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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】硬化剤
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/14 20060101AFI20231006BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20231006BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20231006BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
C08G59/14
C08G59/40
B29C70/06
D06M15/693
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2020558045
(86)(22)【出願日】2019-04-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 US2019028184
(87)【国際公開番号】W WO2019204649
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】62/669,483
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/660,943
(32)【優先日】2018-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/669,502
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/806,480
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/772,715
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/772,744
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/756,062
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518334912
【氏名又は名称】ナチュラル ファイバー ウェルディング インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】アンシュトゥツ、エロン、ケネス
(72)【発明者】
【氏名】ハベルハールス、ルーク、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ピアツ、アルバート シー
(72)【発明者】
【氏名】ピアツ、イアン ティー
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-501119(JP,A)
【文献】特公昭38-025545(JP,B1)
【文献】特公昭36-015647(JP,B1)
【文献】米国特許第09765182(US,B2)
【文献】国際公開第2012/140902(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然由来多官能カルボン酸と、水酸基含有溶媒と、エポキシ化トリグリセリドとの反応生成物から成る硬化剤であって、前記水酸基含有溶媒と前記天然由来多官能カルボン酸との間に形成されたエステル結合を含む
ことを特徴とする硬化剤。
【請求項2】
前記天然由来多官能カルボン酸は更に、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、及びフマル酸から成る群より選択されると定義される
請求項1に記載の硬化剤。
【請求項3】
前記エポキシ化トリグリセリドは更に、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化トウモロコシ油、エポキシ化綿実油、エポキシ化キャノーラ油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ブドウ種子油、エポキシ化ケシ油、エポキシ化桐油、エポキシ化ヒマワリ油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化小麦胚芽油、エポキシ化クルミ油、及びエポキシ化微生物由来油から成る群より選択されると定義される
請求項1に記載の硬化剤。
【請求項4】
前記エポキシ化トリグリセリドは更に、エポキシ化に先立って100以上のヨウ素価を有すると定義される
請求項1に記載の硬化剤。
【請求項5】
前記水酸基含有溶媒は更に、イソプロピルアルコール及びエタノールから成る群より選択されると定義される
請求項1に記載の硬化剤。
【請求項6】
前記反応生成物は更に、前記エポキシ化トリグリセリドが未反応エポキシド基を含むように定義される
請求項1に記載の硬化剤。
【請求項7】
前記エポキシ化トリグリセリド中のエポキシド基と多官能カルボン酸中のカルボン酸基とのモル比は0.14:1~0.43:1であると定義される
請求項1に記載の硬化剤。
【請求項8】
前記モル比は更に、0.29:1であると定義される
請求項7に記載の硬化剤。
【請求項9】
天然由来多官能カルボン酸と水酸基含有溶媒とエポキシ化トリグリセリドとの反応生成物から成るカルボン酸キャップド硬化剤であって、前記水酸基含有溶媒と前記天然由来多官能カルボン酸との間に形成されたエステル結合を含む
ことを特徴とするカルボン酸キャップド硬化剤。
【請求項10】
前記天然由来多官能カルボン酸は更に、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、及びフマル酸から成る群より選択されると定義される
請求項9に記載のカルボン酸キャップド硬化剤。
【請求項11】
前記エポキシ化トリグリセリドは更に、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化トウモロコシ油、エポキシ化綿実油、エポキシ化キャノーラ油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ブドウ種子油、エポキシ化ケシ油、エポキシ化桐油、エポキシ化ヒマワリ油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化小麦胚芽油、エポキシ化クルミ油、及びエポキシ化微生物由来油から成る群より選択されると定義される
請求項9に記載のカルボン酸キャップド硬化剤。
【請求項12】
前記カルボン酸キャップド硬化剤は、エポキシ化天然ゴムを含み、
前記エポキシ化天然ゴムは更に、3%~50%のエポキシ化レベルを有すると定義される
請求項11に記載のカルボン酸キャップド硬化剤。
【請求項13】
硬化剤の調製方法であって、以下の工程:
a.天然由来多官能カルボン酸を水酸基含有溶媒に溶解して第1混合物を形成する工程;
b.前記第1混合物にエポキシ化トリグリセリドを添加して第2混合物を形成する工程;
c.前記第2混合物を、前記水酸基含有溶媒の沸点に近い温度まで加熱する工程;
d.前記天然由来多官能カルボン酸を前記エポキシ化トリグリセリドと反応させる工程;
e.前記水酸基含有溶媒に、前記水酸基含有溶媒と前記天然由来多官能カルボン酸との間のエステル結合を形成させる工程;
f.前記水酸基含有溶媒の未反応部分を除去する工程
を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記天然由来多官能カルボン酸を前記エポキシ化トリグリセリドと反応させる前記工程と、前記水酸基含有溶媒に前記水酸基含有溶媒と前記天然由来多官能カルボン酸との間のエステル結合を形成させる前記工程とは更に、同時に行うように定義される
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記水酸基含有溶媒は更に、非水酸基含有溶媒と組み合わせると定義される
請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記非水酸基含有溶媒は更に、アセトンであると定義される
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
硬化剤とエポキシ化天然ゴムとの混合物から成るエポキシ化天然ゴム系材料であって、前記硬化剤は天然由来多官能カルボン酸と水酸基含有溶媒とエポキシ化トリグリセリドとの反応生成物から成り、前記硬化剤は、前記水酸基含有溶媒と前記天然由来多官能カルボン酸との間で形成されたエステル結合を含む
ことを特徴とするエポキシ化天然ゴム系材料。
【請求項18】
前記天然由来多官能カルボン酸は更に、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、及びフマル酸から成る群より選択されると定義される
請求項17に記載のエポキシ化天然ゴム系材料。
【請求項19】
前記エポキシ化トリグリセリドは更に、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化トウモロコシ油、エポキシ化綿実油、エポキシ化キャノーラ油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ブドウ種子油、エポキシ化ケシ油、エポキシ化桐油、エポキシ化ヒマワリ油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化小麦胚芽油、エポキシ化クルミ油、及びエポキシ化微生物由来油から成る群より選択されると定義される
請求項17に記載のエポキシ化天然ゴム系材料。
【請求項20】
前記エポキシ化天然ゴムは更に、3%~50%のエポキシ化レベルを有すると定義される
請求項19に記載のエポキシ化天然ゴム系材料。
【請求項21】
シートとして構成する物品であって:
a.硬化剤とエポキシ化天然ゴムとの混合物から成るエポキシ化天然ゴム系材料の第1層であって、前記硬化剤は天然由来多官能カルボン酸と水酸基含有溶媒とエポキシ化トリグリセリドとの反応生成物から成り、前記硬化剤は前記水酸基含有溶媒と前記天然由来多官能カルボン酸との間に形成されたエステル結合を含むものである、第1層;及び
b.前記第1層に隣接する下地材料
から成る
ことを特徴とする物品。
【請求項22】
前記下地材料の面積は前記第1層の面積より小さく、前記シートの第1端部の厚さは前記シートの第2端部の厚さより大きい
請求項21に記載の物品。
【請求項23】
前記第1層の領域は更に、その上に表面特徴を有するように形成すると定義される
請求項21に記載の物品。
【請求項24】
前記下地材料に隣接した第2下地材料を更に含む
請求項21に記載の物品。
【請求項25】
硬化剤とエポキシ化天然ゴムとの混合物から成るエポキシ化天然ゴム系材料の第2層から更に成る物品であって、前記硬化剤は天然由来多官能カルボン酸と水酸基含有溶媒とエポキシ化トリグリセリドとの反応生成物から成り、前記硬化剤は前記水酸基含有溶媒と前記天然由来多官能カルボン酸との間に形成されたエステル結合を含み、前記第2層は前記下地材料に隣接している
請求項21に記載の物品。
【請求項26】
硬化剤とエポキシ化天然ゴムの混合物から成るエポキシ化天然ゴム系材料の第2層から更に成る物品であって、前記硬化剤は、天然由来多官能カルボン酸と水酸基含有溶媒とエポキシ化トリグリセリドとの反応生成物から成り、前記硬化剤は前記水酸基含有溶媒と前記天然由来多官能カルボン酸との間に形成されたエステル結合を含み、前記第2層は前記第2下地材料に隣接する
請求項24に記載の物品。
【請求項27】
前記第2下地材料は更に:
a.プレポリマーとエポキシ化トリグリセリドとの混合物から成る樹脂であって、前記プレポリマーは天然由来多官能カルボン酸と水酸基含有溶媒と第2エポキシ化トリグリセリドとの反応生成物から成り、前記プレポリマーは前記水酸基含有溶媒と前記天然由来多官能カルボン酸との間に形成されたエステル結合を含むものである、樹脂;及び
b.一部に前記樹脂が含浸された下地層
から成ると定義される
請求項24に記載の物品。
【請求項28】
エポキシ化天然ゴム系材料の前記第1層は更に、その上にテクスチャを有すると定義される
請求項27に記載の物品。
【請求項29】
前記テクスチャは更に、テクスチャペーパーと一致すると定義される
請求項28に記載の物品。
【請求項30】
エポキシ化天然ゴム系材料の前記第層は更に、その上に第2テクスチャを有すると定義される
請求項27に記載の物品。
【請求項31】
前記第2テクスチャは更に、第2テクスチャペーパーと一致すると定義される
請求項30に記載の物品。
【請求項32】
前記下地層は更に、不織布と定義される
請求項27に記載の物品。
【請求項33】
前記下地層は更に、織布と定義される
請求項27に記載の物品。
【請求項34】
前記下地層は更に、天然繊維から成ると定義される
請求項27に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年4月21日出願の米国特許仮出願第62/660,943号(特許文献1);2018年5月10日出願の米国特許仮出願第62/669,483号(特許文献2);2018年5月10日出願の米国特許仮出願第62/669,502号(特許文献3);2018年11月5日出願の米国特許仮出願第62/756,062号(特許文献4);2018年11月29日出願の米国特許仮出願第62/772,744号(特許文献5);2018年11月29日出願の米国特許仮出願第62,772,715号(特許文献6);及び2019年2月15日出願の米国特許仮出願第62/806,480号(特許文献7)からの優先権を主張し、これら出願は全て、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、本明細書に開示された硬化剤を利用して形成し得る天然製品の製造方法に関する。当該天然製品は、コーティングした合成織布、皮革製品、及び発泡製品に類似した物理的特性を有する。
【背景技術】
【0003】
