(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】速度制御装置、自動航行システム及び速度制御方法
(51)【国際特許分類】
B63H 25/04 20060101AFI20231006BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
B63H25/04 D
F02D29/02 301C
F02D29/02 A
(21)【出願番号】P 2020528730
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022076
(87)【国際公開番号】W WO2020008775
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018125827
(32)【優先日】2018-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】植野 秀樹
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-125635(JP,A)
【文献】特開2004-34886(JP,A)
【文献】特開昭50-43626(JP,A)
【文献】特公平7-107374(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0046287(US,A1)
【文献】特開平5-139185(JP,A)
【文献】特開2008-110749(JP,A)
【文献】特開昭61-1549(JP,A)
【文献】特開2011-173468(JP,A)
【文献】特開昭61-210244(JP,A)
【文献】特開2007-192214(JP,A)
【文献】特開2018-34780(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103293952(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/04,21/21,
F02D 9/02,29/02,
G05D 13/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の速度を制御して、ユーザが設定した設定速度に自動的に追従させる速度制御装置であって、
前記設定速度に応じて、前記
船舶の前記速度の追従対象である目標速度を単位時間毎に設定することによって、前記目標速度を所定の変化率に基づいて変化させる目標速度設定部と、
前記目標速度設定部で設定された前記目標速度が前記設定速度に近づいたときに、前記変化率を多段階に調整することによって前記変化率を減少させる変化率調整部と、
前記目標速度設定部で設定された前記目標速度に基づいて、前記
船舶が備えるエンジンのスロットルの開度制御に関するベーススロットル開度を計算するベーススロットル開度計算部と、
前記ベーススロットル開度計算部で計算された前記ベーススロットル開度を制御用スロットル開度として前記エンジンの制御装置に出力するスロットル開度出力部と、
を備え、
前記スロットル開度出力部は、前記ベーススロットル開度計算部で計算された前記ベーススロットル開度が予め設定されたスロットル開度下限値を下回った場合に、前記スロットル開度下限値を前記制御用スロットル開度として前記エンジンの制御装置に出力することを特徴とする速度制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の速度制御装置であって、
前記目標速度の前記変化率は、予め設定された速度変化パラメータに基づいて取得され、
前記速度変化パラメータは、前記単位時間と、前記単位時間毎の前記目標速度の基準変化量と、を含むことを特徴とする速度制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の速度制御装置であって、
前記変化率調整部は、前記基準変化量の設定に基づいて、前記変化率を異なる2つの値に調整することを特徴とする速度制御装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の速度制御装置であって、
前記変化率調整部は、予め設定された速度変化パラメータに基づいて、第1変化率と、前記第1変化率より小さい第2変化率と、前記第1変化率から前記第2変化率に切り替える切替速度と、を設定し、
前記変化率調整部は、
前記設定速度が前記
船舶の前記速度より大きいとき、前記目標速度設定部で設定された前記目標速度が前記切替速度以下である場合、前記第1変化率を前記目標速度設定部に出力し、前記目標速度が前記切替速度より大きい場合、前記第2変化率を前記目標速度設定部に出力し、
前記設定速度が前記
船舶の前記速度より小さいとき、前記目標速度設定部で設定された前記目標速度が前記切替速度以上である場合、前記第1変化率を前記目標速度設定部に出力し、前記目標速度が前記切替速度より小さい場合、前記第2変化率を前記目標速度設定部に出力することを特徴とする速度制御装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の速度制御装置であって、
前記
船舶の現在の速度である実速度を取得する実速度取得部と、
前記設定速度を旋回開始時速度として記憶する記憶部と、
前記
船舶の旋回時における設定速度である旋回用設定速度を出力する旋回時速度制御部と、
を備え、
前記
船舶が旋回しているとき、前記旋回時速度制御部は、前記
船舶の旋回開始時からの旋回角度が所定角度範囲内である場合、前記実速度取得部で取得された前記実速度を前記設定速度とすることを特徴とする速度制御装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の速度制御装置であって、
前記
船舶の現在の速度である実速度を取得する実速度取得部と、
前記目標速度設定部で設定された前記目標速度及び前記実速度取得部で取得された前記実速度に基づいて、前記
船舶の前記速度を制御して当該速度を前記目標速度に追従させるPID制御部と、
を備えることを特徴とする速度制御装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の速度制御装置と、
航行に関する情報を表示する航法装置と、
を備えることを特徴とする自動航行システム。
【請求項8】
船舶の速度を制御により追従させるためにユーザが設定した設定速度に応じて、前記
船舶の前記速度の追従対象である目標速度を単位時間毎に設定することによって、前記目標速度を所定の変化率に基づいて変化させ、
設定された前記目標速度が前記設定速度に近づいたときに、前記変化率を多段階に調整することによって前記変化率を減少させ、
前記目標速度に基づいて、前記
船舶が備えるエンジンのスロットルの開度制御に関するベーススロットル開度を計算し、
前記ベーススロットル開度を制御用スロットル開度として前記エンジンの制御装置に出力し、
