(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】昇降機調査システム、昇降機調査方法及び保守端末
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20231006BHJP
【FI】
B66B5/00 G
(21)【出願番号】P 2021027166
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宋 彦舟
(72)【発明者】
【氏名】大西 友治
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-167957(JP,A)
【文献】特開2018-090387(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212645(WO,A1)
【文献】特開2014-191790(JP,A)
【文献】特開2012-136300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機を調査する昇降機調査システムにおいて、
前記調査が行われる間に前記昇降機で発生する音の種別を分類するデータ処理部と、
前記音が発生した期間、前記昇降機に関する情報、及び前記音を表す擬音語の入力を受付ける入力部と、
前記音が発生した期間、前記昇降機に関する情報、前記音の種別、及び前記擬音語に基づいて、前記昇降機に対する保全の必要性を示す保全情報を検索データベースから検索する検索部と、
前記保全情報を表示する表示部と、を備える
昇降機調査システム。
【請求項2】
前記音の種別は、前記音が発生した期間における前記音の高さ、及び前記音の発生パターンの組み合わせで分類され、
前記擬音語は、前記昇降機を保全する作業者から入力される
請求項1に記載の昇降機調査システム。
【請求項3】
前記データ処理部は、前記昇降機で走行するかごのかご位置を取得し、前記かご位置に基づいて前記かごの走行状態を求め、
前記検索部は、前記昇降機に関する情報、前記音の種別、及び前記擬音語に加えて、前記かご位置及び前記走行状態に基づいて前記保全情報を検索する
請求項2に記載の昇降機調査システム。
【請求項4】
前記保全情報には、前記昇降機に発生したと推定される故障部位、及び前記故障部位に対して過去に行われた保全の内容が含まれる
請求項1~3のいずれか一項に記載の昇降機調査システム。
【請求項5】
昇降機を調査する昇降機調査方法において、
前記調査が行われる間に前記昇降機で発生する音の種別を分類する処理と、
前記音が発生した期間、前記昇降機に関する情報、及び前記音を表す擬音語の入力を受付ける処理と、
前記音が発生した期間、前記昇降機に関する情報、前記音の種別、及び前記擬音語に基づいて、前記昇降機に対する保全の必要性を示す保全情報を検索データベースから検索する処理と、
前記保全情報を表示部に表示する処理と、を含む
昇降機調査方法。
【請求項6】
昇降機の調査に用いられる保守端末において、
前記調査が行われる間に前記昇降機で発生する音の種別を分類するデータ処理部と、
前記音が発生した期間、前記昇降機に関する情報、及び前記音を表す擬音語の入力を受付ける入力部と、
前記音が発生した期間、前記昇降機に関する情報、前記音の種別、及び前記擬音語に基づいて、前記昇降機に対する保全の必要性を示す保全情報を検索データベースから検索する検索部と、
前記保全情報を表示する表示部と、を備える
保守端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機調査システム、昇降機調査方法及び保守端末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話端末等のスマートデバイスを用いて集音した、昇降機が発生する音の音データに基づいて、昇降機の保守の必要性を判定する昇降機状態検知方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、携帯端末に設けられた音検出手段によって検出された音の変化情報と、音の変化パターンに基づいて昇降機の個体識別を行い、保守点検が必要な昇降機を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載された技術は、昇降機の個体識別を行うために、昇降機で発生した音を検出して、保守点検が必要な昇降機を判定するものである。この際、昇降路内の機械動作音、外部の騒音なども検出されるため、これらの機械的な動作音と、異常音とを判別することが難しい。このため、作業者は、昇降機の異常が発生している部位を推定することが困難であった。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、昇降機で発生する音を騒音から分けて、昇降機の保全情報を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る昇降機調査システムは、昇降機を調査するものである。
この昇降機調査システムは、調査が行われる間に昇降機で発生する音の種別を分類するデータ処理部と、音が発生した期間、昇降機に関する情報、及び音を表す擬音語の入力を受付ける入力部と、音が発生した期間、昇降機に関する情報、音の種別、及び擬音語に基づいて、昇降機に対する保全の必要性を示す保全情報を検索データベースから検索する検索部と、保全情報を表示する表示部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、昇降機で発生する音が騒音に紛れても、作業者が騒音から分けて聞き取った音の擬音語を入力することで、昇降機の保全情報を得ることが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る昇降機調査システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る計算機のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る昇降機調査システムの処理の例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係るスペクトログラムパターンの算出処理の例を示すフローチャートである。
【
図5】
図3のステップS5で説明されるスペクトログラムパターンの具体例である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係るデータ処理部が、かごの走行状態とかご位置を求める処理の例を示すフローチャートである。
【
図7】