合成高分子材料を天然由来の生分解性ポリマーに置き換えることは、持続可能な製品及び材料プロセスを達成する上で重要な目標である。全ての有力な天然出発材料のうち、自然界に最も多く存在し、容易に入手、分離、精製できる材料も、最も費用対効果の高い代替物の選択肢となる。木材、天然繊維、天然油、他の天然化学物質などの材料は全て容易に、大量に入手可能である。より広く天然材料を使用する際の限界はこれまで、主に加工柔軟性(例えば、成形性)、及び/又は最終的な特性(例えば、強度、伸長率、弾性率)の限界に起因する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許仮出願第62/660,943号
【文献】米国特許仮出願第62/669,483号
【文献】米国特許仮出願第62/669,502号
【文献】米国特許仮出願第62/756,062号
【文献】米国特許仮出願第62/772,744号
【文献】米国特許仮出願第62,772,715号
【文献】米国特許仮出願第62/806,480号
【文献】米国特許第9,765,182号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Werner J.Blank,Z.A.He及びMarie Picci、「Catalysis of the Epoxy‐Carboxyl Reaction」、International Waterborne、High‐Solids and Powder Coatings Symposiumでの公開、2001年2月21~23日
【文献】Shogrenら、Journal of Polymers and the Environment、12巻、3号、2004年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
天然の獣皮は汎用性の高い材料であり、同じ性能特性を満たす合成代替品はほとんど無い。特に天然獣皮は、柔軟性、耐穿刺性、耐摩耗性、成形性、通気性、及びインプリント性を独自に併せ持っている。合成皮革の代替材料は当技術分野で公知である。その多くは織布の下地とポリウレタン又は可塑化ポリ塩化ビニルエラストマー表面を利用しており ― そのような材料構成により天然獣皮の特定の性能特性を達成し得るが、完全に天然という訳ではなく、生分解性という訳でもない。材料が全て天然であるか、又は少なくとも全天然含有物のうち大部分を含む別の材料を有することが好ましい。更に、廃棄の懸念を回避するために、任意の皮革代替物が生分解性であることが望ましい。
【0007】
メモリフォーム材料は、現在では完全に合成ポリマー製である。例えば、ほとんどの市販メモリフォームは、発泡構造を利用したポリウレタンエラストマーから成る。メモリフォーム材料は不可逆挙動を特徴とし、即ちポリマーが高い損失弾性率(tanδ)を有する。メモリフォーム材料は一般に、室温より大幅に低い温度(例えば、10℃未満)では非常に硬く、室温より大幅に高い温度(例えば、50℃超)ではゴム状であり、室温又は室温付近(例えば、15℃~30℃)では皮革状/不可逆状態である。
【0008】
Liu(米国特許第9,765,182号(特許文献8))は、エポキシ化植物油及び多官能カルボン酸から成るエラストマー製品を開示している。このような成分は互いに混和性でないことから、Liuは、多官能カルボン酸を可溶化することが可能で、かつエポキシ化植物油と混和性のあるアルコール溶媒の使用を開示している。Liuが開示した例示的なエポキシ化植物油は、エポキシ化大豆油である。Liuが開示した例示的な多官能カルボン酸はクエン酸である。可溶化剤として使用したアルコールの例としてはエタノール、ブタノール、及びイソプロピルアルコールが挙げられる。Liuは、クエン酸をエタノールに溶解し、次いでエポキシ化大豆油の全量を溶液に添加することによるエラストマー形成を開示している。次に、溶液を50℃~80℃で24時間加熱し、エタノールを除去する(真空で促進する)。Liuは重合の最適温度範囲は70℃である(触媒不使用)ことを開示している。Liuの開示では明らかに、アルコール溶媒の蒸発温度範囲と重合温度が重なっており、よって溶媒全体が除去される前にポリマーが早期に硬化する、即ちゲルを形成するという高いリスクがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Liuが開示した方法により調製したエラストマーには重合開始後の残留アルコール溶媒の蒸発に起因する孔隙がかなり存在することを見出した。
【0010】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付図面は、説明と共に実施形態を図示し、方法及び系の原理の説明を促す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】明細書に開示した硬化剤の少なくとも1つの例示的な実施形態の化学反応式及び概略図である。
図2A】比較的低粘度の樹脂を使用して製造したエポキシ化天然ゴム系材料の説明図であり、当該樹脂はフランネル基材全体に浸透し、スエード状又は毛羽立てた外観を持つ表面が得られる。
図2B】比較的高粘度の樹脂を使用して製造したエポキシ化天然ゴム系材料の説明図であり、当該樹脂はフランネル基材に部分的にしか浸透せず、光沢のある研磨された外観を持つ表面が得られる。
図3】本開示に従って製造したエポキシ化天然ゴム系材料の画像である。
図4A】本開示に従って製造した、財布を構成することに使用可能なエポキシ化天然ゴム系材料の一部を示す図であり、当該エポキシ化天然ゴム系材料は図4B及び図4Cと異なる質感で形成している。
図4B】本開示に従って製造した、財布を構成することに使用可能なエポキシ化天然ゴム系材料の一部を示す図であり、当該エポキシ化天然ゴム系材料は図4A及び図4Cと異なる質感で形成している。
図4C】本開示に従って製造した、財布を構成することに使用可能なエポキシ化天然ゴム系材料の一部を示す図であり、当該エポキシ化天然ゴム系材料は図4A及び図4Bと異なる質感で形成している。
図5】本開示に従って製造した、財布を構成することに使用可能なエポキシ化天然ゴム系材料の複数の生地の図である。
図6】本開示に従って製造した、エポキシ化天然ゴム系材料の複数の断片の図であり、天然の獣皮で当業者が期待するような外観、剛性及び強度を有する簡易なクレジットカード財布又はキャリヤとして組み立てた状態を示す。
図7】本開示に従って利用され得る樹脂含浸織布を示す。
図8A】本開示に従って作製したボールの上面図である。
図8B】本開示に従って作製したボールの側面図である。
図9】2種の異なるENR系材料の2つの応力‐歪み曲線のグラフ表示である。
図10A】ベルトバックルに係合するための固有の機能性をもって構成したENR系材料の図である。
図10B】ベルトバックルとの係合後の図10AのENR系材料の図である。
図11】溝、及びその溝に形成された隆起を有するENR系材料の図である。
図12】特定のENR系材料に使用し得る成形系の例示的な実施形態の図である。
図13】本開示の1実施形態に従って製造した発泡製品のパンケーキのような外観のディスクを示す。
図14】硬化温度の変化に伴う孔隙の勾配を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法及び装置を開示及び説明する前に、本発明の方法及び装置は特定の方法、特定の構成要素、又は特定の実施に限定されない。本明細書で使用する用語は、特定の実施形態/態様のみを説明する目的のためのものであり、限定することを意図していない。
【0013】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用しているように、単数形「a」、「an」及び「the」は、明確に文脈が特段に指定しない限り、複数の参照語を含む。本明細書では、範囲は1方の「およその」特定の値から、及び/又は他方の「およその」特定の値で表してもよい。そのような範囲を表す場合、別の実施形態には、一方の特定の値から、及び/又は他方の特定の値の範囲も含まれる。同様に、値を近似値として表す場合、先行詞「約」を使用することにより特定の値が別の実施形態を形成する。各範囲のエンドポイントが、他のエンドポイントに関連しても、他のエンドポイントと無関係でも有意である。
【0014】
「任意の」又は「任意で」とは、その後に説明した事象又は状況が発生するか、又は発生しない可能性があることを意味し、また、記述には当該事象又は状況が発生する事例と発生しない事例が含まれていることを意味する。
【0015】
その方法、装置、及び/又は構成要素を参照する場合の「態様」は、態様として言及される限定、機能、構成要素等が要求されることを意味するのではなく、むしろ、「態様」は特定の例示的開示の一部分であり、以下の特許請求の範囲に明示されていない限り、その方法、装置、及び/又は構成要素の範囲に限定されるものではないことを意味する。
【0016】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通して、用語「から成る」及びその用語の変形例、例えば「から成るような」及び「から成る」は、「~を含むが、これに限定されない」ことを意味し、例えば、他の構成要素、整数、又は工程を除外することを意図するものではない。「例示的な」は、「~の一例」を意味し、好ましい実施形態又は理想的な実施形態の指示を伝えることを意図するものではない。「などの」は、制限的な意味で使用するものではなく、説明目的で使用する。
【0017】
開示した方法及び装置を実行するために使用可能な構成要素を開示している。これらの構成要素及び他の構成要素を本明細書に開示しており、これらの構成要素の組み合わせ、サブセット、相互作用、群等を開示する場合、様々な個々の、集合的な組み合わせ及びそれらの置換各々の具体的な参照は明確に開示されていない場合もあるが、各々が全ての方法及び装置について、本明細書に具体的に企図され、説明されていることは理解されているものとする。このことは、開示した方法の工程を含むが、その工程に限定されない本願の全ての態様に適用される。従って、実行可能な多様な追加工程がある場合、これらの追加工程の各々は、開示した方法の任意の特定の実施形態又は実施形態の組み合わせで実行可能である。
【0018】
本発明の方法及び装置は、それらに含まれる好ましい態様及び例の以下の詳細な説明、ならびに図及び図の前後の説明を参照することにより、より容易に理解することが可能である。対応する用語は、その用語の構成の一般性、及び/又は構造の対応する構成要素、態様、特徴、機能性、方法、及び/又は材料等を参照する場合に互換的に使用可能である。
【0019】
本開示は、その応用において、以下の説明に記載された、又は図面に図示された構成要素の構成及び配置の詳細に限定されない。本開示は、他の実施形態が可能であり、多様な方法で実施又は実行することが可能である。また、本明細書でデバイス又は要素の配向(例えば、「前」、「後ろ」、「上」、「下」、「上面」、「底面」等のような用語)を参照して使用する表現及び用語は、説明を簡略化するために使用するだけであり、言及したデバイス又は構成要素が特定の配向を持たなければならないことを単独で示したり、示唆するものではないことは理解されるべきである。また、「第1」、「第2」、及び「第3」などの用語は、本明細書及び添付の特許請求の範囲において説明目的で使用しており、相対的な重要性又は有意性を示したり、示唆することを意図するものではない。
【0020】
1.硬化剤(プレポリマー)
エポキシ化トリグリセリド(植物及び/もしくはナッツ油(単数又は複数)などの植物系油、ならびに/又は藻類もしくは酵母で生成したような微生物性油であってもよい)、天然由来多官能カルボン酸、ならびに少なくとも数種のグラフト化水酸基含有溶媒から成る硬化剤を開示する。植物系油類から成るこのようなエポキシ化トリグリセリドの例としては、エポキシ化大豆油(ESO)、エポキシ化亜麻仁油(ELO)、エポキシ化トウモロコシ油、エポキシ化綿実油、エポキシ化キャノーラ油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ブドウ種子油、エポキシ化ケシ油、エポキシ化アブラギリ(tongue)油、エポキシ化ヒマワリ油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化小麦胚芽油、エポキシ化クルミ油、及び他のエポキシ化植物油類(EVO)が挙げられる。一般に、ヨウ素価が100以上の任意の多価不飽和トリグリセリドは、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく本明細書に開示するようにエポキシ化し、硬化剤として使用してもよい。このようなエポキシ化トリグリセリドは一般的に生分解性であることが公知である。天然由来の多官能酸の例としては、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、及びフマル酸が挙げられる。特定の例示的な実施形態は1種類の油及び/又は酸を記載してもよいが、そのような実施形態は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、いかなる方法においても限定することを意図するものではない。
【0021】
本明細書に開示しているような硬化剤は、エポキシ化植物油(単数又は複数)と天然由来多官能カルボン酸の両方を可溶化できる溶媒中で得られるエポキシ化植物油(単数又は複数)と天然由来多官能カルボン酸との反応形成物であり、ここでは溶媒は、多官能カルボン酸に含まれるカルボン酸官能基の少なくとも一部と反応する水酸基含有溶媒(即ち、アルコール)の少なくとも一部を含む。硬化剤は、カルボン酸キャップドエポキシ化植物油のオリゴマー構造体であり、これまではプレポリマー硬化剤と呼ばれていた。当該硬化剤は、未変性エポキシ化植物油及び他のエポキシ化植物由来ポリマー(例えば、エポキシ化天然ゴム)に可溶な粘性液体である。
【0022】
一般に、用語「硬化剤」、「プレポリマー」、及び「プレポリマー硬化剤」は、第1節に開示されているものと同一及び/又は類似の化学構造を示すために使用する。しかし、硬化剤、プレポリマー、及びプレポリマー硬化剤の機能は、様々な最終生成物を生成するために、その様々な用途において異なっていてもよい。例えば、硬化剤をエポキシ含有単量体樹脂(例えば、EVO)と共に使用する場合、硬化剤は、得られたポリマーの骨格に不可欠な分子量を構築するように機能し、よって、そのような用途ではプレポリマーと称する場合もある。別の例では、硬化剤を既存の高分子量エポキシ含有ポリマー(例えば、本明細書で以下に開示しているような)を有する用途で使用する場合、硬化剤は主に、その既存の高分子量ポリマーを連結するように機能し、よって、そのような用途では、単に硬化剤と称する場合もある。最後に、大量のエポキシ含有モノマー及び既存の高分子量エポキシ含有ポリマーの一部の両方を有する用途に使用する場合、硬化剤は、分子量を構築し、既存の高分子量ポリマーを連結するように機能し、よって、プレポリマー硬化剤と称する場合もある。
