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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】高純度コレステロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07J 9/00 20060101AFI20231006BHJP
【FI】
C07J9/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020556072
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043252
(87)【国際公開番号】W WO2020095888
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018207853
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏哉
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-239883(JP,A)
【文献】特開平08-113592(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103626820(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101270141(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102718826(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103626822(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させ、生じるデスモステロール誘導体を晶析により分別除去することを含む、デスモステロールを実質的な量で含まない高純度コレステロールの製造方法
高純度コレステロールとは、ガスクロマトグラフィー(GC)法による測定時の面積百分率として、純度が98%以上のコレステロールを意味し、また、
実質的な量で含まない、とは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法による測定時の面積百分率として、1.0%以下であることを意味する、
該製造方法。
【請求項2】
高純度コレステロールの製造方法であって、下記工程:
デスモステロールを含むコレステロールを、水および有機溶媒中でハロゲン化試薬と混合して、デスモステロールをハロゲン化試薬および水と反応させ、
必要に応じて、得られた反応液に、還元剤を加えて脱色する
2)必要に応じて、反応後に、水層を除去する;
3-1)反応後に有機層をそのまま次の工程に用いる、または、
3-2)有機層を、部分濃縮または完全に濃縮乾固して粗反応生成物を得る;
4)3-1)の有機層、または3-2)の粗反応生成物に、有機溶媒を加え、当該有機溶媒中で晶析させる;
ことを含
高純度コレステロールとは、ガスクロマトグラフィー(GC)法による測定時の面積百分率として、純度が98%以上のコレステロールを意味する
該製造方法。
【請求項3】
デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応において用いられるハロゲン化試薬が、N-ヨードスクシンイミド(NIS)、N-ブロモスクシンイミド(NBS)、臭素、ヨウ素、N-ブロモフタルイミド、N-ブロモサッカリン、N-ブロモアセトアミド、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン、ジブロモイソシアヌル酸、トリメチルフェニルアンモニウムトリブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド、ピリジニウムブロミドペルブロマイド、4-ジメチルアミノピリジニウムブロミドペルブロミド、1-ブチルー3-メチルイミダゾリウムトリブロミド、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセンヒドロゲントリブロミド、N-ヨードフタルイミド、N-ヨードサッカリン、1,3-ジヨード-5,5-ジメチルヒダントイン、ピリジン一塩化ヨウ素、ジクロロヨウ素酸テトラメチルアンモニウム、およびジクロロヨウ素酸ベンジルトリメチルアンモニウムからなる群から選ばれる1種以上の求電子的ハロゲン化試薬である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応において用いられるハロゲン化試薬が、コレステロール中に含まれるデスモステロールの1モルに対して、1モル~10モル当量である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
晶析において用いられる有機溶媒が、エーテル類、ケトン類、エステル類、ハロゲン化炭素類、炭化水素類、アミド類、ニトリル類、およびアルコール類からなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コレステロールは、ステロイドに分類される有機化合物の1種であり、タンパク質や炭水化物とともに、様々な生命現象に関わる重要な化合物である。また、コレステロールは、医薬品、化粧品、または液晶の原材料等にも使用されている。
【背景技術】
【0002】
一般に流通している市販のコレステロールの純度は90~95%(ガスクロマトグラフィー(GC)の面積%に基づく)である。とりわけ、より高純度のコレステロールを得ることが困難な原因として、類縁体不純物の存在が挙げられる。
市販のコレステロール中には、コレステロールの構造と類似する数種類の不純物が含まれ、たとえば、デスモステロール、ジヒドロコレステロール、またはラトステロール等が知られる。
【0003】
従来知られている高純度のコレステロールを得るための製造方法としては、コレステロールの不純物をメタノールなどのアルコール類を用いたリスラリーによる方法もしくは再結晶法により取り除く方法(特許文献1および2)、高価な水素化触媒を用いた接触還元方法によるデスモステロールをコレステロールに変換する方法(特許文献3)、あるいは、特殊な装置を用いる精製方法(例えば、塔型晶析装置を用いる製造方法)(特許文献4)を挙げられる。よって、化学反応を利用した不純物を誘導体化することにより、高純度のコレステロールを得る製造方法は前記還元反応以外は知られていない。
【0004】
上述のコレステロール中に含まれる不純物、とりわけ主要な不純物であるデスモステロールは、コレステロールと構造が近似しており、溶解度等の物理的性質も近似しているため、再結晶法等の一般的に知られる精製方法では分離除去することは極めて困難であった。また、これら再結晶法によれば、再結晶の操作を繰り返すことが必要であるため、操作が煩雑であり、またコレステロールの収率が低下する。さらに、再結晶法では、高純度のコレステロールを得ること自体が極めて困難であった。
