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特許7361773熱可塑性エラストマー組成物および熱可塑性エラストマー成形体
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  • 特許-熱可塑性エラストマー組成物および熱可塑性エラストマー成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物および熱可塑性エラストマー成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/00 20060101AFI20231006BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20231006BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20231006BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20231006BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
C08L53/00
C08L23/08
C08L23/16
C08K5/14
C08J5/00 CES
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021526832
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023719
(87)【国際公開番号】W WO2020256000
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019115407
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 諒
(72)【発明者】
【氏名】油木 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】楠本 玲実
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-279030(JP,A)
【文献】特開2006-282992(JP,A)
【文献】国際公開第2020/162382(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152710(WO,A1)
【文献】特開2018-044085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)41~70質量部、成分(B)5~54質量部、および成分(C)5~50質量部(ただし、成分(A)、(B)および(C)の含有量の合計は100質量部である)を、架橋剤の存在下で動的に熱処理して架橋して得られる熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):ISO1133に準拠して測定された230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートが20g/10min以上である、プロピレン系ブロック共重合体
成分(B):エチレンから導かれる構造単位とプロピレンから導かれる構造単位と非共役ポリエンから導かれる構造単位とを含み、エチレンから導かれる構造単位とプロピレンから導かれる構造単位とのモル比が、95/5~50/50である、エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体
成分(C):ISO1133に準拠して測定された190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10min以下である、エチレンから導かれる構造単位と炭素数4~20のα-オレフィンから導かれる構造単位とを含む、エチレン・α-オレフィン共重合体
【請求項2】
前記成分(B)と前記成分(C)との質量比((B)/(C))が、49/51~20/80である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
JIS K6253に準拠して測定された、試験片に接触してから5秒後のタイプD硬度(タイプD硬度(5秒後))が35以上である、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる熱可塑性エラストマー成形体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形して得られる熱可塑性エラストマー成形体。
【請求項6】
成形時の組成物の流動方向に直交する向きの、最も厚い部分の厚みL1と、最も薄い部分の厚みL2との比率(L1/L2)が2以上、50以下である、請求項4または5に記載の熱可塑性エラストマー成形体。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー成形体を含む自動車部品。
【請求項8】
エアバッグカバーである請求項7に記載の自動車部品。
【請求項9】
非塗装エアバッグカバーである請求項7に記載の自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物および熱可塑性エラストマー成形体に関し、詳しくは、低温耐衝撃性に優れ、光沢感を抑制することのできる熱可塑性エラストマー組成物および熱可塑性エラストマー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、省エネルギー、省資源タイプのエラストマーとして、特に加硫ゴムの代替として自動車部品、工業機械部品、電子・電気機器部品、建材等に広く使用されている。
