(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】電動機速度制御装置及び電動機速度制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20231006BHJP
【FI】
H02P29/00
(21)【出願番号】P 2022521258
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2020040221
(87)【国際公開番号】W WO2022091208
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【氏名又は名称】梶井 良訓
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100207192
【氏名又は名称】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】エコング ウフォート ウフォート
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓巳
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅史
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016909(JP,A)
【文献】特開2004-064833(JP,A)
【文献】特開昭62-028813(JP,A)
【文献】特開2001-057761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の回転速度を検出するレゾルバの検出結果に基づいた速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果と、前記速度検出信号ωFBKとを用いて前記回転速度の推定値を生成する回転速度推定部と、
前記電動機の速度制御の速度指令値と前記回転速度の推定値との偏差が小さくなるように速度制御を実施する制御部と、
を備え、
前記電動機の軸と前記レゾルバの軸とが連結されていて、前記制御部が前記電動機を定速度で制御しているときに前記速度検出信号ωFBKの変動が、前記電動機の軸に対する前記レゾルバの軸の偏心によって発生し、
前記回転速度推定部は、
前記速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果と設定された位相の初期値に基づき、前記速度検出信号ωFBK中の返信による信号成分の逆位相信号を生成し、該逆位相信号と速度検出信号ωFBKとを加算する演算を繰り返し実施して、前記偏心による前記変動の成分
の波高値が最小の値のときの位相を選択して、前記回転速度の推定値を生成する、
電動機速度制御装置。
【請求項2】
前記回転速度推定部は、
前記速度検出信号ωFBKについてFFT解析するFFT解析処理部と、
前記FFT解析の結果と、前記速度検出信号ωFBKとを用いて前記回転速度の推定値を生成する速度補償演算部と、
を備える請求項1に記載の電動機速度制御装置。
【請求項3】
前記FFT解析処理部は、
前記FFT解析により前記FFT解析の結果として、前記速度検出信号ωFBKの振幅スペクトルと前記速度検出信号ωFBKの位相スペクトルとを生成し、
前記速度補償演算部は、
前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づいて、前記速度検出信号ωFBKを補正して、前記回転速度の推定値を生成する、
請求項2に記載の電動機速度制御装置。
【請求項4】
前記速度補償演算部は、
前記振幅スペクトルに基づいて、前記レゾルバの回転数に関連する特定の周波数成分と前記周波数成分の大きさとを算出し、
前記位相スペクトルに基づいて、前記特定の周波数成分の位相情報を算出し、
前記特定の周波数成分の大きさと、前記特定の周波数成分の位相情報とに基づいて速度補償量を生成し、
前記速度補償量を用いて、前記速度検出信号ωFBKを補正して、前記補正の結果を、前記回転速度の推定値として生成する、
請求項3に記載の電動機速度制御装置。
【請求項5】
前記FFT解析処理部は、
前記FFT解析により前記FFT解析の結果として、前記速度検出信号ωFBKの振幅スペクトルを生成し、
前記速度補償演算部は、
前記振幅スペクトルと調整された位相とに基づいて、前記速度検出信号ωFBKを補正して、前記回転速度の推定値を生成する、
請求項2に記載の電動機速度制御装置。
【請求項6】
前記速度補償演算部は、
前記振幅スペクトルに基づいて、前記レゾルバの回転数に関連する特定の周波数成分と前記周波数成分の大きさとを算出し、
前記位相を調整し、
前記特定の周波数成分の大きさと、前記調整された位相とに基づいて速度補償量を生成し、
前記速度補償量を用いて、前記速度検出信号ωFBKを補正して、前記補正の結果を、前記回転速度の推定値として生成する、
