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特許7361792サブマージアーク溶接(SAW)によるアセンブリの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接(SAW)によるアセンブリの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20231006BHJP
   B23K 9/18 20060101ALI20231006BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
C23C26/00 A
B23K9/18 F
B23K9/23 K
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021561697
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 IB2020053584
(87)【国際公開番号】W WO2020212887
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/053176
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マンホン・フェルナンデス,アルバロ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス・ロドリゲス,マルコス
(72)【発明者】
【氏名】スアレス・サンチェス,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ボーム,シバサンブ
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109023354(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109055685(CN,A)
【文献】米国特許第06664508(US,B1)
【文献】特開2001-262368(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1978563(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 10/02
C23C 24/00 - 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレコート鋼基材であって、
-任意選択的に、防食コーティングと、
-少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子を含むプレコーティングと、
でコーティングされ、
少なくとも1つのチタネートが、Na Ti 、NaTiO 、K TiO 、K Ti 、MgTiO 、SrTiO 、BaTiO 、及びCaTiO 、FeTiO 及びZnTiO 又はそれらの混合物の中から選択され、並びに
少なくとも1つのナノ粒子が、TiO 、SiO 、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al 、MoO 、CrO 、CeO 又はそれらの混合物から選択される、
プレコート鋼基材。
【請求項2】
プレコーティングの厚さが、10~140μmの間である、請求項1に記載のプレコート鋼基材。
【請求項3】
ナノ粒子の割合が、80重量%以下である、請求項1又は2のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材。
【請求項4】
チタネートの割合が、45重量%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材。
【請求項5】
プレコーティングが、バインダーをさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材。
【請求項6】
プレコーティング中のバインダーの割合が、1~20重量%の間である、請求項に記載のプレコート鋼基材。
【請求項7】
プレコート鋼基材が、シールドフラックスによって少なくとも局所的に被覆されている、請求項1~のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材。
【請求項8】
防食コーティングが、亜鉛、アルミニウム、銅、ケイ素、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びそれらの合金からなる群から選択される金属を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材。
【請求項9】
少なくとも1つのチタネートの直径が、1~40μmの間である、請求項1~のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材を製造するための方法であって、以下の連続するステップ:
A.任意選択的に防食コーティングでコーティングされた鋼基材を提供するステップ、
B.少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子を含むプレコーティングを堆積するステップ、
