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特許7361802導電用部材、導電用部材の製造方法、電力変換装置、モーター、二次電池モジュール及び二次電池パック
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  • 特許-導電用部材、導電用部材の製造方法、電力変換装置、モーター、二次電池モジュール及び二次電池パック 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】導電用部材、導電用部材の製造方法、電力変換装置、モーター、二次電池モジュール及び二次電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20231006BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20231006BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20231006BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231006BHJP
【FI】
H01B7/00 302
H01B3/30 C
H01B13/00 515
H02M7/48 Z
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021574720
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003378
(87)【国際公開番号】W WO2021153778
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2020015523
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020015522
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 知記
(72)【発明者】
【氏名】冨永 高広
(72)【発明者】
【氏名】森元 海
(72)【発明者】
【氏名】中島 慎治
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
(72)【発明者】
【氏名】新堀 信義
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 絢也
(72)【発明者】
【氏名】張 旌君
(72)【発明者】
【氏名】天野 晶規
(72)【発明者】
【氏名】土井 悠
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082983(WO,A1)
【文献】特開2018-195490(JP,A)
【文献】特開2019-153501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 3/30
H01B 13/00
H02M 7/48
H01M 50/50
H02K 3/30
H02K 3/38
H02K 3/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部と接合している樹脂部材と、を備え、前記金属部材は、クリプトン吸着法により測定される真表面積(m)を幾何学的表面積(m)で除して得られる粗さ指数が4.0以上である、導電用部材。
【請求項2】
前記金属部材の粗さ指数が10.0以上である、請求項1に記載の導電用部材。
【請求項3】
前記金属部材の粗さ指数が10.0未満であり、前記樹脂部材は、線膨張率が50ppm/K以下である樹脂を含む、請求項1又は請求項2に記載の導電用部材。
【請求項4】
前記樹脂部材は芳香族基と脂肪族基とを有するポリアミド樹脂を含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項5】
前記樹脂部材は酸変性ポリオレフィンを更に含む、請求項4に記載の導電用部材。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂は芳香族基としてp-フェニレン基を含み、脂肪族基として炭素原子数4~20の脂肪族基を含む、請求項4又は請求項5に記載の導電用部材。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂は2種以上の芳香族基を含むか、または2種以上の脂肪族基を含む、請求項4~請求項6のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂は芳香族基としてm-フェニレン基を含む、請求項4~請求項7のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項9】
前記ポリアミド樹脂は脂肪族基として炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基を含む、請求項4~請求項8のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項10】
前記ポリアミド樹脂は、芳香族基の合計100モル%のうち、p-フェニレン基が40モル%~100モル%であり、m-フェニレン基が0モル%~60%である、請求項4~請求項9のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項11】
前記ポリアミド樹脂は、脂肪族基の合計100モル%のうち、炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基が0モル%~60モル%である、請求項4~請求項10のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項12】
前記金属部材は銅、アルミニウム、銅合金及びアルミニウム合金から選択される少なくとも1種の金属を含む、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項13】
前記金属部材は、少なくとも前記樹脂部材と接合していない部分にメッキ層を有する、請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項14】
前記金属部材は、前記樹脂部材と接合している部分にメッキ層を有しない、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項15】
前記樹脂部材は、前記金属部材の表面の少なくとも一部と接合している第1の樹脂部材と、前記金属部材と前記第1の樹脂部材との境界を被覆する第2の樹脂部材と、を有する、請求項1~請求項14のいずれか1項に記載の導電用部材。
【請求項16】
金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する工程と、
前記金属部材の粗化処理された表面の少なくとも一部に樹脂部材を形成する工程と、をこの順に有する請求項1~請求項15のいずれか1項に記載の導電用部材の製造方法。
【請求項17】
金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する工程と、
前記金属部材の粗化処理された表面の少なくとも一部に第1の樹脂部材を形成する工程と、
前記金属部材と前記第1の樹脂部材との境界を被覆する第2の樹脂部材を形成する工程と、をこの順に有する請求項1~請求項15のいずれか1項に記載の導電用部材の製造方法。
【請求項18】
前記金属部材の前記樹脂部材と接合していない部分の少なくとも一部にメッキ層を付与する工程をさらに有する、請求項16又は請求項17に記載の導電用部材の製造方法。
【請求項19】
請求項1~請求項15のいずれか1項に記載の導電用部材を備える電力変換装置。
【請求項20】
請求項1~請求項15のいずれか1項に記載の導電用部材を備えるモーター。
【請求項21】
請求項1~請求項15のいずれか1項に記載の導電用部材を備える二次電池モジュール。
【請求項22】
請求項1~請求項15のいずれか1項に記載の導電用部材を備える二次電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電用部材、導電用部材の製造方法、電力変換装置、モーター、二次電池モジュール及び二次電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置、モーター、二次電池モジュール、二次電池パックなどに大容量の電流を供給する手段として、バスバーと称される導電用部材が広く使用されている。
例えば、特許文献1には、樹脂材料に金属製の接続ピンを挿入して成形されたバスバーを備えるバスバーユニットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-209101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のバスバーは、樹脂材料に接続ピンを挿入して射出成形により作製されているが、樹脂材料と接続ピンとの接合の状態について詳細に検討されてはいない。樹脂材料と接続ピンとの接合が充分でないとオイル漏れや短絡が発生してバスバーの信頼性が損なわれるおそれがある。また、使用形態によっては充分な耐トラッキング性が要求される場合がある。
【0005】
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、気密性に優れる導電用部材、導電用部材の製造方法、電力変換装置、モーター、二次電池モジュール及び二次電池パックを提供することを課題とする。
本開示の一実施形態は、気密性及び耐トラッキング性に優れる導電用部材、導電用部材の製造方法、電力変換装置、モーター、二次電池モジュール及び二次電池パックを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部と接合している樹脂部材と、を備え、前記金属部材は、クリプトン吸着法により測定される真表面積(m)を幾何学的表面積(m)で除して得られる粗さ指数が4.0以上である、導電用部材。
<2>前記金属部材の粗さ指数が10.0以上である、<1>に記載の導電用部材。
<3>前記金属部材の粗さ指数が10.0未満であり、前記樹脂部材は、線膨張率が50ppm/K以下である樹脂を含む、<1>又は<2>に記載の導電用部材。
<4>前記樹脂部材は芳香族基と脂肪族基とを有するポリアミド樹脂を含む、<1>~<3>に記載の導電用部材。
<5>前記樹脂部材は酸変性ポリオレフィンを更に含む、<4>に記載の導電用部材。
<6>前記ポリアミド樹脂は芳香族基としてp-フェニレン基を含み、脂肪族基として炭素原子数4~20の脂肪族基を含む、<4>又は<5>に記載の導電用部材。
<7>前記ポリアミド樹脂は2種以上の芳香族基を含むか、または2種以上の脂肪族基を含む、<4>~<6>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<8>前記ポリアミド樹脂は芳香族基としてm-フェニレン基を含む、<4>~<7>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<9>前記ポリアミド樹脂は脂肪族基として炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基を含む、<4>~<8>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<10>前記ポリアミド樹脂は、芳香族基の合計100モル%のうち、p-フェニレン基が40モル%~100モル%であり、m-フェニレン基が0モル%~60%である、<4>~<9>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<11>前記ポリアミド樹脂は、脂肪族基の合計100モル%のうち、炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基が0モル%~60モル%である、<4>~<10>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<12>前記金属部材は銅、アルミニウム、銅合金及びアルミニウム合金から選択される少なくとも1種の金属を含む、<1>~<11>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<13>前記金属部材は、少なくとも前記樹脂部材と接合していない部分にメッキ層を有する、<1>~<12>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<14>前記金属部材は、前記樹脂部材と接合している部分にメッキ層を有しない、<1>~<13>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<15>前記樹脂部材は、前記金属部材の表面の少なくとも一部と接合している第1の樹脂部材と、前記金属部材と前記第1の樹脂部材との境界を被覆する第2の樹脂部材と、を有する、<1>~<14>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<16>金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する工程と、
前記金属部材の粗化処理された表面の少なくとも一部に樹脂部材を形成する工程と、をこの順に有する導電用部材の製造方法。
<17>金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する工程と、
前記金属部材の粗化処理された表面の少なくとも一部に第1の樹脂部材を形成する工程と、
前記金属部材と前記第1の樹脂部材との境界を被覆する第2の樹脂部材を形成する工程と、をこの順に有する導電用部材の製造方法。
<18>前記金属部材の前記樹脂部材と接合していない部分の少なくとも一部にメッキ層を付与する工程をさらに有する、<16>又は<17>に記載の導電用部材の製造方法。