【0003】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(EPDM)とポリプロピレンなどの結晶性ポリオレフィンを原料としていることから、他の熱可塑性エラストマーに比べて、比重が軽く、耐熱老化性、耐候性などの耐久性に優れている。
【0004】
特許文献1には、結晶性ポリオレフィン樹脂、エチレン・α-オレフィン共重合体ゴムおよびオレフィン系ゴムを含む熱可塑性エラストマー組成物が開示されており、この組成物により、従来の加硫ゴムよりも引張強度、破断伸度等の引張特性に優れた成形体を製造できることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、エチレンと炭素数3~5のα-オレフィンを含有するエチレン・α-オレフィン共重合体、エチレンと炭素数4~20のα-オレフィンを含有するエチレン・α-オレフィン共重合体、及びオレフィン系樹脂を架橋してなる複合エラストマー組成物が開示されており、この組成物が外観、色調、柔軟性(触感)、耐油性、機械的強度、及び溶融加工性に優れることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、エチレン単位と炭素数3~20のα-オレフィン単位とを含む、エチレン・α-オレフィン共重合体と、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを主体とする水添共重合体ブロックを少なくとも1つ有する共重合体と、共役ジエン単量体単位ブロックとビニル芳香族単量体単位ブロックとをそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物と、オレフィン系樹脂とを含む架橋された熱可塑性エラストマー組成物が開示されており、この組成物が柔軟性、機械物性、耐傷性、耐摩耗性、及び低温特性に優れることが記載されている。
【0007】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、上記のような優れた性質を有するが、その一方で、用途によっては更なる改良が求められている。例えば、エアバッグカバー等の自動車部品では、高い曲げ弾性および低温耐衝撃性が求められる。また、エアバッグカバーは、厚肉部とティア部(ティアライン)と呼ばれる薄肉部とを有するが、非塗装のエアバッグカバーではティアラインの方が厚肉部より光沢感が高くなる傾向があり、外観上好ましくない。
【0008】
特許文献4には、プロピレン系重合体成分およびエチレン-α-オレフィン共重合体成分と、エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン共重合体ゴムと、鉱物油系軟化剤とを含むエアバッグカバー用熱可塑性エラストマー組成物が開示されており、この組成物が外観、流動性、機械的強度に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-137001号公報
【文献】特開2002-146131号公報
【文献】WO2010/067564号
【文献】特開2012-224837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の熱可塑性エラストマー組成物に対しても、さらなる低温耐衝撃性の向上が求められ、またティアラインの光沢感をより強く抑制して、さらに良好な外観の実現が求められていることがわかってきた。
【0011】
本発明の課題は、曲げ弾性、低温耐衝撃性および外観に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供すること、特に非塗装のエアバッグカバーを成形したとき、ティアラインの光沢を抑制することができ、良好な外観を得ることができる熱可塑性エラストマー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、例えば下記[1]~[9]に関する。
[1] 下記成分(A)41~70質量部、成分(B)0~54質量部、および成分(C)5~59質量部(ただし、成分(A)、(B)および(C)の含有量の合計は100質量部である)を、架橋剤の存在下で動的に熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):ISO1133に準拠して測定された230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートが20g/10min以上である、プロピレン系ブロック共重合体
成分(B):エチレンから導かれる構造単位と炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構造単位と非共役ポリエンから導かれる構造単位とを含む、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体
成分(C):ISO1133に準拠して測定された190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10min以下である、エチレンから導かれる構造単位と炭素数4~20のα-オレフィンから導かれる構造単位とを含む、エチレン・α-オレフィン共重合体
[2] 前記成分(B)と前記成分(C)との質量比((B)/(C))が、49/51~0/100である、前記[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3] JIS K6253に準拠して測定された、試験片に接触してから5秒後のタイプD硬度(タイプD硬度(5秒後))が35以上である、前記[1]または[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる熱可塑性エラストマー成形体。