C.任意選択的に、ステップB)で得られたコーティングされた鋼基材を乾燥させるステップ、
を含
少なくとも1つのチタネートが、Na Ti 、NaTiO 、K TiO 、K Ti 、MgTiO 、SrTiO 、BaTiO 、及びCaTiO 、FeTiO 及びZnTiO 又はそれらの混合物の中から選択され、並びに
少なくとも1つのナノ粒子が、TiO 、SiO 、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al 、MoO 、CrO 、CeO 又はそれらの混合物から選択される、
方法。
【請求項11】
ステップB)において、プレコーティングの堆積が、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング又はブラシコーティングによって実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップB)において、プレコーティングが、有機溶媒をさらに含む、請求項10又は11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップB)において、プレコーティングが、1~200g/Lの少なくとも1つのナノ粒子を含む、請求項1012のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップB)において、プレコーティングが、100~500g/Lの少なくとも1つのチタネートを含む、請求項1013のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップB)において、フラックスが、バインダー前駆体をさらに含む、請求項1014のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
アセンブリを製造するための方法であって、以下の連続するステップ:
I.少なくとも2つの金属基材を提供するステップであって、少なくとも1つの金属基材が、少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子を含むフラックスでコーティングされたプレコート鋼である、ステップと、
II.少なくとも2つの金属基材をサブマージアーク溶接(SAW)溶接によって溶接するステップと、
を含
少なくとも1つのチタネートが、Na Ti 、NaTiO 、K TiO 、K Ti 、MgTiO 、SrTiO 、BaTiO 、及びCaTiO 、FeTiO 及びZnTiO 又はそれらの混合物の中から選択され、並びに
少なくとも1つのナノ粒子が、TiO 、SiO 、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al 、MoO 、CrO 、CeO 又はそれらの混合物から選択される、
方法。
【請求項17】
ステップII)において、少なくとも2つの金属基材が、シールドフラックスによって少なくとも局所的に被覆される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップII)において、電流平均が、100~1000Aの間である、請求項16又は17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ステップII)において、電圧が、1~100Vの間である、請求項1618のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材の形態の少なくとも第1の金属基材と、第2の金属基材とのアセンブリであって、第1及び第2の金属基材が、サブマージアーク溶接(SAW)溶接により少なくとも部分的に互いに溶接されており、溶接ゾーンが、少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子を含む溶解及び/又は析出したプレコーティングを含
少なくとも1つのチタネートが、Na Ti 、NaTiO 、K TiO 、K Ti 、MgTiO 、SrTiO 、BaTiO 、及びCaTiO 、FeTiO 及びZnTiO 又はそれらの混合物の中から選択され、並びに
少なくとも1つのナノ粒子が、TiO 、SiO 、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al 、MoO 、CrO 、CeO 又はそれらの混合物から選択される、
アセンブリ。
【請求項21】
第2の金属基材が、鋼基材又はアルミニウム基材である、請求項20に記載のアセンブリ。
【請求項22】
第2の金属基材が、請求項1~のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材である、請求項20に記載のアセンブリ。
【請求項23】
圧力容器又はオフショア構成要素の製造のための、請求項2022のいずれか一項に記載のアセンブリの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングが少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子を含むプレコート鋼基材、アセンブリを製造するための方法、コーティングされた金属基材を製造するための方法、及び最後にコーティングされた金属基材に関する。それは、建設業、造船業及びオフショア産業に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
