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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】フォトニック結晶素子用複合基板
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/03 20060101AFI20231006BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20231006BHJP
   C30B 33/06 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
G02F1/03 505
G02B6/122 301
C30B33/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021175687
(22)【出願日】2021-10-27
(62)【分割の表示】P 2021562904の分割
【原出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2023020811
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020092825
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】近藤 順悟
(72)【発明者】
【氏名】浅井 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】多井 知義
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/224908(WO,A1)
【文献】特開2008-052109(JP,A)
【文献】特開2005-274840(JP,A)
【文献】特開2006-276576(JP,A)
【文献】特開2008-052108(JP,A)
【文献】国際公開第2013/148349(WO,A1)
【文献】CALERO, Venancio et al.,Toward Highly Reliable, Precise, and Reproducible Fabrication of Photonic Crystal Slabs on Lithium Niobate,Journal of Lightwave Technology,米国,OSA,2018年08月31日,Vol.37, No.3,pp.698-703
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
G02B 6/12-6/14
IEEE Xplore
Scopus
OSA Publishing
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する電気光学結晶基板と、
該電気光学結晶基板の一方の面に設けられた光学損失抑制および空洞加工層と、
該光学損失抑制および空洞加工層を介して該電気光学結晶基板と一体化されている支持基板と、を有し、
前記光学損失抑制および空洞加工層が、前記電気光学結晶基板に設けられた光学損失抑制層と前記支持基板に設けられた空洞加工層とを有し、該光学損失抑制層と該空洞加工層とが直接接合されており、
前記光学損失抑制層と前記空洞加工層との直接接合の接合界面に、前記光学損失抑制層の構成元素と前記空洞加工層の構成元素とで構成されているアモルファス層が形成されており、
前記光学損失抑制層の厚みが、0.01μm~0.05μmである、フォトニック結晶素子用複合基板。
【請求項2】
電気光学効果を有する電気光学結晶基板と
該電気光学結晶基板の一方の面に設けられた光学損失抑制および空洞加工層と、
該光学損失抑制および空洞加工層を介して該電気光学結晶基板と一体化されている支持基板と、を有し、
前記光学損失抑制および空洞加工層が、前記電気光学結晶基板に設けられた光学損失抑制層と前記支持基板に設けられた空洞加工層とを有し、該光学損失抑制層と該空洞加工層とが直接接合されており、
前記光学損失抑制層と前記空洞加工層との直接接合の接合界面に、前記光学損失抑制層の構成元素と前記空洞加工層の構成元素とで構成されているアモルファス層が形成されており、
前記光学損失抑制層を構成する材料が、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、モリブテン、または、これらの材料の混合物である、フォトニック結晶素子用複合基板。
【請求項3】
前記光学損失抑制層と前記支持基板との間に接合層をさらに有する、請求項1または2に記載のフォトニック結晶素子用複合基板。
【請求項4】
前記光学損失抑制層または前記空洞加工層に、パターン化された犠牲層が形成されている、請求項1から3のいずれかに記載のフォトニック結晶素子用複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶素子用複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電気光学素子が知られている。電気光学素子は、電気光学効果を利用して、電気信号を光信号に変換することができる。電気光学素子は、例えば光電波融合通信に採用されており、高速かつ大容量な通信、低消費電力化(低駆動電圧化)、低フットプリントを実現するために、その開発が進められている。電気光学素子は、例えば、複合基板を用いて構成されている。複合基板は、代表的には、電気光学効果を有する電気光学結晶基板と、電気光学結晶基板に接合された支持基板と、を備える。これにより、電気光学結晶基板を薄くすることができ、上記に挙げた諸機能を実現するための応用開発が盛んとなっている。従来の複合基板は、電気光学結晶基板と支持基板とが、接着剤によって接合されていた。このような構成によれば、接着剤の経時的劣化により複合基板に剥離が生じる場合があり、さらに、このような剥離に起因して、電気光学結晶基板に損傷(例えば、クラック)が生じる場合があった。
【0003】
上記のような問題を解決するために、接着剤を用いることなく、電気光学結晶基板と支持基板とを直接接合する技術が開発されている。しかし、電気光学結晶基板と支持基板とを直接接合すると、電気光学結晶基板と支持基板との間には、電気光学結晶基板の元素と支持基板の元素から構成されるアモルファス層が形成される。このアモルファス層は結晶性がなく、光学特性も電気光学結晶基板および支持基板とは異なり、電気光学結晶基板とアモルファス層との間の界面も平坦ではない。このような平坦でない界面は、電気光学結晶基板を伝わる光を、散乱(例えば、乱反射、漏出)および/または吸収させるおそれがある。さらに、このアモルファス化によって電気光学結晶の電気光学効果も劣化し、所望の低駆動電圧化が達成できない場合がある。このような問題に対しては、例えば、電気光学結晶基板と支持基板との間に低屈折率層を介在させる、等の技術が提案されている。