[5] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形して得られる熱可塑性エラストマー成形体。
[6] 成形時の組成物流動方向に直交する向きの、最も厚い部分の厚みL1と、最も薄い部分の厚みL2との比率(L1/L2)が2以上、50以下である、前記[4]または[5]に記載の熱可塑性エラストマー成形体。
[7] 前記[4]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー成形体を含む自動車部品。
[8] エアバッグカバーである前記[7]に記載の自動車部品。
[9] 非塗装エアバッグカバーである前記[7]に記載の自動車部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、曲げ弾性、低温耐衝撃性および外観に優れており、特に非塗装のエアバッグカバーを成形したとき、ティアラインの光沢を抑制することができ、良好な外観を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、成形時の組成物の流動方向に直交する向きにおいて、厚みL1を有する最も厚い部分と、厚みL2を有する最も薄い部分とを備えた成形体を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)、成分(B)および成分(C)を、または、成分(A)および成分(C)を架橋剤の存在下で動的に熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物である。本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(B)は任意成分であり、成分(B)は用いられていても、用いられていなくてもよい。
【0016】
成分(A)は、プロピレン系ブロック共重合体である。成分(A)は、例えばプロピレンと他のα-オレフィンとのブロック共重合体であり、好ましくはプロピレンと30モル%以下の他のα-オレフィンとのブロック共重合体であり、より好ましくはプロピレンと15モル%以下の他のα-オレフィンとのブロック共重合体である。
前記他のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等を挙げることができる。これらの中でも、エチレンが特に好ましい。
【0017】
成分(A)は、ISO1133に準拠して測定された230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートが20g/10min以上であり、好ましくは30~70g/10minであり、より好ましくは40~70g/10minである。前記メルトフローレートが20g/10min以上であると、成形性と低温耐衝撃性とのバランスに優れた成形体が得られる。前記メルトフローレートが20g/10minより低いと、成形性が悪くなる。また前記メルトフローレートが70g/10min以下であると、低温耐衝撃性がより高くなる。
【0018】
上記のようなプロピレンブロック共重合体としては、例えばプライムポリマー社のJ709QGや日本ポリプロ社のBC05B等が好ましく用いられる。
これらの共重合体は、1種単独であっても良く、あるいは、2種以上の組み合わせであっても良い。
【0019】
成分(B)は、エチレンから導かれる構造単位と炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構造単位と非共役ポリエンから導かれる構造単位とを含む、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体である。
【0020】
前記炭素数3~20のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1- ペンテン、3-メチル-1- ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1- ペンテン、4-メチル-1- ペンテン、1-オクテン等を挙げることができる。これらの中でも、プロピレンが特に好ましい。
【0021】
前記非共役ポリエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエンのような鎖状非共役ジエン;シクロへキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネンのような環状非共役ジエン;2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン、1,3,7-オクタトリエン、1,4,9-デカトリエンのようなトリエンなどを挙げることができる。これらの中でも、5-エチリデン-2-ノルボルネンが特に好ましい。
【0022】
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体のヨウ素価は、25以下が好ましい。前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体のムーニー粘度[ML1+4 (125℃)]は、例えば10~250であり、好ましくは30~150である。前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体に含まれる、エチレンから導かれる構造単位と炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構造単位とのモル比(エチレン/α-オレフィン)は、95/5~50/50であることが好ましい。
【0023】
成分(C)は、エチレンから導かれる構造単位と炭素数4~20のα-オレフィンから導かれる構造単位とを含む、エチレン・α-オレフィン共重合体である。