前記ベーススロットル開度が予め設定されたスロットル開度下限値を下回った場合に、前記スロットル開度下限値を前記制御用スロットル開度として出力することを特徴とする速度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、ユーザが設定した設定速度に移動体の速度を追従させる自動追従制御を行う速度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、設定された目標船速及び実際の船速に基づいて、エンジンの回転速度を制御する船舶の操船制御システムが知られている。特許文献1は、この種の船舶の操船制御システムを開示する。
【0003】
特許文献1の操船制御システムは、目標船速と基本エンジン回転数とを関連付けたマップから取得した基本エンジン回転数を、目標船速と実際の船速との差に応じて補正し、補正されたエンジン回転数を目標エンジン回転数として設定することで、実際の船速が目標船速に近づくようにエンジンを制御する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の構成は、船速を目標船速に追従させるために、予め設定された目標船速と基本エンジン回転数とを関連付けたマップを用いる必要があって、コンピュータの資源を圧迫する。また、特許文献1の構成は、予め定められたマップを用いるため、船速を目標船速に追従させる過程での加減速を容易に調整できないという点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、設定速度に良好な応答性及び追従性を有し、加減速フィーリングを好みに応じて調整することができる速度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の速度制御装置が提供される。即ち、この速度制御装置は、移動体の速度を制御して、ユーザが設定した設定速度に自動的に追従させる。この速度制御装置は、目標速度設定部と、変化率調整部と、を備える。前記目標速度設定部は、前記設定速度に応じて、前記移動体の前記速度の追従対象である目標速度を単位時間毎に設定することによって、前記目標速度を所定の変化率に基づいて変化させる。前記変化率調整部は、前記目標速度設定部で設定された前記目標速度が前記設定速度に近づいたときに、前記変化率を多段階に調整することによって前記変化率を減少させる。
【0009】
これにより、予め設定された速度制御マップ等のデータを要せずに、複数の変化率を有する速度の多段階変化を実現することができる。また、移動体の速度を追従させる目標である目標速度の変化率を、目標速度が設定速度に近づいたときに減少させることで、オーバーシュートの発生を低減することができる。
【0010】
前記の速度制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記目標速度の前記変化率は、予め設定された速度変化パラメータに基づいて取得される。前記速度変化パラメータは、前記単位時間と、前記単位時間毎の前記目標速度の基準変化量と、を含む。
【0011】
これにより、ユーザが速度変化パラメータを設定することで、移動体の速度の変化率(即ち、加速度/減速度)を好みに合わせて容易に変更することができる。
【0012】
前記の速度制御装置においては、前記変化率調整部は、前記基準変化量の設定に基づいて、前記変化率を異なる2つの値に調整することが好ましい。
【0013】
これにより、目標速度の変化率を容易に2段階に変化させることができる。また、2段階にすることで、設定速度への追従に関するアルゴリズムをシンプルに構成することができる。
【0014】
前記の速度制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記変化率調整部は、予め設定された速度変化パラメータに基づいて、第1変化率と、前記第1変化率より小さい第2変化率と、前記第1変化率から前記第2変化率に切り替える切替速度と、を設定する。前記変化率調整部は、前記設定速度が前記移動体の前記速度より大きいとき、前記目標速度設定部で設定された前記目標速度が前記切替速度以下である場合、前記第1変化率を前記目標速度設定部に出力し、前記目標速度が前記切替速度より大きい場合、前記第2変化率を前記目標速度設定部に出力する。前記設定速度が前記移動体の前記速度より小さいとき、前記目標速度設定部で設定された前記目標速度が前記切替速度以上である場合、前記第1変化率を前記目標速度設定部に出力し、前記目標速度が前記切替速度より小さい場合、前記第2変化率を前記目標速度設定部に出力する。
【0015】
これにより、それぞれの変化率が適用される目標速度の変化範囲を設定することができる。この結果、様々な加速/減速フィーリングを実現することができる。
【0016】
前記の速度制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この速度制御装置は、ベーススロットル開度計算部と、スロットル開度出力部と、を備える。前記ベーススロットル開度計算部は、前記目標速度設定部で設定された前記目標速度に基づいて、前記移動体が備えるエンジンのスロットルの開度制御に関するベーススロットル開度を計算する。前記スロットル開度出力部は、前記ベーススロットル開度計算部で計算された前記ベーススロットル開度を制御用スロットル開度として前記エンジンの制御装置に出力する。
【0017】
これにより、エンジンのスロットル開度を制御することで、移動体の速度を制御することができる。
【0018】
前記の速度制御装置において、前記スロットル開度出力部は、前記ベーススロットル開度計算部で計算された前記ベーススロットル開度が予め設定されたスロットル開度下限値を下回った場合に、前記スロットル開度下限値を前記制御用スロットル開度として前記エンジンの制御装置に出力することが好ましい。
【0019】
これにより、スロットルの不感帯を考慮した制御を行うことができ、速度の設定による速度の変化をユーザに素早く感じさせることができ、乗り心地を向上することができる。
【0020】
前記の速度制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この速度制御装置は、実速度取得部と、記憶部と、旋回時速度制御部と、を備える。前記実速度取得部は、前記移動体の現在の速度である実速度を取得する。前記記憶部は、前記設定速度を旋回開始時速度として記憶する。前記旋回時速度制御部は、前記移動体の旋回時における設定速度である旋回用設定速度を出力する。前記移動体が旋回しているとき、前記旋回時速度制御部は、前記移動体の旋回開始時からの旋回角度が所定角度範囲内である場合、前記実速度取得部で取得された前記実速度を前記設定速度とする。
【0021】
これにより、旋回時における加減速制御を停止させることができ、自然で安定した旋回を確保することができる。
【0022】