<19><1>~<15>のいずれか1項に記載の導電用部材を備える電力変換装置。
<20><1>~<15>のいずれか1項に記載の導電用部材を備えるモーター。
<21><1>~<15>のいずれか1項に記載の導電用部材を備える二次電池モジュール。
<22><1>~<15>のいずれか1項に記載の導電用部材を備える二次電池パック。
<23>金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部と接合している樹脂部材と、を備え、前記樹脂部材は芳香族基と脂肪族基とを有するポリアミド樹脂を含む、導電用部材。
<24>前記ポリアミド樹脂は芳香族基としてp-フェニレン基を含み、脂肪族基として炭素原子数4~20の脂肪族基を含む、<23>に記載の導電用部材。
<25>前記ポリアミド樹脂は2種以上の芳香族基を含むか、または2種以上の脂肪族基を含む、<23>又は<24>に記載の導電用部材。
<26>前記ポリアミド樹脂は芳香族基としてm-フェニレン基を含む、<23>~<25>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<27>前記ポリアミド樹脂は脂肪族基として炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基を含む、<23>~<26>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<28>前記ポリアミド樹脂は、芳香族基の合計100モル%のうち、p-フェニレン基が40モル%~100モル%であり、m-フェニレン基が0モル%~60%である、<23>~<27>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<29>前記ポリアミド樹脂は、脂肪族基の合計100モル%のうち、炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基が0モル%~60モル%である、<23>~<28>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<30>IEC60112に準拠して測定される耐トラッキング性が200V以上である、<23>~<29>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<31>ISO19095に準拠して測定されるせん断接合強度が20MPa以上である、<23>~<30>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<32>前記金属部材は、少なくとも前記樹脂部材と接合していない部分にメッキ層を有する、<23>~<31>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<33>前記金属部材は、前記樹脂部材と接合している部分にメッキ層を有しない、<23>~<31>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<34>前記樹脂部材は、前記金属部材の表面の少なくとも一部と接合している第1の樹脂部材と、前記金属部材と前記第1の樹脂部材との境界を被覆する第2の樹脂部材と、を有する、<23>~<33>のいずれか1項に記載の導電用部材。
<35><23>~<34>のいずれか1項に記載の導電用部材の製造方法であって、金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する工程と、前記金属部材の粗化処理された表面の少なくとも一部に樹脂部材を形成する工程と、をこの順に有する導電用部材の製造方法。
<36><35>に記載の導電用部材の製造方法であって、金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する工程と、前記金属部材の粗化処理された表面の少なくとも一部に第1の樹脂部材を形成する工程と、前記金属部材と前記第1の樹脂部材との境界を被覆する第2の樹脂部材を形成する工程と、をこの順に有する導電用部材の製造方法。
<37>前記金属部材の前記樹脂部材と接合していない部分の少なくとも一部にメッキ層を付与する工程をさらに有する、<35>又は<36>に記載の導電用部材の製造方法。
<38><23>~<34>のいずれか1項に記載の導電用部材を備える電力変換装置。
<39><23>~<34>のいずれか1項に記載の導電用部材を備えるモーター。
<40><23>~<34>のいずれか1項に記載の導電用部材を備える二次電池モジュール。
<41><23>~<34>のいずれか1項に記載の導電用部材を備える二次電池パック。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、気密性に優れる導電用部材、導電用部材の製造方法、電力変換装置、モーター、二次電池モジュール及び二次電池パックが提供される。
本開示の一実施形態によれば、気密性及び耐トラッキング性に優れる導電用部材、導電用部材の製造方法、電力変換装置、モーター、二次電池モジュール及び二次電池パックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】導電用部材の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2図1に示す導電用部材の一部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、材料中の各成分の量は、材料中の各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、材料中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0010】
<導電用部材(第1実施形態)>
本開示の第1実施形態に係る導電用部材は、金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部と接合している樹脂部材と、を備え、前記金属部材は、クリプトン吸着法により測定される真表面積(m)を幾何学的表面積(m)で除して得られる粗さ指数が4.0以上である、導電用部材である。
【0011】
上記導電用部材は、粗さ指数が4.0以上である。すなわち、金属部材の表面に微細な凹凸構造が形成されている。そして、樹脂部材が金属部材の凹凸構造に入り込むことでアンカー効果が発現し、強固な接合が得られる。その結果、金属部材と樹脂部材との界面の気密性が高く、導電用部材としての信頼性に優れている。
【0012】
金属部材と樹脂部材との接合強度を高める観点からは、粗さ指数は10.0以上であることが好ましく、25.0以上であることがより好ましく、50.0以上であることが更に好ましい。
粗さ指数の上限値は特に制限されないが、樹脂部材を金属部材の凹凸構造に入り込みやすくする観点からは、150.0以下であってもよく、125.0以下であってもよく、100.0以下であってもよい。
【0013】
本開示において金属部材の幾何学的表面積は、測定対象の寸法から求められる値である。例えば、測定対象が長さX、幅Y、高さZの直方体である場合の幾何学的表面積Sは、S=2XY+2YZ+2ZXとして求められる。
【0014】
本開示において金属部材の真表面積は、クリプトン吸着法により算出される値である。真表面積の測定は、実施例に記載する方法により実施する。
【0015】
金属部材は、幾何学的表面積が14.33cmの試料を用いてクリプトン吸着法により測定される比表面積(m/g)に試料の密度(g/m)を乗じて得られる値が30,000m-1以上であってもよい。
【0016】
試料の比表面積(m/g)に密度(g/m)を乗じて得られる値が30,000m-1以上であると、金属部材の表面に微細な凹凸構造が充分に形成され、金属部材と樹脂部材との強固な接合が得られる。その結果、金属部材と樹脂部材との界面の気密性が高く、導電用部材としての信頼性に優れている。
【0017】
金属部材と樹脂部材との接合強度を高める観点からは、試料の比表面積(m/g)に密度(g/m)を乗じて得られる値は50,000m-1以上であることが好ましく、100,000m-1以上であることがより好ましい。
粗さ指数Aの上限値は特に制限されないが、樹脂部材を金属部材の凹凸構造に入り込みやすくする観点からは、2,000,000m-1以下としてもよい。
【0018】
本開示において金属部材の比表面積(m/g)は、クリプトン吸着法により算出される値である。比表面積の測定は、実施例に記載する方法により実施する。
【0019】
(金属部材)
導電用部材に含まれる金属部材は、導電性を有するものであれば特に制限されず、一般に使用されるものから選択できる。導電性及び放熱性の観点からは、銅、アルミニウム、銅合金及びアルミニウム合金から選択される少なくとも1種の金属を含むものが好ましい。金属部材に含まれる金属は1種のみでも2種以上であってもよい。また、表面の少なくとも一部にメッキ層を有していてもよい。
【0020】
金属部材は、表面の少なくとも一部が樹脂部材と接合している。本開示において「接合」とは、樹脂部が接着剤、ねじ等を用いずに金属部の表面に接合一体化されることにより取り付けられている状態を意味する。
【0021】
金属部材の表面の粗さ指数を4.0以上にする方法は特に制限されず、公知の粗化方法により行うことができる。
たとえば、特許第4020957号に開示されているようなレーザーを用いる方法;NaOH等の無機塩基、またはHCl、HNO等の無機酸の水溶液に金属部材の表面を浸漬する方法;特許第4541153号に開示されているような、陽極酸化により金属部材の表面を処理する方法;国際公開第2015-8847号に開示されているような、酸系エッチング剤(好ましくは、無機酸、第二鉄イオンまたは第二銅イオン)および必要に応じてマンガンイオン、塩化アルミニウム六水和物、塩化ナトリウム等を含む酸系エッチング剤水溶液によってエッチングする置換晶析法;国際公開第2009/31632号に開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、および水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に金属部材の表面を浸漬する方法(以下、NMT法と呼ぶ場合がある);特開2008-162115号公報に開示されているような温水処理法;ブラスト処理等の粗化処理が挙げられる。粗化処理の方法は、金属部材の材質、所望の比表面積の値等に応じて使い分けることが可能である。
【0022】
上記方法の中でも、金属部材の表面の粗さ指数を4.0以上にする観点からは、酸系エッチング剤による処理が好ましい。
酸系エッチング剤による処理としては、例えば、下記工程(1)~(4)をこの順に実施する方法が挙げられる。
【0023】
(1)前処理工程
金属部材の表面に存在する酸化膜や水酸化物等からなる被膜を除去するための前処理を行う。通常、機械研磨や化学研磨処理が行われる。接合側表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行ってもよい。
【0024】
(2)亜鉛イオン含有アルカリ水溶液による処理工程
水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)とを質量比(MOH/Zn2+)1~100の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中に、前処理後の金属部材を浸漬し、表面に亜鉛含有被膜を形成する。なお、前記MOHのMはアルカリ金属またはアルカリ土類金属である。
【0025】
(3)酸系エッチング剤による処理工程
工程(2)の後に、金属部材を、第二鉄イオンと第二銅イオンの少なくとも一方と、酸を含む酸系エッチング剤により処理して、金属部材の表面上の亜鉛含有被膜を溶離させると共に、ミクロンオーダーの微細凹凸形状を形成させる。
【0026】
(4)後処理工程
上記工程(3)の後に、金属部材を洗浄する。通常は、水洗および乾燥操作からなる。スマット除去のために超音波洗浄操作を含めてもよい。
【0027】
金属部材の粗さ指数を増大させる観点からは、粗化処理を2回以上行ってもよい。例えば、上記工程(1)~(4)を実施して金属部材の表面にミクロンオーダーの凹凸構造(ベース粗面)を形成し、その後さらにナノオーダーの凹凸構造(ファイン粗面)を形成してもよい。
【0028】
金属部材の表面にベース粗面を形成した後にファイン粗面を形成する方法としては、例えば、ベース粗面が形成された金属部材を25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下、好ましくは0超え0.5以下の金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触させる方法が挙げられる。
上記酸化性酸性水溶液は、上記Eが-0.2以下の金属カチオンを含まないことが好ましい。
25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンとしては、Pb2+、Sn2+、Ag、Hg2+、Cu2+等が挙げられる。これらの中では、金属の希少性の視点、対応金属塩の安全性・毒性の視点からは、Cu2+が好ましい。
Cu2+を発生させる化合物としては、水酸化銅、酸化第二銅、塩化第二銅、臭化第二銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機化合物が挙げられ、安全性、毒性の視点、樹枝状層の付与効率の視点からは、酸化銅が好ましい。
【0029】
酸化性酸性水溶液としては、硝酸または硝酸に対し塩酸、弗酸、硫酸のいずれかを混合した酸を例示することができる。さらに、過酢酸、過ギ酸に代表される過カルボン酸水溶液を用いてもよい。酸化性酸性水溶液として硝酸を用い、金属カチオン発生化合物として酸化第二銅を用いる場合、水溶液を構成する硝酸濃度は、例えば10質量%~40質量%、好ましくは15質量%~38質量%、より好ましくは20質量%~35質量%である。また、水溶液を構成する銅イオン濃度は、例えば1質量%~15質量%、好ましくは2質量%~12質量%、より好ましくは2質量%~8質量%である。