上記炭素原子数4~20のα-オレフィンとしては、たとえば1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等を挙げることができる。これらの中でも、1-オクテンが特に好ましい。
【0024】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体において、エチレンから導かれる単位の含有比率は、好ましくは60~95モル%、より好ましくは70~90モル%である。エチレンから導かれる単位の含有比率は前記範囲内であることが、低温耐衝撃性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得るうえで好ましい。
【0025】
成分(C)は、ISO1133に準拠して測定された190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10min以下であり、好ましくは0.5~3.0g/10minであり、より好ましくは0.5~1.0g/10minである。前記メルトフローレートが5g/10min以下であると、動的架橋時の架橋性が良好になる。
【0026】
成分(C)は、ISO 1183-1に準拠して測定された密度が、例えば0.856~0.870kg/m3であり、好ましくは0.856~0.868kg/m3であり、より好ましくは0.856~0.863kg/m3であり、さらに好ましくは0.856~0.861kg/m3である。前記密度が上記範囲にあると、低温性能が良好になる。
【0027】
成分(C)は、ASTM D1646に準拠して測定されたムーニー粘度[ML 1+4 (121℃)]が、例えば1~100であり、好ましくは10~50である。前記ムーニー粘度が上記範囲にあると、低温性能が良好になる。
【0028】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、前記成分(A)、成分(B)および成分(C)、または成分(A)および成分(C)を架橋剤の存在下で動的に熱処理して得られる。
【0029】
この熱処理における前記成分(A)、成分(B)および成分(C)の含有比は、成分(A)、(B)および(C)の含有量の合計を100質量部として、成分(A)41~70質量部、成分(B)0~54質量部、および成分(C)5~59質量部であり、好ましくは成分(A)50~65質量部、成分(B)0~30質量部および成分(C)15~50質量部であり、より好ましくは成分(A)50~60質量部、成分(B)5~15質量部および成分(C)20~50質量部である。
【0030】
また、成分(B)と前記成分(C)との質量比((B)/(C))は、49/51~0/100であることが好ましく、40/60~20/80であることがより好ましい。
前記熱処理には、前記成分(A)、成分(B)および成分(C)とともに、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他の樹脂等を用いてもよい。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、可塑剤(軟化剤)(D)を含有していてもよい。可塑剤(D)としては、通常ゴムに使用される可塑剤を用いることができ、具体的には、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系可塑剤;コールタール、コールタールピッチ等のコールタール系可塑剤;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、ヤシ油等の脂肪油系可塑剤;トール油、蜜ロウ、カルナウバロウ、ラノリン等のロウ類;リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸またはその金属塩;石油樹脂、クマロンインデン樹脂、アタクチックポリプロピレン等の合成高分子物質;ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート等のエステル系可塑剤;その他マイクロクリスタリンワックス、サブ(ファクチス)、液状ポリブタジエン、変性液状ポリブタジエン、液状チオコールなどが挙げられる。これらの中でも、石油系可塑剤、特にプロセスオイルが好ましい。
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物における可塑剤(D)の配合量は、成分(A)、(B)および(C)の含有量の合計を100質量部として、0質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
【0033】
可塑剤(D)は、成分(B)にあらかじめ油展という形で添加されていてもよく、成分(B)に添加せずに組成物に含有させてもよい。なお、本発明において、可塑剤(D)が油展された成分(B)を用いる場合でも、前述した組成物中の成分(B)の含有量には可塑剤(D)の量は含まれない。
【0034】
また、前記組成物において、前記成分(A)、成分(B)成分(C)および必要に応じて用いられる成分(D)以外に、他の重合体由来成分を含む場合は、当該他の重合体由来成分を、成分(B)および成分(C)の含有量の合計100質量部に対し、40質量部未満、例えば35質量部以下で含むことが一つの態様である。
【0035】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、従来公知の耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、帯電防止剤、充填剤、着色剤、滑剤など添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
【0036】
