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▶ ウニベルシテテット イ トロムソ−ノルゲス アークティスク ウニベルシテットの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】DNAポリメラーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/12 20060101AFI20231006BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20231006BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231006BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20231006BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231006BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231006BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231006BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231006BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
C12N9/12
C12N15/54 ZNA
C12N15/63 Z
C12Q1/686 Z
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C12N5/10
C12N7/01
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020532631
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2018085342
(87)【国際公開番号】W WO2019115834
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】1721053.5
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518338943
【氏名又は名称】ウニベルシテテット イ トロムソ-ノルゲス アークティスク ウニベルシテット
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ラルセン アトレ ノラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ピオトロフスキー イヴォンネ
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-511019(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090684(WO,A1)
【文献】特表2003-507072(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046556(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/162765(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0094211(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00-9/99
C12Q 1/68-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2と少なくとも90%同一である変異体配列を含む、DNAポリメラーゼであって、配列番号2の位置422のアスパラギン酸残基または前記変異体配列において相当するアスパラギン酸残基がアラニンで置換されている、DNAポリメラーゼ。
【請求項2】
前記DNAポリメラーゼが、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2と少なくとも95%同一である変異体配列を含み、配列番号2の位置422のアスパラギン酸残基または前記変異体配列において相当するアスパラギン酸残基がアラニンで置換されている、請求項1に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項3】
前記DNAポリメラーゼが、配列番号2のアミノ酸配列を含み、配列番号2の位置422のアスパラギン酸残基がアラニンで置換されている、請求項1に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項4】
前記DNAポリメラーゼが、配列番号4のアミノ酸配列または配列番号4と少なくとも90%同一である変異体配列を含み、配列番号4の位置719のアスパラギン酸残基または前記変異体配列において相当するアスパラギン酸残基がアラニンで置換されている、請求項1に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項5】
配列番号12のアミノ酸配列、または配列番号12と少なくとも90%同一である変異体配列を含む、DNAポリメラーゼであって、配列番号12の位置422のアスパラギン酸残基または前記変異体配列において相当するアスパラギン酸残基がアラニンで置換されている、DNAポリメラーゼ。
【請求項6】
前記DNAポリメラーゼが、配列番号12のアミノ酸配列、または配列番号12と少なくとも95%同一である変異体配列を含み、配列番号12の位置422のアスパラギン酸残基または前記変異体配列において相当するアスパラギン酸残基がアラニンで置換されている、請求項5に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項7】
前記DNAポリメラーゼが、配列番号12のアミノ酸配列を含み、配列番号12の位置422のアスパラギン酸残基がアラニンで置換されている、請求項5に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項8】
配列番号11のアミノ酸配列を含み、配列番号11の位置422のアスパラギン酸残基がアラニンで置換されている、DNAポリメラーゼ。
【請求項9】
前記DNAポリメラーゼが、配列番号2に対して正確に同じ配列を有するが位置422においてまたは前記変異体配列において相当する位置においてアスパラギン酸を有するDNAポリメラーゼよりも、少なくとも30%高い鎖置換活性を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項10】
20mMから200mMのNaClもしくはKClまたはそれらの混合物の濃度範囲にわたりDNAポリメラーゼがその最大ポリメラーゼ活性の少なくとも40%を示す、請求項1から9のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のDNAポリメラーゼと緩衝液を含む組成物。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載のDNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項13】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号13、14または15と少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
請求項12または13に記載の核酸分子と、前記核酸分子によってコードされるタンパク質配列の転写および翻訳に必要な調節配列とを含む発現ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載の1以上の発現ベクターまたは請求項12または13に記載の1以上の核酸分子を含む宿主細胞またはウイルス。
【請求項16】
請求項1から10のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼを製造する方法であって、以下の工程を含む方法:
(i)コードされたDNAポリメラーゼの発現に適した条件下で、請求項14に記載の組換え発現ベクターの1以上または請求項12または13に記載の核酸分子の1以上を含む宿主細胞を増殖培地で培養すること;および、任意選択で、
(ii)宿主細胞から、または増殖培地または増殖培地に由来する上清からDNAポリメラーゼを単離または取得すること。
【請求項17】
ヌクレオチド重合のための、請求項1から10のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼの使用。
【請求項18】
核酸増幅反応または配列決定反応における、請求項1から10のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼの使用。
【請求項19】
前記DNAポリメラーゼが一定温度で使用される、請求項17または18に記載の使用。
【請求項20】
前記反応が等温核酸増幅反応である、請求項18または19に記載の使用。
【請求項21】
請求項1から10のいずれか1項に記載のDNAポリメラーゼを用いたヌクレオチド重合の方法であって、以下を含む方法:
(i)請求項1から10のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ、鋳型核酸分子、鋳型核酸分子の一部にアニーリング可能なオリゴヌクレオチドプライマー、および1以上のヌクレオチドを含む反応混合物を提供すること;
