(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】媒体の物理的パラメータを推定するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0538 20210101AFI20231006BHJP
A61N 1/04 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
A61B5/0538 ZDM
A61N1/04
(21)【出願番号】P 2020570540
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2019066518
(87)【国際公開番号】W WO2019243596
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-03-31
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503261111
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・レンヌ・1
(73)【特許権者】
【識別番号】514203362
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】モドロ,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】カルバッロ,アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】ウェンドリング,ファブライス
(72)【発明者】
【氏名】ベンケット,パスカル
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525509(JP,A)
【文献】米国特許第05489849(US,A)
【文献】特開平09-019420(JP,A)
【文献】特表2017-521105(JP,A)
【文献】特表2018-512966(JP,A)
【文献】特表2013-530731(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0153924(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0157817(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05- 5/0538
A61B 5/24- 5/398
A61N 1/00- 1/44
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電解質を含む生物学的及び/又は生理的媒体(M)の領域の少なくとも1つの物理的パラメータ(P)を推定するためのシステム(1)であって、
前記媒体(M)の前記領域と接触するように構成された、少なくとも1つの作用電極と少なくとも1つの対電極との、少なくとも2つの電極(2)と、
それぞれパルス持続時間(T)を有する電流(I)の電気パルスのトレインを前記電極(2)に送達するように構成された電流発生器(3)と、
入力として少なくとも前記電流(I)及び前記パルス持続時間(T)を受信し、推定されるべき前記媒体(M)の少なくとも1つの物理的パラメータ(P)を備える、時間の関数としての前記作用電極と前記対電極との間の電位の少なくとも1つの所定の解析モデル(M(t))を備える、コンピュータ可読メモリ(4)であって、前記所定の解析モデル(M(t))が、前記電極(2)によって発生した電界の解析モデルと、電極と媒体との境界面で発生した二重層モデルの結合から得られ、前記結合は、電極と電解質との境界面からの寄与を考慮している、コンピュータ可読メモリ(4)と、
前記電極によって記録された電位を取得及び増幅するように構成された信号増幅器を備える取得ユニット(5)と、
プロセッサ(6)と、
を備え、前記プロセッサは、
刺激持続時間(Ts)中に電気パルスを含む二相性電荷平衡電流を送達するべく前記電流発生器(3)を制御するように構成された刺激モジュール(61)と、
前記刺激持続時間(Ts)内にある時間窓(Tm)中の時間の関数としての電位変化(ΔV(t))の取得をトリガするように構成された取得モジュール(62)と、
取得された時間の関数としての前記作用電極と前記対電極との間の前記媒体(M)の前記領域の電位変化(ΔV(t))を受信し、前記コンピュータ可読メモリから検索した前記所定の解析モデル(M(t))を用いて前記取得された時間の関数としての電位変化(ΔV(t))をあてはめ、前記所定の解析モデル(M(t))のあてはめから得られた前記物理的パラメータ(P)の値を出力するように構成された計算モジュール(63)と、
を備えるシステム。
【請求項2】
前記少なくとも2つの電極(2)が、双極円筒又は平板電極である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記媒体(M)が生体組織であり、前記電極(2)が、前記生体組織の領域に挿入するように構成される、請求項1又は請求項2のいずれかに記載のシステム。
【請求項4】
前記刺激モジュール(61)が、前記信号増幅器を飽和させない電流(I)を有する電気パルスを送達するべく前記電流発生器(3)を制御する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
少なくとも1つの電解質を含む生物学的及び/又は生理的媒体(M)の領域の少なくとも1つの物理的パラメータを局所推定するための方法であって、
それぞれパルス持続時間(T)を有する二相性電荷平衡電気パルスが、前記媒体(M)の前記領域と接触するように構成された、少なくとも1つの作用電極と少なくとも1つの対電極との少なくとも2つの電極(2)によって前記媒体(M)の前記領域に送達される間の時間窓(Tm)内の時間の関数としての電位変化(ΔV(t))の測定値を受信するステップ(REC)と、
時間の関数としての電位の所定の解析モデル(M(t))を用いて、時間の関数としての前記作用電極と前記対電極との間の前記媒体(M)の前記領域の前記電位変化(ΔV(t))の前記測定値をあてはめるステップ(FIT)であって、前記所定の解析モデル(M(t))は、入力として少なくとも電流(I)及び前記パルス持続時間(T)を受信し、前記媒体(M)の前記領域の少なくとも1つの物理的パラメータ(P)を備え、かつ前記所定の解析モデル(M(t))が、前記電極(2)によって発生した電界の解析モデルと、電極と媒体との境界面で発生した二重層モデルの結合から得られ、前記結合は、電極と電解質との境界面からの寄与を考慮している、あてはめるステップ(FIT)と、
前記所定の解析モデル(M(t))のあてはめから得られた前記物理的パラメータ(P)の値を出力するステップ(OUT)と、
を含む方法。
【請求項6】
前記物理的パラメータ(P)が、前記電極
が接触している前記媒体(M)の前記領域の電気抵抗(R
m)に関連する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電極の幾何形状仕様(GE)を受信し、前記電極の前記幾何形状仕様(GE)及び前記媒体(M)の前記領域の前記電気抵抗(R
m)を用いて、前記媒体(M)の前記領域の電気伝導率(σ)を計算するステップ(CAL)をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記媒体(M)が
、脳組織である、請求項5~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記物理的パラメータ(P)の値が所定の閾値と比較される、請求項5~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記受信される電位変化が、8kHz超のサンプリング周波数で測定される、請求項5~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