図6の処理を具体的に説明するための昇降機走行データ図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態に係る異常音データ選択画面の表示例を示す図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係る検索部が検索DBから異常音調査データを検索する処理の例を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の第1の実施の形態に係る検索DB内に格納される異常音故障データテーブルと、レコード抽出処理の様子を示す図である。
【
図11】本発明の第1の実施の形態に係る異常音調査レポートの表示例を示す図である。
【
図12】本発明の第1の実施の形態に係る異常音の擬音語の表記例を示す表である。
【
図13】本発明の第2の実施の形態に係る昇降機調査システムの処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る昇降機調査システム1の全体構成例を示すブロック図である。ここでは、昇降機調査システム1の装置構成を詳細に説明する。
【0012】
昇降機調査システム1は、昇降機30に発生する音を調査するシステムである。異常音は、主にかごの走行中に発生するが、かごの停止中にも発生することがある。作業者は、異常音調査を行うことにより、異常音が発生した故障の要因を把握し、故障に対応することができる。この昇降機調査システム1は、複数台の保守端末10、及びデータ管理サーバ20を備える。1台の保守端末10は、1台の昇降機30のかごに対応付けて使用される。
【0013】
<昇降機の構成例>
始めに、昇降機30の構成例について説明する。
昇降機30は、位置センサー31、かご制御装置32及び制御回路33を備える。
位置センサー31は、かご内又はかご上に設けられる。この位置センサー31は、かごの位置を計測し、かご制御装置32にかご位置データを出力する。ただし、後述するように保守端末10が位置センサー12を備える構成であれば、昇降機30は、位置センサー31を備えなくてもよい。
【0014】
かご制御装置32は、かごの動作(かごの昇降、ドアの開閉、移動時間等)を制御する。また、かご制御装置32は、位置センサー31から入力したかご位置データを制御回路33に出力する。
制御回路33は、かご内の制御盤(不図示)に設けられる。この制御回路33は、行先階ボタンが押下されると、行先階の情報をかご制御装置32に出力する。また、制御回路33は、かご内のドア開閉ボタンが押下されると、不図示のかごドアの開閉を制御する。かごドアの開閉に連動して、不図示のホールドアも開閉する。
【0015】
<保守端末の構成例>
次に、保守端末10の構成例について説明する。
保守端末10は、作業者が携帯可能な端末である。作業者は、昇降機30で発生する異常音に基づいて保守端末10を操作し、保守端末10に表示された昇降機30の故障推定部位を修理する。保守端末10としては、スマートフォン、タブレット端末等の情報処理装置が用いられる。
【0016】
作業者が異常音の調査を行う際には、昇降機30のかご内の所定位置に保守端末10を固定し、かごの昇降に伴って保守端末10が取得する各種の情報を用いる。ただし、後述する音センサー11、位置センサー12を保守端末10から離して設置できるのであれば、作業者は、保守端末10を携帯したまま異常音調査を行ってもよい。また、保守端末10は、昇降機30が備える制御回路33に有線又は無線で接続され、制御回路33からかご制御情報を取得することが可能である。
【0017】
保守端末10は、音センサー11、位置センサー12、入力部13、表示部14、データ処理部15、検索部16、レポート生成部17、通信部18及び検索データベース(以下、検索DBと略記)19を備える。
【0018】
音センサー11は、保守端末10の周囲の環境音を検出する音検出部の一例として用いられる。本明細書では、音センサー11が音を検出することを、音を計測するとも呼ぶ。音センサー11として、少なくとも20Hz~15000Hzの音を計測可能なマイクロホンが用いられる。このマイクロホンは、保守端末10に少なくとも一つ以上設けられるとよい。そして、音センサー11は、計測した環境音の音データをデータ処理部15に出力する。
【0019】
位置センサー12は、保守端末10が設置されたかごのかご位置を検出する位置検出部の一例として用いられる。本明細書では、位置センサー12がかご位置を検出することを、かご位置を計測するとも呼ぶ。位置センサー12として、例えば、加速度センサー、気圧センサーが用いられる。そして、位置センサー12は、計測したかご位置をかご位置データとしてデータ処理部15に出力する。
【0020】
なお、位置検出部として、昇降機30のかごに取り付けられた位置センサー31が用いられてもよい。この場合、保守端末10のデータ処理部15は、かご制御装置32が位置センサー31から収集したかご位置データを、昇降機30の制御盤に設けられた制御回路33を通じて取得する。
【0021】
入力部13は、音が発生した期間、昇降機30に関する情報、及び音を表す擬音語の入力を受付ける。例えば、入力部13は、昇降機30を保全する作業者によって入力された昇降機30に関する情報(機種名等)、異常音が発生した期間、及び異常音の擬音語の入力を受付ける。そして、入力部13は、データ処理部15又は検索部16に対して、作業者が入力した情報を出力する。作業者は、例えば、入力部13を通じて以下の情報を入力する。
(1)異常音調査の対象である昇降機30の基本情報
(2)音データのスペクトログラムに基づいて、音の範囲(異常音が発生した期間)を指定する情報
(3)作業者が聞きとった異常音を擬音語で表した擬音語情報
【0022】
表示部14は、本実施の形態に係る異常音調査に必要な画面及び情報を表示するユーザーインターフェースである。表示部14には、検索部16により検索された保全情報が表示される。保全情報には、昇降機30に発生したと推定される故障部位、及び故障部位に対して過去に行われた保全の内容(修理、交換等)が含まれる。また、表示部14には、例えば、データ処理部15により生成された音データのスペクトログラム、検索部16の検索結果である昇降機30の故障の内容、又はレポート生成部17が生成した異常音調査レポートが表示される。
【0023】
データ処理部15は、調査が行われる間に発生する音の種別を分類する。音の種別は、所定期間における音の高さ、及び音の発生パターンの組み合わせで分類される。データ処理部15は、音の種別を分類する処理と合わせて、昇降機30で走行するかごのかご位置に基づいてかごの走行状態を求める。このため、データ処理部15は、音センサー11から取得した音データと、位置センサー12から取得したかご位置データとに基づいて、少なくとも以下の処理を行う。
