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特許7361712熱成形用の乾式(DRY-LAID)マットを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】熱成形用の乾式(DRY-LAID)マットを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B27N 1/00 20060101AFI20231006BHJP
   B27N 3/12 20060101ALI20231006BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
B27N1/00
B27N3/12
B29C51/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020554288
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 IB2019052710
(87)【国際公開番号】W WO2019193504
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】1850372-2
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メイズ、ダンカン
(72)【発明者】
【氏名】ピンネネン、ヤンネ
(72)【発明者】
【氏名】トルンブロム、マリア
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-526871(JP,A)
【文献】特表2000-505692(JP,A)
【文献】特開2004-143658(JP,A)
【文献】特開2000-343510(JP,A)
【文献】特開平09-156012(JP,A)
【文献】特開2001-271051(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0074095(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27N 1/00
B27N 3/12
B29C 51/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱成形に好適な乾式(dry-laid)マットを製造する方法であって、
a)セルロース繊維又はリグノセルロース繊維を、溶媒に溶解した架橋剤に含浸させ、その結果架橋剤が繊維表面上に吸着され、かつ繊維構造体の孔の中にも吸収される工程、続いてセルロース繊維又はリグノセルロース繊維と架橋剤との混合物を、繊維の温度が150℃を超えないような条件で乾燥させる工程と、その後に、
b)工程a)の生成物を含むマットを形成する工程であって、繊維の温度が150℃を超えないような条件で実施される乾式フォーミングプロセスによって、工程a)の該生成物が10重量%未満の含水量を有する、上記マットを形成する工程と、
を含み、
工程b)で形成されたマットが、少なくとも1種の熱可塑性ポリマーを含み、
前記乾式フォーミングプロセスが、
繊維の温度が150℃を超えないような条件下で、かつ
少なくとも一つの熱可塑性ポリマーが、少なくとも部分的に溶融し、及びマットの構成成分を共に結合させるような条件下で、
工程a)の生成物を加熱することを含む、
上記方法。
【請求項2】
工程b)で形成されたマットが、少なくとも1種のカップリング剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)での乾式フォーミングが、エアレイ法によって実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
架橋剤が、少なくとも2つのカルボキシル基を有する有機カルボン酸である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
架橋剤がクエン酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