媒体(M)と接触するように構成された少なくとも2つの電極を使用して少なくとも1つの電解質を含む前記媒体(M)の領域の物理的パラメータ(P)のマッピングを生成するための方法であって、
マッピングされている前記媒体(M)の前記領域に含まれる前記媒体(M)の第1の領域内の電極の第1の位置に関する情報を受信するステップと、
請求項5~請求項10のいずれか一項に記載の方法に従って、前記媒体(M)の前記第1の領域内の前記媒体(M)の前記物理的パラメータ(P)の第1の値を取得するステップと、
前記電極の前記第1の位置を前記物理的パラメータ(P)の前記第1の値と関連付ける及び登録するステップと、
を含み、方法のステップが、マッピングされている前記媒体(M)の前記領域に含まれる前記媒体(M)の第2の領域内の前記電極の少なくとも1つの第2の位置について繰り返される、
方法。
【請求項12】
プログラムがコンピュータによって実行されるときに、請求項5~請求項11のいずれか一項に記載の方法のステップをコンピュータに実施させる命令を備えるコンピュータプログラム。
【請求項13】
コンピュータによって実行されるときに、請求項5~請求項11のいずれか一項に記載の方法のステップをコンピュータに実施させる命令を備えるコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体、特に、生物学的媒体の物理的パラメータの測定の分野に関する。特に、本発明は、局所パルス電気刺激を用いる生物学的媒体の電気伝導率の生物物理学的モデル化のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の電気インピーダンスの推定は、診断目的の腫瘍学などの医療分野で関心を呼び起こした。健康な細胞は、高濃度のカリウムと低濃度のナトリウムを維持するが、癌細胞の1つの特徴は、細胞膜電位が低いことである。実際は、損傷した細胞又は癌細胞では、ナトリウムと水が細胞に流れ込み、細胞内の媒体中のカリウム及び他のイオン濃度が低下し、結果的にインピーダンスが低下する。いくつかの研究は、癌細胞が構造異常に起因して異なる電気特性及び代謝特性を有するとすれば、健康な細胞は腫瘍細胞よりも高い電気伝導率を有することを示している。
【0003】
腫瘍学に加えて、筋肉疾患の分野で、電気伝導率に基づく健康な組織と疾患のある組織の区別を試みて電気伝導率測定が行われている。
【0004】
腫瘍学及び筋肉疾患の分野で多くの研究が電気伝導率の潜在的な臨床的価値を報告している。対照的に、てんかんなどの神経障害の脳組織を特徴づけるために電気伝導率の潜在的な臨床的/診断的価値を評価する試みはほとんどなかった。
【0005】
てんかんは、一般人口の約1%が患う慢性神経障害であり、脳回路の興奮性プロセスと抑制性プロセスのバランスの変化を特徴とする。これは、例えば言語又は運動などの機能を妨げる再発性の慢性発作によって定義される。てんかん患者のおよそ30%を占める薬剤抵抗性患者には、てんかん原性領域の切除手術を検討することがある。これに関連して、術前計画には、てんかん原性域を特定する目的で、多数の脳領域の電気生理学的信号を記録する複数の電極(通常、150~250個のコンタクト)の頭蓋内埋め込みによる定位脳波検査法(SEEG)などの侵襲的記録が含まれることが多い。最近の研究では、脳組織のてんかん原性の可能な指標として、生体電気インピーダンスと導電率が測定されている。
【0006】
今日まで、生体組織の電気伝導率を測定する主な手法は、生体組織と接触する少なくとも2つの電極によって所定の周波数の電流を印加し、前記生体組織の電位を測定することによるものである。
【0007】
脳組織の導電率の既存の侵襲的測定の1つの主要な制限は、電極と脳組織との境界面で生じる生物物理学的プロセス、及び、電界と脳組織自体との相互作用のメカニズムを考慮に入れることができないことである。
【0008】
この境界面での影響は、電極が頭蓋内の脳組織に埋め込まれ、電極と脳組織との境界面に脳脊髄液又は神経膠症が存在するときに特に重要な場合がある。したがって、電気伝導率の正確な推定をもたらすためには、境界面で生じる物理的プロセスを考慮する必要がある。
【0009】
園芸製品、食品材料、又は水などの他の分野でも、例えば加工条件又は食品の品質の検出を可能にするために、物理的パラメータの迅速且つ信頼性のある推定が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況で、本出願は、媒体の領域の物理的パラメータ、特に電気伝導率の迅速且つ信頼性のある推定をもたらすことができるシステム及び方法を説明する。このようなシステム及び方法は、生体組織の物理的パラメータを評価するために、具体的には、生体組織、特に、てんかん(病的過興奮)として認定される脳組織の病態生理学的プロセスに起因する導電率の潜在的な変化を識別するために適用され得る。より一般的には、このようなシステム及び方法は、例えば、生体組織、園芸製品、食品材料、又は水であり得る媒体の物理的パラメータを評価するために適用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくとも1つの電解質を含む媒体の領域の少なくとも1つの物理的パラメータを推定するためのシステムであって、
媒体の領域と接触するように構成された少なくとも2つの電極と、
それぞれパルス持続時間を有する電流の電気パルスのトレインを電極に送達するように構成された電流発生器と、
入力として少なくとも電流及びパルス持続時間を受信し、媒体の少なくとも1つの物理的パラメータを備える、時間の関数としての電位の少なくとも1つの所定の解析モデルを備える、コンピュータ可読メモリと、
電極によって記録された電位を取得及び増幅するように構成された信号増幅器を備える取得ユニットと、
プロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
刺激持続時間中に少なくとも1つの電気パルスを送達するべく電流発生器を制御するように構成された刺激モジュールと、
刺激持続時間内にある時間窓中の時間の関数としての電位変化の取得をトリガするように構成された取得モジュールと、
取得された時間の関数としての電位変化を受信し、コンピュータ可読メモリから検索した所定の解析モデルを用いて、取得された時間の関数としての電位変化をあてはめ、所定の解析モデルのあてはめから得られた物理的パラメータの値を出力するように構成された計算モジュールと、
を備えるシステムに関する。
【0012】
一実施形態によれば、物理的パラメータは、電極を配置することを意図される媒体の領域の電気抵抗に関連する。
【0013】
一実施形態によれば、電極は、双極円筒又は平板電極である。
【0014】
一実施形態によれば、媒体は、生体組織、特に、脳組織である。
【0015】
一実施形態によれば、電極は、前記生体組織の領域に挿入するように構成される。
【0016】
一実施形態によれば、刺激モジュールは、信号増幅器を飽和させない電流を有する電気パルスを送達するべく電流発生器を制御する。
【0017】
一実施形態によれば、各電気パルスは、二相性電荷平衡電気パルスである。
【0018】
一実施形態によれば、刺激モジュールは、二相性電荷平衡電流を送達するべく電流発生器を制御する。媒体への電荷注入に二相性電荷平衡電流を用いることの関心事は、媒体を変質又は損傷させる可能性のある電荷蓄積を回避することである。単相刺激の使用は数分のオーダーの時間で組織への損傷(すなわち細胞死)を非常に迅速に引き起こすため、この特徴は、生体組織を解析するためのシステムのインビボでの使用で特に関心がもたれる。
【0019】
一実施形態によれば、二相性電荷平衡電気パルスは、矩形波形を有する。
【0020】
一実施形態によれば、取得された電位変化は、8kHz超のサンプリング周波数で測定される。
【0021】
一実施形態によれば、計算モジュールは、電極の幾何形状仕様を受信し、前記電極の幾何形状仕様及び媒体の領域の電気抵抗を用いて、媒体の領域の電気伝導率を計算するように構成される。
【0022】