前記の速度制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この速度制御装置は、実速度取得部と、PID制御部と、を備える。前記実速度取得部は、前記移動体の現在の速度である実速度を取得する。前記PID制御部は、前記目標速度設定部で設定された前記目標速度及び前記実速度取得部で取得された前記実速度に基づいて、前記移動体の前記速度を制御して当該速度を前記目標速度に追従させる。
【0023】
これにより、目標速度への良好な応答性及び追従性を容易に実現することができる。
【0024】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の自動航行システムが提供される。即ち、この自動航行システムは、前記速度制御装置と、航法装置と、を備える。前記航法装置は、航行に関する情報を表示する。
【0025】
これにより、設定された設定速度への応答性及び追従性が良く、乗り心地を向上できる自動航行システムを提供することができる。
【0026】
本発明の第3の観点によれば、以下の速度制御方法が提供される。即ち、移動体の速度を制御により追従させるためにユーザが設定した設定速度に応じて、前記移動体の前記速度の追従対象である目標速度を単位時間毎に設定することによって、前記目標速度を所定の変化率に基づいて変化させる。設定された前記目標速度が前記設定速度に近づいたときに、前記変化率を多段階に調整することによって前記変化率を減少させる。
【0027】
これにより、予め設定された速度制御マップ等のデータを要せずに、複数の変化率を有する速度の多段階変化を実現することができる。また、移動体の速度を追従させる目標である目標速度の変化率を、目標速度が設定速度に近づいたときに減少させることで、オーバーシュートの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自動航行システムの簡略な構成を示すブロック図。
【
図2】速度自動制御装置における速度制御アルゴリズムを示す簡略なブロック図。
【
図4】(a)異なる単位時間T
0における目標速度V
Tの変化を示す図。(b)異なる単位変化量Δv
Uにおける目標速度V
Tの変化を示す図。
【
図6】異なる係数bにおける目標速度V
Tの変化を示す図。
【
図7】目標速度に実速度を追従させるための出力速度を示す図。
【
図8】スロットル開度と実速度との関係を示す概念図。
【
図9】速度自動制御装置を用いる実験データの一例を示す図。
【
図11】旋回時における旋回用設定速度の適用範囲である所定旋回範囲の例を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る自動航行システム100の簡略な構成を示すブロック図である。
【0030】
本実施形態の自動航行システム100は、図略の船舶(移動体)に搭載され、予め設定された航行ルート/針路に従って当該船舶を自動で航行させる。自動航行システム100は、
図1に示すように、GNSS受信機1と、方位センサ2と、レーダ装置3と、航法装置4と、自動操舵装置5と、速度自動制御装置(速度制御装置)6と、を備える。これらの装置は、例えばCANバス10に接続され、相互通信可能となっている。CANとは、Controller Area Networkの略である。
【0031】
GNSS受信機1は、図略のGNSSアンテナを用いて複数の衛星からの測位信号を受信し、受信した測位信号に基づいて自船の位置や航行速度等の情報を検出する。GNSS受信機1は、検出した情報を航法装置4及び自動操舵装置5に出力する。当該GNSSとしては、例えば、GPS、GLONASS、Galileo、北斗、QZSS、Gagan等、それぞれの国や地域で構築された衛星測位システムを挙げることができる。
【0032】
方位センサ2は、自船に固定された複数のGNSSアンテナを備えるサテライトコンパスとして構成されており、それぞれのGNSSアンテナにて検出した自船の位置の相対的な関係から自船の船首方位を測定する。方位センサ2は、測定した船首方位を航法装置4、自動操舵装置5、及び速度自動制御装置6等に出力する。なお、方位センサ2は、上記の構成に限定されず、例えば磁気方位センサやジャイロコンパス等を用いることができる。
【0033】
レーダ装置3は、図略のレーダアンテナを介して電波を送受信することにより、自船周囲の物標の様子及び位置を示すレーダ映像を生成する。レーダ装置3は、生成したレーダ映像を航法装置4に出力する。
【0034】
航法装置4は、船舶が備える運転部(例えば操舵席)に設置されている。操船者(ユーザ)は、当該航法装置4を操作することにより、自船の航行に関する行き先や速度(設定速度VS)等の情報を指示することができる。航法装置4は、操船者が設定した情報に基づいて、航行ルート/針路を生成する。航法装置4は、電子海図に重畳する形で、自船の位置、設定された航行ルート/針路、及び自船の航跡等を表示することができる。
【0035】
自動操舵装置5は、船舶の舵50の舵角を検出する舵角センサ51、舵50を駆動するための油圧ポンプ52、及び当該油圧ポンプ52の動作を制御する舵角制御部53等を備えて構成されている。自動操舵装置5は、GNSS受信機1及び方位センサ2から入力された自船位置及び船首方位等の情報に基づいて、油圧ポンプ52の動作を制御することで、航法装置4により設定された航行ルート/針路に従って自船を航行させるように、舵の操作を自動的に行うことができる。
【0036】
速度自動制御装置6は、自船の航行速度を操船者が設定した設定速度に追従させるように、当該航行速度を自動的に制御する。速度自動制御装置6は、船舶の動力源であるエンジン9の吸気量に関するスロットル開度に対する指示を、エンジン9の制御装置であるECU(Engine Control Unit)90に出力することによって、エンジン9の出力を制御し、船舶の航行速度を制御する。
【0037】
ところで、ECU90は、例えば、エンジン9の吸気量を調整するスロットル92を駆動するアクチュエータ91を制御することによって、スロットル92の開度を調整する。
【0038】
速度自動制御装置6は、実速度取得部61と、記憶部62と、目標速度設定部63と、変化率設定部(変化率調整部)64と、PID制御部65と、ベース開度計算部(ベーススロットル開度計算部)66と、開度制限処理部(スロットル開度出力部)67と、旋回時速度制御部68と、を備え、
図2に示すアルゴリズムによって、自船の航行速度を、操船者により設定された設定速度V
Sに追従させる。
【0039】
図2を参照して説明すると、速度自動制御装置6は、操船者が設定した設定速度V
Sに対して、後述の速度レート処理によって、当該設定速度V
Sに追従するように目標速度V
Tを設定し、PID制御部65に出力する。速度自動制御装置6は、PID制御部65を用いて、設定された目標速度V
Tに自船の航行速度を追従させるように、航行速度に対するPID制御を行う。
【0040】