請求項5に記載の電動機速度制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記電動機の速度制御に係る速度指令値と、前記補正された前記速度検出信号ωFBKとに基づいて前記電動機の回転速度を制御する、
請求項3に記載の電動機速度制御装置。
【請求項8】
電動機の回転速度を検出するレゾルバの検出結果に基づいた速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果と、前記速度検出信号ωFBKとを用いて前記電動機の回転速度の推定値を生成し、
前記電動機の速度制御の速度指令値と前記回転速度の推定値との偏差が小さくなるように速度制御を実施する過程
を含み、
前記電動機の軸と前記レゾルバの軸とが連結されていて、前記電動機を定速度で制御しているときに前記速度検出信号ωFBKの変動が、前記電動機の軸に対する前記レゾルバの軸の偏心によって発生し、
前記速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果と設定された位相の初期値に基づき、前記速度検出信号ωFBK中の返信による信号成分の逆位相信号を生成し、該逆位相信号と速度検出信号ωFBKとを加算する演算を繰り返し実施して、前記偏心による前記変動の成分
の波高値が最小の値のときの位相を選択して、前
記回転速度の推定値を生成する過程
を含む電動機速度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電動機速度制御装置及び電動機速度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レゾルバは、電動機(モータ)の回転速度(角速度)を検出するための「センサ(速度検出器)」の一例である。電動機速度制御装置には、レゾルバを使用して、電動機の回転速度を検出し、この検出結果を用いて電動機の速度制御を行うものがある。しかしながら、電動機の軸に対してレゾルバの軸が偏心していると、レゾルバの検出結果に誤差が生じて、電動機の速度を高精度に制御することが困難になることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、レゾルバによって電動機の速度を検出して、電動機の速度制御を実施する際に、電動機の軸に対してレゾルバの軸の偏心があることの影響を低減させる電動機速度制御装置及び電動機速度制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電動機速度制御装置は、回転速度推定部と、制御部とを備える。前記回転速度推定部は、電動機の回転速度を検出するレゾルバの検出結果に基づいた速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果と、前記速度検出信号ωFBKとを用いて前記電動機の回転速度の推定値を生成する。前記制御部は、前記電動機の速度制御の速度指令値と前記回転速度の推定値との偏差が小さくなるように速度制御を実施する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態に係る電動機速度制御装置を含むモータ駆動システムを例示するブロック図。
【
図2】第1の実施形態の適用条件に基づいた速度推定制御のフローチャート。
【
図3】第2の実施形態の適用条件に基づいた速度推定制御のフローチャート。
【
図4】第1の実施形態の偏心がある場合の速度フィードバック信号を説明するための図。
【
図5】
図4に示した速度フィードバック信号をFFT解析処理した結果を説明するための図。
【
図6】
図4に示した速度フィードバック信号と、偏心補償のための信号を説明するための図。
【
図7】
図4に示した速度フィードバック信号を、偏心補償のための信号を用いて補償した結果を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電動機速度制御装置及び電動機速度制御方法について、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的又は概念的なものであり、各部の機能の配分などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。
【0008】
なお、本願明細書と各図において、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