(1)音データに対する高速フーリエ変換処理
(2)音データを用いて、環境音のスペクトログラムを生成する処理
(3)入力部13で選択された範囲における音データの発生時間と同じ時間範囲内の位置データを抽出する処理
(4)入力部13で選択された範囲における音データのスペクトログラムパターンを算出する処理
(5)位置データを用いて、高さデータの最大値と最小値を算出する処理
(6)位置データの微分を算出し、かごの移動速度及び走行状態を算出する処理
(7)入力部13で選択された音データの発生時間と同じ時間範囲で抽出される位置データに基づいて、かごの位置を判定する処理
【0024】
そして、データ処理部15は、入力部13から入力された時間範囲におけるかご位置を位置データから抽出する処理を行う。上述したように保守端末10が位置センサー12を備えない構成であれば、データ処理部15は、制御回路33を通じてかご位置データを取得する。そして、データ処理部15は、音データ及び位置データの処理結果を検索部16に出力する。
【0025】
検索部16は、昇降機30に関する情報、音の種別、及び擬音語に基づいて、昇降機30に対する保全の必要性を示す保全情報を検索DB19から検索する。このため、検索部16は、データ処理部15から処理結果を受け取って、推定可能な昇降機30の故障部位を検索DB19から検索する。この際、検索部16は、データ処理部15がかご位置データに基づいて算出した異常音のスペクトログラムのパターンデータ、昇降機30の制御回路33から取得した異常音の発生時におけるかご位置データ、並びに入力部13から入力された昇降機30の基本情報(例えば、機種名、製造番号)、及び擬音語情報に基づいて検索DB19を検索する。検索部16によって行われる検索DB19の具体的な検索方法については後述する。検索部16の検索結果は、表示部14及びレポート生成部17に出力される。
【0026】
レポート生成部17は、検索部16が検索DB19から検索した故障の内容、入力部13から入力された昇降機30の基本情報、擬音語、異常音が発生した期間、異常音が発生した期間におけるかご位置、かごの走行状態、異常音の発生部位、及び異常音のスペクトログラムパターンを含む異常音調査レポートを生成する。そして、レポート生成部17は、生成した異常音調査レポートを表示部14に表示する。なお、異常音調査レポートは、用紙に印刷して出力することも可能である。
【0027】
また、レポート生成部17は、表示部14に表示した異常音調査レポートの内容に加えて、作業者が入力部13から入力した故障への対応内容を検索DB19に追加して保存する。このため、次回以降の異常音調査において、別の作業者が、別の昇降機30の異常音を聞き取って保守端末10に必要な情報を入力し、異常音調査レポートを確認する際には、故障への対応内容も確認することができる。
【0028】
通信部18は、インターネット等の通信回線を介してデータ管理サーバ20にアクセスして、位置センサー12で取得した音データと、位置データと、レポート生成部17で生成された異常音調査レポートとを、データ管理サーバ20の故障データベース22(以下、故障DB22と略記)にアップロードする。また、通信部18は、データ管理サーバ20にアクセスして、故障DB22から異常音故障データをダウンロードし、検索DB19に保存された異常音故障データを更新することもできる。
【0029】
検索DB19は、昇降機30の故障の内容を含む異常音故障データを格納する。昇降機30の故障の内容として、過去に行われた異常音調査で発見された異常音の原因となる昇降機30の故障原因、故障部位、故障時期等がある。このため、今回の異常音調査で検出された異常音と同様の異常音が過去に他の昇降機30でも発生していれば、過去に異常音が発生した昇降機30の故障原因、故障部位、故障時期等は、今回の異常音調査における故障対応に有用な情報となる。
【0030】
レポート生成部17が検索DB19に保存する異常音故障データは、保守端末10自身が異常音を調査して得たデータである。一方、通信部18がデータ管理サーバ20からダウンロードして検索DB19に保存する異常音故障データは、他の保守端末10が、他の昇降機30の異常音を調査して得たデータである。
【0031】
故障で発生した音を聞く作業者ごとに聞き取った時の個人差がある。このため、同じ故障音であっても、作業者ごとに、音の表現が若干異なる(例えば、カンカン、ガンガン)。このため、一つの故障音には、複数の擬音語が紐づけられている。そして、検索DB19は、異常音の擬音語のバラツキを表す情報(例えば、複数の擬音語)を保存する。
【0032】
<データ管理サーバの構成例>
次に、データ管理サーバ20の構成例について説明する。
データ管理サーバ20は、例えば、クラウド上に設けられ、複数の保守端末10がアクセス可能な装置である。データ管理サーバ20は、複数の保守端末10から収集した、レポートの内容、及び故障への対応内容を故障DB22に格納する。故障DB22に格納されるデータは、様々な昇降機30で計測された異常音に関して、この昇降機30に対して行われた修理の内容等を含む異常音故障データである。このデータ管理サーバ20は、通信部21及び故障DB22を備える。
【0033】
通信部21は、異常音調査を行った複数の保守端末10の通信部18がそれぞれアップロードした異常音故障データを収集し、故障DB22に異常音故障データを書き込む。また、これから異常音調査を行う保守端末10の配信要求により、故障DB22から読み出した異常音故障データを保守端末10に配信する。
【0034】
異常音調査を行う保守端末10の通信部18は、データ管理サーバ20からダウンロードした最新の異常音故障データを検索DB19に保存する。検索DB19は、配信要求を受けて故障DB22から読み出され、データ管理サーバ20から配信されるレポートの内容、及び故障への対応内容で更新される。
【0035】
なお、保守端末10の配信要求には、異常音調査の対象である昇降機30の基本情報が含まれてもよい。この場合、通信部21は、昇降機30の基本情報に紐づけられた異常音故障データだけを故障DB22から読み出して保守端末10に配信できるので、検索DB19の更新が早く完了する。
【0036】
故障DB22は、複数の保守端末10からアップロードされた異常音故障データを蓄積する。ここで、故障DB22には、異常音調査レポートの内容を含む異常音故障データの他に、通信部18からアップロードされた音データと、かごの位置データとが蓄積される。
【0037】
次に、昇降機調査システム1の各装置を構成する計算機40のハードウェア構成を説明する。