セルロース繊維又はリグノセルロース繊維が、化学パルプ、サーモメカニカルパルプ(TMP)、中密度繊維板(MDF)用の機械的繊維、又はケモ・サーモメカニカルパルプ(CTMP)の形態で提供される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程a)の含浸が、繊維が導管中の空気流で運搬される間に、これらの繊維上に架橋剤を吹き付けることによって実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
導管が、機械パルプリファイナー又は管型反応器又は流動床コーターのブローラインである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
含浸が、ドラムブレンダ又はドラムミキサで実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
セルロース原料若しくはリグノセルロース原料を機械パルプリファイナーに導入する前に含浸が実施される、又は架橋剤がリファイナーの希釈水中に提供される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
続いて熱成形が実施され、該熱成形が150℃~220℃の温度及び1~100MPaの圧力で、架橋剤を硬化させるのに十分な時間実施される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形に好適な乾式(dry-laid)マットを製造する方法を対象とする。本発明は、セルロース繊維又はリグノセルロース繊維を乾式フォーミング法でフォーミングする前に架橋剤に含浸させるが、繊維と架橋剤の架橋が起こらない乾式フォーミングプロセスを対象とする。本発明はまた、上記方法に従って製造された乾式(dry-laid)マット、及びこのような乾式(dry-laid)マットから製造された熱成形製品を対象とする。
【背景技術】
【0002】
人為的に引き起こされた気候変動及び再生不能資源の減少への懸念が高まるとともに、石油由来の原料を、再生可能な、天然の原材料から生じる原料に置き換えることへの関心が急速に高まりつつある。有限な資源である石油とは対照的に、木材などの天然原料は、常に再成長し、補給され、更にこの再成長の間、二酸化炭素トラップとして作用する。紙、板紙及びMDFなどの繊維板は長年市販され、依然として多くの用途を有する天然繊維由来の原料である。しかしながら、これら原料の曲げ剛性とねじり剛性のために、原料が一旦固められると、いかなる任意の三次元構造にも成形することが不可能となり、適用性が制限されることとなる。デザインが製品及びそれら製品の包装のセールスポイントである市場では、成形性は大いに所望される特性であり、熱可塑性ポリマーが発明されて以来、発展を遂げてきた主な理由の1つである。
【0003】
紙及び板紙原料のねじり剛性は、網目状構造において剛性のある繊維を結びつける、繊維と繊維の結合から生じる。これらの結合は、製造プロセスの水に媒介されて形成され、乾燥工程でこの水が除去されることで固化される。これにより乾式形態のウェブに強度及び曲げ剛性がもたらされる。したがって、紙又は板紙又は繊維板のいずれも熱可塑性を示さず、加熱することで展性を有する又は成形できるように製造することができない。天然繊維ベースの原料を成形可能にするためには、繊維と繊維の結合がない紙の種類でなければならないが、成形される場合、少なくとも材料が最終形状になるまで、繊維は互いに運動できなければならないだろう。このような原料の基本型は、1980年代から文献に記載されている、溶融、混合させた天然繊維・ポリマー複合体である(D.メルダス(D.Maldas)、B.V.コクタ(B.V.Kokta)及びC.ドノー(C.Daneault)、ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマーサイエンス(Journal of Applied Polymer Science)、1989年、第38巻、第413~439頁、米国特許第4,376,144号明細書、同第4,791,020号明細書)。このプロセスにおけるマトリックスポリマーが疎水性の場合、繊維とマトリックスとを相溶化させるためにカップリング剤を添加し、完成した複合体材料の特性を改良するのが一般的な方法である。これらのカップリング剤は通常、混合プロセスにおいてセルロース表面及びリグニン表面と共有結合を形成できる官能基を、グラフト化又は共重合させたポリマーである。