【0030】
ベース粗面が形成された金属部材を酸化性酸性水溶液と接触させる際の温度は特に制限されないが、発熱反応を制御しつつ経済的なスピードで粗化を完結するために、例えば常温~60℃、好ましくは30℃~50℃の処理温度が採用される。この際の処理時間は、例えば1分~15分、好ましくは2分~10分の範囲にある。
【0031】
金属部材の表面に粗化処理により形成される凹凸構造の状態は、所定の粗さ指数を満たすのであれば特に制限されない。
凹凸構造における凹部の平均孔径は、たとえば5nm~250μmであってよく、好ましくは10nm~150μmであり、より好ましくは15nm~100μmである。
また、凹凸構造における凹部の平均孔深さは、たとえば5nm~250μmであってよく、好ましくは10nm~150μmであり、より好ましくは15nm~100μmである。
凹凸構造における凹部の平均孔径または平均孔深さのいずれかまたは両方が上記数値範囲内であると、より強固な接合が得られる傾向にある。
【0032】
凹凸構造における凹部の平均孔径および平均孔深さは、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡を用いることによって求めることができる。具体的には、金属部材の表面および表面の断面を撮影する。得られた写真から、任意の凹部を50個選択し、それらの凹部の孔径および孔深さから、凹部の平均孔径および平均孔深さをそれぞれ算術平均値として算出することができる。
【0033】
金属部材は、粗化処理後の比表面積をX(m/g)、粗化処理前の比表面積をX’(m/g)としたときに、X/X’で表される比表面積比が4.0以上であることが好ましく、10.0以上であることがより好ましく、20.0以上であることがさらに好ましい。
【0034】
金属部材の寸法は特に制限されず、導電用部材の用途に応じて設定できる。例えば、金属部材の断面積(断面積が一定でない場合は、断面積の最小値)が1mm~1,000mmの範囲であってもよい。
金属部材の断面積の形状は特に制限されず、四角形、円形等であってよい。金属部材は屈曲していても屈曲していなくてもよい。
【0035】
金属部材は、メッキ層を有していてもよい。メッキ層の効果や役割は様々であり、金属部材への導電性の付与、金属部材の溶接、防食性の付与等が挙げられる。例えば、導電性を付与するためのメッキ層は、金属部材の表面に絶縁性の皮膜が形成されて接触抵抗が生じるのを抑制するなどの効果がある。メッキ層の材質は特に制限されず、スズ(Sn)、亜鉛(Zi)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等の公知の材料を使用することができる。メッキ層の厚みは特に制限されない。例えば、10nm~2,000μmの範囲であってもよい。
【0036】
金属部材がメッキ層を有する場合、金属部材の表面の全体にメッキ層を有していても、表面の一部にメッキ層を有していてもよい。
接触抵抗を抑制する観点からは、金属部材が少なくとも樹脂部材と接していない部分にメッキ層を有していることが好ましい。
樹脂部材との接合強度を確保する観点からは、金属部材が樹脂部材と接合している部分にメッキ層を有しないことが好ましい。
【0037】
(樹脂部材)
樹脂部材に含まれる樹脂の種類は特に制限されず、導電用部材の用途等に応じて選択できる。たとえば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン系樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリケトン系樹脂等の熱可塑性樹脂;
フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂;
オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー(TPE);及びゴム等の熱硬化性エラストマーが挙げられる。
樹脂部材に含まれる樹脂は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
金属部材に対する接合強度の観点からは、樹脂部材に含まれる樹脂としては芳香族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂及びポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリブチレンスルフィド樹脂、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
接合強度と耐トラッキング性とを両立させる観点からは、樹脂部材に含まれる樹脂としては半芳香族ポリアミド樹脂が好ましい。
【0039】
耐トラッキング性とは、絶縁材料のトラッキングに対する抵抗の大きさを意味し、IEC60112に準拠する耐トラッキング試験により評価される。
トラッキングとは絶縁物の表面での微小放電の繰り返しにより炭化導電路が形成されて絶縁破壊に至る現象をいい、火災や感電の原因となるおそれがある。
【0040】
温度変化に対する耐性の観点からは、樹脂部材は線膨張率が50ppm/K以下である樹脂を含むことが好ましい。
特に、金属部材の粗さ指数が比較的小さい(例えば、粗さ指数が10.0未満である場合)に樹脂部材に含まれる樹脂の線膨張率が50ppm/K以下であると、温度変化に対する耐性が良好に維持される。
本開示において樹脂の線膨張率は、実施例に記載した方法で測定する。
【0041】
ポリアミド系樹脂としては、全脂肪族ポリアミド樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂が挙げられる。成形性と金属部材に対する接合強度の観点からは、半芳香族ポリアミド樹脂が好ましい。
本開示において全芳香族ポリアミド樹脂は、アミド結合に連結した構成単位が全て芳香族骨格であるポリアミド樹脂として定義され、全脂肪族ポリアミド樹脂は、アミド結合に連結した構成単位が全て飽和炭化水素骨格であるポリアミド樹脂として定義され、半芳香族ポリアミド樹脂とは、全脂肪族ポリアミド樹脂と全芳香族ポリアミド樹脂を除く全てのポリアミド樹脂(すなわち、芳香族基と脂肪族基の両方を有する)として定義される。
【0042】
ポリアミド系樹脂は、環状ラクタムの開環重合又はω-アミノカルボン酸の重縮合で得られるポリアミド系樹脂と、ジアミンとジカルボン酸の重縮合により得られるポリアミド系樹脂のいずれであってもよい。
【0043】
全脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66等が挙げられる。
半芳香族ポリアミド樹脂としては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6I/6)、ポリドデカミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド12/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6/6I)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6I/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー(ポリアミド6T/M5T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー(ポリアミド66/6T/M5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/M5T/6I)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド/ポリオクタンメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド9T/8T)、ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(2-メチルペンタメチレンイソフタルアミド)コポリマー(ポリアミドM5T/M5I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)などが挙げられる。
なお、カッコ内の簡略呼称における数字は炭素番号、Tはテレフタル酸ユニット、Iはイソフタル酸ユニットをそれぞれ表す。
ポリアミド系樹脂は、1種を単独で使用しても、2種以上を混合または共重合させて用いてもよい。
【0044】
ポリアミド系樹脂が有する芳香族基として具体的には、ベンゼンジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸等)、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸に由来する2価の基、及びジアミノベンゼン、ジアミノナフタレン、ジアミノビフェニル等の芳香族ジアミンに由来する2価の基などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジアミンの炭素数は、例えば炭素数6~20(カルボキシ基及び置換基の炭素数は除く)であってよく、6~10が好ましい。
【0045】
環状ラクタムの開環重合又はω-アミノカルボン酸の重縮合により得られるポリアミド系樹脂の脂肪族基として具体的には、ラウリルラクタム、ε-カプロラクタム、ウデカンラクタム、ω-エナントラクタム、2-ピロリドン等の炭素数5~20の脂肪族ラクタムに由来する2価の基、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のω-アミノカルボン酸に由来する2価の基が挙げられる。
環状ラクタム又はω-アミノカルボン酸の炭素数(カルボキシ基の炭素数は除く)は、例えば炭素数3~20であってよく、3~10が好ましい。
【0046】
ジアミンとジカルボン酸の重縮合により得られるポリアミド系樹脂の脂肪族基として具体的には、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸等の脂肪族ジカルボン酸に由来する2価の基、及びペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンに由来する2価の基が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジアミンの炭素数は、例えば炭素数3~20(カルボキシ基及び置換基の炭素数は除く)であってよく、3~10が好ましい。
【0047】
本実施形態においてポリアミド系樹脂は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンの重縮合により得られるものであっても、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸の重縮合により得られるものであってもよいが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンの重縮合により得られるものが好ましい。
【0048】
ポリアミド系樹脂が有する芳香族基又は脂肪族基は無置換であっても置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~20のアリールアルキル基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、炭素数3~10のアルキルシリル基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0049】
ポリアミド樹脂は2種以上の芳香族基を含むか、または2種以上の脂肪族基を含むことが好ましい。このようなポリアミド樹脂は分子構造が複雑になり立体障害が増すことで、結晶化が抑制され、結晶化速度が低下する傾向にある。その結果、樹脂の流動性が低下し、樹脂が金属部材の表面の凹凸構造に入り込みやすくなり、接合強度がより向上すると考えられる。
【0050】
ポリアミド樹脂は、m-フェニレン基及び分岐状脂肪族基の少なくとも一方を含んでもよい。ポリアミド樹脂がm-フェニレン基及び分岐状脂肪族基の少なくとも一方を含んでいると、これらの基を含まない場合に比べ、分子構造の直線性や剛直性が失われ、立体障害が増すことで、結晶化速度が低下する傾向にある。その結果、樹脂の流動性が低下し、樹脂が金属部材の表面の凹凸構造に入り込みやすくなり、接合強度がより向上すると考えられる。
【0051】
ポリアミド系樹脂が有するm-フェニレン基としては、イソフタル酸に由来する芳香族基、1,3-ジアミノベンゼンに由来する芳香族基等が挙げられる。
ポリアミド系樹脂が有する分岐状脂肪族基としては、アルキレン基の任意の部位に1つ以上のアルキル基が置換した構造(側鎖アルキレン基と称する場合がある)が挙げられる。側鎖アルキレン基としては総炭素数が4~20の側鎖アルキレン基が好ましく、総炭素数が4~12の側鎖アルキレン基がより好ましい。アルキレン基に置換したアルキル基としては炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
分岐状脂肪族基として具体的には、2-メチルペンタメチレン基、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン基、2,4,4-トリメチルヘキサメチレン基、2-メチルオクタメチレン基、2,4-ジメチルオクタメチレン基等が挙げられる。
【0052】
耐熱性及び耐油性の観点からは、ポリアミド系樹脂は、芳香族基としてp-フェニレン基を有することが好ましい。p-フェニレン基としては、テレフタル酸に由来する芳香族基、1,4-ジアミノベンゼンに由来する芳香族基等が挙げられる。例えば、ポリアミド系樹脂に含まれる芳香族基の合計100モル%のうち、p-フェニレン基が40モル%~100モル%であることが好ましく、45モル%~90モル%であることがより好ましく、55モル%~80モル%であることがさらに好ましい。
【0053】