図2は、計算機40のハードウェア構成例を示すブロック図である。計算機40は、本実施の形態に係る保守端末10として動作可能なコンピューターとして用いられるハードウェアの一例である。本実施の形態に係る昇降機調査システム1は、計算機40(コンピューター)がプログラムを実行することにより、
図1に示した各機能ブロックが連携して行う昇降機30の異常音を用いた故障診断方法を実現する。
【0038】
計算機40は、バス44にそれぞれ接続されたCPU(Central Processing Unit)41、ROM(Read Only Memory)42、及びRAM(Random Access Memory)43を備える。さらに、計算機40は、表示装置45、入力装置46、不揮発性ストレージ47及びネットワークインターフェイス48を備える。
【0039】
CPU41は、本実施の形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM42から読み出してRAM43にロードし、実行する。RAM43には、CPU41の演算処理の途中で発生した変数やパラメーター等が一時的に書き込まれ、これらの変数やパラメーター等がCPU41によって適宜読み出される。ただし、CPU41に代えてMPU(Micro Processing Unit)を用いてもよい。
図1に示したデータ処理部15、検索部16及びレポート生成部17の機能は、CPU41によって実現される。
【0040】
表示装置45は、例えば、液晶ディスプレイモニターであり、計算機40で行われる処理の結果等を作業者に表示する。表示部14の機能は、表示装置45によって実現される。
入力装置46には、例えば、キーボード、マウス等が用いられ、作業者が所定の操作入力、指示を行うことが可能である。入力部13の機能は、入力装置46によって実現される。
なお、表示装置45と入力装置46は、一体化された入出力装置として用いられてもよい。また、表示装置45と入力装置46は、計算機40に対して別体として設けられてもよい。
【0041】
不揮発性ストレージ47としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ又は不揮発性のメモリ等が用いられる。この不揮発性ストレージ47には、OS(Operating System)、各種のパラメーターの他に、計算機40を機能させるためのプログラムが記録されている。ROM42及び不揮発性ストレージ47は、CPU41が動作するために必要なプログラムやデータ等を記録しており、計算機40によって実行されるプログラムを格納したコンピューター読取可能な非一過性の記憶媒体の一例として用いられる。検索DB19は、不揮発性ストレージ47に構成される。
【0042】
ネットワークインターフェイス48には、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられ、NICの端子に接続されたLAN(Local Area Network)、専用線等を介して各種のデータを装置間で送受信することが可能である。通信部18の機能は、ネットワークインターフェイス48によって実現される。
【0043】
<昇降機調査システムの処理>
図3は、昇降機調査システム1の処理の例を示すフローチャートである。
【0044】
(準備作業)
異常音調査の準備作業として、作業者は、入力部13を通じて、保守対象となる昇降機30の基本情報を入力する(S1)。昇降機30の基本情報は、例えば、昇降機30の機種名、昇降機30の製造番号等の情報を含む。昇降機30の基本情報に基づいて、昇降機30のデータベースから必要な情報を取得することが可能となる。
【0045】
(故障推定及び故障対応)
次に、作業者は、保守端末10をかごに設置し、かご周辺の環境音とかご位置を計測する(S2)。保守端末10が昇降機30に設置される場所は、例えば、かご内の床の上、又はかごの上である。そして、昇降機30に設置された保守端末10のデータ処理部15は、音センサー11が計測したかご内外の環境音の音データを取得する。また、データ処理部15は、位置センサー12が計測したかご位置のかご位置データを取得する。
【0046】
次に、データ処理部15は、ステップS2にて音センサー11が得た音データに基づき、かごの走行に伴って発生する音に周波数解析(例えば、FFT(Fast Fourier Transform)処理)を行って、スペクトログラムを生成する(S3)。そして、データ処理部15は、表示部14にスペクトログラムを表示する(後述する
図8を参照)。なお、ステップS3以降の処理は、例えば、かごを全階移動させた後に行われる。
【0047】
次に、作業者は、表示部14に表示されたスペクトログラムに基づいて、異常音が発生した時間範囲を、入力部13を通じて指定する(S4)。作業者は、表示部14に表示されたスペクトログラムを確認しながら、例えば、連続する3つの山が生じた時間範囲を、スペクトログラムの特徴的なパターンとして指定することができる。ただし、表示部14にスペクトログラムが表示されなくても、作業者は、異常音を聞き取った大体の時間範囲を指定することができる。
【0048】
次に、データ処理部15は、スペクトログラムから異常音が発生した期間における音のパターンを抽出し、抽出した音のパターンを異常音のスペクトログラムパターンとして得る(S5)。ここで、異常音が発生した期間とは、ステップS4で作業者が入力した時間範囲である。また、異常音のスペクトログラムパターンとは、例えば、後述する
図5によって表される時間範囲のスペクトログラムであり、異常音の種別が「断続低音」のように分類して表される。
【0049】
次に、データ処理部15は、ステップS4にて作業者に指定された時間範囲を用いて、ステップS2にて計測されたかご位置データから、異常音の発生時に計測されたかご位置データを抽出する。そして、データ処理部15は、抽出したかご位置データに基づいて、異常音の発生時における、かごの走行状態及びかご位置を算出する(S6)。かごの走行状態とは、例えば、かごが走行中、又は停止中の状態を表す。かごの走行状態を判定する処理の詳細は、
図6にて後述する。
【0050】
次に、作業者は、ステップS4にて指定した時間範囲内で、作業者が聞いた異常音に対する感覚を具体化した擬音語を、入力部13を通じて入力する(S7)。入力された擬音語は、検索部16に取り込まれる。
【0051】
次に、検索部16は、ステップS5にてデータ処理部15が算出した異常音のスペクトログラムパターンと、ステップS6にてデータ処理部15が抽出した異常音発生時のかごの走行状態と、ステップS7にて入力部13から入力された擬音語とを用いて、検索DB19から、過去の異常音故障データを検索する(S8)。そして、検索部16は、過去の異常音故障データに基づいて、異常音の発生部位(故障部位)を推定する。
