体内に吸収されて代謝又は再生される過程を表した図である。
【
図6B】体内に吸収されて代謝又は再生される過程を表した図である。
【
図6C】体内に吸収されて代謝又は再生される過程を表した図である。
【
図7】経気道ばく露の等価回路の例を示す図である。
【
図8】経皮吸収ばく露の等価回路の例を示す図である。
【
図9】ばく露限界設定/酵素活性値設定部について、トランジスタを用いたモデルを示す図である。
【
図10】本発明の他の実施形態にかかる作業環境統括管理システムについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に例示説明する。
【0038】
<作業環境統括管理システム>
図1は、本発明の一実施形態にかかる作業環境統括管理システムについて説明するための概略図である。
【0039】
図1に示すように、本実施形態の作業環境統括管理システムは、測定部1と、通信部2と、制御部3と、分析較正部4と、システム計算部5と、外部通信部6と、を備えている。図示例では、測定部1、通信部2、及び制御部3は、作業場内で、労働者に取り付けられ又は固定点に配置されており、一方で、分析較正部4、システム計算部5、及び外部通信部6は、作業場の外に配置されている。なお、例えば、広い工場等の作業場の場合に、分析較正部4、システム計算部5、及び外部通信部6は、作業場の内部に配置することもできる。
【0040】
測定部1は、単数又は複数の、健康有害性因子及び/又は危険性因子を、リアルタイム又は適時に検出するように構成されたものである。本実施形態では、測定部1は、単数又は複数の健康有害性因子及び/又は危険性因子を検出する第1の検出部11(
図2参照)、及び、検出された健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を、リアルタイム又は適時に送信可能な通信部13を備えている。
【0041】
図1に示す例では、測定部1は、労働者(図示例では5人の労働者の各人)及び作業場の所定位置(図示例では、統計学に有意となり得る配置の一例として、この平面視で、矩形の頂点に対応する4箇所と、矩形の2つ対角線上の交点に対応する1箇所の計5箇所)の両方に設置している。労働者に取り付けた測定部1によれば、第1の検出部11により、特に、人体ばく露(個人又は複数の個人のばく露)情報のために、単数又は複数の、健康有害性因子及び/又は危険性因子を検出することができ、また、作業場の所定位置に設置した測定部1によれば、第1の検出部11により、特に、作業環境情報のために、健康有害性因子及び/又は危険性因子を検出することができる。一方で、本発明は、この場合には限られず、労働者及び作業場の所定位置のいずれかのみに測定部1を設置して、人体ばく露情報及び作業環境情報のいずれか一方の情報のみのために、健康有害性因子及び/又は危険性因子を検出することもできる。第1の検出部11は、検知器(detector)とすることができ、例えば、半導体式検知器、接触燃焼式検知器、電気抵抗式検知器、光イオン化検知器等とすることができる。特に、第1の検出部11及び第2の検出部12による測定結果は、測定値として情報の送受信を行うことが好ましく、従って、第1の検出部11及び第2の検出部12が、それぞれ、検出した健康有害性因子及び/又は危険性因子や関連情報を数値化する検知メーター等を備えることが好ましい。あるいは、それらを目視で読み取って、手動で送受信することもでき、あるいは、測定結果を画像として撮像する等したデータを送受信することもできる。
【0042】
図2は、測定部1の構成要素の例について説明するための図である。この例において、測定部1は、上記第1の検出部11、第2の検出部12、通信部13、撮像部14、センサ15、制御部16、記憶部17、表示部及び/又は操作部18、及び音声案内部19を備えている。
【0043】
本実施形態では、測定部1は、人体ばく露情報及び/又は作業環境情報に関連した関連情報を、さらに、リアルタイム又は適時な測定により収集するように構成されている。第2の検出部12は、上記関連情報として、労働者の位置及び/又は経時情報を検出するように構成された検知器とすることができる。位置情報は、例えば、GPS又はGPS固定点の差分の位置検出、光学的位置検出、又は音響的位置検出等により行うことができる。また、経時情報は、第2の検出部12が時計機能等を有することにより検出を行うことができる。第2の検出部12は、例えば、労働者の作業履歴の測定点を特定し、その測定を行った時間を特定して、高濃度となった作業が行われた位置と時間を特定することができる。また、第2の検出部12は、上記関連情報として、温度、湿度、気圧、気流等の情報を検出する検知器とすることもできる。人体ばく露因子や作業環境因子は、その発散や飛散が気温、湿度、気圧、気流等の影響を受け、また労働者の状態も発汗や体温で影響を受ける。さらに、温度、湿度等で測定部の特性も変わる。これらを考慮して補正するために、温度、湿度、気圧、気流等の気象条件又は生体情報を計測しておくことが好ましい。
【0044】