実施形態において「接続されている」とは、電気的に接続されていることを含む。「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含み得る。「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含み得る。「XX又はYY」とは、XXとYYのうち何れか一方の場合に限定されず、XXとYYの両方の場合も含み得る。これは選択的要素が3つ以上の場合も同様である。「XX」及び「YY」は、任意の要素(例えば任意の情報)である。「インバータ」は、交流を出力する電力変換器であって、例えば、DC/ACコンバータなどが含まれる。「電動機」は、交流電力によって駆動される誘導電動機などの回転電機のことであり、以下、単にモータと呼ぶ。「モータの回転速度」のことを単に「モータの速度」ということがある。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電動機速度制御装置を含むモータ駆動システム1を例示するブロック図である。例えば、モータ駆動システム1は、電動機速度制御装置10を備える。
【0010】
電動機速度制御装置10(
図1中の記載はCONTROL CIRCUIT。)は、モータ2(
図1中の記載はMOTOR。)、及びレゾルバ2A(
図1中の記載はSS。)に接続されている。電動機速度制御装置10は、レゾルバ2Aによって検出されたモータ2の実際の速度が、別に供給される速度指令値に一致するように、モータ2を制御する。
【0011】
モータ2は、複数の巻線を備え、各巻線が、後述するインバータ8の出力に接続されている。インバータ8は、電力変換器の一例である。例えばインバータ8は、直流電源(図中にDCと記載。)から供給される直流電力を変換して、モータ2を駆動させる。例えば、インバータ8からの交流が各巻線に流れると、電磁的な作用によりモータ2が回転する。例えば、モータ2の軸には、レゾルバ2Aの軸が機械的に連結されていて、モータ2の軸の回転に応じてレゾルバ2Aの軸が連動して回転する。モータ2とレゾルバ2Aは、互いの位置が調整されることで、モータ2の回転の軸(回転の中心)と、レゾルバ2Aの回転の軸(回転の中心)とが一致するように調整されるが、完全に位置しない場合がある。モータ2の軸(回転の中心)と、レゾルバ2Aの軸(回転の中心)とが一致していない状態のことを、偏心が生じた状態と呼ぶ。偏心とは、例えば、回転体の重心(質量の中心)が回転の中心軸から離れていることをいう。
【0012】
例えば、電動機速度制御装置10は、モータ2を駆動するインバータ8の制御装置である。電動機速度制御装置10は、位相速度検出部3と、回転速度推定部4と、速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7(図中の記載はPWM。)とを含む。なお、速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7は、制御部の一例である。
【0013】
速度制御部5は、速度指令値とモータ2の速度推定値との速度偏差に所定の速度応答ゲインを乗じて駆動トルクの指令値を生成する。速度指令値は、例えばプログラマブルコントローラ(PLC)等の上位制御装置から供給される。モータ2の速度推定値について後述する。
【0014】
電流制御部6は、速度制御部5の出力に接続されている。電流制御部6は、速度制御部5から供給される駆動トルクの指令値と、モータ2に供給されるトルク電流成分との差に応じて生成される制御量を出力する。
【0015】
PWM制御部7は、電流制御部6の出力に接続され、出力がインバータ8に接続されている。PWM制御部7は、PWM制御によってインバータ8を制御する。これにより、PWM制御部7は、PWM制御によってモータ2を駆動させることができる。PWM制御部7は、電流制御部6によって生成された制御量に応じてモータ2を駆動する電圧及び電流を出力するとよい。
【0016】
例えば、インバータ8の出力に接続される配線には、各相の相電流を夫々検出する変流器が設けられていてもよい。変流器は、3相交流の各相の配線のうち少なくとも2相の配線に設けられていてもよい。電流制御部6は、変流器によって検出された相電流の瞬時値に基づいて電流制御を実施してもよい。
【0017】
位相速度検出部3の入力は、レゾルバ2Aの出力に接続されている。位相速度検出部3は、レゾルバ2Aから出力される連続時間系の速度検出信号ωFBKを、所定の周期でサンプリングして、A/D変換部により量子化した結果の離散時間データ(以下、単に速度検出信号ωFBKのデータという。)に変換する。サンプリングは、対象の周波数成分の信号を再現可能な程度の周期で行うとよい。速度検出信号ωFBKは、いわゆる速度フィードバックとして利用する信号である。
【0018】
回転速度推定部4は、例えば、FFT解析処理部41(図中の記載はFFT解析。)と、速度補償演算部42とを備える。
FFT解析処理部41は、レゾルバ2Aの検出結果に基づいた離散時間データを用いて速度検出信号ωFBKのFFT解析を実施する。
【0019】