(ii)オリゴヌクレオチドプライマーが鋳型核酸分子にアニールし、前記DNAポリメラーゼが1以上のヌクレオチドを重合化することによって前記オリゴヌクレオチドプライマーを伸長する条件下で、前記反応混合物をインキュベートすること。
【請求項22】
請求項1から10のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼを用いて核酸を増幅する方法であって、以下を含む方法:
(i) 請求項1から10のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ、鋳型核酸分子、鋳型核酸分子の一部にアニーリング可能なオリゴヌクレオチドプライマー、およびヌクレオチドを含む反応混合物を提供すること;
(ii) オリゴヌクレオチドプライマーが鋳型核酸分子にアニールし、前記DNAポリメラーゼが1以上のヌクレオチドを重合化してポリヌクレオチドを生成することによって前記オリゴヌクレオチドプライマーを伸長する条件下で、前記反応混合物をインキュベートすること。
【請求項23】
前記方法が一定温度で実施される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記一定温度が、0℃から42℃の範囲内で選択される、請求項19に記載の使用または請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記一定温度が、10℃から25℃の範囲内で選択される、請求項24に記載の使用または請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAポリメラーゼに関する。特に、本発明は、鎖置換活性(SDA、strand displacement activity)が増強された修飾DNAポリメラーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物同定のゴールドスタンダードは、依然として培養およびその後の病原体の表現型分化であり、実施および分析にしばしば数日を要するプロセスであり、この遅延は感染症の罹病率および死亡率に大きな影響を及ぼす可能性がある。さらに、多くの生物は培養培地上では増殖できないので、既存の培養法では検出されない。
【0003】
HIV/エイズ、結核、マラリア、コレラなどの重大な感染症を監視し、診断することが世界的ニーズである。エボラ出血熱、鳥インフルエンザ、豚インフルエンザの流行といった潜在的な流行状況では、この課題はさらに重大なものとなる。診断技術の進歩にもかかわらず、感染が疑われる患者の多くは、感染性病原体の迅速な同定によって指示される適切な治療ではなく、経験的な抗菌療法を受ける。その結果、有効な抗菌薬のわずかな在庫が過剰に使われ、抗菌薬耐性発現により、その数が減少し続けている。特定病原体の同定を可能にする新しく、迅速な、現場での分子診断検査が明らかに求められている。
【0004】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は多くの点で分子遺伝学と診断分野に革命をもたらした。PCR技術における働き手は、熱安定性高忠実度DNAポリメラーゼであり、これは、鎖分離、プライマーアニーリングおよび伸長を得るための加熱および冷却の周期的事象と共に、標的DNA配列の増幅を導く。PCR技術は現在、分子診断だけでなく、生物医学や生命科学の研究にも広く用いられている。
【0005】
POC(Point‐of‐care)診断は、病院外での患者地域社会における疾患診断を可能にする医療ツールまたはデバイスと言われている。理想的な診断検査は、手頃な価格(affordable)、高感度(sensitive)、特異的(specific)、利用者本位の(user-friendly)、迅速(rapid)かつ確実(robust)で、装置が必要なく(equipment-free)、必要な人に提供される(delivered to those who need it)「ASSURED」基準を満たすべきである。POC方法は簡便であることが望ましく、POCでは一般的に利用できないため、熱源や安定した電力供給を必要としない。したがって、使用する酵素や試薬は周囲温度で働くべきである。
【0006】
PCR技術には高い可能性があるが、依然として厳しい限界があり、加熱・冷却工程を繰り返すための高精度の電動サーマルサイクル装置の使用と、装置を稼動させるための熟練者が必要である。アニーリング過程における偽プライミングによる非特異的増幅には問題があり、PCRは「粗」試料中の阻害化合物に影響を受けやすい。さらに、PCR装置のかさばる設計により、PCRをPOC技術プラットフォームに組み込むための不完全な解決策となっており、PCRに基づく方法をPOC診断における主要な技術ドライバーとして採用することを困難にする。
【0007】
最近、非PCRに基づく方法、特に等温増幅(IA)法に焦点があてられるようになった。これらの方法では、核酸増幅は一定温度で行われ、高精度の温度サイクルや制御、または高温で安定な酵素の必要がない。等温増幅法は、PCRに匹敵する分析感度および特異性ならびに阻害性化合物に対するより高い耐性を有する一方で、結果が得られるまでの時間が短く、使用が容易であることが報告されている。これらの特徴から、POC分子診断プラットフォームを開発し、「ASSURED」基準を満たすことを目指す人々にとって、等温増幅法は非常に望ましい。
【0008】
核酸(RNAおよびDNAの両方)の等温増幅のために、過去10年間に多数の異なる方法が発表されている(以下のレビュー論文がある:Gill, P. and A. Ghaemi (2008) Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids 27(3): 224-243; Craw, P. and W. Balachandran (2012) Lab Chip 12(14): 2469-2486; de Paz, H. D. et al. (2014) Expert Rev Mol Diagn 14(7): 827-843; Yan, L. et al. (2014) Mol Biosyst 10(5): 970-1003 および新しいものが断続的に開発されている (Liu, W. et al. (2015) Sci Reports 5: 12723)。いくつかの方法では、成功は、反応設定で使用されるDNAポリメラーゼの固有の鎖置換活性(SDA)に依存している。「鎖置換」という用語は、合成中に遭遇する下流DNAをポリメラーゼが置換する能力を表す。
【0009】
「POC」診断に加えて、関心のある他の分野も、DNAポリメラーゼによって力を与えられた等温増幅技術から恩恵を受ける。この点で、全ゲノム増幅(多重置換増幅)は、単一細胞アプローチのようにDNAの量が極めて限られている場合にとりわけ重要である。また、次世代シークエンシングアプローチにおいて、鎖置換ポリメラーゼは、2013年にMa et al. (Ma, Z. et al. Proc Natl Acad Sci U S A 110(35): 14320-14323)によって発表されたPacific Biosciences社の一分子リアルタイム(SMRT) DNA配列技術および次世代シークエンシングのための等温増幅法によって例示されるように重要である。
【0010】
しかし、周囲温度でよく機能するポリメラーゼ酵素の現在のツールボックスは非常に限られている。典型的には、複数の等温法は30~65℃の反応温度を必要とし、これらは主に反応に使用されるポリメラーゼの作用範囲によって決定され、塩による阻害を受けやすい。
【0011】
DNAポリメラーゼのAファミリーに属するサイクロバチルス属の種(Psychrobacillus sp.(PB))由来の低温適応ポリメラーゼが同定されている。この酵素は、周囲温度では高ポリメラーゼ活性を有し、40℃までの高温では依然として良好な安定性を有する。特に興味深いことに、この海洋由来酵素は、25℃で良好な耐塩性および強力な鎖置換活性(SDA)ならびに優れたプロセッシビティも有しており、最新の市販酵素(WO 2017/162765)に匹敵する。
【0012】
多くのIA法ではポリメラーゼのみが必要であり、この方法の有効性はそのポリメラーゼのSDAに大きく依存している。従って、IAで使用されるPBまたは他のポリメラーゼのSDAを増加させるのに役立つ全てのものが非常に望ましい。
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、Aファミリーのある種のポリメラーゼのフィンガードメインにおける単一の点突然変異、特に単一のAsp残基の置換が、SDAの有意な増強につながることを見出した。
【0014】
本発明は、以下の図を参考にして、非限定的な例として説明される:
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に従って修飾され得る多数の種由来のDNAポリメラーゼIのフィンガードメイン内の領域の配列を示す。重要なアスパラギン酸残基は太字で示す。
図2図2は、鎖置換活性アッセイ設定の概要を示す。F=フルオロフォア。Q=消光剤。
図3図3は、PBおよびPB D422A突然変異体ならびにクレノウ断片(KF)を含む様々な市販の酵素についての25℃での鎖置換活性の比較を示す。
図4-1】図4は、種々のNaClおよびKCl濃度における野生型および突然変異体PBポリメラーゼのポリメラーゼ活性(25℃)を示している。
図4-2】図4は、種々のNaClおよびKCl濃度における野生型および突然変異体PBポリメラーゼのポリメラーゼ活性(25℃)を示している。