通信部13は、各種情報(例えば、第1の検出部11により検出された、単数又は複数の、健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報、及び、第2の検出部12や後述の機能部により検出された上記関連情報)を、通信部2との間で送信及び/又は受信するように構成されている。通信部13は、送信機及び/又は受信機を有する。これにより、通信部2への中継用の役割を果たすことができる。一方で、通信部13は、各種情報を、他の機能部(通信部2、制御部3、分析較正部4、システム計算部5、及び外部通信部6)との間でも送信及び/又は受信するように構成されていてもよい。
通信部13は、人体ばく露測定の場合は、無線通信とすることが好ましく、一方で、作業場(作業環境)の測定の場合は、有線通信とすることが好ましい。無線通信では、労働者が自由に移動することができるが、そのためには電力供給に限りがあり省電力及び小型化をすることが好ましくなる。有線通信では、電力の供給や無線通信の中継の機能があり、無線通信の省電力化にもつながる。また、固定点を基準に移動点を特定するのにもつながることから無線通信と有線通信との併用がより好ましい。このような通信部13は、任意の既知の無線通信(近距離無線通信の場合は、例えば、Bluetooth(登録商標)、又はWi-Fi(登録商標))、あるいは、任意の既知の有線通信を用いることができる。システム計算部5及び後述の制御部16は、IPアドレスを有するものとすることが好ましい。
【0045】
撮像部14は、上記関連情報として労働者の周囲及び/又は作業場の画像を撮像するように構成されている。画像は、静止画であっても動画であっても良い。撮像部14による撮像を第1の検出部11による健康有害性因子及び/又は危険性因子の検出とリアルタイム又は適時に連動させることにより、撮像部14によって撮像された各種光の画像(例えば可視光、赤外線等の画像)によって、(ばく露等の)発生場所や発生状況や発生量を、画像処理又は目視により予測することができる。これにより、人体ばく露情報及び/又は作業環境情報の測定値と併せて、人体ばく露及び/又は作業環境の状態をより正確に評価し、適切な対策を行うことができる。撮像部14は、任意の既知のカメラ等(例えば、CCD又はCMOSイメージセンサ)とすることができる。
【0046】
センサ15は、上記関連情報として、労働者の周囲及び/又は作業場の音、振動、熱、非電離放射線、及び放射線等の情報を感知して取得することができるものである。例えば、音(現場の音や労働者の声など)はマイク等により取得することができ、振動は振動センサにより取得することができ、熱は熱センサにより取得することができ、非電離放射線、及び放射線等は光線又は放射線センサにより取得することができる。この場合も、第1の検出部11による健康有害性因子及び/又は危険性因子の検出とリアルタイム又は適時に連動させること等により、人体ばく露情報及び/又は作業環境情報の測定値と併せて、人体ばく露及び/又は作業環境の状態をより正確に評価し、適切な対策を行うことができる。
【0047】
制御部16は、第1の検出部11、第2の検出部12、通信部13、撮像部14、センサ15、記憶部17、表示部及び/又は操作部18、及び音声案内部19に所定の機能を発揮させるように制御するものである。制御部16は、例えば、任意の既知のプロセッサとすることができる。
【0048】
記憶部17は、種々の情報を記憶するように構成されており、特に、単数又は複数の健康有害性因子及び/又は危険性因子に関する情報を記憶するように構成されている。記憶部17は、任意の既知のメモリとすることができる。
【0049】
上記の健康有害因子及び/又は危険性因子としては、任意の既知の健康有害因子及び/又は危険性因子を含むことができる。健康有害性因子及び/又は危険性因子の物理的又は化学的情報は、例えば、WHO、各国、又はその他の信頼できる機関からWebや文書で提供されることができる。主要な情報としては、毒性学的情報、ばく露限界値、及び沸点や引火点等がある。これら公表されている情報からリスクアセスメント、リスクマネジメント又は法令遵守に求められるばく露限界値、引火点等を、例えば記憶部17に予め登録しておくことができる。
【0050】
一方で、本発明では、健康有害因子及び/又は危険性因子としては、既知の因子のみならず、新たな健康有害因子及び/又は危険性因子に関する知見(当該因子及びその測定手法等)が得られた場合には、それらの新たな健康有害因子及び/又は危険性因子を含むようにすることもできる。具体的には、通信部2(13)を介して当該情報を収集して、記憶部17に、当該情報を、登録、更新、及び削除することができる。当該情報を収集するに当たっては、外部から外部通信部6を介して情報を送信しても良いし、あるいは、システム計算部5がAI機能を有するプロセッサ等を備えることにより、当該AI機能により、後述の通信部5a及び外部通信部6を介してWeb又は文書から自動で収集して、通信部2(13)及び通信部5aを介して、記憶部17に送信しても良い。AI機能は、例えば、通信部(送信機及び/又は受信機)を有し、上記情報の提供先のWebページに定期的、又は適時にアクセスし、記憶部17に登録された情報と対比させて(この場合、記憶部17にもアクセスする)、変更、追加、削除等された情報を認識して、最新の情報に更新等するようにプログラムされたものとすることができる。
