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特許7361742多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20231006BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231006BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231006BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20231006BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20231006BHJP
【FI】
C01B33/02 E
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/134
H01G11/46
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021102903
(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公開番号】P2023001963
(43)【公開日】2023-01-10
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川浦 宏之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】野崎 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-514056(JP,A)
【文献】特表2019-503032(JP,A)
【文献】特表2017-533533(JP,A)
【文献】特表2016-513346(JP,A)
【文献】HONG, Dongki et al.,Journal of Materials Chemistry A,2017年,5, (5),2095-2101,DOI:10.1039/c6ta00889a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
H01M 4/00-4/62
H01G 11/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50質量%以上の第1元素であるAlと50質量%以下のSiとを含むシリコン合金を粒子化する粒子化工程と、
前記シリコン合金中の前記第1元素を酸又はアルカリによって除去して多孔質材料を得る多孔化工程と、
Ar雰囲気中800℃以上1100℃以下の範囲で前記多孔質材料を加熱しSi以外の元素を表面に拡散させる熱処理工程と、を含む多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、Ar雰囲気中800℃以上1100℃以下の範囲で前記多孔質材料を加熱することによって、前記表面に拡散した第1元素を酸化し該第1元素を含む酸化物を該表面に被覆させる、請求項1に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項3】
前記多孔化工程では、原料組成に対してSi以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去する、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項4】
前記多孔化工程では、平均空隙率が50体積%以上95体積%以下の範囲の前記多孔質シリコン材料を得る、請求項1~のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項5】
格子定数が5.435Å以下であるシリコンにより形成され空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、平均空隙率が50体積%以上95体積%以下の範囲であり、酸素を除く元素の比率でSiを85質量%以上含み、第1元素としてのAlを15質量%以下の範囲で含み、Alが表面に存在する、
多孔質シリコン材料。
【請求項6】
前記第1元素が0.1質量%以上5質量%以下の範囲で含む、請求項に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項7】
平均空隙率が60体積%以上である、請求項又はに記載の多孔質シリコン材料。
【請求項8】
正極活物質を含む正極と、
請求項のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンの負極材料において、塊状のSiを70質量部とAl粉末を30質量部混合したのちアルゴン雰囲気下で合金溶湯と、ヘリウムガスによるガスアトマイズ法で粒子化したのち、塩酸でAlを除去して得られた多孔質シリコンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この多孔質シリコンでは、充放電時の活物質体積の膨張収縮による微粉化、集電体からの活物質の剥離や導電材との接触の欠如を完全に抑制することができるとしている。また、シリコン材料の製造方法としては、Mg、Co、Cr、Cu、Feなどを含む中間合金元素と、SiとのSi合金を、所定の溶湯元素を含む溶湯中で中間合金元素と溶湯元素とを置換した第2相とSi微粒子とに分離させ、第2相を除去することによって、多孔質シリコン材料を得るものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この多孔質シリコン材料では、高容量と高サイクル特性を有するものとすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-214054号公報
【文献】特開2012-82125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の製造方法では、Siの含有量が50質量%以上である合金を用いており、Siの膨張収縮に基づく不具合の抑制に対しては、まだ十分ではなかった。特許文献2の多孔質シリコン材料の製造方法では、中間合金元素を含むシリコン合金を溶融し、所定の溶湯元素を含む溶湯中で置換する、即ち高温での処理が必要であり、簡便な製造工程が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、電気化学特性をより向上することができる多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、共晶組成近傍である配合比のAlを含むシリコン合金を作製し、Alを除去して加熱処理すると、シリコン中に固溶したAlを表面に拡散させることができ、その結果、電気化学特性をより向上することができる多孔質シリコン材料を得ることができることを見いだし、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、