一実施形態によれば、システムは、物理的パラメータの値を少なくとも1つの所定の閾値と比較するように構成される。
【0023】
一実施形態によれば、少なくとも1つの電解質を含む媒体の領域の少なくとも1つの物理的パラメータを推定するためのシステムは、
媒体の領域と接触するように構成された、少なくとも1つの作用電極と少なくとも1つの対電極との、少なくとも2つの電極と、
それぞれパルス持続時間を有する電流の電気パルスのトレインを電極に送達するように構成された電流発生器と、
入力として少なくとも電流及びパルス持続時間を受信し、推定されるべき媒体の少なくとも1つの物理的パラメータを備える、時間の関数としての作用電極と対電極との間の電位の少なくとも1つの所定の解析モデルを備える、コンピュータ可読メモリと、
電極によって記録された電位を取得及び増幅するように構成された信号増幅器を備える取得ユニットと、
プロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
刺激持続時間中に電気パルスを含む二相性電荷平衡電流を送達するべく電流発生器を制御するように構成された刺激モジュールと、
刺激持続時間内にある時間窓中の時間の関数としての電位変化の取得をトリガするように構成された取得モジュールと、
取得された時間の関数としての作用電極と対電極との間の媒体の領域の電位変化を受信し、コンピュータ可読メモリから検索した所定の解析モデルを用いて、取得された時間の関数としての電位変化をあてはめ、所定の解析モデルのあてはめから得られた物理的パラメータの値を出力するように構成された計算モジュールと、
を備える。
【0024】
一実施形態によれば、所定の解析モデルは、電極によって発生した電界の解析モデルと、電極と媒体との境界面で発生した二重層モデルとの結合から得られ、前記結合は、電極と電解質との境界面からの寄与を考慮している。
【0025】
この手法の利点は、パルス刺激への記録された脳組織応答に基づいて、脳組織の導電率の明示的な解析的表現を提供することである。本発明のモデルベースの方法は、電極と電解質との境界面からの寄与を考慮することによって、脳組織の電気伝導率の迅速且つ信頼性のある推定をもたらす。この方法は、脳組織の導電率の(相対ではなく)絶対変化を提供するので、標準的な生体インピーダンス測定よりも優れている。
【0026】
本発明はさらに、媒体の領域の少なくとも1つの物理的パラメータを局所推定するための方法であって、
それぞれパルス持続時間を有する少なくとも1つの電気パルスが媒体と接触するように構成された少なくとも2つの電極によって媒体の領域に送達される間の時間窓内の時間の関数としての電位変化の測定値を受信するステップと、
時間の関数としての電位の所定の解析モデルを用いて、時間の関数としての電位変化の測定値をあてはめるステップであって、所定の解析モデルは、入力として少なくとも電流及びパルス持続時間を受信し、媒体の領域の少なくとも1つの物理的パラメータを備える、あてはめるステップと、
所定の解析モデルのあてはめから得られた物理的パラメータの値を出力するステップと、
を含む、方法に関係する。
【0027】
一実施形態によれば、物理的パラメータは、電極を配置することを意図される媒体の領域の電気抵抗に関連する。
【0028】
一実施形態によれば、この方法は、電極の幾何形状仕様を受信し、前記電極の幾何形状仕様及び媒体の領域の電気抵抗を用いて媒体の領域の電気伝導率を計算するステップをさらに含む。
【0029】
一実施形態によれば、媒体は、生物学的媒体、特に、脳組織である。
【0030】
一実施形態によれば、物理的パラメータの値は、少なくとも1つの所定の閾値と比較される。
【0031】
一実施形態によれば、各電気パルスは、二相性電荷平衡電気パルスである。
【0032】
一実施形態によれば、受信される電位変化は、8kHz超のサンプリング周波数で測定される。
【0033】
一実施形態によれば、少なくとも1つの電解質を含む媒体の領域の少なくとも1つの物理的パラメータを局所推定するための方法は、
それぞれパルス持続時間を有する二相性電荷平衡電気パルスが媒体の領域と接触するように構成された少なくとも1つの作用電極と少なくとも1つの対電極との少なくとも2つの電極によって媒体の領域に送達される間の時間窓内の時間の関数としての電位変化の測定値を受信するステップと、
時間の関数としての電位の所定の解析モデルを用いて、時間の関数としての作用電極と対電極との間の媒体の領域の電位変化の測定値をあてはめるステップであって、所定の解析モデルは、入力として少なくとも電流及びパルス持続時間を受信し、媒体の領域の少なくとも1つの物理的パラメータを備える、あてはめるステップと、
所定の解析モデルのあてはめから得られた物理的パラメータの値を出力するステップと、
を含む。
【0034】
方法の一実装によれば、所定の解析モデルは、電極によって発生した電界の解析モデルと、電極と媒体との境界面で発生した二重層モデルとの結合から得られ、前記結合は、電極と電解質との境界面からの寄与を考慮している。
【0035】
本発明のまた別の態様は、媒体と接触するように構成された少なくとも2つの電極を用いて媒体の領域の物理的パラメータのマッピングを生成するための方法であって、
マッピングされている媒体の領域に含まれる媒体の第1の領域内の電極の第1の位置に関する情報を受信するステップと、
上記実施形態のいずれか1つの方法に従って、媒体の第1の領域内の媒体の物理的パラメータの第1の値を取得するステップと、
電極の第1の位置を物理的パラメータの第1の値と関連付ける及び登録するステップと、を含み、方法のステップが、マッピングされている媒体の領域に含まれる第2の媒体の領域内の電極の少なくとも1つの第2の位置について繰り返される、
方法に関する。
【0036】
本発明はさらに、プログラムがコンピュータによって実行されるときに上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法のステップをコンピュータに実施させる命令を備えるコンピュータプログラムに関する。
【0037】
本発明はさらに、コンピュータによって実行されるときに上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法のステップをコンピュータに実施させる命令を備えるコンピュータ可読媒体に関する。
【0038】
定義
本発明において、以下の用語は以下の意味を有する。
・本明細書で用いられる場合の単数形(「a」、「an」、及び「the」)は、文脈上他の意味に明白に規定される場合を除き、複数形での言及を含む。
・「脳波」又は「EEG」は、脳波計によってなされる、頭皮からの脳の電気活動の記録による、脳波のトレーシングを指す。
・「電気二重層」とも呼ばれる「二重層」は、表面にあるオブジェクトの周囲の2つの平行な電荷層を指す。第1の層である表面電荷(正又は負のいずれか)は、化学相互作用によりオブジェクト上に吸着されたイオンからなる。第2の層は、クーロン力により表面電荷に引き寄せられたイオンで構成され、第1の層を電気的に遮蔽する。この第2の層は、オブジェクトと緩く関連付けられる。
・「定位脳波検査法」は、三次元座標系を利用する最小侵襲形態の外科的介入である定位手術によって患者の脳組織に電極が埋め込まれる脳波検査技術を指す。
・「被検者」は、哺乳類、好ましくはヒトを指す。本発明の意味において、被検者は、定期的又は頻繁な投薬を必要とする何らかの精神的又は身体的障害を有する人であり得る、又は、患者、すなわち、医師の診察を受けている、医療処置を受けている又は受けたことのある、又は疾患の発症を監視されている人であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】媒体(M)の領域の少なくとも1つの物理的パラメータ(P)を推定するための、本発明の一実施形態に係るシステムの略図である。
【
図2】電極が脳組織用の円筒電極である、本発明の1つの特定の実施形態に係るシステムの略図である。
【
図3】
図3(a)は、二重層モデルでのイオン分布の略図であり、
図3(b)は、一実施形態に係る、単一の電極と電解質との境界面の等価回路である。