【0051】
表示部及び/又は操作部18は、例えば、労働者等へ人体ばく露情報及び/又は作業環境情報を表示するように構成された表示部とすることができる。表示部は、例えば任意の既知のディスプレイとすることができる。本実施形態では、表示部は、上記関連情報も表示することができるように構成されている。これらの表示は、労働者にとって分かりやすいように編集された表示とすることができる。また、表示部及び/又は操作部18は、例えば、測定部1を操作する操作部とすることができる。操作部は、例えば、発せられた警報等のアラームを解除する、あるいは、操作部は、労働者が安全又は危険であることを、通信部13及び外部通信部6を介して外部に伝えるように操作することができる。操作部は、任意の既知のプロセッサとすることができる。本実施形態では、表示部及び/又は操作部18は、表示部及び操作部の両方を備えているが、いずれか一方のみを備えていても良い。
【0052】
音声案内部19は、例えば、労働者等へ人体ばく露情報及び/又は作業環境情報を音声により伝達するように構成されてなる。音声案内部19は、例えば、任意の既知のスピーカ等とすることができる。本実施形態では、音声案内部19は、上記関連情報も音声で伝達することができるように構成されている。なお、表示や音声案内に加えて、あるいは、表示や音声案内に代えて、表示や音声案内により提供する情報を、振動を発生させることにより伝達する、振動発生部を備えるものとしても良い。
【0053】
図3は、測定部1の一例を示す図である。
図3は、バンド部91を有する腕時計型の測定部1の例である。
図3に示す例の測定部1は、例えば、経皮ばく露を測定するのに用いることができる。経皮ばく露を測定する場合、経皮ばく露は、皮膚に付着した健康有害性因子が皮膚を浸透して毛細血管に入る経路であり、皮膚面で測定する必要がある。そのため、測定部1は、例えば皮膚面に付ける形状とすることが好ましい。
図3に示す例では、測定部1をバンド部91で労働者の手首に取り付けて皮膚面に付けることができる。また、皮膚面に付着する健康有害性因子及び/又は危険性因子(例えば塗料など)は、直接、測定部1の第1の検出部11の表面の空気口に付着することがある。そこで、表面を清浄に保つための適切なフィルターを設け、単位労働時間又は1シフト時間が終了して取り外した後、次に装着する前に清浄にするか交換して、空気口を初期状態に保つことが好ましい。また、携帯するには小型化することが好ましく、また、電源は、電池、充電可能な電池、又は外部給電に頼らざるを得ず省電力化が好ましいことから、
図2に示した要素のうち、第1の検出部11、通信部13、及び制御部16のみから構成されることも好ましい。
【0054】
図4A~
図4Fは、測定部1の他の例を示す図である。
図4A、
図4Bに示す測定部1は、小型化したものである。
図4A、
図4Bにおいては、皮膚に着ける場合及び呼吸域に着ける場合の両方に用いることができる測定部1として、ペンダント型(
図4A参照)及びピン取り付け型(
図4B参照)が例示されている。この例も、
図3の例と同様の機能を有し、より一般的に使用できる一例である。好ましくは、
図4Cに示す例のように、測定部1は、半導体技術等を使ってさらに小型化し、貼り付け面92を有するようにして、皮膚表面に張り付けられるか、着衣に付けられるようにする。また、
図4D、
図4Eに示す例のように、小型化した上で、労働者の着衣や持ち物等のいずれかに組み込み可能なように構成する(
図4Eは、より立体的な形状の例である)ことも好ましい。また、
図4Fに示す例のように、制御部16が通信部16aを有することにより中継を行うこともできる。
【0055】
図5A及び
図5Bは、測定部1とシステム計算部5とを備えた作業環境統括管理システムの一例を示す図であり、特に、
図5Bは、測定部1の制御部16が通信部16aを有することにより中継機能を有する場合を示している。
図5Aに示す例では、測定部1は通信部13(送信機及び/又は受信機)を有しており、システム計算部5は通信部5a(送信機及び/又は受信機)を有している。
図5Bに示す例では、測定部1は、通信部13、及び、通信部16aを有する制御部16を有しており、システム計算部5は通信部5aを有している。
図5A及び
図5Bに示す例では、ネットワーク上に分散する測定部1を検索する際に、システム計算部5と測定部1との両方に接続条件、使用者等必要な情報を設定することによりデータ制御を行っている。例えば、外部から測定部1及びシステム計算部5に接続するに当たって、ユーザIDやパスワード等を要求するように設定することができる。
【0056】
図5Cは、呼吸用保護具に測定部1が取り付けられた例を示している。