図5-1】図5は、PB、BstおよびUbtからのDNAポリメラーゼの野生型(切断型)アミノ酸配列の配列アラインメントである。太い矢印はAsp (D)がAla (A)に変異している位置422を示す。アラインメントはClustal X2を使用して作成され、ESPript 3.0 serverを使用して可視化される。
図5-2】図5は、PB、BstおよびUbtからのDNAポリメラーゼの野生型(切断型)アミノ酸配列の配列アラインメントである。太い矢印はAsp (D)がAla (A)に変異している位置422を示す。アラインメントはClustal X2を使用して作成され、ESPript 3.0 serverを使用して可視化される。
図6図6は、10mM KClの存在下、37℃でのバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)(大断片)ポリメラーゼI (Bst)の鎖置換活性に対するD422A突然変異の影響を示す。
図7図7は、ウレイバチルス・サーモスファエリクス(Ureibacillus thermosphaericus) (大断片)ポリメラーゼI (Ubts)の37℃での10mM KClの存在下での鎖置換活性に対するD422A突然変異の影響を示す。
【0016】
従って、第1の態様において、本発明は、DNAポリメラーゼであって、該DNAポリメラーゼが、配列番号1の配列、または配列番号1と少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、78%、80%、82%、85%、88%、90%、92%もしくは95%同一であるが、配列番号1の位置18のアスパラギン酸残基もしくは他の配列における相当するアスパラギン酸残基が、非負電荷アミノ酸残基によって置換されている配列を含むDNAポリメラーゼを提供する。
【0017】
配列番号1は、PBポリメラーゼIのアミノ酸配列の断片であり、切断型(5'-3'-エキソヌクレアーゼドメインを欠く)野生型PB配列のアミノ酸405~436にわたる。フィンガードメイン内のこの領域(405~436)は、DNAポリメラーゼAファミリー(pol Iファミリーとしても知られる)のいくつかの間で高度に保存されている(図1および5参照)。本発明のDNAポリメラーゼは、典型的には、DNAポリメラーゼIまたはA型として分類される。
【0018】
本発明の好ましいDNAポリメラーゼは、配列番号6、7、8、9または10の配列を含むが、各配列の位置18のアスパラギン酸残基が非負荷電(non-negatively charged)アミノ酸残基によって置換されている。
【0019】
いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号1と比較して単一または複数のアミノ酸改変(付加、置換、挿入または欠失)を有するアミノ酸配列を含む。そのような配列は、好ましくは、前述のAsp残基の置換に加えて、8、7または6まで、例えば、1、2、3、4または5のみ、好ましくは1、2または3、より好ましくは1または2までの改変されたアミノ酸を含むことができる。置換は、保存的または非保存的アミノ酸であり得る。好ましくは、前記改変は、保存的アミノ酸置換である。
【0020】
本発明の好ましいポリメラーゼは、修飾されたPBポリメラーゼであり、さらに好ましいポリメラーゼは、種ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)(Bstとして知られる)、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis、枯草菌)(Bsuとして知られる)、バチルス・スミシー(Bacillus smithii)(Bsmとして知られる)およびウレイバチルス・サーモスファエリクス (Ureibacillus thermosphaericus)(Ubtとして知られる)由来の修飾ポリメラーゼである。
【0021】
「DNAポリメラーゼ」という用語は、個々のヌクレオチドからのDNAの5 '→3'合成を触媒する酵素を指し、反応はプライマー伸長と鋳型鎖への塩基対合の標準的なWatson Crick規則に基づく。同様に、「DNAポリメラーゼ活性」は、個々のヌクレオチドからのDNAの5 '→3'合成を触媒する酵素を指し、反応はプライマー伸長と鋳型鎖への塩基対合の標準的なWatson Crick規則に基づく。天然または修飾ポリメラーゼの酵素活性(触媒活性)断片は、「DNAポリメラーゼ」という用語の中に含まれる。 また、ポリメラーゼは、3'→5'エキソヌクレアーゼおよび/または5'→3'エキソヌクレアーゼ活性を有していてもよいが、有していなくてもよい。好ましくは、本発明のDNAポリメラーゼは、5'→3'エキソヌクレアーゼ活性を欠いている。
【0022】
本発明者らは、DNAポリメラーゼAとして知られるファミリー中のいくつかの異なるDNAポリメラーゼにおいて、前述のアスパラギン酸残基の置換がSDAを有意に増加させることを見出した。本発明による修飾の恩恵を受ける酵素は、配列番号1(PB酵素のフィンガードメインの特定の領域)との高い配列同一性、および位置18または他の酵素/配列中の相当する位置のアスパラギン酸残基によって特徴付けられる。配列番号1(または他の配列)以外の「他の配列における等価なアスパラギン酸残基」は、Clustal X2(Larkin, M.A. et al. (2007) Clustal WおよびClustal X version 2.0.Bioinformatics、 23:2947-2948)などの標準的な配列アラインメント技術を使用して簡単に識別できる。
【0023】
当然ながら、配列番号1はそれ自体が完全に機能するDNAポリメラーゼを規定しているわけではない。好ましい実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、PB DNAポリメラーゼIのアミノ酸配列に基づき、野生型サイクロバチルス属(Psychrobacillus)の種のDNAポリメラーゼI配列に存在する5'-3'エキソヌクレアーゼドメインを欠くことが好ましい。好ましい実施形態では、5'-3'エキソヌクレアーゼドメインは、増幅混合物中でプライマーおよび/または生成物を分解し得るので、典型的には好ましくないので、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性がDNAポリメラーゼ酵素には存在しない。この切断された野生型PB配列は、本明細書では配列番号2と呼ばれる。
【0024】
本発明は、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2と少なくとも60%同一であるが、配列番号2の位置422のアスパラギン酸残基、または他の配列における相当するアスパラギン酸残基が非負荷電アミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなるDNAポリメラーゼを提供する。
【0025】
好ましい局面および実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号2と少なくとも70%、または75%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%または95%、例えば、少なくとも98%または99%または99.5%同一であるが、配列番号2の位置422のアスパラギン酸残基、または他の配列中の相当するアスパラギン酸残基が、非負荷電アミノ酸残基によって置換されているアミノ酸配列を含む(またはからなる)。 配列番号1の位置18および配列番号2の位置422は同等であり、配列番号1は配列番号2の位置405から436の断片であることが理解されるであろう。
図5は、PB、BstおよびUbts DNAポリメラーゼのアラインメントを示している。鍵となるAsp残基は、それぞれの場合で位置422にある。
【0026】
さらに好ましい実施形態または局面において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号11または12と少なくとも60%、70%または75%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%または95%、例えば少なくとも98%または99%または99.5%同一であるが、配列番号11または12の位置422のアスパラギン酸残基、または他の配列中の相当するアスパラギン酸残基が、非負荷電アミノ酸残基によって置換されているアミノ酸配列を含む(またはからなる)。番号付けは、図5に従った配列アライメントに基づいている。配列番号 11および12はそれぞれ野生型BstおよびUbtsポリメラーゼ配列の(切断型)変異体である。
【0027】
好ましくは、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号2、11または12のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなるが、配列番号2、11または12の位置422のアスパラギン酸残基、または他の配列における相当するアスパラギン酸残基が、非負荷電アミノ酸残基によって置換されている。
【0028】
一実施形態において、DNAポリメラーゼは、配列番号4のアミノ酸配列(5'3'エキソヌクレアーゼドメインも取り込む)またはその変異体もしくは断片を含む(またはそれからなる)が、配列番号4の位置719のアスパラギン酸残基、または他の配列における相当するアスパラギン酸残基が、非負荷電アミノ酸残基によって置換されている。本明細書中に記載される配列番号2の変異体および断片の種類は、配列番号4の変異体および断片に準用される。例えば、変異体は、配列番号4と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%または90%の配列同一性を有する。
【0029】