【
図4】一実施形態に係る、R
mが媒体の抵抗をモデル化する、二電極二重層回路モデルである。
【
図5】一実施形態に係る、単一刺激パルス強度に応答して時間の関数として媒体内で誘起される電位の図である。
【
図6】一実施形態に係る本発明の方法のブロック図である。
【
図7】媒体の電気伝導率を計算するステップを含む、一実施形態に係る本発明の方法のブロック図である。
【
図9】頭蓋内電極の幾何形状の略図である。
図9の(a)は、電極がz軸に沿って配向され、半径Rの電極の外面で各コンタクトが高さhを有すると考える、臨床的に用いられる双極円筒電極の一対のコンタクトのイラストである。考慮されるコンタクトのペアは、距離lだけ分離される。
図9の(b)は、電極の幾何形状を考慮に入れることを可能にする、円筒電極における微分環の寄与を示す。
【
図10】患者1の所定の解析モデルパラメータの推定に関係した図である。
図10の(a)は、それぞれ、てんかん領域及び健康な領域として識別される領域間の振幅の差を例示する、2つの異なる電極の信号波形を示す。
図10の(b)は、刺激される各脳領域の推定される導電率を示す箱ひげ図である。
図10の(c)は、推定される二重層静電容量を示す箱ひげ図である。
図10の(d)は、推定されるファラデーインピーダンスを示す箱ひげ図である。
【
図11】患者2の所定の解析モデルパラメータの推定に関係した図である。
図11の(a)は、それぞれ、てんかん領域及び健康な領域として識別される領域間の振幅の差を例示する、2つの異なる電極の信号波形を示す。
図11の(b)は、刺激される各脳領域の推定される導電率を示す箱ひげ図である。
図11の(c)は、推定される二重層静電容量を示す箱ひげ図である。
図11の(d)は、推定されるファラデーインピーダンスを示す箱ひげ図である。
【
図12】所定の解析モデルと生理食塩水溶液で記録された信号との一致を示す図である。グラフは、4つの異なる導電率値:(a)0.1S/m、(b)0.2S/m、(c)0.4S/m、及び(d)0.6/mでのシミュレートされた電位(点線)と実験的に記録された電位(実線)の時間経過を重ね合わせて表している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下の詳細な説明は、図面と併せて読むと、よりよく理解されるであろう。例示する目的で、システム及び方法が好ましい実施形態で示されている。しかしながら、用途は、図示された正確な配置、構造、特徴、実施形態、及び態様に限定されないことを理解されたい。図面は正確な縮尺率ではなく、請求項の範囲を描画した実施形態に限定することを意図していない。したがって、付属の請求項で言及される特徴の後ろに参照符号が付いている場合、このような符号は、請求項の理解度を単に高める目的で含まれ、決して請求項の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0041】
本発明は、少なくとも1つの電解質を含む媒体Mの領域の少なくとも1つの物理的パラメータPを推定するためのシステム及び方法に関する。
【0042】
一実施形態によれば、媒体Mは、生物学的媒体及び/又は生理的媒体である。好ましい実施形態において、生物学的媒体は生体組織を含む。前記生体組織は、例えば、哺乳類又は動物の体に含まれる組織、又は例えば生検によって哺乳類又は動物から収集された組織のサンプルであり得る。代替的な実施形態によれば、媒体Mは、園芸製品又は食品材料に含まれる。
【0043】
図1に示すように、一実施形態に係るシステム1は、検査中の媒体の領域と接触するように構成された少なくとも2つの電極2を備える。
【0044】
一実施形態によれば、各電極2は、主構造と、本発明の説明では「電極コンタクト」とも呼ばれる少なくとも活性領域を備える。
【0045】
一実施形態によれば、電極の活性領域の少なくとも一部は、媒体と接触するように構成される。
【0046】
好ましい実施形態によれば、電極2は、電極の少なくとも第1の部分において媒体によって完全に囲まれるように媒体内に挿入されるように構成され、前記電極の第1の部分は、少なくとも2つの電極コンタクトを備える。
【0047】
媒体内に2つの電極が挿入される例示的な状況では、電極のうちの一方を通常「作用電極」と呼び、他方を「対電極」と呼ぶ。
【0048】
一実施形態によれば、媒体と接触するように構成された電極コンタクトの数は、2よりも多い。一例では、媒体内の電極コンタクトの数は、2~200の範囲であり得る。電極は、媒体内で独立して変位可能であるか、又は電極間の所定の間隔を呈するアレイに配置することができる。
【0049】
電極2は、調査中の媒体に応じて様々な幾何形状及び寸法を有することができる。例えば、解析される媒体が液体溶液のとき、電極は、平板形状を有し得る、又はトロイダル形状が用いられ得る、又は任意の他の適切な形状であり得る。
【0050】
図2に表される代替的な例では、解析する媒体は脳の領域であり、電極は、脳組織に容易に安全に挿入されるように、断面が小さい円筒形の形状を有する。この例によれば、電極は、双極円筒電極である。
【0051】
一実施形態によれば、システム1は、電極2を通じて電流Iの電気パルスのトレインを送達するように構成された電流発生器3をさらに備え、各電気パルスはパルス持続時間Tを有する。電流発生器3は、作用電極と対電極との間に取り付けられ得る。
【0052】
一実施形態によれば、電流発生器3は、電荷平衡二相性パルスを送達するように構成され、定電流が、パルス持続時間T中に一方向に流され、次いで、同じ時間T中に逆にされ、したがって、各パルス位相中に送達される電荷は、厳密に同じ(持続時間積で同じ強度、すなわち電荷)である。
【0053】
媒体への電荷注入に電流制御パルスを用いることの関心事は、媒体を損傷する可能性のある電荷蓄積を回避することである。このシステムの使用で特に関心がもたれるのは、脳組織などの生体組織のインビボ解析である。
【0054】
一実施形態によれば、システム1は、作用電極と対電極との間の時間の関数としての電位の少なくとも1つの所定の解析モデルM(t)を備えるコンピュータ可読メモリ4をさらに備える。この実施形態では、前記所定の解析モデルM(t)は、入力として少なくとも電流I及びパルス持続時間Tを受信し、測定されるべき媒体Mの少なくとも1つの物理的パラメータPを備えるように定義される。
【0055】
一実施形態によれば、システム1は、電極2によって記録された電位、特に、作用電極と対電極との間で記録された電位の値を取得及び増幅するように構成された信号増幅器を備える取得ユニット5をさらに備える。一実施形態によれば、取得ユニット5のサンプリング周波数は、8kHz超であり、好ましくは、サンプリング周波数は、[25~100kHz]の範囲内にある。一実施形態によれば、電気パルスによって送達される電流Iは、増幅器を飽和させないように選択される。
【0056】
一実施形態によれば、システム1は、電流発生器3、コンピュータ可読メモリ4、及び取得ユニット5と通信する及びこれらを制御するように構成された複数のモジュールを備えるプロセッサ6を備える。
【0057】
一実施形態によれば、プロセッサ6は、刺激モジュール61、取得モジュール62、及び計算モジュール63を備える。
【0058】
一実施形態によれば、刺激モジュール61は、刺激持続時間Ts中に少なくとも1つの電気パルスを送達するべく電流発生器3を制御するように構成される。
【0059】
一実施形態によれば、取得モジュール62は、刺激持続時間Ts内にある時間窓Tm中の時間の関数としての電位変化ΔV(t)の取得をトリガするように構成される。
【0060】
一実施形態によれば、計算モジュール63は、取得された時間の関数としての電位変化ΔV(t)を受信し、コンピュータ可読メモリから検索した所定の解析モデルM(t)を用いて取得された時間の関数としての電位変化ΔV(t)をあてはめ、所定の解析モデルM(t)のあてはめから得られた物理的パラメータPの値を出力するように構成される。計算モジュール63はさらに、物理的パラメータPの値をコンピュータ可読メモリ4に登録することができる。