50質量%以上の第1元素であるAlと50質量%以下のSiとを含むシリコン合金を粒子化する粒子化工程と、
前記シリコン合金中の前記第1元素を除去して多孔質材料を得る多孔化工程と、
前記多孔質材料を加熱しSi以外の元素を表面に拡散させる熱処理工程と、
を含むものである。
【0008】
本開示の多孔質シリコン材料は、
格子定数が5.435Å以下であるシリコンにより形成され空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、平均空隙率が50体積%以上95体積%以下の範囲であり、酸素を除く元素の比率でSiを85質量%以上含み、第1元素としてのAlを15質量%以下の範囲で含み、Alが表面に存在するものである。
【0009】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述した多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、Siを含む材料において、電気化学特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池において、シリコン電極は、理論容量が4199mAh/gであり、一般的な黒鉛の理論容量372mAh/gに比べ約10倍の値を示し、さらなる高容量化、高エネルギー密度化が期待されている。一方で、リチウムイオンを吸蔵したシリコンはLi4.4Siであり、リチウム吸蔵前のシリコンに対して約4倍まで体積が膨張する。一方、本開示によれば、シリコン合金に含まれる、主としてAlであるシリコン以外の物質を溶解することによってこれを選択的に除去し、細孔サイズが小さく、空隙率の大きい多孔質シリコン材料を容易に生産できる。このように細孔サイズが小さく、空隙率が大きい多孔質シリコン材料では、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスに用いた場合、体積の膨張、収縮が大きく緩和されるため、例えば、充放電サイクル特性など充放電特性が向上するので、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。また、この多孔質シリコン材料では、Alなどの他の元素は表面に拡散して存在しているため、より純粋なシリコン骨格を有し、充放電容量などの電気化学特性をより向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Al-Si二元系状態図。
図2】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
図3】実験例1のガスアトマイズ後のAl-Si合金を観察したSEM像。
図4】実験例1の多孔質シリコン材料のSEM像及びEDAXマッピング像。
図5】実験例1の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線。
図6】実験例8の多孔質シリコン材料のSEM像。
図7】実験例8の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線。
図8】実験例8の熱処理温度とXRDプロファイルとの関係図。
図9】実験例8の熱処理温度と格子定数aSiとの関係図。
図10】実験例8の熱処理温度とAl溶解量(質量%)との関係図。
図11】各処理による多孔質シリコン材料の状態変化の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質シリコン材料の製造方法)
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、粒子化工程と、多孔化工程と、熱処理工程と、を含む。粒子化工程では、第1元素であるAlとSiとを含むシリコン合金を粒子化する処理を行う。多孔化工程では、シリコン合金中の第1元素を除去して多孔質材料を得る処理を行う。熱処理工程では、多孔質材料を加熱しSi以外の元素を表面に拡散させる処理を行う。
【0013】
(粒子化工程)
粒子化工程では、第1元素を50質量%以上、Siを50質量%以下の範囲で含むシリコン合金を用いる。第1元素としては、Alが挙げられる。この工程で用いる原料は、Si金属とAl金属とが挙げられる。この工程では、第1元素を60質量%以上の範囲で含むシリコン合金を用いることが好ましく、70質量%以上の範囲で含むシリコン合金を用いることがより好ましく、80質量%以上含むシリコン合金を用いるものとしてもよい。また、この工程では、第1元素を92質量%以下の範囲で含むシリコン合金を用いることが好ましく、90質量%以下の範囲で含むシリコン合金を用いることがより好ましく、85質量%以下の範囲で含むシリコン合金を用いるものとしてもよい。第1元素をこのような範囲で含むシリコン合金では、空隙率をより高めると共に、より好適な形状、サイズの空隙を得ることができ好ましい。また、第1元素が92質量%以下では、シリコン骨格を保つことができ、50質量%以上では、空隙率をより高めることができる。Alの含有量が多いと、溶融して合金としたあと、急速冷却するとAlの単相が大きく析出するので、多くの空隙を形成させることができる。この工程では、共晶組成となる範囲で第1元素を含むシリコン合金を用いることが好ましい。共晶組成は、Alが87.6質量%であり、Siが12.6質量%であるが、共晶組成近傍としてもよく、亜共晶組成や過共晶組成の一部など、所定の幅を有するものとしてもよい。例えば、共晶組成に対して±3質量%の範囲を含むものとしてもよい。図1は、Al-Si二元系平衡状態図である。
【0014】
この粒子化工程では、第1元素とSiとに加えCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含む第2元素を含むシリコン合金組成とするものとしてもよい。このうち、第2元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。第2元素は、第1元素の含有量よりも少ないものであり、例えば、シリコン合金の全体に対して。10質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以下の範囲でシリコン合金に含まれることがより好ましい。この第2元素は、0.1質量%以上としてもよい。
【0015】
この工程では、原料に不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物としては、Si,Ti、Alのいずれかの精製の際に不可避的に残存する成分であり、例えば、FeやC、Cu、Ni、Pなどが挙げられる。不可避的不純物は、より少ないことが好ましく、例えば、SiとAlとの全体を100at%としたときに、5at%以下が好ましく、2at%以下がより好ましい。この工程で用いる原料組成は、所定範囲のSi、及び残部をAlと不可避的不純物としてもよい。所定範囲のSiは、例えば、10at%以上28at%以下の範囲としてもよい。
【0016】