【0004】
成形可能な天然繊維材料の概念に取り組む別の方法は、乾式フォーミング法、例えば、エアレイ法(米国特許第3,575,749号明細書)、又は繊維板に使用される乾式フォーミング法によって、繊維材料でウェブ又はマットを形成することである。これらの場合、水に媒介される繊維と繊維の結合は存在せず、マットは理論上は標準的な方法、例えば、最初は多孔質である原料がはるかに高い密度に圧縮されるプロセスである、マッチドモールド熱成形法などにより形成され得る。乾式(dry-laid)マットの一体性及び強度のために、高温で加圧する前に、繊維を何らかの方法で互いに結合させる必要がある。このため、繊維の敷きつめプロセスで、高分子結合剤が繊維混合物に導入されることが多い。この結合剤は、乾式(dry-laid)マットの取り扱い及び輸送の間、乾式(dry-laid)マットの構造を保つのに役立つ。この結合剤が熱可塑性材料の場合、加熱により高分子結合剤が軟化すると、マットは三次元構造に成形可能である(欧州特許出願公開第1840043号明細書、同第1446286号明細書)。繊維板では、繊維を接着させる樹脂の添加によって繊維は互いに結合する。標準的な繊維板の品質では、この樹脂は、加熱によって成形できない板紙を提供する熱硬化性樹脂(従来、尿素/ホルムアルデヒド)である。結合剤が少なくとも部分的に熱可塑性である方法はこれまでにも提示されており(米国特許第4,474,846号明細書、国際公開第2007/073218号)、それらの方法は最初の加圧成形及び固化操作の後、成形可能なMDF様の板紙を提供するだろう。
【0005】
後者の概念により、複合体により多くの繊維を含有させることが可能であるが、セルロース繊維及びリグノセルロース繊維の吸湿特性は、最終的に製造される原料に大きな影響力を有する。セルロース繊維及びリグノセルロース繊維は、空気中又は水から水分を吸収すると膨潤する。この膨潤は、溶融、混合させた複合体ですでに問題となっており、原料全体の膨潤及び変形、色の変化、及び経時的な強度特性の低減を引き起こし得る。またこの水分により、複合体の中及び表面において、カビ及び菌類の繁殖が助長される。繊維含有量の増加とともに、原料が濡れる又は十分に湿ったときに、未処理の紙が分解するのと同様に、原料が分解するまでこの問題は大きくなるだろう。
【0006】
したがって、熱成形製品の改善された特性をもたらす、熱成形に好適なマット又はウェブを製造する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
驚くべきことに、上記の問題は、本発明による方法によって部分的に又は完全に回避できることが見出されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
a)セルロース繊維又はリグノセルロース繊維を架橋剤と混合する工程又は含浸させる工程、続いてセルロース繊維又はリグノセルロース繊維と架橋剤との混合物を、繊維の温度が150℃を超えないような条件で乾燥させる工程と、その後に、
b)工程a)の生成物を含むマットを形成する工程であって、繊維の温度が150℃を超えないような条件で実施される乾式フォーミングプロセスによって、工程a)の上記生成物が10重量%未満の含水量を有する、上記マットを形成する工程と、
を含む、熱成形に好適な乾式(dry-laid)マットを製造する方法を対象とする。
【0009】
本発明の文脈において、用語、熱成形に好適なマットとは、熱成形、すなわち、熱及び圧力への暴露により三次元形状に成形され、同時に固化され得るシート、ウェブ又はマットを意味する。熱成形の間、本発明の方法により製造されるマットは、圧力下で150℃~220℃の温度にさらされる。熱成形中に使用される圧力は、通常少なくとも1~100MPaである。熱成形に使用される条件は、架橋反応、すなわち硬化が熱成形と同時に起こるような条件である。
【0010】