これにより、設定速度VSと自船の現在の航行速度である実速度Vとの速度差ΔVの大きさにかかわらず、目標速度VTを徐々に変化させるとともに、目標速度VTに自船の航行速度を好適に自動追従させることができる。即ち、本実施形態の速度自動制御装置6は、設定速度VSと実速度Vとの速度差ΔVが大きいとき、単に設定速度VSに航行速度を追従させる場合における自船の急加速/急減速を回避することができるとともに、良好な応答性及び追従性を実現することができる。
【0041】
速度自動制御装置6は、公知のコンピュータ(図略)を備える。当該コンピュータは図略のCPU、ROM、RAM、入出力部等を備える。ROMには、各種プログラムやデータ等が記憶されている。CPUは、各種プログラム等をROMから読み出して実行することができる。速度自動制御装置6は、上記のハードウェアとソフトウェアの協働によって、上記のコンピュータを、記憶部62、目標速度設定部63、変化率設定部64、PID制御部65、ベース開度計算部66、開度制限処理部67、及び旋回時速度制御部68として動作させることができる。
【0042】
実速度取得部61は、自船の実速度Vを検出する。なお、当該実速度は、地球を基準とする対地速度である。実速度取得部61は、例えば、GNSS受信機1で得られた位置の変化を計算することによって、自船の実速度(対地速度)を取得する。
【0043】
記憶部62は、船舶の航行速度の制御に関する様々なデータを記憶する。このデータは、例えば、予め設定された計算用パラメータや、操船者により設定された速度変化パラメータ等の制御用パラメータ等を挙げることができる。
【0044】
目標速度設定部63は、操船者が航法装置4等を介して設定した設定速度VSに達するまで自船の航行速度が徐々に変化するように、単位時間T0毎に目標速度VTを設定する。即ち、目標速度設定部63は、単位時間T0毎に目標速度VTを設定することによって、目標速度VTを所定の変化率に基づいて変化させる。言い換えれば、目標速度設定部63は、設定速度VSと自船の実速度Vとの速度差ΔVの大きさにかかわらず、予め設定された単位時間T0毎に、設定する目標速度VTを単位変化量ΔvUずつ変化させるように構成されている。
【0045】
具体的には、目標速度設定部63は、自船の航行速度が短時間で急激に変化することを回避することを目的として、
図3に示す速度レート処理を行う。
図3の速度レート処理ではステップS101~ステップS109の処理がループするが、1回のループは所定の単位時間T
0毎に行われる。
【0046】
以下の説明においては、前回の設定速度VSと今回の設定速度VSとを区別するために、今回入力された設定速度VSには(n)の添え字を付して設定速度VS(n)とし、前のループ回で入力された設定速度VSには(n-1)の添え字を付して前回設定速度VS(n-1)と呼ぶことがある。nは、1回ループする毎に1増加する整数である。
【0047】
図3に示す速度レート処理が開始されると、目標速度設定部63は、自船の現在の目標速度V
T(n)が今回入力された設定速度V
S(n)と等しいか否かを判定する(ステップS101)。現在の目標速度V
T(n)が設定速度V
S(n)と等しい場合は、目標速度V
T(n)を変更する必要がないので、ステップS101に戻る。ステップS101での判定の結果、現在の目標速度V
T(n)が設定速度V
S(n)と等しくない場合、ステップS102に進む。
【0048】
ステップS102において、目標速度設定部63は、前回設定速度VS(n-1)が設定速度VS(n)と等しいか否かを判定する。前回設定速度VS(n-1)が設定速度VS(n)と等しくない場合、目標速度設定部63は、自船の現在の目標速度VT(n)を定める基準の速度として、自船の実速度Vを設定する(ステップS103)。ステップS102での判定の結果、前記設定速度VS(n-1)が設定速度VS(n)と等しい場合、ステップS103の処理はスキップされる。
【0049】
その後、目標速度設定部63は、設定速度VS(n)と目標速度VT(n)との速度差ΔVを求める(ステップS104)。設定速度VS(n)が目標速度VT(n)より大きい場合、速度差ΔVは正の値となり、設定速度VS(n)が目標速度VT(n)より小さい場合、速度差ΔVは負の値となる。
【0050】
ステップS104の処理を実行した後、目標速度設定部63は、求められた速度差ΔVと、後述の変化率設定部64から出力された単位変化量ΔvUと、を比較する(ステップS105)。この単位変化量ΔvUは、常に正の値となる。
【0051】
ステップS105での比較の結果、速度差ΔVが単位変化量ΔvUより大きい場合、設定速度は目標速度よりも正側(加速側)に大きく乖離していることを意味する。従って、この場合、目標速度設定部63は、現在の目標速度VT(n)に単位変化量ΔvUを加えた値を次のループ回の目標速度VT(n+1)として設定する(ステップS106)。
【0052】
その後、目標速度設定部63は、設定速度VSの変化を上述のステップS102で判定できるようにするために、今回の設定速度VS(n)を前回設定速度VS(n-1)として設定し(ステップS107)、ステップS101に戻る。
【0053】
ステップS105での比較の結果、速度差ΔVが単位変化量ΔvU以下である場合、目標速度設定部63は、速度差ΔVと、単位変化量ΔvUの-1倍と、を比較する(ステップS108)。この比較の結果、速度差ΔVが単位変化量ΔvUの-1倍より小さい場合、設定速度は目標速度よりも負側(減速側)に大きく乖離していることを意味する。従って、この場合、目標速度設定部63は、自船の現在の目標速度VT(n)から単位変化量ΔvUを減じた値を次のループ回の目標速度VT(n+1)として設定し(ステップS109)、ステップS107に進む。
【0054】
一方、上記の比較の結果、速度差ΔVが単位変化量ΔvUの-1倍以上である場合、設定速度と目標速度との乖離が小さいことを意味する。従って、目標速度設定部63は、設定速度VS(n)を次のループ回の目標速度VT(n+1)として設定し(ステップS110)、ステップS107に進む。
【0055】
このような速度レート処理を目標速度設定部63が行うことにより、航行速度の追従対象である目標速度VTは、単位時間毎に段階的に増加/減少するように更新される。従って、自船の航行速度が徐々に変化することとなり、短時間での急加速/急減速を回避することができる。
【0056】
ところで、目標速度設定部63が上記の速度レート処理で用いる単位時間T0に関する係数a、及び単位変化量ΔvUに関する基準単位変化量ΔvSは、例えば操船者の操作によって設定される。上記の係数aは、整数であることが好ましい。
【0057】
具体的には、操船者が航法装置4等を介して、
図3に示す速度レート処理周期の係数aを設定することができる。この場合、目標速度の更新の周期である単位時間T
0は、例えば、当該係数aに所定時間(本実施形態では100msであるが、これに限定されない)を乗じた値となる。
図4(a)に示すように目標速度V
Tはステップ状に変化するが、係数aを大きく設定することで、目標速度設定部63の処理周期(単位時間T
0)が大きくなり、目標速度V
Tの変化が緩やかになる。
【0058】