エネルギー分野において建設及び設備に鋼部品を使用することが知られている。鋼部品の製造は、一般に、鋼部品を別の金属基材と溶接することに続く。このような溶接は、鋼基材が厚いため、生産におけるボトルネックとなり得る。深い溶接溶込みはなく、鋼基材を完全に溶接するためにいくつかの溶接ステップが必要である。
【0003】
鋼部品は、一般的なアーク溶接法であるサブマージアーク溶接(SAW)によって溶接されることがある。SAWは、連続的に供給される消耗性の固体又は管状(金属コア)電極を必要とする。溶融溶接部及びアークゾーンは、粒状溶融性フラックスのブランケット下に「沈められる」ことによって大気汚染から保護される。溶融すると、フラックスは導電性となり、電極とワークとの間に電流経路をもたらす。SAWは通常、自動又は機械化モードで動作するが、加圧又は重力フラックス供給送達を備えた半自動(手持ち式)SAWガンが利用可能である。
【0004】
特許出願US3393102は、二酸化ケイ素、二酸化マンガン及び特定のエミッタ酸化物を含むサブマージアーク溶接フラックスを開示している。エミッタ酸化物は、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム及びチタンの酸化物である。すべてのフラックス成分は微粉末に粉砕され、完全に混合され、次いで好ましいサイズの顆粒に一緒に結合されて、1190μmに相当する16メッシュを通過させ、149μmに相当する100メッシュの100メッシュスクリーン上に残す。
【0005】
それにもかかわらず、このフラックスはアークを保護し、消耗ワイヤと組み合わせて溶融池と反応して適切な化学組成及び機械的特性を生成するが、生産性の改善又はより高い溶込みは見られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3393102号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、鋼基材の溶接溶込み、ひいては溶接鋼基材の機械的特性を改善する必要がある。堆積速度及び生産性の増加を伴うSAW溶接によって互いに溶接された少なくとも2つの金属基材のアセンブリを得る必要もあり、当該アセンブリは鋼基材を含む。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は、
-任意選択的に、防食コーティングと、
-少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子を含むプレコーティングと、
でコーティングされた、プレコート鋼基材に関する。
【0009】
本発明によるプレコート鋼基材はまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴であって、
-プレコーティングは、NaTi、KTiO、KTi、MgTiO、SrTiO、BaTiO、CaTiO、FeTiO及びZnTiO又はそれらの混合物の中から選択される少なくとも1つのチタネートを含むこと、
-プレコーティングは、TiO、SiO、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al、MoO、CrO、CeO又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つのナノ粒子を含むこと、
-プレコーティングは有機溶媒をさらに含むこと、
-コーティングの厚さは10~140μmの間であること、
-ナノ粒子の割合は80重量%以下であること、
-チタネートの割合は45重量%以上であること、
-プレコート鋼基材はシールドフラックスを含むこと、
-防食コーティング層は、亜鉛、アルミニウム、銅、ケイ素、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びそれらの合金を含む群の中から選択される金属を含むこと、
-少なくとも1つのチタネートの直径は1~40μmの間であること、
である任意の特徴を有してよい。
【0010】
本発明はまた、本発明によるプレコート金属基材を製造するための方法に関し、この方法は以下の連続するステップ:
A.本発明による鋼基材を提供するステップ、
B.本発明によるプレコーティングを堆積するステップ、
C.任意選択的に、ステップB)で得られたコーティングされた金属基材を乾燥させるステップ、
を含む。
【0011】
本発明による方法はまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴であって、
-プレコーティングの堆積は、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング又はブラシコーティングによって実施されること、
-プレコーティングは1~200g/Lのナノ粒子を含むこと、
-プレコーティングは100~500g/Lのチタネートを含むこと、
である任意の特徴を有してよい。
【0012】