【0023】
硬化剤の形成により、硬化プロセス中の溶媒蒸発に起因する孔隙のリスクを排除できることが分かった。更に、オリゴマー硬化剤には、硬化プロセス中に硬化剤を追加する必要がないように、多官能カルボン酸のほぼ全てを組み込んでもよい。例えば、クエン酸は、エポキシ化大豆油(ESO)中では混和性ではないが、クエン酸とエポキシ化大豆油は好適な溶媒中で互いに反応するようにしてもよい。クエン酸の量は、硬化剤中のESOのエポキシド基のほぼ全てがクエン酸のカルボン酸基と反応するように硬化剤が形成されるように選択してもよい。十分に過剰なクエン酸を用いる場合、ゲル画分が形成されないように予備重合の範囲を制限してもよい。即ち、当該硬化剤の目標種は、クエン酸上のカルボン酸基とESO上のエポキシド基との反応により形成される低分子量(オリゴマー)のクエン酸キャップドエステル生成物である。反応媒体に使用する溶媒には、硬化剤の形成中に多官能カルボン酸の少なくとも一部にグラフトした水酸基含有溶媒(即ち、アルコール)の少なくとも一部が含まれる。特定の例示的な実施形態は1種類のアルコール(例えば、IPA、エタノール等)を記載してもよいが、このような実施形態は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、いかなる方法においても限定することを意図したものではない。
【0024】
例示的なオリゴマー硬化剤は、1.5:1~0.5:1の範囲のESO:クエン酸の重量比で形成してもよく、これは、約0.43:1(1.5:1の重量比の場合)~0.14:1(0.5:1の重量比の場合)のエポキシド基:カルボン酸基のモル比に対応する。例示的な実施形態では、ESO:クエン酸の重量比は1:1であり、これによりエポキシド基:カルボン酸基のモル比が0.29:1になる。硬化剤形成時にESOを添加しすぎると、溶液がゲル化し、目的の樹脂を形成するために更にESOを組み入れることが不可能になる場合がある。なお、重量ベースでは、ESO上の化学量論的当量のエポキシド基(分子量約1000g/mol、1分子当たり4.5個のエポキシド基の官能性)及びクエン酸上のカルボン酸基(分子量192g/mol、1分子あたり3個のカルボン酸基の官能性)が、100部のESO:30部のクエン酸の重量比で発生する。ESO:クエン酸の重量比が1.5超:1である場合、未修飾エポキシ化植物油又はエポキシ化天然ゴムに組み入れる能力を限定的にする過剰な分子量(及びそれ故に高粘度)の硬化剤が構築される可能性がある。ESO:クエン酸の重量比が0.5未満:1であれば、非常に過剰量のクエン酸が存在し、溶媒蒸発の後に、未グラフトのクエン酸が溶液から析出する可能性があることが分かった。
【0025】
ESOとクエン酸の比率を制御することに加え、実験を経て、溶媒として使用するアルコール量の選択的制御も、硬化剤を使用して得られたエラストマーの物理的特性を調整するために利用できることが分かった。アルコール溶媒自体は、多官能カルボン酸とのエステル結合を形成することによりエラストマーに組み入れる。2種以上の溶媒の混合物を使用して、クエン酸キャップドオリゴマー硬化剤への水酸基含有溶媒のグラフト量を調整してもよい。本明細書に開示した硬化剤の例示的な実施形態を形成するための化学反応の概略的な図示を図1に示す。
【0026】
例えば、制限又は限定されることなく、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、又は他の好適なアルコールを、限定せずに、クエン酸とESOとを混和させるために使用する溶媒系の成分として使用してもよい。IPA、エタノール、又は他の好適なアルコールはクエン酸との縮合反応を経てエステル結合を形成できる。クエン酸は3種のカルボン酸を有することから、このようなグラフトにより、ESOと反応しているクエン酸分子の平均的な機能性が低下する。このことは、より直線的で、それ故にあまり高度に分岐していないオリゴマー構造を形成することには有利である。アセトンは、クエン酸をESOと混和するために使用する溶媒系の1成分として使用してもよいが、IPA又はエタノールとは異なり、アセトン自体は、クエン酸キャップドオリゴマー硬化剤上にグラフトできない。実際、オリゴマー硬化剤の形成中に、一部では、クエン酸をESOに可溶化するために使用できるアセトンに対するアルコールの比率によりプレポリマーの反応性を決定することが分かった。即ち、同量のクエン酸とESOとの反応混合物において、アセトンに対してアルコール比率が比較的高い溶液から形成した硬化剤は、同様の反応条件下で、アセトンに対するアルコールの比率が比較的低い溶液から形成した硬化剤より長く、あまり高度に分岐していない構造を有する硬化剤を形成する。
【0027】
一般に、鋳造可能樹脂を得るには、未修飾エポキシ化植物油を追加的に使用できるように硬化剤を適合させてもよい。本明細書で出願人が開示した改良方法により、ほぼ孔隙の無いエラストマー生成物が得られる。
【0028】
2.被覆材料
A.概要
直前に開示した硬化剤は、プレポリマーとして機能してもよく、また、追加的なエポキシ化植物油と混合して様々な下地材料/下地層に適用できる樹脂として使用し、優れた引裂強度、柔軟性、寸法安定性、及び製造保全性を有する皮革のような外観の材料を得てもよい。本開示を通じて、用語「下地材料」及び「下地層」は特定の文脈に応じて互換的に使用可能である。しかし、本明細書に開示した特定の物品については、下地材料は樹脂含浸下地層から構成してもよい。プレポリマーを利用する被覆材料の1つの例示的実施形態によれば、1つの例示的な織布製の下地材料/下地層は(図2A及び2Bに図示され、後述でより詳細に説明される)織布木綿フランネルであってもよい。樹脂を比較的低粘度で調合する場合、露出したフランネルは、樹脂被覆した布芯上に存続してもよい。これにより物品の表面に暖かい質感が付与される。他の織布の下地材料/下地層は、以下の特許請求の範囲に示されていない限り、限定されることなく、各種の織布基材(例えば、平織、綾織、サテン織、デニム)、メリヤス基材、不織布基材を含んでもよい。
【0029】
他の実施形態では、樹脂は、非粘着性表面(例えば、シリコーン又はPTFE)又は質感紙上に、均質な層厚で被覆してもよい。フィルムを均一な層に被覆した後、下地材料の層は液体樹脂上に敷設してもよい。液体樹脂は織布層(即ち、下地材料)中に毛管作用で運び、硬化中に織布との恒久的な結合を形成してもよい。その後、樹脂の硬化を完了するために物品をオーブンに入れてもよい。硬化の温度は好ましくは60℃~100℃、より好ましくは70℃~90℃で、4時間~24時間硬化してもよい。更に長い硬化時間も許容される。あるいは、非粘着性表面(例えば、シリコーン又はPTFE)又は質感紙上に一定の層厚で液状樹脂を塗布してもよく、その後、織布を液状樹脂の上面に敷設してもよく、その後、別の非粘着性表面を樹脂及び織布の上面に敷設してもよい。この組み立ては、硬化を完了するために、加熱した成形プレスに配置してもよい。成形圧力が最終物品の気泡(空隙)の形成を最小限に抑えるため、プレス内の硬化温度は任意でオーブン内より高くてもよい。プレス内の硬化温度は80℃~170℃、より好ましくは100℃~150℃で、5分~60分、より好ましくは15分~45分間硬化してもよい。
【0030】
樹脂はやや黄色がかった色合いで光学的に透明であってもよい。織布のパターンが樹脂内で目に見えるようにしながらも、織布を耐水性及び耐風性にすることを可能にする油布のような外観の材料を形成するために、顔料を添加していない樹脂を使用してもよい。本実施形態に従って作製した被覆織布は、オーブン内で硬化する(プレス成形なし)か、又は加熱プレス内で硬化してもよい。このような被覆織布は衣料品、特に上着、又は防水装身具;限定するものではないが小銭入れ、ハンドバッグ、バックパック、ダッフルバッグ、旅行かばん、ブリーフケース、帽子等;に使用してもよい。
【0031】
バージン繊維又はリサイクル布繊維から成る不織布マットと組み合わせた本開示に記載の樹脂を用いて、新規なエンボス加工製品が形成された。具体的には、約7mm~約20mm厚の不織布の織物に、本開示に従って調製した樹脂を含浸させてもよい。含浸後、その不織布の織物は、加熱した液圧プレスで10psi~250psi、より好ましくは25psi~100psiの常圧までプレスしてもよい。樹脂を含む不織布の織物はシリコーン剥離ライナーの間に押し込み、ライナーの1方は内側にエンボスパターンを有してもよい。エンボスパターンは1mm~6mm、より好ましくは2mm~4mmの深さの起伏特性を有してもよい。本開示に従って調製した樹脂に構造色顔料、例えば様々な濃淡の雲母顔料 ― その多くは真珠光沢質である ― で更に着色し、このような樹脂をエンボスパターンのある不織布の織物へと成形すると、審美的に好ましいパターンの物品が形成されることが分かった。構造色は、エンボスパターンに対応する明確なコントラスト及び視覚的な深さを形成するために、エンボス特性部において優先的に配列されたことが分かった。あるいは、以下の特許請求の範囲で明示されていない限り、制限されることなく、他の源岩及びプロセスから得た鉱物顔料を鋳造樹脂に配合し、本開示に従って作製した物品に色を付与してもよい。
【0032】
ロールツーロール加工を用いた本開示の1実施形態に従って樹脂被覆織布も形成してよい。皮革のような外観の材料を含む、質感を付与した被覆織布のロールツーロールプロセスでは、樹脂と織布の両方を特定の時間、オーブン内で移動させるために、質感紙をキャリアフィルムとして使用することも多い。本開示の樹脂は、現在当技術分野で使用しているPVC又はポリウレタン樹脂よりも長い硬化時間を必要とする場合があり、従って、ライン速度はそれに応じて遅くしてもよく、又は、硬化オーブンを長くして、硬化時間をより長くしてもよい。鋳造に先立って樹脂を真空脱気することにより、(より少ない残留溶媒、水分、及び捕捉空気により)硬化のための高温が使用可能になり、硬化時間を短縮し、それによりライン引き上げ速度を短縮する。
【0033】
あるいは、エポキシド基へのカルボン酸添加を高速化するための、特定の触媒が当技術分野で公知である。塩基触媒を樹脂に添加してもよく;いくつかの例示的な触媒としては、ピリジン、イソキノリン、キノリン、N,N‐ジメチルシクロヘキシルアミン、トリブチルアミン、N‐エチルモルホリン、ジメチルアニリン、水酸化テトラブチルアンモニウム、及びこれらの類似分子が挙げられる。他の第4級アンモニウム及びホスホニウム分子は、エポキシド基にカルボン酸を添加するための公知の触媒である。種々のイミダゾールも同様に、この反応の触媒として公知である。有機酸の亜鉛塩は硬化速度を改善するだけでなく、耐湿性が改善された有益な特性を硬化フィルムに付与することが知られている。(Werner J.Blank,Z.A.He及びMarie Picci、「Catalysis of the Epoxy‐Carboxyl Reaction」、International Waterborne、High‐Solids and Powder Coatings Symposiumでの公開、2001年2月21~23日(非特許文献1)を参照)。従って、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、いかなる好適な触媒も使用してよい。
【0034】
B.例示的実施形態
以下の例示的な実施形態及び方法は特定の反応パラメータ(例えば、温度、圧力、試薬比率等)を含むが、これらの実施形態及び方法は例示目的のためだけのものであり、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、本開示の範囲を限定するものではない。
【0035】
第1例示的実施形態及び方法
プレポリマーを用いた被覆材料(即ち、上記で開示したような硬化剤)の第1例示的実施形態を作製するために、18部のクエン酸を54部の温めたIPAに溶解した。この溶液に、ESOを12部だけ添加する。IPAを、連続的な加熱及び撹拌(約85℃超)で蒸発させた。これにより、(長時間であっても)ゲル化せずに120℃を超えて加熱できる粘性液体を作製できることが分かった。この粘性液体プレポリマーを80℃未満まで冷却した。この粘性液体に、88部のESOを添加する。最終液体樹脂は、約150℃、1~5分で固体エラストマー生成物へと重合する。(天然獣皮の代替品として機能し得る)被覆材料は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、エポキシ化トリグリセリド及びプレポリマーを用いて反応生成物として形成可能である。
【0036】
第2例示的実施形態及び方法
本例示的実施形態では、30部のクエン酸を60部の温めたIPAに溶解した。この溶液に、20部のESOを撹拌しながらゆっくりと添加した。IPAを、連続的な加熱及び撹拌(85℃超、好ましくは100℃超)で蒸発させた。この粘性プレポリマーを80℃未満(好ましくは70℃未満)まで冷却し、80部のESOを、各種構造色顔料及び0.5部のステアリン酸亜鉛(内部離型剤として)と共に添加した。得られた樹脂をセルロース織布の上に注ぎ、約120℃で10~30分間硬化させた。初期硬化後、材料を80℃のオーブンに配置し、一晩、後硬化させた(約16時間)。その後、材料の表面をサンディングし、滑らかにした(また、任意で研磨した)。得られた材料は皮革のような外観特性を有することが分かった。
【0037】
第3例示的実施形態及び方法