また、操船者は航法装置4等を操作して、基準単位変化量(基準変化量)Δv
Sを設定することができる。当該基準単位変化量Δv
Sは、後述の変化率設定部64により調整され、単位変化量Δv
Uとして目標速度設定部63に出力される。即ち、操船者は基準単位変化量Δv
Sを設定することで、単位変化量Δv
Uを大きくすることによって、
図4(b)に示すように、目標速度V
Tを相対的に急激に変化させることができる。
【0059】
このように、例えば操船者が単位時間T0に関する係数a及び単位変化量ΔvUに関する基準単位変化量ΔvS等の速度変化パラメータを設定することで、設定速度VSに対する目標速度VT(即ち自船の航行速度)の変化率を好みに応じて調整することができ、好みの加減速フィーリングを調整することができる。
【0060】
なお、上記の速度変化パラメータを速度設定のたびに設定する必要はなく、1回設定すると、設定した当該速度変化パラメータが記憶部62により記憶される。その後の目標速度VTの設定は、記憶部62で記憶された速度変化パラメータを用いて行われる。記憶部62で記憶された速度変化パラメータは、再設定の操作によって更新可能である。
【0061】
変化率設定部64は、所定の条件が成立した場合、操船者が設定した目標速度VTの基準単位変化量ΔvSを用いて、目標速度VTの変化率(単位変化量ΔvU)を調整する。当該所定の条件は、目標速度設定部63で設定された目標速度VTが、設定された係数b(ただし、0<b<1)を用いて求められた切替速度VBより大きいことである。なお、当該切替速度VBとは、単位変化量ΔvUを小さく調整するように切り替える基準を示す速度である。
【0062】
具体的に説明すると、変化率設定部64は、
図5に示す変化率調整処理を行う。この変化率調整処理は、
図3の速度レート処理とは独立して、同時並行的に行われる。また、
図5の変化率調整処理ではステップS201~ステップS209の処理がループするが、1回のループは、上述の速度レート処理で説明した単位時間T
0と同一周期Hms(即ち、このHは、係数aに100を乗じた値である)で行われる。しかし、これに限定されず、この変化率調整処理は、例えば単位時間T
0よりも十分に短い周期で行われても良い。
【0063】
図5に示す変化率調整処理が開始すると、変化率設定部64は、前のループ回で入力された前回設定速度V
S(n-1)が今回入力された設定速度V
S(n)と等しいか否かを判定する(ステップS201)。
【0064】
ステップS201での判定の結果、前回設定速度VS(n-1)が設定速度VS(n)と等しくない場合(例えば、操船者が新たな速度を設定した場合)、変化率設定部64は、設定速度VS(n)と前回設定速度VS(n-1)との差である設定速度差VDを求めるとともに、切替速度VBを、1から上記の係数bを減じた値を設定速度差VDに乗じて前回設定速度VS(n-1)に加えた値として求める(ステップS202)。設定速度VS(n)が前回設定速度VS(n-1)より大きい場合、設定速度差VDは正の値となり、設定速度VS(n)が前回設定速度VS(n-1)より小さい場合、設定速度差VDは負の値となる。ステップS201での判定の結果、前回設定速度VS(n-1)が設定速度VS(n)と等しい場合、ステップS202の処理はスキップされる。
【0065】
その後、変化率設定部64は、求められた設定速度差VDと0とを比較する(ステップS203)。
【0066】
ステップS203での比較の結果、設定速度差VDが0以上である場合(即ち、加速する場合)、変化率設定部64は、目標速度設定部63で設定された目標速度VTと切替速度VBとを比較する(ステップS204)。
【0067】
ステップS204での比較の結果、目標速度VTが切替速度VB以下である場合、変化率設定部64は、目標速度設定部63で用いる単位変化量ΔvUとして、操船者が設定した基準単位変化量ΔvSをそのまま出力する(ΔvU=ΔvS、ステップS205)。その後、変化率設定部64は、設定速度VSの変化を上述のステップS201で判定できるようにするために、上記の設定速度VS(n)を前回設定速度VS(n-1)として設定し(ステップS206)、ステップS201に戻る。
【0068】
一方、ステップS204での比較の結果、目標速度VTが切替速度VBより大きい場合、変化率設定部64は、目標速度設定部63で用いる単位変化量ΔvUとして、操船者が設定した基準単位変化量ΔvSを2で除した値を出力する(ΔvU=ΔvS/2、ステップS207)。その後、処理はステップS206に進む。
【0069】
ステップS203での比較の結果、設定速度差VDが0より小さい場合(即ち、減速する場合)、変化率設定部64は、目標速度設定部63で設定された目標速度VTと切替速度VBとを比較する(ステップS208)。
【0070】
ステップS208での比較の結果、目標速度VTが切替速度VB以上である場合、上記のステップS205に進む。目標速度VTが切替速度VBより小さい場合、変化率設定部64は、目標速度設定部63で用いる単位変化量ΔvUとして、操船者が設定した基準単位変化量ΔvSを2で除した値を出力する(ΔvU=ΔvS/2、ステップS209)。その後、処理はステップS206に進む。
【0071】
このような変化率調整処理を変化率設定部64が実行することによって、
図6に示すように、目標速度設定部63は、異なる段階において、変化率設定部64から出力された異なる2つの単位変化量(Δv
SとΔv
S/2)のそれぞれを用いて、目標速度V
Tを設定している。
【0072】
即ち、
図6に示すように、目標速度設定部63で設定された目標速度V
Tは、変化率設定部64が出力する単位変化量Δv
U=Δv
Sに基づく第1変化率、及び単位変化量Δv
U=Δv
S/2に基づく第2変化率のうち何れかに従って変化する。
【0073】
言い換えれば、目標速度VTが変化する最初の段階において、目標速度設定部63は比較的に大きい単位変化量ΔvU=ΔvSを用いて目標速度VTを更新する。一方、目標速度VTがある程度設定速度VSに接近した段階において、目標速度設定部63は、比較的に小さい単位変化量ΔvU=ΔvS/2を用いて目標速度VTを更新する。
【0074】
これにより、目標速度VTが変化した当初は、相対的に大きい単位変化量ΔvU=ΔvSずつ変化することによって、設定速度VSへの追従性(即ち応答性)を向上することができる。一方で、目標速度VTがある程度設定速度VSに近づいた後に、当該目標速度VTの単位変化量を小さくすることで(ΔvU=ΔvS/2)、オーバーシュートを軽減することができる。また、目標速度VTの変化率を単純に2段階に変化させるので、アルゴリズムをシンプルに構成することができる。
【0075】
ところで、上記変化率調整処理における切替速度VBを求めるための係数bは、操船者が航法装置4等を介して好みに応じて任意に設定することができる。操船者が設定した当該係数bは記憶部62により記憶される。変化率設定部64は、記憶部62で記憶された係数bを用いて切替速度VBを求める。なお、操船者が係数bを再設定することによって、記憶部62で記憶された当該係数bを更新することができる。