【0052】
次に、検索部16は、ステップS8で得た検索結果である、推定した異常音の発生部位(故障部位又は劣化部位)と、異常音の是正方法(故障への対応方法)とを含む保全情報を表示部14に提示する(S9)。作業者は、提示された保全情報に基づいて故障に対応する。
【0053】
(レポート生成)
作業者が故障に対応した後、レポート生成部17は、ステップS5,S6,S8にて得た結果に基づいて、予め作業者によって指定されたフォーマットの異常音調査レポートを生成し、表示部14に異常音調査レポートを表示する(S10)。また、レポート生成部17は、生成した異常音調査レポートの内容を検索DB19に保存する。
【0054】
そして、通信部18は、ステップS2にてデータ処理部15が取得した音データ及びかご位置データ(図中では「計測データ」と記載)と、ステップS10にてレポート生成部17が生成した異常音調査レポートとを故障DB22へアップロードし(S11)、本処理を終了する。
【0055】
<スペクトログラムパターンの算出処理>
次に、
図3のステップS5に示したスペクトログラムパターンの算出処理について、
図4と
図5を参照して説明する。
図4は、異常音のスペクトログラムパターンの算出処理の例を示すフローチャートである。
【0056】
始めに、データ処理部15は、
図3のステップS4にて抽出されたスペクトログラムの周波数軸を所定範囲でn等分する(S21)。次に、データ処理部15は、次に、スペクトログラムの時間軸を所定範囲でm等分する(S22)。
【0057】
次に、データ処理部15は、時間軸をm等分したスペクトログラムに対して、m等分した時間単位(例えば、0.01秒単位)で音圧の加算値を求める。そして、データ処理部15は、音圧加算値のピーク値を検知し、ピーク値の発生周期を計算する(S23)。
【0058】
次に、データ処理部15は、周波数軸をn等分したスペクトログラムに対して、n個の周波数範囲で音圧の加算値を求めて、音圧加算値が一番大きい周波数範囲を特徴周波数とする(S24)。
【0059】
次に、データ処理部15は、ステップS23、ステップS24にて算出した発生周期と特徴周波数に基づいて、異常音の特徴的なパターンを分類する(S25)。
【0060】
図5は、
図3のステップS5で説明されるスペクトログラムパターンの具体例である。
【0061】
例えば、データ処理部15は、周波数軸を3等分にして、それぞれ低音範囲、中音範囲、高音範囲とする(S21)。また、データ処理部15は、周波数軸の範囲ごとに音圧の加算値を求め、一番強い範囲を特徴範囲とする。
図5に示すように、色が濃いほど音圧が強い。このため、特徴範囲は低音と判定される。
【0062】
また、データ処理部15は、時間tに対して、スペクトログラムを18等分する(S22)。そして、データ処理部15は、t/18秒単位で、全周波数範囲の音圧の加算値を求め、音圧の加算値のピーク値を検知する。そして、データ処理部15は、ピーク値の発生周期に基づいて異常音の周期を計算する(S23)。
図5に示した波形の例では、ピーク値が断続的に発生する。そこで、データ処理部15は、スペクトログラムで表される異常音の種別を「断続低音」と分類する。このため、スペクトログラムパターンは、断続低音であるスペクトログラムとして表される。
【0063】
<かごの走行状態とかご位置の算出処理>
次に、
図3のステップS6に示した異常音発生時における、かごの走行状態とかご位置の算出処理について、
図6と
図7を参照して説明する。
図6は、データ処理部15が、かごの走行状態とかご位置を求める処理の例を示すフローチャートである。
図7は、
図6の処理を具体的に説明するための昇降機走行データ図である。この走行データ図の横軸は時間[s]、縦軸は高さ[m]を表す。
図7に示す走行データでは、かごが上昇する様子が示される。
【0064】
本実施の形態に係る異常音調査では、昇降路の最下階から最上階まで途中階でかごを停止させることなく、かごを上昇させ、又は下降させる制御が行われる。そして、かごに乗車した作業員がかごの走行中又は停止中に発生した異常音を聞き取った場合に、この異常音を擬音語として入力部13に入力することで、異常音の発生部位を推定することを可能とする。
【0065】
始めに、データ処理部15は、位置センサー12から取得したかごの位置データを用いて、高さデータの最小値minと最大値maxを算出する(S31)。この処理において、データ処理部15は、例えば、最下階にあるかごの移動開始時に取得した位置データを高さデータの最小値minとして算出する。また、データ処理部15は、例えば、最上階まで移動したかごの移動終了時に取得した位置データを高さデータの最大値maxとする。
【0066】
次に、データ処理部15は、ステップS4にて作業者により選択された、異常音が発生した時間範囲を表す時間情報を抽出する(S32)。
【0067】
次に、データ処理部15は、指定された時間範囲に該当するかご位置をかご位置データから求め、かごの高さの時間変化に基づいて、かごが移動した高さを抽出する(S33)。ここでは、指定された時間範囲の開始時間におけるかご位置を高さh1、終了時間におけるかご位置を高さh2と呼ぶ。そして、高さh1,h2の差分を、指定された時間範囲でかごが移動した高さとする。
【0068】
次に、データ処理部15は、ステップS33にて抽出した高さh1,h2を用いて、かごが移動した高さの時間微分dを計算することで、かごの移動速度を求め、かごの走行状態を判定する(S34)。例えば、データ処理部15は、高さの微分dが正の場合にかごが上昇しており、負の場合にかごが下降していると判定する。また、データ処理部15は、微分dが昇降機30の定格速度vのw%より大きい場合にかごが走行中と判定し、微分dが昇降機30の定格速度vのw%以下である場合に加減速中と判定する。また、データ処理部15は、微分dがゼロである場合に、かごが停止中と判定する。このようにデータ処理部15は、所定期間におけるかご位置の変化量に基づいて、かごの走行状態を走行中又は停止中と判定することができる。
【0069】
次に、データ処理部15は、高さデータの最大値maxと最小値minの差を求め、この差と、閾値Bとを比較する(S35)。この処理は、かごが最上階又は最下階のいずれにいるかを判定するために行われる。例えば、データ処理部15は、最大値maxと高さh1、h2との差(最大値max-高さh1、最大値max-高さh2)が同時に閾値Bより小さい場合、かごが最上階にいると判定する。
図7の右上には、閾値Bに対する、最大値maxと高さh1、h2との差の例の拡大図が示される。この例では、閾値Bが、最大値maxと高さh1、h2との差より大きいので、かごは最上階にいると判定される。