50部のクエン酸を100部の温めたIPAに溶解し、溶解を混合により促進してプレポリマーを形成した。クエン酸が溶解した後、50部のESOを撹拌溶液に添加する。混合液をホットプレートに保持し、この間、連続的な加熱及び撹拌下でIPAを蒸発させる。このような溶液を、様々なホットプレート温度及び空気流条件で複数回形成した。長時間の加熱及び撹拌の後でさえ、反応生成物の量はESO及びクエン酸のみの質量より多いことが繰り返し判明した。IPAの蒸発速度(少なくとも空気流、混合速度、及びホットプレート温度によって決定する)に応じて、2.5~20部のIPAがクエン酸キャップドオリゴマープレポリマーにグラフトされることが分かった。更に、アセトンとIPAとの溶媒ブレンドを反応媒体として使用してもよく、ここでは、アセトンとIPAとの比がプレポリマー上の残留カルボン酸官能基の量、並びにプレポリマー中の分岐量を決定する。IPAの量が多い程、図1で参照しているようにエステル結合を介してクエン酸にIPAがグラフトされることにより、カルボン酸官能基の一部がキャッピングされることにより、クエン酸の有効な機能性が低下して、構造がより直線的になる。IPAの量が少ない程、より多くの残留カルボン酸官能基によって分岐構造がより高度になる。
【0038】
第4例示的実施形態及び方法
50部のクエン酸を100部の温めたIPAに溶解し、溶解を混合により促進してプレポリマーを形成した。クエン酸を溶解した後、50部のESO及び15部の脱脂した金色シェラックを撹拌液に添加する。混合物をホットプレートに保持し、この間、連続的な加熱及び撹拌下でIPAを蒸発させる。シェラックは、得られるプレポリマーの粘度を増加させることが分かった。
【0039】
第5例示的実施形態及び方法
45部のクエン酸を90部の温めたIPAに溶解し、溶解を混合により促進してプレポリマーを形成した。クエン酸を溶解した後、45部のESOを撹拌液に添加する。混合物をホットプレートに保持し、この間、連続的な加熱及び撹拌下でIPAを蒸発させる。
【0040】
第6例示的実施形態及び方法
プレポリマーは、45部のクエン酸を30部の温めたIPA及び60部のアセトンに溶解し、溶解を混合により促進して形成した。クエン酸を溶解した後、45部のESOを撹拌液に添加する。混合物をホットプレートに保持し、この間、連続的な加熱及び撹拌下でアセトン及びIPAを蒸発させる。このような溶液を様々なホットプレート温度及び空気流条件で複数回形成した。長時間の加熱及び撹拌の後でさえ、反応生成物の量はESO及びクエン酸のみの質量より多いことが繰り返し判明した。しかし、グラフトしたIPAの量は第5例示的実施形態に従って形成したプレポリマーよりも少ない(たとえ、両ケースでESO:クエン酸比が1:1であっても)。更に、第5例示的実施形態に従って形成したプレポリマーは、第6例示的実施形態に従って形成したプレポリマーと比較して、粘度が低い。
【0041】
一般的には、プレポリマー形成時のIPAの含有量が多い程、クエン酸のカルボン酸部位にグラフトされるIPAの量が多くなり、よってクエン酸の平均的な機能性が低下し、よって、あまり分岐していないオリゴマープレポリマーが形成されると考えられている。樹脂の最終硬化が妨げられるような程度までクエン酸をIPAでキャッピングする反応条件は、いかなる状況においても見出されなかった。
【0042】
第7例示的実施形態及び方法
第4の例示的実施形態で形成したプレポリマーを、ESOの計算総量が100部になるように追加のESOと混合した。この混合物は透明なエラストマー樹脂へと硬化することが分かった。ASTM D412に従った引張試験では、引張強度は1.0MPaであり、破壊伸長率は116%であることが判明した。
【0043】
第8例示的実施形態及び方法
45部のクエン酸を20部のIPA及び80部のアセトンに加熱攪拌下で溶解し、プレポリマーを形成した。クエン酸を溶解した後、10部のシェラックと共に35部のESOを溶液に添加した。溶媒を蒸発させた後に形成したプレポリマーを冷却した。このプレポリマーを、ESOの総量が100部になるように更に65部のESOと混合した。その後、この混合樹脂をシリコーンマットで鋳造し、透明シートを作製した。ASTM D412に従った引張試験により材料の機械的特性を調べた。引張強度は1.0MPaであり、伸長率は104%であることが分かり、これにより計算弾性率は0.96MPaとなる。
【0044】
第9例示的実施形態及び方法
45部のクエン酸を5部のIPA及び80部のアセトンに加熱攪拌下で溶解し、プレポリマーを形成した。クエン酸を溶解した後、10部のシェラックと共に35部のESOを溶液に添加した。溶媒を蒸発させた後に形成したプレポリマーを冷却した。このプレポリマーを、ESOの総量が100部になるように更に65部のESOと混合した。その後、この混合樹脂をシリコーンマットで鋳造し、透明シートを作製した。ASTM D412に従った引張試験により材料の機械的特性を調べた。引張強度は1.8MPaであり、伸長率は62%であることが分かり、これにより計算弾性率は2.9MPaとなる。第8及び第9例示的実施形態から分かるように、プレポリマー形成中にIPAの存在量が少ない程、より高い弾性率及びより低い伸長率で樹脂の架橋をより高度にするプレポリマーが生成される。これらの反応生成物は、その材料特性においてゴム状というよりプラスチック状である。
【0045】
第10例示的実施形態及び方法
25部のクエン酸を10部のIPA及び80部のアセトンに加熱攪拌下で溶解し、プレポリマーを形成した。クエン酸を溶解した後、5部のシェラックと共に20部のESOを溶液に添加した。溶媒を蒸発させた後に形成したプレポリマーを冷却した。このプレポリマーを、ESOの総量が100部になるように更に80部のESOと混合した。その後、この混合樹脂をシリコーンマットで鋳造し、透明シートを作製した。ASTM D412に従った引張試験により材料の機械的特性を調べた。引張強度は11.3MPaであり、伸長率は33%であることが分かり、これにより計算弾性率は34MPaとなる。第10例示的実施形態から分かるように、プレポリマー及び最終樹脂混合物を適切に設計することにより、高い強度及び高い弾性率の特性を有する可塑性材料が本開示の方法で形成できる。
【0046】
第11例示的実施形態及び方法
第6例示的実施形態のプレポリマーを、ESOの計算総量が100部となるように更にESOと混合した。その後、この混合樹脂をシリコーンマットで鋳造し、透明シートを作製した。ASTM D412に従った引張試験により材料の機械的特性を調べた。引張強度は0.4MPaであり、伸長率は145%であることが分かり、これにより計算弾性率は2.8MPaとなる。
【0047】
第11例示的実施形態から分かるように、プレポリマー及び最終樹脂混合物を適切に設計することにより、高伸長率のエラストマー材料が本開示の方法で形成できる。従って、プレポリマーを適切に設計することにより、本発明の方法は、硬いプラスチックのような外観の材料から高伸長率エラストマー材料までの範囲の材料を製造するために利用できる。一般的に、プレポリマー形成中にグラフトしたIPAの量が多い程、得られる材料の硬さが低下する。溶解シェラックの量が多い程、硬さがやや高く、より強い材料が生成される。弾性率を低下させるためにクエン酸量(最終的な混合処方と比較して)は化学量論的バランスを超えるか、又は下回るように使用してもよい。プレポリマー形成中、カルボン酸基の高レベルのIPAグラフトにより相殺されない限り;化学量論的バランス(約30重量部~100重量部のESO)に近いクエン酸量は一般的に最も硬い材料を生成する。
【0048】
獣皮の有利な特性の1つは広い温度範囲で柔軟性を示すことである。PVC又はポリウレタン系の合成ポリマー系皮革の代替物は、-10℃未満又は20℃未満の温度で特に硬くなる場合がある(CFFA‐6a ― 耐低温割れ性 ― ローラー法に従った試験に基づく)。本開示のいくつかの実施形態に従って調製した材料は、耐低温割れ性が不十分である場合がある。以下の例では、耐低温割れ性を改善する調合が提供される。耐低温割れ性は、柔軟性可塑剤を添加することで改善し得る。数種の天然植物油は、良好な低温流動性を示す場合もあり、特に好ましくは、多価不飽和油類であってもよい。このような油類は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、比較的高いヨウ素価(例えば、100超)を有する任意の非エポキシ化トリグリセリド(上記第1節に開示したものなど)であってもよい。あるいは、可塑剤として一価不飽和油類を添加してもよく;1種の例示的な油は、熱的に安定で、かつ腐敗しにくいことが分かっているヒマシ油であってもよい。また、これらの油類の脂肪酸及び脂肪酸塩を可塑剤として使用してもよい。従って、本開示の範囲は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、可塑剤の存在又は特定の化学的性質により何ら限定されるものではない。
【0049】
別のアプローチは、低温柔軟性を改善し得る重合添加剤を使用することである。好ましい重合性添加剤は「エポキシ化天然ゴム」(ENR)であってもよい。ENRは様々なレベルのエポキシ化の異なるグレードで市販されており、例えば二重結合の25%エポキシ化からENR‐25グレードが得られ、二重結合の50%エポキシ化からENR‐50グレードが得られる。エポキシ化レベルが高い程、ガラス転移温度Tが上昇する。最終樹脂の耐低温割れ性を最も改善するためには、Tが可能な限り低いままであることが有利であり、従って、ENR‐25はポリマー可塑剤として使用するには好ましいグレードと言える。最終樹脂中の低温割れ温度を更に低下させるには、更に低いレベルのエポキシ化が有利であると言える。しかし本開示の範囲は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、左程限定されるものではない。
【0050】
第12の例示的な実施形態及び方法
ENR‐25を、2ロールゴム配合ミルでESOと混合した。100部のENR‐25に計50部のESOを添加できるまでESOをゆっくりと添加し、その後に粘度が低下して更なるミルでの混合が不可能になることが分かった。その後、このべたべたした材料を容器に移し、Flacktek(登録商標)Speedmixerで更に混合した。計300部のESOを最終的に100部のENR‐25に組み入れたときに、流動性混合物が得られた。形成した混合物は相間離隔しなかった。
【0051】
第12例示的実施形態の材料は以下の特許請求の範囲に示されていない限り、制限又は限定されることなく、当技術分野で公知の多数の手段により単一の工程で混合してもよい。具体的には、いわゆるSigma Bladeミキサーを使用して、単一の工程でENRとESOとの均質な混合物を形成してもよい。同様に、Buss Kneaderなどの混錬機を使用して、当業者に周知の連続的ミキサー型構造でそのような混合物を形成する。均質な混合物を、上記例に記載のプレポリマーと混合して、改良した耐低温割れ性を有する皮革のような外観の材料として使用し得る展着性樹脂を形成してもよい。また、第12例示的実施形態により開示されるようなENR修飾ESOを用いて形成した材料は、ENRを含まない樹脂と比較して、引裂強度、伸長率、及び耐摩耗性が改善される可能性がある。
【0052】
C.追加処理
本開示に従って製造した物品は、当技術分野で公知の任意の手段により仕上げてもよい。このような手段には、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、エンボス加工、焼印、サンディング、擦過、研磨、カレンダー加工、ワニス加工、ろう引、染色、着色等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本開示の樹脂を織布又は不織布マットに含浸させ、このような物品を硬化させることにより例示的な結果が得られる。物品を硬化させた後、表面をサンディングし、不完全な部分を除去し、基材の一部を露出させてもよい。このような表面は、図3~7で例示するように、獣皮に非常に類似した特徴を示す。その後、その表面は、特定の用途に応じて、天然油又はワックス保護剤で処理してもよい。
【0053】
D.用途/例示的生成物
本開示に従って製造した被覆織布、ENR系材料、及び/又は油布のような外観の材料は、獣皮及び/又は合成樹脂被覆織布が現在使用されている用途に使用してもよい。そのような用途には、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、ベルト、小銭入れ、バックパック、靴、テーブル面、座席等が挙げられる。これらの物品の多くは、合成材料代替物から作製した場合には、非生分解性であり、リサイクル不可能な消耗品である。このような製品を代替的に本開示に従って作製した場合、そのような製品は生分解性であり、よって廃棄の問題を生じない。これはESO及び天然酸から同様に調製したポリマーの生分解性で研究され、示されているとおりである。Shogrenら、Journal of Polymers and the Environment、12巻、3号、2004年7月(非特許文献2)。更に、耐久性及び安定性を有するためにはかなり加工を必要とする(その一部は有害化学物質を使用する)獣皮とは異なり、本明細書に開示した材料はあまり加工を必要とせず、環境に優しい化学物質を使用する。また、獣皮はサイズが限定的であり、大きな生地を製造できるようにするには非効率であるという欠陥を持つ場合もある。本明細書に開示した材料には、この種のサイズ制限は無い。
【0054】
上記の様々な例示的実施形態及び方法について説明したような液体樹脂前駆体を、加熱した表面(ホットプレート)上に配置した木綿フランネル織布に塗布したときの、得られた材料の断面図を、図2A及び2Bに示す。ホットプレートの表面温度が約130℃~150℃である場合、樹脂は1~5分で反応することが分かった。樹脂の粘度は、表面に注ぐ前の重合に許容される時間により制御してもよい。粘度を制御することにより、表面への浸透の程度を制御し、得られる生成物に様々な効果を与えてもよい。例えば、低粘度の樹脂は織布102全体に浸透し、図2Aに示すように、スエード状又は毛羽立てた外観の表面を付与し、スエード仕上げの天然皮革のような外観の材料100を形成する可能性がある。樹脂の粘度が高い程、織布102に部分的にしか浸透せず、図2Bに示すように、光沢のある、研磨されたような外観の表面を付与し、光沢仕上げの天然皮革のような外観の材料100’を形成する可能性がある。このようにして、天然獣皮製品を模倣する改変品を形成してもよい。対照的な図2A及び2Bに示すように、スエード仕上げを有する天然皮革のような外観の材料100は、光沢仕上げを有する天然皮革のような外観の材料100’よりも、織布102からポリマー104を経て延伸する織布延伸部103を多く示す場合がある。光沢仕上げの天然皮革のような外観の材料100’において、織布延伸部103の大部分は、ポリマー104内で終端している場合もある。