【0004】
ところで、電気光学素子の1つとして、フォトニック結晶素子の開発が進められている。フォトニック結晶素子は、光導波路、次世代高速通信、センサー、レーザー加工、太陽光発電等の幅広い分野への応用および展開が期待されている。このようなフォトニック結晶素子の開発に伴い、フォトニック結晶素子に好適な複合基板が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6650551号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主たる目的は、優れた特性を有するフォトニック結晶素子を実現し得る複合基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子用複合基板は、電気光学効果を有する電気光学結晶基板と、該電気光学結晶基板の一方の面に設けられた光学損失抑制および空洞加工層と、該光学損失抑制および空洞加工層を介して該電気光学結晶基板と一体化されている支持基板と、を有する。
1つの実施形態においては、上記光学損失抑制および空洞加工層は単一層である。
この実施形態においては、上記フォトニック結晶素子用複合基板は、上記電気光学結晶基板と上記光学損失抑制および空洞加工層との間に剥離防止層をさらに有していてもよい。
この実施形態においては、上記フォトニック結晶素子用複合基板は、上記光学損失抑制および空洞加工層と上記支持基板との間に接合層をさらに有していてもよい。
この実施形態においては、上記フォトニック結晶素子用複合基板は、上記光学損失抑制および空洞加工層に、パターン化された犠牲層が形成されていてもよい。
この実施形態においては、上記フォトニック結晶素子用複合基板は、上記光学損失抑制および空洞加工層と上記支持基板との間にオーバーコート層をさらに有していてもよい。
別の実施形態においては、上記光学損失抑制および空洞加工層は、上記電気光学結晶基板に設けられた光学損失抑制層と上記支持基板に設けられた空洞加工層とを有し、該光学損失抑制層と該空洞加工層とが直接接合されている。
この実施形態においては、上記フォトニック結晶素子用複合基板は、上記光学損失抑制層と上記支持基板との間に接合層をさらに有していてもよい。
この実施形態においては、上記フォトニック結晶素子用複合基板は、上記光学損失抑制層または上記空洞加工層に、パターン化された犠牲層が形成されていてもよい。
この実施形態においては、上記フォトニック結晶素子用複合基板は、上記光学損失抑制層と上記空洞加工層との間にオーバーコート層をさらに有していてもよい。
本発明の別の局面によれば、フォトニック結晶素子が提供される。当該フォトニック結晶素子は、上記のフォトニック結晶素子用複合基板を用いたフォトニック結晶素子である。当該フォトニック素子は、上記電気光学結晶基板に周期的に空孔が形成されてなるフォトニック結晶層と;該フォトニック結晶層の下部に設けられ、該フォトニック結晶層と支持基板とを一体化する接合部と;該フォトニック結晶層の下面と上記支持基板の上面と該接合部とにより規定される空洞と、を有する。
1つの実施形態においては、上記フォトニック結晶素子は、上記のフォトニック結晶素子用複合基板を用いて構成される。
1つの実施形態においては、上記フォトニック結晶層にはエッチング用貫通孔が形成されている。この場合、上記エッチング用貫通孔のサイズは上記空孔のサイズよりも大きくてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、電気光学結晶基板と支持基板とを有するフォトニック結晶素子用複合基板において、電気光学結晶基板の一方の面に光学損失抑制および空洞加工層を設け、該光学損失抑制および空洞加工層を介して電気光学結晶基板と支持基板とを一体化することにより、優れた特性を有するフォトニック結晶素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の1つの実施形態によるフォトニック結晶素子用複合基板の概略斜視図である。
図2図1のフォトニック結晶素子用複合基板の概略断面図である。
図3】本発明の別の実施形態によるフォトニック結晶素子用複合基板の概略断面図である。
図4】本発明のさらに別の実施形態によるフォトニック結晶素子用複合基板の概略断面図である。
図5】本発明のさらに別の実施形態によるフォトニック結晶素子用複合基板の概略断面図である。
図6図5のフォトニック結晶素子用複合基板の製造方法を説明する概略断面図である。
図7】本発明のさらに別の実施形態によるフォトニック結晶素子用複合基板の概略断面図である。
図8】本発明のさらに別の実施形態によるフォトニック結晶素子用複合基板の概略断面図である。
図9】本発明のさらに別の実施形態によるフォトニック結晶素子用複合基板の概略断面図である。
図10】本発明の1つの実施形態によるフォトニック結晶素子の概略斜視図である。
図11図11(a)~図11(c)は、本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子の製造方法の一例を説明する概略断面図である。
図12図12(a)~図12(d)は、本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子の製造方法の別の例を説明する概略断面図である。
図13図13(a)~図13(d)は、本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子の製造方法のさらに別の例を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0011】
A.フォトニック結晶素子用複合基板
A-1.全体構成および変形例
図1は、本発明の1つの実施形態によるフォトニック結晶素子用複合基板(以下、単に複合基板と称する場合がある)の概略斜視図であり;図2は、図1の複合基板の概略断面図である。本発明の実施形態による複合基板は、代表的には図1に示すように、いわゆるウェハの形態で製造され得る。複合基板は、図1のようなウェハの形態でフォトニック結晶素子の製造者に提供されてもよく、後述するようにフォトニック結晶層を形成したウェハ(フォトニック結晶ウェハ)の形態で製造者に提供されてもよい。本明細書においては、フォトニック結晶ウェハをフォトニック結晶素子と称する場合がある。すなわち、本明細書において「フォトニック結晶素子」は、フォトニック結晶ウェハおよび当該フォトニック結晶ウェハを切断して得られるチップの両方を包含する。
【0012】