図5Cに示す例は、半導体技術等により、小型化したものであり、低消費電力であり、また、呼吸域でのサンプリングが可能である。なお、
図5Cに示す例では、測定部1及び通信部2は、呼吸用保護具に取り付けられているが、フィルターの外部に取り付けることもでき(
図5C参照)、又は、フィルダーの内部に取り付けることもでき、あるいは、保護衣等に取り付けることもできる。
【0057】
図1に戻って、通信部2は、種々の情報(例えば、測定部1の第1の検出部11により検出された健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報や、測定部1の第2の検出部12や他の機能部により検出された上記関連情報)を、リアルタイム又は適時に送信及び/又は受信可能な送信機及び/又は受信機を有する。本実施形態では、通信部2は、測定部1、制御部3、分析較正部4、システム計算部5、及び外部通信部6との間で通信(送信及び/又は受信)可能である。このような通信部2としては、任意の既知の無線通信又は有線通信を用いることができる。
【0058】
制御部3は、測定部1及び通信部2を、所定の機能を発揮させるように制御するものである。制御部3は、任意の既知のプロセッサとすることができる。制御部3により、例えば、作業場の内外での通信障害が生じた場合でも、測定部1及び通信部2に所定の機能を発揮させることができる。
【0059】
ここで、測定部1は、例えば分析用に、健康有害性因子及び/又は危険性因子を採取するようにさらに構成されたものとすることができる。測定部1は、例えば、活性炭やシリカゲルによる健康有害性因子及び/又は危険性因子の吸着を行う吸着部(例えば、吸着材、吸着剤、吸着シート等)や、健康有害性因子及び/又は危険性因子を含んだ空気の直接の採取を行う採取部(例えば、吸引器)を有するものとすることができる。分析較正部4は、通信部(送信機及び/又は受信機)4a、計算部、及び分析部を備えている。分析較正部4は、分析部により、測定部1により採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子の分析を行うように構成されている。分析部は、例えば、ガスクロマトグラフィー分析器、液体クロマトグラフィー分析器、質量分析器等の分析装置による分析等を行うものとすることができる。なお、測定部1により採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子は、分析較正部4へ物理化学的に安定な状態で運ばれ測定及び分析される。
【0060】
ところで、測定部1の第1の検出部11及び第2の検出部12は、それら検出部11、12の感度特性がそれら測定対象因子により異なることがあるため、較正が必要となることがある。また、同じ測定対象因子であっても長期間使用すると感度が変化する。また測定回路も経年変化することから較正が必要となることがある。さらにその機能のアップデートなど保守が必要になる。従って、測定部1を最適に保つことが好ましく、本実施形態では、分析較正部4及びシステム計算部5によりそれを行う。
【0061】
通信部2は、測定部1で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析部で分析した情報を、リアルタイム又は適時に送信可能にも構成されている。そして、分析較正部4は、通信部(送信機及び又は受信機)4aを有し、通信部2、4aを介して、測定部1で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析した情報をシステム計算部5に送信することができる。システム計算部5は、計算部を有し、測定部1で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析した情報に基づいて、較正の必要性等を評価する。システム計算部5は、当該評価結果に基づいて、あるいは、定期的又は適時に、あるいは、新たな健康有害性因子及び/又は危険性因子に関する知見が得られた場合等に、分析較正部4に、測定部1の較正に必要な情報を生成するように命じるように構成される。分析較正部4は、通信部4a、5aを介したシステム計算部5からの命令を受けて、計算部により、測定部1の較正に必要な情報を生成する。
あるいは、システム計算部5は、測定部1で検出した健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報や関連情報に基づいて、測定部1の較正の必要性等を評価して、当該評価結果に基づいて、分析較正部4に、測定部1の較正に必要な情報を生成するように命じるように構成されていてもよい。
このように、分析較正部4は、測定部1で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析部で分析した情報、又は、測定部1で検出した健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報(及び関連情報)に基づいて、測定部1の較正に必要な情報を生成するようにも構成されている。この例では、分析較正部4は、該情報を生成するためのプロセッサを有する。