【0005】
また、高価な水素化触媒を用いた接触還元方法によるデスモステロールをコレステロールに変換する方法によれば、コレステロールに含有されている不純物を反応により低減することはできるが、還元処理によって一部のコレステロールが反応することで、ジヒドロコレステロールを生じ、収率の低下が起こる。
【0006】
また、25ヒドロキシコレステロールの取得を目的として、デスモステロール(24デヒドロコレステロール)を、THF/水混液中でN-ブロモスクシンイミド(NBS)と反応させてオキシブロモ化物を得て、その後に、水素化アルミニウム試薬によって脱ブロモ化物である25ヒドロキシコレステロールを得る方法が知られる(特許文献5)が、この製法は、コレステロールの精製を目的としたものではない。
【0007】
よって、従来の晶析による製法では除去することが困難な不純物(特に、デスモステロール)を取り除くことが可能であり、また、工業的に適用可能な操作方法で効率よく、且つ高純度のコレステロールを製造することができる製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-003190号
【文献】特開2013-184929号
【文献】特開平06-239883号
【文献】特開2002-080493号
【文献】中国特許公開第103626822号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、デスモステロールを実質的な量で含まない高純度コレステロール(例えば、約98%純度を有するコレステロール)を高収率で製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意研究した結果、デスモステロール等の不純物を含むコレステロールに、ハロゲン化試薬を作用させることで、デスモステロールを選択的に高極性不純物へ変換させ、続く晶析工程により当該不純物を容易に除去することができ、且つ工業的に適用可能であることを見出した。本発明は、以下の態様を提供するが、これらに限定されるものではない。
(製造方法)
[1] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させ、生じるデスモステロール誘導体を晶析により分別除去することを含む、デスモステロールを実質的な量で含まない高純度コレステロールの製造方法。
[2] 高純度コレステロールの製造方法であって、下記工程:
1)デスモステロール(desmosterol)を含むコレステロールを、水および有機溶媒中でハロゲン化試薬と混合して、デスモステロールをハロゲン化試薬および水と反応させ(工程1)、
必要に応じて、得られた反応液に、還元剤を加えて脱色する;
2)必要に応じて、反応後に、水層を除去する(工程2);
3-1)反応後に有機層をそのまま次の工程に用いる、または、
3-2)有機層を、部分濃縮または完全に濃縮乾固して粗反応生成物を得る(工程3);
4)3-1)の有機層、または3-2)の粗反応生成物に、有機溶媒を加え、当該有機溶媒中で晶析させる(工程4)、
ことを含む、該製造方法(以下、「本発明の製造法」とも呼称する。)。
[2-2] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))を、約0℃~約100℃の温度で、約10分間~約12時間行う、[1]または[2]記載の製造方法。
[2-3] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))を、約0℃~約60℃の温度で、約30分間~約3時間行う、[1]または[2]記載の製造方法。
【0011】
[2-4] 還元剤が、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、シュウ酸およびその塩、および、ギ酸およびその塩からなる群から選ばれる1種以上である、[1]または[2]記載の製造方法。
[2-5] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))において用いられるハロゲン化試薬が、N-ヨードスクシンイミド(NIS)またはヨウ素である場合に、亜硫酸ナトリウムまたはギ酸ナトリウムを加えて脱色することを含む、[1]または[2]記載の製造方法。
[2-6] 更に、5)前記4)において晶析したコレステロールを含む析出物を更に有機溶媒で洗浄して、精製されたコレステロールを得る(工程5)、および/または、
6)前記4)または5)において得られたコレステロールを、コレステロールに対する溶解度が高い溶媒中に溶解し、その後に溶液中にコレステロールに対する溶解度が低い溶媒を加えることによって、コレステロールの結晶を析出させる(工程6)、
ことを含む、[1]または[2]記載の製造方法。
【0012】
[3] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))において用いられるハロゲン化試薬が、N-ヨードスクシンイミド(NIS)、N-ブロモスクシンイミド(NBS)、臭素、ヨウ素、N-ブロモフタルイミド、N-ブロモサッカリン、N-ブロモアセトアミド、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン、ジブロモイソシアヌル酸、トリメチルフェニルアンモニウムトリブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド、ピリジニウムブロミドペルブロマイド、4-ジメチルアミノピリジニウムブロミドペルブロミド、1-ブチルー3-メチルイミダゾリウムトリブロミド、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセンヒドロゲントリブロミド、N-ヨードフタルイミド、N-ヨードサッカリン、1,3-ジヨード-5,5-ジメチルヒダントイン、ピリジン一塩化ヨウ素、ジクロロヨウ素酸テトラメチルアンモニウム、およびジクロロヨウ素酸ベンジルトリメチルアンモニウムからなる群から選ばれる1種以上の求電子的ハロゲン化試薬である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[3-2] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))において用いられるハロゲン化試薬が、N-ヨードスクシンイミド(NIS)である、[1]または[2]に記載の製造方法。
【0013】
[3-3] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))において用いられる有機溶媒が、エーテル類、アルコール類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エステル類、アミド類、ニトリル類およびケトン類からなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[3-4] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))において用いられる有機溶媒が、エーテル類である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[3-5] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))において用いられる有機溶媒が、テトラヒドロフラン(THF)である、[1]または[2]に記載の製造方法。