【0070】
また、データ処理部15は、最小値minと、高さh1、h2との差(高さh1-最小値min、高さh2-最小値min)が同時に閾値Bより小さい場合、かごが最下階にいると判定する。
図7の左下には、閾値Bに対する、最小値minと高さh1、h2との差の例の拡大図が示される。そして、データ処理部15は、かごが最上階又は最下階にいないと判定した場合は、かごが中間階を走行中であると判定する。そして、データ処理部15は、かご位置と、異常音調査におけるかご位置の最大値及び最小値、並びに閾値との関係に基づいて、最下階又は最上階にかごが移動したか否かを判定することができる。
【0071】
なお、上述したように異常音調査において、かごを走行させる階は任意に変更可能である。このため、最小値minが最下階でないことがあるし、最大値maxが最上階でないこともある。このため、異常音調査の開始階及び終了階を任意に決めることができる。例えば、異常音調査の開始階を最下階、終了階を最上階としてもよいし、異常音調査の開始階を最上階、終了階を最下階としてもよい。他には、異常音調査の開始階を途中階、終了階を最上階のように変更してもよい。そして、異常音調査の開始階及び終了階に合わせて、最小値minと最大値maxが設定される。
【0072】
次に、データ処理部15は、ステップS34,S35にて得たかごの走行状態とかご位置の判定結果を出力する(S36)。この判定結果を用いて、検索部16は、昇降機30に関する情報、音の種別、及び擬音語に加えて、かご位置及び走行状態に基づいて、検索DB19から保全情報を検索することが可能となる。
【0073】
本実施の形態では、
図7に示すエレベータの高さ曲線の形と関係なく、最下階と最上階の位置データを用いて高さデータを算出できれば、かごの移動速度、移動方向を求めることが可能である。そのため、調査中に途中階でかごが止まっても、異常音調査に与える影響が少ない。
【0074】
図8は、異常音データ選択画面50の表示例を示す図である。
【0075】
異常音データ選択画面50は、作業者が異常音の時間範囲を選択するために使用される画面であり、表示部14に表示される。本実施の形態では、例えば、かごが最下階から最上階まで走行した後、表示部14に表示された異常音データ選択画面50に対して、作業者が異常音の発生した時間範囲等を入力可能である。
【0076】
異常音データ選択画面50は、高さ表示部51、周波数表示部52、時間範囲選択部53を有する。
高さ表示部51は、異常音調査によりかごが走行又は停止した時間における、かごの高さの変化を示す高さ曲線を表示する。高さ曲線は、
図7に示した昇降機走行データ図とほぼ同じ図で表される。
周波数表示部52は、作業者が時間範囲選択部53を用いて選択した時間範囲における周波数ごとの音圧加算値を表示する。
【0077】
時間範囲選択部53は、作業者が時間範囲を選択するためのスライダを表示する。例えば、周波数表示部52に複数のスペクトログラムが表示されている状態で、作業者は白抜きの丸印で表されるスライダを横に移動させて、時間範囲の開始及び終了を選択することで、異常音が発生した時点におけるスペクトログラムパターンが選択される。
図8の例では、スライダの移動に伴って、スライダの前後数秒間が音の選択範囲として選択されることが示される。
図8では、白丸印で表すスライダの前後数秒間が予め音の選択範囲として設定される。他には、例えば、作業者がスライダを移動して1回目にクリックした時間を開始時間、2回目にクリックした時間を終了時間として音の選択範囲を設定できるようにしてもよい。また、選択されたスペクトログラムパターンによって、異常音が断続低音であるといった、後述する
図10に示すレコード抽出処理が行われる。
【0078】
また、作業者が、昇降機30の基本情報を入力する欄、作業者が異常音の擬音語を入力する欄は、異常音データ選択画面50内に設けられてもよいし、別の画面に設けられてもよい。また、作業者が故障部位を修理した内容を入力する画面は、別途、表示部14に表示される。
【0079】
なお、作業者は、保守端末10を持った状態で走行中のかごで異常音を聞き取った時点で、入力部13を通じてマーク等を入力できるようにしてもよい。この場合、かごが走行した後に、マークが入力された時点が異常音データ選択画面50に表示されるようにすることで、作業者が、異常音が生じた時点におけるかごの高さ等を把握できるようにしてもよい。
【0080】
<異常音調査データの検索処理>
次に、
図3のステップS8に示した異常音調査データの検索処理について、
図9と
図10を参照して説明する。
【0081】
図9は、検索部16が検索DB19から異常音調査データを検索する処理の例を示すフローチャートである。
図10は、検索DB19内に格納される異常音故障データテーブルT1と、レコード抽出処理の様子を示す図である。
ここでは、検索部16が以下の手順で、昇降機30に生じた故障の原因を推定する処理を行う。
(1)まず、検索部16は、異常音調査が行われる間に昇降機30で発生した音を、音の種別に分類する。音の種別として、例えば、音の高さ(低音、高音)やパターン(単発、断続、連続)の組み合わせがある。
(2)次に、検索部16は、(1)で分類された音の種別、作業者により入力された昇降機30の対象機種及び擬音語に基づいて、異常音故障データテーブルT1から保全情報を含むレコードを抽出し、故障部位と故障原因を推定する。
【0082】
始めに、
図10の最上段にある異常音故障データテーブルT1の構成例を説明する。
異常音故障データテーブルT1は、故障DB22に構成されるテーブルである。また、異常音故障データテーブルT1の各レコードが、データ管理サーバ20から保守端末10にダウンロードされ、通信部18を経て、検索DB19に取り込まれる。
【0083】
異常音故障データテーブルT1は、
図3のステップS8にて検索部16が異常音故障データを検索し、抽出する際に参照されるテーブルであり、異常音故障データテーブルT1の各行には、過去に発生した異常音を伴う故障の詳細な内容が格納されている。
【0084】
異常音故障データテーブルT1は、異常音故障のNo、発生部位、異常音分類、機種名、擬音語、走行状態、かご位置、故障詳細、対応方法の各項目で構成される。
異常音故障のNo.「2」の異常音故障データは、異常音の発生部位が「プーリ」、異常音分類が「断続低音」、昇降機30の機種名が「A3」、擬音語が「カンカン」、走行状態が「走行中」、かご位置が「最上階」、故障詳細が「頂部プーリベアリング劣化」、対応方法が「ベアリング給油又は交換」であることを示す。
【0085】
次に、検索部16で行われる具体的な処理の内容を説明する。ここでは、分類された音の種別(以下、「異常音分類」と呼ぶ)を「断続低音」、機種名を「A3」、擬音語を「カンカン」、走行状態を「走行中」、かご位置を「最上階」と設定した例について説明する。