図示例の複合基板100は、電気光学効果を有する電気光学結晶基板10と、電気光学結晶基板の一方の面に設けられた光学損失抑制および空洞加工層20と、光学損失抑制および空洞加工層20を介して電気光学結晶基板10と一体化された支持基板30と、を有する。図示例の実施形態においては、光学損失抑制および空洞加工層20と支持基板30とが直接接合されることにより、電気光学結晶基板10と支持基板30とが一体化されている。なお、直接接合の接合界面には代表的にはアモルファス層(図示せず)が形成されている。図示例の実施形態においては、アモルファス層は、光学損失抑制および空洞加工層20と支持基板30との直接接合により接合界面に形成された層である。アモルファス層は名称のとおりアモルファス構造を有しており、光学損失抑制および空洞加工層20を構成する元素と支持基板30を構成する元素とで構成されている。なお、本発明の実施形態においては、図1および図2に示す実施形態に限らず、直接接合の接合界面には代表的にはアモルファス層が形成され得る。アモルファス層は、直接接合される互いの層または基板の構成元素で構成されている。
【0013】
電気光学結晶基板10には、後述するように、空孔が所定のパターンで形成されて、フォトニック結晶素子においてフォトニック結晶層となる。光学損失抑制および空洞加工層20は、直接接合の際に電気光学結晶基板にアモルファス層が形成されることを防止して電気光学結晶基板の光学損失を抑制し;併せて、直接接合の際の光学損失抑制機能を果たした後はエッチングにより除去されて、フォトニック結晶素子において空洞を形成し得る。さらに、光学損失抑制および空洞加工層20は、構成材料、厚み等を調整することにより、エッチング(代表的には、ドライエッチング)を適切な程度で停止させることができる。
【0014】
電気光学結晶基板10と支持基板30とを直接接合により一体化することにより、複合基板の剥離を良好に抑制することができ、結果として、このような剥離に起因する電気光学結晶基板の損傷(例えば、クラック)を良好に抑制することができる。さらに、光学損失抑制および空洞加工層20と支持基板30とを直接接合することにより、電気光学結晶基板と支持基板との直接接合を回避することができ、したがって、電気光学結晶基板にアモルファス層が形成されることを防止することができる。その結果、電気光学結晶基板の光学特性の低下または光学損失を抑制することができる。
【0015】
本明細書において「直接接合」とは、接着剤を介在させることなく複合基板の構成要素(図1および図2の例では光学損失抑制および空洞加工層20と支持基板30)が接合していることを意味する。直接接合の形態は、互いに接合される層または基板の構成に応じて適切に設定され得る。例えば、直接接合は、以下の手順で実現され得る。高真空チャンバー内(例えば、1×10-6Pa程度)において、接合される構成要素(層または基板)のそれぞれの接合面に中性化ビームを照射する。これより、各接合面が活性化される。次いで、真空雰囲気で、活性化された接合面同士を接触させ、常温で接合する。この接合時の荷重は、例えば100N~20000Nであり得る。1つの実施形態においては、中性化ビームによる表面活性化を行う際には、チャンバーに不活性ガスを導入し、チャンバー内に配置した電極へ直流電源から高電圧を印加する。このような構成であれば、電極(正極)とチャンバー(負極)との間に生じる電界により電子が運動して、不活性ガスによる原子とイオンのビームが生成される。グリッドに達したビームのうち、イオンビームはグリッドで中和されるので、中性原子のビームが高速原子ビーム源から出射される。ビームを構成する原子種は、好ましくは不活性ガス元素(例えば、アルゴン(Ar)、窒素(N))である。ビーム照射による活性化時の電圧は例えば0.5kV~2.0kVであり、電流は例えば50mA~200mAである。なお、直接接合の方法は、これに限定されることはなく、イオンガンによる表面活性化法、原子拡散法、プラズマ接合法等も適用できる。
【0016】
光学損失抑制および空洞加工層は、上記のような単一層であってもよく、後述するように光学損失抑制層と空洞加工層とを有していてもよい。すなわち、光学損失抑制および空洞加工層は、単一層として光学損失抑制機能および空洞形成機能の両方を有していてもよく、光学損失抑制層と空洞加工層として2層に分離し機能を分担してもよい。
【0017】
以下、複合基板の変形例を説明する。なお、複合基板の構成要素(層または基板)の具体的な構成については、A-2項~A-8項で後述する。
【0018】
図3は、本発明の別の実施形態による複合基板の概略断面図である。図示例の複合基板100aには、電気光学結晶基板10と光学損失抑制および空洞加工層20との間に剥離防止層40が設けられ、光学損失抑制および空洞加工層20と支持基板30との間にオーバーコート層50および接合層60が設けられている。接合層60は、支持基板30、ならびに/あるいは、支持基板30と反対側の隣接層(図示例ではオーバーコート層50、または、光学損失抑制および空洞加工層20)と直接接合され得る。支持基板30、ならびに、オーバーコート層50または光学損失抑制および空洞加工層20のそれぞれに接合層を設け、それぞれの接合層を直接接合してもよい。剥離防止層40を設けることにより、電気光学結晶基板10と隣接層(図示例では、光学損失抑制および空洞加工層20)との剥離を抑制することができる。オーバーコート層50は、光学損失抑制および空洞加工層20に凹凸がある場合に平坦化するための層として設けられ得る。具体的には、後述する図4のように犠牲層70が形成されている場合、犠牲層70と光学損失抑制および空洞加工層20とは別々の工程で形成されるので図示例の下面には凹凸ができてしまうことがある。このときオーバーコート層50を形成することによって、単一層としての表面を形成できるので平坦化処理が容易に可能となる。また、接合層60を設けることにより、電気光学結晶基板10と支持基板30との強固な一体化を実現することができる。剥離防止層40、オーバーコート層50および接合層60は、必要に応じて設けられる任意の層であり、これらのうちの少なくとも1つは省略されてもよい。図示例においては、例えば、オーバーコート層50、剥離防止層40とオーバーコート層50、あるいは、オーバーコート層50と接合層60とが省略され得る。接合層が存在する場合、接合層と隣接層との直接接合の界面(接合層同士の直接接合の界面を含む)に、アモルファス層が形成され得る。オーバーコート層と接合層とが省略される場合、図2と同様に、光学損失抑制および空洞加工層20と支持基板30とが直接接合され、その接合界面にアモルファス層が形成され得る。
【0019】
図4は、本発明のさらに別の実施形態による複合基板の概略断面図である。図示例の複合基板100bには、光学損失抑制および空洞加工層20に犠牲層70が形成されている。犠牲層70を設けることにより、フォトニック結晶の機能を効果的に発現するための空洞を所望の形状に、かつ簡易に形成することができる。空洞は、フォトニック結晶の空孔の直下においては全域にわたって十分な厚みを有することが好ましい。このため、犠牲層70は、目的に応じた所定のパターンで形成されている。図示例の実施形態においては、犠牲層70は、代表的には、フォトニック結晶素子における空洞に対応するパターンおよび形状に形成されている。図示例の実施形態においては、必要に応じて、光学損失抑制および空洞加工層20(犠牲層70)と支持基板30との間に、オーバーコート層50および/または接合層60がさらに設けられてもよい。接合層60が単独で設けられる場合、接合層60は、光学損失抑制および空洞加工層20(犠牲層70)ならびに/あるいは支持基板30と直接接合され得る。オーバーコート層50および接合層60が設けられる場合、代表的には、オーバーコート層50が犠牲層70側に設けられる。接合層60は、オーバーコート層50および/または支持基板30と直接接合され得る。上記の実施形態と同様に、接合される層または基板にそれぞれ接合層を設け、接合層同士を直接接合してもよい。