【0014】
[4] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))において用いられるハロゲン化試薬が、コレステロール中に含まれるデスモステロールの1モルに対して、約1モル~約10モル当量である、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
[4-2] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))において用いられるハロゲン化試薬が、コレステロール中に含まれるデスモステロールの1モルに対して、約1モル~約4モル当量である、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
【0015】
[5] 晶析(項[2]の工程4))において用いられる有機溶媒が、エーテル類、ケトン類、エステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素素類、アミド類、ニトリル類およびアルコール類からなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である、[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5-2] 晶析(項[2]の工程4))において用いられる有機溶媒が、エーテル類、ケトン類、エステル類、およびアルコール類からなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である、[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5-3] 晶析(項[2]の工程4))において用いられる有機溶媒が、THF/メタノール、メタノール、ブタノール、酢酸エチル、またはアセトンである、[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5-4] 晶析(項[2]の工程4))において用いられる有機溶媒が、THF/メタノールである、[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5-5] 晶析(項[2]の工程4))において用いられる有機溶媒が、THFとメタノールの容量比が1:3であるTHF/メタノール混合液である、[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
【0016】
[5-6] デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させる反応(項[2]の工程1))において用いられるコレステロールが、ジヒドロコレステロールおよびラトステロールから選ばれる1種以上の不純物を含む、[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
【0017】
[5-7] 晶析(項[2]の工程4))における晶析を、約-15℃~約60℃以下の温度で行う、[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5-8] 晶析(項[2]の工程4))における晶析を、約0℃~約30℃の温度で行う、[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
【0018】
[6] 高純度コレステロールが、約98%以上の純度を有するコレステロールである、[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
[6-2] 高純度コレステロールが、約99%以上の純度を有するコレステロールである、[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
【0019】
(高純度のコレステロール)
[7] [1]乃至[6]のいずれか1つに記載の製造方法で得られる、約1%以下の含有量のデスモステロールを含む、高純度コレステロール。
[7-2] [1]乃至[6]のいずれか1つに記載の製造方法で得られる、約0.3%以下の含有量のデスモステロールを含む、高純度コレステロール。
[8] 微量のコレステロールのハロゲン化誘導体を含む、[7]に記載の高純度コレステロール。
【0020】
(分離方法)
[9] コレステロールおよびデスモステロールを含む混合物を、ハロゲン化試薬および水と反応させ、続いてコレステロールを晶析することにより、コレステロールとデスモステロールとを分離する方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法により、従来の方法(例えば、晶析法)によっては除去することが困難であった不純物(主に、デスモステロール)を除去した、高純度コレステロールを効率よく得ることができる。
【0022】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
(定義)
以下に、本明細書および特許請求の範囲中で使用する用語の定義を示す。
【0023】
本願明細書中の用語「コレステロール」とは、下記構造式で示される化合物(CAS登録番号57-88-5)である。当該コレステロールとしては、市販品、または一般的に知られる有機化学的手法により合成される物が挙げられるが、例えば市販品が挙げられる。通常の市販品のコレステロールは、純度が90%以上(例えば、約95%程度)であって、また、不純物として、コレステロールの構造と類似する数種類の不純物を含む、コレステロールを意味する。当該不純物としては、デスモステロール(desmosterol)、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、またはラトステロールが挙げられる。
【化1】
【0024】
本願明細書中の用語「デスモステロール」とは、上記構造式で示される化合物(CAS登録番号313-04-2)である。デスモステロールは、通常、市販のコレステロール中に、不純物として、GC測定時の面積百分率として特約1~約5%(例えば、2~4%、典型的には約3%)の割合で含まれる。あるいは、LC(例えば、HPLC)測定時の面積百分率として約5~約15%(例えば、約6~10%、典型的には約8%)の割合で含まれる。
【0025】
本願明細書中の用語「純度」および「含有量」は、特に断らない限り、一般的な機器分析法(例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、および液体クロマトグラフィー(LC)(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が挙げられる)による測定時の面積百分率を意味する。