【0086】
検索部16の処理が行われる前に、作業者は入力部13を通じて、機種名、擬音語を、検索部16に検索条件として設定しておく。また、データ処理部15は、異常音分類を、検索部16に検索条件として設定する。
【0087】
次に、検索部16は、検索条件として設定された異常音の異常音分類を用いて、検索DB19に保存された異常音分類と一致するデータを検索する(S41)。例えば、検索部16は、異常音故障データテーブルT1に構成される異常音分類の項目から、検索条件として設定された「断続低音」に該当するレコードを検索し、抽出する。
【0088】
次に、検索部16は、予め入力部13から検索条件として設定された昇降機30の機種名を用いて、検索DB19に保存された機種データと一致するデータを検索する(S42)。例えば、検索部16は、ステップS41で断続低音が抽出されたレコードから、検索条件として設定された機種名「A3」に該当するレコードを検索し、抽出する。
【0089】
次に、検索部16は、設定された擬音語を用いて、検索DB19に保存された擬音語データと一致するデータを検索する(S43)。例えば、検索部16は、ステップS42で機種名「A3」が抽出されたレコードから、さらに検索条件として設定された擬音語「カンカン」に該当するレコードを検索し、抽出する。ステップS43までの処理で、異常音発生部位が「プーリ」であることが判明する。擬音語「カンカン」に該当するレコードが一つであれば、ステップS43の抽出結果をそのまま異常音発生部位結果として用いてよい。
【0090】
擬音語「カンカン」に該当するレコードが複数存在する場合には、ステップS44以降の走行状態及びかご位置でレコードをさらに抽出する処理が行われる。そこで、検索部16は、ステップS6にてデータ処理部15から得た、かごの走行状態とかご位置を用いて、検索DB19に保存されたかごの走行状態とかご位置が一致するデータを検索する(S44)。例えば、検索部16は、ステップS43で擬音語「カンカン」が抽出されたレコードから、検索条件として設定された走行状態「走行中」、かご位置「最上階」に該当するレコードを検索し、抽出する。ここで、かご位置「最上階」で走行状態「走行中」とは、例えば、行先階が最上階である場合に、かごが完全に停止しておらず、わずかに動いている状態を表す。かご位置「最上階」で走行状態「停止中」であれば、かごが最上階で完全に停止していることを表す。
【0091】
最後に、検索部16は、異常音が発生した故障部位の検索結果を表示部14に表示する(S45)。例えば、異常音が発生した故障部位の検索結果は、「プーリ」であることが表示部14に表示される。
【0092】
なお、検索部16が検索DB19に格納された異常音調査データを検索する処理の順番を変えてもよい。例えば、作業者が始めに、機種名を入力し、その後、異常音分類を入力してもよい。このように入力順を変えたとしても、ステップS45で得られる検索結果は同じとなる。
【0093】
図11は、異常音調査レポートの表示例を示す図である。レポート生成部17は、検索DB19から異常音故障データを読み出して、異常音調査レポートを生成する。
【0094】
レポート生成部17は、検索部16が発生部位、異常音分類、機種、擬音語、走行状態、かご位置に基づいて過去の異常音故障データから検索した故障詳細、対応方法を含む異常音調査レポートを生成し、表示部14に異常音調査レポートを表示する。
【0095】
異常音調査レポートには、異常音調査レポートの生成日時(例えば、2020年12月16日10時00分30秒)がレポートNo.として記録される。また、異常音調査レポートには、
図3のステップS1,S2,S4,S7にて入力された結果が表示される。例えば、昇降機30の製造番号、機種、異常音分類(「波形パターン」と記載)、擬音語(「入力擬音語」と記載)が記載される。また、異常音調査レポートには、検索部16が検索DB19を検索して取得した発生部位(「推定故障部位」と記載)、故障詳細(「故障原因」と記載)の他、調査日時、作業者名が記載される。
【0096】
また、異常音調査レポートには、
図8の異常音データ選択画面50にて作業者が選択した、高さ表示部51に表示された高さ曲線と、周波数表示部52に表示された選択範囲内の周波数パターンとが、音の選択範囲と共に記載される。
【0097】
図12は、異常音の擬音語の表記例を示す表である。
擬音は、言語ごとに異なって表記される。
図12に示す表には、日本語で表される擬音語(カタカタ、ピー、カンカン/コンコン)が、中国語及び英語でどのように表されるかが示されている。
【0098】
例えば、「カタカタ」という擬音語は、部品が振動していたり、転がっていたりする時に発生する音を表す。また、「ピー」という擬音語は、走行中のかごの一部がこすれた高周波音を表す。また、「カンカン/コンコン」という擬音語は、かごに何らかの物体が連続して接触する時に発生する音を表す。そして、作業者が日常で使用する言語が、中国語又は英語であれば、
図12に示す表に示される擬音語を入力すればよい。
【0099】
以上説明した第1の実施の形態に係る昇降機調査システム1では、作業者が保守端末10を通じて入力した擬音語及び機種名と、データ処理部15が処理した異常音分類とに基づいて、検索DB19内の異常音故障データテーブルT1からレコードが抽出される。ここで、音の種別は、データ処理部15に入力された音データに基づいて自動的に分類される。そして、作業者により異常音が発生したことが指定された時間における音の種別が、検索部16が検索DB19を検索するための異常音の種別として抽出される。この抽出されたレコードにより、作業者が聞きとった異常音に応じた異常音発生部位結果を含む保全情報が表示部14に表示される。このため、作業者は、表示された保全情報を確認して、昇降機30の故障部位に対する適切な保全を行うことができる。
【0100】
このように保守端末10では、異常音の種別、昇降機30の基本情報、異常音を認識した作業者の感覚をパラメーター化して入力される擬音語を検索条件として、過去の異常音故障データが格納される検索DB19から故障の詳細、対応方法等を検索することが可能となる。ここで、人の感覚ではかごの走行に伴って発生する騒音と、故障個所で発生する異常音とを区別できるため、機械のみで騒音から異常音の有無を判定するより、異常音の判定精度が高くなる。
【0101】
そして、今回、発生した異常音と共通する内容の異常音が過去に発生していれば、既存の故障履歴を使用し、異常部位を推定することが可能となる。作業者は、異常音の原因となった故障に対して、どのような対応がされたかを把握しやすいので、速やかに故障に対応できる。