【0062】
図1に戻って、本実施形態において、システム計算部5は、測定部1、通信部2、制御部3、分析較正部4、及び外部通信部6を、所定の機能を発揮させるように制御するものである。システム計算部5は、例えば、任意の既知のプロセッサを有することができる。また、システム計算部5は、計算部を有し、通信部2(13)から送信された、健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、人体ばく露及び/又は作業環境を計算により評価する。例えば、測定部1により検出された健康有害性因子及び/又は危険性因子の種類やその発生量に基づいて、計算により労働者の体内に入り込んだ推定量等を算出して、例えば、記憶部に記憶されたデータとの対比や、代謝モデル又は再生モデルを用いた計算等により、例えば、有害度、臓器のダメージの程度等を評価することができる。分析較正部4により健康有害性因子及び/又は危険性因子の分析が行われた場合には、より正確な評価のために、分析した情報を用いて計算による評価を行うことが好ましい。
この評価結果は、上述した各種通信機能により、労働者や管理者等に音、振動又は表示等で伝えることが好ましく、従って、測定部1は、上記のような表示部及び/又は操作部18や音声案内部19を備えることが好ましい。法令等を順守した態様であれば、システム計算部5は、評価結果に基づいて、労働者の作業の続行の可否等を判断する判定部を備えていても良い。このような判定部は、例えばAI機能を有することができ、例えば、オキュペイショナルハイジニスト等の判断の先例を教師とした、教師あり学習を行うものとすることができる。あるいは、オキュペイショナルハイジニスト等の判断等により、各種通信部(通信機能)を用いて、判定部での判定基準をアップデートすることができるように構成することもできる。
【0063】
例えば、測定部1の製造時に、第1の検出部11(及び第2の検出部12)の特性や回路の特性を測定して、それを例えばシステム計算部5の記憶部に記憶しておき、それを基準値として用いることで、システム計算部5の計算部が、当該基準値と、測定部1による実測値や分析較正部4による分析結果と、を比較することにより、評価を行い、その結果により、分析較正部4は、測定部1の較正に必要な情報を生成することができる。なお、較正の情報は、例えば履歴として、通信部4a、5aを介して、システム計算部5の記憶部に記憶しておくことができる。
これらの方法によれば、現場や工場に送って較正する必要がなく、例えば、遠隔地からでもシステム計算部5等を介して統括管理できるので、効率的かつ正確に分散管理でき、また、故障した場合の診断も同様にして行うことができる。
【0064】
上述したように、分析較正部4による較正は、特に健康有害性因子及び/又は危険性因子に関する新しい因子等の知見が得られた場合には適時に行うことが好ましい。このことは、一例としては、システム計算部5が、AI機能を有することにより達成することができる。例えば、システム計算部5が、通信部(送信機及び/又は受信機)を有し、定期的又は適時に、所定のWebサイト等にアクセスする等して、最新の情報を取得することができるようにし、(例えばデータベース又はAIデータベース(AI機能を有するデータベースであり、従って、メモリ等の他にAI機能を達成するためのプロセッサを有する)51に記憶された現在の情報との比較により)最新の情報が得られたと判断した場合に、分析較正部4に対して、上記の分析や較正に必要な情報の生成を行うように命令することができる。なお、新しい健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報収集先としては、化学物質の登録機関、例えばCAS(A division of American Chemical Society)等のWebサイト等が例示される。AIデータベースは、特に、CASのように情報更新が早い場合に対処するのに好適に用いられる。
【0065】
また、本実施形態では、システム計算部5は、健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を登録可能な記憶部(例えばデータベース又はAIデータベース51)を備えることが好ましい。通信状態によっては一時的に情報を送受信できない場合があり、データベース又はAIデータベース51に種々の情報を記憶させ、適時に記憶を読み取って、システム計算部5で様々な処理を行うことができる。
【0066】