【0061】
一実施形態によれば、電極の様々な幾何形状及び/又は解析する媒体の様々な特徴及び幾何形状をそれぞれ記述する、複数の所定の解析モデルM(t)が、コンピュータ可読メモリ4に格納される。この実施形態によれば、システム1はさらに、入力として、少なくとも計算モジュール63によって検索されるべき所定の解析モデルM(t)に関するユーザの選択を受信する。
【0062】
一実施形態によれば、システム1はさらに、取得された時間の関数としての電位変化ΔV(t)及び/又は計算モジュール63の出力を表示するように構成されたユーザインターフェース7を備える。
【0063】
本発明のまた別の態様は、媒体Mの領域の少なくとも1つの物理的パラメータPを局所推定するための方法に関する。
【0064】
この方法のステップは、
図6及び
図7のブロック図で表される。一実施形態によれば、この方法は、時間窓Tm中の時間の関数としての電位変化ΔV(t)の測定値を受信する予備ステップRECを含む。前記時間窓Tm中に、少なくとも1つの電気パルスが、媒体Mと接触するように構成された少なくとも2つの電極によって媒体の領域Mに送達される。
【0065】
一実施形態によれば、電気パルスは、0.06ms以上のパルス持続時間Tを有する二相性電荷平衡電気パルスである。
【0066】
一実施形態によれば、この予備ステップRECの前に、電極によって媒体Mの領域に送達された電気パルスによって誘起される時間の関数としての電位変化ΔV(t)の時間窓Tm中の測定からなる測定ステップがある。一実施形態によれば、測定ステップは、8kHz超のサンプリング周波数で行われ、好ましくは、サンプリング周波数は、[25~100kHz]の範囲内にある。この高いサンプリング周波数は、刺激パルス中に十分なサンプルを得るために、電気パルス後の数十又は数百マイクロ秒の時間の経過中に高品質の信号を記録できるように最適化される。
【0067】
本発明の方法は、例えばコンピュータ可読媒体から、所定の解析モデルM(t)を受信するステップをさらに含み得る。
【0068】
前記所定の解析モデルM(t)は、主に、媒体の領域の幾何形状と、電極の幾何形状および配置に依存する。一実施形態によれば、媒体内の電極から発生した電界を記述する電界モデルが、所定の電極の幾何形状及び媒体Mの幾何形状についてのマクスウェルの式から導出される。
【0069】
マクスウェルの式から、アンペールの法則の微分バージョンは、
【数1】
であり、ここで、E及びBは、それぞれ電界及び磁界であり、Jは電流密度であり、μ
0及びε
0は、それぞれ真空の透磁率及び誘電率である。簡略化された電界モデルを導出するために、電極の幾何形状又は媒体の特徴に基づいて、1つ又はいくつかの近似を行うことができる。
【0070】
パルス周波数が10kHzよりも低い実施形態によれば、準静的近似、すなわち、
【数2】
が用いられる。任意のベクトル場の回転の発散は、ヌルである、すなわち、∇・(∇×B)=0であるため、∇・J=0であることがわかる。さらに、第1の近似として、媒体は、純抵抗である、すなわち、オームの法則の一般的な形式J=σ.Eに従うと考えられ、ここで、σは、電気伝導率である(シーメンス/メートル、[S/m]で表される)。パルス刺激への媒体応答の解析的表現を得るために行うことができる別の仮定は、媒体の導電率が局所的に等方性であるということであり、これは導電率テンソルをスカラーに単純化する。このような電界モデルは、媒体の電気伝導率と電極の幾何形状に依存する。
【0071】
金属が生理的媒体M(電解質とも呼ばれる)内に配置されるときに、還元-酸化反応が起こる。一実施形態によれば、送達される電気刺激の波形が媒体Mの物理的特性によってどのように変化するかを説明及び理解するために、媒体の電気刺激中に起こる複雑なプロセスのモデルが、所定の解析モデルM(t)に導入される。このモデルは、この応答への電極と電解質との境界面の寄与を考慮しながら、記録された媒体Mの応答からの電気伝導率の推定を可能にする。媒体の電気刺激中に起こるプロセスのモデルを所定の解析モデルM(t)に導入する利点は、媒体Mから記録された応答への電極と電解質との境界面の寄与を除去する、したがって、印加電界への真の媒体(例えば脳組織)の応答を忠実に推定することができる、生物物理学的モデルを得ることである。
【0072】
電子が2つの相間で移動する還元/酸化のファラデープロセスを通じて電極から電解質にも電荷が注入されるという仮定がなされ得る。
図3(b)に示した一実施形態によれば、電極と電解質との境界面の電気モデルは、二重層モデルを用いて、インピーダンスZ
fと静電容量C
dlを有する回路によってモデル化される。このモデルでは、Z
fは、ファラデープロセスを表すファラデーインピーダンスであり、一方、C
dlは、二重層静電容量、すなわち、電子移動なしに電解質に電荷を流す電極の能力をモデル化する。二重層モデルのイオン分布を
図3(a)に示す。
【0073】
少なくとも1つの作用電極と少なくとも1つの対電極が媒体Mに挿入される実施形態によれば、二重層モデルが用いられ、
図4に提示した二電極二重層回路モデルがもたらされる。この二電極二重層回路モデルは2つの回路を備え、各回路は、静電容量と、並列に接続され、抵抗R
mによって直列に接続され、媒体の抵抗をモデル化するファラデーインピーダンスを有する。2つのインピーダンス-静電容量回路によって表される作用電極と対電極との間に電流源が取り付けられる。
【0074】
一実施形態によれば、作用電極と対電極との間の電位の式V
WE-CE(s)は、ラプラス変換を用いて等価二電極二重層回路モデルを解くことによって導出され、
【数3】
となり、ここで、I(s)=L{I(t)}である。電荷平衡二相性電気パルスが媒体に送達される実施形態によれば、i(t)は、i(t)=I[u(t)-2u(t-T)+u(t-2T)]となるような刺激二相性パルスを表し、u(t)は、ヘヴィサイド関数である。
【0075】
電流のラプラス変換は、
【数4】
であり、
【数5】
となる。
【0076】
一実施形態によれば、その時間領域内で得られる電位の所定の解析モデルM(t)式を得るのに逆ラプラス変換が用いられる:
【数6】
【0077】
これは、双極電荷平衡電流制御刺激中に2つの電極コンタクト間で測定される電位の解析モデルを提供する。この実施形態によれば、所定の解析モデルM(t)の入力は、電流Iとパルス持続時間Tであり、各相(正/負)で等しいと想定され、未知の物理的パラメータPは、C
dl、Z
f、及びR
mである。
図5は、二相性刺激パルスに応答して得られる電位の時間経過と、モデルパラメータがモデル化された応答にどのように影響するかを例示するグラフを示す。
【0078】
電極の任意の幾何形状について、媒体の抵抗R
mは、電界Eの関数として次のように表すことができる:
【数7】
【0079】
この式から、解の媒体の抵抗Rmは、媒体の幾何形状と導電率σにのみ依存する。電極の幾何形状に応じた電界モデルを用いて、媒体の電気抵抗Rmの式を導出することができる。Rmの推定と既知の電極の幾何形状仕様とを組み合わせることにより、結果として、媒体内の電極によって発生する適切な電界モデルを開発することができ、電気伝導率を推定することができる。
【0080】
本発明のモデルでは、媒体の抵抗Rmは、明示的に表される。実際は、媒体の抵抗Rm式は、電界、電極と組織との境界面、及び二相性パルスを考慮に入れた3つの数式の系から得られる。
【0081】
一実施形態によれば、この方法は、時間の関数としての電位の所定の解析モデルM(t)に測定値をあてはめることによる物理的パラメータPの外挿からなるステップFITをさらに含む。実施形態によれば、未知の物理的パラメータP、Cdl、Zf、及びRmには、電位変化ΔV(t)の測定値があてはめられる。
【0082】
一実施形態によれば、推定量として最小平均二乗誤差推定量(MMSE)が用いられる。MMSEは、最適性の基礎として、推定されたパラメータ値と実際のパラメータ値との誤差の推定に基づいている。MMSE推定量には、最適なベイズの推定量よりも実装が容易であるという利点がある。観察値、すなわち時間の経過に伴う電位変化ΔV(t)の測定値は、モデルの未知の物理的パラメータP=[R