【0026】
本願明細書中の用語「高純度コレステロール」とは、GC測定時の面積百分率として、純度が約95%以上、好ましくは約96%以上、より好ましくは約97%以上、一層より好ましくは約98%以上、特に好ましくは約99%以上のコレステロールを意味する。
【0027】
本願明細書中の用語「デスモステロールを実質的な量で含まない」における「実質的な量で含まない」とは、通常の分析方法(例えば、HPLC法)によっては検出可能なレベル以下であることを意味し、例えば、コレステロールに対して、デスモステロールの含有量が、面積百分率で約1.0%以下、好ましくは約0.3%以下、より好ましくは約0.2%以下、より一層好ましくは約0.1%以下であることを意味する。あるいは、GC測定時の面積百分率で約0.3%以下、好ましくは約0.2%以下、より好ましくは約0.1%以下であることを意味する。
【0028】
本願発明の1態様によれば、本願発明の製造方法は、
デスモステロールを含むコレステロールをハロゲン化試薬および水と反応させ、生じるデスモステロール誘導体を晶析により分別除去することを含む、デスモステロールを実質的な量で含まない高純度コレステロールの製造方法である。
本願発明の製造方法によれば、1)デスモステロールを主不純物として含むコレステロールの混合物を、ハロゲン化試薬および水と反応させることにより、コレステロールは反応せず、デスモステロールのみを選択的に反応させて誘導体化させることができる;2)デスモステロールを、コレステロールとは物理学性質(例えば、溶解度)が大きく相違する誘導体に変換することができる;3)有機合成において通常使用される有機溶媒を用いて、コレステロールとデスモステロールの誘導体を晶析によって容易に分離して、デスモステロールの誘導体を除去することができる;4)従来の精製方法(例えば、再結晶法)と比べて、コレステロールとデスモステロールとを極めて容易に且つ高効率で分離することができ、デスモステロールの除去効率が極めて大きく改善される;5)デスモステロールの含量を極めて少ない量にまで低減することができ、実質的な量のデスモステロールを含まない、高純度のコレステロールを、高収率で且つ高効率で得ることができる、との利点を有する。
【0029】
本願発明の1態様によれば、本願発明の製造方法は、
高純度コレステロールの製造方法であって、下記工程:
工程1)デスモステロールを含むコレステロールを、水および有機溶媒中でハロゲン化試薬と混合して、デスモステロールをハロゲン化試薬および水と反応させ、
必要に応じて、得られた反応液に、還元剤を加えて脱色する;
工程2)必要に応じて、反応後に、水層を除去する;
工程3-1)有機層をそのまま次の工程に用いる、または、
工程3-2)有機層を、部分濃縮または完全に濃縮乾固して粗反応生成物を得る;
工程4)3-1)の有機層、または3-2)の粗反応生成物に有機溶媒を加えて、コレステロールを晶析する、
ことにより、精製されたコレステロールを得る。
【0030】
(工程1)
工程1において、反応容器中、デスモステロールを含むコレステロールを、水および有機溶媒中に懸濁させ、該懸濁液中にハロゲン化試薬を加え、デスモステロールを選択的にハロゲン化試薬および水と反応させて、上述の通り、デスモステロールを、その極性化合物誘導体(例えば、デスモステロール内のアルケン部分にハロゲン原子およびヒドロキシ基が付加した化合物)に変換する。
【0031】
用語「ハロゲン化試薬」とは、有機化学の分野において一般的に知られる、ハロゲン化試薬を意味する。好ましくは、臭素化試薬、またはヨウ素化試薬が挙げられる。臭素化試薬の具体的な例としては、臭素、N-ブロモスクシンイミド(NBS)N-ブロモフタルイミド、N-ブロモサッカリン、N-ブロモアセトアミド、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン、ジブロモイソシアヌル酸、トリメチルフェニルアンモニウムトリブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド、ピリジニウムブロミドペルブロマイド、4-ジメチルアミノピリジニウムブロミドペルブロミド、1-ブチルー3-メチルイミダゾリウムトリブロミド、および1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセンヒドロゲントリブロミドからなる群から選ばれる1種以上の求電子的臭素化試薬が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ヨウ素化試薬の具体的な例としては、ヨウ素、N-ヨードスクシンイミド(NIS)N-ヨードフタルイミド、N-ヨードサッカリン、1,3-ジヨード-5,5-ジメチルヒダントイン、ピリジン一塩化ヨウ素、ジクロロヨウ素酸テトラメチルアンモニウム、およびジクロロヨウ素酸ベンジルトリメチルアンモニウムからなる群から選ばれる1種以上の求電子的ヨウ素化試薬が挙げられるが、これらに限定されるものではない。より好ましいハロゲン化試薬の例としては、N-ヨードスクシンイミド(NIS)、N-ブロモスクシンイミド(NBS)、臭素、またはヨウ素が挙げられるが、これらに限定されるものではない。目的物のコレステロールの純度および操作の取扱いの点で、N-ヨードスクシンイミド(NIS)が好ましい。
【0032】
工程1において用いられる有機溶媒とは、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではないが、コレステロールを部分的にまたは完全に溶解する溶媒が好ましい。例えば、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル(MTBE)、ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(MeTHF))、アルコール類(例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール)、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、ヘプタン)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン(MCB))、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル)、アミド類、ニトリル類、およびケトン類(例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK))からなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒が挙げられる。好ましくは、エーテル類が挙げられ、特にテトラヒドロフラン(THF)誘導体(例えば、THFおよび2-メチルテトラヒドロフラン(MeTHF))が挙げられる。溶媒の量は、経済的な観点から少ない方が好ましいが、例えば、反応に使用する粗コレステロールに対して、約1重量倍~約10重量倍が挙げられ、好ましくは、約2重量倍~約4重量倍が挙げられる。