金属部材に対する接合強度の観点からは、ポリアミド系樹脂に含まれる芳香族基の合計100モル%のうち、p-フェニレン基以外の芳香族基(好ましくはm-フェニレン基)基が0モル%~60モル%であることが好ましく、10モル%~55モル%であることがより好ましく、20モル%~45モル%であることがさらに好ましい。
【0054】
金属部材に対する接合強度の観点からは、ポリアミド系樹脂に含まれる脂肪族基の合計100モル%のうち、分岐状脂肪族基(好ましくは、炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基)が0モル%~60モル%であることが好ましく、10モル%~60モル%であることが好ましく、15モル%~55モル%であることがさらに好ましい。
炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基としては、2-メチル-1,8-オクタンジアミン及び2-メチル-1,5-ペンタジアミンの少なくとも一方に由来する側鎖アルキレン基が好ましい。
【0055】
ポリアミド系樹脂は、示差走査熱量計(DSC)測定において測定されるガラス転移温度(Tg)が80℃~140℃であることが好ましい。ポリアミド系樹脂が上記範囲にTgを有することで、金属部材に対する接合を強固にすることができ、かつ十分な耐熱性が得られる。
【0056】
ポリアミド系樹脂のTgは、昇温速度10℃/minにて30℃から350℃まで昇温(第1昇温)後、降温速度10℃/minにて0℃まで冷却(降温)し、再び昇温速度10℃/minにて350℃まで昇温(第2昇温)したときの、第2昇温時において観察される変曲点に相当する温度とする。
【0057】
ポリアミド系樹脂は、示差走査熱量計(DSC)で観測される結晶化温度(Tc)が250℃~300℃であることが好ましい。ポリアミド系樹脂が上記範囲にTcを有することで、金属部材に対する接合を強固にすることができ、かつ十分な耐熱性が得られる。
【0058】
ポリアミド系樹脂のTcは、昇温速度10℃/minにて30℃から350℃まで昇温(第1昇温)後、降温速度10℃/minにて0℃まで冷却(第1降温)した際に検出されるピークに相当する温度とする。2つ以上のピークが検出される場合は、高温側のピークに相当する温度とする。
【0059】
金属部材に対する追従性の観点からは、樹脂部材は弾性を有していてもよく、例えば、エラストマーを含んでもよい。樹脂部材がエラストマーを含んでいると、例えば、金属部材の表面に樹脂部材を接合した状態で曲げ加工等を行っても良好な接合強度が維持される。
【0060】
金属部材に対する追従性の観点からは、樹脂部材はJIS K7203(1982)に準拠して測定される、23℃における曲げ弾性率が1000MPa以下であることが好ましく、800MPa以下であることがより好ましく、600MPa以下であることがさらに好ましい。必要な強度を確保する観点からは、樹脂部材の曲げ弾性率は1MPa以上であることが好ましい。
【0061】
エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー(TPE)、及びゴムが挙げられる。成形性の観点からは、熱可塑性エラストマー(TPE)が好ましい。
【0062】
本開示においてTPEとは、ゴムのように加硫をする必要のない弾性体材料であり、一般にハード成分(硬く剛直な成分)とソフト成分(軟らかくフレキシブルな成分)から構成された材料を意味する。
【0063】
TPEの中でも接着強度、シール特性、耐酸性、及び接合面の気密性の観点から、ウレタン系TPE(TPU)及びアミド系TPE(TPAEと呼ぶ場合がある)の少なくとも一方が好ましく、TPUとTPAEをともに含むことがより好ましい。
【0064】
樹脂部材がTPUおよびTPAEを含む場合、樹脂部材中のTPUおよびTPAEの合計含有量は、例えば60質量%以上100質量%以下であってよく、65質量%以上95質量%以下であってよく、70質量%以上95質量%以下であってよい。
【0065】
TPUは、例えば、ジイソシアナートと短鎖グリコール(鎖延長剤)からなるハードセグメントと、数平均分子量が1000~4000程度のポリマーグリコールを主体とするソフトセグメントから構成されるマルチブロックポリマーである。ジイソシアナートとしては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)に代表される芳香族イソシアナート等が挙げられる。耐候性を要求される用途では、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)等の脂肪族イソシアナート等も適宜用いられる。短鎖グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ネオペンタルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ビスヒドロキシエチルハイドロキノン、及びそれらの混合物等が挙げられる。ポリマーグリコールとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)に代表されるポリエーテルポリオール、アジピン酸と脂肪族または芳香族グリコールとの縮合系であるポリエステルポリオール、ε-カプロラクトンを開環重合したポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。
【0066】
ジイソシアナート成分、短鎖グリコールおよびポリマーグリコールとしてどのような成分を用いるかによって、TPUはエーテル系、アジペートエステル系、カプロラクトン系、カーボネート系等に分類されているが、いずれのTPUも使用することができる。
本実施形態に係る導電用部材を酸性雰囲気下に晒す場合は、エーテル系TPUまたはエステル系TPUが好んで用いられ、エーテル系TPUがより好ましく用いられる。
【0067】
市販されているTPUとしては、例えば、大日精化工業社のRESAMINE P(商標)、DICコベストロポリマー社のPANDEX(商標)、東ソー社のミラクトラン(商標)、ダウケミカル社のPELLETHANE(商標)、B.F.グッドリッチ社のESTANE(商標)、及びバイエル社のDESMOPAN(商標)等が挙げられる。
【0068】
TPAEとは、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料であって、ハードセグメントを構成するポリマーの主鎖にアミド結合(-CONH-)を有するものを意味する。TPAEとしては、例えば、JIS K6418:2007に規定されるアミド系熱可塑性エラストマーや、特開2004-346273号公報に記載のポリアミド系エラストマー等を挙げることができる。
【0069】
TPAEとしては、例えば、少なくともポリアミドが結晶性で融点の高いハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、ポリエステルまたはポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。また、TPAEはハードセグメントおよびソフトセグメントの他に、ジカルボン酸等の鎖長延長剤を用いてもよい。上記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、例えば、ω-アミノカルボン酸やラクタムによって生成されるポリアミドを挙げることができる。
【0070】
上記ω-アミノカルボン酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等の炭素数5~20の脂肪族ω-アミノカルボン酸等を挙げることができる。また、ラクタムとしては、例えば、ラウリルラクタム、ε-カプロラクタム、ウデカンラクタム、ω-エナントラクタム、2-ピロリドン等の炭素数5~20の脂肪族ラクタム等を挙げることができる。上記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、ラウリルラクタム、ε-カプロラクタムまたはウデカンラクタムを開環重縮合したポリアミドを好ましく用いることができる。
【0071】
上記ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリエーテルが挙げられ、上記ポリエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコール、プリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を用いることができる。また、ポリエーテルの末端にアンモニア等を反応させることによって得られるポリエーテルジアミン等を用いることができる。
【0072】
上記ハードセグメントと上記ソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でも、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリエチレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せ、が好ましく、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが特に好ましい。
【0073】
上記ハードセグメントを構成するポリマー(ポリアミド)の数平均分子量としては、溶融成形性の観点から、300~15000が好ましい。また、上記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性および低温柔軟性の観点から、200~6000が好ましい。更に、上記ハードセグメント(x)およびソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50~90:10が好ましく、50:50~80:20が更に好ましい。
【0074】
上記TPAEは、上記ハードセグメントを形成するポリマーおよびソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0075】
上記TPAEとしては、例えば、アルケマ社のペバックス33シリーズ(例えば、7233、7033、6333、5533、4033、MX1205、3533、2533)、宇部興産(株)の「UBESTA XPA」シリーズ(例えば、XPA9063X1、XPA9055X1、XPA9048X2、XPA9048X1、XPA9040X1、XPA9040X2等)、ダイセル・エボニック(株)の「ベスタミド」シリーズ(例えば、E40-S3、E47-S1、E47-S3、E55-S1、E55-S3、E
X9200、E50-R2)等を用いることができる。
【0076】
金属部材に対する接合強度の観点から、または金属部材と樹脂部材の線膨張率差による応力を緩和する観点からは、樹脂部材は、酸変性ポリマーを含むことが好ましい。
【0077】
酸変性ポリマーとしては、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分起因の骨格を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましく用いられる。酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分としては、エチレンや、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等のα-オレフィンが好ましく、これらの混合物を用いてもよい。中でも、密着性や耐水性等の観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテンが特に好ましい。
【0078】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、(無水)アコニット酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アリルコハク酸等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えば、不飽和ジカルボン酸のハーフエステルやハーフアミド等のように、分子内に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物を用いることができる。中でもポリオレフィン樹脂への導入のし易さの点から、(無水)マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。なお、「(無水)~酸」とは、「~酸または無水~酸」を意味する。すなわち、(無水)マレイン酸とは、マレイン酸または無水マレイン酸を意味する。
【0079】
不飽和カルボン酸とオレフィン成分との共重合形態は限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられるが、重合のし易さの点から、グラフト共重合が好ましい。
【0080】
酸変性ポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体;エチレン/プロピレン/(無水)マレイン酸共重合体、エチレン/1-ブテン/(無水)マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/1-ブテン/(無水)マレイン酸共重合体等のエチレン/α-オレフィン/(無水)マレイン酸共重合体;プロピレン/1-ブテン/(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン/オクテン/(無水)マレイン酸共重合体等のプロピレン/α-オレフィン/(無水)マレイン酸共重合体;エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/(無水)マレイン共重合体;エチレン/(無水)マレイン酸共重合体;プロピレン/(無水)マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