この粒子化工程では、シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法のうちいずれかの方法で粒子化するものとしてもよい。なお、シリコン合金の原料の溶湯を金型に鋳造して、得られたインゴットを破砕して粒子化するものとしてもよい。このうち、シリコン合金を粒子化する方法は、ガスアトマイズ法がより好ましい。ガスアトマイズでは、溶湯とする際にAr雰囲気で行うことが好ましく、粒子化の際は、ArやHe雰囲気下で行うことが好ましい。粒子化工程では、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲でシリコン合金を粒子化することが好ましい。この粒子は、例えば、平均粒径が0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましく、1μm以上3μm以下が更に好ましい。シリコン合金の粒子は、蓄電デバイスに求められる特性に応じて適宜選択すればよい。ここで、粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めるものとする。
【0017】
(多孔化工程)
多孔化工程では、上記作製したシリコン合金からSi以外の物質を除去する処理を行う。Si以外の物質としては、例えば、第1元素のAlやその化合物、第2元素やその化合物などが挙げられる。この工程では、酸又はアルカリによって第1元素のAlやその化合物、第2元素やその化合物を選択的に除去することが好ましい。用いる酸またはアルカリは、シリコン合金中のシリコン以外の元素及び/又は化合物を溶出し、シリコンが溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。この酸又はアルカリは、水溶液とすることが好ましい。酸又はアルカリの濃度は、第1元素のAlやその化合物、第2元素やその化合物を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、1mol/L以上5mol/L以下の範囲などにすることができる。この除去処理は、例えば、20℃~60℃で加温するものとしてもよい。また、除去処理は、シリコン合金の粒子を酸又はアルカリ溶液に浸漬し、1~5時間程度で撹拌を行うことが好ましい。得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0018】
多孔化工程では、Si以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去するものとしてもよい。例えば、第1元素や第2元素、その他の酸素などは、残存しても構わないが、多孔質シリコン材料には不要成分であるため、より少ない方がより好ましい。この工程では、平均空隙率が50体積%以上95体積%以下の範囲の多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この平均空隙率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。
【0019】
(熱処理工程)
熱処理工程では、多孔化工程で得られた多孔質材料を加熱し、Si以外の元素を表面に拡散させる処理を行う。この熱処理工程では、400℃以上1100℃以下の範囲で多孔質材料を加熱することが好ましい。この温度範囲において、400℃以上では、シリコン骨格に固溶したAlが析出する。また、600℃以上では、析出したAlが表面に拡散するものと推察される。更に、800℃以上では、シリコン骨格表面に拡散したAlが酸化物を形成し、シリコン骨格が強化されるものと推察される。この熱処理工程では、表面に拡散した第1元素を酸化し、この第1元素を含む酸化物をシリコン骨格の表面に被覆させることが好ましい。酸化物を被覆することによって、シリコン骨格をより強化することができる。この酸化物は、Al酸化物のほか、AlSi酸化物や、AlFe酸化物、SiFe酸化物、AlSiFe酸化物などとしてもよい。
【0020】
この熱処理工程では、不活性雰囲気中で600℃以上の温度範囲で多孔質材料を加熱するものとしてもよい。こうすれば、Alが析出、表面拡散する。このとき、不活性雰囲気中で800℃以上の温度範囲で多孔質材料を加熱するものとしてもよい。こうすれば、Alを含む酸化物をシリコン骨格表面に被覆させることができる。不活性雰囲気としては、例えば、窒素雰囲気や希ガス雰囲気などが挙げられるが、希ガス雰囲気であることが好ましい。希ガスとしては、HeやArなどが挙げられ、これらのうち、Arがより好ましい。あるいは、この工程では、酸素共存下で400℃以上の範囲で多孔質材料を加熱するものとしてもよい。こうすれば、Alを析出させ、酸化物を生成することができる。酸素共存下としては、シリコン骨格を酸化しすぎない温和な条件が好ましく、例えば、酸素が5体積%以下や1体積%以下の範囲で含むものとしてもよいし、1000ppm以下や100ppm以下としてもよい。酸素共存下での熱処理では、不活性雰囲気下に比して低い温度で熱処理することが好ましく、900℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、600℃以下としてもよい。
【0021】
(多孔質シリコン材料)
本開示の多孔質シリコン材料は、上述した製造方法で作製されたものである。この多孔質シリコン材料は、格子定数が5.435Å以下であるシリコンにより形成され空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコン(シリコン骨格とも称する)を含む。また、多孔質シリコン材料は、平均空隙率が50体積%以上95体積%以下の範囲である。また、多孔質シリコン材料は、酸素を除く元素の比率でSiを85質量%以上含み、第1元素としてのAlを15質量%以下の範囲で含み、Alが表面に存在するものである。骨格状シリコンは、格子定数が5.435Å以下であり、Alを固溶していないものとすることができる。この多孔質シリコン材料において、平均空隙率は、より高いことが好ましく、60体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましく、80体積%以上が更に好ましい。また、シリコン骨格の存在の必要性から、この平均空隙率は、95体積%以下が好ましく、90体積%以下がより好ましく、86体積%以下が更に好ましい。多孔質シリコン材料において、空隙の細孔径は、1nm以上1μm以下の範囲が好ましく、10nm以上としてもよいし、50nm以上としてもよいし、100nm以上としてもよい。また、空隙の細孔径は、500nm以下としてもよいし、300nm以下としてもよいし、250nm以下としてもよい。
【0022】