【0020】
図5は、本発明のさらに別の実施形態による複合基板の概略断面図である。図示例の複合基板100cにおいては、光学損失抑制および空洞加工層は、光学損失抑制層21と空洞加工層22とを有する。代表的には、光学損失抑制層21は電気光学結晶基板10に形成され、空洞加工層22は支持基板30に形成されている。代表的には、図6に示すように、光学損失抑制層21/電気光学結晶基板10の積層体の光学損失抑制層21と空洞加工層22/支持基板30の積層体の空洞加工層22とが直接接合され、光学損失抑制層21と空洞加工層22との積層構造が構成されている。光学損失抑制層21と空洞加工層22との積層構造を採用することにより、空洞加工層のエッチングによる電気光学結晶層のダメージを抑制し、および/または、フォトニック結晶構造製造時に空孔が空洞加工層を突き抜けて支持基板まで到達するのを防止することができる。さらに、接合、エッチング等のプロセス時に異種元素が電気光学結晶基板に拡散するのを防止することができる。
【0021】
図7は、本発明のさらに別の実施形態による複合基板の概略断面図である。図示例の複合基板100dには、光学損失抑制層21と空洞加工層22との間にオーバーコート層50および接合層60が設けられている。オーバーコート層50および接合層60は、必要に応じて設けられる任意の層であり、これらのうちの少なくとも1つは省略されてもよい。図示例の実施形態においては、多くの場合、接合層60のみが設けられ得る。接合層60は、空洞加工層22および/または空洞加工層22と反対側の隣接層(図示例では、オーバーコート層50または光学損失抑制層21)と直接接合され得る。上記の実施形態と同様に、接合される層(図示例では、空洞加工層22、ならびに、オーバーコート層50または光学損失抑制層21)のそれぞれに接合層を設け、それぞれの接合層を直接接合してもよい。
【0022】
図8は、本発明のさらに別の実施形態による複合基板の概略断面図である。図示例の複合基板100eには、空洞加工層22に犠牲層70が形成されている。光学損失抑制層21と空洞加工層22との積層構造を採用し、かつ、空洞加工層22に犠牲層70を形成することにより、設計通りの位置に、設計通りの形状で空洞を形成できるという利点がある。図示例の実施形態においては、必要に応じて、光学損失抑制層21と空洞加工層22(犠牲層70)との間、あるいは、空洞加工層22(犠牲層70)と支持基板30との間に、接合層60がさらに設けられてもよい。接合層60は、上記の実施形態の場合と同様に、少なくとも一方の隣接層と直接接合されてもよく、接合される層のそれぞれに接合層を設け、それぞれの接合層を直接接合してもよい。
【0023】
図9は、本発明のさらに別の実施形態による複合基板の概略断面図である。図示例の複合基板100fには、光学損失抑制層21に犠牲層70が形成されている。複合基板100fにおいては、空洞加工層22と支持基板30とが直接接合されていてもよい。光学損失抑制層21と空洞加工層22との積層構造を採用し、かつ、光学損失抑制層21に犠牲層70を形成することにより、設計通りの位置に、設計通りの形状で空洞を形成できるという利点がある。空洞加工層22へのパターニングが難しい場合にこの構造は有効である。図示例の実施形態においては、必要に応じて、光学損失抑制層21(犠牲層70)と空洞加工層22との間、あるいは、空洞加工層22と支持基板30との間に、オーバーコート層50および/または接合層60がさらに設けられてもよい。
【0024】
上記の実施形態は、目的に応じて適切に組み合わせてもよい。さらに/あるいは、上記の実施形態には、当業界で周知の改変を加えてもよい。
【0025】
A-2.電気光学結晶基板
電気光学結晶基板10は、外部に露出する上面と、複合基板内に位置する下面と、を有する。本発明の実施形態においては、電気光学結晶基板10の一部または全部は、複合基板から製造されるフォトニック結晶素子において光を伝える光導波路となる。電気光学結晶基板10は、電気光学効果を有する材料の結晶で構成されている。具体的には、電気光学結晶基板10は、電界が印加されると光学定数(例えば、屈折率)が変化し得る。1つの実施形態においては、電気光学結晶基板10のc軸は、電気光学結晶基板10に平行であり得る。すなわち、電気光学結晶基板10は、Xカットの基板であってもよくYカットの基板であってもよい。別の実施形態においては、電気光学結晶基板10のc軸は、電気光学結晶基板10に垂直であり得る。すなわち、電気光学結晶基板10は、Zカットの基板であってもよい。電気光学結晶基板10の厚みは、使用する電磁波の周波数や波長に応じて任意の適切な厚みに設定され得る。電気光学結晶基板10の厚みは、例えば0.1μm~10μm、また例えば0.1μm~3μmであり得る。後述するように、複合基板は支持基板により補強されているので、電気光学結晶基板の厚みを薄くすることができる。
【0026】
電気光学結晶基板10を構成する材料としては、本発明の実施形態による効果が得られる限りにおいて任意の適切な材料が用いられ得る。そのような材料としては、代表的には、誘電体(例えば、セラミック)が挙げられる。具体例としては、ニオブ酸リチウム(LiNbO:LN)、タンタル酸リチウム(LiTaO:LT)、チタン酸リン酸カリウム(KTiOPO:KTP)、ニオブ酸カリウム・リチウム(KLi(1-x)NbO:KLM)、ニオブ酸カリウム(KNbO:KN)、タンタル酸・ニオブ酸カリウム(KNbTa(1-x):KTN)、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムとの固溶体が挙げられる。
【0027】
A-3.支持基板
支持基板30は、複合基板内に位置する上面と、外部に露出する下面と、を有する。支持基板30は、複合基板の強度を高めるために設けられており、これにより、電気光学結晶基板の厚みを薄くすることができる。支持基板30としては、任意の適切な構成が採用され得る。支持基板30を構成する材料の具体例としては、シリコン(Si)、ガラス、サイアロン(Si-Al)、ムライト(3Al・2SiO,2Al・3SiO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化シリコン(Si)、酸化マグネシウム(MgO)、サファイア、石英、水晶、窒化ガリウム(GaN)、炭化シリコン(SiC)、酸化ガリウム(Ga)が挙げられる。なお、支持基板30を構成する材料の線膨張係数は、電気光学結晶基板10を構成する材料の線膨張係数に近いほど好ましい。このような構成であれば、複合基板の熱変形(代表的には、反り)を抑制することができる。好ましくは、支持基板30を構成する材料の線膨張係数は、電気光学結晶基板10を構成する材料の線膨張係数に対して50%~150%の範囲内である。この観点から、支持基板は、電気光学結晶基板10と同じ材料であってもよい。
