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特許7361794N,N-二置換されたベンゾチアゾリルスルフェンアミドを調製するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】N,N-二置換されたベンゾチアゾリルスルフェンアミドを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 277/80 20060101AFI20231006BHJP
【FI】
C07D277/80
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021562377
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2020061175
(87)【国際公開番号】W WO2020216780
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】19171088.8
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505422707
【氏名又は名称】ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー・グラフ
(72)【発明者】
【氏名】メラニー・ヴィーデマイヤー-ヤラト
(72)【発明者】
【氏名】イェルク・ハーゲマン
(72)【発明者】
【氏名】ネレ・デ・スメット
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00314663(EP,A1)
【文献】特開昭59-067277(JP,A)
【文献】特開昭61-115075(JP,A)
【文献】特開平08-253463(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102838564(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101318942(CN,A)
【文献】特開昭61-215383(JP,A)
【文献】特開2010-275230(JP,A)
【文献】米国特許第02419283(US,A)
【文献】特開昭56-012364(JP,A)
【文献】米国特許第03549650(US,A)
【文献】Carr, Edward L.,Thiazolesulfenamides,Journal of Organic Chemistry ,1949年,14,,921-34,DOI:10.1021/jo01158a001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N-ジベンジルベンゾチアゾリルスルフェンアミドを調製するための方法であって、
式(II)の2-メルカプトベンゾチアゾールの塩を、
【化1】
[式中、Zは、Na又はKである]
式(III)のアミン
【化2】
と反応させるが、
前記反応を、次亜塩素酸ナトリウムの存在下、30~50℃の温度で実施し、
(III)の化合物が、最初に、水及び/又はアルコールの存在下に仕込まれ、前記式(II)の化合物及び次亜塩素酸ナトリウムが計量仕込みされ、前記計量添加の間、硫酸を用いてpHが10.3~11に調節され、
前記式(II)の化合物及び前記次亜塩素酸ナトリウムを添加した後に、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHが11.3~12に調節されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
使用される前記式(II)の化合物が、次式のものであり、
【化3】
使用される前記式(III)の化合物が、次式のものである、
【化4】
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応が、少なくとも1種のC~C-アルコール及び/又は水の存在下に実施されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
使用される、前記式(II)の化合物の、前記式(III)の化合物に対するモル比が、1.4:1から0.8:1までであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N,N-二置換されたベンゾチアゾリルスルフェンアミドを調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N,N-二置換されたベンゾチアゾリルスルフェンアミドは主として、ゴム産業における遅効性加硫促進剤として、特にはタイヤ産業における接着剤混合物の中で使用されている。
【0003】
N,N-二置換されたベンゾチアゾリルスルフェンアミドを調製するための方法は、たとえば(特許文献1)からも、公知である。ワンポット合成においては、ジベンゾチアゾリルジスルフィド、ジベンジルアミン及びメタノールを最初に仕込み、加熱して60℃としてから、毛細管を介して塩素を導入する。25%の水酸化ナトリウム水溶液で処理してから、その反応生成物を濾過除去し、メタノール及び水を用いて洗浄する。
【0004】
塩素/塩素ガスは、極めて効果的な酸化剤であることは知られている。しかしながら、これらの毒性の強い化学物質を扱う際には、特別な安全対策を守らなければならない。製造、輸送及び貯蔵における、インシデント及びアクシデントによる、考え得るすべての危険性を考慮に入れておかなければならない。大気への塩素及び塩化水素ガスの漏出は、費用がいくらかかっても防止しなければならず、そのため、上述の製造プロセスに代わるものが検討されてきた。