多孔質シリコン材料は、平均粒径が0.1μm以上である粒子状であることが好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上としてもよい。また、この粒子は、平均粒径が10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましい。この多孔質シリコン材料は、酸素を除く元素の比率でSiを85質量%以上含むが、このSiの含有率は、より高いことが好ましく、90質量%以上としてもよいし、94質量%以上としてもよいし、96質量%以上としてもよい。また、Siの含有量は、酸素を除く元素の比率でSiを98質量%以下含むものとしてもよいし、97質量%以下含むものとしてもよいし、96質量%以下含むものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料は、Alを15質量%以下の範囲で含むが、Alの含有量は少ないことがより好ましく、10質量%以下が好ましく、6.5質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下が更に好ましい。多孔質シリコン材料は、Alを0.1質量%以上含むものとしてもよいし、2質量%以上含むものとしてもよいし、3質量%以上含むものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料は、15質量%以下の範囲で第2元素としてのCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。なお、Si以外の元素は、より少ないことが好ましい。この多孔質シリコン材料は、所定範囲のSi、及び残部をAlと不可避的不純物としてもよい。所定範囲のSiは、例えば、85質量%以上99.9質量%以下の範囲としてもよい。
【0023】
多孔質シリコン材料は、骨格状シリコンの表面にAlが存在する。このAlは、骨格状シリコンの表面の全体を被覆しているものとしてもよいし、その表面の一部を被覆するものとしてもよい。骨格状シリコンの表面に存在するAlは、金属状であるものとしてもよいが、酸化物としてもよい。酸化物としては、例えば、Al酸化物のほか、AlSi酸化物や、AlFe酸化物、SiFe酸化物、AlSiFe酸化物などとしてもよい。
【0024】
(蓄電デバイス用電極)
本開示の蓄電デバイス用電極は、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として備えたものである。この電極は、活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この電極は、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などに利用することができる。蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の平均空隙率が5体積%以上50体積%以下の範囲に圧縮されているものとしてもよい。この電極では、作製時に圧縮することにより、多孔質シリコン材料の空隙率が減少したものとしてもよい。多孔質シリコン材料の空隙率が5体積%以上50体積%以下の範囲で作製したものに比して、50体積%以上95体積%で作製したのち圧縮してこの範囲としたものの方が、空隙の形状などによって、より良好な充放電特性を示す。例えば、多孔質シリコンの粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合、細孔が小さいほどリチウムイオンが合金化する際に、均一に合金化するため、応力集中が減少し、電極そのものの劣化を防ぐことが可能となる。この圧縮後の多孔質シリコン材料の平均空隙率は、蓄電デバイス用電極に求められる特性に応じて適宜調整すればよく、例えば、10体積%以上や、20体積%以上としてもよい。また、この圧縮後の多孔質シリコン材料の平均空隙率は、例えば、40体積%以下や、30体積%以下としてもよい。
【0025】
蓄電デバイス用電極は、集電体上に上述した多孔質シリコン材料を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。この電極は、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、多孔質シリコン材料の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。活物質複合体の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0026】
この電極において、電極活物質は、低拘束圧と容量維持率との両立が可能な範囲において、多孔質シリコン材料に加えて、多孔質シリコン材料以外の活物質が含まれていてもよい。例えば、電極活物質として、炭素質材料やLi4Ti512などが含まれていてもよい。ただし、電池容量を一層増大させる観点から、電極活物質全体を100質量%として、例えば、多孔質シリコン材料が50質量%以上、好ましくは90質量%以上を占めることが好ましい。
【0027】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/32などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0028】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0029】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0030】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0031】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図2は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質16と、集電体17とを有する。負極活物質16は、上述した多孔質シリコン材料21であり、空隙23を有する。
【0032】
(全固体リチウムイオン二次電池)
この蓄電デバイスは、全固体リチウムイオン二次電池とすることが好ましい。全固体電池では、電解液による性能の変化をより抑制することができ、更に安全性を高めることができ好ましい。この全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述した多孔質シリコン材料を負極活物質として有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する固体電解質と、を備えたものとしてもよい。正極は、上述した蓄電デバイスに示したいずれかを用いることができる。また、負極は、上述した多孔質シリコン材料を有する負極を用いることができる。
【0033】
固体電解質は、例えば、LiとLaとZrと少なくとも含むガーネット型酸化物としてもよい。この固体電解質は、基本組成がLi7.0+x-y(La3-x,Ax)(Zr2-y,Ty)O12であるものとしてもよい。但し、AはSr、Caのうち1種以上であり、TはNb、Taのうち1種以上であり、0<x≦1.0、0<y<0.75を満たすものである。あるいは、固体電解質は、基本組成(Li7-3z+x-yz)(La3-xx)(Zr2-yy)O12や、(Li7-3z+x-yz)(La3-xx)(Y2-yy)O12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦z≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦2であるものとしてもよい。この基本組成式において、0.05≦z≦0.1を満たすことがより好ましい。この基本組成式において、0.05≦x≦0.1を満たすことがより好ましい。また、この基本組成式において、0.1≦y≦0.8を満たすことがより好ましい。このような範囲では、イオン伝導度をより好適なものとすることができる。