本発明による方法を用いるとき、工程a)及び工程b)で使用される温度は、工程a)又は工程b)の間、本質的に架橋反応が起こらないような温度である。架橋反応が熱成形と同時に起こるので、繊維内架橋だけでなく、繊維間架橋、すなわち個々の繊維間の架橋が熱成形後に達成され、それが成形製品の耐湿性及び寸法安定性の向上へとつながる。したがって、通常、本発明による方法で作製したマットへの、任意の疎水化剤を添加する必要性は少ない。
【0011】
本発明による方法の工程b)でマットを乾式フォーミングするとき、マットはまた、最大40重量%の少なくとも1種のポリマー、例えば熱可塑性ポリマーを含んでよい(マットが形成される原料の乾燥重量を基準とする)。好ましくは、ポリマーの量は30重量%未満、より好ましくは20重量%未満である。好ましくは、ポリマーの量は少なくとも1重量%である。
【0012】
本発明による方法の工程b)でマットを乾式フォーミングするとき、マットはまた、最大10重量%の添加剤、例えばカップリング剤、顔料、着色剤、難燃剤、殺真菌剤などを含んでよい(マットが成形される原料の乾燥重量を基準とする)。
【0013】
本発明による方法の工程b)でマットを乾式フォーミングするとき、工程a)の生成物の含水量は、工程b)で使用する工程a)の生成物重量の10重量%未満である。
【0014】
本発明による方法の工程b)で使用する乾式フォーミングプロセスは、マットの作製に有用な任意の乾式フォーミングプロセスである。このような乾式フォーミングプロセスの例としては、エアレイ法が挙げられる。乾式フォーミングプロセスでは、シートを形成するときに使用する構成成分は本質的に乾燥形態で提供される。工程b)の乾式フォーミングプロセスの間、工程a)の生成物はまた、繊維の温度が150℃を超えないような条件で加熱されてもよい。好ましくは、工程b)で使用する温度は、30℃~150℃、より好ましくは50℃~150℃、最も好ましくは100℃~150℃である。熱可塑性ポリマー、例えば二成分又は単一成分の繊維がシートに組み込まれる場合、このように加熱することで、少なくともこれら繊維の外層を溶融させ、それによってマットの構成成分を結合させることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による方法では、熱成形に好適な乾式(dry-laid)マットが製造され、マットの繊維状材料は熱成形時まで架橋しない。
【0016】
本発明の文脈において、用語「乾式(dry-laid)」とは、マットに使用される構成成分、例えば繊維などを空気と混合し、均一な空気・繊維混合物を形成し、続いて混合物を可動型通気性ベルト又はワイヤ上に積層させることによってウェブを形成する、ウェブ形成プロセスを意味する。
【0017】
架橋反応の間、天然セルロース繊維又はリグノセルロース繊維は、これらの繊維上の官能基と反応できる少なくとも2つの化学基を含有する架橋剤と、少なくとも2つの部位で、反応によって化学的に架橋する。この架橋によって、水分と接触して膨潤する繊維壁の能力は急激に低減し、繊維は空気中の水分又は水との接触の影響を受けにくくなるだろう。本発明による方法を用いると、繊維間架橋及び繊維内架橋の両方を得られ、特に繊維間架橋が最終生成物の強度に寄与する。本発明に従って製造されたマットはまた、相容化物質及びその他の添加剤を含有し得る、熱可塑性結合剤又は熱可塑性マトリックスを含んでもよい。製造されたマットは、乾式(dry-laid)、例えば、熱成形に好適な乾式(dry-laid)繊維マットである。
【0018】
本発明に従って使用される天然繊維は、セルロース並びに、多くの場合、リグニン及び/又はヘミセルロースを含有する天然繊維である。それらの天然繊維は、通常、針葉樹又は広葉樹の化学的、機械的又は化学機械的なパルプ化により生成される木部繊維である。このようなパルプの例は、硫酸パルプ又は亜硫酸パルプなどの化学パルプ、サーモメカニカルパルプ(TMP)、中密度繊維板用の機械的繊維(MDF繊維)、又はケモ・サーモメカニカルパルプ(CTMP)である。繊維はまた、その他のパルプ化法、例えば、水蒸気爆砕パルプ化によって、また他のセルロース原材料又はリグノセルロース原材料、例えば、亜麻、黄麻、麻、ケナフ、バガス、綿、竹、わら又はもみ殻からも生成され得る。
【0019】