システム計算部5による上述の計算及び評価は、データベース又はAIデータベース51に記憶された、健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報のデータと、測定値と、を直接比較しても良いし、あるいは、測定値に対して統計処理を行ってからデータベース又はAIデータベース51に記憶された、健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報のデータと、測定値と、を比較しても良い。例えば、ばく露量の評価は、慢性ばく露量、短期間ばく露量、又は、その2つの影響を考慮したものとすることができる。あるいは、異なる有害性因子でも標的臓器が同じ又は健康影響が同じものは、相加性又は相乗性を考慮した評価を行うなど、様々な方法を駆使して適切に評価することが好ましい。また、空間的又は時系列的混合因子や複数の因子が含まれている測定では、第1の検出部11による検出は、個別又は全体の量としての検出である場合があり、システム計算部5の計算部は、その特性に合わせて、計算による評価を行うことができる。
【0067】
また、システム計算部5は、AI機能を有することができ、例えば、上記情報の提供先のWebページに定期的又は適時にアクセスし、データベース又はAIデータベース51に登録された情報と対比させて、変更、追加、削除等された情報を認識して、データベース又はAIデータベース51を最新の情報に更新等するようにプログラムすることができる。あるいは、外部から外部通信部6を介してシステム計算部5のデータベース又はAIデータベース51を更新等することができるように構成しても良い。
【0068】
システム計算部5による上述の計算及び評価は、測定部1により適切な条件で測定された、健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報の測定値と基準値との比較により行うことができる。測定値は、測定結果から時間加重平均値等を求めたもの等、統計学的に有意な処理を行ったものとすることもできる。また、基準値としては、ACGIH( American Conference of Governmental Industrial Hygienists)のTLV-TWA値(Threshold Limited Value -Time Weighted Average)、STEL値(Threshold Limited Value - Short Term Exposure Limit)、天井値(Threshold Limited Value - Ceiling)、日本産業衛生学会の許容濃度、規制の管理濃度、PEL(Permissible Exposure limit)等を用いることができる。このような基準値がない場合には、信頼できる機関等、例えばOECD、米国EPA(非特許文献9)などのNOAEL値(No Observed Adverse Effect Level)等公表値からばく露限界値の予測値を求めて基準値に代用することができる。
【0069】
図6A~
図6Cは、体内に吸収されて代謝又は再生される過程を表した図である。
図6Aは、単位労働時間又は1シフト時間で、例えば1日8時間一定の濃度でばく露を受ける際の、ばく露時間と気中濃度との関係を示している。
図6Bは、モデルの条件として、代謝時間と血中濃度との変化の関係を示している。
図6Cは、代謝時間と血中濃度の変化との関係を示している。一般的には、健康有害性因子及び/又は危険性因子は、これらが組み合わされた条件で代謝又は残留される。
図6A~
図6Cからわかるように、長時間ばく露を受ける作業や高濃度ばく露を受ける作業を行うと慢性的に体内に蓄積され健康障害を引き起こす場合がある。
【0070】
図7は、経気道ばく露の等価回路の例を示す図である。分析較正部4やシステム計算部5による計算及び評価では、直接、人体のばく露状態を測定することはできないので、肺気道経路ばく露代謝又は再生モデルを用いて評価を行うことが好ましい。なお、発がん性の健康有害性因子及び/又は危険性因子などは閾値がないため、その場合は、閾値設定素子D
2の値を無限小とするか、あるいは、回路から取り除いたモデルとすることができる。
図7の等価回路では、気中健康有害性因子の濃度に相当する矩形の電圧V
iが供給されると、血中濃度を表すR
1、C
1、代謝を表す濡れ抵抗R
2からなる積分回路でC
1に充電される。気中濃度が低下してV
iが低下するとC
1の電荷の放電が生じる。その様子は、
図6Bにおいて代謝時間T=8hの場合を示したように減衰する。また、不可逆的に蓄積される標的臓器の電荷を表す積分回路R
3、D
1、D
2、C
2では、R
3は、血管から臓器に入る膜抵抗で、標的臓器C
2に充電される。D
1は、気中濃度が低下した場合の放電防止であり、D
2は、閾値がある因子のばく露限界値に相当した閾値設定ツェナーダイオードである。さらに図示はしていないが、発症にはV
Tとして臓器蓄積量に応じた影響が間接的にBEI測定結果や健康障害として現れる。
【0071】
図8は、経皮吸収ばく露の等価回路の例を示す図である。
図8は、
図7と同様に、皮膚経路ばく露の代謝又は再生モデルである。
図8に示す等価回路において、発生源を一定値としているのは、液滴が皮膚に付着するとふき取るか、乾くまで、ばく露を受け続けることに対応している。
図8に示す等価回路では、皮膚接触濃度は一定であることから定電圧として、
図7に示す等価回路に印加した図である。
【0072】
図9は、
図7、