例えば、FFT解析処理部41の入力は、位相速度検出部3の出力に接続されている。FFT解析処理部41は、位相速度検出部3から出力される離散時間系の速度検出信号ωFBKのデータを取得して、速度検出信号ωFBKのデータを、FFT(Fast Fourier Transform、高速フーリエ変換)解析により、周波数領域のデータに変換する。FFT解析処理部41は、例えば、FFTアナライザであってもよく、FFTアナライザと同等の又は類似の演算処理を実施可能なハードウエアであってもよい。時間領域のデータの個数、すなわち時間窓の長さは、周波数領域の解析結果の要求精度に応じて決定してよい。
【0020】
モータ2を定速度で制御している状況であれば、偏差に依存するノイズは、連続的に繰り返すノイズとして速度検出信号ωFBKに重畳する。それゆえ、特定の時刻であっても、所定の期間に亘ってサンプリングされた結果の速度検出信号ωFBKのデータであれば、上記のノイズの特徴を再現可能なデータになる。
【0021】
速度補償演算部42は、FFT解析処理部41によるFFT解析の結果(周波数領域のデータ)に基づいた時間領域のデータと、速度検出信号ωFBKのデータ(時間領域のデータ)とを用いて、モータ2の回転速度の推定値を生成して、これを出力する。FFT解析の結果(周波数領域のデータ)から時間領域のデータの生成には、逆FFT解析の手法を利用してよい。速度補償演算部42は、FFT解析処理部41によるFFT解析の結果(周波数領域のデータ)に対して、逆FFT解析を実施して、これに基づいた時間領域のデータを得る。
【0022】
例えば、速度補償演算部42は、偏心補償演算部421(図中の記載は「偏心補償」)と、加算器422とを備える。速度補償演算部42の入力(偏心補償演算部421の入力)は、レゾルバ2Aの出力に接続されている。速度補償演算部42の出力は、加算器422の第1入力に接続されている。加算器422の第2入力は、レゾルバ2Aの出力に接続されている。加算器422は、その第1入力に供給される速度補償演算部42の演算結果と、レゾルバ2Aが出力する前記速度検出信号ωFBKとを加算する。これにより、速度補償演算部42は、レゾルバ2Aから供給される速度検出信号ωFBKと、FFT解析処理部41によるFFT解析の結果とを用いて、モータ2の回転速度の推定値を生成する。
【0023】
例えば、FFT解析処理部41は、速度検出信号ωFBKに対するFFT解析の結果として、速度検出信号ωFBKの振幅スペクトルと前記速度検出信号ωFBKの位相スペクトルとを生成する。FFT解析処理部41は、速度検出信号ωFBKの振幅スペクトルに基づいて、速度検出信号ωFBKの各周波数に対する振幅成分を抽出する。FFT解析処理部41は、速度検出信号ωFBKの位相スペクトルに基づいて、速度検出信号ωFBKの各周波数に対する位相成分を抽出してもよい。例えば、FFT解析処理部41は、周波数を特定することにより、その周波数の信号の位相成分を算出できる。この場合、回転速度推定部4は、その振幅スペクトルと位相スペクトルとに基づいて、速度検出信号ωFBKを補正して、モータ2の回転速度の推定値を生成することができる。なお、上記のように特定の周波数の信号の周波数成分とは、特定の周波数を中心周波数として、中心周波数を基準にした所定の周波数幅の範囲の信号成分のことである。
【0024】
例えば、速度補償演算部42の偏心補償演算部421は、振幅スペクトルに基づいて、レゾルバ2Aの回転数に関連する特定の周波数成分と周波数成分の大きさとを算出する。速度補償演算部42の偏心補償演算部421は、上記の位相スペクトルに基づいて、基準の位相に対する特定の周波数成分の位相情報を算出する。速度補償演算部42の偏心補償演算部421は、特定の周波数成分の大きさと、特定の周波数成分の位相情報とに基づいた速度補償量を生成する。速度補償演算部42加算器422は、その速度補償量を用いて、速度検出信号ωFBKを補正して、その補正の結果を、モータ2の回転速度の推定値として生成するとよい。
【0025】
なお、電動機速度制御装置10は、例えば、CPUなどのプロセッサを含み、プロセッサが所定のプログラムを実行することによって、回転速度推定部4、速度制御部5、電流制御部6、PWM制御部7などの機能部の一部又は全部を実現してもよく、電気回路の組み合わせ(circuitry)によって上記を実現してもよい。電動機速度制御装置10は、内部に備える記憶部の記憶領域を利用して各データの転送処理、及び解析のための演算処理を、プロセッサによる所定のプログラムの実行によって実行してもよい。
【0026】
図2を参照して、本実施形態の適用条件(第1の適用条件)の速度推定制御に係る処理について説明する。この速度推定制御に係る第1の適用条件は、FFT解析により周波数、振幅、位相を取得できる場合である。
図2は、第1の実施形態の適用条件(第1の適用条件)に基づいた速度推定制御のフローチャートである。
【0027】
ユーザは、モータ2とレゾルバ2Aを据え付けた後、モータ2の軸の回転にレゾルバ2Aの回転が連動するように、モータ2の軸にレゾルバ2Aの軸を係止した状態にする。この段階で、上記の偏差が小さくなくように、モータ2とレゾルバ2Aの位置関係を調整する。