本発明はまた、アセンブリを製造するための方法に関し、この方法は以下の連続するステップ:
I.少なくとも2つの金属基材を提供するステップであって、少なくとも1つの金属基材は、本発明によるプレコート鋼基材である、ステップと、
II.少なくとも2つの金属基材をサブマージアーク溶接(SAW)溶接によって溶接するステップと、
を含む。
【0013】
本発明による方法はまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴であって、
-電流平均は100~1000Aの間であること、
-電圧は1~100Vの間であること、
である任意の特徴を有してよい。
【0014】
本発明はまた、本発明による方法から得ることができるサブマージアーク溶接(SAW)溶接によって少なくとも部分的に互いに溶接された少なくとも2つの金属基材のアセンブリに関し、当該アセンブリは、
-任意選択的に防食コーティングでコーティングされた少なくとも1つの鋼基材と、
-少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子を含む溶解及び/又は析出したプレコーティングを含む溶接ゾーンと、
を含む。
【0015】
本発明によるアセンブリはまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴であって、
-ナノ粒子は、TiO、SiO、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al、MoO、CrO、CeO又はそれらの混合物の中から選択されること、
-第2の金属基材は、鋼基材又はアルミニウム基材であること、
-第2の金属基材は、本発明によるプレコート鋼基材であること、
である任意の特徴を有してよい。
【0016】
最後に、本発明は、圧力容器又はオフショア構成要素の製造のための、本発明による方法から得ることができるアセンブリの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の用語が定義される。
【0018】
-ナノ粒子は、サイズが1~100ナノメートル(nm)の間の粒子である。
【0019】
-チタネートは、酸化チタンと少なくとも1つの他の酸化物とを組み合わせた組成の無機化合物を指す。それらはそれらの塩の形態であり得る。
【0020】
-「コーティングされた」とは、鋼基材が少なくとも局所的にプレコーティングで被覆されていることを意味する。被覆は、例えば、鋼基材が溶接される領域に限定することができる。「コーティングされた」には、「直接的に」(中間材料、要素又は空間がそれらの間に配置されていない)及び「間接的に」(中間材料、要素又は空間がそれらの間に配置されている)が包含的に含まれる。例えば、鋼基材をコーティングすることは、中間材料/要素がそれらの間にない基材に直接プレコーティングを適用すること、並びに1つ以上の中間材料/要素がそれらの間にある基材に間接的にプレコーティングを適用すること(防食コーティングなど)を含むことができる。
【0021】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、プレコーティングは、主に鋼基材の溶融池の物理的性質を改変し、より深い溶融溶込みを可能にすると考えられる。本発明では、化合物の性質だけでなく、100nm以下の粒子のサイズも、キーホール効果、アーク収縮、逆マランゴニ効果及びアーク安定性の改善により、溶込みを改善するように思われる。
【0022】
実際、ナノ粒子と混合されたチタネートは、逆マランゴニ流及び電気絶縁によるアークの収縮の複合効果により、キーホール効果を可能にし、より高い電流密度及び溶接溶込みの増加をもたらす。キーホール効果とは、溶融池の表面のくぼみである文字通りの穴を指し、エネルギービームをさらにより深く入り込ませることを可能にし、より深い溶込み及び堆積速度の増加をもたらす。エネルギーは接合部に非常に効率的に供給され、これにより溶接深さ対幅の比が最大化され、これにより部品のひずみが制限される。
【0023】
さらに、プレコーティングは、表面張力勾配による液体-ガス界面での物質移動であるマランゴニ流を変化させる。特に、プレコーティングの成分は、界面に沿った表面張力の勾配を変化させる。表面張力のこの変化は、溶接池の中心に向かう流体の流れの反転をもたらし、この場合、溶接溶込み、濡れ性及び材料堆積速度の改善をもたらし、生産性の向上につながる。いかなる理論にも束縛されるものではないが、ナノ粒子はマイクロ粒子よりも低温で溶解し、したがってより多くの酸素が溶融池に溶解し、逆マランゴニ流を活性化すると考えられる。
【0024】
さらに、ナノ粒子は、マイクロ粒子間のギャップを充填することによって、適用されたプレコーティングの均一性を改善することが観察された。これは、溶接アークの安定化に役立ち、したがって溶接溶込み及び品質を改善する。
【0025】
好ましくは、プレコーティングは、TiO、SiO、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al、MoO、CrO、CeO又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つのナノ粒子を含む。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、これらのナノ粒子は、溶融池の物理的性質をさらに改変し、より深い溶接溶込みを可能にすると考えられる。さらに、いかなる理論にも束縛されるものではないが、ナノ粒子の直径は、コーティングの均一な分布をさらに改善すると考えられる。