図8のばく露限界設定/酵素活性値設定部について、トランジスタを用いたモデルを示す図である。
図9の等価回路においては、D
1及びD
2の機能をMOSトランジスタで置換している。なお、この場合、発がん性の健康有害性因子及び/又は危険性因子では、閾値設定素子R
5を最大値とし、常にMOSトランジスタを通してC
2に蓄積させる。
【0073】
図1に戻って、本実施形態の作業環境統括管理システムは、作業環境の外部と通信可能な、外部通信部6をさらに備えている。これによれば、外部ネットワークとの接続を介した情報の送受信により、職業性健康管理や作業環境管理をさらに適切に行うことができる。この例で、外部通信部6は、送信機及び/又は受信機を有する。
【0074】
本実施形態の作業環境統括管理システムによれば、測定部1によりリアルタイム又は適時に検出された健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を、通信部2(13)により、システム計算部5に送信し、システム計算部5の計算部がそれに基づいて、人体ばく露及び/又は作業環境を評価するため、迅速に職業性ばく露を評価することができる。当該評価は、分析較正部4による分析結果を用いてなされることでさらに正確に行うことができる。そして、当該結果は、例えば、通信部4a、2(13)を介して、測定部1の表示部18や音声案内部19によって労働者に伝えることができ、また、例えば外部通信部6を介して管理者に伝えることもでき、これにより、労働者のばく露量を低減すること等の適切な職業性健康管理や作業環境管理を行うことができ、労働者の安全を確保することができる。上述したように、この作業環境統括管理システムでは、制御部3により、測定部1及び通信部2の制御を行うことができ、また、システム計算部5により、測定部1、通信部2、制御部3、分析較正部4、及び外部通信部6の制御を行うことができる。さらに、
図3、
図4A~
図4F、
図5Cに例示したような測定部1によれば、労働者に携行させることができる上、呼吸域や経皮ばく露域等の体の適切な部位での測定が可能であり、さらに、
図1に例示した固定位置での配置のように、統計学的に有意な固定点での測定も可能である。そして、これらを併用することができる。さらに、測定部1は、分析較正部4及びシステム計算部5によって適切なタイミングで較正されることができ、新しい健康有害性因子及び/又は危険性因子や、新たな知見に対しても、迅速かつ正確に対応することができる。新しい健康有害性因子及び/又は危険性因子や、新たな知見は、例えば、システム計算部5の記憶部(データベース又はAIデータベース51)に登録して統括管理することができる。さらに、外部通信部6により様々な情報を外部と共有することもでき、例えば、外部から人体ばく露履歴又は作業環境履歴を入手して、システム計算部5がそれを考慮した基準値を用いる等した評価を行うこともできるし、必要に応じて、外部の機関に疫学調査に情報を提供する等して、疫学研究を通じて労働安全衛生に貢献することも期待される。
以上のように、本実施形態によれば、健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を、迅速に検出して評価することで、高いレベルで、リスクアセスメントやリスクマネジメントを実施することができ、また、労働者の活動を含めた生産を管理することもできる。
【0075】
本発明の作業環境統括管理システムでは、測定部1は、人体ばく露情報及び/又は作業環境情報に関連した関連情報を、さらに、リアルタイム又は適時な測定により検出するように構成され、関連情報として、労働者の位置及び/又は経時情報を検出する第2の検出部12、関連情報として、労働者の周囲及び/又は作業場の画像を撮像する撮像部14、及び、関連情報として、労働者の周囲及び/又は作業場の音、振動、熱、非電離放射線、及び放射線のいずれか1つ以上を感知するセンサ15のうち、少なくともいずれか1つ以上をさらに備えていることが好ましい。人体ばく露及び/又は作業環境をより正確に評価することができるからである。
【0076】
本発明の作業環境統括管理システムでは、通信部2(4a)は、測定部1で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析した情報を、リアルタイム又は適時に送信可能にも構成され、通信部2(4a)から送信された、測定部1で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析した情報、又は、測定部1で検出された健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、測定部1の較正に必要な情報を生成する、較正部(上記実施形態では、分析較正部4)をさらに備えていることが好ましい。測定部1の必要なアップデート等を行うことにより、人体ばく露及び/又は作業環境をより正確に評価することができるからである。
【0077】
本発明の作業環境統括管理システムでは、計算部は、代謝モデル又は再生モデルを用いて評価を行うことが好ましい。人体ばく露及び/又は作業環境をさらに正確に評価することができるからである。