【0028】
速度制御部5は、速度指令(速度指令値)に従い運転を開始する(ステップS11)。速度制御部5は、モータ2の速度推定値が、速度指令(速度指令値)の速度に到達したか否かを判定して(ステップS12)、速度推定値が速度指令値の速度に到達するまで、ステップS12の処理を繰り返す。速度推定値が速度指令値の速度に到達して定速度運転の制御状態になると、FFT解析処理部41は、速度検出信号ωFBKに対するFFT解析を実施して(ステップS13)、速度検出信号ωFBKの周波数、振幅、位相の情報を取得する。
【0029】
速度補償演算部42は、定速度運転中のモータ2の基本周波数(運転周波数という。)の高調波が存在するか否かを判定して(ステップS15)、その高調波が存在しない場合には、一連の処理を終了する。
【0030】
上記の高調波が存在する場合には、速度補償演算部42は、速度検出信号ωFBK(図中の記載は「速度FBK」。)中の偏心による信号成分の逆位相信号を生成して(ステップS16)、その逆位相信号を速度検出信号ωFBK(図中の記載は「速度FBK」。)に加算して(ステップS17)、一連の処理を終える。
【0031】
このように、FFT解析の結果に基づいて、偏心により重畳する信号成分の位相の情報が得られることにより、回転速度推定部4は、速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果に基づいて得られた位相の情報であって、偏心により重畳する信号成分の位相の情報を用いることができる。これにより、回転速度推定部4は、速度検出信号ωFBKに基づいて、モータ2の速度を推定できる。
【0032】
図4は、第1の実施形態の偏心がある場合の速度フィードバック信号を説明するための図である。
図4に示すグラフは、所定の期間に亘ってレゾルバ2Aの出力信号を観測した結果をモデル化したものである。このグラフは、レゾルバ2Aの出力信号に基づいた、時間の経過(横軸)に対する速度(縦軸)の大きさの関係が示されている。この出力信号を、速度フィードバック信号として利用する。
【0033】
理想状態の偏心がない状態(比較例)であれば、モータ2が定速度で回転している場合に、レゾルバ2Aの検出結果の値、すなわち速度の大きさは一定になる。ただし、実施形態のように偏心がある状態の場合、モータ2が定速度で回転していても、レゾルバ2Aの検出結果の値、すなわち速度の振幅が周期的に変動することが観測される。
【0034】
図5は、
図4に示した速度フィードバック信号をFFT解析処理した結果(振幅スペクトル)を説明するための図である。
図5に示すグラフは、周波数(横軸)に対する振幅スペクトルを示す。
図4に示す速度フィードバック信号をFFT解析処理した結果、
図5に示す振幅スペクトルが得られる。周波数frmは、モータの回転速度ωrmに対応する周波数成分である。この解析結果から、周波数frmのほかに、周波数frmのN倍(Nは、2以上の整数)の周波数fnを中心にした周波数成分が含まれていたことがわかる。
【0035】
このようなレゾルバ2Aの出力信号に重畳している周波数成分に対して偏心補償のための信号を、
図6を参照して説明する。
図6は、
図4に示した速度フィードバック信号と、偏心補償のための信号を説明するための図である。
【0036】
周波数fnを中心にした周波数成分を抽出し、速度フィードバック信号に含まれた変動成分との移送を調整して、逆相の関係になる位相に調整された偏心補償信号を示す。この
図6の中では、偏心補償信号の平均値が、速度フィードバック信号の平均値に一致するように直流レベルを整合させた状態を示している。
【0037】
図7は、
図4に示した速度フィードバック信号を、偏心補償のための信号を用いて補償した結果を説明するための図である。
図7に示すグラフは、時間の経過(横軸)に対する速度(縦軸)の大きさの関係が示されている。このグラフは、偏心補償信号と速度フィードバック信号の変動とを加算した結果を示す。
【0038】
上記の実施形態によれば、速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果から偏心によるノイズ(変動)成分の周波数(モータ周波数のN倍周波数)、振幅、位相を明らかにして、偏心によるノイズ(変動)を除去のための信号を生成する。これにより生成される信号は、偏心によるノイズの成分の周波数、振幅と同様の周波数と振幅を有するものであるが、位相は互いに180度ずらして、逆相の信号にする。この信号を速度検出信号ωFBKに加算することによって偏心によるノイズの成分を除去することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果から偏心によるノイズ(変動)成分の周波数、振幅、位相の情報を取得できる場合の事例について説明した。本実施形態では、上記のうち位相の情報を取得できない場合について説明する。
【0040】