m;C
dl;Z
f]の非線形の組み合わせf(t,P)として次のようにモデル化することができる:
【数8】
【0083】
一般に、(6)の閉形式解は存在しない。モデルパラメータPの初期値で始まる非線形回帰を用いた。
【0084】
一実施形態によれば、モデルパラメータ
【数9】
が推定されると、電界モデルが既知のとき、すなわち、電極の幾何形状が定義されるときに、式(5)から導出できる媒体の抵抗R
mと電気伝導率σとの関係性を用いて媒体の電気伝導率が計算CALされる。
【0085】
一実施形態によれば、この方法は、所定の解析モデルM(t)のあてはめから得られた物理的パラメータPの値を出力するステップOUTを含む。
【0086】
一実施形態によれば、物理的パラメータPの値が所定の閾値と比較され、前記所定の閾値は、検査中の媒体Mに依存する。
【0087】
このモデルベースの方法の主な利点は、その精度と低い計算コストである。
【0088】
一例によれば、システムは、インビボでの脳組織領域の少なくとも1つの生物物理学的パラメータPの推定のために構成される。電気伝導率σなどの、インビボでの脳組織領域の生物物理学的パラメータPの測定は、薬剤抵抗性てんかん患者のてんかん原性領域の術前評価及び同定の用途で用いることができる。
【0089】
生体組織への適用に関する本明細書で提案された手法の利点は、組織の生物物理学を考慮に入れていることであり、実際、本発明の手法では、電極によって誘起される電界及び電極と電解質との境界面の生物物理学的モデルから、媒体の抵抗Rm(導電率に関係する)が半解析的に計算される。
【0090】
本発明は、電極と電解質との境界面効果が存在して組織の導電率の絶対測定を妨げる(相対のみ)組織の全体的な生体インピーダンスの簡単な測定を提案することによって従来技術を凌駕する。
【0091】
この例では、双極電極は、フレームベースの定位埋め込み用に構成された深部電極である。深部電極は、グリッド及びストリップ電極の埋め込みのために大規模な開頭術を用いる侵襲的モニタリングと比べて、ステレオ脳波検査法で報告される合併症の発生率が低いため、普及が進んでいる。
図8に示すように、1つの深部電極2は、0.5mm~5mmの範囲のピッチで離して配置され、絶縁材22によって1つの長手方向に沿って分離された、10~15個の円筒コンタクト21のアレイから構成される。この説明では、深部電極はz軸に沿って配向され、半径Rの電極の外面で各電極コンタクト21が高さhを有すると考えられる。考慮される電極コンタクトのペアの電極コンタクトは、距離lだけ分離される。これらの円筒コンタクト21は、1mm~1cmの範囲の長さ、0.5mm~2mmの範囲の直径を有することができ、白金-イリジウムで作成することができる。定位条件下で埋め込まれると、それらは皮質又は皮質下の複数の脳領域をプローブするという利点を与える。このような双極円筒電極の例を
図9(a)に示す。
【0092】
これらの円筒形の形状を有する電極2によって媒体内で発生した電界をモデル化するために、円筒電界モデルが用いられる。
【0093】
図9(b)に示すように、円筒電極上の微分環が、点源によって近似される。差動電流dIが、電位dV(ρ)=dI/4πσρを誘起し、ここで、ρは、微分環からの距離である。電極コンタクト21の高さに沿って差動電流dIを積分し、差動電流をdI=J2πRdζとして表すことにより、単一の電極コンタクト21からの電位は次のようになる:
【数10】
【0094】
第2のコンタクトについて同じ式を考慮し、重ね合わせ原理を用いると、両方の電極コンタクト21によって誘起される合計電位は次のようになる:
【数11】
【0095】
電位に勾配作用素を適用すると、円筒座標の電界モデル成分が得られる:
【数12】
【数13】
【0096】
前述のように、この応答への電極と電解質との境界面の寄与を考慮しながら、記録された脳組織応答から電気伝導率σを推定するのに、還元-酸化反応のモデルが用いられる。臨床状況では、脳組織(電解質)内に少なくとも2つの電極コンタクト21が配置される。脳組織を損傷する可能性のある電荷蓄積を回避するために、組織への電荷注入に電流制御パルスがよく用いられる。作用電極コンタクトと対電極コンタクトとの間に電流源が取り付けられる。電極コンタクトを通じて脳組織に電荷平衡二相性パルスが送達される。第1の相は、例えば、活動電位の開始などの所望の生理的影響を引き出すために用いられ、第2の相は、刺激中に発生する電気化学プロセスを逆にするために用いられる。この例では、双極電荷平衡電流制御刺激中に2つの電極コンタクト21間で測定される電位の解析モデルM(t)は、式4のように表される。このモデルの基本的な仮定は、組織レベルでの刺激アーチファクトの振幅がバックグラウンドの神経活動レベルよりもかなり高いということである。この仮定は、両方の信号の振幅の差(通常、バックグラウンドの活動の場合の70μVに対して、刺激アーチファクトの場合は約1V)によって正当化される。この妥当な仮定を用いると、ラプラス式でのニューロン活動からのソースの寄与は無視される。
【0097】
媒体の電気抵抗R
mの式は、式(9,10)の円筒電界モデルから導出される。測定された電位差が、第1の電極の境界(r=R)での電位と第2の電極の境界での電位の差にほぼ等しいと仮定すると、円筒モデルは次のようになる:
【数14】
【数15】
【数16】
ここで、電気抵抗R
mは次のように表すことができる:
【数17】
【0098】
近似として、組織の抵抗を推定するために、電極コンタクトの中間点
【数18】
が用いられる。正確な式を得るためには、z軸に沿って積分を行って平均電位値を導出する必要がある。したがって、このような解析的表現の特定は非常に複雑であるため(可能であれば)、この簡略化を行った。
【数19】
などの電極の別の点を考慮すると、推定に小さいバイアスが生じる。解析モデルM(t)のあてはめから得られるR
mの推定と、電極の幾何形状仕様を知ることを組み合わせることにより、電気伝導率σを推定することができる。
【0099】
このモデルベースの方法の主な利点は、その精度、低い計算コスト、及びクリニックで日常的に用いられる刺激ハードウェア及びパラメータとの適合性であり、すぐに適用可能となる。
【0100】
典型的な臨床設定では、機能的刺激セッションは、皮質-皮質間誘発電位などの刺激によって誘発された後放電の解析に基づいててんかん原性域を特定することを目的としているため、定位脳波検査法(SEEG)記録中に電気伝導率を測定することはできない。本発明の方法の利点は、より低い刺激強度を用いても、術前評価の前に行われる標準的な臨床刺激と適合性のある、刺激パラメータ(I,T)の使用である。したがって、電気生理学記録から電気伝導率を推定できるだけでなく、標準の機能的刺激プロトコルよりもさらに安全である(強度は5~25分の1)。加えて、従来の生体インピーダンス技術は、健康な領域とてんかん原性領域との間に或る対比をもたらすが、本発明の方法は、電気伝導率の相対推定ではなく絶対推定をもたらすという利点を有する。
【0101】
本発明の方法のさらなる利点は、利用できないとみなされるため通常は全く取り上げられない刺激アーチファクトの特徴を、脳組織の生物物理学的特性のさらなる知識を得るのに用いることができ、おそらく診断上関心のある情報が提供されることである。
【0102】
電気伝導率の推定は、手術の前に従来から行われていたSEEG脳内記録の解析を補完できる「異常な脳組織」の新規なマーカの開発につながる可能性がある。
【0103】
この例では、生物物理学的パラメータPの値を所定の閾値と比較することで、被検者の脳の健康な領域から病的領域を区別することができる。この場合、複数の被検者の脳での病的領域と健康な領域の連続測定に基づいて所定の閾値が確立される。
【0104】
一実施形態によれば、本発明の方法は、インビボ又はエクスビボでの生体組織の物理的パラメータを推定するのに用いられる。
【0105】
一実施形態によれば、この方法は、転移性及び/又は癌性領域の存在を評価するために臓器の物理的パラメータの変化を検出するのに用いられる。