【0102】
また、データ処理部15が位置データを取得することで、かごのかご位置及び走行状態を求めることができる。そして、データ処理部15は、音データからスペクトログラムを生成した後、作業者が、選択した異常音の発生時間におけるスペクトログラムを異常音のスペクトログラムパターンとして抽出する。このとき、データ処理部15では、音圧が一番強い周波数を特徴として、音の重複パターンと組み合わせることで、異常音の種別を示すスペクトログラムパターンを判定し、表示部14に表示することができる。このため、作業者は、異常音の発生時間におけるスペクトログラムパターンを把握することが可能となる。
【0103】
異常音が発生した時の詳細な状況は異常音調査レポートに記載される。そして、異常音調査レポートは、作業者から昇降機30の管理者に渡すことが可能である。このため、管理者は、異常音が生じた状況、故障原因を把握することが容易である。また、異常音調査レポートに記載される内容は、異常音故障データとして、
図1に示したデータ管理サーバ20の故障DB22に記録され、他の保守端末10により適宜ダウンロードされる。このため、作業者は、過去の異常音故障データを参照することで、昇降機30の異常音調査の効率を上げることができる。
【0104】
なお、作業者が、異常音調査において、複数の異常音を聞き取った場合には、複数の箇所に異常音を聞き取った時点を示すマーク等を、異常音データ選択画面50に入力可能としてよい。この場合、複数の異常音に対する異常音調査レポートが表示部14に表示される。
【0105】
また、作業者は、昇降機30で発生する音が正常音又は異常音のいずれであるか判別できないことがある。そこで、昇降機調査システム1は、昇降機30で発生する正常音の調査にも用いられる。例えば、独特な音が発生しても、ある機種の昇降機30では正常動作時に発生する音であれば、作業者は、この音が正常音であり、昇降機30は正常に動作していると判断することができる。
【0106】
また、保守端末10は、検索DB19を備えない構成としてもよい。この場合、検索部16は、データ管理サーバ20にアクセスして、故障DB22を検索データベースとして用い、故障DB22から昇降機30に関する情報、音の種別、及び擬音語に基づいて、昇降機30の保全情報を取得してもよい。
【0107】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る昇降機調査システム1の処理例について、
図13を参照して説明する。
図13は、第2の実施の形態に係る昇降機調査システム1の処理の例を示すフローチャートである。
なお、
図13のステップS51~S54の処理は、
図3のステップS2~S5の処理と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0108】
ステップS54の後、検索部16は、異常音のスペクトログラムパターンに基づいて、検索DB19からデータを検索し、第1検索結果を表示部14に表示する(S55)。このようにステップS55では、音のパターンに基づいて検索DB19から検索した第1検索結果が表示部14に表示される。表示された第1検索結果が不適当であれば、作業者は、異常音のパターンを是正して、第1検索結果を修正可能である。
【0109】
ステップS55で表示された第1検索結果が妥当であれば、作業者は、入力部13を通じて、保守対象となる昇降機30の基本情報を入力する(S56)。次に、検索部16は、是正された昇降機30の基本情報を用いて、ステップS55の第1検索結果を絞り込んで検索した第2検索結果を表示部14に表示する(S57)。表示された第2検索結果が不適当であれば、作業者は、基本情報を是正して、第2検索結果を修正可能である。
【0110】
ステップS57で表示された第2検索結果が妥当であれば、作業者は、入力部13を通じて、異常音の擬音語を入力する(S58)。次に、検索部16は、是正された擬音語を用いて第2検索結果を絞り込んで検索した第3検索結果を表示部14に表示する(S59)。表示された結果が不適当であれば、作業者は、擬音語を是正して、第3検索結果を修正可能である。
【0111】
次に、データ処理部15は、ステップS4にて作業者に指定された時間範囲を用いて、ステップS2にて計測されたかご位置データから異常音発生時に計測されたかご位置データを抽出し、かごの走行状態を算出する(S60)。ステップS60の処理は、
図3に示したステップS6の処理と同じである。
【0112】
次に、検索部16は、昇降機30の走行状態及びかご位置を用いて、ステップS59の検索結果を絞り込んだ結果を表示部14に表示する(S61)。
【0113】
次に、作業者は、表示された故障から、今回の異常音調査で想定される故障を選択する(S62)。ただし、ステップS62の処理は、複数の故障が表示された場合に、人等の故障を選択する処理である。一つの故障しか表示されていなければ、ステップS62の処理は飛ばされる。
【0114】
作業者によって、想定される故障が選択された後、レポート生成部17は、異常音調査レポートを生成する(S63)。
【0115】
そして、通信部18は、ステップS51にてデータ処理部15が取得した音データ及びかご位置データと、ステップS63にてレポート生成部17が生成した異常音調査レポートとを故障DB22へアップロードし(S64)、本処理を終了する。
【0116】
以上説明した第2の実施の形態に係る昇降機調査システム1の処理では、作業者が、ステップS55,S57,S59ごとに表示される検索結果に基づいて、作業者が検索結果を途中で確認し、スペクトログラムパターン、基本情報、擬音語を是正して入力することが可能である。このため、作業者は、実際の故障、異常音に即した対応をとることが可能となる。
【0117】
なお、
図13のステップS55、S56、S57、S58及びS59は、任意に入れ替え可能である。
【0118】
本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した実施の形態は、本発明を分かりやすく説明するためにシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、本実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0119】
1…昇降機調査システム、10…保守端末、11…音センサー、12…位置センサー、13…入力部、14…表示部、15…データ処理部、16…検索部、17…レポート生成部、18…通信部、19…検索DB、20…データ管理サーバ、21…通信部、22…故障DB、30…昇降機、50…異常音データ選択画面、51…高さ表示部、52…周波数表示部、53…時間範囲選択部