本発明のDNAポリメラーゼは、天然ポリメラーゼの酵素活性断片を含む。酵素活性をもつ断片は、DNAポリメラーゼ活性をもつ断片である。酵素活性断片は、少なくとも400、少なくとも450、少なくとも475、少なくとも500、少なくとも525、少なくとも550、少なくとも560、少なくとも570または少なくとも575アミノ酸長であり得る。好ましい断片は、少なくとも525、少なくとも550、少なくとも560、少なくとも570または少なくとも575アミノ酸長である。断片は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%または少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%(例えば、少なくとも98%または99%または99.5%)、または配列番号2、11または12の対応する部分と100%同一であるが、配列番号2、11または12の位置422のアスパラギン酸残基、または他の配列における相当するアスパラギン酸残基が、非負荷電アミノ酸残基によって置換されている。
【0030】
DNAポリメラーゼ活性は、ループ構造を有し、蛍光供与体としてFAMを、8量体ステム内の受容体(非蛍光消光剤)としてDabcylを使用する分子ビーコンを用いて評価することができる。 このステムはプライマーの結合を可能にする3'伸長部分をもち、DNAポリメラーゼの鋳型として働く。伸長が進むとステムはDNAポリメラーゼによって開かれる。2つの標識の次の分離は、FAM発光の回復によって記録される。このタイプの適切なアッセイを実施例に記載する。
【0031】
本発明のDNAポリメラーゼは、良好な鎖置換活性を有する。これは重要な性質である。多くの等温増幅法において成功は、反応設定で使用されるDNAポリメラーゼの固有の鎖置換活性に依存しているからである。「鎖置換」という用語は、合成中に遭遇する下流DNAをポリメラーゼが置換する能力を表す。
【0032】
DNAポリメラーゼの鎖置換活性を評価するための適切なアッセイは当業者に知られており、当業者は適切なアッセイを容易に選択することができる。例示的な鎖置換活性アッセイにおいて、その3'末端にフルオロフォア(例えばTAMRA)で標識された「コールド」プライマーおよびレポーター鎖は、その5'末端に消光剤(例えばBHQ2)を有する鋳型鎖にアニールされ(フルオロフォアは、したがって、消光剤の近接によって消光される)、その結果、アニールされた「コールド」プライマーの3'末端とアニールされたレポーター鎖の5'末端との間に1つのヌクレオチドギャップが存在するようになる;DNAポリメラーゼの鎖置換活性に際して、フルオロフォア標識オリゴヌクレオチド(レポーター鎖)は鋳型鎖から置換され、その結果、フルオロフォアおよびその結果としてのフルオロフォアはもはや近接しておらず、蛍光の増加を測定することができる。
【0033】
鎖置換活性は、(i)その5'末端に消光剤(蛍光消光剤)を有する鋳型DNA分子を提供する工程、(ii)その3'末端にフルオロフォアで標識されるコールドプライマー(すなわち、非蛍光オリゴヌクレオチド)およびレポーター鎖(レポーターオリゴヌクレオチド)を鋳型DNA分子にアニールし、ここでアニールされた「コールド」プライマーの3'末端とアニールされたレポーター鎖の5'末端との間に1つのヌクレオチドギャップが存在し、それによって消光剤が互いに近接することによってフルオロフォアを消光する工程、(iii)前記鋳型-コールドプライマー-レポーター鎖複合体をDNAポリメラーゼ、Me2+およびdNTPとインキュベートする工程、ならびに(iv)前に消光されたフルオロフォアの増加する蛍光を測定する工程、ここで、蛍光は鎖置換活性の指標である、という工程を有するアッセイにおいて評価され得る。
好ましいプライマー、レポーター鎖および鋳型鎖は、実施例に記載されている通りである。
【0034】
好ましい実施形態では、鎖置換活性(SDA)は、実施例に記載された鎖置換活性アッセイに従って評価される。SDAは、そのポリメラーゼの最適温度付近で測定することが望ましい。PBおよび他の中温菌については25℃~37℃付近であってもよい。
【0035】
本発明は、野生型DNAポリメラーゼのSDAを増強することを可能にする。PBの場合、SDAは、ほとんどの市販のポリメラーゼと比較してすでに高いが、SDAは、本明細書に記載の位置18/422でのアミノ酸修飾を導入することによって、さらに有意に増加させることができる(図3参照)。本発明に含まれる耐熱性ポリメラーゼ、例えば、天然のSDAであるUbtsとBstについて、周囲温度(25~37℃)ではかなり低い。しかしながら、アスパラギン酸残基を非負荷電アミノ酸残基で置換すると、SDAは37℃でさらに有意に増強される。例えば、異なるシナリオでは異なるポリメラーゼが有用であろう。BstおよびUbtは、熱安定性であり(それぞれ66℃および62℃のTm)、したがって、これらの酵素のいずれかについてSDAを増強する能力は、非常に有用である(図6および7を参照のこと)。
【0036】
したがって、好ましい実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号1および2に対して、それぞれ、または他の配列における相当する位置に、正確に同じ配列を有するが、位置18または位置422にアスパラギン酸を有するDNAポリメラーゼよりも少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも100%向上したSDAを有する。観察された%増加は、各酵素がその最大SDAを示す条件下で少なくとも見られることが望ましい。換言すれば、各酵素が実施できる最良のために、本発明のポリメラーゼは、そのアスパラギン酸含有当量よりも、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも100%高いSDAを有する。
【0037】
前述したアスパラギン酸残基、その修飾は本発明によってもたらされる利益の鍵となり、負電荷をもたない残基に置き換えられる。置換は、典型的には、別のアミノ酸残基での置換を含むが、いくつかの実施形態では、アスパラギン酸残基は、その負電荷を除去するように修飾されていてもよい。したがって、本発明のポリメラーゼの位置18/422の残基は、中性(ニュートラル)または正電荷のいずれかである。中性アミノ酸には極性アミノ酸と疎水性アミノ酸がある。適当な置換アミノ酸には、Ser、Thr、Asn、Gln、Ala、Ile、Leu、Tyr、Val、LysおよびArgが含まれる。非標準、すなわち、非遺伝的にコードされたアミノ酸は、中性または正に荷電したものを取り込むことができる。Alaが特に好ましい。
【0038】
また、本発明者らは、本発明のポリメラーゼのいくつかが、上記で考察したAsp残基を含む酵素と比較して、高い[NaCl]および[KCl]で改良されたSDA性能を示すことを見出した(表2および4参照)。したがって、耐塩性の増強は、本発明によって提供され得るさらなる利益である。
【0039】
本発明の好ましいDNAポリメラーゼは、ある範囲の塩(NaClおよび/またはKCl)濃度にわたって有用なレベルのポリメラーゼ活性を有する。言い換えれば、本発明の好ましいDNAポリメラーゼは、広範囲の塩濃度にわたって、最大のポリメラーゼ活性が観察される塩濃度で観察されるDNAポリメラーゼ活性のかなりの割合を示す。DNAポリメラーゼ活性を測定するための適切なアッセイは、本明細書の別の箇所に記載する。DNAポリメラーゼ活性を測定するための好ましいアッセイは、実施例のセクションに記載されている通りである。
【0040】
いくつかの実施形態において、約20mMから200mMのNaClまたはKClまたはその混合物の濃度範囲にわたって、本発明のDNAポリメラーゼは、それらの最大ポリメラーゼ活性のかなりの割合(例えば、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%)を示す。
さらなる態様において、本発明は、本発明のDNAポリメラーゼを含む分子(例えば、融合タンパク質などのタンパク質)を提供する。
【0041】
本出願全体を通して使用される場合、用語「a」および「an」は、それ以降に上限または除外が具体的に記載される場合を除き、参照される構成要素またはステップの「少なくとも1つ」、「少なくとも第1」、「1つ以上」または「複数」の意味で使用される。任意の単剤の量と同様に、組み合わせの実施可能な限界およびパラメータは、本願の開示に照らして当業者は理解するだろう。
【0042】
本明細書で定義される本発明のDNAポリメラーゼまたはその断片、またはそれと実質的に相同な核酸分子をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は、本発明のさらに別の態様を形成する。好ましい核酸分子は、配列番号2のDNAポリメラーゼIをコードする核酸、または配列番号2と実質的に相同な配列(例えば、少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%または95%同一)であるが、配列番号2の位置422のアスパラギン酸残基、または他の配列における相当するアスパラギン酸残基が、非負荷電アミノ酸残基によって置換されている核酸である。
【0043】
好ましい核酸分子は、配列番号13、14または15に記載のヌクレオチド配列を含む(またはそれらからなる)、またはそれらと実質的に相同な配列である。任意に、配列番号13、14または15の最後3ヌクレオチドを省略してもよい。本発明の核酸配列は、少なくとも70%または75%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または99.5%、配列番号13、14または15との配列同一性を有する配列を含む。したがって、本発明の核酸配列は、配列番号13、14または15の配列に対する単一または複数の塩基改変(付加、置換、挿入または欠失)を含む。