【0033】
工程1において用いられるハロゲン化試薬の量は、コレステロール中に含まれるデスモステロールの含有量および使用するハロゲン化試薬の反応性および種類に応じて変わり得るが、デスモステロールと反応するのに十分な量でよく、例えば、コレステロール中に含まれるデスモステロールの1モルに対して、約1モル~約50モル当量、好ましくは約1モル~約10モル当量である。典型的には、NISまたはIを使用する場合には、コレステロールの1モルに対して、約0.1モル当量が挙げられ、また、NBSを使用する場合には、コレステロールの1モルに対して、約0.05モル当量が挙げられる。
【0034】
工程1の反応は、大気雰囲気下(好ましくは、窒素雰囲気下)で行う。反応温度は、使用するハロゲン化試薬の種類に応じて変わり得るが、例えば約0℃~約100℃、好ましくは約20℃~約60℃を挙げられる。典型的には、NISまたはIを使用する場合には、反応温度は約40℃~約60℃であり、また、NBSを使用する場合には、反応温度は約20℃~約40℃である。
反応時間は、使用するハロゲン化試薬の種類および反応温度によって変わり得るが、例えば、約10分間~約12時間(例えば、約30分間~約3時間)で行う。
【0035】
工程1の反応の終了後に、必要に応じて、工程1の反応液に、還元剤を加えて反応液をクエンチすることにより遊離ハロゲンを除去してもよい。当該還元剤は、使用するハロゲン化試薬由来の着色を還元作用により除去する試薬であって、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、シュウ酸およびその塩(例えば、ナトリウム塩、およびカリウム塩)、ギ酸およびその塩(例えば、ナトリウム塩、およびカリウム塩)などを挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、ハロゲン化試薬が、N-ヨードスクシンイミド(NIS)またはヨウ素である場合に、還元剤(例えば、亜硫酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム)を使用することができる。還元剤は、粉末状であっても、水溶液であってもよい。還元剤の使用量は、着色がなくなる程度であればよく、例えば、使用するハロゲン化試薬の1モル量に対して1モル当量以上であればよい。また、典型的には、還元剤の使用量は、コレステロールの1モルに対して、0.1~0.5モル当量が使用でき、望ましくは0.2~0.4モル当量の使用がよい。
クエンチの操作は、工程1の反応温度と同様な温度で、例えば約0℃~約100℃(例えば、約20℃~約60℃)で行うことができる。
【0036】
(工程2)
必要に応じて、工程1の反応後(または脱色操作後)の反応液から水層を除去する。該水層中には、例えば、過剰量のハロゲン化試薬とその分解物、および無機塩が含まれ得る。水層の除去は、分離操作(例えば、分液ろうと)により行うことができる。
【0037】
(工程3)
工程2において水層を除去して得られる有機層をそのまま工程4に用いるか(工程3-1))、または有機層を、部分濃縮または完全に濃縮乾固して粗反応生成物を得る(工程3-2)。
工程3-1の場合、工程2において得られた有機層は、次の工程4において用いる前に、一般的に有機合成において用いられる乾燥剤(例えば、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム)を用いて乾燥してもよい。
別法として、工程3-2の場合、工程2において得られた有機層を、部分濃縮または完全に濃縮乾固(例えば、エバポレーターを用いる減圧下での濃縮乾固)して、粗反応生成物を得る。
【0038】
(工程4)
前記工程3-1の有機層、または工程3-2の粗反応生成物に、有機溶媒を加えて当該有機溶媒中でコレステロールを晶析する。
【0039】
本願明細書中の用語「晶析」とは、コレステロールの結晶を析出させることを意味し、また、更に低温の環境下に晶析液を一定時間保って析出した結晶を成長させることをも含み得る。
【0040】
工程4においては、有機溶媒を加えてコレステロールを晶析させる。晶析の操作時の温度は、工程2の反応後の反応温度であってもよく、例えば約0℃~約100℃(例えば、約20℃~約60℃)が挙げられる。
次いで、コレステロールの結晶化を促進させるために晶析液を冷却してもよい。
冷却の温度としては、コレステロールの結晶が成長する低い温度であればよく、例えば、-15℃~約10℃が挙げられ、好ましくは約0℃~約10℃(典型的には、約0℃~約5℃)が挙げられる。よって、冷却する場合には、晶析の操作時の温度は、例えば約-15℃~約60℃、好ましくは約0℃~約30℃が挙げられる。
また、冷却時間は、コレステロールの結晶が十分に成長する期間であればよいが、例えば、約10分間~約数日間が挙げられ、好ましくは約30分間~約12時間(典型的には、約1時間以上)が挙げられる。
【0041】
工程4において用いられる有機溶媒としては、極性有機溶媒が好ましいが、低極性有機溶媒の場合は極性溶媒と組み合わせることで使用してもよい。当該有機溶媒としては、例えば工程1において用いられる有機溶媒、例えば、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル(MTBE)、ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(MeTHF))、ケトン類(例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK))、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン(MCB))、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、ヘプタン)、アミド類、ニトリル類およびアルコール類(例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール)からなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒が挙げられる。
工程4において用いられる有機溶媒の量は、目的物としてのコレステロールに対して適量であれば特に問題とならないが、量が多すぎる場合には、収率が低下し、一方で、少なさすぎる場合には、晶析するコレステロールの流動性が悪く、操作性が悪化し、且つ不純物が残存する恐れがある。
【0042】
また、前記工程4において晶析したコレステロールを含む析出物を、更に有機溶媒で洗浄して、精製されたコレステロールを得る工程(工程5)、を含んでいてもよい。工程5においては、必要に応じて、通常の後処理の工程(溶媒の留去、ろ過、および乾燥)を含み得る。
典型的には、工程5において、まず工程4において得られた析出物を含む反応液について、析出物をろ過する。次いで、ろ取した物を有機溶媒で洗浄する。洗浄後の湿結晶を乾燥(約50℃~約60℃)して、目的物としての精製されたコレステロール、すなわち、高純度コレステロールを得る。
【0043】