【0028】
A-4.光学損失抑制および空洞加工層
A-4-1.単一層
光学損失抑制および空洞加工層(単一層)20は、上記のとおり、光学損失抑制機能、空洞加工機能およびエッチング停止機能を有する。光学損失抑制および空洞加工層としては、このような機能を有する限りにおいて任意の適切な構成が採用され得る。光学損失抑制および空洞加工層(単一層)を構成する材料としては、例えば、酸化シリコン(SiO)、アモルファスシリコン(a-Si)、多結晶シリコン(すなわち、単結晶シリコンは除く)、モリブデン、酸化アルミニウム(Al)、これらの材料の材料の化合物、これらの材料の混合物が挙げられる。光学損失抑制および空洞加工層(単一層)の厚みは、例えば0.1μm~1.0μmであり、また例えば0.5μm~1.0μmである。
【0029】
A-4-2.光学損失抑制層と空洞加工層との積層構造
光学損失抑制および空洞加工層が光学損失抑制層21と空洞加工層22とを有する場合、光学損失抑制層としては、光学損失抑制機能を有する限りにおいて任意の適切な構成が採用され得る。光学損失抑制層を構成する材料としては、例えば、アモルファスシリコン、多結晶シリコン(すなわち、単結晶シリコンは除く)、モリブデン、酸化アルミニウム、これらの材料の材料の化合物、これらの材料の混合物が挙げられる。光学損失抑制層の厚みは、例えば0.01μm(10nm)~0.1μm(100nm)であり、また例えば0.01μm(10nm)~0.05μm(50nm)である。
【0030】
空洞加工層としては、空洞加工機能およびエッチング停止機能を有する限りにおいて任意の適切な構成が採用され得る。空洞加工層を構成する材料としては、例えば、酸化シリコン、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、単結晶シリコン、モリブデン、酸化アルミニウム、これらの材料の材料の化合物、これらの材料の混合物が挙げられる。空洞加工層の厚みは、例えば0.1μm~1.0μmであり、また例えば0.3μm~0.7μmである。
【0031】
A-5.剥離防止層
剥離防止層40は、上記のとおり、電気光学結晶基板10と隣接層(代表的には、光学損失抑制および空洞加工層20)との剥離を防止または抑制するために設けられる。剥離防止層としては、電気光学結晶基板および隣接層の構成に応じて任意の適切な構成が採用され得る。剥離防止層を構成する材料としては、例えば、アモルファスシリコン、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム(HfO)が挙げられる。剥離防止層の厚みは、例えば0.01μm~0.1μmである。
【0032】
A-6.オーバーコート層
オーバーコート層50は、上記のとおり、光学損失抑制および空洞加工層20に凹凸がある場合に平坦化するために設けられる。オーバーコート層としては、目的および隣接層(例えば、犠牲層)の構成に応じて任意の適切な構成が採用され得る。オーバーコート層を構成する材料としては、例えば、アモルファスシリコン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウムが挙げられる。オーバーコート層の厚みは、例えば0.01μm~1μmである。
【0033】
A-7.接合層
接合層60は、上記のとおり、接合強度を高めて電気光学結晶基板と支持基板との強固な一体化を実現するために設けられる。接合層としては、接合対象となる基板または層の構成に応じて任意の適切な構成が採用され得る。接合層を構成する材料としては、例えば、酸化シリコン、アモルファスシリコン、酸化タンタル、アルミナ(Al)、ハフニア(HfO)、Cr/Au、Cr/Cuが挙げられる。接合層の厚みは、例えば0.01μm~0.1μmであり、また例えば0.01μm~0.05μmである。
【0034】
A-8.犠牲層
犠牲層70は、上記のとおり、設計通りの位置に、設計通りの形状で空洞を形成するために設けられる。犠牲層としては、目的に応じて任意の適切な構成が採用され得る。犠牲層を構成する材料としては、例えば、アモルファスシリコン、シリコン、モリブデン、酸化シリコン、酸化アルミニウム、これらの材料の材料の化合物、これらの材料の混合物が挙げられる。犠牲層の厚みは、例えば0.1μm~1.0μmであり、また例えば0.2μm~0.7μmである。
【0035】
B.フォトニック結晶素子
B-1.フォトニック結晶素子の構成
図10は、本発明の1つの実施形態によるフォトニック結晶素子の概略斜視図である。図示例のフォトニック結晶素子200は、電気光学結晶基板10に周期的に空孔12が形成されてなるフォトニック結晶層10aと;フォトニック結晶層10aの下部に設けられ、フォトニック結晶層10aと支持基板30とを一体化する接合部20aと、フォトニック結晶層10aの下面と支持基板の上面30と接合部20aの内側面とにより規定される空洞80と、を有する。空洞80は、上記A項に記載の複合基板の光学損失抑制および空洞加工層をエッチングにより除去することにより形成され、光学損失抑制および空洞加工層の残りにより接合部20aが構成されている。
【0036】
フォトニック結晶層10aを構成するフォトニック結晶とは、屈折率の大きい媒質と小さい媒質を光の波長と同程度の周期で構成した多次元周期構造体であり、電子のバンド構造に似た光のバンド構造を有する。したがって、周期構造を適切に設計することにより、所定の光の禁制帯(フォトニックバンドギャップ)を発現させることができる。禁制帯を有するフォトニック結晶は、所定の波長の光に対して光の反射も透過も起こらない物体として機能する。フォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶に、周期性を乱す線欠陥を導入すると、バンドギャップの周波数領域内に導波モードが形成され、低損失で光を伝搬する光導波路を実現できる。
【0037】
図示例のフォトニック結晶は、いわゆるスラブ型2次元フォトニック結晶である。スラブ型2次元フォトニック結晶とは、誘電体や半導体の薄板スラブに、薄板スラブを構成する材料の屈折率よりも低い屈折率の円柱状または多角柱状の低屈折率柱を目的および所望のフォトニックバンドギャップに応じた適切な2次元周期間隔で設け、さらに薄板スラブの上下を薄板スラブよりも低い屈折率を有する上部クラッドと下部クラッドとで挟んだフォトニック結晶のことである。図示例においては、空孔12が低屈折率柱として機能し、電気光学結晶基板10の空孔12、12間の部分14が高屈折率部として機能し、空洞80が下部クラッドとして機能し、フォトニック結晶素子200の上部の外環境(空気部分)が上部クラッドとして機能する。電気光学結晶基板10において空孔12の周期パターンが形成されていない部分が線欠陥となり、当該線欠陥部分が光導波路16を構成する。