特に好ましい核酸分子は、配列番号13、14または15に記載のヌクレオチド配列を含むか、またはそれからなる。
【0044】
本発明はまた、本明細書に記載される核酸分子の縮重型であるヌクレオチド配列を含む(またはそれからなる)核酸分子、例えば、配列番号13、14または15を含む(またはそれからなる)核酸分子の縮重型にも及ぶ。
本発明の核酸分子は、好ましくは「単離」または「精製」される。
【0045】
相同性(例えば、配列同一性)は、任意の慣用的方法によっても評価することができる。しかしながら、配列間の相同性(例えば、配列間の同一性)を決定するためには、配列の多重アラインメントを行うコンピュータプログラム、例えば、Clustal W (Thompson, Higgins, Gibson, Nucleic Acids Res., 22:4673-4680, 1994)が有用である。望むならば、Clustal Wアルゴリズムは、BLOSUM 62のスコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 89:10915-10919, 1992)ならびにギャップオープニングペナルティ10およびギャップ延長ペナルティ0.1と共に使用することができ、それにより、最上位の一致が配列の一方の全長の少なくとも50%がアラインメントに関与する二つの配列の間に得られる。 Clustal XはClustal Wの簡便なwindows インターフェイスである(Thompson, J.D. et al.(1997)。Clustal X windows インターフェイス:品質分析ツールを援用した多重配列アライメントの柔軟な戦略(Nucleic Acids Research, 25:4876-4882)。
【0046】
配列をアラインメントするために使用することができる他の方法は、Smith and Waterman (Smith and Waterman, Adv.Appl.Math.、 2:482, 1981)によって改訂されたNeedleman and Wunschのアラインメント法(Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol.、 48:443, 1970) であり、その結果、2つの配列間で最上位の一致が得られ、2つの配列間の同一アミノ酸の数が決定される。2つのアミノ酸配列間のパーセンテージ同一性を計算する他の方法は、一般に当業者認識されており、例えば、Carillo and Lipton (Carillo and Lipton, SIAM J. Applied Math., 48:1073, 1988) により記載されたもの、およびComputational Molecular Biology, Lesk, e.d. Oxford University Press, New York, 1988, Biocomputing: Informatics and Genomics Projectsに記載されたものを含む。
【0047】
一般に、このような計算にはコンピュータプログラムが用いられる。配列のペアを比較して整列するためのプログラム、例えばALIGN (Myers and Miller, CABIOS, 4:11-17, 1988)、FASTA (Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85:2444-2448, 1988; Pearson, Methods in Enzymology, 183:63-98, 1990) および gapped BLAST (Altschul et al., Nucleic Acids Res., 25:3389-3402, 1997)、BLASTP、BLASTN、またはGCG (Devereux, Haeberli, Smithies, Nucleic Acids Res., 12:387, 1984) が、同様にこの目的に有用である。 さらに、欧州バイオインフォマティクス研究所のダリサーバーは、タンパク質配列の構造ベースのアラインメントを提供する(Holm, Trends in Biochemical Sciences, 20:478-480, 1995; Holm, J. Mol.Biol., 233:123-38, 1993; Holm, Nucleic Acid Res., 26:316-9, 1998)。
【0048】
基準点を提供することにより、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等を有する本発明の配列は、初期パラメータを有するALIGNプログラムを用いて決定することができる(例えば、インターネット上、GENESTREAMネットワークサービス、IGH(モンペリエ、フランス)で利用可能)。
【0049】
本明細書で使用される「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有する別のアミノ酸残基と置換されているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが、当技術分野で定義されている。
本発明のDNAポリメラーゼは、遺伝的にコードされたアミノ酸を含むが、1つ以上の非遺伝的にコードされたアミノ酸を含むこともある。
【0050】
DNAポリメラーゼのようなタンパク質またはポリペプチド分子に関連して使用される場合、「単離された」または「精製された」という用語は、典型的には、それが由来する供給源由来の細胞材料または他のタンパク質を実質的に含まないタンパク質を指す。いくつかの実施形態において、このような単離されたまたは精製されたタンパク質は、組換え技術によって生産された場合、培養培地を、または化学的に合成された場合、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。
【0051】
1つのさらなる態様において、本発明は、本発明の核酸分子、またはその断片、および本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質配列の転写および翻訳に必要な調節配列を含む発現ベクター(好ましくは組換え発現ベクター)を提供する。
【0052】
可能な発現ベクターは、ベクターが使用される宿主細胞と適合する限り、コスミドまたはプラスミドを含むが、これらに限定されない。発現ベクターは「宿主細胞の形質転換に適しており」、これは、発現ベクターが、本発明の核酸分子、および発現に使用される宿主細胞に基づいて選択される調節配列を含み、それらが核酸分子に作動可能に連結されることを意味する。作動可能に連結されるとは、核酸が、核酸の発現を可能にする様式で調節配列に連結されることを意味することを意図している。
【0053】
適当な調節配列は、細菌、真菌、ウイルス、哺乳動物、または昆虫の遺伝子を含む種々の源に由来することができ、当技術分野で周知である。適切な調節配列の選択は、後述するように選択される宿主細胞に依存し、当業者によって容易に達成され得る。このような調節配列の例としては、転写プロモーターおよびエンハンサーまたはRNAポリメラーゼ結合配列、翻訳開始シグナルを含むリボソーム結合配列が挙げられる。さらに、選択された宿主細胞および使用されたベクターに応じて、複製起点、追加のDNA制限部位、エンハンサー、および転写の誘導性を付与する配列などの他の配列を発現ベクターに組み込むことができる。
本発明の組換え発現ベクターはまた、本発明の組換え分子で形質転換または形質導入された宿主細胞の選択を容易にする選択マーカー遺伝子を含むことができる。
【0054】
組換え発現ベクターはまた、組換えタンパク質の発現増加、組換えタンパク質の溶解性増加をもたらす融合部分をコードする遺伝子、および/または親和性精製におけるリガンドとして作用することによる標的組換えタンパク質の精製の補助(例えば、精製および/または識別を可能にする適切な「タグ」が存在してもよい、例えば、Hisタグまたはmycタグ)を含んでいてもよい。
【0055】
組換え発現ベクターを宿主細胞に導入して、形質転換宿主細胞を作製することができる。用語「形質転換される」、「形質導入される」、「形質転換」および「形質導入」は、当技術分野で公知の多くの可能な技術の1つによる細胞への核酸(例えばベクター)の導入を包含することを意図している。宿主細胞を形質転換および形質導入するための適切な方法は、Sambrook et al., 1989 (Sambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)および他の実験室の教科書に見出すことができる。
【0056】
適当な宿主細胞は、多種多様な原核生物宿主細胞および真核生物細胞を含む。好適には、本発明のタンパク質は、細菌宿主細胞、例えば、大腸菌において発現され得る。
【0057】
DNAポリメラーゼを含むN末端またはC末端融合タンパク質、およびタンパク質(例えば、エピトープタグ)などの他の分子にコンジュゲートされた本発明のタンパク質は、組換え技術により融合することにより調製することができる。
【0058】
さらに別の態様は、本発明の1以上の発現構築物または発現ベクターを含む宿主細胞またはウイルスを提供する。 また、本発明の核酸分子の1つ以上を含む宿主細胞またはウイルスが提供される。本発明のDNAポリメラーゼを発現することができる宿主細胞またはウイルスは、さらに別の態様を形成する。好適な宿主細胞には、Rosetta 2 (DE3) 細胞(ノバゲン)が含まれる。
【0059】
本発明のDNAポリメラーゼは、宿主細胞中で組換えにより生産され、そこから単離および精製され得る。したがって、本発明のDNAポリメラーゼは、組換え酵素、特に単離された組換え酵素と考えることができる。特定の実施形態に、DNAポリメラーゼは、DNAポリメラーゼが由来した生物と同じ生物ではない宿主細胞において、または由来しない宿主細胞において、組換え技術によって産生される。