工程5において用いられる、洗浄用の有機溶媒としては、洗浄時のコレステロールの損失を抑制するために、コレステロールに対する溶解度が低い有機溶媒が好ましい。例えば、アルコール類(例えば、メタノール)、アセトン、アセトニトリルが挙げられる。
【0044】
更に、前記工程4において晶析したコレステロールを含む析出物、または工程5において洗浄後に得られたコレステロールを、更に通常行われる既知の精製方法(例えば、懸濁洗浄法、再晶析法、クロマトグラフィー法)を組み合わせて精製することも可能である。特に、本発明の製法においては、再晶析する工程(工程6)を含んでいてもよい。
【0045】
工程6においては、必要に応じて、上記工程4または工程5において得られたコレステロールを、コレステロールに対する溶解度が高い溶媒(つまり、良溶媒)中に溶解し、その後に溶液中にコレステロールに対する溶解度が低い溶媒(つまり、貧溶媒)を加えることによって、コレステロールの結晶を析出させる。生成したスラリーを冷却し(5℃以下)、析出物をろ過する。次いで、ろ取した物を貧溶媒で洗浄する。洗浄後の析出物を乾燥(約50℃~約60℃)して、目的物としての精製されたコレステロール、すなわち、高純度コレステロールを得る。
【0046】
工程6において用いられる、良溶媒の例としては、トルエン/メタノールの混合液、へプタン/メタノールの混合液、THF等が挙げられるが、これらに限定されない。トルエン/メタノールの混合液、またはへプタン/メタノールの混合液を使用する場合、トルエンまたはへプタンとメタノールとの容量比が約50:1~約2:1である混合液が挙げられる。また、貧溶媒の例としては、メタノール(含水メタノールであってもよい)またはヘプタン等を挙げられるが、これらに限定されない。良溶媒および貧溶媒の使用量は、例えば、精製するコレステロール原料の12.00gに対して、良溶媒を約10mL~約50mL(例えば、約10mL~約30mLが好ましい)を用いることができる。更に、貧溶媒の使用量は、良溶媒に対して容量比で約3倍~約20倍(例えば、約4倍~約15倍が好ましい)を用いることができる。
【0047】
本発明の製造方法においては、上記工程4の晶析(更に、工程5の洗浄)によって、工程1で生じたデスモステロールの誘導体(例えば、極性化合物)が、結晶化したコレステロールと分離され、除去しやすくなり、精製されたコレステロールを容易に得ることができると考えられる。
【0048】
(精製コレステロール)
上記本発明の製造により製造される、精製(された)コレステロールとは、約1%以下の含有量のデスモステロールを含み、適宜、微量の製造時に使用したハロゲン化試薬との反応に由来する、コレステロールのハロゲン化誘導体を含む、高純度コレステロールである。また、該精製コレステロールとは、GC測定時の面積百分率として約0.3%以下、LC測定時の面積百分率として約1.0%以下のデスモステロールしか含まず、適宜、微量のコレステロールのハロゲン化誘導体を含んでもよい、約98%以上の純度を有するコレステロールである、ことが好ましい。ここで、ハロゲン化誘導体の微量とは、検出可能な限度の量を意味し、例えば、GC測定時の面積百分率として約1%以下、約0.5%以下、約0.1%以下の量を意味する。
【0049】
本発明の1実施態様によれば、
工程1において用いられるハロゲン化試薬がNISまたはIであって、工程1において用いられる有機溶媒がTHFであって、工程3が工程3-1であり、工程4において用いられる有機溶媒がTHF/メタノールである、製造方法を提供する。
【0050】
工程1の反応の終了後に、工程1の反応液に、亜硫酸ナトリウムまたはギ酸ナトリウムを加えて脱色することを含む。
【0051】
本発明の1実施態様によれば、
工程1において用いられるハロゲン化試薬がNBSであって、工程1において用いられる有機溶媒がTHFであって、工程3が工程3-1であり、工程4において用いられる有機溶媒がTHF/メタノールである、製造方法を提供する。
【0052】
本発明の1実施態様によれば、工程5において用いられる有機溶媒がメタノールである、製造方法を提供する。
【0053】
本発明の1実施態様によれば、工程6において、工程4または5において得られた精製コレステロールを更に再晶析することを含む、より高純度のコレステロールを得る製造方法を提供する。
【実施例
【0054】
以下に、実施例を挙げて、本発明のさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって具体的に限定されるものではない。
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL)(コレステロール純度が、HPLC測定時の面積百分率として約89%、GC測定時の面積百分率として96%であり、そして、デスモステロール含量が、HPLC測定時の面積百分率として約8%、GC測定時の面積百分率として約3%である))を、下記の実施例および比較例において用いた。
【0055】
まず、本発明の製造方法における、ハロゲン化試薬の使用の有無、および晶析溶媒の影響について調べた。
【0056】
実施例1
N-ヨードスクシンイミド(NIS)を用いる製造方法
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 10g(25.9mmol)を、THF 34mLに溶解後、水 20g(1.1mol)およびNIS 0.6g(2.6mmol)を加え、混合物を50℃で1時間撹拌反応させた。
反応液に、亜硫酸ナトリウム 0.5gを加えて有機層を脱色後、水層を除去した。有機層に、50~60℃でメタノール 76mLを加えた後に、混合物を5℃以下まで冷却し、その後に0~5℃で1時間以上保ち、結晶を析出させた。析出物をろ過し、分離した析出物をメタノール 13mLで洗浄した。析出物を減圧乾燥し、精製コレステロール 8.5g(収率85%)を得た。
得られた精製コレステロールの純度およびデスモステロールの含有量を、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって測定した。結果を表1に示す。
【0057】
実施例2
N-ブロモスクシンイミド(NBS)を用いる製造方法
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 10g(25.9mmol)を、THF 34mLに溶解後、水 20g(1.1mol)およびNBS 0.2g(1.3mmol)を加え、混合物を20℃で1時間撹拌反応させた。
反応後に、水層を除去した。有機層に、50~60℃でメタノール76mLを加えた後に、混合物を5℃以下まで冷却し、その後に0~5℃で1時間以上保ち、結晶を析出させた。析出物をろ過し、分離した析出物をメタノール 13mLで洗浄した。析出物を減圧乾燥し、精製コレステロール 8.3g(収率83%)を得た。
得られた精製コレステロールの純度およびデスモステロールの含有量を、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって測定した。結果を表1に示す。
【0058】
実施例3
ヨウ素(I2)を用いる製造方法