【0038】
空孔12は、上記のとおり周期的なパターンとして形成され得る。空孔12は、代表的には、規則的な格子を形成するように配列されている。格子の形態としては、所定のフォトニックバンドギャップを実現し得る限りにおいて、任意の適切な形態が採用され得る。代表例としては、三角格子、正方形格子が挙げられる。空孔12は、1つの実施形態においては、貫通孔であり得る。貫通孔は形成が容易であり、結果として、屈折率の調整が容易である。空孔(貫通孔)の平面視形状としては、任意の適切な形状が採用され得る。具体例としては、等辺多角形(例えば、正三角形、正方形、正五角形、正六角形、正八角形)、略円形、楕円形が挙げられる。略円形が好ましい。略円形は、長径/ 短径比が好ましくは0.90~1.10であり、より好ましくは0.95~1.05である。なお、貫通孔12は、上記のとおり、低屈折率柱(低屈折材料で構成される柱状部分)であってもよい。ただし、貫通孔のほうが形成容易であり、かつ、貫通孔は最も屈折率の低い空気で構成されるので光導波路との屈折率差を大きくすることができる。また、空孔径は部分的に他の空孔径と異なっていてもよい。
【0039】
空孔の格子パターンは、目的および所望のフォトニックバンドギャップに応じて適切に設定され得る。図示例においては、直径d1の空孔が周期Pで正方形格子を形成している。当該正方形格子パターンは、フォトニック結晶素子の両側に形成され、格子パターンが形成されない中央部に光導波路16が形成されている。光導波路16の幅は、空孔周期Pに対して例えば1.01P~3P(図示例では2P)であり得る。光導波路方向の空孔の列(以下、格子列と称する場合がある)の数は、光導波路のそれぞれの側において3列~10列(図示例では5列)であり得る。空孔周期Pは、例えば以下の関係を満足し得る。
(1/7)×(λ/n)≦P≦1.4×(λ/n)
ここで、λは光導波路に導入される光の波長(nm)であり、nは電気光学結晶基板の屈折率である。空孔周期Pは、具体的には0.1μm~1μmであり得る。1つの実施形態においては、空孔周期Pは、フォトニック結晶層(電気光学結晶基板)の厚みと同等であり得る。空孔の直径d1は、空孔周期Pに対して例えば0.1P~0.9Pであり得る。空孔の直径d1、空孔周期P、格子列の数、1つの格子列における空孔の数、フォトニック結晶層の厚み、電気光学結晶基板の構成材料(実質的には、屈折率)、線欠陥部分の幅、後述する空洞の幅および高さ等を適切に組み合わせて調整することにより、所望のフォトニックバンドギャップが得られ得る。さらに、光波以外の電磁波に対しても同様の効果が得られ得る。電磁波の具体例としては、ミリ波、マイクロ波、テラヘルツ波が挙げられる。
【0040】
空洞80は、上記のとおり複合基板の光学損失抑制および空洞加工層20をエッチングにより除去することにより形成され、下部クラッドとして機能し得る。空洞の幅は、好ましくは光導波路の幅より大きい。例えば、空洞80は、光導波路16から3列目の格子列まで延びていてもよい。図示例では、空洞80は、光導波路16から3列目の格子列まで延びている。光は光導波部内を伝搬するだけでなく、光エネルギーの一部が光導波部近傍の格子列まで拡散する場合があるので、そのような格子列の直下に空洞を設けることにより、光漏れによる伝搬損失を抑制することができる。この観点から、空洞は空孔形成部の全域にわたって形成されていてもよい。空洞の高さは、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは伝搬する光の波長の1/5以上である。このような高さであれば、薄板スラブがフォトニック結晶として機能し、より波長選択性が高く、低損失な光導波路が実現できる。空洞の高さは、複合基板における電気光学結晶基板および支持基板以外の構成要素(層)の厚みを調整することにより制御できる。
【0041】
1つの実施形態においては、フォトニック結晶層10aには、エッチング用貫通孔90が形成され得る。エッチング用貫通孔90を形成することにより、エッチング液をエッチングすべき領域全体に良好に行き渡らせることができる。その結果、所望の空洞をより精密に形成することができる。図示例では単一のエッチング用貫通孔が形成されているが、エッチング用貫通孔は複数(例えば、2つ、3つ、または4つ)形成されてもよい。エッチング用貫通孔は、例えば、光導波路から格子列を3列以上離れた位置に形成される。このような構成であれば、フォトニックバンドギャップに対する悪影響を与えることなく、エッチング液をエッチングすべき領域全体に良好に行き渡らせることができる。エッチング用貫通孔は、また例えば、格子パターンの光導波路と反対側の端部の入力部側および/または出力部側(すなわち、フォトニック結晶層の隅部)に形成され得る。このような構成であれば、フォトニックバンドギャップに対する悪影響をさらに良好に防止することができる。例えばエッチング用貫通孔が4つ形成される場合には、それらはフォトニック結晶層の4隅に形成され得る。エッチング用貫通孔90のサイズは、代表的には、空孔12のサイズよりも大きい。例えば、エッチング用貫通孔の直径d2は、空孔の直径d1に対して好ましくは5倍以上であり、より好ましくは50倍以上であり、さらに好ましくは100倍以上である。一方、d2は、d1に対して好ましくは1000倍以下である。d2が小さすぎると、エッチング液がエッチングすべき領域全体に良好に行き渡らない場合がある。d2が大きすぎると、フォトニックバンドギャップに対して悪影響を与える場合がある。
【0042】
B-2.フォトニック結晶素子の製造方法
図11図13を参照して、フォトニック結晶素子の製造方法の代表例を簡単に説明する。図11(a)~図11(c)は、複合基板からフォトニック結晶素子を作製するプロセスの一例を説明する概略断面図である。この例は、図11(a)に示すような図4の複合基板に類似した複合基板からフォトニック結晶素子を作製するプロセスである。この複合基板は、図4の複合基板に比べて、光学損失抑制および空洞加工層20(犠牲層70)と支持基板30との間に接合層60がさらに設けられている。まず、図11(b)に示すように、所定のマスクを介したエッチングにより、電気光学結晶基板10に空孔12を形成する。エッチングは、代表的にはドライエッチング(例えば、反応性イオンエッチング)である。空孔12は、例えば図10に示すようなパターンで形成され得る。なお、図面では、エッチング用貫通孔の形成は省略されている。次いで、電気光学結晶基板に空孔が形成された複合基板を、所定のエッチング液と接触させる(例えば、浸漬する)ことにより、犠牲層70をエッチングする。その結果、図11(c)に示すように空洞80が形成され、フォトニック結晶素子が得られる。空孔形成時のエッチング用マスクと犠牲層とを同じ材料で構成すれば、一度の接触(例えば、浸漬)により、マスクの残りと犠牲層とを同時に除去することができる。
【0043】