【0034】
あるいは、固体電解質としては、例えば、一般的な、Li3N、LISICONと呼ばれるLi14Zn(GeO44、硫化物のLi3.25Ge0.250.754、ペロブスカイト型のLa0.5Li0.5TiO3、(La2/3Li3x1/3-2x)TiO3(□:原子空孔)、ガーネット型のLi7La3Zr212、NASICON型と呼ばれるLiTi2(PO43、Li1.30.3Ti1.7(PO34(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li2S・20P25(mol%)組成のガラスから得られたLi7311、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi10Ge2PS2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P25、Li3PO4-Li4SiO4、Li3BO4-Li4SiO4、そしてSiO2、GeO2、B23、P25をガラス系物質としてLi2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi2S-GeS2系、Li2S-GeS2-ZnS系、Li2S-Ga22系、Li2S-GeS2-Ga23系、Li2S-GeS2-P25系、Li2S-GeS2-SbS5系、Li2S-GeS2-Al23系、Li2S-SiS2系、Li2S-P25系、Li2S-Al23系、LiS-SiS2-Al23系、Li2S-SiS2-P25系などが挙げられる。これらの固体電解質は、板状に形成して正極と負極との間に配置するものとしてもよい。
【0035】
また、全固体リチウムイオン二次電池は、正極、固体電解質及び負極を積層した積層体を積層方向に対して拘束する拘束部材を備えるものとしてもよい。この拘束部材は、例えば、積層体の積層方向の両端側から積層体を挟む1対の板状部と、1対の板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結されネジ構造等によって1対の板状部の間隔を調整する調整部とを備えるものとしてもよい。
【0036】
(蓄電デバイス用電極の製造方法)
蓄電デバイス用電極の製造方法は、上述した多孔質シリコン材料の製造方法で得られた多孔質シリコン材料を電極活物質として用い、多孔質シリコン材料の平均空隙率が5体積%以上50体積%以下の範囲となるように圧縮するプレス工程、を含む。このプレス工程によれば、好適な細孔形状を維持したまま、空隙率を低下させ、エネルギー密度をより高めることができる。この工程では、多孔質シリコン材料の平均空隙率が10体積%以上や20体積%以上の範囲、及び40体積%以下や30体積%以下の範囲になるよう圧縮してもよい。圧縮後の多孔質シリコン材料の平均空隙率は、蓄電デバイス用電極に求められる特性に応じて適宜調整すればよい。このプレス工程では、例えば、2MPa以上20MPa以下の範囲で電極をプレスするものとしてもよい。また、プレス工程では、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する処理か、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する処理を行うものとしてもよい。多孔質シリコン材料の配合量などは、蓄電デバイス用電極で説明した内容を適宜用いることができる。
【0037】
(蓄電デバイスの製造方法)
蓄電デバイスの製造方法は、上述した蓄電デバイス用電極の製造方法で得られた蓄電デバイス用電極を負極として用い、正極と負極とを対向させ、正極と負極との間にリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体を介在させるものとしてもよい。正極と負極との間にセパレータを介してもよい。正極、負極、イオン伝導媒体及びセパレータは、上述した蓄電デバイスで挙げたもののいずれかを適宜用いることができる。
【0038】
(全固体リチウムイオン二次電池の製造方法)
全固体リチウムイオン二次電池の製造方法は、上述した蓄電デバイス用電極の製造方法で得られた蓄電デバイス用電極を負極として用い、正極とリチウムイオンを伝導する固体電解質と負極とを積層した積層体を作製する積層体作製工程を含む。この製造方法で用いる正極、負極、固体電解質は、上述した全固体リチウムイオン二次電池で挙げたもののいずれかを適宜用いることができる。また、この製造方法で用いる正極、負極、固体電解質の厚さやサイズは、所望の電池特性に合わせて適宜選択することができる。また、この製造方法では、蓄電デバイス用電極の製造方法におけるプレス工程を積層体作製工程で行うものとしてもよい。即ち、正極と固体電解質と負極とを積層した積層体をプレスする際に、同時に負極がプレスされるものとしてもよい。
【0039】
この全固体リチウムイオン二次電池の製造方法は、作製した積層体を積層方向に拘束部材で拘束する積層拘束工程、を更に含むものとしてもよい。積層体の拘束圧は、例えば、2MPa以上20MPa以下の範囲が好ましい。
【0040】
以上詳述したように、本開示は、Siを含む材料において、電気化学特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池において、シリコン電極は、理論容量が4199mAh/gであり、一般的な黒鉛の理論容量372mAh/gに比べ約10倍の値を示し、さらなる高容量化、高エネルギー密度化が期待されている。一方で、リチウムイオンを吸蔵したシリコンはLi4.4Siであり、リチウム吸蔵前のシリコンに対して約4倍まで体積が膨張する。一方、本開示によれば、シリコン合金に含まれる、主としてAlであるシリコン以外の物質を溶解することによってこれを選択的に除去し、細孔サイズが小さく、空隙率の大きい多孔質シリコン材料を容易に生産できる。このように細孔サイズが小さく、空隙率が大きい多孔質シリコン材料では、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスに用いた場合、体積の膨張、収縮が大きく緩和されるため、例えば、充放電サイクル特性など充放電特性が向上するので、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。また、この多孔質シリコン材料では、Alなどの他の元素は表面に拡散して存在しているため、より純粋なシリコン骨格を有し、充放電容量などの電気化学特性をより向上することができる。
【0041】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0042】