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 10g(25.9mmol)を、THF 34mLに溶解後、水 20g(1.1mol)およびヨウ素 0.7g(2.6mmol)を加え、混合物を50℃で2時間撹拌反応させた。
反応液に、亜硫酸ナトリウム 0.5gを加えて有機層を脱色後、水層を除去した。有機層に、50~60℃でメタノール 76mLを加えた後に、混合物を5℃以下まで冷却し、その後に0~5℃で1時間以上保ち、結晶を析出させた。析出物をろ過し、分離した析出物をメタノール 13mLで洗浄した。析出物を減圧乾燥し、精製コレステロール 8.3g(収率83%)を得た。
得られた精製コレステロールの純度およびデスモステロールの含有量を、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって測定した。結果を表1に示す。
【0059】
実施例4
N-ヨードスクシンイミド(NIS)を用いる製造方法
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 1.5kg(25.9mmol)を、THF 4.5kgに溶解後、水3.0kg(1.1mol)およびNIS 87.3g(2.6mmol)を加え、混合物を50℃で2.5時間撹拌反応させた。
反応液に、10%亜硫酸ナトリウム水溶液 750gを加えて有機層を脱色後、水層を除去した。有機層を20%食塩水 1.5kgで洗浄・分液したのち冷却し、室温で5%含水メタノール 9.0kgを加え、混合物を5℃以下まで冷却した。その後、0~5℃で1時間以上保ってから析出物をろ過し、分離した析出物をメタノール 1.5kgで洗浄した。析出物を減圧乾燥し、精製コレステロール 1.28kg(収率85%)を得た。
得られた精製コレステロールをガスクロマトグラフィー(GC)分析によって測定した結果、純度:99.3%、デスモステロール含有量:0.04%であった。
また、この精製コレステロールを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定した結果では、純度:99.0%、デスモステロール含有量:0.2%であった。
【0060】
実施例5
N-ヨードスクシンイミド(NIS)を用いる製造方法
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 50g(12.9mmol)を、THF100gと水150gの混合溶媒に溶解させ、NIS 2.9g(13mmol)を加え、混合物を50℃で4時間撹拌反応させた。
反応液に、20%ギ酸ナトリウム水溶液17.5gを加えて有機層を脱色後、水層を分液除去した。有機層を少量の水で洗浄した後、5%含水メタノール370mLを滴下して晶析した。得られたスラリーを5℃以下まで冷却し、その後に0~5℃で1時間以上保った後、析出物をろ過した。得られた析出物をメタノール 60mLで洗浄した。析出物を減圧乾燥し、45gの精製コレステロールを得た(収率:90%)。
得られた精製コレステロールを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定した結果、純度:99.0%、デスモステロール含有量:0.2%であった。
【0061】
比較例1
晶析のみの製造方法(つまり、ハロゲン化試薬を用いない製造方法)
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 6g(15.5mmol)を、THF 20mLに溶解後、50~60℃でメタノール 46mLを加え、混合物を5℃以下まで冷却した。その後、混合物を0~5℃で1時間以上保ち、結晶を析出させた。析出物をろ過し、分離した析出物をメタノール8mLで洗浄した。析出物を減圧乾燥し、精製コレステロール 4.5g(収率75%)を得た。
得られた精製コレステロールの純度およびデスモステロールの含有量を、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって測定した。結果を表1に示す。
【0062】
比較例2
晶析のみの製造方法
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 6g(15.5mmol)を、メタノール91mLに投入し、混合物を60℃で1時間保持した。その後、混合物を、30℃以下まで冷却し、20~30℃で1時間以上保ち結晶を析出させた。析出物をろ過し、分離した析出物をメタノール4mLで洗浄した。析出物を減圧乾燥し、精製コレステロール5.7g(収率95%)を得た。
得られた精製コレステロールの純度およびデスモステロールの含有量を、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって測定した。結果を表1に示す。
【0063】
比較例3
晶析のみの製造方法
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 3g(7.8mmol)を、1-ブタノール15mLに加熱溶解させた後、20~25℃まで冷却し、この温度を1時間以上保持し結晶を析出させた。析出物をろ過し、分離した析出物を1-ブタノール2mLで洗浄後に、減圧乾燥し、精製コレステロール 2.1g(収率70%)を得た。
【0064】
比較例4
晶析のみの製造方法
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 12g(31mmol)を、トルエン28mLとメタノール10mLの混合溶媒に溶解させた後、メタノール180mLを加えて晶析したのち、0~5℃まで冷却し、この温度を1時間以上保持した。析出物をろ過し、分離した析出物をメタノール約7mLで洗浄した後に、減圧乾燥し、精製コレステロール 9.8g(収率82%)を得た。
この精製コレステロールを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定した結果は、純度:93.1%、デスモステロール含有量:6.0%であった。
【0065】
上記実施例1~3および比較例1~3の結果を、表1に示す。
【表1】
【0066】
ハロゲン化試薬を用いる本発明の製造方法によれば、実施例1~5のいずれの場合も、精製前のコレステロールの純度と比べて、純度が約98%以上、特に約99%以上の高純度のコレステロールが得られた。また、得られた精製コレステロールは、精製前のコレステロールと比べて、デスモステロールの含量が極めて少量であるかまたは検出可能なレベルでは含まれていなかった。
一方で、比較例としてハロゲン化試薬を用いない場合には、得られたコレステロールの純度は約98%以下であり、また、コレステロール中のデスモステロールの含有量は、有意な量であった。
【0067】
実施例6~17
次に、本発明の製造方法において、ハロゲン化試薬と反応させた反応混合物の晶析処理時の晶析溶媒の影響について調べた。具体的には、晶析溶媒として下記の表2に示す各種の溶媒を用いて、得られた精製コレステロールの純度、およびデスモステロールの含有量を調べた。
【0068】