図12(a)~図12(d)は、複合基板からフォトニック結晶素子を作製するプロセスの別の例を説明する概略断面図である。この例は、図12(a)に示すような図5の複合基板に類似した複合基板からフォトニック結晶素子を作製するプロセスである。この複合基板は、図5の複合基板に比べて、光学損失抑制層21と空洞加工層22との間に接合層60がさらに設けられている。まず、図12(b)に示すように、所定のマスクを介したドライエッチング(例えば、反応性イオンエッチング)により、電気光学結晶基板10、光学損失抑制層21および接合層60に空孔12を形成する。次いで、図12(c)に示すように、ウェットエッチング(例えば、エッチング液への浸漬)により、空洞加工層22の所定部分を除去する。最後に、図12(d)に示すように、ウェットエッチング(例えば、エッチング液への浸漬)により、残っている光学損失抑制層21および接合層60を除去する。その結果、空洞80が形成され、フォトニック結晶素子が得られる。
【0044】
図13(a)~図13(d)は、複合基板からフォトニック結晶素子を作製するプロセスのさらに別の例を説明する概略断面図である。この例は、図13(a)に示すような図9の複合基板に類似した複合基板からフォトニック結晶素子を作製するプロセスである。この複合基板は、図9の複合基板に比べて、空洞加工層22と支持基板30との間に接合層60がさらに設けられている。まず、図13(b)に示すように、所定のマスクを介したドライエッチング(例えば、反応性イオンエッチング)により、電気光学結晶基板10に空孔12を形成する。次いで、図13(c)に示すように、ウェットエッチング(例えば、エッチング液への浸漬)により犠牲層70を除去し、続いて、図13(d)に示すように、ウェットエッチング(例えば、エッチング液への浸漬)により、空洞加工層22を除去する。その結果、空洞80が形成され、フォトニック結晶素子が得られる。犠牲層と空洞加工層とを同じ材料で構成すれば、一度の接触(例えば、浸漬)により、犠牲層の残りと空洞加工層とを同時に除去することができる。
【0045】
フォトニック結晶素子の作製に図示例とは異なるプロセスが採用され得ることは言うまでもない。複合基板の全体構成、複合基板の各層の構成材料、マスク、エッチング様式等を適切に組み合わせることにより、効率的な手順で、かつ、高精度で空孔および空洞を形成することができ、フォトニック結晶素子を作製することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
1.フォトニック結晶素子用複合基板の作製
電気光学結晶基板として直径4インチのXカットニオブ酸リチウム基板、支持基板として直径4インチのシリコン基板を用意した。まず、電気光学結晶基板上にアモルファスシリコン(a-Si)をスパッタリングして、厚み20nmの光学損失抑制層を形成した。一方、支持基板上に酸化シリコンをスパッタリングして、厚み0.5μmの空洞加工層を形成し、空洞加工層上にa-Siをスパッタリングして、厚み20nmの接合層を形成した。次いで、光学損失抑制層および接合層の表面をそれぞれCMP研磨して、光学損失抑制層および接合層の表面の算術平均粗さRaを0.3nm以下とした。次に、光学損失抑制層および接合層の表面を洗浄した後、光学損失抑制層および接合層を直接接合することにより電気光学結晶基板と支持基板とを一体化した。直接接合は、以下のようにして行った。10-6Pa台の真空中で、電気光学結晶基板および支持基板の接合面(光学損失抑制層および接合層の表面)に高速Ar中性原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量60sccm)を70秒間照射した。照射後、10分間放置して電気光学結晶基板および支持基板を放冷したのち、電気光学結晶基板および支持基板の接合面を接触させ、4.90kNで2分間加圧して電気光学結晶基板と支持基板とを接合した。接合後、電気光学結晶基板の厚みが0.5μmになるまで研磨加工し、図5に類似したフォトニック結晶素子用複合基板(ただし、光学損失抑制層と空洞加工層との間に接合層あり)を得た。得られたフォトニック結晶素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
【0048】
2.フォトニック結晶素子の作製
上記で得られたフォトニック結晶素子用複合基板から、図12に示す製造方法に対応する方法でフォトニック結晶素子を作製した。具体的には、以下の手順でフォトニック結晶素子を作製した。まず、電気光学結晶基板に金属マスクとしてモリブデン(Mo)を成膜した。次に、金属マスク上に、ナノインプリント法により、所定の配置で空孔を有する樹脂パターンを形成した。具体的には、フォトニック結晶の空孔に対応する空孔パターンとして、平面視した場合の左側および右側に、直径444nmの空孔を、光導波路方向および光導波路方向に直交する方向にそれぞれ550nmの周期(ピッチ)で有する10列の格子列を形成した。空孔は、平面視した場合の中央部には形成しなかった(最終的に、この部分が光導波路となる)。さらに、平面視した場合の隅部(左右の格子列部分の光導波路となる部分の反対側の端部の入力部側および出力部側)に、直径200μmの空孔(エッチング用貫通孔のパターン)を4つ形成した。次いで、Moエッチング液(硝酸:酢酸:リン酸の混合比10:15:1の混合液)によるエッチングによりMoマスクに上記パターンに対応する空孔を形成した。次いで、パターン形成されたMoマスクを介したフッ素系反応性イオンエッチングにより、複合基板に空孔パターンおよびエッチング用貫通孔を形成した。次いで、BHF(バッファードフッ酸)エッチング液に複合基板を浸漬し、空洞加工層を除去して空洞を形成した。さらに、Moマスクの残りをMoエッチング液で除去した。最後に、約10%に希釈した水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)に複合基板を浸漬して光学損失抑制層および接合層をエッチングし、フォトニック結晶ウェハを作製した。得られたフォトニック結晶ウェハをダイシングによりチップ切断し、フォトニック結晶素子を得た。フォトニック結晶素子の光導波路長は10mmとした。なお、チップ切断後、光導波路の入力側端面および出力側端面には端面研磨を施した。
【0049】
得られたフォトニック結晶素子(チップ)を厚み方向に切断し、断面を顕微鏡により観察した結果、フォトニック結晶層直下に空洞が良好に形成されていた。空洞が設計通りに形成できているチップの歩留は100%であった。
さらに、得られたチップについて、光挿入損失を測定した。具体的には、光ファイバに結合した入力側の先球ファイバを通して波長1.55μmの光をチップ(実質的には、フォトニック結晶層の光導波路)に導入し、出力側の先球ファイバを通して出力した光量を光検出器で測定して伝搬損失を算出した。光導波路の伝搬損失は、0.5dB/cmであった。
【0050】
<実施例2>
1.フォトニック結晶素子用複合基板の作製