【0106】
一実施形態によれば、この方法は、病的脳領域の存在を識別するために脳組織の物理的パラメータの変化を検出するのに用いられる。
【0107】
本発明の一実施形態によれば、病的脳領域は、てんかん症状から生じる。
【0108】
ILAE(International League Against Epilepsy)は、2010年に、てんかん症状の分類の改訂版を公表している(Berg et al,Epilepsia,51(4):676-685、これは参照により本明細書に組み込まれる)。前記分類によれば、てんかん症状は、発作の種類(全般発作、焦点発作、又はけいれん)、病因(遺伝子[特発性を含む]、構造的/代謝的[又は症候性]、又は不明な原因[又は潜因性])、発症年齢、認知及び発達の先行条件と結果、運動機能及び感覚検査、EEG特徴、誘発又はトリガ因子、及び/又は睡眠に関する発作の発生パターンに従って分類され得る。
【0109】
てんかん症状の例は、てんかん性脳症、早期乳児てんかん性脳症(EIEE)、Dravet症候群、良性家族性新生児てんかん(BFNE)、早期ミオクロニー脳症(EME)、大田原症候群、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん、ウエスト症候群、乳児ミオクロニーてんかん(MEI)、良性乳児てんかん、良性家族性乳児てんかん、非進行性病変のミオクロニー脳症、熱性けいれんプラス(FS+)、Panayiotopoulos症候群、ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん、中心側頭スパイクを伴う良性てんかん(BECTS)、常染色体優性夜間前頭葉てんかん(ADNFLE)、遅発性小児後頭葉5てんかん、ミオクロニー欠神てんかん、Lennox-Gastaut症候群、睡眠時持続性棘徐波を示すてんかん性脳症(CSWS)、Landau-Kleffner症候群(LKS)、小児欠神てんかん(CAE)、若年欠神てんかん(JAE)、若年ミオクロニーてんかん(JME)、全般性強直間代発作のみをもつてんかん、進行性ミオクローヌスてんかん(PME)、聴覚要素を伴う常染色体優性てんかん(ADEAF)、焦点性てんかん、家族性及び散発性てんかん症状、病変性及び非病変性てんかん症状、他の家族性側頭葉てんかん(FTLE)(例えば、FTLEの内側型、家族性内側側頭葉てんかん(FMTLE)、又は家族性外側側頭葉てんかん(FLTLE)、多様な焦点を示す家族性部分てんかん(FFEVF、小児から成人)、多様な焦点を示す家族性部分てんかん(FPEVF)、小児の良性家族性部分てんかん、反射てんかん、海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん(HSを伴うMTLE)、側頭葉てんかん、特発性全般てんかん(IGE)、Rasmussen症候群、視床下部過誤腫を伴う笑い発作、片側けいれん・片麻痺・てんかん、神経皮膚20症候群(結節性硬化症、Sturge-Weberなど)、てんかん原性大脳皮質形成異常、腫瘍、感染、又は外傷、良性新生児発作(BNS)、熱性けいれん(FS)、熱性けいれんプラスを伴う全般てんかん(GEFS+)、及びADNFLE、FTLE、FFEVF、ローランドてんかん、及び乳児悪性焦点移動性部分発作などの特定の症候群を含むてんかん症状を含むがこれらに限定されない。
【0110】
本発明の一実施形態において、てんかん症状は、焦点性てんかんである。
【0111】
本発明の代替的な実施形態において、てんかん症状は、全般てんかんである。本発明の一実施形態において、てんかん症状は、側頭葉てんかんである。
【0112】
本発明の代替的な実施形態において、てんかん症状は、前頭葉てんかんである。本発明の一実施形態において、てんかん症状は、海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんである。本発明の一実施形態において、てんかん症状は、皮質発達の奇形に帰属する焦点性てんかんである。
【0113】
1つの好ましい実施形態において、てんかん症状は、薬剤抵抗性てんかんである。
【0114】
一実施形態によれば、本発明の方法は、園芸製品、食品材料、又は水の物理的パラメータを推定するのに用いられる。これらの製品の物理的パラメータの推定は、加工条件又は食品の品質の検出を可能にする。実際、農業材料は、含水率、成熟度、鮮度、潜在的な昆虫防除、耐凍性、霜感受性を含む様々な特徴によって評価される。例えば、これらの特徴は、電気の流れに対する抵抗を測定する電気伝導率測定を通じて判定することができる。
【0115】
本発明はさらに、媒体Mと接触するように構成された少なくとも2つの電極を用いて媒体Mの領域の物理的パラメータPのマッピングを生成するための方法に関する。
【0116】
一実施形態によれば、前記マッピング方法は、マッピングされている媒体Mの領域に含まれる第1の媒体領域内の電極の第1の位置[(x1a,y1a,);(x1b,y1b,)]に関する情報を受信する第1のステップを含む。
【0117】
一実施形態によれば、マッピング方法は、N∈[2,200]であるN個の電極をN個の異なる位置で媒体内に配置する予備ステップを含む。この実施形態では、電極は2対になっており、電極の各ペアに対して順次測定が行われる。
【0118】
一実施形態によれば、マッピング方法は、上記実施形態のいずれか1つに記載の物理的パラメータPを推定するための方法を用いて、第1の媒体領域内の媒体Mの物理的パラメータPの第1の値を取得するステップを含む。
【0119】
一実施形態によれば、マッピング方法は、電極の第1の位置[(x1a,y1a,);(x1b,y1b,)]を物理的パラメータPの第1の値と関連付け、これらのマッピングデータをコンピュータ可読媒体に格納するステップを含む、又は一実施形態によれば、マッピング方法は、マッピングデータをリモートサーバに送信する。一実施形態によれば、マッピング方法のステップは、マッピングされている媒体(M)の領域に含まれる第2の媒体領域内の電極の少なくとも1つの第2の位置[(x2a,y2a,);(x2b,y2b,)]について繰り返される。マッピング方法のステップは、媒体内の物理的パラメータの分布のマッピングを得るためにN個の媒体領域内の電極ペアのN個の位置について反復的に繰り返され得る。N個の電極位置について登録されたマッピングデータは、例えば強度グラフの形で、調査中の媒体内の物理的パラメータの分布のグラフ図を表示するのに用いられ得る。
【0120】
本発明はさらに、プログラムがコンピュータによって実行されるときに前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法のステップをコンピュータに実施させる命令を備えるコンピュータプログラムに関する。
【0121】
本発明はさらに、コンピュータによって実行されるときに前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法のステップをコンピュータに実施させる命令を備えるコンピュータ可読媒体に関する。一実施形態によれば、コンピュータ可読媒体は、一時的でないコンピュータ可読記憶媒体である。
【0122】
本発明の方法を実施するコンピュータプログラムは、一般に、限定はされないが、SDカード、外部記憶装置、マイクロチップ、フラッシュメモリデバイス、ポータブルハードドライブ、及びソフトウェアウェブサイトなどの配布コンピュータ可読記憶媒体上でユーザに配布することができる。配布媒体から、コンピュータプログラムは、ハードディスク又は同様の中間記憶媒体にコピーすることができる。コンピュータプログラムは、本発明の方法に従って動作するようにコンピュータを構成するコンピュータ命令を、それらの配布媒体又はそれらの中間記憶媒体のいずれかからコンピュータの実行メモリにロードすることによって動作することができる。これらのすべての動作は、コンピュータシステムの当業者によく知られている。
【0123】