以下には、本開示の多孔質シリコンおよび蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例8~11が本開示の実施例であり、実験例12が比較例であり、実験例1~7が参考例である。まず、はじめに、Al-Si共晶組成での多孔質シリコン材料について検討した(実験例1~7)。
【0043】
(実験例1)
10mm角の塊状のAlを87質量%と、塊状のSiを13質量%秤量して混合し、Ar不活性雰囲気中において高周波加熱法により溶解して合金溶湯とした。この合金溶湯をAr不活性ガスを用いたガスアトマイズ法によって平均粒径8μmのAlSi合金粉末を得た(粒子化工程)。なお、この合金粉末は、Al-Si共晶組成であり(図1参照)、共晶Si相およびAl相からなるAlSi合金粉末であった。得られた粉末に対してX線回折を行ったところ、結晶質相としてのAl相及びSi相の存在が確認された。次に、得られた合金粉末を純水中に希釈した3mol/Lの塩酸に入れ、室温25℃で1時間攪拌したのち十分に洗浄しながら濾過し、30℃の真空乾燥炉で2時間乾燥した(多孔化工程)。このようにして、実験例1の多孔質シリコン材料を作製した。
【0044】
(実験例2)
Alを82質量%、Siを18質量%用いたこと以外は上記実験例1と同様にして実験例2の負極活物質を製造した。なお、このときの合金粉末は、Al-Si過共晶組成であり、初晶Si、共晶Si相およびAl相からなるAlSi合金粉末であった。実験例1と同様の条件で酸処理を行い、実験例2の負極活物質とした。
【0045】
(実験例3)
Alを73質量%、Siを27質量%用いたこと以外は上記実験例1と同様にして実験例3の負極活物質を製造した。なお、このときの合金粉末は、Al-Si過共晶組成であり、初晶Si、共晶Si相およびAl相からなるAlSi合金粉末であった。実験例1と同様の条件で酸処理を行い、実験例3の負極活物質とした。
【0046】
(実験例4)
Alを90質量%、Siを10質量%用いたこと以外は上記実験例1と同様にして実験例4の負極活物質を製造した。なお、このときの合金粉末は、Al-Si亜共晶組成であり、初晶Al、共晶Si相およびAl相からなるAlSi合金粉末であった。実験例1と同様の条件で酸処理を行い、実験例4の負極活物質とした。
【0047】
(実験例5)
Alを87質量%、Siを10質量%、Cuを3質量%用いた以外は上記実験例1と同様にして実験例5の負極活物質を製造した。なお、このときの合金粉末は、初晶Al、共晶Si相およびAl2Cu相からなるAlSiCu合金粉末であった。実験例1と同様の条件で酸処理を行い、実験例5の負極活物質とした。
【0048】
(実験例6)
Alを43質量%、Siを57質量%用いたこと以外は上記実験例1と同様にして実験例6の負極活物質を製造した。なお、このときの合金粉末は、Al-Si過共晶組成であり、初晶Si、共晶Si相およびAl相からなるAlSi合金粉末であった。実験例1と同様の条件で酸処理を行い、実験例6の負極活物質とした。
【0049】
(実験例7)
平均粒径が5μmのSi粉末を実験例7の負極活物質とした。
【0050】
(多孔質シリコン材料の物性測定)
酸処理後の多孔質シリコン粉末をHFとHNO3とで溶解し、ICP発光分光分析(ICP-OES,日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII II)でポーラスシリコン中のAl量を測定した。また、走査電子顕微鏡(SEM,HITACHI製S-4300)およびエネルギー分散型X線分析(EDAX,HITACHI製S-4300)で観察、元素分析を行った。また、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POWERMASTER60GT)で細孔分布を測定した。
【0051】
(物性測定結果と考察)
図3は、実験例1のガスアトマイズ後のAl-Si合金を観察したSEM像である。図3に示すように、大きな初晶Alの間に共晶Siが存在する構造が確認された。図4は、実験例1の多孔質シリコン材料のSEM像及びEDAXマッピング像であり、図4Aが全体像、図4B、Cが拡大像、図4DがEDAX像である。実験例1では、原料の組成としてはSiが13質量%であるが、図4Bに示すように、粒子の形状を保っており、粒子内部まで空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含む構造であることが確認された。また、EDAX像から、ごく少量のAl及びOが検出されたが、Siにより構造が構成されていることがわかった。また、室温の酸処理である多孔化工程によって、ほとんどの初晶Alが除去されることが確認された。ICP-OESで求めた多孔化処理後のAl濃度は4.2質量%であり、この結果からも、原料粉末の組成からみて大部分のアルミニウムが溶出して多孔質シリコンが形成されたと考えられた。図5は、実験例1の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線である。水ポロシメータでは、粒子間の空孔が測定結果に含まれることがあることから、多孔化処理前の合金粒子の測定と多孔化処理後の多孔質シリコン材料の測定とを行い、その差分値を細孔容積とした。図5では、その差分を網掛けで示した。図5に示すように、細孔径は、1μm以下であり、これは、SEM像で確認した空隙の大きさと一致した。水銀ポロシメータで測定した結果、実験例1の多孔質シリコン材料の細孔分布は、50~500nmであり、細孔径は、200nm付近で最も多く、空隙率は76体積%であった。
【0052】
実験例1~7の原料組成比(質量%)、酸処理後の残存Al量(質量%)、空隙率(体積%)を表1にまとめた。Al量は、ICP-OESでの測定結果であり、空隙率は、粒子間空孔を除いた値である。表1に示すように、実験例1~7の酸処理後の残存Al量は3.2~6.2質量%であり、酸処理である多孔化処理によって、ほとんどのAlが溶出したことがわかった。実験例1~5の空隙率は62~86体積%であるのに対して、実験例6の空隙率は33体積%であり、空隙率が低かった。
【0053】
【表1】
【0054】
(非水系電解液を用いたリチウム二次電池の作製)
負極活物質として実験例1~7の各々のシリコン材料を82質量%、導電材として平均粒径2μmのアセチレンブラックを6質量%、結着材としてのポリイミドを12質量%秤量して混合し、N-メチルピロリドンを加えてから攪拌して負極合材スラリーを作製した。次に、このスラリーを厚さ12μmの銅箔上に塗布して乾燥し、これを圧延して厚さ50μmの負極電極を作製した。この圧延によって、多孔質シリコン材料は、三次元網目構造を維持したまま、その空隙率が50体積%程度に減少したものと見積もられた。作製した負極電極を直径16mmの円形に打ち抜き、この負極電極に多孔質ポロエチレン製セパレータを挟んで対極として金属リチウムを重ねて積層体とした。続いて、炭酸エチレン(EC)/炭酸ジメチル(DMC)/炭酸エチルメチル(EMC)を体積比で3:4:3で混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/Lの濃度で添加した電解液を上記積層体へ注液することにより、トムセル型小型電池セルであるリチウム二次電池を製造した。得られたリチウム二次電池に対して、電池電圧0V~1.5Vの範囲で0.2Cの電流密度による充放電を10サイクル繰り返し行った。