【0026】
好ましくは、ナノ粒子は、SiO及びTiOであり、より好ましくはSiO及びTiOの混合物である。いかなる理論にも束縛されるものではないが、SiOは、主に溶込み深さの増加並びにスラグの除去及び剥離に役立ち、TiOは、主に溶込み深さの増加及び鋼との合金化に役立ち、機械的特性を改善するTi基介在物を形成すると考えられる。
【0027】
好ましくは、ナノ粒子は、5~60nmの間に含まれるサイズを有する。
【0028】
好ましくは、ナノ粒子の乾燥重量における割合は80%以下、好ましくは2~40%の間である。場合によっては、ナノ粒子の割合は、高すぎる耐火効果を回避するために制限されなければならない場合がある。各種類のナノ粒子の耐火効果を知っている当業者は、場合毎に割合を適合させるであろう。
【0029】
ナノ粒子は、炭素鋼にとって有害な硫化物又はハロゲン化物の中から選択されない。
【0030】
好ましくは、チタネートは、1~40μmの間、より好ましくは1~20μmの間、有利には1~10μmの間の直径を有する。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、このチタネートの直径は、キーホール効果、アーク収縮及び逆マランゴニ効果をさらに改善すると考えられる。
【0031】
好ましくは、プレコーティングは、NaTi、NaTiO、KTiO、KTi、MgTiO、SrTiO、BaTiO及びCaTiO、FeTiO並びにZnTiO又はそれらの混合物の中から選択されるチタネートのうちの少なくとも1種類を含む。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、これらのチタネートは、逆マランゴニ流の効果に基づいて溶込み深さをさらに増加させると考えられる。
【0032】
好ましくは、少なくとも1つのチタネートの乾燥重量における割合は45%以上、例えば50又は70%である。
【0033】
本発明の一変形例によれば、プレコーティングが鋼基材上に適用され、乾燥されると、プレコーティングは少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子からなる。
【0034】
本発明の別の変形例によれば、コーティングは、チタネート及びナノ粒子を包埋し、鋼基材上のプレコーティングの接着性を改善する少なくとも1つのバインダーをさらに含む。好ましくは、バインダーは、特に溶接中に有機バインダーが生成する可能性のあるヒュームを回避するために、純粋に無機である。無機バインダーの例は、有機官能性シラン又はシロキサンのゾルゲルである。有機官能性シランの例は、特にアミン、ジアミン、アルキル、アミノ-アルキル、アリール、エポキシ、メタクリル、フルオロアルキル、アルコキシ、ビニル、メルカプト及びアリールの群の基で官能化されたシランである。アミノ-アルキルシランは、接着性を大幅に促進し、長い貯蔵寿命を有するため、特に好ましい。好ましくは、バインダーは、乾燥したプレコーティングの1~20重量%の量で添加される。
【0035】
好ましくは、コーティングの厚さは、10~140μmの間、より好ましくは30~100μmの間である。
【0036】
好ましくは、鋼基材は炭素鋼である。
【0037】
好ましくは、防食コーティングは、亜鉛、アルミニウム、銅、ケイ素、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びそれらの合金からなる群から選択される金属を含む。
【0038】
好ましい実施形態では、防食コーティングは、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意選択的に0.1~8.0%のMg及び任意選択的に0.1~30.0%のZnを含み、残部がAlであるアルミニウム系コーティングである。別の好ましい実施形態では、防食コーティングは、0.01~8.0%のAl、任意選択的に0.2~8.0%のMgを含み、残部がZnである亜鉛系コーティングである。
【0039】
防食コーティングは、好ましくは、鋼基材の少なくとも1つの側面に適用される。
【0040】
好ましくは、プレコート鋼基材は、シールドフラックスによって少なくとも局所的に被覆される。このフラックスは、溶接行程中の酸化から鋼基材を保護すると思われる。
【0041】
本発明はまた、プレコート金属基材を製造するための方法に関し、この方法は以下の連続するステップ:
A.本発明による鋼基材を提供するステップ、
B.本発明によるプレコーティングを堆積するステップ、
C.任意選択的に、ステップB)で得られたコーティングされた金属基材を乾燥させるステップ、
を含む。
【0042】
好ましくは、ステップA)において、鋼基材は炭素鋼である。
【0043】
好ましくは、ステップB)において、プレコーティングの堆積は、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング又はブラシコーティングによって実施される。