【0055】
あるいは、樹脂を含まないスエードのような外観(即ち、比較的柔らかい)の表面を有する物品は、ホットプレート上で被覆した非混和性ペースト(例えば、シリコーン真空獣脂)中にフランネルを埋め込むことにより形成してもよい。その後、樹脂をフランネルの表面に注ぐことができるが、樹脂は非混和性ペーストを貫通することはない。硬化後、非混和性ペーストは、その表面にスエードのような感触を残したまま物品から除去してもよい。従って、当業者であれば、本明細書に開示したような天然皮革のような外観の材料は、限定又は制限されることなく、木綿フランネル基材に含浸させたエポキシ化植物油と天然由来多官能酸との反応生成物として製造してもよく、そのように形成した物品は、物品の片側に、ほとんど含浸させていないフランネルの基材を介して部分的にしか含浸させていない反応生成物を有する。これらの例では木綿フランネルを使用したが、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、リネン、麻、ラミー、及び他のセルロース系繊維から作製したものを含む任意の好適なフランネル及び/又は織布を使用してもよいが、これらに限定されるものではない。また、リサイクル基材(アップサイクル基材)として不織布基材も使用してよい。得られる物品に伸縮性を付加するために、毛羽立てたニットを使用してもよい。ランダムマット(例えばPellon社、詰め綿としても公知)を特定の物品の基材として有効に使用できる。別の例示的実施形態では、布下地層及び/又は下地材料は、タンパク質系繊維から構成してもよく、この繊維には、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、ウール、絹、アルパカ繊維、キビュート、ビクーナ繊維、ラマウール、カシミヤ、及びアンゴラが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
本開示に従って作製し得る追加の例示的な製品を図3~8Bに示す。天然皮革のような外観の材料として機能し得る材料のシートを図3に図示し、図4~6は財布を構成するために使用し得る様々な天然皮革のような外観の材料を示す。図4A、4B、及び4Cの材料はその材料に作られた複数の穴を有していることが示され、これらの穴は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、従来のドリルを用いて作製してもよい。対照的な図4A、4B、及び4Cは、材料を作製するための方法が材料に多様な質感を付与するように構成されていることを示しており、その質感は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、滑らかさ、粒状性、軟らかさ等(例えば、様々な獣皮の質感に類似している)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0057】
図5及び図6に示す材料断片は、レーザー裁断機を用いて裁断してもよい。獣皮とは異なり、天然皮革のような外観の材料の端縁はレーザー切断により切断線に沿って焦げたり、劣化することはなかった。本開示に従って作製した天然皮革のような外観の材料で構成され、仕上げた財布を図6に示す。図5に示す分離した断片は、獣皮から作製した同様の物品に期待されるような外観、剛性、及び強度を有する簡単なクレジットカード財布又はキャリヤ(図6に示されているような)を構築するために、従来のように組み立ててもよい(例えば、縫製)。天然皮革のような外観の材料は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、従来の技術を用いて、縫製及び/又は他の方法で完成品へと加工してもよい。図7に示すように、また上記で詳述したように、本開示に従って作製した物品に様々な特徴を付与するために、織布に樹脂を含浸させてもよい。
【0058】
また、本開示に従って製造した樹脂は、天然の獣皮の配色に合うように着色してもよい。有害物質を含まない構造色顔料及び/又は鉱物顔料が特に有用である。例示的な構造色顔料のこのような1例としては、Jaquard PearlEx(登録商標)顔料が挙げられる。比較的少ない充填量で構造色顔料を混成すると、非常に視覚的に美しい天然皮革のような外観の材料が形成される。別のこのような例の好適な顔料はKreidezeit Naturfarben社から入手してもよい。更に、得られた表面を軽くサンディングすると、なめして染めた獣皮に非常に類似した材料が得られることが分かった。
【0059】
開示した例は、1層のみの織布を利用したが、他の例示的な試料は、複数の織布層で形成し、より厚い皮革のような外観の製品を形成している。エポキシド基と水酸基との反応は、いかなる縮合副生成物も形成しないことから、形成し得る横断面厚さに固有の制限はない。樹脂被覆織布や不織布は、座席、筆記面、及び部屋の仕切りなどのオフィス家具;ジャケット、靴、及びベルトなどの衣料品;ハンドバッグ、小銭入れ、旅行かばん、帽子、及び財布などの装身具;などの用途で使用し;また、壁装材、床材、家具表面、及び窓周り装飾などの住宅装飾品に有用である可能性がある。動物性皮革により提供される現在の用途は、本開示に従って作製した材料の潜在的な用途であると考えられる。
【0060】
更に、石油化学系柔軟性フィルムに提供される現在の用途;特にPVC及びポリウレタン被覆織布に提供される用途は、本開示に従って作製した材料の潜在的な用途であると考えられる。また、本明細書に開示するような樹脂は、本明細書に開示するような時間及び温度に従って硬化したとき、オフガス蒸気をほぼ含まない。従って、従来のフィルムより厚くする用途もまた、本開示に従って調製した樹脂を利用してもよい。例えば、この樹脂を使用して好適な鋳型で三次元製品を鋳造してもよい。本開示に従って作製したボールとして構成したこのような三次元製品の上面図を図8Aに示し、その側面図を図8Bに示す。当該ボールは樹脂系であってもよく、エポキシ化大豆油及びクエン酸系の処方から、構造色顔料と共に製造してもよい。簡単な試験から、ボールは非常に低い反発を示し、優れた振動吸収品質を有すると期待されることが示された。
【0061】
先行技術の三次元鋳造樹脂製品は通常、スチレン延伸ポリエステル(オルトフタル系又はイソフタル系)製である。このような製品は現在、二部エポキシ又は二部ポリウレタン樹脂から構成している場合がある。このような製品は現在、シリコーン鋳造樹脂から構成している場合がある。現在、二部エポキシに提供される用途の1例はテーブル及び装飾象嵌の厚膜被膜であり、ここでエポキシは、満足のいく審美的デザインを形成するために選択的に着色してもよい。このような用途は、本開示に従って形成した鋳造樹脂でうまく複製した。更に、有害なオフガス又は捕捉空気を使用せずに、本開示に従って形成した樹脂から小さなチェスの駒をうまく鋳造した。従って、本開示に従って作製した様々な材料には多数の用途が存在し、本明細書に開示した任意の方法で製造した最終物品の特定の使用目的は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、特定の用途に限定されるものではない。
【0062】
3.エポキシ化ゴム
A.概要
上記第2節に開示されているように調製した被覆織布は、そのような材料を織布及び不織布基材に流すための液状粘性樹脂を使用する。得られた硬化材料は、架橋間のポリマー柔軟性が制限された高度分岐構造を反映した機械的特性(適度な強度及び適度な伸長率)を有する。機械的特性を増加させる1つの手段は、線状構造が多く、低い架橋密度で硬化できるポリマー材料から始めることである。被覆織布の処方にシェラック樹脂(高分子量の天然樹脂)を組み込むことは強度及び伸長率を改善することが分かったが、材料をより柔軟にすることも分かった。第3節に開示したような材料調合物 ― エポキシ化ゴムは、室温で材料の柔軟性を損なうことなく優れた機械的特性(非常に高い強度及びより高い伸長率)を示すことが可能である。
【0063】
エポキシ化天然ゴム(ENR)系の天然材料を開示しており、これは動物性物質を含まず、石油化学物質含有材料をほぼ含まない。特定の実施形態では、この天然材料は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、皮革のような外観の材料(獣皮及び/又は石油化学系の皮革のような外観の製品(例えば、PVC、ポリウレタン等)の代替物であってもよい)として機能し得る。更に、本明細書に開示したようなENR系の天然材料は、特定の人に過敏症を引き起こす可能性のあるアレルゲンをほぼ含まないように構成してもよい。本明細書に開示した材料は、石油化学物質を含まないヴィーガンレザー用の他の提案されている材料より費用対効果が高く、拡張性が高い。特定の処理により、天然材料を耐水性及び耐熱性にして、低温での柔軟性を保持するようにしてもよい。この一連の有益な特性は、特定の用途に適し、本明細書に開示され、議論されるような、本開示に従って製造され、追加の処理を施したENR系のいかなる天然材料にも適用可能である。
【0064】
少なくとも1つの実施形態では、エラストマー材料は少なくとも、エポキシ化天然ゴムから更に成る一次ポリマー材料、及び「第1節 ― 硬化剤」で開示したような多官能カルボン酸とエポキシ化植物油との反応生成物から成る硬化剤を含むように形成してもよい。一次ポリマー材料が硬化剤と比較して体積割合が大きいエラストマー材料も形成してよい。以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、エポキシ化天然ゴムのエポキシ化度が3%~50%であるエラストマー材料も形成してよい。エラストマー材料の別の実施形態は、エポキシ化天然ゴムから成る一次ポリマー材料、及び硫黄系でも過酸化物系でもない硬化系から構成してもよく、当該硬化系は生物資源から得る反応物を90%を超えて含む。
【0065】
別の実施形態では、物品は、エポキシ化天然ゴムと硬化剤との反応生成物から形成してもよく、硬化剤は、天然由来多官能カルボン酸とエポキシ化植物油との反応生成物である。別の実施形態では、コルク粉末及び析出シリカを含む充填剤を有するエポキシ化天然ゴムから成る物品を形成してもよく、当該物品は皮革のような質感を有するシートとして成形してもよい。別の実施形態では、反応生成物がコルク粉末及びシリカの充填剤を更に含む物品を形成してもよい。別の実施形態では、反応生成物の2つ以上の層がほぼ異なる機械的特性を有し、機械的特性の違いが充填剤組成物の違いによるものであるように物品を形成又は構成してもよい。
【0066】
B.例示的方法及び製品
エポキシ化天然ゴム(ENR)は商標名Epolyprene(登録商標)(三洋化成工業株式会社)で市販している製品である。ENRはそれぞれ25%エポキシ化及び50%エポキシ化の2つのグレード、ENR‐25及びENR‐50が入手可能である。しかし、特定の実施形態では、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、3%~50%のエポキシ化レベルのENRを使用してもよいと考えられている。当業者であれば、タンパク質変性させた、又は除去したラテックス出発生成物からもENRを製造してよいことは理解するであろう。天然ゴムのエポキシ化の間、アレルゲン活性が著しく減少することが分かった ― Epoxypreneに関する文献は、「ラテックスアレルゲン活性」が未処理の天然ゴムラテックス製品のわずか2~4%であることを開示している。このことはラテックスアレルギーを経験する可能性のある人にとってはほぼ改善されたと言える。ENRは、本開示の材料において、開示及び請求した製品に伸長率、強度、及び低温柔軟性を付与するために使用する。
【0067】
ENRは従来、ゴム化合物の文献で一般的である化学物質、例えば、硫黄硬化系、過酸化物硬化系、及びアミン硬化系により硬化する。本開示によれば、上記第1節で完全に開示しているように、カルボン酸官能性を有する特別に調製した硬化剤は、硬化剤として使用されるように調製する。天然由来多官能カルボン酸含有分子は多数存在し、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの分子はいずれもENRに混和性がなく、よって効果及び有用性が限られている。また、例えば、ENRに可溶なクエン酸やエポキシ化植物油の硬化剤を調製できることが分かった。具体的には、エポキシ化大豆油(ESO)及びクエン酸の硬化剤は、ESOのゲル化を防止するめに過剰量のクエン酸を添加して調製した。クエン酸自体はESOに混和性がないが、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトンなどの溶媒(例えば、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく)によりクエン酸及びESOの均一な溶液を作製できることが有利にも発見された。この溶液では、過剰量のクエン酸は、ESOと反応させて、図1に示すようなカルボン酸キャップドオリゴマー材料(まだ液体である)を形成する。混和溶媒は、クエン酸上のカルボン酸官能基の一部と少なくとも部分的に反応する少なくとも一部の水酸基含有(即ち、アルコール)溶媒を含む。溶媒の大部分は高温及び/又は真空で除去するが ― ENRのための混和性硬化剤として使用し得る硬化剤が残留する。このようにして硬化剤を構築することにより、得られた材料には石油化学的資源をほぼ投入しなくてよい。
【0068】
第1例示的実施形態及びENR系材料の調製に使用する硬化剤の形成プロセス
50部のクエン酸を、50部のイソプロピルアルコール及び30部のアセトンの温めたブレンドに溶解することにより、硬化剤を調製した。クエン酸が溶解した後、15部の(金色の脱脂した)シェラックフレークを50部のESOと共に混合物に添加した。混合物を加熱し、揮発性溶媒が全て蒸発するまで連続的に撹拌した。イソプロピルアルコールの総残留量がクエン酸、ESO、及びシェラックよりも多いことは注目に値する ― これはイソプロピルアルコール(IPA)の一部が(エステル結合を介して)クエン酸キャップド硬化剤にグラフトされたことを意味する。アセトンに対するIPAの比率を変えると、硬化剤へのIPAのグラフト度を変化させることが可能になる。
【0069】
第2例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