【0076】
図6の2つのグラフに示すように、係数bの値に応じて、各単位変化量Δv
Uに基づく目標速度V
Tの変化範囲S0,S1のそれぞれが調整される。具体的には、係数bを大きくすることによって、比較的に大きい単位変化量Δv
U=Δv
Sが適用される目標速度V
Tの範囲S0が小さくなり、一方、比較的に小さい単位変化量Δv
U=Δv
S/2が適用される目標速度V
Tの範囲S1が大きくなる。
【0077】
即ち、係数bを大きくすることで、目標速度VTの変化を全体的に見て緩やかにすることができる。このように、当該係数bを調整することによっても、異なる加減速フィーリングを調整することができる。
【0078】
図1のPID制御部65は、
図2及び
図7に示すように、自船の航行速度を目標速度設定部63で設定された目標速度V
Tに追従させるように、当該目標速度V
Tと自船の実速度Vとの偏差を入力し、操作量である出力速度V
nを公知の式に従って求める。
【0079】
ベース開度計算部66は、PID制御部65で求められた出力速度Vnを、スロットルの開度制御に関する制御量であるベーススロットル開度Un0に変換する。具体的には、ベース開度計算部66は、予め設定された定数Cvを出力速度Vnに乗じることで、当該出力速度Vnに対応するベーススロットル開度Un0を求める。
【0080】
開度制限処理部67は、予め設定された最大スロットル開度Umax及び最小スロットル開度(スロットル開度下限値)Uminを用いて、ベース開度計算部66で求められたベーススロットル開度Un0に対して制限処理を行う。
【0081】
具体的には、ベース開度計算部66で求められたベーススロットル開度Un0が最小スロットル開度より小さい場合、開度制限処理部67は、この最小スロットル開度Uminを制御用スロットル開度Unとしてエンジン9のECU90へ出力する。
【0082】
ベース開度計算部66で求められたベーススロットル開度Un0が最小スロットル開度Umin以上であって、最大スロットル開度Umax以下である場合、開度制限処理部67は、ベース開度計算部66で求められたベーススロットル開度Un0を制御用スロットル開度Unとしてエンジン9のECU90へ出力する。
【0083】
ベース開度計算部66で求められたベーススロットル開度Un0が最大スロットル開度Umaxより大きい場合、開度制限処理部67は、この最大スロットル開度Umaxを制御用スロットル開度Unとしてエンジン9のECU90へ出力する。
【0084】
エンジン9のECU90は、開度制限処理部67で制限処理を行って出力された制御用スロットル開度Unに応じて、アクチュエータ91を動作させて、スロットル92の開度を変化させる。
【0085】
このように、スロットル92の開度を調整することで、エンジン9の吸気量が変化し、エンジン9の出力が調整される。即ち、船舶の実速度が調整される。
【0086】
ところで、上記最大スロットル開度U
maxは、例えば、エンジン9のECU90の仕様上与えることができる最大スロットル開度とすることができる。上記最小スロットル開度U
minは、例えば、
図8に示す不感帯を考慮した値に設定することが好ましい。即ち、当該最小スロットル開度U
minは、スロットル開度の変化に応じて船舶の実速度Vが変化し始めるスロットル開度とすることが好ましい。なお、上記不感帯とは、スロットル92の開度指令値の変化によっても実速度Vが変化しない部分であり、例えば機械的な遊びを原因とするものである。
【0087】
上記のように、ベース開度計算部66はベーススロットル開度Un0に対して制限処理を行うことによって、スロットルの開度が所定値より小さい場合における実速度Vの不感帯をカバーすることができ、操船者に実速度Vの変化を素早く感じさせることができるので、きびきびした乗り心地を実現することができる。
【0088】
本実施形態の速度自動制御装置6は、上記のように、操船者により設定された設定速度V
Sに応じて、段階的に増加する目標速度V
TをPID制御部65に与える。
図9には、実際の船舶に速度自動制御装置6を適用して実験を行った結果が示されている。
図9に示すように、本実施形態の速度自動制御装置6を備えた船舶は、設定速度V
Sの変化に対する良好な応答性と、過剰な急加速/急減速の防止と、をバランス良く実現することができる。
【0089】
旋回時速度制御部68は、自船が旋回するときにおける速度の制御に用いられ、旋回状態判定部69を備える。旋回状態判定部69は、例えば、方位センサ2から検出された船首方向の変化の大きさが所定の閾値以上であるか否かに基づいて、自船が旋回しているか否かを判定する。なお、船首方位の変化の大きさは、例えば、船首方位角の微分、又は、現在船首方位角と所定時間前の船首方位角との差の計算により、得ることができる。
【0090】
具体的に、旋回時速度制御部68は、
図10に示す旋回時速度制御処理を行う。この旋回時速度制御処理は、
図3の速度レート処理とは独立して、同時並行的に行われる。また、
図10に示す処理において、ステップS301、ステップS304、ステップS306、及び、ステップS308の判断は、上述の速度レート処理で説明した単位時間T
0よりも十分に短い周期で行われる。
【0091】
図10に示す旋回時速度制御処理が開始されると、旋回時速度制御部68は、旋回状態判定部69を用いて、自船が旋回しているか否かを判定する(ステップS301)。旋回していない場合、ステップS301に戻る。
【0092】
ステップS301での判定の結果、自船が旋回している場合、旋回時速度制御部68は、現在の設定速度VSを旋回開始時速度VSTとして記憶し、操船者により設定された設定方位と現在の船首方位との方位差を求める(ステップS302)。ここでいう方位差は絶対値であり、船舶が左右何れに旋回する場合でも正の値である。
【0093】
その後、旋回時速度制御部68は、求められた方位差と、所定の角度θとを比較する(ステップS303)。角度の閾値θは、ある程度小さな角度に設定される。当該方位差がθ以下である場合、緩旋回であり、旋回時の船舶の減速が小さいことを意味する。従って、旋回時速度制御部68は、後述するステップS305~ステップS309の処理をスキップし、旋回状態判定部69により旋回終了と判定できるまで待機する(ステップS304)。ステップS304で自船の旋回が終了したことを判定した場合、ステップS301に戻る。
【0094】
ステップS303での比較の結果、求められた方位差がθより大きい場合、旋回時速度制御部68は、減速保存方位及び速度再設定方位を求める(ステップS305)。減速保存方位は、例えば、
図11に示すように、方位センサ2から検出された船首方位に、求められた方位差γに予め設定された係数d(ただし、0<d<1)を乗じた値を加えることによって求めることができる。速度再設定方位は、例えば、1から係数dを減じた値を方位差に乗じ、得られた値を船首方位に加えることによって求めることができる。
【0095】