酸変性ポリオレフィン樹脂には、必要に応じて上記以外の他の構成単位が含まれていてもよい。他の構成単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール;2-ヒドロキシエチルアクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル;スチレン;置換スチレン;ハロゲン化ビニル類;ハロゲン化ビリニデン類;一酸化炭素;二酸化硫黄等が挙げられ、これらの混合物を用
いてもよい。これらの他の構成単位の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂の全体を100質量%としたとき、10質量%以下であることが好ましい。
【0082】
酸変性ポリマーとしては、リビングアニオン重合で得られる下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル系ブロック共重合体も用いることができる。
-[a]-[b]-[a]- (1)
(式中、[a]はメチルメタクリレート重合体ブロックであり、[b]はアルキル基の炭素数が0~12であるアルキル(メタ)アクリレート重合体ブロックである)。なお、本実施形態において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。また、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0083】
市販されている酸変性ポリマーとしては、例えば、三井・デュポンポリケミカル社製の酸変性ポリオレフィン樹脂であるニュクレル(登録商標)シリーズ、そのアイオノマー樹脂であるハイミラン(登録商標)シリーズ、クラレ社製のアクリル系ブロック共重合体であるクラリティ(登録商標)シリーズ、三菱ケミカル社製の酸変性ポリオレフィン樹脂であるモディック(登録商標)シリーズ、三井化学社製の酸変性ポリプロピレンであるアドマー(登録商標)シリーズ、三井化学社製の酸変性α-オレフィンコポリマー樹脂であるタフマー(登録商法)シリーズ、日本ポリエチレン社製の酸変性ポリエチレン樹脂であるレクスパール(登録商標)シリーズ、アルケマ社製の無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂であるボンダイン(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
【0084】
樹脂部材は、樹脂に加えて種々の配合剤を含んでもよい。配合剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、無機粉末等の充填材、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0085】
樹脂部材が樹脂以外の成分を含む場合、樹脂部材全体に占める樹脂の割合は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
【0086】
金属部材の表面に接合している樹脂部材は、1部材であっても2部材以上の組み合わせであってもよい。例えば、図1及び図2に示すように、金属部材1の本体の周囲に配置される樹脂部材2と、金属部材1と樹脂部材2との境界を被覆するように配置される樹脂部材3との組み合わせであってもよい。
【0087】
金属部材1と樹脂部材2との境界を被覆する樹脂部材3を設けることで、金属部材1と樹脂部材2との気密性がより高まり、信頼性がより向上する。
【0088】
樹脂部材が2部材以上の組み合わせである場合、それぞれの部材に含まれる樹脂は同じであっても異なっていてもよい。樹脂部材3はシール性を高める観点から、樹脂部材2と樹脂部材3の弾性率を比較したときに、樹脂部材3の弾性率がより低いことが望ましい。例えば、樹脂部材2として接合強度及び必要に応じて耐トラッキング性に優れる樹脂、樹脂部材3としてエラストマーをそれぞれ選択して組み合わせてもよい。
【0089】
樹脂部材が金属部材の表面に接合された状態は、たとえば、溶融等により流動性を有する状態の樹脂を金属部材の表面に付与して形成することができる。金属部材の表面に付与する際の樹脂が流動性を有する状態であると、金属部材の表面の凹凸構造に樹脂が入り込んでアンカー効果が発現し、樹脂部材が金属部材の表面に強固に接合する。
【0090】
流動性を有する状態の樹脂は、金型等を用いて所望の形状に成形してもよい。成形の方法は特に制限されず、射出成形等の公知の手法により行うことができる。
【0091】
<導電用部材(第2実施形態)>
本開示の第2実施形態に係る導電用部材は、
本発明の導電用部材は、金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部と接合している樹脂部材と、を備え、前記樹脂部材は芳香族基と脂肪族基とを有するポリアミド樹脂を含む、導電用部材である。
【0092】
上記導電用部材は、金属部材と接合している樹脂部材が芳香族基と脂肪族基とを有するポリアミド樹脂(以下、半芳香族ポリアミド樹脂ともいう)を含む。
本開示において全芳香族ポリアミド樹脂は、アミド結合に連結した構成単位が全て芳香族であるポリアミド樹脂として定義され、全脂肪族ポリアミド樹脂は、アミド結合に連結した構成単位が全て飽和炭化水素骨格であるポリアミド樹脂として定義され、半芳香族ポリアミド樹脂とは、全脂肪族ポリアミド樹脂と全芳香族ポリアミド樹脂を除く全てのポリアミド樹脂(すなわち、芳香族基と脂肪族基の両方を有する)として定義される。
【0093】
本開示の導電用部材は、樹脂部材に含まれるポリアミド樹脂が芳香族基を有することで金属部材に対する優れた接合強度を示すとともに、脂肪族基を有することで優れたトラッキング性を示す。
【0094】
耐トラッキング性とは、絶縁材料のトラッキングに対する抵抗の大きさを意味し、IEC60112に準拠する耐トラッキング試験により評価される。
トラッキングとは絶縁物の表面での微小放電の繰り返しにより炭化導電路が形成されて絶縁破壊に至る現象をいい、火災や感電の原因となるおそれがある。
【0095】
IEC60112に準拠する耐トラッキング試験の評価が、例えば200V以上であると、導電用部材として望ましい耐トラッキング性を備えていると評価できる。
本開示の導電用部材は、樹脂部材のIEC60112に準拠する耐トラッキング試験の評価が200V以上であってもよく、400V以上であってもよく、600V以上であってもよい。
【0096】
本開示の導電用部材は、接合強度に優れている。例えば、ISO19095に準拠して測定されるせん断接合強度が20MPa以上であってもよく、30MPa以上であってもよく、40MPa以上であってもよい。
【0097】
(樹脂部材)
樹脂部材は、芳香族基と脂肪族基とを有するポリアミド樹脂を含むものであれば、特に制限されない。
耐熱性及び耐油性の観点からは、ポリアミド樹脂は芳香族基としてp-フェニレン基を含むことが好ましく、耐トラッキング性の観点からは、脂肪族基として炭素原子数4~20の脂肪族基を含むことが好ましい。
ポリアミド樹脂に含まれるp-フェニレン基としては、テレフタル酸に由来する芳香族基、1,4-ジアミノベンゼンに由来する芳香族基等が挙げられる。
ポリアミド樹脂に含まれる炭素原子数4~20の脂肪族基としては、炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン又は炭素原子数4~20ジカルボン酸に由来する脂肪族基等が挙げられる。
【0098】
ポリアミド樹脂が有する芳香族基として具体的には、ベンゼンジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸等)、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸に由来する2価の基、及びジアミノベンゼン、ジアミノナフタレン、ジアミノビフェニル等の芳香族ジアミンに由来する2価の基などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジアミンの炭素数は、例えば炭素数6~20(カルボキシ基及び置換基の炭素数は除く)であってよく、6~10が好ましい。
【0099】
ポリアミド樹脂が有する脂肪族基として具体的には、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸等の脂肪族ジカルボン酸に由来する2価の基、及びペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンに由来する2価の基が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジアミンの炭素数は、例えば炭素数3~20(カルボキシ基及び置換基の炭素数は除く)であってよく、3~10が好ましい。
【0100】
本実施形態においてポリアミド樹脂は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンの重縮合により得られるものであっても、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸の重縮合により得られるものであってもよいが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンの重縮合により得られるものが好ましい。
【0101】
ポリアミド樹脂が有する芳香族基又は脂肪族基は無置換であっても置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~20のアリールアルキル基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、炭素数3~10のアルキルシリル基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0102】
ポリアミド樹脂は2種以上の芳香族基を含むか、または2種以上の脂肪族基を含むことが好ましい。このようなポリアミド樹脂は分子構造が複雑になり立体障害が増すことで、結晶化が抑制され、結晶化速度が低下する傾向にある。その結果、樹脂の流動性が向上し、樹脂が金属部材の表面の凹凸構造に入り込みやすくなり、接合強度がより向上すると考えられる。
【0103】
ポリアミド樹脂は、m-フェニレン基及び分岐状脂肪族基の少なくとも一方を含んでもよい。ポリアミド樹脂がm-フェニレン基及び分岐状脂肪族基の少なくとも一方を含んでいると、これらの基を含まない場合に比べ、分子構造の直線性や剛直性が失われ、立体障害が増すことで、結晶化速度が低下する傾向にある。その結果、樹脂の流動性が向上し、樹脂が金属部材の表面の凹凸構造に入り込みやすくなり、接合強度がより向上すると考えられる。
【0104】
ポリアミド樹脂が有するm-フェニレン基としては、イソフタル酸に由来する芳香族基、1,3-ジアミノベンゼンに由来する芳香族基等が挙げられる。
【0105】
ポリアミド樹脂が有する分岐状脂肪族基としては、アルキレン基の任意の部位に1つ以上のアルキル基が置換した構造(側鎖アルキレン基と称する場合がある)が挙げられる。側鎖アルキレン基としては総炭素数が4~20の側鎖アルキレン基が好ましく、総炭素数が4~12の側鎖アルキレン基がより好ましい。アルキレン基に置換したアルキル基としては炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
分岐状脂肪族基として具体的には、2-メチルペンタメチレン基、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン基、2,4,4-トリメチルヘキサメチレン基、2-メチルオクタメチレン基、2,4-ジメチルオクタメチレン基等が挙げられる。
【0106】
耐熱性及び耐油性の観点からは、ポリアミド系樹脂に含まれる芳香族基の合計100モル%のうち、p-フェニレン基が40モル%~100モル%であることが好ましく、45モル%~90モル%であることがより好ましく、55モル%~80モル%であることがさらに好ましい。
【0107】
金属部材に対する接合強度の観点からは、ポリアミド系樹脂に含まれる芳香族基の合計100モル%のうち、p-フェニレン基以外の芳香族基(好ましくはm-フェニレン基)基が0モル%~60モル%であることが好ましく、10モル%~55モル%であることがより好ましく、20モル%~45モル%であることがさらに好ましい。
【0108】
金属部材に対する接合強度の観点からは、ポリアミド系樹脂に含まれる脂肪族基の合計100モル%のうち、分岐状脂肪族基(好ましくは、炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基)が0モル%~60モル%であることが好ましく、10モル%~60モル%であることが好ましく、15モル%~55モル%であることがさらに好ましい。
炭素原子数4~20の側鎖アルキレン基としては、2-メチル-1,8-オクタンジアミン及び2-メチル-1,5-ペンタジアミンの少なくとも一方に由来する側鎖アルキレン基が好ましい。
【0109】
芳香族基と脂肪族基とを有するポリアミド樹脂としては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6I/6)、ポリドデカミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド12/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6/6I)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6I/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー(ポリアミド6T/M5T)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド/ポリオクタンメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド9T/8T)、ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(2-メチルペンタメチレンイソフタルアミド)コポリマー(ポリアミドM5T/M5I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー(ポリアミド66/6T/M5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/M5T/6I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)などが挙げられる。