【0044】
好ましくは、ステップB)において、プレコーティングは局所的にのみ堆積される。特に、プレコーティングは、鋼基材が溶接される領域に適用される。それは、溶接される鋼基材の縁部に、又は溶接される基材の1つの側面の一部にあってもよい。より好ましくは、適用されるプレコーティングの幅は、アーク収縮がさらに改善されるように、行われるべき溶接と少なくとも同じ大きさである。
【0045】
有利には、プレコーティングは有機溶媒をさらに含む。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、有機溶媒は、十分に分散されたプレコーティングを可能にすると考えられる。好ましくは、有機溶媒は周囲温度で揮発性である。例えば、有機溶媒は、アセトン、メタノール、イソプロパノール、エタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどの揮発性有機溶媒、エチレングリコール及び水などの不揮発性有機溶媒の中から選択される。
【0046】
有利には、ステップB)において、プレコーティングは1~200g/Lのナノ粒子、より好ましくは5~80g.L-1の間のナノ粒子を含む。
【0047】
好ましくは、ステップB)において、プレコーティングは100~500g/Lのチタネート、より好ましくは175~250g.L-1の間のチタネートを含む。
【0048】
本発明の別の変形例によれば、ステップB)のプレコーティングは、チタネート及びナノ粒子を包埋し、鋼基材上のプレコーティングの接着性を改善するためのバインダー前駆体をさらに含む。好ましくは、バインダー前駆体は、少なくとも1つの有機官能性シランのゾルである。有機官能性シランの例は、特にアミン、ジアミン、アルキル、アミノ-アルキル、アリール、エポキシ、メタクリル、フルオロアルキル、アルコキシ、ビニル、メルカプト及びアリールの群の基で官能化されたシランである。好ましくは、バインダー前駆体は、プレコーティングの40~400g.L-1の量で添加される。
【0049】
乾燥ステップC)が実施される場合、乾燥は、空気又は不活性ガスを周囲温度又は高温で吹き付けることによって実施される。プレコーティングがバインダーを含む場合、乾燥ステップC)は、バインダーが硬化されるその間、硬化ステップでもあることが好ましい。硬化は、赤外線(IR)、近赤外線(NIR)、従来のオーブンによって実施することができる。
【0050】
好ましくは、乾燥ステップC)は、有機溶媒が周囲温度で揮発性である場合には実施されない。実際、コーティングの堆積後、有機溶媒が蒸発して、金属基材上に乾燥したプレコーティングがもたらされると考えられる。
【0051】
本発明はまた、アセンブリを製造するための方法に関し、この方法は以下の連続するステップ:
I.少なくとも2つの金属基材を提供するステップであって、少なくとも1つの金属基材は、本発明によるプレコート鋼基材である、ステップと、
II.少なくとも2つの金属基材をサブマージアーク溶接(SAW)溶接によって溶接するステップと、
を含む。
【0052】
好ましくは、ステップII)において、電流平均は1~1000Aの間である。
【0053】
好ましくは、ステップII)において、溶接機の電圧は1~100Vの間である。
【0054】
好ましくは、ステップII)において、消耗電極(いわゆるワイヤ)が存在する。例えば、消耗電極は、Fe、Si、C、Mn、Mo及び/又はNiからなる。
【0055】
好ましくは、ステップII)において、金属基材は、シールドフラックスによって少なくとも局所的に被覆される。
【0056】
本発明による方法では、任意選択的に防食コーティングでコーティングされた鋼基材の形態の少なくとも第1の金属基材と、第2の金属基材とのアセンブリを得ることが可能であり、第1及び第2の金属基材は、サブマージアーク溶接(SAW)溶接により少なくとも部分的に互いに溶接されており、溶接ゾーンは、少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子を含む溶解及び/又は析出したプレコーティングを含む。
【0057】
好ましくは、ナノ粒子は、TiO、SiO、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al、MoO、CrO、CeO又はそれらの混合物の中から選択される。
【0058】
「溶解及び/又は析出したフラックス」とは、逆マランゴニ流のためにプレコーティングの成分を溶融池の液体-ガス界面の中心に向かって引き込むことができ、さらに溶融金属内に引き込むことができることを意味する。いくつかの成分は溶融池に溶解し、溶接部の対応する要素の富化をもたらす。他の成分は析出し、溶接部に介在物を形成する複合酸化物の一部である。
【0059】
特に、鋼基材のAl量が50ppmを超える場合、溶接ゾーンは、添加されたナノ粒子の性質に応じて、特にAl-Ti酸化物若しくはSi-Al-Ti酸化物又は他の酸化物を含む介在物を含む。これらの混合要素の介在物は5μmより小さい。したがって、それらは溶接ゾーンの靭性を損なうことはない。介在物は、電子プローブマイクロ分析(EPMA)によって観察することができる。いかなる理論にも束縛されるものではないが、ナノ粒子は、限定されたサイズの介在物の形成を促進し、その結果、溶接ゾーンの靭性が損なわれないと考えられる。