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL) 70g(181mmol)を、THF236mL中に溶解後に、水 140g(7.8mol)およびNIS 4.1g(18.1mmol)を加え、混合物を50℃で1時間撹拌反応させた。
反応液に、亜硫酸ナトリウム 3.5gを加えて有機層を脱色後に、水層を除去した。有機層を、濃縮乾固し、粗コレステロール(純度96.19%、デスモステロール検出されず(ND))を得た。続いて、該粗コレステロールに対して、各種溶媒での晶析を行った。各溶媒を用いた場合の実施例を、実施例6~実施例17として示す。
粗コレステロール 5.5g(13.0mmol)に、コレステロール純分に対して2倍量のTHFおよび6倍量のメタノールを加え、加熱溶解させた。混合物を5℃以下まで冷却後、0~5℃で1時間以上保ち結晶を析出させた。析出物をろ過し、分離した析出物を減圧乾燥し、精製コレステロールを得た(実施例16)。
得られた精製コレステロールの純度およびデスモステロールの含有量を、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって測定した。
以下同様の方法にて、それぞれの晶析溶媒毎の純度を確認した。実験結果を、表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
晶析溶媒として、t-ブチルメチルエーテル(実施例8)、塩化メチレン(実施例9)、酢酸エチル(実施例11)、アセトン(実施例12)、ブタノール(実施例14)、メタノール(実施例15)、THF/メタノール(実施例16)、およびへプタン/メタノール(実施例17)をそれぞれ使用した場合には、高純度(例えば、GC面積百分率で約98%純度)のコレステロールが得られた。
【0072】
実施例18
N-ヨードスクシンイミド(NIS)を用いる製造方法において、前記実施例1等で用いるTHF/水の溶媒を、各種有機溶媒に変えて、コレステロールの純度の向上、およびデスモステロールの含量の減少について、溶媒の影響を調べた。
市販コレステロール(日本精化(株)品:商品名CHOLESTEROL)5g(12.9mmol)を、有機溶媒20gと水10gの混合溶媒に懸濁させ、NIS 0.3g(1.3mmol)を加え、混合物を50℃で3時間撹拌反応させた。
反応液に、20%ギ酸ナトリウム水溶液1.75gを加えて有機層を脱色後、水層が分離するものは水層を除去した。反応液(有機層)を、メタノールで50mLに希釈し、混合物を5℃以下まで冷却し、その後に0~5℃で1時間以上保ち、結晶を析出させた。析出物をろ過し、分離した析出物をメタノール 7mLで洗浄した。析出物を減圧乾燥し、精製コレステロールを得た。
得られた精製コレステロールの純度およびデスモステロールの含有量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定した。結果を表3に示す。
【0073】
【表4】
前記実施例1等における工程1で用いる有機溶媒を、THF/水に代えて、各種有機溶媒を用いて、コレステロールの純度およびデスモステロールの含量について調べたところ、エーテル類、ケトン類、エステル類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類のいずれの場合についても、原料のコレステロールの純度と比べて著しく向上し、また、デスモステロールの含量が著しく低下した。特に、エーテル類、エステル類、アルコール類が好ましく、エーテル類がより好ましく、テトラヒドロフラン誘導体(例えば、テトラヒドロフランおよび2-メチルテトラヒドロフラン)が特に好ましいことが分かった。
【0074】
実施例19
さらに、高純度のコレステロールを得るため、実施例4で調整した精製コレステロールを用いて、追加精製操作を行った。
精製コレステロール(実施例4の精製コレステロール) 12gを、数種の良溶媒に溶解しておき、貧溶媒を加えて結晶を析出させた。精製したスラリーを5℃以下まで冷却し、その後に0~5℃で1時間以上保った後、析出物をろ過した。得られた析出物を貧溶媒 10mLで洗浄した。析出物を減圧乾燥し、高純度の精製コレステロールを得た。
得られた精製コレステロールの純度およびデスモステロールの含有量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定した。結果を表4に示す。
【0075】
【表5】
上記表中、エントリー18~23は、NIS等を用いてヨウ素化処理して得られたコレステロールを原料として用いて、再精製処理を行った。一方で、エントリー24は、ヨウ素化処理なしで得られたコレステロール(比較例4で調製したもの)を原料として用いて、再精製処理を行った。
追加精製前の各コレステロール原料の、コレステロール純度およびデスモステロール含量は、以下のとおりであった(以下、純度と含量は、HPLC測定時の面積百分率の値を記載した)。
ヨウ素化処理して得られたコレステロール原料(エントリー18~22で使用):
純度99.04 %、デスモステロール含量 0.19 %
低純度品のコレステロール(コレステロール純度が78.5%であり、そして、デスモステロール含量が12.3%である)をヨウ素化処理して得られたコレステロール原料(エントリー23で使用):
純度98.0 %、デスモステロール含量 0.6 %
ヨウ素化処理なしで得られたコレステロール原料(エントリー24で使用):
純度93.1 %、デスモステロール含量 6.0 %
上記の結果、エントリー18~22の場合、実施例4で得られたヨウ素化処理して得られたコレステロールを原料として用いて、追加精製を行った場合には、約99.5%程度の高純度コレステロールを得ることができた。また、エントリー23の場合、低純度のコレステロール原料を用いても、ヨウ素化処理することによって、有意な程度の高い純度および有意な程度の低いデスモステロール含量を有するコレステロールを得ることができるため、追加精製を行った場合には、約99.0%近い純度のコレステロールを得ることができた。
一方で、エントリー24として、ヨウ素化処理をせずに得られたコレステロールを原料に用いた場合には、追加精製を行っても95%以上の高純度のコレステロールを得ることはできなかった。
この結果より、本発明の製法におけるハロゲン化(例えば、ヨウ素化)処理した場合には、出発原料のコレステロール中に含まれるデスモステロールの含量を有意に低下させることができるため、続く、本実施例に示す追加精製により更にコレステロールの純度を向上することができることが分かった。一方で、ヨウ素化処理をせずに得られたコレステロールを用いた場合には、出発原料のコレステロール中に含まれているデスモステロールの含量を低下することができないために、本実施例の追加精製を行ってもコレステロールの純度を更に向上することが難しく、95%以上の純度を有するコレステロールを得ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の製造方法により、不純物の含有量が極めて少ない、高純度のコレステロールを、工業的に効率的な方法で製造することができる。