様々な実施形態を説明及び例示してきたが、詳細な説明はこれらに限定されると解釈されるべきではない。請求項によって定義される本開示の真の精神及び範囲から逸脱することなく、当業者は実施形態に様々な修正を行うことができる。
【0124】
実施例
本発明は、以下の実施例によりさらに例示される。
【0125】
実施例1:
第1の実施例は、ラットの死後脳での電気伝導率の推定から構成される。
【0126】
材料及び方法
1986年11月24日のEuropean Communities Council Directive(86/609/EEC)に従ってCO2勾配を用いて安楽死させた生後3か月のSprague-Dawleyラットの脳で測定を行った。
【0127】
死後すぐに頭蓋表面を除去し、ラットの脳にヒトの頭蓋内SEEG電極(ref D08-15AM)を垂直に埋め込み、局所的な二相性パルス刺激を送達した。無酸素後の組織変性を回避するために、死後数分以内に刺激を与えた。
【0128】
刺激パラメータは、電流強度に関してI=0.2mAであり、パルス長に関して1相あたりT=1msであった。両方の半球を連続的に刺激した。校正済みの生理食塩水溶液の場合と同様に、電気生理学取得システム(Biopac MP35,Biopac,CA,USA)を用いて、脳組織内で誘起された電位を記録した。
【表1】
【0129】
結果
表Iに提示した推定導電率値は、おそらく死後に導電率が低下するため、文献で灰白質について報告されている値よりも低かった。コンタクトの正確な解剖学的位置の知識なしに電極が埋め込まれたことを考えると、電極が白質に配置された可能性もあり、おそらく導電率がより低いことを説明している。おそらく半球を一つずつ記録したために、おそらく記録間の組織の生物物理学的特性の死後変化に関係して、左半球では右半球よりも低い導電率が観察された。
【0130】
実施例2:
第2の実施例は、てんかん患者の臨床での電気伝導率の推定から構成される。
【0131】
材料及び方法
術前評価との関連でSEEGを受けているN=2のてんかん患者からの電気生理学データを記録した。電流I=0.2mAの電気パルスで脳組織を刺激した。この電気刺激は、SEEGの刺激セッション中に通常用いられる電気刺激(すなわち1~5mA)よりも顕著に低い。CEマークの付いた臨床グレードの電気生理学取得システムを用いた(Biopac MP35,Biopac,CA,USA)。
【0132】
電気生理学記録は、振幅、律動、及びてんかんマーカの観点から典型的な特徴を示し、電極コンタクトが灰白質にあるか又は白質にあるか(振幅及び律動)、またその領域がてんかん領域か又は健康な領域か(てんかんマーカ)を神経科医が判断するのに用いられる。刺激する領域の選択は、ニューロイメージングデータ(埋め込み前のMRI及び埋め込み後のCT)に加えてEEGデータの目視検査に基づいて行った。第1の患者では7つの領域、第2の患者では5つの領域を選択した。
【0133】
まったく同じパラメータ、すなわち、1相あたり500μsの二相性電荷平衡パルスを用いて、0.2mAの電流で5Hzの周波数で送達される、領域ごとに5秒のパルスの3つのトレイン、を用いて各領域に刺激を送達した。記録された信号の飽和を回避するために、臨床で用いたパルス長は、エクスビボ実験よりも短かかった(本出願の実施例1)。使用したサンプリング周波数は、各刺激パルスへの脳組織の短時間応答を正確に記録するために100kHzであった(1相あたり50サンプル)。パルスの総数は、25パルス/トレイン(3トレインで75パルス)であった。応答は、或るパルスから別のパルスまで統計的に再現性があった。
【0134】
第1の患者をSEEG電極の埋め込みの翌日に記録し、7つの領域を記録した。電気生理学記録から、電極A4-A5及びA9-10は灰白質にあり、一方、CR4-CR5は白質にあった。B’3-B’4、TP1-TP2、B1-B2、及びTP3-TP4は、有意なてんかん様活動を生じる領域にあった。第2の患者を埋め込みの8日後に記録し、5つの領域を記録した。SEEG信号から、電極OF11-OF12及びB1-B2は灰白質にあり、H1-H2は白質にあり、一方、TB’3-TB’4及びTP’1-TP’2はてんかん原性域にあったと評価された。
【0135】
結果
患者1の結果を
図10に示す。
図10(a)では、TP3-TP4(てんかん原性)と、A9-10(健康)からの、導電率値の2つの異なるクラスタが観察可能である。パルス刺激への記録された応答の振幅差は、それらの異なる導電率(約2倍)に関係する。
図10(b)は、7つの電極の導電率値を示す。灰白質に位置する領域A4-A5及びA9-A10は0.31S/mの導電率を有し、CR4-CR5は0.17S/mの導電率を有すると推定された。これらの値は、記録された脳領域のてんかん原性に依存しなかった。
【0136】
患者2の結果を
図11に示す。
図11(a)は、てんかん域(TB’3-TB’4)と、健康域OF11-OF12からの、パルス刺激への2つの異なる応答を示す。これらの波形は、患者1とは僅かに異なる。
図11(b)は、電極コンタクトの5つのペアの推定導電率値を示す。患者1と同様に、電極コンタクトが灰白質又は白質のどちらにあったかに応じて、導電率値の2つのクラスタが現れ、てんかんとして識別される領域の導電率値が最も低かった。二重層静電容量及びファラデーインピーダンスの推定値は、0.2μF及び1.3~1.8kΩであった。ファラデーインピーダンスの推定値は患者1で得られた値とよく一致しているが、電極の埋め込みと記録との間の遅延を考えると、おそらく術後のCSF浸潤に起因して、特に、患者2の二重層静電容量は著しく低い。電極と電解質との境界面は、局所神経膠症又は脳脊髄液の浸潤などの因子に依存するので、てんかん原性領域でZ
fパラメータ及びC
dlパラメータに違いがあるという先験的理由はなく、ほとんど埋め込み後の日によって異なる。
【0137】
実施例3:
第3の実施例は、生理食塩水溶液の電気伝導率の推定から構成される。
【0138】
材料及び方法
臨床電極(DIXI Microtechniques,Besancon,France)を、異なる校正済みの電気伝導率を有する溶液(それぞれ、0.1033、0.2027、0.3943、及び0.5786S/mの電気伝導率値を有する4つの溶液)に入れた。臨床グレードの刺激器(S12X,Grass Technologies,Natus Medical Inc.,USA)を用いて、強度I=0.2mAの刺激電流(入力飽和を回避するためにこの刺激器で利用可能な最低値)及び1相あたりT=1msのパルス長(2msの合計パルス長)で、二相性電荷平衡パルス電気刺激を送達した。電気生理学取得システム(Biopac MP35,Biopac,CA,USA)を用いて、刺激中に溶液中で誘起された電位を記録した。
【0139】
結果
記録された電位の時間経過は、電気伝導率に強く依存する。波形の不連続性は電気伝導率の情報を伝え、媒体の抵抗が減少するのに伴って導電率が増加する。重要なことには、所定の解析モデルパラメータは、イオンの再分布などのいくつかの物理的現象に依存する。導電率の小さい変化については、モデルパラメータは不変のままであると想定された。
図12で、モデルM(t)と生理食塩水溶液中での実験記録との一致を比較した。
【0140】
所定の解析モデルは、正の相と負の相との両方について記録された電位の時間経過を正確に再現する。平均して、電気伝導率の所定の解析モデルの推定値は、真値の2%以内であった。
【符号の説明】
【0141】
1:システム
2:電極
3:電流発生器
4:コンピュータ可読メモリ
5:取得ユニット
6:プロセッサ
61:刺激モジュール
62:取得モジュール
63:計算モジュール
7:ユーザインターフェース
FIT:時間の関数としての電位変化の測定値をあてはめるステップ
GE:電極の幾何形状仕様
I:電流
M:媒体
M(t):所定の解析モデル
OUT:あてはめから得られた物理的パラメータの値を出力するステップ
P:物理的パラメータ
REC:時間の関数としての電位変化の測定値を受信するステップ
Rm:電気抵抗
T:パルス持続時間
Tm:時間窓
Ts:刺激持続時間
ΔV(t):時間の関数としての電位変化
σ:電気伝導率