本発明に従って使用される架橋剤は、反応して、セルロース又はリグニンの基と少なくとも2つの共有結合を形成し得る化学基を含有する物質である。好適な架橋剤としては、少なくとも2つのカルボキシル基を有する有機カルボン酸、グリオキサール(オキサルアルデヒド)、ジメチル尿素とのグリオキサール反応生成物、又は尿素及びホルムアルデヒドとの、場合によってはアルコールとの、グリオキサール反応生成物、例えば、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)-4,5-ジヒドロキシイミダゾリジン-2又はその反応生成物、場合によってはアルコール又はアミンとの、尿素及びホルムアルデヒド反応生成物、例えば、ジメチロール尿素又はビス(メトキシメチル)尿素並びにメラミン及びホルムアルデヒドの反応生成物が挙げられる。これら架橋剤のほとんどは触媒を必要とする。
【0020】
好適な架橋剤はクエン酸である。この架橋剤は安価で毒がなく、環境にやさしく、触媒を必要としない。
【0021】
セルロース繊維又はリグノセルロース繊維と、架橋剤との重量比は、通常、50:1~1.5:1である。
【0022】
セルロース繊維又はリグノセルロース繊維を架橋剤に含浸するプロセスでは、架橋剤は繊維表面上に吸着されなければならず、また効率を最大化するためには、繊維構造体の孔の中にも吸収されなければならない。これを行う1つの方法は、これら繊維の孔に入りこむことができる溶媒に架橋剤を溶解することである。クエン酸の場合、この溶媒は水が好ましい。繊維の架橋剤溶液への含浸は、繊維が導管中、例えば、機械パルプリファイナー又は、特に流動床コーター(ワースターコーター若しくはトップスプレー流動床コーター)用に若しくは流動床コーター中に設計された管型反応器のブローラインの空気流で運搬される間に、繊維上にこれらの架橋剤溶液を吹き付けることによって実施できる。この操作の後、繊維は乾燥のために、乾燥機中に、例えば気流乾燥機中に、空気流によって更に運搬され得る。乾燥中、本質的に架橋反応が起こらないようにするために、繊維の温度は150℃より低く保たれる。
【0023】
繊維への架橋剤の含浸を達成するためには、繊維がドラムブレンダ又はドラムミキサ、例えば回転ドラムで攪拌又はかき混ぜられる間に、これらの繊維上に架橋剤の溶液を吹き付けることも可能である。
【0024】
架橋剤はまた、繊維が懸濁している溶液から繊維に含浸させることも可能である。この操作の後、過剰な溶液を繊維から押し出し、プロセスへ再循環させなければならない。この後、繊維を乾燥させ、乾式(dry-laid)マットへ含有させるための調製を行う。この場合、通常の日用品用パルプの構造よりもゆったりした構造であるシート形態のパルプを提供する、フラッフパルプの乾燥に使用される方法によって、繊維を乾燥させることが特に好ましく、それに続くプロセス工程で繊維がより容易に解繊される。乾燥中、本質的に架橋反応が起こらないようにするために、繊維の温度は150℃を超えないような条件である。好ましくは、乾燥は30℃~110℃、より好ましくは50℃~110℃、最も好ましくは70℃~110℃の温度で実施される。
【0025】
特に機械パルプに関する別の実施形態では、架橋剤はパルプリファイナーの希釈水に添加され得る。あるいは、架橋剤はセルロース原料又はリグノセルロース原料を機械パルプリファイナーに導入する前に添加され得る。このとき、架橋剤が、例えばクエン酸などの水溶性であることが前提条件となる。この形態の添加を用いると、原材料のパルプへの解繊と同時に含浸が起きるため、単独の含浸工程は必要ないだろう。架橋剤を含浸させた繊維は、乾式(dry-laid)マットへ適用される前に、リファイナーのブローラインから乾燥まで直接運ばれ得る。
【0026】
本発明によると、乾式(dry-laid)マットは、乾式フォーミングにより形成される。マットは、一般にエアレイ法と示される技術によって、多孔質のウェブ、シート又はマットの形態で製造され得るが、エアレイ法には当業者が利用可能ないくつかの異なる種類が存在する。繊維状材料は、ばら材料の形態で又はシートの形態でエアレイ法のラインに提供され得る。繊維状材料がシートの形態でエアレイ法のラインに提供される場合、このシートはラインへの供給前に、通常解繊する必要がある。この解繊は、エアレイ機にインラインで据え付けられる適切な装置、通常ハンマーミルで行われるのが最も都合がよい。エアレイドマットは、架橋剤を混合又は含浸させた繊維から単独で作られ得る。又はこれらの繊維を、マット又はシートを保持する結合剤として機能する、好適な量の熱可塑性ポリマー繊維と組み合わせてもよい。より多量の熱可塑性ポリマー繊維が使用される場合、これらの繊維はまた、溶融し、固化後に天然繊維を囲むマトリックスを形成する。結合剤/マトリックスポリマーもまた、当業者に既知の方法に従って、粉末又は液体の形態で繊維マットに適用され得る。