なお、カッコ内の簡略呼称における数字は炭素番号、Tはテレフタル酸ユニット、Iはイソフタル酸ユニットをそれぞれ表す。
ポリアミド樹脂は、1種を単独で使用しても、2種以上を混合または共重合させて用いてもよい。
【0110】
ポリアミド樹脂は、示差走査熱量計(DSC)測定において測定されるガラス転移温度(Tg)が80℃~140℃であることが好ましい。ポリアミド樹脂が上記範囲にTgを有することで、金属部材に対する接合を強固にすることができ、かつ十分な耐熱性が得られる。
【0111】
ポリアミド樹脂のTgは、昇温速度10℃/minにて30℃から350℃まで昇温(第1昇温)後、降温速度10℃/minにて0℃まで冷却(降温)し、再び昇温速度10℃/minにて350℃まで昇温(第2昇温)したときの、第2昇温時において観察される変曲点に相当する温度とする。
【0112】
ポリアミド樹脂は、示差走査熱量計(DSC)で観測される結晶化温度(Tc)が250℃~300℃であることが好ましい。ポリアミド樹脂が上記範囲にTcを有することで、金属部材に対する接合を強固にすることができ、かつ十分な耐熱性が得られる。
【0113】
ポリアミド樹脂のTcは、昇温速度10℃/minにて30℃から350℃まで昇温(第1昇温)後、降温速度10℃/minにて0℃まで冷却(第1降温)した際に検出されるピークに相当する温度とする。2つ以上のピークが検出される場合は、高温側のピークに相当する温度とする。
【0114】
樹脂部材は、樹脂に加えて種々の配合剤を含んでもよい。配合剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、無機粉末等の充填材、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0115】
樹脂部材が樹脂以外の成分を含む場合、樹脂部材全体に占める樹脂の割合は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
【0116】
(金属部材)
導電用部材に含まれる金属部材は、導電性を有するものであれば特に制限されず、一般に使用されるものから選択できる。例えば、第一実施形態の導電用部材に含まれる金属部材として例示した金属部材であってもよい。
金属部材は、第一実施形態の導電用部材に含まれる金属部材の要件を満たすものであっても、満たさないものであってもよい。
【0117】
金属部材の表面に接合している樹脂部材は、1部材であっても2部材以上の組み合わせであってもよい。例えば、図1及び図2に示すように、金属部材1の本体の周囲に配置される樹脂部材2と、金属部材1と樹脂部材2との境界を被覆するように配置される樹脂部材3との組み合わせであってもよい。
【0118】
金属部材1と樹脂部材2との境界を被覆する樹脂部材3を設けることで、金属部材1と樹脂部材2との気密性がより高まり、信頼性がより向上する。
【0119】
樹脂部材が2部材以上の組み合わせである場合、それぞれの部材に含まれる樹脂は同じであっても異なっていてもよい。樹脂部材3はシール性を高める観点から、樹脂部材1と樹脂部材3の弾性率を比較したときに、樹脂部材3の弾性率がより低いことが望ましい。例えば、樹脂部材2として上述したポリアミド樹脂、樹脂部材3としてエラストマーをそれぞれ使用してもよい。
【0120】
エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー(TPE)、及びゴムが挙げられる。
成形性の観点からは、熱可塑性エラストマー(TPE)が好ましく、ポリアミド樹脂との親和性の観点からはウレタン系熱可塑性エラストマー、またはアミド系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0121】
<導電用部材の用途>
本開示の導電用部材は、例えば、バスバー、端子、コネクター等を挙げることができ、種々の用途に適用可能である。具体的には、例えば、インバーターやコンバーター等の電力変換装置、モーター、イーアクシル等の機電一体型モーター、二次電池を含む二次電池モジュール、二次電池パックなどに用いることができる。
【0122】
<導電用部材の製造方法A>
本開示の導電用部材の製造方法Aは、金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する工程と、金属部材の粗化処理された表面の少なくとも一部に樹脂部材を形成する工程と、をこの順に有する導電用部材の製造方法である。
【0123】
<導電用部材の製造方法B>
本開示の導電用部材の製造方法Bは、金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する工程と、金属部材の粗化処理された表面の少なくとも一部に第1の樹脂部材を形成する工程と、前記金属部材と前記第1の樹脂部材との境界を被覆する第2の樹脂部材を形成する工程と、をこの順に有する導電用部材の製造方法である。
【0124】
以下では導電用部材の製造方法Aと導電用部材の製造方法Bをあわせて「導電用部材の製造方法」とも称する。
【0125】
一般的な導電用部材の製造方法では、金属部材の全面にメッキ層を形成した後に必要な箇所を樹脂部材で被覆する。次いで、金属部材と樹脂部材との境界の気密性を確保するために、気密を確保したい領域のみを硬化型封止材で封止する(ポッティング工程)。
これに対して本発明の方法では、金属部材の表面の粗化処理された部分に樹脂部材を形成する。これにより金属部材と樹脂部材との境界広い範囲での気密性が充分に確保される。このため、オイル漏れや短絡の発生を効果的に抑制できる。あるいは、気密性を確保するためのポッティング工程を省略することも可能である。
【0126】
上記方法は、金属部材の前記樹脂部材と接合していない部分の少なくとも一部にメッキ層を付与する工程をさらに有していてもよい。
金属部材の樹脂部材と接合していない部分にメッキ層を付与することで、金属部材の腐食を防ぎ、安定した電気特性を維持することができる。なお、金属部材と樹脂部材とが接合した状態で高い気密性を有しているため、この状態でメッキ処理を行ってもメッキ液が金属部材と樹脂部材の界面に入り込むことなく、接合状態に悪影響を及ぼすことはない。
また、金属部材の樹脂部材と接合していない部分に溶接が必要な場合は、溶接させるためのメッキ層を付与することもできる。
このように、金属部材の全面にメッキ層を形成する場合に比べ、必要な部分にのみメッキ層を付与することでメッキ材料を節約することができる。
【0127】
上記方法において、金属部材の表面のうち樹脂部材と接合させる部分は、上記のような防食性などの効果を有するメッキ層を設けずに粗化処理されていることが好ましい。
メッキ処理の条件及び接合される樹脂の種類にもよるが、一般的なメッキ層は表面凹凸が少なく、樹脂との接合性に劣る傾向にある。また、例えばポーラスメッキと呼ばれる金属との接合性を高めたメッキ処理などは、メッキ処理により形成した微細孔に樹脂が充分入り込まない場合が考えられ、接合強度の長期信頼性の低下や気密性の低下が生じる恐れがある。この場合、金属部材と樹脂部材を接合した後、必要な部分にのみメッキ処理を行うことで、これらの問題を解決することができる。
【0128】
金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する方法は、上述した粗化処理の方法から選択することができる。
金属部材の表面の粗化処理された部分に樹脂材料を付与する方法及び樹脂材料を固化して樹脂部材を形成する方法は、特に制限されない。例えば、射出成形法、トランスファー成形法、圧縮成形法、反応射出成形法、ブロー成形法、熱成形法、プレス成形法等が挙げられる。これらの中でも射出成形法が好ましい。
【0129】
金属部材の樹脂部材と接していない部分にメッキ層を形成する工程は、例えば、金属部材と樹脂部材とが接合してなる物体をメッキ液に浸漬して行う湿式法(電解めっき、無電解めっき等)、メッキ液に浸漬せずに行う乾式法(真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等)などの公知の方法で行うことができる。
【0130】
本発明の方法は、上述した本発明の導電用部材を製造する方法であってもよい。
すなわち、金属部材の表面の少なくとも一部を粗化処理する工程は、粗化処理後の比表面積が0.05m/g以上となるように行ってもよい。
【0131】
<電力変換装置、モーター、二次電池モジュール及び二次電池パック>
本発明の電力変換装置、モーター及び二次電池モジュール及び二次電池パックは、それぞれ上述した本発明の導電用部材を備える。このため、導電用部材におけるオイル漏れや短絡が発生しにくく信頼性に優れている。
【実施例
【0132】
以下、本発明に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0133】
<実施例1-1>
JIS H3100:2012に規定された合金番号C1100の銅合金板(厚み:0.03cm)を、長さ2cm、幅3.5cmに切断して比表面積測定用試料を作製した。
この試料の幾何学的表面積は14.33cmであり、密度は8.96g/cmであり、体積は0.21cmであり、質量は1.8816gである。
また、接合強度評価用の試料として、JIS H3100:2012に規定された合金番号C1100の銅合金板(厚み2mm)を長さ45mm、幅18mmに切断して、接合強度評価用試料を作製した。
【0134】
(表面粗化工程)
脱脂後の試料に対し、メック株式会社製のアマルファA-10201Hへの浸漬、水洗、A-10201Pへの浸漬をこの順に実施した。直後にA-10201Mに試料を4分間浸漬した。次に、水洗、アルカリ洗浄(5質量% NAOH、20秒浸漬)、水洗、中和処理(5質量% HSO、20秒浸漬)、水洗、防錆処理(A-10290、1分)及び水洗をこの順で行った。
【0135】
(比表面積の測定)
表面粗化処理を行う前(脱脂後)の試料と、表面粗化処理を行った後の試料の比表面積を測定したところ、それぞれ0.001062m/g、0.004443m/gであった。
比表面積は、試料を真空加熱脱気(100℃)した後、BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用し、液体窒素温度下(77K)におけるクリプトンガス吸着法にて吸着等温線を測定し、BET法によって求めた。
【0136】
粗化処理を行った後の接合強度評価用試料を、日本製鋼所製の射出成形機J55-ADに装着された小型ダンベル金属インサート金型内に設置した。次いで、金型内にポリフェニレンスルフィド(PPS、東ソー株式会社、サスティールSGX120)を、金型温度150℃で射出成形して、銅合金板の上に樹脂の層が形成された試験片を作製した。この時の金属部材と樹脂部材の接合界面の面積は、10mm×50mmであった。
【0137】
<実施例1-2>
樹脂をポリフェニレンスルフィド(PPS、東ソー株式会社、サスティールBGX545)に変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、試験片を作製した。
【0138】
<実施例1-3>
樹脂をポリアミド組成物1(PA1、ベース樹脂:6T/6I、酸変性ポリオレフィンを3質量%含有)に変更し、金型温度を170℃に変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、試験片を作製した。
【0139】
(ポリアミド組成物1の調製方法)
1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、テレフタル酸2774g(16.7モル)、イソフタル酸1196g(7.2モル)、安息香酸36.6g(0.30モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g及び蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低縮合物を抜き出した。その後、室温まで冷却後、低縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。次に、この低縮合物を棚段式固相重合装置にいれ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応し、室温まで降温させた。その後、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合して、ポリアミド(a)を調製した。得られたポリアミド(a)の融点Tmは330℃であった。
【0140】
テレフタル酸1390g(8.4モル)、1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、イソフタル酸2581g(15.5モル)、安息香酸36.6g(0.30モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g及び蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.02MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低縮合物を抜き出した。その後、低縮合物を室温まで冷却し、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕した。そして、110℃で24時間乾燥させた。得られた低縮合物の水分量は3000ppm、極限粘度[η]は0.14dl/gであった。次に、この低縮合物を、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(b)を調製した。得られたポリアミド樹脂(b)の融点Tmは観測されなかった。
【0141】