【0060】
本発明のDNAポリメラーゼは、組換えDNA技術を用いて作製することができる。あるいは、無細胞発現系を用いてDNAポリメラーゼを製造することもできる。あるいは、本発明のDNAポリメラーゼを化学合成を用いて作製して、DNAポリメラーゼを段階的伸長、すなわち一度に1個のアミノ酸によって作製することもできる。このような化学合成技術(例えば、固相合成)は、タンパク質の化学においてよく知られている。
【0061】
本発明のさらなる態様は、本発明の宿主細胞を培養する工程を含む、本発明のDNAポリメラーゼを産生する方法を提供する。好ましい方法は、(i)コードされたDNAポリメラーゼまたはタンパク質の発現に適した条件下で、組換え発現ベクターの1つ以上または本発明の核酸分子の1つ以上を含む宿主細胞を培養する工程;および(ii)宿主細胞から、または増殖培地/上清から、DNAポリメラーゼまたはタンパク質を単離または取得する工程を含む。このような製造方法はまた、DNAポリメラーゼまたはタンパク質産物を精製する工程、および/またはDNAポリメラーゼまたは産物を、許容可能な緩衝液または担体などの少なくとも1つの追加成分を含む組成物に製剤化する工程を含むことができる。
【0062】
DNAポリメラーゼは、当技術分野で公知であり文献に広く記載されているタンパク質のための精製技術のいずれかを用いてまたはそれらの任意の組合せで、宿主細胞/培養培地から分離、または単離され得る。このような技術には、例えば、沈殿、限外濾過、透析、種々のクロマトグラフィー技術、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離などが含まれる。上述のように、本発明のDNAポリメラーゼは、単離、溶解および/または精製および/または識別を助けるために、アミノ酸モチーフまたは他のタンパク質タグまたは非タンパク質タグ、例えばポリヒスティジンタグ(例えばHis6-tag)を有するように修飾することができる。
【0063】
別の態様では、本発明は、ヌクレオチド(例えば、dNTP)重合のための本発明のDNAポリメラーゼの使用を提供する。したがって、本発明のDNAポリメラーゼを用いて、核酸(DNA)鎖を1つ以上のヌクレオチドによって延長することができる。
別の態様では、本発明は、核酸増幅または配列決定反応における本発明のDNAポリメラーゼの使用を提供する。
別の態様では、本発明は、分子ビーコンアッセイまたは鎖置換アッセイ、例えば、本明細書に記載されるような、本発明のDNAポリメラーゼの使用を提供する。
【0064】
好適には、本発明の使用および方法において、本発明のDNAポリメラーゼは、一定温度、すなわち熱サイクリングなしで使用される。したがって、等温反応における本発明のDNAポリメラーゼの使用が特に好ましい。
【0065】
等温増幅反応における本発明のDNAポリメラーゼの使用が特に好ましい。等温反応は一定温度で行う。多くの等温増幅技術は当技術分野で公知であり、ループ媒介等温増幅(LAMP)、ローリングサークル増幅(RCA)、ストランド置換増幅(SDA)、多重置換増幅(MDA)およびクロスプライミング増幅(CPA)を含む。
【0066】
別の態様では、本発明は、本発明のDNAポリメラーゼを用いたヌクレオチド重合法を提供する。好適には、前記方法は、本発明のDNAポリメラーゼ、鋳型核酸分子、鋳型核酸分子の一部および1種以上のヌクレオチド(例えば、デオキシヌクレオシド三リン酸、dNTP)にアニールすることができるオリゴヌクレオチドプライマーを含む反応混合物を提供すること、およびオリゴヌクレオチドプライマーが鋳型核酸分子にアニールし、DNAポリメラーゼが1種以上のヌクレオチドを重合化することによって前記オリゴヌクレオチドプライマーを伸長する条件下で前記反応混合物をインキュベートすることを含む。好適な条件は当技術分野でよく知られている。好適には一定温度を使用し、好適な温度を本明細書の他の箇所に設定する。任意に、ポリヌクレオチド生成物の生成が検出される(例えば、ゲル電気泳動を介して)。
【0067】
別の態様では、本発明は、本発明のDNAポリメラーゼを用いて核酸(DNA)を増幅する方法を提供する。典型的には、前記方法は、本発明のDNAポリメラーゼ、鋳型核酸分子、鋳型核酸分子の一部にアニールすることができるオリゴヌクレオチドプライマー(例えば、2、3、4、5または6プライマーのような2以上のプライマー)、およびヌクレオチド(例えば、デオキシヌクレオシド三リン酸、dNTP)を含む反応混合物を提供すること、およびオリゴヌクレオチドプライマーが鋳型核酸分子にアニールし、DNAポリメラーゼが1以上のヌクレオチドを重合化することによって前記オリゴヌクレオチドプライマーを伸長してポリヌクレオチドを生成する条件下で前記反応混合物をインキュベートすることを含む。 好適な条件は当技術分野でよく知られている。核酸増幅の好ましい方法は、等温増幅法である。本発明の等温増幅法は一定温度で実施され、好ましい温度は本明細書の他の箇所に設定される。任意に、ポリヌクレオチド生成物の生成が検出される(例えば、ゲル電気泳動を介して)。
【0068】
例示的な等温増幅法には、ループ媒介等温増幅(LAMP)、ローリングサークル増幅(RCA)、ストランド置換増幅(SDA)、多重置換増幅(MDA)およびクロスプライミング増幅(CPA)が含まれる。
【0069】
いくつかの実施形態において、特にPB配列に基づくDNAポリメラーゼを使用するものであって、本発明の方法および使用に使用される一定温度は、低~中等度の温度であり、例えば、0℃~約42℃の範囲内で選択され、好適には、約10℃~約40℃、または約20℃~約40℃、または約25℃~約40℃、または約30℃~約40℃、または約35℃~約40℃、または約37℃~約40℃の範囲内で選択される。 いくつかの実施形態において、一定温度は、約10℃~約15℃、または約10℃~約20℃の範囲内で選択される。いくつかの実施形態において、一定温度は約10℃~約30℃の範囲内で選択される。いくつかの実施形態において、一定温度は約20℃~約30℃の範囲内で選択される。いくつかの実施形態において、一定温度は約10℃~約25℃の範囲内で選択される。いくつかの実施形態において、一定温度は約20℃~約25℃の範囲内で選択される。25℃程度の一定温度が望ましい。いくつかの実施形態において、一定温度は25℃である。
【0070】
本発明の他のポリメラーゼ、例えば好熱性である生物由来の配列に基づくポリメラーゼでは、一定温度は中等度から高温であり得、例えば、25~65℃、好ましくは40~65℃の範囲内から選択される。
【0071】
温度は、反応中の温度を変化させるための活性ステップが取られない場合、例えば、熱サイクリングが行われない場合には、一定とみなされることがある。「一定の」温度は、方法の間に、それでも、例えば約5℃までの、典型的には3℃または2℃以下の、温度変動を可能にすることができる。
本発明のDNAポリメラーゼは、point-of-care分子診断プラットフォームにおいて使用され得る。
本発明のDNAポリメラーゼは、全ゲノム増幅に使用することができる。
【0072】
本発明のDNAポリメラーゼは、次世代配列決定法に使用され得る。いわゆる「次世代」または「第2世代」配列決定アプローチ(「第1世代」アプローチとしてのサンガージデオキシヌクレオチド法を参考に)が広く普及してきた。これらの新しい技術は、例えば、並行して使用される、例えば、大量に並列した配列決定反応の結果として、またはより時間のかからないステップを通して、ハイスループットによって特徴づけられる。種々のハイスループットシークエンシング方法は、単一分子シークエンシングを提供し、ピロシークエンシング、可逆的ターミネーターシークエンシング、ライゲーションによる切断可能なプローブシークエンシング、ライゲーションによる非切断可能なプローブシークエンシング、DNAナノボール、およびリアルタイム単一分子シークエンシングなどの技術を使用する。
本発明のDNAポリメラーゼに関するここでの引用文献は、文脈から明確でない限り、活性断片を包含する。
本発明の使用および方法は、典型的にはin vitroで実施される。
【0073】
本発明はまた、本発明のDNAポリメラーゼを含む組成物を提供する。このような組成物は、好適には緩衝液を含む。任意に、本発明の組成物は、核酸増幅反応(例えば、等温増幅反応)、例えば、増幅される鋳型DNAの領域および/またはヌクレオチド(例えば、dNTP)にアニーリングすることができるオリゴヌクレオチドプライマーを実施するために必要な試薬の1つ以上をさらに含む。典型的には、組成物は水溶液であり、Tris、HEPESなどの標準緩衝液で緩衝される。
【0074】
本発明はさらに、本発明のDNAポリメラーゼの1つ以上、または本発明の1つ以上の組成物、または本発明の核酸分子の1つ以上、または本発明の1つ以上の発現ベクター、または本発明の1つ以上の宿主細胞もしくはウイルスを含むキットを含む。好適には、前記キットは、本明細書に記載される方法および使用、例えば等温増幅反応のような核酸増幅法に使用するためのものである。好適には、前記キットは、キット成分、例えば核酸増幅の使用のための説明書を含む。
【0075】
本明細書で開示されるヌクレオチドおよびアミノ酸配列ならびにそれらの配列の識別記号(配列番号)
全てのヌクレオチド配列は、本技術分野における慣例に沿って、本明細書中で5'から3'に引用される。
【0076】
配列番号1 - サイクロバチルス属の種(Psychrobacillus sp.)由来のDNAポリメラーゼIのフィンガードメインの領域のアミノ酸配列
配列番号1
【0077】
配列番号2-サイクロバチルス属の種(Psychrobacillus sp.)(PB)配列番号2から単離された切断型DNAポリメラーゼIのアミノ酸配列