【0060】
好ましくは、第2の金属基材は、鋼基材又はアルミニウム基材である。より好ましくは、第2の鋼基材は、本発明によるプレコート鋼基材である。
【0061】
最後に、本発明は、圧力容器、オフショア構成要素の製造のための、本発明によるアセンブリの使用に関する。
【実施例
【0062】
以下の実施例及び試験は、本質的に非限定的であり、例示のみを目的とするものとして考慮されなければならない。それらは、本発明の有利な特徴、広範な実験後に本発明者らによって選択されたパラメータの重要性を示し、本発明によって達成され得る特性をさらに確立する。
【0063】
試験品については、表1に開示されている重量パーセントの化学組成を有する鋼基材を使用した。
【0064】
【表1】
【0065】
鋼基材の厚さは20mmであった。
【0066】
[実施例1]
試験品1はプレコーティングでコーティングしなかった。
【0067】
試験品2については、MgTiO(直径:2μm)、SiO(直径:10nm)及びTiO(直径:50nm)を含むアセトン溶液を、アセトンを当該要素と混合することによって調製した。アセトン溶液において、MgTiOの濃度は175g.L-1であった。SiOの濃度は25g.L-1であった。TiOの濃度は50g.L-1であった。次に、試験品2を、噴霧することによってアセトン溶液でコーティングした。アセトンを蒸発させた。コーティング中のMgTiOの割合は70重量%であり、SiOの割合は10重量%であり、TiOの割合は20重量%であった。コーティングの厚さは40μmであった。
【0068】
次に、試験品1及び2を、凝集した塩基性軟鋼低合金の形態で、シールドフラックスでコーティングした。最後に、試験品1及び2を、上記組成を有する鋼基材とSAW溶接によって接合した。溶接パラメータを以下の表2示す。
【0069】
【表2】
【0070】
試験品1及び2の両方で使用した消耗電極の組成を以下の表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
SAW溶接後、鋼のミクロ組織を走査型電子顕微鏡法(SEM)によって分析した。試験品を規格ISO15614-7に従って180°まで曲げた。両方の試験品の硬度を、微小硬度計を使用して溶接領域の中心で決定した。溶接領域の組成を、エネルギー分散型X線分光法及び誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって分析した。溶接領域の残留応力をシミュレーションによって決定した。結果を以下の表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
結果は、試験品2が比較試験品1と比較してSAW溶接を改善することを示している。
【0075】
[実施例2]
鋼基材に対する有限要素法(FEM)シミュレーションによって、種々のプレコーティングを試験した。シミュレーションでは、プレコーティングは、MgTiO(直径:2μm)及び10~50nmの直径を有するナノ粒子を含む。コーティングの厚さは40μmであった。各プレコーティングでアーク溶接をシミュレートした。アーク溶接のシミュレーションの結果を以下の表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
結果は、本発明による試験品がアーク溶接を改善することを示す。
【0078】
[実施例3]
試験品12については、以下の成分を含む水溶液を調製した。363g.L-1のMgTiO(直径:2μm)、77.8g.L-1のSiO(直径範囲:12~23nm)、77.8g.L-1のTiO(直径範囲:36~55nm)及び238g.L-1の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(Evonik(R)製のDynasylan(R)AMEO)。溶液を鋼基材に適用し、1)IR及び2)NIRによって乾燥させた。乾燥したコーティングは厚さ40μmであり、62重量%のMgTiO、13重量%のSiO、13重量%のTiO及び3-アミノプロピルトリエトキシシランから得られた12重量%のバインダーを含有していた。
【0079】
試験品13については、以下の成分を含む水溶液を調製した。330g.L-1のMgTiO(直径:2μm)、70.8g.L-1のSiO(直径範囲:12~23nm)、70.8g.L-1のTiO(直径範囲:36~55nm)、216g.L-1の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(Evonik(R)製のDynasylan(R)AMEO)及び104.5g.L-1の有機官能性シランと官能化ナノスケールSiO粒子との組成物(Evonik製のDynasylan(R)Sivo110)。溶液を鋼基材に適用し、1)IR及び2)NIRによって乾燥させた。乾燥したコーティングは厚さ40μmであり、59.5重量%のMgTiO、13.46重量%のSiO、12.8重量%のTiO及び3-アミノプロピルトリエトキシシランと有機官能性シランとから得られた14.24重量%のバインダーを含有していた。
【0080】
すべての場合において、鋼基材に対するプレコーティングの接着性が大幅に改善された。