【0005】
それに加えて、(特許文献2)には、酸性媒体の中で、2-メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩を、ジイソプロピルアミン及び次亜塩素酸ナトリウムと反応させることによる、N,N-二置換されたベンゾチアゾリルスルフェンアミドが反応される方法が開示されている。しかしながら、この方法は、その最終反応生成物が低い収率及び純度でしか得られず、遊離アミンの比率が高いという欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許出願公開第A0 721 946号明細書
【文献】欧州特許第0 195 738号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、今や、置換された2-メルカプトベンゾチアゾールから出発し、安全面を配慮した、好ましくはワンポット反応での、N,N-二置換されたベンゾチアゾールスルフェンアミド、特にはN,N-ジベンジルベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DBBS)又はN,N-ジイソプロピルベンゾチアゾリルスルフェンアミドを調製するための、低コストで、管理がより容易な方法を提供することである。具体的には、この化学物質の扱いに関連する危険性を最小限とするために、塩素ガス以外の酸化剤を使用するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことには、酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウムの存在下に、置換された2-メルカプトベンゾチアゾールをアミンと反応させることによって、N,N-二置換されたベンゾチアゾールスルフェンアミドを調製することが可能であることが、今や見出された。
【0009】
本発明は、式(I)のN,N-二置換されたベンゾチアゾリルスルフェンアミドを調製するための方法に関する:
【化1】
[式中、R、Rは、それぞれ独立して、-CH(R)(R)であり、
ここで、R、Rは、それぞれ独立して、H、C~C-アルキル、好ましくはメチル、又は
【化2】
(式中、Rは、C~C-アルキルであり、
yは、0~6、好ましくは0~2、特に好ましくは0であり、そして
nは、0~5、好ましくは0である)]
それには、式(II)の2-メルカプトベンゾチアゾールの塩を、
【化3】
[式中、Zは、Na又はK、好ましくはNaである]
式(III)のアミン
NH(R)(R) (III)
[式中、R及びRは、先に定義されたものである]
と反応させ、その後で、その反応を、10~12のpHで、次亜塩素酸ナトリウムの存在下に、実施させる。
【0010】
式(I)の化合物は、好ましくはN,N-ジベンジルベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DBBS)、又はN,N-ジイソプロピルベンゾチアゾリルスルフェンアミドである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における方法の一つの好ましい実施態様においては、その基R及びRが、一つの分子の中で同じである。
【0012】
式(II)の化合物としては、2-メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩(NaMBT)が好ましい。
【0013】
式(III)の化合物が、次式のものであれば好ましい。
【化4】
【0014】
本発明における方法のさらなる好ましい実施態様においては、式(II)の化合物を、
【化5】
式(III)の化合物としての
【化6】
と組合せて使用する。
【0015】
使用される次亜塩素酸ナトリウムは、好ましくは、少なくとも14%の次亜塩素酸ナトリウム溶液である。特に好ましいのは、14.1~18%の次亜塩素酸ナトリウム溶液である。
【0016】
本発明の好ましい実施態様においては、その方法が、30~50℃、特に好ましくは40~50℃の温度で実施される。
【0017】
本発明の一つの好ましい実施態様においては、その方法が、C~C-アルコール及び/又は水の存在下で、実施される。
【0018】
本発明の文脈においては、好ましいC~C-アルコールは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、又はそれらのアルコールの混合物である。本発明における方法でイソプロパノールを使用するのが、特に好ましい。
【0019】
本発明における方法において、好ましくは最初に式(III)の化合物を、場合によって水及び/又はアルコールの中に仕込み、そして式(II)の化合物及び次亜塩素酸ナトリウムの溶液を、計量仕込みする。
【0020】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、その方法を、(46℃で測定して)10~12のpHで実施する。特に好ましいのは、10.3~11の範囲のpHである。好ましくは化合物(II)及び次亜塩素酸ナトリウムの添加の際に、pHを調節する目的で、酸を計量仕込みするのが好ましい。酸としては無機の強酸が好ましく、硫酸が特に好ましい。
【0021】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、式(II)の化合物を添加した後で、水酸化ナトリウム水溶液を用いてそのpHを調節する。