配列番号2
【0078】
配列番号3-配列番号2のサイクロバチルス属(Psychrobacillus)の種のDNAポリメラーゼI配列をコードする核酸配列
配列番号3
【0079】
配列番号4-サイクロバチルス属の種(Psychrobacillus sp.)から単離された完全長DNAポリメラーゼIのアミノ酸配列
配列番号4
【0080】
配列番号5-サイクロバチルス属の種(Psychrobacillus sp.)をコードする核酸配列の配列番号4のDNAポリメラーゼI配列
配列番号5
【0081】
配列番号6~10は、配列番号1と同様に、それぞれバチルス(Bacillus)属の種C3#41*、ウレイバチルス・サーモスファエリクス (Ureibacillus thermosphaericus)、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis、枯草菌)、バチルス・スミシー(Bacillus smithii)およびゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)由来のDNAポリメラーゼIのフィンガードメインの領域のアミノ酸配列である(* = Bei et al. 2005, Arch Microbiol, 186: 203-209; Genbank accession number DQ309765)。
【0082】
配列番号6
配列番号7
配列番号8
配列番号9
配列番号10
【0083】
配列番号11は、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス (Geobacillus stearothermophilus)(Bst)から単離した切断型DNAポリメラーゼIのアミノ酸配列である。
配列番号11
【0084】
配列番号12は、ウレイバチルス・サーモスファエリクス (Ureibacillus thermosphaericus)(Ubts)から単離された切断型DNAポリメラーゼIのアミノ酸配列である。
配列番号12
【0085】
配列番号13は、PB D422A突然変異体をコードする(大腸菌発現のために)最適化されたコドン核酸配列である。
配列番号13
【0086】
配列番号14-は、Bst D→A突然変異体をコードするコドン最適化核酸配列である。
配列番号14
【0087】
配列番号15は、Ubts D→A突然変異体をコードするコドン最適化核酸配列である。
配列番号15
【実施例
【0088】
実施例1
配列のクローニング
PBポリメラーゼI野生型(大断片)およびD422A突然変異体
【0089】
Psychrobacillus sp.由来のDNAポリメラーゼI大断片(すなわち、このタンパク質の5'‐3'エキソヌクレアーゼドメインを除いたもの)をコードする遺伝子(配列番号3)をベクターpET151/D‐TOPO (登録商標)にクローニングした。また、D422A突然変異(配列番号13)を含むコドン最適化変異体をベクターpET-11aにクローニングした。いずれの場合も、コンストラクトはポリメラーゼのN末端にHis6タグをコードし、続いてTEVプロテアーゼの認識配列をコードし、タグの切断を可能にした。
【0090】
BstポリメラーゼI(大断片)とUbtsポリメラーゼI(大断片)およびそれらのD422A突然変異体
Geobacillus stearothermophilus (Bst)およびUreibacillus thermosphaericus (Ubts, Genbank accession nr.WP#016837139)由来のポリメラーゼI大断片をコードするコドン最適化遺伝子を、Thermo Fisher ScientificからInvitrogen GeneArt Gene Synthesis serviceから購入した。遺伝子(配列番号14および15)は、FastCloning (Li et al. (2011), BMC Biotechnology, 11:92)により、N末端His6タグをコードするベクターpTrc99Aにクローニングされた。位置422のAspからAlaへの対応する変異(PBポリメラーゼI大断片)をQuikChange II Site‐Directed Mutagenesis Kit (Agilent Technologies)を用いて導入し、配列解析により確認した。
【0091】
タンパク質の生産と精製
PBポリメラーゼI野生型(大断片)およびD422A突然変異体
組換えタンパク質産生はRosetta 2 (DE3) 細胞(Novagen(登録商標))で行った。この細胞はテリフィックブロス培地で増殖し、0.1mMのIPTGを加えることによりOD600 nm1.0で遺伝子発現が誘導された。タンパク質産生は15℃で6~8時間行った。タンパク質精製のために、1-l培養のペレットを50mM HEPES、500mM NaCl、10mMイミダゾール、5%グリセロール、pH 7.5、0.15mg/mlリゾチーム、1プロテアーゼ阻害剤錠剤(cOmpleteTM、ミニ、EDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテル、ロシュ)に再懸濁し、氷上で30分間インキュベートした。細胞破壊はフレンチプレス(1.37 kbar)によって行われ、その後Sonics(登録商標)のVCX 750を用いて、ソニケーションにより行われた(パルス1.0/1.0、5分、振幅25%)。第一段階では、遠心分離(48384g、45分、4℃)後に存在するHis6標識タンパク質の可溶性部分を固定化Ni2+アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。50mMのHEPES、500mMのNaCl、50mMのイミダゾール、5%のグリセロール、pH 7.5の洗浄工程の後、タンパク質を250mMのイミダゾール濃度で溶出し、さらに脱塩カラムの使用により50mMのHEPES、500mMのNaCl、10mMのMgCl2、5%のグリセロール、pH 7.5に移した。
【0092】
第2段階は、50mM Tris pH 8.0、0.5mM EDTAおよび1mM DTTにおいて4℃で一晩にわたって実施したTEVプロテアーゼによるタグの切断であった。His6‐タグおよびHis6‐タグTEVプロテアーゼからタンパク質を分離するために、第3段階で、50mM HEPES、500mM NaCl、5%グリセロール、pH 7.5を適用することにより、2回目のNi2+‐親和性クロマトグラフィーを実施した。タンパク質精製の第4及び最終段階は、50mM HEPES、500mM NaCl、5%グリセロール、pH 7.5におけるHiLoad 16/600 Superdex 200pg (GEヘルスケア)上のサイズ排除クロマトグラフィーであった。最終タンパク質溶液を濃縮し、-20℃で50%グリセロールで保存した。
【0093】
BstポリメラーゼIおよびUbtsポリメラーゼI(大断片)ならびにそれらのD422A突然変異体
BstおよびUbtsポリメラーゼI(大断片)およびそれらのD422A突然変異体の組換えタンパク質産生を、Rosetta 2(DE3)細胞(Novagen(登録商標))中で行った。細胞は37℃でルリア・ベルタン培地で増殖し、遺伝子発現は0.5mMのIPTGの添加によりOD600 nm0.5で誘導された。タンパク質生産は37℃で4時間行った。タンパク質精製のために、0.5l培養のペレットを50mM Tris pH 8.0、300mM NaCl、1mM EDTA、1mM DTT、10mMイミダゾール、0.15mg/mlリゾチーム、1プロテアーゼ阻害剤錠剤(cOmpleteTM、ミニ、EDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテル、ロシュ)に再懸濁し、氷上で30分間インキュベートした。細胞破壊はSonics(登録商標)のVCX 750を用いて、ソニケーションにより行われた(パルス1.0/1.0、15分、振幅25%)。遠心分離(48384g、45分、4℃)後に存在するHis6標識タンパク質の可溶性部分を、固定化Ni2+アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。50mM Tris pH 8.0、300mM NaCl、1mM EDTA、1mM DTT、10mMイミダゾールによる洗浄工程の後、タンパク質はイミダゾールを500mMまで徐々に増加させながら溶出した。タンパク質を含む画分を採取し、脱塩により20mM Tris pH 7.1、100mM KCl、2mM DTT、0.2mM EDTAおよび0.2 Triton X-100に緩衝液交換を行った。最終タンパク質溶液を濃縮し、-20℃で50%グリセロールで保存した。
【0094】
活性測定
ポリメラーゼ活性
ポリメラーゼ活性アッセイは分子ビーコンアッセイ(Summerer (2008)、Methods Mol. biol.; 429: 225-235)より改変)に基づいている。分子ビーコン鋳型は23merループからなり、GCに富む8merのステム領域(配列はイタリックで示してある)と43merの3'延長部分によって連結されている。ステム-ループ構造のために、FAM (供与体)およびDabcyl (受容体、非蛍光消光剤)分子は近接しており、したがってFAM蛍光シグナルはクエンチされる。DNAポリメラーゼによるプライマー伸長に際して、ステムを開き、2つの色素の距離の増加を、485nmで励起し、518nmで放出を記録することにより、相対蛍光単位としてのFAM蛍光の回復により、適切な時間間隔で測定する。測定はSpectraMax(登録商標)M2eMicroplate Reader (Molecular Devices)で行った。
【0095】
分子ビーコン鋳型
プライマー