【0027】
マトリックスポリマーが、ポリオレフィンなどの無極性かつ疎水性である場合、カップリング剤の形態で、少なくとも1種の添加剤がマットに組み込まれることが好ましい。カップリング剤は、マトリックスポリマーと類似の化学的性質のポリマーであり、セルロース中又はリグニン中の基と共有結合を形成できる構成要素を、通常、無水マレイン酸又はシランに共重合化又はグラフト化させたものである。これらの共有結合は、ポリマー鎖を、本来多くの場合は極性で親水性である繊維表面に付着させ、したがって、それらの繊維をマトリックスポリマーに対して相溶化させる。多くの場合、このカップリング剤は、ポリマー結合剤繊維の調製において含有される。
【0028】
マトリックスポリマーが縮合生成物、例えばポリエステル又はポリアミドなどの熱可塑性ポリマーの場合、架橋剤の存在により、特にこの架橋剤が酸性の、例えばクエン酸の場合、ポリマー中の結合が加水分解し、ポリマー鎖の一部との結合が自己形成されることにより、このポリマー鎖を繊維表面に結合させることが可能である。この場合、架橋剤はカップリング剤としても作用し、上で説明される利点とともにポリマーに対して繊維を相溶化させるであろう。
【0029】
マトリックスポリマーの例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリブテン、ポリブタジエン、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリスチレン(PS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド(PGA)、エチレン酢酸ビニル(EVA)が挙げられる。マトリックスポリマーは再生材でもよい。マトリックスポリマーは、部分的に又は完全に生物由来であってもよい。
【0030】
本発明に従って形成されるマットは、その後、三次元構造に熱成形され、更にこの熱成形操作中に固化される。マットは通常、熱成形後、最大量の接触面及び最小量の空隙を伴う、密度の高い複合体となる。架橋反応、すなわち硬化は、この熱成形工程で起こっている。したがって、熱成形で使用される継続時間、時間及び温度は、架橋反応が起こるようなものである。熱成形工程は当技術分野で既知の方法に従って実施される。
【0031】

複合体シート用に、1段階の機械リファイニングプロセスで、100%オウシュウトウヒチップからMDF(中密度繊維板)タイプの木部繊維をリファイニングした。リファイニングでは、蒸解温度が195℃、蒸気流量が200l/分、リファイナー圧力が8バールであった。リファイニング後、周囲条件にて繊維を6~8%の含水量まで乾燥させた。
【0032】
繊維束の一部は、続いて、ドラムブレンダでの吹付けによって、クエン酸の量が乾燥繊維重量を基準として5%の乾燥クエン酸に到達するまで、クエン酸水溶液を含浸させた。それら繊維を、周囲温度にて、約8%の含水量まで乾燥させた。
【0033】
木部繊維・ポリマー混合マットを、一般にエアレイ法として知られているプロセスで、60cm幅のスパイク・エアレイラインで形成した。マットは、90%の未処理又は処理済みのMDF繊維、及び10%のPP/PE二成分結合剤繊維である、6mmの長さのALアドヒージョンII(AL Adhesion II)(ESファイバービジョンズ(ES Fibervisions)、デンマーク)を含有した。十分に混合するために、繊維混合物をラインの分離部に2回通過させた。結合剤繊維の大部分が確実に活性化するように、マットをシングルゾーン・ボンディング・オーブンに2回通過させた。
【0034】
以下の例では、これらのマットをプレスし平板にして、機械的試験及び吸水性試験用の試料を作製したが、これらのマットはまた、同様のプレス操作の二重曲りによって又は堅いマッチドモールド型によってプレスして、複雑な三次元構造にしてもよい。