【0022】
本発明における方法を、アルコールの存在下で実施するのなら、50~1000部の式(II)のアミン、特に好ましくはN,N,-ジフェニルアミンあたり、300~1300部のアルコール(100%)を使用するのが好ましい。それに対して、50~1000部の水をさらに添加するのが、特に好ましい。
【0023】
本発明における方法においては、使用される式(II)の化合物の、式(III)の化合物に対するモル比が、1.4:1から0.8:1までの間であるのが、好ましい。
【0024】
本発明における方法は、バッチ方式のモードで実施するのが好ましいが、それは、ワンポット反応としても知られている。
【0025】
本発明における方法では、その反応時間は、好ましくは15分~5時間、特に好ましくは2~5時間の範囲である。
【0026】
次亜塩素酸ナトリウムは通常、撹拌しながら、計量ポンプを介してそれを導入することにより、添加される。
【0027】
式(I)の化合物は、濾過の手段により濾別するのが好ましいが、通常は、吸引漏斗が適している。
【0028】
本発明のさらなる実施態様においては、その反応生成物を、好ましくはC~C-アルコール及び/又は水を使用して、洗浄する。
【0029】
本発明における方法は、以下のようにして実施するのが好ましい:
最初に、式(III)の化合物、好ましくはジベンジルアミン、及びアルコール、好ましくはイソプロパノールを、水の中に仕込む。その反応混合物を撹拌してから、好ましくは40~50℃の温度で、式(II)の化合物、好ましくはメルカプトベンゾチアゾールナトリウム(NaMBT)と、次亜塩素酸ナトリウムとの混合物を添加する。計量添加の際のpHは、10.3~11の範囲であるのが好ましいが、それは、理想的には、硫酸を用いて調節する。
【0030】
次いで、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液を使用してpHを11.3~12の範囲に設定してから、撹拌し、そして好ましくは水を添加する。その反応生成物を、濾別するのが好ましい。それに続く精製は、最初にアルコール、好ましくはイソプロパノールを用いて35~45℃で、次いで好ましくは水を用いて55~65℃で洗浄することにより、実施するのが好ましい。
【0031】
以下の実験実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明がそれらに限定されることはない。
【実施例
【0032】
作業実施例:
実施例1
使用した装置は、2Lのフラットフランジビーカーであり、それには以下のものが取り付けてあった:Migスターラー(3枚羽根);ジャケット加熱/冷却;pH及びレドックス測定装置;温度計;次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)及び2-メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩(NaMBT)の水溶液のための計量ポンプ;並びに、硫酸又は水酸化ナトリウム水溶液をpH-制御用に計量添加するための滴下漏斗。
【0033】
最初に、203.4gのジベンジルアミン(97%)及び531gのイソプロパノール(水分、1%未満)を、195gの水と共に、このフラットフランジビーカーに仕込んだ。次いでその反応混合物を撹拌し、次いで以下の混合物を、46℃の内温で、3時間かけて、計量仕込みした:
446.1gの50.50%NaMBT水溶液(密度:1.245)=119mL/h(358mL)
834.2gの14.21%NaOCl水溶液(密度:1.22)=228mL/h(683.8mL)。
【0034】
次いで、5gのNaOClを、フラットフランジビーカーの中に最初に仕込んだ化学物質に対して、1~5分かけて添加した。
【0035】
その計量添加の間、その反応混合物の中のpHを10.5に維持したが、それは、硫酸の手段によって実施した。
【0036】
次いで、1.6gの48%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを11.5に調節し、245mLの水を添加し、その混合物を15分間撹拌した。その懸濁液を、吸引下、40℃で、直径18.5cmのブラック-バンドフィルターを通して濾別した。
【0037】
その反応生成物を濾別し、625gの水性イソプロパノール(35%)を用い40℃で、次いで1165gの水を用いて60℃で洗浄した。
【0038】
その濾過ケークを、乾燥キャビネット中約50℃で、恒量になるまで乾燥させた。
【0039】
それにより、283.6gのN,N-ジベンジルベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DBBS)が得られた。HPLC分析によれば、その活性成分含量(滴定)は、98%を越えており、遊離アミンの測定値は0.7%未満であった。さらには、その融点は、90~100℃、好ましくは92.5~93.2℃の範囲であった。
【0040】
比較例1a、1b、及び1c
その方法は、実施例1と同様の条件で、実施したが、ただし、pHを、それぞれ、8、9及び12とした。
【0041】
次の結果が得られた:
【0042】
【表1】
【0043】
本発明における方法により、元素状の塩素を使用する必要もなく、式(I)のN,N-置換されたベンゾチアゾリルスルフェンアミドを調製することが可能となり、そして次亜塩素酸ナトリウムを使用し、8~9のpHで、従来技術(欧州特許第0 195 738号明細書)で公知の方法に比較して、顕著に改良されて結果が得られるということが見出された。