前記熱処理において使用される架橋剤としては、有機過酸化物、フェノール樹脂、ヒドロシリコーン系化合物、アミノ樹脂、キノンまたはその誘導体、アミン系化合物、アゾ系化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物等の、ゴムを架橋する際に一般に使用される架橋剤が挙げられる。これらの中でも、有機過酸化物が好適である。
【0037】
有機過酸化物としては、具体的には、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルベンゾエート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシドなどが挙げられる。
【0038】
これらの中では、臭気性、スコーチ安定性の点で、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンが好ましく、なかでも、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が最も好ましい。
【0039】
このような有機過酸化物は、前記成分(A)、(B)および(C)の合計100質量%に対して、通常0.05~3質量%、好ましくは0.1~2質量%の割合で用いられる。
上記有機過酸化物による架橋処理に際し、硫黄、p-キノンジオキシム、p,p'- ジベンゾイルキノンジオキシム、N-メチル-N,4-ジニトロソアニリン、ニトロソベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン、N,N'-m-フェニレンジマレイミド、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートのような架橋助剤、あるいはエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートのような多官能性メタクリレートモノマー、ビニルブチラート、ビニルステアレートのような多官能性ビニルモノマーを配合することができる。
【0040】
上記のような化合物を用いることにより、均一かつ緩和な架橋反応が期待できる。特に、本発明においては、ジビニルベンゼンを用いることが最も好ましい。ジビニルベンゼンは、取扱い易く、上記の被架橋処理物の主成分である成分(A)および(B)との相溶性が良好であり、かつ、有機過酸化物を可溶化する作用を有し、有機過酸化物の分散剤として働くため、ジビニルベンゼンを用いると、熱処理による架橋効果が均質に表れ、流動性と物性とのバランスのとれた熱可塑性エラストマー組成物が得られる。
【0041】
上記のような架橋助剤あるいは多官能性ビニルモノマーなどの化合物は、前記成分(A)、(B)および(C)の合計100質量%に対して、0.1~3質量%、特に0.3~2質量%の割合で用いるのが好ましい。
【0042】
上記の「動的に熱処理する」とは、上記のような各成分を溶融状態で混練することをいう。動的な熱処理は、ミキシングロール、インテンシブミキサー(たとえばバンバリーミキサー、ニーダー)、一軸または二軸押出機等の混練装置を用いて行なわれるが、非開放型の混練装置中で行なうことが好ましい。また、動的な熱処理は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0043】
混練は、使用する有機過酸化物の半減期が1分未満となる温度で行なうのが望ましい。混練温度は、通常150~280℃、好ましくは170℃~240℃である。混練時間は、通常1~20分間、好ましくは1~5分間である。また、混練の際に加えられる剪断力は、通常、剪断速度で10~10,000sec-1 、好ましくは100~10,000sec-1 の範囲内で決定される。
【0044】
上記のようにして、成分(A)、(B)および(C)、または成分(A)および(C)が架橋されたオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物が得られる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、曲げ弾性、低温耐衝撃性および外観に優れている。
【0045】
具体的には、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K6253に準拠するタイプD硬度(5秒後)が好ましくは35以上であり、より好ましくは35~60である。
【0046】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の前記のような性能を利用して、本発明の熱可塑性エラストマー組成物から性能の優れた様々な熱可塑性エラストマー成形体を得ることができる。
【0047】
成形方法としては、押出成形、プレス成形、射出成形、カレンダー成形、中空成形等を挙げることができ、これら中でも射出成形が特に好適である。
熱可塑性エラストマー成形体としては、自動車部品、土木・建材用品、電気・電子部品、衛星用品、フィルム・シート等を挙げることができる。これらの中でも、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の前記性能が好適に発現されることから、自動車部品が特に好ましい。
【0048】
自動車部品としては、ウェザートリップ材、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、ワイヤーハーネスグロメット、ラックアンドピニオンブーツ、サスペンションカバーブーツ、ガラスガイド、インターベルトラインシール、コーナーモールディング、グラスエンキャプシュレーション、フードシール、グラスランチャンネル、セカンダリーシール、各種パッキン類、ホース、エアバックカバー等を挙げることができる。
【0049】