【0078】
本発明の作業環境統括管理システムは、健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を登録可能な記憶部(上記実施形態ではデータベース又はAIデータベース51)をさらに備えていることが好ましい。必要な情報を記憶部から取り出して、測定から評価までを迅速に行うことができ、一部の通信障害等にも対応することができるからである。
【0079】
本発明の作業環境統括管理システムは、作業環境の外部と通信可能な、外部通信部6を備えていることが好ましい。外部と様々な情報をやり取りして、人体ばく露及び/又は作業環境の評価の正確さを向上させることができ、あるいは、外部機関に情報を提供する等することができるからである。
【0080】
図10は、本発明の他の実施形態にかかる作業環境統括管理システムについて説明するための図である。
図10は、労働者が単位時間又は1シフト時間に広い範囲を移動する場合の測定形態を示している。この場合、同等ばく露群又は単位作業場間で、健康有害性因子及び/又は危険性因子の発生、停滞、侵入等の程度が異なることがあるため、複数の同等ばく露群又は単位作業場にわたって測定を行うことが好ましい。これには、取得された労働者の位置情報と、各単位作業場の健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報と、に基づいて、システム計算部5により有意な統計処理(例えば時間加重平均をとる)を行うことにより、評価を行うことができる。労働者が、広い範囲又は複数の作業場を移動する場合、健康有害性因子又は危険性因子の種類が異なっても標的臓器が同じであることが多く、また、健康影響が同じであれば8時間時間加重平均値で相加又は相乗効果があり、単体のばく露限界値より低い値で抑制することが好ましい。また、
図10に示す実施形態では、検出部ごと(同等ばく露群又は単位作業場ごとに)に上記の較正を行うことができる。また、同等ばく露群又は単位作業場ごとに、検出部の種類や組み合わせを変更することもできる。このようにして、
図10に示す実施形態でも、単位労働時間又は1シフト時間全体を測定して、システム計算部5で統括管理することができる。これにより、
図10に示す実施形態の場合も、健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を、迅速に検出して評価することで、高いレベルで、リスクアセスメントやリスクマネジメントを実施することができる。
【0081】
<作業環境統括管理方法>
本発明の一実施形態にかかる作業環境統括管理方法は、単数又は複数の、健康有害性因子及び/又は危険性因子を、リアルタイム又は適時に検出する工程と、検出された健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報を、リアルタイム又は適時に送信する工程と、送信された健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、人体ばく露及び/又は作業環境を計算により評価する工程と、を含む。
【0082】
この作業環境統括管理方法は、上述の実施形態にかかる作業環境統括管理システムを用いて行うことができる。作業環境統括管理システムについては、上述したのと同様であるため、説明を省略する。
【0083】
本発明の作業環境統括管理方法では、測定部1が、第1の検出部11、第2の検出部12、撮像部14、センサ15を備え、かつ、人体ばく露情報及び/又は作業環境情報に関連した関連情報を、さらに、リアルタイム又は適時な測定により収集するように構成されることができる。そして、本発明の作業環境統括管理方法では、関連情報として、第2の検出部12により、労働者の位置及び/又は経時情報を検出する工程、関連情報として、撮像部14により、労働者の周囲及び/又は作業場の画像を撮像する工程、及び、関連情報として、センサ15により、労働者の周囲及び/又は作業場の音、振動、熱、非電離放射線、及び放射線のいずれか1つ以上を感知する工程、少なくともいずれか1つ以上の工程をさらに含むことが好ましい。
【0084】
本発明の作業環境統括管理方法では、分析較正部4により、通信部2(13)から送信された、測定部1で採取された健康有害性因子及び/又は危険性因子を分析した情報、又は、測定部1で検出された健康有害性因子及び/又は危険性因子の情報に基づいて、測定部1の較正に必要な情報を生成する工程をさらに含むことが好ましい。
【0085】
本発明の作業環境統括管理方法では、計算工程において、計算部は、代謝モデル又は再生モデルを用いて上記の計算を行うことが好ましい。
【符号の説明】
【0086】
1 測定部
2 通信部
3 制御部
4 分析較正部
5 システム計算部
6 外部通信部
11 第1の検出部
12 第2の検出部
13 通信部
14 撮像部
15 センサ
16 制御部
17 記憶部
18 表示部及び/又は操作部
19 音声案内部