実施例1と同様の電気光学結晶基板および支持基板を用意した。次いで、電気光学結晶基板上に、犠牲層としてのMo膜(厚み0.5μm)をスパッタリングにより形成した。なお、Moは、電気光学結晶基板(ニオブ酸リチウム基板)への拡散がなく、したがって電気光学結晶基板の光学的劣化を引き起こさないとされている。さらに、フォトリソグラフィーにより、犠牲層をパターン化した。具体的には、Mo膜の犠牲層となる部分をレジストマスクパターンで覆い、露出部分をMoエッチング液にて除去した。次いで、Moパターンが形成された面に酸化シリコンをスパッタリングして、厚み1μmの光学損失抑制および空洞加工層を形成し、CMP研磨することにより当該層の表面の算術平均粗さRaを0.3nm以下とした。さらに、研磨した層の表面にa-Siをスパッタリングして、厚み20nmの接合層を形成し、CMP研磨することにより接合層表面の算術平均粗さRaを0.3nm以下とした。次に、接合層および支持基板の表面を洗浄した後、接合層および支持基板を直接接合することにより電気光学結晶基板と支持基板とを一体化した。直接接合の条件は実施例1と同様であった。接合後、電気光学結晶基板の厚みが0.5μmになるまで研磨加工し、図4に類似したフォトニック結晶素子用複合基板(ただし、電気光学結晶基板と支持基板との間に接合層あり)を得た。得られたフォトニック結晶素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
【0051】
2.フォトニック結晶素子の作製
上記で得られたフォトニック結晶素子用複合基板から、図11に示す製造方法に対応する方法でフォトニック結晶素子を作製した。具体的には、以下の手順でフォトニック結晶素子を作製した。まず、実施例1と同様にして空孔パターンおよびエッチング用貫通孔を形成した。次いで、Moエッチング液に複合基板を浸漬してMoマスクの残りと犠牲層をエッチングし、フォトニック結晶ウェハを作製した。得られたフォトニック結晶ウェハを実施例1と同様にしてチップ切断し、フォトニック結晶素子を得た。フォトニック結晶素子の光導波路長は実施例1と同様に10mmとした。なお、チップ切断後、実施例1と同様にして端面研磨を施した。
【0052】
得られたフォトニック結晶素子(チップ)を実施例1と同様の評価に供した。その結果、フォトニック結晶層直下に空洞が良好に形成されており、空洞が設計通りに形成できているチップの歩留は100%であった。さらに、得られたチップの光導波路の伝搬損失は、0.5dB/cmであった。
【0053】
<実施例3>
1.フォトニック結晶素子用複合基板の作製
実施例1と同様の電気光学結晶基板および支持基板を用意した。次いで、電気光学結晶基板上に、光学損失抑制層としてのMo膜(厚み0.215μm)をスパッタリングにより形成した。さらに、フォトリソグラフィーにより、光学損失抑制層をパターン化した。具体的には、Mo膜の光学損失抑制層となる部分をレジストマスクパターンで覆い、露出部分をMoエッチング液にて除去した。次いで、Moパターンが形成された面に酸化シリコンをスパッタリングして、厚み0.25μmの犠牲層を形成し、CMP研磨することにより犠牲層の表面の算術平均粗さRaを0.3nm以下とした。次いで、研磨した犠牲層の表面に酸化シリコンをスパッタリングして、厚み0.5μmの空洞加工層を形成し、CMP研磨することにより空洞加工層の表面の算術平均粗さRaを0.3nm以下とした。さらに、a-Siをスパッタリングして、厚み20nmの接合層を形成し、CMP研磨することにより接合層表面の算術平均粗さRaを0.3nm以下とした。以下の手順は実施例1と同様にして、図9に類似したフォトニック結晶素子用複合基板(ただし、電気光学結晶基板と支持基板との間に接合層あり)を得た。得られたフォトニック結晶素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
【0054】
2.フォトニック結晶素子の作製
上記で得られたフォトニック結晶素子用複合基板から、図13に示す製造方法に対応する方法でフォトニック結晶素子を作製した。具体的には、以下の手順でフォトニック結晶素子を作製した。まず、実施例1と同様にして空孔パターンおよびエッチング用貫通孔を形成した。次いで、Moエッチング液に複合基板を浸漬してMoマスクの残りをエッチングした。さらに、BHFエッチング液に複合基板を浸漬し、犠牲層および空洞加工層を除去して空洞を形成し、フォトニック結晶ウェハを作製した。得られたフォトニック結晶ウェハを実施例1と同様にしてチップ切断し、フォトニック結晶素子を得た。フォトニック結晶素子の光導波路長は実施例1と同様に10mmとした。なお、チップ切断後、実施例1と同様にして端面研磨を施した。
【0055】
得られたフォトニック結晶素子(チップ)を実施例1と同様の評価に供した。その結果、フォトニック結晶層直下に空洞が良好に形成されており、空洞が設計通りに形成できているチップの歩留は100%であった。さらに、得られたチップの光導波路の伝搬損失は、0.5dB/cmであった。
【0056】
<実施例4>
エッチング用貫通孔を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にしてフォトニック結晶素子用複合基板を作製し、当該複合基板からフォトニック結晶ウェハおよびフォトニック結晶素子(チップ)を作製した。得られたフォトニック結晶素子(チップ)を実施例1と同様の評価に供した。その結果、フォトニック結晶層直下に空洞が形成されていないチップが認められた。空洞が設計通りに形成できているチップの歩留は約50%であった。さらに、空洞が形成されているチップの光導波路の伝搬損失は0.5dB/cmであったが、空洞が形成されていないチップの光導波路の伝搬損失は2dB/cm以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の実施形態による複合基板は、フォトニック結晶素子に好適に用いられ得る。本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子は、光導波路、次世代高速通信、センサー、レーザー加工、太陽光発電等の幅広い分野に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0058】
10 電気光学結晶基板
12 空孔
14 薄板スラブ
16 光導波路
20 光学損失抑制および空洞加工層
21 光学損失抑制層
22 空洞加工層
30 支持基板
40 剥離防止層
50 オーバーコート層
60 接合層
70 犠牲層
80 空洞
90 エッチング用貫通孔
100 フォトニック結晶素子用複合基板
100a フォトニック結晶素子用複合基板
100b フォトニック結晶素子用複合基板
100c フォトニック結晶素子用複合基板
100d フォトニック結晶素子用複合基板
100e フォトニック結晶素子用複合基板
100f フォトニック結晶素子用複合基板
200 フォトニック結晶素子
図1
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図13