その後、旋回時速度制御部68は、自船の船首方位と求められた減速保存方位とを比較する(ステップS306)。船首方位が減速保存方位以上である場合(即ち、自船が旋回を開始してからの旋回角度が、方位差に係数dを乗じた値の角度に達した場合)、旋回時速度制御部68は、そのときに検出された自船の実速度Vを設定速度VSとして出力する(ステップS307)。このときの設定速度VSが、旋回用設定速度に相当する。この時点では旋回が一部行われた後であるので、ステップS307で検出される実速度Vは、水の抵抗により一定程度減速された後の速度となっている。目標速度設定部63は、旋回時速度制御部68で出力された設定速度VSを用いて、速度レート処理を行う。
【0096】
ステップS306での比較の結果、船首方位が減速保存方位より小さい場合、旋回時速度制御部68は、船首方位が減速保存方位に達するのを待つ。
【0097】
ステップS307の処理を行った後、旋回時速度制御部68は、船首方位が速度再設定方位に達するのを待つ(ステップS308)。この間、目標速度設定部63が行う速度レート処理において、設定速度VSが実速度Vに等しくなっている。従って、目標速度VTも実速度Vに等しくなり、速度は実質的に変化しない。
【0098】
船首方位が速度再設定方位に達した場合(即ち、減速保存方位から自船が
図11に示す所定角度範囲を旋回した場合)、旋回時速度制御部68は、ステップS302で記憶した旋回開始時速度V
STを設定速度V
Sとして出力する(ステップS309)。これにより、目標速度設定部63が行う速度レート処理は、再び、操船者が設定した設定速度V
Sに基づいて行われるようになる。その後、処理はステップS304に進む。
【0099】
旋回時速度制御部68は、上記のように、旋回開始から旋回終了までの旋回範囲の中間の一部である所定角度範囲において、実速度Vを設定速度VSとして設定することによって、加速及び減速の制御を実質的に行わせない。これにより、旋回時における不自然な加速、及び、減速のし過ぎの何れも回避することができる。
【0100】
ところで、係数dを適切に設定することによって、目標速度VTを追従させる対象の設定速度VSは、旋回の終了が近づく前の適切なタイミングで元の値に戻ることになる。従って、旋回後の速度の軽快な立ち上がりを実現することができる。
【0101】
以上に説明したように、本実施形態の速度自動制御装置6は、船舶の航行速度を制御して、操船者が設定した設定速度VSに自動的に追従させる。速度自動制御装置6は、目標速度設定部63と、変化率設定部64と、を備える。目標速度設定部63は、設定速度VSに応じて、航行速度の追従対象である目標速度VTを単位時間T0毎に設定することによって、目標速度VTを所定の変化率に基づいて変化させる。変化率設定部64は、目標速度設定部63で設定された目標速度VTが設定速度VSに近づいたときに、変化率を多段階に調整することによって変化率を減少させる。
【0102】
これにより、予め設定された速度制御マップ等のデータを要せずに、複数の変化率を有する速度の多段階変化を実現することができる。また、移動体の速度を追従させる目標である目標速度VTの変化率(単位変化量ΔvUと単位時間T0により定まる変化率)を、目標速度VTが設定速度VSに近づいたときに減少させることで、オーバーシュートの発生を低減することができる。
【0103】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0104】
速度レート処理は、ステップS101での判定の結果、目標速度VTnと設定速度VSnとが等しい場合、処理を終了させても良い。この場合、当該速度レート処理は、例えば、操船者が航法装置4を介して設定速度VSを入力した後に自動開始される。
【0105】
目標速度設定部63の単位時間T0に関する係数aの代わりに、単位時間T0を直接設定しても良い。
【0106】
実速度取得部61で取得する実速度Vは、対地速度の代わりに、対水速度であっても良い。
【0107】
目標速度設定部63で設定された目標速度VTが3つ以上の変化率を有するように、変化率設定部64は、単位変化量ΔvUを3つの値に設定することもできる。
【0108】
変化率設定部64は、2つのうち小さい方の単位変化量ΔvUを求めるとき、基準単位変化量ΔvSを2で除する代わりに、基準単位変化量ΔvSに所定の割合(例えば、H%)を乗じて計算しても良い。この割合(H%)は、予め設定されても良いし、操船者の好みに応じて調整されても良い。
【0109】
変化率設定部64は、操船者が設定した基準単位変化量ΔvSの代わりに、単位時間T0を調整して、目標速度設定部63に出力することによって、目標速度設定部63で設定された目標速度VTの変化率を調整しても良い。この場合、目標速度設定部63は、例えば、操船者が設定した基準単位変化量ΔvSに基づいて、変化率設定部64で出力された単位時間T0毎に目標速度VTを設定する。
【0110】
減速保存方位及び速度再設定方位を1つの係数dで決定することに代えて、それぞれ別の係数により決定しても良い。
【0111】
旋回時速度制御部68における旋回時速度制御処理は、例えば、船舶が加速しながら旋回する場合のみで実行されても良い。
【符号の説明】
【0112】
6 速度自動制御装置(速度制御装置)
VS 設定速度
VT 目標速度
63 目標速度設定部
64 変化率設定部(変化率調整部)
【用語】
【0113】
必ずしも全ての目的または効果・利点が、本明細書中に記載される任意の特定の実施形態に則って達成され得るわけではない。従って、例えば当業者であれば、特定の実施形態は、本明細書中で教示または示唆されるような他の目的または効果・利点を必ずしも達成することなく、本明細書中で教示されるような1つまたは複数の効果・利点を達成または最適化するように動作するように構成され得ることを想到するであろう。
【0114】
本明細書中に記載される全ての処理は、1つまたは複数のコンピュータまたはプロセッサを含むコンピューティングシステムによって実行されるソフトウェアコードモジュールにより具現化され、完全に自動化され得る。コードモジュールは、任意のタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体または他のコンピュータ記憶装置に記憶することができる。一部または全ての方法は、専用のコンピュータハードウェアで具現化され得る。
【0115】
本明細書中に記載されるもの以外でも、多くの他の変形例があることは、本開示から明らかである。例えば、実施形態に応じて、本明細書中に記載されるアルゴリズムのいずれかの特定の動作、イベント、または機能は、異なるシーケンスで実行することができ、追加、併合、または完全に除外することができる (例えば、記述された全ての行為または事象がアルゴリズムの実行に必要というわけではない)。さらに、特定の実施形態では、動作またはイベントは、例えば、マルチスレッド処理、割り込み処理、または複数のプロセッサまたはプロセッサコアを介して、または他の並列アーキテクチャ上で、逐次ではなく、並列に実行することができる。さらに、異なるタスクまたはプロセスは、一緒に機能し得る異なるマシンおよび/またはコンピューティングシステムによっても実行され得る。