25%エポキシ化したエポキシ化天然ゴム(ENR‐25)を、ゴム100部に対して30部の第1実施形態で調製した硬化剤に混合した。また、充填剤として70部の粉砕コルク粉末(Amorim社製MF1)を添加した。この混合物は通常の配合慣例に従って2ロールゴムミルで作製した。この混合物をシート状にし、110℃で30分間成形した。この混合物は、硫黄及び過酸化物硬化系と同様の伸長率及び歪み回復をもって適切に硬化することが分かった。
【0070】
第3例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
25%エポキシ化したエポキシ化天然ゴム(ENR‐25)を、ゴム100部に対して45部の第1実施形態で調製した硬化剤に混合した。また、充填剤として70部の粉砕コルク粉末(Amorim社製MF1)を添加した。この混合物は通常の配合慣例に従って2ロールゴムミルで作製した。この混合物をシート状にし、110℃で30分間成形した。この混合物は完全に硬化したが、過剰架橋系のいくつかの特性:低い耐引裂性及び非常に高い弾性を有することが分かった。
【0071】
第4例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
25%エポキシ化したエポキシ化天然ゴム(ENR‐25)を、ゴム100部に対して15部の第1実施形態で調製した硬化剤に混合した。また、充填剤として70部の粉砕コルク粉末(Amorim社製MF1)を添加した。この混合物は通常の配合慣例に従って2ロールゴムミルで作製した。この混合物をシート状にし、110℃で30分間成形した。この混合物は硬化したが、比較的低い硬化状態であり;低い弾性及び不十分な歪み回復などの特性を有することが分かった。
【0072】
第5例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
25%エポキシ化したエポキシ化天然ゴム(ENR‐25)を、ゴム100部に対して30部の第1実施形態で調製した硬化剤に混合した。また、充填剤として70部の粉砕コルク粉末(Amorim社製MF1)を添加した。また、20部の(回収布から得た)再生(garneted)繊維を添加した。この混合物は通常の配合慣例に従って2ロールゴムミルで作製した。この混合物をシート状にし、110℃で30分間成形した。この混合物は完全に硬化しており、更に繊維量に応じて比較的高い延伸弾性率を有していることが分かった。
【0073】
第6例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
25%エポキシ化したエポキシ化天然ゴム(ENR‐25)を、ゴム100部に対して30部の第1実施形態で調製した硬化剤に混合した。また、充填剤として60部の粉砕コルク粉末(Amorim社製MF1)を添加した。また、80部の(回収布から得た)再生(garneted)繊維を添加した。この混合物は通常の配合慣例に従って2ロールゴムミルで作製した。この混合物をシート状にし、110℃で30分間成形した。この混合物は完全に硬化しており、更に繊維量に応じて非常に高い延伸弾性率を有していることが分かった。
【0074】
第7例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
25%エポキシ化したエポキシ化天然ゴム(ENR‐25)を、ゴム100部に対して60部の第1実施形態で調製した硬化剤に混合した。また、反応性可塑剤として35部のESOを添加した。また、充填剤として350部の粉砕コルク粉末(Amorim社製MF1)を添加した。また、30部の(回収布から得た)再生(garneted)繊維を添加した。この混合物は通常の配合慣例に従って2ロールゴムミルで作製した。この混合物をシート状にし、110℃で30分間成形した。この混合物は完全に硬化しており、剛性で、更に、繊維量に応じて比較的高い延伸弾性率を有していることが分かった。
【0075】
第8例示的実施形態、及びENR系材料の調製に使用する硬化剤形成のプロセス
50部のクエン酸を110部のイソプロピルアルコールの温めたブレンドに溶解して硬化剤を調製した。クエン酸が溶解した後、その混合物に50部のESOを10部の蜜蝋と共に添加した。混合物を加熱し、揮発性溶媒が全て蒸発するまで連続的に撹拌した。イソプロピルアルコールの総残留量は、クエン酸、ESO、及び蜜蝋よりも多い ― これはイソプロピルアルコール(IPA)の一部が(エステル結合を介して)クエン酸キャップド硬化剤にグラフトされたことを意味する。還元した液体混合物を微細な析出シリカ(Evonik社製Ultrasil 7000)に添加し、その後の処理で簡単に添加するための50重量%の乾燥液体濃縮物(DLC)を作製した。
【0076】
第9例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
25%エポキシ化したエポキシ化天然ゴム(ENR‐25)を、ゴム100部に対して30部の追加の微細析出シリカと共に、50部の第8実施形態で調製した硬化剤DLCに混合した。第8例示的実施形態で調製した硬化剤DLCを混合すると、DLCとして予め分散していない硬化剤に混合するときに経験する処理中のいくらかのべたつきが排除されることがわかった。得られた混合物を約50psiのプレス中、110℃で30分間硬化させ、半透明の厚板を作製した。
【0077】
本実施形態の材料は、獣皮に見られるものと類似した特性;折り畳み後の遅い回復、振動減衰特性、及び高引裂強度を有することが分かった。総シリカ充填量(55部)及びこの特定の硬化剤が、この材料の「不可逆的な」特徴に寄与すると考えられている。理論に捕らわれてはいないが、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、総シリカ充填量はパーコレーション閾値に近似しており、不可逆特性をもたらす粒子‐粒子相互作用を生じさせる可能性がある。このことは、不可逆的材料を形成する手段として室温付近でTを経験するポリマー調合への依存に対しては好ましい機序である。何故ならこのようなアプローチは不十分な耐低温割れ性をもたらすからである。
【0078】
第10例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
25%エポキシ化したエポキシ化天然ゴム(ENR‐25)を、ゴム100部に対して30部のいわゆる「木綿化」麻繊維に混合し、この混合物を、薄通しを利用する2ロールミルで混合し、繊維を均一に分散させた。このマスターバッチに、第8例示的実施形態で調製した50部の硬化剤DLCを、30部の追加の微細析出シリカと共に添加した。得られた混合物を約50psiのプレス中、110℃で30分間硬化させ、半透明の厚板を作製した。第10例示的実施形態の材料は、繊維充填量に応じて破断時の伸長率が大幅に低く、弾性率が大幅に高くなる変化を伴う第9例示的実施形態の材料と類似した特性を有することが分かった。
【0079】
第11例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
ENR‐25とココナッツ木炭とを混合することによりENR系材料の黒色バッチを調製し、所望の黒色を達成した。黒色着色剤に加えて、他の成分を添加して、加工可能なゴムバッチを得た。他の成分には、粘土、析出シリカ、追加のエポキシ化大豆油、ヒマシ油、精油付臭剤、トコフェロール(ビタミンE ― 天然抗酸化剤として)、及び硬化剤が挙げられる。次いで、この材料を150℃で25分間、引張プラーク鋳型中で硬化させ、硬化を完了した。
【0080】
第12例示的実施形態及びENR系材料のプロセス
ENR‐25とコルク粉末とを混合することによりENR系材料の茶色バッチを調製し、所望の茶色及び質感を達成した。コルクに加えて、他の成分を添加して、加工可能なゴムバッチを得た。他の成分には、粘土、析出シリカ、追加のエポキシ化大豆油、精油付臭剤、トコフェロール(ビタミンE ― 天然抗酸化剤として)、及びプレポリマー硬化剤が挙げられる。次いで、この材料を150℃で25分間、引張プラーク鋳型中で硬化させ、硬化を完了した。
【0081】
第11及び第12実施形態に従って調製した材料の引張応力‐歪み曲線を図9に示す。コルクを充填した茶色のバッチ(第12実施形態)は、この特定の例では黒色バッチ(第11実施形態)よりも弾性率が高いことが分かる。これらの2つの例示的実施形態では、茶色バッチ(第12実施形態)はショアA硬度が86であり、一方、黒色バッチ(第11実施形態)はショアA硬度が79であった。
【0082】
追加材料の最適量は、ENR系材料の特定の用途に応じて様々であり、追加材料の様々な範囲を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
従来のゴム処方に特徴的な範囲内でバッチ/処方の弾性率を変化させるために、他の成分:粘土、析出シリカ、追加のエポキシ化大豆油、ヒマシ油、及び/又は硬化剤の量の変更を利用してもよい。ショアA硬度が約50~約90の範囲になるようにゴム調合物を選択的に配合してもよいことは、ゴム配合に精通している者に認識されている。例示的調合物から、これらの化合物がエポキシ化天然ゴムの期待される性能の範囲内に収まることが示されている。更に、従来配合されている天然ゴムは10~25MPaの強度値を達成する可能性があることが知られている。第11例示的実施形態は、従来配合されている天然ゴムと一致する物理的特性を示す。
【0085】
本開示に従って作製した材料は更に、より強度の高い製品を作製するために、連続繊維で補強してもよい。補強のための方法には、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、織布と不織布の両方、一方向撚糸、及びパイル一方向層の使用が挙げられるが、これらに限定されるものではない。補強材は、好ましくは天然繊維及び糸に由来するものであってもよい。例示的な糸には、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、木綿、ジュート、麻、ラミー、サイザル、ココナッツ繊維、カポック繊維、絹、又はウール、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定又は制限されることなく、特定の用途に好適なものとして、ビスコースレーヨン、Modal(登録商標)(特定の種類のビスコース、Lenzing社製)、リヨセル(Tencel(登録商標)としても知られる、Lenzing社製)、又はキュプラレーヨンなどの再生セルロース繊維も使用してよい。代替的に、補強は、パラアラミド、メタアラミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、及び同様の高強度繊維をベースとする合成繊維糸の強度を必要とする場合がある。別の例示的な実施形態では、補強層及び/又は材料は、タンパク質系繊維から構成してもよく、以下の特許請求の範囲に別段に示されていない限り、この繊維には、ウール、絹、アルパカ繊維、キビュート、ビクーナ繊維、ラマウール、カシミヤ、及びアンゴラが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例示的天然糸は、その強度を向上させ、その横断面径を小さくし、繊維‐エラストマー結合特性を向上させる天然繊維溶着プロセスにより処理することが有利である。このような糸は、補強材とエラストマーとの間の相互浸透特性を提供するだけでなく、補強材の強度を向上する糸に撚り合わせてもよい。特定の用途では、織物補強材及び編物補強材と比較して、撚り合わせた層の一方向補強材により補強材を提供することが好ましい場合もある。そのような織物補強材及び編み物補強材は、製品の硬さを向上させる場合もあるが、糸及び繊維の周囲に応力集中特性を形成することにより、引裂強度に悪影響を及ぼす場合もあることが分かった。対照的に、様々な撚り合わせ角度での一方向補強は、このような応力集中特性を回避する可能性がある。関連する方法では、不織布マットは、規則的に配向した応力集中特性を含まないが、高い繊維体積分率で長い補強繊維長を可能にするので、補強材として使用してもよい。関連する方法では、一体的に混合した繊維含有物は硬さを改善するが、特定の体積及び重量分率では引裂強度を低下させることが分かった。総繊維含有量が50phr(従来のゴム配合命名法)を超えたときに引裂強度の改善が観察され、特に加工中に繊維長が均一に分散し、良好に保持される。
【0086】
本開示の材料の成形及び硬化は、孔隙のない物品を達成する適度な圧力しか必要としないことが分かった。従来のゴム硬化系はガスを放出して通常500psi超、多くの場合2000psi付近の成形圧力を必要とするが、本明細書で開示した化合物は、強化及び孔隙の無い物品を達成するために20psi~100psi、より具体的には40psi~80psiの成形圧力しか必要としない。実際に必要とされる圧力は、最終物品に必要な材料流動量及びディテールに、より依存する可能性がある。このような低い成形圧力により、大幅に低いトン数のプレス機が使用可能になり、それに応じて安価になる。このような圧力はまた、工作機械器具を大幅に安価にし;エンボス加工した質感紙でさえ、本開示に従って作製したエラストマー材料に好適なパターンを形成することが見出され、このような質感紙は、パターンのディテールを損なうことなく複数のサイクルで再利用可能であることが見出されている。材料の縁端強度は壁の無い工作機械器具を使用する場合でも適切であり ― これにより、工具洗浄が迅速になり、工作機械器具コストを大幅に削減できることが分かった。
【0087】
低い成形圧力により更に、このようなエラストマー材料を弾性多孔質コア基材の表面に直接成形することが可能になる。例えば、この材料は、柔らかく吸音特性を示す弾性の床材製品又は自動車内装製品として、不織布断熱マットにオーバーモールドしてもよい。同様に、製品は、基材に損傷を与えることのない軟材又は同様の低圧縮強度基材にオーバーモールドしてもよい。
【0088】
前述したように、エポキシド基へのカルボン酸付加を迅速化するための特定の触媒が当技術分野で公知であり、このような触媒は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、本開示に従った処方物を調合する際に使用してもよい。
【0089】