エアバッグカバーは、厚肉部とティア部(ティアライン)と呼ばれる薄肉部とを有する。ティアラインは、エアバッグ動作時にカバーが裂ける線状部である。非塗装のエアバッグカバーでは、ティアラインの方が厚肉部より光沢感が高く現れる傾向があるが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物から製造されたエアバッグカバーでは、ティアラインの光沢を抑制することができるので、ティアラインと厚肉部との光沢感の差が縮小し、良好な外観を実現することができる。このため、熱可塑性エラストマー成形体の特に好ましい例として、非塗装のエアバッグカバーを挙げることができる。
【0050】
図1に、厚肉部と薄肉部とを有する成形体の一例を示す。図1の左から右への方向が成形時の組成物の流動方向である。図1中の曲線状の矢印は、成形時に組成物が流動する経路を示す。本発明の熱可塑性エラストマー組成物から製造された厚肉部と薄肉部とを有する成形体においては、樹脂流動方向に直交する向きの、最も厚い部分の厚みL1と、最も薄い部分の厚みL2との比率(L1/L2)が2以上、50以下であることが好ましく、2以上、20以下であることがより好ましい。前記比率(L1/L2)が2以上、50以下であると、薄肉部における光沢が抑制された、良好な外観を持った成形体となる。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例において使用した原材料を以下に記す。
成分A: ブロックポリプロピレン
メルトフローレート(ISO1133、230℃、2.16kg荷重):60g/10min、密度(ISO1183): 0.91グラム/cm3 、エチレン単位含量: 4質量%
成分B: エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体ゴム
エチレン単位含量(エチレンから導かれる構造単位とプロピレンから導かれる構造単位との合計を100質量%とする): 68質量%、ヨウ素価:11、ムーニー粘度[ML1+4(125℃)]:51
なお、実施例および比較例では、前記成分Bを含む材料として、前記成分B100質量部に対して、可塑剤(ダイアナプロセスオイルPW-380、出光興産製)を40質量部配合した油展エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体ゴム(以下、油展成分Bという)を用いた。
成分C: エチレン・1-オクテン共重合体ゴム
メルトフローレート(ISO1133、190℃、2.16kg荷重): 1g/10min、エチレン単位含量: 80モル%、密度:0.861kg/m3、ムーニー粘度:25
架橋剤: 有機ペルオキシド(2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、パーヘキシン25B、日本油脂(株)製)
架橋助剤: ジビニルベンゼン
【0052】
[実施例1]
上記の成分A 55.7質量部、油展成分B 40.2質量部(成分Bとして28.7質量部)、成分C 15.6質量部、架橋剤0.3質量部および架橋助剤0.3質量部をヘンシェルミキサーで充分に混合し、下記条件にて混を行い、熱可塑性エラストマー組成物を得た。
(混練条件)
押出機:品番 KTX-46、神戸製鋼(株)製
シリンダー温度:C1~C2 120℃、C3~C4 140℃、C5~C14 200℃
イス温度:200℃、スクリュー回転数:400rpm、押出量:80kg/h
【0053】
[実施例2~4、比較例1]
各成分の配合量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、熱可塑性エラストマー組成物を得た。なお、成分Bの量が表1に記載の量となるように、油展成分Bを使用した。
【0054】
【表1】
【0055】
上記で得た熱可塑性エラストマー組成物を用いて、下記の物性測定を行った。結果を表2に示す。
下記物性測定において使用した射出成型、試験片、成形板および成形体は、上記で得た熱可塑性エラストマー組成物から、射出成型機(日精樹脂工業(株)製、NEX140)を用いて組成物温度 220℃にて作製した。
【0056】
(1)メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、ISO1133に準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定した。
【0057】
(2)ショア-D硬度
ショア-D硬度は、JIS K6253に準拠して測定した。熱可塑性エラストマー組成物から厚さ3mmの射出成型を作製し、この射出成型を2枚重ねて厚さ6mmの積層シートを作製した。この積層シートを用いてショア-D硬度計によりショア-D硬度を測定した。ショア-D硬度については試験片に接触してから5秒後の値を求めた。
【0058】
(3)Izod衝撃試験
Izod衝撃試験は、ASTM D256に準拠して行った。熱可塑性エラストマー組成物から射出成形にて、Izod衝撃強さ用のノッチのついた厚み3.2mmの試験片を作製し、温度-40℃の雰囲気下にて試験を行った。試験後の試験片の破壊状態から、下記の基準によりIzod耐衝撃性を評価した。
NB:非破壊
B:破壊
【0059】
(4)グロス
グロスは、ISO 7668に準拠して測定した。熱可塑性エラストマー組成物から射出成形にて鏡面の成形板を作製し、入射角60°にてグロスを測定した。
【0060】
(5)外観
熱可塑性エラストマー組成物から射出成形により、図1に示すような、L1が3mmである厚肉部とL2が0.5mmである薄肉部とを有する成形体を作製した。成形体の薄肉部に現れるティアライン部に発生するグロス変化を肉眼により観察し、厚肉部とティアライン部のグロスの差異について下記の基準で外観を評価した。外観評価は3人で行い、全員一致する評価結果であった。
3:厚肉部とティアライン部のグロスの差は確認できない
2:厚肉部とティアライン部のグロスの差はわずかに確認できる
1:厚肉部とティアライン部のグロスの差は明らかに確認できる
【0061】
【表2】
図1