ポリアミド(a)49.6質量%に対して、ポリアミド(b)を12.4質量%、下記の方法で合成した酸変性ポリオレフィンを3質量%、無機フィラーとしてのガラス繊維(日本電気硝子社製、ECS03T-251H)35質量%とをタンブラーブレンダーにて混合し、さらに二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド(a)の融点(Tm)+15℃)で混合物を溶融混錬した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド組成物1を得た。
【0142】
(酸変性ポリオレフィンの合成方法)
十分に窒素置換したガラス製フラスコに、ビス(1,3-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドを0.63mg入れ、さらにメチルアミノキサンのトルエン溶液(Al;0.13ミリモル/リットル)1.57ml、およびトルエン2.43mlを添加することにより、触媒溶液を得た。次に、十分に窒素置換した内容積2リットルのステンレス製オートクレーブに、ヘキサン912ml、および1-ブテン320mlを導入し、系内の温度を80℃に昇温した。引き続き、トリイソブチルアルミニウム0.9ミリモルおよび上記で調製した触媒溶液2.0ml(Zrとして0.0005ミリモル)をエチレンで系内に圧入し、重合反応を開始させた。エチレンを連続的に供給することにより全圧を8.0kg/cm-Gに保ち、80℃で30分間重合を行った。少量のエタノールを系中に導入して重合を停止させた後、未反応のエチレンをパージした。得られた溶液を大過剰のメタノール中に投下することにより白色固体を析出させた。この白色固体をろ過により回収し、減圧下で一晩乾燥し、白色固体(エチレン・1-ブテン共重合体)を得た。
得られたエチレン・1-ブテン共重合体100質量部に、無水マレイン酸0.5質量部と過酸化物(パーヘキシン25B,日本油脂社製、商標)0.04質量部とを混合した。得られた混合物を230℃に設定した1軸押出機で溶融グラフト変性することによって、酸変性ポリオレフィンを得た。
【0143】
<実施例1-4>
樹脂をポリアミド組成物2(PA2、ベース樹脂:6T/M5T、酸変性ポリオレフィンを1質量%含有)に変更し、金型温度を170℃に変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、試験片を作製した。
【0144】
(ポリアミド組成物2の調製方法)
1,6-ジアミノヘキサン1312g(11.1モル)、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン1312g(11.1モル)、テレフタル酸3655g(22.0モル)、安息香酸34.2g(0.28モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物5.5g、及びイオン交換水640mlを1リットルの反応器に仕込み、窒素置換後、250℃、35kg/cmの条件で1時間反応させた。1,6-ジアミノヘキサンと2-メチル-1,5-ジアミノペンタンとのモル比は50:50とした。1時間経過後、この反応器内に生成した反応生成物を、この反応器と連結され、かつ圧力を約10kg/cm低く設定した受器に抜き出し、ポリアミド前駆体を得た。
次いで、このポリアミド前駆体を乾燥し、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度33
0℃で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(c)を得た。得られたポリアミド樹脂(c)の融点Tmは300℃であった。
【0145】
ポリアミド(c)57.6質量%に対して、ポリアミド(b)を6.4質量%、酸変性ポリオレフィンを1質量%、無機フィラーとしてのガラス繊維(日本電気硝子社製、ECS03T-251H)35質量%とをタンブラーブレンダーにて混合し、さらに二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド(a)の融点(Tm)+15℃)で混合物を溶融混錬した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド組成物2を得た。
【0146】
<実施例1-5>
樹脂をポリアミド組成物3(PA3、ベース樹脂:ポリアミド6T/6I、酸変性ポリオレフィンを1質量%含有)に変更し、金型温度を170℃に変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、試験片を作製した。
【0147】
(ポリアミド組成物3の調製方法)
ポリアミド(a)51.2質量%に対して、ポリアミド(b)を12.8質量%、酸変性ポリオレフィンを1質量%、無機フィラーとしてのガラス繊維(日本電気硝子社製、ECS03T-251H)35質量%とをタンブラーブレンダーにて混合し、さらに二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド(a)の融点(Tm)+15℃)で混合物を溶融混錬した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド組成物3を得た。
【0148】
<比較例1-1>
表面粗化処理を行った後の試料を表面粗化処理を行う前(脱脂後)の試料に変更したこと以外は実施例1-3と同様にして、試験片を作製した。
【0149】
<実施例1-6>
JIS H4000:2014に規定された合金番号A5052のアルミニウム合金板(厚み:0.03cm)を、長さ2cm、幅3.5cmに切断して比表面積測定用試料を作製した。
この試料の幾何学的表面積は14.33cmであり、密度は2.68g/cmであり、体積は0.21cmであり、質量は0.5628gである。
また、接合強度評価用の試料として、JIS H4000:2014に規定された合金番号A5052のアルミニウム合金板(厚み2mm)を長さ45mm、幅18mmに切断して、接合強度評価用試料を作製した。
【0150】
(表面粗化工程)
試料を脱脂処理した後、水酸化ナトリウムを19.0質量%と酸化亜鉛を3.2質量%とを含有するアルカリ系エッチング剤(30℃)が充填された処理槽1に2分間浸漬後、水洗した。次いで、得られたアルミニウム合金板を、塩化第二鉄を3.9質量%と、塩化第二銅を0.2質量%と、硫酸を4.1質量%とを含有する酸系エッチング水溶液が充填された処理槽2に、30℃下で6分間浸漬し搖動させた(以下の説明では「処理1」と略称する場合がある)。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分)を行った。
次いで、処理1が行われた後のアルミニウム合金板を、酸化第二銅を6.3質量%(Cu2+として5.0質量%)と、硝酸を30.0質量%とを含有する酸系エッチング水溶液が充填された処理槽3に、40℃下で5分間浸漬し搖動させた(以下の説明では「処理2」と略称する場合がある)。次いで流水で洗浄した後、80℃で15分間乾燥させてアルミニウム合金板を得た。なお、処理2で用いたCu2+の標準電極電位E0は、+0.337(V vs. SHE)である。
【0151】
(比表面積の測定)
上記の粗化処理を行う前の試料と、粗化処理を行った後の試料の表面の比表面積を実施例1-1と同様にして測定したところ、それぞれ0.0041m/g、0.2283m/gであった。
【0152】
粗化処理を行った後の接合強度評価用試料を、日本製鋼所製の射出成形機J55-ADに装着された小型ダンベル金属インサート金型内に設置した。次いで、金型内にポリプロピレン(PP、株式会社プライムポリマー、プライムポリプロV7100)を、金型温度110℃で射出成形して、アルミニウム合金板の上に樹脂の層が形成された試験片を作製した。
【0153】
<実施例1-7>
実施例1-6で行った表面粗化工程において「処理2」を行わなかったこと以外は実施例1-6と同じ方法で試料の表面粗化処理を行い、試験片を作製した。
粗化処理を行った後の試料の表面の比表面積を上述した方法で測定したところ、0.05518m/gであった。
【0154】
<実施例1-8>
樹脂をポリブチレンテレフタレート(PBT、ポリプラスチックス株式会社、ジュラネックス930HL)に変更し、型温を140℃に変更したこと以外は実施例1-6と同様にして、試験片を作製した。
【0155】
<実施例1-9>
樹脂をポリブチレンテレフタレート(PBT、ポリプラスチックス株式会社、ジュラネックス930HL)に変更し、型温を140℃に変更したこと以外は実施例1-7と同様にして、試験片を作製した。
【0156】
<比較例1-2>
粗化処理を行った後の試料を粗化処理を行う前(脱脂後)の試料に変更したこと以外は実施例1-6と同様にして、試験片を作製した。
【0157】
<比較例1-3>
粗化処理を行った後の試料を粗化処理を行う前(脱脂後)の試料に変更し、樹脂をポリブチレンテレフタレート(PBT、ポリプラスチックス株式会社、ジュラネックス930HL)に変更し、型温を140℃に変更したこと以外は実施例1-6と同様にして、試験片を作製した。
【0158】
<線膨張率の測定>
樹脂の線膨張率は、装置TMA-SS7100(SII社製)を用いて、以下の条件にてISO 11359-2に準拠して測定を行った。結果を表1に示す。
測定モード:圧縮膨張モード
温度範囲:-40℃~150℃
試験荷重:49mN(5gf)
昇降温速度:5℃/min
測定雰囲気:窒素(100mL/min)
プローブ径:2.9mmφ
試験n数:n=1
真空乾燥:110℃×10hr
【0159】
<冷熱衝撃試験>
作製した試験片に対して、下記のようにして冷熱衝撃試験を実施した。結果を表1に示す。強度低下率が50%未満であると、温度変化に対する充分な耐性を有していると判断できる。表中の「初期強度0」は冷熱衝撃試験前の初期接合強度が0であり、接合できなかったことを示す。
【0160】
実施例1-1~1-5は装置TDS-100(エスペック社製)を、実施例1-6~1-9は装置TSA-73-EL-A(エスペック社製)を用いて、以下の条件にて測定を行った。
【0161】
実施例1-1~1-5、比較例1-1(銅合金使用)
温度範囲:-40℃~150℃
サイクル条件:-40℃、150℃で各30分保持の1往復を1回
サイクル回数:1000回
【0162】
実施例1-6~1-9、比較例1-2~1-3(アルミニウム合金使用)
温度範囲:-40℃~85℃
サイクル条件:-40℃、85℃で各30分保持の1往復を1回
サイクル回数:1000回
【0163】
<接合強度の測定>
作製した接合強度評価用試験片について、ISO19095に準拠した方法にてせん断接合強度(MPa)を測定した。
具体的には、引張試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」に専用の治具を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて、破断荷重(N)の測定を行った。
測定された破断荷重(N)を銅合金又はアルミニウム合金板と樹脂部材との接合部分の面積(50mm)で除することにより、せん断接合強度(MPa)を得た。
【0164】
【表1】
【0165】
<実施例2-1~2-6>
実施例2-1~2-6で使用するポリアミド(A)~(F)を、下記のようにして調製した。
【0166】
-ポリアミド(A)の合成-
1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、テレフタル酸2774g(16.7モル)、イソフタル酸1196g(7.2モル)、安息香酸36.6g(0.30モル)、次亜リン酸ナトリウム1水和物5.7g及び蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低縮合物を抜き出した。その後、室温まで冷却後、低縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。次に、この低縮合物を棚段式固相重合装置にいれ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応し、室温まで降温させた。その後、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合して、ポリアミド(a)を調製した。得られたポリアミド(a)の融点Tmは330℃であった。
得られたポリアミド(a)50質量%に対して、無機フィラーとしてのガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、FT756D)50質量%をタンブラーブレンダーにて混合し、さらに二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド(a)の融点(Tm)+15℃)で混合物を溶融混錬した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド(A)を得た。得られたポリアミド(A)のジカルボン酸及びジアミンの組成、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)を表2に示す。
【0167】
-ポリアミド(B)の合成-
テレフタル酸1390g(8.4モル)、1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、イソフタル酸2581g(15.5モル)、安息香酸36.6g(0.30モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g及び蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.02MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低縮合物を抜き出した。その後、低縮合物を室温まで冷却し、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕した。そして、110℃で24時間乾燥させた。得られた低縮合物の水分量は3000ppm、極限粘度[η]は0.14dl/gであった。次に、この低縮合物を、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(b)を調製した。得られたポリアミド樹脂(b)の融点Tmは観測されなかった。