獣皮は、通常配合エラストマーとは異なる伸長率、弾性、損失弾性率、硬さの点で明確な特徴を有する。特に獣皮は温度に全く関係なく ― ひび割れを起こすことなく折り返してもよい。つまり、獣皮は低温で脆くなる材料相を持たない。また、獣皮は、通常配合エラストマー化合物では一般的ではない振動減衰特性を有する。獣皮は折り目をつけたり折り曲げたりした後、回復が遅いが、通常、塑性変形を最小限に抑えて完全に回復する。これらの特性は、本明細書に開示した例示的実施形態及びその方法で本開示に従って配合した材料において模倣可能である。
【0090】
C.追加的処理
本開示に従って製造した物品は、当技術分野で公知の任意の手段により仕上げてもよい。そのような手段には、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、エンボス加工、焼印、サンディング、擦過、研磨、カレンダー加工、ワニス加工、ろう引、染色、着色等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。そのような物品は、獣皮に非常に類似した特徴を示すように構成してもよい。その後、特定の用途に応じて、表面を天然油又はワックス保護剤で処理してもよい。
【0091】
D.用途/追加的な例示的製品
本開示の材料を用いて成形した物品は、石油化学系の皮革のような外観の製品及び/又は獣皮製品に対する植物系代替品として使用してもよい。1つの例示的実施形態では、物品は、実質的に所望の用途に応じて様々な質感を有するシートとして成形してもよい。当該シートは、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、室内装飾品、座席、ベルト、靴、ハンドバッグ、小銭入れ、バックパック、ストラップ、馬具、財布、携帯電話ケース、及び同様の物品などの耐久財に使用してもよい。あるいは、このような材料は靴底、靴のつま先、靴のヒールカップ、靴の甲被、小銭入れ、馬の鞍及び鞍の部品、ヘルメットカバー、チェアアームレスト、ならびに類似の物品などの用途において、最終的な物品の形状になるように直接成形してもよい。
【0092】
本開示の材料は、弾性材料の上にオーバーモールドしてもよく、従って床材、運動用マット、又は吸音パネルとして使用してもよい。同様に、これらの材料は例えば衣服分野の耐摩耗性改善のための膝パッチ又は肘パッチとして、衣服上にオーバーモールドしてもよい。同様に、オートバイ用衣服(例えば、革ズボン)及び馬具には、局所的な耐摩耗性及び保護を改善するために、本開示の材料をオーバーモールドしてもよい。
【0093】
複雑な三次元物品及び多重積層物品へと本開示の材料を成形してもよい。即ち、本開示の特定の調合物は引裂強度を向上する可能性があり、一方、本開示の他の調合物は耐摩耗性を向上する可能性がある。そのような調合物は、1つの調合物のみから成る物品と比較して全体的な性能が向上している物品を提供するために、積層及び共成形してもよい。三次元物品は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、付加的な製品特性、接着点、及び他の機能性を提供するために成形してもよい。三次元物品はまた、各部位に必要とされる機能性を提供するために、物品内の様々な部位に配置した複数の調合物から構成してもよい。
【0094】
このような成形中の機能の1例を図10A及び10Bに示す。図はENR系材料から成るベルトの一部の透視図である。具体的には、図10Aでは、テーパ状の外観(図10Aの右手側に示す)をシート状に成型してもよく、これは後で細く切ってベルト部分にする。厚さを縮小すると(厚さが縮小した領域に下地材料/下地層(例えば、不織布マット)が存在しないことに起因している場合もある)、折り畳みバックル保持領域が、ベルト上の畳まれていないベルト部分とほぼ近似した厚さになり、これは図10Bに示されており、図中、厚さが縮小した領域がバックルと係合している。また、ベルト上で折り返された領域は、シートの初期成形中に使用されるサイクルと同様の硬化サイクルで、折り返し領域の間に成形された追加の樹脂又はENR系材料で優先的に所定の位置に接着してもよい。
【0095】
一連の保持溝及び隆起を図11に示し、保持溝及び隆起は摩擦に基づく保持特性を得るためにベルトの端部に成形してもよい。即ち、織布ナイロン又は他の布で作製したいくつかのベルトは、ベルト状に織り込んだリブと留め金に使用する金属バーとの間の摩擦により着用者に締め付けられ、保持される。このような特徴は、一般的なベルトバックルの保持に使用するために開けられた穴の周りに応力集中部が発生することを防ぐという点で有利である可能性がある。本開示のENR系材料を作成する際に、(シリコーン又は金属であってもよい)成形工作機械器具内に適切な特徴を形成することにより、ベルトの一部の位置を保持するための保持溝及び隆起及び/又は他の特徴をベルトシートに容易に成形できる。
【0096】
ベルトとして使用するように構成したENR系材料はシート状に作製してもよく、また、図12に図示したパターンに従って成形により製造してもよい。図12に示すように、シートは様々な層から構成してもよく、シートの各外側層はENR系材料(例えば、図12の「シート状ゴムプリフォーム」)から構成してもよく、その層の間に1種以上の繊維状の下地材料/下地層が配置されている。下地材料は、図12に示された例示的実施形態では、織布補強材又は不織布マットから構成してもよいが、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、任意の好適な下地材料/下地層を使用してもよい。下地材料の少なくとも1種は被覆織布(「不織布マット」と表示された層については、図12に示す)であってもよく、これは本明細書で上述した第2節に従って構成してもよい。ENR系材料層の片側又は両側に隣接して質感紙を配置し、シート及び得られる物品の外層に所望の美しさを付与してもよい。最後に、使用しやすくするために、シリコーン剥離シートを質感紙の片側又は両側に隣接して配置してもよい。
【0097】
ENR系材料を利用して適切に硬化した試験片を得るために必要とされる圧力が比較的低いと、安価な紙及びシリコーン工作機械器具を使用できることが分かった。いわゆる質感紙をポリウレタン及びビニールレザー代替品に使用し、所望の質感を得る。同様にこれらの質感紙は、本明細書に開示しているようなENR系材料においてパターンを形成するために有効であることが分かった。有利な成形構成を図12に示し、図中、剥離シリコーンシートは、温度及び圧力下で成形するサンドイッチの最上層及び最下層として設ける。ベルトの「外側」面に質感を与えたいのであれば、シリコーンシートに隣接させて質感紙を設けてもよい。これらは、質感紙の剥離及び再利用を容易にするために剥離助剤で有効に処理できる。シリコーン及び植物油はいずれも質感紙の剥離及び再利用に有効であることが分かったが、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、任意の好適な剥離剤を使用してよい。
【0098】
未硬化のゴム製プリフォームシートは、質感紙(単数又は複数)に隣接したサンドイッチ中に装填してもよい。ゴム製プリフォームシートの間には、不織布マット及び/又は織布補強層(単数又は複数)を設けてもよい。1つの例示的実施形態では、不織布マットは、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、再生布、麻繊維、ココナッツ皮繊維、もしくは他の環境に優しい(生分解性)繊維、及び/又はこれらの組み合わせから構成してもよい。1つの例示的実施形態では、織布補強層は、黄麻布、又は強度が高く生分解性である類似の開放構造織布製品から構成してもよい。別の例示的実施形態では、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、制限なく、いわゆる木綿モンクスクロスもまた、織布補強層として使用してもよい。いくつかの構成では、開放構造の織布製品は、緊密な織布と比較して比較的良好な引裂強度をもたらす。別の例示的な実施形態では、補強層(織布又は不織布)はタンパク質系繊維から構成してもよく、この繊維には、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、ウール、絹、アルパカ繊維、キビュート、ビクーナ繊維、ラマウール、カシミヤ、及びアンゴラが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
皮革の代替品として使用するために構成したENR系材料は、現在獣皮を使用する用途で使用してもよい。このような用途には、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、ベルト、小銭入れ、バックパック、靴、テーブル面、座席等が挙げられる。これらの物品の多くは消耗品であり、石油化学系の皮革のような外観の製品から成るのであれば、非生分解性であり、リサイクル不可能である。このような製品が本明細書に開示した材料から成る場合、製品は生分解性であり、よって廃棄の問題を発生させない。更に、耐久性及び安定性を持つようにかなりの加工(その一部は有毒な化学物質を使用する)を必要とする獣皮とは異なり、本明細書に開示した材料はあまり加工を必要とせず、環境に優しい化学物質を使用する。また、獣皮は、サイズが限定的であり、大きな断片が製造に非効率になるという欠陥を有する可能性がある。エポキシド基とカルボン酸基との反応が縮合副生成物を形成しないため、本明細書の少なくとも1つの実施形態で開示した材料には同様のサイズ制限が無く、形成し得る横断面厚に固有の制限がない。
【0100】
4.発泡材料
A.背景
市販されている弾性発泡製品のほとんどは合成ポリマー、特にポリウレタンである。いわゆるメモリフォームを他の発泡製品と区別する鍵となる特性は、ポリマーのガラス転移温度(T)である。硬質発泡体は一般的に室温よりかなり高いTを持つポリマーから成り、このような製品の例としては、ポリスチレン発泡体(剛性断熱ボードや断熱飲用カップに使用することが多い)が挙げられる。柔軟で弾力のある発泡体は一般的に室温よりかなり低いTを有するポリマーから成り、このような製品の例としては、エチレン‐プロピレンゴム(EPR/EPDM)系の自動車ドアウェザーシールが挙げられる。同様に、天然製品は剛性と柔軟性/弾力性両方のカテゴリで見られる場合もある。バルサ材は一般的に多孔質で泡のような外観の材料であり、室温ではほぼ剛性である。天然ゴムラテックスは、ほぼ天然由来のポリマーで構成された柔軟性かつ弾力性の発泡製品を作製するために、Talalayプロセス又はDunlopプロセスのいずれかで発泡させてもよい。メモリフォーム材料の鍵となる特性である不可逆性発泡体を得るための室温付近のTを有する、広く普及した天然由来発泡体は現在までのところ存在しない。
【0101】
現在柔軟な発泡製品を作製する天然材料は、天然ゴムラテックス系であることが多い。温度変動に安定的なラテックス製品を作製するには、ポリマーを加硫する(即ち、架橋する)必要がある。天然ゴムは、いくつかの公知の方法;硫黄加硫が最も多く利用されている;で加硫してもよいが、過酸化物又はフェノール硬化系も同様に使用してよい。硫黄及び酸化亜鉛硬化系は天然ゴムラテックスを加硫できる可能性があるが、硬化率を高め、逆行を制限し、他の機能的な利点(例えば、抗酸化剤、抗オゾン剤、及び/又は紫外線安定剤)を付与するために、他の化学物質を添加することは非常に多い。これらの追加的化学物質は、特定の個人に化学物質過敏症を引き起こす可能性がある。また、天然ゴムラテックス自体がラテックス中に存在する天然タンパク質により特定の個人にアレルギー反応を引き起こす可能性がある。
【0102】
また、類似した天然ゴムラテックス調合物も同様に繊維状マットの接着剤として使用し、弾性発泡体のような外観の製品を形成してもよい。特に、ココナッツ繊維同士を天然ゴムラテックスにより接着し、不織布マットにし、ほぼ完全に天然由来であるクッション又はマットレス材料を得てもよい。先行技術において「完全に天然」に様々な請求があるにもかかわらず、硬化系及び天然ゴムへの添加剤には、特定の個人において化学物質過敏症を引き起こす可能性のある合成化学物質が含まれる可能性があり;更に、天然ゴムラテックス自体が残留タンパク質により特定の個人においてアレルギー反応を引き起こす可能性がある。
【0103】
B.概要
エポキシ化植物油系発泡製品が開示されており、ここではプレポリマー硬化剤は同様に、生物起源の自然発生かつ天然由来の生成物から成る。開示された発泡製品は、追加の発泡剤を使用せずに形成する。発泡製品は、予備硬化液体樹脂への空気での発泡の必要性に関係なく形成し得る。開示した発泡製品のTは室温付近でもよく、よって不可逆的な製品を提供できる。また、発泡製品を室温未満のTを有するように調合して柔軟かつ弾力性のある製品を得てもよい。本開示に従って調製したポリマーによりメモリフォーム特性を得てもよい。このようなポリマーは、本明細書で上述しているようなプレポリマー硬化剤とエポキシ化植物油との反応生成物であり、反応混合物も、以下に更に詳述しているような他の天然ポリマー及び変性天然ポリマーを含んでもよい。
【0104】
特定の実施形態では、発泡製品は特定画分のエポキシ化天然ゴムを含んでもよい。特に、エポキシ化天然ゴムを形成するプロセスもまた、特定の個人においてアレルギー反応を引き起こす可能性のある遊離タンパク質を減少させる。エポキシ化天然ゴムのアレルギー反応の減少率は、未処理の天然ゴムと比較して、95%を超える。
【0105】
プレポリマー硬化剤(上記第1節で開示されているような)と組み合わせたEVO(及び/又は上記で開示されているような任意の好適なエポキシ化トリグリセリド)及び、1つの例示的実施形態ではEVO中に可溶化されているENR、を含む鋳造可能な樹脂を開示する。
【0106】
特定の温度範囲内で硬化した場合には多孔性のリスクを排除するが、第2の高い温度範囲内で硬化した場合には硬化プロセス中にガスを発生させる、第1節に開示されているようなプレポリマー硬化剤を形成できることが分かった。更に、硬化プロセス中に追加の溶媒を必要としないように、オリゴマープレポリマー硬化剤には多官能カルボン酸のほぼ全てを組み込んでもよい。例えば、クエン酸はESO中に混和性ではないが、クエン酸とESOは好適な溶媒中で互いに反応するようにしてもよい。プレポリマー硬化剤が形成されるように、またプレポリマー硬化剤中のESOのエポキシド基のほぼ全てがクエン酸のカルボン酸基と反応するように、クエン酸の量を選択してもよい。十分に過剰量のクエン酸では、ゲル画分が形成されないように予備重合の範囲を限定してもよい。即ち、目的とするプレポリマー硬化剤は、クエン酸上のカルボン酸基とESO上のエポキシド基との反応により形成される低分子量(オリゴマー)クエン酸キャップドエステル生成物である。