図3を参照して、本実施形態の適用条件(第2の適用条件)の速度推定制御に係る処理について説明する。この速度推定制御に係る第2の適用条件は、FFT解析により周波数、振幅を取得でき、位相を取得できない場合である。
図3は、第2の適用条件に基づいた速度推定制御のフローチャートである。
【0041】
モータ2とレゾルバ2Aを据え付けた後、モータ2の軸の回転に連動するように、モータ2の軸にレゾルバ2Aの軸を係止した状態にする。
【0042】
速度制御部5は、速度指令(速度指令値)に従い運転を開始する(ステップS11)。速度制御部5は、モータ2の速度推定値が、速度指令(速度指令値)の速度に到達したか否かを判定して(ステップS12)、速度推定値が速度指令値の速度に到達するまで、ステップS12の処理を繰り返す。速度推定値が速度指令値の速度に到達して定速度運転の状になると、FFT解析処理部41は、FFT解析を実施する(ステップS13)。
【0043】
次に、速度補償演算部42は、位相の初期値を設定する(ステップS14)。
【0044】
速度補償演算部42は、定速度運転中のモータ2の基本周波数(運転周波数という。)の高調波が存在するか否かを判定して(ステップS15)、その高調波が存在しない場合には、一連の処理を終了する。
【0045】
上記の高調波が存在する場合には、速度補償演算部42は、速度検出信号ωFBK(図中の記載は「速度FBK」。)中の偏心による信号成分の逆位相信号を生成して(ステップS16)、その逆位相信号を速度検出信号ωFBK(図中の記載は「速度FBK」。)に加算する(ステップS17)。
【0046】
速度補償演算部42は、速度検出信号ωFBKの推定値の波高値が最小の値か否かを判定して(ステップS18)、速度検出信号ωFBKの推定値の波高値が最小の値である場合に、その時点の位相が逆相の関係を満たす位相とみなして、一連の処理を終える。
【0047】
速度検出信号ωFBKの推定値の波高値が最小の値でない場合に、回転速度推定部4は、位相に所定量を加算することで、予め定められた所定量ずらした位相を新たな位相として決定して(ステップS19)、ステップS16からの処理を繰り返す。
【0048】
速度検出信号ωFBKの推定値の波高値が最小の値であるときに、位相が逆相の関係を満たしているとみなしてよい理由は、偏心による信号成分が重畳していると、速度検出信号ωFBKの波高値がその分大きくなる。この重畳している信号成分がなくなるように、つまり逆位相で信号を加算することにより、その状態の速度検出信号ωFBKの推定値の波高値が最小の値になる。そこで、速度検出信号ωFBKの推定値の波高値が最小の値(極小の値)になったことを検出した時点で、位相の捜査を中断することで、最適な位相を決定することができることによる。
【0049】
このように、FFT解析の結果から、偏心により重畳する信号成分の位相の情報が得られなくても、回転速度推定部4は、速度検出信号ωFBKに基づいて、モータ2の速度を推定できる。
【0050】
この場合、FFT解析の結果に基づいて、偏心により重畳することになった信号成分(ノイズ成分)の位相の情報が得られることにより、回転速度推定部4は、速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果に基づいて得られた位相の情報を、偏心により重畳する信号成分の位相の情報として用いることができる。これにより、回転速度推定部4は、速度検出信号ωFBKに基づいて、モータ2の速度を推定できる。
【0051】
上記の実施形態によれば、速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果から偏心によるノイズ(変動)成分の周波数(モータ周波数のN倍周波数)、振幅、位相を明らかにして、偏心によるノイズ(変動)を除去のための信号を生成する。これにより生成される信号は、偏心によるノイズの成分の周波数、振幅と同様の周波数と振幅を有するものであるが、位相は互いに180度ずらして、逆相の信号にする。この信号を速度検出信号ωFBKに加算することによって偏心によるノイズの成分の大きさを低減させることができる。
【0052】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、電動機速度制御装置は、回転速度推定部と、制御部とを備える。回転速度推定部は、電動機の回転速度を検出するレゾルバの検出結果に基づいた速度検出信号ωFBKのFFT解析の結果と、速度検出信号ωFBKとを用いて電動機の回転速度の推定値を生成する。制御部は、電動機の速度制御の速度指令値と回転速度の推定値との偏差が小さくなるように速度制御を実施する。
【0053】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 モータ駆動システム、2 モータ、4 回転速度推定部、5 速度制御部、6 電流制御部、7 PWM制御部、8 インバータ、10 電動機速度制御装置、41 FFT解析処理部、42 速度補償演算部