【0116】
本明細書中に開示された実施形態に関連して説明された様々な例示的論理ブロックおよびモジュールは、プロセッサなどのマシンによって実施または実行することができる。プロセッサは、マイクロプロセッサであってもよいが、代替的に、プロセッサは、コントローラ、マイクロコントローラ、またはステートマシン、またはそれらの組み合わせなどであってもよい。プロセッサは、コンピュータ実行可能命令を処理するように構成された電気回路を含むことができる。別の実施形態では、プロセッサは、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、またはコンピュータ実行可能命令を処理することなく論理演算を実行する他のプログラマブルデバイスを含む。プロセッサはまた、コンピューティングデバイスの組み合わせ、例えば、デジタル信号プロセッサ(デジタル信号処理装置)とマイクロプロセッサの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサ、DSPコアと組み合わせた1つ以上のマイクロプロセッサ、または任意の他のそのような構成として実装することができる。本明細書中では、主にデジタル技術に関して説明するが、プロセッサは、主にアナログ素子を含むこともできる。例えば、本明細書中に記載される信号処理アルゴリズムの一部または全部は、アナログ回路またはアナログとデジタルの混合回路により実装することができる。コンピューティング環境は、マイクロプロセッサ、メインフレームコンピュータ、デジタル信号プロセッサ、ポータブルコンピューティングデバイス、デバイスコントローラ、または装置内の計算エンジンに基づくコンピュータシステムを含むが、これらに限定されない任意のタイプのコンピュータシステムを含むことができる。
【0117】
特に明記しない限り、「できる」「できた」「だろう」または「可能性がある」などの条件付き言語は、特定の実施形態が特定の特徴、要素および/またはステップを含むが、他の実施形態は含まないことを伝達するために一般に使用される文脈内での意味で理解される。従って、このような条件付き言語は、一般に、特徴、要素および/またはステップが1つ以上の実施形態に必要とされる任意の方法であること、または1つ以上の実施形態が、これらの特徴、要素および/またはステップが任意の特定の実施形態に含まれるか、または実行されるかどうかを決定するための論理を必然的に含むことを意味するという訳ではない。
【0118】
語句「X、Y、Zの少なくとも1つ」のような選言的言語は、特に別段の記載がない限り、項目、用語等が X, Y, Z、のいずれか、又はそれらの任意の組み合わせであり得ることを示すために一般的に使用されている文脈で理解される(例: X、Y、Z)。従って、このような選言的言語は、一般的には、特定の実施形態がそれぞれ存在するXの少なくとも1つ、Yの少なくとも1つ、またはZの少なくとも1つ、の各々を必要とすることを意味するものではない。
【0119】
本明細書中に記載されかつ/または添付の図面に示されたフロー図における任意のプロセス記述、要素またはブロックは、プロセスにおける特定の論理機能または要素を実装するための1つ以上の実行可能命令を含む、潜在的にモジュール、セグメント、またはコードの一部を表すものとして理解されるべきである。代替の実施形態は、本明細書中に記載された実施形態の範囲内に含まれ、ここでは、要素または機能は、当業者に理解されるように、関連する機能性に応じて、実質的に同時にまたは逆の順序で、図示または説明されたものから削除、順不同で実行され得る。
【0120】
特に明示されていない限り、「一つ」のような数詞は、一般的に、1つ以上の記述された項目を含むと解釈されるべきである。従って、「~するように設定された一つのデバイス」などの語句は、1つ以上の列挙されたデバイスを含むことを意図している。このような1つまたは複数の列挙されたデバイスは、記載された引用を実行するように集合的に構成することもできる。例えば、「以下のA、BおよびCを実行するように構成されたプロセッサ」は、Aを実行するように構成された第1のプロセッサと、BおよびCを実行するように構成された第2のプロセッサとを含むことができる。加えて、導入された実施例の具体的な数の列挙が明示的に列挙されたとしても、当業者は、このような列挙が典型的には少なくとも列挙された数(例えば、他の修飾語を用いない「2つの列挙と」の単なる列挙は、通常、少なくとも2つの列挙、または2つ以上の列挙を意味する)を意味すると解釈されるべきである。
【0121】
一般に、本明細書中で使用される用語は、一般に、「非限定」用語(例えば、「~を含む」という用語は「それだけでなく、少なくとも~を含む」と解釈すべきであり、「~を持つ」という用語は「少なくとも~を持っている」と解釈すべきであり、「含む」という用語は「以下を含むが、これらに限定されない。」などと解釈すべきである。) を意図していると、当業者には判断される。
【0122】
説明の目的のために、本明細書中で使用される「水平」という用語は、その方向に関係なく、説明されるシステムが使用される領域の床の平面または表面に平行な平面、または説明される方法が実施される平面として定義される。「床」という用語は、「地面」または「水面」という用語と置き換えることができる。「垂直/鉛直」という用語は、定義された水平線に垂直/鉛直な方向を指します。「上側」「下側」「下」「上」「側面」「より高く」「より低く」「上の方に」「~を越えて」「下の」などの用語は水平面に対して定義されている。
【0123】
本明細書中で使用される用語の「付着する」、「接続する」、「対になる」及び他の関連用語は、別段の注記がない限り、取り外し可能、移動可能、固定、調節可能、及び/または、取り外し可能な接続または連結を含むと解釈されるべきである。接続/連結は、直接接続及び/または説明した2つの構成要素間の中間構造を有する接続を含む。
【0124】
特に明示されていない限り、本明細書中で使用される、「およそ」、「約」、および「実質的に」のような用語が先行する数は、列挙された数を含み、また、さらに所望の機能を実行するか、または所望の結果を達成する、記載された量に近い量を表す。例えば、「およそ」、「約」及び「実質的に」とは、特に明示されていない限り、記載された数値の10%未満の値をいう。本明細書中で使用されているように、「およそ」、「約」、および「実質的に」などの用語が先行して開示されている実施形態の特徴は、さらに所望の機能を実行するか、またはその特徴について所望の結果を達成するいくつかの可変性を有する特徴を表す。
【0125】
上述した実施形態には、多くの変形例および修正例を加えることができ、それらの要素は、他の許容可能な例の中にあるものとして理解されるべきである。そのような全ての修正および変形は、本開示の範囲内に含まれることを意図し、以下の特許請求の範囲によって保護される。