ポリアミド(a)40質量%に対して、ポリアミド(b)を10質量%、無機フィラーとしてのガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、FT756D)50質量%とをタンブラーブレンダーにて混合し、さらに二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド(a)の融点(Tm)+15℃)で混合物を溶融混錬した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド(B)を得た。得られたポリアミド(B)のジカルボン酸及びジアミンの組成、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)を表2に示す。
【0168】
-ポリアミド(C)の合成-
1,6-ジアミノヘキサン1312g(11.1モル)、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン1312g(11.1モル)、テレフタル酸3655g(22.0モル)、安息香酸34.2g(0.28モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物5.5g(5.2×10-2モル)、及びイオン交換水640mlを1リットルの反応器に仕込み、窒素置換後、250℃、35kg/cmの条件で1時間反応させた。1,6-ジアミノヘキサンと2-メチル-1,5-ジアミノペンタンとのモル比は50:50とした。1時間経過後、この反応器内に生成した反応生成物を、この反応器と連結され、かつ圧力を約10kg/cm2低く設定した受器に抜き出し、ポリアミド前駆体を得た。
次いで、このポリアミド前駆体を乾燥し、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度330℃で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(c)を得た。得られたポリアミド樹脂(c)の融点Tmは300℃であった。
得られたポリアミド(c)50質量%に対して、無機フィラーとしてのガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、FT756D)50質量%とをタンブラーブレンダーにて混合し、さらに二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド(c)の融点(Tm)+15℃)で混合物を溶融混錬した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド(C)を得た。得られたポリアミド(C)のジカルボン酸及びジアミンの組成、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)を表2に示す。
【0169】
-ポリアミド(D)の合成-
テレフタル酸1787g(13.1モル)、1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、アジピン酸1921g(10.8モル)、安息香酸36.6g(0.30モル)、次亜リン酸ナトリウム1水和物5.7g、及び蒸留水554gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.01MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低縮合物を抜き出した。その後、低縮合物を室温まで冷却し、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。次に、この低縮合物を棚段式固相重合装置にいれ、窒素置換後、約1時間30分かけて220℃まで昇温させた。その後、1時間反応させて、室温まで降温させた。その後、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合して、ポリアミド(d)を調製した。得られたポリアミド(d)の融点Tmは310℃であった。
得られたポリアミド(d)52質量%に対して、ポリアミド(b)を13質量%、無機フィラーとしてのガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、FT756D)35質量%とをタンブラーブレンダーにて混合し、さらに二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド(d)の融点(Tm)+15℃)で混合物を溶融混錬した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド(D)を得た。得られたポリアミド(D)のジカルボン酸及びジアミンの組成、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)を表2に示す。
【0170】
-ポリアミド(E)の合成-
ポリアミド(c)40質量%に対して、ポリアミド(b)を10質量%、無機フィラーとしてのガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、FT756D)50質量%をタンブラーブレンダーにて混合し、さらに二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド(c)の融点(Tm)+15℃)で混合物を溶融混錬した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド(E)を得た。得られたポリアミド(E)のジカルボン酸及びジアミンの組成、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)を表2に示す。
【0171】
-ポリアミド(F)の合成-
テレフタル酸4537.7g(27.3モル)、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとの混合物[1,9-ノナンジアミン/2-メチル-1,8-オクタンジアミン=80/20(モル比)]4385g(27.5モル)、安息香酸41.5g(0.34モル)、次亜リン酸ナトリウム1水和物9.12g(原料の総質量に対して0.1質量%)、及び蒸留水2.5リットルを内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間攪拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温させた。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧させた。そのまま2時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。
次に、30分かけて圧力を1MPaまで下げ、さらに1時間反応させてプレポリマーを得た。これを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の粒径まで粉砕した。これを230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合し、ポリアミド樹脂(f)を調製した。得られたポリアミド樹脂(f)の融点Tmは300℃であった。
得られたポリアミド(f)70質量%に対して、無機フィラーとしてのガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、FT756D)30質量%をタンブラーブレンダーにて混合し、さらに二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド(f)の融点(Tm)+15℃)で混合物を溶融混錬した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド(F)を得た。得られたポリアミド(F)のジカルボン酸及びジアミンの組成、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)を表2に示す。
【0172】
(試験片の作製)
JIS H4000に規定された合金番号A5052のアルミニウム合金板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断し、せん断接合強度測定用試験片を得た。また、同じくJIS H4000に規定された合金番号A5052のアルミニウム合金板(厚み:2mm)を50mm角の正方形に切断し、Heリーク性評価用試験片を得た。
【0173】
これら2種類のアルミニウム試験片を脱脂処理した後、水酸化ナトリウムを19質量%と酸化亜鉛を3.2質量%とを含有するアルカリ系エッチング剤(30℃)が充填された処理槽にて、2分間浸漬後、水洗した。次いで、得られたアルミニウム合金板を、塩化第二鉄を3.9質量%と、塩化第二銅を0.2質量%と、硫酸を4.1質量%とを含有する酸系エッチング水溶液が充填された処理槽にて、30℃で6分間浸漬し搖動させた。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分)を行った。
【0174】
(せん断接合強度の測定)
上記方法で得られたせん断接合強度測定用試験片を、射出成形機(日本製鋼所製、J55-AD)に装着された小型ダンベル金属インサート金型内に設置した。次いで、合成した各ポリアミド樹脂を、シリンダー温度335℃、金型温度180℃、一次射出圧90MPa、保圧80MPa、射出速度25mm/秒の条件にて金型内に射出成形して、アルミニウム試験片の上に樹脂の層が形成された試験片を作製した。
【0175】
作製した試験片について、ISO19095に準拠した方法にてせん断接合強度(MPa)を測定した。
具体的には、引張試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」に専用の治具を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて破断荷重(N)の測定を行った。
測定された破断荷重(N)をアルミニウム合金板と樹脂部材との接合部分の面積(50mm)で除することにより、接合強度(MPa)を得た。
また、せん断強度測定後の金属側の界面状態を観察することで界面の破壊形態を観察した。界面面積の30%以上にわたって、金属側に樹脂が残っている場合を「材料破壊」、30%未満だが少しでも樹脂が残っている場合を「一部材料破壊」、目視では樹脂残りが確認できない状態を「界面剥離」とした。
せん断接合強度を測定した結果及び界面の破壊形態の観察結果を表2に示す。
【0176】
(Heリーク性)
前述した方法で得られたHeリーク性評価用アルミニウム試験片を、日本製鋼所製の射出成形機J55-ADに装着されたHeリーク金属インサート金型内に設置した。次いで、合成した各ポリアミド樹脂を、シリンダー温度335℃、金型温度180℃、一次射出圧90MPa、保圧80MPa、射出速度25mm/秒の条件にて金型内に射出成形して、アルミニウム試験片の上に樹脂の層が形成された試験片を作製した。
次いで、試験片のHeリーク性を、ISO19095に準拠した方法で評価した。具体的には、上記で得られた試験片を密閉できる専用治具にセットし、密閉した空間にHeガスを0.1MPaの圧力で印加し、試験片を通過したHeガスをHeガス検出器(キャノンアネルバ製、HELEN M-222LD)にてスニファー法により測定した。検出を開始してから5分後の検出Heガス流量が10-6[Pa・m/s]以下であれば「〇」、10-5[Pa・m/s]以上の場合には「×」とした結果を表2に示す。
【0177】
(耐トラッキング性)
合成した各ポリアミド樹脂を用いて、100mm×100mm×3mmの試験片を作製した。この試験片の耐トラッキング性を、IEC60112に準拠して評価した。結果を表2に示す。
【0178】
<比較例2-1>
樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂(東ソー(株)製、サスティール、SGX-120)を用い、射出成形時のシリンダー温度310℃、金型温度160℃としたこと以外は実施例2-1と同様にして試験片を作製し、せん断接合強度、Heリーク性及び耐トラッキング性の評価を実施した。結果を表2に示す
【0179】
<比較例2-2>
樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂(東ソー(株)製、サスティール、BGX545)を用いたこと以外は比較例2-1と同様にして試験片を作製し、せん断接合強度、Heリーク性及び耐トラッキング性の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0180】
<比較例2-3>
樹脂として全脂肪族ポリアミド(PA66)(BASF製、ウルトラミッド、A3WG10)を用い、射出成形時のシリンダー温度300℃、金型温度160℃としたこと以外は比較例2-1と同様にして試験片を作製し、せん断接合強度、Heリーク性及び耐トラッキング性の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0181】
【表2】

【0182】
表2に示すように、芳香族基と脂肪族基とを有するポリアミド樹脂を用いた実施例は、せん断接合強度、Heリーク性及び耐トラッキング性のいずれにも優れている。
樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂を用いた比較例2-1、2-2は、せん断接合強度とHeリーク性に優れているが、導電性部材として充分な耐トラッキング性を有しているとはいえない。
樹脂として全脂肪族ポリアミドを用いた比較例2-3は、耐トラッキング性に優れているが、導電性部材として充分なせん断接合強度とHeリーク性を有しているとはいえない。
図1
図2