【0035】
例1
未処理繊維及びクエン酸処理繊維のマットを、実験室用オーブン内で150~155℃まで予熱した。初期の坪量に応じて、1層又は2層のマットを、約180℃まで加熱した平らな鋼板に置き、オーブンシートで覆い、20MPaでプレスした。全圧のプレス時間は3秒で、合計のサイクル時間、すなわち、マットが熱金型と接触した時間は約30秒であった。プレスされた複合体プレートを取り外してIR温度計で温度を測定したところ、165~170℃であった。得られた坪量は、2200~2500g/mの範囲であり、おそらくエアレイ法プロセスの相違のためにプレート上での側位が異なるため、これらの坪量及び厚みは幾分異なった。
【0036】
機械的試験及び吸水性試験用の試験片を、プレートからレーザー切断で切り取った。
【0037】
引張試験は、A型の試験片が4mmではなく、2.7~3.7mmの厚みを有したという点を除いて、ISO 527に準拠した。試料の引張強さ及び引張弾性率の計算に使用するために、試験前に各試料の厚みを個別に測定した。
【0038】
曲げ試験は、少数の試験片が10mm幅の試験片用の基準に明記されるよりも、3~5mmの差で、わずかに薄い厚みを有したという点を除いて、ISO 178に準拠した。試料の曲げ強さ及び曲げ弾性率の計算に使用するために、試験前に各試料の厚みを個別に測定した。
【0039】
未処理繊維とクエン酸処理繊維から作られた複合体材料の機械的特性を比較する、試料の、20MPaでの機械的試験の結果を表1に提示する。
【表1】
【0040】
吸水性をSS EN 15534-1に部分的に従って測定した。各種試験片は1つのみであり、これらの試験片を浸漬前に乾燥させず、23℃及び50%Rhで少なくとも48時間コンディショニングしたこと、水温が23℃であったことによる偏りがあった。測定の周期は、表2に示す通り異なり、異なる浸漬時間のために重量が増加することが提示される。
【表2】
【0041】
例2
未処理繊維及びクエン酸処理繊維のマットを上記の通り加熱し、2層で鋼板に置き、100MPaでプレスした。全圧のプレス時間は3秒で、合計のサイクル時間、すなわち、マットが熱金型と接触した時間は約40秒であった。プレスされた複合体プレートを取り外してIR温度計で温度を測定したところ、170~172℃であった。得られた坪量は約2100g/mであったが、おそらくエアレイ法プロセスの相違のためにプレート上での側位が異なるため、これらの坪量及び厚みは幾分異なった。
【0042】
機械的試験及び吸水性試験用の試験片を、プレートからレーザー切断で切り取った。
【0043】
引張試験は、A型の試験片が4mmではなく、2.2~2.6mmの厚みを有したという点を除いて、ISO 527に準拠した。試料の引張強さ及び引張弾性率の計算に使用するために、試験前に各試料の厚みを個別に測定した。
【0044】
曲げ試験は、試験片が10mm幅の試験片用の基準に明記されるよりも、3~5mmの差で、薄い厚みを有したという点を除いて、ISO 178に準拠した。試料の曲げ強さ及び曲げ弾性率の計算に使用するために、試験前に各試料の厚みを個別に測定した。
【0045】
未処理繊維とクエン酸処理繊維から作られた複合体材料の機械的特性を比較する、試料の、100MPaでの機械的試験の結果を表3に提示する。
【表3】
【0046】
吸水性をSS EN 15534-1に部分的に従って測定した。各種試験片は1つのみであり、これらの試験片を浸漬前に乾燥させず、23℃及び50%Rhで少なくとも48時間コンディショニングしたこと、水温が23℃であったことによる偏りがあった。測定の周期は表4に示す通り異なり、浸漬時間が異なるために重量が増加することが提示される。
【表4】
【0047】
試料が、架橋が起こると考えられる温度にあった時間は極めて短いにもかかわらず、強度及び吸水性の両方に有意な差があると上記結果で示され、また滞留時間がより長ければ、クエン酸の効果は増加しただろうと、示唆され得る。
【0048】
上記の、本発明の詳細な説明を考慮すると、その他の修正及び変更は当業者には明らかであろう。しかしながら、このようなその他の修正及び変更が、本発明の精神及び範囲から逸脱することなしになされ得ると、明らかにされるべきである。