【0096】
分子ビーコン基質は10μM分子ビーコン鋳型20μlと15μMプライマーを10mM Tris‐HCl pH 8.0,100mM NaCl中で95℃で5分間インキュベートすることにより作製した。その後、反応を室温で2時間冷却させた。基質溶液は-20℃で最終濃度10μMで保存した。
【0097】
PBおよびPB D422Aのポリメラーゼ活性に対する異なる「塩」の影響を分析するためのアッセイ設定
50マイクロリットル反応液は200 nM基質と200μM dNTP(dATP, dGTP, dCTPとdTTPの等モル量)から構成された。50mM BIS-Trisプロパン(pH 8.5)、1mM DTT、0.2mg/ml BSAおよび2%グリセロール中の5mM MgCl2をさらに含有した。反応緩衝液中の最終塩濃度を、PBについては25mM、40mM、60mM、80mM、110mM、160mMおよび210mMのNaClまたはKCl、ならびにPB D422Aについては20mM、40mM、60mM、80mM、100mM、150mMおよび200mMのNaClまたはKClに調整した。活性アッセイは黒色96ウェル蛍光アッセイプレート(コーニング(登録商標))で25℃で行った。この反応は、タンパク質溶液の添加、すなわちポリメラーゼの添加によって開始された。
結果を図4に示す。
【0098】
100mM、150mMおよび200mM NaClでのPBおよびPB D422Aの特異的ポリメラーゼ活性を分析するためのアッセイ設定
50マイクロリットル反応液は200 nM基質と200μM dNTP(dATP, dGTP, dCTPとdTTPの等モル量)から成った。50mM BIS-Trisプロパン(pH 8.5)、1mM DTT、0.2mg/ml BSAおよび2%グリセロール中の5mM MgCl2をさらに含有した。反応緩衝液中の最終塩濃度は、それぞれ100mM、150mMおよび200mMのNaClに調整されている。アッセイは黒色96ウェル蛍光アッセイプレート(コーニング(登録商標))で25℃で行った。この反応は、タンパク質溶液の添加、すなわちポリメラーゼの添加によって開始された。
結果を表3に示す(実施例の最後)。
【0099】
鎖置換活性アッセイ
アッセイのセットアップの概要を図2に示す。このアッセイは、DNAポリメラーゼの鎖置換活性によってのみ達成可能な、クエンチされたレポーター鎖の置換によって測定される蛍光シグナルの増加に基づいている。
【0100】
鎖置換活性アッセイのための基質は、19のオリゴヌクレオチドの「コールド」プライマー(配列番号18)と、その3'末端にTAMRAフルオロフォア(F)で標識される20のオリゴヌクレオチドからなるレポーター鎖(配列番号19)からなる。鋳型鎖は40のオリゴヌクレオチドからなり、その5'末端にブラックホール消光剤2(BHQ2)で標識される(配列番号20)。プライマーは鋳型鎖にアニールされ、鋳型鎖上の位置20に1つのヌクレオチドギャップを残す。標識は近接しており、したがってフルオロフォアTAMRAはBHQ2によってクエンチされる。DNAポリメラーゼIの鎖置換活性により、TAMRA標識オリゴヌクレオチドは鋳型鎖から置換される。その結果、フルオロフォアと消光剤はもはや近接しておらず、TAMRA蛍光の増大は、適切なインターバル(励起525nm、発光598nm、SpectraMax (登録商標)M2e マイクロプレートリーダー(分子装置)))において相対蛍光単位として測定することができる。
【0101】
鎖置換活性アッセイのための基質は、10μMの「コールド」プライマー、10μMレポーター鎖および10μM鋳型鎖の20μlを10mMのTris-HCl pH 8.0、100mMのNaCl中で95℃で5分間インキュベートすることによって作製した。その後、反応を室温で2時間冷却させた。基質溶液は-20℃で最終濃度10μMで保存した。
【0102】
PB、PB D422Aおよび市販のポリメラーゼの特異的鎖置換活性の比較のためのアッセイ設定
50マイクロリットル反応液は200 nM基質と200μM dNTP(dATP, dGTP, dCTPとdTTPの等モル量)から成った。PBポリメラーゼIについては、50mM BIS-TRISプロパン(pH 8.5)、100mM NaCl、1mM DTT、0.2mg/ml BSAおよび2%グリセロール中の5mM MgCl2をさらに含んでいた。商業的に公知のポリメラーゼI(複数)については、ニューイングランド・バイオラボによって供給されるそれぞれの反応緩衝液が使用されている。反応緩衝液中の最終塩濃度を、それぞれのポリメラーゼに最適な塩に従って100mMに調整した。活性アッセイは黒色96ウェル蛍光アッセイプレート(コーニング(登録商標))で25℃で行った。この反応は、タンパク質溶液の添加(すなわちポリメラーゼの添加)によって開始された。
結果を図3に示す。
【0103】
100mM、150mMおよび200mM NaClでのPBおよびPB D422Aの特定鎖置換活性のためのアッセイ設定
50マイクロリットル反応液は200 nM基質と200μM dNTP(dATP, dGTP, dCTPとdTTPの等モル量)から成った。50mM BIS-Trisプロパン(pH 8.5)、1mM DTT、0.2mg/ml BSAおよび2%グリセロール中の5mM MgCl2をさらに含有した。反応緩衝液中の最終塩濃度は、それぞれ100mM、150mMおよび200mMのNaClに調整されている。アッセイは黒色96ウェル蛍光アッセイプレート(コーニング(登録商標))で25℃で行った。この反応は、タンパク質溶液の添加、すなわちポリメラーゼの添加によって開始された。
結果を以下の表2に示す。
【0104】
Bst/BstD422AおよびUbts/UbtsD422Aの鎖置換活性を分析するためのアッセイ設定
50マイクロリットル反応液は200 nM基質と200μM dNTP(dATP, dGTP, dCTPとdTTPの等モル量)から成った。さらに、20mM Tris pH 7.9(25℃)、10mM KCl、10mM(NH4)2 SO4、2mM MgSO4、0.1 % Triton X-100を含有した。
【0105】
このアッセイは黒色96ウェル蛍光アッセイプレート(コーニング(登録商標))で37℃で行った。タンパク質溶液(BstおよびBstD422Aについては20ng、UbtsおよびUbtsD422Aについては100ng)の添加、すなわちポリメラーゼの添加によって反応を開始した。より高いKClでの特異的鎖置換活性(mRFU/分/μg)の決定のために、最終濃度を150mMのKClに設定した。TAMRA蛍光の増加は、525nmで励起し、598nmでの発光を記録することにより、適切な時間間隔で相対蛍光単位として測定した。測定はSpectraMax(登録商標)M2eMicroplate Reader (Molecular Devices)で行った。
【0106】
この鎖置換活性アッセイに基づく結果を以下の図6および7および表4に示す。変異酵素はすべて活性の増強を示す。
表1:wtPBおよびD422A突然変異体(25℃)の異なる酵素特性のまとめ
【表1】
【0107】
表2:100~200mM NaClの存在下でwtPBと比較したPB D422A突然変異体の鎖置換活性
【表2】
【0108】
表3: 100~200mM NaClの存在下でwt PBと比較したPB D422A突然変異体のDNAポリメラーゼ活性
【表3】
【0109】
表4:150mM KClの存在下でwt酵素と比較したBstおよびUbtsのD422A突然変異体の鎖置換活性
【表4】
【0110】
実施例2
さらなるPsychrobacillus sp.(PB) DNAポリメラーゼ突然変異体も作製し、試験した:
位置指定突然変異誘発
位置422におけるAspからSer、Lys、Val、LeuおよびAsnへの対応する突然変異を、QuikChange II部位特異的突然変異誘発キット(Agilent Technologies)を用いて導入した。
D422VおよびD422L(異なる長さの疎水性残基)、
D422S(小さい親水性)、
D422N(大きい親水性)および
D422K(正荷電)。
出発点は、D422A突然変異体のプラスミドDNAであった。変異は塩基配列解析により確認した。
【0111】
タンパク質の生産とタンパク質の精製
組換えタンパク質産生はRosetta 2(DE3)細胞(Novagen(登録商標))で行った。この細胞はテリフィックブロス培地で増殖し、0.1mMのIPTGを加えることによりOD600 nm1.0で遺伝子発現が誘導された。タンパク質産生は15℃で6~8時間行った。タンパク質精製のために、50ml培養のペレットを1mlの50mM HEPES、500mM NaCl、10mMイミダゾール、5%グリセロール、pH 7.5、0.15mg/mlリゾチームに再懸濁し、氷上で20分間インキュベートした。細胞破壊はSonics(登録商標)のVCX 750を用いて、ソニケーションにより行われた(パルス1.0/1.0、1分、振幅20%)。
【0112】
遠心分離(16000g、30分、4℃)後に存在するHis6標識タンパク質の可溶性部分を、PureProteome(商標)磁気ビーズ (Millipore)で精製し、50μlの50mM HEPES、500mM NaCl、500mMイミダゾール、5%グリセリン、pH 7.5中で溶出した。
鎖置換アッセイは、実施例1に記載したように実施した。
【0113】
これらの他の全ての変異体は、wt PBポリメラーゼと比較して鎖置換活性のアッセイにおいてより良好に機能したが(データは示さず)、PB D422A変異体と同様ではなかった。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
【配列表】
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