【0055】
(非水系電解液を用いたリチウム二次電池の特性)
実験例1~7の初回放電容量(mAh/g)、10サイクル後の放電容量(mAh/g)及び容量維持率(%)をまとめて表2に示した。容量維持率は、1サイクル目の放電容量Q1と、10サイクル目の放電容量Q10とを用い、Q10/Q1×100の式から求めた。表2に示すように、実験例7で26%と低く、空隙を有さないシリコン粒子では、体積変化を吸収することができず、電極に不具合が発生したものと推察された。また、空隙率が33体積%と低い実験例6においても容量維持率は70%未満を示し、十分ではないことがわかった。一方、実験例1~5のリチウム二次電池では、容量維持率が84~93%と良好な値を示し、電極が安定的であることがわかった。このように、実験例1~5に示すように、空隙率60体積%以上を示す多孔質シリコン材料が圧縮されて空隙率5体積%以上50体積%以下の範囲になると特に容量維持率を高めることができることがわかった。
【0056】
【表2】
【0057】
次に、多孔質化処理のあと、熱処理を行った多孔質シリコン材料について検討した。
【0058】
(実験例8)
10mm角の塊状のAlを88質量%と、塊状のSiを12質量%秤量して混合し、Ar不活性雰囲気中において高周波加熱法により溶解して合金溶湯とした。この合金溶湯をAr不活性ガスを用いたガスアトマイズ法によって平均粒径8μmのAlSi合金粉末を得た(粒子化工程)。アトマイズ粉末の組成にするとAl-12.4質量%Si-0.14Feであり、初晶Alと共晶Siからなる組織であった。次に、得られた合金粉末を純水中に希釈した3mol/Lの塩酸に入れ、室温25℃で1時間攪拌したのち十分に洗浄しながら濾過し、30℃の真空乾燥炉で2時間乾燥した(多孔化工程)。初晶Alの溶出処理を行い、多孔質材料(前駆体である多孔質シリコン粒子)が得られた。得られた多孔質材料をAr雰囲気中、1000℃、2時間の条件で熱処理を行い(熱処理工程)、得られた強化型多孔質シリコン粉末を実験例8の多孔質シリコン材料とした。この熱処理工程において、骨格を形成している共晶Si中に固溶したAlを多孔体の表面へ拡散除去すると共に骨格強化に寄与する酸化物を形成させることができる。
【0059】
(実験例9)
Alを83質量%とSiを17質量%用いたこと以外は、上述した実験例8と同様にして実験例9の多孔質シリコン材料を作製した。アトマイズ粉末の組成にするとAl-17.4質量%Si-0.12質量%Feであり、初晶Alと共晶Siからなる組織であった。実験例8と同様の条件で酸処理および熱処理を行い、実験例9の多孔質シリコン材料を得た。
【0060】
(実験例10)
Alを81質量%,Siを19質量%用いたこと以外は、上述した実験例8と同様にして実験例10の多孔質シリコン材料を作製した。アトマイズ粉末の組成にするとAl-19.4質量%Si-0.13質量%Feとなり、初晶Al、共晶Si、および初晶Siからなる組織であった。実験例8と同様の条件で酸処理および熱処理を行い、実験例10の多孔質シリコン材料を得た。
【0061】
(実験例11)
Alを74質量%,Siを26質量%用いたこと以外は、上述した実験例8と同様にして実験例11の多孔質シリコン材料を作製した。アトマイズ粉末の組成にするとAl-25.5質量%Si-0.14質量%Feとなり、初晶Al、共晶Si、および初晶Siからなる組織であった。実験例8と同様の条件で酸処理および熱処理を行い、実験例11の多孔質シリコン材料を得た。
【0062】
(実験例12)
平均粒径が5μmのSi粉末を実験例12のシリコン材料とした。
【0063】
(多孔質シリコン材料の物性測定)
酸処理後の多孔質シリコン粉末をHFとHNO3とで溶解し、ICP発光分光分析(ICP-OES、日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII II)でポーラスシリコン中のAl量を測定した。また、走査電子顕微鏡(SEM、HITACHI製S-4300)およびエネルギー分散型X線分析(EDAX,HITACHI製S-4300)で観察、元素分析を行った。また、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POWERMASTER60GT)で細孔分布を測定した。
【0064】
(結果と考察)
表3に、実験例8~12の原料組成(原子%)、シリコン材料の多孔化処理(酸処理)及び1000℃での熱処理後の空隙率(体積%)、酸処理後(熱処理前)の固溶Al量(質量%)、酸処理後の格子定数aSi(Å)、多孔化処理及び熱処理後の格子定数aSi(Å)をまとめて示した。空隙率は、水銀圧入法により求めた値を示した。また、固溶Al量は、ICP測定により求めた値を示した。表3に示すように、実験例8~11の熱処理後の多孔質シリコン材料においても、空隙率が50体積%以上、より好ましくは、60体積%以上を示し、多孔化を図ることができることがわかった。また、多孔質シリコン材料には、3~5質量%の範囲でAlが残存していると推察された。また、酸処理後熱処理前の格子定数aSiは、実験例12のSiの5.430(Å)からみて、5.440(Å)以上を示しており、AlがSiに固溶していることが示された。更に、酸処理及び熱処理後の格子定数aSiは、5.435(Å)以下を示し、即ち実験例12のSiと同様の値を示した。これは、実験例8~11において、1000℃の熱処理を行うと、Siに固溶したAlが表面側に拡散し、Alが固溶していないシリコン骨格に移行したものと推察された。
【0065】
【表3】
【0066】
図6は、実験例8の多孔質シリコン材料のSEM像である。図6は、Al-12.6質量%Siアトマイズ粉末を3mol/L塩酸溶液でAlの溶出処理を行った多孔質材料をAr雰囲気中、1000℃で熱処理した多孔質シリコン材料のSEM像である。図6に示すように、シリコン化合物中の初晶Alを酸で溶出させることにより、細孔を形成し、多孔質シリコン粒子が得られた。図7は、実験例8の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線である。図7に示すように、1000℃で加熱処理を行ったあとの多孔質シリコン材料の細孔分布は、数10nm~11μmの細孔分布を示し、細孔径のピーク値は200nmであった。
【0067】