【0107】
例示的なオリゴマープレポリマー硬化剤は、ESO:クエン酸の重量比が1.5:1~0.5:1の範囲で形成してもよい。プレポリマー硬化剤形成中に添加するESOが多すぎると、溶液がゲル化し、更に目的の樹脂を形成するためのESOの取り込みが不可能になる場合がある。なお、重量ベースで、ESO100部:クエン酸約30部の重量比で、ESO上のエポキシド基とクエン酸上のカルボン酸基の量が化学量論的当量になることに留意されたい。ESO:クエン酸比が1.5超:1であると、過剰な分子量(従って粘性)のプレポリマー硬化剤が形成され、鋳造用樹脂としての有用性が制限される可能性がある。ESO:クエン酸比が0.5:1未満であると、溶媒の蒸発の後にグラフトされていないクエン酸が溶液から析出するかもしれない程クエン酸が大幅に過剰になることが分かった。
【0108】
本開示によれば、クエン酸に対するESOの比率を制御することに加えて、溶媒として使用するアルコールの量も選択的に制御し、得られたエラストマー発泡体の物理的特性を調整できることが分かった。孔隙のない製品を作製するために必要な温度より高い温度で材料を硬化する場合に可逆的であり、よってガスを発生する多官能カルボン酸とのエステル結合を形成することにより、アルコール溶媒はそれ自体がエラストマーに取り込まれ得ることが分かった。クエン酸キャップドオリゴマープレポリマー硬化剤へのアルコール含有溶媒のグラフト量を調整するために、2種以上の溶媒の混合物を使用してもよい。
【0109】
例えば、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、制限又は限定なく、クエン酸とESOとを混和させるために使用する溶媒系の成分としてイソプロピルアルコール(IPA)又はエタノールを使用してもよい。IPA又はエタノールはクエン酸との縮合反応を経てエステル結合を形成できる。クエン酸は3種のカルボン酸を有することから、このようなグラフトにより、ESOと反応しているクエン酸分子の平均的な機能性が低下する。このことは、より直線的で、従ってあまり高度には分岐していないオリゴマー構造を形成する際に有益である。クエン酸とESOとを混和するために使用する溶媒系の1成分としてアセトンを使用してもよいが、IPA又はエタノールとは異なり、アセトン自体は、クエン酸キャップドオリゴマーのプレポリマー硬化剤にグラフトできない。実際、オリゴマープレポリマー硬化剤形成中に、一部では、クエン酸をESOに可溶化するために使用し得るアセトンに対するIPA又はエタノールの比率により、プレポリマー硬化剤の反応性が決まることが分かった。即ち、同量のクエン酸とESOの反応混合物において、アセトンに対するIPA又はエタノールの比が比較的高い溶液から形成したプレポリマー硬化剤は、同様の反応条件下で、アセトンに対するIPA又はエタノールの比が比較的低い溶液から形成したプレポリマー硬化剤と比較して低い粘度の生成物を形成する。また、孔隙のない樹脂製品を作製するために必要な温度より高い温度で調合樹脂を発泡させたとき、プレポリマー硬化剤にグラフトしたIPA又はエタノールの量により、このようなIPA又はエタノールが放出される程度が決まる。
【0110】
C.例示的方法及び生成物
プレポリマー硬化剤及びエポキシ化天然ゴムとエポキシ化植物油との液体ブレンドを含み、また未修飾のエポキシ化植物油を含んでもよい投入物の組み合わせから、弾性メモリフォームを形成する例示的なブレンドを形成した。
【0111】
発泡体材料の第1例示的実施形態では、プレポリマー硬化剤形成を利用し、混合により促進しながら50部のクエン酸を125部の温めたIPAに溶解することにより、弾性メモリフォームを生成する(図1を再度参照)。クエン酸の溶解後、50部のESOを撹拌溶液に添加する。この溶液は好ましくは、任意に適度に陰圧(50~300Torr)をかけて、60℃~140℃の温度で混合し、反応させる。1つの例示的バッチを、ジャケット温度120℃(溶液温度は約70℃~85℃)のジャケット付き反応容器内で混合し、IPAの蒸発と同時にクエン酸をESOへグラフトした。反応シーケンス終了時には、約12部のIPAが100部のESOとクエン酸との組み合わせにグラフトされたことが分かった。従って、IPAの沸点を超える温度と真空の付与ではもはや凝縮系でIPA凝縮物を得ることは不可能であった。計算から、クエン酸上の開始カルボン酸部位のうち、約31%がESO上のエポキシド基と反応し(エポキシドの全てがエステル結合への反応中に変換されたと推定する)、約27%のカルボン酸部位がIPAと反応してペンダントエステルを形成し、約42%が未反応のままであり、後続の加工工程で樹脂を架橋するために利用可能であることが明らかになった。しかし、これらの計算は例示目的のためだけのものであり、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、本開示の範囲を何ら限定するものではない。
【0112】
発泡材料の第2例示的実施形態では、ゴム含有樹脂前駆体を経て弾性メモリフォームを形成した。エポキシ化天然ゴムは25重量%(25wt%)未満のレベルで樹脂系調合物に含まれ、更に注込み可能な液体を得てもよい。ゴム含有前駆体は、ゴム溶解用溶媒の使用を必要とせずに、2段階で形成してもよい。第1段階では、100部のエポキシ化天然ゴム(ENR‐25)をゴム混合技術(2ロールミル又は密閉式ミキサー)を使用して50部のESOと混合する。このことにより、ゴム加工装置で効果的に更に混合できない非常に柔らかい生ゴムが得られるが、熱(例えば、80℃)付与により、追加のESOをFlacktek Speedmixer又は代替の低馬力装置(例えば、Sigmaブレード型ミキサー)を用いてゴムに混合し、25%のENR‐25及び75%のESOを含む流動性の液体を形成してもよい。
【0113】
発泡材料の第3例示的実施形態は、弾性メモリフォームタイプも生成してよい。この実施形態では、発泡性樹脂は、混合及び硬化を経て生成する。この例示的実施形態では、発泡材料の第1例示的実施形態から得たプレポリマー硬化剤40部を第2例示的実施形態から得たゴム含有樹脂80部に添加した。次いで、得られた組み合わせを、均質な溶液が得られるまでFlacktek Speedmixerで混合した(約10分間の混合)。この樹脂を以下の2手順で硬化させた:
1.樹脂を、パンケーキのように200℃(公称温度)の高温鉄板(PTFEコーティングした)上で硬化させた。材料を発泡させ、メモリフォーム特性;具体的には不可逆的挙動を持つ比較的均質な物品を得た。得られた材料の図示を図13に示す。
2.混合後に樹脂を真空脱気し、同じ200℃の高温鉄板上に設置した。この例では、発熱体(測定温度210℃)上に孔隙が観察されたが、発熱体のない鉄板(測定温度180℃)の領域上に孔隙は観察されなかった。得られた材料の図示を図14に示す。
【0114】
これら2手順から、孔隙には2つの原因が存在する可能性があることは明らかである。1つの原因は、混合中に取り込まれた空気の小気泡が関与している可能性がある。追加の実験から、この取り込まれた空気を安定にすること、また硬化段階での気泡の癒合を防止することに樹脂中のENR‐25の存在が大きく貢献していることが分かった。孔隙の第2の原因は放出ガス、恐らく、グラフトしたIPAの200℃以上での除去にある。
【0115】
前述したように、エポキシド基へのカルボン酸付加を迅速化するための特定の触媒が当技術分野で公知であり、そのような触媒は、以下の特許請求の範囲で特段に示されていない限り、限定されることなく、本開示の処方物を調合する際に使用してもよい。
【0116】
D.用途/追加の例示的生成物
本開示の材料は、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、床材、運動用マット、寝具、靴の中底、靴の表底、又は吸音パネルとして使用してもよい。
【0117】
本開示の材料は、複雑な三次元物品及び多層物品へと成形してもよい。三次元物品も物品内の様々な部位に配置した複数の材料の調合物から構成し、各部位に必要とされる機能性を提供してもよい。
【0118】
植物油系の弾性メモリフォームは、現在ポリウレタンを用いている用途に使用してもよい。このような用途には、以下の特許請求の範囲に特段に示されていない限り、限定されることなく、靴、座席、床材、運動用マット、寝具、吸音パネル等が挙げられる。これらの物品の多くは、合成ポリウレタン発泡体から成る場合には、生分解性でなく、リサイクル不可能な消耗品である。このような製品が本明細書に開示した材料から成る場合は、生分解性であるため廃棄の問題を生じない。
【0119】
本明細書に記載され、開示された方法は、天然材料から成る硬化剤を利用するように構成してもよいが、本開示の範囲、任意の個別プロセス工程、及び/又はこれらのパラメータ、及び/又はこれらを使用するための任意の装置は左程限定的ではなく、以下の特許請求の範囲に示されていない限り、限定されることなく、有益な、及び/又は有利なその使用まで拡張される。
【0120】
特定のプロセスのための装置及び/又はその部品を構成するために使用する材料はその特定の用途に応じて様々であるが、ポリマー、合成材料、金属、金属合金、天然材料、及び/又はこれらの組み合わせがいくつかの用途において特に有用である可能性があると考えられている。従って、上記で参照した要素は、当業者に公知であるか、又は将来的に開発される任意の材料から構成してもよく、当該材料は以下の特許請求の範囲に明示されていない限り、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく本開示の特定の用途に適している。
【0121】
様々なプロセス、装置、及びこれらにより作製した製品の好ましい態様を説明してきたが、本明細書に例示しているような実施形態及び/又は態様における多数の変更及び改変と同様に、本開示の他の特徴は当業者に間違いなく想起されるものであり、それら全ては、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく達成し得る。従って、本明細書に図示し、記載した方法及び実施形態は、例示の目的のためだけのものであり、本開示の範囲は、以下の特許請求の範囲に明示されていない限り、本開示の様々な利点及び/又は特徴を提供するための全てのプロセス、装置、及び/又は構造まで及ぶ。
【0122】
本開示の化学プロセス、プロセス工程、その構成要素、その装置、これらにより作製した製品、及び含浸基材は、好ましい態様及び特定の例に関連させて説明してきたが、本明細書の実施形態及び/又は態様はあらゆる点において制限的ではなく例示的であると意図しているため、その範囲は、記載した特定の実施形態及び/又は態様に限定されることは意図していない。従って、本明細書に図示し、記述したプロセス及び実施形態は、以下の特許請求の範囲に明示されていない限り、本開示の範囲を何ら限定するものではない。
【0123】
いくつかの図は正確な縮尺で図示しているが、本明細書で提供したいかなる寸法も、例示目的のためだけのものであり、以下の特許請求の範囲に明示されていない限り、本開示の範囲を何ら限定するものではない。なお、溶着プロセス、そのプロセスのための装置及び/もしくは機器、ならびに/又はそのプロセスや装置により製造して含浸及び反応させた基材は、本明細書に図示及び記述した特定の実施形態に限定されるものではなく、むしろ、本開示の創意ある特徴の範囲は本明細書の特許請求の範囲により定義される。記載の実施形態からの変更及び改変は、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく当業者に想起されるであろう。
【0124】
化学プロセス、プロセス工程、基材、及び/又は含浸及び反応させた基材の様々な特徴、構成要素、機能性、利点、態様、構成、プロセス工程、プロセスパラメータ等のいずれかは、特徴、構成要素、機能性、利点、態様、構成、プロセス工程、プロセスパラメータ等の適合性に応じて、単独で、又は互いに組み合わせて利用可能である。従って、本開示には無限の変形例が存在する。1つの特徴、構成要素、機能性、態様、構成、プロセス工程、プロセスパラメータ等を別のものに変更及び/又は置換することは、以下の特許請求の範囲に明示されていない限り、本開示の範囲を何ら限定するものではない。
【0125】
本文及び/もしくは図面から明らかに述べられた、ならびに/又は本質的に開示された、個々の特徴の1種以上の代替的組み合わせ全てに、本開示が及ぶことは理解されているものとする。これらの様々な組み合わせは全て、本開示の様々な代替的態様及び/又はその構成要素を構成する。本明細書に記載の実施形態は本明細書に開示した装置、方法、及び/又は構成要素を実践するための公知の最良の様式を説明し、他の当業者が同様の様式を利用することを可能にする。特許請求の範囲は、先行技術に許容される範囲まで代替的な実施形態を含むと解釈されるべきである。
【0126】
特許請求の範囲に特段に明示されていない限り、本明細書に記載したいかなるプロセス又は方法も、その工程が特定の順序で実行されることを要求していると解釈することは何ら意図していない。従って、方法クレームがその工程が従うべき順序を実際に列挙していない場合、又は、工程が特定の順序に限定されることが特許請求の範囲又は明細書に特に述べられていない場合には、順序を推測することはいかなる点においても何ら意図していない。このことは解釈のあらゆる可能性ある非明示的な根拠に対して成り立ち、その解釈には;工程の配置又は作業フローに関する論理の問題;文法構成又は句読点から導き出される平易な意味;明細書に記載した実施形態の数又は種類が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0127】
100 天然皮革のような外観の材料(スエード仕上げ)
100’ 天然皮革のような外観の材料(光沢仕上げ)
102 織布
103 織布延伸部
104 ポリマー

図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14