次に、多孔質シリコン材料の熱処理温度による結晶構造変化をX線回折により調べた。実験例8の組成の原料を用い、Ar雰囲気中で、100℃から1000℃の間を100℃毎に熱処理を行い、得られた多孔質シリコン材料に対してXRD測定を行った。図8は、実験例8の熱処理温度とXRDプロファイルとの関係図である。また、このXRDプロファイルの測定結果から、Rietveld解析により、Siの格子定数aSiを算出した。図9は、実験例8の熱処理温度と格子定数aSiとの関係図である。図8に示すX線回折パターンより、2θ=20°~25°付近に非晶質由来のブロードなピークが見られた。この非晶質相はSiO2に由来するものであり、多孔質シリコン材料中には、熱処理前からSiO2が存在し、このSiO2は600℃以上の熱処理後、モル比で約2倍に増加した。また、熱処理温度400℃から500℃の温度領域で、Alのピークが検出された。また、アトマイズ粉末中には0.1質量%程度のFe不純物があることから、700℃以上ではFeSi2のピークが検出され、FeSi2が生成していることがわかった。図9に示すように、熱処理温度によるSiの格子定数aSiの変化から、熱処理前の格子定数aSiは純Si標準試料よりも大きく、Alが固溶しているものと推察された。熱処理により、300℃で格子定数が減少しはじめ、400℃で純Siの格子定数とほぼ等しくなった。このことから多孔質材料に固溶したAlは400℃以上で析出し、Si中に固溶しているAlは、その表面へ拡散され、シリコン骨格内から除去されるものと推察された。
【0068】
次に、100℃から1000℃の温度範囲で熱処理した多孔質シリコン材料の表面に存在するAl量を測定することによって、多孔質シリコン材料中の固溶Al量が熱処理後にシリコン骨格から低減されているかを調べた。図10は、実験例8の熱処理温度とAl溶解量(質量%)との関係図である。表面に存在するAl量は、以下のように測定した。まず、実験例8の組成の多孔質材料を各温度で熱処理し、得られた多孔質シリコン材料のそれぞれに対して、6mol/L硝酸10mLおよび50体積%フッ化水素酸5mLを加えて加熱溶解し、8mol/L硫酸10mLを加えて、さらに加熱して硫酸白煙を発生させたあと、100mLに希釈した。このICP測定用の酸処理では、SiやAl23などは溶解せず、Al金属が溶解する。この溶液を用いて、誘導結合プラズマ発光分光分析装置でAl量を定量した。図10において、縦軸は、多孔質シリコン材料のSi及びAlを含む全体に対するAl溶解量(質量%)であり、一点鎖線は熱処理前の多孔質シリコン材料中の固溶Al量(4.1質量%)であり、点線はその90質量%(3.7質量%)に相当するラインである。多孔質シリコン材料中に固溶したAlは、400℃以上の熱処理で、シリコン骨格の表面に析出し始め、その後700℃まで増加し、800℃以上に高くなると再び減少した。Ar雰囲気中で400℃から800℃の範囲で熱処理すると、シリコン骨格中に固溶したAlをシリコン骨格内からその表面へ拡散除去し、特に、600℃~800℃の範囲では、90%程度低減できることが分かった。また、800℃以上においては、Ar雰囲気内ではあるが、Al金属が酸化されて酸化Alがシリコン骨格表面に形成されるものと予想され、ICP測定用の酸処理では溶解せずに、Al溶解量が低減したものと推察された。
【0069】
以上のことから、多孔質シリコン材料において、600℃から800℃で熱処理後、酸処理することで、体積膨張を抑制できる微細構造を保ったまま、Si中のAl量を低減することができることがわかった。また、X線回折による結晶構造変化の結果を合わせると、多孔質シリコン材料中のAlは熱処理により、図11のように状態が変化するものと推察された。図11は、各処理による多孔質シリコン材料の状態変化の説明図である。アトマイズ処理で得られたAlSi合金粉末を酸処理すると、初晶Alのみが溶出し、残存した共晶Siが骨格を形成し多孔質材料(Si)となる(図11A)。急冷アトマイズ処理では、Alが共晶Si中に固溶状態で含有している。Si中に固溶したAlは300℃以上で加熱処理すると、固溶体からAlが相分離しAlが析出する(図11B)。600℃以上の加熱温度では、析出したAlが表面に拡散する(図11C)。また、600℃~800℃の加熱温度域では、加熱処理後に酸処理を行うことでSiに含有したAlを90%程度低減できることがわかった。900℃以上の加熱温度では、表面に拡散したAlはSiとともに酸化され、(Si,Al)酸化物に変化し、酸処理後も表面に残存すると考えられる(図11D)。この(Si,Al)酸化物は、電気化学的には不活性と考えられ、また、活物質表面を覆うことでシリコン骨格を強化する働きを有するものと推察された。
【0070】
(蓄電デバイスの作製)
次に、実験例8~12のシリコン材料を負極活物質とした蓄電デバイスの充放電特性について検討した。実施例8~12の各々の負極活物質60質量%と、導電材として平均粒径2μmのアセチレンブラック20質量%と、結着材としてのポリイミド20質量%とを混合し、溶剤としてのN-メチルピロリドン(NMP)を加えてから攪拌してスラリーを作成した。次にこのスラリーを厚さ20μmの銅箔上に塗布してから乾燥し、これを圧延して厚さ50μmの負極電極を作成した。この圧延によって、多孔質シリコン材料は、三次元網目構造を維持したまま、その空隙率が50体積%程度に減少したものと見積もられた。作成した負極電極を直径16mmの円形に打ち抜き、この負極電極に多孔質ポロエチレン製セパレータを挟んで対極として金属リチウムを重ね、更に電解液を注液することにより、リチウム二次電池としてのトムセル型小型電池を試験セルとして作製した。電解液は、フルオロエチレンカーボネート/炭酸エチレン/炭酸ジメチル/炭酸エチルメチル(FEC/EC/DMC/EMC)を体積比で1.5:3:4:3で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で添加したものを用いた。得られた試験セルに対して、電池電圧0.005V~1.5Vの範囲で0.1Cの電流密度による充放電を50サイクル繰り返し行った。
【0071】
(試験セルの特性評価結果)
表4に、初回放電容量(mAh/g)、50サイクル後の放電容量(mAh/g)、初回放電容量に対する50サイクル後の放電容量から求めた容量維持率(%)をまとめて示す。表4に示すように、初期放電容量について検討すると、多孔化処理のあと不活性雰囲気下1000℃で熱処理を行った実験例8~11の試験セルでは、2500mAh/g以上と、より高い放電容量を示した。また、電池の耐久性について、実験例12では、50サイクルの容量維持率は、6%を極めて低いが、実験例8~11の多孔質シリコン材料を負極活物質とした試験セルでは、容量維持率が84~97%と良好であった。したがって、合金を多孔化し、熱処理を行うことによって、容量をより高め、サイクル容量維持率をより高めることができることがわかった。これは、図12に示したように、熱処理により、シリコン骨格に固溶したAlが除去され、より純粋なSi骨格によって容量がより向上するものと推察された。また、シリコン骨格の表面にAl酸化物が形成されることによって、シリコン骨格がより強化され、充放電サイクルによる体積変化など、耐久性がより向上したものと推察された。
【0072】
【表4】
【0073】
なお、本発明は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質、14 集電体、15 負極、16 負極活物質、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 多孔質シリコン材料、23 空隙。
図1
図2
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